平成30特(わ)3350 金融商品取引法違反

裁判年月日・裁判所
令和4年3月3日 東京地方裁判所
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判決文本文180,735 文字)

令和4年3月3日東京地方裁判所刑事第17部宣告平成30年特第3350号,平成31年特第15号各金融商品取引法違反被告事件 主文 被告人A株式会社を罰金2億円に処する。 被告人Bを懲役6月に処する。 被告人Bに対し,この裁判が確定した日から3年間その刑の執行を猶予する。 本件公訴事実中,平成30年12月10日付け起訴状記載の公訴事実第1及び第2の1ないし4並びに平成31年1月11日付け追起訴状記載の公訴事実第1及び第2の各事実について,被告人Bは無罪。 理由 (罪となるべき事実)被告人A株式会社(以下「被告会社」という。)は,横浜市(住所省略)に本店を置き,自動車等の製造等を目的とする会社であって,その発行する株券を株式会社a証券取引所市場第一部に上場しているもの,被告人Bは,被告会社において,平成21年(2009年)4月1日から平成24年(2012年)6月25日まで常務執行役員,同月26日から平成30年(2018年)11月22日まで代表取締役等であったもの,分離前の相被告人C(以下「C」という。)は,平成20年(2008年)6月25日から平成29年(2017年)3月31日まで被告会社の代表取締役会長兼社長及び最高経営責任者,同年4月1日から平成30年(2018年)11月22日まで同社の代表取締役会長であったもの,Dは,平成19年(2007年)9月から平成31年(2019年)3月まで被告会社の秘書室長であったものであるが,第1 C及びDは,共謀の上,被告会社の業務に関し, 1 被告会社の平成23年(2011年)4月1日から平成24年(2012年) 3月31日までの連結会計年度につき,同年6月28日,東京都豊島区(住所省略)所在のb株式会社事務所に設置 , 1 被告会社の平成23年(2011年)4月1日から平成24年(2012年) 3月31日までの連結会計年度につき,同年6月28日,東京都豊島区(住所省略)所在のb株式会社事務所に設置された入出力装置から,開示用電子情報処理組織を利用するなどの方法により,さいたま市(住所省略)所在の関東財務局において,同財務局長に対し,Cの報酬,賞与その他その職務執行の対価として被告会社及びその主要な連結子会社から役員として受ける財産上の利益であって,当該連結会計年度に係るものが約18億9400万円であったにもかかわらず,同人の「総報酬」欄及び「金銭報酬」欄にいずれも9億8700万円と記載した有価証券報告書を提出し, 2 被告会社の平成24年(2012年)4月1日から平成25年(2013年)3月31日までの連結会計年度につき,同年6月27日,前同様の方法により,前記関東財務局において,同財務局長に対し,Cの報酬,賞与その他その職務執行の対価として被告会社及びその主要な連結子会社から役員として受ける財産上の利益であって,当該連結会計年度に係るものが約20億2500万円であったにもかかわらず,同人の「総報酬」欄及び「金銭報酬」欄にいずれも9億8800万円と記載した有価証券報告書を提出し, 3 被告会社の平成25年(2013年)4月1日から平成26年(2014年)3月31日までの連結会計年度につき,同年6月26日,前同様の方法により,前記関東財務局において,同財務局長に対し,Cの報酬,賞与その他その職務執行の対価として被告会社及びその主要な連結子会社から役員として受ける財産上の利益であって,当該連結会計年度に係るものが約19億4600万円であったにもかかわらず,同人の「総報酬」欄及び「金銭報酬」欄にいずれも9億9500万円と記載した有価 会社から役員として受ける財産上の利益であって,当該連結会計年度に係るものが約19億4600万円であったにもかかわらず,同人の「総報酬」欄及び「金銭報酬」欄にいずれも9億9500万円と記載した有価証券報告書を提出し, 4 被告会社の平成26年(2014年)4月1日から平成27年(2015年)3月31日までの連結会計年度につき,同年6月25日,前同様の方法により,前記関東財務局において,同財務局長に対し,Cの報酬,賞与その他その職務執行の対価として被告会社及びその主要な連結子会社から役員として受ける財産上の利益 であって,当該連結会計年度に係るものが約22億1300万円であったにもかかわらず,同人の「総報酬」欄及び「金銭報酬」欄にいずれも10億3500万円と記載した有価証券報告書を提出し, 5 被告会社の平成27年(2015年)4月1日から平成28年(2016年)3月31日までの連結会計年度につき,同年6月24日,前同様の方法により,前記関東財務局において,同財務局長に対し,Cの報酬,賞与その他その職務執行の対価として被告会社及びその主要な連結子会社から役員として受ける財産上の利益であって,当該連結会計年度に係るものが約22億8200万円であったにもかかわらず,同人の「総報酬」欄及び「金銭報酬」欄にいずれも10億7100万円と記載した有価証券報告書を提出し, 6 被告会社の平成28年(2016年)4月1日から平成29年(2017年)3月31日までの連結会計年度につき,同年6月29日,前同様の方法により,前記関東財務局において,同財務局長に対し,Cの報酬,賞与その他その職務執行の対価として被告会社及びその主要な連結子会社から役員として受ける財産上の利益であって,当該連結会計年度に係るものが約24億0200万円であったにもか 財務局長に対し,Cの報酬,賞与その他その職務執行の対価として被告会社及びその主要な連結子会社から役員として受ける財産上の利益であって,当該連結会計年度に係るものが約24億0200万円であったにもかかわらず,同人の「総報酬」欄及び「金銭報酬」欄にいずれも10億9800万円と記載した有価証券報告書を提出し,第2 被告人Bは,C及びDと共謀の上,被告会社の業務に関し,被告会社の平成29年(2017年)4月1日から平成30年(2018年)3月31日までの連結会計年度につき,同年6月28日,前同様の方法により,前記関東財務局において,同財務局長に対し,Cの報酬,賞与その他その職務執行の対価として被告会社及びその主要な連結子会社から役員として受ける財産上の利益であって,当該連結会計年度に係るものが約24億9100万円であったにもかかわらず,同人の「総報酬」欄及び「金銭報酬」欄にいずれも7億3500万円と記載した有価証券報告書を提出し,もってそれぞれ重要な事項につき虚偽の記載のある有価証券報告書を提出したもの である。 (事実認定の補足説明)Ⅰ 本件の争点及び判断の構造等第1 検察官の主張検察官は,平成30年12月10日付け起訴状に係る起訴(以下「本起訴」という。)及び平成31年1月11日付け追起訴状に係る起訴(以下「追起訴」という。)において,被告人Bが,C及びDらと共謀の上,被告会社の業務に関し,平成22年(2010年)度(被告会社の事業年度は,その年の4月1日から翌年3月31日までであり,「平成22年度」とは平成22年4月1日から平成23年3月31日までの事業年度を指す。同年度以降の事業年度についても同様である。なお,平成22年度を「平成23年3月期」と表記することもあり,関係証拠にも同様の表記が見られるが,本判 1日から平成23年3月31日までの事業年度を指す。同年度以降の事業年度についても同様である。なお,平成22年度を「平成23年3月期」と表記することもあり,関係証拠にも同様の表記が見られるが,本判決では混乱を避けるため「平成●●年度」との表記で統一する。)から平成29年(2017年)度までの各連結会計年度につき,関東財務局長に対し,Cが被告会社及びその主要な連結子会社から役員(本件においては,取締役と監査役を前提とする。)の職務執行の対価として受ける報酬等(以下,まとめて「Cの報酬」という。)について「虚偽の記載」(金融商品取引法(以下「金商法」という。)197条1項1号)のある有価証券報告書を提出したと主張している(ただし,被告会社は,平成22年(2010年)度については起訴されていない。)。 具体的には,検察官は,Cの報酬の中には,「取締役としての職務執行の対価として,支払われる金額は定まっているものの,支払を延期され,いずれ支払われるものとして管理されている未払の報酬」(検察官は,このような報酬を「未払報酬」と呼称し,有価証券報告書において当然開示すべきものとしている(論告1頁)。)があり,この「未払報酬」を含めた報酬額を有価証券報告書に記載して開示すべきであったのに,これを記載せずに既払分の報酬額しか開示しなかったことをもって「虚偽の記載」に当たると主張している(論告93~94頁)。そして,Dは,「裏 報酬」である「未払報酬」の金額の記録及び管理の役割を担い,被告人Bは,「裏報酬」である「未払報酬」の支払方法(支払名目)の検討及び整備の役割,いわば「裏報酬のローンダリング」を担っていたもので,被告人Bが検討していた各種の支払方法等はCの「未払報酬」を支払うためのものであった旨主張している(論告1頁)。 なお,本 討及び整備の役割,いわば「裏報酬のローンダリング」を担っていたもので,被告人Bが検討していた各種の支払方法等はCの「未払報酬」を支払うためのものであった旨主張している(論告1頁)。 なお,本判決において「未払報酬」と表記した場合は,検察官が定義づけた上記の報酬を指すものとする。他方,本判決において「未払の報酬」又は「未払となっている報酬」と表記した場合は,役員の職務執行の対価ではあるが,未だ支払われていない状態の報酬を指すものとする。これは,当該報酬について有価証券報告書に記載して開示すべきか否かに関わらない広い意味で用いるものであり,検察官主張の「未払報酬」とは異なるものである。 第2 弁護人の主張被告会社の弁護人は,C,被告人B及びDらが,共謀の上,被告会社の業務に関し,平成23年(2011年)度から平成29年(2017年)度までの各連結会計年度において,関東財務局長に対し,Cの報酬について「虚偽の記載」のある有価証券報告書を提出した事実が認められるとして,被告会社を対象とした本起訴及び追起訴に係る各公訴事実の内容について争っていない。 他方,被告人Bの弁護人は,Cの報酬について有価証券報告書に記載した金額のほかに記載すべき未払の報酬は存在しない(金商法上の開示義務を発生させるような未払の報酬に関する決定は存在しない)し,仮にCとDとの間に有価証券報告書に本来記載すべき金額より低い金額を記載して提出する旨の共謀(意思連絡)があったとしても,被告人Bとの間にはそのような共謀はない旨主張するとともに,本件で被告会社が提出した有価証券報告書におけるCの報酬に関する記載は,刑事罰の対象となる「虚偽の記載」に該当しない旨も主張し,被告人Bは無罪であるとする(被告人Bの弁護人の弁論1頁)。 なお,上記の各主張の内容を踏まえて 証券報告書におけるCの報酬に関する記載は,刑事罰の対象となる「虚偽の記載」に該当しない旨も主張し,被告人Bは無罪であるとする(被告人Bの弁護人の弁論1頁)。 なお,上記の各主張の内容を踏まえて,「事実認定の補足説明」の項における以 下の検討において,「弁護人」とは,特に断りのない限り被告人Bの弁護人を指し,「弁論」として引用するものは,被告人Bの弁護人の弁論要旨を指すこととする。 第3 本件の争点 1 Cの開示すべき未払の報酬の存否前記第1及び第2の検察官及び弁護人の各主張を踏まえると,本件の争点として,まず,被告会社の取締役であるCの報酬の中に有価証券報告書に記載して開示すべきであるのに開示されていない未払の報酬が存在するのか否かが問題となる。すなわち,「Cの開示すべき未払の報酬の存否」が本件の争点となる。 なお,ここで言う「報酬」とは,企業内容等の開示に関する内閣府令(以下「開示府令」という。)において有価証券報告書に記載して開示すべきとされている役員の「報酬等」,すなわち「報酬,賞与その他その職務執行の対価としてその会社から受ける財産上の利益であって,最近事業年度に係るもの及び最近事業年度において受け,又は受ける見込みの額が明らかとなったもの」(開示府令15条1号(令和3年(2021年)11月の改正前のもの。以下同じ。)イに規定された有価証券報告書の様式である第三号様式においても準ずるものとされている有価証券届出書の様式である第二号様式の(記載上の注意)中の「コーポレート・ガバナンスの状況」のa⒟)と同義である(甲10資料2,甲11資料2)。 2 CとDとの共謀の有無(虚偽記載有価証券報告書提出罪の成否)次いで,Cの開示すべき未払の報酬の存在が認められた場合,これを含む報酬額を有価証券報告書に記載せ 10資料2,甲11資料2)。 2 CとDとの共謀の有無(虚偽記載有価証券報告書提出罪の成否)次いで,Cの開示すべき未払の報酬の存在が認められた場合,これを含む報酬額を有価証券報告書に記載せずに提出することについて,C及びDに認識があったか否か,更にはCとDとの間で共謀があったか否か(「CとDとの共謀の有無」)が問題となり,結論としてC及びDに金商法違反の罪(虚偽記載有価証券報告書提出罪)が成立するか否かを検討することになる。 なお,同罪の成否を検討するに当たっては,本件において被告会社が提出した平成22年(2010年)度から平成29年(2017年)度までの各有価証券報告書(以下,まとめて「本件有価証券報告書」という。)に「虚偽の記載」があるの か否かが前提の問題となるので,この点についても検討する。 3 被告人BとC及びDとの共謀の有無さらに,CとDとの共謀が認められ,両者について虚偽記載有価証券報告書提出罪の成立が肯定された場合に,「被告人BとC及びDとの共謀の有無」が問題となる。そして,その前提として,被告人Bに虚偽記載有価証券報告書提出罪の故意が認められるか否かが問題となり,更にその前提として被告人BがCの開示すべき未払の報酬の存在について認識していたか否か(「Cの開示すべき未払の報酬に関する被告人Bの認識の有無」)が問題となるが,この点が本件において最も重要な争点に当たると解される。 第4 本件の判断の構造等 1 本件の証拠構造等検察官(論告2~3頁)及び弁護人(弁論3頁)が共に指摘するとおり,本件では,大規模な世界的自動車メーカー内の約10年間にわたる様々な活動や事象の中で蓄積された多数の資料や電子データが証拠として取り調べられているところ,これらの客観的な資料等が本件の事実関係を確定してい は,大規模な世界的自動車メーカー内の約10年間にわたる様々な活動や事象の中で蓄積された多数の資料や電子データが証拠として取り調べられているところ,これらの客観的な資料等が本件の事実関係を確定していく上で重要なものとなる。 もっとも,多数の客観的な資料等をもってしても本件の事実関係の全てを明らかにできるわけではなく,特に関係者間の個別のやり取りや関係者の当時の認識等については,それに関わる関係者の供述によって認定せざるを得ない。そして,本件の関係者の供述の中でも,秘書室長としてCの報酬の決定・管理等の業務の取りまとめを担当していたDの供述は,「Cの開示すべき未払の報酬の存否」や「CとDとの共謀の有無」の各争点に関しては,Cらとの具体的なやり取りについて証拠となるものであり,また,「被告人BとC及びDとの共謀の有無」や「Cの開示すべき未払の報酬に関する被告人Bの認識の有無」の各争点に関しても,C及び被告人Bらとの具体的なやり取りについて証拠となるものであるように,前記第3の各争点を検討する上で最も重要な証拠である。 また,Eは,後述するとおり,被告人Bが行っていた各種の支払方法等の検討等 に関与していたことが認められることから,Eの供述も「Cの開示すべき未払の報酬に関する被告人Bの認識の有無」について判断をする上で重要性を持っている。 もっとも,Eは,Cの報酬の決定・管理等の業務の取りまとめを担当する立場にあったDと比較すると,Cの報酬の決定手続への直接的な関与が認められないなど,本件への関与の程度はさほど強いものとはいえない。 このように,本件は,多数の客観的な資料等から認定できる事実関係を基礎として,これにDやEらの供述によって認定できる事実関係を総合した本件の事実関係全体から前記第3の各争点を判断していく構造となってい のように,本件は,多数の客観的な資料等から認定できる事実関係を基礎として,これにDやEらの供述によって認定できる事実関係を総合した本件の事実関係全体から前記第3の各争点を判断していく構造となっている。 なお,本項における以下の検討において,関係者の「供述」とは,捜査段階での取調官に対する供述(供述調書)等の公判廷外のものと当公判廷におけるもの(証言)の双方を意味し,関係者の「証言」とは,当公判廷における供述のみを意味するものとする(ただし,被告人Bの当公判廷における供述は「公判供述」と表記する。)。 2 Dの供述の信用性前述したとおり,Dの供述は,前記第3の各争点を検討する上で最も重要な証拠であるが,本件では,Dが刑事訴訟法上の協議及び合意(同法350条の2ないし同条の15。以下,まとめて「協議・合意」と表記する。)の当事者であるという特有の事情があり,その信用性については特別の考慮が必要となる。 関係証拠によれば,Dは,複数回の協議を経て,平成30年(2018年)11月1日,C,被告人B及びEと共謀して犯したとされる会社法違反被疑事件(ブラジルのリオデジャネイロ及びレバノンのベイルートの不動産物件の購入に関する特別背任)及び金商法違反被疑事件(平成21年(2009年)度から平成29年(2017年)度までの虚偽記載有価証券報告書の提出)について,検察官に対し,「①Dが保管する一切の資料を任意提出すること,②検察官の求めに応じて出頭し,取調べにおいて真実の供述をすること,③供述調書の作成のため必要な行為をすること,④証人として出頭・宣誓の上,証言を拒むことなく真実の証言をすること」を 約し,他方,検察官は,Dに対し,「上記の各被疑事件について,Dに対して公訴を提起しないこと」を約し,検察官,D及びDの弁護人が連署し ・宣誓の上,証言を拒むことなく真実の証言をすること」を 約し,他方,検察官は,Dに対し,「上記の各被疑事件について,Dに対して公訴を提起しないこと」を約し,検察官,D及びDの弁護人が連署した合意内容書面(甲147)を作成して合意が成立した(甲168)ことが認められる。 上記のとおり,Dは,検察官による本件等に関する供述その他の証拠の収集等に協力することの見返りに,自身の被疑事件について,公訴を提起しないという検察官がDに与え得る中で最もDに有利な処分を受けている。この事実を踏まえると,Dは,自己に有利な取扱いを受けるため協議開始の当初から合意の成立に向けて自身の共犯者とされるC及び被告人Bの犯罪の立証に資する供述や証拠を提供することに努め,合意成立後においても協議の際に提供した供述等を維持したものと考えられる。そうすると,Dの供述は,有利な取扱いを受けたいとの思いから検察官の意向に沿うような供述をしてしまう危険性をはらんでいるものと考えられる。 また,前述した本件の争点及び証拠構造を踏まえると,Dの供述は,主として共犯者とされるC及び被告人Bらとのやり取りに関して重要性を持つものであるから,Cに責任転嫁したり,被告人Bを引き込んだりするという共犯者供述の危険性をもはらんでいるものと考えられる。 加えて,Dの供述が,公訴提起に係る8連結会計年度及びその前後を含んだ約10年間もの長期にわたる多種多様な事実関係を内容とするものであるため,Dの記憶に減退や変容の可能性があることをも踏まえると,Dにおいて記憶がない又は薄れている事項については,Dが検察官の意向に沿うような供述をしてしまう危険性がより高まるといわざるを得ない。 そして,Dの供述に関する上記の各危険性は,検察官が指摘するDの捜査・公判における真摯な供述態度等(論告55 は,Dが検察官の意向に沿うような供述をしてしまう危険性がより高まるといわざるを得ない。 そして,Dの供述に関する上記の各危険性は,検察官が指摘するDの捜査・公判における真摯な供述態度等(論告55~58頁)によって払拭されるものとは到底いえない。 以上によれば,Dの供述の信用性は,客観的な証拠や信用できる第三者の供述等といった裏付け証拠が十分に存在するなど積極的に信用性を認めるべき事情があるかという視点から慎重に検討すべきである。そして,直接の裏付け証拠がない供述 部分については,供述した事項の性質・内容のほか,当該事項に関連するところの動かし難い事実関係に照らして供述内容が確かであるかという視点からより慎重に検討すべきである。 3 Eの供述の信用性⑴ Eの供述の信用性を判断する上での留意点前述したとおり,Eの供述も,前記第3の各争点を検討する上で重要な証拠であるが,Dと同様に協議・合意の当事者であり,その供述の信用性については特別の考慮が必要となる。 関係証拠によれば,Eは,複数回の協議を経て,平成30年(2018年)10月31日,C,被告人B及びDと共謀して犯したとされる会社法違反被疑事件(ブラジルのリオデジャネイロ及びレバノンのベイルートの不動産物件の購入に関する特別背任)及び金商法違反被疑事件(平成21年(2009年)度から平成29年(2017年)度までの虚偽記載有価証券報告書の提出)について,検察官に対し,「①Eが保管する一切の資料を任意提出すること,②検察官の求めに応じて出頭し,取調べにおいて真実の供述をすること,③供述調書の作成のため必要な行為をすること,④証人として出頭・宣誓の上,証言を拒むことなく真実の証言をすること」を約し,他方,検察官は,Eに対し,「上記の各被疑事件について,Eに対 供述をすること,③供述調書の作成のため必要な行為をすること,④証人として出頭・宣誓の上,証言を拒むことなく真実の証言をすること」を約し,他方,検察官は,Eに対し,「上記の各被疑事件について,Eに対して公訴を提起しないこと」を約し,検察官,E及びEの弁護人が連署した合意内容書面(甲148)を作成して合意が成立した(甲175)ことが認められる。 上記のとおり,Eは,検察官による本件等に関する供述その他の証拠の収集等に協力することの見返りに,自身の被疑事件について,公訴を提起しないという検察官がEに与え得る中で最もEに有利な処分を受けている。この事実を踏まえると,Eは,Dと同様に,自己に有利な取扱いを受けるため協議開始の当初から合意の成立に向けて自身の共犯者とされるC及び被告人Bの犯罪の立証に資する供述や証拠を提供することに努め,合意成立後においても協議の際に提供した供述等を維持したものと考えられる。そうすると,Eの供述は,Dの供述と同様に,協議・合意に 基づくものであることによる危険性をはらんでいるものと考えられる。 また,前述した本件の争点及び証拠構造等を踏まえると,Eの供述は,本件において主として被告人Bの言動に関して重要性を持つものであり,被告人Bに責任転嫁するという危険性をもはらんでいるものと考えられる。 加えて,Eの供述も,Dの供述ほどではないにしても,長期にわたる多種多様な事実関係を内容とするものであるため,Eの記憶に減退や変容の可能性があることも考慮する必要がある。 以上によれば,Eの供述の信用性は,Dの供述の信用性と同様に,客観的な証拠や信用できる第三者の供述等といった裏付け証拠が十分に存在するなど積極的に信用性を認めるべき事情があるかという視点から慎重に検討すべきであり,直接の裏付け証拠がない供述部 用性と同様に,客観的な証拠や信用できる第三者の供述等といった裏付け証拠が十分に存在するなど積極的に信用性を認めるべき事情があるかという視点から慎重に検討すべきであり,直接の裏付け証拠がない供述部分については,供述した事項の性質・内容のほか,当該事項に関連するところの動かし難い事実関係に照らして供述内容が確かであるかという視点からより慎重に検討すべきである。 ⑵ 弁護人の主張についての検討弁護人は,Eには,被告会社とF社の経営統合を阻止するために,F社の意向に沿って経営統合を進めようとしていたCを被告会社から追い出すという真の目的があったこと,Eは,捜査段階に至るまで(社内調査等の段階では),本件有価証券報告書にCの報酬に関する「虚偽の記載」があることを問題にしておらず,そのような不正があったとの認識がなかったとみられること等からすると,Eは,Cを失脚させるために本件の嫌疑を作り上げたと考えられる旨を主張する(弁論368~385頁)。 関係証拠によれば,Eが,被告会社の監査役であったG及び専務執行役員であったHと共にCの不正に関する社内調査に積極的に関与していた事情が認められる。 また,EがCの解任等に関する検討をしていた事実も認められる。 しかしながら,E,G及びHの各証言によれば,Eが協議・合意によって提供したCの不正に関する情報は海外にある不動産物件に関するものが主たるものであっ たと考えられることに加え,Cの報酬に関する虚偽記載有価証券報告書提出の被疑事実については,協議の当初から合意の対象とされていたわけではなかったことからすると,Eが本件の嫌疑を作り上げた上で,検察官に対して本件を立件するように積極的に働き掛けていたとは考え難い。 したがって,Eが被告会社の社内調査に関与していたとの事情は,Eの供 かったことからすると,Eが本件の嫌疑を作り上げた上で,検察官に対して本件を立件するように積極的に働き掛けていたとは考え難い。 したがって,Eが被告会社の社内調査に関与していたとの事情は,Eの供述の信用性を判断する上で特段の考慮を要すべきものとはいえない。弁護人が指摘するEの供述に関する種々の問題点は,その信用性を判断する過程において個々に検討すべき事項であると考えられる。 4 当裁判所の判断の構造等前記2及び3のとおり,D及びEの各供述の信用性については慎重に検討すべきであるところ,検察官は,論告において,両名が協議・合意の当事者であることを踏まえて,ひとまず両名の供述を除外した上で,争いのない事実及び客観証拠から認定できる事実について分析・検討を行うとし(論告3頁),本件公訴事実については,争いのない事実及び客観証拠から認定できる事実のみをもってしても証明十分である旨主張している(論告54頁)。