令和3年2月18日判決言渡同日原本領収裁判所書記官令和元年(ワ)第11721号特許権侵害差止請求事件口頭弁論終結日令和2年11月9日判決 原告クラリアント・プロドゥクテ・(ドイチュラント)・ゲゼルシャフト・ミト・ベシュレンクテル・ハフツング 同訴訟代理人弁護士小林幸夫 同木村剛大同平田慎二 被告ホステック株式会社 同訴訟代理人弁護士内田耕司同櫻 田 晋太郎同訴訟代理人弁理士高松孝行同補佐人弁理士鈴木徳子 主文 1 被告は,別紙被告製品目録記載の製品を製造し,譲渡し,輸入し,輸出し,譲渡の申出をし,又は譲渡のために展示してはならない。 2 被告は,前項の製品及びその半製品を廃棄せよ。 3 訴訟費用は被告の負担とする。 4 この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。 事実及び理由 第1 請求主文と同旨第2 事案の概要原告は,発明の名称を「ジアルキルホスフィン酸塩」とする特許に係る特許権者であるところ,別紙被告製品目録記載の製品(以下「被告製品」という。) は,上記特許に係る特許発明の技術的範囲に属すると主張している。 そして,本件は,原告が,被告に対し,被告による被告製品の製造 あるところ,別紙被告製品目録記載の製品(以下「被告製品」という。) は,上記特許に係る特許発明の技術的範囲に属すると主張している。 そして,本件は,原告が,被告に対し,被告による被告製品の製造・譲渡等は,上記特許権を侵害すると主張して,特許法100条1項に基づき,被告製品の製造・譲渡等の差止めを求めるとともに,同条2項に基づき,被告製品及びその半製品(被告製品の構造を具備しているが製品として完成するに至らな いもの。以下同じ。)の廃棄を求める事案である。 1 前提事実(証拠等を掲げた事実以外は,当事者間に争いがない。なお,枝番号の記載を省略したものは,枝番号を含む(以下同様)。)(1) 本件特許原告は,発明の名称を「ジアルキルホスフィン酸塩」とする特許(特許第 4870924号。請求項の数は30である。以下,この特許を「本件特許」という。)の特許権者である。原告は,本件特許につき,平成16年12月17日に特許出願をし(優先権主張平成15年12月19日,ドイツ連邦共和国。以下,優先権主張の基礎となる同国における出願の日を「優先日」という。),平成23年11月25日にその設定登録を受けた。 (2) 本件各発明本件特許に係る特許請求の範囲の請求項1ないし30の記載は,別紙特許公報の該当部分に記載されたとおりである(以下,このうち請求項1ないし4の記載を,「本件特許請求の範囲」といい,これに係る発明を「本件各発明」という。なお,個別にいうときは「本件発明1」ないし「本件発明4」とい う。また,その明細書(図面を含む。)を「本件明細書」といい,その該当部 分の記載を【0001】などと表すこととする。)。 (3) 構成要件の分説本件発明1ないし本件発明4を う。また,その明細書(図面を含む。)を「本件明細書」といい,その該当部 分の記載を【0001】などと表すこととする。)。 (3) 構成要件の分説本件発明1ないし本件発明4を構成要件に分説すると,次のとおりである(以下,分説した構成要件をそれぞれの符号に従い「構成要件A」などのようにいう。)。 ア本件発明1A 式(I)【化1】 B [式中,R1およびR2は互いに同じかまたは異なり,直鎖状のまたは枝分かれしたC1~C6-アルキルであり;CMはMg,Ca,Al,Sb,Sn,Ge,Ti,Fe,Zr,Zn,Ce,Bi,Sr,Mn,Li,Na,Kおよび/またはプロトン化窒 素塩基であり;Dmは1~4である。]E で表されるジアルキルホスフィン酸塩において,F テロマー含有量が0.01~6重量%でありG そして該テロマーがエチルブチルホスフィン酸塩,ブチルブチルホス フィン酸塩,エチルヘキシルホスフィン酸塩,ブチルヘキシルホスフィン酸塩および/またはヘキシルヘキシルホスフィン酸塩であるH 少なくとも1種類のジアルキルホスフィン酸塩を含有する難燃剤組成物。 イ本件発明2 I テロマー含有量が0.1~5重量%である,請求項1に記載の難燃剤 組成物。 ウ本件発明3J テロマー含有量が0.2~2.5重量%である,請求項1または2に記載の難燃剤組成物。 エ本件発明4 KMがアルミニウム,カルシウム,チタン,亜鉛,錫またはジルコニウムである,請求項1~3のいずれか一つに記載の難燃剤組成物。 オ本件発 燃剤組成物。 エ本件発明4 KMがアルミニウム,カルシウム,チタン,亜鉛,錫またはジルコニウムである,請求項1~3のいずれか一つに記載の難燃剤組成物。 オ本件発明1に係る分説の変更について原告は,本件訴訟において,当初,構成要件G及びHを次のとおり分説していたところ,その後,構成要件Gのうち「少なくとも1種類のジアル キルホスフィン酸塩を含有する」を構成要件Hに移して,上記アのとおりに変更した(以下,この変更を「本件分説変更」という。)。 (当初の構成要件G及びHの分説)G そして該テロマーがエチルブチルホスフィン酸塩,ブチルブチルホスフィン酸塩,エチルヘキシルホスフィン酸塩,ブチルヘキシルホスフィ ン酸塩および/またはヘキシルヘキシルホスフィン酸塩である少なくとも1種類のジアルキルホスフィン酸塩を含有するH 難燃剤組成物。 (4) 被告の行為等被告は,業として,平成30年5月頃,被告製品を輸入し,譲渡のために 取引先にサンプルとして提供した。(甲3,弁論の全趣旨)なお,被告製品が,本件各発明の技術的範囲に属することについて,当事者間に争いはない(なお,本件証拠上も,被告製品は,本件各発明の技術的範囲に属するものであると認められる。)。 2 争点 (1) 被告による特許権侵害又はそのおそれの有無(争点1) (2) 本件特許は特許無効審判により無効にされるべきものであるか(争点2)ア無効理由1(明確性要件違反)の有無(争点2-1)イ無効理由2(サポート要件違反)の有無(争点2-2)ウ無効理由3(乙3に基づく新規性欠如・進歩性欠如)の有無(争点2-3) 効理由1(明確性要件違反)の有無(争点2-1)イ無効理由2(サポート要件違反)の有無(争点2-2)ウ無効理由3(乙3に基づく新規性欠如・進歩性欠如)の有無(争点2-3) エ無効理由4(本件分説変更に伴う新たな記載要件違反)の有無(争点2-4)オ無効理由5(本件分説変更に伴う新たな新規性欠如・進歩性欠如)の有無(争点2-5) 3 争点に係る当事者の主張 (1) 争点1(被告による特許権侵害又はそのおそれの有無)[原告の主張]被告は,業として,遅くとも平成30年5月以降,被告製品を製造し,譲渡し,譲渡の申出をし,又は譲渡のために展示しているし,被告製品を現に輸出しているか,輸出するおそれがある。被告は,今後,被告製品の輸入・ 譲渡等をする予定がない旨を主張するが,被告のウェブサイトにおいて被告製品を掲載しているのであるから,被告製品の輸入・譲渡等をする意図があることが明らかである。 [被告の主張]被告は,平成30年5月頃被告製品を輸入し,サンプルを提供したにとど まり,その後は一切,被告製品の輸入,譲渡等は行っておらず,今後,その予定もない。なお,被告のウェブサイトから被告製品の掲載を削除していない理由は,被告に特許権侵害はなく,削除する必要がないからにすぎない。 (2) 争点2-1(無効理由1(明確性要件違反)の有無)[被告の主張] 本件各発明は,次のアないしウの点で明確性要件違反の無効理由を有する。 ア 「テロマー」という文言の技術的意味が,不明確である。 すなわち,本件各発明と本件明細書【0015】には,「テロマー」と称する物質の具体的な物質名については言及されているが,「テロ ア 「テロマー」という文言の技術的意味が,不明確である。 すなわち,本件各発明と本件明細書【0015】には,「テロマー」と称する物質の具体的な物質名については言及されているが,「テロマー」という用語の技術的意味は明らかとなっていない。