- 1 -主文 被告は,原告に対し,1億0692万2549円及びこれに対する平成16年9月8日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 原告のその余の請求を棄却する。 訴訟費用は,これを10分し,その3を原告の負担とし,その余を被告の負担とする。 この判決は,第1項に限り仮に執行することができる。 事実 及び理由第1請求被告は,原告に対し,1億5392万1408円及びこれに対する平成8年3月5日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2事案の概要 本件は,被告が開設していた大阪府立病院(現大阪府立急性期・総合医療センター。以下「府立病院」という)において医師として勤務していたEが死。 亡したのは,同病院における過重な労働が原因であるとして,Eの母親である原告が,被告に対して,安全配慮義務違反を理由として民法415条に基づいて損害賠償(Eの死亡日以降の遅延損害金の支払を含む)を請求した事案で。 ある。 前提事実(当事者間に争いのない事実及び証拠によって容易に認定できる事実。証拠によって認定した事実は各項末尾に証拠を摘示した)。 (1)当事者ア原告は,Eの母であり,Eには死亡当時,配偶者及び子はいなかった。 イ被告は,府立病院を開設していた地方公共団体である。 (2)Eの経歴E昭和38年1月8日生は平成元年3月に大阪大学医学部以下阪(),(「」。),,大医学部というを卒業した後同年5月26日に医師免許証を取得し- 2 -同年7月1日から平成2年6月30日まで大阪大学医学部附属病院以下阪(「大病院」という,同年7月1日から平成3年6月30日まで済生会中津。)病院で,いずれも研修医として勤務した。その後,阪大病院非常勤医師を経て,平成 30日まで大阪大学医学部附属病院以下阪(「大病院」という,同年7月1日から平成3年6月30日まで済生会中津。)病院で,いずれも研修医として勤務した。その後,阪大病院非常勤医師を経て,平成4年7月1日から府立病院泌尿器科に勤務していたが,平成5年5月31日にいったん退職して,同年6月1日に阪大医学部研究生となり,平成6年2月1日から再び阪大病院で非常勤医師として勤務した。そして,同年7月1日から,平成8年3月5日に死亡するまで,府立病院麻酔科に勤務していた(甲18・30頁。 )(3)E死亡当時の府立病院麻酔科における執務体制ア人員,,,Eが死亡した当時府立病院麻酔科には医師免許取得後7年のEの他同21年の麻酔科部長医師F,同16年の麻酔科医長医師G,同8年の医師H,同じく同8年の医師I,同7年の医師Jの6名が麻酔科の常勤医と,,。 して医師Kがレジデントすなわち非常勤嘱託医師として勤務していた,,(,また臨床研修医として4ないし5名が所属していた甲18・153171頁。 )イ通常勤務,宿日直勤務府立病院麻酔科においては,所定勤務時間は午前9時から午後5時45分まで(休憩時間45分を含む)とされていた。 。 また,正規の勤務時間外における勤務(午後5時45分から午前9時まで)が宿直,勤務を要しない日及び休日における正規の勤務時間内における勤務(午前9時から午後5時45分まで)が日直として,それぞれ定められていた。宿直,日直のいずれとも,担当医師は院内に常駐し,ICU(IntensiveCareUnitの略。集中治療室)における重症患者の集中治。 療,緊急手術の術前準備及び麻酔等の業務を行っていた(甲18・170頁。 )- 3 -(4)Eの死亡Eは,平成8年3月5日未明ころ,自宅で死亡し の略。集中治療室)における重症患者の集中治。 療,緊急手術の術前準備及び麻酔等の業務を行っていた(甲18・170頁。 )- 3 -(4)Eの死亡Eは,平成8年3月5日未明ころ,自宅で死亡した(死亡当時33歳。 )監察医作成にかかる死体検案書の直接死因欄には「急性心機能不全,その」原因欄には「特発性心筋症」とそれぞれ記載されている(乙2。 )(5)公務災害認定請求原告は,平成12年12月22日,地方公務員災害補償基金大阪府支部長に対し,公務災害認定請求を行ったが,同基金は,地方公務員災害補償法の規定に基づき審査した結果,Eは急性心機能不全を発症させるほどの強度の精神的又は肉体的負荷を受けたものとは認められず,Eの疾病は公務に起因することが明らかな疾病とは認められないとして,Eの死亡は公務外の災害であると認定し,前記の請求は棄却された(甲18。 )(6)調停申立本件に先立ち,原告は,平成16年6月24日,大阪簡易裁判所に本件と同様の趣旨の調停を申し立てたが,平成16年9月8日,調停は不成立となった(甲4。 ) 争点 (1)Eの府立病院における業務(以下「本件業務」という)とEの死亡と。 の因果関係の有無(争点1)(2)安全配慮義務違反の有無(争点2)(3)損害の発生と損害額(争点3) 争点に対する当事者の主張(1)争点1(本件業務とEの死亡との因果関係の有無)について(原告の主張)Eは,特発性心筋症の基礎疾患及び体調不良があったところ,府立病院において次のとおり,過重な時間外労働に従事し,また府立病院の公務と評価すべき研究及び論文執筆活動に従事したことから,急性心機能不全に陥り死- 4 -亡したものであり,本件業務とEの死亡との間には因果関係がある。 アEの時間外労働(ア)通常の勤務形態の日 評価すべき研究及び論文執筆活動に従事したことから,急性心機能不全に陥り死- 4 -亡したものであり,本件業務とEの死亡との間には因果関係がある。 アEの時間外労働(ア)通常の勤務形態の日府立病院の所定勤務時間は本来午前9時から午後5時45分まで休,(憩45分を除く)と定められていたが,Eは,休日を除くほぼ毎日,。 ,,,,午前8時前に出勤して午前8時からカンファレンス麻酔科抄読会打合せ等に従事していた。 Eの帰宅時間については,Eが死亡する前日である平成8年3月4日の午後10時過ぎに,F部長がEに対し,ペース配分を考えて仕事をするように忠告していること,Eが死亡した後,F部長から府立病院の事務局に対し,Eの死亡に関して,過労死としての公務災害認定の可能性について検討依頼したことがあること,Eは,通常業務に加え,常態的に,麻酔科医師の勤務日程調整,勤務予定表作成,麻酔症例台帳の保守等も行い,阪大医学部麻酔科において臨床研究活動を行った上で,多数,,,の論文を執筆していたこと等を総合考慮すればEは出勤日において午後11時程度まで超過勤務することが常態化していたとみるべきである。 以上に鑑みれば,Eは,通常の業務形態の日においては,少なく見積もっても朝1時間と夜4時間の合計5時間の時間外勤務をしていた。 (イ)宿日直(重症当直を宿直に含む)。 宿日直は,本来帰宅して休息,就寝すべき時間帯や休日に業務に従事する点で肉体的精神的負担が大きいし,府立病院は大規模な救急医療機関であり,休日,夜間であっても重篤な急患が入ったり,入院患者の急変が生じる頻度も高い。 よって,宿日直に従事した時間は,時間外勤務時間と考えるべきである。すなわち,宿直については午後5時45分から翌日午前9時までの- 5 -15時間15分(1 ,入院患者の急変が生じる頻度も高い。 よって,宿日直に従事した時間は,時間外勤務時間と考えるべきである。すなわち,宿直については午後5時45分から翌日午前9時までの- 5 -15時間15分(15.25時間,日直については午前9時から午後)5時45分までの8時間45分(8.75時間)が時間外勤務となる。 (ウ)Eの平成7年12月,平成8年1月,同年2月の時間外労働時間Eの平成7年12月の宿直,重症当直の日を除く通常勤務日数は15日,日直日数は2日,重症当直を含む宿直日数は6日だったので,上記(ア)と(イ)を前提にして時間外勤務時間を計算すると,Eの同月の時間外勤務時間合計は,184時間となる。 (計算式)15×5+2×8.75+6×15.25=184同様に,平成8年1月の宿直及び重症当直の日を除く通常勤務日は13日,日直日数は2日,重症当直を含む宿直日数は8日だったので,同(. ),月の時間外勤務時間合計は204時間30分2045時間となり同年2月の宿直,重症当直の日を除く通常勤務日は16日,日直日数は2日,重症当直を含む宿直日数は3日だったので,同月の時間外勤務時間合計は143時間15分(143.25時間)となる。 