- 1 -主文 原告の請求をいずれも棄却する。 訴訟費用は原告の負担とする。 事実 及び理由第1当事者の求めた裁判 原告(主位的)(1)平成18年5月28日執行の春日井市議会議員補欠選挙における選挙の効力に関する審査の申立てについて,被告が行った平成18年8月28日付の裁決を取り消す。 (2)訴訟費用は被告の負担とする。 (予備的)(1)平成18年5月28日執行の春日井市議会議員補欠選挙における選挙の効力に関する審査の申立てについて,被告が行った平成18年8月28日付の裁決を取り消す。 (2)本件選挙は違法である。 (3)訴訟費用は被告の負担とする。 被告主文と同旨第2事案の概要 本件は,平成18年5月28日に執行された春日井市議会議員補欠選挙(以下「本件選挙」という。)において当選した春日井市議会議員である原告が,被告の行った裁決(本件選挙の結果につきなされた異議申出を棄却した春日井市選挙管理委員会の決定を取り消して,本件選挙を無効とする裁決)の取消しを求めた事案である。 前提となる事実(争いのない事実及び証拠により容易に認定できる事実)- 2 -(1)本件選挙の執行に係る経過ア春日井市議会議員(以下「市議会議員」という。)のAが平成▲年▲月▲日に死亡したことから,春日井市議会議長(以下「議長」という。)は,同月28日,春日井市選挙管理委員会(以下「市委員会」という。)に対し,公職選挙法(以下「公選法」という。)111条1項3号に基づき,その旨の通知をした。 イ市委員会は,平成18年4月12日,議長から春日井市長Bの退職申出の通知を受けたことから,春日井市長選挙(以下「市長選挙」という。)を行う事由が生じ(公選法114条),それとともに本件選挙を行う事由が生じた(公選法 8年4月12日,議長から春日井市長Bの退職申出の通知を受けたことから,春日井市長選挙(以下「市長選挙」という。)を行う事由が生じ(公選法114条),それとともに本件選挙を行う事由が生じた(公選法113条3項)。 ウ市委員会は,同年4月13日,選挙期日の告示日を同年5月21日,選挙期日を同年5月28日と決定し,被告に対し,公選法120条1項の規定による届出を行うとともに,記者発表を行った。 エ市委員会は,同年5月1日,市長選挙及び本件選挙に係る立候補予定者説明会をそれぞれ行った。本件選挙に係る立候補予定者説明会の出席者は,本件選挙立候補者4名の陣営を含む7陣営であったが,市委員会は,市議会議員の欠員が当日現在,1名である旨発言した。 オ市議会議員Cが同年5月11日に辞職したことから,議長は,同月12日,市委員会に対し,公選法111条1項3号に基づき,その旨の通知をした。同日,新聞記者等からの問い合わせに対して,市委員会は,市議会議員Cが辞職したことに伴う欠員を本件選挙の被選挙数には含めず,選挙すべき議員の数は「1」のままである旨の回答をした。 カ市議会議員Dが同年5月17日に辞職したことから,議長は,同日,市委員会に対し,公選法111条1項3号に基づき,その旨の通知をした。 キ市委員会は,同年5月21日に市長選挙及び本件選挙の選挙期日の告示を行った。その際,市委員会は,選挙すべき議員の数は,公選法に明文さ- 3 -れた告示事項ではないことから告示はしなかったが,報道機関に対してはその数を「1」として発表した。なお,告示日に本件選挙に立候補の届出をなしたのは,届出順に,E,原告,F,Gの4名であった。 ク市委員会は,選挙期日の告示の翌日である同年5月22日,本件選挙の選挙すべき議員の数を「1」から「3」に訂正し,報道機関に発表し 補の届出をなしたのは,届出順に,E,原告,F,Gの4名であった。 ク市委員会は,選挙期日の告示の翌日である同年5月22日,本件選挙の選挙すべき議員の数を「1」から「3」に訂正し,報道機関に発表した。 ケ市委員会は,同年5月28日,本件選挙を執行した。市委員会は,同年5月29日,本件選挙の当選人(E3万0642票,原告1万6294票,F1万4302票)3名の住所及び氏名を告示した。 以上のとおり,原告は,平成18年5月28日に執行された本件選挙において当選した春日井市議会議員である。 (2)本件選挙の執行後の経過アHら74名は,平成18年5月29日から同年6月12日にかけて,市委員会に対し,本件選挙を無効とするよう求める異議申出を行った。これに対し,市委員会は,同年6月26日,上記異議申出を棄却する旨の決定をした。 イ市委員会の上記決定を不服とする審査申立人Iら81名は,同年6月30日から同年7月18日にかけて,被告に対し,上記棄却決定を取り消し,本件選挙を無効とする裁決を求めて審査の申立てをした。これに対して被告は,同年8月28日,市委員会が異議申出を棄却した決定を取り消し,本件選挙を無効とする旨の裁決を行い,同裁決は,同年9月1日,愛知県公報により被告の告示第44号をもって告示された。 ウ本件選挙で当選した原告が,平成18年9月28日,上記裁決を取り消すよう求めて本訴を提起した。 争点 (1)市委員会が,本件選挙の選挙期日の告示日である平成18年5月21日まで,選挙すべき議員の数を「1」であると発表・周知して本件選挙の管理- 4 -執行をしたことが,選挙の規定に違反すると認められるか否か。 (2)本件選挙に「選挙の規定に違反すること」があることにより,「選挙の結果に異動を及ぼす虞」があると認められるか否か。 (3) 4 -執行をしたことが,選挙の規定に違反すると認められるか否か。 (2)本件選挙に「選挙の規定に違反すること」があることにより,「選挙の結果に異動を及ぼす虞」があると認められるか否か。 (3)本件につき,行政事件訴訟法31条1項を準用すべきか否か。 争点に関する当事者の主張(1)争点(1)市委員会が,本件選挙の選挙期日の告示日である平成18年5月21日まで,選挙すべき議員の数を「1」であると発表・周知して本件選挙の管理執行をしたことが,選挙の規定に違反すると認められるか否か。 (被告の主張)ア公選法113条3項ただし書公選法113条3項ただし書の規定は,選挙期日の告示日前10日以内に公選法111条1項3号の規定による議員の欠員の通知を受けても,もはやいわゆる便乗補欠選挙は執行できないということのみをその趣旨とする規定であって,その反面的な解釈により,公選法113条3項ただし書所定の期日(選挙期日の告示日前10日以内)前に公選法111条1項3号の規定による通知があり,既に補欠選挙が行われることとなっていた場合には,選挙期日の告示日前10日以内に受けた公選法111条1項3号の規定による通知に係る欠員も,当該選挙における選挙すべき議員の数に含まれるものである。 イ原告の主張に対する反論(ア)原告は,被告の上記解釈について,既に立候補を決意していた候補者と,選挙すべき議員の数の増加に伴って新たに立候補を決意した候補者とでは,選挙の準備期間が平等でなく,憲法違反の疑いがあると主張する。 (イ)まず,公職選挙法は,憲法の原則(普通選挙主義など)に基づいて,国会議員や地方公共団体の議員及び長の選挙制度について規定を設けて- 5 -いる。 