平成12(ワ)2904 損害賠償請求事件

裁判年月日・裁判所
平成16年1月13日 神戸地方裁判所
ファイル
hanrei-pdf-6898.txt

判決文本文37,988 文字)

主文 1 原告の請求をいずれも棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求 1 被告らは,原告に対し,連帯して金500万円及びこれに対する平成10年1月21日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 訴訟費用は被告らの負担とする。 3 仮執行宣言第2 事案の概要等本件は,被告L市(M福祉事務所)による入所措置決定により被告社会福祉法人G(以下「被告G」という。)が運営する知的障害者更生施設H(以下「H」という。)に入所した原告が,平成8年7月16日以降平成10年4月5日までの間,同施設の嘱託医である被告医療法人I(以下「被告I」という。)運営のI病院A医師から処方を受けたニューレプチル等の薬剤を服用したことにより,肝障害等の健康被害を受けたとして,被告L市に対しては国家賠償法1条1項,被告Gに対しては民法709条,被告Iに対しては民法715条にそれぞれ基づき,各自連帯して慰謝料500万円の支払い及び平成10年1月21日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払いを求めた事案である。 1 前提となる事実(証拠を掲記した部分以外の事実は当事者間に争いがない。)(1) 当事者ア原告原告は,昭和51年10月16日,父B及び母Cの間に生まれた。 原告には,自閉傾向を伴う軽度の精神遅滞が認められ,平成8年3月25日の精神科医による診察の結果,以下のとおりと診断された(甲1)。 主な精神障害:精神遅滞発生年月日:昭和55年ころ現病歴:衝動行為知能障害:軽度(鈴木 とおりと診断された(甲1)。 主な精神障害:精神遅滞発生年月日:昭和55年ころ現病歴:衝動行為知能障害:軽度(鈴木ビネー式IQ56)精神症状:強迫観念問題行動及び習癖:暴行・器物破壊・常動行動性格特徴:自閉傾向強く他者との交流が困難で衝動的要注意度:随時一応の注意を必要とする。 日常生活の介助度:衣服(自立),食事(半介助),排泄(自立),入浴(半介助),睡眠(時々不眠),危険物(特定の物・場所は分かる)備考:衝動的行動が目立ち,時に他者に危害を加える。このため介助度が著しく高い。 イ被告L市被告L市(M福祉事務所長)は,18歳以上の知的障害者に対して,知的障害者福祉法16条1項2号に基づき,知的障害者更生施設に入所措置をする権限が与えられている。 ウ被告G被告Gは,昭和58年4月,兵庫県a郡に知的障害者更生施設としてHを設置し,運営している。 Hの園長はDであり,Hには現在約70名の入所者がいる。 エ被告I被告IはI病院を運営している。 A医師は同病院の医師であり,平成7年1月に同病院の副院長となり,平成9年6月には院長に就任して現在に至っている(丁3,証人A)。 同医師は原告がHに入所していた当時,同園の嘱託医であった(証人A)。 (2) 原告の血液検査の結果原告の平成7年8月28日以降の血液検査の結果は,別紙検査結果一覧表のとおりである。 ( していた当時,同園の嘱託医であった(証人A)。 (2) 原告の血液検査の結果原告の平成7年8月28日以降の血液検査の結果は,別紙検査結果一覧表のとおりである。 (3) 事実経緯ア Hへの短期入所に至る経緯原告は,昭和55年4月(当時3歳6か月)に,言葉の遅れ,友人と遊べない等の理由により初めてL市児童相談所を訪れて以来,2週間に1回程度,同相談所において指導を受けていたが,昭和63年夏ころには,他人の自転車を乗り回して捨てる,スーパーで万引きをする,他の児童を叩く,学校の窓ガラスを割る,自動車のホイールキャップを外す,枯葉に火を付ける等の問題行動が目立つようになった。平成2年には,線路に物を並べて電車を止めるということもあった。 原告は,平成4年4月,L市立N高等学校(夜間)に入学したが,平成5年になると電車の線路上に標識を並べて置く,国道2号線を走行中の自動車に向かって自転車を投げつける,駐車中の自動車のホイールキャップを外して川に投げ込む,他人の自転車を勝手に移動させる,逆上すると相手の顔面を殴るなどの問題行動を起こすようになった。 このような問題行動に対し,原告両親は,平成5年10月26日,Eクリニック(精神科,神経科)を受診し,L市児童相談所を訪れて相談した。同相談所の医師の判断では,論理的な思考の組み立てが行えず,社会通念に沿った抽象的な道徳観念を理解できない,また,欲求の自制が効きにくいため問題行動として出現しやすいとのことであった。 同年11月9日,M福祉事務所,L市児童相談所,H等が協議した結果,今後両親だけの力で高校生活を継続すると,同様の問題行動を繰り返す可能性が強く,高校においても原告を受容 った。 同年11月9日,M福祉事務所,L市児童相談所,H等が協議した結果,今後両親だけの力で高校生活を継続すると,同様の問題行動を繰り返す可能性が強く,高校においても原告を受容できる状況でないと判断され,今後とも連携を取りながらサポートしていくこととし,Hに短期入所する方法が採られることとなった。 イ Hへの短期入所原告は,平成5年11月23日から平成7年12月31日に至るまで,合計14回にわたってHに短期入所した。 原告は,短期入所中,他の入所者を突き飛ばしたり,箸で突くなどしたほか,女子入所者に対して,キスをする,胸や股間を触る,一緒にベッドに入る,パンツの中に手を入れるなどの問題行動を起こした。 ウ措置入所に至る経緯原告がHへの短期入所を繰り返してきた間,M福祉事務所,L市児童相談所,K作業所,N高校,H,原告両親等は,原告の処遇について,11回にわたって合同ケース会議を開き,協議,検討を重ねてきた。その結果,平成8年6月1日,M福祉事務所長は,精神薄弱者福祉法(現「知的障害者福祉法」)第16条1項2号に基づき,原告の入所援護をHに委託する旨決定し,原告は,同月10日からHに入所した。 エ措置入所後の状況Hは,入所翌日の平成8年6月11日,原告にA医師の診察を受けさせ,同医師は,原告に対して,向精神薬レボトミン5ミリグラム1錠及び睡眠導入剤レンドルミン1錠を眠る前1回服用するよう処方をした。 原告はこれを服用していたが,その後も問題行動が見られた。そこで,A医師は,同年7月16日,原告に対して,プロペリシアジン製剤であるニューレプチルを5ミリグラム,朝夕の2回服用するよう処 原告はこれを服用していたが,その後も問題行動が見られた。そこで,A医師は,同年7月16日,原告に対して,プロペリシアジン製剤であるニューレプチルを5ミリグラム,朝夕の2回服用するよう処方を変更した。 同月23日,原告が「しんどい。」「発作がある。」などと訴えるので,内科医の診察を受けさせたところ,「過呼吸症候群」と診断された。 その後,A医師は,同年8月2日に,ニューレプチルの量を半減して2.5ミリグラム,朝夕2回服用するよう処方を変更したが,同年9月19日には,再び従前の投与量に戻して,5ミリグラムを朝夕2回服用するよう処方を変更した。その後も,A医師は原告に対し,別紙投薬状況一覧記載のとおり,ニューレプチルを継続的に処方し,Hは,原告が平成10年4月5日にニューレプチル及びレボトミン(ヒルナミン)の服用を自主的に中止するまで,これを原告に服用させた(以下,原告に対する平成8年6月11日以降,平成10年4月5日までの間のニューレプチル等の薬剤投与を「本件投薬」という。)。 しかしながら,原告は,本件投薬中も,他の入所者を箸で刺してけがを負わせるなどし,また,女子入所者に対しても,キスをする,陰部を触る,下半身を裸にするなどの問題行動を起こした。 オ退所の経緯原告は平成10年3月25日に春休みで自宅に帰省したが,その後,Hには戻って来ず,同年5月12日,措置解除となった。 2 争点本件の争点は,①原告に肝機能障害等の体調不良が生じたかどうか,②原告の体調不良と本件投薬との因果関係,③本件投薬の違法性及び被告らの過失,④損害額である。 (1) 争点①(原告の肝機能障害等の体調不良の有無),争点②(原告の体調不良と じたかどうか,②原告の体調不良と本件投薬との因果関係,③本件投薬の違法性及び被告らの過失,④損害額である。 (1) 争点①(原告の肝機能障害等の体調不良の有無),争点②(原告の体調不良と本件投薬との因果関係)について(原告の主張)原告は,本件投薬の結果,Hでの日常生活において,自分らしさを発揮する機会を与えられることなく,終始,眠気の中で無為に過ごさざるを得なくなり,また,ニューレプチル投与開始後の平成8年7月23日,過呼吸発作を起こしたのみならず,その後の継続的な薬剤投与により,体調の優れない状態を強いられ,特に平成10年1月14日から同年4月24日に至るまでは,別紙検査結果一覧表のとおり,肝機能障害を来した。 原告はH入所後,特にニューレプチルの投与が開始されてから,明らかな体調不良を訴え続けており,それは,ニューレプチル等の服薬を自主的に中止するまで続いた。そして,原告が服薬を中止した後,肝機能に関する数値は正常値に回復している。 したがって,原告の上記眠気,過呼吸発作,肝機能障害は,Hにおけるニューレプチルを初めとする本件投薬に起因するものであり,Hにおける本件投薬と,原告の肝機能障害との間には因果関係がある。 被告らは,原告の肝機能障害について,帰省中にBが飲ませたアルコールの副作用であり,ニューレプチルの副作用ではないと主張するが,原告が帰省中に飲酒した旨述べたとしても,原告が実際に述べただけの量のアルコールを摂取したわけではない。原告は自分が大人でありアルコールも飲めるのだということを顕示したいという欲求が強かっただけである。 (被告らの認否反論)原告の主張のうち,原告がニューレプチル投与開始後の平成8年7月2 でありアルコールも飲めるのだということを顕示したいという欲求が強かっただけである。 (被告らの認否反論)原告の主張のうち,原告がニューレプチル投与開始後の平成8年7月23日過呼吸発作を起こしたこと,原告の血液検査の結果が別紙検査結果一覧表のとおりであることは認め,その余はいずれも否認ないし争う。 ア眠気等について原告は,本件投薬の結果,原告が,自分らしさを発揮できなくなったと主張するが,ニューレプチルは,問題行動を防ぐ効果がある薬であり,Hは同園における共同生活を維持する上で必要最小限の量を原告に投与していた。このことによって,原告の衝動的他害行動は抑制されるが,原告の活動自体を鈍化させるものではない。 原告は,睡眠不足で居眠りをすることがあったが,夜遅くまで迷惑行為等をしていたためであって,本件投薬との間に因果関係はない。 原告が主張する「自分らしさの発揮」とは何なのか具体性がないが,原告の行動が活発であったことは,原告の問題行動の多さから明らかである。 よって,原告が眠気等によって自分らしさを発揮できなかったということはないし,眠気等と本件投薬との間の因果関係もない。 