令和7(ネ)265 損害賠償請求控訴事件

裁判年月日・裁判所
令和7年12月24日 大阪高等裁判所 破棄自判 神戸地方裁判所 令和2(ワ)765
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判決文本文53,003 文字)

- 1 -令和7年(ネ)第265号損害賠償請求控訴事件令和7年12月24日大阪高等裁判所第9民事部判決 主文 1 原判決を次のとおり変更する。 2 被控訴人は、控訴人Aに対し、4704万2127円及びこれに対する平成21年3月23日から支払済みまで年5%の割合による金員を支払え。 3 被控訴人は、控訴人Bに対し、1億0291万1340円及びこれに対する平成21年3月23日から支払済みまで年5%の割合による金員を支払え。 4 控訴人らのその余の請求をいずれも棄却する。 5 訴訟費用は、第1、2審を通じてこれを10分し、その1を控訴人らの負担とし、その余を被控訴人の負担とする。 6 この判決の2項及び3項は、仮に執行することができる。 事実及び理由 第1 控訴人らの求めた裁判 1 原判決を取り消す。 2 被控訴人は、控訴人Aに対し、5305万5061円及びこれに対する平成21年3月23日から支払済みまで年5%の割合による金員を支払え。 3 被控訴人は、控訴人Bに対し、1億0577万4411円及びこれに対する平成21年3月23日から支払済みまで年5%の割合による金員を支払え。 4 訴訟費用は、第1、2審を通じて被控訴人の負担とする。 第2 事案の概要 1 本件の原審は、産婦人科医師であった亡C(以下「C医師」という。)の相続人である控訴人らが、C医師の勤務先であった医療機関を運営する被控訴人に対し、被控訴人がC医師に過重な業務をさせたことにより、C医師が精神障 害を発病して自殺したものであり、被控訴人には安全配慮義務違反があったな- 2 -どと主張して、不法行為又は労働契約の債務不履行(安全配慮義務違反)に基づき、控訴人Aについては、損害賠 害を発病して自殺したものであり、被控訴人には安全配慮義務違反があったな- 2 -どと主張して、不法行為又は労働契約の債務不履行(安全配慮義務違反)に基づき、控訴人Aについては、損害賠償金6565万9327円及びこれに対する不法行為後の日(C医師の死亡日)である平成21年3月23日から支払済みまで平成29年法律第44号による改正前の民法所定の年5%の割合による遅延損害金の支払を、控訴人Bについては、損害賠償金1億0577万441 1円及びこれに対する上記と同じ期間及び割合による遅延損害金の支払をそれぞれ求めた事案である。 原審は、控訴人らの請求をいずれも全部棄却したところ、これを不服とする控訴人Bが控訴し、控訴人Aが一部控訴した。 2 前提事実(当事者間に争いがないか、後掲証拠等により容易に認定できる 事実)(1) 控訴人らについて控訴人A(昭和37年2月生まれ)は、平成2年12月に婚姻したC医師(昭和32年6月生まれ)の妻であり、控訴人B(平成5年3月生まれ)は、C医師の子である(甲68)。 (2) 被控訴人について被控訴人は、医療、保健及び老人の福祉に関する事業を目的とした団体であり、山口県内において、長門総合病院(以下「本件病院」という。)のほか、周東総合病院、小郡第一総合病院等を運営している(弁論の全趣旨)。 (3) C医師の勤務歴等 C医師の医師としての勤務歴等は、次のとおりである。 昭和57年 3月 D大学医学部卒業昭和57年11月医師免許取得昭和57年12月 D大学医学部付属病院産婦人科勤務昭和58年 6月同退職 昭和58年 7月周東総合病院産婦人科勤務- 3 -昭和59年 3月同退職昭和63年 4月山口県立中央病院産婦人科勤務 学部付属病院産婦人科勤務昭和58年 6月同退職 昭和58年 7月周東総合病院産婦人科勤務- 3 -昭和59年 3月同退職昭和63年 4月山口県立中央病院産婦人科勤務平成 7年 6月同退職平成 7年 7月小郡第一総合病院産婦人科勤務平成11年 4月本件病院に異動 本件病院産婦人科勤務(産婦人科部長)(甲1〔428頁〕、弁論の全趣旨)(4) 本件病院についてア本件病院は、約300床のベッドを備え、常勤医師20名超、非常勤医師約20名が勤務する山口県長門市所在の医療機関である。 本件病院所在地の近隣である山口県の萩、長門及び美祢地区において、産婦人科と小児科を設置する医療機関は本件病院のみであり、C医師は、この産婦人科(以下「本件産婦人科」という。)に勤務していた。 イ本件病院の職務規程では、各診療科部長に対して職務上の指揮監督をするのは院長である旨が定められていた。 なお、平成20年及び平成21年当時、本件病院の院長を務めていたのは、E医師(以下「E院長」という。)であった。 (乙17、46、証人E〔原審〕)(5) 本件産婦人科の体制等ア平成20年及び平成21年当時、本件産婦人科には、C医師及びF医師 (以下「F医師」という。昭和50年1 月生まれ)の2名が常勤医師として勤務し、そのほかに週1回ずつD大学医学部附属病院から派遣される非常勤医師2名が勤務していた。 また、上記の当時、D大学医学部産婦人科教授及びD大学医学部産婦人科学教室医師連合会長を務めるG医師(以下「G医師」という。)が、 本件病院の診療業務は分担していないものの、1か月に1回程度、本件- 4 -産婦人科を訪れて、本件産 びD大学医学部産婦人科学教室医師連合会長を務めるG医師(以下「G医師」という。)が、 本件病院の診療業務は分担していないものの、1か月に1回程度、本件- 4 -産婦人科を訪れて、本件産婦人科の医師に助言するなどしていた。 (甲1〔381、382、389頁〕、73、乙4、11~13、24、32、43、102の1・2、証人G〔原審〕、弁論の全趣旨)イ本件産婦人科には、看護師約10名、助産師12名程度が勤務していた(甲1〔581頁〕、乙72、弁論の全趣旨)。 (6) 本件病院における労働条件の定め平成20年及び平成21年当時の本件病院における所定始業時刻は午前8時30分、所定終業時刻は午後5時、所定休憩時間は午後0時10分から午後1時までと定められていた。 また、所定休日は、日曜日、土曜日、国民の祝日に関する法律に定められ た祝日及び休日、年末年始(12月30日から1月3日まで)、盆休(8月15日)、並びにその他理事長が必要と認める日と定められていた。 (乙18の1)(7) C医師の生活状況等ア C医師は、本件病院での勤務開始後、控訴人らとともに、本件病院敷地 内の医師住宅(以下「自宅」という。)に転居し、居住を継続していた(甲11、61)。 イ控訴人らは、平成17年4月、控訴人Bが北九州市所在の中高一貫校に進学したのを機に山口県下関市に転居し、自宅にはC医師のみが居住するようになった(甲11、61)。 ウ C医師は、平成19年7月25日、高血圧症、高脂血症、肝障害等により、本件病院の内科を受診した(甲10〔49頁〕)。 エ当時高校生であった控訴人Bは、平成20年7月、前記イの中高一貫校を退学して、神戸市所在の通信制高校に途中編入し、同市内のワンルーム 等により、本件病院の内科を受診した(甲10〔49頁〕)。 エ当時高校生であった控訴人Bは、平成20年7月、前記イの中高一貫校を退学して、神戸市所在の通信制高校に途中編入し、同市内のワンルームマンションに転居した(甲61)。 オ C医師は、平成20年10月3日、頭痛、動悸、嘔気の症状を訴えて本- 5 -件病院の内科を受診し、翌4日には自宅療養をした。 その後、C医師は、同月5日、めまいの症状を訴えて本件病院に入院し、服薬によって一旦症状が改善したため、同月7日に退院したが、再びめまい等の症状を訴えて、同月8日に入院し、同月16日に退院した。(甲10〔75、89、93頁〕、弁論の全趣旨) (8) C医師の死亡C医師は、平成21年3月23日、自宅ガレージ内において、金属製梁にロープを掛けて縊死した(以下「本件自殺」という。)。 (9) 控訴人Aに対する労働者災害補償給付ア控訴人Aは、C医師が本件自殺をしたのは過重な業務に起因する旨主張 し、労働者災害補償保険法に基づく遺族補償給付の支給請求及び葬祭料の支給請求をしたが、処分庁は平成24年4月27日付けでいずれも支給しない旨の処分をした。 控訴人Aは、広島地方裁判所に対し、国を相手に、同処分の取消しを求める旨の訴え(広島地方裁判所平成25年(行ウ)第41号、以下「別件 訴訟」という。)を提起し、同裁判所は、令和元年5月29日、C医師が発病した精神障害の業務起因性を認めて上記同処分を取り消す旨の判決をし、その頃、同判決は確定した。 イ控訴人Aは、別件訴訟の確定後程なくして、労働者災害補償保険の給付を受けるようになり、当審口頭弁論終結前である令和7年9月までの受 給金額は、葬祭料356万6340円のほか、労災保険年金合計50 訴人Aは、別件訴訟の確定後程なくして、労働者災害補償保険の給付を受けるようになり、当審口頭弁論終結前である令和7年9月までの受 給金額は、葬祭料356万6340円のほか、労災保険年金合計5004万0194円である(甲69の1~69の5、99~110、114~116、弁論の全趣旨)。 (10) C医師が発病した精神障害C医師が発病した精神障害については、複数の医師の意見があり、その中 には、「平成21年1月頃」に「うつ病」ないし「うつ病エピソード」を発- 6 -病したとするH医師の意見(甲28、44、60。以下「H意見」という。)や、「平成20年末から平成21年1月にかけて」に「双極性感情障害(躁うつ病)」を発病したとするI医師の意見(乙7の1、8、48、49。以下「I意見」という。)等がある。 (11) いわゆる労災認定基準について 心理的負荷による精神障害につき労働災害の認定請求がされた事案における業務上外の認定に関し、厚生労働省労働基準局長が都道府県労働局長宛てに発出した通知として、平成23年12月26日付け「心理的負荷による精神障害の認定基準について」と題する通知(平成23年12月26日基発1226第1号)及びこれを廃止して新たに発出した令和5年9月1日付け 「心理的負荷による精神障害の認定基準について」と題する通知(令和5年9月1日基発0901第2号)がある(以下、これらの通知に係る基準を「労災認定基準」といい、上記の2つの基準を区別して指摘するときは、前者を「旧認定基準」、後者を「新認定基準」という。)。 労災認定基準においては、労働基準法施行規則別表第1の2第9号に該当 する疾病であることの認定要件として、①対象疾病の発病前おおむね6か月の間に、業務による強い心理的負荷が う。)。 労災認定基準においては、労働基準法施行規則別表第1の2第9号に該当 する疾病であることの認定要件として、①対象疾病の発病前おおむね6か月の間に、業務による強い心理的負荷が認められること、②業務以外の心理的負荷及び個体側要因により対象疾病を発病したとは認められないこと等を掲げた上で、上記①の心理的負荷の強度の判断に当たっては、「業務による心理的負荷評価表」と題する一覧表を指標として、業務による強い心理的負荷 が認められる「強」、これが認められない「中」又は「弱」の三段階の区分を設けている。 そして、上記「業務による心理的負荷評価表」に掲げる心理的負荷の強度を評価するための具体的出来事には、「1か月に80時間以上の時間外労働を行った」(旧認定基準番号16、新認定基準番号12)、「2週間以上に わたって連続勤務を行った」(旧認定基準番号17)又は「2週間以上にわ- 7 -たって休日のない連続勤務を行った」(新認定基準番号13)、「部下とのトラブルがあった」(旧認定基準番号32、新認定基準番号26)等が示されている。 なお、上記(10)に挙げた各医師の意見に含まれる「うつ病エピソード」又は「双極性感情障害(躁うつ病)」は、いずれも労災認定基準の対象疾病に 含まれる疾病である。 (甲29、47、117、乙33、弁論の全趣旨)(12) 本件におけるC医師の勤務状況を把握するための資料等本件病院及び本件産婦人科におけるC医師の勤務状況等を把握するための主要な客観的資料として、次のものが存在する(以下これらを併せて「本件 客観的資料」という。)。 ア本件病院のネットワーク・ログイン記録(以下「ログイン記録」という。)本件病院では、医師が行う検査及び投薬の指示、書面作成等の業務につ れらを併せて「本件 客観的資料」という。)。 ア本件病院のネットワーク・ログイン記録(以下「ログイン記録」という。)本件病院では、医師が行う検査及び投薬の指示、書面作成等の業務についてコンピューターを使用しており、職員には個別のID番号が割り当 てられているところ、当該コンピューターの電磁的記録の中から、C医師に割り当てられていたID番号「0746」について、コンピューターにログインした時刻(以下「ログイン時刻」という。)を抽出することが可能となっている(甲3)。 イ時間外・休日勤務命令票(以下「時間外勤務命令票」という。) 本件病院では、職員が時間外勤務又は休日勤務をしたときは、当該職員自身がその年月日、時間及び業務内容を記載して所属長の決裁を受ける時間外勤務命令票による労務時間管理がされていた。 なお、平成20年及び平成21年当時、C医師の時間外勤務命令票の決裁者は、E院長であった。(甲1〔438~513頁〕) ウ分娩記録台帳- 8 -本件産婦人科では、取り扱った分娩について、分娩の日時、分娩の様式(自然経膣分娩、帝王切開等)、分娩時の異常の有無・内容、新生児の状況、破水の日時、関与した医師(分娩担当医、主治医)の氏名等が記載された分娩記録台帳が保管されている(乙30)。 エ手術申込書 本件産婦人科では、患者氏名及び主治医、手術予定に係る記載事項のほか、実施された手術について、手術年月日、手術の名称、手術に関与した医師の役割(執刀医、介助医又は麻酔医)及びその氏名、手術の開始及び終了時刻、麻酔の開始及び終了時刻、CO2ガスモニターの開始及び終了時刻等が記載された手術申込書が保管されている(甲74、乙2 9)。 オ本件産婦人科の診療録(以下「診 術の開始及び終了時刻、麻酔の開始及び終了時刻、CO2ガスモニターの開始及び終了時刻等が記載された手術申込書が保管されている(甲74、乙2 9)。 オ本件産婦人科の診療録(以下「診療録」という。)本件産婦人科には、外来又は入院患者の診療録があり、その記載事項として、例えば、患者に対する退院時の説明や、看護師から連絡を受けてした診療上の指示内容等のC医師がした診療上の処置ないし行為が、そ の時刻とともに記載されていることがある(甲26の1~26の138)。 3 本件の争点(1) 本件病院での業務従事と本件自殺の間の相当因果関係の有無(争点1)(2) 被控訴人による安全配慮義務違反等の有無(争点2) (3) C医師及び控訴人らが被った損害内容及び損害額等(争点3) 4 争点に関する当事者の主張(1) 争点1(本件病院での業務従事と本件自殺の間の相当因果関係の有無)(控訴人らの主張)ア C医師が本件病院の業務に従事した日程及び時間 C医師は、平成20年4月1日から平成21年3月22日までの間、別- 9 -紙1「労働日程及び時間一覧表(控訴人ら主張分)」(以下「別紙1」という。)のとおり、本件病院の業務に従事した。 同一覧表記載の日程及び時間等は、本件客観的資料を踏まえつつ、J医師(以下「J医師」という。)その他複数の専門家の意見によって裏付けられている。 