確かに,Dらの供述の信用性については慎重な検討を要するところ,争いのない事実及び客観証拠から認定できる事実のみをもって本件公訴事実を認定することができるのであれば,検察官が主張するような判断手法も採り得るものと思われる。 しかしながら,協議・合意がなされた事件において,検察官が論告で行ったように,協議・合意によって得られた供述の信用性の検討をひとまずおいて,まずは争いのない事実及び客観証拠から認定できる事実のみに基づいて公訴事実が認定できるかどうかを検討しなければならないといった法的な拘束又は必然性はないように思われる。前記1でも言及したとおり,本件では,多数の客観的な資料等をもってしても本件の事実関係の全てを明らかにすることはできず,最重要証人であるDらの供述なくしては争点判断の前提となる事実関係を確定できない構造となって したとおり,本件では,多数の客観的な資料等をもってしても本件の事実関係の全てを明らかにすることはできず,最重要証人であるDらの供述なくしては争点判断の前提となる事実関係を確定できない構造となっている。検察官の論告は,同一の事実関係について,客観証拠に基づく分析とDら の供述に基づく分析をそれぞれ行っているが,二つの分析を総合した主張が明確でないために,論旨が把握しづらくなっている嫌いがある。 したがって,当裁判所は,本件の時系列に従って,まずは客観的な資料等や信用性に特段の問題がないと認められる関係者の供述によって認定できる事実関係(その大半は当事者間で争いのない事実関係といえよう。)を確認し,次いでDらの供述の信用性を検討して当事者間で争いのある事実関係を確定した上で,前記第3の各争点についての検討を行うこととする。 Ⅱ 当事者間で争いのない事実関係第1 本件の関係者の経歴等 1 被告会社⑴ 被告会社の概要被告会社は,横浜市に本店を置く,自動車等の製造等を目的とする株式会社であり(乙53),国内外に多数の子会社や関連会社等を有し,これらの会社で構成される企業グループの中核企業として,世界各地において,自動車等の製造及び販売等の事業を行っている。被告会社の完全子会社かつ主要な連結子会社で,欧州等の海外子会社の株式を保有する持株会社として,オランダに本店を置くAインターナショナルホールディングスビーブイが存在する(甲60)。平成29年(2017年)度の被告会社の連結売上高は,約12兆円であった(甲1)。 被告会社は,昭和26年(1951年)1月,その発行する株券を当時のa証券取引所に上場し,昭和36年(1961年)10月以降は,a証券取引所市場第一部に上場している(甲14)。平成30年(2018年)3 会社は,昭和26年(1951年)1月,その発行する株券を当時のa証券取引所に上場し,昭和36年(1961年)10月以降は,a証券取引所市場第一部に上場している(甲14)。平成30年(2018年)3月31日現在,被告会社の発行済み株式は,約42億2071万株であり(甲1),資本金の額は,約6058億円である(乙53)。 被告会社の代表者は,本起訴及び追起訴時はI代表取締役社長であったが,令和元年(2019年)12月以降は,J代表執行役社長である(乙53)。 ⑵ F社との提携等 被告会社の業績は,平成9年(1997年)度から3期連続で当期純損益がマイナスとなるなど低迷し,平成11年(1999年)度末には6800億円を超える当期純損失を計上するに至った(甲2)。 このような状況を踏まえ,被告会社は,平成11年(1999年)3月,フランスに本店を置き,自動車等の製造等の事業を行っているF社との間で提携契約を締結し(甲2),これに基づいて,F社が被告会社の発行済み株式の40パーセント強を保有する一方,被告会社もF社の発行済み株式の約15パーセントを保有することとなった(甲1)。 また,被告会社は,前記提携契約に基づいて,F社の役員及び従業員を被告会社の役員又は従業員として迎え入れることとなり,このうち,Cは,同年6月,F社から被告会社に派遣され,当時のK代表取締役会長兼社長・最高経営責任者(CEO)に次ぐ役職である代表取締役・最高執行責任者(COO)に就任した(甲146)。 なお,上記のF社と被告会社との間で締結された提携契約に基づく関係を,以下,「F・A連合」又は「アライアンス」という。 ⑶ 被告会社の経営状況等被告会社は,Cの主導の下,平成11年(1999年)10月に平成12年(2000年)度連結 携契約に基づく関係を,以下,「F・A連合」又は「アライアンス」という。 ⑶ 被告会社の経営状況等被告会社は,Cの主導の下,平成11年(1999年)10月に平成12年(2000年)度連結当期純損益の黒字化等を内容とする3か年の経営再建計画(Aリバイバル・プラン)を立てて経営再建を進めたところ,被告会社の業績は著しく回復し,その後も堅調な業績を上げるなど,経営再建がなされた(甲2)。 また,被告会社は,前記提携契約に基づいて,F社との間で,購買,製造,物流,販売及び技術の各分野で提携を進めたほか,平成14年(2002年)3月,アライアンスを管理する会社として,オランダに本店を置くF・A会社をF社と共同して設立した(甲2)。 さらに,被告会社は,平成28年(2016年)5月,c株式会社との間で資本参加を含む提携契約を締結し,同年10月,c株式会社の発行済み株式の約34パ ーセントを取得した。これにより,c株式会社は,F・A連合に加わることとなった。 2 被告人B被告人Bは,d大学及びe大学を卒業後,昭和56年(1981年)にアメリカ合衆国(以下「米国」という。)で弁護士資格を取得し,法律事務所に勤務した後,昭和63年(1988年)3月に,被告会社の系列会社で米国テネシー州にあったAモーターマニュファクチュアリングカンパニーに入社し,労働関係,雇用,環境に関する仕事に携わり,同社が被告会社の子会社である北米A会社(以下「北米A」という。)に合併された後の平成17年(2005年)10月に,北米Aの人事・組織開発担当の副社長(バイス・プレジデント)に就任した(甲146,被告人B第50回4~9頁)。 被告人Bは,平成20年(2008年)4月,被告会社の執行役員(コーポレート・バイス・プレジデント)に就任し,同 副社長(バイス・プレジデント)に就任した(甲146,被告人B第50回4~9頁)。 被告人Bは,平成20年(2008年)4月,被告会社の執行役員(コーポレート・バイス・プレジデント)に就任し,同年9月以降,被告会社のCEOオフィス(法務室及び秘書室等)の業務を所管した。被告人Bは,平成21年(2009年)4月に被告会社のCEOオフィス等を担当する常務執行役員(シニア・バイス・プレジデント)に,平成24年(2012年)6月に代表取締役・常務執行役員に,平成26年(2014年)4月に代表取締役・専務執行役員(エグゼクティブ・バイス・プレジデント)にそれぞれ就任した後,平成27年(2015年)1月に専務執行役員を退任したものの(甲1),その後も代表取締役の職にあったが,平成30年(2018年)11月19日に本起訴に係る被疑事実により逮捕され,同月22日に代表取締役を解任され,平成31年(2019年)4月8日に取締役を解任された(甲1,146,乙53,被告人B第50回10~17頁)。 3 CCは,フランスのf大学及びg学校工学部を卒業後,昭和53年(1978年)9月に世界的タイヤメーカーであるhに入社し,その後,平成8年(1996年)10月にF社に入社し,F社の上席副社長に就任した(甲146)。 Cは,被告会社とF社の前記提携契約に基づいて,平成11年(1999年)6月,被告会社の代表取締役・最高執行責任者に就任し,被告会社の業務全般を統括し,経営再建計画を実行して被告会社の再建に当たった。その後,Cは,平成12年(2000年)6月に代表取締役社長・最高執行責任者に,平成13年(2001年)6月に代表取締役社長・最高経営責任者に,平成15年(2003年)6月に代表取締役共同会長兼社長・最高経営責任者に,平成20年(20 )6月に代表取締役社長・最高執行責任者に,平成13年(2001年)6月に代表取締役社長・最高経営責任者に,平成15年(2003年)6月に代表取締役共同会長兼社長・最高経営責任者に,平成20年(2008年)6月に代表取締役会長兼社長・最高経営責任者に,平成29年(2017年)4月に代表取締役会長(最高経営責任者は退任)にそれぞれ就任した。この間,Cは,一貫して被告会社の代表取締役の地位にあり,Aリバイバル・プラン以降も被告会社の経営計画の策定と実行を主導するなど被告会社の業務全般を統括していたが,平成30年(2018年)11月19日に本起訴に係る被疑事実により逮捕され,同月22日に代表取締役を解任され,平成31年(2019年)4月8日に取締役を解任された(甲1,146,乙53)。 また,Cは,F社においても,平成17年(2005年)5月に取締役社長・最高経営責任者に,平成21年(2009年)5月に取締役会長・最高経営責任者にそれぞれ就任するとともに,F・A会社においても,平成17年(2005年)4月に取締役社長兼会長に,平成29年(2017年)5月に取締役会長・最高経営責任者にそれぞれ就任し,F社及びF・A連合の業務全般も統括していた(甲1,146)。 さらに,Cは,平成28年(2016年)10月にc株式会社がF・A連合に加わったことを受けて,同年12月にc株式会社の代表取締役会長に就任した(甲1)。 4 DDは,昭和57年(1982年)4月に被告会社に入社し,主に人事関係の仕事を担当した。平成元年(1989年)から平成7年(1995年)まで,メキシコA会社に勤務したが,同社においても人事関係の仕事を担当した(D第3回1頁)。 Dは,平成19年(2007年)9月に被告会社の秘書室長に就任し,Cや被告 人Bを含 95年)まで,メキシコA会社に勤務したが,同社においても人事関係の仕事を担当した(D第3回1頁)。 Dは,平成19年(2007年)9月に被告会社の秘書室長に就任し,Cや被告 人Bを含む被告会社の取締役や執行役員の報酬の決定・管理等の業務の取りまとめ等に当たっていた。その業務の一環として,Cの報酬の決定・管理に関する資料の作成・保管等を行っていた(甲15,D第3回1~2頁)。 Dは,平成31年(2019年)3月末で秘書室長を退任し,その後,人事本部付きとなった(D第3回1頁)。 5 EEは,イングランド及びウェールズの法廷弁護士の資格を有し,平成2年(1990年)に被告会社に入社し,翌年から平成20年(2008年)まで英国A会社において主に法務部門の仕事を担当した(E第31回1頁)。 Eは,平成20年(2008年)から被告会社の法務室において勤務するようになり,平成24年(2012年)にスイスにあるAインターナショナル社の法務担当の副社長として出向した後,平成26年(2014年)4月に被告人Bの後任として被告会社のCEOオフィス(法務室及び秘書室等)を担当する常務執行役員に就任し,さらに,平成27年(2015年)4月には専務執行役員に就任した(E第31回1頁)。 Eは,平成31年(2019年)にCEOオフィスの担当を外れ,その後,相談役に就任した(E第31回1頁)。 第2 Cの報酬に関する諸事情 1 被告会社における取締役の報酬の概要等被告会社の取締役の報酬は,株主総会の決議によって確定額金銭報酬と株価連動型インセンティブ受領権から構成されていた(甲1)。 このうち株価連動型インセンティブ受領権とは,株価に連動する金銭受領権を対象者に付与し,一定の業績評価期間を終えると権利行使可能な権利数が確定 型インセンティブ受領権から構成されていた(甲1)。 このうち株価連動型インセンティブ受領権とは,株価に連動する金銭受領権を対象者に付与し,一定の業績評価期間を終えると権利行使可能な権利数が確定し,その後,一定の期間を経れば,対象者が任意の時点で権利行使の意思表示をすることにより,権利行使時の株価と付与時の株価の差引額に権利行使する権利数を掛け合わせた額の金銭を受領することができるというものである。被告会社においては, 業績目標に対するインセンティブを高める目的で,平成15年(2003年)に導入され,従業員のほか取締役も対象者となっており,権利行使可能な権利数が確定した時点で,権利数に公正価額(FairValue)を掛け合わせた金額を株価連動型インセンティブ受領権の報酬額として有価証券報告書に記載して開示することとなっていた。株価連動型インセンティブ受領権は,英語表記の「Stock(Share) AppreciationRight」を略して「SAR」又は「SARs」と呼ばれるほか,被告会社におけるSARについては,特に「L」と呼ばれていた(甲31)。 また,本件当時(平成22年(2010年)から平成30年(2018年)までの間。以下「本件当時」とはこの期間を指す。)の被告会社における取締役の報酬については,株主総会で定めた取締役全体の報酬総額の上限額(平成20年(2008年)6月以降は29億9000万円(甲1,97,190))の範囲内で,(平成23年(2011年)6月の取締役会以降は)他の代表取締役との協議を前提に,各取締役に対する報酬の配分を取締役社長又は取締役会長であるCに一任することとされていた(甲7,122,124ないし128)。 本件当時,Cや被告人Bら被告会社の外国人の取締役や執行役員の報酬は,基本年 に対する報酬の配分を取締役社長又は取締役会長であるCに一任することとされていた(甲7,122,124ないし128)。 本件当時,Cや被告人Bら被告会社の外国人の取締役や執行役員の報酬は,基本年棒(AnnualBasicSalary,AnnualBasedSalary又はAnnualBaseSalary。以下「ABS」という。)及び業績連動型報酬(VariableCompensation。以下「VC」という。)に,光熱費等の諸手当,被告会社において負担することが決められていた租税額分(手取額(ネット)を保証するために税額相当分を上乗せ(グロスアップ)するもの)やボーナス額等を加え,さらに,被告会社が実費を負担して支払先に直接支払うこととされていた「Otherfringebenefit」と呼ばれる現物給付(以下,単に「現物給付」という。)の金額(当年度末にその実績額が判明する。)を加算して算定されていた(甲3,5,98)。 2 Cの報酬に関する契約書等Cは,平成11年(1999年)に,被告会社の代表取締役・最高執行責任者に就任するに当たり,Kとの間で報酬等に関する基本契約の合意書(「Agreement」と 題する文書(甲99資料1))を作成し,それに署名した。これによると,Cの報酬は,基本報酬が年間1億1085万7856円(ネットの金額)とされ,他に業績に伴うパフォーマンス報酬が与えられ,更にストックオプションとして1000万株が付与されたほか,家賃や光熱費等が支給されることとなっていた(甲94)。 その後,Cは,最高経営責任者に就任したことを踏まえて,平成14年(2002年)11月に,前記基本契約の修正合意書(「AmendmentAgreement」と題する文書(甲99資料2))にKと署名し,さら Cは,最高経営責任者に就任したことを踏まえて,平成14年(2002年)11月に,前記基本契約の修正合意書(「AmendmentAgreement」と題する文書(甲99資料2))にKと署名し,さらに,平成15年(2003年)3月にも,「Compensationpackagefor C asCEOandPresident」と題する文書(甲99資料3)にKと署名した。同文書によれば,Cの報酬のうちABSは,平成15年(2003年)4月1日をもって固定する一方,VCについては,業績の達成度に応じてABSの同額(「commitment(コミットメント)」を達成した場合)又は倍額(「target(ターゲット)」を達成した場合)とされていたが,平成18年(2006年)10月,Cは,当時の被告会社の秘書室長であったMに対し,ABSのベースアップを要求し,それ以降,毎年度,ABSのベースアップがされるようになった(甲99)。 その後,平成20年(2008年)度までは従前と同様であったが,平成21年(2009年)度以降,Cの報酬はABSに一本化されることとなった(甲15)。 このようにCの報酬がABSに一本化されたことにより,ABS及びそのベースアップ率が決定されれば,諸手当は毎年度ほぼ同額であり,税率も明らかであって,現物給付の額はさほど多額ではないことから,その年度の報酬額がほぼ算定できることとなった。 なお,平成11年(1999年)度から平成13年(2001年)度までのCの報酬は,年10億円を下回っていたが,平成14年(2002年)度以降は年10億円を超えており,平成15年(2003年)度から平成20年(2008年)度までの間は,概ね年14億ないし17億円程度であった(甲149)。 3 平成19年(2007年)度以前のCら取締役の 億円を超えており,平成15年(2003年)度から平成20年(2008年)度までの間は,概ね年14億ないし17億円程度であった(甲149)。 3 平成19年(2007年)度以前のCら取締役の報酬の決定手続及び管理状 況平成19年(2007年)度以前のCら取締役の報酬の決定手続は,例年2月から3月にかけて,Cが,C以外の役員のABSのベースアップ率とVC算定の基礎となる業績達成率を決め,その後にC自身のABSのベースアップ率等を決めてMら秘書室長に伝え,それに基づいて秘書室においてCら取締役の報酬額を算定し,取締役の報酬額の一覧表を作成してCに提示し,Cが内容を確認して了承することによってCら取締役の報酬額が決定される流れとなっていた。そして,決定された報酬額に従って月次の報酬が支払われ(併せて「PAYROLL」という報酬明細書が交付されていた。),ABSとVCが記載された「Re: Noticeofnewsalaryfor●●」と題する報酬通知書が作成され,Cが署名した上でCら取締役に交付されていた(甲95)。さらに,例年3月から4月にかけて,確定した現物給付の金額を踏まえてMら秘書室長がCの報酬の総額をCに報告していた(甲95,96)。 なお,Cは,平成12年(2000年)6月に被告会社の代表取締役社長に就任してから平成30年(2018年)に本件で逮捕されて代表取締役を解任されるまでの間,一貫して被告会社の取締役社長又は取締役会長の地位にあったところ,上記の期間を通じて,他の代表取締役との間で,個々の取締役の報酬の具体的な金額等について協議することはなかったが,各取締役の報酬を決める前提となる各取締役の能力や業績等については,日頃から他の代表取締役との間で意見を交わしていた(甲84,87)。他方で の報酬の具体的な金額等について協議することはなかったが,各取締役の報酬を決める前提となる各取締役の能力や業績等については,日頃から他の代表取締役との間で意見を交わしていた(甲84,87)。他方で,Cは,Kが取締役を退任した後,他の代表取締役との間で,C自身の報酬について協議したことはなかった(甲84,87)。 4 平成20年(2008年)度のCの報酬の決定手続及び管理状況Dは,平成19年(2007年)9月に被告会社の秘書室長に就任しているところ,Dが秘書室長としてCの報酬の決定・管理等の業務の取りまとめを担当するようになった平成20年(2008年)度のCの報酬の決定手続及び管理状況は,前任のMのやり方を踏襲した以下のようなものであった(甲15,43)。 まずCがDに対しABSのベースアップ率とVC算定の基礎となる業績達成率に ついて指示をし,それに基づいてDら秘書室職員において「FY2008 Compensationfor(又はto) Mr.C」と題する文書(以下,Cが自らの報酬額を決定するため又は実際に支払われた報酬額を確認するために作成された同様の書式の文書については,すべて「報酬計算書」と表記する。)を作成した。報酬計算書には,新年度の報酬額の案が記載されていたほか,Cが新年度の報酬額を決める上での参考資料として文書の左側に前年度の報酬額も記載されていた。Cは,報酬計算書に記載された新年度の報酬額の案を確認して了承することによって自身の新年度の報酬額を決定した。その後,Dら秘書室職員において,ABSの金額を記載したC名義の報酬通知書を作成し,これをCに交付するとともに,上記のCの決定に従って,Cに対し月次の報酬の支払がなされ,「PAYROLL」も交付されるなど,Cの報酬について管理がなされていた(甲15)。 名義の報酬通知書を作成し,これをCに交付するとともに,上記のCの決定に従って,Cに対し月次の報酬の支払がなされ,「PAYROLL」も交付されるなど,Cの報酬について管理がなされていた(甲15)。 なお,平成20年(2008年)9月,i社が経営破綻したことを契機にいわゆるリーマンショックが起きたところ,被告会社の経営状態も悪化し,同年度の期末の配当を無配としたため,Cは,取締役全員の報酬総額を低く見せるために,平成21年(2009年)3月,自身の報酬のうち3億8000万円を被告会社に一旦返金し,翌4月に同額の支払を受けた(甲41)。 5 退職慰労金打切支給⑴ 退職慰労金打切支給制度の概要被告会社においては,取締役が退任するに当たって退職慰労金内規に従って退職慰労金を支給していたが,平成19年(2007年)6月の株主総会において,退職慰労金制度の廃止が決議された(甲1)。ただし,同株主総会において重任された取締役等に対しては,それまでの功労に報いるため,退職慰労金打切支給として取締役等退任時に金銭が支給されることとなり,それぞれの支給額が算定された。 Cについては44億4424万2398円が支給されることとなり,同月,C自身にもその旨が通知された。そして,Cを含めた退職慰労金打切支給の対象者全員分の合計約65億3000万円が同年度内に費用計上された(甲40,83)。 ⑵ スペシャルプレミアムの名目による支払平成20年(2008年)9月のリーマンショックにより為替スワップ取引で損害を受けて資金繰りに窮していたCは,Dに対して,退職慰労金打切支給の一部の前払のような形で特別賞与を支払うことを求めた。Dは,上記のCの求めに応じ,同月から同年12月にかけて3回にわたり,Cに対して,合計8億7000万円が「ス は,Dに対して,退職慰労金打切支給の一部の前払のような形で特別賞与を支払うことを求めた。Dは,上記のCの求めに応じ,同月から同年12月にかけて3回にわたり,Cに対して,合計8億7000万円が「スペシャルプレミアム」の名目で支払われた(甲29,41)。 6 被告会社における取締役の報酬に関する情報の管理等被告会社における取締役の報酬の決定及び支払等の管理は秘書室が所管しており,取締役であるCの報酬の決定・管理等の業務も秘書室が行っていた。特にCに対する具体的な報酬額は,Cから厳重な秘匿管理を要求されていたため,秘書室長のほか数名の秘書室職員の限られた者のみで管理され,基本的に被告会社の他の取締役や幹部職員らにも秘匿されていた(甲16)。 第3 有価証券報告書による役員報酬等の開示に関する内閣府令の改正 1 有価証券報告書による開示規制の趣旨及び制度の概要金商法は,株式等の有価証券等を発行し,市場で流通させる上場会社等に対し,事業年度ごとに,会社の財務状況や事業内容等の情報を有価証券報告書等に記載して継続的に開示することを義務付けている(金商法24条1項)。その趣旨は,株式等の有価証券等の流通市場に参加する投資者に対し,上場会社等の側に遍在する会社の財務状況や事業内容等の情報を継続的に提供することによって,投資者がリスクを伴う有価証券等への投資を行うに際し,自己の責任において有価証券等の価値その他投資に必要な事項について判断すること(以下,単に「投資判断」という。)を可能にするとともに,真実の情報が知らされないことによる不測の損害を被るのを防ぐことにあり,有価証券報告書は,金商法の目的(金商法1条)である市場の健全化と投資者の保護を図るための主要な手段と位置づけられる。このように,継続開示規制の中心となるものが有価証券報告 被るのを防ぐことにあり,有価証券報告書は,金商法の目的(金商法1条)である市場の健全化と投資者の保護を図るための主要な手段と位置づけられる。このように,継続開示規制の中心となるものが有価証券報告書であり,その記載内容は,金商法に基づく有価証券報告書等の開示書類に関する電子開示システムである「EDINE T(エディネット)」等を通じて,広く投資者に公開されている。 有価証券報告書の記載事項は,会社の経理の状況その他事業の内容に関する重要な事項その他の公益又は投資者保護のため必要かつ適当なものとして開示府令で定める事項である(金商法24条1項)。そして,開示府令15条1号イによれば,金商法24条1項により有価証券報告書を提出すべき内国会社は,第三号様式により同報告書を作成して提出しなければならないところ,同様式は,「第一部企業情報」及び「第二部提出会社の保証会社等の情報」から構成されており,前者の項目として「企業の概況」,「事業の状況」,「設備の状況」,「提出会社の状況」,「経理の状況」,「提出会社の株式事務の概要」及び「提出会社の参考情報」についての記載が義務付けられている。その中でも中核をなすのは,前記「経理の状況」の項目に記載される財務諸表その他の財務情報であるが,有価証券の価値はその証券を発行している会社における経営の適法性や効率性等によっても影響を受けるものであるため,その他の項目に記載される非財務情報も,投資者が投資判断を行う際の重要な要素の一つとなるものであり,社会の情勢に応じてその開示の拡充が図られてきた(甲141)。 2 第三号様式の「提出会社の状況」に関する開示の拡充(開示府令改正の経緯)とその背景事情⑴ 企業統治(コーポレート・ガバナンス)に対する関心の高まり有価証券報告書による情報 1)。 2 第三号様式の「提出会社の状況」に関する開示の拡充(開示府令改正の経緯)とその背景事情⑴ 企業統治(コーポレート・ガバナンス)に対する関心の高まり有価証券報告書による情報開示の拡充が図られてきた項目の一つが,前記「提出会社の状況」である。