イ過呼吸発作について原告に生じた過呼吸発作は,内科医の診察によれば,不安神経症の人に起こりやすい過呼吸症候群であるとのことであった。また,その過呼吸発作は,呼吸方法の指導を受けたことによって,すぐに楽になったものである。しかも,その後,ニューレプチルを継続投与しても,過呼吸発作は再発はしなかったのであって,一過性のものであった。 ウ肝機能障害について原告は,本件投薬によって肝機能障害 ,その後,ニューレプチルを継続投与しても,過呼吸発作は再発はしなかったのであって,一過性のものであった。 ウ肝機能障害について原告は,本件投薬によって肝機能障害を被ったと主張する。しかしながら,薬剤による肝機能障害は,当該薬剤を使用し始めて大体1か月以内にアレルギー反応を起こして発生するのが通常である。ところが,原告の場合,別紙検査結果一覧表記載のとおり,ニューレプチル投与数か月を経過した平成8年12月6日の検査結果によっても正常値であり,平成10年1月14日に初めて異常な数値を示しているのであって,かかる経緯に照らすと,平成10年1月14日の肝機能検査の異常な数値は本件投薬以外の原因によるものというべきである。そして,原告は,帰省中に不規則な生活をし,飲酒しているとすると,原告の肝機能障害はこれらに起因するものと考えられる。 また,原告の平成10年1月14日及び同年4月6日における血液生化学検査の数値によれば軽度の肝機能障害が認められるが,いずれもごく軽微なものに過ぎないし,ALP値についても,骨代謝の影響を受けやすく,特に成長期の若年者においては300ないし500IU/L(以下,肝機能値については単位を省略する。)程度まで上昇することは稀ではないのであって,150前後のALP値は当時の原告の年齢から考えて,特に異常というべきものではない。この程度の肝機能の数値では,自覚症状はなく,意識障害も考えられないのであり,原告の日常生活に何らの支障を来すものではない。 したがって,原告の主張する肝機能障害はごく軽微なものに過ぎないし,本件投薬との因果関係もない。 (2) 争点③(本件投薬の違法性及び過失)についてア Hの注意義務違反 って,原告の主張する肝機能障害はごく軽微なものに過ぎないし,本件投薬との因果関係もない。 (2) 争点③(本件投薬の違法性及び過失)についてア Hの注意義務違反(原告の主張)(ア) 原告に対する監護療育義務違反aHは,知的障害者福祉の専門機関として,福祉の専門的見地から,原告を保護するとともに,その更生に必要な指導及び訓練を行うことを目的としているのであるから,原告に対しては専ら福祉的手段により対応すべき監護療育義務がある。 すなわち,Hは,問題行動を起こす原告に対して,福祉施設として原告の行動の背景となった事情の究明,原告の関心傾向の検索などを踏まえて,原告に対して福祉的手段をもって対応すべきである。 また,通常,知的障害者福祉施設においては,入所当初にケース会議を開催し,しばらく本人の様子を見てから個別的支援計画を立て,その後,ケース会議を重ねてこの計画の実施状況を検証するとともに新たな計画を立てるという手法が求められる。 ところが,Hは,原告の入所について,入所当初にケース会議を開かず,個別的支援計画も立てず,その後もほとんどケース会議を開いていないのであり,原告に対して福祉的手段をもって対応したとは考えられない。 むしろ,Hは,かかる福祉的手段よりもHの秩序維持を優先して,入所翌日から原告の問題行動に対する制裁目的で,原告の行動を抑圧するために,A医師をして別紙投薬状況一覧のとおりの薬剤処方をさせ,原告にこれを服用させたのであり,かかるHの行為が上記監護療育義務に違反することは明らかである。 b また,仮に薬物療法を実施するとし して別紙投薬状況一覧のとおりの薬剤処方をさせ,原告にこれを服用させたのであり,かかるHの行為が上記監護療育義務に違反することは明らかである。 b また,仮に薬物療法を実施するとしても,薬物療法はあくまで次善の策であるから,医師と保護者とが互いにその開始に合意した場合に限って行われるべきであるし,本人が症状や服薬の結果を理解できるならば本人の意向も一定程度尊重すべきである。 しかしながら,原告両親は,原告をHに入所させるにあたり,薬剤投与について同意していないし,平成8年7月23日に原告が発作を起こした際にも投薬中止を申し入れ,平成10年1月19日に開催された相談会においても,原告両親は,A医師,D園長らH職員に投薬の中止を求めている。 したがって,原告両親は,原告に対する投薬について全く同意していないのである。 よって,かかる意味でもHには監護療育義務違反が認められる。 (イ) 原告の入所生活における健康配慮義務違反Hは,あえて精神安定剤等の投与という医療的措置を行う場合であっても,福祉的措置を補充するために必要な最小限度にとどめるとともに,その投薬経過に留意し,投薬により原告の充実した生活を損なわないよう配慮すべき健康配慮義務がある。 しかし,Hは以下のとおり,原告が発作を起こし,さらに,肝機能障害を起こして終始眠気を催しているような状態にあるにもかかわらず,漫然と投薬を継続した。 a ニューレプチル投与自体の過失原告は,平成7年8月25日,Oにより処方されたアパミン(ニューレプチル)を服用したことによって,翌26日に,頻脈発作 a ニューレプチル投与自体の過失原告は,平成7年8月25日,Oにより処方されたアパミン(ニューレプチル)を服用したことによって,翌26日に,頻脈発作を起こし,これを診断したP病院から,二度とこの薬を使わないように注意された。そして,このことについては,H職員が同席したケース会議(平成7年9月6日)でも確認されているはずである。 とするならば,Hとしては,原告がニューレプチルに対して過剰に反応する体質なのであるから,入所後に投薬を開始する際にも,A医師に対して,これを処方しないように指示すべきであったにもかかわらず,その薬剤の確認を怠り,漫然と医師の処方に委ねた。 b ニューレプチル継続投与の過失原告は,平成8年7月16日のニューレプチル投与後,翌日の17日から継続的に体調不良を訴え続けていた。 にもかかわらず,Hは,同月19日,減薬するどころか,「いく分暴力おさまったものの性的いたずら,不眠がひどい」ことを理由に,レボトミン(ヒルナミン)とレンドルミンを追加投与した。 その後も,原告はしんどい等と訴え続け,過呼吸発作様の症状を呈し,同月23日内科医を受診する事態に至った。 さらに,その後も原告の体調不良の訴えは続き,同年8月2日のA医師の診察においても,原告は全身倦怠感を訴え,同年7月31日に実施された生化学検査結果でもALP値が155まで上昇していたことから,A医師は帰省中は投薬を中止することを検討したにもかかわらず,Hから投薬の継続を主張されたため,半量に減らしたにとどまった。 H及びA医師は,少なくとも していたことから,A医師は帰省中は投薬を中止することを検討したにもかかわらず,Hから投薬の継続を主張されたため,半量に減らしたにとどまった。 H及びA医師は,少なくとも,この時点で,ニューレプチル投与が原告の体調に悪影響を及ぼすことが分かっていたはずであるが,単に投与量を減量するだけで,他の薬剤に代えることなく,なお継続投与にこだわった。 しかも,Hは,原告は「落ち着きがなく以前と同じ状態で薬の効果がなくなっている」と評価し,同年9月19日,A医師にこのことを伝えて,同医師をして再びニューレプチルを以前の量(一日10ミリグラム)に増量させた。 その後も,原告が終始眠そうな状態であり,体調不良の訴えがあったにもかかわらず,平成10年4月5日に原告がニューレプチルの服薬を自主的に中止するまで,H及びA医師は処方を変えようとしなかった。 以上の事実からすれば,H及びA医師の健康配慮義務違反は明らかである。 (被告Gの認否反論)いずれも争う。具体的には以下のとおりである。 (ア) 監護療育義務違反について原告は,原告の問題行動に対する対応について,安易に「福祉的手段」という言葉を用い,「福祉的手段」を尽くした上で,薬物療法を補助的手段として用いるべきであると主張する。 しかし,Hにおいて,A医師の指導のもとに原告に投薬したのは,Hに居住すること自体が原告にとって大きな福祉的支援であることから,原告が他の入所者との集団生活を共にしながら,Hに継続的に入所できるようにし,その中でHが提供する様々な福祉的なメニューを享受できるようにするためであった 原告にとって大きな福祉的支援であることから,原告が他の入所者との集団生活を共にしながら,Hに継続的に入所できるようにし,その中でHが提供する様々な福祉的なメニューを享受できるようにするためであった。原告の問題行動がさらにエスカレートすると,Hとしては原告を退所させざるを得なくなり,そうすれば,原告はHにおける福祉的サービスを受けることすらできなくなる。このように,原告は,本件投薬を補助的手段として用いてこそ,はじめてHにおける生活及びそこで提供される様々な福祉的なメニューを享受し得たのであり,それは決して管理目的ではなく,ましてや制裁ではない。 原告がHに入所した当時の福祉的なメニューとしては,作業指導,生活指導,余暇支援,医療・健康支援,食事支援等の多数のものがあり,地域社会との交流も活発に行ってきた。これらの体験は,家庭では経験することができない多様性に富んだものであり,これらの全体がHでの集団生活であり,Hが提供する福祉である。この福祉を原告が享受するために必要最小限の投薬が本件投薬なのである。 原告は,原告について個別的支援計画がないなどと非難する。確かにHは個別的支援計画という名前の書面を作成したわけではないが,当時の実務では,その作成が求められていたものではなく,また,原告は前記のようにHへの措置入所に至るまでに,約3年間14回にわたって,Hに短期入所を繰り返し,その間,関係機関との合同ケース会議も11回にわたり開催され検討を重ねた末での入所なのであり,その間,原告に対する福祉的対応について十分に検討されたのである。 よって,Hが福祉的手法を安易に放棄し,制裁目的で原告に対して薬剤を投与したとの原告の主張は言いがかりである。 また ついて十分に検討されたのである。 よって,Hが福祉的手法を安易に放棄し,制裁目的で原告に対して薬剤を投与したとの原告の主張は言いがかりである。 また,原告がHに入所するまでの間に,M福祉事務所,L市児童相談所,K作業所,N高校,H,原告両親等が,原告の処遇について,11回にわたって合同ケース会議を開き,協議,検討を重ねる中で,HのD園長は,医療機関の支援が必要であることを原告の両親にも十分伝え,原告の両親もこれを十分理解した上で,わざわざ原告に2週間分のヒルナミン(レボトミン)を持たせて,原告をHに入所させた。そして,平成8年6月11日,I病院において,A医師が原告を診察し,原告の問題行動等に対して,レボトミンを中心とした処方をした際も,その場に立ち会ったBは何の申出もしなかった。