令和2特(わ)1001 脅迫、不正競争防止法違反、威力業務妨害

裁判年月日・裁判所
令和4年1月20日 東京地方裁判所
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判決文本文6,726 文字)

令和4年1月20日東京地方裁判所刑事第6部宣告令和2年特(わ)第1001号脅迫,不正競争防止法違反,威力業務妨害被告事件判決 主文 被告人を懲役2年6月に処する。 この裁判が確定した日から4年間その刑の執行を猶予する。 理由 (犯罪事実)被告人は,当時A党の党首であった者,Bは,事務受託等を業とする株式会社Cの従業員として,D協会の営業秘密である受信契約締結者等の氏名,住所,契約の有無及びその内容,未払受信料の有無等の情報(以下,受信契約者等情報という。)をその保有者であるD協会から示されていた者であるが,第1 被告人は,令和元年6月29日に同党を脱退したE(当時25歳)を脅迫しようと考え,同年7月3日午前0時57分頃から同日午前2時41分頃までの間,東京都千代田区a町b丁目c番d号ef号室において,携帯電話機を使用して,Eが使用する携帯電話機宛てに,「今からお前が議員辞めるまで徹底的にYouTubeで叩き続けるから覚悟しておけよ!」などと記載したショートメールを送信した上,インターネットに接続された機器を使用して,動画投稿サイトYouTubeに,「このE,こいつはもうほんと許しません。」「俺,もう許さないですからね。親父の方は,もう先が無いからあれだけど,これ25歳のEは,これからもね,徹底的に叩き続けますから。俺,奥さん,この人,この子のお母さんも彼女も知ってますよ。徹底的にこいつの人生,僕が潰しに行きますからね。」「E親子,特に息子,覚悟しとけ。お前ら 許さんぞボケ,俺どんだけ怒ってるか分かってるか。」「徹底的にしばくからな。」などと発言する様子を撮影した動画を投稿して不特定多数の者が閲覧可能な状態にするとともに,Eが使用する会員制交流サイ 許さんぞボケ,俺どんだけ怒ってるか分かってるか。」「徹底的にしばくからな。」などと発言する様子を撮影した動画を投稿して不特定多数の者が閲覧可能な状態にするとともに,Eが使用する会員制交流サイトFacebookのアカウント宛てに,「おまえ,中央区で歩けないくらいYouTubeでディスりまくり続けるからな!」などと記載したメッセージ及び前記YouTubeに投稿された同動画のリンクを送信し,さらに,前記YouTubeにおける同動画のタイトル欄に同人の住所及び電話番号を入力して不特定多数の者が閲覧可能な状態にし,同日午前7時頃から同日午後6時頃までの間,東京都中央区晴海3丁目16番14号警視庁月島警察署等において,Eに順次同動画等を閲覧させて了知させ,もって同人及びその親族の身体,自由及び名誉に危害を加える旨告知して脅迫した。 第2 被告人は,Bと共謀の上,不正の利益を得るとともに,D協会に損害を加える目的で,営業秘密の管理に係る任務に背き,同年9月14日午前11時19分頃,東京都杉並区gh丁目i番j号k店駐車場内において,Bにおいて,D協会から前記株式会社Cに貸与された業務用携帯端末に記録された受信契約者等情報50件(以下,本件情報という。)を同携帯端末の画面に表示させ,被告人において,これをビデオカメラで撮影し,その複製を作成する方法で,D協会の営業秘密を領得した。 第3 被告人は,同年11月19日午後1時20分頃,東京都渋谷区lm丁目n番o号D協会F放送センター西玄関前路上において,携帯電話機を使用してD協会に電話をかけ,応対したD協会視聴者総局広報局視聴者部副部長Gに対し,「Fさんが僕にくれた個人情報をまき散らしていいかな。」「Fさんから預かっている個人情報を社会,世間に拡散すると言ってるんですよ。」「東京都世田谷区の 協会視聴者総局広報局視聴者部副部長Gに対し,「Fさんが僕にくれた個人情報をまき散らしていいかな。」「Fさんから預かっている個人情報を社会,世間に拡散すると言ってるんですよ。」