会社経営の適法性や効率性等を確保するためには,コーポレート・ガバナンスが機能していなければならないが,現実には,その機能不全に起因して国内外の会社の不祥事や不正会計の事案が続発し,国内外で多くの投資者が損害を被る事態が生じた。このような社会情勢を背景に,会社のガバナンスに対して社会の関心が集まるようになり,その強化を求める声が高まっていた。 このような状況を踏まえて,平成11年(1999年)に経済協力開発機構(OECD)が,コーポレート・ガバナンス原則を発表し,各国政府に対してその強化 のための施策の実施を求めた。同原則の「Ⅳ ディスクロージャーと透明性」の項には,コーポレート・ガバナンスの観点から適時かつ正確な情報開示が行われるべき重要事項が列挙されており,その中に「ボードメンバー及び主要役員とその報酬」が挙げられていた。これは,役員報酬の金額・内容や役員間での格差の大きさ等が,役員同士の力関係を反映するなど,会社のコーポレート・ガバナンスの状況を象徴的に表すものであり,投資者が投資判断を行う際の重要な要素の一つとなると考えられたからである(甲141)。 ⑵ 平成15年(2003年)の開示府令改正(コーポレート・ガバナンス項目の新設)前記コーポレート・ガバナンス原則の発表を受けて,日本でも,金融審議会において,コーポレート・ガバナンスに関する開示の在り方が議論され,平成14年(2002年)12月に,金融審議会から金融庁に対し,有価証券報告書にコーポレート・ の発表を受けて,日本でも,金融審議会において,コーポレート・ガバナンスに関する開示の在り方が議論され,平成14年(2002年)12月に,金融審議会から金融庁に対し,有価証券報告書にコーポレート・ガバナンスに関する事項について独立した項目を設けることが答申された。この答申を受けて,金融庁は,平成15年(2003年)3月に開示府令を改正し,同年4月1日以降に提出される有価証券報告書の様式の「提出会社の状況」の中に「コーポレート・ガバナンス状況」の項目を新設し,当該項目の「記載上の注意」において,記載すべき事項の例示の一つとして「役員報酬の内容」を加えた。 開示府令上は,「役員報酬の内容」の記載については,提出会社の自主的判断に委ねられていたが,平成15年(2003年)には会社法(同年改正当時は商法)施行規則の改正も行われ,その改正によって,株式会社は,株主に提出する事業報告書(同年改正当時は営業報告書)において,役員区分ごとの報酬等の総額開示若しくは役員ごとの報酬等の額の個別開示又は両者の併用が義務付けられたことに伴い,多くの上場会社では,有価証券報告書における前記「役員報酬の内容」の項目においても役員区分ごとの報酬等の総額を開示するようになった。これにより,同項目の記載を通じて,投資者が投資判断を行う上で,会社の業績と役員の報酬総額との見合い等の観点から会社のガバナンスについて評価できるようになった(甲1 3,141)。 ⑶ 平成15年(2003年)の開示府令改正以降の状況もっとも,その後も同様の会社の不祥事等が絶えず,国内外の投資者のコーポレート・ガバナンスに対する関心が更に高まっていたことに加え,平成20年(2008年)のリーマンショックで破綻した海外金融機関の役員の高額報酬が批判を浴びるなどしたことを受けて,金融 投資者のコーポレート・ガバナンスに対する関心が更に高まっていたことに加え,平成20年(2008年)のリーマンショックで破綻した海外金融機関の役員の高額報酬が批判を浴びるなどしたことを受けて,金融審議会においてコーポレート・ガバナンスに関する議論の一環として役員報酬の開示の在り方についても議論がなされ,平成21年(2009年)6月に,金融審議会から金融庁に対し,有価証券報告書における役員報酬開示の充実が図られるべきである旨の報告書が提出された(甲141)。 これを受けて,金融庁は,平成22年(2010年)2月に,有価証券報告書の「提出会社の状況」の中の「コーポレート・ガバナンスの状況」の項目において,これまで実務上行われてきた役員区分ごとの報酬等の総額開示を義務付けるほか,一定額以上の報酬の支払を受けている役員については役員報酬の個別開示を義務付けるとの方針を定め,上場会社を対象に,コーポレート・ガバナンスに関する情報開示の強化を図ることとした。 3 平成22年(2010年)の開示府令改正⑴ 平成22年(2010年)改正案の概要金融庁は,平成22年(2010年)2月12日,「「企業内容等の開示に関する内閣府令(案)」等の公表について」と題し,開示府令の改正案の概要等をホームページで公表し,パブリックコメントを募集した(甲10,141)。 同改正案の概要によれば,役員報酬の開示については,有価証券報告書等の「コーポレート・ガバナンスの状況」等において,「⒜ 役員(報酬等の額が1億円以上である者に限ることができる。)ごとの報酬等の種類別(金銭報酬,ストックオプション,賞与,退職慰労金等)の額」,「⒝ 役員の役職ごとの報酬等の種類別の額」,「⒞ 報酬等の額又はその算定方法に係る決定方針の内容及び決定方法等」の開示を義務付け 種類別(金銭報酬,ストックオプション,賞与,退職慰労金等)の額」,「⒝ 役員の役職ごとの報酬等の種類別の額」,「⒞ 報酬等の額又はその算定方法に係る決定方針の内容及び決定方法等」の開示を義務付けるとされていた。また,施行・適用時期については,「平成22 年3月31日施行予定ただし,平成22年3月31日に終了する事業年度に係る有価証券報告書等から適用予定」とされていた(甲10)。 そして,前記⒜の役員ごとの報酬等の種類別の額の開示(以下「役員報酬個別開示制度」という。)に関し,開示府令15条1号イに規定する第三号様式においても準ずるものとされている第二号様式の(記載上の注意)中の「コーポレート・ガバナンスの状況」のdの改正案では,「提出会社の役員(取締役,監査役及び執行役をいい,最近事業年度の末日までに退任した者を含む。(以下省略))の報酬等(報酬,賞与その他その職務執行の対価としてその会社から受ける財産上の利益であって,最近事業年度に係るもの及び最近事業年度において受け,又は受ける見込みの額が明らかとなったものをいう。(以下省略))について,各役員(報酬等の額(当該役員が主要な連結子会社の役員である場合には,当該連結子会社から受ける役員の報酬等の額を含む。)が1億円以上である者に限ることができる。)ごとに役員の報酬等の種類別(金銭報酬,ストックオプション,賞与,退職慰労金等の区分をいう。(以下省略))の額を記載すること。」とされていた(甲10)。 ⑵ 役員報酬個別開示制度導入の趣旨・目的金融庁は,平成22年(2010年)改正案に関して寄せられたパブリックコメントに対し,以下のような回答をした(甲11資料3)。 上場会社は,株主が多数に上り,公に開かれた存在であるから,より広い範囲での情報開示及び説明責任が求められ 正案に関して寄せられたパブリックコメントに対し,以下のような回答をした(甲11資料3)。 上場会社は,株主が多数に上り,公に開かれた存在であるから,より広い範囲での情報開示及び説明責任が求められるところ,その一環として,上場会社を対象に,役員の業績と報酬の関係についての具体的な情報開示を求めることとした。 上場会社の株主その他の投資者が会社のガバナンスを具体的に評価するに当たっては,コーポレート・ガバナンスの構造に加えて,役員人事及び役員報酬が重要な要素になると考えられるところ,役員報酬は,会社あるいは個々の役員の業績に見合ったものとなっているのか,個々の役員に対するインセンティブとして適切か,会社のガバナンスが歪んでいないかなどの観点から,投資判断及びガバナンス上重要な情報と考えられるが,取締役,監査役等の役員区分ごとの報酬等の総額開示だ けでは,具体的なガバナンスの状況を判断する情報としては不十分であるとの観点から,諸外国のように個別役員報酬の開示を求めることが適当であると考えられる。 一定の高額の報酬を受領している役員についての情報が株主・投資者の投資判断にとって重要であるとの考えに基づき,一定の額(1億円)を開示の要否の基準とすることとした。 上場会社については株主たる地位が市場で売買され日々入れ替わるという特質に鑑み,投資者にとって,会社法が求める情報開示よりも充実した開示が必要であることから,今般の改正では,会社法よりも具体的な情報の開示を求めることとした。 ⑶ 平成22年(2010年)改正の開示府令の施行以上の経過を経て,平成22年(2010年)3月31日,同年改正の開示府令が予定どおり施行され,同月31日以後に終了する事業年度に係る有価証券報告書から役員報酬個別開示制度が適用されることとなった(甲 上の経過を経て,平成22年(2010年)3月31日,同年改正の開示府令が予定どおり施行され,同月31日以後に終了する事業年度に係る有価証券報告書から役員報酬個別開示制度が適用されることとなった(甲13,142)。 同年改正の開示府令について,金融庁がホームページに掲示した「改正府令等の概要」(甲11資料2)のうち「2 役員報酬(第二号様式・記載上の注意(57)a⒟」の箇所には,「⑴ 取締役(社外取締役を除く。)・監査役(社外監査役を除く。)・執行役・社外役員に区分した報酬等の総額,報酬等の種類別(基本報酬・ストックオプション・賞与・退職慰労金等の区分)の総額等」,「⑵ 役員ごとの提出会社と連結子会社の役員としての報酬等(連結報酬等)の総額・連結報酬等の種類別の額等(ただし,連結報酬等の総額が1億円以上の役員に限ることができる。)」,「(注1)報酬等とは,報酬,賞与その他その職務執行の対価として会社から受ける財産上の利益であって,当事業年度に係るもの及び当事業年度において受け,又は受ける見込額が明らかとなったものをいう。」と記載されていた。 同年改正の開示府令により,投資者に対し,会社の業績と個々の役員の報酬額とのバランスや役員間の報酬額の偏りの有無等,会社のガバナンスの状況に関わるより具体的な情報が提供されることとなり,投資者が投資判断を行うに際し,会社のガバナンスについてより具体的な評価ができるようになった(甲13,141)。 第4 被告会社における役員報酬個別開示制度に関する検討状況 1 開示府令の改正案に対するCの反応等前記第3のとおり,平成22年(2010年)2月12日,金融庁による開示府令の改正案の発表を受けて,被告会社の法務室長であったNは,同月13日,被告会社の代表取締役・最高執行責任者であったOや 前記第3のとおり,平成22年(2010年)2月12日,金融庁による開示府令の改正案の発表を受けて,被告会社の法務室長であったNは,同月13日,被告会社の代表取締役・最高執行責任者であったOや被告人Bらに役員報酬個別開示制度について電子メール(甲92資料2)で報告し,同日,Oから被告会社の相談役であったPに対しても,同様の電子メール(甲150資料1-1。同電子メールには,「Bから連絡が行ったCさんが非常に激しく反応しています。」との記載がある。)が送られた。 また,被告人Bは,金融庁の発表を受けて,同日,Cに対して,その旨を報告する電子メール(甲177資料1)を送り,役員報酬個別開示制度の導入を阻止するために日本政府に対してロビー活動をするように促していることなどを報告した。 同日頃,Cは,被告人Bに対して電話をし,この問題は非常に重要であるので,渉外担当のOに同制度の導入を延期させるか阻止する手段をとらせるようにすることや,弁護士に法的な調査を依頼することを被告人Bに指示したほか,被告人Bとの間で,合法的に開示をしないことができるか,報酬の種類によっては開示府令で定義されている「報酬等」とはみなされないものがあるかについて話し合った(被告人B第50回30頁,第56回2~3頁)。この電話において,被告人Bが,Cに対して,市場のレベルを考えれば報酬が開示されても心配の必要はなく,そのまま開示すればよいと思うと言ったところ,Cは,「日本人は,驚きはするだろうが,市場の話をすれば理解してくれる。しかし,F社にAの報酬のレベルが知られるのはまずい。Aでの報酬レベルは,F社,その株主のフランス政府,フランスの人に受け入れられない。もしAでの報酬が開示されたら,批判が起こり,私はAにいられなくなる。私は自分の開示報酬額をフランスでも受け入れ い。Aでの報酬レベルは,F社,その株主のフランス政府,フランスの人に受け入れられない。もしAでの報酬が開示されたら,批判が起こり,私はAにいられなくなる。私は自分の開示報酬額をフランスでも受け入れ可能な額にしたい。」と言った(乙26)。 その後,Cは,同月18日に,被告人BとF・A会社の事務所で会ったが,この 際,Cは,Cの報酬が役員報酬個別開示制度によって明らかになると,フランス政府が好ましく思わず,被告会社のCEOの地位に影響が出ることを懸念していた(被告人B第50回40頁)。また,Cは,翌19日には,OとF・A会社の事務所で会い,Oから役員報酬個別開示制度について説明を受けた(甲84)。 その他にも,Cは,当時,渉外担当の常務執行役員であったHらに指示して経団連や金融庁等に働きかけを行わせ,同月22日には,被告人B,O及びHらと会議を行い,その席上で,「個人の報酬まで開示すれば日本の企業は有用な人材を集めることができなくなるはずだ。これは悪い法だからなんとかして止めなくてはならない。」と発言して開示府令の改正を止めるように指示した(甲88)。 2 役員報酬個別開示制度に関する被告人Bの検討状況⑴ Nとの検討状況平成22年(2010年)2月11日,被告人Bは,Nからの電子メール(弁24資料17)で,役員報酬個別開示制度が導入される可能性を知り,Cに対して,同制度の導入可能性について電子メールで伝えた。 また,前記1のとおり,同月13日,Nが被告人Bらに役員報酬個別開示制度について電子メール(甲92資料2)で報告したところ,同月16日,被告人Bは,Nに対し,役員報酬個別開示制度の対象となる報酬の種類について問い合わせる電子メール(甲92資料3)を送った。同電子メールに対し,同日,Nは,被告人Bに対し 報告したところ,同月16日,被告人Bは,Nに対し,役員報酬個別開示制度の対象となる報酬の種類について問い合わせる電子メール(甲92資料3)を送った。同電子メールに対し,同日,Nは,被告人Bに対し,「deferredcompensation」など問合せのあった報酬はすべて「報酬等」に当たり役員報酬個別開示制度の対象となる旨を電子メール(甲189資料1)で報告した。 さらに,同月18日,Nは,被告人Bに対し,「報酬等」の定義が会社法のそれと同じことを電子メール(甲189資料1)で報告した。 ⑵ Qとの検討状況他方,被告人Bは,金融庁による開示府令の改正案の発表を受けて,北米Aのシニア・バイス・プレジデントであったQに対し,役員報酬個別開示制度の法的問題 について検討を依頼していたところ(甲89),平成22年(2010年)2月17日,Qから被告人Bに対して電子メール(弁24資料20)で役員報酬個別開示制度に関する報告がされたが,その中には役員報酬個別開示制度において開示対象の「loophole」はないと記載されていた。 また,同月20日には,Qから被告人Bに対して電子メール(弁24資料25)で,後記第8の1のとおり,F・A会社からの支払方法に関する報告がされたほか,被告会社に報酬を返金した場合は,返金された報酬について金融庁に報告する必要はないものの,同報酬につき既に税金が支払われているため税務当局から疑義を指摘される可能性があることなどが報告された。 さらに,同月21日には,Qから被告人Bに対して「Summary」と題するメモ(甲178資料1-1。以下「Qメモ」という。)を添付した電子メールが送られた。 Qメモには,金融庁の改正案の射程範囲が広く,Cの報酬を開示の対象から除外するアプローチを見つけることができなかっ メモ(甲178資料1-1。以下「Qメモ」という。)を添付した電子メールが送られた。 Qメモには,金融庁の改正案の射程範囲が広く,Cの報酬を開示の対象から除外するアプローチを見つけることができなかったことを報告する旨が記載されるとともに,その代替案として,Cが当年度中に報酬の一部を被告会社に返金することで開示を避けるアプローチやF・A会社からCの報酬を支払うことで開示を避けるアプローチについて提案する旨が記載されていた。なお,Qメモには,「OurintentionwastofindanapproachwherewecoulddeferFY09 compensationtoFY10 andprovidethatcompensationinFY10 inamannerwhichwouldnotrequiredisclosure.」との記載があった。 同月22日,被告人Bは,Cに対し,Qメモや自ら作成したメモ(弁24資料26の2枚目)を用いて,F・A会社がCに報酬を支払う場合やCが被告会社に報酬を返金した場合の問題点等について説明した(被告人B第50回42~46頁,第54回52~53頁)。 第5 「Paybackofremuneration」と題する文書等の作成状況 1 「Paybackofremuneration」と題する文書の概要平成22年(2010年)2月22日頃,Dは,同日付けの「Paybackofremu neration」と題する文書(甲178資料2。以下「Payback文書」という。)を作成した。 この文書には,「Action」として「Op1」(オプション1)と「Op2」(オプション2)の二つの方法が記載されており,「Op1」は,7億円を被告 Payback文書」という。)を作成した。 この文書には,「Action」として「Op1」(オプション1)と「Op2」(オプション2)の二つの方法が記載されており,「Op1」は,7億円を被告会社に返金する方法について,「Youpayback 7oku-yento A untiltheendofMarch. A paythesameamountinApril.」と記載され,「Op2」は,3億円を被告会社に返金し,F・A会社が4億円を被告会社に支払う方法について,「Youpayback 3 oku-yento A untiltheendofMarch. A paythesameamountinApril. F・A会社pays 4oku-yento A untiltheendofMarch.」と記載されていた。 また,それぞれには,「Pros」(長所)と「Cons」(短所)が記載されており,「Op1」の「Pros」には,「Thesameactionaslastyear. Wecouldexpalin(ママ)thisactyion(ママ) toJapantaxauthority.」と記載され,「Cons」には,「WeneedtoconsiderFY10 amount. (Butwehaveenoughtime)」と記載されていた。 さらに,「Op2」の「Pros」には,「Theamountyoutransferto A issmallerthanOP1.」と記載され,「Cons」には,「Wewouldneedacontractamong F社,A and F・A会社 toexplainthisissuetotax hanOP1.」と記載され,「Cons」には,「Wewouldneedacontractamong F社,A and F・A会社 toexplainthisissuetotaxauthorityandexternalauditorsinJapan. WemaytreatotherDirectorswiththesamemethod. WemaypayincometaxbothinHollandandJapanabou(ママ) 4 oku-yen.」と記載されていた。 2 「Concernincase F・A会社 bearsapartofremuneration」と題する文書の概要平成22年(2010年)2月25日頃,Dは,同日付けの「ConcernincaseF・A会社 bearsapartofremuneration」と題する文書(甲178資料3。以下「Concern文書」という。)を作成し,この文書を使って被告会社で既に支払った報酬の一部をF・A会社で負担することの懸念をCに説明した(甲16)。 この文書には,「Concernincase F・A会社 bearsapartofremuneration A hasalreadypaid」という項目において,「FSA」すなわち金融庁(FinancialServicesAgency)と「Taxauthority」すなわち税務当局の反応に懸念が存在すると記載されていた。具体的には,「1)FSAmayrequirethat A disclosesnotonly A paymentbutalso F・A会社 paymentfor A Directors 具体的には,「1)FSAmayrequirethat A disclosesnotonly A paymentbutalso F・A会社 paymentfor A Directorsbecause F・A会社 isacompanywhich A Directors' powerreaches.」及び「2)TaxOfficeandexternalauditorsmayrequirethatweclarifytheflowofmoneybetweenA and F・A会社 andrequiretoshowanycontractregardingremunerationsharebetween A and F・A会社.」と記載されていた。そして,「Conclusion(Myopinion)」として,「Itisarisktoinvolve F・A会社 aboutFY09 directors' remunerationbecauseFSAandTaxauthorityareobservingdirectors'remunerationofbigcompaniesnowandevenifDisclosureReguretion(ママ) ispostponed, theywilltrytofindfaultwiththepaymentofdirectors' remuneration. (nitpicking) IwillstudythisissuemoreandlookforagoodsolutionforFY10 remuneration.」と記載されていた。 第6 平成21年(2009年) tudythisissuemoreandlookforagoodsolutionforFY10 remuneration.」と記載されていた。 第6 平成21年(2009年)度のCの報酬の一部返金の状況及び開示状況 1 Cの報酬の一部返金とそれに伴う会計処理の状況等平成22年(2010年)3月23日頃,Dは,Cから,平成21年(2009年)度のCの報酬額は8.9億円にするように指示され,いくら被告会社に戻せばよいのかを尋ねられたので,既に支払った15.9億円から8.9億円を差し引いた7億円を戻すようにCに伝えたところ,Cはこれを了解し,返金の手続を取ることをDに伝えた(甲16)。そこで,同月24日頃,Dは,F・A会社からCに支払うこととなる金額を整理した表(同日付け「FY10 Payment(#1 Draft)」と題する文書(甲178資料4))を作成し,これに基づいて,Cに対し,平成22年(2010年)度に,同年2月及び同年3月の報酬分の約1億8300万円と,Cが返金する7億円の合計約8億8300万円の支払をする予定であることを説明したところ,Cはその旨を了承し,その後,7億円を被告会社に返金した。Dは,同月2 5日,秘書室課長職のRに指示して,7億円が同日に入金されるので,「役員報酬過払い精算」の名目で経理処理をするように経理部に依頼する文書(甲16資料5)を作成させ,経理部へその旨を連絡させた(甲16)。 2 平成21年(2009年)度のCの報酬の開示状況被告会社においては,経理部連結会計グループが有価証券報告書の作成・提出を所管していたところ,有価証券報告書の「役員の報酬等」の項目については,その原稿作成を秘書室が担当しており,秘書室から送られた同原稿を,同グループが有価証券報告書に プが有価証券報告書の作成・提出を所管していたところ,有価証券報告書の「役員の報酬等」の項目については,その原稿作成を秘書室が担当しており,秘書室から送られた同原稿を,同グループが有価証券報告書に組み込んで全体の案を作成することとなっていた。 平成22年(2010年)5月中旬頃,Cは,秘書室ほか関係部署に対し,役員報酬個別開示制度において開示対象となる報酬総額1億円以上の取締役等の氏名及び報酬額等の情報を株主総会終了まで秘書室において秘匿し,株主総会後に秘書室から経理部に伝達することとし,株主総会前に情報が漏れることを絶対に避けるように指示した(甲62資料1)。 上記のCの指示を受けて,同年6月下旬頃,被告会社の株主総会後に,秘書室から経理部連結会計グループに,Cの報酬額として,受領を延期した同年2月及び同年3月の報酬分(約1億8300万円)を実際の報酬額から差し引くとともに,被告会社に返金された7億円についても差し引くなどした報酬額等が伝達された。これを受けて,同グループによって平成21年(2009年)度の有価証券報告書の案が作成された。そして,Cらの決裁を経た上で,同年度のCの金銭報酬の額が「891」百万円(8億9100万円)と記載された同年度の被告会社の有価証券報告書が,平成22年(2010年)6月30日,関東財務局長に提出された(甲1,62)。 第7 平成22年(2010年)度のCの報酬の決定手続及び管理状況平成22年(2010年)4月19日頃,Dは,同日付け「FY2010 CompensationforMr.C」と題する文書(甲17資料1-1)をRに作成させ,この報酬計算書をCに提示して新年度の報酬額の案について確認を求めた。