また,Hは,平成8年7月15日,問題行動がやまない原告の処遇について精神科医による医療的支援が必要である旨,Cに電話で説明したが,その際,CはHに対応を任せる旨述べ,これを受けて翌16日,A医師によりニューレプチルが処方された。さらに,平成10年1月19日に開催された相談会において,投薬中止を求める原告両親と継続を望むHとの話合いの機会がもたれたが,その際,原告の両親から,ニューレプチルの投与をやめて欲しいという希望はなく,かえって,Bは「おっしゃることはよう分かりました。ただ,お伺いしたのは,症状を見まして,要は朦朧状態があったということで,先生に薬の疑問点をお聞きしたかったということで来たんですわ。」と述べていることからすれば,Bも最後は投薬に納得していたというべきである。以上のとおり,原告両親は常に本件投薬に対して同意していたのである。 さらに,原告に投与されたニューレプチルは,レ とからすれば,Bも最後は投薬に納得していたというべきである。以上のとおり,原告両親は常に本件投薬に対して同意していたのである。 さらに,原告に投与されたニューレプチルは,レボトミンに比べ過鎮静となる可能性が比較的低い上に,1日10ないし60ミリグラムが有効な投与量とされているところ,原告への投与量は1日10ミリグラムであり,最低限度の投与量であった。Hは,この最低限度の投与量で,原告の大きな他害行動を何とか防いでいたのであり,これは,原告がHでの生活を続けるために必要不可欠なものであった。 以上のとおりの,本件投薬の目的の正当性,原告両親の同意ないし承諾,投薬量の最小限度性に鑑みると,本件投薬について,原告が主張するような監護療育義務違反はない。 (イ) 健康配慮義務違反について確かに,原告がニューレプチルを服用してから後の平成8年7月23日ころに過呼吸発作があり,倦怠感を訴え横になることが増えたが,内科医の診察を受け,呼吸法を教わることにより症状は回復した。 そして,同月30日に,原告がA医師の診察を受けた際,原告両親は,A医師に対して,原告が以前ニューレプチルと同じアパミンを25ミリグラム投与されて同様の状態となったことがあることを初めて報告した。 これに対して,A医師は,精神科臨床における経験上,新しい薬剤の処方時には,一時的に鎮静がかかることがあり,そのために倦怠感をしばしば認めることがあること,本件では原告に投与されたニューレプチルが10ミリグラムと少量であり,ここ数日間は過呼吸発作もなく相対的にトラブルも減少していたことから,投薬をすぐには中止せず,心電図,血液検査の結果で判断することとした。 原告に投与されたニューレプチルが10ミリグラムと少量であり,ここ数日間は過呼吸発作もなく相対的にトラブルも減少していたことから,投薬をすぐには中止せず,心電図,血液検査の結果で判断することとした。 そして,このことについて,両親にも説明した。 同月31日に,心電図及び血液検査が行われたが,いずれも異常が認められなかったことから,A医師はそれまでの過呼吸発作は一過性のものと判断した。その後も,血液検査等が随時行われたが,平成10年1月14日実施の検査まで何ら異常はなかった。 同日の検査の結果に表れた数値もごく軽度の肝機能障害を示すものに過ぎず,年末年始の外泊中に明らかに原告が飲酒したと疑われたことから,A医師としてはもうしばらく様子を見た上で,改めて再検査し,薬剤中止を含めて処方を検討することとした。 他方で,原告の入所後の問題行動は,他の入所者に対する重大な人権侵害を含むものが多く見られるのであって,他の入所者の人権保護のためにも,また,原告自身がHにおいて継続的に福祉的サービスを享受するためにも,原告に対する投薬を中止することは不可能であった。 以上のとおり,H及びA医師は,原告に対する薬剤投与にあたって,原告の体調に十分配慮しており,また,原告の上記問題行動からしても投薬を中止することは到底できなかった。 よって,被告Gに,原告が主張するような健康配慮義務違反はない。 イ A医師の注意義務違反(原告の主張)(ア) 原告に対する看護健康管理義務違反A医師は,Hの嘱託医であるとしても,医師として同園から独立して医学的見地から原告の状態を客観的に診察し,医学 主張)(ア) 原告に対する看護健康管理義務違反A医師は,Hの嘱託医であるとしても,医師として同園から独立して医学的見地から原告の状態を客観的に診察し,医学的に必要であれば,その範囲で薬剤の処方をすべき義務がある。 にもかかわらず,A医師は,同園が原告の問題行動に対して,秩序維持の目的で薬剤の増量を希望していることを知りながら,同園に乞われるがままに,原告に対して,漫然とニューレプチル等の薬剤を処方した。 (イ) 原告に対する健康配慮義務違反また,A医師としては,やむを得ず薬剤を処方する場合であっても,医師として原告の日常の体調を注意深く観察し,それに合わせて投薬処方をきめ細かく変更するなどの医療的措置を講ずべき義務がある。 にもかかわらず,上記被告Gの注意義務違反(健康配慮義務違反)において主張したとおり,A医師及びHは,原告両親に同意も説明もないまま,漫然と原告の体に合わない薬剤(ニューレプチル)の投与を継続した。 (ウ) A医師は,被告Iが運営するI病院勤務の医師であり,被告Iはその使用者であるから,被告Iは使用者として責任を負う。 (被告Iの認否反論)A医師がI病院勤務の医師であることは認め,その余はいずれも否認ないし争う。具体的には以下のとおりである。 (ア) 看護健康管理義務違反についてA医師がHに乞われるがままに本件投薬を行ったというのは完全な言いがかりである。 A医師は,仮にニューレプチルにより原告に大きな障害が生じた場合,それに対する対処を拒否する意思など全くなかった。実際,平成1 投薬を行ったというのは完全な言いがかりである。 A医師は,仮にニューレプチルにより原告に大きな障害が生じた場合,それに対する対処を拒否する意思など全くなかった。実際,平成10年4月7日に,原告の肝機能が悪化したと報告を受けた時点で,A医師は即座にニューレプチルの中止を指示し,その3日後にはヒルナミン(レボトミン)の中止を指示している。 A医師は,原告のHにおける問題行動が極めて著しく,Hも努力しているものの,やはり医療的手段を採らねば沈静化できないことから,原告のHの退所という不利益が生じるのを防ぐため,医療的必要性から本件投薬を行ったのである。 (イ) 健康配慮義務違反について上記被告Gの主張のとおり,A医師とHは不断に原告の体調を観察し,対応してきたのであり,原告の問題行動に鑑みると投薬を中止することは不可能であった。 よって,A医師に健康配慮義務違反は認められない。 ウ被告L市の注意義務違反(原告の主張)被告L市は,措置権者として,憲法,知的障害者福祉法の趣旨に則り,原告が適正な療育を受けられるよう,措置委託先を選定し,委託後も適正な療育がなされるように監督する義務がある。 にもかかわらず,被告L市は,Hが上記のとおり更生施設の目的に沿った適切な福祉的措置を行っておらず,かえって,Hの秩序維持を目的として継続的投薬をし,さらには,原告の問題行動に対して,薬剤を増量するといった規制目的・管理目的で薬剤を利用していた実態を何ら把握せず,漫然と原告をHに措置入所させ,措置後もHが原告に対して上記のとおり義務に違反していた事態を把握せず放置した。 増量するといった規制目的・管理目的で薬剤を利用していた実態を何ら把握せず,漫然と原告をHに措置入所させ,措置後もHが原告に対して上記のとおり義務に違反していた事態を把握せず放置した。 (被告L市の認否反論)(ア) Hにおける本件投薬に違法性がないことは,被告Gが主張するとおりであるから,これを援用する。 (イ) 被告L市に監督義務違反がないことについてM福祉事務所長が選定したHは,当時の社会福祉事業法(現「社会福祉法」)に基づき設立された社会福祉法人である被告Gにより設置された施設である。同法において社会福祉法人の所轄庁は原則的に都道府県知事とされ,所轄庁は,社会福祉法人が,法令,行政庁の処分,定款に違反し,またはその運営が著しく適切を欠くと認めるときは,当該社会福祉法人に対し,期限を定めて必要な措置を採るべき旨を命ずることができ,社会福祉法人がこの命令に従わないときは,期間を定めて業務の全部または一部の停止を命じ,また,監督の目的を達することができないときは,解散を命ずることができると規定されていた。 被告Gは,本件当時,法令,行政庁の処分または定款に違反し,その運営が著しく適切を欠くと認める事由があって,所轄庁である兵庫県知事により法に基づき必要な措置を採るべき旨の命令などを受けた事実は認められず,社会福祉事業法及びその他の法令に著しく違反していたいうことはできない。 また,被告Gが,適切な福祉的措置を行っておらず,Hの秩序維持を目的として継続的に投薬し,制裁目的・管理目的で薬剤を利用していたという原告が主張するような実体も認められなかった。したがって,M福祉事務所長が,原告をHに入所させ援護を委託したことについて 維持を目的として継続的に投薬し,制裁目的・管理目的で薬剤を利用していたという原告が主張するような実体も認められなかった。したがって,M福祉事務所長が,原告をHに入所させ援護を委託したことについて,その選定に違法性はない。 さらに,被告L市が措置後においても,被告Gが原告に対して義務に違反していた実態を把握せず放置したと原告が主張する点については,公務員の不作為の違法を主張するものであり,法的な作為義務が存在することが必要である。 社会福祉法人が設置する施設の運営については,所轄庁である兵庫県知事が監督責任を負担するものであって,被告L市は,特段の事情がない限り,被告Gに対する監督義務はなく,被告L市が委託後の監督義務違反により損害賠償責任を負うことはない。 以上により,被告L市が原告に対し,国家賠償法に基づき損害賠償を負担するとの原告の主張は,理由がない。 (3) 争点④(損害額)について(原告の主張)原告が,本件投薬によって,自分らしさを発揮する機会を与えられることなく,終始,眠気の中で無為に過ごさざるを得なくなり,過呼吸発作や肝機能障害を来したことによって被った肉体的精神的苦痛は計り知れない。その苦痛を金銭で評価することは困難であるが,あえて評価すれば500万円を下ることはない。 (被告らの認否)争う。 原告が主張する各損害は,いずれも法的に損害と評価するに値するものとはいえない。 第3 当裁判所の判断 1 前記前提となる事実,証拠(甲1,4~7,11~21,乙3,丙1~11,15,16,丁1~3,原告本人,証人C,同D,同A〔ただし,甲16,17,19ないし2 えない。 第3 当裁判所の判断 1 前記前提となる事実,証拠(甲1,4~7,11~21,乙3,丙1~11,15,16,丁1~3,原告本人,証人C,同D,同A〔ただし,甲16,17,19ないし21,証人Cについては,以下の認定に反する部分を除く。〕)及び弁論の全趣旨を総合すると,以下の事実が認められる。 (1) Hへの短期入所に至る経緯前記前提となる事実(3)事実経緯ア「Hへの短期入所に至る経緯」記載のとおりの経緯を経て,原告は,平成5年11月23日以降,Hに短期入所することになった。 (2) Hへの短期入所とその間の原告の問題行動ア原告は,以下のとおり,14回にわたってHに短期入所したが,その間に数々の問題行動を起こした。主なものを挙げると以下のとおりである。 (ア) 第1回(平成5年11月23日~同年12月26日)11月24日ティータイム前,女子入所者の胸を触っていた。 29日ティータイム後,男子入所者と口論になり蹴られたことから,自分のコップを床に投げつけて割る。 12月14日午後7時30分ころ,女子入所者の足の間に原告の両足を置いて寝転がっている。 16日男子入所者に返事を強制的にさせている。 18日日中,何度も男子入所者に接触し,あごを触ったり返事を強制的にさせたりしている。 (イ) 第2回(平成6年1月9日~同年2月20日)1月18日陶芸作業中,隣の男子入所者を突然叩いている。相手が痛がるのを見て,とても嬉しそうにしている。 21日食堂掃除時,女 2月20日)1月18日陶芸作業中,隣の男子入所者を突然叩いている。相手が痛がるのを見て,とても嬉しそうにしている。 21日食堂掃除時,女子入所者をからかったり,男子入所者に返事を強要している。 (ウ) 第3回(同年2月27日~同年4月10日)3月3日女子入所者に背後から抱きついている。 (エ) 第4回(同年4月29日~同年5月9日)5月4日男子入所者の首に唾を吐きかける。 (オ) 第5回(同年6月11日~同月12日)(カ) 第6回(同年8月13日~同月21日)8月14日朝5時に起き,1階入所者を起こして布団も上げてしまう。 (キ) 第7回(同年11月8日~同年12月25日)11月10日午後3時30分ころ,自動車のエンジンの金具(丸く薄いもの)を男子入所者に投げつける。 11日男子入所者をからかっている。 21日作業中,他の入所者に叩かれてパニックを起こす。 12月11日夕方,皆がいる前でマスターベーションをする。 夕食後,職員に注目させてからマスターベーションを始める。 14日入浴時,職員と目が合うと,わざとマスターベーションのまねをする。 (ク) 第8回(同年12月27日~同月30日)12月28日朝食時,洗面所で他の入所者にぶつかられ,強く押している。 29日午 (ク) 第8回(同年12月27日~同月30日)12月28日朝食時,洗面所で他の入所者にぶつかられ,強く押している。 29日午後8時30分ころ,男子入所者に「はよ寝よ。」と言われ,写真を投げ,服を破ろうとする。 (ケ) 第9回(平成7年2月5日~同年3月7日)2月11日午後11時30分ころ,2階男子トイレで,男子入所者に「○○君のチンチン,ちょんぎってもたる。」と大声で言っている。 16日午後8時ころ,女子入所者にキスをしている。 午後10時ころ,同じくキスをしようとする。 17日午後8時ころ,女子入所者の頬に軽くキスをする。 20日消灯時,1階の他の男子入所者のベッドで寝ている。 22日夕食後,男子入所者に殴りかかられ,女子入所者に飛び乗る。 23日午後11時40分ころ,1階女子入所者と一緒に寝ている。 3月2日入浴時,脱衣場でマスターベーションを何度もしようとしている。 (コ) 第10回(同年3月18日~同年5月10日)3月23日午後10時40分ころ,他の男子入所者のベッドで寝ている。 24日夕食前,他の入所者に叩かれて仕返しをした後,側にいた女子入所者を後ろから倒し,2回跳び蹴りをする。 26日昼食時,他の入所者のコップにお茶をついで回っているとき,男子入所者が大声で拒否したため,その入所者 ,側にいた女子入所者を後ろから倒し,2回跳び蹴りをする。 26日昼食時,他の入所者のコップにお茶をついで回っているとき,男子入所者が大声で拒否したため,その入所者の手を箸で突いている。 28日消灯後,男子入所者が脱いでいた服を便器の中に入れている。その後,1階の他の男子入所者のベッドで寝ている。 29日起床時,女子入所者の鞄からナプキンの袋を取っている。 31日午後10時前,女子入所者にキスをする。 4月17日夕食時,箸で人を突く行為がある。 20日ティータイム後,男子入所者を突き飛ばし,注意した後に他の入所者を突いている。 25日午後5時ころ,テレビを見ていた男子入所者をいきなり強く押し倒す。 26日昼食時,突然男子入所者に殴りかかられ,近くにいた女子指導員の顔を殴る。 28日球技大会中,男子入所者二人に唾を吐きかけることが多い。 5月3日午前中,男子入所者に靴の泥をなすりつける。 6日午前中,男子入所者にテレビを消され,突然殴りかかる。 (サ) 第11回(同年6月21日~同年7月2日)6月21日ティータイム後,女子入所者の頬に軽くキスをしている。 22日入浴後,女子入所者の胸が内出血しているため確認すると,「触りたかったんや。」「つまんだんや。」と認める。 23日夕食後,女子入所者への接近が目 22日入浴後,女子入所者の胸が内出血しているため確認すると,「触りたかったんや。」「つまんだんや。」と認める。 23日夕食後,女子入所者への接近が目立ち,頬にキスしたりしている。 26日午後,女子入所者と一緒に布団に入って寝ている。 7月1日朝食後,男子入所者に女子入所者の胸を触ったと詰め寄られ,足を蹴られたので,原告も頭突きを返す。 昼食後,女子入所者を連れてきて,一緒にベッドに入っている。その後も,その入所者を見つけると,一緒に寝ようとする。 (シ) 第12回(同年9月22日~同年9月24日)9月23日昼食後,ベッドに女子入所者を寝かせ,原告は上服とパンツのみで立っている。「ちかんしようと思った。」と言っている。 24日朝食後,女子入所者を自室に連れて入り,顔をじっと見ていた。 (ス) 第13回(同年11月10日~同月12日)11月12日朝食時,今回の短期入所中にしたことを次々に話す。女子入所者の服を触った,女子入所者に唇で唾を付けたなどと言っている。 昼食後,女子入所者のパンツの中に手を入れたと言っている。 (セ) 第14回(同年12月25日~同月31日)12月25日短期入所のために来園途中,電車の中で女性のスカートを触った。 27日朝食前,女子入所者の部屋に入っている。 朝食後,その女子入所者と一緒にトイレに入って 中で女性のスカートを触った。 27日朝食前,女子入所者の部屋に入っている。 朝食後,その女子入所者と一緒にトイレに入っていたと他の入所者から報告があった。 午後1時過ぎ,職員の目の前で,女子入所者の股間を触っている。 午後8時過ぎ,女子入所者の背中に手を回して話しかける。 30日午後9時30分ころ,他の入所者と積み木ゲームをするが,女子入所者が気になり,顔を触ったりキスをしようとする。 イなお,原告は,平成7年8月25日,Oにより処方されたアパミン(ニューレプチル)を服用したことによって,翌26日に,頻脈発作を起こした。そして,Hは,同月30日及び同年9月6日に,原告が薬剤の副作用として頻脈発作を起こしたことについての報告を受けた(丙1の1089頁,丙2の2221頁)。 (3) 措置入所に至る経緯原告がHへの短期入所を繰り返してきた間,M福祉事務所,L市児童相談所,K作業所,N高校,H,原告両親等は,原告の処遇について,11回にわたって合同ケース会議を開き,協議,検討を重ねてきた。その結果,平成8年6月1日,M福祉事務所長は,精神薄弱者福祉法(現「知的障害者福祉法」)第16条1項2号に基づき,原告の入所援護をHに委託する旨決定し,原告は,同月10日からHに入所した。 なお,Cは,入所に際し,Hから「持ってきていただくもの」(甲19末尾添付)として「薬(投薬中のものを2週間分)」との指示があったことから,当時原告は服薬していなかったにもかかわらず,Eクリニックから不穏時屯用としてヒルナミン(レ ってきていただくもの」(甲19末尾添付)として「薬(投薬中のものを2週間分)」との指示があったことから,当時原告は服薬していなかったにもかかわらず,Eクリニックから不穏時屯用としてヒルナミン(レボトミン)の処方を受け,これを原告に持たせた。 (4) 措置入所後の状況ア措置入所時の診断と処方原告は,平成8年6月11日にI病院において,B及びH職員同席の下,A医師の診察を受けた。同医師は,同職員から原告の短期入所中に問題行動が多発していたこと,夜間徘徊することの報告を受け,Eクリニックからの紹介状を基に向精神薬レボトミン5ミリグラム1錠及び睡眠導入剤レンドルミン1錠を眠る前1回服用するよう処方をした。その際,BはA医師に対して投薬について特段異を唱えなかった。 イ措置入所後,ニューレプチル投薬に至るまでの間の原告の問題行動しかしながら,措置入所後も原告の問題行動は治まらず,以下のとおり問題行動を繰り返した。 平成8年6月18日起床時,男子入所者にしつこくされ,その入所者の顔を引っ掻く。 20日日中,女子入所者に原告のパンツをはかせている。 23日昼食後,他者の部屋に入ったり女子入所者を部屋に連れ込むなどして男子入所者に怒鳴られる。 26日午後4時30分ころ,女子入所者を居室に連れ込もうとしている。 夕食前,男子入所者を叩く。 7月6日午前,女子入所者と一緒に寝ている。 さらに,原告は,同年7月14日午後7時ころ,男子入所者と口論にな 夕食前,男子入所者を叩く。 7月6日午前,女子入所者と一緒に寝ている。 さらに,原告は,同年7月14日午後7時ころ,男子入所者と口論になり,男子入所者2名の頭部をコップで殴打して,それぞれ2針及び3針の縫合を要する傷害を負わせるまでに至った。 ウニューレプチル投薬とその後の原告の症状H職員が,平成7年7月14日夜,原告自宅に電話し,Bに対し,同日の上記傷害事件を含む経緯を説明したところ,Bは「帰省まで2週間ありますが,原告をみてもらえますか。」と答え,原告が今後も継続的に入所することができるかについて懸念を示した。 H職員は,翌15日,Cに対して電話で同日に至るまでの経過を説明するとともに,原告の他害行動を防止するためには精神科医による医療的支援が必要であり,投薬の必要があれば服薬させたいので,明日精神科医の診察に同行して欲しいと求めたが,Cは,明日は都合が悪いので診察には同行できない,対応はHに任せると答えた(丙1の1095頁,丙3の3033頁)。 そこで,原告は,同月16日,H職員の立会いの下で,A医師の診察を受けた。A医師は,原告のHにおける問題行動が日に日にエスカレートしており,性的ないたずらや,相手を負傷させる事件まで起こしたという報告をH職員から受け,このままでは園での対応が不可能となり,強制退去もあり得ると考え,これを防止するために,同日よりニューレプチル5ミリグラムを朝夕2回服用するよう処方した。 Hは,翌17日,上記診断結果についてCに報告した(丙1の1095頁,丙3の3035頁)。 原告は,同日の昼食後,眠そうな状態であり,ティータイム後には部屋で Hは,翌17日,上記診断結果についてCに報告した(丙1の1095頁,丙3の3035頁)。 原告は,同日の昼食後,眠そうな状態であり,ティータイム後には部屋でうずくまっており,職員に促されて自室で横になった。