平成24(ワ)29488 損害賠償請求事件

裁判年月日・裁判所
平成25年6月26日 東京地方裁判所
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判決文本文8,010 文字)

- 1 -平成25年6月26日判決言渡同日原本交付裁判所書記官平成24年(ワ)第29488号損害賠償請求事件口頭弁論終結日平成25年5月24日判決東京都渋谷区<以下略>原告 X東京都中野区<以下略>被告有限会社光商事同訴訟代理人弁護士鈴木 修 主文 1 原告の請求を棄却する。 2 訴訟費用は,原告の負担とする。 事実 及び理由第1 請求 1 被告は,原告に対し,280万円及びこれに対する平成21年7月18日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 訴訟費用は被告の負担とする。 3 仮執行宣言第2 事案の概要本件は,原告が,被告に対し,原告が営業秘密として管理するコンピュータプログラムにつき,平成21年7月17日及び同月18日に,被告がこれを不正の手段により取得し,かつ,これを使用したことにより,原告に損害を与えたとして,不正競争防止法2条1項4号,5条3項3号に基づき,損害賠償として,280万円及びこれに対する最終の不法行為の日である平成21年7月18日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。 - 2 - 1 前提となる事実等(証拠の摘示のない事実は,争いのない事実又は弁論の全趣旨から容易に認められる事実である。)(1) 当事者原告は,「X1」の名称を使用してウエブサイトの制作請負を行っている者であり,被告は,不動産業を主な業務としている特例有限会社である。 (2) 原告によるプログラムの制作原告は,不動産業者が不動産物件情報をイン の名称を使用してウエブサイトの制作請負を行っている者であり,被告は,不動産業を主な業務としている特例有限会社である。 (2) 原告によるプログラムの制作原告は,不動産業者が不動産物件情報をインターネット上に公開し,不動産物件情報を広告できるようにするためのプログラムを制作した(甲1。以下「本件プログラム」という。)。 (3) 原告によるサーバーアドレスの被告への開示原告は,平成21年1月16日,被告の事務所において,被告取締役であるA(以下「A」という。)を通じ,被告に対し,本件プログラムが保管管理されているサーバーのアドレス(以下「本件URL」という。)を開示した。本件URLを使用することにより,本件プログラムにアクセスすることが可能となる。 (4) 請負契約の成立に関する争いその後,原告と被告との間では,本件プログラムについての制作請負契約が成立したか否かで争いとなり,原告が,その請負代金の支払を求めたのに対し,被告は支払に応じなかった。 (5) 原告による通知原告は,A宛ての平成21年5月31日付け「通知書」と題する内容証明郵便において,本件プログラムはIDもパスワードも設置していない非公開のものであり,これらを設置しているページの認証を不正にくぐり抜けてアクセスする場合よりも本件URLを用いてアクセスすることは悪質であること,同年1月16日にAが行った本件プログラムへのアクセスが正当な利用権に基づくものであることを示す証拠を,内容証明郵便到達後7日以内に示 - 3 -すこと,その証拠が原告宛てに送付されない場合には刑事告訴をするとともに,不当利得として1億円の返還を求める訴訟を提起する予定であること,などをA宛てに通知した(甲4)。 (6) 被告による本件プログラムの閲覧被告は,平成21年7月 には刑事告訴をするとともに,不当利得として1億円の返還を求める訴訟を提起する予定であること,などをA宛てに通知した(甲4)。 (6) 被告による本件プログラムの閲覧被告は,平成21年7月17日及び同月18日,本件プログラムのウエブサイトに,本件URLを用いてアクセスした(乙1)。 (7) 原告による訴訟提起等原告は,被告に対し,主位的に本件プログラムに関する請負代金の支払を,予備的に,被告による原告作成のウエブサイトに対する不正なアクセスにより被告がウエブサイト制作費等相当額を不当に利得したとして不当利得の返還を求める訴訟を当庁に提起したが(平成21年(ワ)第19307号請負代金等請求事件),平成21年12月24日言渡しの判決により,原告の請求は棄却された(甲3の1)。これに対し原告が控訴したが(東京高等裁判所平成22年(ネ)第330号請負代金等請求控訴事件),平成22年5月13日,控訴棄却の判決がされた(甲3の2)。 また,原告は,被告に対し,本件プログラムの著作物についての著作権侵害に基づく損害賠償請求訴訟を当庁に提起したが(平成24年(ワ)第15034号損害賠償請求事件),平成24年11月30日言渡しの判決により,原告の請求は棄却された(乙1)。 