平成19(あ)79 強盗強姦被告事件

裁判年月日・裁判所
平成19年10月10日 最高裁判所第一小法廷 決定 棄却 大阪高等裁判所
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判決文本文17,390 文字)

- 1 -主文本件上告を棄却する。 当審における未決勾留日数中190日を本刑に算入する。 当審における訴訟費用は被告人の負担とする。 理由 弁護人平尾嘉晃の上告趣意のうち,判例違反をいう点は,事案を異にする判例を引用するものであって,本件に適切でなく,その余は,事実誤認,量刑不当の主張であり,被告人本人の上告趣意は,事実誤認の主張であって,いずれも刑訴法405条の上告理由に当たらない。 なお,所論にかんがみ記録を調査しても,同法411条を適用すべきものとは認められない。 よって,同法414条,386条1項3号,181条1項本文,刑法21条により,主文のとおり決定する。 この決定は,裁判官甲斐中辰夫,同涌井紀夫の各補足意見,裁判官横尾和子,同泉徳治の反対意見があるほか,裁判官全員一致の意見によるものである。 裁判官甲斐中辰夫の補足意見は,次のとおりである。 私は,被告人に対し強盗強姦罪の成立を認めた原判決の事実認定は相当であると考える。その理由は,以下のとおりである。 本件は,被告人の被害者に対するホテル内の強盗強姦被告事件であり,基本的には被害者の証言と被告人の法廷供述が食い違い,そのどちらを信用するかで結論が異なる事案である。原判決は,被害者の証言を信用し,罪となるべき事実(現金2万円の強取を含む。)を認定して強盗強姦罪の成立を認め,反対意見は,結局のと- 2 -ころ被告人の法廷供述を信用し,強盗罪(現金2万円を除き携帯電話の強取のみを認める。)と強姦罪の併合罪になるものと認定した。 このような証拠構造の事件の事実認定をする場合には,それぞれの供述が客観的事実や双方で争いのない事実とどのように整合するかを,罪体を中心に,検討することが重要である。本件では,証拠上明白な間接事実として①被告人がホテル内で被害者に対し暴力団関係の事務所 の供述が客観的事実や双方で争いのない事実とどのように整合するかを,罪体を中心に,検討することが重要である。本件では,証拠上明白な間接事実として①被告人がホテル内で被害者に対し暴力団関係の事務所に行くから,礼儀正しくしろ又はきれいにしとけなどと申し向けたこと②その上で被告人が,被害者に氏名・生年月日・電話番号・連絡してよい時間をメモ書きさせたこと③被害者が被告人とホテルの部屋を出た直後,従業員室から給湯室へ走って逃げ込み,助けを求めたことが認められる。 被害者の証言は,被告人に連れ込まれたホテル内で,被告人から,暴力団関係の事務所に行き,風俗嬢として登録して働くよう要求され,その試験を名目に強姦され,その登録料名下に金員を要求されて現金2万円などを奪われたという内容である。そして,①のやり取りや②のメモ書きは,暴力団事務所に行き風俗嬢として登録させるためのものであり,そのようなことになっては今後の人生もないので③のとおり被告人から逃げ出し助けを求めたというもので,上記間接事実とも整合する。さらに,現金2万円を強取されたことをはじめとして被害状況に関する供述は,被害申告当初から一貫しており,随所に創作したとは思えない被告人との具体的なやり取りも含まれ,大筋において信用できる。 これに対し被告人の法廷における供述は,ホテルに同行した被害者とささいなこ- 3 -とから口論となり,暴力団の名前を出すなどして無理に関係したが,暴力団事務所に風俗嬢として登録した上で働くことや登録料の支払いを要求したことはなく,現金2万円を強取したことはないというものである。しかし,被告人の供述は,捜査段階から強姦の有無など重要部分について再三合理的理由のない変遷があるばかりか,上記①②の間接事実との整合性がなく,全般に,被害者と合意の上でホテルに行っ うものである。しかし,被告人の供述は,捜査段階から強姦の有無など重要部分について再三合理的理由のない変遷があるばかりか,上記①②の間接事実との整合性がなく,全般に,被害者と合意の上でホテルに行ったと言いながら,何故暴力団関係者を名乗り相手を脅して強姦した上携帯電話を取り上げるなどしたのか合理的な説明がなされておらず,信用できない。 特に本件は,風俗嬢として暴力団事務所へ連れて行き登録することを基本とし,風俗嬢として通用するかどうかを試験するという名目で強姦し,登録料名下に金員を要求して現金2万円を強取したという被害者の証言であるから,基本的な前提事実である暴力団事務所に行き風俗嬢として登録するよう要求したことが認められるか否かが重要である。 この点については,上記①②のとおり,被告人が被害者に対し「後で事務所に行くからきれいにしとけ。」と言い,メモに氏名・電話番号・連絡してよい時間を書かせたという争いのない事実に照らしてみると,少なくとも事務所に行き風俗嬢として登録すると脅迫した事実は,明らかであろう。また,被害者が部屋を出てから必死に逃走を試みた事実もこれと符合する。