そのうち主な点について補足すると、終業時刻については、C医師は、一般外来、分娩、手術、病棟回診、救急患者の処置等の診療業務のほか、これに付随する業務として、看護師その他の職員に対する指示、患者本人及び家族からのインフォームドコンセントの取得、医局での種々の事務作業等に従事するなど、本件産婦人科全般にわ 置等の診療業務のほか、これに付随する業務として、看護師その他の職員に対する指示、患者本人及び家族からのインフォームドコンセントの取得、医局での種々の事務作業等に従事するなど、本件産婦人科全般にわたる広範な業務を 独りで担当していた。また、看護学校における講義、各種会議の出席等の業務に従事していたほか、本件産婦人科の部長として、本件産婦人科全般にわたる管理責任を負って、種々の管理業務に従事し、内外の関係先との調整や折衝等にも当たっていた。C医師は、日常的に午後7時から午後7時30分までに帰宅していたところ、手術が長引き、その他の 処置、分娩、経過観察等で帰宅時刻がより遅くなることが頻繁にあり、所定労働日の終業時刻は、少なくみても午後7時であったものと主張する。 また、C医師は、所定休日において、1日つき2回にわたり各1時間程度、本件病院の入院病棟を回診し、患者の容態を確認の上、医局での作 業に従事していたものである。 イ C医師が発病した精神障害及びその発病時期C医師は、平成21年1月頃、うつ病を発病した。 この点は、H意見によって裏付けられている。 ウ労災認定基準にいう心理的負荷を生じさせる出来事の存在 C医師については、以下のとおり、労災認定基準において精神障害の発- 10 -病の原因とされる心理的負荷が生じるべき出来事の存在が認められる。 (ア) 時間外労働時間C医師が平成21年1月31日に精神障害を発病したことを前提とした場合、時間外労働時間は、同月2日から同月31日まで合計108時間26分、平成20年12月3日から平成21年1月1日まで合計78 時間41分、平成20年11月3日から同年12月2日まで合計117時間57分であった。 ( 日から同月31日まで合計108時間26分、平成20年12月3日から平成21年1月1日まで合計78 時間41分、平成20年11月3日から同年12月2日まで合計117時間57分であった。 (イ) 連続勤務C医師は、少なくとも、平成20年8月24日から同年9月5日まで(13日間)、同月21日から同年10月3日まで(13日間)、同月 20日から同年11月7日まで(19日間)、同年12月28日から平成21年1月9日まで(13日間)、同月11日から同月30日まで(20日間)の連続勤務に従事した。 (ウ) F医師との関係C医師とF医師の関係は、感情的な対立が内心を超え、声に出して衝 突するなど、外部に表示される状態に至っていた。C医師は産婦人科部長であり、F医師はその部下である産婦人科医師であるから、C医師に対し、F医師が意見を述べること自体が通常の雇用形態では考えられない事態であり、トラブルが極めて深刻な状態に至っており、C医師のストレス要因になっていた。 エ C医師の業務内容は質的な負担が大きなものであったことC医師の業務内容は、次の(ア)ないし(カ)のとおり、質的な負担についても大きなものであった。 (ア) 分娩及び手術への関与本件産婦人科の分娩件数は、平成20年3月28日から平成21年3 月23日までの間に288回であったところ、そのうちC医師は94回- 11 -を担当していた。おおむね同時期における帝王切開の件数は49件(緊急帝王切開17件)であったところ、C医師の関与率は約95%に及んでいた。また、帝王切開を除く手術件数は129件であったところ、C医師が執刀医、介助医ないし麻酔医として関与したものは約74%に及んでいた。 (イ) 麻酔科医の 医師の関与率は約95%に及んでいた。また、帝王切開を除く手術件数は129件であったところ、C医師が執刀医、介助医ないし麻酔医として関与したものは約74%に及んでいた。 (イ) 麻酔科医の不存在及び他の診療科からの応援依頼平成20年及び平成21年当時、本件病院には麻酔科がなく、手術の際には、C医師、F医師及び非常勤医師が分担して麻酔を行っており、C医師は、麻酔科医がいないまま手術をするという、ストレスが生ずる状態で勤務を続けていた。 また、C医師は、日常的な業務として、他科医師からの緊急の応援依頼に対応していた。 (ウ) 入院中の分娩・手術C医師は、平成20年10月6日から同月7日までの間と、同月8日から同月16日までの間、高血圧により本件病院の内科に入院しなが ら、同入院中に分娩や手術を担当するなどの多忙な状態にあった。 (エ) 当番日のオンコール待機に伴う長時間拘束本件病院では、平日当番(午後5時から翌朝午前8時30分まで)、休日当番(午前8時30分から午後5時まで)、休日夜間当番(午後5時から翌朝午前8時30分まで)があり、当番日の待機により、1か月 当たりの拘束時間が400時間を上回っていた。C医師は、本件病院敷地内にある自宅で待機していたところ、別紙1の労働時間に計上していないものの、実態としては宿当直とほぼ変わらなかった。 (オ) 被控訴人から提供された自宅(医師住宅)の劣悪さ被控訴人から提供された自宅(医師住宅)は、日中でもほとんど日が 当たらず、害虫が発生するなど不衛生な環境であり、C医師が本件病院- 12 -に改善を申し入れていたが、予算が高額であるために実現せず、以降も劣悪な環境での生活が継続していた。 (カ) 看護師・助産師の能力水準 生な環境であり、C医師が本件病院- 12 -に改善を申し入れていたが、予算が高額であるために実現せず、以降も劣悪な環境での生活が継続していた。 (カ) 看護師・助産師の能力水準C医師は、本件病院の助産師の能力水準の低さにストレスを感じており、助産師に信頼感を抱くことができず、負担が増大していた。 オ小括以上によれば、C医師は、本件病院の業務により精神障害を発病して本件自殺に至ったものであり、本件病院での業務従事と本件自殺の間には相当因果関係がある。 (被控訴人の主張) ア C医師が本件病院の業務に従事した日程及び時間C医師は、平成20年4月1日から平成21年3月22日までの間、別紙2「労働日程及び時間一覧表(被控訴人主張分)」(以下「別紙2」という。)のとおり、本件病院の業務に従事した。 同一覧表記載の日程及び時間等は、本件客観的資料を基礎として、実際 に本件産婦人科に勤務していたF医師及びK医師(以下「K医師」という。)の証言等を加味して明らかにしたものである。 イ C医師が発病した精神障害についてC医師は、平成20年12月頃から平成21年1月頃にかけて、双極性感情障害を発病した。 この点は、I意見によって裏付けられている。 ウ C医師が従事していた業務は量的にみて過重なものではなかったこと(ア) 労働時間についてC医師の精神障害発病前6か月の時間外労働時間は、平成20年6月から同年11月まで(発病を平成20年12月とした場合)は1か月平 均約36時間28分であり、同年20年7月から同年12月まで(発病- 13 -を平成21年1月とした場合)は1か月平均約34時間47分であって、これらはいずれも全国的な調査によ 1か月平 均約36時間28分であり、同年20年7月から同年12月まで(発病- 13 -を平成21年1月とした場合)は1か月平均約34時間47分であって、これらはいずれも全国的な調査による産婦人科医師の平均値を下回るものである。 (イ) 所定終業時刻後の時間外勤務についてC医師が担当していた産科の診療日は週2日であり、主治医を担当し ていた入院患者数、分娩及び手術件数は相当少ないため、書類作成業務は少なく、C医師が時間外の診療業務がない日であっても、膨大な数の書類作成業務のため、恒常的に午後5時から午後7時まで2時間の時間外労働を余儀なくされていたなどということはない。 (ウ) 休日労働(特に控訴人ら主張に係る病棟回診)について 後記エのとおり、C医師が突出して多くの分娩及び手術に関与していたものではなく、F医師と比較してもF医師の方が相当多くの分娩及び手術を取り扱っていたほか、そもそも本件産婦人科では、ローリスクの妊娠・分娩のみを選別し、ハイリスクの妊娠・分娩は高次医療機関に紹介・搬送するという診療方針を確立していた。C医師は、入院患者のリ スクの程度に照らし、休日の午前及び午後に入院病棟回診をする必要がない環境にあり、平成17年4月以降、産直当番のない土曜日及び日曜日のいずれかは、泊りがけで下関市所在の控訴人らの住居に帰宅していた可能性が高く、帰宅しない休日には、本件病院の職員らとともに趣味に興じるなどしており、休日に病棟回診をしていた旨の控訴人らの主張 は、C医師の勤務や生活の実態に反するものである。 また、仮にC医師が休日に病棟回診をしていたとしても、それはC医師がその職務の性質や状況に応じて自主的に実施していたにすぎず、使用者である被控訴人の明示又は の実態に反するものである。 また、仮にC医師が休日に病棟回診をしていたとしても、それはC医師がその職務の性質や状況に応じて自主的に実施していたにすぎず、使用者である被控訴人の明示又は黙示の業務命令によるものではないから、そもそも被控訴人の安全配慮義務違反を基礎付ける時間外労働には 当たらない。 - 14 -エ C医師が従事していた業務はその性質等に照らし過重なものではないことC医師が従事していた業務の性質は、次の(ア)ないし(オ)のとおりであり、その業務が過重なものであったとはいえない。 (ア) 本件産婦人科の性質等 本件産婦人科は地方の一次医療機関であり、提供する医療の内容は市中の医院等とさして変わらず、1日当たりの入院患者数が20名を超えることはほとんどなかった。 また、本件産婦人科では、ローリスクの妊娠・分娩のみを選別して管理し、ハイリスクの妊娠・分娩については高次医療機関に紹介してその 診療を委ねるという診療方針が確立していた。ローリスクの分娩であれば、分娩管理において助産師の役割が大きくなり、相対的に医師の役割は小さくなるところ、本件産婦人科の医師は、ハイリスク患者を取り扱う高次医療機関の医師と比べて関与する時間は短く、精神的緊張の度合いは低かった。 (イ) C医師の分娩及び手術への関与平成20年4月から平成21年3月までの間に本件産婦人科において実施された婦人科手術のうち、開腹手術及び長時間を要した膣式手術の件数は合計46件であり、月平均3.8件にすぎず、F医師や非常勤医師が高い割合で執刀医を務めていたほか、そもそも本件産婦人科では、 難易度の高い婦人科手術(具体的にはリンパ節郭清術を含む手術)を取り扱っていなかった。 また 、F医師や非常勤医師が高い割合で執刀医を務めていたほか、そもそも本件産婦人科では、 難易度の高い婦人科手術(具体的にはリンパ節郭清術を含む手術)を取り扱っていなかった。 また、平成20年4月から平成21年3月21日までの期間において、C医師が主治医を務めた患者数・割合は95人・約33%(F医師は194人・約67%)で、C医師が分娩を担当した患者数は79人・ 約27%(F医師は138人・約48%)であるところ、客観的にみて- 15 -F医師の方がより多くの患者を担当していたことは明らかである。また、上記のC医師の担当件数は、産婦人科医師において一般的な医師1人当たり年間100件という目安を下回るものであり、介助医ないし麻酔医としての関与件数を考慮してさえ、C医師が担当していた分娩ないし手術件数は過重なものでなかった。 (ウ) 本件産婦人科の人的体制本件産婦人科は、D大学医学部産婦人科から定期的に非常勤医師の派遣を受け、平成20年4月から平成21年3月までに派遣されていた非常勤医師2名は、単独で診療や分娩管理を担うことができる技量及び経験を有し、実際にも単独で診療業務を担っていた。 また、平成20年当時の本件産婦人科における助産師の体制としては、経験年数20年前後のベテラン助産師が数多く在籍していた。 (エ) 当番日の体制等C医師が従事していた実労働以外の待機業務は、応急患者の診療等に対応するための自宅等でのオンコール待機業務であり、当直室での待機 業務ではなく、当直室に常駐する待機と一定時間内に病院に駆け付けることで足りるオンコール待機とでは、医師の精神的・肉体的負担は大きく異なる。 (オ) F医師との関係F医師においては、C医師との間で人 、当直室に常駐する待機と一定時間内に病院に駆け付けることで足りるオンコール待機とでは、医師の精神的・肉体的負担は大きく異なる。 (オ) F医師との関係F医師においては、C医師との間で人間関係上のトラブルを抱えてい たという自覚は全くないものであり、C医師においても、F医師との人間関係上のトラブルの存在を外部に表明したことはなかった。 すなわち、本件病院の周囲の者が認識できる程度に顕在化したC医師とF医師とのトラブルは存在しなかったものである。 オ本件自殺には本件病院での業務以外の原因があったこと C医師は、平成20年7月以降、夫婦間の別居が解消されなかったこと- 16 -(この別居は、それ以前の別居とは質的に異なる。)、C医師がその原因を理解することができずに思い悩み、限界を感ずる程度に「シンドサ」や「虚無感」を抱えていたことこそを原因として、精神障害を発病したものである。このようなC医師が本件病院の業務とは別の原因により精神障害を発病した機序については、I意見をはじめとする専門的知 見によって裏付けられている。 カ小括以上によれば、C医師は、本件病院での業務従事により受けた心理的負荷は小さく、それとは別の原因により精神障害を発病して、本件自殺に至ったものであり、本件病院での業務従事と精神障害の発生及びその後 の本件自殺の間に相当因果関係は認められない。 (2) 争点2(被控訴人による安全配慮義務違反等の有無)(控訴人らの主張)ア C医師に対する業務上の指揮監督権限を有し、労務管理をする立場にあったのはE院長であったところ、E院長は、各診療科の運営を診療科部 長に一任し、自らは労務管理をしなかった。 また、本件病院は、勤務医について、 上の指揮監督権限を有し、労務管理をする立場にあったのはE院長であったところ、E院長は、各診療科の運営を診療科部 長に一任し、自らは労務管理をしなかった。 また、本件病院は、勤務医について、タイムカード、ICカード、コンピューターのログイン記録といった客観的方法を利用した労働時間管理を導入せず、勤務医の自己申告に委ねており、勤務実態を把握するための調査をしていなかった。 イ被控訴人ないしE院長は、本件産婦人科には常勤医師3名が必要であり、常勤医師を1名以上増員すべきであったにもかかわらず、常勤医師の増員をしなかった。また、C医師の過重労働を軽減するため、C医師の発病前の約1年間、麻酔科医を含めた非常勤医師の増員に努めること、C医師の診療日を減らすこと、受入患者数を減らすこと、本件産婦人科を閉鎖 することなどといった常勤医師の増員以外の可能な方策を講じなかった。 - 17 -加えて、被控訴人ないしE院長は、C医師の入院に関心を持たなかったこと、C医師が入院中にもかかわらず診療に従事させたこと、C医師の退院後も業務負担の軽減を図らなかったこと、C医師がした自宅の改修の要望にも応じなかったこと、C医師の退職の示唆をまともに取り合わなかったことなど、C医師が体調不良であっても業務軽減措置を講じなかったもの である。 ウ以上によれば、被控訴人には、C医師に対する安全配慮義務違反が認められる。 