昭和32(う)814 艦船覆没公務執行妨害等被告事件

裁判年月日・裁判所
昭和33年7月3日 福岡高等裁判所
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【DRY-RUN】主    文      被告人A1、同A2の本件各控訴を棄却する。      原判決中被告人A3、同B関係部分を破棄する。      被告人A3を懲役三年及び罰金二〇〇〇円に処する。      被告人

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主文 被告人A1、同A2の本件各控訴を棄却する。 原判決中被告人A3、同B関係部分を破棄する。 被告人A3を懲役三年及び罰金二〇〇〇円に処する。 被告人Bを懲役二年六月に処する。 被告人A3が右罰金を完納し得ないときは、金二〇〇円を一日に換算した期間、同被告人を労役場に留置する。 但し右被告人両名に対し、いずれも三年間右各懲役刑の執行を猶予する。 理由 本件各控訴の趣意は、記録に編綴の弁護人小林明政、同三宅修一(いずれも被告人四名関係)、被告人A3、同B各自提出の控訴趣意書記載のとおりであるから、これを引用する。 弁護人小林明政の控訴趣意中「控訴申立の趣意の(A)、(B)、(C)及び「右控訴の趣旨を申立てる理由」の第一、「第三事実及び第五責任又は違法阻却事実について」の(1)、弁護人三宅修一の控訴趣意第一、二、(一)及び被告人A3、同Bの各控訴趣意中第三事実誤認の論旨について。 小林弁護人は昭和二八年八月一日法律第一五二号海上衝突予防法所定の法規に立脚して論じているが、同法はその附則に示すとおり昭和二九年一月一日より施行されたものであるから、これより先昭和二八年一一月二四日に為された本件公務執行妨害、艦船覆没の所為について、同法に依拠して論難するは失当にして、当時施行の旧法である明治二五年六月二二日法律第五号海上衝突豫防法によるべきである。 尤も右両法は殆んどその趣旨を同じうしているが、本件については旧海上衝突豫防法に基いて判断する。 所論は要するに、C丸船長司法警察員Dは海上衝突予防法の灯火に関する規定を無視して暗夜C丸の前橋灯、左右舷灯全部を消灯し、被告人等が乗船していたE1、F1丸に接近して抜打的に強力な探照灯を照射し、以て被告人等の視覚神 丸船長司法警察員Dは海上衝突予防法の灯火に関する規定を無視して暗夜C丸の前橋灯、左右舷灯全部を消灯し、被告人等が乗船していたE1、F1丸に接近して抜打的に強力な探照灯を照射し、以て被告人等の視覚神経を盲目同様に眩惑させた上、驚いて逃走するF1丸に対し中型機船底曳網漁業取締規則に反して停船信号を行わず、しかも海上衝突予防法所定の航方を全く無視して同船の船首前面を圧迫する意図を以て全速力にて追跡し、右転に際しても航路信号をなさない等数々の違法行為を犯しているから、仮に密漁の現行犯逮捕のためであつたとしても、かかる所為は公務執行の客観的適法要件を欠いだもので公務執行とは認められない、と主張する。 思うに、海上においては陸上におけると異り明確不動の通路がなく交通整理も行われないから、航行の安全確保、殊に船舶衝突防止の方法は、専ら各船舶の船灯、信号、運航方法の如何にかかつているのみならず、万一衝突事故を惹起せんか直ちに多数の人命と莫大なる財産を危殆に瀕せしめるものであるから、船灯、航方、信号等に関する法規が極めて重要不可欠のものであることは論を俟たないところである。さればこそ、我国においても夙に明治三年太政官布告第五七号郵便商船規則を以て海上衝突予防に関する規定が設けられ、爾来この種予防規則が定められたが、次で明治二二年一〇月ワシントン国際海事会議において国際海上衝突予防規則が議定されるや、我国もこれにならい、明治二五年六月二二日これと全く同趣の海上衝突予防法の制定を見るに至つたのである。