同日午後9時ころには,カーテンに向かって放尿していたが,表情は険しく苦しそうであり,翌18日,昼食前も顔色が悪く,職員の「しんどい?」との問いかけに対して,「うん。」と答えた。また,同日午後9時ころには,「しんどい。」と訴えて指導室に来室した(丙3の3036頁)。 翌19日,原告はA医師の診察を受けたが,投薬はすぐには中止せず,様子を見ることとなった(丙3の3036頁)。そして,A医師は従前どおり,レボトミン(ヒルナミン)とレンドルミンを追加投与した。 その後も原告は,20日の起床時,日中,ティータイム後,21日の起床後,ティータイム後,22日の起床時にそれぞれ「しんどい。」と訴え,また,「発作がある。」などと訴え,23日には,過呼吸発作様の症状を呈するに至った。 そこで,同年7月23日,Hは,原告に内科検診を受けさせた。検診の結果,原告の症状は,精神安定剤を服用することにより,以前の発作がきっかけとなって発症した過呼吸症候群であると診断されるとともに(丙3の3039頁),呼吸法の指導を受けた(丙1の1096頁)。これにより過呼吸発作は治まった。 また,その後のニューレプチルの継続投与によっても,過呼吸発作が再発することはなかった。 エニューレプチル投薬当初の原告両親の対応平成8年7月23日,H職員が上記内科検診の診断結果をCに報告したところ,原告両親は投薬について不安を覚え,翌24日及び25日に,Hに電話 ニューレプチル投薬当初の原告両親の対応平成8年7月23日,H職員が上記内科検診の診断結果をCに報告したところ,原告両親は投薬について不安を覚え,翌24日及び25日に,Hに電話をかけて投薬の中止を求めた(丙1の1096頁,丙3の3040頁)。これに対し,Hは,投薬と上記過呼吸発作とは直接因果関係がないと思われること,精神科医と相談するまで現状維持でいくということを説明したが,原告両親は投薬を中止しないのであれば,原告を迎えに行き,自宅から病院に連れて行くと伝えた。そこで,翌26日,CがHを訪れると,D園長はCに対して,現在は投薬により原告の問題行動が抑えられている状態であり,Hとしては投薬が必要であると考えていること,Hの方針と合わないからといって退所しても自宅で引き受けられる状態ではなく,警察沙汰や精神病院に入院せざるを得なくなる事態にもなりかねないことを説明し,今後の対応として,同年7月30日に原告両親とともにA医師の診察を受けることとし,必要であれば合同ケース会議を開催すると説明した。CはHから上記のような説明を受けたことにより,原告を連れて帰ることを取り止めた。 同年7月30日,原告両親はHを訪れて原告と面会し,I病院に赴いて,D園長らH職員同席のもと,A医師より説明を受けた。A医師は原告を集団生活に適応させるため,最小限の薬物療法は必要であること,現在投与しているニューレプチルは1日10ミリグラムであり,通常よりごく少量から開始していること,ニューレプチルには副作用として過呼吸発作は出ないこと,ただし副作用が出ては困るので,相談しながら投与することを説明した。これに対して,Cは,以前関西サナトリウムで処方された薬剤がアパミンとタスモリンであることを初めてA医師に伝えた。そこで,同医師 ,ただし副作用が出ては困るので,相談しながら投与することを説明した。これに対して,Cは,以前関西サナトリウムで処方された薬剤がアパミンとタスモリンであることを初めてA医師に伝えた。そこで,同医師は原告両親に対して,アパミンがニューレプチルと同じ薬剤であること,原告が薬剤に敏感な体質かも知れないので経過を追って慎重に対応するが,現状で薬剤投与の継続は可能であること,薬剤による副作用のうちアレルギー性ショックは服薬数日で発生し,薬疹は服用2週間以内に出てくることなどを説明し,今後,H入所者の被害を最小限に抑え,人間関係をうまくやっていくため,投薬を継続することの必要性を説明した。H職員も,原告両親に対して,服薬の必要性を説明し,帰省中も継続することが大切であること,一時的に服薬を中止して状態が悪くなると,薬剤が増える可能性もあることを伝えた(丙1の1103頁・1104頁,丁1の5頁,丁2の1頁)。以上の説明に対し,原告両親は特段異を唱えず,また,原告を自宅に連れ戻すこともしなかった。 翌31日,原告は心電図検査,血液検査を受け,同年8月2日のA医師の診察では全身倦怠感を訴えたが,検査結果に異常は認められなかった(丁1の5頁・7~9頁,別紙検査結果一覧表,丁2の1・2頁)。同医師は,翌3日からの原告の帰省期間中は投薬を一時中止して帰園後調整する方法もある旨述べたが,Hから投薬の継続を要請されたため,帰省期間中はニューレプチルの量を半減させて投薬を継続することとした。 原告は同年8月3日から同月21日までの帰省期間中も服薬を継続したが,特に体調不調を訴えることはなかった(丙3の3046頁~3058頁・3118頁)。また,原告両親からもHに対して原告への投薬について異議申立てはなかった(丙3の3052頁 期間中も服薬を継続したが,特に体調不調を訴えることはなかった(丙3の3046頁~3058頁・3118頁)。また,原告両親からもHに対して原告への投薬について異議申立てはなかった(丙3の3052頁)。同月22日の帰園以降も,原告から体調不調の訴えはなかった。 オその後の本件投薬の継続と原告の問題行動平成8年8月22日の帰園以後も原告の問題行動が多発し,特に性的な問題行動が目立ったことから,同年9月19日,HはA医師と相談の上,原告に対するニューレプチルの量を元の1日10ミリグラムに戻した。以後,原告は,平成10年4月5日に自主的に服薬を中止するまで,別紙投薬状況一覧のとおりA医師よりニューレプチル等の薬剤の投与を受けた。 原告の平成8年8月22日以後のHにおける問題行動のうち,主なものを挙げると以下のとおりである。 平成8年8月22日男子入所者の衣類,カセットテープ,カセットデッキを焼却する。 23日起床時,パンツ姿で1階に降り,女子入所者を自室に連れて行こうとしている。 24日午後7時ころ,生理用のナプキンを多く取り込み,破っている。 26日午前0時30分ころ,女子入所者の部屋に入る。 28日女子入所者の手を握っている。 31日男子入所者の引き出しに,女子入所者の下着を5枚入れている。 9月5日消灯前,男子入所者の布団を水浸しにする。 7日昼食時,女子入所者のおかずに釘4本を入れる。 15日 主文 理由 事実 9月5日消灯前,男子入所者の布団を水浸しにする。7日昼食時,女子入所者のおかずに釘4本を入れる。15日午後の芋掘り作業中に,女子入所者のお尻や胸を触る。入浴後,女子入所者のブラジャーを外し,下半身を裸にしている。「パンツ脱がせて気持ちいいことしてあげた。あそこの毛抜いたった。」と言う。18日午後9時ころ,何度も1階の女子入所者の部屋に行こうとしている。19日女子入所者の服を破ったことを認める。ティータイム時,男子入所者の顔を何回も平手打ちする。20日起床時,女子入所者の耳に無理矢理指を入れようとする。24日夕食前,女子入所者にキスしている。10月11日夕食後,女子入所者の上靴に唾を吐いている。12日入浴後,女子入所者のブラジャーを破る。21日午前9時ころ,女子入所者と女子トイレに入り,鍵をかけている。夕食前,男子入所者を何度も押す。28日男子入所者の布団に水をかける。11月7日朝食後,女子入所者を突き飛ばす。9日消灯後,女子入所者の部屋に行っている。10日女子入所者3名にキスする。13日午後9時ころ,女子入所者の居室に入ったり 9日消灯後,女子入所者の部屋に行っている。 10日女子入所者3名にキスする。 13日午後9時ころ,女子入所者の居室に入ったり,電気を付けたりする。 17日午後7時30分ころ,男子入所者にしつこくされたらしく,その人のコップを割る。 18日午後10時10分ころ,女子の風呂場に入り生理用品を散乱させる。 22日朝食後,男子利用者を追いかけ回す。 夕食前,倉庫内に入って生理用品を気にする。その後,女子職員の胸を触ろうとする。 25日午後8時ころ,男子入所者の布団に水をかける。 12月2日午前7時15分ころ,突然歯ブラシを折る。その後,職員の服で顔をふき,男子入所者の顔を叩く。 3日男子入所者に,いきなり掴みかかる。 8日 1階女子トイレから女子入所者の「やめてー。」と大声で叫ぶ声が聞こえたため職員が確認に行くと,パンツをずらしたまま女子入所者が立っており,原告は,「○○ちゃんの腕振り回したった。○○ちゃんのおしっこ出るとこ触ったった。」と言う。 19日消灯時,男子入所者の服を持って行こうとし,抵抗されたためその人の右目を引っ掻く。 21日起床時,男子入所者に叩かれ,思い切り3回叩き返す。 28日 (帰省中)公衆電話の電話帳を多数持ち出して,川や池に捨てている。 平成9年 叩かれ,思い切り3回叩き返す。 28日 (帰省中)公衆電話の電話帳を多数持ち出して,川や池に捨てている。 平成9年1月9日朝食後,女子入所者に何度もキスしようとしている。 10日夕食前,男子入所者の顔中を引っ掻いている。 17日起床時,ベッドに110円落ちているため,職員が確認すると,女子入所者のロッカーから盗んだと言う。 19日起床時,女子入所者の下着を衣類ロッカーに隠し持っている。 25日午後6時30分ころ,女子入所者が原告を噛もうとしたことに腹を立て,その入所者の顔を2回殴る。 29日夕食後,女子職員のお尻を触る。 31日医務室の生理用品を盗んでいる。 2月4日下駄箱に女子入所者の衣類を隠し持っている。 9日起床時,男子入所者の布団に水をかける。 27日夕食時,男子入所者に注意を受けたことから掴み合いになり,持っていた箸で相手の首を刺し,7針の縫合を要するけがを負わせる。 3月3日ティータイム後,男子利用者を叩いている。 16日布団を唾でぬらしている。 女子職員の股間の辺りを触ろうとする。 4月12日日中,男子入所者の陰部を触る。女子入所者に砂をかける。 消灯後,女子入所者の部屋に入っている。 る。 4月12日 男子入所者の陰部を触る。女子入所者に砂をかける。消灯後,女子入所者の部屋に入っている。 13日 女子入所者の陰部を触ろうとしている。 18日 女子入所者のエプロンでお尻をふき,便を付けている。 21日 電気付けをしていたのを男子入所者に注意されて興奮し,他の男子入所者に水をかける。 22日 いたずらが多いことを男子入所者に注意され,他の男子入所者に水をかける。 30日 他の入所者3名の上履きに自分の便を入れている。 5月7日 女子入所者の体を何度も触ろうとする。消灯後,男子入所者の布団に水をかける。 8日 女子入所者の眉毛を抜く。 25日 入浴後,女子入所者の上靴に便を付ける。 26日 男子入所者と一緒に寝ようとする。 6月4日 午後9時ころ,男子トイレの小便器に石を詰めている。その後,男子入所者の布団に水をかける。 6日 午後11時,男子入所者Aのベッドで寝ている。 8日 起床時,男子入所者Aのベッドで寝ている。 9日 午後11時30分ころ,男子入所者Aのベッドで寝ている。 11日 昼食前,2階トイレで男子入所者Aの靴に便を付け,窓から投げている。 15日 午前8時4 ろ,男子入所者Aのベッドで寝ている。 