よって,Eの労働時間の過重性は明らかである。 (計算式)13×5+2×8.75+8×15.25=204.516×5+2×8.75+3×15.25=143.25(エ)Eの研究,論文執筆活動Eは,通常の業務と併行して,阪大医学部麻酔科において臨床研究活動も行い,多数の論文を執筆していた。 Eが府立病院麻酔科に麻酔科医として勤務していた当時,府立病院は阪大病院の関連病院であり,府立病院と阪大医学部は人事を通して密接な関連性があった。すなわち,阪大医学部の医局は,府立病院に医師を派遣することで,派遣医師からフ 医として勤務していた当時,府立病院は阪大病院の関連病院であり,府立病院と阪大医学部は人事を通して密接な関連性があった。すなわち,阪大医学部の医局は,府立病院に医師を派遣することで,派遣医師からフィードバックされた臨床経験を得るこ- 6 -とができ,府立病院は,阪大医学部から優秀な医師が派遣されることを望んでいるという関係であった。Eは,このような状況下で阪大医学部から府立病院に派遣されたのであり,Eが阪大医学部麻酔学教室所属として行った発表は,単なるE個人の業績であるのみならず,府立病院麻酔科にとって,医局との関係を良好に保ち,将来の人材確保を円滑に進めるため有用なものでもあったといえる。 以上のような状況においては,Eの阪大医学部麻酔科における臨床研究活動や学会での症例報告及びその準備は,府立病院,阪大医学部のいずれで行われたものであっても,すべて府立病院のための公務と評価すべきである。 イEの労働状況(ア)Eの業務内容Eの主たる業務は,主に手術室における麻酔であり,直接患者に麻酔をすることもあれば,研修医の指導という形で麻酔に関わることもあった。また,手術室における麻酔業務の他,ICUの患者管理,勤務予定表の作成,麻酔症例台帳の保守(データの点検やコンピュータへの入力等)も行っていた。 医師の職務は人命を預かるという重責を伴うものであるが,特にEの,,場合は麻酔科医であり危険性の高い手術に立ち会うことも多かった上ICU担当として,集中管理を必要とする重篤な病状の患者に関わることも多かったので,その業務は質的に過重なものであった。 (イ)E死亡当時の府立病院麻酔科における執務体制Eが死亡した当時,府立病院麻酔科にはEの他,F部長,G医師,H医師,I医師,J医師が勤務医として勤務していた。 そして医療スタッフ間では, った。 (イ)E死亡当時の府立病院麻酔科における執務体制Eが死亡した当時,府立病院麻酔科にはEの他,F部長,G医師,H医師,I医師,J医師が勤務医として勤務していた。 そして医療スタッフ間では,仕事を熱心にする医師とそうでない医師の労働時間の差が顕著であり,例えばG医師は午後6時には必ずいない- 7 -という状況であった。他方Eは,責任感が強く患者のことを考える気持ちが強かったため,当番以外の日でも率先してICUの患者を診察し,研修医の指導をするなどした。そして周囲は,勤務態度が熱心であったEに,麻酔台帳の管理,スケジュールの設定,論文作成等の臨床研究を任せようという雰囲気だった。その結果として,Eの業務は他の医師と比較して過重なものとなっていた。 (ウ)宿直,日直の状況府立病院は重篤な疾患等に対応する3次救急指定病院であり,夜間においても,緊急手術の麻酔,ICUの管理に加え,全館750床の患者に麻酔科医の必要があれば常時呼び出されるという繁忙な状況であって,宿直の際はほとんど一睡もできないような日が多かった。そして宿直の翌日にも休暇をとることはなく,通常勤務に就くことがほとんで,仮に午前8時開始のカンファレンスから,その夜の宿直を経て翌日の終業時まで勤務すると,30時間以上連続で働くことになった。 Eは,土曜日の日直,宿直,日曜日の日直,宿直という土曜日の朝から月曜日の朝にかけて連続の宿日直を行うことが多かった。一般人と同じ週末に休みたいのは誰しも同じであるし,土日連続の宿日直を行うと激務になるのは自明である。このような宿日直はEが望んで行ったものではなく,Eの責任感や上記職場の人間関係から,他の医師が行いたくない休日の宿日直という勤務を,Eがやむを得ず引き受けていたものに他ならない。 ウEの健康状況(ア)基礎疾患の 望んで行ったものではなく,Eの責任感や上記職場の人間関係から,他の医師が行いたくない休日の宿日直という勤務を,Eがやむを得ず引き受けていたものに他ならない。 ウEの健康状況(ア)基礎疾患の存在Eの急性心機能不全の原因は特発性心筋症であるとされており,Eには特発性心筋症の基礎疾患が存在していた。特発性心筋症の多くは,拡張型心筋症(原因不明の左心室拡大と収縮能低下を示す種々の症候群の- 8 -総称)と肥大型心筋症(心肥大をきたす明らかな原因疾患がなく,拡張を伴わない心肥大を特徴とする心疾患)とに分類される。 ,,,拡張型心筋症であれば病理的には心室拡張と心筋細胞の肥大変性繊維化等がおこり,それは心音,X線,心電図,心エコー等により検査所見にあらわれ,それに対しては,血管拡張薬,β遮断薬等の薬物療法が有効である。 肥大型心筋症であれば,病理的には心室肥大,心筋繊維の錯綜配列等がおこり,それは心電図,心エコー等により,検査所見にあらわれ,それに対してはβ遮断薬,カルシウム拮抗薬等の薬物療法が有効であるとされている。 すなわち,いずれの類型であったとしても,特発性心筋症は適切な健康診断により発見され,かつ治療されうる。 (イ)Eの体調不良,,,Eはそもそも痩身であった上過重な労働と業務のストレスにより平成7年末の冬にはやせ始めて,平成8年2月にはアトピー性皮膚炎が悪化していた。死亡前2,3週間の時期は,疲労の蓄積により体調を崩し気味であった。 (ウ)ブルガダ症候群なお,被告は,Eの死因はブルガダ症候群である旨主張するが,Eにブルガダ症候群のような突然死の予測因子は見当たらない。 (被告の主張)Eの府立病院における時間外勤務時間は非常に多いといったものではなく,他の麻酔科医師と比べても特に多いものではなく,宿日直の負 ブルガダ症候群のような突然死の予測因子は見当たらない。 (被告の主張)Eの府立病院における時間外勤務時間は非常に多いといったものではなく,他の麻酔科医師と比べても特に多いものではなく,宿日直の負担もそれ程の大きなものではなく,研究活動は業務命令に基づきされたものではなく自発的な活動として行われたにすぎず,Eの身体に異常は認められず体調不良もなかったのであるから,本件業務とEの死亡との間の因果関係は認めら- 9 -れない。 また,Eの死因はブルガダ症候群によるものであり,本件業務とEの死亡との間の因果関係は認められない。 アEの労働時間(ア)Eの時間外労働府立病院麻酔科では,所定の勤務時間を超えて勤務がなされた場合,各麻酔科医の申告をもとに,超勤報告書が作成されていた。各麻酔科医は,待機の時間等を超過勤務時間に入れることを潔しとせずに,これを除いた時間を申告したり,申告漏れがあったりすることから,超勤報告書では当直日誌や麻酔台帳の記録によって報告より時間を増やす方向で補正されていた。したがって,超勤報告書は実際の時間外勤務の状況を完全に正確に反映しているとはいえないにしても,実際と大きく異なるものではない。 この超勤報告書によれば,Eの死亡前1週間における時間外勤務時間数は13時間であり,平成8年1月の時間外勤務時間は23時間,同年2月の時間外勤務時間は34時間であって,非常に多いといったものではなく,他の麻酔科医と比べても特に多いものではない。 原告は,超過勤務時間数の報告が信用できないとして単なる推測で時間外勤務の勤務時間を求めているが,その計算には根拠がない。 (イ)宿日直について宿直等の勤務表の作成はEの担当であったが,Eは機械的に割り振って担当を決め,その後医師間で話合いの上調整が行われていたもので,日直,宿直 ているが,その計算には根拠がない。 (イ)宿日直について宿直等の勤務表の作成はEの担当であったが,Eは機械的に割り振って担当を決め,その後医師間で話合いの上調整が行われていたもので,日直,宿直の勤務についてEが格別多いということはなかった。 府立病院は3次救急の指定病院ではあるが,平成7年4月1日からEが死亡する前日である平成8年3月4日までの土,日,休日で手術のあった割合は約36パーセントに過ぎず,日直であったとしても手術の入- 10 -らない日の方が多かった。 