而して同法各本条の立言形式に同法が第一三条第三〇条を以て軍艦等の灯火と港川等の運航についてのみ特別規定の施行を容認し、又第二七条を以て衝突回避の例外的処置を認めている点を併せ考えると、かかる特殊の場合を除いては、海上航行の船舶はすべて必らず本法所定の灯火、航 の灯火と港川等の運航についてのみ特別規定の施行を容認し、又第二七条を以て衝突回避の例外的処置を認めている点を併せ考えると、かかる特殊の場合を除いては、海上航行の船舶はすべて必らず本法所定の灯火、航方等に関する各種規定を遵守すべ<要旨>き義務のあることが明らかに看取される。 以上のごとき海上衝突予防法の立法趣旨、沿革並びに立言形式に鑑み</要旨>れば、迅速且つ穏密裡に行動することの要請せられる海上における漁業に関する現行犯の検挙のため船舶を運行する場合、海上衝突予防法所定の法規を遵守するにおいてはたとえその機能を阻害される虞れがあつても、なお同法規を遵守すべき義務があり、もしこれを無視して船舶を運行すれば違法の責を免れることはできない。 ところで原判決挙示の関係証拠によれば、長崎県漁業取締船C丸の(木造船、五二、三五屯)船長にして司法警察員たるDは昭和二八年一一月二四日午後四時頃密漁取締の目的を以て長崎港を出港し、長崎県西彼杵郡G灯台沖四浬位をほぼ東南に向けて航行中、同七時二〇分頃船首右舷四五度位に当る約一浬の地点に紅灯一個を認めたので、同所一帯は以西機船底曳網漁業禁止区域である関係上、密漁船てはないかとの嫌疑の下に乗組総員を部署につかせ、C丸の前橋灯、左右舷灯等全部を消灯して進路を右紅灯に向けて航行した上、同七時二五分頃紅灯との距離約四〇〇米に接近した時、C丸の航海灯全部を点灯させると共に電力一〇〇〇ワツトの強力な探照灯を以て照射したところ、紅灯の地点に運搬船を認め、その前方約二〇〇米の位置(従つてC丸より約二〇〇米の距離)に紅灯船を挾んでその左舷側に船首をほぼC丸に向けた(北向)底曳漁船(即ちF1丸、木造船七五、三三屯)が、又右舷側にこれと五、六〇米の間隔を置いて船首を稍右方に向けた(西北向)僚船(即ちE1丸)が(両船の位置はほぼハ 左舷側に船首をほぼC丸に向けた(北向)底曳漁船(即ちF1丸、木造船七五、三三屯)が、又右舷側にこれと五、六〇米の間隔を置いて船首を稍右方に向けた(西北向)僚船(即ちE1丸)が(両船の位置はほぼハの字型)、何れも船灯全部を消し船尾に魚索を曳いてゆつくり移動しており、照射と同時に右側の船(E1丸)は西南方に逃走し、左側の船(F1丸)は激右転(一八〇度右回転)して南方に逃走せんとしたので、Dは右両船を密漁の現行犯と認め、時速約一〇浬を以てF1丸を同船と約五〇米の間隔を保らつつその右舷側より平行状態で追跡を始め、約三分間追跡した時右追越船が漁業取締船なることを察知したF1丸は約二〇度右転したのでC丸もこれに応じて同角度右転し、更に約一分間追跡してC丸の船首がF1丸の船尾(両船の間隔は約五〇米)に追いついた頃、同船が突如ほぼ直角に右転してC丸の左舷側に迫つたため同船はこれを避けんとして急速左舵を採つたが及はず、遂にF1丸の船首はC丸の左舷機関部附近にほぼ直角に衝突し同船は阿部を破損されて浸水し忽ち沈没した事実及びC丸は右追跡中終始F1丸の右舷側後方に併進してその右舷船尾附近を照射していた事実が認められる。従つて、C丸船長司法警察員Dが密漁船と思ぼしき紅灯一個を認めるや、前橋灯、左右舷灯全部を消して接近したことは犯罪検挙のためであつても旧海上衝突予防法第二条各号に違反し、又F1丸を追跡中同船の右転に応じて自らも右転した際航路信号をしなかつたのは同法第二八条に違反すること所論のとおりである。 