平成21(行ウ)4 教員採用決定取消処分取消等請求事件

裁判年月日・裁判所
平成28年1月14日 大分地方裁判所 その他
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判決文本文33,149 文字)

平成28年1月14日判決言渡同日原本領収裁判所書記官平成21年(行ウ)第4号教員採用決定取消処分取消等請求事件口頭弁論終結日平成27年9月17日判決主文 1 被告は,原告に対し,400万円を支払え。 2 原告のその余の請求をいずれも棄却する。 3 訴訟費用は,これを2分し,その1を原告の負担とし,その余を被告の負担とする。 事実 及び理由第1 請求 1 大分県教育委員会が,原告に対して,平成20年9月8日付けで行った「平成20年4月1日付けで行った『大分県大分市公立学校教員に任命する。大分県大分市立a小学校教諭に補する。教育職(二)2級17号給を給する。ただし,教育公務員特例法第12条第1項により1年間条件附採用とする。』との発令を取り消す。」との処分を取り消す。 2 被告は,原告に対し,770万円を支払え。 第2 事案の概要本件は,平成19年に実施された平成20年度大分県公立学校教員採用選考試験(以下「平成20年度選考試験」という。)に合格し,同年4月1日付けで,大分県教育委員会(以下,単に「県教委」という。)から大分市公立学校教員に任命された(以下「本件採用処分」という。)原告が,県教委から,平成20年度選考試験に係る原告の成績に不正な加点操作があったとして,同年9月8日付けで,本件採用処分の取消処分(以下「本件取消処分」という。)を受けたことから,本件取消処分が違法であると主張して,被告に対し,本件取消処分の取消しを求めるとともに,国家賠償法1条1項に基づき,違法な本 件取消処分ないし本件採用処分により精神的苦痛を受けたとして,慰謝料及び弁護士費用の合計である770万円の損害賠償を求める事案である。 1 関係法令の定め(平成20年4月1日当時のもの)地方公務員法(以 ないし本件採用処分により精神的苦痛を受けたとして,慰謝料及び弁護士費用の合計である770万円の損害賠償を求める事案である。 1 関係法令の定め(平成20年4月1日当時のもの)地方公務員法(以下「地公法」という。)ア 13条すべて国民は,この法律の適用について,平等に取り扱われなければならず,人種,信条,性別,社会的身分若しくは門地によって,又は16条5号に規定する場合を除く外,政治的意見若しくは政治的所属関係によって差別されてはならない。 イ 15条職員の任用は,この法律の定めるところにより,受験成績,勤務成績その他の能力の実証に基づいて行わなければならない。 ウ 17条1項職員の職に欠員を生じた場合においては,任命権者は,採用,昇任,降任又は転任のいずれか一の方法により,職員を任命することができる。 2項省略3項人事委員会を置く地方公共団体においては,職員の採用及び昇任は,競争試験によるものとする。但し,人事委員会の定める職について人事委員会の承認があつた場合は,選考によることを妨げない。 4項~5項省略エ 21条1項人事委員会を置く地方公共団体における競争試験による職員の任用については,人事委員会は,試験ごとに任用候補者名簿(採用候補者名簿又は昇任候補者名簿)を作成するものとする。 2項採用候補者名簿又は昇任候補者名簿には,採用試験又は昇任試験 において合格点以上を得た者の氏名及び得点をその得点順に記載するものとする。 3項採用候補者名簿又は昇任候補者名簿による職員の採用又は昇任は,当該名簿に記載された者について,採用し,又は昇任すべき者一人につき人事委員会の提示する採用試験又は昇任試験における高点順の志望者5人のうちから行うものとする。 4項~5項省略オ 22条 ,当該名簿に記載された者について,採用し,又は昇任すべき者一人につき人事委員会の提示する採用試験又は昇任試験における高点順の志望者5人のうちから行うものとする。 4項~5項省略オ 22条1項臨時的任用又は非常勤職員の任用の場合を除き,職員の採用は,すべて条件附のものとし,その職員がその職において6月を勤務し,その間その職務を良好な成績で遂行したときに正式採用になるものとする。この場合において,人事委員会は,条件附採用の期間を1年に至るまで延長することができる。 カ 61条左の各号の一に該当する者は,3年以下の懲役又は10万円以下の罰金に処する。 1号省略2号 15条の規定に違反して任用した者3号~5号省略教育公務員特例法(平成24年8月22日法律第67号による改正前のもの。以下「教特法」という。)ア 1条この法律は,教育を通じて国民全体に奉仕する教育公務員の職務とその責任の特殊性に基づき,教育公務員の任免,給与,分限,懲戒,服務及び研修等について規定する。 イ 2条 1項この法律で「教育公務員」とは,地方公務員のうち,学校教育法1条に定める学校であって同法2条に定める公立学校(中略)の学長,校長(園長を含む。以下同じ。),教員及び部局長並びに教育委員会の教育長及び専門的教育職員をいう。 2項この法律で「教員」とは,前項の学校の教授,(中略),教諭,(中略)をいう。 3項~5項省略ウ 11条公立学校の校長の採用並びに教員の採用及び昇任は,選考によるものとし,その選考は,大学附置の学校にあっては当該大学の学長,大学附置の学校以外の公立学校にあってはその校長及び教員の任命権者である教育委員会の教育長が行う。 エ 12条1項公立の小学校,(中略)の教諭,(中略 学附置の学校にあっては当該大学の学長,大学附置の学校以外の公立学校にあってはその校長及び教員の任命権者である教育委員会の教育長が行う。 エ 12条1項公立の小学校,(中略)の教諭,(中略)に係る地公法22条1項に規定する採用については,同項中「6月」とあるのは「1年」として同項の規定を適用する。 2項省略 2 前提事実(後掲各証拠等及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)当事者(甲1,2,乙3,争いのない事実)ア原告は,昭和●年●月●日生まれの男性であり,平成16年4月にb大学▲に入学し,同大学の教授であったc(以下「c」という。)の指導を受けた。そして,平成19年7月から同年9月にかけて実施された平成20年度選考試験を受験し,同年10月9日にこれに合格した旨の発表及び通知を受け,平成20年3月25日,幼稚園,小学校,中学校,高等学校の各教諭1種免許状(以下「教員免許」という。)を取得した上,同大学を卒業し,同年4月から大分市立a小学校に勤務している。 イ被告は,教育公務員を採用するための選考試験(以下「本件選考試験」という。)を実施している県教委(合議体による執行機関のみならず,被告の教育庁等の事務局を含むものをいう。以下同じ。)が属する地方公共団体である。 平成20年度選考試験の概要(乙1,2)ア県教委は,平成19年4月から同年5月にかけて,平成20年4月1日付け採用予定の平成20年度選考試験の実施要領を策定し,同要領の告示,配布等を行い,平成19年6月1日から同月15日までの間に願書の受付を行った。その出願状況は,採用予定者39人に対し,出願者数496人であった。 イ一次試験は,同年7月21日及び翌22日に実施され,同月23日から同月31日頃にかけて採点及び集計が行われ,一次 を行った。その出願状況は,採用予定者39人に対し,出願者数496人であった。 イ一次試験は,同年7月21日及び翌22日に実施され,同月23日から同月31日頃にかけて採点及び集計が行われ,一次試験合格者の決定の上,同年8月17日に合格発表が行われた。その内容は,教養・専門・実技・作文・集団討論であり,合格者は,受験者472人中117人であった。 ウ二次試験は,同年9月4日から同月7日にかけて実施され,その内容は,実技・個人面接・模擬授業であった。 採点は試験官が受験者ごとに行い,採点結果が集計された後,教育長による選考が行われ,同年10月9日,原告を含む合格者41人(実質倍率は11.5倍であった。)が平成20年度採用候補者名簿に登載された。 本件取消処分までの基本的な経緯(甲3ないし9,乙6ないし8,19,34,37,弁論の全趣旨)ア県教委は,平成20年4月1日付けで,原告に対し,「大分県大分市公立学校教員に任命する。大分県大分市立a小学校教諭に補する。教育職(二)2級17号給を給する。ただし,教育公務員特例法第12条第1項により1年間条件附採用とする。」との処分(本件採用処分)をし,原告は,同日から大分市立a小学校で勤務を開始した。 イ贈収賄事件の発覚平成20年度選考試験について,公立小学校長の長男及び長女が同試験に合格するよう,有利かつ便宜な取り計らいを受けたい趣旨のもとに供与されるものであることを知りながら賄賂を収受したとして,平成20年6月14日,大分県教育庁義務教育課参事のd(以下「d」という。)が収賄容疑で,同校長らが贈賄容疑で逮捕された。また,平成19年度採用者に関する本件選考試験(以下「平成19年度選考試験」という。)において,県教委職員と公立小学校教頭の夫婦の長女が同試験に合格するよう 賄容疑で,同校長らが贈賄容疑で逮捕された。また,平成19年度採用者に関する本件選考試験(以下「平成19年度選考試験」という。)において,県教委職員と公立小学校教頭の夫婦の長女が同試験に合格するよう有利な取り計らいを求める趣旨のもとに供与されるものであると知りながら賄賂を収受したとして,由布市教育委員会教育長であったe(以下「e」という。)及びdが収賄の容疑により,上記夫婦が贈賄の容疑によりそれぞれ逮捕された。 