宿直勤務の内容は,午後10時までICUにおける患者の集中治療にあたり,その後は院内患者の突発的な救命処置や緊急手術の際の麻酔を行う以外は仮眠や休息をとるのが通常で,多くの場合十分な睡眠は可能だった。 土日連続の日直,宿直は,研究活動をしているためにまとまった時間,,がほしいということでEが他の医師に代わってあえて土日連続の日直宿直を行ったものである。 (ウ)Eの自主的な研究Eは,府立病院に麻酔科医として在籍中,共同執筆にて2本の論文を発表し,平成7年9月9日に,臨床麻酔学会で臨床研究報告を発表している。Eは,府立病院内に所定の勤務時間を超えて居残っていたとき,こういった研究や論文作成等を自主的な判断により行っていた。これらの研究,執筆及び発表やその準備は,業務命令に基づき業務として行われたものではなく,各人の自発的な活動として行われており,各人が自らの判断で活動時間の配分等を行うべきであって,府立病院内で行われたものであっても,使用者の安全配慮の枠外のことである。 なお,Eの論文のうち1本は2枚分の短い症例報告で,もう1本は学会発表をもとにE死亡後に発表されたもので,いずれも極端に過重な作業であったとは認めがたい。 イEの健康状況(ア)Eの基礎疾患特発性 ,Eの論文のうち1本は2枚分の短い症例報告で,もう1本は学会発表をもとにE死亡後に発表されたもので,いずれも極端に過重な作業であったとは認めがたい。 イEの健康状況(ア)Eの基礎疾患特発性心筋症とは原因不明の心疾患をいうのであり,以前から何らかの基礎疾患を有していた者がそれを原因として発症する心筋症ではないのであるから,健康診断を受けていても特発性心筋症の原因を知りうるものではないし,健康診断で特発性心筋症の罹患を発見できるものでも- 11 -ない。 また,Eは平成6年6月の採用時に,胸部レントゲンを含めた健康診断がなされ,平成7年7月の健康診断では血液検査が行われているが,いずれも異常は認められなかった。 (イ)Eの体調不良府立病院内において,Eが体調を崩している,健康状態が悪いと聞いた者はおらず,Eの勤務状態にも格別変わったところは見られなかったため,被告はEの健康状態に問題があるとの認識は持っておらず,持ちようもなかった。アトピーは冬にひどくなることが多く,これによりEの精神的ストレスの過多を判断することはできず,Eがやせてきたとの事実もない。 ,,またEの勤務状態に変わったところは見られなかったのであるからEに勤務上安全配慮の必要を認めるに足りるような,健康上の問題があるとの認識を被告は持ち得なかった。 ウブルガダ症候群Eは,死亡前日夜に通常通り食事をしており,I医師によるとその際体調不良の様子はなく,同日午後10時ころ,F部長と会話した際も,Eに異常はなかった。してみればEの就寝中の死亡は,ブルガダ症候群,すなわち心電図で右脚ブロック様波形と,V1からV3誘導におけるcoved型またはsaddle-back型のST部分の上昇を呈し,主として夜間に心室細動で突然死する疾患によるものである。 したがって,本 わち心電図で右脚ブロック様波形と,V1からV3誘導におけるcoved型またはsaddle-back型のST部分の上昇を呈し,主として夜間に心室細動で突然死する疾患によるものである。 したがって,本件業務とEの死亡との間に因果関係はない。 (2)争点2(安全配慮義務違反の有無)について(原告の主張)Eには特発性心筋症の基礎疾患があり,死亡前には体調不良があったのであり,このような状況においては,被告としては,Eからの申出の有無にか- 12 -かわらず,被用者たるEに所定時間外の労働をさせず,業務内容,人員配置の見直しをはかるなどして,過労状態に陥ることを避け,過労状態にあるときは直ちに医師の診療を受けられるようにするなどの措置を執り,Eの健康状態悪化を防止すべきであった。また,府立病院は高度な専門的医療機関であり,胸部X線撮影や心電図といった基礎的項目については,健康診断の内容として網羅されるべきであるし,その健康診断の質においても,水準以上のレベルが要求されるというべきである。 にもかかわらず,府立病院は,適切な健康診断等を実施することを怠ってEの特発性心筋症を看過し,Eの健康状態悪化を見逃し,上記過重な労働に従事させたまま,就業時間や業務内容等の見直しを怠り,業務軽減措置等を講じなかった。 (被告の主張)。 ,,争う被告はEに対し適切な健康診断等を実施することを怠っておらずEの健康状態悪化を見逃したこともなく,Eの就業時間や業務内容等の見直しを怠り勤務軽減措置を講じなかったということもないから,被告は安全配慮義務に違反していない。 また,Eはブルガダ症候群で死亡したものと考えられるが,当時府立病院では定期健康診断において35歳以下の者は心電図検査を行わなくてもよいとされており,かつEは過去に心電図の検査をしたことがなかった また,Eはブルガダ症候群で死亡したものと考えられるが,当時府立病院では定期健康診断において35歳以下の者は心電図検査を行わなくてもよいとされており,かつEは過去に心電図の検査をしたことがなかったので,被告にもE自身にも,Eがブルガダ症候群であったとの認識はなく,被告に安全配慮義務違反は認められない。 (3)争点3(損害の発生と損害額)について(原告の主張)ア死亡による逸失利益1億0453万9054円Eは医師であり,人事院調査(平成12年)による民間病院勤務医の年収の平均は1075万9696円であるから,これを基礎収入とする。E- 13 -は死亡当時33歳なので,就労可能期間は34年と考えられ,年5%の割合で中間利息を控除し(対応するライプニッツ係数は16.193,将)来家庭を持つ蓋然性が高かったことに鑑みて生活費を40%として計算す,(。 。)ると逸失利益は1億0453万9054円1円未満切捨て以下同じとなる。 (計算式)10,759,696×16.193×(1-0.4)=104,539,054イ慰謝料3000万円Eは死亡時33歳であり,前途ある医師であったこと,本件突然死に至らしめた病院側の落ち度の重大性にも鑑みれば,その慰謝料は3000万円を下ることはない。 ウ葬儀費用538万2354円エ弁護士費用1400万円オ合計1億5392万1408円前記アないしエの合計は,1億5392万1408円である。 原告は,Eを相続したものであるから,被告に対し,被告の債務不履行に基づく損害賠償請求として,1億5392万1408円及びこれに対するEが死亡した日である平成8年3月5日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。 (被告の主張)争う。 第3当裁判所の判断 争点1(本件業務と 2万1408円及びこれに対するEが死亡した日である平成8年3月5日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。 (被告の主張)争う。 第3当裁判所の判断 争点1(本件業務とEの死亡との因果関係の有無)について(1)府立病院における麻酔科の業務分掌府立病院における麻酔科の業務分掌は以下のとおりと定められていた甲,(18・150頁。 )- 14 -ア中央手術室における手術患者及び画像診断科における検査,処置患者のすべての全身麻酔と硬膜外麻酔及び一部の例外を除くすべての脊椎麻酔と神経ブロックの施行(術前診察と準備及び麻酔に関する説明,術中管理,術後診察を含む。 。)イ重症患者のICUにおける集中治療,特に気道管理及び人工呼吸管理。 ウ院内の心肺停止またはそれに準ずる状態の患者の救命処置。 エ術後急性期疼痛患者や難治性疼痛を持つ入院患者の疼痛治療。 オその他,麻酔,呼吸管理及び疼痛治療に関すること。 (2)府立病院における麻酔科医の業務の一般的内容ア手術患者に対する業務(甲16・2頁,18・150頁)(ア)手術前の業務麻酔を必要とする予定手術の患者については,手術前日(手術前日が休日の場合はその前日)までに各麻酔科医への割当てがなされていた。 割当てを受けた麻酔科医(以下「担当麻酔科医」という。緊急手術の場合も以下同じ)は,原則として手術前日夕刻から夜にかけて病棟を訪。 問して,当該患者の術前診察をした。術前診察とは,担当麻酔科医が麻酔前の患者に面接して,全身の状態を評価し,麻酔計画を立案して,それを患者に説明するものである。 