令和7年4月16日東京地方裁判所刑事第13部宣告令和6年特(わ)第47号公職選挙法違反被告事件 主文 1 被告人3名をそれぞれ罰金20万円に処する。 2 被告人らにおいてその罰金を完納することができないときは、各被告人について5000円を1日に換算した期間、その被告人を労役場に留置する。 3 被告人3名からそれぞれ20万円を追徴する。 4 訴訟費用は被告人3名の連帯負担とする。 理由 (罪となるべき事実)被告人3名は、いずれも、令和5年4月23日執行の江東区長選挙(以下「本件区長選」という。)に立候補したDの選挙運動者であるが、同年2月21日、第1 被告人Aは、東京都江東区(住所省略)路上において、E(衆議院議員)並 びにEの政策担当秘書であるF、公設第一秘書であるG、公設第二秘書であるH、私設秘書であるI及び私設秘書であるJ(これら6名を「Eら6名」という。)から、Iにより、Dに当選を得しめる目的をもって、Dのための投票取りまとめなどの選挙運動をすることの報酬として供与されるものであることを知りながら、現金20万円の供与を受けた。 第2 被告人Bは、同区(住所省略)被告人B事務所において、Eら6名から、Jにより、Dに当選を得しめる目的をもって、Dのための投票取りまとめなどの選挙運動をすることの報酬として供与されるものであることを知りながら、現金20万円の供与を受けた。 第3 被告人Cは、同区(住所省略)被告人C事務所において、Eら6名から、I により、Dに当選を得しめる目的をもって、Dのための投票取りまとめなどの選 挙運動をすることの報酬として供与されるものであることを知りながら、現金20万円の供与を受けた。 (事実認定の補足 により、Dに当選を得しめる目的をもって、Dのための投票取りまとめなどの選 挙運動をすることの報酬として供与されるものであることを知りながら、現金20万円の供与を受けた。 (事実認定の補足説明)第1 本件の概要及び争点本件において、Eが、Fに、被告人3名に対する現金の供与を指示し、これを受 けたFの指示により、Iが、被告人A及び被告人Cに対し、また、Jが、被告人Bに対し、それぞれ現金20万円を供与したこと(以下、これらを包摂して「本件各供与」という。)は、証拠上明らかに認められ、争われていない。 本件の争点は、本件各供与の趣旨について、本件区長選において、Dに当選を得しめる目的をもって、Dのための投票取りまとめなどの選挙運動をすることの報酬 の趣旨(以下「D支援の趣旨」という。)が含まれていたか否か、及び、被告人3名がそのことを認識していたか否かである。 第2 本件各供与の経緯・状況等前示の証拠によれば、次の事実関係が認められる。 1 Eと甲党江東総支部との関係等 (1) 被告人3名は、いずれも、当時、江東区議会議員(以下、単に「区議会議員」という。)であり、甲党に所属していた。甲党に所属する区議会議員は、甲党の江東総支部に所属していた。 本件当時江東区長であったKは、令和5年4月に死去するまで江東総支部の顧問を務め、K及びその長男であるL(総支部長。江東区選出の東京都議会議員。)は、 江東総支部において長らく影響力を持っていた。 (2) Eは、平成21年から平成29年までに執行された4回の衆議院議員総選挙に際し、江東区全域を選挙区とする東京第十五選挙区(以下「東京十五区」という。)において、甲党以外の公認を受けて立候補し、同選挙区又は比例代表により当選を重ねていたが、令和3年執行の衆 院議員総選挙に際し、江東区全域を選挙区とする東京第十五選挙区(以下「東京十五区」という。)において、甲党以外の公認を受けて立候補し、同選挙区又は比例代表により当選を重ねていたが、令和3年執行の衆議院議員総選挙において、甲党の推薦を受け て東京十五区で立候補し、当選後、甲党の追加公認を受けた。なお、同選挙におい ては、当初、Eが立候補の意向を示したところ、江東総支部がEの公認に反対したことから、甲党の本部が新たに別の候補者を公認したものの、その後、同本部が方針を転換し、この者及びEの両名を推薦するにとどめたため、Kを始めとする甲党の東京都支部連合会(以下「都連」という。)及び江東総支部の関係者とEとの間で対立が生じていた。 このような経緯に加え、Eは、この当選後も、従前から近しい関係であった無所属の区議会議員5名(以下「無所属議員5名」という。)との関係を保っていたことから、甲党所属の区議会議員の中では、Eを好意的に見る者は多くなかった。 