昭和59(ワ)655 大鉄工業退職金請求

裁判年月日・裁判所
昭和59年10月31日 大阪地方裁判所
ファイル
hanrei-pdf-19318.txt
🤖 AI生成要約2026/3/13

【DRY-RUN】主   文 1 原告の請求を棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。        事   実 第一 当事者の求めた裁判 一 請求の趣旨 1 被告は原告に対し、金一一一万九二四一円およびこれに対す

タグ

キーワード(AI生成)

判決文本文8,804 文字)

主文 1 原告の請求を棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 事実 第一当事者の求めた裁判一請求の趣旨 1 被告は原告に対し、金一一一万九二四一円およびこれに対する昭和五九年二月一四日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。 2 訴訟費用は被告の負担とする。 3 仮執行宣言二請求の趣旨に対する答弁 1 原告の請求を棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 第二当事者の主張一請求原因 1 寝屋川市<以下略> Aは、昭和五八年一〇月三日午後一時大阪地方裁判所により破産宣告を受け、原告は、同日その破産管財人に選任された。 2 破産者A(以下「A」という)は、昭和四二年一月一日より被告会社の正社員として雇用され、同五八年八月末頃退職した。そして、退職時の被告会社の退職金規定に基づくAの退職金額は、三八二万四〇〇〇円となる。 3 しかるに、被告会社は、右Aに対し右退職金額の一部を支給したのみで、残金を支払わない。 4 よつて、右Aの破産管財人である原告は被告会社に対し、未払退職金のうち一一一万九二四一円とこれに対する昭和五九年二月一四日から完済に至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。 二請求原因に対する認否請求原因1の事実は不知、同2の事実は認め、同3、4は争う。 三抗弁等 1 被告は、Aに対し被告会社支払分一五二万七九五六円(以下「会社支払分」ともいう)と年金規約による大和銀行支払分二二九万六〇四四円(以下「銀行支払分」ともいう)退職金合計三八二万四〇〇〇円を次のとおり支給した。すなわち、(一)昭和五八年九月一日、被告会社支払分一五二万七九五六円を支給した。 (二)同年九月一四日、年金規約による退職金二二九万六〇四四円を大和銀行を通じ東海銀行新大阪支店のA名義の普通預金口座 なわち、(一)昭和五八年九月一日、被告会社支払分一五二万七九五六円を支給した。 (二)同年九月一四日、年金規約による退職金二二九万六〇四四円を大和銀行を通じ東海銀行新大阪支店のA名義の普通預金口座に振込み支給した。 2 仮に、前項の退職金全額払の主張が認められないとしても、以下のとおり、本件退職金債権は消滅した。 すなわち、Aは、昭和五六年九月二一日、被告会社から住宅融資資金二五〇万円を借入れ、その返済については、被告会社と同会社労働組合との間で昭和五六年八月一日に締結された労働協約九二条の賃金支払の際に被告会社の貸付金に対する返済金及び利子を賃金から控除する旨の規定に基づき、同人の毎月の賃金から一定額控除の方法により返済してきたが、Aの本件退職当時、右借入金残債務は元利合計二〇七万五二四一円となつていたところ、被告会社は、前記昭和五八年九月一日、Aとの間で、会社支払の退職金一五二万七九五六円をもつて右借入金残債務のうち右退職金と同額の返済を受けることに合意し、右退職金をもつて右残債務の弁済を受け、また、銀行支払分の退職金二二九万六〇四四円についても、被告会社は、昭和五八年九月一六日、Aとの間で、右退職金をもつて、Aの右借入金残債務五四万七二八五円及びAのそれまでの個人的借入金等合計四万円、合計五八万七二八五円の返済を受けることに合意し、右退職金のうち五四万七二八五円をもつて右債務の弁済を受け、右退職金残金一七〇万八七五九円を引き渡した。 三抗弁に対する認否、反論1(一)抗弁1冒頭の事実のうち、会社支払分が一五二万七九五六円であり、銀行支払分が二二九万六〇四四円であることは認め、その余の点は否認する。 (二)同1(一)の事実は否認する。 (三)同1(二)のうち、昭和五八年九月一四日に銀行支払分の退職金二二九万六〇四四円が大和銀行を通じ東 が二二九万六〇四四円であることは認め、その余の点は否認する。 (二)同1(一)の事実は否認する。 (三)同1(二)のうち、昭和五八年九月一四日に銀行支払分の退職金二二九万六〇四四円が大和銀行を通じ東海銀行新大阪支店のA名義の普通預金口座に振込まれたこと、同月一六日、原告が右金員のうち一七〇万八七五九円の支給を受けたことは認め、その余の点は否認する。右預金口座は、被告会社がAに指定して右銀行支払分の退職金の振込だけを目的として被告会社の住所地の近辺の銀行に設置せしめたものであり、しかも、A名義の通帳や印鑑を被告会社に預けさせておいたもので、被告主張の右振込は退職金の支給という実態を備えるものではない。 2 同2のうち、Aが昭和五六年九月二一日被告会社から住宅融資金二五〇万円を借り受けたこと、被告主張の労働協約が存すること、本件退職時、右借入金残債務は元利合計二〇七万五二四一円であつたこと、Aが昭和五八年九月一六日、右退職金のうち一七〇万八七五九円の支給を受けたことは認め、Aが合意に基づき、昭和五八年九月一日被告会社に対し住宅融資金借入債務のうち一五二万七九五六円を任意弁済したこと、Aが合意に基づき、被告会社に対し住宅融資金借入債務等合計五八万七二八五円を任意弁済したことはいずれも否認する。 被告主張のAの各弁済は、いずれもAの退職金とAの被告会社に対し負担する債務とを相殺したものであるというべきところ、退職金について、相殺として控除が認められるのは、たとえ書面による労使協定がある場合でも無制限ではなく、民法五一〇条、民事執行法一五二条の各規定により退職金の四分の一の範囲に限り、これを超えては許されないものであり、したがつて、被告において相殺が許されるのは、本件退職金全額の四分の一である九五万六〇〇〇円の範囲に限定されるものというべきである 退職金の四分の一の範囲に限り、これを超えては許されないものであり、したがつて、被告において相殺が許されるのは、本件退職金全額の四分の一である九五万六〇〇〇円の範囲に限定されるものというべきである。 第三証拠(省略) 理由 一成立に争いのない甲二、三号証、証人Aの証言によれば、請求原因1の事実が認められ、これに反する証拠はなく、また、請求原因2の事実は、当事者間に争いがない。 二被告の退職金支払の主張について 1 本件退職金のうち、会社支払分が一五二万七九五六円であり、銀行支払分が二二九万六〇四四円であることは当事者間に争いがない。 2 会社支払分の退職金の支払について被告は、会社支払分の退職金一五二万七九五六円を昭和五八年九月一日に支給した旨主張する(抗弁1(一))ところ、成立に争いのない乙一、二号証中には、被告会社が右同日、右退職金を支払い、Aはこれを受領した趣旨の記載がある。しかしながら、証人Aの証言によれば、Aは昭和五八年九月一日、被告会社から会社支払分の退職金をAの被告会社に対する住宅資金借入金債務の弁済に充当したい旨の説明を受けたうえ、右退職金支払の決算上右退職金を受領した旨記載された領収書(乙二号証)に署名するよう求められたが、Aは、右退職金をもつて右債務の返済に充てることとすることを納得し、現実には右退職金の交付を受けなかつたが、被告会社の右求めに応じて右領収証に署名したものであることが認められ、右認定事実に照らすと、乙一、二号証をもつて被告主張退職金支払事実の証左とはなしえず、他に右主張事実を認めるに足りる証拠はない。 なお、証人Bは、被告会社はAに対し小切手を交付して右退職金を支払つた旨供述するが、しかしながら、証人Aの証言、弁論の全趣旨に照らすとにわかに採用し難く、また、仮に小切手を交付 足りる証拠はない。 なお、証人Bは、被告会社はAに対し小切手を交付して右退職金を支払つた旨供述するが、しかしながら、証人Aの証言、弁論の全趣旨に照らすとにわかに採用し難く、また、仮に小切手を交付したとしても、当該小切手が銀行の支払保証小切手である等、実質的に通貨で支払つた場合と差異がないような特段の事情がない限り、労働基準法二四条一項本文の規定するいわゆる通貨払の原則に反し、小切手の交付による退職金の支払は無効というべきところ、右特段の事情の存在を認めるに足る証拠はないから、右小切手の交付による退職金支払は無効といわざるを得ない。 