また、被控訴人の上記安全配慮義務違反は、同時に、C医師に対する注意義務違反をも構成するものである。 (被控訴人の主張)被控訴人において、C医師の労働時間ないし勤務実態は、時間外勤務命令票のとおりであると認識していた。なお、この認識又は認識可能性については、C医師の業務を管理監督していた本件病院のE院長( 主張)被控訴人において、C医師の労働時間ないし勤務実態は、時間外勤務命令票のとおりであると認識していた。なお、この認識又は認識可能性については、C医師の業務を管理監督していた本件病院のE院長(代理監督者)を基準に判断すべきものである。 本件病院は、患者に対して24時間体制で安全な医療を提供するという業務の性質上、職員の労働時間や勤務実態を把握する手段として自己申告制を採用していたところ、職員各自が作成提出する時間外勤務命令票が職員の労働時間や勤務実態を具体的に把握するためのほぼ唯一の資料であった。そして、C医師が作成提出した時間外勤務命令票によれば、C医師が精神障害を 発病したとみられる平成21年1月から遡って6か月間(平成20年8月から平成21年1月)におけるC医師の時間外労働時間は、1か月平均20時間51分にすぎず、平均的な産婦人科医師よりもかなり短いものであった。 また、仮に控訴人らの主張に係る休日の病棟回診がされていたとしても、それが被控訴人の明示又は黙示の業務命令によるものではないことは上記(1) (被控訴人の主張)ウ(ウ)のとおりであり、被控訴人がこれを認識し又は認- 18 -識することはできなかった。 加えて、C医師は、自身の業務負担の過重性について、E院長はもとより、G医師に対しても、全く報告、連絡及び相談等をすることはなかった。 C医師が作成した文書やG医師名義の文書は、いずれについても、本件産婦人科での過重な業務の存在を前提として、常勤医師の増員が必要であるとの 認識が示されたものではない。 以上のとおり、被控訴人は、C医師が過重な業務に従事している事実を認識しておらず、その認識可能性も全くなかったものであり、被控訴人に安全配慮義務違反があった旨の控訴人らの主張は、その前提を欠くも 以上のとおり、被控訴人は、C医師が過重な業務に従事している事実を認識しておらず、その認識可能性も全くなかったものであり、被控訴人に安全配慮義務違反があった旨の控訴人らの主張は、その前提を欠くものである。 また、被控訴人にはC医師に対する注意義務違反もなかった。 (3) 争点3(C医師及び控訴人らが被った損害内容及び損害額等)(控訴人らの主張)C医師は、被控訴人の不法行為又は労働契約の債務不履行(安全配慮義務違反)により、次のとおりの損害を被った。また、C医師の死亡により、遺族である控訴人ら固有の損害も発生している。 ア死亡逸失利益 1億6081万7112円(計算式)直近3か月の収入420万7069円÷90日×365日+賞与413万5520円)×(1-生活費控除率0.3)×10.838(労働能力喪失期間16年のライプニッツ係数) イ死亡慰謝料 3000万0000円ウ葬祭料 150万0000円エ相続(相続分各2分の1)(ア) 控訴人A 9615万8556円死亡逸失利益 8040万8556円 死亡慰謝料 1500万0000円- 19 -葬祭料 75万0000円(イ) 控訴人B 9615万8556円死亡逸失利益 8040万8556円死亡慰謝料 1500万0000円葬祭料 75万0000円 オ損益相殺控訴人Aは、労災保険から遺族補償年金3571万8258円、葬祭料356万6340円を受給しており、費目拘束により、遺族補償年金は死亡逸失利益に、葬祭料は葬祭料に充当すべきものである。 なお、令和7年8月までに受給した遺族補償年金は合計5004万01 356万6340円を受給しており、費目拘束により、遺族補償年金は死亡逸失利益に、葬祭料は葬祭料に充当すべきものである。 なお、令和7年8月までに受給した遺族補償年金は合計5004万01 94円である。 カ控訴人Aの損益相殺後の金額 5969万0298円(計算式)(8040万8556円-3571万8258円)+1500万円キ弁護士費用 (ア) 控訴人A 596万9029円(イ) 控訴人B 961万5855円ク損害額合計(ア) 控訴人A 6565万9327円なお、上記第1(控訴人らが求めた裁判)の2のとおり、控訴人A は、被控訴人に対し、上記損害額合計のうち5305万5061円を請求する。 (イ) 控訴人B 1億0577万4411円(被控訴人の主張)争う。 第3 当裁判所の判断- 20 - 1 前提事実並びに証拠(甲1、3、8、10、26(枝番号の記載省略)、乙29、30、証人F〔原審〕、証人L〔原審〕、証人K〔原審〕、証人G〔原審〕、証人E〔原審〕。ただし、以下の認定に反する部分は採用しない。)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。 なお、各事実は、いずれも平成20年から平成21年にかけてのものであ り、これら年度の記載は省略する。 (1) C医師は、7月6日から1月31日にかけて、別紙3「労働日程及び時間一覧表(裁判所認定)」(以下「別紙3」という。)の始業時間欄記載の時刻(始業時刻)に当日の業務を開始し、終業時間欄記載の時刻(終業時刻)に当日の業務を終了した。また、この始業時刻から終業時刻までの間におい て、待機時間欄記載の時間(休憩時間)は業務に従事していなかった(甲1、3、8、10、26 業時間欄記載の時刻(終業時刻)に当日の業務を終了した。また、この始業時刻から終業時刻までの間におい て、待機時間欄記載の時間(休憩時間)は業務に従事していなかった(甲1、3、8、10、26、乙29、30、証人F〔原審〕、証人K〔原審〕)。 (2) 上記(1)の期間に本件病院の院長を務めていたE院長は、本件病院の基本的な運営姿勢として、各診療科部長自身の時間外及び休日勤務の管理等を 含めた各診療科の運営全般について、広く各診療科部長の裁量に委ねていた(証人E〔原審〕)。 (3) C医師は、10月3日(金)、頭痛、動悸、嘔気の症状を訴えて本件病院の内科を受診し、翌4日(土)には自宅療養をした 。 C医師は、同月5日(日)午前中には、入院病棟を巡回するなどの業務に 従事していたが(午前9時台には複数のログイン時刻が記録されている。)、同日中に、めまいの症状を訴えて本件病院に入院した。 C医師は、服薬によって一旦症状が改善したため、同月7日(火)午後7時頃に退院したが、再びめまい等の症状を訴えて、同月8日(水)午後0時20分頃に入院した。 なお、C医師は、上記入院後である同月6日付けで、E院長宛てに、同日- 21 -から同月16日までの所定労働日8日間についての年次有給休暇に係る休暇届を提出し、E院長及び本件病院の事務長であるL(以下「L事務長」という。)らが同休暇届の決裁をした。 (前提事実(7)オ、上記1(1)、甲1〔294頁〕、10〔75、89頁〕、89〔105頁〕) (4) L事務長は、上記(3)のC医師の入院後、本件産婦人科の職員からC医師が入院したことを聞いたが、C医師に係る時間外勤務命令票記載の業務状況は見たものの、C医師自身や本件産婦人科の職員から、C医師の体調や具体 、上記(3)のC医師の入院後、本件産婦人科の職員からC医師が入院したことを聞いたが、C医師に係る時間外勤務命令票記載の業務状況は見たものの、C医師自身や本件産婦人科の職員から、C医師の体調や具体的な勤務状況について聴取ないし確認等をすることはなかった(証人L〔原審〕)。 (5) C医師は、入院中であった10月12日、G医師宛て発出したメールに「今後家内の援助をえながら、楽に生活をする。F先生にもっと仕事をさせ、自分の仕事量を減らしていくなどの課題もありますが、あせらず、静養しながら仕事ができるように戻していくつもりです」等と記載するとともに、その頃、G医師とした口頭でのやり取りの中で、F医師のことを 指して、休日にもっと担当患者の様子を確認しに行くべきである旨述べるなどした(甲1〔424頁〕、証人G〔原審〕)。 (6) C医師は、入院中の10月14日には、本件産婦人科で実施された自身が主治医を務める妊婦の分娩(分娩時刻午後3時27分)を担当したほか、F医師が主治医を務め、非常勤医師が執刀する手術(左付属器切除、 手術所要時間:午後1時57分から午後2時55分まで、CO2ガスモニター時間:午後1時35分から午後3時03分まで)に麻酔医として関与した。また、同月16日には、自らが主治医を務め、非常勤医師が執刀する患者の手術(C/S、手術所要時間:午後2時04分から午後3時28分まで、CO2ガスモニター時間:午後1時35分から午後3時32分ま で)に介助医及び麻酔医として関与した。 - 22 -(乙29〔No117、118〕、30〔No222〕)(7) C医師は、10月16日(木)午後7時30分、本件病院から退院した(前提事実(7)オ、甲10〔93頁〕)。 (8) E院長は、10月21日、C医師 17、118〕、30〔No222〕)(7) C医師は、10月16日(木)午後7時30分、本件病院から退院した(前提事実(7)オ、甲10〔93頁〕)。 (8) E院長は、10月21日、C医師が高血圧症で入院し、その退院後に塞ぎ込んでいる等の話を聞いたことを契機に、病後であったC医師の業務負 担軽減等を意図して、C医師との面談をした。 同面談において、E院長は、C医師に対し、婦人科における金曜日の診療を減らし、その減少分についてC医師又はF医師が休むようにする旨の提案をした。これに対し、C医師は、時間外及び休日に他科の医師を呼び出した際における時間外手当の付与等といった他の医師に関する金銭的問 題について申入れをしたが、C医師自身の業務負担軽減についての申入れ等はしなかった。 その後、本件産婦人科では、C医師の裁量によって、E院長の提案に沿ったC医師の業務負担軽減等が図られることはなく、E院長においても、C医師の業務負担軽減等について指導ないし指揮監督をすることはな かった。 (甲1〔391頁〕、証人E〔原審〕、証人F〔原審〕)(9) C医師は、遅くとも10月30日頃までに、「現況問題点の整理(C個人)」と題し、順に次のアないしサのとおりの各項目を設け、その項目ごとにC医師自身による分析内容(抜粋)を記載した書面を作成した(甲1 〔392、393頁〕)。 アストレス因子の整理と今後仕事を続けられるかの整理一言で片付ければ精神的・体力的限界(一定の休みのなさ)で片付けられるイ仕事の減量 この1-2年努力してきたつもりであるが、本質的には一旦遮断しない- 23 -ことには無理(1-2か月の長期休暇?)ウ休養日の確保現在産直平日一回+休日の約5割 減量 この1-2年努力してきたつもりであるが、本質的には一旦遮断しない- 23 -ことには無理(1-2か月の長期休暇?)ウ休養日の確保現在産直平日一回+休日の約5割エ平日休養日の増加? 今の二人のコンビでは本格的に改善しないと困難 オ仕事環境外来M・N 個人的にはアリガタイ存在産婦人科医師F 自己中心的になりがちでストレスメーカー(++)病棟助産師以前ほどでないが、一部ストレスメーカー(+) 増員の陰で余りにも素人集団の影が目につく、あきれてストレス対象外どち らかと云えば、現在の病院運営方針へのストレスに対象が変わるカその他最近気分良く・程よく遊びに加わってくれるアリガタイ仲間→ストレス減キ単身赴任の限界(生活・仕事面での両面から限界) ここ2年近くにわたる家庭の完全崩壊からは少し回復しつつあると考えるが、単身赴任の生活のシンドサ・虚無感は残る。まだ子供の問題は山積みで、家内からの援助をもらえる処まで回復していないク対家内①長門自体を嫌っているのか? ②今の官舎を嫌っているだけか?(か なりの嫌がり強力因子)異常な湿度・カビの増殖・部屋の暗さ(日照を遮った設計) 私自身も、昼間過ごすのは憂うつな部屋ケ対娘子供が父親に感じているストレスを認めなければならない 子供の長門嫌悪感はどうしようもないところあり- 24 -コ対自己いわゆる酒・女・博打等の世間一般のオーソドックスな付き合いが下手サ今後同じ失敗を繰り返さず、楽に仕事をするにはⅠ 勤務・当番に対する話し合 コ対自己いわゆる酒・女・博打等の世間一般のオーソドックスな付き合いが下手サ今後同じ失敗を繰り返さず、楽に仕事をするにはⅠ 勤務・当番に対する話し合いの徹底Ⅱ 非常勤化・給与減の勤務時間短縮契約で Ⅲ 家族の対長門感情を察して、病院移動・住居変更(10) C医師は、11月3日頃、F医師に対し、「F先生へ」と題し、「自分自身も人にあまり偉そうなことを言える程、自分に厳しくしていないもので、あまり小言や文句を言える立場ではありませんが、普段から気に掛ること不満に思うことを失礼承知の上であえて文書にさせてもらいました。理由 としては、まず先生が話をゆっくりしよう・相談しよう等の態度がなく、あまりにも大人気なく、自己中心的な態度を示し、一般社会人として通用しない態度が多いからです。」との書き出しで、「仕事は大勢の人の協力のもとに成立しているとの認識が薄く、すぐ自己中心的発想で動いてしまう」等のF医師の勤務態度についての問題点を指摘する旨、「誘発を15時にやめる のではなく、せめて日勤最後くらい迄頑張り、19時頃までの分娩はみるつもりでないと」、「休日を休みと割り切るにしても、もう少し足を運んで患者さんの状態把握を」等の産婦人科医師としての具体的な業務の進め方や心構え等について指導ないし助言をする旨を記載した上、末尾の方に「2月に葬儀・10月の入院で迷惑をかけたことは認めますが、自分の仕事が増える ことのみ嫌がり、自分が庇って頑張ってみようとする気配が見られなかったことは残念です。また本来なら、相談して決めるべき当番表もメモのように置きっぱなしの態度も解せません。二人でやっていかなければならない処です。嫌かもしれませんが、もう少し話し合う態度もみせてほしいことを は残念です。また本来なら、相談して決めるべき当番表もメモのように置きっぱなしの態度も解せません。二人でやっていかなければならない処です。嫌かもしれませんが、もう少し話し合う態度もみせてほしいことを望みます。」等と記載した書面を交付した。 これに対し、F医師は、同書面を閲読後、C医師に対し、「そんなことを- 25 -言われるなら一緒にはやっていけません」、「医師それぞれにやり方がある」等の発言をした。それを受けて、C医師は、F医師に対し、重ねて自己の意見等を示すことはなかった。 (甲1〔120~122、411頁〕) 2 事実認定の補足説明 (1) C医師が本件病院の業務に従事したと認定できる日程及び時間(上記1(1))についての補足説明ア認定の対象とした期間についてC医師が精神障害を発病した時点について、控訴人らは「平成21年1月頃」と、被控訴人は「平成20年12月頃から平成21年1月頃にか けて」とそれぞれ主張する。そして、本件においては、後記3(争点1の検討)のとおり、C医師に関する本件病院での業務従事と精神障害の発病及び本件自殺の間の相当因果関係の存否を検討する手法として、労災認定基準を参照することとするが、労災認定基準は「発病前おおむね6か月の間」に業務による強い心理的負荷が認められるか否かを問題と するところ(前提事実(11))、C医師の発病時期を上記各意見のいう時期のいずれとみたとしても、「発病前おおむね6か月の間」に相当する期間についての検討を可能とするために、平成21年1月末あるいは平成20年12月末から遡った6か月(30日間を1か月と扱う。)