「東京都世田谷区のエリアの人の個人情報を私 は,Fが委託した会社の社員から預かっております。映像もあります。 住所やお名前,どこの金融機関でFのお金を払っているのか,そういった情報まであります。」「今からインターネット上で,個人情報保護法違反をします。」などと申し向けるとともに,同時にその内容を,同路上に駐車した街頭宣伝車の拡声器を使用し,不特定多数のD協会職員に対し,了知させ,同日午後1時32分頃から同日午後1時57分頃までの間,同センター西玄関160D室において,D協会総務局法務部専任部長Hらに対し,「私のところに個人情報が来ていますよね。」「あれ,出したらまずいんでしょ。」「俺会長と話したい。」「やっぱり個人情報出すってのはこちらも犯罪になりますからね。」「14日以内に何のリアクションがないようでしたら先ほどのこちらの人質となっている個人情報を拡散します。」などと申し向け,さらに,同日頃,東京都内又はその周辺において,インターネットに接続された機器を使用して,前記YouTubeに,前記第2記載の撮影に係る動画の一部に修正を加えたもの(以下,本件動画という。)を,「国会議員がFから個人情報をもらっている証拠動画 12月4日までにFから連絡がない場合は,モザイクをはずして,個人情報を公開します。」とのタイトルを付して投稿して不特定多数の者が閲覧可能な状態にし,同年11月20日頃,同センターにおいて,Hらに本件動画を閲覧させて了知させ,同人らに本件情報の公開・拡散防止に向けた対応,本件情報に含まれる受信契約者等に対する訪問謝罪等を行わせるなどして にし,同年11月20日頃,同センターにおいて,Hらに本件動画を閲覧させて了知させ,同人らに本件情報の公開・拡散防止に向けた対応,本件情報に含まれる受信契約者等に対する訪問謝罪等を行わせるなどして,D協会の正常な業務の遂行に支障を生じさせ,もって威力を用いて人の業務を妨害した。 (事実認定の補足説明)弁護人は,①判示第1の脅迫につき,害悪の告知の対象はEの名誉のみであった上,正当業務行為に該当し違法性が阻却される,②判示第2の不 正競争防止法違反につき,被告人には,不正の利益を得る目的やD協会(以下,Fという。)に損害を加える目的はない,③判示第3の威力業務妨害につき,被告人の行為は犯罪構成要件に該当せず,あるいは正当業務行為であり違法性が阻却される旨主張し,被告人も同旨の供述をしている。そこで,以下これについて検討する(日付の記載はいずれも平成31年又は令和元年である。)。 第1 判示第1の脅迫について 1 被告人がEに送信したメール,メッセージやYouTubeに投稿した動画等では,徹底的に「叩き続ける」「人生を潰す」「しばく」など攻撃的な表現が怒気をはらんだ口調等で執拗に繰り返されており,その中での父母への言及のなされ方にも照らすと,その内容は,Eに対し,自身や父母の身体,自由及び名誉が害される恐怖を十分感じさせるものである。現にEは,被告人の攻撃的な様子を見て,何をされるか分からないという不安と恐怖を感じるとともに,自身に暴力が加えられ,あるいは,動画撮影で追い回されて生活ができないような状況にされるかもしれないという恐怖が生じた,母親にも何かされるか分からないと不安に感じた旨述べており,このような証言は,メールや動画等の内容に見合った受け止めを述べるものとして,十分信用できる。 以上から,被告人は,Eに う恐怖が生じた,母親にも何かされるか分からないと不安に感じた旨述べており,このような証言は,メールや動画等の内容に見合った受け止めを述べるものとして,十分信用できる。 以上から,被告人は,Eに対し,同人及びその両親の身体,自由及び名誉に危害を加える旨告知して脅迫したと認められる。被告人は,Eの母親に言及したのは,同人が,EがA党を脱退した経緯等が不誠実なものであったことを知っているという趣旨であった旨主張するが,被告人の発言は到底そのようには理解できない。 