そうすると,登録料として金員の要求をされたという被害者の証言は,その具体性や上記事実との整合性から十分信用できよう。被告人は,被害者を風俗嬢として登録するわけでもないのに,何のために被害者を暴力団事務所へ行くよう求め,上記メモ書き(特に連絡してよい時間など)を書かせたのか納得できる説明をしていない。なお,反対意見は,被告人が強姦の犯意による脅迫の一環として売春には暴力団に対する登録料が必要であると言- 4 -った疑いがあるとするが(3の(1)),そもそも被告人はそのような弁解はしていない上,被害者に暴力団事務所への同行を求めつつ,暴力団に対する登録料が必要であるという 録料が必要であると言- 4 -った疑いがあるとするが(3の(1)),そもそも被告人はそのような弁解はしていない上,被害者に暴力団事務所への同行を求めつつ,暴力団に対する登録料が必要であるということは,正に金員要求行為そのものとみるのが自然であろう。 このように,被告人が風俗嬢としての登録料を要求したことが認められれば,その実行行為としての2万円奪取を推認する有力な前提事実となる。一方,被害者は,被害の直後から一貫して,2万円を奪取されたことを供述しており,控訴審の公判でも証言は揺らいでいない。 結局,前後の状況を併せて総合的に判断すると,2万円を奪取されたとの被害者の証言は信用でき,被告人が強姦の前後を通じて登録料名下に金員を要求していることから,強盗強姦罪の成立が認められる。 反対意見が,被害者の証言の疑問点として指摘するところは,いずれも,不確かな前提に基づく疑問か,または,原審において取り調べられていない証拠を引用するもの(3の(2)),様々な見方が成り立つところその一つの見方に立ち他を排斥するもの,当該証拠の一部ではなく全体を見れば問題とするに足らないものにすぎず,原審の事実認定を左右するものではない。そもそも当審は,法律審であり,基本的には事実審たる原審の事実認定を尊重すべきであるところ(刑事訴訟法411条),直接証人調べなどをした上でなした原審の上記事実認定は相当であり,反対意見のいうように,判決に影響を及ぼすべき重大な事実の誤認があり原判決を破棄しなければ著しく正義に反するものとは認められない。 裁判官涌井紀夫の補足意見は,次のとおりである。 私は,本件については上告を棄却すべきであり,重大な事実誤認を理由に原判決を破棄しなければ著しく正義に反するものとまでは認められないとする多数意見に- 5 -賛成するものであるが,本 おりである。 私は,本件については上告を棄却すべきであり,重大な事実誤認を理由に原判決を破棄しなければ著しく正義に反するものとまでは認められないとする多数意見に- 5 -賛成するものであるが,本件のような事実誤認の主張に対する上告審裁判所の判断の在り方について,補足して意見を述べておくこととしたい。 本件は,強盗強姦の被害事実を申述する被害者の証言と,強姦の事実は認めるもののその時点における強盗の犯意等を否認する趣旨の被告人の法廷供述について,相対的にそのいずれをより信用性の高いものとみるべきかが争われている事案である。確かに,被害者の証言内容には,反対意見が指摘するように,特に本件犯行の現場であるホテルに赴くまでの経緯等について,その細部においては,やや不自然に感じられるところや,客観的な周囲の状況等とも符合しないようにみられる点があることは否定できないところである。このことを理由に,強盗強姦の被害事実自体に関する部分を含めて,被害者の証言全体の信用性が疑わしいものとする反対意見のような見方もあり得るところであろう。しかし,他方で,甲斐中裁判官の補足意見で指摘されているように,被告人の法廷供述における弁解の内容には,客観的な証拠関係からして動かし難いとみられる事実との整合性を欠き,あるいは自己の言動の目的等について納得のいく説明ができないといった重大な疑問点がみられるのである。これらの点からすると,少なくとも強盗強姦の被害状況自体に関する限り,本件犯行の直後に必死で逃走を試みてホテルの従業員等に助けを求めた当初から一貫している被害者の証言内容の方が,相対的に信用性が高いものと考えることができよう。 そもそも,制度上法律審として被告人の供述や証人の証言に直接接することができない上告裁判所である当審においては,原審裁判所の自由心証に任さ 容の方が,相対的に信用性が高いものと考えることができよう。 そもそも,制度上法律審として被告人の供述や証人の証言に直接接することができない上告裁判所である当審においては,原審裁判所の自由心証に任されている事実認定の当否を書面審理によって審査するについて,自ずから限度があるものといわざるを得ない。その判断の在り方は,原審に提出された各証拠の信用性等につい- 6 -て自らが直接に心証を形成して,これを原審の判断と対比するというものではなく,むしろ,原審の判断に経験則あるいは論理法則に違背するような重大な誤りがあり,これを看過することが著しく正義に反すると認められるか否かという観点に立ったものにとどめるのを原則とすべきであろう。