平成18(ろ)2 業務上過失傷害,道路交通法違反被告事件

裁判年月日・裁判所
平成18年11月8日 高岡簡易裁判所
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判決文本文4,973 文字)

主文 被告人は無罪。 理由 本件公訴事実は,「第1被告人は,平成18年1月4日午前5時10分ころ,業務として普通貨物自動車(以下「本件車両」という。)を運転し,富山県射水市内の道路(以下「本件事故現場」という。)を,富山市方面から射水市方面に向かい時速約40キロメートルで進行するにあたり,前方左右を注視し,進路の安全を確認しつつ進行すべき業務上の注意義務があるのにこれを怠り,進路右側の建物に気をとられるなどし,前方注視を欠いたまま進行した過失により,折から台車(以下「本件台車」という。)を押して立っていた被害者(当時81歳)を進路前方左側約8.8メートルに迫って発見し,急制動及び右に急転把の措置を講ずるも間に合わず,台車等に自車左前部を衝突させて同人を転倒させ,よって,同人に加療約2週間を要する左下腿挫滅創等の傷害を負わせた。 第2被告人は,上記のとおり,被害者に傷害を負わせる交通事故(以下「本件事故」という。)を起こしたのに,直ちに車両を停止して,同人を救護する等必要な措置を講ぜず,かつ,その事故発生の日時及び場所等法律で定める事項を,直ちに最寄りの警察署の警察官に報告しなかった。」というのである。 被告人は,公判廷において,本件事故発生時刻ころ,本件車両を運転して本件事故現場を富山市方面から射水市方面に向かって走行していたことは認めるが,自らは犯人でないとして,公訴事実におけるその犯人性を否認する旨供述している。 そして,被告人は,本件事故現場を通ったとき,進行道路右側にある「甲ビル」駐車場に回転灯を回した新型クラウンのパトカーが同道路方向を向いて駐車 し,同道路左側に本件台車だけがあり,しばらく走ると,銭湯の前辺りで,サイレンを鳴らして富山市方面に向かって走る救急車とすれ違ったと弁明している。 検察官 ンのパトカーが同道路方向を向いて駐車 し,同道路左側に本件台車だけがあり,しばらく走ると,銭湯の前辺りで,サイレンを鳴らして富山市方面に向かって走る救急車とすれ違ったと弁明している。 検察官は,被害者が加害車両の色と形を見間違えた可能性があること,本件車両左前部ウインカーランプ(以下「本件ウインカーランプ」という。)部分が被害者が押していた台車上のかご(以下「本件かご」という。)上部左端部分に衝突等した可能性があること,同車両が被害者の左ひじ等の身体に衝突等した可能性があること,被告人の捜査段階での自白は信用性が高いが,被告人の公判廷での供述は信用性が低いことなどを指摘して,被告人が犯人であると主張している。 そこで,以下において検討する。 (1)被害者の公判廷における供述によると,被害者は加害車両を黒い乗用車と認識していること,警察官から取調べを受けたときもその旨述べていたこと,被害者宅では本件車両と同じ白い軽四トラックを保有し,被害者はその色と形について十分な認識があったことが認められる。ところが,上記供述,捜査関係事項照会書謄本,同回答書及び実況見分調書によると,本件事故発生時刻ころの本件事故現場付近は未明で暗かったこと,本件事故は突然起きたもので,被害者も転倒していること,加害車両は被害者が転倒した地点から約30メートル先の道路上で停車したが,その付近も暗かったこと,当時は粗い雪が降り視界が良いといえる状況でなかったこと,被害者の年齢は81歳という高齢で視力も0.4ないし0.5程度しかなかったことなどが認められ,被害者が本件車両の色を黒いものと見間違えた可能性があるが,その可能性があるからといって,被告人が犯人であると認めることができず,むしろ,同供述によれば,約30メートル先で停止した加害車両がテールランプを付けて 車両の色を黒いものと見間違えた可能性があるが,その可能性があるからといって,被告人が犯人であると認めることができず,むしろ,同供述によれば,約30メートル先で停止した加害車両がテールランプを付けていたこと,被害者には,同車両の傍らに犯人と思える人物が立って被害者の様子を見ており,被害者が立ち上がって同人物の方を見ると同人物は同車両に乗って立ち去って行ったことまで認識できたことが認められ,被害者のいた位置とは逆方向に向けて同車両が前照灯を照射していたことが推認でき,その前照灯とテールラン プの明かりで,被害者には同車両及びその停車位置付近の様子がある程度見える状況にあったことが認められる。