平成9(あ)719 強盗殺人、死体遺棄、有印私文書偽造、同行使、詐欺被告事件

裁判年月日・裁判所
平成11年12月16日 最高裁判所第一小法廷 決定 棄却 札幌高等裁判所
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判決文本文4,186 文字)

主文 本件上告を棄却する。 理由 検察官の上告趣意は、判例違反をいう点を含め、実質は量刑不当の主張であって、刑訴法四〇五条の上告理由に当たらない。 なお、所論にかんがみ職権で調査すると、原判決には、以下に述べるように、量刑の基礎となる事実に関する認定、評価の誤り又はその疑いが認められるが、いまだ原判決を破棄しなければ著しく正義に反するとは認められない。 一本件は、被告人が、A(当時一九歳)と共謀の上、Aの両親であるB及びC(いずれも当時四五歳)を殺害して金品を強取しようと企て、平成三年一一月二二日午前一時ころ、札幌市内の居宅で就寝中のB及びCの各身体を包丁で突き刺し、両名をその場で失血死させて、現金二十数万円、貯金証書、預金通帳、生命保険証券等を強取し(第一審判決判示第一の強盗殺人)、同年一二月一日、同市郊外の原野において、自動車の座席に乗せたBとCの死体にガソリンを散布して着火し、自動車とともに土中に埋没させてこれを遺棄し(同判決判示第二の死体遺棄)、また、同年一一月二二日から同年一二月一七日までの間に、強取した貯金証書、預金通帳、生命保険証券等を利用し、関係書類を偽造、行使して、預貯金や生命保険の解約等の名目で合計四五八万円余を騙取した(同判決判示第三ないし第六の各有印私文書偽造、同行使、詐欺)という事案である。 二原判決は、本件につき、殺害方法等に関し入念に下調べや実験をし、あるいは犯跡隠ぺいのための事後工作を検討するなどして敢行された極めて計画性の高い犯行であること、その動機も、被告人と同居するAの所在を確かめようとした被害者夫婦を逆恨みするばかりでなく、その財産の獲得を企てて同人らを殺害しようとしたもので、酌量の余地が全くないこと、犯行の態様が極めて冷酷、残忍で、凶悪- と同居するAの所在を確かめようとした被害者夫婦を逆恨みするばかりでなく、その財産の獲得を企てて同人らを殺害しようとしたもので、酌量の余地が全くないこと、犯行の態様が極めて冷酷、残忍で、凶悪- 1 -なものであること、その結果、被害者夫婦に非業の死を遂げさせ、高額の財産的損害も生じさせたこと、遺族の精神的苦痛や本件の社会的影響等も極めて大きいことのほか、被告人につき、Aと比較しても、動機面で明瞭性、積極性が認められ、殊に犯行の実行面で主導的であったことが明らかであることなどを指摘し、被告人を極刑に処すべきであるとの検察官の主張には相当の根拠があるとしつつ、被告人のため考慮すべき諸事情もあるとして、被告人を無期懲役に処した第一審判決の量刑を是認している。 原判決が被告人のため考慮すべき事情として最も重視したと認められる点は、Aにおいても、固有の動機を持って殺害計画の立案、検討、準備をし、実行行為の一部を分担し、殺害後も犯跡隠ぺい工作や財産取得行為を積極的に行うなど、本件の全般にわたって被告人にほとんど匹敵する役割を果たしたと認められ、被告人との間で罪責に歴然といえるほどの差異がなく、またAの関与なしには本件は実行できなかったというべきところ、そのAについては既に無期懲役の判決が確定しているということである。 三以上のような原判決の認定、評価のうち、本件における被告人とAの役割に関する部分については、以下のとおり、首肯できない点あるいは誤ったものと疑われる点がある。 1 まず、原判決が、被害者夫婦の殺害を発案した者が被告人であると認定することができる旨の原審検察官の主張を排斥し、右発案者が被告人であるとの認定をしなかった第一審判決の判断を支持している点は、首肯できない。 原判決の認定によると、被告人は、Aの所在を探そうとする被害者 ことができる旨の原審検察官の主張を排斥し、右発案者が被告人であるとの認定をしなかった第一審判決の判断を支持している点は、首肯できない。 原判決の認定によると、被告人は、Aの所在を探そうとする被害者夫婦に対していわれのない反感を抱き、Aとの生活を邪魔されたくないと考えるとともに、被害者夫婦の財産の獲得をねらうという利欲的動機を抱いて本件強盗殺人を犯したというのであるが、被告人の右利欲的動機が極めて強固であったことは、当時被告人の- 2 -事業がかなり苦しい経営状態にあったこと、被害者夫婦を殺害した後、直ちに預貯金、生命保険の解約等により相当額の金銭を取得し、その多くを被告人自身が管理、費消したほか、種々の方法を講じて被害者夫婦の居宅を含む全財産を現金化しようとしたことなど、記録によって認められる本件の諸事情に照らしても明らかなところである。このような被告人の利欲的動機の強固さに加え、被告人と親しく交際していた女性らが、本件の前年に被告人から夫の殺害を働きかけられたことがあるという趣旨の供述をしていることなどを併せ考慮すると、本件において被告人が被害者夫婦の殺害を発案したものと認める余地が十分に存在する。