平成28年12月22日判決言渡同日原本領収裁判所書記官平成27年(ワ)第12412号特許権侵害差止請求事件口頭弁論終結日平成28年10月11日判決 原告デビオファーム・インターナショナル・エス・アー同訴訟代理人弁護士大野聖二同大野浩之同訴訟代理人弁理士松任谷優子同訴訟復代理人弁護士多田宏文 被告武田テバファーマ株式会社同訴訟代理人弁護士古城春実同林いづみ同堀籠佳典同牧野知彦同加治梓子同補佐人弁理士実広信哉 主文 1 原告の請求をいずれも棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 3 この判決に対する控訴のための付加期間を30日と定める。 事実及び理由 第1 請求 1 被告は,別紙被告製品目録記載1ないし3の製剤を生産,譲渡又は譲渡の申 出をしてはならない。 2 被告は,別紙被告製品目録記載1ないし3の製剤を廃棄せよ。 第2 事案の概要本件は,発明の名称を 被告製品目録記載1ないし3の製剤を生産,譲渡又は譲渡の申 出をしてはならない。 2 被告は,別紙被告製品目録記載1ないし3の製剤を廃棄せよ。 第2 事案の概要本件は,発明の名称を「オキサリプラティヌムの医薬的に安定な製剤」とする特許権を有する原告が,別紙被告製品目録記載の製品(以下,順に「被告製品1」ないし「被告製品3」といい,これらを「被告製品」と総称する。)を製造等する被告に対し,これらの行為が上記特許権を侵害する旨主張して,特許法100条1項に基づき,被告製品の生産,譲渡又は譲渡の申出の差止めを,同条2項に基づき被告製品の廃棄を,それぞれ求める事案である。 1 前提事実(証拠を掲記した事実以外は当事者間に争いがない。)(1) 当事者ア原告は,医薬品等の製造,販売及び輸出等を業とするスイス法人である。 イ被告は,医薬品の開発,製造,輸入及び販売等を業とする株式会社である。 (2) 原告の特許権原告は,次の特許権(以下「本件特許権」といい,この特許を「本件特許」という。)を有する。 ア発明の名称 「オキサリプラティヌムの医薬的に安定な製剤」イ出願日平成7年8月7日ウ出願番号特願平8-507159号(国際出願番号 PCT/IB1995/000614号)エ優先日平成6年8月8日オ優先権主張国スイス連邦カ登録日平成16年4月23日キ特許番号特許第3547755号(3) 本件特許に係る延長登録 原告は,次のアないしキのとおり,本件特許権に関して存続期間の延長登録の出願をし,その登録を受けた(以下,それぞれ「本件延長登録1」などといい,これらを「本件延長登録」と総称する。)。本件延長登 原告は,次のアないしキのとおり,本件特許権に関して存続期間の延長登録の出願をし,その登録を受けた(以下,それぞれ「本件延長登録1」などといい,これらを「本件延長登録」と総称する。)。本件延長登録1ないし7の理由となった各処分(以下「本件処分」と総称する。)についても次のアないしキのとおりである(甲1)。 なお,本件処分の対象となったエルプラット点滴静注液50mg,100mg及び200mg(株式会社ヤクルト本社が製造販売したもの)は,いずれも分量が異なるだけで,成分はオキサリプラチン(オキサリプラティヌムとも称する。)と注射用水のみ(不純物を除く。)で共通し,添加物はない(甲4)。 ア延長登録1出願番号:2009-700142号(平成21年11月20日出願)延長の期間:4年5月22日延長登録日:平成22年10月6日延長登録の理由とされた処分:平成21年8月21日付けの薬事法14条1項に規定する医薬品に係る同項の承認(以下「本件処分1」という。)処分を特定する番号:承認番号22100AMX02237000処分の対象となった物:オキサリプラチン(販売名エルプラット点滴静注液50mg)処分の対象となった物について特定された用途結腸癌における術後補助化学療法(用途B)イ延長登録2出願番号:2009-700145号(平成21年11月20日出願)延長の期間:11月21日延長登録日:平成22年10月6日延長登録の理由とされた処分:平成21年8月20日付けの薬事法14条 1項に規定する医薬品に係る同項の承認(以下「本件処分2」という。)処分を特定する番号:承認番号 22年10月6日延長登録の理由とされた処分:平成21年8月20日付けの薬事法14条 1項に規定する医薬品に係る同項の承認(以下「本件処分2」という。)処分を特定する番号:承認番号22100AMX02236000処分の対象となった物:オキサリプラチン(販売名エルプラット点滴静注液100mg)処分の対象となった物について特定された用途結腸癌における術後補助化学療法(用途B)ウ延長登録3出願番号:2009-700143号(平成21年11月20日出願)延長の期間:4年5月22日延長登録日:平成24年10月17日延長登録の理由とされた処分:平成21年8月20日付けの薬事法14条1項に規定する医薬品に係る同項の承認(本件処分1)処分を特定する番号:承認番号22100AMX02237000処分の対象となった物販売名:エルプラット点滴静注液50mg有効成分:オキサリプラチン処分の対象となった物について特定された用途治癒切除不能な進行・再発の結腸・直腸癌(用途A)結腸癌における術後補助化学療法(用途B)エ延長登録4出願番号:2009-700144号(平成21年11月20日出願)延長の期間:4年5月22日延長登録日:平成24年10月17日延長登録の理由とされた処分:平成21年8月20日付けの薬事法14条1項に規定する医薬品に係る同項の承認(本件処分2)処分を特定する番号:承認番号22100AMX02236000処分の対象となった物販売名:エルプラット点滴静注液100mg 有効成分:オキサリプラチン 認(本件処分2)処分を特定する番号:承認番号22100AMX02236000処分の対象となった物販売名:エルプラット点滴静注液100mg 有効成分:オキサリプラチン処分の対象となった物について特定された用途治癒切除不能な進行・再発の結腸・直腸癌(用途A)結腸癌における術後補助化学療法(用途B)オ延長登録5出願番号:2014-700029号(平成26年3月19日出願)延長の期間:2年9月21日延長登録日:平成26年6月18日延長登録の理由とされた処分:平成25年12月20日付けの薬事法14条9項に規定する医薬品に係る同項の承認(以下「本件処分4」という。)処分を特定する番号:承認番号22100AMX02237000処分の対象となった物販売名:エルプラット点滴静注液50mg有効成分:オキサリプラチン処分の対象となった物について特定された用途治癒切除不能な膵癌(用途C)カ延長登録6出願番号:2014-700030号(平成26年3月19日出願)延長の期間:2年9月21日延長登録日:平成26年6月18日延長登録の理由とされた処分:平成25年12月20日付けの薬事法14条9項に規定する医薬品に係る同項の承認(以下「本件処分3」という。)処分を特定する番号:承認番号22100AMX02236000処分の対象となった物販売名:エルプラット点滴静注液100mg有効成分:オキサリプラチン処分の対象となった物について特定された用途治癒切除不能な膵癌(用途C) キ延長登録7 液100mg有効成分:オキサリプラチン処分の対象となった物について特定された用途治癒切除不能な膵癌(用途C) キ延長登録7出願番号:2014-700031号(平成26年3月19日出願)延長の期間:2年9月21日延長登録日:平成26年6月18日延長登録の理由とされた処分:平成25年12月20日付けの薬事法14条9項に規定する医薬品に係る同項の承認(以下「本件処分5」という。)処分を特定する番号:承認番号22400AMX01369000処分の対象となった物販売名:エルプラット点滴静注液200mg有効成分:オキサリプラチン処分の対象となった物について特定された用途治癒切除不能な膵癌(用途C)(4) 特許請求の範囲の記載本件特許に係る特許請求の範囲の請求項1の記載は,以下のとおりである(以下,同請求項に係る発明を「本件発明」という。)。 「濃度が1ないし5mg/mlでpHが4.5ないし6のオキサリプラティヌムの水溶液からなり,医薬的に許容される期間の貯蔵後,製剤中のオキサリプラティヌム含量が当初含量の少なくとも95%であり,該水溶液が澄明,無色,沈殿不含有のままである,腸管外経路投与用のオキサリプラティヌムの医薬的に安定な製剤。」(5) 本件発明の構成要件本件発明を構成要件に分説すると,以下のとおりである(以下,分説した構成要件をそれぞれの符号に従い「構成要件A①」などという。)。 A① 濃度が1ないし5mg/mlで② pHが4.5ないし6の③ オキサリプラティヌムの水溶液からなり,B① 医薬的に許容される期間の貯蔵後,製剤中のオキサリプラティヌム含 。 A① 濃度が1ないし5mg/mlで② pHが4.5ないし6の③ オキサリプラティヌムの水溶液からなり,B① 医薬的に許容される期間の貯蔵後,製剤中のオキサリプラティヌム含 量が当初含量の少なくとも95%であり,② 該水溶液が澄明,無色,沈殿不含有のままである,C 腸管外経路投与用のD オキサリプラティヌムの医薬的に安定な製剤。 (6) 被告による薬品販売等ア被告は,被告製品1及び2については平成26年8月15日付けで,厚生労働省から医薬品製造販売承認を得た。これらの製品は同年12月12日付けで薬価基準収載され,被告は同日からこれらを販売した(甲46)。 イ被告は,被告製品3については平成27年2月16日付けで,厚生労働省から医薬品製造販売承認を得た。同製品は同年6月19日付けで薬価基準収載され,被告は同日からこれを販売した(甲46)。 ウ被告製品は,いずれも有効成分をオキサリプラチンとし,添加物として乳糖水和物を添加したものであり,性状は「無色澄明の注射液」,pHは「4.0~7.0」,浸透圧比は「約0.05(日局生理食塩液に対する比)」である(甲17の1)。 また,被告製品の効能・効果は,「治癒切除不能な進行・再発の結腸・直腸癌」「結腸癌における術後補助化学療法」「治癒切除不能な膵癌」「治癒切除不能な進行・再発の胃癌」とされているが,後2者に対しては,被告製品の術後補助化学療法における有効性及び安全性は確立されていない,とされている(甲17の1)。 そして,用法・用量としては,「治癒切除不能な進行・再発の結腸・直腸癌」及び「結腸癌における術後補助化学療法」には,後記A法又はB法を,「治癒切除不能な膵癌」には後記A法を,「治癒切除不能な進行・再発の ,用法・用量としては,「治癒切除不能な進行・再発の結腸・直腸癌」及び「結腸癌における術後補助化学療法」には,後記A法又はB法を,「治癒切除不能な膵癌」には後記A法を,「治癒切除不能な進行・再発の胃癌」には後記B法を使用し,患者の状態により適宜減量するとされており,また,被告製品を5%ブドウ糖注射液に注入し,250~500mLとして,静脈内に点滴投与するとされている(甲17の1)。 