【DRY-RUN】主 文 本件控訴を棄却する。 理 由 本件控訴の趣意は、記録に綴つてある弁護人岡林靖及び同武田博作成名義の各控 訴趣意書に記載のとおりであるから、ここにこれを
主文本件控訴を棄却する。 理由本件控訴の趣意は、記録に綴つてある弁護人岡林靖及び同武田博作成名義の各控訴趣意書に記載のとおりであるから、ここにこれを引用する。 弁護人岡林靖の控訴趣意第一点について。 所論は、原判決には理由不備の違法があると主張し、殊に他人の物の占有者がその物の返還債務の履行期到来以前に本人に対しその物が存在しない旨不実の告知をしても、履行期到来後意思を飜して本人に占有物を返還することがあり得るから、履行期到来前の不正領得の意思の発現は未だ不正領得の結果の発現を伴わないのであり、したがつて、右意思の発現をとらえて犯罪の実行には着手したとは言えても未遂の段階に過ぎないことは明らかであるに拘らず、原判決はその判示セメントの返還債務の履行期の到来の有無につき判示を欠いでいるから業務上横領罪の既遂の判示としては理由不備であるというのである。 よつて、按ずるに、横領罪は他人の物の占有者かその物を不正に領得することにより成立するのであつて、不正領得の意思がその犯意であり、不正領得の実現がその犯罪行為であることは所論のとおりである。そして、およそ、業務上横領罪の成立に必要な横領行為があつたというためには、業務上占有する他人の物を自己の物として不正に領得する意思があると認められる外部行為を実行しただけで足り、必ずしもその目的物に対し消費、交換もしくは贈与等の処分行為をなすことを必要としないと解すべきであり(明治四三年一二月二日大審院判決参照)、したがつて、業務上横領罪の罪となるべき事実として判示すべき事実も右要件を充足すれば十分であるというべきである。さて、原判決が罪となるべき事実として説示しているところによると、被告人が、業務上占有中の愛媛県所有のセメント二九一袋を不正に領得する意 示すべき事実も右要件を充足すれば十分であるというべきである。さて、原判決が罪となるべき事実として説示しているところによると、被告人が、業務上占有中の愛媛県所有のセメント二九一袋を不正に領得する意思をもつて同県の出先機関であるA土木事務所の職員に対し、右セメントが北宇和郡a町大字b所在の実行組合倉庫等に保管されているに拘らず残存していない旨申向け、爾後所有者たる愛媛県のためではなく自己のために占有を継続した趣旨の判示をしていることが窺われるのである。なる程、原判示会社の愛媛県に対する本件セメントの返還債務の履<要旨第一>行期が原判示の犯行当時到来していなかつたことは後記説示のとおりであるけれども、前示のように被告人が</要旨第一>不正領得の意思をもつてA土木事務所職員に対し不実の告知をしたことにより、被告人は爾後愛媛県のために占有を継続するのではなく自己のために占有を継続するものであることが外部から客観的に看取できるのであつて、右所為はとりもなおさず不正領得の意思の発現行為すなわち横領行為そのものであるというべく、したがつて、所論の不正領得の結果は既に発生したことに帰し後日履行期到来後飜意して占有物を返還するのは被害の弁償に外ならないから、原判決が所論の履行期の到来の有無を判示することは毫も必要のないことである。これを要するに、原判決が前示の趣旨の判示をしている以上、業務上横領罪の事実摘示として何等欠ぐるところはない。論旨は理由がない。 弁護人岡林靖及び同武田博の事実誤認の各控訴趣意について。 所論に鑑み、記録を精査して検討するに、原判決挙示の各証拠を綜合すると、原判示事実は優に認められ何等の事実誤認の廉もない。なる程、記録によると、原判示のB建設株式会社は愛媛県から原判示の砂防工事を請負つたのであるが、その工事に使用するセメントは の各証拠を綜合すると、原判示事実は優に認められ何等の事実誤認の廉もない。なる程、記録によると、原判示のB建設株式会社は愛媛県から原判示の砂防工事を請負つたのであるが、その工事に使用するセメントは同県から現物で支給され、もし工事竣工の際セメント等の支給材料に余剰が生じたときは工事竣工後同会社から同県に返還すべき旨定められており、原判示の昭和三五年一一月二四日当時においては右工事は殆んど完成には近かつたが未だ竣工はしておらず、したがつて同会社の同県に対する余剰セメントの返還債務の履行期の到来していなかつたこと及び本件不正行為か発覚したため原判示のセメント二九一袋を本件工事の手直しに使用しもつてこれを愛媛県に返還したことが認められる<要旨第二>のは所論のとおりである。しかし、本件業務上横領罪は前記説示のように被告人がA土木事務所職員に対</要旨第二>し不正領得の意思をもつて虚偽の申述をしたことによつてその時既遂に達したのであつて、右セメント返還債務の履行期の到来したかどうかということ及び犯行後右セメントが被害者である愛媛県に返還されたかどうかということは本件犯罪の成否に何等消長を及ぼさないというべきであり、原判示の「抑留」の用語を必ずしも返還債務の履行期が到来しているのに拘らずその返還を拒絶した趣旨であると解しなければならぬ理由はない。論旨は採用できない。 よつて、刑事訴訟法第三九六条により、主文のとおり判決する。 (裁判長裁判官三野盛一裁判官木原繁季裁判官伊東正七郎)
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