上記県教委の職員等は,当庁により,いずれも執行猶予付きの懲役刑(収賄罪については更に追徴金の付加刑)の有罪判決をそれぞれ宣告されている(以下,上記各贈収賄事件を総称して,「本件贈収賄事件」という。なお肩書きは,いずれも当時のものである。)。 ウ県教委による調査県教委では,本件贈収賄事件のほか校長・教頭候補者選考試験における贈収賄事件が発覚したことを受け,事実解明のため,大分県教育委員会教育行政改革プロジェクトチーム(以下「本件プロジェクトチーム」という。)を設け,本件選考試験における不正の実態や,平成19年度選考試験及び平成20年度選考試験における不正内容について調査した(以下「本件調査」という。)。その結果,平成20年度選考試験については,一次試験及び二次試験それぞれの改ざん前のファイルについて特定に至ったが,平成19年度選考試験については,特定に至らないという結論となった。 エ県教委は,本件調査の結果,平成20年度選考試験では,原告を含む2 1名が合格点に達していなかったにもかかわらず,合格判定がされていたものとし,同年8月30日,同人ら(ただし,うち1名は既に退職していた。)に対し,平成20年度選考試験において,試験結果に不正な点数操作があったこと,本件採用処分は地公法15条に違反する処分であるから, し,同年8月30日,同人ら(ただし,うち1名は既に退職していた。)に対し,平成20年度選考試験において,試験結果に不正な点数操作があったこと,本件採用処分は地公法15条に違反する処分であるから,採用時に遡ってこれを取り消す必要があるが,同年9月3日までに希望がある場合には,自主退職を認めるほか,当該年度末までの間,臨時講師としても採用することなどを説明した。 オ原告は自主退職を希望せず,臨時講師としての採用を希望したため,県教委は,同年9月8日,原告に対し,「平成20年4月1日付けで行った『大分県大分市公立学校教員に任命する。大分県大分市立a小学校教諭に補する。教育職(二)2級17号給を給する。ただし,教育公務員特例法第12条第1項により1年間条件附採用とする。』との発令を取り消す。」との処分(本件取消処分)を行った上,翌日,原告を臨時講師として任用(規則により教育長の専決事項として定められている。)した。 3 争点本件採用処分の違法性本件取消処分の適法性ア取消権制限の法理イ平等原則違反国家賠償請求の可否及び内容第3 争点に対する当事者の主張 本件採用処分の違法性)について(被告の主張)本件採用処分は,次のとおり,不正な点数の改ざんに基づいているから違法である。 教育公務員の採用について ア地公法15条は,地方公務員の任用にあたり,成績主義又は能力実証主義をとっており,これは採用の方法が,競争試験であるか選考であるかを問わない,地方公務員の採用における基本原則である。そして,公立学校における教員の採用は,教特法11条により教育委員会の教育長が選考により行うものとされるが,具体的な実施方法については何ら定めが設けられておらず,選考権者の広範な裁量に委ねられているものといえ 学校における教員の採用は,教特法11条により教育委員会の教育長が選考により行うものとされるが,具体的な実施方法については何ら定めが設けられておらず,選考権者の広範な裁量に委ねられているものといえる。 イ被告においては,この成績主義又は能力実証主義を実現するため,教育委員会の唯一の判断資料として,本件選考試験を実施し,各科目を点数化した上で,上位の者から当該年度の採用予定者数に満つるまでを合格者として扱い,大分県公立学校教員採用名簿に登載することとしている。 本件採用処分について県教委では,本件調査の結果,原告については,1次試験は327点で改ざんなどもされていなかったものの,2次試験については,本来は351点であったにもかかわらず,403点に改ざんされ,順位も84位から合格水準である上位41名を上回る35位であるとされ,合格者として本件採用処分に至っていることが判明した。そうすると,原告に対する本件採用処分は,本件選考試験による成績に基づいておらず,地公法15条に反する。 原告の主張に対する反論ア原告は,選考とは,特定の者が当該職の職務遂行能力を有する適格があるか否かを判定することをいうから,必ずしも試験による必要はないのであって,本件選考試験は被告が内部的に定める基準にすぎない上,二次試験における模擬試験及び個人面接における評価基準は,極めて主観的であって,客観的に教員としての素質や適性を判断できるようなものでなく,原告には教員免許状の取得や教員としての勤務状況等に照らし,教員としての能力は実証されている旨を主張する。 イしかし,教育公務員の任用が選考とされるのは,教職員免許状の取得な いしその見込みを要件としている点で対象を特定しているからであるし,教特法が制定された当初はともかく,現在では,公立学校 イしかし,教育公務員の任用が選考とされるのは,教職員免許状の取得な いしその見込みを要件としている点で対象を特定しているからであるし,教特法が制定された当初はともかく,現在では,公立学校の教職員に採用予定者数を大幅に上回る受験者がおり,教職員免許状の取得により教育公務員としての能力の実証を伴っているとは評価できなくなっている。 そこで,県教委では,本件選考試験を実施し,全ての項目を点数化して上位から採用予定数に満つるまでを合格者として扱うこととしているのであって,上記の広範な裁量権の範囲に含まれる措置といえる。また,原告が主観的であるという,模擬授業や個人面接についても,具体的な評定基準を設けるなどして,客観的な評価を可能としている。 原告の勤務状況等は本件選考試験における合否判定とは関係がない。 (原告の主張)原告の成績が改ざんされていたとしても,本件採用処分は違法でないこと地公法15条は,地方公務員の任用について成績主義又は能力実証主義を定めて,情実人事を禁止し,人事の公正を図っているものの,教特法11条は,教育公務員の採用は,競争試験の特例として選考によるとする。その趣旨は,教員の採用については,教員免許の取得(又はその予定)が資格要件となることから,あえて競争試験を行う必要はないという点にある。そうすると,本件採用処分が違法であるというには,成績主義又は能力実証主義に違反しているか,情実に基づく採用であることが立証される必要があり,前者については,本件選考試験が教員としての適性を正確に測ることができるものであるか否かや,原告の教員としての適性の有無等を総合的に判断するべきである。 ア本件選考試験は,教特法の要求するものではなく,被告内部における基準を定めるものにすぎない。そうであれば,これを満たさない 否かや,原告の教員としての適性の有無等を総合的に判断するべきである。 ア本件選考試験は,教特法の要求するものではなく,被告内部における基準を定めるものにすぎない。そうであれば,これを満たさないからといって,成績主義に反することにはならない。現に,県教委自身が,平成13年度採用に関する選考試験以前には,試験の成績のほか男女比や臨時講師 としての勤務実績を考慮しており,また,平成26年度採用に関する選考試験では,一次試験に採点ミスがあったが,訂正後には不合格となるはずであった受験者についても帰責性がないこと等を理由に,遡って一次試験を不合格とすることはしていない。 イ本件採用試験のうち,原告が改ざんを受けたという面接及び模擬授業の科目における評定基準は,評定者の主観によるものであって,客観的に教員としての資質や適性を判断できるものでなく,適格性に欠ける。 ウ原告は,b大学を卒業し学士(教育)の資格を得ている上,文部科学大臣が定める教職過程を経るなどして教員免許状を取得し,平成20年度選考試験においても一次試験には合格していることからすれば,教員としての知識や教養,必要な技能等を習得しているものということができる。さらに,原告は,県教委の審議監等も務め,その後b大学の教授となったcからも教員としての適格を認められており,本件採用処分後も,生徒や保護者と信頼関係を築き,指導教員からも評価されている。また,競争試験に関する地公法21条では,原告の本来の成績であったという84位でも採用候補者名簿に登載される資格があったものと解することができる。 すなわち,原告の教員としての適性は既に実証されているものというべきである。 原告及びその家族が県教委の不正に関与したという事情はなく,本件採用処分の改ざんは,県教委内部における とができる。 すなわち,原告の教員としての適性は既に実証されているものというべきである。 原告及びその家族が県教委の不正に関与したという事情はなく,本件採用処分の改ざんは,県教委内部における長年に渡る組織的な不正体質に基づいている。また,県教委は,b大学と教員の採用について協力関係を構築し,県教委の出身者がb大学の教授ないし准教授を歴任していること(cもその一人である。)に照らせば,cからの口利きは,県教委からの推薦と同視することも可能であるから,情実人事が行われたということはできない。 したがって,本件採用処分が違法であるということはできない。 (取消権制限の法理)について (原告の主張)本件採用処分は,いわゆる授益的行政処分であるから,これを取り消し得るのは,当該行政処分を放置することが著しく公益を害し,取消処分により被処分者が被る不利益と比較衡量し,これを取り消さないことが公共の福祉の観点から著しく不当であるような場合に限定されるものというべきであるところ,次のとおり,本件採用処分を放置することが著しく公益を害するものとはいえないし,また,原告が被る不利益との比較衡量において,これを取り消さないことが公共の福祉の観点から著しく不当であるということもできない。 