そして,選挙運動は,各候補者の人物や政見を含め選挙人が何人を選挙すべきかの判断の基礎 選挙主義など)に基づいて,国会議員や地方公共団体の議員及び長の選挙制度について規定を設けて- 5 -いる。 そして,選挙運動は,各候補者の人物や政見を含め選挙人が何人を選挙すべきかの判断の基礎となるものであり,可能な限り自由であるべきであるが,一方で,無制限な自由を与えては,選挙が財力や威力等によって歪められることとなるため,公職選挙法は,選挙の公正を期するために選挙運動について各種の規制を設けている。 また,憲法の保障する基本的人権の中でも表現の自由は特に重要なものであり,政治活動は憲法で保障されたものである。しかし,すべて自由としたのでは弊害もあるため,公職選挙法は,選挙運動の規制との関連で,政治活動にも一定の規制を設けている。 公職選挙法は,このように,憲法の掲げる基本原理の諸要請を調整し,民主政治の根幹を支える選挙制度の健全な発展を目的としている。このため,公職選挙法の選挙の手続に関する諸規定は,選挙制度の安定を念頭に置き,恣意,独断に陥ることなく,可能な限り,厳格,技術的に解釈を行なうべきものである。 (ウ)また,公職選挙法は,129条において,可能な限り選挙運動を同時にスタートせしめ,無用な競争を防ぐとともに,選挙運動費用の抑制を図るため,立候補の届出のあった日から,選挙期日の前日まででなければ選挙運動をすることはできない旨を規定している。他方,選挙期日の告示日前10日以内であると否とを問わず,立候補を決意する時期や,選挙運動に当たらない政治活動(平生から自己の政見等を選挙民に周知させる等の地盤培養行為を含む。)や立候補の準備行為を開始する時期については,何らの規制を設けていない。 このように公職選挙法は,全ての候補者に平等な選挙運動期間を保障する一方,政治家たらんと志すこと,政治家たらんと志した者がいつ立候補を決 備行為を開始する時期については,何らの規制を設けていない。 このように公職選挙法は,全ての候補者に平等な選挙運動期間を保障する一方,政治家たらんと志すこと,政治家たらんと志した者がいつ立候補を決意し,その準備を開始するかを各々の自由に任せているのであ- 6 -る。 (エ)実際にも,被告の上記解釈は,「便乗補欠選挙を行う場合における議員定数(昭和37年8月24日岡山県選管あて電話回答)」の行政実例においても明確に示されており,全国の市町村選挙管理委員会は,公選法113条3項ただし書の規定をこの行政実例に従って解釈し,同年以降44年にもわたり,無数といって良いほどの地方議会議員の便乗補欠選挙を,その解釈に則り執行してきたものである。 (オ)したがって,告示日前の準備期間の長短は原告の解釈を根拠付けるものではなく,上記行政実例やこれまでの選挙の実例を無視し,各選挙管理委員会が勝手な解釈によって,立候補せんとする者の立候補及び当選の機会を剥奪することこそ,憲法の精神に悖るものである。 ウ選挙すべき議員の数の推移(ア)公選法113条3項3号の規定により執行される本件選挙において,選挙すべき議員の数は,市委員会が,選挙期日の告示日及び選挙期日を決定した平成18年4月13日時点では,同条1項の規定により,1名であった。 (イ)その後,この選挙すべき議員の数は,同年5月12日,公選法111条1項3号の規定による通知を受けた以降は,公選法113条1項の規定により2名となり,同年5月17日,同じく公選法111条1項3号の規定による通知を受けた以降は,公選法113条1項の規定により3名となった。 エ市委員会の認識及び対応(ア)市委員会は,公選法113条3項ただし書の規定の解釈を誤り,選挙期日の告示日前10日以内に受けた公選法111条1項 ,公選法113条1項の規定により3名となった。 エ市委員会の認識及び対応(ア)市委員会は,公選法113条3項ただし書の規定の解釈を誤り,選挙期日の告示日前10日以内に受けた公選法111条1項3号の規定による通知に係る欠員については,当該選挙における選挙すべき議員の数に含まれない,すなわち,具体的には同年5月12日及び同月17日に- 7 -受けた通知に係る欠員については,本件選挙において選挙すべき議員の数には含まれないものと解した。 (イ)市委員会は,市議会議員Cの辞職後の同年5月12日,選挙すべき議員の数はこの時点で2名となるにも拘らず,新聞記者等からの問い合わせに,選挙すべき議員の数は1名のままである旨の回答をするなど,選挙期日の告示の翌日である同年5月22日,本件選挙の選挙すべき議員の数を「1」から「3」に訂正するまでの間,一貫して誤った解釈の下,選挙の管理執行を進めた(乙4)。 (ウ)なお,同年5月12日,本件選挙における選挙すべき議員の数は,市議会議員Cの辞職後も,1名のままである旨の新聞報道がなされている(乙5)。 (エ)また,市委員会は,同年5月17日,市議会議員Dの辞職後も,この時点で選挙すべき議員の数は3名となるにも拘らず,これを依然として1名であると考えて以後の手続を執行し,勿論,対外的に選挙すべき議員の数が3名になるなどの発表を行ったり,あるいはその旨の言動をとった形跡は全くない。 (原告の主張)ア被告は,公選法113条3項ただし書の規定は,選挙期日の告示日前10日以内に議員の欠員(公選法111条1項3号)の通知を受けても,便乗補欠選挙は執行できないことを規定でするものであり,公選法113条3項ただし書所定の期日より前に補欠選挙が行われることになっていた場合には,選挙期日の告示日前10日以内に通 )の通知を受けても,便乗補欠選挙は執行できないことを規定でするものであり,公選法113条3項ただし書所定の期日より前に補欠選挙が行われることになっていた場合には,選挙期日の告示日前10日以内に通知を受けた欠員についても当該選挙における選挙すべき議員の数に含まれるという解釈を主張する。 イしかし,被告の上記解釈は,被選挙権,選挙権の平等を害する虞があり,憲法違反の疑いを払拭できず,採用できないものである。 ウ(ア)被告の主張する上記解釈が妥当で合理的か否かの検討は,「選挙の- 8 -実態」を十分に踏まえて,被選挙権,選挙権の公平という観点から検討されるべきものである。 (イ)選挙の立候補準備及び選挙運動の実態・実務は極めて大変で多くの時間や労力を必要とするものであるから,本件選挙においても,立候補者に極めて短い準備期間しかない場合には,その立候補が選挙の当落結果に影響を及ぼすことはないのが実態である。 (ウ)ところで,被告の解釈によると,例えば告示日の前日に議員の欠員の通知(公選法111条1項3号)がなされた場合でも,その欠員は当該選挙における選挙すべき議員の数に含まれるものとして補欠選挙が行われることとなる。 その場合,立候補の届出の準備,その後の選挙運動の時間は殆どないに等しい。告示日の10日前以前から準備をして当選を目指す候補者と告示日前日に初めて立候補を決意して立候補届出の準備と届出をして選挙運動を始める候補者とでは,被選挙権の機会均等,不平等を来たすことは明らかである。 (エ)そして,被告の解釈によれば,本件選挙においても,選挙期日の告示日前10日以内に通知のあった欠員2名については,告示日までに10日ないし5日の日数しかなく,このような短期間で補欠選挙の立候補を決意し,その届出手続,選挙運動をし,当選を果たすこと 選挙期日の告示日前10日以内に通知のあった欠員2名については,告示日までに10日ないし5日の日数しかなく,このような短期間で補欠選挙の立候補を決意し,その届出手続,選挙運動をし,当選を果たすことは到底困難であり,その結果,被選挙権,選挙権の不平等をもたらすことは,上記の告示日前日の欠員通知があった場合と同様に明らかである。 (2)争点(2)本件選挙に「選挙の規定に違反すること」があることにより,「選挙の結果に異動を及ぼす虞」があると認められるか否か。 (被告の主張)ア公選法205条1項が,選挙の効力に関する争訟において,選挙が選挙の規定に違反して執行され,かつ,その規定違反が選挙の結果に異動を及- 9 -ぼす虞がある場合に限り,選挙を無効とする旨規定しているのは,選挙の結果の安定性,公定性を確保することが極めて重要であることによるものと考えられる。 しかしながら,選挙すべき議員の数の如何は,選挙の基本的な事項であって,かかる事項について選挙の規定に違反があった場合には,一般的に「選挙の結果に異動を及ぼす虞」があるものと言わざるを得ない。 イまず,「選挙の結果に異動を及ぼす虞」がある場合とは,その違法の程度が軽微で選挙の結果に異動を及ぼす虞があり得ないことが十分推察される場合は格別であるが,その可能性があれば足り,必ずしも選挙の結果に異動を及ぼすことが確実であることを要しない(最高裁昭和27年12月5日判決,東京高裁昭和28年11月4日判決〔最高裁昭和29年4月30日判決により支持〕,高松高裁昭和56年8月10日判決)と解するのが判例の確立した解釈である。 したがって,「選挙の結果に異動を及ぼす虞」について,蓋然性を必要としないのは当然である。 また,候補者の数,顔ぶれ,その予想得票数あるいは得票順位の変動等の具体的な検討及 例の確立した解釈である。 したがって,「選挙の結果に異動を及ぼす虞」について,蓋然性を必要としないのは当然である。 また,候補者の数,顔ぶれ,その予想得票数あるいは得票順位の変動等の具体的な検討及び認定は,立候補の決意あるいは選挙人の投票の決定等人間の内心を検討して判断せざるを得ないが,これは争訟の性格になじまず,この点からはむしろ上記具体的な検討及び認定はすべきではないことになる(乙2)。 ウ本件選挙においては,候補者及び一般の選挙人に,選挙すべき議員の数が誤って周知されたものであるが,一般的に公の選挙に立候補しようとする者は,自己の当選の可能性を考え,事前に仔細に選挙作戦や,得票数等の検討を行うものであり,その際には,まず選挙されるべき者の数を念頭に置き,これによって自己の支持層,地域等を考慮するとともに,競争者である他の候補者又は候補者になろうとする者に深甚の注意を払い,これ- 10 -ら各種要素を総合して,自己の立候補如何あるいは選挙運動方法を決定するものであること,従って選挙すべき議員の数が何名であるかということは,候補者又は候補者になろうとする者にとって最大の関心事であって,その如何によって,あるいは立候補者の数に影響を及ぼすことあるべく,あるいは競争率,候補者の顔ぶれ等選挙の様相が著しく異なることは,容易に理解できるところである(東京高裁昭和28年11月4日判決)。従って,選挙すべき議員の数の誤った周知は,選挙の結果(当落)に異動を及ぼす可能性に当然に結びつくものと言うべきである。 エまた,本件選挙において,選挙すべき議員の数が正しく周知されていたとしても,その数について変動が生じた日から告示日までの期間が短く,実際に立候補を決断して立候補手続を行うことの困難さを考慮した場合,市委員会の選挙の規定に違反する程度は の数が正しく周知されていたとしても,その数について変動が生じた日から告示日までの期間が短く,実際に立候補を決断して立候補手続を行うことの困難さを考慮した場合,市委員会の選挙の規定に違反する程度は低く,「選挙の結果に異動を及ぼす虞」は限定的との主張も考えられる。 (ア)しかし,公選法は,選挙期日の告示日前10日以内になされた公選法111条1項3号の規定による通知に係る欠員についても当該選挙における選挙すべき議員の数に含むことを予定していることからみても,立候補の検討,準備,手続に充分可能な期間というべきである。実際,平成17年9月11日執行の衆議院議員総選挙(小選挙区選出議員選挙)において,同年8月22日に結党したばかりのJが,同月30日のまさに公示日に,新人を含む多数の候補者を立候補させている。 また,短期間に立候補を決意したからといって,その者の知名度,組織力によっては,長期の準備を経たものと比し集票力がないものと一概に言えないことは公知に属する。 (イ)実際に,選挙すべき議員の数が正しく周知されていれば,以下の点にも照らすと,本件選挙の結果に異動を及ぼす具体的な可能性が存在したということができる。 - 11 -ⅰ市長選挙に市議から転出立候補したD候補者の党派が,本件選挙にも候補者を擁立した可能性は高い旨の主張がなされている。 ⅱ市委員会が選挙すべき議員の数の訂正をした直後,K公認での出馬を当初目指していた衆議院議員秘書の男性が,「(当選する席が)3つあるなら党勢拡大のチャンスだった」との発言をした旨の,Kの関係者が,「被選挙数が3ならKとして2人擁立を目指したはずだ」との発言をした旨の新聞報道がされている(乙7,8)。 ⅲ市議会議員Dが市長選挙に立候補するに当たり,市議会議員を辞職するか否かの判断(辞職しないで立候補し 3ならKとして2人擁立を目指したはずだ」との発言をした旨の新聞報道がされている(乙7,8)。 ⅲ市議会議員Dが市長選挙に立候補するに当たり,市議会議員を辞職するか否かの判断(辞職しないで立候補し議員を失職した場合,これに伴う欠員については選挙すべき議員の数に含まれない。),辞職する場合の時期について,異なった判断(本件選挙に対する自己の党派の選挙戦術を有利にするために,告示日前10日以内前に早期に辞職し,これを活発化した。)がなされた可能性がある。 オ後記(3)の(被告の主張)欄で主張のとおり,選挙関係の争訟においては,事情判決の法理は明確に否定されている。これは民主政治の根幹を支える選挙については,適法性,公正性の判断のみを優先させ,それ以外の諸事情を考慮しないことを示しているものである。 したがって,「再選挙を行う場合の費用や労力」について考慮することはできないし(なお,残任期間との関係で経費節減の趣旨を考慮すべきであるとの要請については,公選法34条2項が,当該議員の任期終了前の6月以内にこれを行うべき事由が生じたときは行わないとして,明文で,その解決を図っている。),その他原告の指摘する事情,すなわち本件選挙で示された春日井市民の民意,立候補予定者説明会に出席しながら立候補しなかった者からの異議の申立てなどがなかったこと,再選挙で当選した議員の任期などは考慮する必要のない事情である。 