に相当する平成20年7月6日から平成21年1月31日までの期間を認定 の対象とすることとした。 そして、C医 あるいは平成20年12月末から遡った6か月(30日間を1か月と扱う。)に相当する平成20年7月6日から平成21年1月31日までの期間を認定 の対象とすることとした。 そして、C医師が本件病院の業務に従事した上記期間における日程及び時間について、上記1(1)(別紙3)のとおりの事実を認定するに当たっての基本的な考え方は、次のイないしカのとおりであり、個別の日程における認定理由の詳細は、別紙3の「裁判所の認定(時間外労働時 間の認定に関する補足)」欄記載のとおりである。 - 26 -イ本件客観的資料に関する評価及びそれらを用いた労働時間の認定手法等(ア) ログイン記録(前提事実(12)ア)C医師が本件病院での業務に従事していた日程及び時間を裏付ける証拠のうち、ログイン記録は最も客観的な性格を有するものといいえる。 ID番号が職員ごとに割り当てられていたことに照らすと、ログイン記 録上、C医師に係るログイン時刻が存在するときは、当該ログイン時刻の前後において、C医師は本件病院での業務に従事していたと認めるのが相当である。 もっとも、C医師の担当業務はコンピューター入力等にとどまるものではない上、ログイン時刻の存在が認められない時刻及びその前後の時 間において、本件客観的資料のうちその他の資料によって業務への従事が認められることがあって、C医師がログイン時刻及びその前後以外にも業務に従事していた可能性に留意する必要がある。 (イ) 時間外勤務命令票(前提事実(12)イ)本件全証拠によっても、C医師が時間外勤務命令票に虚偽の業務内容 及び時間等を記載していることをうかがわせる事情は認められない。そうすると、C医師は、少なくとも時間外勤務命令票の記載時間について本件病院の業務に従事していた 間外勤務命令票に虚偽の業務内容 及び時間等を記載していることをうかがわせる事情は認められない。そうすると、C医師は、少なくとも時間外勤務命令票の記載時間について本件病院の業務に従事していたと認めるべきことになる。 もっとも、時間外勤務命令票に記載された時間外労働の内容は、分娩、手術、病棟処置及び外来等といった専ら診療業務に関するものに限 定されており、それ以外の業務による記載はない。このことに加え、証拠(甲1、3)によれば、時間外勤務命令票による時間外労働の届出がないにもかかわらず、所定労働時間外にログイン時刻が存在する日時が相当数あること等を併せ考慮すると、少なくとも時間外勤務命令票に記載された時間については時間外労働がされたと認められる反面、それ以 外の時間外労働の存在が否定されるものではないということに留意する- 27 -必要がある。 (ウ) 分娩記録台帳(前提事実(12)ウ)分娩記録台帳に記載された分娩の日時から推認できる労働時間について、本件産婦人科で勤務していたF医師が、トラブルのない正常分娩であれば、医師が分娩にかかわる時間は1時間程度であり、その余は助産 師が対応している旨証言等していること(証人F〔原審〕)、証拠(乙29)によれば、C医師とF医師がそれぞれ同名の手術を担当していることがあるところ、執刀医がF医師であるときの方が短時間で手術が終了している傾向が認められるなど、C医師よりもF医師の方が産婦人科における個々の診療業務を短時間で終了させていることが想定され、C 医師はF医師が証言等する上記時間よりも長い対応をしていたともみられること、その他分娩後のログイン記録や分娩に係る時間外勤務命令票の記載時間の傾向等を総合すると、本件産婦人科では設備及び体制等の問題 師はF医師が証言等する上記時間よりも長い対応をしていたともみられること、その他分娩後のログイン記録や分娩に係る時間外勤務命令票の記載時間の傾向等を総合すると、本件産婦人科では設備及び体制等の問題(新生児集中治療室が設けられていないこと等)から相当難度の高い分娩ないし手術は取り扱っていなかったことがうかがわれるにせよ、 C医師が分娩記録台帳において分娩担当医と記録されているときは、平均的なものとして、記載に係る分娩時刻の前30分、後1時間にわたって分娩に関する業務に従事していたと認めるのが相当である。 (エ) 手術申込書(前提事実(12)エ)C医師が手術に関する業務に従事した時間について、主治医、執刀医 又は介助医を務めていたときは、少なくとも手術申込書に記載された手術自体の開始時刻から終了時刻までの時間が上記業務に従事した時間に含まれるものと認めるのが相当である。 もっとも、一般的に、主治医や執刀医は、手術施行後、一定の時間は患者の容態を確認したり、手術に伴う情報をコンピューターに入力し、 患者本人や近親者らに対する説明等をするなど、手術に伴う業務に従事- 28 -することが想定される。そして、そのような手術に伴う業務時間を認定するに当たっては、本件客観的資料のうち手術申込書以外の証拠を参照すると、ログイン記録と時間外勤務命令票の双方があるにもかかわらず各時間に一致がみられない日程や、時間外勤務命令票の記載はあるがログイン記録がない日程等があるため、ログイン記録あるいは時間外勤務 命令票といった特定の証拠に依拠して上記のような手術に伴う業務時間を認定することは困難である。他方で、上記(ア)、(イ)に認定説示したログイン記録及び時間外勤務命令票の性質等に照らすと、特定の日にち毎にこれらの記載時刻のみに 拠して上記のような手術に伴う業務時間を認定することは困難である。他方で、上記(ア)、(イ)に認定説示したログイン記録及び時間外勤務命令票の性質等に照らすと、特定の日にち毎にこれらの記載時刻のみによって業務の終了時刻を認定した場合には、実態とは乖離した形で抑制的に過ぎる認定とならざるを得ない。そこ で、上記のとおり例示した業務内容のほか、手術後のログイン時刻や手術に係る時間外勤務命令票の記載の傾向等を踏まえつつ、平均的な業務時間を認定するのが相当というべきであり、本件産婦人科では設備及び体制等の問題から相当難度の高い手術は取り扱っていなかったことがうかがわれるにせよ、C医師が手術申込書に主治医又は執刀医として記載 されているときは、平均的なものとして、記載に係る手術終了時刻の後1時間は手術に伴う業務に従事していたと認めるのが相当である。 また、麻酔医を務める場合においては、麻酔の効果が持続する一定時間は患者の様子をみること等が想定されるところ、上記と同様に、手術後のログイン時刻や手術に係る時間外勤務命令票の記載の傾向等を総合 すると、C医師が手術申込書に麻酔医として記載されているときは、平均的なものとして、CO2ガスモニター終了時刻の後30分間は業務に従事していたと認めるのが相当である。 (オ) 診療録(前提事実(12)オ)診療録には、C医師がした診療上の処置ないし行為が記載されている ことがあり(前提事実(12)オ)、その中には、分娩記録台帳及び手術申- 29 -込書、さらには上記(ウ)、(エ)のとおりに認定できる労働時間には当てはまらないものが存在する。診療録には、通常、正確を期した記載がされているとみられるところ、上記のような記載があるときは、同記載から合理的に推認できる労働時間の存在 おりに認定できる労働時間には当てはまらないものが存在する。診療録には、通常、正確を期した記載がされているとみられるところ、上記のような記載があるときは、同記載から合理的に推認できる労働時間の存在を認定すべきことになる。 (カ) その他 以上のほか、例えば、C医師が使用していた個人所有パソコン内には、看護学校の講義資料のデータが保存されており、そのデータ保存に係る時刻が判明しているところ、かかる講義資料の作成は、本件病院の業務に含まれると解するのが相当である。そうすると、上記データ保存に係る時刻前後の相応の時間について、C医師が本件病院の業務に従事 したものと認めるべきことになる。 ウ所定労働日における始業時刻の認定原則的には、所定始業時刻である午前8時30分(前提事実(6))を始業時刻と認めつつ、例えば、深夜ないし早朝の分娩への関与など、それよりも早い時刻に業務を開始していると認めるべき他の証拠があるとき は、それによって始業時間を認めるのが相当である。 なお、別紙3では、上記の認定手法によると、深夜ないし早朝の分娩への関与が終了した後、所定始業時刻前までに業務に就いていない時間があると認められる場合には、かかる時間を休憩時間として表示することとしている。 エ所定労働日における昼休憩時間の認定原則的には、所定休憩時間である午後0時10分から午後1時までを休憩時間として認定するのが相当である。 もっとも、本件客観的資料によって、例えば、所定休憩時間内に分娩及び手術等に関与していることが明らかであるなど、業務への従事が認め られるときは、休憩時間がないものとして扱うべきことになる。 - 30 -また、証拠(甲3)によれば、所定休 間内に分娩及び手術等に関与していることが明らかであるなど、業務への従事が認め られるときは、休憩時間がないものとして扱うべきことになる。 - 30 -また、証拠(甲3)によれば、所定休憩時間内にログイン時刻があることが少なくない。上記イ(ア)のとおり、C医師はログイン時刻の前後にわたり業務に従事していると認めるのが相当であるところ、具体的な昼休憩時間の認定手法としては、診察や患者との応対等をするなどしてコンピューター入力をしていない時間があり得ること等を踏まえると、所定 休憩時間内における複数のログイン時刻の間隔がおおむね15分間以内であるときは、その間に昼休憩をとっていたとは考え難く、その間は連続して業務に従事していたと認めるのが相当である。加えて、15分間を超えるログイン時刻の間隔があるときには、当該各ログイン時刻を基準に、その前後各5分間については業務に従事していたと認めるのが相 当である(例えば、1月19日のように午後0時15分と午後0時46分にログイン時刻があるときは、昼休憩時間は午後0時20分から午後0時41分までであったと認定するものである。)。 さらに、上記の手法に従った結果、休憩を想定する時間が20分間以下になる場合には、実質的には昼食を摂るなどしての休息をとるができて いなかったと評価することとし、休憩時間がないものと認めるのが相当である。 オ所定労働日における終業時刻の認定(ア) 認定の基本的な考え方ログイン時刻によって終業時刻を認定する場合には、一日の業務終了 時に後片付けないし翌日の準備等があり得ることが想定されるとともに、全労働日について最終ログイン時刻前に入念な帰宅準備を進めつつ、コンピューター入力を終えたその瞬間に直ちに職場を離れ 務終了 時に後片付けないし翌日の準備等があり得ることが想定されるとともに、全労働日について最終ログイン時刻前に入念な帰宅準備を進めつつ、コンピューター入力を終えたその瞬間に直ちに職場を離れるなどして労働から解放されるとみるのは、技巧的に過ぎるものというべきである。このような考慮から、最終ログイン時刻に少なくとも10分間を加 算した時刻をもって、当該日程における終了時刻と認めるのが相当であ- 31 -る。 そして、このような最終ログイン時刻に10分間を加算した時刻と、上記イで認定説示した本件客観的資料による労働時間の認定手法に従った時間外勤務命令票記載の勤務終了時刻、手術又は分娩等に関する時刻(主治医又は執刀医について手術後1時間、麻酔医についてCO2ガス モニター終了時刻の後30分間、分娩時刻の後1時間)のうち、最も遅い時刻をもって終業時刻と認めるのが相当である。 (イ) 上記(ア)以外の平日の終業時刻の認定手法についてC医師が従事していた業務の内容のほか、関係各証拠の内容に鑑みれば、上記(ア)のとおりの認定手法による平日の終業時刻が午後6時より も前になる場合には、次のaないしdのとおりの理由から、終業時刻を午後6時と認めるのが相当である。 a 自ら担当する診療以外の産婦人科部長としての業務等前提事実(3)、上記1(2)のとおり、C医師は、本件産婦人科の産婦人科部長として勤務し、各診療科の運営全般が広く各診療科部長の裁 量に委ねられていたことのほか、証拠(乙17、99)によれば、その職制上、本件産婦人科に勤務する職員の業務分担、時間外及び休日勤務、勤務上の指揮監督に関する権限を有していたことが認められるところ、自らが担当する診療業務にとどまらず、上記のよ 99)によれば、その職制上、本件産婦人科に勤務する職員の業務分担、時間外及び休日勤務、勤務上の指揮監督に関する権限を有していたことが認められるところ、自らが担当する診療業務にとどまらず、上記のような地位に伴う本件産婦人科の運営やその周辺的な業務についての負担があった と認められ、この認定を覆すに足りる証拠はない。このような業務の一例として、C医師は、9月23日、手術申込書に主治医、執刀医、介助医又は麻酔医として氏名が記載されていないにもかかわらず、時間外勤務命令票上、手術のために出勤した旨の記載がある。この手術については、介助医が外部から派遣された医師であったとみられると ころ、上記の事情は、C医師が、自らが担当していない手術について- 32 -も、指導、支援ないし管理等の趣旨で出勤していた可能性をうかがわせるものといえる。この点は、その立場(前提事実(5)ア)から本件産婦人科の事情について相当程度把握していたとみられるG医師が、産婦人科部長の地位にあれば、手術担当者が自身か部下であるかにかかわらず、診療科の責任者として、経過が順調であったとしても退院す るまでは自身が管理するという意識で業務に従事している旨証言していること(証人G〔原審〕)にも整合するものといえる。 加えて、C医師は、本件病院内の複数の委員会に所属しており、頻度は多くないものの、その会議に出席していたり(甲1〔367頁〕)、看護学校の講義を担当するなどしており、このような業務も あったと認められる。 b 関係者による終業時刻に関する供述内容等帰宅時間についての本件産婦人科勤務の医師の供述をみると、F医師の前任者であったO医師(以下「O医師」という。)は、自身は午後6時若しくは午後7時頃に帰宅しており、C医師も同じよう する供述内容等帰宅時間についての本件産婦人科勤務の医師の供述をみると、F医師の前任者であったO医師(以下「O医師」という。)は、自身は午後6時若しくは午後7時頃に帰宅しており、C医師も同じような状況 であったと思う旨供述している(甲8。なお、O医師の平成29年12月12日付けの陳述書(甲52)には、C医師の方がO医師よりも終業が遅かった旨の供述もあるが、より当時に近い記憶に基づく上記陳述(甲8)の方に高い信用性が認められることから、かかる供述は採用しない。)。 また、F医師は、自身は早ければ午後5時ちょうどに帰宅することもあったが、感覚的には平均的な帰宅時刻は午後6時30分くらいであり、特に時間外勤務命令票による時間外労働の申告はしていなかったなどと証言している(証人F〔原審〕)。 C医師の帰宅時刻を認定するに当たっては、以上のような証言につ いても考慮する必要がある。 - 33 -c 時間外勤務命令票の記載の傾向等上記1(1)のとおり認定対象とした期間におけるC医師の時間外勤務命令票をみると、所定終業時刻である午後5時以降、午後5時台で終了した時間外労働の申告をする旨の記載は見当たらない。