東京十五区における甲党の選挙区支部の支部長は、江東総支部の推薦を踏まえ、党本部で決定されており、通例は、東京十五区選出の甲党所属の衆議院議員等が就 任していた。支部長は、党本部から政党交付金の分配を受けられ、衆議院議員総選挙時に公認候補となることから、Eは、支部長に就任することを望んでいた。もっとも、Eは、江東総支部との間では、その推薦を取り付けることはおろか、所属することもできない状況にあった。 2 本件区長選に向けた立候補、支持・支援の状況 (1) Eは、本件区長選についてKの対立候補を擁立しようと考え、令和4年9月頃から、数度にわたり、かつて比例近畿選出の衆議院議員であった甲党所属のDに対し、本件区長選への立候補を要請するとともに、その際、甲党との関係で表立 ついてKの対立候補を擁立しようと考え、令和4年9月頃から、数度にわたり、かつて比例近畿選出の衆議院議員であった甲党所属のDに対し、本件区長選への立候補を要請するとともに、その際、甲党との関係で表立っては支援できないが、陰から全面的に支援する旨述べるなどしたところ、Dは、同年12月上旬までには、本件区長選への立候補を決意した。 (2) 一方、Kは、同年11月24日、甲党の推薦を受けて本件区長選に立候補をする意向を表明した。 (3) E、D、無所属議員5名ら並びに被告人A及び被告人Bは、同年12月19日、本件区長選に向けた準備を目的とする会合(以下「選対会議」という。)の第1回目を開き、以後、Eは、本件区長選まで、Dを支援していた。 (4) Dは、令和5年1月12日、E事務所の準備を受け、本件区長選に立候補す る意向を表明する記者会見を行った。 (5) 江東区議会議員選挙(以下「本件区議選」という。)は、本件区長選と同日に執行されることが見込まれていたところ、両選挙では、各候補者が相互の連関を意識した選挙運動を行うことがあり、本件区議選に立候補しようとする甲党所属の者は、全員、同年2月13日に開催された本件区長選及び本件区議選に向けた総決 起集会に出席した。 3 被告人3名への金銭交付の指示等Eは、同月17日までには、Fに対し、甲党所属の本件区議選の候補者14名のうち、被告人3名を含む12名(以下「対象者12名」という。)に対して「陣中見舞い」との名目で現金20万円を供与するよう指示し、Fからの指示を受け、本件 各供与が行われた。 第3 本件各供与の趣旨について 1 各客観的事実の評価(1) 本件各供与に至るまでの経緯の評価ア Eは、東京十五区支部長就任のために必要な江東総支部からの推 各供与が行われた。 第3 本件各供与の趣旨について 1 各客観的事実の評価(1) 本件各供与に至るまでの経緯の評価ア Eは、東京十五区支部長就任のために必要な江東総支部からの推薦を得るこ とも見通せない状況にあった中、本件区長選において、Kの支援を求められていたにもかかわらず、その求めに応じないどころか、Kの対立候補としてDを擁立し、支援していたことが認められる。しかも、その支援は、資金を提供したほか、その選挙対策の企画・立案をして、選対会議の準備・開催、広報物の企画・制作、記者会見、有力者との引合せ、ポスターの掲示場所の提供等にも関与しており、さらに、 自身の秘書にはDの選挙対策本部に派遣して様々な事務に当たらせたり、Dを支援するための政治団体の設立及び届出を取り計らせたりするなど、広範にわたり、かつ手厚いものであり、相当に注力していたとも認められる。 この点、弁護人は、Eが東京十五区支部長に就任することに何ら焦っていなかった旨主張する。しかし、Eと江東総支部との関係に改善の兆しが見られなかったの は明らかであり、現に、本件区長選の後、Eは、江東総支部の推薦を得られず、都 連の会長に対し、Kを支援しなかったことについて謝罪文を提出したことを経て、公募によって東京十五区支部長に選出されたのであるから、本件当時もEが東京十五区支部長に就任する見通しは全く立っていなかったと認められる。 イそして、Eは、江東総支部等からは、従前から甲党以外の者との関係等について懸念を伝えられていたにもかかわらず、Kや江東総支部の意向に反してDを支 援する行動をとり、その結果、甲党所属の衆議院議員であれば招待されるのが慣例であった総決起集会に招待されず、しかも総決起集会においてKから暗に批判される結果 Kや江東総支部の意向に反してDを支 援する行動をとり、その結果、甲党所属の衆議院議員であれば招待されるのが慣例であった総決起集会に招待されず、しかも総決起集会においてKから暗に批判される結果を招いており、本件各供与の当時、Kら江東総支部との溝が一層深くなっていたと認められる。