記A法:他の抗悪性腫瘍剤との併用において,通常,成人にはオキサリプラチンとして85mg/㎡(体表面積)を1日1回静脈内に2時間で点滴投与し,少なくとも13日間休薬する。これを1サイクルとして投与を繰り返す。 B法:他の抗悪性腫瘍剤との併用において,通常,成人にはオキサリプラチンとして130mg/㎡(体表面積)を1日1回静脈内に2時間で点滴投与し,少なくとも20日間休薬する。これを1サイクルとして投与を繰り返す。 エ被告製品の具体的構成については争いがあり,原告は,別紙被告製品説明書1記載のとおりであると主張し,被告は,別紙被告製品説明書2記載のとおりであると主張している。 (7) 被告による別件の特許取得ア被告は,平成28年7月8日,次の特許権(以下「別件特許権」といい,この特許を「別件特許」という。)を取得した(乙87の4)。 (ア) 発明の名称「オキサリプラチンを含む水性医薬組成物の製造方法及び安定化方法」(イ) 出願日平成28年3月23日(ウ) 出願番号特願2016-58827号(エ) 登録日平成28年7月8日(オ) 特許番号特許第5963156号イ上記特許権に係る特許請求の範囲の請求項1の記載は 出願番号特願2016-58827号(エ) 登録日平成28年7月8日(オ) 特許番号特許第5963156号イ上記特許権に係る特許請求の範囲の請求項1の記載は,以下のとおりである(以下,同請求項に係る発明を「別件発明」という。)。 「オキサリプラチン,水,及び,乳糖又はその水和物を含む,水性医薬組成物の製造方法であって,(a)前記乳糖又はその水和物を水中に溶解して,前記乳糖又はその水和物の水溶液を調整する工程,⒝前記オキサリプラチ ンを工程(a)により得られた水溶液に添加する工程,及び⒞工程⒝により得られた混合水溶液に前記オキサリプラチンを溶解させる工程,を含み,前記乳糖又はその水和物が,(1)レーザー回折散乱式粒度分布測定法による体積累積径D10が10μm以上であり,D50が100μm以下である(2)波長270~300nmにおける水溶液の比吸光度が0.015以下であるの両方を満たすことを特徴とする製造方法。」 2 争点(1) 被告製品は,本件発明の構成要件A,B及びDを充足するか(被告製品が本件発明の構成要件Cを充足することは争いがない。)。 (2) 存続期間延長後の本件特許権の効力は被告製品に及ぶか。 (3) 本件特許には次の無効理由があるか。 ア進歩性欠如(主引用例をそれぞれ乙10,乙47,乙7,乙48とするものであり,無効理由1ないし3,6に対応する。)イ明確性要件違反(無効理由4,5に対応する。)(4) 本件延長登録には次の無効理由があるか。 ア政令で定める処分を受けることが必要ではなかったこと(特許法125条の2第1項1号該当性)イ延長された期間が特許発明を実施できなかった期間を超えていること(同項3号該当性) ア政令で定める処分を受けることが必要ではなかったこと(特許法125条の2第1項1号該当性)イ延長された期間が特許発明を実施できなかった期間を超えていること(同項3号該当性) 3 争点に関する当事者の主張(1) 争点(1)(被告製品の構成要件充足性)についてア原告の主張(ア) 構成要件A③を充足すること以下のとおり,本件発明の「オキサリプラティヌムの水溶液からなり」という文言が第3成分を含む製剤を排除するものでないことは明らかであるから,被告製品は構成要件A③を充足する。 a 本件発明では「酸性又はアルカリ性薬剤,緩衝剤もしくはその他の添加剤を含まない」という限定は一切されていない。被告が指摘する明細書の記載は,「目的」に関して添加剤等を含まないオキサリプラティヌム水溶液を用いることで達成したことを記載したにとどまり,本件発明に「オキサリプラティヌム」と水以外の成分が水溶液に含まれてはいけないと述べるものではない。また,オキサリプラチン以外の溶質が含まれている水溶液を「オキサリプラチンの水溶液」と呼ぶのはむしろ当業者の技術常識である。特許実務において,「からなる」が閉鎖的な意味を常に持つというようなルールは存在しない。そして,本件発明の技術分野において添加剤が加えられることは一般的であり,同技術分野からすると,当業者は,「からなり」という用語が用いられていることをもって閉鎖的に解釈されるとは認識しない。 また,実施例はあくまで一例にすぎず,発明の文言や明細書の記載を無視して,明記されていない内容を限定する根拠にはなり得ず,第3成分を記載した実施例がないことをもって,本件発明の技術的範囲を不当に限定することはできない。 b 被告は国際出願に使用された「cons 視して,明記されていない内容を限定する根拠にはなり得ず,第3成分を記載した実施例がないことをもって,本件発明の技術的範囲を不当に限定することはできない。 b 被告は国際出願に使用された「constituéepar」という用語を指摘するが,国際出願そのものに対して欧州特許庁審査ガイドライン(乙25)が適用される理由はないし,また,同ガイドラインは,そもそも日本における特許の技術的範囲の解釈には意味がないが,この点を措くとしても,国際出願に関して「constituéepar」が閉鎖的な意味であるという解釈自体が全く存在しない。 c 無効審判の審決(甲10)においても,「からなり」との文言が「その他の要素を構成要素としないという意味で用いられる表現ではない」とされているほか,審決取消訴訟の判決においても,本件発明 に係る製剤に他の構成要素が含まれることが排除されてはいないと一義的に理解できるとされている。 (イ) 構成要件A①②を充足すること被告製品の構成は,別紙被告製品説明書1記載のとおりであり,構成要件A①②を充足する。 なお,構成要件A①②についての被告の主張は,結局,「オキサリプラティヌムの水溶液からなり」との文言を誤って解釈した結果であるところ,この前提が誤りであるから,被告の主張は失当である。 (ウ) 構成要件Bを充足すること被告製品の構成は,別紙被告製品説明書1記載のとおりであり,構成要件Bを充足する。 「医薬的に許容される期間」は,「当業界で一般的に要求される期間」であり,その一例として,「室温または冷蔵庫の温度で3ないし5年に対応する」とされているにすぎない。被告は,被告製品について2年間の長期保存試験を行い,被告製品を販売しているから,当該長期保存試験の下での「24か月 して,「室温または冷蔵庫の温度で3ないし5年に対応する」とされているにすぎない。被告は,被告製品について2年間の長期保存試験を行い,被告製品を販売しているから,当該長期保存試験の下での「24か月」を「当業界で」「要求される期間」と判断したことが明らかである。原告の製品であるエルプラット点滴静注液でも「24か月保存期間」の長期保存試験を行っており,他のジェネリックメーカーでも2年間の長期保存試験を行っている。以上から,「2年間(24か月)」が「当業界で」「要求される期間」に含まれることは明らかである。 (エ) 構成要件Dを充足すること被告製品の構成は,別紙被告製品説明書1記載のとおりであり,構成要件Dを充足する。 本件特許の明細書における「+74.5°ないし+78.0°の範囲にある」というのは一例であり,「医薬的に安定」を「比旋光度が+7 4.5°ないし+78.0°である」ことを意味するとの被告の主張は失当である。 他方で,被告製品の添付文書(甲5)には,「2年間安定であることが確認された」と記載されており,被告製品は医薬的に安定であるといえる。 イ被告の主張(ア) 構成要件A③を充足しないこと以下のとおり,構成要件A③の「オキサリプラティヌムの水溶液からなり」は水とオキサリプラティヌムしか含まないことを意味するところ,被告製品は,水とオキサリプラティヌムと乳糖水和物を含有するから,構成要件A③を充足しない。 a(a) 「~からなる」との用語は,構成要素として指摘された「~」が全体を構成し,それ以外の要素を含まないから,本件発明の「製剤」は「オキサリプラティヌムの水溶液」によって全体が構成され,第3成分を含まないことが自明である。 現に,本件特許 ~」が全体を構成し,それ以外の要素を含まないから,本件発明の「製剤」は「オキサリプラティヌムの水溶液」によって全体が構成され,第3成分を含まないことが自明である。 現に,本件特許の明細書においては,「…この目的が,…有効成分が酸性またはアルカリ性薬剤,緩衝剤もしくはその他の添加剤を含まないオキサリプラティヌム水溶液を用いることにより,達成することを示すことができた」と記載されているとおり,本件発明の製剤が「他の成分を含まないこと」が明確に記載されているから,本件発明の製剤が,オキサリプラチンの不純物を除くと,「水」と「オキサリプラティヌム」以外の第3成分を含まないことは一義的に明らかである。実際に,明細書に具体的に開示されている「製剤」も,水とオキサリプラティヌムしか含まないものである。 なお,発明の目的を達成するものとして記載された構成が発明の技術的解決手段をなすものであることは明らかであり,目的を達成 するものとして記載された構成は「他の成分」を含まないオキサリプラチンの水溶液である。 また,原告は,本件特許の出願経過で提出した平成16年1月21日付け意見書(乙19)において「本願発明の目的は,…該水溶液が,酸性またはアルカリ性薬剤,緩衝剤もしくはその他の添加剤を含まないことである」と述べていたものである。 ⒝ 本件特許は,仏語にて国際出願された発明が,その後,日本語に翻訳されて出願されたものであるところ,上記国際出願時明細書の請求項1には「~からなり」との用語に対応する用語として「constituéepar~」との用語が使用されており,欧州特許庁のガイドライン(乙25)によれば,この用語は,第3成分を含まないことを意味している。 ⒞ 無効審判の審決(甲10)から onstituéepar~」との用語が使用されており,欧州特許庁のガイドライン(乙25)によれば,この用語は,第3成分を含まないことを意味している。 ⒞ 無効審判の審決(甲10)からすれば,「からなる」との用語によって排除されていないのは不純物レベルのものであり,それを超える「第3成分」はむしろ排除されていることを示している。また,審決取消訴訟の判決は,明確性要件違反の有無しか判断しておらず,同判決の「からなり」に関する判断が,侵害訴訟である本件訴訟での技術的範囲をめぐる「からなり」の解釈を拘束すべき理由はない。 (イ) 構成要件A①及び②を充足しないこと構成要件A①及び②は,水とオキサリプラティヌムしか含まない水溶液におけるオキサリプラティヌムの濃度を規定したものであるところ,被告製品は,水とオキサリプラティヌムと乳糖水和物を含有するから比較の前提を欠いており,構成要件A①及び②を充足しない。 (ウ) 構成要件B①及び②を充足しないこと構成要件B①の「医薬的に許容される期間」について,明細書には「3ないし5年」との記載があるが,同記載からして唯一基準時となり 得るのは「5年」でしかないため,「医薬的に許容される期間の貯蔵後」は製造から「5年」後を意味するというべきである。