このような考え方に立って本件をみると,被告人の供述との対比において被害者の証言内容の方が全体として信用性が高いものとした原審の判断に,経験則あるいは論理法則に違背するような重大な誤りがあるものとすることはできず,したがって,本件については,原判決を破棄しなければ著しく正義に反するものとまでは認められないものというべきである。 裁判官横尾和子,同泉徳治の反対意見は,次のとおりである。 私たちは,原判決には,判決に影響を及ぼすことの明らかな事実誤認があり,これを破棄しなければ著しく正義に反すると認めるので,原判決を破棄し,本件を原審に差し戻すべきであると考える。その理由は,次のとおりである。 本件公訴は,公訴事実の要旨が,「被告人は,女性を強姦するとともに金員を強取しようと企て,平成16年10月29日午後3時ころ,京都市a区b町c番地付近歩道上で当時23歳の女性(以下「被害者」という。)を認めるや,同女に『客引きをしていますね。ここで逃げても,周りに見張っている人たくさんいるんですよ。話は事務所でしましょう。手荒なこ 町c番地付近歩道上で当時23歳の女性(以下「被害者」という。)を認めるや,同女に『客引きをしていますね。ここで逃げても,周りに見張っている人たくさんいるんですよ。話は事務所でしましょう。手荒なことはしたくないし。』などと申し向けて脅迫し,同女を同所付近に停車させていた被告人車両に乗車させ,同女を同市d区内のホテル「A」(以下「本件ホテル」という。)220号室(以下「220号室」という。)内に連れ込み,同日午後3時32分ころから同日午後4時33分ころの間,同室内において,同女に対し,その顔面を手のひらで殴打するなどの暴行- 7 -を加えた上,『ごちゃごちゃ言うとると湯船に沈めるぞ。熱湯かけたろか。』などと申し向けて脅迫し,その反抗を抑圧し,強いて同女を姦淫するとともに,同女に対し,更に,『10万,20万置いていけや。金置いていけないんやったら,今日は客3人くらい取ってもらうで。今持っている金出せ。』などと申し向けて脅迫し,同女所有の現金2万円及び携帯電話機1台を強取したものである。」というもので,罪名及び罰条が,強盗強姦,刑法241条前段である。 1審判決は,罪となるべき事実として,「被告人は,平成16年10月29日午後3時32分ころから同日午後4時33分ころまでの間,220号室内において,被害者に対し,売春をしていた旨因縁をつけ,『あそこのシマはやくざの許可がなかったら捕まるで。』,『B組のC会に知り合いいるから,何やったら今から言うたろか。』,『この近くにも組事務所もあるから,何やったら今から連れて行ってあげようか。』などと申し向けて脅迫するとともに,その左頬を右手のひらで殴打するなどの暴行を加えてその反抗を抑圧し,強いて同女を姦淫した。」と認定し,被告人を刑法177条前段の強姦罪で懲役3年,執行猶予5年の刑に処した。 1審判決は するとともに,その左頬を右手のひらで殴打するなどの暴行を加えてその反抗を抑圧し,強いて同女を姦淫した。」と認定し,被告人を刑法177条前段の強姦罪で懲役3年,執行猶予5年の刑に処した。 1審判決は,被告人が強盗の犯意の下に脅迫,暴行を行ったこと及び現金2万円を強取したことについては,唯一の証拠である被害者の公判における証言を信用することができないとし,被告人が携帯電話機1台を強取したとの点については,不法領得の意思を認めることができないとして,結局,強盗強姦罪や強盗罪については,犯罪の証明がないと判断したものである。 原判決は,1審及び原審の公判における被害者の証言(以下「被害者証言」という。)の信用性を肯定し,罪となるべき事実として,「被告人は,女性を強姦するとともに金員を強取しようと企て,平成16年10月29日午後3時ころ,京都市- 8 -a区b町c番地付近歩道上で被害者を認めるや,同女に『客引きしてるでしょう。 自分は売春や客引きを管理している。勝手にそういうことをされては困る。事務所に行って話そう。周りに人もいるし逃げても無駄だ。』などと申し向けて脅迫し,同女を同所付近に停車させていた被告人車両に乗車させ,220号室に連れ込み,同室内において,同女に対し,その顔面を平手で殴打するなどの暴行を加えた上,暴力団の名前を出し『デリヘル嬢として働け。』『沈めるぞ。熱湯かけるぞ。』などと申し向けて脅迫し,その反抗を抑圧した上,強いて同女を姦淫するとともに,『登録料として1本か2本置いていけ。』『1本といったら10万や。』『とりあえず今持っている金出せ。』などと申し向けて脅迫し,同女所有の現金2万円及び携帯電話機1台を強取した。」と認定し,被告人を刑法241条前段の強盗強姦罪で懲役8年の刑に処した。 被告人が220号室の浴室内で脅迫,暴 出せ。』などと申し向けて脅迫し,同女所有の現金2万円及び携帯電話機1台を強取した。」と認定し,被告人を刑法241条前段の強盗強姦罪で懲役8年の刑に処した。 被告人が220号室の浴室内で脅迫,暴行を用いて被害者を姦淫したことは,被告人も認めるところであるが,それよりも前の段階において,被告人の被害者に対する脅迫行為があったか否かについて,まず検討することとする。 