なお同人は停船信号をしないで直ちにF1丸を追跡しているけれども、元来中型機船底曳網漁業取締規則第二六条は漁業取締官憲より停船信号があつた場合において底曳網漁船が停船すべき義務のあることを定めたものにして、停船を命ずると否とは専ら当該官憲の自由裁量に属するも 、元来中型機船底曳網漁業取締規則第二六条は漁業取締官憲より停船信号があつた場合において底曳網漁船が停船すべき義務のあることを定めたものにして、停船を命ずると否とは専ら当該官憲の自由裁量に属するものと解すべきところ、C丸船長司法警察員DはF1丸が探照灯で照射されるや直ちに逃走を始めたので、停船信号をなす暇なく又右信号をしてもその効なきものと認めて直ちに追跡したことは挙示の関係証拠により認められるから、同人が停船信号をしないで追跡したことは毫も違法とは謂われない。 又所論は探照灯による照射は船灯の識別や適当な見張を妨害するから、海上衝突予防法第一条二項に違反すると主張するが、密漁検挙のためであつても強力な探照灯を正面より長く直射して故ら視覚を眩惑させるがごときは格別、左様な事実の認められない本件においてこれを使用したからといつて必ずしも同条に違反するものとは謂われない。のみならず、旧海上衝突予防法第一条には「此ノ時間中(日没ヨリ日出マデ)ハ本法ニ定メタ船灯ノ外之ニ紛レ易キ灯ヲ掲グベカラズ」とのみ規定されて所論のような規定がないところ、探照灯は前檣の白灯、左右両舷の紅緑灯とは一見明確に識別し得べき性質のものであるから、強力な探照灯で照射しても右第一条に違反するとは謂われない。 更に所論はC丸がF1丸を追跡中、同船の約二〇度右転に応じて自らも同角度右転したのは旧海上衝突予防法第二四条第二二条所定の航方に違反したものと主張する。ところで原判決の挙げた関係証拠によると、C丸は当時約一〇浬の時速を以て約九浬の時速で逃走するF1丸を追跡したのであるから、同法第二四条第二二条によりF1丸の進路を避けねばならないのであり、又同船の前面を横切つてならないことは所論のとおりであるが、当時C丸はF1丸と約五〇米の間隔を保つてその右舷側後方より同船と平行に 同法第二四条第二二条によりF1丸の進路を避けねばならないのであり、又同船の前面を横切つてならないことは所論のとおりであるが、当時C丸はF1丸と約五〇米の間隔を保つてその右舷側後方より同船と平行に進行していたのに、F1丸が突如約二〇度右転したので、C丸は直進して同船より遠ざかることは追跡の目的に副わないから従来の併進状態を保持するため同角度右転したものにして、その儘進めばF1丸の進路を避けることになり、従つて前面を横切る結果を来たす虞はないから、C丸の右転は毫も右各本条の航方に反するものとは謂われない。ところで、F1丸はこれに反して逃走中船灯全部を消していたのみならず、被追越船であるから同法第二一条によりその進路を保持しなければならないのにこれに違反し、しかも同法第二八条を無視して航路信号すらしないで、徒らに進路を約二〇度右転した上C丸がその船尾に接近した頃再び突如直角に右転して本件衝突事故を惹起させた数々の重大なる違法を繰返したものである。 そもそも公務執行妨害罪が成立するにはその職務の執行が適法であることを要するのは勿論であるが、該職務行為が公務員の抽象的且つ具体的権限に属し、しかも法律上重要な手続の形式に適つておれば、たとい執行の過程において多少の反法行為があつても公務執行の適法性に消長を及ぼすものでないと解するを相当とする。 原判決の挙示した関係証拠によれば本件においてC丸船長司法警察員Dが紅灯一個を発見してからF1丸を追跡したる密漁現行犯検挙に関する一連の各行為はすべて同人の抽象的且つ具体的職務権限に属し、しかも法律上重要な手続の形式に適つていることが明らかであるから、船舶の運航に際し旧海上衝突予防法の船灯、航路信号等に関する規定に違反しても、同人の前記行為は適法なる職務執行行為と謂わねばならない。 なお所論はC丸船長Dは に適つていることが明らかであるから、船舶の運航に際し旧海上衝突予防法の船灯、航路信号等に関する規定に違反しても、同人の前記行為は適法なる職務執行行為と謂わねばならない。 