しかし、長期にわたり午後5時台に終了する時間外労働が全く存在しなかった とみるのはかえって不自然であり、上記bのF医師の証言にもあるように、本件病院に勤務する医師においては、そもそも夕方短時間の時間外勤務については申告するまでもないなどとの考えを有していたことがうかがわれ、このような考え方を背景として、C医師は、午後5時台に終了する時間外労働はあえて時間外勤務命令票に基づく申告を していなかったと推認するのが相当である。 d 小括以上のとおり、C医師は、産 、C医師は、午後5時台に終了する時間外労働はあえて時間外勤務命令票に基づく申告を していなかったと推認するのが相当である。 d 小括以上のとおり、C医師は、産婦人科部長の地位に伴う業務負担があったほか、その中にはログイン記録等に表れず、時間外勤務命令票に記載されていないものがあったと認められ、この認定を覆すに足り る証拠はない。そして、上記aないしcで検討した証拠及び事情を踏まえると、上記(ア)の認定手法によって平日の終業時刻を認定したときにそれが午後6時を超えるものではなかった場合には、C医師は平均して午後6時頃までは業務に従事していたものと認めるのが相当である。 これに対し、被控訴人は、別紙2のとおり、かかる認定を争う旨の主張をし、これに沿う証拠として、本件病院ではコンピューターにログインして書面作成、検査ないし投薬の指示等の業務をするため、基本的にはログアウトすれば医師の業務は終了する旨のK医師(平成22年8月以降に本件病院の産婦人科部長を務めていた。)の証言等 (乙44、証人K〔原審〕)がある。しかし、ログイン記録は専ら自- 34 -らが担当する診療業務に関するものであるとみられるところ、C医師が従事していた業務がこれにとどまらないことは上記のとおりであって、K医師の上記証言等に直ちに依拠することはできず、被控訴人の上記主張も上記認定判断を左右するものではないというべきである。 他方で、控訴人らは、C医師が平日の所定労働日には毎日午後7時 まで業務に従事していたなどと主張し、控訴人Aは、記憶によればC医師が午後7時より早く帰宅することはほとんどなかった旨供述するが(甲11、56、66、控訴人A〔原審〕)、本件客観的資料等による まで業務に従事していたなどと主張し、控訴人Aは、記憶によればC医師が午後7時より早く帰宅することはほとんどなかった旨供述するが(甲11、56、66、控訴人A〔原審〕)、本件客観的資料等による裏付けに乏しく、上記bに記載の本件産婦人科の関係者との証言等と整合するものでもない。また、J医師は、控訴人らの依頼に基づ き診療録等の記載を分析し、C医師の労働時間は上記認定判断よりも長いものであった旨証言等をするが(甲2、9、25、43、64、77、84、91、111、証人J〔原審〕)、本件病院における実際の勤務経験に基づいた証言等ではない点で、直ちにこれに依拠することはできず、これも上記認定判断を覆すものではない。 以上のとおり、当裁判所の認定に反する各当事者の主張は、いずれも採用できない。 カ休日の労働時間(ア) 基本的な労働時間の認定方法について基本的な考え方として、上記認定説示した本件客観的資料に基づく時 刻(例えば、最終ログイン時刻については10分間を加算するなどの補正ないし修正をした後の時刻)を踏まえ、当該日程のうち最も早い時刻を始業時刻と認め、最も遅い時刻を終業時刻と認めるべきこととなる。 また、休憩時間については、休日には所定休憩時間が定められたものではないから、認定できる業務と業務の間の時間を休憩時間と扱うこと とする。 - 35 -(イ) 休日における病棟巡回等について控訴人らは、C医師が、所定休日において、1日つき2回にわたり各1時間程度、本件病院での業務に従事していた旨主張する。 しかし、休日の中には、ログイン記録及び時間外勤務命令票を中心とする本件客観的資料を参照するなどしても、C医師が本件病院に出勤し ていた事実を認めるべき手掛かりが全く 従事していた旨主張する。 しかし、休日の中には、ログイン記録及び時間外勤務命令票を中心とする本件客観的資料を参照するなどしても、C医師が本件病院に出勤し ていた事実を認めるべき手掛かりが全くない日程がある。 他方で、ログイン記録をみると、休日においては、分娩記録台帳及び手術申込書による分娩や手術の記載等があるわけではなく、時間外勤務命令票による休日勤務の申告がないにもかかわらず、ログイン時刻のみが存在する日程ないし時間が相当数存在する。加えて、時間外勤務命令 票には「病棟処置」との記載のある箇所も相当数存在する。これらについては、C医師が入院病棟を巡回して、患者の様子を確認するなどしていたからこそ、入院患者の容態によって「病棟処置」に至ることがあったと認められ、また、C医師が時間外勤務命令票を用いた時間外労働の申告をしていなくとも、現に医療上の情報を閲覧ないし記録する必要が あったために、本件病院のコンピューターにログインをした結果、そのようなログイン時刻の記録が生じたものと認めるのが相当である。このような業務の実態は、研修医時代からの習慣として、土日祝日にも病棟に赴いて入院患者の顔を見ていたなどというK医師の証言(証人K〔原審〕)や、土日祝日にも習慣的に入院患者の見回りをしていたなどとい うF医師の証言(証人F〔原審〕)にも符合するものである。そうすると、かかる行為を「回診」と表現するか否かは別として、C医師は、休日に本件病院の入院病棟を巡回の上、入院患者の様子を確認するなどして、必要と認められるときは医療上の対応をしていたと認められ、この認定を覆すに足りる証拠はない。 次いで、上記のようなC医師による巡回の頻度について検討すると、- 36 -時間外勤務命令票の提出がされたり、手術又は分娩等 応をしていたと認められ、この認定を覆すに足りる証拠はない。 次いで、上記のようなC医師による巡回の頻度について検討すると、- 36 -時間外勤務命令票の提出がされたり、手術又は分娩等によって本件病院に出勤していることが明らかな場合には、C医師は、少なくとも1回、入院病棟の巡回をしていたと認めるのが相当である。加えて、例えば、午前中に、上記証拠によって認められる勤務があり、これとは離れた午後の時間帯にログイン時刻が存在するような場合にあっては、1日に2 回、入院病棟の巡回をしていたと認めるのが相当である。 さらに、上記巡回行為の1回当たりの所要時間について検討すると、例えば、1月11日のように、一定の時間内に複数のログイン時刻が存在し、C医師が最初と最後のログイン時刻の間に入院病棟の巡回をしていたと認めるのが相当な場合にはそれによるべきことになる。また、他 の証拠から出勤の事実が認められるもののログイン記録が存在しない、あるいは、存在するとしても少数又は短時間に点在するログイン時刻しか存在しない場合について検討すると、K医師は、10人の患者がいたとして30分はかからなかったなどと証言する反面(証人K〔原審〕)、F医師は、安定している患者については1日1回、その所要時 間は、患者数や重症度にもよるが、1時間程度で2時間は要しないなどと証言するところ(証人F〔原審〕)、これらの証言内容を踏まえつつ、C医師がF医師に対する指導助言のために交付した書面の「休日を休みと割り切るにしても、もう少し足を運んで患者さんの状態把握を」との記載(上記1(10))に照らし、C医師がF医師よりも充実した病棟 の巡回をしていたと考え得ることを併せ考慮すると、C医師は、平均的なものとして、1回当たり、ログイン時刻をはさんで 握を」との記載(上記1(10))に照らし、C医師がF医師よりも充実した病棟 の巡回をしていたと考え得ることを併せ考慮すると、C医師は、平均的なものとして、1回当たり、ログイン時刻をはさんで、あるいは、時間外勤務命令票に表示された病棟処置等とは別に、少なくとも1時間程度は、入院病棟の巡回に時間をかけていたと認めるのが相当である。 これに対し、被控訴人は、C医師の労働時間は別紙2のとおりであっ たとして、上記認定判断を争う旨の主張をする。しかし、本件産婦人科- 37 -の関係者であるK医師及びF医師が休日における入院病棟の巡回を実施していた旨証言していることは上記のとおりであるところ、C医師のみがこれをしていなかったと認めるのは不自然、不合理というほかはなく、入院病棟の巡回そのものを否定する被控訴人の上記主張は採用できない。 また、被控訴人は、C医師が入院病棟の巡回をしていたとしても、業務命令に基づくものではないから、その時間は時間外労働に含まれないなどと主張し、F医師は、休日に入院患者の様子を見に行くことは本件病院の指示によるものではなく、自主的な行動であったなどと証言等をし(乙43、証人F〔原審〕)、K医師もこれと同旨の証言等をする (乙44、証人K〔原審〕)。しかし、入院病棟の巡回をした結果、C医師が現に「病棟処置」あるいは入院患者の診療上の情報を閲覧ないし記録するに至っていることは上記認定のとおりであり、これは入院患者に対する診療という本件病院の本来的業務に直接結び付く行為であるというほかはないし、このような行為の性質に加え、C医師がこれを反復 継続していたことに照らすと、休日における病棟の巡回は、被控訴人の黙示的な業務命令に基づくものであったと認めるのが相当であり、これに反する被控訴人 ような行為の性質に加え、C医師がこれを反復 継続していたことに照らすと、休日における病棟の巡回は、被控訴人の黙示的な業務命令に基づくものであったと認めるのが相当であり、これに反する被控訴人の主張は採用できない。 (2) C医師がF医師に対し指導ないし助言を内容とする書面を交付したこと及びこれに対するF医師の言動(上記1(10))についての補足説明 証拠(甲1〔120~122頁〕)によれば、萩労働基準監督署厚生労働事務官は、F医師に対する面接調査の結果を平成23年6月8日付け調査記録書に取りまとめているところ、同書面には、同厚生労働事務官に対するF医師の説明内容として、C医師が平成20年10月に入院した際、F医師に対しては何ら予告や事情説明等をしていなかった旨のほか、その入院期間中 に本件産婦人科の診療業務を全てF医師自身が担当しなければならなかった- 38 -ことから「少し頭に来ていた」旨、C医師の退院後、C医師から「手紙」をもらったが、頭にきて「そんなことを言われるなら一緒にはやっていけません」、「医師それぞれにやり方がある」と述べる等の意見交換をした旨、また、C医師とは口論になったわけではなく、飽くまでも互いに意見を述べたもので、C医師は「よく分かった」と言い、その後、C医師からは何も言わ れていない旨の記載があることが認められる。 そこで検討すると、この調査記録書は、職務上作成されたものであり、担当厚生労働事務官において殊更内容虚偽の記載をするとは考え難い上、正確を期して作成しようとする性質の書面でもある。加えて、その記載に係るF医師の説明内容は、「手紙」すなわちC医師がF医師宛てに作成した書面の 交付後におけるやり取りが具体的で、C医師の不意の入院による業務負担の増加についてのF でもある。加えて、その記載に係るF医師の説明内容は、「手紙」すなわちC医師がF医師宛てに作成した書面の 交付後におけるやり取りが具体的で、C医師の不意の入院による業務負担の増加についてのF医師の心情は自然かつ合理的なものであり、飽くまでも互いに意見を述べたにとどまる等のF医師の立場に沿うものとみられる内容を備えている。以上によれば、この調査記録書の記載内容には高度な信用性があるというべきであり、これによれば、C医師は、F医師に対し、上記「F 先生へ」と題する書面を交付し、その後のF医師の言動は同調査記録書記載のとおりのものであったと認められ、この認定を覆すに足りる証拠はないというべきである。 これに対し、被控訴人は、上記調査記録書の記載について、F医師が「手紙」を交付されたことや、それを受けて、F医師が「そんなことを言われる なら一緒にはやっていけません」と発言したことは、担当者の誤解に基づくフィクションであるなどと主張し、F医師はこれに沿う証言等をするものの(乙43、85、証人F〔原審〕。なお、F医師は、C医師の退院後、上記のものとは別の経過として、C医師側に問題がある言動があったために「一緒にやっていけません」との発言をした旨供述している(乙43、8 5)。)、上記のとおり上記調査報告書の記載内容には高度な信用性がある- 39 -と認められることに加え、F医師の上記証言等は、令和4年1月28日作成の陳述書(乙43)、同年12月20日付け意見書(乙85)及び令和6年1月30日の原審での証人尋問におけるものであり、C医師とF医師のやり取りがされたとみられる時期から長期間が経過した時点のものであって、平成23年6月8日作成の上記調査記録書の記載事項との比較において記憶の 鮮明さに劣り、あるいは、その り、C医師とF医師のやり取りがされたとみられる時期から長期間が経過した時点のものであって、平成23年6月8日作成の上記調査記録書の記載事項との比較において記憶の 鮮明さに劣り、あるいは、その後の記憶の変容等が生じ得るとの指摘を免れないものというべきである。そうすると、この点に関するF医師の供述によって上記認定判断が覆るものではなく、被控訴人の上記主張は採用できない。 以上の次第で、当裁判所は、上記1(10)のとおりの事実を認定した。 3 争点1(本件病院での業務従事と本件自殺の間の相当因果関係の有無)について(1) 判断手法業務と精神障害の発病との間の相当因果関係の有無の判断は、労災認定手続における業務起因性の判断とおおむね同様のものと考えられるところ、業 務起因性の判断に用いられる労災認定基準は、医学的及び法的な専門的知見を集約し、検討を重ねた上で策定されたものであるから、相当因果関係の有無の判断に当たり、かかる労災認定基準の考え方を参照することには合理性が認められるというべきである。 そこで、以下、労災認定基準を参照しつつ、C医師について、精神障害の 「発病前おおむね6か月の間」に生じた出来事に着目して、本件病院での業務従事と精神障害の発病及びそれによる本件自殺の間の相当因果関係の有無について検討することとする。 なお、前提事実(11)のとおり、労災認定基準については、旧認定基準から新認定基準への改定が図られている。本件に関する限り、旧認定基準と新認 定基準との間に本質的な相違はないというべきであるが、上記改定は新たな- 40 -医学的及び法的な専門的知見に基づく検討が加えられた結果によるものとみられることから、相当因果関係の有無を判断するに当たっては に本質的な相違はないというべきであるが、上記改定は新たな- 40 -医学的及び法的な専門的知見に基づく検討が加えられた結果によるものとみられることから、相当因果関係の有無を判断するに当たっては、基本的に新認定基準を参照するのが相当である。 (2) C医師の入院及び入院期間中の業務への従事前提事実(7)オのとおり、C医師は、平成20年10月5日以降、一時的 な退院を経て、同月16日まで体調不良により入院した。 