さらに,原告は,被告取締役のAに対しても,訴訟を提起している(当庁平成22年(ワ)第18718号,乙3)。 2 争点本件の争点は,被告による不正競争防止法(以下「不競法」という。)2条1項4号の不正競争行為の有無及び原告の損害額である。 3 争点に関する当事者の主張(1) 原告の主張 - 4 -ア本件プログラムの概要本件プログラムは,検索サイトにおいて,検索情報を入力すると,本件プログラムが組み込まれたウエブページが検索結果の上位に表示される (1) 原告の主張 - 4 -ア本件プログラムの概要本件プログラムは,検索サイトにおいて,検索情報を入力すると,本件プログラムが組み込まれたウエブページが検索結果の上位に表示されるようにするものであり,これにより,不動産業者の集客数を増大させるとともに,ウエブページを使用するユーザーの利便性を高め,不動産業者のデータ入力が効率的に行えるようにしたものである。 イ被告による本件プログラムの不正取得行為及び不正使用行為等原告が被告に対し本件URLを開示したのは,本件プログラムは被告から請け負ってこれを制作したところ,被告に対し,本件プログラムを納入するため,その納入方法として,インターネットエクスプローラーで本件プログラムにアクセスするための本件URLを被告に教え,これを用いて被告に本件プログラムにアクセスさせ,本件プログラムが表示すべき情報を被告保有のパソコンに表示させた上で,被告に表示された情報を閲覧させるという方法をとったことによる。 しかし,原告が被告に対し,上記のとおり本件プログラムを納入した後,被告から本件プログラムの請負契約の成立を否認されたため,原告は,被告取締役「A」宛て平成21年5月31日付け「通知書」と題する内容証明郵便をもって,被告に対し,それ以降,本件プログラムにアクセスすれば,不正アクセスとなる旨を通知した(甲4)。 それにもかかわらず,被告は,同年7月17日及び同月18日に,本件プログラムに不正にアクセスした。これにより,被告のパソコンに本件プログラムがダウンロードされ,複製されたものであるから,被告は本件プログラムを不正の手段により取得したものである。そして,被告は,本件プログラムを被告が保有するコンピュータのCPUに演算処理させた後に,その表示すべき情報を見たものであるから,不 から,被告は本件プログラムを不正の手段により取得したものである。そして,被告は,本件プログラムを被告が保有するコンピュータのCPUに演算処理させた後に,その表示すべき情報を見たものであるから,不正取得行為により取得した営業秘密を使用したものといえる。 - 5 -ウ本件プログラムの営業秘密該当性本件プログラムには,原告が独自に開発した,検索結果表示画面において当該不動産業者のページを上位に表示させるための技術である「SEO対策の技術」や,「顧客満足を高めるページ構成とデザイン」等の新技術が多く含まれており,事業活動に有用な技術上の情報である。そして,本件プログラムは,開発用のサーバーと繋がっているハードディスクに記録されており,本件プログラムにアクセスできるのは原告だけであるから,秘密として管理されている。また,本件プログラムは公然と知られてもいない。 したがって,本件プログラムは不競法2条6項にいう「営業秘密」に該当する。 エまとめそうすると,上記記載のとおり,被告が,本件プログラムを不正に取得し,かつこれを使用したことは,不競法2条1項4号に該当し,これにより,原告に本件プログラム使用料相当額である280万円の損害を与えたものであるから,同法5条3項3号に基づき,損害賠償として280万円及びこれに対する最終の不法行為の日である平成21年7月18日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。 (2) 被告の主張ア前記原告の主張アのうち,本件プログラムは,不動産業者が不動産物件情報をインターネット上に公開して不動産物件情報を広告できるようにするためのソフトウエアであることは認め,その余は不知。 イ同イは否認する。本件プログラムは,原告が,被告に対し,平成21年1月16日に本 ンターネット上に公開して不動産物件情報を広告できるようにするためのソフトウエアであることは認め,その余は不知。 イ同イは否認する。本件プログラムは,原告が,被告に対し,平成21年1月16日に本件プログラム制作の勧誘行為をした際に,原告が被告に提示したことによって,被告に関しては公開されている。