発案者が被告人と認められるのであれば、その後、被告人が被害者夫婦の殺害をAに働きかけ、Aをこれに同調させて、本件の一連の計画、準備を遂げていったものと認めることも可能となる。 2 また、原判決は、本件強盗殺人の計画、準備等の段階と、殺害後の犯跡隠ぺい工作、財産取得等の段階において、被告人がAに与えた影響の強さを適切に評価していない疑いがある。 本件の計画、準備等に当たっては、Aもこれに相当積極的に関与していたことが否定できず、殊に、強盗殺人の犯行当夜には、Aが被告人に先立って被害者夫婦の居宅に入り、被害者夫婦にうそを言って睡眠薬入り 本件の計画、準備等に当たっては、Aもこれに相当積極的に関与していたことが否定できず、殊に、強盗殺人の犯行当夜には、Aが被告人に先立って被害者夫婦の居宅に入り、被害者夫婦にうそを言って睡眠薬入りの茶を勧めるなどしたことが認められる。しかし、Aが行ったこれらの行為の多くは、被告人が犯行の全般について主導的な立場にあったとしても、やはり被害者夫婦の実子であるAが実行するほかない性質の事柄であり、被告人がAに指示あるいは示唆して行わせた疑いが大きいものといわなければならない。さらに、被告人らは、被害者夫婦を殺害した後、その金品を強取し、預貯金、生命保険の解約等をし、被害者夫婦の死体を埋める場所を確保するため、不動産業者に依頼して原野を購入した上、同所に死体を遺棄し、偽造した遺書を用意するなどして被害者夫婦の自殺を装うため手の込んだ工作をし、- 3 -また被害者夫婦の居宅の土地建物の売却も試みるなど、種々の行為に出ているところ、原判決は、これらの行為に当たっては、被告人が多くの点で率先して重要な役割を果たしたと認められるとしつつ、他方、Aも種々の点で積極的な関与をしていたと指摘している。しかし、この段階におけるAの関与についても、計画、準備等の段階におけると同様、被告人がAに指示あるいは示唆して行わせたという可能性が否定できない。 3 以上のように、本件における被告人とAの役割に関する原判決の認定、評価のうちには、首肯できない点あるいは誤ったものと疑われる点があり、これらの点が、被告人に対する刑を量定するに当たって影響を及ぼすべき重要な事項に関するものであることは、否定できない。 四しかしながら、原判決も、被告人の動機について、精神的動機のほかに明確で積極的な利欲的動機が認められると指摘しているほか、殺害の実行に当たっては、被告人の るものであることは、否定できない。 四しかしながら、原判決も、被告人の動機について、精神的動機のほかに明確で積極的な利欲的動機が認められると指摘しているほか、殺害の実行に当たっては、被告人の方がAより主導的であったと判断し、殺害後の犯跡隠ぺい工作、財産取得等の面においても、前記のとおり、被告人が多くの点で率先して重要な役割を果たしたと認められると判断しているのであり、必ずしも、犯行全般にわたって被告人の方がAより主導的であったことを否定しているわけではない。原判決のうち、Aが本件の全般にわたって被告人にほとんど匹敵する役割を果たしたと認められるという判断も、被告人の方が主導的であったことを前提とする表現と解することができる。 そして、Aにおいても、本件の具体的な計画、準備等の段階で自ら発案するなどして積極的に関与し、実行行為の一部を分担したほか、殺害後の犯跡隠ぺい工作、財産取得等の段階でも積極的に関与し、相当重要な役割を果たしたものと認められる。したがって、被告人が被害者夫婦の殺害を発案してAを同調させ、計画、準備等の段階や殺害後の場面において、Aに指示あるいは示唆していたことが認められ- 4 -るとしても、Aが本件の全般にわたって主体的に関与したことは否定できない。特に、被害者夫婦の殺害計画は、その実子であるAが最終段階までに翻意していれば実行が不可能であったと考えられ、Aが右計画に最後まで同調し、積極的に加担したことが、その実現に大きくあずかっているものと認められる。そうすると、格別非違のない両親の殺害計画にたやすく同調して本件犯行に積極的に加担したAの責任も、極めて重いものといわざるを得ない。 以上のような被告人とAの本件犯行への関与の状況に加えて、その他の量刑事情を総合的に考慮すると、先に指摘した原判決の認定、評価の 行に積極的に加担したAの責任も、極めて重いものといわざるを得ない。 以上のような被告人とAの本件犯行への関与の状況に加えて、その他の量刑事情を総合的に考慮すると、先に指摘した原判決の認定、評価の誤りなどが是正されたとしても、いまだ、被告人に対し、Aに対して言い渡された無期懲役刑とは歴然とした差異のある極刑に処すべきものとまでは断定し難い。 そうすると、無期懲役に処した第一審判決を是認した原判決を破棄しなければ著しく正義に反するものとは認められない。 よって、刑訴法四一四条、三八六条一項三号により、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり決定する。 (裁判長裁判官井嶋一友裁判官小野幹雄裁判官遠藤光男裁判官藤井正雄裁判官大出峻郎)- 5 -

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