また,「テロマー」という用語自体は,化学の分野で,一般に重合度の低い重合体(オリゴマー,ポリ マー)を示す用語であるが,他方,本件各発明においては,重合体であるはずの「テロマー」と称する物質の具体的な物質名として,単一物質(単量体・モノマー)である「エチルブチルホスフィン酸塩,…および/またはヘキシルヘキシルホスフィン酸塩」を挙げており,この点からも,「テロマー」の技術的意味は,不明確なものとなっている。 イ上記アのとおり,「テロマー」が何を意味するかが不明確である以上,「テロマー含有量が0.01~6重量%であり」との文言も不明確である。 ウ 「式(I)で表されるジアルキルホスフィン酸塩」と「テロマー」の違いが,不明確である。 すなわち,「テロマー」は「エチルブチルホスフィン酸塩,…および/ま たはヘキシルヘキシルホスフィン酸塩である少なくとも1種類のジアルキルホスフィン酸塩である」とされているが,これらの物質はジアルキルホスフィン酸塩とも表現される。そうすると,「式(I)で表されるジアルキルホスフィン酸塩」(構成要件AないしE)と「テロマー」(構成要件F,G)との違いが,不明確なものとなっている。 エ本件各発明は,残留酢酸塩を含む場合は,その効果を発揮せず,構成要件機能を果たすことができない。 すなわち,本件各発明は,「少なくとも1種類のジアルキルホスフィン酸塩である」という文言のとおり,ジアルキルホスフィン酸塩とテロマー以 果を発揮せず,構成要件機能を果たすことができない。 すなわち,本件各発明は,「少なくとも1種類のジアルキルホスフィン酸塩である」という文言のとおり,ジアルキルホスフィン酸塩とテロマー以外の成分を含んでもよいように規定されている。しかるに,本件明細書の 【表1】のように,残留酢酸塩が含まれていた場合には本件各発明の効果 を奏さない。そうすると,本件各発明の構成要件を充足しても十分な効果が発揮されないこととなり,構成要件機能を果たすことができないこととなる。 [原告の主張]被告の主張は,次のとおり,いずれも明確性要件違反の無効理由を基礎付 けるものではなく,本件各発明に,明確性要件違反の無効理由は存しない。 ア 「テロマー」という文言の技術的意味が不明確であるとする点について本件各発明の特許請求の範囲の文言によれば,「テロマー」は,式(I)で表されるジアルキルホスフィン酸塩のうち,「エチルブチルホスフィン酸塩,…および/またはヘキシルヘキシルホスフィン酸塩」であることが明 らかである。 本件明細書の【発明の詳細な説明】を見ても,「テロマーは以下の群のものである:C2-アルキル-C4-アルキルホスフィン酸塩,…,C6-アルキル-C6-アルキルホスフィン酸塩。」(【0015】)とあるから,「テロマー」は具体的な化合物名で特定されており,文言の意味に疑義が生じ る余地はない。また,本件明細書の例1ないし5(【0134】ないし【0139】)によれば,「テロマー」(エチルブチルホスフィン酸塩,…および/またはヘキシルヘキシルホスフィン酸塩)は,副生成物であって,式(I)のR1,R2がブチル(C4-アルキル),ヘキシル(C6-アルキル)となっているものであるところ,これ ホスフィン酸塩,…および/またはヘキシルヘキシルホスフィン酸塩)は,副生成物であって,式(I)のR1,R2がブチル(C4-アルキル),ヘキシル(C6-アルキル)となっているものであるところ,これらが,エチル(C2-アルキル)またはプ ロピル(C3-アルキル)が2つまたは3つ結合した重合度の低い重合体であることは,当業者(その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者。以下同様。)であれば明らかであって,不明確なところはない。 イ 「テロマー含有量が0.01~6重量%であり」が不明確であるとする点について 上記アのとおり,「テロマー」が何を意味するのかが明確である以上,「テ ロマー含有量が0.01~6重量%であり」が不明確であるとする被告の主張は失当である。 ウ 「式(I)で表されるジアルキルホスフィン酸塩」と「テロマー」の違いが不明確であるとする点について上記のとおり,「テロマー」は,式(I)で表されるジアルキルホスフィン 酸塩のうち,「エチルブチルホスフィン酸塩,…および/またはヘキシルヘキシルホスフィン酸塩」である。したがって,本件各発明(構成要件F,G)の「テロマー」は,式(I)で表されるジアルキルホスフィン酸塩(構成要件AないしE)のうち,特定の化合物を意味するのであって,両者の関係は明確である。 エ本件各発明に係る物が残留酢酸塩を含む場合は,その効果を発揮せず,構成要件機能を果たすことができないとする点について残留酢酸塩は,本件各発明の発明特定事項ではないから,残留酢酸塩が含まれていた場合を仮定して,本件各発明の効果を奏さないという被告の主張自体が失当である。そして,本件各発明に係る物が残留酢酸塩を含む 場合であっても,本 明特定事項ではないから,残留酢酸塩が含まれていた場合を仮定して,本件各発明の効果を奏さないという被告の主張自体が失当である。そして,本件各発明に係る物が残留酢酸塩を含む 場合であっても,本件明細書の【表1】,【表2】にあるとおり,式(I)で表されるジアルキルホスフィン酸塩における「テロマー」の含有量を所定範囲内に低減することで,本件各発明は難燃性向上という効果を奏するものである。 (3) 争点2-2(無効理由2(サポート要件違反)の有無) [被告の主張]本件各発明は,次の点で本件明細書の発明の詳細な説明に記載された発明ではないから,サポート要件違反の無効理由を有する。 ア本件各発明は,「テロマー含有量が0.01~6重量%であり」という構成のものであるが,実施例,比較例記載のテロマー(エチルブチルホスフ ィン酸のアルミニウム塩)含有量の単位はモル%だけであり,重量%とモ ル%の関係も記載されていない。そして,「テロマー」が重合度の低い重合体である場合,多数の異なる分子量を有する重合体のモル%から重量%への変換は技術常識ではない。 イまた,「テロマー含有量」の測定方法が本件明細書に記載されておらず不明であるから,本件各発明は,発明の詳細な説明に記載された発明とはい えない。 ウさらに,本件各発明の「ジアルキルホスフィン酸塩」は,数多くのアルキル基と金属元素等からなる塩を含むが,他方,本件明細書には,ジエチルホスフィン酸のアルミニウム塩とエチルブチルホスフィン酸のアルミニウム塩との組合せしか記載されておらず(【0138】ないし【014 6】),他の塩と他のテロマーとの組み合わせおよびその効果については記載されていない。そして,本件特許出願時の技術常識に ミニウム塩との組合せしか記載されておらず(【0138】ないし【014 6】),他の塩と他のテロマーとの組み合わせおよびその効果については記載されていない。そして,本件特許出願時の技術常識に照らしても,他の塩と他のテロマーとの組合せまで,本件明細書に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない。 [原告の主張] 本件各発明が,本件明細書の発明の詳細な説明に記載された発明ではないとの被告の主張は,次のとおり失当であって,本件各発明にサポート要件違反の無効理由はない。 ア本件明細書の実施例,比較例記載のテロマー含有量の単位がモル%だけである点について 被告の上記主張は,失当である。すなわち,モル%から重量%への変換は技術常識であり,ジエチルホスフィン酸アルミニウム塩の分子量は390,エチルブチルホスフィン酸アルミニウム塩の分子量は474であることから,本件明細書記載の例1~5のモル%を重量%に変換することができる。 イ本件明細書に「テロマー含有量」の測定方法が記載されていない点につ いて被告の上記主張は,失当である。本件特許の優先日当時,ジアルキルホスフィン酸塩のような有機リン化合物の測定方法は技術常識であったから,当業者であれば,31P-NMR等の本件特許の優先日において公知の方法で,ジアルキルホスフィン酸塩中のテロマー(エチルブチルホスフィ ン酸塩,…,ヘキシルヘキシルホスフィン酸塩)の含有量を容易に測定できたというべきである。 