その間にC医師が本件病院での業務に従事した状況については、上記1(1)(別紙3の上記期間部分)、(6)のとおり認定できるところ、C医師の入院診療録(内科)の一部である看護記録に、同月14日につき「日中食事以外は不在」、同月15日には「午前中不在」、同月16日には「日中不在」 との記載がされ、ログイン時刻が散見されるとおり、同月14日から同月16日の退院前にかけて、通常に近い状態での勤務をしており、従事した具体的な業務内容に着目しても、同月14日には、自らが主治医を務める患者について分娩を担当したほか、他の医師が執刀する手術に麻酔医として関与し、同月16日には、自らが主治医を務める患者について帝王切開の手術に 介助医及び麻酔医として関与するなどしている。 入院中における上記のような業務への従事は、集中的ないし専門的な治療の必要、治療の専念等を目的とし、健康の回復や心身の静養を図る機会と位置付けるべき入院の趣旨に著しく反するものというほかはない。 これに対し、厚生労働事務官によるF医師に対する面接調査の結果を取り まとめた調査記録書には、C医師の入院は、主治医の指示に基づかず、C医師自身の意向によるものであったと聞いている旨の記載がある(甲1〔121頁〕)。しかし、C医師が する面接調査の結果を取り まとめた調査記録書には、C医師の入院は、主治医の指示に基づかず、C医師自身の意向によるものであったと聞いている旨の記載がある(甲1〔121頁〕)。しかし、C医師が本件病院に勤務する医師であることを勘案しても、本件病院が主治医の判断と離れた単なる患者の意向によって入院をさせていたとは到底認められず、かかる記載によって入院中の業務への関与及び その負担を過少評価することはできない。 - 41 -(3) C医師とF医師の関係ア前提事実(5)ア、上記1(9)、(10)のとおり、本件産婦人科の常勤医師は、産婦人科部長であるC医師のほか、F医師の2名のみであったところ、C医師は、11月3日頃、F医師に対し、具体的な問題点を列挙した書面を交付しつつ、指導ないし助言を行った。2名しかいない常勤医 師の間で、互いの人間関係が通常の状態であれば、かかる方法によって指導ないし助言をすることはなかったというべきで、「相談して決めるべき当番表もメモのように置きっぱなしの態度も解せません」等の記載内容を併せ考慮すると、少なくともC医師からみてF医師との円滑な意思疎通が困難な状況となっていたと認められ、この認定を覆すに足りる 証拠はない。C医師としては、このような人間関係が形成されていること自体により、強いストレスを感じてしかるべきところ、C医師が自身を取り巻くストレス要因等を分析整理し、遅くとも10月30日までに作成した書面において、F医師のことを「ストレスメーカー(++)」等と評していることに照らすと、C医師の内心において、遅くとも10 月30日頃までには、F医師の存在によって相当の心理的負荷が生じていたことが明らかというべきである。 イそして、上記1(10)で認定したとこ すと、C医師の内心において、遅くとも10 月30日頃までには、F医師の存在によって相当の心理的負荷が生じていたことが明らかというべきである。 イそして、上記1(10)で認定したところによれば、C医師は、F医師に対し、書面を交付して指導ないし助言を行ったところ、F医師はこれに対する反発の姿勢を示したのみならず、その際の発言には「そんなことを 言われるなら一緒にはやっていけません」等というように退職を示唆するものまでが含まれていた。本件産婦人科には常勤医師が2名しかおらず、F医師が急に退職するなどすれば、本件産婦人科の業務が直ちに立ち行かなくなることは明らかであって、Fの上記発言は、本件産婦人科部長の地位にあり、その運営を委ねられていたC医師に対し、大きな衝 撃を与えるものであったと認められる。 - 42 -労災認定基準では、精神障害を発病させ得る出来事の類型として「部下とのトラブルがあった」を挙げ、心理的負荷の強度を「中」に当たるものとして「業務をめぐる方針等において、周囲からも客観的に認識されるような大きな対立が部下との間に生じた」及び「部下との対立により、本来得られるべき業務上の必要な協力が得られず、業務に一定の影 響が生じた」を例示しているところ、C医師が体験した上記出来事は、この労災認定基準の例示に合致するものではないにしても、常勤医師がC医師とF医師の2名であった本件産婦人科の体制下で、広い裁量とともに本件産婦人科の運営を委ねられていたC医師の立場に照らすと、これら例示する場合と同等あるいはそれを上回る心理的負荷をもたらすも のであったと評価するのが相当であり、かかる出来事による心理的負荷の強度は少なくとも「中」に当たるというべきである。 これに対し、被控訴人 るいはそれを上回る心理的負荷をもたらすも のであったと評価するのが相当であり、かかる出来事による心理的負荷の強度は少なくとも「中」に当たるというべきである。 これに対し、被控訴人は、C医師とF医師との間に対立はなかった旨主張し、F医師もこれに沿う証言等をする。また、上記1(10)に認定したとおり、C医師とF医師は口論等にはなっておらず、C医師は重ねて自 らの意見等を示すことはなかったものであるところ、これは一見すると、被控訴人の主張に沿う事情であるかにもみえる。しかし、上記の書面交付の際のやり取りのほかに、F医師との表立った対立までは生じていなかったとしても、それは常勤医師が2名のみの体制の中、C医師が対立を回避しようとした結果にすぎないと認めるのが自然かつ合理的で あり、C医師に業務上の心理的負荷が発生せず、あるいは、発生したとしてもその程度が弱いものであったことを意味するものではないというべきであって、これに反する被控訴人の上記主張は採用できない。 ウまた、上記1(5)において認定したとおり、C医師は、入院中、G医師に対して発したメールの中で、F医師との業務分担を変更する構想等に 言及していたものであり、C医師自身、そのような業務負担軽減のため- 43 -の構想を有していたことは明らかである。もっとも、C医師は、10月21日のE院長との面談に際し、業務負担軽減について助言を受けたものの、結局は自身の業務負担軽減を申し入れるなどはしていない。この点の理解としては、C医師とF医師との間の円滑な意思疎通が困難となった時期は必ずしも明らかではないものの、にわかに書面での指導な いし助言をする関係に至るとは考え難く、相当以前から、C医師がF医師に対して指導ないし助言等の困難を感じる場面 意思疎通が困難となった時期は必ずしも明らかではないものの、にわかに書面での指導な いし助言をする関係に至るとは考え難く、相当以前から、C医師がF医師に対して指導ないし助言等の困難を感じる場面があったと認められる。もっとも、上記2(2)において認定説示した厚生労働事務官作成の書面に、F医師が「(C医師の入院中の負担発生について)少し頭に来ていた」との説明をした旨の記載があること、C医師が交付した書面の文 中に「10月の入院で迷惑をかけたことは認めますが」とあること等に照らすと、少なくとも、C医師の入院を機に、両者の関係はそれ以前よりも悪化したものと認められ、この認定を覆すに足りる証拠はない。C医師自身が構想していた業務負担軽減については、本件産婦人科の常勤医師が2名のみの体制下で、C医師の業務負担軽減がF医師の業務負担 増加に結び付くことは不可避であり、C医師は、上記のような人間関係が悪化した状況の下、F医師との折り合い等を考え、自らの業務負担軽減を図ることが現実的でないと判断し、そのためにE院長との面談及びその後においても、自らの業務負担軽減をF医師に対して提案することができなかったとみるのが自然かつ合理的である。このような事情に照 らせば、C医師がE院長との面談に際して、業務負担について言及せず、その後も負担軽減策を実行しなかったことをもって、C医師の業務負担が小さかったと認めることはできない。むしろ、指導ないし助言に対してF医師から反発を受け、退職を示唆されたことをもって、少なくとも心理的負荷の強度が「中」に当たると認めるのが相当であることは 上記認定説示のとおりであるが、このように部下との人間関係により業- 44 -務に関する自らの構想を進めることができないという状況は、本件産婦人科の運営 たると認めるのが相当であることは 上記認定説示のとおりであるが、このように部下との人間関係により業- 44 -務に関する自らの構想を進めることができないという状況は、本件産婦人科の運営を広く委ねられていたC医師にとって、そのこと自体による焦燥はもとより、本件産婦人科の運営上自らの力量不足等とみられかねない支障であって、このことも、更に心理的負荷の強度を増加させる事情となり得たともいえる。 (4) 10月27日から11月14日まで(19日間)の連続勤務ア上記1(1)(別紙3)で認定説示したとおり、C医師は、10月27日から11月14日にかけて、その間の休日に本件病院での業務に従事したため、19日間連続の勤務となった。これは労災認定基準において、心理的負荷を生じさせる業務上の出来事として「2週間以上にわたって休日の ない連続勤務を行った」が挙げられ、その心理的負荷の強度を「強」とする例として挙げられる「1か月以上にわたって連続勤務を行った」又は「2週間以上にわたって連続勤務を行い、その間、連日、深夜時間帯に及ぶ時間外労働を行った」には当たらないものの、その強度を「中」とする「平日の時間外勤務だけではこなせない業務量がある、休日に対応しなけ ればならない業務が生じた等の事情により、2週間以上にわたって連続勤務を行った」に当てはまる。また、この連続勤務は、C医師の退院からさほど間がない時期のものである上、その開始直前の10月25日から26日にかけての深夜労働があってその翌日から開始するものであること、また、別紙3においては同月26日の業務を前日である同月25日から連続 した1つの勤務として位置付けたことから連続勤務の開始日を同月27日としたものの、単純な勤務日の連続のみをみると同月20日から開始し 3においては同月26日の業務を前日である同月25日から連続 した1つの勤務として位置付けたことから連続勤務の開始日を同月27日としたものの、単純な勤務日の連続のみをみると同月20日から開始しているとも評価し得るものであること等を勘案すると、それ以前においてC医師にみられた連続勤務(8月24日から9月5日までの13日間、9月21日から10月3日までの13日間)にも増して、心身の疲労回復等を 妨げる度合いの大きい勤務であったと認められる。 - 45 -以上によれば、C医師が10月27日から11月14日にかけて従事した連続勤務の心理的負荷の強度は「中」に当たると認めるのが相当である。 なお、この連続勤務の期間中には、上記1(10)、3(3)に認定説示したとおりのF医師に対する指導ないし助言と、これに対するF医師の反発 という出来事があったものであり、それと相俟って、その心理的負荷の強度は一層強いものとなっていたということができる。 イこれに対し、被控訴人は、休日の勤務時間が短時間の場合は連続勤務として評価すべきではない旨主張し、証拠(甲117、乙33)によれば、労災認定基準においては、連続勤務について心理的負荷の強度が「中」又 は「強」に当たると認めるにつき、「1日当たりの労働時間が特に短い場合を除く」とされていることが認められる。 しかし、この期間における休日を個別にみると、時間外勤務命令票に記載されたもののみを取り上げたとしても、C医師は、①11月1日(土)には、午後7時から午後9時まで分娩(分娩異常)を担当し、② 11月2日(日)には、午前9時30分から午前11時まで外来・病棟処置を、午前11時30分から午前11時50分まで外来を、午後4時10分から午後4時30分まで外来入院処置をそれぞれ担当 、② 11月2日(日)には、午前9時30分から午前11時まで外来・病棟処置を、午前11時30分から午前11時50分まで外来を、午後4時10分から午後4時30分まで外来入院処置をそれぞれ担当し、③11月3日(月・祝日)には、午前10時30分から午前11時20分まで病棟処置を、④11月9日(日)には、午前10時から午前11時30 分までの病棟処置をそれぞれ担当するとともに、上記1(1)(別紙3)で認定したとおり、これらに加えて病棟巡回等の業務にも従事していたところ、これら各日程の労働時間は労災認定基準にいう「特に短い場合」に当たるとは解されず、心身に及ぼす疲労の程度等が軽微な性質の業務であるとは認め難い。 また、⑤11月8日(土)については、午後7時台のログイン時刻の存- 46 -在等により、C医師が1時間の病棟巡回を中心とした1時間10分の業務に従事したものと認められるが、そもそも上記のように1時間を超える業務が直ちに上記「特に短い場合」に当たるとは解し難いほか、入院患者の様子を確認し、必要に応じて医療上の処置を行う可能性があるという業務の性質等を踏まえると、心身に及ぼす疲労の程度等が軽微な性質のもので あるとはいえないことは上記指摘した各日程の業務と同様というべきであって、これにより連続勤務の状態が断絶すると評価するのが相当とは解し難い。 以上によれば、被控訴人の上記主張は採用できない。 (5) 「11月期」における時間外労働 別紙3においては、上記1(1)で認定したとおりの始業時刻、終業時刻及び休憩時間を基礎として、C医師に係る精神障害の発病時期に関する各当事者の主張内容を踏まえ、平成21年1月31日を一旦の起点と定め、1か月を30日間(4週間と2日間)とし、そこから順に 、終業時刻及び休憩時間を基礎として、C医師に係る精神障害の発病時期に関する各当事者の主張内容を踏まえ、平成21年1月31日を一旦の起点と定め、1か月を30日間(4週間と2日間)とし、そこから順に「1月期」から「7月期」まで遡りつつ、従事した業務の過重性を判断するための時間外労働時間 については、法定労働時間である1週間当たり40時間を超える部分がそれに当たるものと位置付けた上で、その時間数を算定することとしている。ただし、当月期の最後の2日間(暦日では最も早い2日間)の時間外労働時間数は、前月期の当初の5日間(暦日では最も遅い5日間)に含まれる休日数を勘案して決することとし、例えば、前月期の当初の5日間に土、日曜日の うち1日が含まれている場合には、当月期の最後の2日間には残りの1日の休日が含まれているものとして、8時間を超える部分を時間外労働時間としている。 その算定結果は、別紙3の該当欄記載のとおりであるところ、当事者双方が主張する発病時期の捉え方に即して「1月期」あるいは「12月期」のい ずれを最初の月と考えた場合であっても、労災認定基準にいう「発病前おお- 47 -むね6か月の間」に含まれる「11月期」(11月3日から12月2日まで)において、C医師の時間外労働は78時間05分であったと認められる。労災認定基準では、心理的負荷を生じさせる業務上の出来事として「1か月に80時間以上の時間外労働を行った」が挙げられ、そこでは「1か月におおむね80時間以上の時間外労働を行った」が心理的負荷の強度を 「中」とするものとして例示されているところ、C医師の上記時間外労働は、かかる出来事に当てはまるものといえる。また、上記時間外労働は、C医師の退院からさほど間がない時期のものであるにもかかわらず、それ 中」とするものとして例示されているところ、C医師の上記時間外労働は、かかる出来事に当てはまるものといえる。また、上記時間外労働は、C医師の退院からさほど間がない時期のものであるにもかかわらず、それ以前の複数の月(別紙3「8月期」から「10月期」まで)及びその直後の月(同「12月期」)の時間外労働時間に比べて格段に長時間のものとなって いること等に照らせば、心身の疲労回復等を妨げる度合いの大きい勤務であったと認めるのが相当である。 