本件採用処分を維持することによる公益上の不利益について原告ないしその親族は,不正とは一切の関わりがないのであるから,県教委内に不正があったからといって,本件取消処分に合理的な根拠があるものということはできない。そして,原告については,教員免許の取得,cからの評価,一次試験の合格,教員としての稼働状況等から,教員としての適性が裏付けられているものといえる。 そうであれば,実際に原告が正規教員として勤務することにより,具体的な公益侵害は 取得,cからの評価,一次試験の合格,教員としての稼働状況等から,教員としての適性が裏付けられているものといえる。 そうであれば,実際に原告が正規教員として勤務することにより,具体的な公益侵害は生じていないし,教員採用の公正や国民の信頼を破壊したのは,県教委における組織的な不正行為であって,原告に対する本件採用処分を取り消したからといって,これが回復されるということはできない。 したがって,本件採用処分を取り消さないことにより,著しい公益上の不利益が生じるということはできない。 本件取消処分により原告が被る不利益について原告は,本件取消処分により,正規の教職員としての地位を失っている。 原告は,その後,臨時講師として採用されているものの,任用期間が区切られることにより,不安定な身分に置かれ,給与等の待遇面でも不利な立場に置かれている(正規教員と臨時講師の生涯賃金の差は1億円を超える。)。ま た,現に合格通知を受け,5か月にもわたり正規教員として稼働した原告の期待権侵害も重大である。 (被告の主張)法律関係が継続する資格等の地位付与については,必要な要件を欠いているにもかかわらず,取消権が制限されると,法の趣旨を没却することになる。 したがって,いわゆる行政処分の取消権制限の法理の適用は,財産的な処分に限定されるべきである。 仮にそうでないとしても,授益的意思表示の取消しに際しては,違法性の程度,処分の相手方が被る不利益等について比較衡量し,取り消された行政処分を放置することが公共の福祉の観点に照らし,相当性を欠く場合には,これを取り消すことも適法とされる。 ア本件採用処分の違法の重大性成績主義及び能力実証主義の違反については罰則(地公法61条2号)も定められており,これは地方公務員の採用に当たっての根本 は,これを取り消すことも適法とされる。 ア本件採用処分の違法の重大性成績主義及び能力実証主義の違反については罰則(地公法61条2号)も定められており,これは地方公務員の採用に当たっての根本原則である。 そして,原告は,平成20年度選考試験において,合格水準に達しておらず,加点がされたために合格として扱われたというのであるから,この根幹となる要件を欠いていたことになり,その違法性は極めて重大である。 また,公立学校の教員は,一度採用されると,長年に渡り,多数の児童や生徒の人格や能力の形成過程に関わることとなる専門的な職業であるから,成績主義ないし能力実証主義の趣旨を貫徹する必要性が特に高いものといえる。 以上からすると,優秀な人材の確保や人事の公正という法の趣旨,教員採用試験に対する社会や住民の信頼を維持するためには,本件採用処分を取り消す公益上の必要性は高い。 これは,原告が不正な点数操作に関与していないとしても,異ならない。 イ本件取消処分により原告が被る不利益 本件採用処分が違法である以上,原告には,正規の職員としての資格を得る正当な利益はない上,本件取消処分がされた時点では条件附採用を受けたのみの極めて不安定な立場を有していたにすぎない。また,本件取消処分は,本件採用処分から約5か月程度で速やかに行われており,給与の返還を求めることはせず,原告の希望に応じて臨時講師として採用するなど十分な代償措置も講じられている。 ウ以上を比較衡量すれば,本件採用処分を取り消すことなく放置することは,公共の福祉の要請に照らし,著しく不当であるから,本件取消処分は適法である。 (平等原則違反)について(原告の主張)被告は,平成20年度選考試験においては,教員としての採用処分を取り消しているが,平成19年 ,著しく不当であるから,本件取消処分は適法である。 (平等原則違反)について(原告の主張)被告は,平成20年度選考試験においては,教員としての採用処分を取り消しているが,平成19年度選考試験の採用者については,採用処分を取り消しておらず,平成20年度選考試験の合格者のみについて,差別的な取扱いをしており,平等原則に反し,違法である。 被告は,平成19年度選考試験のファイルの復元について,信用性に疑義があったため,同年度選考試験については,採用処分の取消しには至らなかったと主張するが,ファイルの復元を専門的な機関に外注するなどにより,本件調査よりも正確にファイルを復元し,平成19年度選考試験において改ざんを受けた受験者を特定することは可能であったから,合理的な理由とはならない。 (被告の主張)平成19年度選考試験においては,点数を書き換えたのがdのみであり,その方法も素点欄を直接変更するものであるため,改ざん前の点数を特定する信憑性が十分でなかったものである。 したがって,平成19年度選考試験による採用者について,採用処分の取消しを行っていないことには合理的な理由があるから,本件取消処分が平等原則 に反するということはできない。 (国家賠償請求の可否及び内容)について(原告の主張)公務員の故意又は過失による違法行為についてア県教委の職員であったd及び当時副主幹であったf(以下「f」という。)は,平成20年度選考試験について,点数の改ざん行為を行ったため,本件採用処分に至っている。 イ dらの不正が発覚したからといって,5か月以上も実際に教員として勤務していた原告について本件採用処分を取り消すのであれば,原告やその親族が不正に関与したか否かや,その間の勤務状況等について,十分な調査を 不正が発覚したからといって,5か月以上も実際に教員として勤務していた原告について本件採用処分を取り消すのであれば,原告やその親族が不正に関与したか否かや,その間の勤務状況等について,十分な調査をすべきであるし,再試験を実施し,教員の適性を改めて判断することも考えられる。すなわち,県教委が本件取消処分を行う際には,県教委の組織的な不正により点数の改ざんが行われていたという本件の特殊性に十分に配慮し,授益的行政処分における取消権制限の法理も踏まえた上で,慎重な調査や検討を経るべき義務があったにもかかわらず,県教委は,単に点数の改ざんがあったことのみを根拠として本件取消処分に及んでいる。 そうであれば,県教委の意思決定には,国家賠償法上の過失による違法があるというべきである。 ウしたがって,本件採用処分ないし本件取消処分につき,公務員の故意又は過失による違法行為があったものと認められる。 慰謝料額について原告は,本件取消処分により,幼少の頃より目指していた正規の教員としての地位を奪われ,現在まで不安定な年度毎の臨時講師として勤務を継続しているものである。原告が不正合格者であるとのレッテルを貼られながら,この点について,十分な調査が行われておらず,また,翌年の本件選考試験を受ける機会まで実質的に喪失している。さらに,自己への改ざんがあった か否かを判断する上で最も重要な証拠である答案用紙等が県教委により廃棄されている。県教委が,長年に渡り組織的に繰り返してきた不正行為により,何ら帰責性のない原告が一方的に上記各不利益を被ったことからすれば,慰謝料として700万円は下らないものというべきであり,また,弁護士費用として70万円を認めるのが相当である。 (被告の主張)本件取消処分は適法であるから,その過程における公務員の注 らすれば,慰謝料として700万円は下らないものというべきであり,また,弁護士費用として70万円を認めるのが相当である。 (被告の主張)本件取消処分は適法であるから,その過程における公務員の注意義務違反はない。また,本件調査は十分に信用することができるものであるため,答案用紙等が廃棄されていたからといって,慰謝料の増額事由にもならない。さらに,原告に対する点数の改ざんは,dが独自に行ったもので,県教委が組織的に行ったものではないし,本件採用処分は,原告の本件選考試験における成績が合格水準に大きく達していないという重大な瑕疵があった以上,原告やその親族が不正に改ざんしているか否か等にかかわらず,これを取り消すべき公益上の必要性が肯定される。また,教育公務員として採用されるべきか否かは本件選考試験により決すべきものであるから,原告の不正への関与であるとか,原告の勤務実績等を調査・検討すべき義務があるということもできない。 第4 当裁判所の判断 1 認定事実本件選考試験の運用の変遷(甲9,乙9)県教委は,平成13年度採用に関する本件選考試験までは,試験結果を公開せず,各受験者の試験成績についても,A(採用が予定され,採用候補者名簿に登載される者)・B(欠員が生じた場合に採用されることがあり,採用候補者名簿に登載される者)・C(採用候補者名簿に登載されない者)の3段階を定め,合格水準付近(1,2点の範囲)にいる受験生間では,試験成績のほか,男女比や臨時講師の実績等も考慮して成績判定をしていたが,平成14年度の採用に関する試験以降は,不明確な3段階評価ではなく,全 科目を得点化した上で順位をつけ,他の事情は考慮せずに当該年度の採用予定者数に満つるまでの者を合格とし,その者のみを上記採用者名簿にも登載し,その余の者は全 明確な3段階評価ではなく,全 科目を得点化した上で順位をつけ,他の事情は考慮せずに当該年度の採用予定者数に満つるまでの者を合格とし,その者のみを上記採用者名簿にも登載し,その余の者は全て不合格とする運用に改め,各科目の点数及び総合点について情報開示をすることとした(平成14年から大分県情報公開条例が施行されている。)