なお所論はC丸船長Dは暗夜突如として最大光力六七万燭光の探照灯を照射し、F1丸を操舵していた被告人A3、同Bの視覚神経を終始眩惑せしめて盲目同様に陥らしめたため、右両名はC丸の船影、船灯、進路を知り得なかつたものであると主張する。なるほど約二〇〇米離れたC丸より暗夜突如強力なる探照灯で照射されるにおいては、F1丸の船首はほぼC丸と向き合つていたのであるから当時操舵室に居た被告人両名が一時真向いから強い光芒を受けて視覚を眩惑されたであろうことは首肯できるが、両名は直ちにF1丸を約一八〇度激右転して逃走を始め約五分後に衝突したことは前認定のとおりであつて、しかも右回転に慶する時間が四〇秒前後であることは原審鑑定人H、同I作成の鑑定書により窺われるから、右両名は最初の二、三〇秒を経過した以後においては常に背後より照射されており、しかも前認定のとおり光芒は主として船尾附近を照し且つ又操舵室は後部に板壁と煙突が設けられてこれに遮られていることが原審検証調書により認められるから、被告人両名は最初の二、三〇秒間を除いては左程視覚の眩惑を来さなかつたことが窺われるのみならず、後記認定のとおりC丸は約八〇米以内の近距離に迫つていたのであるから、これ等の点を考慮にいれ原審鑑定人J作成の鑑定書(一部)を参酌して原審検証調書及び当審証人Iの証言を綜合すれば、右被告人両名は激右転して逃走中は左程視覚神経を眩惑されることなく、右舷後方近距離に追跡して来るC丸の船影、船灯、方向等を大体認め得たものと断じなければならない。 又所論は原審検証及び海難審判庁における検査の際使用されたC丸の探照灯は本 覚神経を眩惑されることなく、右舷後方近距離に追跡して来るC丸の船影、船灯、方向等を大体認め得たものと断じなければならない。 又所論は原審検証及び海難審判庁における検査の際使用されたC丸の探照灯は本件発生当時のC丸の探照灯より光度が弱かつたと主張するが、原審証人Kの証言によればかかる事実は認められないし、又記録を精査してもこれを認めることはできない。従つて右検証調書並びに検査調書を事実認定の証拠に供することは毫も違法とは謂われない。 更に所論は原審鑑定人H、同I両名作成の鑑定書中「鑑定四は鑑定出来ない」とあるのは、同人等が実験の結果視力を眩惑されるという結論に達し乍らも、他より不法な圧迫を受けこれを鑑定書に明記することができなかつたので已むなくかかる表現を採つたものであると主張するが、原審並びに当番における右両名の証言によれば、検証当時の状況は本件発生当時の客観的状況と光源の移動その他の点において符合しない関係上、本件発生当時の視力につき判定し得なかつたため所論の如き結論を出したものにして他意の存しない事実が明らかである。 記録を精査するも原判決に所論の如き事実誤認、採証の誤りは存しない。論旨はすべて理由がない。 弁護人小林明政の控訴趣意中「右控訴の趣旨を申立てる理由」の第一、「第三事実及び第五責任又は違法阻却事実について」の、(2)、弁護人三宅修一の控訴趣意第一、二、(二)、(三)、被告人A3、同Bの各控訴趣意中第三事実誤認の論旨について。 所論はC丸が探照灯を以てF1丸を照射してより衝突するまでは二分三〇秒以内であつて、衝突直前のC丸の時速は一〇浬、F1丸の時速は約八浬であつたと主張する。なるほどC丸の当時の時速が一〇浬であつたことは所論のとおりであるが、原審証人L、同M、同Nの各証言、被告人A3の検察官に対する供述調書、F1 の時速は一〇浬、F1丸の時速は約八浬であつたと主張する。なるほどC丸の当時の時速が一〇浬であつたことは所論のとおりであるが、原審証人L、同M、同Nの各証言、被告人A3の検察官に対する供述調書、F1丸検査成績書、原審検証調書によれば、F1丸の当時の時速は約九浬であつたことが認められる。 