11日昼食前,2階トイレで男子入所者Aの靴に便を付け,窓から投げている。 15日午前8時40分ころ,男子入所者のパンツを降ろし陰部を触っている。 16日午前8時50分ころ,原告の布団内で,女子入所者と男子入所者を下半身裸にして,原告は布団タンス内に隠れている。 27日消灯時,男子入所者のベッドで寝ている。 7月7日消灯後,男子入所者のベッドで寝ることを繰り返す。 8日消灯後,男子入所者のベッドで寝ることを繰り返す。 28日午前2時ころ,男子入所者の布団で寝ている。 8月1日バケツに水を入れ男子入所者にかけようとする。 28日起床後,女子トイレに籠もる。 10月10日生理用ナプキンを20個ほど持ち込んでいる。 16日起床時,女子入所者のズボンをめくって中を見ている。 平成10年1月29日生理用ナプキンを取り込んでいる。 2月11日消灯後,女子トイレに行こうとする。 12日起床時,女子トイレに隠れている。 28日起床後,女子入所者の耳に指を入れている。 3月5日遊び半分で男子入所者の頭をつかみソファーに叩きつけている。 24日小便をしている男子入所者Aの性器を触り遊んでいた。 3月5日遊び半分で男子入所者の頭をつかみソファーに叩きつけている。 24日小便をしている男子入所者Aの性器を触り遊んでいた。 カ平成9年末から同10年初めにかけての本件投薬に関する原告両親とH・A医師とのやりとり等平成9年12月3日,A医師を講師として,保護者やHの指導員多数が参加する「知っておきたい薬のノウハウ」と題する講演会が開催された。講演後の質疑応答の際,Cは真っ先に手を挙げ,A医師に対して,服薬中に飲酒をさせても構わないかを質問した(甲5,証人A)。A医師は,本来,服薬中に飲酒することは好ましくないと考えたが,嗜好品について強く否定することもはばかられたので,「常識で判断してください。」と答えた(証人A)。Cは,これを,原告に飲酒を控えさせる必要はないという回答を得たものと解釈した(甲5)。 原告は,平成9年12月29日より平成10年1月11日まで,自宅に帰省した。帰省中の同月2日,原告はBとともに居酒屋で飲酒して酒に酔い,店を出たところで嘔吐した。 同月12日,原告がHに戻る際,Bは,Hへの申送書に,原告が帰省期間を通じて眠気を訴え続けており,薬が体に合っていないのではないかと記載して質問し(丙3の3161頁),同月16日にも電話で同様の質問をした。そして,同月19日の検診に立ち会い,A医師に相談したい旨述べた(丙3の3191頁)。 そこで,平成10年1月19日,原告本人,原告両親,D園長らH職員同席の下,A医師による説明会が行われた。A医師は,現在の薬剤の量が通常の投与量からして決して多いものではなく,その他に服用している睡眠薬からしても,Bの言うような朦朧状態になるようなもの らH職員同席の下,A医師による説明会が行われた。A医師は,現在の薬剤の量が通常の投与量からして決して多いものではなく,その他に服用している睡眠薬からしても,Bの言うような朦朧状態になるようなものではないこと,現在の原告の問題行動に照らせばむしろ少なすぎるくらいであることを説明した。また,Bから,原告に飲酒させることの是非について質問され,原告のように薬を服用している人に対しては,肝臓に負担がかかるのでお酒を飲ませるべきではないことを説明した。D園長は,帰省中に服薬をさせないのは自由だが,原告の問題行動やHにおける特に夜間の体制からして,園で投薬を中止することはできないことを説明し,「薬が合っているかどうかは別として,現状が妥当である。飲ませるなというのならやめてもよいが,そうなると両親に責任を取ってもらう。」「A医師が何と言っても,他の医者にお願いしてでも投薬することはある。」「外出時,親の判断で飲まさないのはよいが,園内では難しい。」「園では薬を抜いてまで危険は冒さない。」などと発言した(甲15の1・2,丙1の1105~1108頁)。また,D園長は,睡眠薬の量を減らしてもらえないかというCの質問に対して,原告の状態からして減らすことはできない,自宅で眠そうにしているのであれば,それは原告の自宅での生活リズムにも原因があるのではないかと答えた。説明会の最後にBは,「おっしゃること,よう分かりました。ただ,お伺いしたいのは,症状を見まして,要は朦朧状態があったということで先生に薬の疑問点をお聞きしたかったということで来たんですわ。」と述べ,D園長も「それは分かります。」と答え,A医師も「それは分かりました。お父さんの話で。」と答えた。 (5) 退所の経緯原告は平成10年3月25日に春休みのために自宅に帰省し D園長も「それは分かります。」と答え,A医師も「それは分かりました。お父さんの話で。」と答えた。 (5) 退所の経緯原告は平成10年3月25日に春休みのために自宅に帰省して以降,Hには戻って来なくなった。 原告は,同年5月12日,措置解除となった。 (6) 血液検査の結果原告の平成7年8月28日以降の血液検査の結果は,別紙検査結果一覧表のとおりである。 2 争点に対する判断(1) まず,そもそも,原告が主張するような肝機能障害等の体調不良の事実を認めることができるか(争点①)を検討する。 ア過呼吸発作について原告が,ニューレプチル投与開始後の平成8年7月17日ころより体調不良を訴え,同月23日には過呼吸発作を起こし,内科医の検診により,以前の発作がきっかけとなって発症した過呼吸症候群であると診断されたことは,前記認定のとおりである。 イ肝機能障害について次に,原告の肝機能障害について,前記認定のとおり,原告の平成10年1月14日の血液検査結果によれば,原告のGPT値は70,γ-GTP値は162であり,同年4月6日の血液検査結果によれば,GPT値は102,γ-GTP値は133であることがそれぞれ認められ,これらの数値によれば,原告は少なくとも同年1月14日から同年4月6日に至るまで,軽度の肝機能障害であったことが推認される。 もっとも,証拠(証人A)によれば,上記の数値程度の肝機能障害であれば,自覚症状を伴うこともなく,ましてや意識障害を来すことは考えられず,日常生活に何らの支障がない程度のものであることが認められる。 なお,原告は原告のALP値に関しても 害であれば,自覚症状を伴うこともなく,ましてや意識障害を来すことは考えられず,日常生活に何らの支障がない程度のものであることが認められる。 なお,原告は原告のALP値に関しても異常値であると主張するが,ALP値は骨代謝の影響を受けやすく,特に成長期の若年者においては,300ないし500程度まで上昇することは稀ではないと認められ(証人A),これに反する証拠はないことからすると,原告のALP値は,当時の原告の年齢から考えて,特に異常であると認めることはできない。 ウ眠気等について原告は,本件投薬後,原告が終始眠そうな朦朧状態になり,Hでの時間を無為に過ごさざるを得なくなったと主張する。 しかしながら,原告が本件投薬期間中終始眠そうな状態であったことを認めるに足りる証拠はない。 確かに,前記認定のとおり,原告は,平成8年7月17日から「しんどい。」等と述べて体調不良をたびたび訴えているが,同年7月23日に過呼吸症候群と診断され,呼吸法を教わったことによってその後しばらくして体調が回復しているのであるから,これをもって朦朧状態と認定することはできない。 また,Cは,平成10年3月25日に原告が自宅に戻った際に,原告が朦朧としていたと陳述する(甲8,19)けれども,一方で,Cは,その後,同年4月6日に至るまで病院にも連れて行かず,逆に原告を旅行に連れて行ったなどと証言し,その理由についても「うっかりしていた。」としか証言しないことに照らすと,Cの上記陳述は信用することができない。 むしろ,原告に関するHのケース記録(丙3)上も,同記録中にある原告の帰省中の日記においても,原告が終始眠気を催していた,或いは朦朧状態であ の上記陳述は信用することができない。 むしろ,原告に関するHのケース記録(丙3)上も,同記録中にある原告の帰省中の日記においても,原告が終始眠気を催していた,或いは朦朧状態であったとの記載は見受けられないこと,原告両親のHに対する申送書においても,平成10年1月12日にBが「帰省期間を通じて眠気を訴え続けていました。」と記載するまでは(丙3の3161頁),原告が眠そうであったとか朦朧状態であったなどという記載は認められないこと(丙3の3052頁・3096頁・,3143頁・3148頁・3151頁・3158頁・3178頁),前記認定のとおり,原告は,本件投薬期間中も依然として多数回にわたる問題行動を繰り返していることなどを総合すると,原告が本件投薬期間,終始眠そうな状態であったとか,朦朧状態であったなどと認めることはできない。 (2) 争点②(原告の体調不良が本件投薬によるものか)についてア過呼吸発作について前記認定のとおり,原告が過呼吸発作を起こしたのはニューレプチル投与後間もなくであり,原告が以前にニューレプチルと同じ薬剤であるアパミンを服用した際,頻脈発作を起こしたことがあるところ,平成8年7月23日の内科医の検診によっても,以前の発作がきっかけとなって発症したものとされていることに加え,A医師自身,新たな薬剤を投与すると一時的に体調不良を来すことが医学的に認められており,過呼吸発作とニューレプチル投与とが時期的に一致している以上,何らかの影響を与えた可能性は否定できないと証言していることをも総合すると,原告の過呼吸発作は平成8年7月16日からのニューレプチルの投与によるものと推認することができる。 イ肝機能障害について原告が平成10年 ていることをも総合すると,原告の過呼吸発作は平成8年7月16日からのニューレプチルの投与によるものと推認することができる。 イ肝機能障害について原告が平成10年4月5日に自主的に服薬を中止した後,同年4月24日には,別紙検査結果一覧表記載のとおり原告の肝機能の値が正常化していることが認められ,このことからすると,本件投薬と原告の肝機能障害との間に因果関係があるようにも思える。 しかしながら,本件投薬は平成8年7月6日からであるにもかかわらず,別紙検査結果一覧表記載のとおり,原告のGOT値,GPT値,γ-GTP値は,投薬開始から5か月以上を経過した平成8年12月6日における検査においてすら正常値を示しており,平成10年1月14日,同年4月6日の検査に至って異常な数値を示すようになったこと,証人Aの証言によれば,薬剤投与によるアレルギー反応は当該薬剤投与から1か月程度で出てくるのが通常であることからすると,上記異常値は本件投薬とは無関係であるとみるのがむしろ自然である。 