予定手術の場合は,麻酔科術前外来において基本的な麻酔方針の立案,,と説明リスク低減のために必要な追加検査の指示がなされているのでそれに加えて,担当麻酔科医が,予定手 患者に説明するものである。 予定手術の場合は,麻酔科術前外来において基本的な麻酔方針の立案,,と説明リスク低減のために必要な追加検査の指示がなされているのでそれに加えて,担当麻酔科医が,予定手術の前夜までに患者の病室を訪問して,診療録や検査データを参照して診察し,最終的な麻酔方針の確認を行い,麻酔前の検査追加や投薬,飲食制限などの処置の指示をしていた。 緊急手術の場合は,担当麻酔科医は可能な限り手術前に患者を診察して,患者の状態を把握していた。 - 15 -患者1名あたりの術前診察の所要時間は,術前日の診察では術前指示も含め通常30分から1時間程度であるが,円滑な麻酔歴のある患者の場合は一般に短時間で済み,複雑な病態を持つ患者や不安の強い患者,主治医との打合せが必要な場合には数時間に及ぶなど,患者の状態により異なっていた。 (イ)手術当日の業務担当麻酔科医は,手術当日,まず手術室入室前の麻酔機材の準備を行った。すべての府立病院麻酔科管理症例においては,予定麻酔法にかかわらず全身麻酔器を準備し,麻酔回路の確認を行って,術中いつでも人工呼吸ができるように備えていた。 麻酔機材の準備をした後,担当麻酔科医は患者入室を中央手術室入口,,,で迎え本人確認を行った後看護師とともに手術室まで患者を搬送し患者を手術台に移し,心電図,パルスオキシメータ,血圧計などのモニターを装着し,血圧,脈拍,心電図,動脈血酸素飽和度を確認した後,輸液のための静脈確保を行うか,病棟で確保された静脈路を確認して,麻酔を導入した。ただし,小児の場合は,静脈確保の前に,必要最小限のモニタリング下に麻酔薬を投与して,鎮静する場合があった。 ,「,手術中は日本麻酔科学会の指針現場に麻酔を担当する医師がいて絶え間なく看視すること」に従い,常に担当麻酔科医が当 に,必要最小限のモニタリング下に麻酔薬を投与して,鎮静する場合があった。 ,「,手術中は日本麻酔科学会の指針現場に麻酔を担当する医師がいて絶え間なく看視すること」に従い,常に担当麻酔科医が当該手術の手。 術室内に存室し,患者の状態及び手術の進行にあわせて麻酔を施すとともに,患者の呼吸と循環など全身状態を看視,調節していた。なお,全身麻酔では,患者の気道確保能力及び自発呼吸が抑制されるため,麻酔科医が全身麻酔中人工的に気道を確保し,人工呼吸を継続して行うことがほとんどである。 (ウ)手術終了後の業務手術終了後は,患者の覚醒程度や身体状態を確認し,主治医と病棟看- 16 -,,護師に引き継ぐが状況によってはICUまたは重症回復室に搬送して引き続き集中治療に移行した。 その後,病棟等において,術後診察を行っていた。術後診察では,麻酔による有害な影響が生じていないか確認するとともに,必要に応じて麻酔状況の説明や疼痛などの治療を行った。術後診察は,術後に麻酔及び手術による影響と状態の変化を評価して対応するもので,要する時間は,患者の術後経過によるが,麻酔に関する合併症がなく,術後経過も順調な場合は1人あたり10分程度,合併症が生じたり,術後経過が不安定な場合には,状態により異なるが,30分から1時間程度を要していた。 (,イICUまたは重症回復室における重症患者に対する業務甲16・3頁18・151,241,243頁)手術終了後,一般には麻酔科医が麻酔からの回復を確認して,患者が手,。 術室を退室する際に全身の管理を麻酔科医から主治医に引き継いでいたしかし,覚醒が遅延するなど患者の状態が不安定な場合は,ICUまたは重症回復室において,麻酔科医は主治医や共観医とともに,重症患者の集中治療のうち,主として呼吸に関する部分, 主治医に引き継いでいたしかし,覚醒が遅延するなど患者の状態が不安定な場合は,ICUまたは重症回復室において,麻酔科医は主治医や共観医とともに,重症患者の集中治療のうち,主として呼吸に関する部分,すなわち人工呼吸(人工呼,)()吸器の装着や設定人工呼吸器からの離脱や気道管理気道の確保維持及び意識水準の調節(鎮静など,疼痛治療,体液,循環系など全身臓器)の管理を担当していた。患者の状況により,回復に要する時間は様々であった。 また,生体に対するストレスの大きな手術,具体的には出血などで体液量の大きな変化を伴う手術,または生命維持機能に関与する臓器や内分泌機能に大きな影響を与える操作を伴う手術,あるいは極めて長時間にわたって重要臓器に操作が加わる手術後の患者や呼吸不全患者,重症感染症患者など重症患者についても同様に,手術後,ICUまたは重症回復室にお- 17 -いて,麻酔科医が集中治療を担当していた。 ウ院内患者の緊急事態に対する業務(甲16・3頁,18・151頁)麻酔科医は,心肺停止や急性呼吸不全あるいは慢性呼吸不全の急性増悪など,緊急事態に陥った患者の心肺蘇生,脳保護,人工呼吸などの救命処置を行い,集中治療に引き継いでいた。 エ臨床研修医の麻酔に関する指導,他の麻酔科医の麻酔の介助(甲16・3頁,甲18・151,276頁)麻酔科には,臨床研修医が4または5名,麻酔や集中治療の臨床研修のために配属されていた。この研修医の症例に応じた個別の指導や介助も麻酔科常勤医の任務とされていた。 また,他の麻酔科医の麻酔導入時,患者覚醒時,手術中急変時の診療介助,昼食などの休憩時の交代を行うこともあった。 オカンファレンス麻酔科では,毎朝午前8時から,時間外勤務としてカンファレンスを行うのが常態となっていた。カンファレンスとは, 手術中急変時の診療介助,昼食などの休憩時の交代を行うこともあった。 オカンファレンス麻酔科では,毎朝午前8時から,時間外勤務としてカンファレンスを行うのが常態となっていた。カンファレンスとは,ICU症例検討,すなわちICUに入室している重症患者全員に関して,緊急手術が行われている場合を除きすべての麻酔科医,主治医,および必要に応じて主治医の上司や共観医などが,毎朝8時にICU等に集まり,経過を検討して治療方針を決定することをいう(甲18・247頁。 )カ麻酔科抄読会,打合せ,麻酔症例検討麻酔科においては,毎週木曜日,午前8時からのカンファレンスの後,緊急手術が行われている場合を除き,臨床研修医を含む麻酔科医全員が参加して,診療に関する最新情報の収集と検討を行うものとして「麻酔科,抄読会」及び「打合せ」が行われていた。具体的には「麻酔科抄読会」,とは,臨床研修医1名とそれ以外の医師1名の合計2名が,最新の医学論文各1篇を予め読んで理解した上で,当該論文の内容を要約して報告し,- 18 -,「」質疑応答及び臨床研修医に対する指導的助言を行うものであり打合せとは,抄読会とともに,診療業務の打合せや病院運営上の指示事項等の伝達を行うもので「麻酔科抄読会」と「打合せ」をあわせて約30分程度,で行われていた(甲18・248頁。 )また,毎週火曜日午後6時ころから午後8時ころまで,手術中や集中治療実施中の医師を除き,臨床研修医を含む麻酔科医全員が集まり,直前1週間の麻酔実施症例の中から抽出した症例について,麻酔を担当した麻酔科医が経過と考察を報告し,同様の症例に対してより有効,安全な麻酔を実施するための方針を討議する「麻酔の症例検討」が行われていた(甲18・249頁。 )キ麻酔,集中治療に関する臨床研究麻酔科医は,周 経過と考察を報告し,同様の症例に対してより有効,安全な麻酔を実施するための方針を討議する「麻酔の症例検討」が行われていた(甲18・249頁。 )キ麻酔,集中治療に関する臨床研究麻酔科医は,周術期治療に関する情報収集や臨床的研究及びその成果の発表を行った。なお,この研究と業務との関係については後に検討する。 (3)麻酔科の繁忙状況平成7年度麻酔科管理麻酔件数は2489件であり(緊急手術も含む,。)1週間あたり約50件であった(甲18・191頁。麻酔科としては,同)時に6人の患者に対する麻酔が可能な体制をとっていたが,緊急手術が行われると7人になることがあり,そのような場合は日本麻酔科学会の指針「現場に麻酔を担当する医師がいて,絶え間なく看視すること」に反する事態。 にならないように,研修医が麻酔管理をすることがあり,またICUの管理もあったことから,当時の府立病院麻酔科は人手不足で,F部長は,適切に業務を執行するには少なくとも常勤1名,レジデント2名の補充が必要であるという認識を有していた(F部長・16,29頁。 )宿日直やオンコール(オンコールとは,当直医を補佐し,重症患者の緊急手術などの麻酔や処置に加わるために,常に病院から直ちに連絡が付き,かつ緊急の呼出に対応できる場所に待機する制度で,呼び出しがなされた場合- 19 -には病院に赴き当直医を補佐した(甲18・174頁)の当番について)。 は,院内に居住しており常時オンコールに対応できる態勢をとっていたF部長を除く各医師に,ほぼ均等に割り当てられていたものの,重症当直(重症当直とは,患者の容態が重篤である場合や急変するおそれがある場合に,急遽,正規の勤務時間を超えて深夜に及ぶ診療や経過観察に従事する場合をいい,重症当直勤務の際は,診療後も通常はそのまま病院に泊ま 症当直とは,患者の容態が重篤である場合や急変するおそれがある場合に,急遽,正規の勤務時間を超えて深夜に及ぶ診療や経過観察に従事する場合をいい,重症当直勤務の際は,診療後も通常はそのまま病院に泊まり込み,担当患者の急変に備え,必要に応じて当直医の支援にあたる(甲18・236頁)の実績については偏りがみられ,Eは他の医師と比較すると多くの)。 重症当直を行っていた(甲18・284~295頁。また,平日の時間外)勤務についても各医師で差異があり,6名の常勤医の内,3名は終業後早めに帰ることが多かったが,Eは患者に対する姿勢が非常に真摯なものであったため,他の常勤医と比較して,遅くまで残って業務を行っていることが多かった(I医師・2,20頁,F部長・28頁。 )(4)本件業務の内容及び研究活動ア手術患者に対する業務Eは,前記の手術患者に対する麻酔業務を行っていた。 Eが,平成7年12月から死亡する前日の平成8年3月4日までに実際に行った手術における麻酔業務の麻酔開始時刻,終了時刻,麻酔時間は,(,)。 別表1のとおりである甲16・6~19頁18・154~167頁甲16及び甲18は,麻酔台帳,麻酔記録,当直日誌等をもとにF部長が作成したものであるが(F部長・30頁,手術における麻酔に立ち会っ)ている場合でも,研修医等の指導として立ち会う場合や重大な手術に複数の麻酔科医が立ち会う場合には,麻酔台帳や麻酔記録にその氏名が記載されず記録として残らない場合もあるから(I医師・23頁,F部長・30頁)Eが指導や介助として立ち会って行われた麻酔については,別表1に記載されていない場合がある。 - 20 -E自身が担当麻酔科医として行った麻酔については,麻酔時間のほぼすべてにわたり,当該手術室内で患者の状態の把握と麻酔管理にあたって 麻酔については,別表1に記載されていない場合がある。 - 20 -E自身が担当麻酔科医として行った麻酔については,麻酔時間のほぼすべてにわたり,当該手術室内で患者の状態の把握と麻酔管理にあたっていた。なお,当該症例の患者の状態が安定し,また他症例の担当麻酔科医の経験が少ないような場合は,他症例の診療介助などにあたっていた場合もある。人手が必要な術中の患者が不安定な時期(麻酔の導入時,麻酔からの覚醒時,出血などによる術中状態の変化時)には,当該手術室内で診療に専念し,また,急変時にはすぐ対応できるようにしていた(甲18・251頁。 )イ手術患者以外の患者に対する業務Eは,手術患者以外の患者に対しても,緊急事態に陥った患者の救命処置を行うなどし,また,手の空いた時間は病棟やICUをきめ細かく巡回し,患者の処置診療にあたっていた。 もっともこれらの業務については,業務の時間数等は一切記録されていない。 ウ臨床研修医の麻酔に関する指導及び他の麻酔科医の麻酔の介助Eは,臨床研修医の麻酔に関する指導及び他の麻酔科医の麻酔の介助も行っていたと認められるが,業務の時間数等は一切記録されていない。 エその他の業務及び執務姿勢,,Eは府立病院麻酔科においてEにのみ割り当てられていた業務として宿日直等の勤務予定表をG医師と協議して作成する業務,麻酔症例データの点検やコンピュータ入力の麻酔症例台帳を保守する業務を行っていた(甲18・151頁。 )Eは,患者や業務に対する責任感及び正義感が強く,Eが死亡する約1年前である平成7年1月17日の阪神淡路大震災の折りには,自宅からいち早く府立病院に駆けつけ,率先して各手術室の機器などに異常がないか確認した。また,業務に不具合を発見すると,それを改善すべく上司に対- 21 -して自分の考えを積極的 震災の折りには,自宅からいち早く府立病院に駆けつけ,率先して各手術室の機器などに異常がないか確認した。また,業務に不具合を発見すると,それを改善すべく上司に対- 21 -して自分の考えを積極的に提言し,改善案を実行に移していた。自分の業務を高度に完成させることに対して職人気質ともいうべき熱意を持ち,若干つらくても気力で頑張るタイプで,自らの体調不良を上司や同僚に訴えて同情を引くことを,むしろ嫌がっていた(甲18・173頁。 )オE死亡前2週間及び前日のEの勤務状況別表1によると,Eは,死亡する直前の2週間において,他の週と比較して総麻酔時間の長い手術に立ち会うことが多かった。 Eは,死亡する前日の平成8年3月4日,午前8時以前に出勤し,カンファレンスを行った後,手術立会もしくはICUにおける管理を行った。 同日午後,前週にEが麻酔を担当し術後も経過をみていた患者が,敗血症による循環不全となったため,診察の上,集中治療の適応と判断し,F部長に対し,Eが責任を持って集中治療にあたり,数日のうちに回復させて病棟に戻れるようにするので,ICUへの入室を許可してほしい旨要請し,F部長の許可を得た上で同患者をICUに入室させて,酸素吸入,肺動脈カテーテル及び中心静脈カテーテル挿入,輸液,血漿製剤投与や強心薬の投与などを行い集中治療にあたった。 Eは,同日午後6時30分ころ,病院外でI医師と夕食をとった後,自分の運転する車で府立病院に戻り,他の麻酔科医や当直医だったH医師と治療方針の打合せを行い,午後8時ころから再びICU入室患者の治療にあたった。 ,,同日午後10時ころEとF部長はICUと手術室の間の廊下で出会いF部長がEに対し「根性だけで物事は解決しない,ペース配分を考えた方がよい」と話したところ,Eは「大丈夫ですよ」と答え,その後も ,,同日午後10時ころEとF部長はICUと手術室の間の廊下で出会いF部長がEに対し「根性だけで物事は解決しない,ペース配分を考えた方がよい」と話したところ,Eは「大丈夫ですよ」と答え,その後も少。 。 なくとも午後11時30分ころまでは,治療を行っていた(甲18・154頁。 )カ平日の時間外労働時間- 22 -(ア)時間外労働時間Eは,宿直明けを除く平日には午前8時までには出勤し,午前8時からカンファレンスに参加していたことから,始業時刻は午前8時であったと認めるのが相当である。 終業時刻については,後記のとおり,記録として残されている超勤報告書(乙5)及び夜間勤務等命令簿(甲18・25,26,183,254頁)はいずれも実態を正確に反映していないと認められるからその信用性は低く,これらに基づき終業時刻を認定することは相当でない。 前記のとおりEは他の医師より熱心に患者のケアをしていたことに加え,Eの執務姿勢,証人Iが「E先生は早く帰られる日はもちろんありましたけれども(中略,ほとんど当直以外の日で9時,10時,残,)っていらっしゃることが多かったようです」と証言し,証人Fが,E。 が午後8時,午後9時まで病院に残って患者の様子を見ていることは間々あることだった旨証言していることからすると,Eは平均的には午後9時までは勤務を続けていたと認めるのが相当である(I医師・5頁,F部長・46頁。 )以上から,Eが出勤した日の労働時間は午前8時から午後9時までの13時間から休憩時間45分を控除した12時間15分と認め,日直の労働時間は午前9時から午後5時45分までの8時間45分から休憩時間45分を控除した8時間と認めた上,1週間あたり40時間を超える部分を時間外労働と認める。 Eの平成7年9月から平成8年2月までの時間外労 間は午前9時から午後5時45分までの8時間45分から休憩時間45分を控除した8時間と認めた上,1週間あたり40時間を超える部分を時間外労働と認める。 Eの平成7年9月から平成8年2月までの時間外労働時間は別表2のとおりである。 (イ)超勤報告書等の信用性他方,Eの死亡直前約3ヶ月におけるEの時間外勤務を推定する資料としては,夜間勤務等命令簿と超勤報告書が提出されている。 - 23 -夜間勤務等命令簿は超勤報告書に基づいて作成された資料であるが,超過勤務に対する手当に充てる財源の制約から,適宜,実態と異なる記載がされていたと認められるので,その信用性は低く,到底Eの時間外労働時間を推認する資料たり得ない(甲16・27頁,甲18・274頁,F部長・31頁)超勤報告書に関しては,証拠(甲18・274頁,I医師・2頁,F部長・2,3,18,19頁)によると,以下の事実が認められる。 超勤報告書とは,麻酔科に在籍する医師及び技師の超過勤務についての事務局への報告書であり,各麻酔科医がG医師に時間外勤務として申告した時間数を基礎として作成されていた。各麻酔科医は,麻酔を施術している時間や診療している時間以外の府立病院内にいる時間を超過勤務として申告することに抵抗があったことや,上記のとおり財源からの制約があったことなどから,実際に超過勤務していた時間に比して過少申告する傾向があった。例えば,麻酔台帳に基づいて作成されたF部長「」(,作成の発症前の勤務状況に関する事項と題する書面甲16・7頁甲18・155頁,乙11の1・2頁)によると,平成8年2月27日は午前12時から午後9時20分までEが緊急麻酔を施術したとされているが,超勤報告書上は1時間の超過勤務とされており,実態に合致しないし,麻酔科においては毎朝午前8時から1時間の時 成8年2月27日は午前12時から午後9時20分までEが緊急麻酔を施術したとされているが,超勤報告書上は1時間の超過勤務とされており,実態に合致しないし,麻酔科においては毎朝午前8時から1時間の時間外勤務が行われていたにもかかわらず,超勤報告書にはゼロと記載されている日が少なくなく,また,各医師の超過勤務時間の数値が一致している日が多いなど,超勤報告書には不自然な部分が多い。 以上からすると,超勤報告書は麻酔科医の時間外労働時間をおよそ正確に反映しているとは認められず,その信用性は低く,Eの時間外労働時間を推認する証拠としては採用できない。 キEの宿日直,重症当直及びオンコール- 24 -(ア)宿日直及び重症当直宿日直については,平成7年11月26日から平成8年3月4日までの間は,当直勤務命令簿(甲18・21~24,185~187頁)が書面の性質上その実態を正確に反映しているものと認められるから,同命令簿の記載に従い,Eが宿日直を担当した日を認める。なお,宿日直を担当した医師は,麻酔科当直日誌(乙10)を作成しており,平成7年12月27日及び平成8年1月10日分を除き,当直勤務命令簿上,Eが宿日直を担当したことになっている日については,E作成にかかる,。 麻酔科当直日誌が存在することからもEの宿日直担当が裏付けられる平成7年12月27日及び平成8年1月10日については,当直勤務命令簿上によれば,Eの他にもう1名当直勤務命令が発せられている者がいることが認められ,その者の作成にかかる麻酔科当直日誌が存在す,,,ることからその2日についてはEともう1名の医師が当直を担当しE以外の医師が麻酔科当直日誌を作成したものと認められる。 宿日直のうち,平成7年11月26日以前の期間については,当直勤務命令簿(甲18・21~24,1 日についてはEともう1名の医師が当直を担当しE以外の医師が麻酔科当直日誌を作成したものと認められる。 宿日直のうち,平成7年11月26日以前の期間については,当直勤務命令簿(甲18・21~24,185~187頁)が提出されていないことから,麻酔科当直日誌をもとに作成されたと認められる「日・宿直一覧表」実況見分調書(甲18・284~296頁,乙4)により,Eが宿日直を担当した日を認める。 もっとも,当直医が複数名ある場合は,当直医でありながら麻酔科当直日誌を作成しないことがあるから「日・宿直一覧表」実況見分調書,(甲18・284~296頁,乙4)により認められる担当日は,少なくともその日は担当したものと認められるという趣旨である。 重症当直については,麻酔科当直日誌及び「日・宿直一覧表」実況見分調書により,Eの担当日を認める。 以上から認められる平成7年4月から平成8年2月までの間のEの宿- 25 -日直及び重症当直の担当回数及び月平均回数は別表3のとおりであり,平成7年12月から平成8年2月までの宿日直及び重症当直担当の日は別表1のとおりである。なお,Eは,平成8年3月は,宿日直及び重症当直のいずれも担当していない。 ,,,前記のとおりEが死亡する直前3か月においてEは12回の宿直6回の日直を担当しているが,そのうち麻酔が必要とされる緊急手術が行われたのは,12回の宿直中5回(平成7年12月3日,同22日,平成8年1月3日同19日同年2月17日6回の日直中3回平,,),(成8年1月27日,同2月10日,同17日)で,およそ2回に1回弱の割合である(日直,宿直を連続して行っている日に午前9時及び午後5時45分をまたいで行われた手術については,日直,宿直それぞれで1回と数えた。また,緊急手術の麻酔以外に,宿日直 よそ2回に1回弱の割合である(日直,宿直を連続して行っている日に午前9時及び午後5時45分をまたいで行われた手術については,日直,宿直それぞれで1回と数えた。また,緊急手術の麻酔以外に,宿日直の主な業務と。)して,ICUにおける患者の集中治療,院内患者の突発的な生命の危機の際の救命処置があり(甲18・275頁,特別の緊急事態でない場)合であっても,看護師が医師の判断を尋ねるべく,宿直,日直医師へ連絡をとることが多く,宿直の際に連続して睡眠をとることは難しかった(I医師・19頁。宿直の際の睡眠時間について,I医師は「1日あ)たり4時間とか,あと2時間,2時間,2時間という感じもとれるかもしれませんけれど,それは日によって違います(I医師・12頁)。」と証言し,F部長は「3,4時間は。徹夜のときももちろんあるわけですけれども,そうでなければ3,4時間ぐらいはあると思います(F。」部長・33頁)と証言している。 以上からすると,宿直時には徹夜になることもあり睡眠時間は平均すると概ね4時間程度しかとることができず,日直についても,通常の平日の勤務と同程度の負担があったものと認めるのが相当である。 重症当直については,そもそも患者の容態が重篤である等の理由によ- 26 -って,正規の勤務時間を超えて深夜に及ぶ経過観察や診療に従事する場,,合をいうのであり一般にそのまま泊まり込んで担当患者の急変に備え必要に応じて当直医の支援にあたるものである以上,宿直と同様の負担があるものと認めるのが相当である(甲18・236頁。 )そして,前記のように負担の大きな宿日直,重症当直を,Eは平成7年4月から死亡する直前月の平成8年2月まで,月平均で日直を1.9回,宿直,重症当直を7.5回行っていた。 (イ)オンコールオンコールについて 記のように負担の大きな宿日直,重症当直を,Eは平成7年4月から死亡する直前月の平成8年2月まで,月平均で日直を1.9回,宿直,重症当直を7.5回行っていた。 (イ)オンコールオンコールについては待機していることに対する補償がなく,実績の記録は残されていない。オンコールの予定表によれば,平成7年9月は5日,同年10月は6日,同年11月は4日,同年12月は5日,平成8年1月は6日待機していたものと認められ(甲17,18・52,174頁,平成8年2月及び3月についても同程度であったと考えられ)ることから,同程度の回数待機したものと認められる。 そしてI証言によれば,前記の待機日の約3分の1については実際に呼び出されていたものと認められる(I医師・22頁。 )オンコールで呼び出された場合には相応の負担となり,呼び出されない場合にもある程度行動が制限されたものと認められる。 ク研究活動(ア)研究活動の内容Eは,府立病院で勤務した平成6年7月1日から平成8年3月5日までの間,病院における業務の他,医師としての研究活動を行っていた。 具体的な研究については,少なくとも以下のような内容のものがあったと認められる(甲18・231頁。なお,共同執筆の論文について,)Eが筆頭著者であるものは,Eが主体的な役割を担い自身で執筆したものである(I医師・16頁,F部長・26頁。 )- 27 -①論文作成a「緊急体外循環離脱後の循環不全にアムリノンが有効であった1例(臨床麻酔vol.20/No.7(1996-7(甲18・74頁)))」(大阪府立病院麻酔科より発行。