ウ本件明細書の実施例がジエチルホスフィン酸アルミニウム塩とエチルブチルホスフィン酸アルミニウム塩に係るものである点について被告の上記主張は,失当である。 すなわち,まず, ウ本件明細書の実施例がジエチルホスフィン酸アルミニウム塩とエチルブチルホスフィン酸アルミニウム塩に係るものである点について被告の上記主張は,失当である。 すなわち,まず,本件各発明の式(I)のジアルキルホスフィン酸塩が難燃性を発揮する重要な機能はジアルキルホスフィン酸であり,Mm+で表される陽イオンではないことから,アルミニウム塩以外の他の塩であっても,Mm+は,ジアルキルホスフィン酸と塩を形成できるものであれば難燃性を発揮できると当然に予測できる。 また,本件各発明で「テロマー」と定義される成分は,本件明細書の【表1】,【表2】における,例1~5の組成と難燃性の比較結果に基づき,難燃性を妨げることが確認されたエチルブチルホスフィン酸アルミニウム塩と,これに類似する構造を有するジアルキルホスフィン酸塩(ブチルブチルホスフィン酸塩,エチルヘキシルホスフィン酸塩,ブチルヘキシルホ スフィン酸塩,ヘキシルヘキシルホスフィン酸塩)である。 そうすると,ブチルブチルホスフィン酸塩,エチルヘキシルホスフィン酸塩,ブチルヘキシルホスフィン酸塩,ヘキシルヘキシルホスフィン酸塩は,本件明細書の実施例におけるエチルブチルホスフィン酸塩から,難燃性を妨げる成分として拡張ないし一般化できる範囲内のものといえ,本件 各発明の式(I)を満たす塩は,本件明細書の実施例のジエチルホスフィ ン酸アルミニウム塩とエチルブチルホスフィン酸アルミニウム塩から,拡張ないし一般化できる範囲内にあるといえる。 (4) 争点2-3(無効理由3(乙3に基づく新規性欠如・進歩性欠如)の有無)[被告の主張]本件各発明は,次のとおり,乙3に記載された発明(以下「引用発明」と いう。)と同一であるか,または, (無効理由3(乙3に基づく新規性欠如・進歩性欠如)の有無)[被告の主張]本件各発明は,次のとおり,乙3に記載された発明(以下「引用発明」と いう。)と同一であるか,または,引用発明に基づいて容易に発明をすることができたものであるから,新規性欠如または進歩性欠如の無効理由を有する。 ア引用発明乙3には,次の発明が記載されている(乙3に係る【特許請求の範囲】の【請求項1】,【発明の詳細な説明】の【0002】,【0053】,【00 56】,【0058】【0061】等参照)A 式(I) B [式中,R1およびR2は互いに同じかまたは異なり,直鎖状のまたは枝分かれしたC1~C6-アルキルであり;CMはMg,Ca,Al,Sb,Sn,Ge,Ti,Fe,Zr,Zn,Ce,Bi,Sr,Mn,Li,Na,Kおよび/またはプロトン化窒素塩基であり; Dmは1~4である。]E で表されるジアルキルホスフィン酸塩において,G エチルブチルホスフィン酸塩を含有するH 難燃剤組成物。 イ本件各発明と引用発明との一致点及び相違点 本件発明1と引用発明とは,構成要件A~E,GおよびHで一致し,構 成要件F(「テロマー含有量が0.01~6重量%であり」)が,引用発明には明示されていない点で相違する。本件発明2ないし4と引用発明とについても,同様に,テロマー含有量の範囲が明示されていない点で相違する。 ウ新規性の欠如について 本件各発明と引用発明との上記相違点は,次の点から,実質的に相違する点であるとはいえず,本件各発明は,引用発明と同一のものである い点で相違する。 ウ新規性の欠如について 本件各発明と引用発明との上記相違点は,次の点から,実質的に相違する点であるとはいえず,本件各発明は,引用発明と同一のものである。 すなわち,まず,テロマーと称する物質は,不可避的に生成する副生成物であるところ,このような副生成物の濃度を調整することによって,優れた効果を奏することとなるとは考えられない。また,0.01~6重量% というのは,上限と下限が600倍もあるから,かかる広い範囲において,その範囲外と比較して優れた効果を奏するとは考えられない。さらに,0. 01~6重量%の臨界的意義について,本件明細書には記載されていない。 エ進歩性の欠如について本件各発明と引用発明との上記相違点は,次の点から,当業者が容易に 想到することができたものであるといえ,本件各発明は,当業者が引用発明に基づいて容易に発明をすることができたものである。 (ア) 原告は,テロマーと称する物質が副生成物であり,かつ難燃性を妨げる物質であることを自認している。そうすると,かかるテロマーの濃度を低減すれば,難燃性が向上することは,当業者において容易想到であ るといえる。 (イ) そして,乙3の実施例3では,テロマーと称する物質のモル濃度が7. 7モル%(重量%に換算すると9.30重量%)である。そして,9. 30重量%は,本件明細書の例2(比較例)と例5(実施例)の間に位置し,これと比較して本件各発明が優れた効果を奏することは,本件明 細書に記載されていない。したがって,本件各発明が,引用発明と比べ て予測し得ないような優れた効果を奏するとはいえない。 (ウ) 被告及び第三者機関の実験によれば,テロマー含有量が0.01 に記載されていない。したがって,本件各発明が,引用発明と比べ て予測し得ないような優れた効果を奏するとはいえない。 (ウ) 被告及び第三者機関の実験によれば,テロマー含有量が0.01~6重量%以外である難燃剤組成物について,本件発明と同様の効果が得られており,このことからも,本件各発明は,引用発明と比べて予測し得ないような優れた効果を奏するものではない。 (エ) 本件明細書記載の例1,2(比較例)と例3~5(実施例)は,テロマー含有量だけではなく,残留酢酸塩の含有量も異なるから,例1,2と例3~5の効果の相違は,テロマー含有量の相違ではなく,残留酢酸塩の含有量の相違に基づくと考えるべきである。本件各発明と引用発明との相違点(テロマー含有量を0.01~6重量%とすること)により, 本件各発明が引用発明と比べて優れた効果を奏することが導けるとはいえない。 [原告の主張]被告の上記主張は,次のとおり,失当であり,本件各発明に新規性欠如又は進歩性欠如の無効理由はない。 ア本件各発明と引用発明との相違点本件各発明と引用発明とは,少なくとも引用発明が本件各発明の「F テロマー含有量が0.01~6重量%」との構成を有しない点において相違する。 イ新規性について 上記アは,実質的な相違点というべきであって,本件各発明が引用発明に対し,新規性を有することは明らかである。 ウ進歩性について被告の上記主張は,次の点に照らして失当であり,当業者は上記アの相違点に係る構成を容易に想到するとはいえず,本件各発明は進歩性を有す るというべきである。 (ア) 被告の上記主張は,「本件発明の『テロマー』は難燃剤 あり,当業者は上記アの相違点に係る構成を容易に想到するとはいえず,本件各発明は進歩性を有す るというべきである。 (ア) 被告の上記主張は,「本件発明の『テロマー』は難燃剤を妨げる成分」である旨の原告主張をもって,原告が「テロマーと称する物質が副生成物であり,かつ難燃性を妨げる物質であること」を自認しているとするものである。そうすると,被告の上記主張自体,本件各発明の課題を把握するにあたり,本件各発明による解決手段ないし解決結果の要素を入 れ込ませて,事後分析的かつ非論理的思考により容易想到性を肯定しようとする後知恵というべきものであることが明らかである。 (イ) 本件各発明と引用発明とは,発明としての課題も効果も異なるものである。すなわち,本件各発明は,従来のジアルキルホスフィン酸塩に比べて難燃性を向上させる課題を解決するため,式(I)で表されるジアル キルホスフィン酸塩において,テロマーの含有量を所定の範囲内とすることにより,ジアルキルホスフィン酸塩の難燃性が向上するという新たな知見に基づき,テロマーの量を低減するという構成を採用して,難燃性の高い難燃剤組成物を提供するという効果を奏するようにしたものである。