ところでC丸が探照灯で照射するや約二〇〇米離れたところにほぼ同船と船首を向合つていたF1丸は時速約九浬を以て直ちに激右転して逃走を始め、C丸も直ちに時速約一〇浬を以てこれを追跡して同船の船首がF1丸の船尾に追いついた頃、同船が突如約九〇度激右転しC丸の左舷に迫つて衝突したことはさきに認定したとおりであるが、原審鑑定人H、同I作成の鑑定書によれば、F1丸が全速で約一八〇度回転するに要する時間は約四〇秒なることが認められるから、同船が旋回し終るまでにC丸は約一二〇米前進してF1丸との距離は約八〇米に迫り、それより毎分二〇米宛同船に接近することが算数上窺われるから、(一浬を一八五二米とすれば時速一〇浬のC丸の分速は約三〇〇米、時速九浬のF1丸の分速は約二八〇米となる)C丸がF1丸の船尾に追いつくには約四分を要することこれまた算数上明らかであつて、該事実を参酌して原審証人D、同Oの各証言を綜合すれば、探照灯を照射してより衝突までは約五分を経過していることが認められる。 次に所論はC丸は暗夜近距離から突如強力な探照灯を以てF1丸を照射し被告人A3、同Bの視覚神経を眩惑せしめて盲目同様に陥らしめ、しかも海上衝突予防法の規定に違反してF1丸を追跡しその前面を圧迫せんとしたものであるから、右被告人両名に衝突防止の措置を期待することは不可能であり、原審が鑑定人H、同I作成の鑑定書、鑑定人P、同J各作成の鑑定書、鑑定人Q、同R作成の鑑定書を排斥して被告人両名の視力が盲目 のであるから、右被告人両名に衝突防止の措置を期待することは不可能であり、原審が鑑定人H、同I作成の鑑定書、鑑定人P、同J各作成の鑑定書、鑑定人Q、同R作成の鑑定書を排斥して被告人両名の視力が盲目状態に陥つていなかつたと認定したのは経験則、採証法則に違反すると主張する。けれども、本件衝突当時右両名の視覚神経が左程眩惑されないで約八〇米以内に接近しているC丸の船影、灯火、進路等を大体認め得たこと、C丸が灯火と航路信号に関する旧海上衝突予防法の規定に反した点を除いては、刑事法、取締法等すべての法規を遵守していることはさきに認定したとおりであるのみならず、C丸がF1丸の進路前面を圧迫せんとした事実は認め難く、却つて同船こそ旧海上衝突予防法の航方等に関する規定を無視して突如二〇度右転した後更に約九〇度激右転してその船尾附近に併進中のC丸左舷に迫つて重大なる違法を敢てしたものであるから、被告人等に衝突防止の期待可能性がないと謂われないのは勿論である。しかも所論の各鑑定書を仔細に検討すれば、右各鑑定書から直ちに所論の如き視力盲目の判定に達するものではなく、却つてさきに認定した如き当時の状況下においては右被告人両名が八〇米以内の近距離に迫つたC丸の船影、灯火、進路を大体認め得たことを窺い得られ、原審が右各鑑定書を事実認定の証拠に供していないからといつて毫も採証の法則に反するものとは謂われない。 なお、所論はC丸は最初F1丸の左舷後方より追跡していたのに、突如として右舷前方に進出したため本件衝突を惹起したもので、当時の両船の見合に関するDの供述はすべて措信し難いと主張する。けれども、原審鑑定へI、同S作成の各鑑定書によれば、F1丸が約一八〇度右回転した場合の最大横巨は約五〇米であつて同船体は右回転により約五〇米右舷方向に移動する事実が認められ、又原審 難いと主張する。けれども、原審鑑定へI、同S作成の各鑑定書によれば、F1丸が約一八〇度右回転した場合の最大横巨は約五〇米であつて同船体は右回転により約五〇米右舷方向に移動する事実が認められ、又原審証人D、同O、同T、同U、同L、同Mの各証言、原審公判における被告人A3の供述によれば、C丸がF1丸を探照灯で照射した時両船の船団はほぼ向合つていた事実が認められるから、右各事実を参酌して原判決挙示の関係証拠を綜合すれば、C丸はF1丸が探照灯で照射され約一八〇度右転して逃走する際、同船と約五〇米の間隔を保つて常にその右舷側より平行状態で追跡し、その右舷船尾附近を照射し続け漸次その距離を接近して併進し、F1丸船尾に追いついた頃(その間隔は約五〇米)F1丸が突如約九〇度右転してC丸の左舷側に進出したため本件衝突を惹起した事業を認めるに十分にして、この点に関するDの各供述は優にこれを措信するに足るものである。 