Eは、このように、あえて、Kに対する協力や、江東総支部との関係改善を放棄する道を選択・決断したと認められるが、その理由としては、D が本件区長選においてKを破り江東区長に就任することで、Kが甲党所属の区議会議員に対して影響力を有している状況を打破し、これら区議会議員や江東総支部の動向も大きく変える意図に基づくものと見る以外に合理的な説明がつかない。現に、このような見方は、区議会議員の中でも少なくない者が有していた。 ウこのように江東総支部との溝が一層深くなっていたE自身にとって、Dが本 件区長選で当選すれば、Kの影響力が弱まって、甲党所属の区議会議員の中で自己に有利な状況になることが見込まれたが、一方で、Dが落選すれば、E自身が対立候補を支援したとして非難されるリスクがなお増大する状況にあり、その意味で、衆議院議員として単に政治信条や支持基盤が近い候補者の当選に向けて行う支援とは異なる状況にあった。そのために、Eは、Dの当選を目指し、前記アのとおり、 相当注力してその選挙運動を支援していたものと認められる。このことは、Eが、本件各供与の後に、選挙情勢が厳しいと分析し、Dと共に街頭に出るなど支援をより強めていたことなどに照らしても、明らかである。 また、Eは、江東区内では知名度の低かったDが有権者の支持を集めるためには、多数の区議会議員の支持を受け、そのことが有権者に対して強調されていることが 重要であると考え、Dと区議会議員とのいわ また、Eは、江東区内では知名度の低かったDが有権者の支持を集めるためには、多数の区議会議員の支持を受け、そのことが有権者に対して強調されていることが 重要であると考え、Dと区議会議員とのいわゆる二連ポスターの制作等にも関わる など、区議会議員に対してDに対する支援等を求めようとしている状況にあったと認められる。 もっとも、Eとしては、江東総支部との関係で表立ってDを支援することはできない立場にあったことから、Dの支援が発覚したとしても、いわば弁解や言い逃れの余地を残しておくような形式をとり、その支援は水面下で行う必要があったとも 認められる。この点、弁護人は、甲党内ではDを積極的に応援する衆議院議員が存在したことを指摘するが、選挙区外の衆議院議員が応援することと、Eのように地元の総支部との関係が構築されていない中、地元で対立候補者を支援することとは全く意味合いが異なるから、弁護人の指摘は当たらない。 エそして、被告人3名を含む対象者12名は、甲党所属の区議会議員として、 江東区内の有権者に一定の支持基盤を有しており、公式には全員が本件区長選においてKを支援すべき立場にあったものの、あくまでもEの見立てとしては、対象者12名が公式にDを支持・支援することまでは見込まれないとしても、情勢次第では、表面化しないところで、Kの支援を緩める可能性があり、これにより対象者12名の支持基盤となっている有権者の間にもDを支持する機運が高まることを期待 していたと認められる。 オこのような状況やその時期を前提とすると、Eが本件各供与に至った動機・趣旨としては、対象者12名に対し、本件区長選において、Dを支援すること、より具体的には、Dのための投票取りまとめなどの選挙運動をすることのほか、Kを積極的には支援せず、それ 件各供与に至った動機・趣旨としては、対象者12名に対し、本件区長選において、Dを支援すること、より具体的には、Dのための投票取りまとめなどの選挙運動をすることのほか、Kを積極的には支援せず、それによりDを間接的に支援すること(以下では、「D支援の 趣旨」とは、この意味のものをいう。)が含まれると見るのが自然かつ合理的である。 カなお、弁護人は、Eが、Dの支援を秘密裏に行っていたのであるから、対象者12名に対してD支援の趣旨を含んで現金を供与することには一貫性、合理性が認められない、と主張するが、本件各供与が、後記のとおり「陣中見舞い」を名目としているのであって、弁明の余地を残しながらもD支援の趣旨を含んでいるとい う点では、むしろEの行動として一貫しているともいえる。 (2) 本件各供与の額及び対象者区議会議員に対して供与しようとした額は、各人20万円、総額で240万円に上っている。