他方,引用発明については,乙3を見るに,「簡単で経済的な方法 でジアルキルホスフィン酸あるいはそれのアルカリ塩だけでなく,所望の目的生成物,即ち特定の金属のジアルキルホスフィン酸塩を製造できる,ジアルキルホスフィン酸塩を製造する方法を提供すること」を課題とし(乙3の【0011】),実施例ではジアルキルホスフィン酸等の収量と生成効率を評価しているのみで(乙3の【0051】~【0063】), 難燃性に問題があるとの記載はなく,難燃性の向上に着目し副生成物たるテロマー量を低 施例ではジアルキルホスフィン酸等の収量と生成効率を評価しているのみで(乙3の【0051】~【0063】), 難燃性に問題があるとの記載はなく,難燃性の向上に着目し副生成物たるテロマー量を低減することの示唆等がされているわけでもない。 なお,難燃性を妨げる副生成物であるテロマーの濃度を低減すれば,難燃性が向上するという知見が,本件特許の特許出願前に知られていたということもない。この点,原告が提出する文献(甲21,22)にも, リン酸の難燃機構が記載されているにすぎず,難燃性を妨げる副生成物 であるテロマーの濃度を低減すれば難燃性が向上するという知見は記載されていない。 (ウ) 被告は,難燃性は本件各発明の上記相違点の構成によるものではなく,残留酢酸塩の含有量によるものである旨主張するが,失当である。本件明細書を見ても,【0002】,【0004】に,残留溶剤(酢酸)の混入 が合成樹脂の分解をもたらし,合成樹脂の粘度を低下させる可能性を示唆する記載があるにすぎず,酢酸が難燃剤組成物の難燃性(本件各発明の効果)に影響することの記載は見当たらない。 (5) 争点2-4(無効理由4(本件分説変更に伴う新たな記載要件違反)の有無) [被告の主張]原告の本件分説変更に伴い,本件各発明において,新たに次の記載要件違反の無効理由が生ずる。 ア本件分説変更により,本件各発明には,テロマーと称する物質1種類のみからなる組成物も含まれることとなるところ,テロマーと称する物質は 難燃性を妨げる物質であるから,本件各発明は,難燃性を妨げる物質のみからなる難燃性組成物の発明も含まれることになり,明確性要件・サポート要件に違反することとなる。 イまた,上記の「テロマーと称する物 げる物質であるから,本件各発明は,難燃性を妨げる物質のみからなる難燃性組成物の発明も含まれることになり,明確性要件・サポート要件に違反することとなる。 イまた,上記の「テロマーと称する物質1種類のみからなる組成物」において,テロマーの含有量は100%となり,「テロマー含有量が0.01~ 6重量%」という構成要件との間で矛盾が生じ,明確性要件・サポート要件に違反することとなる。 ウまた,本件分説変更により,本件各発明には,テロマーと称する物質以外のジアルキルホスフィン酸塩1種類のみからなる組成物も含まれるところ,そのような場合は,テロマーと称する物質の含有量は0%となるか ら,「テロマー含有量が0.01~6重量%」という構成要件との間で矛盾 が生じ,明確性要件・サポート要件に違反することとなる。 エ原告は,本件各発明の「テロマー」と称する物質は,難燃性を妨げる成分であると主張する一方で,当該テロマーを包含する「式(I)のジアルキルホスフィン酸塩」は難燃性を有する物質と主張するが,これらは矛盾している。そして,本件各発明におけるこのような矛盾は,本件各発明にお いて記載要件違反があることを裏付けるものである。 [原告の主張]被告の上記主張は,次の点に照らして,いずれも失当である。 ア本件各発明の課題解決手段及び効果に照らせば,本件各発明は,式(I)で表されるジアルキルホスフィン酸塩として,主生成物のジアルキルホス フィン酸塩と副生成物のテロマーを含むことが明らかである。そうすると,本件各発明に係る物について,テロマーのみ,又は,テロマー以外のジアルキルホスフィン酸塩のみからなるという解釈は取り得ない。 イ原告は,式(I)で表されるジアルキルホスフィ る。そうすると,本件各発明に係る物について,テロマーのみ,又は,テロマー以外のジアルキルホスフィン酸塩のみからなるという解釈は取り得ない。 イ原告は,式(I)で表されるジアルキルホスフィン酸塩であれば,すべて難燃性を有すると主張しているのではない。式(I)で表されるジアルキル ホスフィン酸塩であっても,副生成物であるテロマー(エチルブチルホスフィン酸塩,…および/またはヘキシルヘキシルホスフィン酸塩)は難燃性を妨げる成分であるということに,矛盾はない。 (6) 争点2-5(無効理由5(本件分説変更に伴う新たな新規性欠如・進歩性欠如)の有無) [被告の主張]本件分説変更に伴い,本件各発明には,次のとおり新たな新規性の欠如又は進歩性の欠如の無効理由が生ずる。 ア本件各発明には,「テロマーと称する物質だけが含まれる難燃剤組成物」,「テロマーと称する物質以外のジアルキルホスフィン酸塩だけ含まれる 難燃剤組成物」も含まれるところ,かかる組成物は,引用発明と同一か引 用発明から容易に想到できるものであって,新規性欠如,進歩性欠如の無効理由を有する。 イ原告は,テロマーと称する物質は難燃性を妨げる物質であることを自認しており,難燃性を妨げる物質であれば,その濃度を低減すれば難燃性が向上することは自明であるから,テロマーと称する物質の濃度を低減した 本件各発明は,進歩性欠如の無効理由を有する。 [原告の主張]被告の上記主張は,次の点に照らして,いずれも失当である。 ア前記のとおり,本件各発明に係る物について,テロマーのみ,又は,テロマー以外のジアルキルホスフィン酸塩のみからなるという解釈は取り 得ない。 イ前記のとおり,本件 ある。 ア前記のとおり,本件各発明に係る物について,テロマーのみ,又は,テロマー以外のジアルキルホスフィン酸塩のみからなるという解釈は取り 得ない。 イ前記のとおり,本件各発明と引用発明とは,課題も効果も異なるものであり,原告の主張を根拠に,本件各発明の容易想到性を議論する被告の主張は,事後分析的な後知恵というべきものであることが明らかである。 第3 当裁判所の判断 1 争点1(被告による特許権侵害又はそのおそれの有無)について前記第2の1(4)のとおり,被告製品が,本件各発明の技術的範囲に含まれることについては当事者間に争いがないが,それにもかかわらず,被告においては,業として,平成30年5月以降,被告製品を輸入し,譲渡のためにサンプルとして提供していることが認められる。そして,証拠(甲3)及び弁論の全 趣旨によれば,被告は,そのウェブサイトに「取扱商品」として被告製品を掲載し,譲渡の申出を行っているところ,被告においては,本件訴訟が提起されるに至っても,特許権侵害はなく削除する必要がないとして,現在に至るまで同ウェブサイトから被告製品の掲載を削除せず,その掲載を継続していることが認められる。 これらに照らせば,業として被告製品を取り扱い,実際に輸入や譲渡のため のサンプル提供を行っている被告においては,被告製品を調達して流通させる過程におけるいずれの各態様についても,特許権侵害又はそのおそれがあるものと言わざるを得ない。被告は,特許権侵害又はそのおそれについて争うが,上記説示に照らし,採用することができない。 2 争点2-1(無効理由1(明確性要件違反)の有無)について (1) 被告は,無効理由1(明確性要件違反)につき,①「テロマー」の技術的意味が 説示に照らし,採用することができない。 2 争点2-1(無効理由1(明確性要件違反)の有無)について (1) 被告は,無効理由1(明確性要件違反)につき,①「テロマー」の技術的意味が不明確であること,②「テロマー含有量が0.01~6重量%であり」が不明確であること,③「式(I)で表されるジアルキルホスフィン酸塩」と「テロマー」の違いが不明確であること,④残留酢酸塩を含む場合は本件発明の効果を発揮しないことを主張する。 (2) そこで,まず,上記①ないし③について検討する。 ア本件明細書には,発明の詳細な説明として,次の記載がある。(甲2)(ア) 背景技術【0002】…従来技術のホスフィン酸塩は,最初の方法段階において有機溶剤を使用することで生じる不所望のテロマー副生成物を含有し ている。 (イ) 発明が解決しようとする課題【0003】…本発明の課題は,残留溶剤含有量,特に酢酸含有量およびテロマー生成物含有量の特に少ない,ある種の金属のジアルキルホスフィン酸塩を提供することである。 (ウ) 課題を解決するための手段【0004】…本発明者は,残留溶剤(酢酸)含有量およびテロマー生成物含有量の特に少な(判決注,「少ない」の誤記であると認める。)ジアルキルホスフィン酸塩が合成樹脂に混入される時に周囲の合成樹脂の分解(特にポリマー分解)を特に低い水準にする原因になることを見 出した。 【0005】…周囲の合成樹脂の分解は,加工前後にポリマー溶液の相対粘度(SV)の変化によって評価することができる。SV-値が高ければ高い程,即ち未処理ポリマーの値に近ければ近い程,難燃剤を混入する間のポリマー分解 の合成樹脂の分解は,加工前後にポリマー溶液の相対粘度(SV)の変化によって評価することができる。SV-値が高ければ高い程,即ち未処理ポリマーの値に近ければ近い程,難燃剤を混入する間のポリマー分解の水準が低い。 【0006】周囲の合成樹脂の分解は溶融容積指数によって評価する こともできる。ここでは,問題の添加物を含有するポリマー溶融物の粘度を未処理の溶融物の粘度と比較する。未処理の溶融物に比較して粘度の低下が少なければ少ない程,ますます良好である。 【0007】それ故に本発明は,式(I)【0008】【化1】 【0009】[式中,R1およびR2は互いに同じかまたは異なり,直鎖状のまたは枝分かれしたC1~C6-アルキルであり; MはMg,Ca,Al,Sb,Sn,Ge,Ti,Fe,Zr,Zn,Ce,Bi,Sr,Mn,Li,Na,Kおよび/またはプロトン化窒素塩基であり;mは1~4である。]で表されるジアルキルホスフィン酸塩において,テロマー含有量が0. 01~6重量%でありそしてテロマーがエチルブチルホスフィン酸塩,ブチルブチルホスフィン酸塩,エチルヘキシルホスフィン酸塩,ブチルヘキシルホスフィン酸塩および/またはヘキシルヘキシルホスフィン酸塩であることを特徴とする,上記ジアルキルホスフィン酸塩に関する。 【0015】テロマーは以下の群のものである: C2-アルキル-C4-アルキルホスフィン酸塩,C4-アルキル-C 4-アルキルホスフィン酸塩,C2-アルキル-C6-アルキルホスフィン酸塩,C4-アルキル-C6-アルキルホスフィン酸塩,C6-アルキル-C6-アルキルホ ホスフィン酸塩,C4-アルキル-C 4-アルキルホスフィン酸塩,C2-アルキル-C6-アルキルホスフィン酸塩,C4-アルキル-C6-アルキルホスフィン酸塩,C6-アルキル-C6-アルキルホスフィン酸塩。 【0020】更に本発明は本発明の少なくとも1種類のジアルキルホスフィン酸塩を含有する難燃剤組成物にも関する。 イまた,証拠(甲2,乙3,8ないし10)及び弁論の全趣旨によれば,当業者においては,「テロマー」とは重合度の低い重合体を意味すること,「エチルブチルホスフィン酸塩,ブチルブチルホスフィン酸塩,エチルヘキシルホスフィン酸塩,ブチルヘキシルホスフィン酸塩および/またはヘキシルヘキシルホスフィン酸塩」とは,いずれも,原料であるエチレン又 はプロピレンがテロマー化したブチル(エチレンが2つ重合),又はヘキシル(エチレン(C2)が3つ重合,又はプロピレン(C3)が2つ重合)を有するジアルキルホスフィン酸塩であることを,技術上の常識として理解するものと認められる。 ウそこで,上記ア,イを前提として,前記①ないし③(「テロマー」に係る 記載の明確性の有無等)について判断する。 (ア) まず,本件特許請求の範囲の「テロマー」との文言に関しては,「少なくとも1種類のジアルキルホスフィン酸塩を含有する」との文言が「テロマー」に関する記載であるかどうかが問題となる。 このことについては,本件特許請求の範囲の記載のみから直ちに明ら かになっているとまでは言い難いものの,「少なくとも1種類のジアルキルホスフィン酸塩を含有する」については,本件明細書の【0020】において,「…本発明は本発明の少なくとも1種類のジアルキルホスフィン酸塩を含有する難燃剤組成物にも関する。」と記載される一方 ルキルホスフィン酸塩を含有する」については,本件明細書の【0020】において,「…本発明は本発明の少なくとも1種類のジアルキルホスフィン酸塩を含有する難燃剤組成物にも関する。」と記載される一方,「テロマー」については,【0007】ないし【0009】において,「式(I) で表されるジアルキルホスフィン酸塩において,テロマー含有量が0. 01~6重量%でありそしてテロマーがエチルブチルホスフィン酸塩,ブチルブチルホスフィン酸塩,エチルヘキシルホスフィン酸塩,ブチルヘキシルホスフィン酸塩および/またはヘキシルヘキシルホスフィン酸塩であることを特徴とする,上記ジアルキルホスフィン酸塩に関する。」と明記され,さらに,【0015】においても,「テロマーは以下の群の ものである:C2-アルキル-C4-アルキルホスフィン酸塩,C4-アルキル-C4-アルキルホスフィン酸塩,C2-アルキル-C6-アルキルホスフィン酸塩,C4-アルキル-C6-アルキルホスフィン酸塩,C6-アルキル-C6-アルキルホスフィン酸塩。」と明記されている。その他,本件明細書において,「テロマー」が上記5つの群に属する化合物 (以下,単に「5つの化合物」という。)以外の物を含み得ると見ることのできる記載は見当たらない。 これらに照らせば,本件特許請求の範囲における「少なくとも1種類のジアルキルホスフィン酸塩を含有する」との文言は,「テロマー」に関する記載ではなく,「式(I)で表されるジアルキルホスフィン酸塩にお いて」,「少なくとも1種類のジアルキルホスフィン酸塩を含有する」ものとして記載されている文言であるといえる。すなわち,上記文言については,「テロマー」が本件特許請求の範囲に列記された5つの化合物である「少なくとも1種類のジアルキルホスフ フィン酸塩を含有する」ものとして記載されている文言であるといえる。すなわち,上記文言については,「テロマー」が本件特許請求の範囲に列記された5つの化合物である「少なくとも1種類のジアルキルホスフィン酸塩を含有する」ものとして記載されている文言であるということはできない。 このように,本件特許請求の範囲においては,「テロマー」が「少なくとも1種類のジアルキルホスフィン酸塩を含有する」ものというように,「テロマー」が上記5つの化合物以外の物を含み得るものとして記載されておらず,本件明細書においても,「テロマー」については上記5つの化合物のいずれか又はその組合せである旨の限定した定義付けがされて いる。そして,その他,本件明細書において,「テロマー」が上記5つの 化合物以外の物を含み得ると見ることのできる記載は見当たらないところである。 したがって,本件特許請求の範囲における「テロマー」は,当業者においては,列挙された5つの化合物(エチルブチルホスフィン酸塩,ブチルブチルホスフィン酸塩,エチルヘキシルホスフィン酸塩,ブチルヘ キシルホスフィン酸塩および/またはヘキシルヘキシルホスフィン酸塩)のいずれか又はその組合せに限定されていると理解するものというべきであり,この点において不明確な点はないというべきである。 (イ) また,上記イのとおり,当業者においては,「テロマー」とは重合度の低い重合体を意味すること,「エチルブチルホスフィン酸塩,ブチルブチ ルホスフィン酸塩,エチルヘキシルホスフィン酸塩,ブチルヘキシルホスフィン酸塩および/またはヘキシルヘキシルホスフィン酸塩」とは,いずれも,原料であるエチレン又はプロピレンがテロマー化したブチル(エチレンが2つ重合),又はヘキシル(エチレン( ,ブチルヘキシルホスフィン酸塩および/またはヘキシルヘキシルホスフィン酸塩」とは,いずれも,原料であるエチレン又はプロピレンがテロマー化したブチル(エチレンが2つ重合),又はヘキシル(エチレン(C2)が3つ重合,又はプロピレン(C3)が2つ重合)を有するジアルキルホスフィン酸塩 であることを,技術上の常識として理解するものと認められるから,上記5つの化合物が,いずれも,上記のような理由によって「テロマー」と称されていることは,当業者であれば容易に理解できる技術的事項であるというべきである。 (ウ) 以上によれば,本件特許請求の範囲における「テロマー」が,列挙さ れた5つの化合物のいずれか又はその組合せに限定されており,しかも「テロマー」と称されていることの理由も当業者であれば容易に理解できる技術的事項であるというべきである以上,本件特許請求の範囲記載の「テロマー」が不明確であるということはできない。 したがって,被告は上記①ないし③のように主張するものの,①「テ ロマー」の技術的意味については上記のとおり明確であるし,②その含 有量について特定した「テロマー含有量が0.01~6重量%であり」もまた明確であるといえる。また,③本件各発明の「テロマー」は,「エチルブチルホスフィン酸塩,…および/または,ヘキシルヘキシルホスフィン酸塩」と定義されており,本件各発明の構成要件AないしEで定義されるジアルキルホスフィン酸塩のうちの特定の化合物を意味するこ とは明確であって,構成要件AないしEのジアルキルホスフィン酸塩と「テロマー」との違いが不明確であるということはできない。このように,被告の上記主張は採用することができない。 (3) また,被告は,上記④(残留酢酸塩を含む場合は本件発明 キルホスフィン酸塩と「テロマー」との違いが不明確であるということはできない。このように,被告の上記主張は採用することができない。 (3) また,被告は,上記④(残留酢酸塩を含む場合は本件発明の効果を発揮しないこと)について主張する。しかし,仮に,残留酢酸塩を含む難燃剤組成 物について,本件各発明の効果を奏さないものであったとしても,そのことから直ちに,残留酢酸塩について記載されていない本件特許請求の範囲の文言について,不明確であることが導かれることにはならない。被告の上記主張は採用することができない。 (4) 以上のとおり,無効理由1(明確性要件違反)に係る被告の主張はいずれ も採用できず,本件各発明について,上記無効理由が存するとは認められない。 3 争点2-2(無効理由2(サポート要件違反)の有無)について(1) 被告は,無効理由2(サポート要件違反)に関し,①「テロマー含有量」について,モル%しか記載されておらず,重量%とモル%の関係も記載され ていないこと,②「テロマー含有量」の測定方法が記載されていないこと,及び③ジエチルホスフィン酸のアルミニウム塩とエチルブチルホスフィン酸のアルミニウム塩の開示しかない旨を主張する。 (2) そこで,まず上記①につき検討するに,前記2(2)のとおり,本件各発明の「テロマー」は,「エチルブチルホスフィン酸塩,…ヘキシルヘキシルホスフ ィン酸塩」という具体的な5つの化合物のいずれか又はその組合せに限定さ れており,多数の異なる分子量の低重合体ではないから,上記5つの化合物はいずれも分子量が明確であると認められる。そして,証拠(甲24)によれば,当業者であれば,上記分子量に基づく計算により,モル%から重量%に変換することは容易であるという ないから,上記5つの化合物はいずれも分子量が明確であると認められる。そして,証拠(甲24)によれば,当業者であれば,上記分子量に基づく計算により,モル%から重量%に変換することは容易であるというべきである。 したがって,本件明細書の発明の詳細な説明に,「テロマー含有量が0.0 1~6重量%」である本件各発明が記載されていないものとは認められない。 (3) 次に,上記②(「テロマー含有量」の測定方法が記載されていないこと)につき検討するに,本件各発明のテロマーは,「エチルブチルホスフィン酸塩,…および/またはヘキシルヘキシルホスフィン酸塩」というジアルキルホスフィン酸塩であるところ,本件特許の優先日において,リン31核磁気共鳴 (31P-NMR)分光法等が,これらジアルキルホスフィン酸塩の含有量の測定方法として,当業者においては周知なものであったと認められる。 (乙3,甲18~20,弁論の全趣旨)そうすると,本件明細書に,「エチルブチルホスフィン酸塩,…および/またはヘキシルヘキシルホスフィン酸塩」の含有量の測定方法について特に記 載されていなかったとしても,当業者であれば,上記周知な測定方法を用いて測定すればよいことは容易に理解するものというべきである。 したがって,本件明細書の発明の詳細な説明に,テロマー含有量の測定方法が記載されていなくとも,「テロマー含有量が0.01~6重量%」である本件各発明が発明の詳細な説明に記載されていないものとは認められない。 (4) さらに,上記③(ジエチルホスフィン酸のアルミニウム塩とエチルブチルホスフィン酸のアルミニウム塩の開示しかないこと)につき検討する。 ア本件明細書の【発明の詳細な説明】には次の記載がある。(甲2) ジエチルホスフィン酸のアルミニウム塩とエチルブチルホスフィン酸のアルミニウム塩の開示しかないこと)につき検討する。 ア本件明細書の【発明の詳細な説明】には次の記載がある。(甲2)(ア) UL94分類【0128】UL94(UnderwritersLaborat ories):火炎可塑化を各混合物よりなる試験体について,厚さ1. 5mmの試験体を用いて測定する。 【0129】V-0:後燃焼時間が10秒より短く,10回の火炎の適用での後燃焼時間の合計が50秒より多くなく,燃焼滴りがなく,試験体が完全には燃え尽きず,火炎の適用の終了後に30秒より長くなく試験体の後焼けがない。 【0130】V-1:火炎の適用の終了後の後燃焼時間が30秒より長くなく,火炎の適用終了後の後燃焼時間の合計が250秒より多くなく,火炎の適用終了後の試験体の後焼けが60秒より長くなく,その他はV-0と同じ判定基準。 【0131】V-2:燃焼滴りによって綿製インジケータが引火する が,他の判定基準はV-1と同じ。 (イ) 実施例【0134】例1(比較例):…【0136】生成物の組成は次の通りである:/ジエチルホスフィン酸アルミニウム:87.2モル%/エチルブチルホスフィン酸アルミニ ウム:11.9モル%/エチルホスホン酸アルミニウム:0.9モル%/残量の酢酸塩:0.88重量%例2(比較例):…【0137】生成物の組成は次の通りである:/ジエチルホスフィン酸アルミニウム:90.8モル%/エチルブチルホスフィン酸アルミニ ウム:8.4モル%/エチルホスホン酸アルミニウム:0.8モル%/残量の酢酸 成物の組成は次の通りである:/ジエチルホスフィン酸アルミニウム:90.8モル%/エチルブチルホスフィン酸アルミニ ウム:8.4モル%/エチルホスホン酸アルミニウム:0.8モル%/残量の酢酸塩:0.45重量%例3(実施例):…【0138】生成物の組成は次の通りである:/ジエチルホスフィン酸アルミニウム:98.6モル%/エチルブチルホスフィン酸アルミニ ウム:0.9モル%/エチルホスホン酸アルミニウム:0.5モル%/ 残量の酢酸塩:0重量%例4(実施例):…生成物の組成は次の通りである:/ジエチルホスフィン酸アルミニウム:96.5モル%/エチルブチルホスフィン酸アルミニウム:2.7モル%/エチルホスホン酸アルミニウム:0.8モル%/残量の酢酸塩:0重量% 例5(実施例):…【0139】生成物の組成は次の通りである:/ジエチルホスフィン酸アルミニウム:93.9モル%/エチルブチルホスフィン酸アルミニウム:5.5モル%/エチルホスホン酸アルミニウム:0.6モル%/残量の酢酸塩:0重量% 【0140】例7:25重量%の例1の生成物と…を…配合し,…ポリマー成形体を得る。…試験体のUL94分類はV-2である。 【0141】例8:25重量%の例2の生成物…を…配合し,…難燃性ポリマー成形体を得る。…試験体のUL94分類はV-2である。 【0142】例9(実施例):25重量%の例3の生成物…を…配合し, …難燃性ポリマー成形体を得る。…試験体のUL94分類はV-0である。 