むしろ,原告が,平成9年2月20日に自宅への一時帰省からHに戻った際にアルコールに酔っていたこと(丙3の3104頁),同年10月6日の帰省中にもビールを2本飲んだこと(丙3の3150頁),平成10年1月2日の帰省中にはBと居酒屋で嘔吐するほど飲酒していること(もっとも,原告は食べ過ぎによるものと主張するが,原告の日記〔丙3の3164頁〕には,その後頭が痛くなったことが記載されていることからすると,原告の嘔吐は過度の飲酒によるものであると推認できる。),原告両親も平成9年12月3日及び平成10年1月19日に,A医師に対して原告の飲酒について質問をしており,原告の飲酒について相当の関心を持っていたと認め 過度の飲酒によるものであると推認できる。),原告両親も平成9年12月3日及び平成10年1月19日に,A医師に対して原告の飲酒について質問をしており,原告の飲酒について相当の関心を持っていたと認められること(甲5,15の1・2,証人A)に照らすと,原告は自宅に帰省するたびに相当飲酒していたことが推認でき,このことに,本件において原告に投与されたニューレプチルの投与量は1日10ミリグラムとごく少量であること,本件の原告の肝機能障害が前記認定のとおり軽度のものであることを併せ考慮すると,平成10年1月14日及び同年4月6日の肝機能検査の異常値については,原告が帰省した際の飲酒によるものである可能性が高い。 そうすると,単に原告の服薬中止と肝機能検査の数値の正常化が時期的に一致するからといって,このことだけで,原告の肝機能障害が本件投薬によるものと認定することはできず,その他に,原告の肝機能障害と本件投薬の間の因果関係を認めるに足りる証拠はない。 (3) そうすると,原告の主張する体調不良のうち,平成8年7月17日以降の原告の過呼吸症候群についてのみ,本件投薬との間の因果関係を認めることができる。そこで,さらに,本件投薬の違法性と被告らの過失の有無(争点③)について検討する。 ア Hの注意義務違反(ア) 原告に対する監護療育義務違反Hは,入所者の自立支援を目的とする知的障害者更生施設であるから,入所者に対して福祉的対応が必要であることはいうまでもない。したがって,入所者に多少の問題行動が見られる場合であっても,安易に薬剤に頼るのではなく,原則として,当該入所者が問題行動に至った原因を探り,自ら規範意識を芽生えさせるような福祉的対応を採るべきである。 に多少の問題行動が見られる場合であっても,安易に薬剤に頼るのではなく,原則として,当該入所者が問題行動に至った原因を探り,自ら規範意識を芽生えさせるような福祉的対応を採るべきである。 しかしながら,当該入所者の問題行動が著しく,福祉的対応のみでこれを抑えることが困難な場合,薬剤投与によって,当該入所者が他の入所者とともに自然な形で集団生活を継続し,施設における福祉サービスを享受することができるのであれば,そのために必要最小限の投薬をすることはやむを得ざる措置として肯認されるというべきである。 ただし,かかる薬物療法を実施する際には,精神科医による診断を要するのみならず,当該入所者の保護者の同意が必要であり,本人の理解力によっては本人の意向も尊重すべきである。 そこで,かかる観点から,本件投薬の妥当性について検討する。 a 原告の問題行動に対する投薬の必要性前記認定のとおり,原告は短期入所中から,他の入所者を突き飛ばしたり,箸で突くなどの他害行動に及んでおり,また,女子入所者に対しては,キスをしたり,胸や股間を触る,一緒にベッドに入る,パンツの中に手を入れるなどのわいせつ行為に多数回にわたって及んでいる。また,平成8年6月10日の措置入所後においても,女子入所者を部屋に連れ込むなどの同種の行動が見られ,同年7月14日にはコップで男子入所者を殴打して縫合を要するほどの傷害を負わせるという事態にまで至っている。 これらの原告の他害行動やわいせつ行為は,単なるいたずらの域を大きく逸脱した他の入所者に対する人権侵害行為というほかない。 そして,これら問題行動の中には,原告主張のよ これらの原告の他害行動やわいせつ行為は,単なるいたずらの域を大きく逸脱した他の入所者に対する人権侵害行為というほかない。 そして,これら問題行動の中には,原告主張のように,他の入所者に対する反撃の場合があることは事実であるが,その場合でも原告の反撃の程度は著しく,無関係の者を巻き添えにすることもあり,他害行動に至った経緯すら不明な場合も多々見受けられる。いわんや,女子入所者に対する数々のわいせつ行為に関しては,単に自らの性欲を抑える能力が欠如することによるものであって,被害者に対する関係では,正当化することができないものである。 また,前記認定のとおり,原告の性格の特徴として「衝動性」が挙げられていることからすれば,原告の問題行動は,原告の精神遅滞に基づく衝動性にも起因するものと認められる。 そして,原告のかような問題行動に対して,Hは,措置入所するまでは,福祉事務所等関係機関と計11回にわたって合同ケース会議を開催しながら,基本的には薬剤に頼らず福祉的対応をもって原告に接してきたこと,ところが,原告の問題行動が一向に治まる気配がなく,むしろ悪化しており,福祉的対応も限界に達していたことが認められる。 なお,原告はHが個別的支援計画を策定していないことを批判するが,原告が14回にわたってHへの短期入所を繰り返し,その間,福祉事務所等の関係機関とも11回にわたって合同ケース会議を開催していることからすれば,原告に対する福祉的対応について協議された結果,措置入所に至っているものと認められる。よって,個別的支援計画が策定されていないことをもってHに福祉的対応が欠如していたと認めることはできない。 以上のと 協議された結果,措置入所に至っているものと認められる。よって,個別的支援計画が策定されていないことをもってHに福祉的対応が欠如していたと認めることはできない。 以上のとおり,原告の問題行動は短期入所の間から極めて著しく,同期間中,Hの福祉的対応によっては原告の問題行動を抑えることができなかったこと,原告の問題行動は衝動性に基づくものであることからすると,措置入所当初から原告に対する投薬の必要性は高いものであったことが認められる。 そして,措置入所後も原告の問題行動(特に他害行動)は治まらず,これ以上の問題行動の悪化があれば,原告を強制退所させざるを得なくなり,かえって原告の自立の道が閉ざされるおそれがあったと認められることに照らすと,措置入所後の投薬継続の必要性も高かったものといわざるを得ない。 b 投薬内容の相当性そこで,本件投薬内容の相当性を検討するに,Hでは,措置入所当初から原告に対する投薬の必要性が高かったことから,措置入所の翌日の平成8年6月11日,A医師の診察を受けさせ,その結果,同医師の処方に基づき,向精神薬レボトミン5ミリグラム1錠及び睡眠導入剤レンドルミン1錠を眠る前1回服用させたこと,しかし,その後も原告の問題行動は治まらず,平成8年7月14日には,男子入所者2名の頭部をコップで殴打して傷害を負わせるといった事件を起こしたことから,同月16日から,A医師の処方に基づき,1日10ミリグラムのニューレプチルを服用させるに至ったものであること,もっとも,その服用当初,原告は体調不良を訴え,過呼吸発作を起こしたことから,Hは,A医師の診察に基づき,その1日の投薬量を半減し,5ミリグラムの服用として,その経過をみたが,過呼吸 のであること,もっとも,その服用当初,原告は体調不良を訴え,過呼吸発作を起こしたことから,Hは,A医師の診察に基づき,その1日の投薬量を半減し,5ミリグラムの服用として,その経過をみたが,過呼吸発作については,呼吸法の指導によって治まり,その後は同発作が再発することはなかったこと,心電図及び血液検査の結果には何ら異常はなかったことから,同発作は一過性のものと判断されたこと,その後も,原告の問題行動は必ずしも治まらず,かえって,夏季の帰省(平成8年8月3日から同月21日まで)を終えた平成8年8月22日以降,性的な問題行動が多発したことから,同年9月19日,Hは,A医師の診察に基づき,ニューレプチルの服用量を1日10ミリグラムに戻し,以後,別紙投薬状況一覧のとおり本件投薬を続けたこと,その間も,原告がH退所を余儀なくされるような大きな問題行動はなかったものの,原告の問題行動は治まらず,これが継続していたことは,いずれも前記認定のとおりである。そして,そのため,ニューレチプルの更なる増量が考えられたこともあったが,結局は,上記1日10ミリグラムを超える投薬はなされなかったこと,ニューレプチルの有効な投与量が1日10ないし60ミリグラムであり,初めて使用するケースでは10ミリグラムか20ミリグラムを使用するのが相当であるとされていることが認められる(丁1,3,証人A,弁論の全趣旨)。 そうすると,措置入所後も問題行動が続発した原告に対し,Hは,その経過を観察しながら,本件投薬を継続し,かつ,A医師の処方に基づき,ニューレプチルの投与量を,1日10ミリグラムを超えない必要最小限に抑えつつ,原告が退所を余儀なくされるような大きな問題行動を引き起こさないよう対処してきたものであり,また,ニューレプチル投与開始当初に原 レプチルの投与量を,1日10ミリグラムを超えない必要最小限に抑えつつ,原告が退所を余儀なくされるような大きな問題行動を引き起こさないよう対処してきたものであり,また,ニューレプチル投与開始当初に原告に生じた過呼吸発作も,新たな薬剤の使用に際して生じた一過性の体調不良であり,呼吸法の指導によってすぐに解消し,その後は再発することもなかったことにも照らせば,本件投薬内容は相当なものであったと認めることができる。 c 原告両親の本件投薬に対する同意原告両親は投薬については同意していないと主張し,その旨陳述ないし証言する(甲8,19,21,証人C)。また,平成7年8月26日に原告がアパミンを服用したことによって頻脈発作を起こしたことから,同時期にCには精神科薬に対する心理的抵抗があったことが認められる(丙2の2221頁)。 しかしながら,平成7年7月5日の合同ケース会議での話し合いでは,「今後は,日中の精神安定剤の服薬も考えながら,問題行動が起きた時は,次の大きな問題を起こす前に対処していく必要があると思われます。」との報告がなされており(丙1の1075頁),原告両親及びD園長らH職員も出席した平成7年12月4日のケース会議でも,在宅での監護は限界に来ていること,今後は医療機関も必要であり,時には薬物療法も必要と思われることが確認されている(乙3,証人D)。 また,同月31日にCがHに来園した際にも,職員はCに対して,「合同ケース会議にもあったように,精神科医に相談するのも一つの方法ではないか。」と伝えている(丙2の2250頁)。 加えて,原告両親は平成8年6月10日の措置入所にあたって,従前投薬処方を受けていないに 精神科医に相談するのも一つの方法ではないか。」と伝えている(丙2の2250頁)。 