平成8年2月27日に受理されたもの。Eが筆頭著者)。 b「AnaphylactoidReactiontoProtamineConfirmedbyPlasmaTryp 麻酔科より発行。平成8年2月27日に受理されたもの。Eが筆頭著者)。 b「AnaphylactoidReactiontoProtamineConfirmedbyPlasmaTryptaseinaDiabeticPatientduringOpenHeartSurgery(ANESTHESIOLOGY,Vol.84,No.1,January 1996 」(甲18・84頁))(阪大病院麻酔科より発行。平成7年5月に受理されたもの)。 c「生体腎移植手術におけるアムリノン・ドパミン併用投与の循環動態に及ぼす効果-ニトログリセリン・ドパミン併用投与との比較-(麻酔第46巻第1号(甲18・115頁))(府立病院麻酔科及び阪大麻酔科からの臨床研究報告。Eが筆頭著者。E死亡後に加筆され,平成8年5月に受理されたもの)。 d「当院における下部食道癌に対する根治術-左胸腹連続斜切開と右後側方切開による両側開胸アプローチ-(大阪府病医誌19(1):23~27,1996(甲18・123頁))」(府立病院消化器一般外科及び麻酔科,阪大第1外科からの臨床研究)。 ②学会出席,発表平成6年9月10日第40回日本麻酔学会関西地方会(甲18・93頁)平成7年4月19日から21日第42回日本麻酔学会学術総会(甲18・92頁)平成7年9月9日第41回日本麻酔学会関西地方会(甲18・89頁)- 28 -平成7年10月26日から28日第15回日本臨床麻酔学会総会(甲18・95頁)平成7年11月25日第19回悪性高熱研究会(甲18・88頁)平成7年9月9日に行われた第41回日本麻酔学会関西地方会,同年10月26日から28日に行われた第15回日本臨床麻酔学会総会において,Eは府立病院所属として「腹部大動脈瘤破裂症例の緊 18・88頁)平成7年9月9日に行われた第41回日本麻酔学会関西地方会,同年10月26日から28日に行われた第15回日本臨床麻酔学会総会において,Eは府立病院所属として「腹部大動脈瘤破裂症例の緊急,麻酔「両側開胸による食道癌根治手術の麻酔経験」と題する発表」,を行い(甲18・67,113,128,231頁,阪大医学部麻)酔学教室所属として「生体腎移植におけるアムリノンの使用経験」,と題する発表を行った(甲18・112頁。 )(イ)府立病院における研究活動の位置付け府立病院における医師の研究活動については,被告の病院事業の設置及び経営に関し必要な事項を定めた,大阪府病院事業条例3条2項において「事業の内容」として「救急医療その他の急性期医療,合併症を,伴う疾患に関する医療及び難病その他特定の難治性疾患に関する医療並びに医療水準向上のための調査,研究及び研修」と定められ,事業内容に調査,研究及び研修が含まれていた。しかし,具体的に各医師が1年間に論文を発表すべき数等の明確な規定はなく,業務命令が出されているものではなかった(甲18・277,297頁。 )(ウ)阪大麻酔学教室同窓会からの表彰Eは,死亡後である平成9年6月14日,阪大麻酔学教室同窓会より特別功労賞として表彰を受けた(甲18・87頁。この表彰は,当時)の阪大麻酔学教室同窓会で,毎年刊行された優秀な論文を表彰するもので,死亡したEに代わり,F部長が受け取った(F部長・26頁。 )(エ)研究活動の位置付け- 29 -Eは,上記のとおり,論文執筆や学会発表等の活動(以下これらをまとめて「研究活動」という)を行っていた。 。 これらの研究活動については,業務命令の下で行われていたものではない。しかしながら,研究活動を行うことにより,麻酔科学,集中治療医 活動(以下これらをまとめて「研究活動」という)を行っていた。 。 これらの研究活動については,業務命令の下で行われていたものではない。しかしながら,研究活動を行うことにより,麻酔科学,集中治療医学の進歩を把握して,府立病院の診療現場にその成果を反映して治療成績を向上させることは,府立病院にとって大きな意義のあるものであるといえるし,府立病院で得られた麻酔及び集中治療の知見を医療界で共有するようにすることは,府立病院の医療界における地位の維持向上にとって有益なものといえる。また,同時に,府立病院として研究業績をあげることが,府立病院がより優秀な医師を獲得するための手段にもつながっており(F部長・24頁,加えて府立病院のような大規模な)病院においては,その病院名で研究分野の功績を一定程度残さなければならないという状況にあった(I医師・17,29,34頁。 )以上のことからすると,府立病院の医師の名でEが学会発表や論文作成を行うことは,単にE個人の業績として有益であるにとどまらず,府立病院の業務遂行にも資するものであったといえるのであるから,Eの研究活動は,府立病院の業務であるとはいえないものの,これを行うことによりEの身体や精神にかかる負荷については,本件業務とEの死亡との因果関係の有無を判断するにあたっての基礎事情として副次的に考慮するのが相当である。 Eが府立病院の所属として作成した論文は,阪大医学部と共同のものを含めて3本(第3,1,(4),ク,(ア)のa,c,d)であり,学会発表も行っておりこれらの研究活動についてのEの負担は軽いものではなかったと認められる。 また,Eは阪大病院の名においても研究活動を行っており,府立病院在勤中にも阪大医学部麻酔学教室所属として,府立病院と共同のものも- 30 -(,,,,, のではなかったと認められる。 また,Eは阪大病院の名においても研究活動を行っており,府立病院在勤中にも阪大医学部麻酔学教室所属として,府立病院と共同のものも- 30 -(,,,,,)。 含め2本第3 (4)ク(ア)のbcの論文を作成している府立病院との共同発表が行われていること,府立病院は阪大医学部と密接な関連をもった病院であることからすれば(I医師・18頁,F部長・23,24頁,府立病院の名で行う研究活動に比べるとより間接的)ではあるが,阪大病院の名で行う研究活動もまた,前記の因果関係の有無の判断の基礎事情として副次的に考慮するのが相当である。 そして,これらの研究活動については,府立病院において,Eがこれらの活動を行っていることを把握することができたと考えられる。 (5)本件業務とEの死亡との間の因果関係の有無ア監察医による死因の判断Eが死亡した翌日である平成8年3月6日に監察医Lが検案し,同年5月31日付けのL医師作成にかかる死体検案書によると,Eの死因は特発性心筋症を原因とする急性心機能不全とされ(乙2,L医師は,特発性)心筋症とは原因不明の心筋疾患をいうものとしている(甲7。 )平成8年当時,最も用いられていた心筋症の判断基準である,昭和61年に厚生省特定疾患特発性心筋症調査班により報告された「特発性心筋症-診断の手引き」による分類基準によれば,特発性心筋症とは,原因や関連の明らかな特定性心筋疾患,二次性心筋疾患を除外した原因不明の心筋疾患とされて,特発性心筋症は,胸部X線像,心音図,心電図,心エコー等により発見される場合が多かった(乙9・4,38~45頁。 )イEの健康状況Eは,平成6年6月3日に行われた健康診断で,身長169センチメートル,体重52キログラム,胸囲81センチメ 心エコー等により発見される場合が多かった(乙9・4,38~45頁。 )イEの健康状況Eは,平成6年6月3日に行われた健康診断で,身長169センチメートル,体重52キログラム,胸囲81センチメートルとされ,相当痩せていて(乙7,持病としては,平成4年6月初診の円錐角膜,同年11月)初診のアトピー性皮膚炎があり,平成6年6月3日に行われた胸部レントゲンを含む健康診断及び平成7年8月の健康診断における血液検査では,- 31 -特に異常が認められなかった(甲18・169,181頁,乙7,8。 )ウ当裁判所の判断前記のL医師の検案結果によれば,Eは原因不明の心筋疾患による急性心機能不全により死亡したものと認められる。 前記のとおり,Eの時間外労働時間は長時間に及び,平成7年9月から平成8年2月までの1か月あたりの時間外労働時間は,いずれも88時間を超え,量的な負荷は大きく,また,本件業務の主たるものは人の生命や身体の安全に直結するものであり,質的な負荷もまた,極めて大きいものであったというべきである。 