【0143】例10(実施例):25重量%の例4の生成物…を…配合し,…難燃性ポリマー成形体を得る。…試験体のUL94 燃性ポリマー成形体を得る。…試験体のUL94分類はV-0である。 【0143】例10(実施例):25重量%の例4の生成物…を…配合し,…難燃性ポリマー成形体を得る。…試験体のUL94分類はV-0である。 【0144】例11(実施例):25重量%の例5の生成物…を…配合し,…難燃性ポリマー成形体を得る。…試験体のUL94分類はV-0である。 【0145】例12:12重量%の例1の生成物…を…配合し,…難燃性ポリマー成形体を得る。…試験体のUL94分類はV-1である。 【0146】例13:12重量%の例3の生成物…を…配合し,…難 燃性ポリマー成形体を得る。…試験体のUL94分類はV-0である。 【0148】例15(比較例):11.4重量%の例1の生成物…を…配合し,…難燃性ポリマー成形体を得る。…試験体のUL94分類はV-2である。 【0149】例16:11.4重量%の例3の生成物…を…配合し, …難燃性ポリマー成形体を得る。…試験体のUL94分類はV-0である。 【0150】例17:11.4重量%の例4の生成物…を…配合し,…難燃性ポリマー成形体を得る。…試験体のUL94分類はV-0である。 【0151】例18:12重量%の例4の生成物…を…配合し,…難燃性ポリマー成形体を得る。…試験体のUL94分類はV-0である。 【0152】例19:30重量%の例4の生成物…を…配合し,…難燃性ポリマー成形体を得る。…試験体のUL94分類はV-0である。 イ上記アのとおり,本件明細書において,比較例である例1・2の生成物 を含有する例7,8,12,15よりも,実施例である例3ないし 成形体を得る。…試験体のUL94分類はV-0である。 イ上記アのとおり,本件明細書において,比較例である例1・2の生成物 を含有する例7,8,12,15よりも,実施例である例3ないし5の生成物を含有する例9ないし11,13,16ないし19の方が,難燃性が高い(UL94分類でV-0)ことが記載されている(【0133】ないし【0155】)。これらに照らせば,本件各発明の解決しようとする課題は,難燃性の高い難燃剤組成物の提供という点にあるものと解するのが相当 である。 そして,ジアルキルホスフィン酸塩が難燃性を発揮する重要な機能は,塩ではなくジアルキルホスフィン酸部分にあることを前提に,アルミニウムとは別の特定の金属のジアルキルホスフィン酸塩の製造方法を開示する例があること(乙3)等に鑑みれば,当業者においては,アルミニウム 塩を他の塩に代えても,難燃性には重要な影響を与えないと認識するもの というべきである。 しかして,本件各発明で「テロマー」として定義付けされた5つの化合物は,いずれも,上記アの実施例のとおり難燃性を妨げることが確認されたエチルブチルホスフィン酸アルミニウムと類似する構造を有するジアルキルホスフィン酸塩であるから,当業者においては,上記5つの化合物 については,エチルブチルホスフィン酸アルミニウムと同様に難燃性を妨げる物質として認識できるといえる。 したがって,ジエチルホスフィン酸アルミニウムとエチルブチルホスフィン酸アルミニウムについて確認された効果を,他の塩とテロマーの組合せに拡張ないし一般化することができないとは認められない。 (5) 以上のとおり,無効理由2(サポート要件違反)に関する被告の主張はいずれも採用できず,本件各発明に の塩とテロマーの組合せに拡張ないし一般化することができないとは認められない。 (5) 以上のとおり,無効理由2(サポート要件違反)に関する被告の主張はいずれも採用できず,本件各発明について,上記無効理由が存するとは認められない。 4 争点2-3(無効理由3(乙3に基づく新規性欠如・進歩性欠如)の有無)について (1) 本件各発明と引用発明とは,少なくとも,「テロマー」含有量が,本件各発明では0.01~6重量%であるのに対して,引用発明では0.01~6重量%ではない点で相違していることについて,当事者間に争いはない。 そこで,以下では,かかる争いのない相違点の存在を前提に,新規性,進歩性の判断を行う。 (2) 新規性欠如の有無被告は,テロマーと称する物質は,不可避的に生成する副生成物であること,副生成物の濃度を調整することによって,優れた効果を奏するとは考えられないこと,0.01~6重量%というのは,上限と下限が600倍もあるから,このような広い範囲において,その範囲外と比較して優れた効果を 奏するとは考えられないこと,0.01~6重量%の臨界的意義について本 件明細書には記載されていないことを挙げて,本件各発明は,引用発明と同一である旨主張する。 しかし,当事者間において,本件各発明と引用発明との間に上記相違点が存することについて争いはないものであるところ,前記のように明確な物質の組合せである「テロマー」の含有量についての数値範囲を,上記のように 具体的に規定した構成が,被告が主張するような理由によって,実質的には相違点ではないと認められることになるとは到底考え難いところであって,被告の上記主張は採用することができない。 したがって,被 に規定した構成が,被告が主張するような理由によって,実質的には相違点ではないと認められることになるとは到底考え難いところであって,被告の上記主張は採用することができない。 したがって,被告主張に係る新規性欠如の無効理由は存しないというべきである。 (3) 進歩性欠如の有無(相違点の容易想到性)ア被告は,①原告は,テロマーと称する物質が,副生成物であることや難燃性を妨げる物質であることを自認しているから,副生成物である難燃性を妨げる物質の濃度を低減すれば,難燃性が向上することは容易想到であること,②乙3の実施例3では,テロマーと称する物質のモル濃度が7. 7モル%(重量%に換算すると9.30重量%)であるが,これと比較して本件各発明が優れた効果を奏することは,本件明細書に記載されていないこと,③被告や第三者機関の実験によれば,テロマー含有量が0.01~6重量%以外である難燃剤組成物について,本件各発明と同様の効果が得られ,第三者機関でも同様の結果が得られていること,④本件明細書記 載の例1,2(比較例)と例3~5(実施例)は,テロマー含有量だけではなく,残留酢酸塩の含有量も異なり,効果の相違はテロマー含有量の相違ではなく残留酢酸塩の含有量の相違に基づくと考えるべきであることの各点を挙げて,上記相違点は当業者において容易想到である旨主張する。 イ 「テロマー含有量」を低減する動機付けについて そこで検討するに,まず,上記①については,本件訴訟において原告は, 本件各発明におけるテロマーが難燃性を妨げる物質であることを,本件明細書の記載に基づき主張しているのであって,本件特許の優先日において,テロマーが難燃性を妨げる物質であることが公知であったことを述べているも におけるテロマーが難燃性を妨げる物質であることを,本件明細書の記載に基づき主張しているのであって,本件特許の優先日において,テロマーが難燃性を妨げる物質であることが公知であったことを述べているものではないから,上記①はそもそもその主張の前提を欠くものである。 そして,乙3を見ても,テロマーが難燃性を妨げる物質である旨の記載はない。この点,乙3の実施例3では,ホスフィン酸ナトリウムにエチレンを反応させて,91.3モル%がジエチルホスフィン酸ナトリウム塩,7.7モル%がブチルエチルホスフィン酸ナトリウム塩,0.7モル%がエチルホスホン酸ナトリウム塩,及び0.3モル%が未知の成分の反応生 成物が得られており,上記反応によれば,ジエチルホスフィン酸ナトリウム塩が主生成物であり,ブチルエチルホスフィン酸ナトリウムは副生成物であることは当業者に自明であるところ,一般に,副生成物の含有量を低減することは,当業者が必要に応じて行うことであるといえる。しかしながら,乙3全体の記載によれば,ジアルキルホスフィン酸塩は難燃性を示 す物質であるところ,ブチルエチルホスフィン酸塩も,ジアルキルホスフィン酸塩に当たることからすれば,当業者においては,副生成物とはいえそれ自体も難燃性を示す物質であると考えるのが通常であり,あえて,その含有量を低減する動機付けはないというべきである。 