しかし,被告製品に関してこの点の立証はなく,被告製品は構成要件B①を充足しない。 また,構成要件B②に関して,被告製品が製造から5年後において「該水溶液が澄明,無色,沈殿不含有のままである」ことの立証はないから,被告製品は同構成要件を充足しない。 (エ) 構成要件Dを充足しないこと構成要件Dの「医薬的に安定」の意義は極めて多義的であるところ,明細書の「オキサリプラティヌムの水溶液の安定性は,+ ,被告製品は同構成要件を充足しない。 (エ) 構成要件Dを充足しないこと構成要件Dの「医薬的に安定」の意義は極めて多義的であるところ,明細書の「オキサリプラティヌムの水溶液の安定性は,+74.5°ないし+78.0°の範囲にある比旋光度の測定によっても確認された」との記載からすれば,「医薬的に安定」とは,製造から5年後において,オキサリプラティヌムの水溶液(第3成分を含まない)の比旋光度が+74.5°ないし+78.0°の範囲にあることを意味するというべきである。そして,原告は,被告製品についてこの点を立証していないから,被告製品は同構成要件を充足しない。 (2) 争点(2)(存続期間延長後の本件特許権の効力は被告製品に及ぶか)についてア原告の主張(ア) 主位的主張(被告製品は本件処分の対象となった物であること)本件特許が延長登録された理由となった本件処分(承認)では,「オキサリプラチン」を成分として承認申請を行い,その結果として製造販売承認を得ている。 この点,被告製品は,「オキサリプラチン」を唯一の有効成分としているから,本件処分の対象となった物に当たる。被告製品に含まれる「乳糖水和物」はあくまでも添加物にすぎず,「成分」には当たらない。 また,被告製品の「効能・効果」は,本件特許が延長登録された理由となった処分における「効能・効果」と重複しており,被告製品の「用法・用量」も同様であるから,被告製品の「用途」は,本件処分の対象となった物の「用途」と重複している。したがって,存続期間が延長された本件特許権の効力は被告製品に及ぶ。 (イ) 予備的主張(被告製品は処分対象物と実質同一物であること)a 添加剤を異にする後発医薬品であっても,先発医薬品が処分を受けるために特許発明の れた本件特許権の効力は被告製品に及ぶ。 (イ) 予備的主張(被告製品は処分対象物と実質同一物であること)a 添加剤を異にする後発医薬品であっても,先発医薬品が処分を受けるために特許発明の実施ができなかったことにより得られた成果に全面的に依拠して,安全性の確保等法令で定めた試験等を自ら行うことなく,承認を得て製造,販売しているものである。以上からすれば,添加剤を異にする後発医薬品は,延長登録後の特許の効力が及ぶ「実質同一物」に該当すると解すべきである。 この点,「厚労省認定添加剤」を異にしさえすれば,医薬品,医療機器等の品質,有効性及び安全性の確保等に関する法律(平成25年法律第84号による改正前の題名は「薬事法」であり,以下,同改正の前後を通じて「医薬品医療機器等法」という。)上の「成分」を異にし,後発医薬品であっても延長登録された特許権の効力が原則として及ばないと解すると,後発医薬品メーカーとしては,延長登録された特許権の効力を回避するために,「厚労省認定添加剤」を異にしさえすれば,特許権侵害のリスクを回避できることになり,延長登録された特許権は完全に実効性のないものとなってしまう。 また,「厚労省認定添加剤」は,医薬品医療機器等法14条2項3号柱書の「成分」に該当するが,他の成分(有効成分,「一般の添加剤」)とは薬事承認において根本的に異なる極めて特殊な取扱いがされており,「厚労省認定添加剤」が相違したとしても,実質的に同一の医薬品として既承認の先発医薬品の成果に全面的に依拠することが 認められ,成分が完全に同一の医薬品と全く同等に扱われるにもかかわらず,延長登録された特許権の効力に関してだけ差異を設ける合理性は全く存在しない。 被告製品の乳糖水和物は,後発医薬品において「厚労省認定添加剤 が完全に同一の医薬品と全く同等に扱われるにもかかわらず,延長登録された特許権の効力に関してだけ差異を設ける合理性は全く存在しない。 被告製品の乳糖水和物は,後発医薬品において「厚労省認定添加剤」として使用されており,「使用前例があり,その用途,使用量等が確認されたものとして取り扱われ,医薬品添加物事典に個別の添加物ごとに記載されている『投与経路』『最大使用量』の範囲であれば,特別なデータを提出することなく認められる」という性質のものである。したがって,被告は,被告製品の製造,販売に先立ち承認を受ける際には,乳糖水和物に関しては上記のような性質の「厚労省認定添加剤」であるとして,有効性や安全性,及び生物学的同等性試験についてのデータすら提出せずに承認を受けていながら,侵害訴訟においては,一転して,乳糖水和物は,オキサリプラチンにおいては特殊なものであり,特殊な効果を奏すると主張しており,このような主張を認めることは公平に反し,許されるべきではない。 b 仮に,「実質同一物」とは処分対象の「物」との相違が周知技術・慣用技術の付加,削除,転換等であって,新たな効果を奏するものではないと解釈したとしても,被告製品で使用されている「乳糖水和物」は「医薬品添加物事典」に収載されているもので,かつ当該事典に記載されている投与経路,最大使用量の範囲内のものであり,同事典に記載されている安定化剤の効果しか奏さない(むしろ「その製剤の投与量において薬理作用を示すものであってはならない」)ものであるから,「実質同一物」に該当することは明らかである。 また,被告製品に係る製造販売等に必要な政令処分を受けるのに必要な試験が開始された時点では,オキサリプラチンに被告製品に含まれる量の乳糖水和物を加えることは,当業者にとって極めて容易 また,被告製品に係る製造販売等に必要な政令処分を受けるのに必要な試験が開始された時点では,オキサリプラチンに被告製品に含まれる量の乳糖水和物を加えることは,当業者にとって極めて容易であ り,周知・慣用技術になっていた。 そして,オキサリプラチンの自然分解を抑制するという効果に関して延長登録の理由となった処分の対象である先発医薬品「エルプラット」と被告製品との間において,乳糖水和物の添加による有意な差は存在しない。同様に,被告製品と他の後発医薬品とを比較しても,同効果に関して有意な差は存在しない。 むしろ,一定期間保管後の被告製品では,一定期間保管後の先発医薬品(エルプラット)と比較して類縁物質が多くなっており,エルプラットに含まれていない不純物が多数生成されているものであって,被告製品に含まれる乳糖水和物には,不純物の生成を抑制する効果はない。 イ被告の主張(ア) 原告の主位的主張に対してa 被告製品は,水とオキサリプラチンのほかに,成分として,オキサリプラチン重量に対して20%の乳糖水和物を含んでいる。この乳糖水和物は,医薬品医療機器等法上の承認申請において「成分」欄に記載されているとおり被告製品の「成分」であり,被告製品は「オキサリプラチン」「乳糖水和物」「注射用水」の3成分からなる製剤として承認を受けている。 b 本件特許権の延長登録前の存続期間は満了しているところ,本件延長登録1ないし7のいずれにおいても処分の対象となった物は第3成分を含まない製剤であるから,延長された特許権の効力は第3成分を含む製剤には及ばない。 したがって,被告製品は延長登録後の本件特許権の効力の範囲に含まれない。 (イ) 原告の予備的主張に対して 剤であるから,延長された特許権の効力は第3成分を含む製剤には及ばない。 したがって,被告製品は延長登録後の本件特許権の効力の範囲に含まれない。 (イ) 原告の予備的主張に対して a 延長登録に係る「特許権の効力が及ぶ範囲」や「第三者の利益」(権利範囲について第三者が抱く期待)という観点は,当然特許法上のものであるから,「実質同一」の判断に特許発明の種類,性質に応じた技術的評価,すなわち特許法上の技術的範囲の観点からする評価が入ってくるのは当然である。特許法上の問題を,「生物学的同等性」があれば有効性や安全性に係る新たな試験なしに承認が認められるという医薬行政に関わる規制法的観点から決しなければならない理由は皆無である。 また,本件発明は,水溶液製剤という「製剤」形態に係るものであり,「有効成分」の発明ではないから,「実質同一物」を判断する基準も,有効成分の発明の特許とは当然異なる。製剤としての形態に特徴を有する本件発明について,政令処分対象物と被告製品とが「実質同一物」であるか否かの判断基準は,「有効成分が同じか」や,有効成分に基づく効能・効果が同等であるかではなく,医薬品の成分全体としての「製剤」そのものについての「実質的に同一ないし均等」という判断基準でなければならない。 b 本件発明は,あくまで「水溶液」という形態の製剤として特許されているから,本件発明と対比すべき被告製品において,製剤を構成する成分として含まれる安定化剤である乳糖水和物を「単なる添加物」と呼んで軽くみることはできない。 そして,被告は,オキサリプラチンの水溶液に特定の特徴を持った乳糖水和物(被告製品で使用されている。)を添加することについて,特許を出願し,特許査定を得ている。 被告製品は,別件特 できない。 そして,被告は,オキサリプラチンの水溶液に特定の特徴を持った乳糖水和物(被告製品で使用されている。)を添加することについて,特許を出願し,特許査定を得ている。 被告製品は,別件特許に開示されているように,特定の物理的性質を有する乳糖水和物を用い,特定の工程で乳糖水和物を含むオキサリプラチンの水溶液を調整することによって,オキサリプラチン水性医 薬組成物を安定化させ,ジアクオDACHプラチン二量体の生成を抑制する作用効果を奏するものである。被告製品のような乳糖水和物の添加及びこれによる効果を得ることにつき,特許庁もその発明の進歩性を認めて特許査定をしているのであるから,被告製品において,乳糖水和物を加えることは,周知技術・慣用技術ではあり得ない。 このように,安定化剤としてオキサリプラチンの水溶液に乳糖水和物を加えることは,本件特許の出願時やエルプラットの承認処分時においても,周知技術や慣用技術ではなく,乳糖水和物を加えたものが「オキサリプラチン」と「注射用水」のみからなる医薬の「均等物」であるということはできない。 このほか,原告は,出願過程において,水とオキサリプラチン以外の他の成分を含まないことを本件発明の特徴として強調しているのであるから,その経緯からしても,乳糖水和物を添加物として加えた被告製品が「均等物」であると主張すること自体,許されない。 (3) 争点(3)(本件特許に無効理由があるか)についてア被告の主張(ア) 無効理由1(乙10に基づく進歩性欠如)a 本件特許の優先日前に頒布された刊行物であるJournaloftheNationalCancerInstituteVol.82, No.12(1990)に掲載されたMathéらによるオキサリプ 許の優先日前に頒布された刊行物であるJournaloftheNationalCancerInstituteVol.82, No.12(1990)に掲載されたMathéらによるオキサリプラチンのフェーズI臨床試験についての報告論文(乙10)には,注射用(すなわち腸管外経路投与用)の3mg/mlのオキサリプラチンの水溶液が開示されている。 b 仮に原告が主張するように本件発明の「オキサリプラティヌムの水溶液」とは水とオキサリプラチンのほかに第3成分を含んでもよいという意味であると解した場合,本件発明と乙10記載の発明(以下「乙10発明」という。)とを対比すると,以下の相違点が存在する。 なお,乙10発明の水溶液はグルコースを含むが,この点は,原告の上記解釈を前提とすると相違点とはならない。 (a) 本件発明の水溶液のpHは4.5~6であるが,乙10発明の水溶液のpHについては記載がない(相違点1)。 ⒝ 本件発明は「医薬的に許容される期間の貯蔵後,製剤中のオキサリプラティヌム含量が当初含量の少なくとも95%であり,該水溶液が澄明,無色,沈殿不含有のままである」が,乙10発明がこのような特性を備えるかについては記載がない(相違点2)。 ⒞ 本件発明は「オキサリプラティヌムの医薬的に安定な製剤」であるが,乙10発明が安定であるかについては記載がない(相違点3)。 c(a) 相違点1について水のpHは通常弱酸性(およそ5~6)である。また,本件発明における「4.5~6」のpHの上限値及び下限値に臨界的意義は何ら存在しない。そして,オキサリプラチン自体は解離せず,水素イオンを発生しないので,これを注射用水に溶解させても,当該水がもともと有していたpHに影響を与えな pHの上限値及び下限値に臨界的意義は何ら存在しない。そして,オキサリプラチン自体は解離せず,水素イオンを発生しないので,これを注射用水に溶解させても,当該水がもともと有していたpHに影響を与えないから,注射用のオキサリプラチン水溶液である乙10発明において,pHが5~6の範囲の水を使用して,濃度が1~5mg/mlで「pHが4.5ないし6」の範囲に入るオキサリプラティヌムの水溶液とすることは,当業者が容易になし得る事項にすぎない。 ⒝ 相違点2及び3について「濃度が1ないし5mg/mlでpHが4.5ないし6のオキサリプラティヌムの水溶液」という発明の構成が想到容易である以上,その構成を備えたものの特性であるか,少なくとも,設計的事項の適用にすぎない「医薬的に許容される期間の貯蔵後,製剤中のオキ サリプラティヌム含量が当初含量の少なくとも95%であり,該水溶液が澄明,無色,沈殿不含有のままである」及び「医薬的に安定な」を文言として特許請求の範囲に記載したからといって,本件発明に進歩性が生ずることにならないのは明らかである。 いずれにしろ,本件発明の効果は,以下のとおり周知技術及び既知の知見に基づき当業者が予測する範囲内のものにすぎない。 まず,オキサリプラチンと同様の抗癌性白金錯体であるシスプラチンが酸性条件下で長期間安定であることは本件優先日前に周知であった。また,オキサリプラチンと同様の抗癌性白金錯体であり,かつオキサリプラチンと同様の2つのカルボシキ基を有する2座配位子を有するカルボプラチンも酸性条件下で長期間安定であることは本件優先日前に周知であった。 そして,オキサリプラチンと構造が極めて類似するオキサリプラチン誘導体が酸性条件下で安定であることも,本件優先日前に カルボプラチンも酸性条件下で長期間安定であることは本件優先日前に周知であった。 そして,オキサリプラチンと構造が極めて類似するオキサリプラチン誘導体が酸性条件下で安定であることも,本件優先日前に周知であった(乙9)。しかも,水溶液中のシスプラチン,カルボプラチン等の抗癌性白金錯体は,水分子又は周囲の求核性分子(水酸化物イオン等)による求核置換反応によって不安定化することが知られており,この反応がより起きにくい条件,すなわち酸性条件下の水溶液とすることで安定性が増すことは当業者にとって自明である。 以上からすれば,本件発明に係る水溶液が,相違点2及び3の効果を奏することは,当業者が予測可能な範囲であり,何ら顕著な効果とはいえない。 (イ) 無効理由2(乙47に基づく進歩性欠如)a 本件特許の優先日前に頒布された刊行物である乙47(WO94/12193)には,腸管外経路投与用の,オキサリプラチンを含むpHが約3~5の酸性水溶液が開示されている。 b 仮に原告が主張するように本件発明の「オキサリプラティヌムの水溶液」とは水とオキサリプラチンのほかに第3成分を含んでもよいという意味であると解した場合,本件発明と乙47記載の発明(以下「乙47発明」という。)とを対比すると,以下の相違点が存在する。 なお,乙47発明の水溶液はシスプラチンを含むが,この点は,原告の前記解釈を前提とすると相違点とはならない。 (a) 本件発明のオキサリプラチン濃度は1ないし5mg/mlであるが,乙47のオキサリプラチン濃度は不定である(相違点1)。 ⒝ 本件発明は「医薬的に許容される期間の貯蔵後,製剤中のオキサリプラティヌム含量が当初含量の少なくとも95%であり,該水溶液が澄明,無色,沈殿不含有のままであ 不定である(相違点1)。 ⒝ 本件発明は「医薬的に許容される期間の貯蔵後,製剤中のオキサリプラティヌム含量が当初含量の少なくとも95%であり,該水溶液が澄明,無色,沈殿不含有のままである」が,乙47発明がこのような特性を備えるかについては記載がない(相違点2)。 ⒞ 本件発明は「オキサリプラティヌムの医薬的に安定な製剤」であるが,乙47発明が安定であるかについて記載がない(相違点3)。 c(a) 相違点1について乙47には,オキサリプラチンの濃度,すなわち相違点1に係る構成が設計事項であることが示されている。加えて,オキサリプラチンの水に対する溶解度は7.9mg/mlであり,水中で大変安定である(乙6)。また,「1ないし5mg/ml」の範囲に含まれる濃度のオキサリプラチン水溶液が実際に注射液として使用されていた(乙10,48参照)。さらに,「1ないし5mg/ml」の濃度の上限値及び下限値に臨界的意義は存在しない。そうすると,注射用のオキサリプラチン水溶液である乙47発明において,オキサリプラチンの濃度を「1ないし5mg/ml」の範囲内とすることは,当業者が容易になし得ることにすぎない。 ⒝ 相違点2及び3について 相違点1の発明の構成が想到容易である以上,「濃度が1ないし5mg/mlでpHが4.5ないし6のオキサリプラティヌムの水溶液」という発明の構成を備えたものの特性である相違点2,3に係る効果を特許請求の範囲に文言として記載したからといって,本件発明に進歩性が生じることにはならない。 また,乙47自体に,酸性水溶液中でオキサリプラチンが安定であることが示唆されており,効果の予測可能性を裏付けている。 (ウ) 無効理由3(乙7に基づく進歩性欠如) ならない。 また,乙47自体に,酸性水溶液中でオキサリプラチンが安定であることが示唆されており,効果の予測可能性を裏付けている。 (ウ) 無効理由3(乙7に基づく進歩性欠如)a DrugsoftheFuture(14巻6号529頁)(1989年)掲載の喜谷著「オキサリプラチン」と題する論文(乙7)には,「オキサリプラティヌムの水溶液からなり,腸管外経路投与用のオキサリプラティヌムの製剤」が記載されている。 b 本件発明と乙7記載の発明(以下「乙7発明」という。)を対比すると,両者は,以下の点で相違する。 (a) 本件発明のオキサリプラティヌムの水溶液は濃度が1~5mg/ml,pHが4.5~6であるが,乙7発明の水溶液についてはこれらの点が明記されていない(相違点1)。 ⒝ 本件発明は「医薬的に許容される期間の貯蔵後,製剤中のオキサリプラティヌム含量が当初含量の少なくとも95%であり,該水溶液が澄明,無色,沈殿不含有のままである」が,乙7発明がこのような特性を備えるかについては記載がない(相違点2)。 ⒞ 本件発明は「オキサリプラティヌムの医薬的に安定な製剤」であるが,乙7発明が本件発明でいう「安定」であるかは記載がない(相違点3)。 c(a) 相違点1について水のpHは一般に5~6程度の値である(乙16,17,35, 36参照)。そして,オキサリプラチンを他の成分を添加せずに普通の方法で水に溶解した水溶液のpHは,本件発明と重複するpH「5~6」程度の値となる。 さらに,本件発明のpH「4.5~6」という上限値及び下限値に,何ら臨界的意義は存在しない。 また,本件発明におけるオキサリプラチンの濃度 「5~6」程度の値となる。 さらに,本件発明のpH「4.5~6」という上限値及び下限値に,何ら臨界的意義は存在しない。 また,本件発明におけるオキサリプラチンの濃度に技術的意義はなく,濃度は設計事項にすぎない(乙10,11参照)。 以上からすれば,乙7発明の水溶液において,相違点1に係るpH「4.5~6」及び濃度「1~5mg/ml」の構成とすることは,当業者が容易に想到し得たものである。 ⒝ 相違点2及び3について相違点2及び3は「濃度が1~5mg/ml」で「pHが4.5~6」の「オキサリプラティヌムの水溶液」という構成(構成要件A)が備える特性のことを,効果として特許請求の範囲に記載したものであるから,構成要件Aの構成を備えるものは,相違点2,3に係る特性(効果)も備えることになる。そして,相違点1に係る構成が容易想到である以上,相違点2,3に係る構成も容易想到というべきである。 d オキサリプラチン水溶液のpHがオキサリプラチンの純度に影響される可能性はあるところ,仮に乙7に記載されたオキサリプラティヌムの純度が不明であっても,乙7発明と,純度の高いオキサリプラティヌムを得る方法が開示された乙14(特開平6-21883号公報)記載の発明とを組み合わせることによっても,オキサリプラティヌムの水溶液のpHを「4.5~6」とすることは容易であり,ひいては本件発明は容易想到である。 (エ) 無効理由4(明確性要件違反1) 仮に構成要件B①の「医薬的に許容される期間」について,製造から5年間を意味すると解さない場合,文言自体からその意味は不明である。また,構成要件Dの「医薬的に安定」についても,「オキサリプラティヌムの水溶液の比旋光度が+74.5°な る期間」について,製造から5年間を意味すると解さない場合,文言自体からその意味は不明である。また,構成要件Dの「医薬的に安定」についても,「オキサリプラティヌムの水溶液の比旋光度が+74.5°ないし+78.0°であること」を意味すると解さない場合には,その文言自体からその意味は不明であり,いずれにしろ,本件発明は明確性要件を充たしていない。 (オ) 無効理由5(明確性要件違反2)原告は,本件発明における「オキサリプラティヌムの水溶液」につき,オキサリプラチン以外に乳糖水和物のような第3成分を含んでよいかどうかにつき矛盾した主張をしており,第3成分の含有が許容されるかどうかは不明確であって,本件発明は,いわゆる明確性要件を充たさず,無効である。 (カ) 無効理由6(乙48に基づく進歩性欠如)a CancerResearch(49巻3362~3368頁)(1989年)(乙48)には,「濃度が1ないし5mg/mlのオキサリプラティヌムの水溶液からなる,腸管外経路投与用のオキサリプラティヌムの製剤」が記載されている。 b 本件発明と乙48記載の発明(以下「乙48発明」という。)とを対比すると,両発明は以下の点で相違する。 (a) 本件発明のオキサリプラティヌムの水溶液はpHが4.5~6であるが,乙48発明の水溶液についてはこの点が明記されていない(相違点1)。 ⒝ 本件発明は「医薬的に許容される期間の貯蔵後,製剤中のオキサリプラティヌム含量が当初含量の少なくとも95%であり,該水溶液が澄明,無色,沈殿不含有のままである」が,乙48発明がこの ような特性を備えるかについては記載がない(相違点2)。 ⒞ 本件発明は「オキサリプラティヌムの医薬的に 該水溶液が澄明,無色,沈殿不含有のままである」が,乙48発明がこの ような特性を備えるかについては記載がない(相違点2)。 ⒞ 本件発明は「オキサリプラティヌムの医薬的に安定な製剤」であるが,乙48発明が本件発明でいう「安定」であるかについては記載がない(相違点3)。 c(a) 相違点1について一般的な常識として,大気中の二酸化炭素の溶解等の影響により,水のpHはおよそ5~6の弱酸性である。また,オキサリプラチンは水中で解離せず,水溶液のpHに影響するものではないため,オキサリプラチンの水溶液のpHは,水のpHによって決まる。 そして,オキサリプラチンを他の成分を添加せずに普通の方法で水に溶解した水溶液のpHは,本件発明と重複するpH「5~6」程度の値となる。 また,「4.5~6」のpHの上限値及び下限値は,オキサリプラティヌムの水溶液の安定性という本件発明が標榜する効果に関して何ら臨界的意義を有しない。 以上からすれば,乙48発明において,pHを4.5~6と規定することは,当業者が容易に想到し得たものである。 ⒝ 相違点2及び3について相違点2及び3は,構成要件Aの構成を有するオキサリプラティヌムの水溶液が備える特性を,効果として特許請求の範囲に記載したものであるから,構成要件Aの構成を備えるものは,相違点2,3に係る特性(効果)も備えることになる。 そして,「濃度が1ないし5mg/mlでpHが4.5ないし6のオキサリプラティヌムの水溶液」という構成要件Aに係る構成が想到容易なものであるから,相違点2,3に係る構成も同様に容易というべきである。 d 仮に乙48に記載されたオキサリプラティヌムの純度が ィヌムの水溶液」という構成要件Aに係る構成が想到容易なものであるから,相違点2,3に係る構成も同様に容易というべきである。 d 仮に乙48に記載されたオキサリプラティヌムの純度が不明であったとしても,この点については,純度の高いオキサリプラティヌム(乙14)を採用することで,オキサリプラティヌムの水溶液のpHを「4.5~6」とすることは容易である。 イ原告の主張(ア) 無効理由1(乙10に基づく進歩性欠如)に対してa 乙10で示されるような「凍結乾燥物」を用いていたのは,オキサリプラチンを水溶液の状態で保存できなかったためである。オキサリプラチンを水溶液の状態で保存することを可能にした本件発明の技術的意義は非常に高いものである。 b 乙10は,そもそもオキサリプラチンの「凍結乾燥物」に関する文献であり,被告が挙げる相違点のほかにも「オキサリプラティヌムの水溶液からな」る製剤ではない点で,本件発明と根本的に相違している。 c(a) 相違点1について被告は,水のpHが弱酸性である旨の証拠を提出するが,オキサリプラチン水溶液(2mg/ml)のpHについては6.7又は6. 6のものが示されており(甲14及び15),本件発明の範囲内ではない。また,同じ2mg/mlのオキサリプラチンを水に溶解させても,オキサリプラチンの純度,水質等が影響してpHが変わることは証拠上明らかである。 このほか,本件発明で特定されたpH4.5ないし6という微酸性領域の値を採用することが容易であったとはいえず,このように限定された数値範囲において顕著な作用効果が示されている。 また,そもそも多数存在するパラメータの中からpHに着目すること自体が困難である。 ⒝ 相違点2及び3について本 うに限定された数値範囲において顕著な作用効果が示されている。 また,そもそも多数存在するパラメータの中からpHに着目すること自体が困難である。 ⒝ 相違点2及び3について本件特許の優先日当時知られていたのは,投与直前に水に溶かして再構成する「凍結乾燥物」であるオキサリプラチンを濃度3mg/ml程度で水に溶かすことにすぎず,その濃度は医薬的な安定性を全く考慮していないものである。したがって,医薬的に安定なオキサリプラチン水溶液を得るために,オキサリプラチンの濃度を「1ないし5mg/ml」とする動機付けや示唆は存在しない。 そして,乙10に開示されたオキサリプラチンは「凍結乾燥物」であることから,水溶液としての安定性についての開示は乙10には皆無である。 また,シスプラチンとオキサリプラチンの分子構造は全く異なり,カルボプラチンとオキサリプラチンの分子構造も全く異なる。このため,シスプラチン水溶液やカルボプラチン水溶液が知られていたとしても,オキサリプラチン水溶液が安定であるということにはならない。 このほか,乙9に開示されているのは,オキサリプラチン誘導体について「pH3-7では検討した8時間までに有意な分解はみられなかった」という事実であり,1日の安定性すら確認されていない。 (イ) 無効理由2(乙47に基づく進歩性欠如)に対してa 乙47で示されるのは,乙10と同様に「凍結乾燥物」のオキサリプラチンであり,オキサリプラチンを水溶液の状態で保存することを可能にした本件発明の技術的意義は非常に高い。 b 乙47は,そもそもオキサリプラチンの「凍結乾燥物」に関する文献であり,被告が挙げる相違点のほかにも「オキサリプラティヌムの水溶液からな」る製剤ではない点で,本件 明の技術的意義は非常に高い。 b 乙47は,そもそもオキサリプラチンの「凍結乾燥物」に関する文献であり,被告が挙げる相違点のほかにも「オキサリプラティヌムの水溶液からな」る製剤ではない点で,本件発明と相違している。 また,乙47において再構成される溶液のpHの好適な範囲は「3. 2~4.3」であり,本件発明のpHの範囲と異なる範囲が好ましいとされている。 c(a) 相違点1について「凍結乾燥物」の場合には,「投与直前」に水に溶かして再構成するため,乙10及び乙48で濃度3mg/ml程度のオキサリプラティヌムの水溶液が開示されていたとしても,その濃度は医薬的な安定性を全く考慮していないものである。 また,濃度について何ら開示されていない乙47に基づいて,医薬的に安定なオキサリプラチン水溶液を得るために多数存在するパラメータの中から濃度に着目すること自体が困難である。 このほか,本件発明は,被告の挙げた文献(乙47,10,48)の延長上にあるものではなく,「1ないし5mg/ml」という範囲ではそもそも臨界的意義が必要とされない。 ⒝ 相違点2及び3について乙47に開示されたオキサリプラチンは「凍結乾燥物」であることから,水溶液としての安定性についての開示は乙47には皆無である。 また,乙6には,「1週間」程度の安定性しか有しないオキサリプラチンが開示されているにすぎない。 (ウ) 無効理由3(乙7に基づく進歩性欠如)に対してa(a) 相違点1について多数存在するパラメータの中からpHに着目すること自体が困難である。また,甲14及び15では,オキサリプラチンの水溶液のpHが6.6~6.7になること,その場合にはオキサリプラチン水溶液の安定性が良好でないことが示されてお からpHに着目すること自体が困難である。また,甲14及び15では,オキサリプラチンの水溶液のpHが6.6~6.7になること,その場合にはオキサリプラチン水溶液の安定性が良好でないことが示されており,「オキサリプラ チンを添加物なしで注射溶液に溶解すれば,そのpHは自ずと本件発明と重複する範囲に収まる」旨の被告の主張は失当である。 また,上記同様,多数存在するパラメータの中から濃度に着目すること自体が困難である。乙10及び11は,ともに凍結乾燥物に関するものであり,医薬的な安定性を全く考慮していない濃度であるから,当業者はこれらで開示されている濃度を参酌しない。 以上からして,乙7発明からpH「4.5~6」及び濃度「1~5mg/ml」の構成とすることを,当業者は到底容易に想到できない。 ⒝ 相違点2及び3について乙10及び11の開示からして,本件特許の優先日当時の技術常識としては,3mg/ml程度の濃度のオキサリプラチンの水溶液が医薬的に安定なものでないことは明らかである。 このほか,オキサリプラチン水溶液の安定性に関しては,無効理由1及び2と同様である。 b オキサリプラチン水溶液のpHは,同水溶液の濃度だけでなく,オキサリプラチンの純度,水質,容器のガラスのタイプ,栓の性質等の影響を受けるものである。 (エ) 無効理由4(明確性要件違反1)に対してa 構成要件B①の「医薬的に許容される期間」とは,「当業界で一般的に要求される期間」を意味し,その一例として「室温または冷蔵庫の温度で3ないし5年に対応する」とされているにすぎない。 被告自身や他のジェネリックメーカーが行った長期保存試験の期間からしても,「24か月保存期間」が「当業界で」「要求される期間」に含まれることは 5年に対応する」とされているにすぎない。 被告自身や他のジェネリックメーカーが行った長期保存試験の期間からしても,「24か月保存期間」が「当業界で」「要求される期間」に含まれることは明らかである。 b 構成要件Dの「医薬的に安定」についても,「オキサリプラティヌ ムの比旋光度の安定性,すなわち溶液の光学純度(異性化がないこと)を意味するものと理解される」ものであり,「+74.5°ないし+78.0°の範囲にある」というのは一例にすぎず,その意味は明確である。 現に,被告を含むジェネリックメーカーでは,「2年間安定である」旨の記載を添付文書で行っており,当業者が「医薬的に安定」との意味を理解していることは明らかである。 c 以上のとおり,本件発明の記載は明確である。 (オ) 無効理由5(明確性要件違反2)に対して「オキサリプラティヌムの水溶液からなり」との文言が,水及びオキサリプラチン以外の第3成分を含んでもよいことを意味するのは明白であり,被告の主張はその前提において誤りである。 (カ) 無効理由6(乙48発明に基づく進歩性欠如)に対してa 乙48は,本件特許に対する無効審判において提出された文献であり,乙48に対して本件発明が進歩性を有することは既に特許庁で判断され確定している。 