。 平成20年度選考試験の内容(甲30,乙1,10)原告が受験した公立小学校の教員について,一般選考を希望する者の受験資格,試験内容等は,概ね,次のとおりである。 ア受験資格地公法16条及び学校教育法9条の欠格条項に該当しない者志望種別に応ずる教諭普通免許状を現に有している者又は平成20年3月31日までに取得見込みの者昭和42年4月2日以降に生まれた者。ただし大分県公立学校教職員(臨時的任用の者を除く。)又は都道府県の国公立学校教諭若しくは養護教諭として現に身分を有する者は,昭和37年4月2日以降に生まれた者県内のどこにでも赴任できる者イ採用予定者数39名ウ一次試験の内容及び配点教養(一般及び教職:80点),専門(小学校の全教科:200点),実技(水泳:20点),作文(800字以内:100点),面接(集団討論:100点)エ二次試験の内容及び配点実技(音楽・体育,60点),個人面接(300点),模擬授業(140点) オ個人面接及び模擬授業の実施方法等平成20年度選考試験における模擬授業及び面接の内容は,概ね次のとおりである。 面接委員民間人1名及び県教委の職員2名の合計3名で構成する。 模擬授業は約15分程度とし,その後約20分間の個人面接を行う。 模擬授業の評定について,別紙1の基準を参考とし,50点満点のうち,5点刻みで 人1名及び県教委の職員2名の合計3名で構成する。 模擬授業は約15分程度とし,その後約20分間の個人面接を行う。 模擬授業の評定について,別紙1の基準を参考とし,50点満点のうち,5点刻みで採点する。 個人面接について,別紙2「個人面接採点基準表」に基づいて,50点満点で採点する。また,本件選考基準では,個人面接に当たって質問していけない事項や,有効な質問方法や,面接の流れの具体例等が記載されている。 本件選考試験における不正(甲9,31,50,85,乙53の1,g証人)ア始期を特定することはできないものの,県教委では,遅くともeが課長として本件選考試験に関わるようになった平成14年頃には,既に本件選考試験について,教育次長等の役職にある者らに対し,特定の受験生を合格させるよう便宜を図ってもらいたい旨の,いわゆる口利きの依頼が多数寄せられる状況となっていた。eは,当時の教育次長であったcの下に寄せられていた上記依頼についても,同人から対応を指示されていた。eは,口利きについて,上司や部下等に相談しても,毎年あることで,人事担当者に任せておけばよいなどといった返答がされるような状況であったというのであり,口利きの存在は,少なくとも県教委の担当職員等の間では半ば公然の事実となっていたものと推認される。 本件調査によると,これらの依頼は,平成14年より以前から,前記の県教委職員らに対し,「頼みます。」であるとか,「結果を知らせて。」など と言われる方法によって行われていたようであるが,少なくとも,平成19年から教育審議監を務めていたgは,前任者であるeから,上記のような口利き依頼がある旨を引き継いでいた。 イ gは,平成19年度選考試験及び平成20年度選考試験の際,上記の趣旨の名簿等を,直接又はより上位の 審議監を務めていたgは,前任者であるeから,上記のような口利き依頼がある旨を引き継いでいた。 イ gは,平成19年度選考試験及び平成20年度選考試験の際,上記の趣旨の名簿等を,直接又はより上位の幹部職員から複数受け取っており,本件選考試験の集計を担当していたdに対し,「よろしく頼む。」などと言いながらこれらの名簿等を交付し,dもこれが合格点に達しない受験者に対する点数の改ざんを指示されたものとして受け取っていた。 その後,平成19年度選考試験においてはd,平成20年度選考試験においてはd及びfが,採点結果を集計する作業の中で,適宜,上記メモ等にある受験生が極力合格するよう試験成績を改ざんした。 原告の試験成績に対する点数改ざん(甲7,9,51,52,58,89,乙19,20,24ないし28,53の1,原告本人,c証人,g証人)ア cと本件選考試験の関係cの経歴cは,昭和42年4月に,大分県の公立学校の教員として採用され,平成11年4月1日から平成14年3月31日までは,大分県教育庁教職員第一課長を,同年4月1日から同庁教育次長を,平成16年4月1日からは同庁教育審議監をそれぞれ務め,平成17年3月31日に定年退職後,同年4月1日からはb大学■学部の教授として採用され,平成20年9月22日に同大学を退職した。 cがb大学の教授となるまでの経緯等県教委とb大学とは,平成12年頃から連絡協議会を開くなどして連携を図ってきたところ,平成16年9月21日,「連携協力に関する協定書」を締結し,県教委は,教育行政や教育現場における教育実践上の技術的知識や情報をb大学に提供し,b大学は,教育研究における高度専 門的な知識や成果を県教委に提供することにより連携協力を行うこと等が定められた。また,b大学は,設置していた 育実践上の技術的知識や情報をb大学に提供し,b大学は,教育研究における高度専 門的な知識や成果を県教委に提供することにより連携協力を行うこと等が定められた。また,b大学は,設置していた教育実践研究指導センター(平成13年10月からは「教育実践総合センター」,以下単に「センター」という。)の専任教員である助教授として,平成12年4月1日,県教委の教育次長を務めていた者を採用し,平成14年7月1日にはその後任者として,同様に県教委の教育次長を務めていた者を助教授として採用している。cは,さらにその後任として,平成17年4月1日に教授として任用された。cの前任者の頃から,センターの専任教員による本件選考試験に向けた個別指導等も行われるようになり,cが教授となった際には,特に指導が熱心なものになっていた。 イ原告は,b大学の3年次頃,以前から面識のあったcから,同人の個別指導(自主勉強会)に参加するよう誘われ,cの指導を受けるようになった。 ウ cは,平成20年度選考試験に際し,一次試験の合格発表の直前頃,県教委のgを訪れ,自己がb大学で開催している上記勉強会に参加し,同試験を受験した学生(原告を含む。)の氏名が記載された名簿を,便宜を図ってほしいとの趣旨の下に交付し,gはこれをdに手渡した。 エ dは,平成19年9月7日以降,二次試験の点数票が集められると,fに対し,受験生の受験番号,氏名,性別,年齢等が記載された一覧表に試験成績を入力させた後,fとともにgから受け取っていた上記名簿等に基づき,受験生の点数を改ざんした。この際,d及びfは,gから手渡された上記cからの名簿に基づき,原告を含む6名について,点数を加点する改ざんをした。 具体的には,原告は,一次試験の成績が327点(一次試験に対する改ざん前の順位は95 ,d及びfは,gから手渡された上記cからの名簿に基づき,原告を含む6名について,点数を加点する改ざんをした。 具体的には,原告は,一次試験の成績が327点(一次試験に対する改ざん前の順位は95位であり,改ざん後の順位は98位である。)であり,本来の二次試験の成績が351点(二次試験に対 する改ざん前のものと認められるエクセルファイル(乙27,エクセルファイルについては,以下単に「ファイル」という。)に基づいて点数順に並び替えると,69位となる。)で,合計が678点(84位)であったところ,二次試験のうち,面接が300点満点中228点から245点に,模擬授業が140点満点中86点から121点にそれぞれ改ざんされ,2次試験の合計が403点(15位),一次試験及び二次試験の合計が730点(35位)となったため,合格した。なお,上記ファイル(乙27)に基づいて点数順に並び替えると,二次試験に対する改ざん前における,41位の受験者の合計点数は719点である。 オ cは,県教委の在職中に口利きを受けたことはない旨を供述するとともに,平成20年度選考試験の際,gに学生のリストを渡したのは一次試験の合格発表の二日前であって合否判定には影響していないであるとか,名簿を交付したのは少しでも早く合否の結果を把握し,二次試験の対策を開始するためで,gに試験は公正に行うよう伝えていたなどと,上記口利きを否定しているともとれる供述をする。 しかしながら,原告の成績が改ざんされる原因として,cからの口利きがあったこと以外の事情は見受けられないところ,cの供述によっても,cは,平成20年度選考試験が実施されている期間中に,gに自己の勉強会の学生が記載された名簿を交付したというのであり,gは,これを口利きの依頼としてdに交付したと供述している。こ の供述によっても,cは,平成20年度選考試験が実施されている期間中に,gに自己の勉強会の学生が記載された名簿を交付したというのであり,gは,これを口利きの依頼としてdに交付したと供述している。このような受験者の名簿を県教委の職員に交付すること自体が,口利きであると考えられる上,選考試験が行われている最中に,わざわざ合否結果をわずかに早く把握するため,このような不正の疑いをもたれるような行為に出るとはいかにも不自然である。さらに,eは,本件贈収賄事件における捜査段階において,明確に平成15年当時に教育次長(cの供述からもcであると認められる。)の下に口利きの依頼があり,同人から改ざんを行うよう指示されていた旨 を供述しているが,この供述について信用性が否定されるべき事情も見受けられず,そうであれば,cは,県教委に多数の口利きがあり,その中には合否の結果を伝えてほしいなどといいながら,実際には点数の改ざん等を暗に求める口利きがあったことを認識した上で,自己の勉強会に参加している学生の名簿を交付したこととなる。 