カ市委員会は,立候補予定者説明会(平成18年5月1日)に参加しなが- 12 -ら,同年5月11日及び翌12日の市委員会から立候補届出書類の事前審査を受けるかどうかの意思確認に対し,立候補意思のない旨の回答をした3陣営から抗議や異議申出がなかったことを理由に,選挙すべき議員の数の誤りと当該3陣営が立候補しなかったこととの因果関係を否定する。 査を受けるかどうかの意思確認に対し,立候補意思のない旨の回答をした3陣営から抗議や異議申出がなかったことを理由に,選挙すべき議員の数の誤りと当該3陣営が立候補しなかったこととの因果関係を否定する。 (ア)しかし,同年5月12日に選挙すべき議員の数が「2」となっていたにもかかわらず,「1」のままである旨の新聞報道がなされるなど,選挙すべき議員の数が誤って把握されて周知されていた。これが正しく周知され,最終的に「3」となった旨周知されていたならば,立候補予定者説明会に出席していなくとも(立候補予定者説明会への出席は,立候補に必要な法定条件とはされていない。),新たに立候補を決意して,同月21日の直前になって,供託を証明する書面及び戸籍の謄本等立候補届に添付すべき文書を取り揃え立候補する者のあったことも充分考えられるのであるから,因果関係が認められないとは言えないところである。 (イ)したがって,本件選挙において,市委員会の選挙の規定に違反した選挙すべき議員の数の把握及び周知の誤りが,候補者の数及び顔ぶれの変動に繋がり,それが当落に異動を及ぼすことは充分に考えられることであって,これは「選挙の結果に異動を及ぼす」可能性があったということができる。 (ウ)なお,被告になされた本件選挙における選挙の効力に関する審査申立て(乙6)においても,選挙すべき議員の数が正しく知らされていれば,本件選挙と同日に執行された市長選挙に,市議会議員を辞職して立候補したD候補者の党派が,本件選挙にも候補者を擁立した可能性は高く,その候補者が相当の得票を得たであろうと推察される旨の主張がされている(市長選挙におけるDの得票数は1万7995票,本件選挙の最下位当選者の得票数は1万4302票であった。)。 - 13 -(原告の主張)ア一般に,選挙される議員 と推察される旨の主張がされている(市長選挙におけるDの得票数は1万7995票,本件選挙の最下位当選者の得票数は1万4302票であった。)。 - 13 -(原告の主張)ア一般に,選挙される議員の数を誤っていれば,「選挙の結果に異動を及ぼす虞」があると判断されるのであろうが,本件には,以下のような「特段の事情」があるから,このような場合は,選挙の結果に異動を及ぼすことが「具体的に」明らかにされないかぎりは,「選挙の結果に異動を及ぼす虞」はないと考えるべきである。 ①再補欠選挙によって選挙される議員の活動期間は極めて短期間になること,②本件選挙により選出された3名のうち1名については,最初から選挙の違法はないこと,③本件選挙で選出された3名の議員は,民意が反映されて選出されていること,④再補欠選挙を執行すると少なくとも選挙費用は8000万円以上かかるが,公職選挙法は議員が1人でも欠員が生じたときに必ず補欠選挙を執行することを予定はしていないこと(公選法113条1項6号),⑤本件選挙に立候補を予定していた人物が市委員会に異議の申出をしていないこと,⑥2名分の議員候補者の立候補届出のための準備は極めて短期間(10日ないし5日)しかなく,事実上,立候補届出のための準備,届出に必要な申請書類の取り揃えなどが不可能に近い状況であったことなどの事情があった。 イそして,具体的に「選挙の結果に異動を及ぼす虞」があるか否かについて判断する際には,春日井市民の民意,選挙費用の負担,選出される議員の数,その議員の活動期間などと,選挙が無効とされることによって守られる利益を「比較考量」するべきである。 ウ裁決は,「選挙の結果に異動を及ぼす虞」の解釈について,「可能性があれば,必ずしも選挙の結果に異動を及ぼすことが確実であることを要しないものであるから られる利益を「比較考量」するべきである。 ウ裁決は,「選挙の結果に異動を及ぼす虞」の解釈について,「可能性があれば,必ずしも選挙の結果に異動を及ぼすことが確実であることを要しないものであるから,その蓋然性を必要としないことは勿論,候補者の数,顔ぶれ,その予想得票数あるいは得票順位の変動等の具体的可能性の検討及び認定は必要なく,むしろこれをすべきではないというべきである。蓋- 14 -し,立候補の決意あるいは選挙人の投票の決定等人間の内心を検討し,決定することとなって,争訟の性格からみて不当であるからである。」という。 (ア)しかし,「確実であること」まで要しないとしても,「蓋然性を必要としない」とか,「具体的可能性の検討及び認定は必要ない」とかの判断は誤りである。 (イ)そもそも「選挙の結果に異動を及ぼす虞」というような極めて様々な具体的な事実関係に絡む判断を,抽象的,観念的な「可能性」のみで判断することは法の解釈として誤っている。下記(ウ)のような具体的な事実関係を調査し,それらを考慮のうえで「選挙結果の異動」の蓋然性が相当程度にあるか否かを具体的に判断して,選挙の有効・無効を判定するべきである。 (ウ)本件で「選挙結果の異動」とは,「当選人の顔ぶれ」ということになるが,本件選挙においては,選挙運動期間が短期間であることなどから,他の立候補者が出現する可能性は非常に少なかったし,現実の市議会議員の立候補準備,活動についての実態からすれば,その可能性はないに等しいと言える。また,仮に別の立候補者があったとしても,当選した3名以外の当選者が出た可能性はまず無い。 さらに,春日井市民の貴重で高額な費用を費やして実施した補欠選挙である本件選挙を無効とすれば,欠員が3名であるにも拘わらず,再度,選挙をしなければならなくなり,80 の当選者が出た可能性はまず無い。 さらに,春日井市民の貴重で高額な費用を費やして実施した補欠選挙である本件選挙を無効とすれば,欠員が3名であるにも拘わらず,再度,選挙をしなければならなくなり,8000万円以上もの選挙費用が春日井市民の負担となるという,市民にとって看過できないこのような重大な結果をもたらすことになる。 加えて,選出された3名の議員へ投票した者,選挙した春日井市民の意思や利益は尊重されるべきであること,当選した3名の議員の利益も無視できないこと,再選挙に伴う春日井市政の停滞による春日井市民の- 15 -不利益も考えるべきことも考慮されるべきである。 (3)争点(3)本件につき,行政事件訴訟法31条1項を準用すべきか否か。 (原告の主張)ア本件は,公選法203条に基づいて選挙無効を争う事件である。 まず,公職選挙法の規定による選挙関係訴訟にも行政事件訴訟法31条(特別の事情による請求の棄却)の規定を準用することができることは,判例(最高裁昭和62年2月17日判決・判例時報1243号10頁)として確定している。 