所論は更にF1丸が右転したのは左舷後方にC丸の光源を認めたためと、F1丸船改前方に他船の紅灯を認めたのでこれ等の船との衝突を避けるためであつたと主張する。けれどもC丸が常にF1丸船尾後方の右舷側より追跡し探照灯も亦右舷船尾部を照射していたことはさきに認定したとおりであり、又探照灯で照射した際E1、F1丸の中間沖合約二〇〇米の位置に紅灯船が認められたことも前認定のとおりであるが、F1丸が激右転して逃走する頃右紅灯船はその附近に認められなかつたことは原審証人O、同Tの各証言、L、Mの検察官に対する各供述調書によりこれを認めるに十分であり、従つてF1丸が約一八〇度右転して左舷方向に運航するのに当時これを妨ぐべき何等の障害物も存しなかつた事実が認められる。 又所論はF1丸はC丸との衝突直前これを避けるため機関の停止、全速後退の措置を採つていたと主 約一八〇度右転して左舷方向に運航するのに当時これを妨ぐべき何等の障害物も存しなかつた事実が認められる。 又所論はF1丸はC丸との衝突直前これを避けるため機関の停止、全速後退の措置を採つていたと主張し、原審証人Mの証言、被告人A3、同Bの検察官に対する各供述調書、証人Nの第二回審判調書等にはこれに副う趣旨の供述があるが、いずれもたやすく措信し難く、却つて証人Oの第三回審判調書、受審人Dの第二回審判調書、原審証人Nの証言によれば、F1丸は衝突直後初めて右措置に出でた事実が認められるのである。 更に所論は被告人A3、同Bには公務執行妨害の犯意も、艦船覆没の犯意も存しないと主張する。けれども、被告人Bの原審公判における供述並びに検察官に対する供述調書によれば、同被告人が探照灯で照射されるや直ちにそれが取締船なることを察知したことが認められ、又受審人Dの第二回審判調書により認められるように探照灯を備えた船は通常海上保安庁又は県所属の船舶に限る事実を参酌して原判決挙示の関係証拠を綜合すれば、被告人A3も亦当時探照灯を照射して追跡して来る船が取締船なることを察知していた事実が認められる。而して右両名が右旋回後逃走するに際し相協力してF1丸を操舵したことは挙示の関係証拠により明らかなるところ、前認定のとおり両名はC丸が右舷側後方より接近して追跡して来ることを知り乍ら、しかも左舷側にはその前方にも後方にも進路に何等障害となるべきものがないのに拘らず、故らに約二〇度右転したC丸がF1丸の船尾附近に追いつくや無謀にも約九〇度右転したのはC丸の進路を妨害する意図に出でたものと認めるの外なく、該事実に原判決挙示の関係証拠を綜合すれば、被告人両名は原判示第三のとおりF1丸を約九〇度右転すれば、同船を或は右舷船尾附近に迫つているC丸に接触衝突せしめこれを破損、 出でたものと認めるの外なく、該事実に原判決挙示の関係証拠を綜合すれば、被告人両名は原判示第三のとおりF1丸を約九〇度右転すれば、同船を或は右舷船尾附近に迫つているC丸に接触衝突せしめこれを破損、沈没せしめるに至るやも知れないことを察知し乍ら、敢てこれを容認し右所為に出でたものと断ぜざるを得ない。従つて被告人両名には公務執行妨害及び艦船覆没の未必的犯意があつたものと謂わねばならない。 記録を精査するも原判決に所論の如き採証の誤り、事実誤認は存しない。論旨はすべて理由がない。 弁護人小林明政の控訴趣意中「右控訴の趣意を申立てる理由」の第一、「第一事実」に関する漁業法違反、被告人A3、同Bの各控訴趣意中第一事実誤認の論旨について。 