主文 原判決を破棄する。 被告人を懲役15年に処する。 原審における未決勾留日数中800日を上記刑に算入する。 理由 本件控訴の趣意は弁護人稲野正明作成の控訴趣意書に,これに対する答弁は検察官岡本誠二作成の答弁書に,それぞれ記載されたとおりであるから,これらを引用する。 第1 控訴趣意中,事実誤認の主張について論旨は,要するに,原判決が第3の保険金詐欺に関する量刑の理由の中で,被告人が,原判示(以下同じ)第2の犯行である三女A殺害の前に原判示の保険契約の解約を考えたこともありながら,Aが死亡すれば保険金が得られることから解約しなかったとの経緯もある(39頁)と認定し,その前提として,事実認定の補足説明の中でも,生活費に窮した被告人とBが,解約返戻金目当てに上記保険契約の解約を話し合った際,Bは「Aが死ぬんやったら,今解約したら損や。もう少し待ったら入るやん。それから解約したらええねん。」などと話したこと(34頁)との事実を認定していることについて,このような事実はない旨主張し,これを認定した原判決には,判決に影響を及ぼすことが明らかな事実誤認がある,というのである。 そこで,所論にかんがみ,記録を調査し,当審における事実取調べの結果もあわせて検討すると,関係各証拠によれば,所論の点に関する原判示の事実は優にこれを認めることができ,当審における事実取調べの結果によっても,その認定判断は左右されない。 所論は,上記の事実は,共犯者である当時の妻Bの原審公判供述に基づいて認定されたものであるが,同供述は信用性がない旨主張し,①Bは生活費に窮したために保険契約解約の話が出たというが,その前後にサラ金等から借り入れたとの事実が窺えないこと,②保険契約は被告人の父親が契約者であり保険料の支払者でもあ は信用性がない旨主張し,①Bは生活費に窮したために保険契約解約の話が出たというが,その前後にサラ金等から借り入れたとの事実が窺えないこと,②保険契約は被告人の父親が契約者であり保険料の支払者でもあったから,同人に相談もなくBと被告人のみで解約について話し合うこと自体が不自然であるところ,被告人の父親に相談した事実も窺えないこと,③Aの葬式終了後に保険金を請求した際の被告人らの会話には,A死亡前に保険契約解約の話をした点が話題となっていないうえ,金に窮して追い詰められた状態になったのはAの葬式の後であったこと,④被告人が当審公判において,Bの原審公判供述と相反する供述をしていること,をその理由として挙示している。 しかしながら,上記の①及び③は,上記のBの供述の信用性を左右するほどのものとはいえず,②は,原判示の保険契約の契約者は被告人となっていた(原審甲153)のであるから,(保険料を支払っていたのは父親であるから解約するのであれば父親に話をするのが自然であるとしても)これを解約するのに被告人の父親の同意は必要ではなく,その主張の前提に誤りがあること,④についても,本件保険は,契約後2年を経過すれば解約金が50万円ないし60万円になることを保険外交員から説明を受けて知っていたところ,被告人らがC運送の社宅に転居して始めた新生活も経済的に楽でなかったため保険契約解約の話が出たというBの供述は自然であるうえ,上記の事実はB自身にとっても犯情において不利益に働くことは明白であるから,それが公判廷での供述であることをも加味すると信用性は高いといえるのに対し,被告人が当審において上記の事実はなかった旨強調するのも自らの犯情が重く評価されることを免れようとの心情ということで十分説明が可能であることにかんがみると,にわかに採用することはできない。 のに対し,被告人が当審において上記の事実はなかった旨強調するのも自らの犯情が重く評価されることを免れようとの心情ということで十分説明が可能であることにかんがみると,にわかに採用することはできない。 以上によれば,所論は採用できず,原判決に事実誤認はない。論旨は理由がない。 第2 控訴趣意中,量刑不当の主張について論旨は,原判決の量刑不当を主張するので,所論にかんがみ,記録を調査し,当審における事実取調べの結果もあわせて検討する。 