被害者証言は,被害者が被告人から最初に話しかけられた場所は,京都駅八条口のすぐ南側の商業ビル・eの西側歩道上の電話ボックス横で,被害者は料金不払のため通じなくなっていた普通の携帯電話機(以下「振込式携帯電話機」という。)をいじりながら植込み辺りに座っていた。被告人から,「客引きをしているでしょう。自分は売春や客引きを管理している。勝手にそういうことをされては困る。事務所に行って話そう。周りに人もいるし逃げても無駄だ。」と脅迫され,暴力団事務所などに連れて行かれるかも知れないと思ったが,逃げても被告人の言う周りの見張りに捕まり最悪の事態になると思い,とりあえず被告人に従うふりをし,すき- 9 -を見て,振込式携帯電話機とは別に所持していたプリペイド式携帯電話機で110番通報をしようと考え,被告人の後ろをついて歩き,横断歩道を渡り,道路反対側のパチンコ屋の前に駐車してあった被告人車両の助手席に乗った。被告人が体に触れるようなことはなかった。被告人は,同車内で「この車の後ろとかに別の車が走っていて,そこに仲間が見張っている。」などと言い,本件ホテルに車を乗り入れた際,被告人車両の後ろから銀色の大型トラックが本件ホテル敷地内に入り,建物と外壁の間を旋回して駐車場に入るのが見えたので,本当に被告人の仲間が見張っているかも知れないと思った。本件ホテルの客室に入れば被告人に強姦されると思 銀色の大型トラックが本件ホテル敷地内に入り,建物と外壁の間を旋回して駐車場に入るのが見えたので,本当に被告人の仲間が見張っているかも知れないと思った。本件ホテルの客室に入れば被告人に強姦されると思ったが,走って逃げても捕まるし,すきを見て110番通報をすることで頭が一杯で,被告人に促されるまま220号室に入った。被告人は,車両内でも腹が痛いと言っており,220号室のトイレに入ったが,用便中にトイレから2度ほど顔を出し,ベッドルームの中央に立っていた被害者に対し,先に風呂に入っていてくださいと言った。被害者の位置から,被告人がトイレから出した顔の半分くらいが見えた。そのため,被告人がトイレに入っている間も110番通報をすることができなかった。ラブホテルでは料金の支払いをするまで,部屋の扉を内側から開けることができないと思っていた。220号室の扉を開けようと試みてはいない。そこで,浴室内で110番通報をしようと思い,服を着たまま浴室に入り,声を消すため,壁に設置されたままの状態のシャワーから湯を出した。シャワーの湯は浴槽に落ちるようになっていた。しかし,施錠しない状態の浴室で携帯電話機をかばんから出している時に,全裸の被告人が浴室に入ってきたため,110番通報をすることができなかった。被害者自身は,浴槽に湯を張る動作はしていないが,浴槽には既に湯が幾分たまっていた,と述べる。そこで,この被害者証言の信用性について検討- 10 -する。 (1)被害者が被告人から最初に話しかけられた場所は,すぐ側にeの出入り口,タクシー乗り場がある。被告人車両の駐車していた場所は,パチンコ屋の前である(検甲第15号)。時間は,人通りの多い金曜日の午後3時ころである。被害者は,23歳で,20歳から22歳ころまで京都で1人暮らしをしながら,水商売のアルバイ 駐車していた場所は,パチンコ屋の前である(検甲第15号)。時間は,人通りの多い金曜日の午後3時ころである。被害者は,23歳で,20歳から22歳ころまで京都で1人暮らしをしながら,水商売のアルバイトをいくつか行っている(被害者の母の公判における証言)。また,被害者は,恋人とラブホテルを利用するという経験も有している(被害者証言)。上記のような時間・場所において,一定の経験と土地勘を有する被害者が,被告人の言葉による脅迫を受けただけで,逃げ出すことなく,いとも簡単に被告人車両に乗り込むというのは,極めて不自然である。 (2)暴力団事務所等へ連れて行かれれば,110番通報を行うことは極めて困難であり,その場を逃げ出す方がはるかに容易であると考えられる。それにもかかわらず,被害者が110番通報を行うことを考えて被告人車両に乗り込んだというのは,極めて不自然である。 (3)被害者の司法警察員に対する供述調書(検甲第7号)には,被告人車両の後部座席には,人が座ったときの頭の高さくらいまで荷物が積み上げられていた,荷物は段ボールやボストンバック,たくさんの本やカタログ様の資料で,山積み状態になっていた,本や資料は家具やリフォーム関係のものであった,とある。このような被告人車両の状況からして,被害者が本当に被告人を暴力団関係者と誤解していたか,疑問である。 (4)被告人車両が本件ホテルに着き,被告人がパネルで部屋を選択するため降車した際も,被害者は逃亡を試みていない。 - 11 -(5)被告人が本件ホテルで選択した220号室は,従業員室の隣の部屋である(検甲第13号,第18号)。被告人が本件ホテルに入る前から強盗強姦の犯意を有していたとするならば,何故に従業員室の隣の部屋を選択したのか,疑問になる。 (6)本件ホテルには,アーチ型のゲートが (検甲第13号,第18号)。被告人が本件ホテルに入る前から強盗強姦の犯意を有していたとするならば,何故に従業員室の隣の部屋を選択したのか,疑問になる。 (6)本件ホテルには,アーチ型のゲートがあり,敷地内の部屋選択用のパネルの前や駐車場には屋根があるが,ゲートや屋根の高さは比較的低く,外壁と建物との間の車両用周回路も狭く,大型トラックがゲートをくぐって本件ホテル内に入り,パネル前の屋根をくぐり,車両用周回路を旋回して駐車場に入ることは,現場の写真や見取図から判断する限り,不可能である(検甲第13号,第15号)。大型トラックが被告人車両の後ろから本件ホテルの敷地内に入ってきたとの被害者証言は,真実でない可能性が極めて高い。なお,被害者証言は,被告人が後にベッドルームから窓の外に向かって「お前らまだやぞ。」と叫んだと述べるが,被告人が窓の外に向かって叫ぶということはフロントの本件ホテル関係者にも聞こえる可能性のある行為であり,大型トラックが本件ホテルの駐車場に入ってきたとの被害者証言とともに,真実でない可能性が極めて高い。 (7)220号室は,扉を開け,内玄関のドアを開けるとベッドルームとなっており,ベッドルーム奥のドアを開けると洗面所となり,洗面所に入って右側にはトイレに続くドアがあり,左側には浴室に続くドアがある。トイレのドアはベッドルーム側に開く構造になっている(検甲第18号)。トイレで用便中の被告人が2度トイレのドアを開けて,被害者に先に風呂に入るよう促したとしても,ベッドルームの中央に立っていた被害者にトイレ内の被告人の顔の半分が見えたということは,極めて疑問である。その上,ベッドルーム内には,トイレ内の被告人から見て- 12 -死角となるスペースが幾らもある。 (8)浴槽に湯を張ったのは被告人であると考えられるが,被告 えたということは,極めて疑問である。その上,ベッドルーム内には,トイレ内の被告人から見て- 12 -死角となるスペースが幾らもある。 (8)浴槽に湯を張ったのは被告人であると考えられるが,被告人が湯を張る動作をしている間や,トイレに入っている間に,被害者が220号室から逃げたり,110番通報をしたり,フロントに助けを求めるという行動に出ていないことは,極めて不自然である。被害者は,ラブホテルの部屋は料金を支払うまで内側から扉を開けられない構造になっていると思ったというが,かなり疑問を抱かせる弁明である上,被害者は,扉を開ける試みも行っていない。 (9)被害者が110番通報をするため,220号室の一番奥に位置する浴室に入り,施錠のない状態で110番通報を試みるというのは,不自然である。しかも,シャワーは,被害者証言とは異なり,洗い場の壁に設置されていて,湯が浴槽ではなく洗い場に落ちる構造になっているから(検甲第18号),壁に設置されたままの状態のシャワーから湯を出せば,着衣のままの被害者にかかる可能性が高く,声を消すためシャワーの湯を出したということも,若干疑問である。 (10)被害者証言も,被告人が全裸で浴室に入ってきたときから態度を豹変させたとし,「それまでが,かなりやんわりというか,・・・事務的な丁寧語でしゃべっていたので,いきなり,そこで,もう,本当に絵に描いたようにやくざみたいなしゃべり方になったので,すごいびっくりしました。」,「バスルームの中に全裸で飛び込んできたときから急に態度が変わって,さっきまではどちらかというとおどおどした感じの保険勧誘員みたいなしゃべり方だったんですけど,いきなりやくざっぽかったんですよね。」と述べている。 (11)被告人の1審及び原審の公判における供述(以下「被告人供述」という。)による どした感じの保険勧誘員みたいなしゃべり方だったんですけど,いきなりやくざっぽかったんですよね。」と述べている。 (11)被告人の1審及び原審の公判における供述(以下「被告人供述」という。)によると,被告人は実父が経営する金庫等の販売会社に勤めており,被害者- 13 -に会ったのは会社の車両で営業に出ていた途中に休憩をしていた時であって,当時金銭に特別窮していたという状況にはなく,また,暴力団関係者に知り合いもいないということであり,これに反する証拠はない。その被告人が,会社の車両に乗って営業の途中に,白昼,衆人環視の場所で,金員を強取するため女性を脅迫するという行為に出ることは,いささか無謀にすぎ,不自然である。 (12)以上の(1)~(11)で指摘の各点からすると,被害者が被告人から脅迫されて220号室に入ったという被害者証言は,真実でない可能性が高いといわざるを得ない。そうすると,被告人が,e西側歩道上で被害者に会ったときから,強盗の犯意の下に被害者を脅迫したという点については,合理的な疑いを容れない程度に証明があったものとは到底いうことができない。 次に,220号室の浴室における被告人の被害者に対する脅迫,暴行が,強姦の犯意のほかに,強盗の犯意の下で行われたものであるかどうかを見ることにする。 被告人供述は,被告人が全裸で浴室に入ろうとした時,洗面所に被害者の服やかばんがなかったことから,被害者が美人局かも知れないと思い,焦って被害者を捜したところ,被害者が浴室内でトレーナーとパンティ姿で立っていたので,「何でこんなところで服脱いでんの。」