Eは、東京十五区支部長の立場にないために、甲党の本部から政党交付金等を受け取ることもできず、E個人が自身の政治資金管理団体に対して貸付けを行うなど十分な資金を有していなかった上、これまで区議会議員に対しては、選 挙前に1万円を供与するにとどめていた。それにもかかわらず、Eがこのように高額な供与をしたのは、対象者12名に対し、本件区議選における支援(いわゆる「陣中見舞い」)以外の影響、効果を目論んでいたと見るほかない。なお、弁護人は、対象者12名が都連から公認料を供与されていたことや、被告人3名の中には政治団体から供与を受けていた者がいることを指摘し、20万円が高額ではないと主張す るが、政党ないし政治団体による供与とは性質、意味合いが異なるから、弁護人の指摘は当たらない。 これらの事情は、本件各供与がD支援の趣旨を含 いることを指摘し、20万円が高額ではないと主張す るが、政党ないし政治団体による供与とは性質、意味合いが異なるから、弁護人の指摘は当たらない。 これらの事情は、本件各供与がD支援の趣旨を含むものであることを裏付けている。 (3) E事務所における各秘書に対する指示及びそれを受けた対応 ア Fは、本件各供与に際し、G、H、I及びJ(以下、これら4名を「秘書4名」という。)に対して、秘書4名が、担当地域ごとに分担し、対象者12名に対して「陣中見舞い」を名目として現金を直接手渡した上、受領の有無やその際の反応を、事務所の日報として用いられているグループメッセージではなく、口頭で報告するよう指示しており、本件各供与の後、秘書4名からの報告を取りまとめたが、 この中には、本件区長選に関する発言を含めた対象者12名の応対状況も記載されている。 イこのような事実からも、現金の供与に際して、単に対象者12名に取得させればそれでよいというものではなく、本件区議選以外の意向についてEが把握する意思があったことが推認できる。そして、本件区議選以外に把握するものとしては、 同時に執行される本件区長選に関わるものであることも容易に推知できる。 そうすると、F及び秘書4名においても、このようなEの意図を認識しており、面会の申入れ及び現金の供与がDを支援する活動の一環である可能性は容易に想起できる状況にあったことに照らすと、Fが秘書4名に対して現金の供与を指示した際や、秘書4名が現金を供与しようとした際に、明示的にD支援の趣旨を含めて述べていないとしても、黙示にD支援の趣旨が含まれていたと認められる。 ウ弁護人は、秘書4名が、本件各供与に際し、本件区議選に際してEが応援演説をするなど支援の申出をしていたことを指摘 めて述べていないとしても、黙示にD支援の趣旨が含まれていたと認められる。 ウ弁護人は、秘書4名が、本件各供与に際し、本件区議選に際してEが応援演説をするなど支援の申出をしていたことを指摘する。しかし、本件各供与において、このような申出が含まれていたとしても、D支援の趣旨が含まれていたことが否定されるものではないし、本件区長選と本件区議選とは、その選挙運動に共通するところがあったのであるから、本件区議選における支援の申出がされていたことで上 記の認定が変わるものではない。 (4) 小括買収の罪の主観的要件としては、投票又は投票の取りまとめ等の選挙運動をし、又はしないことの趣旨が含まれていれば足り、他の趣旨と併存していても、この要件が充足されるというべきであるところ、前記の事実を総合して評価すれば、本件 各供与についてD支援の趣旨が含まれていたことに合理的な疑いは生じない。 2 Eの供述(1) Eの捜査段階の供述Eは、捜査段階において、本件各供与について、「陣中見舞い」の趣旨を多分に含んでいたものの、江東総支部に所属する各区議会議員に対しては、Kを全員で応援 しなければならないという強い縛り付けがあった情勢のもとで、一人でも二人でも受け取ることで、江東総支部の「たがが緩む」ことになり、本件区長選においてどちらを応援してもかまわないかのような雰囲気にもなり得るのではないかと思い、また、自分が差し出した現金をあえて受け取る区議会議員が、表立ってDを積極的に支援するのは難しいにせよ、Kに対する応援を緩め、又は、Dの選挙運動を妨げ ないような対応を取ることも考えられたことから、これらの現金には、「どういう形 であれ、表であれ裏であれ、Dが江東区長選挙に当選できるよう支援してほしい」との趣旨も含 選挙運動を妨げ ないような対応を取ることも考えられたことから、これらの現金には、「どういう形 であれ、表であれ裏であれ、Dが江東区長選挙に当選できるよう支援してほしい」との趣旨も含んでいた旨供述する。 