なるほど、原審証人Vは自分の船の網を切つた田漁船の船尾には「F2丸」と書いてあつて、船尾は丸くなつていたと証言しており、又門司地方海難審判庁検査調書によれば、F1丸の船尾は厳格に言えば角が立つていることはいずれも所論のとおりである。けれども、F1丸に関する原審検証調書添付の図面並びに写真によれば、同船の船尾はしかく角立つてはいないで丸みを含み一見丸く感ぜられるから、船尾が丸くなつていると言つても必ずしも誤りとは言われないのみならず、寧ろ「丸い」と言つたが適切と言うのも過言でない。又同証人は暗夜一寸船尾の文字を見たことが窺われるから「F1丸」を「F2丸」と見違えることもあり得ないことではなく、更に同証言によればその上段に「E1」とその下段に「E2」と明記しあつたことが認められ、又同証言及び原審証人Wの証言によれば、当時VはE1、F1丸の船主Xより網の損告賠償金として二万五〇〇〇円を受取つた事実が認められるから、これ等の各事実を参酌して原判決挙示の関係証拠によれば、被告人四名が原判示第一のとおりE1、F1丸を使 VはE1、F1丸の船主Xより網の損告賠償金として二万五〇〇〇円を受取つた事実が認められるから、これ等の各事実を参酌して原判決挙示の関係証拠によれば、被告人四名が原判示第一のとおりE1、F1丸を使用して密漁した事実を優に認め得べく、記録を精査するも原判決に所論の如き事実誤認、採証の誤りは存しない。論旨は理由がない。 弁護人小林明政の控訴趣意中「右控訴を申立てる理由」の第一、「第二事実に関する漁業法違反」、弁護人三宅修一の控訴趣意第一、一及び被告人A3、同Bの各控訴趣意中第二事実誤認の論旨について。 しかし原判決挙示の関係証拠によれば、原判示第二事実は優に認められる。被告人A3の検察官に対する供述調書、原審証人Dの証言によれば、F1丸が長崎港を出港したのは昭和二八年一一月二四日午後四時三〇分頃にしても、本件衝突時刻が同七時三〇分頃であり、又F1丸の時速が約九浬であることは所論のとおり認められるが、長崎港より衝突地点までの距離が二九浬であるという所論の事実はこれを確認すべき資料は存しない。ところが当審検証調書によれば、長崎港a岸壁から右衝突地点までは時速約一〇浬のC丸により約二時間を要する事実が認められ、又当時F1丸の機関係であつた原審証人Nの証言によれば同船が長崎港を出港して衝突するまで約九浬の時速を以て約二時間航行した事実が認められるから、当時同船が長崎港より衝突地点附近まで行くのに要した時間は長くとも二時間三〇分程度を出でないことが窺われる。従つてE1、F1丸は当時午後七時頃までには右地点に到達したことになるから、網を海中におろして漁撈の操業を始める時間的余裕に欠くるところはなかつたものと謂わねばならない。更に又原審証人D、同O、同U、同T、同Yの各証言によれば、C丸が探照灯で照射した際、E1、F1丸は船首をハの字型に開いて五、 操業を始める時間的余裕に欠くるところはなかつたものと謂わねばならない。更に又原審証人D、同O、同U、同T、同Yの各証言によれば、C丸が探照灯で照射した際、E1、F1丸は船首をハの字型に開いて五、六〇米の間隔を以て漸進し、両船共船尾に魚索を曳いて船灯全部を消灯し作業灯を点けていた事実が認められるから、叙上の各事実に原審証人Zの証言を参酌して原判決挙示の関係証拠によれば、当時E1、F1丸は網を海中におろして操業を開始していた事実が認められる。記録を精査しても原判決に所論の如き事実誤認、採証の誤り並に挙示の証拠の信憑力を否定すべき事情は存しない。 論旨は理由がない。 弁護人小林明政の控訴趣意中「右控訴の趣旨を申立てる理由」第二結論、(2)について。 しかし、海難審判法第一条の目的を探究し、門司地方海難審判庁の裁決主文を検討すれば、同主文は毫も同法の目的を逸脱したものとは謂われないのみならず、原審は右裁決書を原判示事実認定の証拠に採用していない。論旨は理由がない。 