イ仮に,本件選挙が,選挙の規定に違反して行われ,その違反の有無により「選挙の結果に異動を及ぼす虞」があったとしても,以下の①ないし⑥の事情を考慮すると,本件選挙を無効とすることは,公の利益に著しい障害が生じるものと認められ,さらに「原告の受ける損害の程度,その損害の賠償又は防止の程度及びその方法その他一切の事情」として以下の①ないし⑥の事情も考慮すると,本件選挙を無効とすることは,公共の福祉に適合しないと認められる。 ウ①再補欠選挙によって選挙される議員の活動期間は極めて短期間になること,②本件選挙により選出された3名のうち1名については,最初から選挙の違法はないこと,③本件選挙で選出された3名の議員は,民 ウ①再補欠選挙によって選挙される議員の活動期間は極めて短期間になること,②本件選挙により選出された3名のうち1名については,最初から選挙の違法はないこと,③本件選挙で選出された3名の議員は,民意が反映されて選出されていること,④再補欠選挙を執行すると少なくとも選挙費用は8000万円以上かかるが,公職選挙法は議員が1人でも欠員が生じたときに必ず補欠選挙を執行することを予定はしていないこと(公選法113条1項6号),⑤本件選挙に立候補を予定していた人物が市委員会に異議の申出をしていないこと,⑥2名分の議員候補者の立候補届出のための準備は極めて短期間(10日ないし5日)しかなく,事実上,立候補届出のための準備,届出に必要な申請書類の取り揃えなどが不可能に近い状況であったことなどの事情があった。 - 16 -エよって,本件は,行政事件訴訟法31条の規定の準用により,予備的請求のとおり判決されるべきである。 (被告の主張)ア原告の主張は理由がない。 イ公選法は,民主政治の根幹を支える選挙の適法性,公正性を担保するために争訟の手続を定めている。 そして,行政争訟制度の一般法である行政不服審査法は,選挙関係の争訟に対しても公選法に特別の規定のない限りは適用されるが,選挙関係の争訟に対する行政不服審査法の準用について規定した公選法216条2項は,「事情裁決」を規定する行政不服審査法40条6項の準用を排除している。 さらに,選挙関係訴訟における訴訟法規の適用関係を規定した公選法219条1項も,「特別の事情による請求の棄却」を規定した行政事件訴訟法31条の規定の準用を排除している。 このように選挙関係の争訟においては,事情判決の法理は明確に否定されている。 ウいわゆる定数訴訟は,選挙管理委員会が選挙の規定に違反する行為を行なったものではな 31条の規定の準用を排除している。 このように選挙関係の争訟においては,事情判決の法理は明確に否定されている。 ウいわゆる定数訴訟は,選挙管理委員会が選挙の規定に違反する行為を行なったものではないが,昭和51年4月14日最高裁大法廷判決において,選挙管理委員会が準拠すべき法令そのものが憲法に違反する場合について,およそ国民の基本的権利を侵害する国権行為に対しては,できるだけその是正,救済の途が開かれるべきものであるという憲法上の要請に照らし,公職選挙法の定める訴訟において,定数配分規定そのものの違憲を理由とする選挙の効力に関する訴訟も許されると判断して確立したものである。 そして,事情判決は,定数配分規定の違憲を理由とする選挙訴訟において,当該選挙を無効とする判決をしても,憲法に適合する選挙を執行するためには,定数の配分規定を改正する手続きを要し,直ちに違憲状態が是- 17 -正される訳ではなく,却って憲法の所期するところに適合しない結果を生ずるので,行政事件訴訟法31条に含まれる一般的な基本原則を適用するとの立場に立って,なされているに過ぎないものである。 エこのように,定数訴訟の特殊な性格に基づき,定数訴訟について事情判決が許されているのであるから,本件選挙のような通常の市議会議員の便乗補欠選挙などにこれが適用される余地は全くない。 第3当裁判所の判断 当裁判所は,原告の請求はいずれも理由がないから,これを棄却すべきものと判断する。その理由は,以下のとおりである。 争点(1)(市委員会が,本件選挙の選挙期日の告示日である平成18年5月21日まで,選挙すべき議員の数を「1」であると発表・周知して本件選挙の管理執行をしたことが,選挙の規定に違反すると認められるか否か。)について(1)公選法113条3項ただし書は,選挙期 年5月21日まで,選挙すべき議員の数を「1」であると発表・周知して本件選挙の管理執行をしたことが,選挙の規定に違反すると認められるか否か。)について(1)公選法113条3項ただし書は,選挙期日の告示日前10日以内に公選法111条1項3号の規定による議員の欠員の通知を受けた場合には,補欠選挙ができないことのみを規定するものであり,公選法113条3項ただし書所定の期日(選挙期日の告示日前10日以内)よりも前に公選法111条1項3号の規定による通知があり,既に補欠選挙が行われることとなっていた場合には,選挙期日の告示日前10日以内に受けた公選法111条1項3号の規定による通知に係る欠員についても,当該選挙における選挙すべき議員の数に含まれると解するのが相当である。 (2)ア公選法は,地方公共団体の議会の議員に欠員が生じた場合には,繰上補充(公選法112条5項)により当選人を定めることができる場合以外は,一定の要件のもと補欠選挙を実施することとしている。 (ア)そして,当該議員の任期終了前6か月よりも前であれば,その欠員が一定数(「市町村の議会の議員の場合には,第110条第1項にいう- 18 -その当選人の不足数と通じて当該選挙区における議員の定数〔選挙区がないときは,議員の定数〕の6分の1を超えるに至ったとき。」)に達したときに補欠選挙を実施するが(公選法113条1項5号及び6号),当該選挙区(選挙区がないときは,その区域)で同一の地方公共団体の他の選挙が行われるときには欠員数がその一定数に達していなくても補欠選挙(いわゆる便乗補欠選挙)を行うこととしている(公選法113条3項3号)。 (イ)また,当該議員の任期終了前6か月以内であれば,議員の数がその定数の3分の2に達しなくなったときに限り,補欠選挙を実施することとしている )を行うこととしている(公選法113条3項3号)。 (イ)また,当該議員の任期終了前6か月以内であれば,議員の数がその定数の3分の2に達しなくなったときに限り,補欠選挙を実施することとしている(公選法34条2項)。 イ公選法113条3項ただし書は,いわゆる便乗補欠選挙の実施については,当該選挙区(選挙区がないときは,その区域)で行われる同一の地方公共団体の他の選挙の期日の告示前に(市町村の議会の議員の選挙については,当該市町村の他の選挙の期日の告示の日前10日以内に),選挙管理委員会が欠員発生の通知を受けていることを必要とする旨規定している。 