そして,無効審判が成り立たない旨の審決がされて確定した場合には,侵害訴訟において,同一の事実及び同一の証拠に基づいて,当該特許に関する無効の抗弁を主張することは許されない。 b(a) 相違点1について乙48には,pHについての記載は存在せず,ここから何の動機付けもなくpHを読み出すことはできない。仮にpHを読み出すとすると,乙48で静脈注 b(a) 相違点1について乙48には,pHについての記載は存在せず,ここから何の動機付けもなくpHを読み出すことはできない。仮にpHを読み出すとすると,乙48で静脈注射が行われていることからすれば,pHが「7.4又は7.2~8」からなり,しかも緩衝剤が入った溶液であって,本件発明におけるpHとは異なる。 ⒝ 相違点2及び3について 乙48で開示されているのは3.4mg/mlのオキサリプラチン水溶液にすぎず,試験当日に,オキサリプラティヌムの原体に蒸留水を加えて溶液を調整し,マウスに投与するものにすぎず,オキサリプラチンの水溶液を長期保存することは全く考えられていない。 ⒞ 以上のとおり,乙48には,少なくとも相違点1ないし3についての開示は一切なく,当業者が乙48発明から本件発明を想定することはない。 c このほか,乙48には,オキサリプラチンの純度に関する記載は全くない。 (4) 争点(4)(本件延長登録に無効理由があるか)についてア被告の主張(ア) 延長登録無効理由(特許法125条の2第1項1号)a 本件延長登録1~7について(本件処分に先行する処分によって既に実施可能であったこと)(a) オキサリプラチン製剤に関しては,特許法67条2項にいう「政令で定める処分」が複数存在しており,本件処分以前にも,平成17年3月18日付けで行われたエルプラット注射用100mg(凍結乾燥剤)(新有効成分)に係る輸入承認(以下「先行処分1」という。),平成20年8月26日付けで行われたエルプラット注射用50mg(凍結乾燥剤)(剤型追加)に係る製造販売承認(以下「先行処分2」という。)があり,その効能効果はいずれも「治癒切除不能な進行・再発の結腸・直腸癌」( 26日付けで行われたエルプラット注射用50mg(凍結乾燥剤)(剤型追加)に係る製造販売承認(以下「先行処分2」という。)があり,その効能効果はいずれも「治癒切除不能な進行・再発の結腸・直腸癌」(用途A)である。 そして,出願理由処分と先行処分とがされている場合に,延長登録出願に係る特許発明の実施に出願理由処分を受けることが必要であったと認められるか否かの判断においては,先行処分と後行処分とを形式的に対比するのではなく,「延長登録出願に係る特許発明 の種類や対象」に照らして実質的に判断することになる。 本件発明の種類や対象に照らすと,医薬品医療機器等法14条2項3号柱書が定める「名称,成分,分量,用法,用量,効能,効果,副作用その他の品質,有効性及び安全性に関する事項」のうち,いずれの点が「医薬品としての実質的同一性に直接関わることとなる審査事項」といえるのかを検討する必要がある。 これらのうち,「名称」は無関係であるが,「効能,効果,副作用その他の品質,有効性及び安全性に関する事項」も本件発明の種類や対象に照らすと同一性に影響を与えない。また,「成分」「分量」「用法」「用量」のうち,「成分」については,原告の主張によれば「乳糖水和物」の有無は同一性に影響を与えず,「注射用水」の有無も先行処分において実際に使用されていたのであるから,ヒトに投与される段階での医薬品としての実質的同一性に影響を与えない。 そして,「成分」のうちの有効成分と「分量」,「用法」,「用量」の点を比較すると,先行処分2と本件処分1は,これらの事項全てで一致しており,かつ本件発明は医薬品であるというだけで特定の疾患用のものではないから,「分量」,「用法」,「用量」についても「先行処分の対象となった医薬品の製造販売が,出願理由処分の の事項全てで一致しており,かつ本件発明は医薬品であるというだけで特定の疾患用のものではないから,「分量」,「用法」,「用量」についても「先行処分の対象となった医薬品の製造販売が,出願理由処分の対象となった医薬品の製造販売を包含する」と認められる。 したがって,本件発明の種類や対象に照らせば,本件処分1に係るオキサリプラチンを含有する製剤の製造販売の実施は,先行処分2によって既に可能となっており,本件処分1を受けることが必要であったとはいえない。このように,本件延長登録1は,本件発明の実施についての政令で定める処分を受けることが必要であったとは認められない(特許法67条の3第1項1号)という無効理由が ある(同法125条の2第1項1号)。 ⒝ 本件延長登録2及び4は本件処分2を,本件延長登録3は本件処分1を,それぞれ理由としてされたものであるところ,これらについても上記(a)同様であり,本件発明の種類や対象に照らせば,本件処分2に係るオキサリプラチンを含有する製剤の実施は,先行処分1によって既に可能となっており,本件処分2を受けることが必要であったとはいえない。 ⒞ 本件延長登録5は本件処分4を,本件延長登録6は本件処分3を,本件延長登録7は本件処分5をそれぞれ理由としてされたものであるが,本件処分5~7に係る製剤は,本件処分1及び2に係る製剤と実質的に同一性を有する医薬であるから,上記(a)⒝同様,本件処分5~7に係る製剤の実施は,先行処分1又は2によって既に可能となっていたものである。したがって,これらの製剤に係る実施に本件処分3ないし5を受けることが必要であったとはいえない。 b 本件延長登録5~7について(本件処分1及び2によって既に実施可能であったこと) 。したがって,これらの製剤に係る実施に本件処分3ないし5を受けることが必要であったとはいえない。 b 本件延長登録5~7について(本件処分1及び2によって既に実施可能であったこと)本件延長登録5~7は,それぞれ本件処分3~5を理由としてされたものであるところ,これらの処分に先行して本件処分1及び2がされている。 そして,本件処分1及び2の対象とされた医薬品と本件処分3~5の対象とされた医薬品とは,「医薬」として全く同一のものであって,「成分」,「分量」,「用法」及び「用量」において一致している。 なお,本件処分5の対象とされた医薬品だけは,「200mg」という点で分量が本件処分1及び2の対象医薬品と異なるが,本件特許が単にオキサリプラチンの水溶液からなる製剤を発明の対象としていることからすれば,分量の違いは同一性に影響を与えるような相違点で はない。 そうすると,本件発明の種類や対象に照らせば,本件延長登録5~7に係る医薬品についての特許発明の実施は,先行する本件処分1及び2によって許されており,その実施のために政令で定める処分を受けることが必要であったとはいえないから,本件延長登録5~7は,特許法125条の2第1項1号の規定により,無効審判により無効とされるべきである。 (イ) 延長登録無効理由(特許法125条の2第1項3号)a 本件延長登録1~4についてそもそも延長登録出願制度は,権利者が実施について真摯な意図及び能力を有しながら,その特許発明の実施をするために必要な「政令で定める処分」を得る必要があったために実施することができなかった期間を補償しようとするもので,権利者が,承認の申請を遅らせることによって,自己の都合に合わせて権利期間を延長することを認める制度ではない。 」を得る必要があったために実施することができなかった期間を補償しようとするもので,権利者が,承認の申請を遅らせることによって,自己の都合に合わせて権利期間を延長することを認める制度ではない。 ところで,特許法67条の3第1項1号の拒絶要件は,「その特許発明を実施するために,政令で定める処分を受けることが必要であったとは認められないこと」であり,この文言は「特許発明を実施する意思及び能力があってもなお,特許発明を実施することができなかった」点を反映していないため,上記のような期間の有無については,同項3号の規定によって律せられることになる。 そして,「エルプラット点滴静注液」についての承認申請が,凍結乾燥剤の承認申請よりも4年半遅れた平成20年8月となったのは,権利者側の都合によるものであり,その承認申請を遅らせた期間を「実施することができなかった期間」に含めるのは正しくない。 すなわち,これらの延長登録において,いずれも物について特定さ れた用途を「結腸癌における術後補助化学療法」(用途B)としているが,これは,2005年(平成17年)2月に既に米国で承認されていたから,平成20年よりも早い時期に承認申請が可能であった。 また,本件延長登録1,3,4では,処分を受けることが必要であるために実施をすることができなかった期間を,平成17年2月28日の治験計画書の届出日から起算して4年5月22日としているが,当該治験計画は,本件延長登録1に関しては用途から削除された「治癒切除不能な進行・再発の結腸・直腸癌」(用途A)に係るものであるから,その治験計画書届出日をもって同延長登録に係る期間計算の始期とすることは誤りである。 また,本件延長登録3,4では,物について特定された用途として用途Aも記載されているが, に係るものであるから,その治験計画書届出日をもって同延長登録に係る期間計算の始期とすることは誤りである。 また,本件延長登録3,4では,物について特定された用途として用途Aも記載されているが,同用途については,1998年(平成10年)代にフランスで承認されていたから,我が国でも平成20年よりも前に当該用途について承認申請が可能であった。さらに,同用途については,平成16年には凍結乾燥剤について承認申請がされ,その1年後には承認が得られていたから,水溶液製剤の承認を得ることは,より早期に,かつ確実に可能であった。 このように,延長登録制度の本来の趣旨及びオキサリプラチンの承認に係る事実関係からすれば,本件特許に係る製剤(水溶性製剤)については,①処分を受けるために実施ができなかった期間(実施の意図及び能力があったにもかかわらず,当該医薬品についての特許発明の実施ができなかった期間)は,実質上存在しなかったというべきであるから,本件延長登録1~4は,特許法67条2項の要件を充たしておらず,同法67条の3第1項3号に該当する無効理由があるというべきである。 また,②仮に延長期間算定の始期を承認申請の日と認めるとしても, 4年5月の延長期間を認めた本件延長登録1,3,4については,少なくとも「処分を受けるために実施ができなかった期間」(承認申請から承認までの期間11月21日)を超えた違法があるから,特許法67条の3第1項3号違反の無効理由がある。 b 本件延長登録5~7について本件延長登録5~7において,延長期間を算定する始期とされたのは,本件処分3~5に係る承認審査における膵癌についての治験計画届出日である平成23年2月28日である。しかし,海外では膵癌の第2相試験が2000年(平成12 いて,延長期間を算定する始期とされたのは,本件処分3~5に係る承認審査における膵癌についての治験計画届出日である平成23年2月28日である。