なお、弁護人は、Eが、年末年始を含む長期間の身柄拘束の中で、連日取調べを受けたことから、身柄拘束から解放されるため、自己の認識と異なる供述に至った旨主張する。しかし、Eは、自己の弁護人とも十分打ち合わせた上で、年末年始の 閉庁期間が明けた後、令和6年1月6日及び同月16日に、上記の供述に至っている。Eは、供述の意味を十分に理解した上、自らの認識及び意図を自己なりに表現するものと評価できる。 そうすると、Eの捜査段階の供述は、前記1の客観的な事実関係及びそれにより認められる認定にも十分に沿い、これを裏付けるものといえる。 (2) Eの公判供述Eは、公判廷において、趣旨が不明瞭であるものの、本件各供与について、対象者12名に対して「陣中見舞い」を供与する趣旨であり、D支援の趣旨は含まれていなかったとも解され得る供述をする。 しかし、Eは、公判廷においても、本件各供与がD支援の趣旨を感じ取ることが できるような状況であったことを認めた上、対象者12名のうち現金を受け取ることで、Kの支援者の中でもDを応援してもよいと受け取られる余地を作り出して、江東総支部の結束が緩む事態につながっていくことを想像はしていた旨述べているのであって、Eの公判供述が、捜査段階における前記の供述をすべて否定する趣旨であるとまでは解されない。 Eの捜査段階の供述と公判供述との間にニュアンスが異なる点も存在するが、Eは、衆議院議員を辞職し、有罪判決を受けて同判決が確定した後に本件の公判廷において供述したものであって、被告人 い。 Eの捜査段階の供述と公判供述との間にニュアンスが異なる点も存在するが、Eは、衆議院議員を辞職し、有罪判決を受けて同判決が確定した後に本件の公判廷において供述したものであって、被告人3名をかばうために虚偽の供述に及ぶ動機も認められるから、Eの公判供述のうち、本件各供与にD支援の趣旨が含まれていないとも解され得る部分については信用できない。 3 E事務所の秘書の供述 G、F、I及びJは、公判廷において、本件各供与が「陣中見舞い」の趣旨にとどまっていた旨供述するが、これらの供述は、Eの行動等の客観的事実関係及び各供述経過に照らし、不合理であって、信用できない。 4 各弁護人の指摘について(1) 被告人3名に共通する事情について 弁護人は、本件各供与は、本件区議選における支援を目的とする「陣中見舞い」であり、D支援の趣旨は何ら含まれていないと主張し、その根拠として、祝儀袋が用いられていることや、領収書の作成、交付を含め、E事務所において「陣中見舞い」としての正当な会計処理がされていることを指摘する。しかしながら、本件区長選と本件区議選とが同日執行され、選挙運動としても事実上重なるところがあっ たことなどの事情に照らすと、仮に本件各供与に、本件区議選に関する「陣中見舞い」の趣旨が含まれていたとしても、D支援の趣旨が含まれていることとは矛盾しない。また、現金の供与に関する正当な会計処理が行われなかったことが発覚した場合には刑事責任、政治的責任を問われることになり、その影響は非常に大きく、買収であることがより発覚しやすくなることに照らすと、供与の事実が明るみにな った際に備えて、祝儀袋に入れた「陣中見舞い」としての所要の体裁を整えた上、領収書の作成、交付その他の会計処理を行っておくことは十 がより発覚しやすくなることに照らすと、供与の事実が明るみにな った際に備えて、祝儀袋に入れた「陣中見舞い」としての所要の体裁を整えた上、領収書の作成、交付その他の会計処理を行っておくことは十分に考えられる。 (2) 被告人Cに関する事情について弁護人は、被告人Cは、Kと親しい関係を築いており、むしろ、Eが本件区議選で支援する無所属区議会議員と地盤が共通し、Eとは対立する関係にもあったから、 被告人Cに対する供与について、D支援の趣旨が含まれているはずはない、と主張する。 しかし、被告人Cは、令和3年から4年にかけて、Eからの面会要請に応じるなど、一部の区議会議員と異なる柔軟な態度も見せていたところであって、Eらとして、被告人Cに対して、Kの支援を緩めること等を期待していたことは十分に考え られるから、弁護人の指摘は当たらない。 5 小括そうすると、本件各供与については、D支援の趣旨が含まれていたものと認められる。 