以上によれば、C医師が従事した上記時間外労働による心理的負荷の強度は「中」に当たると認めるのが相当である。 なお、かかる時間外労働については、その期間の当初に上記1(10)、3 (3)で認定説示したとおりのF医師に対する指導ないし助言、これに対する反発があったものであり、併せて、上記(4)に認定説示した連続勤務があることに照らすと、その心理的負荷の強度は一層強いものになっていたということができる。 これに対し、被控訴人は、時間外労働について、上記認定判断よりも少な い時間数を主張し(別紙2)、他方、控訴人らは、上記認定判断よりも多い時間数を主張するが(別紙1)、これらがいずれも採用できないことは、上記2(1)(C医師が本件病院の業務に従事したと認定できる日程及び時間についての補足説明)での認定説示のとおりである。 (6) その後の勤務状況 ア 12月14日から12月26日まで(13日間)の連続勤務等- 48 -上記1(1)(別紙3)で認定したとおり、C医師は、12月14日から12月26日にかけて、その間の休日に本件病院での業務に従事したため、13日間の連続勤務をした。また、この間、12月15日及び同月21日には深夜早朝の時間帯にわたる業務従事もあり、これも 14日から12月26日にかけて、その間の休日に本件病院での業務に従事したため、13日間の連続勤務をした。また、この間、12月15日及び同月21日には深夜早朝の時間帯にわたる業務従事もあり、これも、上記のような連続勤務と相俟って、心身の疲労回復等を妨げる度合いの大きい勤務で あったと認められる。 この期間においてC医師が休日に従事した業務は、上記1(1)(別紙3の該当欄)のとおりであるところ、これら各日程の労働時間が労災認定基準にいう「特に短い場合」に当たるとは解されないことは、上記(4)において認定説示したしたところと同様である。 イ 12月28日から1月9日まで(13日間)の連続勤務上記1(1)(別紙3)で認定したとおり、C医師は、上記アの連続勤務から1日空けた12月28日から1月9日にかけて、その間の休日に本件病院での業務に従事したため、13日間連続の勤務をした。この期間における休日は、12月28日、12月30日から1月4日までの7日間であ るが、それらの休日全部について業務に従事していることによる疲労の蓄積等は、上記(2)ないし(5)、(6)アで認定説示したとおりの退院以降の勤務状態にも照らせば、これを軽微なものということはできない。 また、これらの各日程の労働時間が労災認定基準にいう「特に短い場合」に当たるとは解されないことは、上記(4)において認定説示したとこ ろと同様である。 ウ 1月11日から1月30日まで(20日間)の連続勤務上記1(1)(別紙3)で認定したとおり、C医師は、上記イの連続勤務から1日空けた1月11日から1月30日にかけて、その間の休日に本件病院での業務に従事したため、20日間連続の勤務をした。この期間 自体長いものである上、期間中の1 C医師は、上記イの連続勤務から1日空けた1月11日から1月30日にかけて、その間の休日に本件病院での業務に従事したため、20日間連続の勤務をした。この期間 自体長いものである上、期間中の1月18日、同月19日及び同月24- 49 -日には、深夜早朝にわたる業務従事もあり、このような連続勤務と相俟って、心身の疲労回復等を妨げる度合いの大きい勤務であったと認められる。 また、これら各日程の労働時間が労災認定基準にいう「特に短い場合」に当たるとは解されないことは、上記(4) において認定説示したところ と同様である。 (7) C医師の業務による精神的負荷の強度は総合して「強」であると認められることア上記(1)ないし(6)の検討によれば、C医師は、体調不良により入院中であったにもかかわらず、分娩及び手術への関与を含め、勤務時間及び 内容において通常に近い状態での勤務をすることがあった。退院後、E院長から業務負担軽減について助言を受けるなどしたものの、上記入院によりF医師との人間関係が悪化していたこと等から直ちに同医師の協力を求めることが困難であったほか、F医師に対して指導ないし助言をしたところ、反発を受けただけでなく、その発言の中には、本件産婦人 科の運営を立ち行かないものにするおそれがある退職を示唆するものがあった(労災認定基準にいう心理的負荷の強度「中」に相当)。また、その時期と相前後して「1か月当たりおおむね80時間以上の時間外労働」に当たると認められる時間外労働があり(同様に「中」に相当)、さらにこれと相前後して、深夜勤務の翌日から開始する19日間の連続 勤務があった(同様に「中」に相当)。そして、その後、深夜早朝の業務従事を織り交ぜつつ、複数の連続勤務があったものである。 さらにこれと相前後して、深夜勤務の翌日から開始する19日間の連続 勤務があった(同様に「中」に相当)。そして、その後、深夜早朝の業務従事を織り交ぜつつ、複数の連続勤務があったものである。 このような複数の出来事が重なり又は連続していることに照らすと、C医師が本件病院での業務従事により受けた心理的負荷の強度は、総合して、労災認定基準にいう精神障害の発病の原因となるべき「強」に至っ ていたと認めるのが相当である。 - 50 -なお、C医師の精神障害の発病時期を平成21年1月末とみたときは、上記(6)イ、ウにおいて認定説示した1月期の連続勤務が含まれることになるところ、C医師について本件病院での業務従事によって生じた心理的負荷の強度は総合的に「強」に至っていたものであって、発病時期が12月末頃であったとしてかかる1月期の連続勤務を考慮の対象から除 外したとしても、上記認定の出来事の内容及びその重なり合いを踏まえると、それらを総合して心理的負荷の強度は総合的に「強」に至っていたと認めるのが相当である。 イこれに対し、被控訴人は、C医師が従事していた本件産婦人科の業務について、同科が提供する医療の内容が市中の医院とさして変わらず、ハイ リスクな手術及び分娩は取り扱わないほか、分娩及び手術の件数についても一般的な医師の目安を下回っていたなどとして、C医師の業務負担は小さいものであった旨主張する。また、C医師が主治医を務める患者数や担当する分娩及び手術件数がF医師のそれよりも少なかった旨主張し、証拠(甲26の1~138、乙29、30、101の1~101の38)によ れば、これに沿う事実も認められる。 しかし、C医師が本件病院の業務に従事していた日程及び時間は、別紙3のとおりと認められるところ、少なくともそ 乙29、30、101の1~101の38)によ れば、これに沿う事実も認められる。 しかし、C医師が本件病院の業務に従事していた日程及び時間は、別紙3のとおりと認められるところ、少なくともそれが軽度なものであったとはいい難い。また、被控訴人の上記主張は、本件産婦人科の性質やC医師が関与する分娩及び手術件数、F医師の担当件数との比較等を通じ て、C医師の業務負担を一定程度具体化するものといえなくはないものの、上記認定判断は、C医師が体調不良によって入院し、本来静養すべき期間であったはずの入院期間中に通常に近い業務従事をしたことに始まり、退院後間もない時期におけるF医師への指導ないし助言に対する反発と退職を示唆する言動、近い時期における業務負担軽減とは逆行す る連続勤務の発生及び従前に比しての時間外労働の増加、その後の連続- 51 -勤務の発生等を総合的に評価したものであって、かかる認定判断は、被控訴人のいうような単純な担当件数の比較によって左右されるものではないというべきである。そして、平均的な産婦人科医師の業務の実情を想定したときに、一定の長時間にわたる時間外労働や連続勤務が平均的な産婦人科医師において経験し得るものであったにしても、上記のとお りの出来事の重なり合いが発生することが一般的なものであるとは認め難く、いずれにしても、被控訴人の上記主張は、C医師の業務負担に関するより具体的な考慮に乏しいものというほかはなく、採用の限りではない。 (8) 業務以外の心理的負荷が生ずる出来事による発病であったとは認められな いことア被控訴人は、C医師の妻である控訴人Aは、子である控訴人Bが平成20年7月に小倉市内の学校を退学して下関市から神戸市に転居し、同居に支障がなくなったにもかかわらず られな いことア被控訴人は、C医師の妻である控訴人Aは、子である控訴人Bが平成20年7月に小倉市内の学校を退学して下関市から神戸市に転居し、同居に支障がなくなったにもかかわらず、C医師と同居をしなかったこと等から、同月の控訴人Aとの別居はこれまでの別居とは性質が異なるなど と指摘しつつ、C医師が精神障害を発病した原因は、家族関係の問題にあり、本件での業務従事を原因とするものではない旨主張する。そして、被控訴人の上記主張に沿う医師の意見があるほか、かかる主張に沿うともみられる事情ないし証拠として、上記1(9)で認定したとおり、C医師作成の「現況問題点の整理(C個人)」と題する書面には「ここ2 年近くにわたる家庭の完全崩壊」、「単身赴任の生活のシンドサ・虚無感」及び「子供の問題は山積み」等といった家族関係の悩みがうかがわれる記載があるほか、証拠(甲1〔49頁〕)によれば、C医師の遺書とみられるメモに「生活のアシストが欲しい」との記載がある。 そこで検討すると、被控訴人の主張に沿う医師の意見とは、主としてI 意見をいうものであるところ、I意見は、上記3(4)で認定した連続勤務- 52 -について、「連続勤務をせざるを得なかったのは、休日の呼び出しで短時間の処置や分娩を行ったからであった。心理的負荷の強度を修正する視点で検討すると、「1日当たりの労働時間数が特に短い場合、手待ち時間が多い等の労働密度が特に低い場合」に相当し、その心理的負荷の強度は「弱」となる」(乙7の1〔18頁〕)などとするほか、F医師 との関係についても、その後にC医師がF医師から睡眠剤等の処方を受けていること等の事情を指摘しつつ、「F医師が手紙を貰った後に被災者(C医師)と話し合いを持ち意見を交換して、被災者は分かったと述 との関係についても、その後にC医師がF医師から睡眠剤等の処方を受けていること等の事情を指摘しつつ、「F医師が手紙を貰った後に被災者(C医師)と話し合いを持ち意見を交換して、被災者は分かったと述べてその後は何も言わなかった。(中略)心理的負荷の総合評価の視点から見ると、「業務をめぐる方針等において、部下との考え方に相違が 生じたもので、客観的にトラブルとは言えない」ことから、心理的負荷の強度は「弱」である」(同〔18~19頁〕)などとした上、「被災者の業務による心理的ストレスは複数あるがいずれも弱である」と評価して、精神障害の発病の原因を家族関係の問題に帰するものである(同〔22頁〕)。 しかし、C医師がした連続勤務に当たる事実は、上記1(1)(別紙3)のとおり認定でき、3(4)、(6)でその評価を加えたものであるが、I意見は必ずしもそのように認定できる事実に基づくものではない。また、C医師とF医師の関係については、上記(3)で認定説示したとおり、本件産婦人科の常勤医師が2名しかいない中で、反発の姿勢を示したF医師 の発言の中には退職を示唆するものが含まれていたことなどから、本件産婦人科部長の地位にあり、その運営を広く委ねられていたC医師にとって大きな衝撃であったと認められることは上記のとおりであるが、この点についても、上記のI意見は、前提とする事実を異にするものである。このようにI意見がその判断の前提とする事実は、必ずしも証拠 によって認定できるものではなく、かかるI意見に依拠して、C医師が- 53 -精神障害を発病した原因が家族関係の問題になるとの認定判断をすることはできないというべきである。 イまた、前記1(9)の認定説示によれば、C医師作成の「現況問題点の整理(C個人)」と題する書面の 精神障害を発病した原因が家族関係の問題になるとの認定判断をすることはできないというべきである。 イまた、前記1(9)の認定説示によれば、C医師作成の「現況問題点の整理(C個人)」と題する書面の記載内容は、医療業務に長らく携わっていたC医師が、自らの状況について努めて客観的に分析等をしたものとみら れる。そして、その記載の内容及び体裁は、「精神的・体力的限界(一定の休みのなさ)」等といった本件病院での勤務の多忙や「産婦人科医師F自己中心的になりがちでストレスメーカー(++)」等といった本件病院でのF医師の勤務態度など、職業上の問題が家族関係の問題よりもまず先んじて記載されるとともに、その記載の分量についても、家族関係の問 題よりも職業上の問題の方が多くなっていることが明らかである。このことは、C医師の内心において、家族関係の問題よりも職業上の問題の方がより大きな心理的負荷を生じさせていたことを端的に示したものとみるのが自然かつ合理的である。加えて、上記認定説示のとおり、C医師については、現に10月の退院以降、時期をほぼ同じくしつつ、本件病院での業 務従事に伴った心理的負荷を生じさせる複数種類の出来事が生じているのであって、これらによる心理的負荷の程度は大きなものであって、他の問題によってそれが相対的に小さなものとなるとはにわかに考え難い。遺書とみられるメモの記載については、C医師の精神障害の発病時期について主張ないしこれを裏付ける複数の医師の意見のいずれをみても、既に精神 障害の発病後に作成されたものであって、C医師の発病の原因を認定する資料としてはさほど重視できないものというべきである。以上によれば、C医師が作成した書面の内容からは、C医師が精神障害を発病した原因が専ら家族関係の問題にあったとの認定判 医師の発病の原因を認定する資料としてはさほど重視できないものというべきである。以上によれば、C医師が作成した書面の内容からは、C医師が精神障害を発病した原因が専ら家族関係の問題にあったとの認定判断をすることはできないというべきである。 さらに、被控訴人が指摘する「平成20年7月の別居」なるものについ- 54 -ては、当時の控訴人Bは、高校生で、かつ、就学環境に大きな変化があったことに照らすと、その母である控訴人Aが、控訴人Bの生活が軌道に乗るまで、子である控訴人Bと同居するなどしつつ手厚い監護ないし援助をしたとしても、一般的な家族関係の在り方として何ら不自然、不合理な点はないといえる。そのような中で、控訴人Aが控訴人Bの転 居先である神戸市ではなく下関市での居住を続けたことは、客観的な評価として、夫であるC医師に対する配慮があったとみることも可能である。このような趣旨の別居であることに照らすと、外形的にみて控訴人Aにおいて控訴人Bの監護ないし援助に割く労力や機会が増えたとしても、そのことをもって別居の質が変わったとの評価は当たらず、まして やC医師の家庭が崩壊したということはできない。この点について、労災認定基準の「業務以外の心理的負荷評価表」には「離婚又は配偶者と別居した」(Ⅲ)との項目があるところ、前提事実(7)イのとおり、C医師は相当以前から控訴人Aと別居しており、かつ、その別居が離婚に準ずるような別居であるともいえないことは明らかである。そうすると、 「平成20年7月の別居」なる概念を持ち出した上で、C医師が精神障害を発病した原因が家族関係の問題にあったと認めることはできない。 以上によれば、この点に関する被控訴人の主張は採用できないというべきである。 