本件は,被告人が,当時の妻Bと共謀して,平成8年1月に長女D(当時1歳8か月)を餓死させて殺害し(原判示第1),平成9年8月に三女A(当時1歳2か月)をこたつの天板上に叩き付け頭部外傷を負わせて殺害し(同第2),同年9月にAの死亡が事故によるものであると偽って死亡保険金等約90万円をだまし取った(同第3)という,幼児殺2件及び保険金詐欺1件の事案である。 被告人らの本件各犯行は,実の両親である被告人らが,いずれも未だ1歳数か月であった幼な子2児を次々と殺害し,うち1児については殺害後にその保険金までだまし取ったという,まことに無慈悲かつ冷酷で非道なものであって,現在深刻な社会問題となっている児童虐待の極限ともいうべき子供の殺害を,しかも夫婦が共謀のうえ連続して敢行したものとして,社会全体に強い衝撃を与えた事件である。 被告人らは,第1の犯行の被害者Dに対しては,発育が遅い,愛嬌がないなどとして,第2の犯行の被害者Aに対しては,元々望まない子であった,Dに似て愛嬌がないなどとして,いずれも実の子でありながら次第に疎ましく思うようになり,親としての自覚や責任感も希薄なまま安易に養育して行く意欲を失い,そればかりか同児らに対し理不尽な暴行を加えるなどしているうち,周囲の知人やBの両親から同児らの発育の悪さにつ ましく思うようになり,親としての自覚や責任感も希薄なまま安易に養育して行く意欲を失い,そればかりか同児らに対し理不尽な暴行を加えるなどしているうち,周囲の知人やBの両親から同児らの発育の悪さについて注意を受けたことなどから,軽々にも殺意を抱くようになったというものであって,その動機に僅かなりとも酌量の余地があろうはずがない。 その犯行態様をみても,Dに対しては,2か月余りの長期間にわたり,泣き続けるときに与えるスナック菓子とジュースのほかは全く飲食物を与えず,同児が栄養失調のためやせ細って行くのを放置し,遂に同児を目的どおり全身衰弱により死亡させるに至っており,人間としての感情を持った者による行いとは到底思えない,まさに血も涙もない所業ともいうべきものである。また,Aに対しても,ミルクを与えるなどの最低限の世話しかせずに衰弱させた末,Bにおいて泣きやまない同児を布団に数回叩き付けるなどしたうえ,被告人と意思を相通じ合い,同児を自己の肩付近まで持ち上げて,こたつの天板に叩き付けて同児の後頭部を強打させて死亡するに至らせたものであり,その行為はわずか1歳2か月の同児にとってみれば,当然死に直結する極めて強烈で残虐なものといえる。 被害者となったD及びAは,いずれも被告人ら夫婦の子として生まれてきたばかりに,他の殆どの子供のように温かく養育されて成長していくことを許されず,反対に激しい空腹感や暴行・傷害による肉体的苦痛などに苛まれながら,わずか1歳数か月でその生命を奪われたものであって,まことに哀れというほか言葉が見当たらない。 さらに,被告人らは,DやAを殺害した後,その死亡原因について口裏を合わせて拒食症や偶発的な事故によるものであると主張し,その刑事責任の追及をかわし,さらには,第3の犯行のとおり,保険会社からAの死亡保険金等を 人らは,DやAを殺害した後,その死亡原因について口裏を合わせて拒食症や偶発的な事故によるものであると主張し,その刑事責任の追及をかわし,さらには,第3の犯行のとおり,保険会社からAの死亡保険金等をだまし取り,これを遊興費や生活費として費消しているのであって,結果的であるにもせよ,Aの死亡を利用して金銭的な利得を得ており,その犯情は極めて悪質である。 以上に述べた諸事情などを考え併せれば,本件各犯行に関する被告人の刑事責任はまことに重大であるというほかなく,被告人に対しては極めて厳しい処罰をもって臨むのが相当であると考えられる。 