ウしかしながら,便乗補欠選挙の実施が決まった後に生じた欠員については,そのどこまでが当該選挙における選挙すべき議員の数に含まれるのかについては明示的な規定はなく,したがって,本件のように,選挙期日の告示日前10日以内に受けた通知に係る欠員について,当該選挙における選挙すべき議員の数に含まれるか否かが問題となる。 (3)公選法は,国会議員並びに地方公共団体の議会の議員及び長の選挙について適用されるところ(公選法2条),憲法は,国会議員を全国民の代表者として国権の最高機関である国会(を構成する両議院)を組織する者と定め(憲法41条ないし43条),また,地方自治に関しても,地方公共団体において議事機関として議会の設置(憲法93条1項)や,住民の直接選挙による地方公共団体の長及び議会の議員の選出(同条2項)を定めて,地方自- 19 -治においても民主化を図ろうとしているなど,各議員や長の民主政治における役割の重要性に鑑み,公選法自体も,憲法の精神に則った選挙制度を確立し,選挙が選挙人の自由に表明する意思によって公明かつ適正に実施されることを確保して,民主政治の健全な発達を期することを目的として る役割の重要性に鑑み,公選法自体も,憲法の精神に則った選挙制度を確立し,選挙が選挙人の自由に表明する意思によって公明かつ適正に実施されることを確保して,民主政治の健全な発達を期することを目的としている(公選法1条)ことに照らせば,公選法の解釈にあたっては,原則として,欠員の解消が図れるよう解釈すべきものと考えられる。 (4)また,公選法は,選挙運動については,その自由を確保しつつも,無制限な自由により,すなわち財力や威力等により選挙運動が歪められることを防止し,選挙の公正を期するために選挙運動について各種の規制を設けている。公選法129条は,可能な限り選挙運動を同時にスタートせしめ,無用な競争を防ぐとともに,選挙運動費用の抑制を図るため,立候補の届出のあった日から,当該選挙の期日の前日まででなければ選挙運動をすることはできない旨規定している。 他方,立候補を決意する時期や立候補の準備行為を開始する時期について公選法は特に規制を設けていないし,選挙運動に当たらない政治活動(自らの政治的見解を選挙民に周知させるなどの行為)についても同様である。 したがって,便乗補欠選挙の実施が決まったのであれば,その後,未だ選挙運動が許されない告示日以前の時期に,その選挙すべき議員の数が増加したとしても,立候補者に与えられる選挙運動期間は同一であるし,また,それ以前のいわゆる政治活動は何人に対しても平等に許されていたのであるから,結局,被選挙権・選挙権の平等・公平を損なうことはないものと解される。 この点,原告は,当該選挙区(選挙区がないときは,その区域)において行われる同一の地方公共団体の選挙の告示日前10日以内になされた欠員通知にかかる欠員について,選挙すべき議員の数に含めると,被選挙権・選挙権の平等・公平を損なうと主張するが,上記のとおり,その主 て行われる同一の地方公共団体の選挙の告示日前10日以内になされた欠員通知にかかる欠員について,選挙すべき議員の数に含めると,被選挙権・選挙権の平等・公平を損なうと主張するが,上記のとおり,その主張は採用でき- 20 -ない。 (5)上記(3)(4)によれば,公選法113条3項ただし書は,当該選挙区(選挙区がないときは,その区域)において行われる同一の地方公共団体の選挙の告示日前10日以内に公選法111条1項3号の規定による議員の欠員の通知を受けても,もはや補欠選挙は行わないということを規定するに止まるものであり,便乗補欠選挙の実施が決まっていた場合に,上記告示日10日以内になされた欠員通知にかかる欠員を選挙すべき議員の数に含めないことまで規定するものと解することはできない。 むしろ,上記(3)(4)で検討のとおり,便乗補欠選挙の実施が決まったのであれば,選挙運動期間の公平が確保できる範囲内においては,その後に生じた欠員についてもできる限りその補欠選挙で選出すべきであり,したがって,当該補欠選挙の選挙すべき議員の数は,その選挙の告示日における欠員の全部と解するのが相当というべきである。 (6)以上を前提にすると,選挙すべき議員の数は以下のとおりであったことになる。 ア公選法113条3項3号の規定により執行される本件選挙において,選挙すべき議員の数は,市委員会が,選挙期日の告示日及び選挙期日を決定した平成18年4月13日時点では,同条1項の規定により,1名であった。 イその後,この選挙すべき議員の数は,同年5月12日,公選法111条1項3号の規定による通知(市議会議員であったCの辞職)を受けて以降は,公選法113条1項の規定により2名となり,同年5月17日,同じく公選法111条1項3号の規定による通知(市議会議員であったDの辞 項3号の規定による通知(市議会議員であったCの辞職)を受けて以降は,公選法113条1項の規定により2名となり,同年5月17日,同じく公選法111条1項3号の規定による通知(市議会議員であったDの辞職)を受けて以降は,公選法113条1項の規定により3名となった。 (7)これに対する市委員会の認識及び対応は,以下のとおりであった。 ア市委員会は,公選法113条3項ただし書の規定の解釈を誤り,選挙期- 21 -日の告示日前10日以内に受けた公選法111条1項3号の規定による通知に係る欠員については,当該選挙における選挙すべき議員の数に含まれない,すなわち,具体的には同年5月12日及び同月17日に受けた通知に係る欠員については,本件選挙において選挙すべき議員の数には含まれないものと解した。 イ市委員会は,市議会議員Cの辞職後の同年5月12日,選挙すべき議員の数はこの時点で2名となるにも拘らず,新聞記者等からの問い合わせに,選挙すべき議員の数は1名のままである旨の回答をするなど,選挙期日の告示の翌日である同年5月22日,本件選挙の選挙すべき議員の数を「1」から「3」に訂正するまでの間,一貫して誤った解釈の下,選挙の管理執行を進めた(乙4)。 ウなお,同年5月12日,本件選挙における選挙すべき議員の数は,市議会議員Cの辞職後も,1名のままである旨の新聞報道がなされていた(乙5)。 エまた,市委員会は,同年5月17日,市議会議員Dの辞職後も,この時点で選挙すべき議員の数は3名となるにも拘らず,これを依然として1名であると考えて以後の手続を執行し,対外的に選挙すべき議員の数が3名になるなどの発表を行ったり,あるいはその旨の言動をとった形跡はない。 (8)ところで,公選法205条1項の「選挙の規定に違反する」とは,選挙管理の任にある機関が選 対外的に選挙すべき議員の数が3名になるなどの発表を行ったり,あるいはその旨の言動をとった形跡はない。 (8)ところで,公選法205条1項の「選挙の規定に違反する」とは,選挙管理の任にある機関が選挙の管理執行の手続に関する明文の規定に違反した場合は勿論,直接の明文の規定がなくても選挙法の基本理念である選挙の自由公正の原則が著しく阻害されるときを指すものと解すべきである(最高裁昭和27年12月4日判決・民集6巻11号1103頁,最高裁昭和29年4月30日判決・民集8巻4号919頁及びその原審である東京高裁昭和28年11月4日判決・高民集6巻1号744頁)。 