以上に加え,cがセンターの専任教員に任用されるに至った経緯も考慮すれば,cの行為は,要するに,センターの指導実績を上げるため,gに対し,自己の勉強会に参加していた学生について,点数を改ざんしてでも合格させることを依頼するものであったと推認され,これに反するcの上記供述は信用できない。 本件調査(前提事実,甲9,乙8,19ないし21,24ないし28,32の1及び2,33,証人h)ア県教委では,本件贈収賄事件等の発覚を受け,平成20年7月25日,①事実関係の徹底的解明,②本件選考試験の抜本的な見直し,③不正な方法により教員に採用された者とされなかった者,及び校長・教頭に登用された者への対応,④公正・透明な教育委 け,平成20年7月25日,①事実関係の徹底的解明,②本件選考試験の抜本的な見直し,③不正な方法により教員に採用された者とされなかった者,及び校長・教頭に登用された者への対応,④公正・透明な教育委員会の再生を目的として本件プロジェクトチームを設けた。 イ本件プロジェクトチームは,100名を超える者からの聴き取り調査や1000名を超える者からの書面回答を受けるなどして,本件選考試験における不正の実態を調査していた。平成19年度選考試験及び平成20年度選考試験については,県教委における内部規則では保存期間は10年間とされていたにもかかわらず,答案用紙等がすでに廃棄されていたため,被告職員(情報政策課長と県教委職員を兼任した。)のh(以下「h」という。)が,同月29日以降,本件贈収賄事件により押収されていた証拠品(d及びfが公用で使用していたパソコンやdの私物USB)について仮還付を受け,同パソコン内のデータを新たなハードディスクに複製し,2つの ファイル復元ソフトを用いてデータの復元処理を行った上,検索ソフト及び目視により,本件選考試験と関連のあるファイルを特定していくなどし,また,本件プロジェクトチームでは本件選考試験における点数の改ざんを実際に行ったdやfから事情を聴取するなどした。 ウ平成20年度選考試験に関する調査結果本件プロジェクトチームは,一次試験の改ざん前のファイルとして,「一次試験結果集計(素点1)」(以下「一次素点ファイル」という。)と題したファイルを,一次試験の合否決定に用いられたファイル(改ざん後のファイル)として,「★★ 一次試験結果集計教育長説明(その4 8. 16 端数変更)」と題するファイルを,二次試験の改ざん前のファイルとして,「2次試験結果全体素点入力(その1 9.12)」と題する イル)として,「★★ 一次試験結果集計教育長説明(その4 8. 16 端数変更)」と題するファイルを,二次試験の改ざん前のファイルとして,「2次試験結果全体素点入力(その1 9.12)」と題するファイル(以下「二次素点ファイル」という。)を,二次試験を踏まえた合否決定に用いたファイル(改ざん後のもの)として,「☆★総合結果教育長(10.4)」と題するファイル(以下「合否決定ファイル」という。)をそれぞれ特定した。 エ平成19年度選考試験に関する調査結果本件プロジェクトチームは,平成19年度選考試験に関するファイルの中から,一次試験の改ざん前のファイルとして「★ 一次素点」と題するファイル(以下「平成19年度一次素点ファイル」という。),一次試験の合否決定用のファイルとして「★★★一次③」と題するファイル(以下「一次③ファイル」という。),二次試験の改ざん前のファイルとして「●二次合計素点」と題するファイル(以下「二次合計素点ファイル」という。),二次試験を踏まえた合否決定に用いたファイルとして「●●●教育長レク最終結果」と題するファイル(以下「最終結果ファイル」という。)が候補に挙がっていたところ,一次③ファイル及び最終結果ファイルについては,一次試験及び二次試験それぞれの合否判定で用いられたファイルであ ると特定できたが,平成19年度一次素点ファイル及び二次合計素点ファイルについては,改ざんがされる前のファイルであるとの特定には至らなかった。 原告は,従前,本件調査は信用できず,原告の点数について改ざんがされたとは認められない旨主張していたことに鑑み,補足して説明しておく。 d及びfは,本件プロジェクトチームからの聴取に対し,平成20年度選考試験においては,fが採点結果の入力作業を行い,その後,dが横で指示 められない旨主張していたことに鑑み,補足して説明しておく。 d及びfは,本件プロジェクトチームからの聴取に対し,平成20年度選考試験においては,fが採点結果の入力作業を行い,その後,dが横で指示しながら,fが実際にファイルに記載された点数を書き換える作業を実施したが,素点については点数を書き換えていない旨をそれぞれ供述する(乙32,33)。 そこで検討するに,両者は,平成20年度選考試験の改ざんを行ったことを認めており,その具体的な改ざん方法について,殊更,記憶と異なる供述をする理由は見いだし難い上,両者の供述も概ね一致している。 そして,証拠(乙20,28,証人h)及び弁論の全趣旨によれば,合否決定ファイルは,義務教育課人事免許班の他の職員のパソコンにおける結果と一致しており,二次試験を踏まえた合否判定に用いられたファイルと少なくとも同内容のファイルであること,同ファイルにおける「二次試験」欄の更に右側には「二次素点」という印刷枠外となる欄があり,同欄における原告の個人面接及び模擬授業の点数として,それぞれ「228」,「86」と記載されていること,同ファイルのセル内に数式を表示したもの(乙48の4)によれば,「二次試験」欄には,「二次素点」欄の点数を引用する数式(例えば,「=BH5」,「=BI5」等)が記入されているセルと,直接点数が記入されているセルとが混在していること,改ざん後の順位が41位より上位の受験者についてセルに点数が直接記入されている場合には,「二次素点」欄の点数よりも概ね高くなっており,逆にこれより下位の順位の受験生について「二次試験」欄のセルに点数が直接記入されている場合には, 全てのセルで「二次素点」欄の点数よりも低くなっていることがそれぞれ認められる。すなわち,平成20年度選考試験では,復元され ついて「二次試験」欄のセルに点数が直接記入されている場合には, 全てのセルで「二次素点」欄の点数よりも低くなっていることがそれぞれ認められる。すなわち,平成20年度選考試験では,復元されたファイルの内容に照らしても,点数の改ざんは「二次試験」欄の点数を書き換える方法により行われたものと推認され,かつ,上記d及びfの素点欄の点数については改ざんを加えていない旨の各供述を裏付けているものといえる。これに加え,二次素点ファイルでは,最終更新日が平成20年度選考試験の二次試験が終了した平成19年9月7日以降で最も早いものとなっていること,合否決定ファイルと異なり,二次素点欄と二次試験欄との間に不一致がない(換算を要する科目については,換算後の数字として不一致がない。)こと(乙19,20,22,24ないし28,証人h),平成20年度選考試験において,原告と同様に採用が取り消された者が提訴した別件訴訟(当庁平成21年(行ウ)第3号及び平成23年(行ウ)5号)におけるファイルの復元に関する鑑定の結果に照らしても,本件調査結果と矛盾する結論は出ていないこと(甲73,74,76,77,乙67,弁論の全趣旨)を併せ考慮すれば,原告の試験成績については,合否決定ファイルの「二次素点」欄に記載された点数(二次素点ファイルに記載された点数でもある。)が本来の原告の成績で認定したとおりの改ざんが行われていたものと認められ,原告の従前の主張は,ファイルの復元という技術的な点のみに着目し,種々抽象的な誤認の可能性を述べるにすぎず,採用できない。 本件採用処分の適法性)について教育公務員の任用における法規制についてア公務員の採用にあたっては,地公法15条が,受験成績,勤務成績その他の能力の実証に基づいて行われなければならないものとして, 用処分の適法性)について教育公務員の任用における法規制についてア公務員の採用にあたっては,地公法15条が,受験成績,勤務成績その他の能力の実証に基づいて行われなければならないものとして,いわゆる成績主義又は能力実証主義を採用している。その趣旨は,公務員においては,一定の定員で公共の福祉を最大限に増進することが求められることから,優秀な人材を確保し,また,人事の公正を貫徹する必要があるという 点にあり,地方公務員の採用における基本原則といえる。その中で,人的なつながりに基づく人事(縁故のほか,個人間の信頼関係等も含まれる,いわゆる情実人事)は,人事の公正を害して公務員の士気の低下を招くとともに,優秀な人材の確保という要請にも反することが多いという弊害に鑑み,成績主義又は能力実証主義の採用により,基本的に排斥されているものと解される。 イ地公法17条3項は,地方公務員の任用は,原則として競争試験によるものとしているが,教特法11条は,教育公務員の採用にあたっては,選考によるものとする旨を定める。その趣旨は,教育公務員の任用には,教職員免許状の取得が前提となるので,一定の能力の実証は図れるとともに,何より,発達過程にある生徒等を直接指導することとなる教員については,人格の面からも,教員としての適性を有していることが求められるため,必ずしも競争試験によることが適当ではないという点にある。もちろん,この教特法の趣旨は,公務員の任用に関する根本原則である,成績主義又は能力実証主義を排斥するものではなく,教育公務員の任用に関しても,優秀な人材の確保と人事の公正が求められることは異ならない。 ウそうであるとすると,選考は,競争試験と異なり,他の候補者との間に順位をつけることが常に求められるものではないとしても,地公法及び ,優秀な人材の確保と人事の公正が求められることは異ならない。 