令和5(わ)332 傷害被告事件

裁判年月日・裁判所
令和6年7月12日 高松地方裁判所
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判決文本文3,146 文字)

- 1 - 主文 被告人を懲役3年に処する。 未決勾留日数中30日をその刑に算入する。 理由 (罪となるべき事実)被告人は、令和4年7月中旬頃から同年8月下旬頃までの間、香川県坂出市内の居宅(住所は別紙(添付省略)記載のとおり)において、数回にわたり、劇物である酢酸鉛を粉ミルク在中の缶に混入し、情を知らないAの母(氏名は別紙記載のとおり)らをして、その酢酸鉛を混入した粉ミルクで調乳させた人工乳をA(氏名及び生年月日は別紙記載のとおり)に多数回飲用させ、よって、Aに加療約2か月間を要する貧血を伴う加療期間不明の鉛中毒の傷害を負わせた。 (証拠の標目)(略)(争点に対する判断)弁護人は、被告人は心神耗弱の状態にあった旨主張する。当裁判所が被告人の完全責任能力を認めた理由は、次のとおりである。 捜査段階で精神鑑定を担当したB医師は、おおむね、次のように鑑定している。 すなわち、被告人は、解離性同一性障害にり患しており、本件犯行時、別のパーソナリティ状態が出現し、憤怒する感覚や離人感等の解離症状が認められたほか、「バチを当てろ」「呪い」といった解離性幻聴が現れていた可能性がある。これらの解離症状が、怒りを行動化しやすい状態や、自分の言動を制御できないとの感覚をもたらし、本件犯行を促進させた。もっとも、被告人は、相応の記憶が保たれており、人格交代までは生じていない。被告人は普段から被害児の母らに対する強い怒りの感情を抱き続けており、別のパーソナリティ状態における憤怒の感覚や幻聴の内容等は、普段のパーソナリティ状態とも共有されていた。したがって、上記解離症状が本件犯行を促進させた面があったとしても、普段のパーソナリティ状態による影- 2 -響も存する以上、その影響は限定的な 等は、普段のパーソナリティ状態とも共有されていた。したがって、上記解離症状が本件犯行を促進させた面があったとしても、普段のパーソナリティ状態による影- 2 -響も存する以上、その影響は限定的なものにとどまり、著しいものとはいえない、というのである(甲40)。B医師の鑑定は、公正さや能力、前提事実、鑑定手法に問題はなく、高い信用性が認められる。 そもそも、解離性同一性障害は、心因性あるいはストレス因関連性の精神障害であって、重度の精神障害ではないとされている上(甲40)、夫の母や妹に対する不満や怒りから妹の子に傷害に及んだという動機は了解可能であり、自ら生成した酢酸鉛を、被害児を加害するために、関係者らの目を盗んで、粉ミルクに混入するという発覚しにくい態様でした本件犯行は、合目的的で合理的なものといえるし、記憶も相応に保たれている。また、被告人は、残っていた酢酸鉛を廃棄するなどの罪証隠滅行為にも及んでいる。本件犯行時、被告人には、自己の行為の違法性を弁識する能力や、行動を制御する能力が備わっていたといえ、完全責任能力が認められる。 弁護人の主張は採用できない。 (法令の適用)(略)(量刑の理由)被告人は、夫の母や妹の日頃の言動を自分に対する嫌がらせと捉えて不満を募らせ、夫の母や妹を傷付けるために、判示のとおり、夫の妹の生後2か月余りの子である被害児の粉ミルクに、数回にわたり酢酸鉛を混入し、母である夫の妹らをして、その酢酸鉛が混入された粉ミルクを調乳させ、被害児に対し、多数回飲用させて、鉛中毒の傷害を負わせた。乳児である被害児に何の落ち度もないことは明らかであり、極めて理不尽な犯行である。しかも、その態様は、異変や被害を訴えることのできない乳児を標的として、家人しか触れるはずのない家庭内で保管され、通常、高い安全性が に何の落ち度もないことは明らかであり、極めて理不尽な犯行である。