2 弁護人は,A党党首である被告人が,支援者の意思を蔑ろにしたEの政治的責任を追及する目的で,あくまでEの名誉に対する害悪を告 知したに過ぎないとして,内容が真実であれば,名誉毀損罪の成否に関する特例(刑法230条の2第3項)の趣旨に照らし許容されるべきであり,政治活動として必要かつ相当なパフォーマンスでもあるから,正当業務行為として違法性が阻却される旨主張する。 しかし,被告人がEに告知した害悪がEの名誉に限られないことは検討したとおりであり,弁護人の主張は前提を欠く。また,被告人の一連の言動等に照らせば,Eの責任を追及する意図があったとしても,恐怖心を煽るような過激な表現を執拗に用いたという方法の点において社会的に相当な範囲を明らかに逸脱しているから,これが正当業務行為に当たるという主張も採用できない。 なお,弁護人は,警察官がEに指示して上記動画を閲覧させ害悪の告知を完成させているから,違法捜査に基づく起訴として公訴棄却されるべきであるとも主張する。しかし,Eは,警察官に促されるなどしたにせよ,自身の意思で上記動画を見たと認められるから,そもそも警察官が害悪の告知を完成させたなどとは評価できず,その主張は前提を欠いている。 第2 判示第2の不正競争防止法 察官に促されるなどしたにせよ,自身の意思で上記動画を見たと認められるから,そもそも警察官が害悪の告知を完成させたなどとは評価できず,その主張は前提を欠いている。 第2 判示第2の不正競争防止法違反について 1 関係各証拠によれば,被告人は,A党党首として,従前より,Fの放送受信契約や受信料の徴収等に関する問題に対し,種々の方法でこれを批判する活動をしていたことが認められる。そのような被告人にとって,Fの集金人を務める者から受信契約者の個人情報等を取得すれば,これを基に,F及び業務委託先の情報管理に問題がある旨批判することが可能となり,上記活動に資するといえる。このことは,被告人が現に,判示第3のとおり本件情報の動画を利用してFに要求を行っていることからも明らかである。以上から,被告人には「不正の利益を得る目的」があったものと認められる。 また, Fにとって,本件情報のような個人情報が外部に流出すれば,社会的な評価・信用が損なわれ,業務に様々な支障が生ずることは明白であり,本件情報をすすんで領得し流出させた被告人には,Fに「損害を加える目的」があったことも問題なく認められる。 2 この点,被告人は,あくまでBが正真正銘のFの集金人であることを証明するために必要な範囲で,同人が業務用携帯端末を操作しているところを撮影したのであって,本件情報は結果的に映ってしまったにすぎないと主張している。 しかし,被告人は,Bが上記端末を操作して画面上に本件情報がスクロール表示されているのを,その間数分にわたって,至近距離で正面からビデオカメラで撮影している上,Bには終始,表示された本件情報の略語の意味等を尋ねるなどしていたと認められる。このような言動に照らせば,上記主張にはかなり無理があり,被告人は,画面上の本件情報の内容に関心 メラで撮影している上,Bには終始,表示された本件情報の略語の意味等を尋ねるなどしていたと認められる。このような言動に照らせば,上記主張にはかなり無理があり,被告人は,画面上の本件情報の内容に関心を寄せ,それをすすんで取得したことに疑いの余地はない。被告人は,受信契約者の情報の入手先は他にもあったから,上記端末から本件情報を領得する必要はなかったとも主張するが,結論を左右するものではない。 第3 判示第3の威力業務妨害について 1 被告人は,判示のとおり,F放送センター内外で,職員に対し,預かった受信契約者の個人情報を公開・拡散する旨の発言を公然と繰り返し,これに沿う形で,モザイク処理をしたとはいえ,判示第2で撮影した本件情報の動画を,期限までに連絡がなければモザイクを外して公開する旨のタイトルを付してYouTubeに投稿する行為にまで及んでおり,被告人自身の発言にもあるように,あたかも本件情報を「人質」として要求を容れるよう迫る言動に出ていたものである。 