営業秘密を使用する行為とは,営業秘密の本来の目的に沿って行われ,当該営業秘密に基づ - 6 -いて行われる行為として具体的に特定できる行為を意味するところ,本件プログラムは,不動産業者が不動産物件情報をインターネット上に公開して不動産物件情報を広告できるようにするためのソフトウエアなのであるから,被告が不動産取引契約を締結するための勧誘手段として本件プログラムを使用して,その顧客に対して不動産物件情報を公開する営業行為,あるいは知らしめる営業行為をした場合には,その行為は営業秘密を使用したことになる。しかし,原告は,被告が同年7月17日及び同月18日に本件プログラムにアクセスしたことしか主張しておらず,これはそもそも不正取得に当たらないばかりか,本件プログラムの不正使用に該当する行為でもない。 ウ同ウは否認する。本件プログラムは営業秘密として管理されていない。 エ同エは否認ないし争う。 オ被告の主張その1(秘密管理性の不具備)本件プログラムが営業秘密として管理されているといえるためには,少なくとも本件プログラムにアクセスできるウエブサイトにおいてIDやパスワードを設置してアクセス制御をすることが必要である。ところが,本件プログラムにアクセスできるウエブサイトには,IDもパスワードも設置されていない。 原告は,上記のとおり,平成21年1月16日,被告に対し本件プログラムの購入を勧誘するため,被告事務所において,被告 ラムにアクセスできるウエブサイトには,IDもパスワードも設置されていない。 原告は,上記のとおり,平成21年1月16日,被告に対し本件プログラムの購入を勧誘するため,被告事務所において,被告の取締役Aの面前で,被告のコンピュータのブラウザに,本件ウエブサイトのURLを入力した。その後,被告のコンピュータのブラウザにお気に入り登録をして,被告が本件プログラムにいつでもアクセスすることができるようにした。 そこで,被告は,本件プログラムにアクセスできたものである。 原告は,上記のとおり被告に対するアクセスをいったん認めたわけであるから,以後,被告の本件プログラムに対するアクセスを許さないように - 7 -するためには,ID,パスワードの設置,プログラムをウエブサーバーの違うアドレスに変更するか,あるいはウエブサーバーのデータを削除して原告のローカルサーバーだけにデータを留め置くなどの措置を講ずるべきであった。しかるに原告は何らの措置も講じていないのであるから,本件プログラムが営業秘密として管理されているとは到底いえない。 カ被告の主張その2(一事不再理効違反)原告は,本件訴訟において,同一当事者間の訴訟(上記前提となる事実(7)記載の当庁平成21年(ワ)第19307号請負代金等請求事件及びその控訴審である東京高等裁判所平成22年(ネ)第330号請負代金等請求控訴事件。甲3の1,2。以下,この訴訟を「別件訴訟」という。)の存在を自認しているところ,本件訴訟の内容は,別件訴訟の一事不再理効に違反し,濫訴である。 (3) 被告の主張に対する原告の再反論ア被告の主張その1について本件プログラムは,その存在すら誰にも知られていないものである。もし本件プログラムにアクセスするためにIDやパスワードの入力を要求すると, 主張に対する原告の再反論ア被告の主張その1について本件プログラムは,その存在すら誰にも知られていないものである。もし本件プログラムにアクセスするためにIDやパスワードの入力を要求すると,その旨画面で表示されてしまい,本件プログラムが存在することについてウエブサイト上で公開されてしまう。したがって,本件プログラムについて,アクセス手段である本件URLが原告の記憶の中にのみあり,IDとパスワードの入力を求める画面が設定されていないことは,実は,IDとパスワードによるアクセス制限がある場合よりも,本件プログラムに厳重にアクセス制限がなされていることを意味する。 よって,本件プログラムについて,秘密管理性の要件を充たす。 また,原告は,平成21年1月16日,被告に対し,本件プログラムにアクセスするための本件URLを教えたが,これは被告との間で本件プログラムの制作を目的とする請負契約が成立したと誤信したからであり,誤 - 8 -信によって本件プログラムにアクセスするための本件URLを教えたからといって,本件プログラムの秘密管理性が失われるものではない。 そして,上記のように平成21年1月16日に原告が被告に対し誤信によりアクセスを許可したからといって,被告が物理的あるいは技術的にアクセスできないようにする必要はなく,その後に原告が被告に対し内容証明郵便をもってその後のアクセスが違法である旨を通知し,被告に予測可能性を与えることで,秘密管理性の要件は充たされるものである。 イ被告の主張その2について被告は,本件訴訟は別件訴訟の一事不再理効と抵触する旨主張するが,別件訴訟は,原告が被告に対し不当利得の返還等を求めたものであり,不競法違反を理由とした損害賠償を求めたものではないから,別件訴訟の一事不再理効と抵触す 件訴訟の一事不再理効と抵触する旨主張するが,別件訴訟は,原告が被告に対し不当利得の返還等を求めたものであり,不競法違反を理由とした損害賠償を求めたものではないから,別件訴訟の一事不再理効と抵触するものではなく,本件訴訟が濫訴に当たるものでもない。 