しかも、その態様は、異変や被害を訴えることのできない乳児を標的として、家人しか触れるはずのない家庭内で保管され、通常、高い安全性が担保されていると信頼される乳児用の粉ミルクに、容易には判別できない劇物を混入し、発覚するまでの相応の期間にわたり、被害児の健やかな成長を何よりも願っている情を知らない母らの手によって、継続的に、多数回、危害を繰- 3 -り返し加えさせたものであり、極めて卑劣なものである。その被害児が飲用させられた酢酸鉛は、一般的に、体内に摂取すると、貧血や造血機能障害、脳や肝臓などの臓器への影響や、知能指数の低下、自閉症やADHDへの影響といった神経学的な症状、発育障害等を引き起こすおそれがあるとされている、劇物に指定された毒性の強い危険な化合物である。未成熟な乳児に対してこのような劇物を摂取させた本件犯行の態様は、それ自体の評価だけをみても、極めて危険かつ悪質なものであることは明らかである。確かに、現時点では、被害児は、血中鉛濃度が高いという症状以外に、臓器や脳への影響、知能指数の低下といった症状が確認されたわけではない。生じるか否か不明なこれらの症状を、生じる危険性があるなどとして、被告人に不利に量刑評価することはできない。しかし、被害児は、現に、加療約2か月間を要する貧血となり、血中鉛濃度は、小児の正常値が1㎗当たり5㎍(マイクログラム)以下とされるところを、最大1㎗当たり56.8㎍と測定され、相当期間治療を受けた後である令和6年1月の時点においても、なお、1㎗当たり21. 1㎍と測定されている。被害児は、現時点においても、鉛中毒に係る影響がどのような症状として現れるか確定しておらず、今後も、定期的な血液検査や、脳の検査、発達評価等、相当長期間にわた 1㎗当たり21. 1㎍と測定されている。被害児は、現時点においても、鉛中毒に係る影響がどのような症状として現れるか確定しておらず、今後も、定期的な血液検査や、脳の検査、発達評価等、相当長期間にわたり、経過観察が必要とされている。このような現在判明している被害だけをみても、結果は相当に重いというべきである。被害児の両親が厳しい処罰感情を示すのも無理はない。被告人は、資力が乏しいこともあって、犯行発覚から相当期間が経過したにもかかわらず、治療に係る諸費用の負担等、損害の一部弁済をするなどの慰藉の措置を講じなかった。被告人は、酢酸鉛について、インターネット上で調べた上で、材料を調達し、自ら生成している。その後、被告人は、酢酸鉛を摂取すると貧血を引き起こしたり、臓器に悪い影響を与えたりする可能性があることを分かった上で、数回にわたり、酢酸鉛を粉ミルクに混入したものである。強い犯意に基づく執ような犯行といえ、厳しく非難されるべきである。 他方、被告人がり患している解離性同一性障害の症状が本件犯行の実行を促進させたといえる点は、被告人の刑事責任を軽減させる事情として十分に考慮されなけれ- 4 -ばならない。加えて、被告人が、罪を認めた上、賠償の努力をしたい旨述べるなど、被告人なりに反省の言葉を述べたこと、前科がないこと、夫が監督する旨述べたこと、保釈中に妊娠し、第二子の出産や育児を控えていること、その他被告人の心身の状態等、被告人のために酌むことができる事情が認められる。しかし、これら被告人に有利に考えることのできる諸事情を考慮しても、その刑事責任は相当に重いというべきであり、被告人は主文の実刑を免れない。 (求刑懲役4年)令和6年7月12日高松地方裁判所刑事部 裁判長裁判官深野英一 主文 に重いというべきであり、被告人は主文の実刑を免れない。(求刑懲役4年)令和6年7月12日高松地方裁判所刑事部 裁判長裁判官深野英一 裁判官池内継史 裁判官安部祐希

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