ウそうであるとすると,選考は,競争試験と異なり,他の候補者との間に順位をつけることが常に求められるものではないとしても,地公法及び教特法は,教育公務員の任用について,人格までを踏まえた教員としての適性を判断しながらも,成績主義又は能力実証主義を貫徹させることを要請しており,例えば,採用の場面において,希望者が採用予定者数を大きく上回るような場合には,何らかの手段により,選考を受ける者らの間における相対的な成績又は能力の実証を踏まえて選考することが求められているものと解するのが相当である(そうでなくては,選考を受ける者各自が,当該職の職務を遂行する能力を有するものと実証されれば,たとえ,縁故に基づくような情実人事が行われても当不当の問題しか生じないことにも なりかねない。)。 そして,地公法及び教特法の上記趣旨を実現するには,高度の専門的な知見や経験に基づく必要があると考えられること,教特法が選考方法等について何ら定めていないことに照らせば,教特法は,教育公務員の採用について,任命権者の広範な裁量に委ねているものと解するのが相当である。 以上によれば,本件採用処分については,重要な事実の基礎を欠く場合や,その判断が著しく合理性を欠くなど,社会通念上,看過し得ない瑕疵がある場合に限り,上記裁量の範囲を超え,又は濫用したものとして違法になるものと解される。 上記認定事実によれば,県教委は,平成20年度の公立学校における教育公務員の採用においては,本件選考試験を唯一の判断の基礎として行う方針としていたところ,cから当時の審議監であったgに対し,原告を含むcの勉強会に参加していた学生について口利き依頼がされた結果,一次試験及び二次試験の合計点数が678点で,順 判断の基礎として行う方針としていたところ,cから当時の審議監であったgに対し,原告を含むcの勉強会に参加していた学生について口利き依頼がされた結果,一次試験及び二次試験の合計点数が678点で,順位が84位であった原告の試験成績に52点が加えられるという改ざん行為がされ,合格水準となった41位を上回る,35位の成績を収めたものとして合格判定がされたというのである。 すなわち,本件採用処分には,唯一の判断資料である原告の本件選考試験における成績という重大な事実について,その基礎を欠いているものといわざるを得ない。また,本件採用処分は,cによるgへの口利きにより合否判定が歪められており,いわゆる情実人事として人事の公正も害するものである。 なお,原告は,情実人事について,本人やその親族が関与しているような場合のみをいうものと主張しているようにも見受けられるが,上記地公法の趣旨に照らせば,同法15条は人的なつながりに基づく人事一般を原則として禁止しているものと解される。 そうであれば,本件採用処分は,重要な事実の基礎を欠き,しかも,地公法及び教特法の趣旨に反するものであるから,著しく不合理な判断であって, 社会通念に照らしても看過できるものではなく,裁量権を逸脱し又は濫用したものとして違法である。 原告の主張に対する判断アこれに対し,原告は,①本件選考試験は,被告が設けた内部基準にすぎず,②二次試験における面接及び模擬授業は,評価基準が主観的であって,客観的な評価や得点化することは困難であるから,試験としての適格を欠いていること,③原告ないしその親族が不正な加点に関わったわけではない上,④原告は,教員免許を取得し,一次試験には合格しており,またcからも高い評価を受ける大学生であったこと,⑤本件採用処分後は,指導教員からも ③原告ないしその親族が不正な加点に関わったわけではない上,④原告は,教員免許を取得し,一次試験には合格しており,またcからも高い評価を受ける大学生であったこと,⑤本件採用処分後は,指導教員からも高い評価を受け,生徒や保護者とも信頼関係を築いていること等から,原告の教師としての適性は実証されおり,本件採用処分が違法であるとはいえない旨主張する。 イなるほど,本件選考試験により教育公務員の採否を決するという制度は,県教委が独自に策定したものであって,法規範としての性質を有するものではない。 ウしかしながら,本件採用処分は,その過程において,原告の成績に基づいていないという点で重大な事実の基礎を欠いており,かつ,一種の情実人事として人事の公正を害するものと認められるため,違法であることを免れない。原告は,平成13年度採用以前における本件選考試験や,平成26年度の本件選考試験における県教委の運用ないし措置を引き合いに,平成20年度選考試験で合格水準に達していなかったからといって本件採用処分が違法であるということはできない旨を主張するが,上記事例は,いずれも,合格水準となった点数から数点の範囲内で行われていたものにすぎず,人的な関係に基づいて作為的にされたものとう点で,成績主義に反する程度や情実人事の有無といった,地公法15条に反するか否か を判断する最も重要な事情に関し,大きく事案を異にするから,本件採用処分とは同列に扱えない。 また,本件採用処分後の事情により,その適法性が左右されるものと解することもできないから,上記原告の主張①及び⑤は採用できない。 そして,地公法及び教特法が,教育公務員の任用について人格面からの教員としての適格を判定すべきことや,相対的な成績又は能力の実証までも要請していることは,上記判示 の主張①及び⑤は採用できない。 そして,地公法及び教特法が,教育公務員の任用について人格面からの教員としての適格を判定すべきことや,相対的な成績又は能力の実証までも要請していることは,上記判示のとおりであるから,原告が教員免許を取得し,一次試験に合格していたというだけでは,人格面からの適性について選考を受けたということはできない上,他の116人の一次試験合格者と同等の地位にいたことを示すにすぎない(教員免許の取得ないしその見込みも,本件選考試験を受験する資格を有することを意味するにすぎない。)。まして,原告の一次試験の成績は95位に留まり,採用予定者数である上位39人程度という水準にも大きく達していなかったのであるから,本件採用処分における成績又は能力の実証として十分でないことは明らかであり,上記原告の主張④は採用できず,これは,原告(ないしその親族)が,cの口利き行為に関与していないとしても異ならないから,原告の上記主張③も採用できない。なお,原告は,競争試験に関する地公法21条を根拠に,原告が本件選考試験に合格し得る成績を有していた旨を主張しているものと解されるが,独自の見解であって採用できない。さらに,教員採用試験を受験する一部の学生に指導等をしていたにすぎない,cの原告に対する個人的な評価を本件採用処分において考慮するなどということは,その信用性の面からみても,そのような機会を与えられていない他の受験者との公平の見地からみても採用し得ない。これは,原告自身が批判する口利きの一種にほかならず,b大学と県教委との間に協力関係があったことにより異なるものではない。 以上によれば,本件選考試験における個人面接や模擬授業等の方法に他の選択肢があるかどうかにかかわらず,本件採用処分の時点において,原告の成績又は能 たことにより異なるものではない。 以上によれば,本件選考試験における個人面接や模擬授業等の方法に他の選択肢があるかどうかにかかわらず,本件採用処分の時点において,原告の成績又は能力の実証がされていたと認めるに足りる事情はないものといわざるを得ないから,上記原告の主張②も採用できない。 よって,原告の主張はいずれも採用できないが,上記②ないし⑤の主張(cから評価を得ていたとする点は除く。)については,後記3(取消権制限の法理)において,再度検討することとする。 権制限の法理)について本件取消処分は,原告に対して,公立小学校における教員としての地位を付与した本件採用処分(いわゆる授益的行政処分)を取り消すものである。 行政処分は,当然に適法かつ妥当なものでなければならないから,これが違法であることが事後的に明らかになった以上は,法律による行政の法理の要請により,これを取り消すことができるものと解される。 もっとも,授益的行政処分の取消しについては,すでに,その行政行為がされたことに対する信頼が惹起され,法律上又は事実上の利益が構築されている場合もあるから,その取消しが制限されることもあるというべきである。 具体的には,行政処分の取消しにより被処分者等が受ける不利益と,当該行政処分が維持されることによる公益上の不利益とを比較衡量し,当該処分を放置することが公共の福祉の要請に照らして,著しく不当であると認められるときには,当該処分をした行政庁は,自らこれを職権で取り消し,処分がされなかったのと同一の状態に復せしめることが許されるものと解するのが相当である。 ここで,被告は,資格付与に関する授益的行政処分については,当該行政処分が違法である以上,取消権の制限は及ばないと主張する。しかし,当該行政処分の法的効果を 許されるものと解するのが相当である。 ここで,被告は,資格付与に関する授益的行政処分については,当該行政処分が違法である以上,取消権の制限は及ばないと主張する。しかし,当該行政処分の法的効果を維持する公益上の不利益に与える影響については正確に把握する必要があるが,いかなる場合にも職権で取り消し得るものと解す べき必然性はないし,相当ともいえないから採用できない。 本件取消処分により原告が被る不利益についてア原告は,本件取消処分により,公立小学校の教諭としての地位を喪失することが本件取消処分による不利益であると主張するが,本件採用処分が違法である以上,原告には,その地位を保有する正当な利益は認められない。また,原告は,臨時講師として雇用され,唐突に職自体を失うような不利益を回避することができており,その限度では代償措置が講じられているものといえる。