しかしながら,他方において,第1の犯行は,被告人の提案をきっかけとするものであったとはいえ,家事に専念し終日子供の世話をしていた妻Bの積極的な協力なくしては到底行えないものであったこと,第2の犯行は,被告人自身も被害者殺害に積極的であり,自らは手を下さずにBに犯行をし向けたことが認められるとしても,直接的にはBが行った被害者に対する激烈な暴行によって達成されたものであること,被告人は,原審公判において最終的には弁護人の主張に副うような形で第1及び第2の各犯行の成否を争い,原判決も指摘するように,結果的にその責任の大半をBになすりつけるかのような弁解を行っているのではあるが,その供述内容には大きな変遷があり,自責の念と自己の行為をできるだけ正当化してなるべく罪を軽くしたいという気持ちとの間で揺れ動いている様子が窺えるのであって,被告人のこのような供述態度は,第1の犯行は実行行為が長期間に及ぶ不作為によるものであり,その間には殺意の強さなどの点で振幅があったであろうことが推測されること,第2の犯行は被告人自身において直接手を下さなかったことから,卑怯ではあるが自らの罪責を免れたいという思いにとらわれ易いものである 間には殺意の強さなどの点で振幅があったであろうことが推測されること,第2の犯行は被告人自身において直接手を下さなかったことから,卑怯ではあるが自らの罪責を免れたいという思いにとらわれ易いものであることなどから,その心情が全く理解できないというわけではなく,被告人が自らの行いにつき反省悔悟していることと両立し得ないものとまではいえないというべきであり,被告人が実子2人を殺害したことについてわずかでも真摯に反省しているとは到底認められないとする原判決の認定説示は,被告人にとっていささか酷に過ぎるものではないかと考えられること,被告人には前科前歴がなく,高校卒業後は職を転々としながらも働き,本件各犯行に至るまでは社会内で平穏に生活してきたこと,被告人の年老いた父親が,被告人が罪を償って出てきたら迎えてやり,自分の存命中はできるだけの手助けをしたいと述べ,長い服役を経て出所してくる被告人に対する援助を約束していることなどの諸事情に加えて,被告人が原判決後にさらに反省の度合を深め,被害者2名に対し毎日の朝夕に手を合わせて謝罪し,当審においては第1及び第2の各犯行における殺意及びBとの共謀等の諸点について全く争わず,これらの各犯行について厳しく断罪されることを受け入れる決意を固め,刑期についても自分が共犯者であるBよりも重く罰せられてもやむを得ないと述べるまでに至っていること,原判決後に被告人の父親が第3の犯行の被害者である保険会社に対し,被告人らが詐取した金額全額である90万円余を弁償し,同社から嘆願書が提出されていること,被告人と全く同じ罪に問われたBがその控訴審において懲役15年(その原審は懲役13年)の判決の宣告を受け現在上告中であることをも併せ考慮すれば,被告人に対しては,現時点においてBとの間で敢えてその刑責に軽重をつけるまでの特段 Bがその控訴審において懲役15年(その原審は懲役13年)の判決の宣告を受け現在上告中であることをも併せ考慮すれば,被告人に対しては,現時点においてBとの間で敢えてその刑責に軽重をつけるまでの特段の情状の差異を見い出すことができないから,被告人を求刑どおり懲役18年に処した原判決の量刑は重きに過ぎるといわざるを得ない。論旨は理由がある。 よって,刑訴法397条1項,2項により原判決を破棄し,なお同法400条ただし書に従い更に判決することとする。 第3 自判原判決が認定した事実(ただし,3頁下から4行目ないし3行目の「被告人においては、」より4頁2行目の「被告人のこの不作為の下で、」までの部分を削除する。)に原判決挙示の法令(併合罪の処理を含む。)を適用し,上記の情状を考慮して被告人に対しBと同じ懲役15年の刑をもって臨み,その服役の期間中,矯正施設において被害者2名の冥福を祈らせつつ,自らの更生に努めさせるのが相当であると思料する。 よって,原審における未決勾留日数の算入につき刑法21条,原審及び当審における訴訟費用の不負担につき刑訴法181条1項ただし書を適用して,主文のとおり判決する。 (裁判長裁判官河上元康裁判官細井正弘裁判官水野智幸)
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