ウ小括 C医師が精神障害を発病した原因が家族関係の問題にあったと認めることはできない。 以上によれば、この点に関する被控訴人の主張は採用できないというべきである。 ウ小括 以上の検討によれば、C医師については、現に10月の退院以降、時期をほぼ同じくしつつ、本件病院での業務従事に伴った心理的負荷を生じさせる複数種類の出来事が生じているのであって、これらによる心理的負荷の程度は大きなものであり、C医師において家族関係の悩みを抱えていたことは否定できないものの、それは前者の職業上の問題に比し て、C医師に生じる心理的負荷の程度としては小さなものであったと認- 55 -めるのが相当である。 また、これを労災認定基準に則して検討した場合においても、「業務以外の心理的負荷評価表」に該当するものでもない。 そうすると、C医師が家族関係の問題によって精神障害を発病したとは認められない。 (9) 本争点のまとめ以上の検討によれば、C医師については、平成20年10月以降に業務上の負担が重なり合っていたものであるところ、これを労災認定基準に則して検討すると、C医師の精神障害の発病時期が当事者双方の主張するいずれのものであったとしても、「発病前おおむね6か月」の時期に生じた出来事で あり、上記(7)で認定説示したとおり、その心理的負荷の強度は総合すると「強」に至る程度のものである。 そして、上記(8)で認定説示したとおり、C医師が家族関係の問題という業務以外の心理的負荷によって精神障害を発病したとは認められないことを併せ考慮すると、本件病院での業務従事と精神障害の発病、さらには、精神 障害の発病による本件自殺の間に相当因果関係があると認定できる。 4 争点2(被控訴人による安全 たとは認められないことを併せ考慮すると、本件病院での業務従事と精神障害の発病、さらには、精神 障害の発病による本件自殺の間に相当因果関係があると認定できる。 4 争点2(被控訴人による安全配慮義務違反等の有無)について(1) 使用者は、その雇用する労働者に従事させる業務を定めてこれを管理するに際し、業務の遂行に伴う疲労や心理的負荷等が過度に蓄積して労働者の心身の健康を損なうことがないよう注意する義務を負うと解するのが相当であ り、使用者に代わって労働者に対し業務上の指揮監督を行う権限を有する者は、使用者の上記注意義務の内容に従ってその権限を行使すべきものであると解される(最高裁平成10年(オ)第217号、同第218号同12年3月24日第二小法廷判決・民集54巻3号1155頁参照)。 (2) 本件における検討 ア C医師による本件自殺との間に相当因果関係が認められる本件病院での- 56 -一連の業務として、入院中の業務従事、その退院から程ない時期におけるF医師に対する指導ないし助言とそれに端を発する一連の出来事、連続勤務及び長時間の時間外労働が重なっていたこと、さらには、その後の連続勤務が存在したこと等については、上記3(争点1)において認定説示したとおりである。 そして、前提事実(4)イ、上記1(8)によれば、本件病院の職制において、C医師を監督する立場にあったのはE院長であったところ、E院長においては、C医師の退院直後、その業務負担軽減等を意図して面談をし、その方法について助言などはしたものの、それ以外には、退院直後の時期におけるC医師の業務負担軽減のための具体的な措置等を講ずる ことはなかったものである。 イ上記のE院長の対応について検討すると、C医師が入院していたのが 、それ以外には、退院直後の時期におけるC医師の業務負担軽減のための具体的な措置等を講ずる ことはなかったものである。 イ上記のE院長の対応について検討すると、C医師が入院していたのがまさに本件病院であったことに照らし、入院の事実のほか、一旦は休暇届を提出して現に入院している中で、分娩及び手術への関与を含む通常に近い態勢での業務に従事していた事実は、その時点で十分認識可能なもので あったというべきであり、上記1(8)で認定した面談がC医師の業務負担軽減等を意図したものであったことに照らすと、遅くとも同面談を実施した10月21日時点で、E院長は、入院中のC医師の業務従事等について把握し、又は容易に把握することができたというべきである。 また、C医師が提出した時間外勤務命令票は、時間外勤務の状況を把 握する契機となるものというべきであるが、上記3(4)で認定説示した10月27日(月)から11月14日(金)までの連続勤務については、その前の10月25日(土)から26日(日)にかけての深夜勤務のほか、11月1日(土)から同月3日(月・祝日)までについても休日勤務が申告されており、前提事実(12)イの認定のとおり、E院長がその決 裁者であったことに照らすと、E院長は、C医師の退院後程ない時期の- 57 -深夜勤務明けから始まる10月27日(月)から11月7日(金)まで12日間の連続勤務を把握していたと認められ、この認定を覆すに足りる証拠はない。また、E院長がC医師の業務従事を認識ないし把握していたことは、時間外勤務命令票による休日勤務の申告がある11月9日(日)についても同様である。 他方で、時間外勤務命令票による休日勤務がされていない同月8日(土)について、C医師が入院病棟の巡回をしていたもの 務命令票による休日勤務の申告がある11月9日(日)についても同様である。 他方で、時間外勤務命令票による休日勤務がされていない同月8日(土)について、C医師が入院病棟の巡回をしていたものとして、その前後にわたる19日間の連続勤務があったことは、上記認定したとおりであるが、実際に本件産婦人科に勤務していたK医師及びF医師がともに休日における入院病棟の巡回をしていた旨証言していること(証人F 〔原審〕、証人K〔原審〕)に照らすと、産婦人科医全般若しくは本件病院に勤務する産婦人科医において、休日に入院病棟を巡回することは、しばしば見受けられる行為であったことがうかがわれる。そうすると、医師であるE院長においては、C医師が休日に入院病棟を巡回することについても、十分認識し又は認識し得たと認めるほかはない。 以上を踏まえると、E院長は、10月21日の面談時点では上記のとおり助言をするにとどまっていたとしても、その面談の場で又は後日にC医師から業務負担軽減等の申入れを受けたか否かを問わず、自ら又はL事務長その他労務管理に携わる職員に指示し、C医師及び他の本件産婦人科の職員らからC医師の業務従事の実態を聴取するなどして、少な くともC医師の連続勤務及び時間外労働等を把握することが可能であり、かつ、そのようにすべきであったということができる。また、常勤医師2名という本件産婦人科の体制に照らせば、C医師の業務負担軽減は、F医師の業務負担増加に直接結び付くというべきところ、上記のような実態把握や業務負担軽減の方策を検討する過程において、C医師の 業務負担軽減を困難とする事情として、F医師との人間関係の問題が浮- 58 -かび上がることも十分にあり得たものといえる。 そして、労働者が、連続あるいは長時間にわ において、C医師の 業務負担軽減を困難とする事情として、F医師との人間関係の問題が浮- 58 -かび上がることも十分にあり得たものといえる。 そして、労働者が、連続あるいは長時間にわたり業務に従事する状況が継続するなどして、疲労や心理的負荷等が過度に蓄積すると、その心身の健康を損なう危険があり、労働者が精神障害を発病し得ること、精神障害を発病したときはその病態として自殺念慮が出現する可能性のあ ることは、一般的な知識として存在するところであり、医療関係者であるE院長がこれを認識していなかったとは考え難く、当時のE院長において、少なくともC医師の退院後からさほど間がない一定期間について、一時的にF医師及び非常勤医師を含む他の職員の協力を求めるほか、例えば、臨時的なものとして他機関に対し非常勤医師の派遣を要請 する(なお、証拠(乙14)によれば、本件産婦人科では、現に平成20年10月17日、定期的に勤務していた者と異なる非常勤医師1名が当該日のみの勤務をしている。)などその他の方法により、C医師の業務量及び時間等を適切に調整して、C医師の業務負担軽減の措置を講じなければ、C医師がその心身の健康を損なう事態となり、精神障害を発 病して自殺するに至る可能性があることを認識することができたというべきである。にもかかわらず、E院長は、C医師に対し、上記のとおり業務負担軽減等を意図した面談を実施しながら、助言をするにとどまったものであり、C医師に対する業務上の指揮監督権限を有する者として、その権限を行使するに当たって、業務の遂行に伴う疲労や心理的負 荷等が過度に蓄積してC医師がその心身の健康を損なうことがないよう注意する義務(安全配慮義務)を負っていたにもかかわらず、当該注意義務を怠ったと認めるのが相当であ の遂行に伴う疲労や心理的負 荷等が過度に蓄積してC医師がその心身の健康を損なうことがないよう注意する義務(安全配慮義務)を負っていたにもかかわらず、当該注意義務を怠ったと認めるのが相当である。 ウこれに対し、被控訴人は、E院長において、C医師の労働実態に関する認識がなかった旨主張するが、本件病院での入院とその入院中の業務への 従事、時間外勤務命令票による連続勤務の状況等が認識可能であるとの認- 59 -定を覆すに足りる事情をいうものではなく、上記認定判断を左右しない。 (3) 小括以上の検討によれば、被控訴人は、C医師に対し、本件病院での業務従事について安全配慮義務を負っていたところ、これを怠ったものであり、労働契約の債務不履行に基づく損害賠償責任を負うものと認められる。 また、同時に、上記安全配慮義務及びこれによるC医師の死亡については、被控訴人のC医師に対する注意義務違反に基づく不法行為をも構成し、被控訴人は、かかる不法行為に基づく損害賠償責任を負うものと認められる。 5 争点3(C医師及び控訴人らが被った損害内容及び損害額等)について 上記4のとおり認めた被控訴人の安全配慮義務違反ないし注意義務違反によってC医師ないし控訴人らに生じた損害内容及び損害額、控訴人各人ごとに対して支払義務を負うべき金額について検討する(以下、損害は、不法行為に基づくものとして認定判断する。)。 (1) 死亡逸失利益 1億5761万1528円 逸失利益を算定する上でのC医師の基礎収入については、証拠(甲1〔436頁〕)によって認められる本件自殺の直近年度である平成20年の賃金台帳上の給与及び賞与合計額である2077万5372円と認めるのが相当である。 そして、生活 基礎収入については、証拠(甲1〔436頁〕)によって認められる本件自殺の直近年度である平成20年の賃金台帳上の給与及び賞与合計額である2077万5372円と認めるのが相当である。 そして、生活費控除率を30%、逸失利益の算定期間を16年間(平成2 9年法律第44号による改正前の民法所定の年5%によるライプニッツ係数10.8378)として、C医師に係る死亡逸失利益を1億5761万1528円と認めるのが相当である。 (計算式)2077万5372円×(1-0.3)×10.8378≒1億5761万1528円(1円未満切捨て) (2) 死亡慰謝料(親族固有分を除く。) 2400万円- 60 -C医師本人の死亡慰謝料の額は、C医師がいわゆる一家の支柱であったことを勘案の上、2400万円と認めるのが相当である。 (3) 葬儀費用損害として、葬儀費用150万円を認めるのが相当である。 (4) 控訴人らによる相続 前提事実(1)によれば、C医師の相続人である控訴人ら(妻と子の2名)は、上記(1)ないし(3)の損害賠償請求権を2分の1ずつの割合により相続したものであり、その金額は一人当たり9155万5764円となる。 (計算式)(1億5761万1528円+2400万円+150万円)÷2名 =9155万5764円(5) 控訴人ら固有の慰謝料夫ないし父であるC医師の死亡に伴う控訴人ら固有の慰謝料額については、1人につき200万円と認めるのが相当である。 これにより、後記(6)の損益相殺的処理をする前の控訴人らの損害賠償請 求権の金額は一人当たり9355万5764円(9155万5764円+200万円 00万円と認めるのが相当である。 これにより、後記(6)の損益相殺的処理をする前の控訴人らの損害賠償請 求権の金額は一人当たり9355万5764円(9155万5764円+200万円)となる。 (6) 損益相殺的処理前提事実(9)イのとおり、控訴人Aは、C医師の死亡に伴い、労働者災害補償給付として、葬祭料356万6340円、労災保険年金合計5004万 0194円を受給した(なお、本件の口頭弁論終結日である令和7年9月22日までに支給決定がされたものの合計は同額にとどまる。)。 上記(5)に認定した控訴人Aの損害賠償請求権元本のうち、葬儀費用75万円(=150万円÷2)から上記葬祭料を控除すると葬儀費用部分の残額は0円となり、死亡逸失利益7880万5764円(=1億5761万15 28円÷2)から上記労災保険年金合計額を控除すると死亡逸失利益の残額- 61 -は2876万5570円となる。 このような損益相殺的処理を経た控訴人Aの損害賠償請求権の金額は4276万5570円となる。 (計算式)0円+2876万5570円+(相続した慰謝料2400万円÷2)+固有の慰謝料200万円=4276万5570円 (7) 弁護士費用本件訴訟の内容を踏まえ、上記認定の各損害賠償請求権元本の金額のおおむね1割に相当する弁護士費用(控訴人Aについて427万6557円、控訴人Bについて935万5576円)を、被控訴人の注意義務違反との間に相当因果関係がある損害と認めるのが相当である。 そして、かかる弁護士費用を加算した控訴人らの損害賠償請求権の金額は、控訴人Aについて4704万2127円、控訴人Bについて1億0291万1340円となる。 (8) 小括 そして、かかる弁護士費用を加算した控訴人らの損害賠償請求権の金額は、控訴人Aについて4704万2127円、控訴人Bについて1億0291万1340円となる。 (8) 小括以上によれば、被控訴人は、不法行為に基づき、控訴人Aについて損害賠 償金4704万2127円、控訴人Bについて損害賠償金1億0291万1340円の支払義務を負うべきこととなる(なお、安全配慮義務違反による損害額はこれを上回るものではない。)。 第4 結論以上によれば、当審における控訴人Aの請求(一部控訴)は、4704万2 127円及びこれに対する平成21年3月23日から支払済みまで年5%の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余は理由がないから棄却し、控訴人Bの請求は、1億0291万1340円及びこれに対する上記と同じ期間及び割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから認容し、その余は理由がないから棄却すべきところ、これと 異なり、控訴人らの請求をいずれも全部棄却した原判決は失当であって、本件- 62 -控訴(控訴人Aについては一部控訴)は一部理由があるから、原判決を上記に従い変更することとして、主文のとおり判決する。 大阪高等裁判所第9民事部 裁判長裁判官 長谷部幸弥 裁判官 鳥飼晃嗣 鳥飼晃嗣 裁判官 安西儀晃 別紙1ないし3 添付省略

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