なお,被告は,原告に対する給与の返還を求めていないことが代償措置である旨主張するが,被告にも,原告の労務の提供に対する相当の対価を支払う義務があることに照らせば,上記措置が原告の不利益を緩和していると認めるに足りる具体的な事情の主張立証はなく,採用できない。 イ以上を前提に原告が被った不利益について検討していくと,原告は,平成19年10月9日に平成20年度選考試験に合格した旨の発表及び通知を受けているのであるから,これを信頼することは当然である。そして,原告は,合格発表を信頼して大分県の公立小学校の教諭を自己の進路として定めて大学を卒業し,平成20年4月1日に本件採用処分を受けて教諭として公務に従事していたものであり,平成21年度における本件選考試験への申込み等も当然していない(原告本人)。すなわち,本件採用処分から本件取消処分に至るまでの期間は約5か月程度に留まる けて教諭として公務に従事していたものであり,平成21年度における本件選考試験への申込み等も当然していない(原告本人)。すなわち,本件採用処分から本件取消処分に至るまでの期間は約5か月程度に留まるが,それでも,原告は,自己の進路を決定する重要な時期に,平成20年度選考試験に合格したという発表を受け,これを信頼して行動したにもかかわらず,自己が何ら関与しない県教委の職員らによる不正な改ざん行為等により一方的にこれを覆され,平成21年度の本件選考試験を受ける機会までも喪失させられ,しかも,この点については再受験の機会の付与等の代償措置も講じられていないのであり,本件取消処分により原告が受けた不利益は,決 して軽視できるものではない。 本件採用処分が維持されることによる公益上の不利益ア上記で判示した地公法15条及び教特法11条の趣旨は,上記判示のとおりであるが,要約すると,長年に渡り発達過程にある生徒の指導に当たる教員については,人格面までを踏まえた教員としての適性を判定した上,成績又は能力の実証主義により,一定の定員の範囲で優秀な人材を確保し,学校教育という重要な公共の福祉を最大限増進させ,かつ,公務員の人事の公正を貫徹させるもので,これらは,教育公務員の任用における重要な根本原則というべきものである上,国民の教員やひいては公教育に対する信頼を確保することにもつながるのであって,いずれも公益として極めて重要である。 そして,本件採用処分における,cからgに対する口利きという人的関係による改ざんが加えられたことにより,合格水準に点数にして40点以上,順位にして40位以上も達していなかった原告を合格として取り扱った本件採用処分は,上記公益を著しく害するものであるから,本件採用処分を維持することの公益上の不利益もまた極 準に点数にして40点以上,順位にして40位以上も達していなかった原告を合格として取り扱った本件採用処分は,上記公益を著しく害するものであるから,本件採用処分を維持することの公益上の不利益もまた極めて大きいものといわざるを得ない。 イこれに対し,原告は,①自らは不正な点数操作に関与していないこと,②本件選考試験における面接や模擬授業の評価は,極めて主観的であって,点数化になじむものでなく,試験としての適格を欠くこと,③原告は,教員免許を取得しており,一次試験にも合格しているところ,④本件採用処分後も,熱心に公務に従事し,指導教員からも高い評価を得ており,生徒や保護者とも強い信頼関係を築いていることに照らせば,既に教員としての適性を備えているものといえること,⑤公務員の任用に対する信頼を失墜させたのは県教委であって,本件採用処分を取り消すことにより信頼を回復できるとは考え難いこと等からして,本件採用処分を維持したとして も,具体的な公益上の不利益はない旨主張する。 しかしながら,本件採用処分による上記公益侵害の重大性は,原告が点数の改ざんに関与していないからといって異なるものではない(むしろ,原告が関与していたのであれば,本件採用処分を取り消し得ることには多言を要しないところである。)。また,本件採用処分から本件取消処分に至る経緯により,県教委が自ら国民の信頼を失墜させたからといって,本件採用処分を取り消すことにより,公益の回復を図る必要性が否定されるものでもないから,上記原告の主張①及び⑤は採用できない。 次に,原告の上記主張②及び③について検討すると,原告の一次試験の成績は95位にすぎず,二次試験の成績も69位であったため,総合順位でも84位に留まっていたというのであるから,原告の平成20年度選考試験における 記主張②及び③について検討すると,原告の一次試験の成績は95位にすぎず,二次試験の成績も69位であったため,総合順位でも84位に留まっていたというのであるから,原告の平成20年度選考試験における成績は,総じて,上位40人程度の合格水準には達していなかったものといわざるを得ない。 さらにいえば,教特法は,人格面を含む教員としての適性を評価するためには,専門的な知見や経験を要することから,選考方法の策定等について広く教育委員会の裁量に委ねているものと解されるし,試験の内容・方法の当否などというのは,その性質上,法令の適用によって紛争を解決することを目的とする司法審査になじむものではなく,任用機関の最終的な判断に委ねられるべき事項である。そうであれば,教育委員会が定めた方法により選考が実施された以上は,その手続に瑕疵があるとか,少なくとも,その内容が著しく合理性を欠くような場合でない限り,裁判所は,これにより,成績又は能力の実証に基づく適正な人事が図られるものとして判断をすべきこととなる。 平成20年度選考試験についてみると,まず,点数の集計過程以降に点数の改ざんという試験手続の瑕疵があるものの,試験の実施,採点ないし評定の各過程に不正や過誤があったことをうかがわせる事情はなく, むしろ,集計作業に入るまでは,答案用紙に受験番号を隠す紙が付されており,また厳重に保管されるなど,不正がないように配慮されていたものと認められる(乙9,13ないし16,18)。 次に,本件選考試験は,地公法の上記趣旨を踏まえ,個人面接等も試験科目に取り入れているものといえるし,成績主義又は能力実証主義を実現するためには,面接結果も点数化した上で順位付けをすることも合理的な手段の一つといえ,現に他の教育委員会でも採用されている(乙36)。また,人 れているものといえるし,成績主義又は能力実証主義を実現するためには,面接結果も点数化した上で順位付けをすることも合理的な手段の一つといえ,現に他の教育委員会でも採用されている(乙36)。また,人格を評価するということは,その性質上,一義的に定められるものではなく,ある程度,評定者の評価に委ねざるを得ない性質のものであるが,本件選考試験では,面接及び模擬授業の評定を民間人を含む3名の面接委員により実施していることや,別紙1及び別紙2のとおり,点数の目安やその際に着目すべき点等を細かく定め,選考を受ける受験者らに対する評価が不均衡となる問題が生じないよう配慮しているものということができる。そうであれば,本件選考試験が著しく合理性を欠くなどということはできない。原告は,cやgの供述から平成20年度選考試験の面接及び模擬授業に問題があったことを裏付けられているとも主張するが,同人らの供述は,人格評価がそれ自体困難を伴うものであることに鑑み,選考試験における課題や問題意識を述べるものにすぎないというべきである。 したがって,原告の上記主張②は採用できず,平成20年度選考試験の改ざん前の点数は,受験者らの教師としての適性を反映しているものというべきであるから,これにより84位の順位に留まった原告の成績での採用は,成績主義又は能力実証主義に大きく反しているものといわざるを得ない。そうすると,教育免許の取得や一次試験に合格していること等から原告の成績又は能力が実証されているということもできないから,原告の上記主張③も採用できない。なお,この点において,平成 13年度以前の本件選考試験の運用や,採点ミスが発覚した平成26年度の本件選考試験での措置等と本件採用処分とでは,事案が大きく異なることは既に判示したとおりである。 さらに,原 平成 13年度以前の本件選考試験の運用や,採点ミスが発覚した平成26年度の本件選考試験での措置等と本件採用処分とでは,事案が大きく異なることは既に判示したとおりである。 さらに,原告が指導教員から高い評価を受けていたこと等の事情をいう原告の上記主張④について検討する。ここで被告は,原告の主張は本件選考試験と関係がないから,本件取消処分における考慮要素とすることはできない旨主張する。確かに,上記事情を考慮することが,本来合格水準に達する成績を収めながら不合格となり,採用後の能力評価を受ける機会を失った他の受験者との公平を害することは否定できない。しかし,教育現場における勤務状況や指導教員からの評価というのであれば,正規な手段により,教員としての適性を直截にはかるものということもでき,原告も県教委の不正により,一方的に不利益を被った立場にいることを考慮すれば,慎重を要するにせよ,これらの事情を本件取消処分の評価につき判断の基礎とすることが,およそ許されないとまでは解されない。 そこで検討するに,証拠(甲35ないし37,40,原告本人)及び弁論の全趣旨によれば,要旨,原告は,本件採用処分後,大分市内の小学校で勤務し,熱意をもって公務に従事し,生徒からも受け入れられており,その姿勢等を保護者からも評価されていたこと,指導教員からも,指導をよく聞き入れ,生徒の話を聞くことができるなど,教員としての適格を欠いていることはないとして,一定の評価を受けていたものと認められる。 