しかし,海外では膵癌の第2相試験が2000年(平成12年)から開始されており,我が国においても,権利者に実施の意図があれば,膵癌を効能・効果欄に記載した承認申請はもっと早くできたはずであるから,期間計算の始期を上記の治験開始日として延長期間を計算するのは誤りである。また,仮にその期間をゼロではないと認めるとしても,延長期間については,現実の承認申請日(平成25年5月31日)を始期として,当該日から承認がされた日までとして計算すべきである。 このように,本件延長登録5~7についても,実施ができなかった期間を超える期間につき延長を認めた点において,特許法67条の3第1項3号違反があるから,同法125条の2第1項3号の規定により,無効とされるべきである。 イ原告の主張(ア) 延長登録無効理由(特許法125条の2第1項1号)についてa 本件延長登録1~7について(先行処分によって実施可能ではなかったこと)先行処分2はオキサリプラチンの凍結乾燥注射剤に関する処分であるのに対して,本件処分1はオキサリプラチンの水性注射剤に関する処分である。このため,本件処分1は,先行処分2の対象となった医 薬品とは別剤型(別品目)であるから,剤型追加として,医薬品医療機器等法14条1項に係る承認を受けなければ実施することはできない。したがって,被告の主張する延長登録無効理由が存在しないことは明らかである。 その他の本件処分に関しても,上記同様の理由により,被告が主張する延長登録無効理由は存在しない。 なお,延長された特許権の効力と,特許権の延長登録が認められる ことは明らかである。 その他の本件処分に関しても,上記同様の理由により,被告が主張する延長登録無効理由は存在しない。 なお,延長された特許権の効力と,特許権の延長登録が認められるかという場面は全く異なるものである。 また,アバスチン最高裁判決からしても,「効能,効果」が医薬品としての実質的同一性に影響を与えることは明らかである。 b 本件延長登録5~7について(本件処分1及び2によって実施可能ではなかったこと)本件処分1及び2と本件処分3ないし5とは「効能及び効果」について異なっており,そうである以上,当然ながら「先行処分の対象となった医薬品の製造販売が,出願理由処分の対象となった医薬品の製造販売を包含すると認められる」ことにはなり得ない。 以上からすれば,本件処分1及び2に照らして,本件処分3ないし5が無効となることはない。 (イ) 延長登録無効理由(特許法125条の2第1項3号)についてa 本件延長登録1~4についてLOHP-PI/II-03試験は,進行・再発結腸・直腸癌患者における国内で実施された安全性試験であり,本件処分の審査において評価の対象となった臨床試験の中で,国内で実施された唯一のものである。そして,このLOHP-PI/II-03試験は,処分を受けるために必要不可欠な試験であり,かつ同処分を受けることに密接に関係している試験である。 また,オキサリプラチンに関する治験は,厚生労働省の指示の下に行 われており,「その試験の遂行に当たって方法,内容等について行政庁が定めた基準に沿」うものであることが明らかである。 したがって,審査基準に照らしても,治験計画書の届出日である平成17年2月28日が,処分を受けることが必要であるために実施をすることができ た基準に沿」うものであることが明らかである。 したがって,審査基準に照らしても,治験計画書の届出日である平成17年2月28日が,処分を受けることが必要であるために実施をすることができなかった期間の起算日となるのは当然である。 また,株式会社ヤクルト本社が原告から開発権を取得したのは平成9年であり,第Ⅰ相臨床試験を開始したのは平成11年であり,進行・再発結腸・直腸癌を対象にした第Ⅱ相臨床試験を実施したのは平成13年である。その結果を受けて,同社によってオキサリプラチンの凍結乾燥剤についての輸入承認申請が平成16年に行われており,凍結乾燥剤についての輸入承認申請が同年に行われたことは何ら不自然ではない。 そして,オキサリプラチンの水溶液製剤の国内での承認申請を行うに当たっては,製造所の製造体制を含めた日本国内における各種規制への対応や,国内向け製剤の国内規制に沿った安定性試験等の実施を要するところ,平成17年に承認が取得されたのであるから,水溶液製剤について平成20年に承認申請が行われたことも何ら不自然ではない。 b 本件延長登録5~7について海外で第Ⅱ相試験が開始されていたとしても,承認申請を行うに至る臨床成績が得られるか否かは第Ⅲ相試験の結果が得られて初めて判断できるものである。2010年(平成22年)6月開催の米国臨床腫瘍学会において,FOLFIRINOXが既存の標準治療であるゲムシタビン療法より優れるとの第Ⅱ/Ⅲ相試験の結果が初めて公表され,その結果を受けて,株式会社ヤクルト本社は,FOLFIRINOXによって日本におけるオキサリプラチンの膵癌に対する開発に着手したものである。 原告や株式会社ヤクルト本社が意図的に治験開始日を遅らせたかのような被告の主張は RINOXによって日本におけるオキサリプラチンの膵癌に対する開発に着手したものである。 原告や株式会社ヤクルト本社が意図的に治験開始日を遅らせたかのような被告の主張は,客観的な事実を無視したものであり,失当である。 第3 当裁判所の判断事案に鑑み,争点(2)から判断する。 1 争点(2)(存続期間延長後の本件特許権の効力は被告製品に及ぶか)について(1) 存続期間が延長された特許権の効力について特許権の存続期間の延長登録の制度は,特許法67条2項の「安全性の確保等を目的とする法律の規定による許可その他の処分であつて当該処分の目的,手続等からみて当該処分を的確に行うには相当の期間を要するものとして政令で定めるもの」(以下「政令処分」という。)を受けることが必要であったために特許発明の実施をすることができなかった期間を回復することを目的とするものであり(最高裁平成27年11月17日第三小法廷判決・民集69巻7号1912頁参照),特許法施行令2条は,医薬品医療機器等法の承認を,上記政令処分の一つとして定めている。 そして,特許法68条の2は,特許権の存続期間が延長された場合の当該特許権の効力が,その特許発明の全範囲に及ぶのではなく,「その延長登録の理由となつた第67条第2項の政令で定める処分の対象となつた物(その処分においてその物の使用される特定の用途が定められている場合にあつては,当該用途に使用されるその物)」(以下「政令処分対象物」という。)についての当該特許発明の実施にのみ及ぶ旨を定めている。 もっとも,延長登録制度の上記目的が特許権者の研究開発のためのインセンティブを高めるためのものであることに鑑みれば,侵害訴訟における対象物件に,当該政令処分対象物と相違する点があっ いる。 もっとも,延長登録制度の上記目的が特許権者の研究開発のためのインセンティブを高めるためのものであることに鑑みれば,侵害訴訟における対象物件に,当該政令処分対象物と相違する点があっても,当該対象物件についての製造販売等の時点において,その相違が周知技術・慣用技術の付加,削 除,転換等であって,新たな効果を奏するものではないと認められるなど,当該対象物件が当該政令処分対象物の均等物ないしそれと実質的に同一と評価される物といえる場合には,延長された特許権の効力は当該対象物件についての実施行為にも及ぶと解すべきである。 そして,本件処分は,いずれも医薬品医療機器等法所定の医薬品に係る承認であるが,同法に基づく医薬品の製造販売の承認の審査事項は,医薬品の「名称,成分,分量,用法,用量,効能,効果,副作用その他の品質,有効性及び安全性に関する事項」(同法14条2項3号柱書)であるところ,医薬品の成分を対象とする物の発明について,医薬品としての実質的同一性に直接関わる審査事項は,「成分,分量,用法,用量,効能,効果」である(上記最高裁判決参照)。 したがって,医薬品の成分を対象とする物の発明に関し,特許法68条の2に基づき存続期間が延長された特許権の効力は,「物」に係るものとして,「成分(有効成分に限らない。)及び分量」(もっとも,「分量」については,延長された特許権の効力を制限する要素とは解されない。)によって特定され,かつ,「用途」に係るものとして,「用法,用量」及び「効能,効果」によって特定された当該特許発明の実施の範囲で効力が及ぶものと解するのが相当であり,さらに,前記のとおり,当該政令処分対象物の均等物やこれと実質的に同一と評価される物に対しても同効力が及ぶものと解すべきである。 (2) 明の実施の範囲で効力が及ぶものと解するのが相当であり,さらに,前記のとおり,当該政令処分対象物の均等物やこれと実質的に同一と評価される物に対しても同効力が及ぶものと解すべきである。 (2) 政令処分対象物該当性について前記前提事実(3)のとおり,本件処分1及び4の対象となった医薬品はエルプラット点滴静注液50mgであり,本件処分2及び3の対象となった医薬品はエルプラット点滴静注液100mgであり,本件処分5の対象となった医薬品はエルプラット点滴静注液200mgであるところ,本件処分の対象となったエルプラット点滴静注液50mg,100mg,200mgは, いずれも分量が異なるだけで,成分はオキサリプラチンと注射用水のみ(不純物を除く。)で共通し,添加物はない。 他方で,被告製品は,いずれも成分としてオキサリプラチン以外に添加物として乳糖水和物を含むものであって(前記前提事実(6)ウ),成分に違いがあるから,本件処分の対象となった政令処分対象物には当たらない。 この点に関し,原告は,被告製品はいずれもオキサリプラチンを唯一の有効成分としているから,本件処分の対象となった物に当たり,延長後の本件特許の効力が被告製品にも及ぶ旨主張する。しかし,政令処分が医薬品医療機器等法所定の医薬品に係る承認である場合,当該政令処分を受けることが必要であったために実施することができなかった政令処分対象物を特定するための事項としての「物」に係る「成分」を有効成分に限るべき根拠はなく,原告の上記解釈は採用できない。 (3) 均等物該当性についてア前記(1)のとおり,本件において,被告製品が,本件処分の対象となった物の均等物ないし実質的に同一と評価される物に該当するというためには,本件処分の対象となった物に乳糖水和物を添加 性についてア前記(1)のとおり,本件において,被告製品が,本件処分の対象となった物の均等物ないし実質的に同一と評価される物に該当するというためには,本件処分の対象となった物に乳糖水和物を添加することが周知・慣用技術の付加等にすぎず,新たな効果を奏するものではないといえることが必要である。 この点に関し,原告は,証拠(甲41,50~54)を挙げて,オキサリプラチンに乳糖水和物を添加することが周知・慣用技術であった旨主張する。 