弁護人三宅修一の控訴趣意第二について。 記録に現われた諸般の情状を考察すれば、裁告人A1、同A2に対する原審の科刑はまことに相当であるから、同被告人等については論旨は理由がない。 次に被告人A3、同B関係につき考察するに、記録によれば本件公務執行妨害、艦船覆没の所為は同被告人等が周章狼狽して逃走したのが大きな原因をなしていることが窺われ、しかもその犯意は未必的であつて相当酌量すべき点があるのみならず、当審における事実取調の結果によれば、原判決後被害者である長崎県と被告人等の雇主であるXとの間に示談成立し、同人は被告人等に代つて長崎県に対しC丸の損害賠償として金一〇二〇万円を支払い、且つ同船の乗組員であつたD外九名に対し一人につき三万円宛計三〇万円を慰藉料として支払つていることが との間に示談成立し、同人は被告人等に代つて長崎県に対しC丸の損害賠償として金一〇二〇万円を支払い、且つ同船の乗組員であつたD外九名に対し一人につき三万円宛計三〇万円を慰藉料として支払つていることが認められ、更に被告人両名には体刑の前科もないから、これ等の事実に記録に現われた諸般の情状を参酌すれば、原審が右両名に対し実刑を以て臨んだのは量刑重きに過ぎ不当であるから、原判決は破棄を免れない。論旨は理由がある。 そこで刑事訴訟法第三九六条に則り被告人A1、岡A2の控訴を棄却すべく、被告人A3、同Bに関しては同法第三九七条に則り原判決を破棄し、同法第四〇〇条但書に従い更に判決する。 原審の確定した事実に法律を適用すれば、右被告人両名の原判示所為中第一、第二の点は漁業法第一三八条第二号、刑法第六〇条に、第三の中艦船覆没の点は刑法第一二六条第二項第六〇条に、公務執行妨害の点は同法第九五条第一項第六〇条に、被告人A3の原判示第四、(一)の救助に必要な手段をつくさなかつた点は船員法第一二四条に、自船の名称等を告げなかつた点は同法第一二六条第三号に、第四、(二)の点は同法第一二六条第五号にあたるところ、第三の艦船覆没と公務執行妨害、第四、(一)の救助に必要な手段をつくさなかつた点と自船の名称等を告げなかつた点は、いずれも一個の行為にして二個の罪名に触れるから刑法第五四条第一項前段第一〇条によりそれぞれ重い前者の刑に従つて処断すべく、而して第一、第二の漁業法違反ならび第四、(一)の船員法第一二四条違反については懲役刑を、第三の艦船覆没については有期懲役刑を選択し、以上は刑法第四五条前段の併合罪であるから、被告人A3に対しては懲役刑につき同法第四七条第一〇条第一四条に則り重い艦船覆没の刑に法定の加重をなし、罰金刑については同法第四八条第一項に従つて併科 し、以上は刑法第四五条前段の併合罪であるから、被告人A3に対しては懲役刑につき同法第四七条第一〇条第一四条に則り重い艦船覆没の刑に法定の加重をなし、罰金刑については同法第四八条第一項に従つて併科し、被告人Bに対しては同法第四七条第一〇条第一四条に則り重い艦船覆没の刑に法定の加重をなし、犯情憫諒すべきものがあるから同法第六六条第七一条第六八条第三号に従い酌量減軽をした上、被告人A3を懲役三年及び罰金二〇〇〇円に、被告人Bを懲役二年六月に処すべく、刑法第一八条に則り被告人A3が右罰金を完納し得ないときは金二〇〇円を一日に換算した期間同被告人を労役場に留置すべく、被告人両名に対しては量刑不当の論旨に対する判断において説明した理由によりいずれも犯情懲役刑の執行を猶予するを相当と認め同法第二五条を適用してそれぞれ三年間右各懲役刑の執行を猶予すべく、なお原審並びに当審における訴訟費用は刑事訴訟法第一八一条第一項但書に従い被告人四名に負担させないこととする。 よつて主文のとおり判決する。 (裁判長裁判官藤井亮裁判官中村荘十郎裁判官生田謙二)

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