そうであるならば,加害車両の後ろの形がトラックのように荷台があるようには見えなかった旨の被害者の公判廷における供述には信用性が認められ,本件車両が加害車両であることについて強い疑いを持たざるを得ない。 (2)被害者の公判廷における供述,診断書,検証調書,実況見分調書によれば,本件ウインカーランプには擦過こんのようなものがあり,その位置と本件かご上端の位置とがほぼ一致していること,本件事故によって被害者がその左すね,左ひじ及び右脇腹を受傷したことが認められる。しかし,上記擦過こんのようなものが本件事故によって発生したこと及び加害車両が被害者の身体に接触ないし衝突して同人が受傷したことを認めるに足りる証拠がない。 (3)被告人及び証人Aの各供述によると,被告人は,警察に任意同行された当時,本件犯行を否認していたが,任意同行当日のうちに自白し,それ以降略式命令が発令されるまで,勾留裁判官の前でも否認することなく,逮捕,勾留期間中,一貫して本件犯行を認めており,本件事故の原因,事故状況,その前後の状況,酒気帯び運転で人身事故を起こした職業運転手の心情,逃 が発令されるまで,勾留裁判官の前でも否認することなく,逮捕,勾留期間中,一貫して本件犯行を認めており,本件事故の原因,事故状況,その前後の状況,酒気帯び運転で人身事故を起こした職業運転手の心情,逃げるに至る動機等について具体的かつ詳細に供述し,その内容に矛盾がなく,迫真性があり,一見,自然かつ合理的であるものの,他の証拠と照らし合わせると,次のとおり,その信用性に大きな疑いがもたれ,これを被告人の犯人性についての十分な証拠と認めることができない。 ア本件車両の左前照灯について被告人の自白は,本件事故を起こして本件車両を走らせて逃走する途中,事故前はしっかり前方を照らして道路沿いの左雪壁を明るくしていた同車両の左前照灯が暗く見えることに気付いたが,同車両を止めて確認していたら勤務先の会社に遅れるかもしれないと思ったので,そのまま走り続けて同会社の駐車場に着き,辺りに人がいないことを確認してからエンジンをかけた ままで同車両前部を見ると左前照灯のレンズが奥に引っ込み,右方向を向いているのがわかり,事故のときやはり被害者とぶつかったときに壊れたものと思ったというものであるが,検証調書によれば,確かに本件車両の左前照灯の右側部分は約2センチメートル奥まっているが,そのような外観であるにもかかわらず,同前照灯の光軸位置の測定結果に何ら異常がなく,同前照灯は正常な照射状態であり,また,同前照灯内部には何ら交通事故のこん跡のようなものが認められない状態であったというものである。そうすると,上記前照灯の奥まりは,本件事故によって出来たものでなく,また,上記自白は本件事故を起こしたとする被告人がその逃走過程において経験した事実としては,事実に反するものと認められる。そして,本件事故の捜査段階さらには公訴提起に至った後においても,上記前照灯の奥ま 上記自白は本件事故を起こしたとする被告人がその逃走過程において経験した事実としては,事実に反するものと認められる。そして,本件事故の捜査段階さらには公訴提起に至った後においても,上記前照灯の奥まりは,本件事故によって出来た可能性が高いものとされ,上記自白はその犯人性を裏付ける重要な部分であったところ,同奥まりが本件事故とはまったく関係がなく,同自白部分が虚偽とされる以上,被告人の犯人性については強い疑いを払拭できない。 