2 銀行支払分の退職金の支払について被告会社が昭和五八年九月一四日、銀行支払分の退職金二二九万六〇四四円を大和銀行を通じ東海銀行新大阪支店のA名義の普通預金口座に振込まれたことは当事者間に争いがない。 ところで、労働者本人名義の預金口座に賃金(退職金も含む、以下同じ)が振込まれる場合、これが前記通貨払の原則に抵触せずに有効な賃金の支払となるためには、少なくとも、(一)預金口座への賃金振込みによる支払が労働者の意思に基づくこと、(二)労働者が指定する本人名義の預金口座に振込まれること、(三)振込まれた賃金の全額が、所定の賃金支払日に払出しうる状況にあることの各要件を満たすことが必要であると解される。 これを本件についてみるに、証人A及び同B(但し、後記採用しない部分を除く)の各証言によれば、被告会社は、銀行支払分の退職金二二九万六〇四四円の一部をもつて、Aが被告会社に対し負担する住宅融資金債務の返済を受けようと考え、ついては、大和銀行から支払われる右退職金がA名義の銀行預金口座に振込まれることになつていたので、その預金口座を被告会社の近くの金融機関に設け、振込まれた退職金の払戻しと同時に右住宅融資金の 考え、ついては、大和銀行から支払われる右退職金がA名義の銀行預金口座に振込まれることになつていたので、その預金口座を被告会社の近くの金融機関に設け、振込まれた退職金の払戻しと同時に右住宅融資金の返済を得られるよう考え、Aが昭和五八年八月末に退職する直前、同人に対し、本件退職金をもつて右債務の返済に充ててもらいたい、ついては、銀行支払分の退職金の払込先であるA名義の銀行預金口座を被告会社付近の東海銀行新大阪支店に設け、あわせてA名義の預金通帳と銀行印を被告会社に保管させてくれるよう申し出たが、Aは、被告会社の右申出を了承し、その頃右銀行に自己名義の預金口座を開設しその預金通帳と届出印鑑を被告会社に交付し、そして、銀行支払分の退職金は昭和五八年九月一四日に右東海銀行新大阪支店のA名義の普通預金口座に振込まれ、その旨の通知を受けた被告会社の総務部長Bは、同年九月一六日、右A名義の預金通帳と印鑑を持参し、Aらと同道のうえ右銀行に赴き、右退職金等全額を引き出し、そして、これを被告会社に持参し、同所において、Aの被告会社等に対する債務の返済金合計五八万七二八五円を右退職金から差し引き控除した残金の一六七万八九四一円をAに交付したことが認められ、証人Bの証言中右認定に一部副わない部分は、証人Aの証言に照らし採用し難く、他に右認定に反する証拠はない。 右認定の事実によれば、右A名義の預金口座は、被告会社が専ら退職金から住宅融資金の返済を確実に受ける便宜のためにAに指示して退職金の振込みだけを目的として被告会社の近辺の銀行に設置させたものであつて、右A名義の預金口座は実質的には被告会社が指定した預金口座というべきであり、しかも、A名義の通帳、印鑑は被告会社が保管し、Aは自由に振込まれた退職金を引き出すことが困難な状況にあつたというべきであり、そうす 預金口座は実質的には被告会社が指定した預金口座というべきであり、しかも、A名義の通帳、印鑑は被告会社が保管し、Aは自由に振込まれた退職金を引き出すことが困難な状況にあつたというべきであり、そうすると、本件銀行支払分の退職金のA名義預金口座への振込みによる支払は、これが有効な退職金の支払となるための前記(二)、(三)の各要件を満たしているものとはいい難く、したがつて、本件振込みによる退職金の支払は、有効な支払とはいいえない。 3 よつて、被告の退職金支払の主張(抗弁1)は理由がない。 三抗弁2について 1 Aが昭和五六年九月二一日被告会社から住宅融資金二五〇万円を借り受け、A退職時において右借入金残債務が元利合計二〇七万五二四一円であつたこと、被告会社と同会社労働組合との間で昭和五六年八月一日に締結された労働協約九二条には、賃金支払の際に被告会社の貸付金に対する返済金及び利子を賃金から控除する旨規定されていること、被告会社が昭和五八年九月一六日Aに対し銀行支払分の退職金のうち一七〇万八七五九円を支給したことは当事者間に争いがない。 