第4 被告人3名の認識 1 被告人3名に共通する事情 (1)ア前記のとおり、Eらが、本件区長選に関してDを積極的に支援し、その当選に向けて活動していること、その意図に加え、EとKら江東総支部との間の溝が深まっていたことについては、甲党に所属する区議会議員にとっては周知のものとなっており、被告人3名もその例外ではなかったと認められる。 イ被告人3名において、Eらにより、衆議院議員からのものとしては高額の現 金が供与されるに際して、I及びJが本件区長選について言及しておらず、また、「陣中見舞い」と表記された祝儀袋が用いられていたとしても、本件区議選に向けた支援の趣旨にとどまらず、上記アの背景を容易に想起し、そこから進んで、前記第3の1の推認過程のとおりD支援の趣旨が含 た、「陣中見舞い」と表記された祝儀袋が用いられていたとしても、本件区議選に向けた支援の趣旨にとどまらず、上記アの背景を容易に想起し、そこから進んで、前記第3の1の推認過程のとおりD支援の趣旨が含まれることは、容易に認識することができたといえる。 このことは、次の事実からも裏付けられる。すなわち、秘書4名が、対象者12名のうち、被告人3名以外の9名に対して面会しようとした際、4名は、秘書との面会を拒絶し、3名は、秘書と面会したが、現金の受領を拒絶していた。面会を拒絶した4名のうち1名は、その理由として、Eと江東総支部との関係等を述べ、また、現金の受領を拒絶した3名のうち1名は、EがKを支援するべきであるとして その具体的方策を述べていた。一方、上記9名のうちその余の2名は、秘書と面会していったん現金を受領したものの、後日、Eが、Kと対立し、本件区長選においてDを支援していること等を理由に返金していた。このように、被告人3名以外の9名の行動からも、本件各供与にD支援の趣旨が含まれていたことが容易に認識できたことが裏付けられている。なお、弁護人は、対象者12名の中で、本件に関す る捜査が着手されるまでの間に捜査機関に届け出た者がいなかったことを指摘する が、Eによる供与又はその申出が違法であると認識していたからといって、進んで捜査機関に届け出るとは限らないから、弁護人の指摘は当たらない。 ウ被告人3名においても、前記の客観的情勢を認識していたことに加え、供与額として20万円に上ることはかつてなかったというのであり、この額も、本件各供与がD支援の趣旨を含むものであることをまた容易に想起することができたとい える。 (2) 弁護人は、被告人3名において、収支報告書の記載や領収書の発行に際し、政治資金とし この額も、本件各供与がD支援の趣旨を含むものであることをまた容易に想起することができたとい える。 (2) 弁護人は、被告人3名において、収支報告書の記載や領収書の発行に際し、政治資金としての正当な会計処理がされており、D支援の趣旨を含むものであったと認識していなかったことが裏付けられている、などと指摘するが、各被告人において、Eの政治団体宛てに領収書を発行している以上、それと整合する会計処理を 行おうとすることは当然であるから、D支援の趣旨を認識していたとの認定を妨げるものではない。 (3) これらの検討によれば、本件区議選に近い時期に供与がされたことなど、弁護人が指摘する事情を考慮しても、被告人3名において、本件各供与がD支援の趣旨を含むものであったことを認識していたと強く推認できるが、なお、各被告人の 弁護人が主張する個別の事情について検討しておくこととする。 2 被告人Aについて被告人Aは、令和4年12月、EからDの擁立を聞かされ、Dを側面又は後方から支援する旨述べ、その後、選対会議にも出席し、Eとも連絡を取り合っていたほか、Dとのいわゆる二連のぼりを使用したり、Dの街頭演説に同行したりするなど の支援をしていたこともあった。また、被告人Aは、従前から、Eとの間で本件区長選に関するメッセージの送受信をしていたところ、供与を受けた当日にも、Eに対し、供与について謝礼を述べるメッセージを送信した際、「別件」と断りつつも、同一のメッセージの中で、本件区長選に関し、他の区議会議員に対してDを支援する旨述べた際の反応をも併せて報告していた。これらのことは、被告人Aが、Eか ら本件区長選においてDの支援を期待されていた中、供与を受け、これにD支援の 趣旨が含まれていると認識していたことをより 反応をも併せて報告していた。これらのことは、被告人Aが、Eか ら本件区長選においてDの支援を期待されていた中、供与を受け、これにD支援の 趣旨が含まれていると認識していたことをより一層裏付けるものであるといえる。 