しかしながら,これらは,5か月程度の比較的短期間における事情にすぎず,原告が熱心に公務に従事していたことは疑いようのないところであるが,それを超えて,平成20年度選考試験において原告よりも優秀な成績を収めていた他の受験者と比してなお,選考されるべき能力の にすぎず,原告が熱心に公務に従事していたことは疑いようのないところであるが,それを超えて,平成20年度選考試験において原告よりも優秀な成績を収めていた他の受験者と比してなお,選考されるべき能力の 実証があると認めるに足りるものではないから,上記原告の主張④も採用できない。 ウしたがって,本件採用処分を維持することによる公益上の不利益は,なお重大である。 総括以上によれば,本件取消処分により原告が被る不利益は軽視できないものであるが,本件採用処分を維持することによる公益上の不利益は,これと比しても重大であり,本件採用処分を維持することは公共の福祉の観点に照らし,著しく相当性を欠くものといわざるを得ない。 違法な本件採用処分の反面として,合格水準に達していながら不合格とされ,当然救済されるべき者が存在していたことからしても,原告に対する本件取消処分はやむを得ないものというほかない。 (平等原則違反)について原告は,平成20年度選考試験における合格者のみについて採用処分を取り消す対象とし,平成19年度選考試験の合格者のうち,不正に合格した者についてはその対象としていないから,本件取消処分は,平等原則に違反すると主張する。 しかしながら,本件採用処分が違法であり,かつ,これを取り消さないことが公共の福祉の観点に照らし著しく相当性を欠くことは,上記2及び3で判示したとおりである。そうすると,そもそも平成19年度選考試験による採用者と平成20年度選考試験による採用者とで,異なる取扱いがされていたからといって,平成20年度選考試験による違法な状態を維持することを,平等原則が要請しているとはにわかに解し難い。その上,平成19年度選考試験による採用者は,本件取消処分の時点で採用後約1年5か月が経過し,1年間の 20年度選考試験による違法な状態を維持することを,平等原則が要請しているとはにわかに解し難い。その上,平成19年度選考試験による採用者は,本件取消処分の時点で採用後約1年5か月が経過し,1年間の条件附採用期間も終了している者らであり,同人らの存在を前提に,平成20年度以降の本件選考試験を含む教員採用,定員や人員配置といった 運用も積み重ねられてきたものと考えられることに照らせば,平成20年度選考試験による採用者とはその法的地位や利益状況が大きく異なるといえる。 さらに,上記認定事実,証拠(乙20,32,33,49,証人h)及び弁論の全趣旨によれば,本件調査の過程では,平成19年度選考試験については,復元できたファイルも少なく,dが一人で改ざん作業を行っていたため,同人の供述のみによらざるを得なかったこと,dは,平成19年度選考試験では,ファイル内の素点部分を直接改ざんしていたため,合否判定に用いたものと確定できるファイルでは,改ざん前の点数が記載されておらず,改ざん前の点数を特定する重要な根拠を欠く状況にあったこと,平成20年度選考試験に対する調査と異なり,一次素点と題するファイルの最終更新日が平成19年度選考試験の合格発表後であったことが認められる。そうすると,単にファイルの名称に「素点」という文言が用いられていることのみでは,同ファイルに記載された点数がおよそ改ざん前のものであると認めるには十分でない。以上によれば,本件調査において採用処分を取り消すことができる程度の確証はないとした判断は合理的なものであったといえる。 原告は,データの復元作業を外注するなどしていれば,より正確なファイルの復元が可能であった旨を主張するが,仮にそうであるとしても,平成19年度選考試験及び平成20年度選考試験における改ざん前の点数の特定に ,データの復元作業を外注するなどしていれば,より正確なファイルの復元が可能であった旨を主張するが,仮にそうであるとしても,平成19年度選考試験及び平成20年度選考試験における改ざん前の点数の特定については,単にファイルの復元の正確性のみでなく,dないしfの供述の信用性等を踏まえて総合的に判断すべきものというべきであることは,上記判示に照らして明らかであり,採用できない。 したがって,本件取消処分が特に原告ら平成20年度選考試験による採用者を差別的に取り扱ったということもできず,原告の主張は採用できない。 (国家賠償請求の可否及び内容)について上記判示によれば,本件取消処分が違法であるとは認め難いが,取り消された本件採用処分は,gやdらによる改ざん行為に基づいており,公務員の 故意又は少なくとも過失による,地公法15条に反する行政処分であることは明らかである(原告は,本件採用処分の違法による国家賠償請求も主張している(原告の第13準備書面の第3)。)。なお,公務員の過失に関する原告の他の主張は,後記のとおり,慰謝料額の算定において考慮することが相当である。 慰謝料額アそこで,具体的な慰謝料額について検討していくと,原告は,平成20年度選考試験に合格したことへの合理的な信頼や期待を,約5か月後になって一方的に裏切られ,平成21年度の本件選考試験の受験機会も喪失させられるという不利益を被っていることは既に判示したとおりである。さらに,原告は,本件取消処分の際,単に不正な加点による合格者として取り扱われたものであり,このよう取扱い自体が,原告が不正行為に関与していたかのような印象を社会に対して与えかねず,実際の当時の報道(甲44等)にも,不正に合格した者の採用処分の取消しは当然であるといった厳しい意見も見ら このよう取扱い自体が,原告が不正行為に関与していたかのような印象を社会に対して与えかねず,実際の当時の報道(甲44等)にも,不正に合格した者の採用処分の取消しは当然であるといった厳しい意見も見られるところであることからしても,原告らの名誉に深く関わるものであったということができるから,原告がこれを強く苦痛に感じていたこと(甲58,82,原告本人)も至極当然である。県教委は,本件選考試験に関する不正について,何らかの強制的な調査権限等を有しているものではないことからすると,本件プロジェクトチームにおける本件調査も,現実的には関係者から事情を聴取することなどに限定され,原告が不正に関与していなかったことについて十分な調査が果たせなかったことにやむを得ない面もあるが,そうであるにせよ,本件プロジェクトチームの調査報告(甲9)等において,県教委の不正に一方的に巻き込まれた原告の社会的評価を回復するよう,十分な配慮が講じられていたとはいいきれない。さらには,原告は,自らが不正な改ざん行為の対象とされていたか否かを最も直截に判断できる答案用紙等の証拠が県教委の規則に違 反して廃棄されていたため,これらがないままに本件訴訟の追行を余儀なくされている。 これらは,独立して,国家賠償法上の違法行為を構成するものとは解し難いが,少なくとも,本件採用処分の違法に起因し,又は県教委の職員の適切ということはできない行為が介在したことにより,原告の不利益を拡大させたものであるから,慰謝料の算定にあたっても考慮されるべきである。 イ何よりも,結局取り消さざるを得なかったような本件採用処分は,県教委の内部において,長年に渡り,組織的に違法行為が横行する中で行われたものであり,教諭を目指して真摯に取り組んでいた原告らの信頼を一方的に裏切るものであ さざるを得なかったような本件採用処分は,県教委の内部において,長年に渡り,組織的に違法行為が横行する中で行われたものであり,教諭を目指して真摯に取り組んでいた原告らの信頼を一方的に裏切るものであって,到底許されるものでなく,その違法性は極めて重大であり,これは,慰謝料額を算定する上でも特に重視すべき事情である。被告は,gの個人的な行為にすぎないなどと主張するが,これを採用できないことは既に判示したところに照らせば明らかである。 ウ以上に照らし,原告の精神的損害は,誤って不合格とされ,後に合格と訂正された者と比較して,勝るとも劣らないものであり,本件採用処分により原告に生じた精神的苦痛を金銭に換算すれば,慰謝料として350万円を認めるのが相当であり,これに本件訴訟追行の難度等の一切の事情も考慮すれば,相当因果関係のある弁護士費用として50万円を認めるのが相当である。 第5 結論よって,原告の請求のうち,本件取消処分の取消しを求める部分については理由がなく,国家賠償請求を求める部分については,400万円の支払を求める限度で理由があり,その余は理由がないから,その限度で原告の請求を認容し,その余の請求をいずれも棄却することとして,主文のとおり判決する。 なお,仮執行宣言は相当でないから付さない。 大分地方裁判所民事第1部 裁判長裁判官竹内浩史 裁判官藤田晃弘 裁判官藤丸貴久 別紙1 評定評定の基準点数極めて優秀である。 ・明朗で落ち着いている。 ・声量,言葉遣いとも適切である。 ・指導が具体的で分かり易い。 ・表現力がある。 ・積極性,意欲が感じられる。 の基準点数極めて優秀である。 ・明朗で落ち着いている。 ・声量,言葉遣いとも適切である。 ・指導が具体的で分かり易い。 ・表現力がある。 ・積極性,意欲が感じられる。 40以上良好であるが今一つ魅力に乏しい。 ・表情,態度等が普通である。 ・声量,言葉遣いとも適切である。 ・やや消極的で表現力が乏しい。 ・棒読みに近く,説得力が弱い。 教師として問題がある。 ・声量が不足している。 ・表情が暗い。 ・表現力が不足している。 ・落ち着きがない。 ・態度,身だしなみに問題あり。 ・授業として成立していない。 20以下

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