2 前掲二の1、2の認定事実、右争いのない事実、前掲乙一、二号証、成立に争いのない甲五号証、収入の部三八二万四〇〇〇円以下三行と支出の部退職金総額以下四行の部分を除くその余の部分につき成立に争いのない甲一号証の右争いのない部分、証人B(但し、採用しない部分を除く)、同Aの各証言、弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められ、これを覆すに足る証拠はない。 (一)Aは、昭和五六年九月二一日被告会社から同社が従業員に経済上の便宜を供する目的で設けている住宅融資金二五〇万円を借り受け、これを頭金として不動産を九九〇万円で購入したが、被告会社の貸付金に対する返済金及び利子を賃金支払の際賃金から控除する旨規定する労働協約九二条 供する目的で設けている住宅融資金二五〇万円を借り受け、これを頭金として不動産を九九〇万円で購入したが、被告会社の貸付金に対する返済金及び利子を賃金支払の際賃金から控除する旨規定する労働協約九二条に基づき、右借入金を毎月の給料から一定額控除されて、弁済してきた。 (二)ところで、Aは、いわゆるサラ金から多額の借金を負い、そのためサラ金からAの勤務先である被告会社へも返済催足の電話を受けるようになつて、被告会社にいずらくなつたことなどから昭和五八年八月頃退職の決意をし、その頃、被告会社に対し退職の申し出をし、同月末日に退職することとなつた。 (三)一方、被告会社は、Aの同会社に対し負担する右借受金の残債務が右退職時点で元利合計二〇七万五二四一円となつていたところ(この点は争いがない)、それまで労働協約に基づき、同人の毎月の給料から一定額控除によりその弁済を受けていたが、Aの退職金をもつて確実に弁済を得ようと考え、同人の退職直前に、同人に対し、退職金につき、退職金が総額三八二万四〇〇〇円で、内年金規約による大和銀行払が二二九万六〇四四円、会社支払額が一五二万七九五六円である旨説明したうえ、右退職金をもつて右借入金残債務二〇七万五二四一円の弁済をして欲しい旨、ついては、銀行支払分の退職金につき、その払込先であるA名義の銀行預金口座を被告会社近くの東海銀行新大阪支店に設け、あわせてA名義の預金通帳と銀行印を被告会社に保管させて欲しい旨を申し入れたが、Aは、右借入金残債務額を承認のうえ右各申し入れをいずれも承諾し、その頃右銀行に自己名義の預金口座を開設し、その預金通帳と届出印鑑を被告会社に交付した。 (四)被告会社は、A退職の翌日である昭和五八年九月一日、同人に対し改めて会社支払分の退職金全額を前記借入金債務の弁済に充てることにして欲しい旨申し出 、その預金通帳と届出印鑑を被告会社に交付した。 (四)被告会社は、A退職の翌日である昭和五八年九月一日、同人に対し改めて会社支払分の退職金全額を前記借入金債務の弁済に充てることにして欲しい旨申し出、ついては、右退職金支払の決算上右退職金を受領した旨記載した領収証(乙二号証)に署名するよう求めたが、Aは、右退職金をもつて右債務の返済に充てることを納得して右領収証に署名し、また、右のことにつき同人の妻にも説明したが、格別不服はなかつた。 (五)次に、前記(二2)のとおり、銀行支払分の退職金が同年九月一四日に前記A名義の預金口座に振込まれ、その旨の通知を受けた前記Bは、A、並びに、かねてから右退職金の払い戻しに立会いを希望していた同人の妻と義兄のCに対し右退職金がA名義の預金口座に振込まれたので払い戻したい旨連絡したうえ、同年九月一六日、A名義の預金通帳と印鑑を持参し、A、同人の妻、右Cと同道して前記東海銀行新大阪支店に赴き、振込まれた退職金等全額を引き出し、その後Aらと同道のうえ右金員を被告会社に持ち帰つた。そして、右Bは、被告会社において、右引き出した金員の内訳とAが被告会社等に対し負担し返済すべき債務の内訳等を記載した「A右預り金精算明細書」と題する書面(甲第一号証)を作成し、これをAら三名に示して、その内容を逐一説明し、右金員の一部をもつてAが被告会社等に対して負担する住宅融資金の残債務合計五四万七二八一円及びAのD課長らからの借入金等合計四万円、以上合計五八万七二八五円の返済に充ててもらいたい旨申し入れたが、Aら三名は、Bの右説明と返済の申し出を了承して、右退職金をもつて右債務の弁済に充てることに合意した。そこでBは、右引き出した金員(退職金二二九万六〇四四円、預金一万円、利息一八二円、合計二三〇万六二二六円)から右Aの債務等合計 し出を了承して、右退職金をもつて右債務の弁済に充てることに合意した。