弁護人は、被告人Aにおいて、本件区議選の当選だけを目指して取り組んでいる時期にEから現金を供与されれば、本件区議選への支援としか認識できないし、供与は、平日夕方の人通りが多い歩道上であって、本件区長選に関する買収であると想起できるはずがない、などと主張する。しかし、被告人Aが、本件区長選に関す る動向について留意し、Eに報告していたのは上記のとおりであるし、通行人から封筒の授受やその際の会話を目撃される可能性があるとしても、それが選挙に関する買収と気付かれる可能性は低いといえるから、弁護人の主張は前記の認定に合理的疑いを差し挟ませるものではない。 3 被告人Bについて 被告人Bは、Dから本件区長選における支援を要請されており、選対会議にも出席していたところであって、Eから本件区長選においてDの支援を期待されていた中、供与を受けたのであるから、その際本件区長選について言及されていなくても、これにD支援の趣旨が含まれていると認識していたことは一層明らかであるといえる。 弁護人は、被告人Bは、供与を受けるに当たり、本件区長選のことが取り上げられていたのであれば、これを突き返していたはずであるのに、実際にはちゅうちょしておらず、Eに対する感謝の意を表出しており、このことはEの意図を認識していなかったことの現れであると指摘するが、黙示にD支援の趣旨が含まれていたことは容易に想起できるのであって、弁護人が指摘する事情も、被告人BにおいてE のD支援の趣旨が含まれていたことを認識していたこ たことの現れであると指摘するが、黙示にD支援の趣旨が含まれていたことは容易に想起できるのであって、弁護人が指摘する事情も、被告人BにおいてE のD支援の趣旨が含まれていたことを認識していたことと整合しないものではない。 4 被告人Cについて被告人Cは、Iから供与を受けた際、Iと親交が深かったものではないのに、Iに対し、本件区長選に言及し、「EさんもKさんもどこまでやるつもりなのかね、どっちもどっちみたいな感じになってるから、EさんがK区長の応援しますのでって 感じで下手に出たらうまくいくんじゃないかな。」と述べている。 被告人Cは、このようにEとKが対立関係にあるとの前提認識をもとに供与を受けているのであるから、供与の趣旨として、本件区長選について言及されていなくても、D支援の趣旨を認識していたと認められる。 弁護人は、被告人Cは、Kの支援を表明しており、それを少しでも緩めることなどできないことはEにも周知されていたから、D支援の趣旨で供与されることはあ り得ないのであって、そのような趣旨を認識できるはずはなかったし、供与を受けた後、本件区長選ではKの後継であるLを支援し、その後も江東区議会においてDの公職選挙法違反の嫌疑を追及しており、このことは、被告人Cにおいて、D支援の趣旨を認識していなかったことの現れである、と主張する。しかし、前記第3の4(2)のとおり、Eが被告人Cに対してKに対する支援を緩めること等を期待して いたことは十分に考えられるのであって、被告人Cは、Eのこのような期待を認識していたと認められる。また、被告人Cが、供与を受けた後、実際にDを支援したか否かは、供与を受けた際の認識に直接関わらない上、追及したとされるDの公職選挙法違反の嫌疑は本件と異なる。 第5 結論 たと認められる。また、被告人Cが、供与を受けた後、実際にDを支援したか否かは、供与を受けた際の認識に直接関わらない上、追及したとされるDの公職選挙法違反の嫌疑は本件と異なる。 第5 結論 以上に加え、被告人3名が、いずれも、自らその利得を受ける意思を有していたことも認められることをも併せると、被告人3名について判示の事実が認められ、受供与の罪が成立することは明らかである。 (量刑の理由)被告人3名がそれぞれ供与を受けた現金の額は少ないとはいえず、本件各犯行は、 民主主義の根幹をなす選挙の公正を害し、ひいては国民の政治に対する信頼を損ねるものである。現職の区議会議員である被告人3名が安易にこのような犯行に及んだことは軽率である。 なお、本件各犯行の内容、上記の評価等によれば、公民権停止の期間を短縮するのが相当とはいえない。 (求刑各被告人について罰金20万円及び追徴20万円) 令和7年4月18日東京地方裁判所刑事第13部 裁判長裁判官島戸純 裁判官池上弘 裁判官清水理桜子
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