確かに,医薬品添加物事典(甲41)には,「乳糖水和物」の用途として「安定(化)剤」,投与経路・最大使用量として「静脈内注射1250mg」と記載されている。また,甲50~54(枝番を含む)には,オキサリプラチンの水溶液に乳糖ないし乳糖水和物を添加することが記載されている。 イしかしながら,本件発明は,「オキサリプラティヌムの医薬的に安定な製剤」に関するものであるところ,本件特許に係る明細書(甲2)の【発明の詳細な説明】欄に「オキサリプラティヌム(国際一般名)は,…1978年に,ジアミノシクロヘキサン誘導体類(dach-白金)の混合物から製造した光学異性体の一つ…である。」「…オキサリプラティヌムは,種々の型の癌…の治療的処置に使用し得る細胞増殖抑制性抗新生物薬である」「現在,オキサリプラティヌムは,…凍結乾燥物として,注射用水または等張性5%ぶどう糖溶液と共にバイアルに入れて,前臨床および臨床試験用に入手でき,投与は注入により静脈内に行われる。」「…製品の誤用のあらゆる危険性を避け,…直ぐ使用でき,さらに,使用前には,承認された基準に従って許容可能な期間医薬的に安定なままであり,凍結乾燥より容易且つ安価に製造でき,再構成した凍結乾燥物と同等な化学的純度(異性化の不存在)および治 ぐ使用でき,さらに,使用前には,承認された基準に従って許容可能な期間医薬的に安定なままであり,凍結乾燥より容易且つ安価に製造でき,再構成した凍結乾燥物と同等な化学的純度(異性化の不存在)および治療活性を示す,オキサリプラティヌム注射液を得るための研究が行われた。これが,この発明の目的である。」と記載されているように,オキサリプラティヌム自体は,本件特許の優先日時点(平成6年8月8日)で既に知られた物質であって,これを有効成分として制癌剤に用いることも,同優先日前に公知であったものと認められる。 また,上記事実及び特許請求の範囲の記載(請求項1に係るもの)からすれば,本件発明は,医薬品の有効成分(オキサリプラティヌム)のみを特徴的部分とする発明ではなく,これが安定な水溶液の状態で提供されることを特徴とする発明であると認められる。 ウそして,前記前提事実(7)のとおり,被告は,オキサリプラチンの水溶液に,一定の特徴を有する乳糖又はその水和物を添加することを特徴とする製造方法(別件発明)について特許出願し,特許権を取得しているところ,証拠(乙87の5,乙92)によれば,被告は,いずれも別件発明所定の方法で被告製品を製造している(すなわち別件発明所定の条件を充た す乳糖水和物を添加している)ことが認められる。 そうであるところ,別件特許の明細書(乙87の4)によれば,同特許所定の製造方法は,オキサリプラチンの分解によって生成するジアクオジアミノシクロヘキサン白金二量体の含有量の増加を抑制させるだけでなく,経時的にこれを減少させ,ひいてはオキサリプラチンを含む水性医薬組成物の安定性を向上させるとの効果を奏するものとされており(段落【0073】【0074】参照),証拠(乙82の1,88の1)によれば,被告製品に含まれる せ,ひいてはオキサリプラチンを含む水性医薬組成物の安定性を向上させるとの効果を奏するものとされており(段落【0073】【0074】参照),証拠(乙82の1,88の1)によれば,被告製品に含まれる乳糖水和物が実際に上記のような効果を奏することにつき複数の学者が肯定していることが認められる。 このように,オキサリプラチン水溶液に,所定の条件を充たす乳糖水和物を添加することは,オキサリプラチンを含む水性医薬組成物の安定性を向上させ,ジアクオDACHプラチン二量体(これは,上記「ジアクオジアミノシクロヘキサン白金二量体」と同義と解される。)の生成を抑制するという新たな効果を奏するものといえ,現に,被告はそのような効果を奏するような方法で被告製品に乳糖水和物を添加したものと認められる。 エ以上からすれば,仮に,オキサリプラチン水溶液に乳糖水和物を添加すること自体が,被告製品について政令処分を受けるのに必要な試験が開始された時点において既に知られていたとしても,少なくとも,別件発明所定の条件を充たす乳糖水和物を添加する方法で製造したオキサリプラチン水溶液は,前記のような新たな効果を奏するものといえ,これが単なる周知技術にすぎないとはいえない。 したがって,オキサリプラチン水溶液に一定の条件を充たす乳糖水和物を添加することは,本件発明との関係において,周知・慣用技術の付加等にすぎないとはいえず,むしろ,ジアクオDACHプラチン二量体の発生を抑制し,オキサリプラチン水溶液の安定性を向上させるという新たな効果を奏するものといえるから,被告製品は,本件処分の対象となった政令 処分対象物の均等物ないし実質的に同一と評価される物とはいえない。 オ(ア) これに対し,原告は,実験結果(甲45,48)を提出し,本件発明の実 は,本件処分の対象となった政令 処分対象物の均等物ないし実質的に同一と評価される物とはいえない。 オ(ア) これに対し,原告は,実験結果(甲45,48)を提出し,本件発明の実施品(原告から本件特許の専用実施権を設定された株式会社ヤクルト本社の製造・販売に係る「エルプラット」)と被告製品とを比較した結果,被告製品は,安定性の向上に関して何ら新たな効果を奏するものではない旨主張する。 しかし,原告による上記比較実験が,適切な条件下で行われたことを認めるに足りる証拠はなく,原告の上記主張を採用する前提を欠く。 (イ) また,原告は,被告製品とその他の後発医薬品に係る各医薬品インタビューフォーム(甲46,47の1ないし4)に記載されたデータを比較することによっても,被告製品には新たな効果はないとも主張する。 しかし,各医薬品インタビューフォームに記載されたデータが,どのような条件下で取得されたかは必ずしも明らかではないため,各インタビューフォーム記載の値を単純に比較することで,適切に比較したことにはならない。 また,そもそも他の後発医薬品については,各社が独自の技術により開発したものと解されるところ,仮に他の後発医薬品が,安定性の向上に関して被告製品と同様の効果を奏するとしても,それは各社の独自技術による結果であるとも容易に解されるところであり,これによって直ちに,被告製品における乳糖水和物が何ら効果を奏しないものと解することはできない。 (ウ) このほか,原告は,被告製品においてジアクオDACHプラチン二量体の発生が抑制されたとしても,その他の不純物の発生は抑制されておらず,むしろ全体としての不純物の発生量は増加しているとも主張する。 しかし,ジアクオDACHプラチン二量体以外の不純物(原 ン二量体の発生が抑制されたとしても,その他の不純物の発生は抑制されておらず,むしろ全体としての不純物の発生量は増加しているとも主張する。 しかし,ジアクオDACHプラチン二量体以外の不純物(原告が「類 縁物質」と称するもの)が具体的に何を指すかは明らかではなく,その測定方法も不明である。また,証拠(乙82の1,87の4)からすれば,オキサリプラチンの水溶液中での化学反応によって最終的にジアクオDACHプラチン二量体が発生することが認められるところ,被告製品においてジアクオDACHプラチン二量体の発生が抑制されている(この点は,原告提出の甲48からも認められるところである。)のであれば,被告製品において採用されている製造方法は新たな効果を奏するものというべきであって,原告の上記主張は採用できない。 (エ) 原告は,被告のようなジェネリック製薬会社が「厚労省認定添加剤」を添加した後発医薬品の製造販売承認を受ける場面では,特別なデータを提出することなく承認を得られるなど極めて有利な扱いを受けていながら,特許権に基づく権利行使の場面では,一転して,同添加剤が特殊な効果を奏するなどと主張するのは公平に反する旨主張する。 確かに,証拠(甲40(日本ジェネリック製薬協会名義の「医薬品添加剤について」と題する書面))によれば,「日本で使用される医薬品添加剤は,『医薬品添加物事典』に収載されているものについては,使用前例があり,その用途,使用量等が確認されたものとして取り扱われ,当該事典に個別の添加物ごとに記載されている『投与経路』,『最大使用量』の範囲であれば,特別なデータを提出することなく認められる」ことが認められる。 しかし,厚労省認定添加剤を添加した後発医薬品がどのように製造販売承認等を受けるかと,延長後の特許 』,『最大使用量』の範囲であれば,特別なデータを提出することなく認められる」ことが認められる。 しかし,厚労省認定添加剤を添加した後発医薬品がどのように製造販売承認等を受けるかと,延長後の特許権の効力が及ぶ範囲をどう解するかは,全く別個の問題であって,原告の上記主張は採用できない。 (4) 小括したがって,存続期間延長後の本件特許権の効力は,被告製品の製造等には及ばない。 2 結論以上によれば,その余の点について判断するまでもなく,原告の請求はいずれも理由がないからこれらを棄却することとし,主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第47部 裁判長裁判官沖中康人 裁判官矢口俊哉 裁判官村井美喜子 (別紙)被告製品目録 1 オキサリプラチン点滴静注液50mg「テバ」 2 オキサリプラチン点滴静注液100mg「テバ」 3 オキサリプラチン点滴静注液200mg「テバ」 (別紙)被告製品説明書1 a① 濃度が5mg/mlである② pHが5.1~5.2もしくは5.2~5.7(被告製品1),5.2もしくは5.2~5.8(被告製品2),5.1(被告製品3)である③ オキサリプラティヌムの水溶液であり,b① 医薬的に許容される期間の貯蔵後,製剤中のオキサリプラティヌム含量が当初含量の少なくとも95%であり,② 該水溶液が澄明,無色,沈殿不含有のままである,c 点滴静注液用のd オキサリプラティヌムの医薬的に安定な製剤。 (別紙) ム含量が当初含量の少なくとも95%であり,② 該水溶液が澄明,無色,沈殿不含有のままである,c 点滴静注液用のd オキサリプラティヌムの医薬的に安定な製剤。 (別紙)被告製品説明書2 a① 被告製品1は,10ml注射液中に,オキサリプラティヌム50mg及び乳糖水和物10mgを含み,被告製品2は,20ml注射液中に,オキサリプラティヌム100mg及び乳糖水和物20mgを含み,被告製品3は,40ml注射液中に,オキサリプラティヌム200mg及び乳糖水和物40mgを含み,② 被告製品のpHは4.0~7.0の範囲にある③ 被告製品は,オキサリプラティヌムと乳糖水和物を水に溶解させてなるb 被告製品は,乳糖水和物の存在下で,被告製品の有効期間(2年間)の貯蔵後も,製剤中のオキサリプラティヌム含量が,所望の単位量(被告製品1については10ml中に50mg,被告製品2については20ml中に100mg,被告製品3については40ml中に200mg)の少なくとも95%であることを規格値としており,無色澄明であるc 点滴静注液用のd オキサリプラティヌムの製剤。
▼ クリックして全文を表示