と聞くと,被害者が「結構生意気なというか,結構すごい剣幕で,あんたの知ったこっちゃないやんみたいな感じで,怒ったような感じで言ってきた」ことから口論となり,言い合ううちに強姦の犯意が生じ でんの。」と聞くと,被害者が「結構生意気なというか,結構すごい剣幕で,あんたの知ったこっちゃないやんみたいな感じで,怒ったような感じで言ってきた」ことから口論となり,言い合ううちに強姦の犯意が生じ,やくざのように脅してやろうと思い,「あそこのシマはやくざの許可がなかったら捕まるで。」,「B組のC会に知り合いいるから,ほんなら,何やったら今から言うたろか。」,「この近くにも組事務所もあるから,何やったら今から連れていってあ- 14 -げようか。」というふうに脅し,暴行を加えた,と述べる。 一方,被害者証言は,被告人が,浴室内で暴力団の名前を出して「デリヘル嬢として働け。」等と脅迫し,お金を要求し,「浴室の外に向かって,お前らまだ入ってくるなよとか,何度か叫んでいた」,と述べている。そこで,この被害者証言の信用性について検討する。 (1)被害者は,公判で,検察官から,被告人が姦淫行為後に述べた言葉について質問され,「事務所に行ったら,今後の,その風俗嬢の登録料として1本か2本置いていけと言っていました。」,「事務所に行ったら金を置いていけみたいな感じのことを言ってまして,で,今の時点でも,とりあえず,持ってる金もらっとくみたいな感じのことを。」と述べ,検察官から「被告人は,お前,今日は,組への登録料として,事務所に行く前に1本か2本置いてけやみたいなことを言ったんじゃないんですか。」と質問され,「正しいせりふとしては,もう,どっちがというのは記憶が定かではないんですけども,とりあえず,1本か2本置いてけというふうなことを。これは,登録料として金を置いてけみたいなことは,この場が初めてではなく,シャワールームにいたときから,ちょっと口に出したりとかしてたので。」と述べ,検察官から「その1本か2本置いていけという話というのは,事務所に行っ を置いてけみたいなことは,この場が初めてではなく,シャワールームにいたときから,ちょっと口に出したりとかしてたので。」と述べ,検察官から「その1本か2本置いていけという話というのは,事務所に行ってからなのかどうかは別として,具体的にそういう言葉自体は,いわゆる姦淫行為が終わった後だけじゃなくて,それ以前にも少し出ていたということなんですか。」と質問され,「はい,お金を置いていけみたいな感じのことは言われていましたね。」,「登録料とか・・・。」,「シャワールームで,とりあえずまだ何もされてない状況だけれど,服を半分だけ脱いで話をしている状態とかでも言われてたと思います。」と述べ,検察官から「そのことは検察庁での調書には記載が- 15 -ないんだけども,そういう話は検察庁ではしなかったの。」と質問され,「記憶が前後してて話せていないこととかもあったと思うんですけども,でも,全体的な話というのはもうほとんどバスルームにいたときに会話があって,そこが一番多かったと思うので,そこで結構いろいろな話をちょこちょこちょこちょこ言ってたとは思うんですね。」と述べ,検察官から「じゃあその段階,その段階というのはバスルームで話している段階で,お金の要求のようなことがあったということを記憶しているということですか。」と質問され,「はい。」と述べている。このように,被害者は,最後は,検察官に誘導される形で,姦淫行為の前に被告人から金員を要求されたことを肯定しているが,証言内容に曖昧な部分があり,姦淫行為の前の会話と後の会話を混同して述べている疑いがあり,被告人が強姦の犯意による脅迫の一環として売春には暴力団に対する登録料が必要であると言ったことを,被告人が自己に金員を渡すよう要求したと述べているのではないかとの疑いも残る。また,「服を半分だけ脱いで話をし 姦の犯意による脅迫の一環として売春には暴力団に対する登録料が必要であると言ったことを,被告人が自己に金員を渡すよう要求したと述べているのではないかとの疑いも残る。また,「服を半分だけ脱いで話をしている状態とかでも言われてたと思います。」という部分は,被害者が浴室内でトレーナーとパンティ姿で立っていた旨の被告人供述に符合する可能性を持ったものである。 (2)被害者の検察官に対する平成17年5月8日付け供述調書には,「お金の話がお風呂場で出てないかとのことですが,これはDが勝手に私に対してeの前で客引きする時いくらでやってるんやとか言いがかりをつけてきたときに出ただけです。Dが最後に私にお金を出させようとしたとき,Dから事務所に行く前に置いていけと言われた以外,ほかには出ていません。」とある(なお,この供述部分は,不同意部分であるが,供述調書の写しが上告趣意書に添付されており,弁論を開いて同供述部分を顕出することが可能である。)。これは,公判における被害者証言- 16 -より約4か月前の供述である。 (3)平成17年4月26日付けの逮捕状請求書記載の被疑事実は,強姦の事実と,強姦後の午後4時30分ころ,暴行脅迫と姦淫行為により抗拒不能の被害者に対し「今から事務所へ行く,持っている金出せ。」