イ本件事故における衝突時の状況について被告人の自白は,道路左端の被害者を目前に気付いて慌てて急ブレーキをかけ,ハンドルを右に切って避けようとしたが,間に合わずにボコッという大きくて鈍い音がして左前輪が何かに乗り上げるような感じがし,被害者の腰の辺りに衝突したように思った,ハンドルを右に切ったことで,自動車が道路の真ん中辺りに出ていたというものであるが,被害者の公判廷等における供述は,加害車両は避けて行ってくれずに真っすぐに来てぶつかり,そのときガチャンという音がし,ぶつかる直前同車両が急に遅くなった様でなかったし,ブレーキ音も聞こえず,同車両前部左側と押していた台車前部左角とがぶつかったように思う,その台車が自分の左足に当たったことは間違いないが,同車両が自分の左ひじや右脇腹に当たったかどうかはわからないが, ぶつかっていないように思う,同車両が,被害者を避けて道路の中央の方に寄って行ったようには見えなかったというもので両者の間には明らかな相違が認められる。上記自白は,加害車両が被害者の身体に接触ないし衝突したことを前提にしているものと認められるが,同車両が被害者の身体に接触ないし衝突したかどうかは明らかでなく,また,急ブレーキや右急ハンドルという運転操作は,道路前方左側に人がいるのを発見したドライバーが通常 前提にしているものと認められるが,同車両が被害者の身体に接触ないし衝突したかどうかは明らかでなく,また,急ブレーキや右急ハンドルという運転操作は,道路前方左側に人がいるのを発見したドライバーが通常行う運転操作ではあるが,粗い雪も降り,積雪状態であった未明の本件事故現場で自動車運転を職業としていた被告人が,とっさのことではあったとしても,このような危険な運転操作を行ったものとは考えにくいなど,上記被害者の供述と異なる同自白には,疑問の余地がある。 ウ本件事故における衝突後の状況について被告人の自白は,ぶつかって約30メートルくらい進んで止まった本件車両から降りて後方を見ると,被害者が道路上に仰向けになって倒れており,その周囲に新聞紙が散乱していたというものであり,その内容は被害者の公判廷における供述と一致する。ところが,上記4(1)のとおり,当時,被害者の転倒した付近は暗くて視界もよくない状況であったとすれば,被告人に,約30メートル先に新聞紙が散乱して被害者が仰向けの状態で倒れていたところまで見えたとは考えにくく,上記自白には疑問の余地がある。 (4)証人B及び証人Cの公判廷における各供述,住宅地図抜粋写しによれば,上記パトカー及び救急車の存否についてすべての関係機関に対して照会,調査等がなされていないこと,その回答,結果等について確実,十分な資料に基づいたものか疑問があること,被告人が本件事故現場付近を通過する際に被害者とすれ違う可能性があったのはわずか約200メートルの間で,被告人の走行スピードが時速40キロメートル以上であったとすれば,被告人がその間をごくわずかな時間で通過していることが認められ,被告人の前記弁明どおりの状況がなかったとは断定できず,本件では,上記のとおり,有罪を立証すべき証拠 が十分でないのであり,被告 ば,被告人がその間をごくわずかな時間で通過していることが認められ,被告人の前記弁明どおりの状況がなかったとは断定できず,本件では,上記のとおり,有罪を立証すべき証拠 が十分でないのであり,被告人の弁明の立証に不十分な点があるとしても,そのことをもって有罪認定の資料とすることはできない。 以上検討してきたように,被告人を犯人と認定するに足りる証拠がない。したがって,被告人に対する本件公訴事実については,その証明が不十分であって,犯罪の証明がないことになるから,刑事訴訟法336条により被告人に対し無罪の言渡しをする。 よって,主文のとおり判決をする。 平成18年11月8日高岡簡易裁判所裁判官山田孝哉

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