同報酬計算書において, Dは,文書の左側に「FY2009」として前年度の報酬 る文書(甲17資料1-1)をRに作成させ,この報酬計算書をCに提示して新年度の報酬額の案について確認を求めた。同報酬計算書において, Dは,文書の左側に「FY2009」として前年度の報酬額について記載した上,平成21年(2009年)度はリーマンショックの影響により年度途中で取締役のABSを10パーセント減額したことを受けて,文書の中央に「FY2010 Temporary」として10パーセント減額したABSを前提に算定した平成22年(2010年)度の報酬額の案について記載し,更に文書の右側には「FY2010」として平成21年(2009年)度の当初のABSと同額のABSを前提に算定した平成22年(2010年)度の報酬額の案について記載した。Cは,同報酬計算書の右側に記載された平成22年(2010年)度の報酬額の案を確認して了承することによって自身の同年度の報酬額を決定した。その後のCの報酬の決定手続及び管理状況は,従前からの手続を踏襲したもので,前記第2の4と同様の手続であった(甲17,弁46)。 第8 F・A会社からの支払方法に関する検討状況 1 F・A会社からの支払方法に関する被告人Bらの検討状況⑴ 平成22年(2010年)2月末までの状況被告人Bは,CとF・A会社の事務所で会ったのと同日である平成22年(2010年)2月18日,Qに対して電子メール(弁24資料22)で,F・A会社のCEOがF・A会社から得た報酬を,被告会社が開示しなければならないのか問い合わせた。これに対して,前記第4の2⑵のとおり,同月20日に,Qから被告人Bに対して電子メール(弁24資料25)で,F・A会社から支払われる報酬がF・A会社に対する役務の対価であれば開示の必要はないかもしれないが,F・A会社と被告会社の連結につながるおそれがあ ら被告人Bに対して電子メール(弁24資料25)で,F・A会社から支払われる報酬がF・A会社に対する役務の対価であれば開示の必要はないかもしれないが,F・A会社と被告会社の連結につながるおそれがあることなどが報告され,さらに,同月21日には,Qメモを添付した電子メールで,F・A会社からの報酬の支払方法が提案された。これを受けて,被告人Bは,同月22日,Cに対し,Qメモや自ら作成したメモ(弁24資料26の2枚目)を利用してF・A会社からのCの報酬の支払方法やCが被告会社に報酬を返金した場合について説明した。 ⑵ 平成22年(2010年)3月以降の状況被告人Bは,F・A会社からの支払方法等について,引き続きQらに検討させた ところ,平成22年(2010年)3月13日,Qから被告人Bに送られた電子メール(甲179資料Ⅱ5-1-3)に添付されたメモ(甲179資料Ⅱ5-1-3-1)において,Qは,F・A会社がCに報酬を支払うのであれば,その報酬はF・A会社の役務の対価でなければならないことのほかに,リスクとして,金融庁が調査を行って「thisarrangement」を発見してしまう可能性や,F・A会社が被告会社の報酬を支払うための媒介と認識されれば,F・A会社が被告会社に連結されて開示を逃れられなくなる旨を報告した。その後,被告人Bは,上記のメモの写しをDに渡した(このメモと同一のメモ(ただし,右上に「3/13/10」と手書きで書き込みがあるもの)が,Dが欧州A会社に勤務していたSに送信した電子メール(甲179資料Ⅱ4-2)に添付されていた。)。 次いで,同月29日,被告人Bは,Cに対し,電子メール(甲177資料4。Qが作成したメモ(甲177資料4-1)を添付したもの)で,有価証券報告書の提出を遅らせた場合や有価証券報告 れていた。)。 次いで,同月29日,被告人Bは,Cに対し,電子メール(甲177資料4。Qが作成したメモ(甲177資料4-1)を添付したもの)で,有価証券報告書の提出を遅らせた場合や有価証券報告書において特定の取締役の報酬に関する情報を欠落させた場合等の影響や刑事罰等について報告した。 その後,同年5月9日,Qは,被告人Bに対し,電子メール(弁24資料35)で,有価証券報告書において特定の取締役の報酬に関する情報を欠落させるなどした場合の刑事制裁の可能性の程度等について検討した結果の続報を報告した。 ⑶ F・A会社からの支払方法に関するDらの検討状況平成22年(2010年)3月頃,被告人Bは,前記⑵の検討と並行して,Dに対し,F・A会社の本店が置かれているオランダの税制の調査,具体的な支払方法の検討や支払に向けた準備等を指示した。Dは,被告人Bの指示に従い,その頃から,Sの助力を得ながら,F・A会社から報酬を支払うプロセスについてまとめた同年6月12日付け「F・A会社 payrollProcess」と題する文書(弁24資料39)を作成したほか,F・A会社からCに報酬を支払う場合の現地税制の調査や支払に向けた準備を進めるなどした(甲100)。この準備状況について,Dは被告人Bに報告していた(甲179資料Ⅱ6,8,10,11等)。 ⑷ F・A会社からの支払方法以外の支払方法の検討状況他方,平成22年(2010年)5月7日頃,F社においてF・A会社の管理部門全体を担当する執行役員であったTは,被告人Bに宛てた電子メールに「Compensationof F・A会社 Officers」と題する文書を添付し,その中でF・A会社がF社によって支配されているかという観点から,F社の取締役がF・A会社の役務の対価と ールに「Compensationof F・A会社 Officers」と題する文書を添付し,その中でF・A会社がF社によって支配されているかという観点から,F社の取締役がF・A会社の役務の対価としてF・A会社から報酬の支払を受けた場合,フランス国内においては,F・A会社から支払を受けた報酬は開示の対象になる可能性があることを指摘した(被告人B第51回12~14頁)。 被告人Bは,F・A会社に対するF社の支配性から,フランス法上,F・A会社からのCの報酬の支払はF社によって開示されてしまうリスクが高いと認識するようになった(甲89)。 そこで,被告人Bは,F・A会社からの支払方法に代わり得る方法を模索するようになり,同年7月頃,Dに対し,電子メール(弁24資料41)で,Cが取締役退任後にコンサルタントとして契約した場合のメリットとデメリットをまとめて報告するように指示した。Dは,同月16日,取締役退任後に被告会社の社員の立場で顧問として契約する案と被告会社の社外のコンサルタントとして契約する案をまとめた同月14日付け「Thepaymentforpeopletoretirefromdirectors (Firstresearch)」と題する文書(弁24資料43)を作成し,被告人Bに提出した。 また,同月20日,被告人Bは,Cとの打合せにおいて,Cに対して,F・A会社からCの報酬を支払う方法とともに,Cの取締役退任後に相談役報酬等の名目で支払う方法について説明した(弁23資料2)。 2 「OptionsforSalaryPayment」と題する文書の作成状況等⑴ 「OptionsforSalaryPayment」と題する文書の概要平成22年(2010年)9月1日,Dは,同日付けの「Option yPayment」と題する文書の作成状況等⑴ 「OptionsforSalaryPayment」と題する文書の概要平成22年(2010年)9月1日,Dは,同日付けの「OptionsforSalaryPayment」と題する文書の日本語版(甲179資料Ⅰ1-1)を作成し,これを秘書室職員でDの指示を受けてCの報酬に関する業務を行っていたUに英訳させた(英 語版が甲179資料Ⅰ2-1。以下「Options文書」という。)。 この文書には,順に「1 F・A会社で支払う」,「2 Aの非連結会社で支払う」,「3 Aが第三者に対して支払い(ex.コンサルタントフィーorアドバイザーフィー),その第三者から受け取る」,「4 Aから美術品や土地などの固定資産を提供。簿価と売価の差額を報酬として得る。」,「5 銀行から貸付を受け,A退任後受け取る「報酬」で精算する」,「6 取締役退任後,アドバイザー契約を結び,アドバイザーフィーを支払う」,「7 退職金に加算して支払う」といった7つの「Option」が記載されていた。 また,それぞれの「Option」については,「Pro」(長所)と「Con」(短所)も記載されており,「1 F・A会社で支払う」の「Pro」には,「1)Aにおいて開示の必要はない。(非連結会社) 2)オランダで納税すれば,所得税法においても問題はない(確認済)」と,「Con」には,「1)フランスにおいてF・A会社での報酬の開示を求められる可能性がある?(フランスの法による) 2)F・A会社で何かしらの会計監査があった場合,オランダにおいて公表されることはないのか?」と記載され,「2 Aの非連結会社で支払う」の「Pro」には,「1)Aにおいて開示の必要はない」と,「Con」には,「1)非連結会社を探すのが あった場合,オランダにおいて公表されることはないのか?」と記載され,「2 Aの非連結会社で支払う」の「Pro」には,「1)Aにおいて開示の必要はない」と,「Con」には,「1)非連結会社を探すのが難しい 2)非連結会社に送金する必要があり,理由が難しい。3)非連結会社が日本にある場合,支払いが1億円を越えると,開示の必要がある。」と記載され,「3 Aが第三者に対して支払い(ex.コンサルタントフィーorアドバイザーフィー),その第三者から受け取る」の「Pro」には,「1)Aから第三者への支払いについて,法的には問題はない。」と,「Con」には,「1)契約内容と対価について,日本の国税庁から監査を受ける可能性がある。(特に金額の大きな場合) 2)その第三者は,Cとの関係において希薄でないと,迂回支払いと,とらわれる可能性がある。」と記載され,「4 Aから美術品や土地などの固定資産を提供。簿価と売価の差額を報酬として得る。」の「Pro」には,「1)法的には問題はない。」と,「Con」には,「1)差額が報酬として認識される可能性が高い。(政治家が裏金作りで使う 手段と言われていた) 2)売却するという手間がかかる。」と記載され,「5 銀行から貸付を受け,A退任後受け取る「報酬」で精算する」の「Pro」には,「1)法的には問題はない。」と,「Con」には,「1)退任後における支払いについて,その時の経営者が理解を示すこと。(その支払い期間が長い場合,例えば,経営状況により,支払いを取り消すことがないような確約) 2)銀行とCの契約であり,契約にAが何かしらの関わりを持つことは困難。担保はCが準備(例えば,保証人になる場合,取締役会での決議が必要。)」と記載され,「6 取締役退任後,アドバイザー契約を結び,アドバイザーフィーを支払う」 約にAが何かしらの関わりを持つことは困難。担保はCが準備(例えば,保証人になる場合,取締役会での決議が必要。)」と記載され,「6 取締役退任後,アドバイザー契約を結び,アドバイザーフィーを支払う」の「Pro」には,「1)取締役退任後であるため,報酬の開示の必要はない。 2)K名誉会長やP名誉会長に対する支払いと同じであり,法的に問題はない。」と,「Con」には,「1)退任後における支払いについて,その時の経営者が理解を示すこと。(支払い期間が長い場合,経営状況により,支払いを取り消すことがないような確約) *取締役在任中に,フィーの前払いが行われた場合,そのフィーは報酬として認識される。」と記載され,「7 退職金に加算して支払う」の「Pro」には,「1)法的には問題はない。」と,「Con」には「1)開示の必要があり,高額な場合,一時的に批判を浴びる可能性がある」と記載されていた。 ⑵ Options文書を用いた被告人BとDとの打合せの状況平成22年(2010年)9月初め頃,Dは,Options文書の英語版を,被告人Bに提出し,これに基づいて被告人BとDが打合せを行った(弁24資料48)。その際,被告人Bは,同文書にいくつかの書き込みをしているところ,「1F・A会社で支払う」の横には,「possibility」,「10 orplusasdummy」,「pay 4 or 5 individuals」という書き込みをした(弁24資料50)。 3 Options文書作成後の状況Dは,F・A会社からCの報酬を支払う可能性を考え,平成22年(2010年)9月頃に銀行口座の開設や支払のトライアルを実施し,これらのことを同月17日付け「DearMr.C」と題する文書(甲179資料Ⅱ12)により,Cに対して報告 した 成22年(2010年)9月頃に銀行口座の開設や支払のトライアルを実施し,これらのことを同月17日付け「DearMr.C」と題する文書(甲179資料Ⅱ12)により,Cに対して報告 した。 しかしながら,Dは,被告人Bからフランスでの開示の問題が解決しなかったことを聞いて,同年10月頃,F・A会社からの支払方法の検討を止めた。 他方,被告人Bは,同月頃,Qから電子メール(弁24資料61)で「TermSheet」と題する資料を送付されたが,同資料の中には,Cと被告会社との顧問契約等の契約書の条項等の案が記載されていた。 第9 新たに設立する非連結子会社に関する検討状況 1 新たな非連結子会社の設立の経緯⑴ 新たな非連結子会社の設立の提案とその検討状況平成22年(2010年)9月17日,被告人Bは,コーポレート・プランニング部門のゼネラル・マネージャーから,新しい投資会社を設立することが被告会社にとってどのような利点があるかなどについて記載した資料(弁24資料51)を電子メールで受け取った。 同月21日,被告会社の財務・経理担当の常務執行役員であったVは,「New ANon-consolidatedSubsidiary」と題する文書(弁24資料53の2枚目及び3枚目)を添付した電子メールを被告人Bに対して送信し,同文書の中で,新しい投資会社のチェアマンをCとし,V及び被告人Bらも関与すること,初期の資本金を50億円ないし100億円とすること,新しい会社を非連結子会社とすること等を提案した。 また,同年10月15日,被告人Bは,グローバル・タックス・アンド・カスタムズ部門のゼネラル・マネージャーから,新しい投資会社の法律面及び税務面に関する検討事項を分析した「EstablishmentofNew 月15日,被告人Bは,グローバル・タックス・アンド・カスタムズ部門のゼネラル・マネージャーから,新しい投資会社の法律面及び税務面に関する検討事項を分析した「EstablishmentofNewCo」と題する文書(弁24資料57)を電子メールで受け取った。 ⑵ 非連結子会社の設立に関する被告人BとDとのやり取り平成22年(2010年)10月15日,Dは,被告人Bに対して,電子メール(甲179資料Ⅱ14)で,「Summery(ママ) ofremunerationpaymentbyunconso lidatedcompany」という標題で,非連結子会社を通じて報酬を支払うプロセスの案等をまとめた資料(甲179資料Ⅱ14-1)を送付した。 同月20日,被告人Bは,Dに対して,「Aとしての「企画会社」をオランダに設立する。明日21日のECで提案する。CEOの了解は昨日得られた。」,「資本はAのみで,非連結会社にする。日本での開示の問題はクリアできる。」,「Cに対しては,この会社の支店?的なものをアブダビにつくり,そのアブダビの口座から支払う。」,「このスキームを前提に準備を進めて欲しい。」と伝えた(同月20日のDからSへの電子メール(甲179資料Ⅱ19)には,同日の被告人Bの発言として上記の各発言が記載されている。)。 ⑶ 経営会議による非連結子会社の設立の承認平成22年(2010年)10月21日,被告人Bは,ジョイントベンチャーや有望な技術への投資といったビジネス機会を分析するために非連結子会社の設立を被告会社の経営会議に提案し,その承認を受けた(甲179資料Ⅱ15)。そして,被告人Bは,同非連結子会社及びその子会社で中東での投資のための新会社の設立手続を進めることをEに指示した。指示を受けたEは 告会社の経営会議に提案し,その承認を受けた(甲179資料Ⅱ15)。そして,被告人Bは,同非連結子会社及びその子会社で中東での投資のための新会社の設立手続を進めることをEに指示した。指示を受けたEは,その設立手続を進め,同年12月9日,オランダのアムステルダムにCがCEOで被告人Bらが取締役となる「W1」を設立し,同月21日,アラブ首長国連邦のドバイに更にその子会社でCがCEOで被告人Bらが取締役となる「W2」を設立した(なお,W1とW2を合わせて「W」と表記する。)。 2 Wへの資金注入及びWからの支払方法に関する検討状況被告人Bは,Vと協議の上,W1とW2の銀行口座を開設するなどの事務手続を進めた(甲28)。 平成22年(2010年)11月29日にEからいわゆるCC(カーボンコピー)で被告人Bにも送られた電子メール(甲179資料Ⅱ18)には,「IspoketoB today.」との記載があった上で,W1及びW2への資金注入及び送金に関する方針が記載されていた。 Dは,同月25日にSに対し電子メール(甲179資料Ⅱ19)で,先ほどCに呼ばれて,WからCへの支払に関する指示を受けた旨連絡した(甲100)。また,Dは,同年12月17日にSに対し電子メール(甲179資料Ⅱ19)で,「W Paymentscheme (Draft)」と題する文書(甲179資料Ⅱ19-1の2枚目)を添付ファイルとして送り,それに基づいて来週に被告人Bと再確認する旨を連絡した。 その「W Paymentscheme (Draft)」と題する文書には,被告会社からW1の口座を経由してW2の口座に送金が行われ,更に同口座からW2の秘書室の口座に送金が行われた上,同秘書室の口座から「Salary」等の支払が行われることが図示されていた。 文書には,被告会社からW1の口座を経由してW2の口座に送金が行われ,更に同口座からW2の秘書室の口座に送金が行われた上,同秘書室の口座から「Salary」等の支払が行われることが図示されていた。また,同月21日に,DがSに送信した電子メール(甲179資料Ⅱ20)には,W1及びW2の各口座の取扱いに関して被告人BとDが打合せを行ったことが記載されていた。 同月9日,被告会社からW1の口座に対して4525万ユーロが送金され(甲179資料Ⅱ24),平成23年(2011年)1月18日,同月中旬頃に開設されたD管理のW2の口座に対し,W1の口座から1700万ドルが送金された(甲179資料Ⅱ25)。 Dは,上記の各送金の後,W1とW2の両口座を管理するようになったが,同月末頃,W2の口座からの送金のトライアルを行うなどして同口座からの支払に向けた準備を行った上で,これらの準備状況をCに報告した(甲28)。 しかし,同年3月頃までには,被告人Bは,Cとの間で,非連結子会社からの支払が正当化されるには非連結子会社に実体があることが必要であり,実体がないと抜け道と見なされて開示する必要があるという話をし,当時のWは実体があるとは言い難い状況であったため,Wからの支払方法の検討を進めることを止めた(乙29,被告人B第51回51~56頁)。 3 Wの活動状況⑴ Wによる投資Wの設立及び運営に関して,Eは管理部門のヘッド及びアドミニストレーション を統括する立場にあり(弁24資料67,被告人B第51回38頁),W設立後は,経費等を含む管理のプロセスのほか,投資の可能性の分析等を行っていた(検討された投資に関連する資料として,2011年2月1日付けの電子メール及び添付資料(弁25資料9),同月23日付けの電子メール及び添付資 含む管理のプロセスのほか,投資の可能性の分析等を行っていた(検討された投資に関連する資料として,2011年2月1日付けの電子メール及び添付資料(弁25資料9),同月23日付けの電子メール及び添付資料(弁25資料32,33))。このように,Wからの投資が検討されたことはあったが,実際に実施されたものはなかった(甲152,E第31回12~13頁)。 ⑵ Wによる不動産購入W1やW2に投入された被告会社の資金は,W1がブラジルのリオデジャネイロとレバノンのベイルートの不動産物件を購入するために使われた。リオデジャネイロの物件は,平成23年(2011年)12月に購入したものであるが,W1が設立した持株会社の更に子会社が買主となっていた。また,ベイルートの物件は,平成24年(2012年)5月に購入したものであるが,前記持株会社の別の子会社の子会社が買主となっていた(E第31回13~18頁)。 第10 長期キャッシュ・インセンティブ報酬の権利付与に関する検討状況 1 長期キャッシュ・インセンティブ報酬制度の概要長期キャッシュ・インセンティブ報酬制度(Long-TermCashIncentivePlan。 以下「LTCIP」という。)は,非取締役幹部職員向けに,あらかじめ設定した業績目標(コミットメントとターゲット)の達成度合いに応じて,対象者の一定期間の雇用継続や非競業を条件に,ABSの一定割合を支給する制度である(後記第22の長期インセンティブ・プログラムの一種である。)。 2 「Re:Long-TermCashIncentiveCompensationandRetention/Non-competePlan」と題する文書の作成状況平成23年(2011年)2月16日に被告人Bの秘書からDに宛てられた電子メ veCompensationandRetention/Non-competePlan」と題する文書の作成状況平成23年(2011年)2月16日に被告人Bの秘書からDに宛てられた電子メール(甲179資料Ⅳ1)の本文には「B-sanwillprovidethisdocumenttoCEOfirstthinginthemorning.」との記載があり,添付文書を被告人BがCに渡すので用意してほしい旨の依頼が記載されていた。その添付文書は,C名義のC 宛てのもので,「Re:Long-TermCashIncentiveCompensationandRetention/Non-competePlan」と題する文書(甲179資料Ⅳ1-1)であった。 Dは,同文書に修正を加えて体裁を整えたものをCに提示したところ,Cは,このうち「annualbasesalary」(ABS)と同額が付与されるとされていたところを,「compensationaspublishedintheshareholderreport」(有価証券報告書で公表された報酬)と手書きして修正した(甲179資料Ⅳ2)。Dは,Cの修正を加えた文書2部に自ら署名をして,同月17日,Cに提出したところ,Cは2部とも署名した(甲179資料Ⅳ3,4。以下「LTCIP文書」という。)。その上で,CとDは,それぞれが1部ずつ保管することとし,Cは,これを被告会社の会長室金庫内に保管した(甲156)。 ところが,同年3月末になって,Cは,Dに対し,LTCIPは使わないと告げたが,その理由については説明しなかった(甲32)。 3 LTCIP文書の概要この文書は,まず「DearMr.C」としてCに宛てられており,次いで,「Obje 対し,LTCIPは使わないと告げたが,その理由については説明しなかった(甲32)。 3 LTCIP文書の概要この文書は,まず「DearMr.C」としてCに宛てられており,次いで,「Objective: Achievementofthefreecashflowbudgetobjectiveforfiscalyear11.」と記載された上で,「EffectiveJuly 1,2015(iftheobjectivewasachieved) youwillhaveearnedandbevestedinanamountequalto 50% ofyourfiscalyear 2010 compensationaspublishedintheshareholderreport, ifyouhavebeenemployedby A oranAffiliatefromApril 1,2014 toJuly 1,201orifretiredfrom A, youhavenotbeenemployedbyacompetitorof AfromApril 1,2014 toJuly 1,2015. EffectiveJuly 1,2016(iftheobjectivewasachieved) youwillhaveearnedandbevestedinanadditionalamountequalto 50% ofyourfiscalyear 2010 compensationaspublishedintheshareholderreport, ifyouhavebeenempl ofyourfiscalyear 2010 compensationaspublishedintheshareholderreport, ifyouhavebeenemployedby A oranAffiliatefromJuly 1, 2015 toJuly 1,2016 orifretiredfrom A, youhavenotbeenemployedbyacompetitorof A fromJuly 1,2015 toJuly 1,2016.」と記載され,目標(obje ctive)を達成した上で平成26年(2014年)4月1日から平成27年(2015年)7月1日までの間にCが被告会社又は関連会社に継続して雇用されている場合か,Cが退職して被告会社の競業他社に雇用されていない場合,有価証券報告書において公表されたCの平成22年(2010年)度の報酬の半額をCが受領することができ,目標を達成した上で平成27年(2015年)7月1日から平成28年(2016年)7月1日までの間に上記のいずれかの場合に当たるときは,同報酬の半額を更にCが受領することができる旨が記載されていた。また,文書の末尾にはCとDの署名があった。 第11 「PaymentforCEO」と題する各文書の作成状況 1 2011年2月21日付け「PaymentforCEO」と題する文書の作成状況(以下,「PaymentforCEO」との記載が標題に含まれる文書については,「Payment文書」と表記する。)