等と申し向け,現金2万円及び携帯電話機1台他1点を強取した旨の強盗の事実である。 (4)被告人が,eの西側歩道上で被害者に対し「客引きしてるでしょう。自分は売春や客引きを管理している。勝手にそういうことをされては困る。事務所に行って話そう。周りに人もいるし逃げても無駄だ。」との脅迫を行ったのであれば,その延長線上の行為として浴室内で金員の要求をしたということも考えられる。しかし,eの西側歩道上で脅迫行為があったということは,真実でない可能性が高く 逃げても無駄だ。」との脅迫を行ったのであれば,その延長線上の行為として浴室内で金員の要求をしたということも考えられる。しかし,eの西側歩道上で脅迫行為があったということは,真実でない可能性が高く,そうだとすれば,浴室内でいきなり金員の要求をしたことになり,唐突すぎる感がある。 (5)「浴室の外に向かって,お前らまだ入ってくるなよとか,何度か叫んでいた。」との被害者証言も,大型トラックが本件ホテル駐車場に入ってきたとの証言とともに,真実でない可能性が高い。 (6)以上の(1)~(5)で指摘の各点からすると,被告人が浴室内で被害者に金員を要求した旨の被害者証言には,真実でない疑いがあり,被告人が強姦の犯意とともに強盗の犯意の下に脅迫,暴行を行ったとの点については,合理的な疑いを容れない程度に証明されたということが困難である。そうすると,結局のところ,本件では刑法241条前段の強盗強姦罪の成立について証明があったとすることはできないのである。 最後に,被告人が,強姦行為の終了後に,220号室のベッドルームで被害- 17 -者から2万円を強取したか否かについて,検討する。 被害者証言は,被告人に強姦された後,220号室のベッドルームで,被告人から「とりあえず今持っているお金を置いていけ。」と言われ,財布の中から1万円札2枚を取り出して被告人に渡した,被告人はかばんと財布の中をあさり,携帯電話機2台を見つけたが,被害者が振込式携帯電話機は今は使えない状態であることを説明すると,被告人は振込式携帯電話機が使えるかどうかを確認せず,プリペイド式携帯電話機を見ながら「これがプリケーかあ。」って言って,「預かっとくわ。」と言って胸ポケットにしまった,被害者は被告人から事務所に登録するための資料にするため名前,生年月日,電話番号,連絡してよい時間 電話機を見ながら「これがプリケーかあ。」って言って,「預かっとくわ。」と言って胸ポケットにしまった,被害者は被告人から事務所に登録するための資料にするため名前,生年月日,電話番号,連絡してよい時間帯を紙に書けと言われ,名前,電話番号等を紙に書いて渡した,と述べる。 これに対し,被告人供述は,ベッドルームの机の上にプリペイド式携帯電話機が置かれていたのを見つけ,外部との連絡に使われては困ると思い,「事務所へ行ったら返す。」と言って奪ったが,現金は奪っていない,最初から被害者は現金をあまり持っていないと思っていた,かばんの中を探るようなことはしていない,もともと事務所に連れて行くというのは脅しにすぎず,暴力団関係の事務所を知りもしないので,「事務所に連れて行く代わり後日電話する。」と言って被害者を解放しようと思い,被害者に名前や電話番号などを紙に書かせた,と述べる。 被害者は,被告人から2万円を強取されたことを,事件の当日から司法警察員に申告しており,上記の被害者証言が真実である可能性は相当にあるものということができるが,なおその信用性について検討を加えることとする。 (1)被告人が被害者から2万円を奪ったことに関しては,被害者証言があるのみで,これを裏付ける客観的証拠はない。事件当日の被害者の衣服や姿を撮影し,- 18 -220号室等の実況見分の状況を記載した検甲第10号「被害者の写真撮影について」及び検甲第18号「実況見分調書」にも,被害者のかばんの中身,財布,所持金等に関する写真や記載がない。 (2)被告人が被害者のかばんをあさり,振込式携帯電話機を見つけたのであれば,使用できるかどうかを確認もせずに,これを奪わず,プリペイド式携帯電話機のみを奪ったというのは不自然であり,被告人が被害者のかばんや財布の中をあさったという被害者証言 帯電話機を見つけたのであれば,使用できるかどうかを確認もせずに,これを奪わず,プリペイド式携帯電話機のみを奪ったというのは不自然であり,被告人が被害者のかばんや財布の中をあさったという被害者証言の真実性が疑問となる。 (3)被害者証言の中で,被告人によるベッドルームにおける現金の要求も,eの西側歩道上での脅迫行為の延長線上のものとして語られているが,前述のとおり,この脅迫行為の存在が真実でない可能性が高いことは,現金要求に関する被害者証言の信用性を薄めるものである。 (4)被害者証言の中に「もしも私が警察の人から何か取られたものはあるというふうな聞かれ方をしなかったら,もしかしたら私は,実際に取られていても,実際取られたんですけど,言わなかったかも知れません。それくらい,私の中ではどうでもいいことだからです。」という部分があり,2万円強取の事実に,若干ではあるが,疑問を投げかける。 (5)被告人は,逮捕翌日の平成17年4月28日の弁解録取書(検乙第11号)で,本件ホテル内で被害者と言い争いになり,互いにたたき合ったこと,被害者を脅迫したこと,携帯電話機を奪ったことを認め,姦淫をしたかどうか,現金及びテレホンカードを奪ったかどうかは思い出せないと述べ,同月29日の勾留質問調書(検乙第12号)で「セックスはしていません。携帯電話はかごにあったものを持っていったのであり奪ったのではありません。現金とテレホンカードは,奪っ- 19 -ていません。」と述べていたが,同年5月15日の司法警察員に対する供述調書(検乙第6号)で,脅迫暴行の上被害者を強姦したこと及び携帯電話機を奪ったことを認めるに至り,その後は細部を除き同旨の供述を維持する一方,現金を奪ったことについては一貫して否認している。被告人が当時金銭に窮していたことをうかがわせる証拠 姦したこと及び携帯電話機を奪ったことを認めるに至り,その後は細部を除き同旨の供述を維持する一方,現金を奪ったことについては一貫して否認している。被告人が当時金銭に窮していたことをうかがわせる証拠もない。これらのことに照らすと,4の冒頭に摘示した被告人供述も,不合理な内容を述べるものにすぎないとして,一概にその信用性を否定しさることは困難であるといわざるを得ない。 (6)以上の(1)~(5)で指摘の点からすると,被告人が被害者から現金2万円を強取したとの被害者証言の信用性にも疑問を挟む余地があり,疑わしきは被告人の利益にという刑事訴訟の基本理念に照らし,現金2万円の強取の事実も,合理的な疑いを容れない程度に証明されたものということはできないのである。 以上のとおり,原判決は,被告人が被害者を強姦するとともに金員を強取しようと企て,被害者に対し脅迫と暴行を加え,強いて被害者を姦淫するとともに,被害者所有の現金2万円及びプリペイド式携帯電話機1台を強取したと認定し,被告人を刑法241条前段の強盗強姦罪で処断したが,被告人が強盗の犯意をもって被害者に対し脅迫及び暴行を加えたという点,及び被告人が被害者から現金2万円を強取したという点については,合理的疑いを容れない程度に証明があったということができないので,原判決には事実を誤認した疑いがあり,これが判決に影響を及ぼすことが明らかであって,原判決を破棄しなければ著しく正義に反するものと認められる。よって,刑訴法411条3号,413条本文により,原判決を破棄し,更に審理を尽くさせるため,本件を原裁判所に差し戻すのが相当であると考える。 - 20 - なお,涌井裁判官の補足意見にかんがみ,一言付加することとする。 刑訴法411条3号は,「判決に影響を及ぼすべき重大な事実の誤認があること」と規 に差し戻すのが相当であると考える。 - 20 - なお,涌井裁判官の補足意見にかんがみ,一言付加することとする。 刑訴法411条3号は,「判決に影響を及ぼすべき重大な事実の誤認があること」と規定するにとどまるから,経験則あるいは論理法則違反に至らないまでも,事実認定の過程に不合理な点があり,そのために事実誤認の疑いがある場合をも,救済の対象としていると解され,現に,最高裁も,同号をそのように運用してきている(例えば,上告審が自らの提出命令により提出させ公判に顕出する方法で取り調べた証拠物を原判決の事実認定の当否を判断する資料に供することができるとした上,判決に影響があつてこれを破棄しなければ著しく正義に反する重大な事実誤認を疑うに足りる顕著な事由があるときは,刑訴法411条3号によつて原判決を破棄することができるとした最高裁昭和29年(あ)第1671号同34年8月10日大法廷判決・刑集13巻9号1419頁,被告人を犯人と断定することについては合理的な疑いが残るとして,疑わしきは被告人の利益にの原則に従い,同号によって原判決を破棄し,無罪を言い渡した最高裁昭和45年(あ)第66号同48年12月13日第一小法廷判決・裁判集刑事190号781頁など。なお,最高裁昭和34年(あ)第2148号同37年5月19日第一小法廷判決・刑集16巻6号609頁に付された高木常七裁判官の「みずから事実の取調べをなさず、専ら書面審理によつて事件の全貌を把握するしかない上告審としては、右判決の過程において明らかに経験則の違反ないし論理法則の違背があると認められないかぎり、それを尊重するのが相当である。」との少数意見には,傾聴すべきものがあると考えるが,無罪を言い渡した原判決を破棄差戻しとする判決に対する少数意見であることに留意すべきである。)。 我々も,従来 り、それを尊重するのが相当である。」との少数意見には,傾聴すべきものがあると考えるが,無罪を言い渡した原判決を破棄差戻しとする判決に対する少数意見であることに留意すべきである。)。 我々も,従来の最高裁判例に従い,原判決の事実認定に不合理なところがないか- 21 -否かの事後審査をした上で,公訴事実どおりに強盗強姦罪を認定するには合理的な疑いが残ると判断しているにすぎないのである。 (裁判長裁判官横尾和子裁判官甲斐中辰夫裁判官泉徳治裁判官才口千晴裁判官涌井紀夫)

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