第3 当裁判所の判断 1 原告は,本件プログラムは不競法2条6項にいう「営業秘密」に該当し,被告が平成21年7月17日及び同月18日に本件URLを用いて本件プログラムのウエブサイトにアクセスした行為は同条1項4号にいう不正競争行為に該当すると主張するので,まず本件プログラムの営業秘密該当性につき判断する。 不競法2条6項は,同法における「営業秘密」について,「秘密として管理されている生産方法,販売方法その他の事業活動に有用な技術上又は営業上の情報であって,公然と知られていないものをいう」と規定するところ,「秘密として管理されている」といえるためには,当該情報にアクセスした者に当該情報が営業秘密であることが認識できるような措置が講じられ,当該情報にアクセスできる者が限定されているなど,当該情報に接した者が,これが秘密として管理されていることを認識し得る程度に秘密として管理している実体があることを要するというべきである。 - 9 - 2 これを本件についてみると,前記第2の1(前提となる事実等)によれば,被告によるアクセスが行われた平成21年7月17日及び同月18日において,本件プログラムには,本件URLを入力することでアクセスすることが可能な状態であったこと,秘密保持契約を締結するなど,被告に何らの義務を課することもなく,本件URLは既に同年1月16日には被告に対して開示されていたこと,原告は同年5月31日付け内容証明郵便において被告に対しアクセスを禁止する旨を通知したものの,そ 告に何らの義務を課することもなく,本件URLは既に同年1月16日には被告に対して開示されていたこと,原告は同年5月31日付け内容証明郵便において被告に対しアクセスを禁止する旨を通知したものの,その後も,本件プログラムへのアクセスに関し,特段の措置を講じていなかったことが認められるから,本件プログラムに関しては,当該プログラムにアクセスした者にそれが営業秘密であることが認識できるような措置が講じられていたとはいえず,また,当該プログラムにアクセスできる者が限定されていたともいえないのであって,秘密として管理されていたものということはできない。 そうすると,本件プログラムが不競法2条6項にいう「営業秘密」に該当すると認めることはできない。 3 この点に関し原告は,本件プログラムについてパスワード等を設定すると,本件プログラムが存在することが明らかとなってしまい,本件URLが原告の記憶にのみ存在することの方が,秘密管理性は保たれる旨主張する。 しかし,上記のとおり,本件URLは,何らの義務を課することなく被告に開示されているものであり,原告が記憶しているのみの状態となっているものではないから,原告の主張はその前提を欠き,採用することができない。 また,原告は,本件URLを被告に開示したのは,請負契約が成立したと誤信したことによるものであり,誤信によって本件URLを教えたとしても秘密管理性を失わないと主張する。 しかし,本件URLを被告に開示した動機が誤信によるものであったとしても,上記のとおり,被告に対しアクセスを禁止する旨を通知した後においても,原告は被告からのアクセスを不可能とする手段を何ら講じていないから,いず - 10 -れにしろ秘密管理性の要件を充たすものとはいえず,原告の主張は採用することができない。 さらに原 おいても,原告は被告からのアクセスを不可能とする手段を何ら講じていないから,いず - 10 -れにしろ秘密管理性の要件を充たすものとはいえず,原告の主張は採用することができない。 さらに原告は,被告に対しては,平成21年5月31日付け内容証明郵便において事後のアクセスは不正アクセスとなる旨を通知しているから,被告に予測可能性を与えることで秘密管理性は保たれると主張する。 しかし,既に検討したとおり,原告が被告に開示した本件URLによって,本件プログラムにアクセスすることが可能な状態にあっては,当該情報に接する者が制限された状態となっているものとは到底解されないから,秘密管理性の要件を充たすものとはいえず,原告の主張は採用することができない。 4 結論以上によれば,その余の点について判断するまでもなく,原告の請求は,理由がない。 よって,主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第40部 裁判長裁判官 東海林 保 裁判官 今井弘晃 裁判官 - 11 -実本 滋

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