受信契約者情報はもとより厳重な管理を要するもので,被告人が言う ようにこれらが公開・拡散された場合にはFの業務に重大な悪影響が生じることは明らかであるから,被告人の上記言動を受けたF職員は,判示のような対応を当然余儀なくされるといえる。被告人に対応した職員らが,こうした被告人の言動を脅しではないかと思ったと述べるのも,十分理由があることと考えられる。被告人の行為は,人の意思を制圧するに足りる勢力を示すものとして「威力」に該当し,これによりFの業務が妨害されたことも明らかである。 2 この点,弁護人は,被告人は情報の拡散を匂わせただけで,本当に情報を拡散する意図はなく,Fもこのことを分かっていたはずであって意思は制圧されておらず,「威力」には当たらないと主張する。また 2 この点,弁護人は,被告人は情報の拡散を匂わせただけで,本当に情報を拡散する意図はなく,Fもこのことを分かっていたはずであって意思は制圧されておらず,「威力」には当たらないと主張する。また,受信契約者の個人情報が外部に漏えいした場合,Fが拡散防止措置を講じるなどするのは当然行うべき通常業務である上,本件については内部で事前に対応方針が決まっていたことなどから,業務は妨害されていないとも主張する。 しかし,F職員らが,前記のような被告人の言動を受けて,被告人に情報拡散の意図はないものと認識していたとは考え難い。この点は,一連の対応に当たったF職員の証言に照らしても明らかである。また,本件では,個人情報が単に外部に流出したというだけではなく,被告人が,F等から個人情報を入手したとして,前記のように脅しや揺さぶりともいうべき言動を公然と繰り返し,それを受けて,F職員は,通常は決して要しないような様々な対応を余儀なくされたのであり,業務が妨害されたと十分認められる。F内部で事前に対応方針が決まっていたとしても,その認定が左右されないのは明らかである。弁護人の主張には理由がない。 3 弁護人は,本件行為は,A党党首である被告人の政治活動であり,憲法21条1項の趣旨を最大限尊重する必要があるとして,Fの認識 を改めさせる上でそれを行う必要性,緊急性があり,かつ相当な範囲内の行為である以上,正当業務行為として違法性が阻却される旨主張する。たしかに,政治的表現活動は特に重要な権利として尊重されるべきであるが,被告人は,Fの営業秘密である本件情報を,犯罪に該当する不法な方法で取得し,これを人質のように利用して,F職員に対し,脅し,揺さぶりともいうべき言動を公然と繰り返したのであって,このように他人の権利を不当に害する手段で行わ る本件情報を,犯罪に該当する不法な方法で取得し,これを人質のように利用して,F職員に対し,脅し,揺さぶりともいうべき言動を公然と繰り返したのであって,このように他人の権利を不当に害する手段で行われた以上,その行為が社会通念上相当なものとはおよそいえず,違法性は阻却されない。上記主張にも理由がない。 (量刑の理由)被告人は,Fを批判する政治活動に利用する目的で,受信料の集金業務をしていた共犯者から,営業秘密である本件情報を動画撮影という形で入手し(判示第2),その情報を人質のように利用して種々の要求をし,Fの業務を妨害した(判示第3)。一連の犯行態様は,落ち度のない受信契約者の個人情報を流出の危険にさらした面もあり,政治活動としての許容範囲を超えたものといわざるを得ない。判示第1の脅迫も,被害者に相当の恐怖を与えており,軽視できない犯行である。以上によれば,被告人の刑事責任は軽いものではない。 そこで,被告人に前科がないこと等の事情を踏まえ,被告人に対しては,主文の刑に処するのが相当である。なお,判示第2の行為については,被告人に経済的な利得目的があったとは認められないから,罰金刑は併科しないこととする。 (求刑懲役2年6月及び罰金30万円)令和4年1月20日東京地方裁判所刑事第6部 裁判長裁判官佐伯恒治 裁判官坂田正史 裁判官名取桂

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