主文 本件上告を棄却する。 上告費用は上告人の負担とする。 理由 上告代理人高田義之の上告理由第一点について一信用保証協会と金融機関との間の信用保証取引に関する約定には、金融機関は、信用保証協会の承諾を得ることなく、その保証に係る貸付金をもって既存の債権への支払に充当してはならない旨のいわゆる旧債振替禁止条項が設けられており、さらに、金融機関がこれに違反したときは、信用保証協会は、保証債務の履行につき、その全部又は一部の責めを免れる旨が定められている。本件は、信用保証委託契約に基づき、主債務者の借入金債務の代位弁済として金融機関に支払をした被上告人が、主債務者の求償金債務の連帯保証人である上告人に対してその履行を求めたところ、上告人が、右と同旨の旧債振替禁止条項違反による被上告人の免責等を理由に、同請求を争っている事案である。 原審の適法に確定した事実関係等の概要は、次のとおりである。 1 Dは、平成二年五月三〇日、株式会社E銀行から、利息年七・九パーセント、期限後の損害金年一四パーセントの約定で一四〇〇万円を借り入れた(以下「本件借入金」という。)。 2 被上告人は、平成二年五月二五日にDと締結した信用保証委託契約に基づき、DのE銀行に対する本件借入金債務を信用保証した。 3 Dは、右信用保証委託契約において、本件借入金債務の履行を怠ったときは、所定の延滞保証料を支払う旨、並びに被上告人が代位弁済をしたときは、その代位弁済額及びこれに対する代位弁済の日の翌日から支払済みまで年一〇・九五パーセントの割合による損害金を支払う旨を約した。 - 1 - 4 上告人は、平成二年五月二五日、被上告人に対し、右信用保証委託契約に基づきDの負担すべき求償金債務について、連帯保証する旨を約 九五パーセントの割合による損害金を支払う旨を約した。 - 1 - 4 上告人は、平成二年五月二五日、被上告人に対し、右信用保証委託契約に基づきDの負担すべき求償金債務について、連帯保証する旨を約した。 5 DがE銀行に対する本件借入金債務の弁済を怠ったため、被上告人は、平成三年八月三〇日、E銀行に対し、残元金、利息及び損害金の代位弁済として一四五二万〇一〇四円を支払った。 6 被上告人は、本訴において、右求償金債務の連帯保証人である上告人に対し、右代位弁済額と延滞保証料の合計一四五三万一六二一円及び右代位弁済額に対する損害金の支払を求めている。 7 被上告人は、昭和四〇年七月一日、E銀行との間で、信用保証協会法二〇条に基づく保証に関する約定書(以下「約定書」という。)を取り交わしていた。約定書三条は、旧債振替の禁止について定め、「E銀行は、被上告人の保証に係る貸付をもって、E銀行の既存の債権に充てないものとする。但し、被上告人が特別の事情があると認め、E銀行に対し承諾書を交付したときは、この限りでない。」と規定している。また、同一一条は、被上告人の免責について定め、「被上告人は、次の各号に該当するときは、E銀行に対し保証債務の履行につき、その全部または一部の責を免れるものとする。」として、一号で「E銀行が第三条の本文に違反したとき」と、二号で「E銀行が保証契約に違反したとき」と規定している。 8 被上告人が前記2の信用保証のためにE銀行に交付した信用保証書には、本件借入金の資金使途として「運転・設備」と記載され、また、保証条件として「本件保証にて旧債二件を同日付にて決済のこと」と記載されている。 9 本件借入金一四〇〇万円は、次のように使われた。 (一) 印紙代二万円(二) 被上告人の信用保証料七九万二二八三円(三) 件保証にて旧債二件を同日付にて決済のこと」と記載されている。 9 本件借入金一四〇〇万円は、次のように使われた。 (一) 印紙代二万円(二) 被上告人の信用保証料七九万二二八三円(三) 保証条件とされた旧債振替二件七一八万六六五一円- 2 -(四) Dが預金口座から出金して使用四〇〇万一〇六六円(五) 被上告人が承諾していない旧債振替二〇〇万円 10 本件借入金一四〇〇万円については、右(一)、(二)が差し引かれた一三一八万七七一七円がDのE銀行普通預金口座に入金されたが、同預金口座に当座貸越約定(貸越限度額三〇〇万円)が付されていて、二九九万二一〇八円の貸越金残高があったことから、右入金額によってまず貸越金の返済が行われた上、その残額と新たな貸越しによって、右(三)ないし(五)の出金が行われた。 二原審が、本件借入金のうち一9(五)の二〇〇万円のみにつきE銀行に旧債振替禁止条項違反があるとして、被上告人の保証債務のうち右違反金額に対応する部分を除くその余の部分ついては、被上告人の免責を否定し、その結果、上告人の求償金債務の存在を認めたのに対し、所論は、右二〇〇万円以外にも、一10の当座貸越約定に基づく貸越金の返済が旧債振替禁止条項違反に当たると主張した上、これら違反によって保証債務全額につき被上告人が免責されるべきであると主張している。 三信用保証協会は、中小企業者等に対する金融の円滑化を図ることを目的として、中小企業者等が銀行その他の金融機関から貸付け等を受けるにつき、その貸付金等の債務を保証することを主たる業務とする公共的機関である(信用保証協会法一条参照)。