⑴ 修正前の2011年2月21日付けPayment文書の作成状況平成23年(2011年)2月下旬頃,Cは,Dに対し,W2を通じた支払,LTCIPの権利の付与の名目によ 書」と表記する。)⑴ 修正前の2011年2月21日付けPayment文書の作成状況平成23年(2011年)2月下旬頃,Cは,Dに対し,W2を通じた支払,LTCIPの権利の付与の名目による支払や退職慰労金打切支給の支払等について確認できる文書を作成するように指示した。Dは,Cの指示に従い,平成21年(2009年)度及び平成22年(2010年)度の未払の報酬とこれを支払う方法等をまとめた2011年2月21日付けPayment文書(甲179資料Ⅴ1)を作成し,Cに提出した(甲29)。 同文書の上半分には,平成21年(2009年)度から平成26年(2014年)度までの各年度の「OriginalCompensation」や「Paymentascash(Tobedisclosed)」の金額,平成21年(2009年)度及び平成22年(2010年)度に関しては各年度の「OriginalCompensation」から「Paymentascash(Tobedisclosed)」を差し引いた「Balance」の金額(いずれもネットで,平成21年(2009年)度は約8億8300万円,平成22年(2010年)度は約6億3550万円)が記載されていたほか,「Retirementallowance」の金額(ネットで約28億 5940万円。税額を含めると約35億7420万円。前記第2の5のとおり,本来のCの退職慰労金打切支給の金額は約44億4000万円であったが,平成20年(2008年)度にCからの要請で退職慰労金打切支給から「スペシャルプレミアム」の名目で合計8億7000万円を支払ったため,平成23年(2011年)2月21日時点におけるCの退職慰労金打切支給の金額は約35億7420万円であった。)が記載されていた。 また ャルプレミアム」の名目で合計8億7000万円を支払ったため,平成23年(2011年)2月21日時点におけるCの退職慰労金打切支給の金額は約35億7420万円であった。)が記載されていた。 また,同文書の下半分には「LTCIP」と「Paymentin W」の項目が設けられ,「FY09/FY10 balance」の約15億1850万円(前記「Balance」の合計額)を平成22年(2010年)度に支払い,「Retirementallowance」の約28億5940万円を平成23年(2011年)度から平成26年(2014年)度までの4連結会計年度に分割してWから支払う旨が記載されていた。 ⑵ 修正後の2011年2月21日付けPayment文書の作成状況前記⑴のとおり,Dから2011年2月21日付けPayment文書を受け取ったCは,Dに対し,平成22年(2010年)度にW2から支払う金額を,W2に送金されていた1700万ドルとし,平成21年(2009年)度及び平成22年(2010年)度の未払の報酬額の合計額(前記⑴の「Balance」の合計額)並びに退職慰労金打切支給の金額(前記⑴の「Retirementallowance」の額)につき,Cがフランスで負担する税額分を上乗せするよう修正を指示した。 そこで,Dは,口座維持管理のために必要となり得る一定の金額を除いた金額(「$16.5M」)を平成22年(2010年)度にW2から支払う金額として記載するなどしたほかは,Cの指示に沿って前記⑴の文書の内容を修正し,平成23年(2011年)2月21日中に修正した同日付け「PaymentforCEO」と題する文書(甲179資料Ⅴ2)をCに提出し,Cの了解を得た。なお,Dは,同日付けの各Payment文書の内容を被告人Bと共有すること 月21日中に修正した同日付け「PaymentforCEO」と題する文書(甲179資料Ⅴ2)をCに提出し,Cの了解を得た。なお,Dは,同日付けの各Payment文書の内容を被告人Bと共有することはなかった(甲29)。 修正後の同日付けPayment文書は修正前のものの内容を基本的に踏襲しているものの,「Paymentin W」の項目に「40% incometax」との記載がなされ, 平成21年(2009年)度及び平成22年(2010年)度の「Balance」の金額と「Retirementallowance」の金額の合計である約43億7790万円に40パーセントの税額相当額が加算された約72億9650万円を平成22年(2010年)度から平成26年(2014年)度にかけてWから支払うこととするなどの変更が加えられていた。 2 2011年3月1日付けPayment文書の作成状況平成23年(2011年)3月7日午後5時23分にDから被告人Bに送られた電子メール(甲179資料Ⅴ3)には,添付資料について「thedocumentyourequested」と記載されているところ,その添付資料は同月1日付けPayment文書(甲179資料Ⅴ3-1-2の1枚目)であった。 同文書には,Cの報酬の一部を有価証券報告書における開示を避けて支払う方法として,①取締役在任中に毎年度LTCIPをCに付与し,Cの取締役退任後に金銭を支払う方法,②Cの取締役退任後に退職慰労金打切支給の金額に加算して支払う方法,③Cの取締役退任後に相談役として契約し,相談役報酬を支払う方法,④Cの報酬をWから支払う方法が記載され,それぞれ「会社法」,「所得税法」,「法人税法」,「会計処理」及び「秘匿性」の観点からの分析が記載されていた。 なお,同電 契約し,相談役報酬を支払う方法,④Cの報酬をWから支払う方法が記載され,それぞれ「会社法」,「所得税法」,「法人税法」,「会計処理」及び「秘匿性」の観点からの分析が記載されていた。 なお,同電子メールには,別の資料として,税務当局や金融庁等が取締役報酬に関して行う調査の一般的な内容及び平成18年(2006年)以降の被告会社に対する実際の調査歴等をまとめた平成23年(2011年)3月1日付け「InvestigationonDirectorsRemuneration」と題する文書(甲179資料Ⅴ3-1-2の2枚目及び3枚目)も添付されていた。 3 2011年3月14日付けPayment文書の作成状況Dは,2011年3月1日付けPayment文書の体裁を整えるなどの変更を行って同月14日付けPayment文書の日本語版(甲179資料Ⅴ4。「PaymentforCEO(Ⓑ) [Bの氏名の頭文字のアルファベット2字]」との標題のもの)を作成し,これをUに英訳させた(英語版が甲179資料Ⅴ5)。 同文書は,同月1日付けPayment文書に書かれた前記2の①ないし④の方法はそのままに,「Pro」,「Con」の項目が新たに設けられ,それぞれの方法の長所及び短所が記載されるなどの変更が加えられたものとなっていた。具体的には,①のLTCIPの「Pro」には,「現行の会社法,所得税法,法人税法はクリアできる」,「支払いについて開示の必要はない。」と記載され,「Con」には,「任期中の費用計上ができず,また,退任後の支給のため,支給した時点で,「決定の経緯」や金額の妥当性」について,会計士から説明を求められる可能性がある。」,「また,納税をした段階で,国税庁から「決定の経緯」「金額の妥当性」について調査が行われる可能性があり。 時点で,「決定の経緯」や金額の妥当性」について,会計士から説明を求められる可能性がある。」,「また,納税をした段階で,国税庁から「決定の経緯」「金額の妥当性」について調査が行われる可能性があり。」と記載されていた。②の退職慰労金打切支給の「Pro」には,「法的には問題はない。」と記載され,「Con」には,「確定済み以外の支給については総会での決定が必要」,「支給額は開示される。」と記載されていた。 ③の相談役報酬の「Pro」には,「法的には問題はない」と記載され,「Con」には,「就任については取締役会,報酬額については代表取締役の承認が必要。」と記載されていた。④のWの「Pro」には,「Wが非連結である限りは開示の必要はない。」と記載され,「Con」には,「報酬の支払いの秘匿管理(Aは問題ないので,フランスの国税庁情報が日本の国税庁にもたらされた場合など,日本の国税による調査が行われる可能性がある)」と記載されていた。 第12 Cの報酬に関するO及びPによる提案 1 CのO及びPに対する指示平成23年(2011年)1月頃,Cは,O及びPに対して,Cの報酬のうち未払となっている分を開示されずに支払を受ける方法を検討するように指示した(甲85,150)。 上記のCの指示を受け,O又はPは,同年2月から同年3月にかけて,Dに協力を求め,Cの未払となっている報酬を支払う方法をいくつか提案したいと説明し,Dにその方法の案を作成するように指示した(甲29,86)。 2 「PaymentforCEO(Proposalby O・P)」と題する文書の作成状況 そこで,Dは,①インセンティブ方式(LTCIPを念頭に置いたもの),②退職慰労金方式,③相談役方式の3つの方式に関し,金額の確定,会計処理,支給,開示,長所(P する文書の作成状況 そこで,Dは,①インセンティブ方式(LTCIPを念頭に置いたもの),②退職慰労金方式,③相談役方式の3つの方式に関し,金額の確定,会計処理,支給,開示,長所(Pro)及び短所(Con)の各項目を記載した2011年3月16日付け「PaymentforCEO(Proposalby O・P)」と題する文書の日本語版(甲179資料Ⅴ6)を作成し,これをUに英訳させたもの(甲179資料Ⅴ7)も用意して,同日頃,O及びPに提示して説明した。これを受けて,O及びPは,Dに対して,前記③の相談役方式を基にCに提案する文書を改めて作成するように指示した(甲29,86,D第6回26~28頁,31~32頁)。 3 「報酬の支払いについて(案)」と題する文書の作成状況前記2の指示を受けて,Dは,2011年3月22日付け「報酬の支払いについて(案)」と題する文書(甲179資料Ⅴ8)を日本語で作成するとともに,これをUに英訳させ(甲179資料Ⅴ9),同日,O及びPに提出した。 これに対して,Pが文書の内容について修正の指示をしたので,Dは,一部を修正して同月28日付け「報酬の支払いについて(案)」と題する文書(甲179資料Ⅴ10-1)を日本語で作成し,これをUに英訳させたもの(甲179資料Ⅴ10-2。標題は「RemunerationPayment (Plan)」)とともにO及びPに提出した(以下,DがO及びPに提出した同日付け「報酬の支払いについて(案)」と題する文書を「O・P文書」という。)。 同日頃,O及びPは,Cに対して,O・P文書に基づいて説明を行った(甲86,150)。 4 O・P文書の概要O及びPがCに提案した支払方法の案は,前記第11の2の2011年3月1日付けPayment文書に記載 Cに対して,O・P文書に基づいて説明を行った(甲86,150)。 4 O・P文書の概要O及びPがCに提案した支払方法の案は,前記第11の2の2011年3月1日付けPayment文書に記載された③と同様に,Cの本来の報酬額から支払済みの報酬額を差し引いた残額で未払となっている報酬額を,Cの取締役退任後に相談役又は顧問の報酬の名目により支払うというものであり,併せて,その支払を確実にするために,退任までの毎年度,その差引額について支払方法等を記載した文書 にCが代表取締役として署名するとともに,秘書室長が金額を計算してCに報告し,その確認を受けるという手順も定めていた。 具体的には,「ContributionRewards(GAP)」(「功労金(GAP)」)の項目が設けられ,そこには「PaymentafterretirementofXXXyenas “ContributionRewards“ fromFY2009 toretirement.」(「2009年度から退職時までの功労金XXX円を退任後に支給する。」),「Tomakeacontractwith A asExecutiveAdvisororExecutiveConsultantfor 1 ∼ 2 yearsafterretirementofDirector. Beforemakingacontract, itneedsapprovalatBOD.」(「取締役退任後,1年~2年 ExecutiveadvisororExecutiveConsultantとしてAと契約を行う。契約の実行については,取締役会で決議。」),「Conditionofcontractis “ Adviceaccordin rExecutiveConsultantとしてAと契約を行う。契約の実行については,取締役会で決議。」),「Conditionofcontractis “ AdviceaccordingtorequestofCEO“ / “Donotworkforcompetitorsafterretirement.“」(「契約の条件は「CEOの求めに応じ助言を行う」「退任後,競合他社に勤務しないこと」。」),「PaymentofremunerationishandledatSecretariatandconfidentialityin A ishighandtheremunerationamountdoesnotneedtobedisclosed.」(「報酬は秘書室が扱うため,Aでの秘匿性は高く,また,報酬額について開示の必要はない。」)と記載されていたほか,「ConditionswillbefixedbywrittendocumentseveryyearandRepresentativeDirectorswillsignthedocuments. GMofSecretariatwillmakeacalculationandtheamountwillbeinformedtothepersonwhoreceivespayment.」(「毎年,書面により条件を確定させ,代表取締役が署名,秘書室長が計算し,額を受領者に報告。」)という手順(以下,この手順を「O・P文書による手順」という。)についても記載されていた。 5 O及びPによる提案前後におけるPayment文書の作成状況⑴ 2011年3月23日付けPayment文 (以下,この手順を「O・P文書による手順」という。)についても記載されていた。 5 O及びPによる提案前後におけるPayment文書の作成状況⑴ 2011年3月23日付けPayment文書の作成状況平成23年(2011年)3月下旬頃,Dは,Cから,Cの報酬の支払方法についてまとめるよう指示を受けたほか,同じ頃,退職慰労金打切支給については,本 来の金額である約44億4000万円を,Wではなく被告会社から受領したいとの要請を受けた。そこで,Dは,2011年3月23日付けPayment文書(甲179資料Ⅴ11)を作成し,同日頃,これをCに提出した。 同文書には,平成23年(2011年)度から平成26年(2014年)度までの「Paymentascash(Tobedisclosed)」として毎年度約10億円弱が,平成23年(2011年)3月末までの「Salaryshouldbepaid」として約18億9810万円が,「LTCIP」として平成23年(2011年)度から平成26年(2014年)度まで毎年度約10億円弱が,「RestofRetirementallowance」として約35億7420万円がそれぞれ記載され,前記「Salaryshouldbepaid」と「LTCIP」と「RestofRetirementallowance」の金額の合計である約93億1230万円が「Totalamountshouldbepaid」として記載されていたほか,この合計金額から「Retirementallowance」の金額である約44億4420万円を除いた約48億6810万円について,「OP1」では「ContributionRewards」として平成27年(2015年)度及び平成28年(2016 wance」の金額である約44億4420万円を除いた約48億6810万円について,「OP1」では「ContributionRewards」として平成27年(2015年)度及び平成28年(2016年)度に分割して支払う方法が,「OP2」では約24億円を「Paymentin W」として平成23年(2011年)度から平成26年(2014年)度までに分割して支払い,残額を「ContributionRewards」として平成27年(2015年)度及び平成28年(2016年)度に分割して支払う方法が記載されていた。 ⑵ 2011年3月30日付けPayment文書の作成状況前記⑴のとおり,Dは,O・P文書による提案前の平成23年(2011年)3月23日頃,Cの指示により,同日付けPayment文書を作成してCに提示し,「OP1」について,O及びPの案であるが,二人は報酬総額を知らない旨を説明し,「OP2」については,「OP1」に加えて一部をWから支払う計画である旨を説明したところ,Cは,「OP2」のWから支払う案に「×」を付け,Dに対し,Wから支払う計画はなくなったため,「OP1」の計画を進めるように指示した(甲179資料Ⅴ12)。 そこで,Dは,O・P文書による提案後の同月30日頃,Wの項目を削除したほか,同月末時点の未払の報酬額を記載した同月30日付けPayment文書(甲179資料Ⅴ13)を作成し,同日頃,これをCに対して提出した。 同文書は,2011年3月23日付けPayment文書の「Paymentascash(Tobedisclosed)」,「Salaryshouldbepaid」,「LTCIP」,「RestofRetirementallowance」の各金額の記載を踏襲しつつ,「Conf obedisclosed)」,「Salaryshouldbepaid」,「LTCIP」,「RestofRetirementallowance」の各金額の記載を踏襲しつつ,「Confirmedamounttobepaid」として,「Salaryshouldbepaid」と「RestofRetirementallowance」の金額の合計である約54億7230万円が記載され,この合計金額から「Retirementallowance」の金額である約44億4420万円を除いた約10億2810万円を「ContributionRewards」として平成27年(2015年)度に支払う方法が記載されるなどの変更が加えられたものとなっていた。 Dが,2011年3月30日付けPayment文書について説明したところ(なお,この際に,Dは,後記第15の「合意文書(Agreement)」の原案をCの次回の来日時までには作成しておくことも説明していた。),Cは,LTCIPの項目については削除するように指示した(甲29)。 ⑶ 2011年4月1日付けPayment文書の作成状況Dは,前記⑵のCの指示に従って修正し,2011年4月1日付けPayment文書(甲179資料Ⅴ15)を作成し,同日頃,Cに提出した。 同文書には,平成22年(2010年)度から平成26年(2014年)度までの各年度の「OriginalTotalSalary」として20億円弱の金額が記載されていたほか,その下の「Paymentascash (Tobedisclosed)」の項目には,平成22年(2010年)度から平成26年(2014年)度までの各年度に10億円弱の金額が記載され,平成23年(2011年)度から平成26年(2014年 Tobedisclosed)」の項目には,平成22年(2010年)度から平成26年(2014年)度までの各年度に10億円弱の金額が記載され,平成23年(2011年)度から平成26年(2014年)度までの各年度の「OriginalTotalSalary」から「Paymentascash (Tobedisclosed)」を差し引いた金額が「RemainingContribution」の項目に記載されていた。さらに,「Salaryshouldbepaid」の項目が設けられ,その中の「~FY09」(平成21年(2 009年)度まで)の欄に「1,104.1」と約11億円の記載があり,「FY10」の欄には「794.0」と約7億9000万円の記載があった。 これに対し,Cは,「Salaryshouldbepaid」との項目名と,「RemainingContribution」との項目名に,取り消す旨の線を書き入れ,これら2つの欄をまとめて「Postponedcompensation」と書き込んでDに返却した(甲29,179資料Ⅴ16)。 第13 平成23年(2011年)度のCの報酬の決定手続及び管理状況 1 平成23年(2011年)度のCの報酬の決定手続(報酬計算書の書式の変更)平成23年(2011年)3月24日頃,Dは,同日付け「FY2011 CompensationforMr.C」と題する文書(甲176資料7)をRに作成させ,同報酬計算書をCに提示し,平成23年(2011年)度の報酬額の案について確認を求めた。同報酬計算書において,Dは,文書の左側に「FY2010」として前年度の報酬額について記載した上,文書の中央に「FY2011 tentative」としてABSが前年度と同額であることを前 を求めた。同報酬計算書において,Dは,文書の左側に「FY2010」として前年度の報酬額について記載した上,文書の中央に「FY2011 tentative」としてABSが前年度と同額であることを前提に算定した平成23年(2011年)度の報酬額の案について記載し,文書の右側には「FY2011(8.9 oku-yenbase)」として開示報酬額が8億9000万円であることを前提に算定した同年度の報酬額の案について記載した。Dが同報酬計算書に基づいて説明したところ,Cは,前年と同様にボーナスの欄を設け,開示額も前年度と同額の9億9000万円にするように指示した(甲19)。 そこで,Dは,この報酬計算書を修正することにしたが,その際に新年度の報酬を決定するために用いる報酬計算書の書式を従前のものから変更した。具体的には,上記の報酬計算書(甲176資料7)と2011年4月1日付け「FY2011 CompensationforMr.C」と題する文書(甲176資料8)の書式を比較すると,文書の右側の「FY2011(8.9 oku-yenbase)」が「FY2011(9.9 oku-yenbase)」と変更されたほか,報酬総額(「GRANDTOTAL」)の欄,有価証券報告書で開示することとした報酬額(「Actuallypaidamount」)の欄及び報酬総額から開示することとした報酬 額を差し引いた額(「Remaining」)の欄が加えられるなどした。 また,Dは,その頃,前年度の平成22年(2010年)度の報酬について,現物給付やボーナス額を反映させて確定した報酬総額を「GRANDTOTAL」の欄に,実際に支払われた報酬額を「Actuallypaidamount」の欄に,それらの差引額を「Remaining」の欄にそ ボーナス額を反映させて確定した報酬総額を「GRANDTOTAL」の欄に,実際に支払われた報酬額を「Actuallypaidamount」の欄に,それらの差引額を「Remaining」の欄にそれぞれ記載した2011年3月25日付け「FY2010 CompensationtoMr.C」と題する文書(甲179資料Ⅵ6。これは,後記の2011年4月11日付け「FY2011 CompensationforMr.C」と題する文書(甲176資料9)の左側の列の記載を独立させたものである。以下,同様の体裁で前年度のCの報酬を確認するために作成された報酬計算書を,特に「確認用の報酬計算書」と表記する。)を作成した。 さらに,Dは,2011年4月14日付け「HistoryofPaymentforCEO」と題する文書(甲179資料Ⅵ3)を作成し,これによって平成20年(2008年)度からの報酬を整理したことに伴って,それまで作成していなかった平成20年(2008年)度及び平成21年(2009年)度の確認用の報酬計算書を,日付を遡らせて作成した(2009年3月25日付け「FY2008 CompensationtoMr.C」と題する文書(甲179資料Ⅵ4)及び2010年3月25日付け「FY2009 CompensationtoMr.C」と題する文書(同5))。その上で,Dは,平成20年(2008年)度から平成22年(2010年)度までの3枚の確認用の報酬計算書について,いずれも2部ずつ印刷して秘書室長として署名し,それぞれ1部をCに提出した。 なお,上記の各種変更を受けて秘書室では,Cの月次の報酬を支払うに当たり,実際に支払われた額による報酬明細書(「PAYROLL」)のほかに,報酬計算書の報酬総額(「GRANDTOTAL」 た。 なお,上記の各種変更を受けて秘書室では,Cの月次の報酬を支払うに当たり,実際に支払われた額による報酬明細書(「PAYROLL」)のほかに,報酬計算書の報酬総額(「GRANDTOTAL」)を基礎とした報酬明細書(「PAYROLL(ORIGINAL)」)も作成して保管するようになった(甲3,5,43)。 2 平成23年(2011年)度のCのボーナス等の取扱いCは,平成23年(2011年)4月1日頃,Dから,前記1のとおり,201 1年4月1日付け「FY2011 CompensationforMr.C」と題する文書(甲176資料8)を提示され,平成23年(2011年)度の報酬額の案について確認を求められた際,Dに対して,前年度と同額とされたABSを他の取締役の平均ベースアップ率と同様に8パーセント上げるように指示したほか,ボーナス額を2億円と決定し,実際にはその全額を支払わないこととするように指示した上,同報酬計算書においてDが空欄のままにしていた「Bonus」の欄(単位は円)に「200,000,000」と書き込むとともに,「Bonus」を除いて所定の方法により算定された金額が記載されていた「GRANDTOTAL」の欄と「Remaining」の欄の各金額をいずれも2億円ずつ増額する修正を書き込んだ(甲19,176資料8)。 