そこでBは、右引き出した金員(退職金二二九万六〇四四円、預金一万円、利息一八二円、合計二三〇万六二二六円)から右Aの債務等合計五八万七二八五円を差し引き、残余をその場で交付し、Aらは、何らの異議なくこれを受領した。 3 ところで、労働基準法二四条一項本文は、いわゆる賃金の全額払の原則を定めており、賃金の控除を禁止しているが、右原則の趣旨とするところは、使用者が一方的に賃金を控除することを禁止し、もつて労働者に賃金の全額を確実に受領させ、労働者の経済生活をおびやかすことのないようにしてその保護をはかろうとするものであるから、賃金債権と使用者が労働者に対して有する債権とを、労使間の合意によつて相殺することは、それが労働者の完全な自由意思によるものであり、かつ、そう認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するときは、全額払の原則によつて禁止されるものではなく、有効と解するのが相当である。 そこで、右のような観点から、既に認定の本件事実関係を検討するに、本件においては、前記2(三)ないし(五)のとおり、被告会社はAの同意を得て、Aの退職金債権と同人の被告会社に対し負担する住宅融資金借入金債務等とを相殺(差引計算)したものというべきであるところ、右相殺された合計金額は、前記認定のとおり合計二一一万五二四一円で退職金合計三八二万四〇〇〇円の五分の三弱に及ぶものであるが、しかし、Aが相殺に供した金員は、退職金であつて月々の生活を支える月給とは異なり、相殺に供したからといつて、このことのみによつて直ちにAの経済生活を脅かすものとはいえないこと、また、本件相殺に供された金員は、不法行為による損害賠償債務等労働者が一方的に負担する債務ではなく、住宅融資金借入れ債務で、Aはこれをもとに不 よつて直ちにAの経済生活を脅かすものとはいえないこと、また、本件相殺に供された金員は、不法行為による損害賠償債務等労働者が一方的に負担する債務ではなく、住宅融資金借入れ債務で、Aはこれをもとに不動産を購入し資産を得ているもので、使用者から現実に便宜を提供され、利益を受けた独立の信用上の貸借債務であり、しかも、Aは、労働協約に基づき右借入金を毎月の給料から一定額控除される形で弁済してきたが、退職に伴いこれができなくなるので、Aとしては右借入金の残債務を給料の控除による弁済以外の方法による弁済をする必要に迫られていたし、Aの被告会社に対する右借入金債務の存在及びその額については全く争いがなかつたこと、被告会社においても、一般的に将来にわたつて労働することを期待して労働者に経済上の便宜を供する趣旨で住宅融資金の貸出制度を設けているものというべきであるから、Aが右債務の完済前に突然退職するに及んだため給料の一部控除による返済を受けることができなくなり、その残債務を他の方法で得べき合理的な必要性が存したことや、証人Aの証言などを併せ考えると、Aの右相殺に対する同意は、完全な自由意思によるものと認められ、かつそう認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在していたものと認めるのが相当である。 したがつて、右相殺は有効というべきであり、Aには、右相殺された二一一万五二四一円の退職金の支払請求権はないものというべきである。 なお、原告は、相殺として退職金の一部控除が許されるのは、民法五一〇条、民事執行法一五二条の各規定により退職金の四分の一の範囲に限られる旨主張するが、本件相殺(控除)は、前記のとおりAの自由意思に基づくものであるから、右各規定による制限を受ける故はなく、右原告の主張は理由がない。 4 以上によれば、Aの退職金債権は、前記現実の退職金支 張するが、本件相殺(控除)は、前記のとおりAの自由意思に基づくものであるから、右各規定による制限を受ける故はなく、右原告の主張は理由がない。 4 以上によれば、Aの退職金債権は、前記現実の退職金支給(前掲三1)及び合意による相殺により全額消滅したものというべきである。 四よつて、破産者Aの破産管財人として同人の退職金の支払を求める原告の本訴請求は、理由がないから棄却し、訴訟費用の負担について民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。 (裁判官千川原則雄)

▼ クリックして全文を表示

🔍 類似判例を検索𝕏 でシェア← 一覧に戻る