そして,上記(6)(7)のとおり,本件選挙において,市委員会は,選挙すべ- 22 -き議員の数という,告示すべき事項ではないものの,立候補を検討する者の意思決定に重大な影響を及ぼすことが明らかな事項について,誤った前提のままで報道機関への回答,選挙の管理執行を行ったのであるが,これは立候補の自由を侵害するのみならず,選挙人の選択肢を狭め,ひいては自由公正な選挙を阻害する重大な違反だったのであるから,「選挙の規定に違反する」ことがあったものと認められる。 争点(2)(本件選挙に「選挙の規定に違反すること」があることにより,「選挙の結果に異動を及ぼす虞」があると認められるか否か。)について(1)まず,「選挙の結果に異動を及ぼす虞」がある場合(公選法205条1項)とは,その違法の程度が軽微で選挙の結果に異動を及ぼす虞があり得ないことが十分推察される場合は別として,「選挙の結果に異動を及ぼす」可能性があれば足り,必ずしも選挙の結果に異動を及ぼすことが確実であることや蓋然性があることを要しないと解するのが相当である(最高裁昭和27年12月5日判決・民集6巻11号1127頁,最高裁昭和2 可能性があれば足り,必ずしも選挙の結果に異動を及ぼすことが確実であることや蓋然性があることを要しないと解するのが相当である(最高裁昭和27年12月5日判決・民集6巻11号1127頁,最高裁昭和29年9月24日判決・民集8巻9号1678頁,東京高裁昭和28年11月4日判決・高民集6巻1号744頁,高松高裁昭和56年8月10日判決・高民集34巻3号225頁)。 したがって,「選挙の結果に異動を及ぼす」蓋然性が必要であるとする原告の主張は,採用できない。 (2)そして,選挙すべき議員の数が何名であるかは,選挙の基本的な事項であって,このような事項について選挙の規定に違反することがあったと認められる場合には,一般的に「選挙の結果に異動を及ぼす虞」があるものと認められる。 すなわち,本件選挙においては,候補者及び一般の選挙人に対して,選挙すべき議員の数が誤って周知されたものであるが,一般に公の選挙に立候補しようとする者は,自己の当選の可能性を考え,事前に詳しく選挙作戦,得- 23 -票数等の検討を行うものであり,その際には選挙されるべき者の数を念頭に置き,自己の支持層,地域等を考慮するとともに,競争者である他の候補者又は候補者になろうとする者の動向やその支持基盤などに注意を払い,これら様々な要素を総合的に検討して,立候補するか否か,さらには選挙運動の方法などを決定するものと考えられるから,選挙すべき者の数が何名であるかということは,候補者又は候補者になろうとする者にとって最大の関心事であり,その数によっては,立候補者の数に影響を及ぼすことや,競争率,候補者の顔ぶれなどにも影響を与え,ひいては選挙人の判断にも影響を及ぼして選挙の結果(当落)に異動を及ぼす可能性の存することは容易に推察されるところである。 (3)確かに,原告が指摘するよう 率,候補者の顔ぶれなどにも影響を与え,ひいては選挙人の判断にも影響を及ぼして選挙の結果(当落)に異動を及ぼす可能性の存することは容易に推察されるところである。 (3)確かに,原告が指摘するように,本件選挙においては,選挙すべき議員の数が増加して(平成18年5月12日及び同月17日)から告示日(同年5月21日)までの期間は短いものではある。 アしかしながら,市議会議員であったDは市長選挙に立候補するに当たり同年5月17日に市議会議員を辞職しているが,選挙すべき議員の数に関して正しい情報が周知されていたのであれば,市議会議員を辞職するか否かについても異なる判断の可能性があったこと(なお,辞職しないで立候補をして議員を失職した場合,これに伴う欠員については選挙すべき議員の数に含まれないから,本件選挙における選挙すべき議員の数は「2」のままで「3」とはならず,明らかに選挙の結果に異動が生じることになる。),イさらにはDの辞職の時期についても,本件選挙に対する自己の党派の選挙戦術を有利にするために,もっと早期に辞職してその党派の政治活動や選挙の準備が充実されたなどの可能性があるうえ,実際,同党派が,本件選挙にも候補者を擁立した可能性は高いとの主張がなされ,本件選挙の最下位当選者の得票数が1万4302票であったのに対し,市長選挙におけ- 24 -るDの得票数が1万7995票であったという事情の存すること(前提となる事実(1)ケ,乙6),ウ市委員会が選挙すべき議員の数の訂正をした直後,K公認での出馬を当初目指していた衆議院議員秘書の男性が,「(当選する席が)3つあるなら党勢拡大のチャンスだった」との,Kの関係者が,「被選挙数3なら民主として2人擁立を目指したはずだ」との発言をした旨の新聞報道されていたこと(乙7,8),などの事情 「(当選する席が)3つあるなら党勢拡大のチャンスだった」との,Kの関係者が,「被選挙数3なら民主として2人擁立を目指したはずだ」との発言をした旨の新聞報道されていたこと(乙7,8),などの事情も認められ,立候補の決意時期から告示日までが短期間だからといって,その者の知名度,組織力によっては,長期の準備を経たものと比し集票力がないものと一概に言えないと考えられることにも照らすと,本件選挙における選挙すべき議員の数について誤った周知を行ったことが,違法の程度が軽微で選挙の結果に異動を及ぼす虞があり得ないことが十分推察されるものであったとは到底言えないところである。むしろ選挙の結果(選挙すべき議員の数が「3」となったか否かを含む。)に異動を及ぼす具体的な可能性があったともいえるところである。 原告は,選挙すべき議員の数が増加してから告示日までの期間が短期間であって,選挙すべき議員の数が正しく周知されていても,他の立候補者が現われた可能性は非常に少なかったし,仮に,別の候補者があっても当選した3名以外に当選者が出た可能性はないと主張し,それに沿う内容の供述等(甲15)をする。 しかし,立候補については平成18年5月12日の段階でその決意をしても間に合うと主張する者もいるうえ(乙9),上記イ,ウの事情に照らせば,原告の主張のとおり本件選挙で当選した3名以外に当選者が出た可能性がないとまでは断定できないし,原告の主張によっても上記アの事情による選挙結果の異動の可能性は否定できないことを勘案すると,原告の上記主張を採用することはできない。 - 25 -(4)さらに,原告は,①再補欠選挙によって選挙される議員の活動期間は極めて短期間になること,②本件選挙により選出された3名のうち1名については,最初から選挙の違法はないこと,③本件選挙で選出さ (4)さらに,原告は,①再補欠選挙によって選挙される議員の活動期間は極めて短期間になること,②本件選挙により選出された3名のうち1名については,最初から選挙の違法はないこと,③本件選挙で選出された3名の議員は,民意が反映されて選出されていること,④再補欠選挙を執行すると少なくとも選挙費用は8000万円以上かかるが,公職選挙法は議員が1人でも欠員が生じたときに必ず補欠選挙を執行することを予定はしていないこと(公選法113条1項6号),⑤本件選挙に立候補を予定していた人物が市委員会に異議の申出をしていないこと,⑥2名分の議員候補者の立候補届出のための準備は極めて短期間(10日ないし5日)しかなく,事実上,立候補届出のための準備,届出に必要な申請書類の取り揃えなどが不可能に近い状況であったことなどの事情を指摘し,このような場合には具体的に「選挙の結果に異動を及ぼす虞」が生じたことが認められなければ,「選挙の結果に異動を及ぼす虞」があるとの判断はできないと主張する。 しかし,上記(1)のとおり,原告の上記主張はその前提において採用できないうえ,その指摘する各事情についても,次の点を指摘することができる。 ア本件選挙については,上記(2)(3)のとおり,選挙すべき議員の数を誤って周知させるという選挙の規定に違反することにより「選挙の結果に異動を及ぼす虞」があると認められるように,全体として正しい手続で実施されたのではないから,本件選挙により選出された3名のうち1名については,最初から選挙の違法はないとか(②),本件選挙で選出された3名の議員は民意が反映されて選出されているということはできない(③)。 イまた,公選法は,上記2(2)のとおり,地方公共団体の議会の議員の補欠選挙については,選挙実施に伴う経済的な負担やその他の様々な負担,さら が反映されて選出されているということはできない(③)。 イまた,公選法は,上記2(2)のとおり,地方公共団体の議会の議員の補欠選挙については,選挙実施に伴う経済的な負担やその他の様々な負担,さらに補欠選挙の実施に一定期間を要することなどを考慮して,欠員数,時期の面から補欠選挙の実施に一定の制約を課し,既にその調整を図っているのであるから,再補欠選挙によって選挙される議員の活動期間,再補- 26 -欠選挙の執行に伴う費用などは上記(2)(3)の判断において考慮すべき事情ということはできない(①,④)。自由で公明公正な選挙の実施により民主政治の基礎となる議員等を選出することの重要性に鑑みれば,選挙の規定に違反することによって「選挙の結果に異動を及ぼす虞」があると認められる以上,再補欠選挙を実施すべきものであり(なお,本件では,市議会議員の任期が平成19年4月30日までのため公選法34条2項により実際には再補欠選挙は行われない。),上記①④の事情やさらには本件選挙で当選した3名の議員の利益や,再補欠選挙に伴う市政の停滞なども,上記(2)(3)の判断において考慮すべき事情には当たらないというべきである。 ウさらに,本件選挙に立候補を予定していた人物が市委員会に異議の申出をしていないことや(⑤),選挙すべき議員の数が増加した後の立候補届出等のための準備期間が短期間(10日ないし5日)であることは(⑥),上記(3)で検討のとおり,本件選挙の結果に異動を及ぼす虞があり得ないことを基礎づける事情とは到底言えない。 (5)以上のとおり,本件選挙には,「選挙の規定に違反すること」があることにより,「選挙の結果に異動を及ぼす虞」があるものと認められるから,本件選挙は無効とすべきものと認められる。 争点(3)(本件につき,行政事件訴訟法31条1項 選挙の規定に違反すること」があることにより,「選挙の結果に異動を及ぼす虞」があるものと認められるから,本件選挙は無効とすべきものと認められる。 争点(3)(本件につき,行政事件訴訟法31条1項を準用すべきか否か。)について(1)原告は,仮に本件選挙が,選挙の規定に違反して行われ,その違反の有無により選挙の結果に異動を及ぼす虞があったとしても,本件選挙を無効とすることは,公の利益に著しい障害が生じ,かつ,公共の福祉に適合しないと認められるから,行政事件訴訟法31条1項の規定の準用により,被告の裁決を取り消したうえで,本件選挙が違法であることを宣言するに止めるべきであると主張する。 - 27 -(2)アしかし,公選法219条1項は,選挙関係訴訟に対する訴訟法規の適用関係を規定するが,「特別の事情による請求の棄却」を規定する行政事件訴訟法31条の準用を明示的に排除している。また,公選法216条2項は,選挙関係の争訟に関し,行政争訟制度の一般法である行政不服審査法の準用につき規定するが,ここでも「事情裁決」を規定する行政不服審査法40条6項は準用されていない。 イまた,原告指摘の判決(最高裁昭和62年2月17日判決・判例時報1243号10頁)は,地方公共団体の議会の議員の定数配分を定めた条例の規定そのものの違法を理由とする地方公共団体の議会の議員の選挙の効力に関する訴訟が公選法203条の規定による訴訟として許されることを前提に,当該選挙が違法な議員定数配分規定に基づき行われた点で違法であるものの,行政事件訴訟法31条1項の基礎に含まれている一般的な法の基本原則に従い当該選挙を無効としないこととするのが相当であると判断した原判決を支持するものである。 しかしながら,上記のように議員定数配分規定の違法性(違憲性)を理由に当該選挙の いる一般的な法の基本原則に従い当該選挙を無効としないこととするのが相当であると判断した原判決を支持するものである。 しかしながら,上記のように議員定数配分規定の違法性(違憲性)を理由に当該選挙の効力を争う訴訟においては,選挙無効の判決によって当該選挙により選出された議員がいなくなるという結果は得られるものの,真に憲法に適合する選挙が実現されるためには公選法自体の改正をまたなければならないなどの理由から,行政事件訴訟法31条1項の基礎に含まれている一般的な法の基本原則に従い当該選挙を無効としないこととするのが相当であると判断されているところ,本件は,議員定数配分規定の違法性(違憲性)を問題とする事案ではなく,本件選挙が無効とされた後において,公選法に基づき適法な再選挙を実施することが不可能といった事情もないのであるから,本件を議員定数配分規定の違法性(違憲性)を理由に当該選挙の効力を争う訴訟と同視することはできない。 ウしたがって,本件について行政事件訴訟法31条1項の規定を準用する- 28 -ことは許されず,さらに同条の基礎に含まれている一般的な法の基本原則に従い本件選挙を無効としない旨の判断をすることも許されないというべきである。なお,原告は,本件に行政事件訴訟法31条1項の規定を準用することを根拠付ける事情をるる指摘するが,いずれも上記判断を左右するに足りるものではない。したがって,原告の上記主張は採用できない。 第4 結論 よって,原告の請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとし,主文のとおり判決する。 名古屋高等裁判所民事第3部裁判長裁判官青山邦夫裁判官坪井宣幸裁判官田邊浩典 第3部 裁判長 裁判官 青山邦夫 裁判官 坪井宣幸 裁判官 田邊浩典
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