加えて,原告両親は平成8年6月10日の措置入所にあたって,従前投薬処方を受けていないにもかかわらず,Hから渡された「持ってきていただくもの」(甲19末尾添付)の中に,「薬(投薬中のものを2週間分)」が記載されていたことから,わざわざ牧原クリニックにおいてヒルナミンの処方を受け,入所する際にこれを持たせていること(この点,Cは持ってくるものとして指示された以上は準備しなければならないと思い込んだと証言するが,書面には明確に「投薬中のもの」と記載されているのであって,かかる思い込み自体不自然なものである。),入所翌日の同月11日には,Bが同行してA医師の診察を受けているにもかかわらず,その際,Bは投薬についての不安を何ら申し出ていないこと,ニューレプチルが初めて処方された同年7月16日のA医師の診察についても,CがHに対応を任せると回答していること,Cが同月26日に原告の過呼吸発作を知り,原告を自宅に連れて帰ると言ってHを訪れた際も,D園長から,原告の問題行動を押さえるためには投薬の必要があるという説明を受けて納得し,結局原告を連れ帰ることを取り止めていること(もっとも,CはD園長に恫喝された旨証言するが,前記認定のとおり,同園長は不安定な状態のまま原告を帰宅させた場合の危険性を述べただけであって,これをもって恫喝と認定することはできない。),同月30日には,A医師は原告両親に対して投薬についての詳細な説明をし,その際も原告両親は原告を連れて帰らなかったこと,以上の事実からすれば,原告両親は,本件投薬の当初の時点においては,本件投薬に同意していたものと認められる。 そして,その後も,Cは,同年8月16 れて帰らなかったこと,以上の事実からすれば,原告両親は,本件投薬の当初の時点においては,本件投薬に同意していたものと認められる。 そして,その後も,Cは,同年8月16日に,被告L市のFケースワーカーに対して,「薬が合っているのか夜寝てくれるので以前ほど心配することはない。」と述べ,同年12月16日にも同人に対して「園では薬が合っているのか順調に生活している。」と報告している(乙3の各日付欄)。また,平成9年3月2日の保護者会において,H職員が原告両親に対して,同年2月27日に原告が他の入所者の首を箸で刺してけがをさせたため,今後は精神科医と相談して,処方を変更することもあり得ると説明したところ,原告両親もこれを了承している(丙3の3101頁)。 もっとも,さらに後の平成10年1月19日の説明会の際に,D園長は前記認定のとおり,Hは本件投薬が原告の体に合っていなくても,Hでは薬剤投与を続けるし,また,A医師が投薬しなければ他の医師に頼んででも投薬を継続するという趣旨の発言をしているが,前記認定のとおり,同日の時点においても,原告の問題行動は依然として治まっていなかったのであり,Hとしては本件投薬を中止するといかなる不測の事態が発生するかも知れないという不安が強かったものと認められ,もしかかる事態に至れば,Hとしても他の入所者に対する責任問題にも発展しかねないし,また,原告にとっても強制退所により今後の自立が困難となるという事態に陥る可能性もあったため,かかる事態を何としても避けなければならないという焦りの余り,上記発言に至ったものと認められる。よって,上記発言をもって,Hが原告両親やA医師の意思を無視して薬剤投与を継続する意思であったと認めることはできない。 らないという焦りの余り,上記発言に至ったものと認められる。よって,上記発言をもって,Hが原告両親やA医師の意思を無視して薬剤投与を継続する意思であったと認めることはできない。 むしろ,同説明会の最後に,Bは「おっしゃること,よう分かりました。ただ,お伺いしたいのは,症状を見まして,要は朦朧状態があったということで先生に薬の疑問点をお聞きしたかったということで来たんですわ。」と述べて,原告を引き取らずに帰ったこと,Cも「もう少し様子を見ようと思って,その場は一応あきらめたんです。」と証言していることからすると,原告両親はHでの投薬に同意したものというべきである。 以上からすれば,原告両親は,本件投薬について進んで賛同したものではないとしても,原告の措置入所以降,H及びA医師の説明を受け,一貫して本件投薬について同意していたと認めることができる。 d 結論以上の次第で,原告の問題行動の深刻さやそれが原告の衝動性に起因すると認められること,本件投薬前のHの対応状況を総合すれば,原告の問題行動を福祉的対応によって抑えるのは困難であって,本件投薬は必要やむを得ないものであったと認められるし,その投薬内容には相当性が認められる。さらに,本件投薬について原告両親の同意も得ていると認めることができる。 そうすると,本件投薬について,原告に対する監護療育義務違反を認めることはできない。 (イ) 原告に対する健康配慮義務違反確かに,前記認定のとおり,ニューレプチル投与後の平成8年7月17日から同月23日までの間,原告は過呼吸症候群による体調不良を訴えていたこと,平成10年1月14日以降, 違反確かに,前記認定のとおり,ニューレプチル投与後の平成8年7月17日から同月23日までの間,原告は過呼吸症候群による体調不良を訴えていたこと,平成10年1月14日以降,原告に軽度の肝機能障害が認められたこと,ところが,H及びA医師は原告に対するニューレプチル投与を継続したことが認められる。 しかしながら,過呼吸症候群の発症は,一過性のものであったと認められ,過呼吸発作は呼吸法の指導を受けたことで治まり,その後に再発もなく,また,心電図や血液検査の結果にも異常はなかったことは前記認定のとおりであり,Hが,原告の経過を観察しながら,A医師の診察に基づき,ニューレプチルの投薬量を半分に減量してその投薬を継続したことは相当な措置であったと認められる。 また,同年9月19日に,A医師及びHが,それまで半減していたニューレプチルの量を元に戻したことについても,前記認定のとおり,原告の性的な問題行動が目立ったためであり,これについても,やむを得ない相当な措置であったと認められる。 次に,肝機能障害との関係についても,そもそも原告の肝機能障害の程度自体,自覚症状を伴うようなものではなく,ごく軽度のものであること(証人A),前記認定のとおり,同肝機能障害が本件投薬によるものと認めることはできず,むしろ,原告の帰省時における飲酒による可能性があること,当時,原告の問題行動は相対的に治まっており,危険を冒して投薬を中止するよりは,原告の比較的安定した状態を継続するために投薬を継続する必要性は依然として高かったと認められることからすると,経過を観察しながら投薬を継続したHの判断に,健康配慮義務違反を認めることはできない。 なお,原告は,原告 投薬を継続する必要性は依然として高かったと認められることからすると,経過を観察しながら投薬を継続したHの判断に,健康配慮義務違反を認めることはできない。 なお,原告は,原告が平成7年8月25日,Oでニューレプチルと同じ薬剤であるアパミンを処方され,頻脈発作を起こしていたことから,そのことを考慮せずにH及びA医師においてニューレプチルを原告に投与したこと自体がHの過失であるとも主張する。 しかし,前記認定のとおり,Hは,原告が同日に薬剤の副作用と思われる頻脈発作を起こしたことの報告は受けていたものの,その薬剤名や症状の詳細,また,原告に対する同薬剤の投与が禁忌であるといったことの報告までは受けていなかったと認められる(丙1の1089頁,丙2の2221頁,弁論の全趣旨)。そして,本件投薬開始にあたって実施されたA医師の原告に対する診察(平成8年6月11日)にはBが同席していたにもかかわらず,Bにおいても上記頻脈発作の事実につき何ら言及することがなかったこと,平成8年7月16日のニューレプチル投与開始後に原告に生じた過呼吸発作は,新しい薬剤の投与時にみられることがある一過性の体調不良であり,ニューレプチルの投与及びその継続を中止せねばならないほどの重篤なものであったとは認められないことは,いずれも既に認定したとおりである。そうとすれば,HがA医師にOにおける頻脈発作の事実を告げなかったことが,原告に対する健康配慮義務違反に該当するものとまでは認めがたく,したがって,また,Hが,A医師の処方に従って,原告に対しニューレプチルの投与を行ったことに過失があるとも認められない。 以上の次第で,原告が主張するような健康配慮義務違反の事実をHに認めることはできない。 イ 告に対しニューレプチルの投与を行ったことに過失があるとも認められない。 以上の次第で,原告が主張するような健康配慮義務違反の事実をHに認めることはできない。 イ A医師の注意義務違反(ア) 原告に対する看護健康管理義務違反A医師は,前記認定のとおり,原告のHにおける問題行動が極めて著しく,Hの福祉的努力にもかかわらず,医療的手段を採らねば原告の問題行動を沈静化することができず,結果的にHを退所せざるを得なくなるという,原告本人にとっての不利益が生じるのを防ぐための医療的必要性から本件投薬を行ったものと認められる。 また,A医師は,前記認定のとおり,原告両親が薬剤について相談したいと希望したときには,これを拒否することなく応じており,平成10年1月19日の相談会においても,薬剤に関する重要な事実について説明していること(甲15)からすれば,A医師が原告主張のようにHに乞われるがまま本件投薬を行っていたとは到底認められない。 よって,A医師には原告が主張する看護健康管理義務違反なるものは認められない。 (イ) 原告に対する健康配慮義務違反被告Gの健康配慮義務違反について認定したとおり,A医師はHとともに,原告の体調に配慮しながら,本件投薬を行っていたものと認められる。 この点,原告はA医師は原告の体調に合わせて投薬処方をきめ細かく変更するなどの医療的措置を講ずべきであったと主張する。しかし,一般的に新しい薬剤を試すことには一定の危険性を伴うことから,当該薬剤がある程度有効に作用し,かつ,重篤な副作用が認められない場合には,当該薬剤の量を増減することによって あったと主張する。しかし,一般的に新しい薬剤を試すことには一定の危険性を伴うことから,当該薬剤がある程度有効に作用し,かつ,重篤な副作用が認められない場合には,当該薬剤の量を増減することによって調整する方が危険性が少ないと認められる(証人A)。そして,原告に対する投薬の必要性があったこと,その投薬量は一貫して必要最小限にとどめられていたこと,それによって原告は退所を余儀なくされるほどの大きな問題行動を引き起こさずに済んでいたことは,既に認定したとおりであり,かつ,過呼吸発作は一過性のものであり,肝機能障害についても軽度のものであったことにも照らせば,投薬を変更しなかったことについて,A医師に注意義務違反があったとは認められない。 よって,A医師に原告が主張する健康配慮義務違反なるものは認められない。 以上のとおりで,A医師に注意義務違反があったとは認められないから,被告Iに民法715条の使用者責任があるとは認められない。 ウ被告L市の注意義務違反前記認定のとおり,原告に対する本件投薬について,被告G及びA医師に何らの違法性及び過失が認められない以上,被告L市の監督義務違反については,その前提を欠くものである。したがって,被告L市には注意義務違反は認められない。 3 結論よって,原告の本訴請求は,その余の争点について判断するまでもなく,いずれも理由がないから,これを棄却することとして,主文のとおり判決する。 神戸地方裁判所第4民事部裁判長裁判官上田昭典裁判官太田敬司 裁判長 裁判官 上田昭典 裁判官 太田敬司 裁判官 北岡裕章

▼ クリックして全文を表示

🔍 類似判例を検索𝕏 でシェア← 一覧に戻る