さらに,前記のとおり,平成7年4月から平成8年2月までの間,1か月平均で1.9回の日直,7.5回の宿直及び重症当直を担当しており,特に宿直及び重症当直においては,その負荷は肉体的にも精神的にも大きかったというのが相当である。 以上のように,本件業務は,量的にも質的にも,Eに対し,過重な負荷をかけるような内容になっており,府立病院の業務遂行に資すると考えられる研究活動の負担もまた大きかったことを副次的に考慮するなら,本件業務及びそれに付随する研究活動がEの心機能にかけた負荷は相当なものであったと認めるのが相当である。 この点に関連し,厚生労働省の発出した通達「脳血管疾患及び虚血性心疾患等(負傷に起因するものを除く)の認定基準について( 研究活動がEの心機能にかけた負荷は相当なものであったと認めるのが相当である。 この点に関連し,厚生労働省の発出した通達「脳血管疾患及び虚血性心疾患等(負傷に起因するものを除く)の認定基準について(平成13。 」年12月12日基発第1063号)は,業務上の疾病の判断について認定,,,基準を示し長期間の過重業務に関し業務の過重性を検討するにあたり労働時間については,発症日を起点とした1か月単位の連続した期間を見て,発症前1か月間におおむね100時間又は発症前2か月間ないし6か月間にわたって,1か月あたりおおむね80時間を超える時間外労働(この場合の時間外労働時間数は,1週間あたり40時間を超えて労働した時- 32 -間数である)が認められる場合は,業務と発症との関連性が強いと評価。 できることを踏まえて判断する旨示しているところ,Eの時間外労働時間は,発症日を起点とすると,発症前1か月間において88時間を超え,また,発症前2か月間ないし6か月間にわたる1か月あたりの時間外労働時間はいずれも80時間を超過していたものであって,前記の認定基準を適用した場合,本件業務とEの急性心機能不全の発症との関連性は強いと評価されるのであり,このことは,本件業務の過重性を裏付けるものというべきである。 他方,前記のとおり,Eには特別に心機能に関する疾患やその低下があったような事実は認められず,本件業務及び研究活動以外に,Eの心臓に負担をかけるような事象や行為があったとは認められない。 以上の諸事情を総合して考慮するならば,Eの急性心機能不全は,主として本件業務及びこれに付随する研究活動の過重性によってもたらされたと認めるのが相当であり,本件業務とEの死亡との間には因果関係があると認められる。 なお,被告はEの死因がブルガダ症候群であると主張する 本件業務及びこれに付随する研究活動の過重性によってもたらされたと認めるのが相当であり,本件業務とEの死亡との間には因果関係があると認められる。 なお,被告はEの死因がブルガダ症候群であると主張するが,被告も認めるように,Eは過去に心電図検査を行った経験がなく,Eにブルガダ症候群を示す心電図異常があったという事実はなく,E及び被告のいずれもEがブルガダ症候群であるとの認識を有していなかった。そして,ブルガダ症候群の有病率は約0.15%前後,罹患率は約0.014%と推定されており,その確率は高いとはいえないのであるから(乙13,Eの死)因がブルガダ症候群によるものであることを認めるに足りる証拠はない。 争点2(安全配慮義務違反の有無)について「使用者は,その雇用する労働者に従事させる業務を定めてこれを管理するに際し,業務の遂行に伴う疲労や心理的負荷等が過度に蓄積して労働者の心身の健康を損なうことがないよう注意する義務を負う(最高裁平成10年(オ)」- 33 -第217号同12年3月24日第二小法廷判決・民集第54巻3号1155頁参照)ところ,Eは,被告が開設していた府立病院の麻酔科で勤務していたのだから,被告はEに対しかかる義務を負い,被告は,Eに対し,労働時間,労働内容,休憩時間及び休憩場所等について適切な配慮をする義務を負っていたものと解される。 しかるに,被告は,Eに対して,健康診断を行ってはいたものの,前記のとおり,労働時間や労働内容につき特に配慮することなく,Eを過重な労働に従事させたものである。 かかるEの労働及び研究活動は,府立病院において,これらを把握し,あるいは把握し得るものであったと認められ,それにもかかわらず,府立病院は,Eの健康に配慮して業務量を低減させたり,人員配置を見直す等の処置をとらなかったのであ ,府立病院において,これらを把握し,あるいは把握し得るものであったと認められ,それにもかかわらず,府立病院は,Eの健康に配慮して業務量を低減させたり,人員配置を見直す等の処置をとらなかったのであるから,府立病院を開設した被告には,安全配慮義務違反があったと認めるのが相当である。 争点3(損害の発生と損害額)について(1)死亡による逸失利益8641万3944円証拠(甲18,乙6ないし8)によれば,Eは阪大医学部を卒業し医師として稼働し,死亡時に特に重大な疾患があったとは認められない。以上からすると,Eは,就労可能期間を通じて平成18年版賃金センサス(平成17年賃金構造基本統計調査)第3巻第5表の全年齢男性医師年間平均給与額1067万3000円と同程度の収入を得られた蓋然性が高いと認めるのが相当である。 これを基礎収入として,死亡時の33歳から67歳までの34年間(対応するライプニッツ係数は16.193)につき年5%の割合で中間利息を控除し,証拠上婚姻する具体的な予定は認められないことから生活費を50%として計算すると,逸失利益は次のとおり,8641万3944円となる。 (計算式)- 34 -10,673,000×16.193×(1-0.5)=86,413,944(2)慰謝料2200万円Eは,死亡時33歳で,医師としての資質に恵まれ,責任感が強く,将来,,を嘱望される医師であったことなど本件に現れた一切の事情を考慮すると慰謝料は2200万円を認めるのが相当である。 (3)葬儀費用150万円葬儀費用については,150万円の範囲内で相当因果関係の範囲内にある損害と認める。 (4)小計1億0991万3944円 過失相殺についてアEは,前記のように過重な労働に従事していたものであり,それ自体は患者に対する思い 範囲内で相当因果関係の範囲内にある損害と認める。 (4)小計1億0991万3944円 過失相殺についてアEは,前記のように過重な労働に従事していたものであり,それ自体は患者に対する思いや配慮から出たものであるが,なお,自らの健康保持を考慮しながら,労働時間を短くするなどして負荷を軽減する余地はあったというべきである。 また,Eの研究活動は,前述のとおり府立病院の業務遂行に資する面はあるものの,業務命令の下で行われたものではなく,E個人の研さん及び業績向上のためのものという面があったこともまた否定できない。 イ以上のような事情を考慮すると,Eの死亡による損害については,全面的に被告の負担とすることは損害の公平な分担という観点からは相当でなく,民法418条を類推適用して,損害額の1割を減額するのが相当である。 (計算式)109,913,944×(1-0.1)=98,922,549 弁護士費用800万円本件訴訟の内容,難易の程度,認容額,請求額,審理経過等本件に現れた一切の事情を考慮すると,原告の弁護士費用は800万円を認めるのが相当である。 - 35 - 遅延損害金の起算日少なくとも,原被告間の調停が不成立となった日の前日である平成16年9月7日までには,催告があったと認められるので,遅延損害金の起算日は調停不成立の日である平成16年9月8日と認める。 第4 結論 以上によれば,原告の請求は,債務不履行に基づく損害賠償金1億0692万2549円及びこれに対する平成16年9月8日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の各支払を求める限度で理由があるから認容し,その余は理由がないから棄却することとし,よって,主文のとおり判決する。 大阪地方裁判所第15民事部裁判長裁判官古谷恭一郎裁判官池田聡介裁判 支払を求める限度で理由があるから認容し,その余は理由がないから棄却することとし,よって,主文のとおり判決する。 大阪地方裁判所第15民事部裁判長裁判官古谷恭一郎裁判官池田聡介裁判官寺村隼人
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