さらに,当業者において,本件特許の優先日において,テロマーが難燃 性を妨げる物質であると理解することが技術上の常識であったことを的確に認めるに足りる客観的な証拠はない。なお,この点に関し,被告は意見書(乙17)等の証拠を提出しているが,その内容を慎重に検討しても,作成者の主観的な意見の域を出ないものと言わざるを得ず,採用し難い。 足りる客観的な証拠はない。なお,この点に関し,被告は意見書(乙17)等の証拠を提出しているが,その内容を慎重に検討しても,作成者の主観的な意見の域を出ないものと言わざるを得ず,採用し難い。 ウ以上によれば,引用発明において,当業者が「テロマー含有量」を低減 させようとする動機付けは見出せないというべきである。そして,このよ うな本件において,上記の被告主張②ないし④のような,本件各発明の効果について指摘することにより,本件各発明と引用発明との相違点について,当業者が容易想到であったことが導かれることにはならないというべきである。 エしたがって,本件各発明は,引用発明に基づいて,当業者が容易に想到 することができたとはいえないというべきであり,被告主張に係る進歩性欠如の無効理由も存しないというべきである。 (4) 以上から,本件各発明について,無効理由3(乙3に基づく新規性欠如・進歩性欠如)が存するとは認められない。 5 争点2-4(無効理由4(本件分説変更に伴う新たな記載要件違反)の有無) について(1) 被告は,原告の本件分説変更に伴い,①本件各発明にテロマーと称する物質1種類のみからなる組成物も含まれること,又はテロマーと称する物質以外のジアルキルホスフィン酸塩1種類のみからなる組成物も含まれることを前提に,本件各発明には,明確性要件違反又はサポート要件違反の無効理由 があると主張し,また,②原告において,テロマーと称する物質は,難燃性を妨げる成分であると主張する一方で,当該テロマーを包含する式(I)のジアルキルホスフィン酸塩は難燃性を有する物質と主張しており矛盾しているから,記載要件違反の無効理由がある旨主張する。 この点,本件特許請求の範囲の記載は何ら変更がない を包含する式(I)のジアルキルホスフィン酸塩は難燃性を有する物質と主張しており矛盾しているから,記載要件違反の無効理由がある旨主張する。 この点,本件特許請求の範囲の記載は何ら変更がないにもかかわらず,本 件訴訟における,本件特許請求の範囲の構成要件の分説の仕方いかんによって,本件各発明の要旨が変わることはないというべきである。そうすると,原告の本件分説変更に伴い,新たに記載要件違反の無効理由が生ずるという趣旨の被告の上記主張は,この意味において既に失当というべきであるが,なお念のため,上記①,②について検討する。 (2) そこで,まず①につき検討するに,本件各発明では,「式(I)で表される ジアルキルホスフィン酸塩」において,「テロマー含有量が0.01~6重量%」であることが,本件特許請求の範囲で特定されているから,本件各発明は「式(I)で表されるジアルキルホスフィン酸塩」とテロマーを含むことが明確である。そうすると,本件各発明が,テロマーと称する物質1種類のみからなる組成物や,テロマーと称する物質以外のジアルキルホスフィン酸 塩のみからなる組成物を含むということはないというべきであり,上記①の主張は理由がない。 (3) 次に,②につき検討するに,式(I)のジアルキルホスフィン酸塩は難燃性を有する物質であると一般的に知られているところ(乙3),原告において,テロマーは,式(I)のジアルキルホスフィン酸塩であっても,それを低減す ることにより,テロマーの含有量が多い組成物よりも,より難燃性が高まることを見出したのが本件各発明であると主張するものであり,テロマーは全く難燃性を有さないなどと主張しているものではないから,原告主張に特に矛盾があるともいえず,また,それにより何らかの記載要件 まることを見出したのが本件各発明であると主張するものであり,テロマーは全く難燃性を有さないなどと主張しているものではないから,原告主張に特に矛盾があるともいえず,また,それにより何らかの記載要件違反の無効理由を有することとなるともいえない。 (4) 以上から,本件各発明において,無効理由4(本件分説変更に伴う新たな記載要件違反)が存するとは認められない。 6 争点2-5(無効理由5(本件分説変更に伴う新たな新規性欠如・進歩性欠如)の有無)について(1) 被告は,①本件各発明は,テロマーと称する物質だけが含まれる難燃剤組 成物,及びテロマーと称する物質以外のジアルキルホスフィン酸塩だけ含まれる難燃剤組成物も含まれるところ,そのような組成物は,新規性欠如,進歩性欠如の無効理由を有すると主張し,また,②原告において,テロマーと称する物質は難燃性を妨げる物質であることを自認しており,難燃性を妨げる物質であれば,その濃度を低減すれば難燃性が向上することは自明である から,テロマーと称する物質の濃度を低減した本件発明は,進歩性欠如の無 効理由を有すると主張する。 しかし,これについても,前記5(1)の説示と同様の理由により,原告の本件分説変更に伴い,新たに新規性欠如・進歩性欠如の無効理由が生ずるという趣旨の被告の上記主張は,既に失当というべきであるが,なお念のため,上記①,②について検討する。 (2) まず,上記①の主張については,前記5(2)のとおり,本件各発明は「式(I)で表されるジアルキルホスフィン酸塩」とテロマーを含むことが明確であって,「テロマーと称する物質だけが含まれる難燃剤組成物,及びテロマーと称する物質以外のジアルキルホスフィン酸塩だけ含まれる難燃剤組成物も含まれる」と解す フィン酸塩」とテロマーを含むことが明確であって,「テロマーと称する物質だけが含まれる難燃剤組成物,及びテロマーと称する物質以外のジアルキルホスフィン酸塩だけ含まれる難燃剤組成物も含まれる」と解することはできない以上,理由がない。 また,上記②の主張については,前記4(3)のとおり,原告は被告が指摘するような自認はしておらず,テロマーが難燃性を妨げる物質であることが記載された先行技術文献があるとも認められず,さらに,当業者において,本件特許の特許出願時,テロマーが難燃性を妨げる物質であると理解することが技術上の常識であったことを的確に認めるに足りる客観的な証拠もないか ら,先行技術文献に接した当業者が,難燃性を妨げる物質であるテロマーの含有量を低減し,それにより難燃性が向上するとの効果を奏することを容易に想到できるということはできない。 (3) 以上から,本件各発明において,無効理由5(分説変更に伴う新たな新規性欠如・進歩性欠如)が存するとは認められない。 7 結論以上のとおり,被告においては,本件各発明の技術的範囲に属する被告製品の製造・譲渡等により本件特許に係る原告の特許権を侵害し,または侵害するおそれが認められ,他方で,本件特許につき無効理由は認められないから,原告は,被告に対し,被告製品の製造・譲渡等の差止を請求することができると ともに,被告製品及び半製品(被告製品の構造を具備しているが製品として完 成するに至らないもの)の廃棄を請求することができるというべきである。 よって,原告の請求はいずれも理由があるからこれを認容することとして,主文のとおり判決する。なお,主文第2項については,仮執行宣言を付すのは相当でないから,これを付さないこととする。 東京地方裁 よって,原告の請求はいずれも理由があるからこれを認容することとして,主文のとおり判決する。なお,主文第2項については,仮執行宣言を付すのは相当でないから,これを付さないこととする。 主文 東京地方裁判所民事第47部 裁判長裁判官田中孝一 裁判官横山真通 裁判官奥俊彦 (別紙特許公報省略) 別紙被告製品目録 製品名「LFR-8001」
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