上記のCの指示を受けて,Dは,更に記載を修正した2011年4月11日付け「FY2011 CompensationforMr.C」と題する文書(甲176資料9)をRに作成させ,同日頃,同報酬計算書に基づいてCに説明をしたところ,Cは,同報酬計算書に記載された平成23年(2011年)度の報酬額の案を確認して了承することによって自身の同年度の報酬額を決定した(甲19)。 3 スペシャル 算書に基づいてCに説明をしたところ,Cは,同報酬計算書に記載された平成23年(2011年)度の報酬額の案を確認して了承することによって自身の同年度の報酬額を決定した(甲19)。 3 スペシャルプレミアムの処理平成23年(2011年)3月下旬頃,Cは,Dに対し,Wから支払うこととしていた退職慰労金打切支給は被告会社から支払うこととし,被告会社に返金して未払となっている7億円を本来の退職慰労金打切支給として受け取りたいと話していたことから(甲29,41),Dは,同年4月初旬から同月中旬にかけて,「前記第2の5⑵のとおり,平成20年(2008年)度にCが被告会社から退職慰労金打切支給についてその前払分として支払(スペシャルプレミアム)を受けたため,これを前払のない状態に戻すためにCが被告会社に返金する必要があった金額(被告会社が負担する取決めがなされていた税額相当額を加算した金額では8億7000万円)」と「平成21年(2009年)度末頃に,開示報酬額を抑えるためにCが被告会社に一時的に返金し,未払となっている報酬の金額(手取額で7億円であるが,被告会社が負担する取決めがなされていた税額相当額を加算した金額では8 億7500万円)」を相殺するなどして,Cと被告会社の間に存在していた債権債務関係を整理した(甲41)。 そして,Dは,その際に生じた差額である500万円を平成22年(2010年)度の未払となっている報酬(「PostponedCompensation」)に加算するなどの処理を行い,その金額を平成20年(2008年)度から平成22年(2010年)度までの確認用の報酬計算書及び後記第15のCから作成を依頼された「合意文書(Agreement)」の原案の中の未払となっている報酬額に反映させることとした。上記の処理につ 平成22年(2010年)度までの確認用の報酬計算書及び後記第15のCから作成を依頼された「合意文書(Agreement)」の原案の中の未払となっている報酬額に反映させることとした。上記の処理について,Dが,前記1の2011年4月14日付け「HistoryofPaymentforCEO」と題する文書(甲179資料Ⅵ3)を作成し,同日頃,同文書に基づいて上記の処理についてCに説明をしたところ,Cは異論なく了承した(甲41)。 第14 平成22年(2010年)度のCの報酬の開示状況平成23年(2011年)4月頃,Dは,Cに,前記第13の1のとおり作成した2011年3月25日付け「FY2010 CompensationtoMr.C」と題する文書(甲179資料Ⅵ6)を提示して平成22年(2010年)度のCの報酬について確認を求めた。上記の確認用の報酬計算書によれば,「Grossmonthlyamount」の12か月分に,「Otherfringebenefit」を足すことによって,年間の総額の「Grossannualamount」が算定され,これにボーナス2億円と,前記第13の3のとおり調整された500万円(「Adjustment」)を追加して得られた報酬総額(「GRANDTOTAL」)が17億8189万0913円とされ,実際に支払われた報酬額(「Actuallypaidamount」)が9億8177万0724円とされ,その差引額(「Remaining」)が8億0012万0189円とされていた。 Dは,Cに対して,上記の確認用の報酬計算書に基づいて,平成22年(2010年)度の報酬額について報告したところ,Cは,同年度の報酬額を確認して了承することによって同年度の有価証券報告書に開示する自身の報酬額を決定した(甲 確認用の報酬計算書に基づいて,平成22年(2010年)度の報酬額について報告したところ,Cは,同年度の報酬額を確認して了承することによって同年度の有価証券報告書に開示する自身の報酬額を決定した(甲17,41)。 平成23年(2011年)6月下旬頃,被告会社の株主総会後に,Cの報酬額等 を記載した「役員の報酬等」の項目の原稿が秘書室から経理部連結会計グループに伝達され,同グループにおいて平成22年(2010年)度の被告会社の有価証券報告書の案を作成した(甲62)。 そして,社内の電子決裁システムを利用して,有価証券報告書に関する決裁文書(「Decisionform 決定書」(甲62資料2))によってCや被告人Bらの決裁を経た上で,平成22年(2010年)度のCの「総報酬」欄及び「金銭報酬」欄の金額がいずれも「982」百万円(9億8200万円)と記載された同年度の被告会社の有価証券報告書が,平成23年(2011年)6月30日,東京都豊島区所在のb株式会社事務所内のパーソナルコンピュータ等を利用するなどして関東財務局長に提出され,EDINET上で公覧に供された(甲1,62,72)。 第15 「Re: AgreementonCompensationforMr.C asattheendofMarch011」と題する文書の作成状況 1 同文書作成の経緯平成23年(2011年)3月下旬頃,Cは,Dに対し,この時点で未払となっているCの報酬の金額(平成21年(2009年)度及び平成22年(2010年)度のもの)を確認するとともに,Cが取締役退任後に相談役に就任し,未払となっている報酬を相談役の報酬に上乗せして支払うとともに,退職慰労金打切支給は規定どおりに支払う旨の「合意文書(Agreement)」の作 を確認するとともに,Cが取締役退任後に相談役に就任し,未払となっている報酬を相談役の報酬に上乗せして支払うとともに,退職慰労金打切支給は規定どおりに支払う旨の「合意文書(Agreement)」の作成を指示した(甲31)。 上記のCの指示を受けて,Dは,前記第13の1及び3の2011年4月14日付け「HistoryofPaymentforCEO」と題する文書(甲179資料Ⅵ3)による整理に基づき,平成21年(2009年)度及び平成22年(2010年)度の報酬について,確定した報酬,支払われた報酬,未払の報酬の3つに分け,未払の報酬の支払については,取締役退任後2年間は相談役又は特別顧問に就任し,その初年度の報酬の一部として支払うことを記載した原案を日本語で作成し(甲179資料Ⅵ7-1),それをUに英訳させ(甲107),レターヘッド付きの正式文書の体裁に整えた上,確認用の報酬計算書等と共に,Cに提示した。Cは,それらの内容 を確認した上,平成23年(2011年)4月14日に,同年3月24日付けの「Re: AgreementonCompensationforMr.C asattheendofMarch 2011」と題する文書(甲179資料Ⅵ8。以下「2011年C・D署名文書」という。)をDに2部用意させ,同文書にCとDがそれぞれ署名した上で,それぞれが保管することとした。 2 2011年C・D署名文書の概要2011年C・D署名文書は,C宛ての文書で,冒頭の文章の中に,「PaymentofapartofthedeterminedremunerationofFY2009 andFY2010 hasbeenpostponed. Theamountandpaymentmeth ofthedeterminedremunerationofFY2009 andFY2010 hasbeenpostponed. Theamountandpaymentmethodareconfirmedasfollows.」と平成21年(2009年)度及び平成22年(2010年)度の決定された報酬の一部の支払が延期された旨とその額と支払方法は以下のとおりである旨の記載があった。 次いで,「1. Remuneration」の項目では,両年度について,確定した報酬額(「FixedRemuneration」),支払済みの報酬額(「PaidRemuneration」)及びその差引額となる延期された報酬額(「PostponedRemuneration」)がそれぞれ1円単位まで記載され,その合計額(「TOTAL」)も記載されていた。なお,各年度とも,確認用の報酬計算書(甲179資料Ⅵ5及び6)の「GRANDTOTAL」の欄と同じ金額が前記「FixedRemuneration」の欄に,同報酬計算書の「Actuallypaidamount」の欄と同じ金額が前記「PaidRemuneration」の欄に,同報酬計算書の「Remaining」の欄と同じ金額が前記「PostponedRemuneration」の欄にそれぞれ記載されていた。 「2. RetirementAllowances」の項目では,役員の退職慰労金を廃止した際の規定により,Cに対する退職慰労金は44億4424万2398円に固定されている旨の記載があった。 「3. TotalAmounttobepaidtoMr.C asattheendofMarch 2011」の項目では,平成23年(2011年)3月末時点でのCへ支払 った。 「3. TotalAmounttobepaidtoMr.C asattheendofMarch 2011」の項目では,平成23年(2011年)3月末時点でのCへ支払われるべき金額(前記「1.Remuneration」と「2. RetirementAllowances」を合わせたもの)について,ドル換算する際の為替レート等について記載があった。 「4.Payment」の項目のうち,「1) PostponedRemuneration」」では,「Regardingthepostponedremuneration・・・・・,itwillpaid(ママ) inthefollowingfiscalyearafterMr.C retiredfromDirector. SameasotherexecutiveswhowereChairmeninthepast, Mr.C willbeappointedasExecutiveAdvisororExecutiveConsultantfor 2 yearsafterretirementofDirector.」と,「PostponedRemuneration」の累積額はCが取締役を退任した後に支払われ,Cは取締役退任後に2年間,「ExecutiveAdvisor」又は「ExecutiveConsultant」に任命されると記載され,末尾にはCとDの署名があった。 第16 「EMPLOYMENTAGREEMENT」と題する文書の作成状況 1 同文書作成の経緯平成23年(2011年)11月,被告人Bは,Cが取締役を退任した後に被告会社から競業避止料や顧問料等をCに支払い,あるいはこれに加え EMENT」と題する文書の作成状況 1 同文書作成の経緯平成23年(2011年)11月,被告人Bは,Cが取締役を退任した後に被告会社から競業避止料や顧問料等をCに支払い,あるいはこれに加えてブラジル等の不動産物件をCに提供するなどの利益を提供すること等を内容とする「EMPLOYMENTAGREEMENT」と題する文書(甲185資料Ⅰ1-1)を作成した。 被告人Bが同文書をIに提示したところ,Iは,被告会社の代表者の欄に署名をした。 その後,被告人Bは,Iが署名した「EMPLOYMENTAGREEMENT」と題する文書をCに提示したところ,Cは,一括金(「alumpsum」)の記載を4000万米国ドル(「40 millionUSD」)と書き込んで修正したほか,年次の報酬額を書き込んで修正するなどした(弁37資料48)。 その後,被告人Bは,Cが手書きで書き込んだ修正部分を反映させた「EMPLOYMENTAGREEMENT」と題する文書(甲185資料Ⅰ2-1。以下「2011年I署名文書」という。)を作成し,これをIに提示し,改めてIの署名を得たのち,Cに提出した。Cは,2011年I署名文書を受け取った後,「$40 millionUSD」との記載のうち「40」の部分を斜線で消して,その上に「60」などと手書きで修正するなどした(甲185資料Ⅰ3)ものの,自らは署名しないまま被告会社の会長室金 庫内に保管した(甲156)。 2 2011年I署名文書の概要2011年I署名文書には,Cが取締役を退任した後,10年間にわたり相談役と名誉会長(「ExecutiveAdvisorandChairmanEmeritus」)に就任すること,20年間にわたり競業避止義務(「Non-Compete」)を負う 0年間にわたり相談役と名誉会長(「ExecutiveAdvisorandChairmanEmeritus」)に就任すること,20年間にわたり競業避止義務(「Non-Compete」)を負うこと,取締役退任後一定期間内に一括金として4000万米国ドルを支払うほか,年次の報酬として合計3000万米国ドルないし4500万米国ドルを支払うこと,ブラジル,レバノン及びフランスの不動産物件をCに提供することなどが記載されていた。また,同文書の末尾には署名欄が設けられ,一方の欄には被告会社の代表取締役の肩書でIの署名があり,もう一方の欄には「C」の文字が印字されているものの,Cの署名はなかった。 第17 平成23年(2011年)度のCの報酬の開示状況平成24年(2012年)3月22日頃,Dは,Cに,同日付け「FY2011 CompensationtoMr.C」と題する文書(甲176資料20)を提示して平成23年(2011年)度のCの報酬について確認を求めた。その確認用の報酬計算書によれば,「Grossmonthlyamount」の12か月分に,「Otherfringebenefits」を足して「Grossannualamount」が計算された金額(16億9390万9365円)にボーナス2億円を追加して得られた報酬総額(「GRANDTOTAL」)が18億9390万9365円とされ,実際に支払われた報酬額(「Actuallypaidamount」)が9億8711万0678円とされ,その差引額(「Remaining」)が9億0679万8687円とされていた。 Dは,Cに対して,上記の確認用の報酬計算書に基づいて,平成23年(2011年)度の報酬額について報告したところ,Cは,同年度の報酬額を確認して了承することによっ 9万8687円とされていた。 Dは,Cに対して,上記の確認用の報酬計算書に基づいて,平成23年(2011年)度の報酬額について報告したところ,Cは,同年度の報酬額を確認して了承することによって同年度の有価証券報告書に開示する自身の報酬額を決定した(甲19)。 平成24年(2012年)6月下旬頃,被告会社の株主総会後に,Cの報酬額等 を記載した「役員の報酬等」の項目の原稿が秘書室から経理部連結会計グループに伝達され,同グループにおいて平成23年(2011年)度の被告会社の有価証券報告書の案を作成した(甲62)。 そして,社内の電子決裁システムを利用して,有価証券報告書に関する決裁文書(「Decisionform 決定書」(甲62資料3))によってCや被告人Bらの決裁を経た上で,平成23年(2011年)度のCの「総報酬」欄及び「金銭報酬」欄の金額がいずれも「987」百万円(9億8700万円)と記載された同年度の被告会社の有価証券報告書が,平成24年(2012年)6月28日,前記b株式会社事務所内のパーソナルコンピュータ等を利用するなどして関東財務局長に提出され,EDINET上で公覧に供された(甲1,62,72)。 第18 平成23年(2011年)度以降のCの報酬の決定手続,管理状況及び開示状況平成23年(2011年)度のCの報酬の決定手続は,前記第13の1のとおり変更された報酬計算書を用いて行われるなどの変化はあったものの,それ以外の点は,前記第2の4と同様の手続であった。そして,同年度以降においても,Cの報酬の決定手続には,大きな変化はなかった。すなわち,Cは,毎年度,3月から4月にかけて,秘書室が報酬計算書を作成するに当たり,報酬額算定の基礎となるABSのベースアップ率等について指示を行い,それを受けて秘 手続には,大きな変化はなかった。すなわち,Cは,毎年度,3月から4月にかけて,秘書室が報酬計算書を作成するに当たり,報酬額算定の基礎となるABSのベースアップ率等について指示を行い,それを受けて秘書室において報酬計算書を作成していたところ(報酬計算書の実際の作成作業は,Rが行い,Rの異動後は,同じく秘書室課長職であった者が行っていた。),それには新年度の報酬額の案と,その左側に参考として前年度の報酬額が記載されていた。Cは,報酬計算書に記載されている新年度の報酬額の案を確認・了承することによって新年度の報酬額を決定した。 そして,このCの決定を受けて,秘書室は,Cに対して,ABSの金額を記載したC名義の報酬通知書を交付し,月次の報酬を支払うとともに,2種類の「PAYROLL」を作成するなどして未払の報酬を含むCの報酬全般を継続的に管理していた。 また,平成24年(2012年)度以降は,確認用の報酬計算書は作成されなくなり(D第7回58頁),新年度の報酬額を決定するために作成された報酬計算書の左側に記載された前年度の報酬額の記載をCが確認・了承することによって前年度の開示報酬額が決定されていた(甲20,22ないし26,47ないし52,54ないし57)。 さらに,平成23年(2011年)度以降の平成29年(2017年)度までの各連結会計年度における有価証券報告書によるCの報酬に関する開示も,基本的に,前記第17の流れで行われていた(甲58,62,64ないし66,68,70,71)。 第19 平成24年(2012年)から平成25年(2013年)前半までの被告人BとEによる検討状況 1 平成24年(2012年)夏頃の検討状況平成24年(2012年)夏頃,被告人Bは,Cの指示を受けて,被告会社とF社の経営統合に向けた (2013年)前半までの被告人BとEによる検討状況 1 平成24年(2012年)夏頃の検討状況平成24年(2012年)夏頃,被告人Bは,Cの指示を受けて,被告会社とF社の経営統合に向けた仕組みを検討するようにEに指示した。Cがその当時考えていたのは,被告会社とF社を友好的に経営統合し,第三国に設置することが検討されていた統合会社のトップにCが就任するというものだった。Eは,被告人Bの指示を受けて,j法律事務所の弁護士と経営統合について検討する中で,Cとの競業避止契約や顧問契約の締結を検討するとともに,その状況を被告人Bに報告していた(甲73,E第31回19~22頁)。 Eは,j法律事務所の弁護士に対して,被告会社の取締役を退任した者が,その後に競業避止契約又は顧問契約に基づいて報酬を受けることとなった場合,そのことを有価証券報告書に記載して開示する必要があるかについて法的助言を求めた。 これに対し,j法律事務所の弁護士は,それが取締役在任中の職務執行の対価である場合には,開示が必要となる旨回答した(甲132)。 2 平成24年(2012年)10月のj法律事務所の弁護士との打合せ平成24年(2012年)10月初め頃,被告人B及びEは,ロンドンでj法律 事務所の弁護士と打合せを行った。この打合せの際,j法律事務所の弁護士は,被告会社の取締役退任後の競業避止契約又は顧問契約に関して,退任後に被告会社から支払われる金銭の額は,F社の取締役会に開示されなければならない旨の意見を述べた。また,j法律事務所の弁護士は,経営統合の相手の会社から多額の金銭を受け取るのであれば,それを開示しないと贈収賄と受け止められる可能性がある旨を指摘した(甲73,E第31回28頁)。 この打合せ後,被告人Bの意向に沿って,経営統合を進め 手の会社から多額の金銭を受け取るのであれば,それを開示しないと贈収賄と受け止められる可能性がある旨を指摘した(甲73,E第31回28頁)。 この打合せ後,被告人Bの意向に沿って,経営統合を進める中でCが一旦取締役を退任して顧問料を支払うことの検討が進められた(甲73)。 3 被告人BがCに対して行うプレゼンテーションの資料の作成状況平成24年(2012年)10月頃,Eは,被告人Bから,Cに対して行うプレゼンテーションの資料の作成を指示された。そこで,Eは,「Summaryofdiscussionsofar」と表紙に書かれた資料(甲185資料Ⅱ1-1)を作成した。Eは,その資料の中の「LegalframeworkforKomoncontract(postresignationasCEOof(Aの隠語))」と題するスライド(甲185資料Ⅱ1-1の2枚目)の中で,Cの取締役退任後の契約内容として,助言と相談,ロビイング,10年間の競業避止について記載した。また,Eは,同スライド中に,支払われるものが将来の役務の対価でなければならず,取締役であったときの役務に対する報酬ではないこと,取締役であったときの役務に対する報酬であるとすると,その契約又は支払を開示しなければならないこと,顧問料が過去の取締役としての報酬であることが明らかになるリスクを低減するためにCの取締役退任から3か月後に顧問契約を結ぶこと,経営統合の前年度にまとまった金額(lumpsumpayment)の支払がなされたとしても,統合会社はその支払を開示する必要がないこと,統合までのタイムスケジュール(平成25年(2013年)5月に経営統合に合意,同年6月の株主総会でCが被告会社の取締役を退任,同年9月に顧問契約を締結等)等を記載した。 開示する必要がないこと,統合までのタイムスケジュール(平成25年(2013年)5月に経営統合に合意,同年6月の株主総会でCが被告会社の取締役を退任,同年9月に顧問契約を締結等)等を記載した。 4 平成25年(2013年)前半の検討状況平成25年(2013年)2月19日,Eは,被告人Bと打合せを行い,その内 容をまとめた資料(甲185資料Ⅱ2-1)を電子メール(甲185資料Ⅱ2)に添付して被告人Bに送った。Eは,この資料の中の「ISSUES」と題するスライド(甲185資料Ⅱ2-1の1枚目)において,競業避止契約の不開示は統合会社の取引のタイミングによるところが大きいなどと記載した。また,Eは,同資料の中の左上に「Category」と書かれたスライド(甲185資料Ⅱ2-1の2枚目)においては,Cが統合会社のCEOになった場合に得ることとなる報酬の種類について記載した。 しかし,被告会社とF社の経営統合を検討する中で,Cとの契約等を開示しないことが容易ではないことが判明してくると,Cは,経営統合に消極的な姿勢を示すようになり,同年夏頃には,被告会社とF社の経営統合の検討は一旦止めることとなった(甲73)。 第20 「Re: AgreementonCompensationforMr.C asattheendofMarch013」と題する文書の作成状況 1 同文書作成の経緯平成25年(2013年)3月頃,Cは,Dに対して,平成23年(2011年)度及び平成24年(2012年)度のCの報酬について,平成23年(2011年)4月中旬に作成した2011年C・D署名文書と同様の文書を作成するように指示した。また,同じ頃,Cは,Dに対して,平成22年(2010年)度から平成24年(2012年)度までにC 3年(2011年)4月中旬に作成した2011年C・D署名文書と同様の文書を作成するように指示した。また,同じ頃,Cは,Dに対して,平成22年(2010年)度から平成24年(2012年)度までにCに付与されたものの,有価証券報告書の開示報酬額を抑えるために放棄していたSAR(株価連動型インセンティブ受領権)について,放棄ではなく支払を延期した扱いにするように指示した(甲31)。 そこで,Dは,新たな文書の案(甲181資料2)をUに作成させ,平成25年(2013年)4月17日,同文書案をCに提示し,SARについては会計上の処理が済んでおり,SARとして受け取ることはできず,金銭報酬にかえて受け取る場合には,退任後に受け取るのであれば,開示を免れることを説明した。この説明を受けたCは,L(SAR)を公正価額(Fairvalue)で評価した部分に「×」を 記載するとともに,SARの支払のタイミングと詳細は別途確認する旨の文言を入れるようにDに指示した。 上記のCの指示を受けて,Dは,同月19日,同日付けの「Re: AgreementonCompensationforMr.C asattheendofMarch 2013」と題する文書(甲181資料3。以下「2013年C・D署名文書」という。)をUに作成させ(甲107),これをCに提示した。そして,CとDは,同文書にそれぞれ署名した上で,それぞれが保管することとした(甲31)。 2 2013年C・D署名文書の概要2013年C・D署名文書は,2011年C・D署名文書と同様に,冒頭の文章において,「PaymentofapartofthedeterminedremunerationofFY2011 andFY2012 hasbeenpos と同様に,冒頭の文章において,「PaymentofapartofthedeterminedremunerationofFY2011 andFY2012 hasbeenpostponed. Theamountandpaymentmethodareconfirmedasfollows.」と平成23年(2011年)度及び平成24年(2012年)度の決定された報酬の一部の支払が延期された旨とその額と支払方法は以下のとおりである旨の記載があった。 次いで,「1. Remuneration」の項目では,両年度について,確定した報酬額(「FixedRemuneration」),支払済みの報酬額(「PaidRemuneration」)及びその差引額となる延期された報酬額(「PostponedRemuneration」)がそれぞれ1円単位まで記載され,その合計額(「TOTAL」)のほか,為替レート(「Exchangerate」)も記載されていた。