しかるに、信用保証協会の保証に係る貸付金が当該金融機関の既存の債権の回収を図るための手段として利用されると、中小企業者等が必要とする事業資金 業務とする公共的機関である(信用保証協会法一条参照)。しかるに、信用保証協会の保証に係る貸付金が当該金融機関の既存の債権の回収を図るための手段として利用されると、中小企業者等が必要とする事業資金の調達に支障が生ずることとなり、中小企業者等の信用力を補完し、その育成振興を図ろうとする信用保証制度の本来の目的に反する事態となる。そこで、信用保証協会と金融機関との間で交わされる信用保証取引に関する約定には、旧債振替禁止条項が設けられ、さらに、同条項の実効性を確保するために、金融機関が同条項に違反して信用保証に係る貸付金により既存の債権を回収した場合には、信用保- 3 -証協会は保証債務の履行の責めを免れる旨が定められているのである。このような規定が設けられた趣旨及びその内容にかんがみると、金融機関に旧債振替禁止条項の違反があった場合には、信用保証協会からの特段の意思表示を要することなく、保証債務は当然に消滅し、したがって、信用保証協会が任意に右保証に係る債務の弁済をしたとしても、代位弁済としての効果が生じないから、信用保証協会は、主たる債務者及びその求償金債務の保証人に対し、求償金の支払を求めることはできないものと解される。 四ところで、約定書一一条は、E銀行が旧債振替禁止条項に違反したときは、被上告人は保証債務の履行につきその「全部または一部」の責めを免れる旨規定しているところ、所論は、旧債振替禁止条項違反は他の免責事由に比べて違反の程度が重く、また、約定書一一条がわざわざ通常の保証契約違反(二号)とは別個に同条項違反(一号)を規定しているのは、他の保証契約違反より重い制裁を課する趣旨にほかならないから、同条項の違反があった場合には、被上告人は原則として保証債務全額について免責されるべきであると主張する。しかし、旧債振替禁止条項違 のは、他の保証契約違反より重い制裁を課する趣旨にほかならないから、同条項の違反があった場合には、被上告人は原則として保証債務全額について免責されるべきであると主張する。しかし、旧債振替禁止条項違反が他の事由に比べて信用保証制度の趣旨・目的に反する程度が強いといえるとしても、貸付金の一部にしか同条項の違反がないのに、当然に保証債務の全部について債務消滅の効果を生じさせる合理的理由は見いだし難く、約定書の文理ないし構成からしても、所論のような解釈を導くことはできないといわなければならない。 したがって、金融機関が貸付金の一部について同条項に違反して旧債振替をした場合には、残額部分の貸付金では中小企業者等が融資を受けた目的を達成することができないなど、前記信用保証制度の趣旨・目的に照らして保証債務の全部について免責を認めるのを相当とする特段の事情がある場合を除き、当該違反部分のみについて前記の保証債務消滅の効果が生ずるものと解するのが相当である。 また、所論のいう当座貸越約定に基づく貸越金の返済の点については、当座貸越- 4 -取引においては、貸越金残高がある場合に普通預金への入金があれば、その中から貸越金残高相当分を自動的に払い戻して貸越金の返済に充てる約定となっており、したがって、いったん入金額によって貸越金の返済が行われるものの、それによって貸越限度の残額が増加し、その範囲内で必要に応じて貸越しが行われ、自由に処分できる資金を得ることになるから、本件のように右入金後においても当座貸越取引が存続する限り、貸越金の返済は旧債振替禁止条項に違反することにはならないものというべきである。 五以上によれば、本件借入金一四〇〇万円に関してE銀行に旧債振替禁止条項違反があるのは、一9(五)の二〇〇万円のみであり、この違反をもって保証債務の全部 ことにはならないものというべきである。 五以上によれば、本件借入金一四〇〇万円に関してE銀行に旧債振替禁止条項違反があるのは、一9(五)の二〇〇万円のみであり、この違反をもって保証債務の全部について免責を認めるのを相当とする特段の事情がある場合に当たるということはできないから、被上告人の保証債務のうち右違反金額に対応する部分を除くその余の部分について、被上告人の免責を否定し、ひいては、上告人の求償金債務の存在を認めた原審の判断は、正当として是認することができる。原判決に所論の違法はない。論旨は、独自の見解に立って原判決を論難するものであって、採用することができない。 同第二点について所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するか、又は独自の見解に立って原判決を論難するものであって、採用することができない。 よって、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。 最高裁判所第二小法廷裁判長裁判官根岸重治- 5 -裁判官大西勝也裁判官河合伸一裁判官福田博- 6 -
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