なお,平成23年(2011年)度については,同年度の確認用の報酬計算書(甲176資料20)の「GRANDTOTAL」の欄と同じ金額が,平成24年(2012年)度については,平成25年(2013年)度の報酬計算書(甲176資料11)中の「FY2012」の「GRANDTOTAL」の欄と同じ金額が,前記「FixedRemuneration」の欄に,上記の各報酬計算書の「Actuallypaidamount」の欄と同じ金額が前記「PaidRemuneration」の欄に,上記の各報酬計算書の「Remaining」の欄と同じ金額が前記「PostponedRemuneration」の欄にそれぞれ記載されていた。 「2. Payment」の項目では,平 上記の各報酬計算書の「Remaining」の欄と同じ金額が前記「PostponedRemuneration」の欄にそれぞれ記載されていた。 「2. Payment」の項目では,平成25年(2013年)3月末時点でのCへ支払われるべき「PostponedRemuneration」の金額が日本円と米国ドルで記載されているほか,「ThistotalpostponedamountwillbepaidinthefollowingfiscalyearafterMr.C retiredfromDirector. SameasotherexecutiveswhowereChairmeninthepast, Mr.C willbeappointedasExecutiveAdvisororExecutiveConsultantfor 2 yearsafterretirementofDirector.」と,「PostponedRemuneration」の累積額はCが取締役を退任後に支払われ,Cは取締役退任後に2年間,「ExecutiveAdvisor」又は「ExecutiveConsultant」に任命されると記載されていた。 「3. StockOptionsdisclaimed(postponed) inFY2010,2011,and 2012」の項目では,SARについて,支払のタイミングと詳細は別途確認する旨の記載をした上,Cが放棄した(延期された)SARの数等が一覧表にまとめられていた。 同文書の末尾にはCとDの署名があった。 第21 退職慰労金打切支給の増額平成25年(2013年)7月頃,被告人Bは,Cから退職慰労金打切支給の算定の基礎にSA 一覧表にまとめられていた。 同文書の末尾にはCとDの署名があった。 第21 退職慰労金打切支給の増額平成25年(2013年)7月頃,被告人Bは,Cから退職慰労金打切支給の算定の基礎にSARが含まれていないので,金額が少なく決定されているのではないかと質問されたことから,Eに対し,Cの退職慰労金打切支給の算定の基礎にSARが含まれているか,含まれていないとして,含めて算定するといくらになるかをCが知りたがっているので確認するように指示した(E第45回44~45頁,被告人B第55回1~2頁)。Eは,退職慰労金打切支給の算定方法自体を知らなかったため,同月30日,Dに対し,退職慰労金打切支給の算定の基礎となる「変動報酬」にSARが含まれるかを電子メール(甲182資料1)で尋ねた。これに対し,Dは,翌31日,算定の基礎にSARは含まれていない旨を電子メール(甲182資料1)で回答した。 また,Eは,同じ頃,Dに対して,SARを含めて計算した場合に増額する金額について尋ねた。これに対して,Dは,同年8月23日頃,対象者全員について適 用した場合(約52.6億円),今後退職する者に適用した場合(約36.8億円),Cのみに適用した場合(約23.8億円)のそれぞれについて金額を回答した(甲40資料3)。 同年10月21日,Dは,退職慰労金打切支給の計算過程に誤りがあり,実際に増額される金額よりも高い金額を算定して回答してしまったことを,Eに電子メール(甲182資料2)で伝えた。Eは,Dに確認を依頼するとともに,同月23日,被告人Bに状況を報告した(甲182資料2)。そこで,Dは,従前の計算の項目のうち公正価額(Fairvalue)の数字を変更することにより増額分の金額を約24. 2億円と算定し,この結果をEに対して電子メール 状況を報告した(甲182資料2)。そこで,Dは,従前の計算の項目のうち公正価額(Fairvalue)の数字を変更することにより増額分の金額を約24. 2億円と算定し,この結果をEに対して電子メール(甲182資料3)で伝えた。 同月29日,Dは,退職慰労金打切支給の増額が約24億円となったことをCに報告したところ,Cがこれを了解し,増額分について費用計上するように指示してきたので,Dが平成26年(2014年)度に計上する旨返答したことなどを被告人B及びEに電子メール(甲182資料4)で伝えた。 その結果,Cの退職慰労金打切支給のみについて増額処理がなされ,平成26年(2014年)4月,Dは,経理部会計グループに対し,計算間違いがあったとして役員退職慰労金打切支給として約24億円の追加計上を依頼し,その旨の処理がなされた(甲40,104,110,112,114)。 また,上記の処理に関連して,Eの求めにより,平成26年(2014年)度以降の有価証券報告書の貸借対照表の注記として,「固定負債の「その他」には,平成19年6月20日開催の定時株主総会において承認済みの役員退職慰労金の改訂後の金額が含まれている。」が記載された(甲83,112資料3)。 第22 長期インセンティブ・プログラムに関する文書の作成状況及び費用計上の状況等 1 長期インセンティブ・プログラムの概要長期インセンティブ・プログラム(Long-termIncentiveProgram。以下「LTIP」という。)は,もともと北米Aで導入されていた制度を基に,平成23年(2 011年)度に被告会社のグループにおいて導入された制度であり,非取締役である執行役員以下の幹部職員向けに,優秀な人材の勤労意欲を高めるとともに被告会社のグループに引き留めることを (2 011年)度に被告会社のグループにおいて導入された制度であり,非取締役である執行役員以下の幹部職員向けに,優秀な人材の勤労意欲を高めるとともに被告会社のグループに引き留めることを目的としたもので,評価期間(1年又は3年)における業績目標(コミットメントとターゲット)の達成度合いに応じて,一定期間(3年間)の雇用継続や非競業を条件に,ABSの一定割合の金銭報酬を対象者に支給する制度であった(甲34,101)。 LTIPは,社内には周知されておらず,対象者にも秘匿することが求められていた。LTIPの業務は秘書室が担当し,支給予定の合計額のみが経理部会計グループに知らされ,対象者の氏名,人数及び支給額は秘書室において管理されていた(甲101)。 2 「Re: Long-termIncentiveProgramforMr.C」と題する文書の作成状況⑴ 同文書作成の経緯平成25年(2013年)9月23日頃,Dは,平成21年(2009年)度から平成24年(2012年)度のCに付与されるLTIPの権利に関する同日付け「Re: Long-termIncentiveProgramforMr.C」と題する文書(甲183資料6。 以下「LTIP文書」という。)を作成し,Cに提示したところ,Cから,各年度末にLTIPを付与した形にし,業績評価の時期を平成29年(2017年)7月にするように指示された(甲34)。 そこで,Dは,平成25年(2013年)9月27日頃,LTIP文書に記載された平成21年(2009年)度から平成24年(2012年)度までの各年度のCの延期された報酬額(「PostponedRemuneration」)と1円単位まで同額のLTIPの権利を,各年度にそれぞれCに付与することを内容とする通 平成24年(2012年)度までの各年度のCの延期された報酬額(「PostponedRemuneration」)と1円単位まで同額のLTIPの権利を,各年度にそれぞれCに付与することを内容とする通知文書4通(甲183資料8。C宛てのもので,作成日付を各年度に対応したものに遡らせたもの)を作成し,Cに提示した。同文書について,Cが業績評価の時期の記載を削除するように指示してきたことから,Dは,その指示に従って修正した通知文書4通(甲183資料10。以下「バックデートLTIP通知文書」という。)を2部ずつ作 成した。そして,C及びDは,その頃,それらの4通のバックデートLTIP通知文書にそれぞれ署名した上で,それぞれが保管することとし,Cは,これを自宅金庫に保管していた(甲155)。 ⑵ LTIP文書等の概要ア LTIP文書は,2011年C・D署名文書や2013年C・D署名文書と同様に,C宛ての文書で,冒頭の文章の中に,「PaymentofapartofthedeterminedremunerationofFY2009, FY2010, FY2011 andFY2012 hasbeenpostponed. Theamountandpaymentmethodareconfirmedasfollows.」と平成21年(2009年)度から平成24年(2012年)度の決定された報酬の一部の支払が延期された旨とその額と支払方法は以下のとおりである旨の記載があった。その記載の下には表があり,その項目として,「FY2009」から「FY2012」までの確定した報酬額(「FixedRemuneration」),支払済みの報酬額(「PaidRemuneration」)及びその差引額となる延期され として,「FY2009」から「FY2012」までの確定した報酬額(「FixedRemuneration」),支払済みの報酬額(「PaidRemuneration」)及びその差引額となる延期された報酬額(「PostponedRemuneration」)が日本円でそれぞれ1円単位まで記載され(「PostponedRemuneration」については米国ドルでも記載されていた。),その合計額(「TOTAL」)のほか,為替レート(「Exchangerate」)も記載されていた。 イバックデートLTIP通知文書は,C宛ての文書で,冒頭部分に「Undertheprogram, youwillhavetheopportunitytoreceiveanincentivepaymentasdescribedbelow.」とあり,その下の「1. Paymentamount」の項目において,各年度に付与されたLTIPの額が日本円と米国ドルで表記されていた。 また,「2. Conditions(CommitmentandTarget)」の項目には,「Goodcompletionofthe A'sfuturemid-termplanwithevaluationmadebytheCEOafterconsultationwiththeRepresentativeDirectors.」又は「Goodcompletionofthe A Power 88 withevaluationmadebytheCEOafterconsultationwiththeRepresentativeDirectors.」との記載があった。なお,「A Power 88」とは,対象期間 ebytheCEOafterconsultationwiththeRepresentativeDirectors.」との記載があった。なお,「A Power 88」とは,対象期間を平成23年(2011年)度ないし平成28年(2016年)度と する被告会社の中期経営計画のことである。 さらに,「3. Payment」の項目には,「Afterevaluation, itwillbepaidtoMr.C intherequestedcurrency (JPYorUSD) in 2017.」との記載があり,末尾にはCとDの署名があった。 3 「Outlineofthetotalpayments」と題する文書の作成状況平成25年(2013年)10月24日午後6時38分に,Dは,平成21年(2009年)度から平成24年(2012年)度までのCの延期された報酬額やLTIPの費用計上の方針等を記載した日本語の文書を,被告人Bの平成25年(2013年)度の報酬の見通しについて説明する日本語の文書等と共にUに電子メール(甲184資料1)で送ったが,同電子メールには両文書作成の締切日を同じ日(10月25日金曜日)としたほか,確認も同じ日(同月28日月曜日)に行うとする旨の記載があった。平成25年(2013年)10月25日午後0時1分に,Uは,LTIPの費用計上の方針等が記載された前記の日本語の文書を基に作成した「Outlineofthetotalpayments」と題する文書(甲184資料1-2。以下「Outline文書」という。)及び平成25年(2013年)度の被告人Bの報酬について記載した「Paymentcalculation」と題する文書(弁63資料8。日付は「Oct.25,2 。以下「Outline文書」という。)及び平成25年(2013年)度の被告人Bの報酬について記載した「Paymentcalculation」と題する文書(弁63資料8。日付は「Oct.25,2013」)を電子メール(甲184資料1)でDに送付したほか,同日午後2時43分には,作成日付を入力した改訂版のOutline文書(甲102資料3-2。日付は「Oct.28,2013」)をDに電子メール(甲102資料3-1)で送付した。 Outline文書は,その標題の直下に表があり,その表の最も左側に「FY09」から「FY16」の欄が縦に設けられ,その下に「TOTAL」と「GRANDTOTAL」の欄が設けられていた。 その欄の右側には,「Postponed」の欄が設けられ,それが更に「FIXED」と「TBC」に分けられていた。この「FIXED」の,「FY09」の欄には「225,798」,「FY10」の欄には「800,121」,「FY11」の欄には「906,798」,「FY12」の欄には「1,034, 526」,「TOTAL」の欄に「2,967,243」との記載があった一方,「FY13」ないし「FY16」の欄には記載がなかった。他方,「TBC」の,「FY09」ないし「FY12」の欄に記載はなかったが,「FY13」ないし「FY16」の欄にはそれぞれ「1,000,000」が記載され,「TOTAL」の欄には「4,000,000」の記載があった。なお,「FIXED」の項目には,「tobepaidasLTIPinJuly 2017」との記載のほか,「(*1)」の注記があり,その注記は,同表の直下に「Postponedamountof 29.7 willbepaidinJuly 17 as ‶LongTermIn 載のほか,「(*1)」の注記があり,その注記は,同表の直下に「Postponedamountof 29.7 willbepaidinJuly 17 as ‶LongTermIncentivePlanFY2009-2012"」と記載されていた。 また,同表の最も右側には「RetirementAllowance」の欄が設けられ,同欄の「TOTAL」の欄に「6,861,980」,「GRANDTOTAL」の欄に「9,829,223」との記載があった。なお,「RetirementAllowance」の項目には,「(*2)」の注記があり,その注記は,「TheamountoftheretirementallowancewillbedisclosedinthebusinessreporttobeissuedinMay 2018」,「However, nameoftheindividual(s) willNOTbedisclosed.」と記載されていた。 さらに,上記の各注記の下には,「Accounting」という項目が設けられ,「*29.7okuofthepostponedamountwillbooked(ママ) asapartoftheregularLTIP.FromFY2014 to 2016, 10 okuyenineachFY. ItwillbeincludedintheregularLTIPandthenamesoftheparticipantsarenotsharedwithin A andhighlevelofconfidentialityisprotected.」との記載が,「*The eparticipantsarenotsharedwithin A andhighlevelofconfidentialityisprotected.」との記載が,「*Thefutureamount(40 oku?) tobepostpone(ママ) afterFY2013 willbebookedasLTIPorAdviserFeeinaccordancewiththedecisiononhowtomakethepayment.」との記載があった。 4 LTIPに関する費用計上の状況⑴ 平成25年(2013年)9月頃の経理部会計グループとの打合せの状況平成25年(2013年)9月頃,Dは,同年度のLTIPの費用計上のために,経理部会計グループの職員らと打合せを行った。Dは,同職員らに対して,LTIPの制度の概要を説明し,秘匿性の高い制度であるため,同グループには通貨ごと の総額等を伝えるだけで,対象者や個々の支給額等は教えられないと説明した。また,Uから同職員らに対し平成23年(2011年)度から平成25年(2013年)度までのLTIPの支給予定額を記載した資料(甲102資料1)が交付されたが,同資料には支給予定額として各年度約4億円ないし5億円の金額が記載されていた(甲35,102,109)。 ⑵ 4億円の費用計上Dは,未払となっている報酬の支払について実際に費用計上されているのかCが気にしていたことから,平成21年(2009年)度から平成24年(2012年)度までの未払となっている報酬については,本来のLTIPに紛れ込ませて計上した費用の中から支払う方針でいたため,毎年度10億円を追加で費用計上していく必要があると考えた。そこで,D 年(2012年)度までの未払となっている報酬については,本来のLTIPに紛れ込ませて計上した費用の中から支払う方針でいたため,毎年度10億円を追加で費用計上していく必要があると考えた。そこで,Dは,平成26年(2014年)2月中旬以降,経理部担当の常務執行役員であったXに対し,LTIP名目での費用計上について問い合わせるなどした結果,平成25年(2013年)度のLTIPの費用として4億円を計上することとなった。これを受けて,Dは,Uに指示して,同年度のLTIPの支給予定額に4億円を上乗せした資料(甲102資料5)を作成させて経理部会計グループに提出させ,同グループにおいて4億円を上乗せした金額の費用計上を行った(甲35,102,109,111,116)。 ⑶ 2014年5月14日付け「RetirementAllowanceandPostponedRemuneration」と題する文書の作成状況等平成26年(2014年)5月頃,Dは,前記⑵の費用計上の処理を踏まえ,2014年5月14日付け「RetirementAllowanceandPostponedRemuneration」と題する文書(甲102資料6。以下,「RetirementAllowanceandPostponedRemuneration」との標題で,退職慰労金打切支給の金額と各年度のCの確定した報酬額(「FixedRemuneration」),支払済みの報酬額(「PaidRemuneration」)及びその差引額となる延期された報酬額(「PostponedRemuneration」)等が記載された文書を「RAPR文書」と表記する。なお,同文書の「FixedRemuneration」, 「PaidRemuneration」及び onedRemuneration」)等が記載された文書を「RAPR文書」と表記する。なお,同文書の「FixedRemuneration」, 「PaidRemuneration」及び「PostponedRemuneration」の各金額は,各連結会計年度の報酬計算書の「GRANDTOTAL」,「Actuallypaidamount」及び「Remaining」の各金額と同じであった。)をUに作成させた(甲35,102,176)。 同文書には,「1 RetirementAllowance」の項目において,Cの退職慰労金打切支給の金額(前記第21の増額後の金額である68億6178万6101円。同金額の横には「booked」との記載があった。)が記載されていた。 また,「2 Remuneration」の項目には,平成21年(2009年)度から平成25年(2013年)度までの各年度の確定した報酬額(「FixedRemuneration」),支払済みの報酬額(「PaidRemuneration」)及びその差引額となる延期された報酬額(「PostponedRemuneration」。その右横には「Notbooked」との記載があった。)が1円単位まで記載されていた。 さらに,「1 RetirementAllowance」と「2 Remuneration」の総額である「3 TOTAL(1+2)」の欄の下には,「※ Apartofthepostponedremunerationwillbebookedasakindofa(ママ) incentiveplanlikeLTIPbetweenFY13 andFY16」,「Foryourinformation, 400 millionJ kindofa(ママ) incentiveplanlikeLTIPbetweenFY13 andFY16」,「Foryourinformation, 400 millionJPYwasbookedinFY13 asapartofLTIP.」との記載があった。 平成26年(2014年)5月14日頃,Dは,同日付けRAPR文書をCに提示し,延期された報酬のうち4億円が平成25年(2013年)度にLTIPの一部として費用計上されている旨を説明し,今後,毎年度10億円ずつ費用計上する予定であることを説明した。しかし,Cは,その方針を了承せず,平成25年(2013年)度までの未払となっている報酬について平成26年(2014年)度中に一括して費用計上するようにDに指示し,被告会社の最高財務責任者(CFO)であるVに対しCから話をしておくので,心配は不要である旨話した(この指示内容をDから伝え聞いたUが,エクセルのファイルに,「2014年5月14日 ●FY13までのPostponeはFY14に計上(必要であればCEOからCFOへ)」とのメモ(甲184資料4)を残していた。)。 上記のCの指示を受けて,Dは,経理部会計グループとの間で,平成26年(2014年)度のLTIPの費用計上について調整を始め,同年7月31日,同グループの職員らに,同年度のLTIPの費用計上が約50億円になることを電子メール(甲103資料1)で連絡した。 ⑷ LTIPに関する費用の一括計上の指示とその対応平成26年(2014年)10月22日頃,Cは,Dが同日付けRAPR文書(甲184資料5)を提示してCに説明した際,Dに対し,退職慰労金打切支給について為替レートの変動で損害を受けているので,損害を補塡することを求め, 年)10月22日頃,Cは,Dが同日付けRAPR文書(甲184資料5)を提示してCに説明した際,Dに対し,退職慰労金打切支給について為替レートの変動で損害を受けているので,損害を補塡することを求め,平成26年(2014年)度までの未払となっている報酬の累積額約52億円を米国ドルに換算した上(約5800万米国ドル),これにCに対する退職慰労金打切支給の為替変動による損害に当たる金額(約2160万米国ドル)を加算して合計8000万米国ドルとし,その全額を平成26年(2014年)度末に一括して費用計上するよう指示した(この指示内容をDから伝え聞いたUが,同日付けRAPR文書の中に,「InstructionfromtheCEO(2014年10月22日)」とのメモ(甲184資料5)を残していた。)。 平成27年(2015年)1月頃,Dは,上記のCの指示どおり費用計上等の手続を進め,経理部会計グループに対し,平成26年(2014年)度のLTIPの費用が約108億円になる見込みであることを伝えると,Xから,計上する金額があまりにも大きいため,この費用計上についてCからVに対して話をしておいてほしいと要望されたほか,通常の予算とは別にCEOであるCが決裁できるCEOリザーブを用いて申請をしてほしいと伝えられた(甲35,111)。 そこで,Dは,Xの要望内容をCに対して伝え(2015年1月26日付け「DearMr.C」と題する文書(甲184資料7)),Cはこれを了解した。これを受けて,Dは,CEOリザーブの申請文書(甲103資料7)を用意し,平成27年(2015年)2月23日頃,V及びCの署名を得たのち,それを被告会社の経理部に提出した。その結果,平成27年(2015年)4月頃,前記8000万米国ドル に他の対象者に対するLTIP 年(2015年)2月23日頃,V及びCの署名を得たのち,それを被告会社の経理部に提出した。その結果,平成27年(2015年)4月頃,前記8000万米国ドル に他の対象者に対するLTIPの権利を含めた約108億円について費用計上の処理が行われた。ただし,経理部会計グループは,会計士の指摘を受けてこれを3会計年度に按分して計上することとした(甲108,116,138)。 Dは,上記のとおり費用計上の手続が進んだことで,前記8000万米国ドルについて費用計上が済んだことを反映させた2015年2月25日付けRAPR文書(甲180資料4)をUに作成させたが,同年1月26日付けRAPR文書(甲180資料3)では「PostponedRemuneration」の欄の右横に「Notbooked」と記載されていたところ,同年2月25日付けRAPR文書(甲180資料4)では「booked」と記載されていた。同年3月23日頃,Dは,同日付けRAPR文書(甲180資料5)に基づいて上記の費用計上についてCに報告した(甲35)。 第23 「AGREEMENTbetween A AND C」と題する文書の作成状況 1 同文書作成の経緯平成25年(2013年)9月頃,被告人Bは,Cから取締役退任後の契約書案のアップデートを依頼されたため,Eに対して,顧問・競業避止契約書の案の作成を指示した。そこで,Eは,j法律事務所に標準的な顧問・競業避止契約書の作成を依頼し,j法律事務所が作成した契約書案を基に,被告人Bから指示された内容の契約書案を起案し,同年10月18日,被告人Bに電子メール(甲185資料Ⅲ1)で送信した。Eが作成した契約書案である2013年10月16日付け「N0N-COMPETEANDCONSULTINGSERVICES(KO 10月18日,被告人Bに電子メール(甲185資料Ⅲ1)で送信した。Eが作成した契約書案である2013年10月16日付け「N0N-COMPETEANDCONSULTINGSERVICES(KOMON) AGREEMENTbetween [(Aの隠語)]AND [Ⓒ(Cの隠語)]」と題する文書(甲185資料Ⅲ1-1)には,先にC以外の2名の代表取締役が署名した契約書をCに渡し,Cが退任後に署名をしなければ契約の効力が発生しないという「署名の仕掛け(signingmechanism)」が盛り込まれている一方,競業避止料や顧問料については具体的な数字や計算式は記載されていなかった。ただし,「署名の仕掛け」については,j法律事務所の弁護士から,利益相反取引として取締役会の承認を要する旨の指摘を受けた(甲73,132)。 この契約書案について,Eは,被告人Bとの協議の内容を踏まえ,2013年1 0月19日付け「AGREEMENTbetween [(Aの隠語)] AND [Ⓒ(Cの隠語)]」と題する文書(甲185資料Ⅲ2-1)を作成した。この中で,Eは,「署名の仕掛け」を削除し,Cが提供する顧問としての役務の内容を具体化するとともに,競業避止料についてはCの取締役在任時の過去5年間の平均報酬額の10パーセントを,顧問料については同じく20パーセントを,毎年度それぞれ支払うと記載した。その後,Eは,被告人Bとの協議の内容を踏まえ,「AGREEMENTbetween A AND C」と題する文書(甲185資料Ⅲ3-1)を作成し,同月28日,被告人Bに電子メール(甲185資料Ⅲ3)で送信した。 被告人Bは,同文書にIの署名を得るとともに,被告人B自身も署名した上,Cに提出したところ,Cが競業避止料と顧問料の算定方法を修正し 28日,被告人Bに電子メール(甲185資料Ⅲ3)で送信した。 被告人Bは,同文書にIの署名を得るとともに,被告人B自身も署名した上,Cに提出したところ,Cが競業避止料と顧問料の算定方法を修正したので(弁37資料95),被告人Bは,その修正を踏まえて「AGREEMENTbetween A AND C」と題する文書を作成し,これに改めてIの署名を得て,自らも署名したもの(甲185資料Ⅲ4。以下「2013年I・B署名文書」という。)をCに提出した。Cは,2013年I・B署名文書を受け取ったものの,自らは署名しないまま,自宅金庫に保管していた(甲155)。 2 2013年I・B署名文書の概要2013年I・B署名文書には,2011年I署名文書よりも内容が詳細に記載され,Cが相談役(「theAdvisor」)として20年間にわたり同文書の「Section3」の「Services」に定められたアドバイス等を被告会社等に提供するほか,25年間の競業避止義務及び制約(「non-competeobligationsandrestrictions」)を遵守することに合意すること,相談役報酬及び競業避止の対価のいずれについても,Cが被告会社の取締役を退任するまでの直近7年間の金銭報酬額のうち最も高額であった2年間の年額の平均の15パーセント(「fifteenpercent(15%)oftheAdvisor'saverageannualcashcompensationattheCompanyforthetwo(2)bestyearsoutofthelastseven(7) yearsthathewasaDirectoroftheCompany」)を支払うことが記載されていた。 tyearsoutofthelastseven(7) yearsthathewasaDirectoroftheCompany」)を支払うことが記載されていた。 また,「OtherBenefits」として,ブラジル及びレバノンにある被告会社の居住施設をCの使用に供すること(「UseofCompanyresidentialaccommodationin (1)RiodeJaneiro, Braziland (2)Beirut, Lebanon」)などについても記載されていた。 同文書の「SignaturePage」には署名欄が設けられ,一方の欄には被告会社の代表取締役の肩書でI及び被告人Bの署名があり,もう一方の欄には「C」の文字が印字されていたものの,Cの署名はなかった。 第24 平成26年(2014年)における被告人BとEによる検討状況 1 「Notesfor B」と表紙に書かれた資料の作成状況Eは,「Notesfor B」と表紙に書かれた資料(甲185資料Ⅴ1-1)を作成し,平成26年(2014年)10月19日,被告人Bに対して電子メール(甲185資料V1)で送信した。 この中で,Eは,「EXECUTIVESUMMARY」と題するスライド(甲185資料Ⅴ1-1の2枚目)には,Cの取締役退任を平成27年(2015年)2月か同年3月にF社の取締役会に知らせること,退職慰労金打切支給は開示する必要はないが,秘匿を保つには何らかの方法が必要となることのほか,C以外の他の取締役についても退任した後に競業避止契約を結ぶことによって,その後にCが取締役を退任する時に競業避止契約を締結することを目立たなくすることを記載し,「Payments‐Disclosures」と題す 役についても退任した後に競業避止契約を結ぶことによって,その後にCが取締役を退任する時に競業避止契約を締結することを目立たなくすることを記載し,「Payments‐Disclosures」と題するスライド(甲185資料Ⅴ1-1の5枚目)には,j法律事務所の弁護士の意見を踏まえ,被告人Bが採用しようとしている支払方法(退職慰労金打切支給,顧問,競業避止)の問題点とそれへの対処方法を記載し,「PENSION」と題するスライド(甲185資料Ⅴ1-1の6枚目)には,取締役会から2名の代表取締役に対して退職慰労金打切支給の額を決定する権限を委譲すること,2名の代表取締役は退職慰労金打切支給の金額と支給方法を決定することを記載した。また,Eは,「Payments」と題するスライド(甲185資料Ⅴ1-1の7枚目)には,「Theobjective」(目的)と題する表に,平成21年(2009年)度から平成2 6年(2014年)度までの「shortfall」として各年度とも「10」と記載し,「Total & OBJECTIVE」として「60」と記載し,その右側には退職慰労金打切支給の増額分(「PensionEnhancement」)として「25」と記載し,競業避止料(「Non-Compete」)として「35」と記載し,合計(「Total」)として「60」と記載した(単位は億円又は百万米国ドルである(E第32回43頁)。)ほか,「Importantconsiderations」の項目には,外部の専門家は,3年分を超える競業避止契約は正当化が難しくなるおそれがあるとしていると記載した。なお,「Timing」と題するスライド(甲185資料Ⅴ1-1の3枚目)では,Cが平成27年(2015年)6月の株主総会で被告会社の取締役を退任することが想定されて おそれがあるとしていると記載した。なお,「Timing」と題するスライド(甲185資料Ⅴ1-1の3枚目)では,Cが平成27年(2015年)6月の株主総会で被告会社の取締役を退任することが想定されていた(甲74,E第32回38~43頁)。 2 「FY'15 HRPlanning」と表紙に書かれた資料の作成状況前記1の資料を受け取った被告人Bは,その内容を修正したものとして「FY'15HRPlanning」と表紙に書かれた資料(甲185資料Ⅴ2-1)を作成し,平成26年(2014年)10月20日,Eに電子メール(甲185資料Ⅴ2)で送信した。 Eは,被告人Bの指示を踏まえて,同資料を更に修正して完成させたもの(甲185資料Ⅴ4-1)を被告人Bに渡した。 この中で,Eは,「PENSION」と題するスライド(甲185資料Ⅴ4-1の7枚目)には,Cの退職慰労金打切支給の金額の決定を他の2名の代表取締役に取締役会が委任することを記載し,「Payments」と題するスライド(甲185資料Ⅴ4-1の8枚目)には,左側の「shortfall」の合計が「60」との記載は,そのままなのに対し,右側の退職慰労金打切支給の増額分(「PensionEnhancement」)の「25」と競業避止料(「Non-Compete」)の「35」に顧問料(「Consultancy」)の「20」を加えた合計(「Total」)を「80」と記載した(甲74)。 しかし,平成27年(2015年)4月以降,フロランジュ法(フランスの上場会社においては,原則として長期保有株主の議決権を倍にすると定めた法律)の適用を巡ってフランス政府とF社の取締役会が対立する事態となったことなどから, Cが同年6月に被告会社の取締役を退任することはなかった。 第25 退職 主の議決権を倍にすると定めた法律)の適用を巡ってフランス政府とF社の取締役会が対立する事態となったことなどから, Cが同年6月に被告会社の取締役を退任することはなかった。 第25 退職取締役等との契約についての権限委譲に関する取締役会決議 1 平成27年(2015年)4月の取締役会決議に至る経緯平成27年(2015年)3月頃,Cは,Eに対し,退職する取締役と競業避止契約を締結する権限を,取締役会から代表取締役に委譲する旨の提案について検討を指示した。同月31日,Eは,被告人Bに提案のドラフト(甲185資料Ⅵ1-1)を電子メールで送って意見を求めた。そのドラフトでは,退職する取締役との契約が実際の退職の前後のいずれでも可能であるようになっていたが(「Thatdirectorsandseniorofficersretiringfromorleavingthecompany」),被告人Bは,退職する取締役との契約は実際に退職をした当該取締役を相手方とするもの(「Thatdirectorsandseniorofficerswhohaveretiredfromorhaveleftthecompany」)に変更した(甲185資料Ⅵ2-1)。Eは,この変更を反映した案をCに対して報告し,Cの了解を得た(甲75)。 2 同決議の概要平成27年(2015年)4月23日の被告会社の取締役会において,Eが「代表取締役2名以上で構成するコミッティに,退職取締役・役員との契約(コンサルタントサービス契約,競業避止,勧誘禁止に関する契約等)について,会社を代表して交渉,合意する権限を委譲する。CEOに当該コミッティのメンバーを選任する権限を委譲する。」旨の提案(甲185資料Ⅵ4及び同5)を行った 約,競業避止,勧誘禁止に関する契約等)について,会社を代表して交渉,合意する権限を委譲する。CEOに当該コミッティのメンバーを選任する権限を委譲する。」旨の提案(甲185資料Ⅵ4及び同5)を行ったところ,C,被告人BやIら取締役全員がその旨を承認し,同提案は可決された。 第26 「AGREEMENTbetween A AND C」と題する文書の作成状況 1 同文書作成の経緯平成27年(2015年)4月から同年5月にかけて,被告人Bは,CからCの取締役退任後の契約書案のアップデートについて尋ねられたことから,これを作り直すこととし,Eに対し,競業避止と顧問の契約書を分けて起案するように指示した。 他方,被告人Bは,Cの報酬の「shortfall」の正確な額を把握するために,Eに対し,Cの報酬に関する情報をDから得るように指示した。そこで,Eは,Dに依頼してその回答を得て,同年5月22日,その内容(甲75資料9-2)を簡略化した資料(甲75資料10-2)を作成し,これを北米Aの人事担当者宛ての電子メールのCC(カーボンコピー)で被告人Bにも伝えた。同資料のうち,平成20年(2008年)度までの報酬額はCの実際の報酬額であったが,役員報酬個別開示制度の対象となった平成21年(2009年)度以降の報酬額は,いずれも本件有価証券報告書において開示されたものであった。被告人Bは,この資料等を用いて,平成21年(2009年)度から平成26年(2014年)度までの報酬額と,その中で最高額であった平成20年(2008年)度の報酬額との差額を計算してノートに記入した(弁23資料15,被告人B第53回45~48頁)。 平成27年(2015年)5月から同年6月にかけて,被告人Bの指示を受けたEは,競業避止と顧問の契約書案を分けて起 額を計算してノートに記入した(弁23資料15,被告人B第53回45~48頁)。 平成27年(2015年)5月から同年6月にかけて,被告人Bの指示を受けたEは,競業避止と顧問の契約書案を分けて起案し,被告人Bの意見を踏まえて修正する作業を繰り返し,競業避止に関する「AGREEMENTbetween A and C」と題する文書(甲75資料15-2)を作成して被告人Bに送信した。 被告人Bは,同文書の内容をIと確認した上,同月23日頃,Cの執務室で,Cが在室している際に,Iと共に署名したもの(甲185資料Ⅶ4。以下「2015年I・B署名文書」という。)をCに提出した。Cは,2015年I・B署名文書を受け取ったものの,自らは署名しないまま,被告会社の会長室金庫内に保管していた(甲156)。 なお,同月23日頃,被告人Bは,Cとの打合せのためにメモ(弁23資料16)を作成しているところ,そのメモには「Cashshortfallfrom ‘09-‘16」が6500万米国ドルから7000万米国ドルであり,競業避止料の5100万米国ドルに退職慰労金打切支給の訂正分の2200万米国ドルを合わせて7300万米国ドルとの記載がなされ,この合計額について「makesuptheshortfallplus」と記載されていた(被告人B第53回52~54頁,第62回24~27頁)。 2 2015年I・B署名文書の概要2015年I・B署名文書には,2013年I・B署名文書とは異なり,Cが被告会社等に提供するサービスに関する規定はなく,Cが生涯にわたり競業避止義務及び制約(「non-competeobligationsandrestrictions」)を遵守することに合意すること,(競業避止の対価として報酬の3年分を超える Cが生涯にわたり競業避止義務及び制約(「non-competeobligationsandrestrictions」)を遵守することに合意すること,(競業避止の対価として報酬の3年分を超える額の競業避止料を受けることは通常ないとの外部のアドバイスを受けて)Cが被告会社の取締役であった全期間のうち被告会社から受け取った金銭報酬額が最も高額であった年度の3倍の額(「thehighestannualcashcompensationearnedbytheAdvisorfromtheCompanyduringthetimethathewasaDirectoroftheCompany…multipliedbythree(3)」)を一括して支払うことなどが記載されていた。 同文書の「SignaturePage」には署名欄が設けられ,一方の欄には被告会社の代表取締役の肩書でI及び被告人Bの署名があり,もう一方の欄には「C」の文字が印字されていたものの,Cの署名はなかった。 第27 平成28年(2016年)における被告人BとEによる検討状況平成28年(2016年)1月頃,Eは,被告人Bから,電話で,Cに会う予定があるので,検討してきた支払方法の内容を更新する必要があり,これについてEと協議を行いたい旨伝えられた。その後,同年3月頃までの間,Eは,被告人BがCに対して行うプレゼンテーションの資料の中にどのような事項を盛り込むのかについて被告人Bと検討した。その当時,Eと被告人Bとの間では,Cが平成29年(2017年)のいずれかの時点で退任することが想定されていた。 平成28年(2016年)3月9日,Eは,被告人Bとの協議を踏まえて,被告人Bが同月21日に行うプレゼンテーションの資料として「FY (2017年)のいずれかの時点で退任することが想定されていた。 平成28年(2016年)3月9日,Eは,被告人Bとの協議を踏まえて,被告人Bが同月21日に行うプレゼンテーションの資料として「FY17 HRPLANNING」と題する文書(甲185資料Ⅷ1-1の9枚目以降)を作成して被告人Bに渡した(甲76)。 Eは,同文書の「Paymentissues」と題するスライド(甲185資料Ⅷ1-1の10枚目)には,平成28年(2016年)度に秘書室の予算を増額しなければな らないと記載し,「Boardcomposition」と題するスライド(甲185資料Ⅷ1-1の12枚目)には,平成29年(2017年)6月にCとOが取締役を退任し,平成30年(2018年)6月にCが再び取締役に就任し,被告人Bが取締役を退任する旨を記載した。 第28 秘書室の予算増額の状況 1 平成28年(2016年)度の状況平成28年(2016年)2月又は同年3月頃,Dは,Eから,Cの取締役退任後に競業避止契約等の名目でCの累積した未払となっている報酬を支払うので,秘書室の予算を平成28年(2016年)度から毎年度増額させるように指示を受けた。 そこで,Dは,平成28年(2016年)度について,執行役員のABSのベースアップ率を高くするなどして,秘書室で管理する執行役員の報酬等に充てる予算を前年度から約18億円増額させた(甲39,59)。 2 平成29年(2017年)度以降の状況平成29年(2017年)1月30日頃,Dは,被告人B及びEとの打合せの場で,被告人Bから,同年度以降の秘書室の予算を増額することについて指示を受けた(甲39資料1のDの手帳の記載)。 そこで,Dは,執行役員に対する退職慰労金制度が平成29年(2017年)度 せの場で,被告人Bから,同年度以降の秘書室の予算を増額することについて指示を受けた(甲39資料1のDの手帳の記載)。 そこで,Dは,執行役員に対する退職慰労金制度が平成29年(2017年)度に導入されたことに伴う予算計上のほか,前年度と同様にして執行役員の報酬等に充てる予算を前年度から約10億円増額させ,平成30年(2018年)度も同様に約10億円増額させた(甲39,59)。 第29 LTIPの費用計上の取崩しの経緯前記第22の4⑷のとおり,LTIPに関する費用計上は平成28年(2016年)度までに按分して行われることとなっていたが,平成27年(2015年)4月頃,Dは,被告会社の監査法人の公認会計士から,平成26年(2014年)度にLTIPを付与された者について質問され,同年度の対象者の一覧表の提示を求 められた。これに対し,Dは,取締役を対象としていないと回答したほか,本来の対象者である約50名に,対象者となっていない50名ほどを水増しした虚偽の一覧表を作成して前記公認会計士に提示した(甲36,138)。なお,Dは,前記第22の4⑵のとおり,平成25年(2013年)度のLTIPの費用として4億円を計上していたが,平成27年(2015年)4月にこれを取り崩した(甲103,109)。 また,同年11月25日頃,Dは,東京国税局の調査担当者から,平成25年(2013年)度及び平成26年(2014年)度にLTIPによる支払を受けた者の氏名とその金額等の資料の提出を求められた(甲36,184資料12)。 さらに,平成28年(2016年)1月又は同年2月頃,Dは,前記公認会計士から,LTIP等の通知書等の資料の提出を求められた(甲36)。 これらの経緯を経て,Dは,国税局等から資料提出等を求められる危険性を考慮す (2016年)1月又は同年2月頃,Dは,前記公認会計士から,LTIP等の通知書等の資料の提出を求められた(甲36)。 これらの経緯を経て,Dは,国税局等から資料提出等を求められる危険性を考慮すると,平成29年(2017年)度にCに対してLTIPの名目による支払を行うことは困難であると感じ,平成28年(2016年)2月26日頃,同日付け「BasicData」と題する文書(甲184資料13)を作成し,Cに同文書を提示して税務調査があったことなどを報告した上で,LTIPの名目での費用計上を取り崩したい旨を伝えたが,Cから結論は得られなかった(甲36)。 その後,平成28年(2016年)12月に,被告会社は,東京国税局から再び税務調査を受け,平成25年(2013年)度から平成27年(2015年)度までにLTIPによる支払を受けた日本在住の外国人の一覧表の提出を求められた。 平成29年(2017年)1月,Dは,求められた書類(甲36資料3-2)を提出したものの,このまま平成29年(2017年)度にLTIPの名目による支払を行えば,Cに対してLTIPの名目で支払っていることやD自身が以前に前記公認会計士に対して虚偽の事実を報告したことが発覚する可能性があるので,LTIPの費用計上を平成28年(2016年)度中に取り崩す必要があると考え,Cに対し,国税局から再度調査を受けたことなどを報告した上で,費用計上をこれ以上 継続しておくことは困難であると伝えたところ,Cは,費用計上を取り崩すことを了解した(甲36)。 そこで,Dは,費用計上を取り崩すために経理部に提出する2017年1月24日付け「CancelationofFY14 LTIP」と題する文書(甲184資料14)を作成し,Cの署名を得て,同日,これを経理部に提出し,Cの未払 崩すために経理部に提出する2017年1月24日付け「CancelationofFY14 LTIP」と題する文書(甲184資料14)を作成し,Cの署名を得て,同日,これを経理部に提出し,Cの未払の報酬の支払に充てるため費用計上したうちの5000万米国ドル分を取り崩した(甲36)。 第30 平成30年(2018年)1月における被告人BとEによる検討状況平成30年(2018年)1月頃,被告人Bは,Eに対し,電話で,Cがそろそろ退任する時期になったと述べていることを伝えた上で,これまで検討してきた取締役退任後の各種の支払方法とその問題点等について見直しを行いたいこと,また,費用計上の有無についても確認したいことを伝えた(E第33回45~47頁,被告人B第55回29頁)。 そこで,Eは,Dに連絡を取り,退職慰労金打切支給の増額の詳細のほか,Cに発行されたSARの有無・金額や費用計上の有無等について尋ねた。これに対し,Dは,Eに対して,2018年1月16日付けRAPR文書(弁63資料21の1枚目)及び平成22年(2010年)度から平成29年(2017年)度までの間のSAR(L)の一覧表である同日付け「L PersonalInformation」と題する文書(弁63資料21の2枚目)を送った。Eは,それらの文書で得た情報を基にこれまで検討してきた各種の支払方法とそれらの金額,費用計上の有無や開示の問題点等を一覧表(甲186資料5-1)の形式にまとめ,同日,被告人Bに対して電子メールで送信したが,Dから受け取った同日付けRAPR文書は送信しなかった。 上記の一覧表には,支払方法として,「Regularpension」,「Additionalpension」,「Non-compete」,「Consultancy」等の7つの方法に関して た。 上記の一覧表には,支払方法として,「Regularpension」,「Additionalpension」,「Non-compete」,「Consultancy」等の7つの方法に関して,その額(「Amount」),費用計上(「Accrual」)及びコメント(「Comments」)が記載されていたが,Cの報酬に関する記載はなかった。 第31 DeeplyDiscountedStockOptionの導入の検討状況 1 DeeplyDiscountedStockOptionの概要DeeplyDiscountedStockOption(以下「DDSO」という。)は,権利行使価格を1円等の低い価格に設定して対象者に自社の株式を取得する権利を付与し,一定の期間を経過後にその権利の行使が可能になって利益を得るというストックオプションに類する制度であり,権利行使時にはその時点の株価と権利行使価格との差額を会社が対象者に支払うこととなる。有価証券報告書において開示する場合,権利行使可能期間を極めて長期に設定することによって,開示における公正価額(FairValue)が実際の評価額よりも低く算定することが可能となり,低額の開示で済ませることが可能となる仕組みである(甲119)。 c株式会社では,平成29年(2017年)4月の取締役会で,DDSOの導入が決定され,取締役を対象にDDSOが付与されることとなったが,付与数等の決定はCに一任された(甲130)。 2 DDSO導入に関する被告人Bらの検討状況⑴ 平成30年(2018年)6月27日の打合せ被告人Bは,株主総会に合わせて来日中の平成30年(2018年)6月27日,来日時に用いていた被告会社本社の会議室において,D及びEと打合せをし,平成 平成30年(2018年)6月27日の打合せ被告人Bは,株主総会に合わせて来日中の平成30年(2018年)6月27日,来日時に用いていた被告会社本社の会議室において,D及びEと打合せをし,平成31年(2019年)度に被告会社にDDSOを導入する計画を説明し,DDSOの導入を担当していた被告会社の人事部門の常務執行役員であったYらと協力してDDSOの導入に向けた準備を進めるよう指示した(甲37,79,119)。 ⑵ 平成30年(2018年)9月下旬の打合せ平成30年(2018年)9月下旬頃,被告人Bは,前記会議室において,D及びEと打合せを行い,平成31年(2019年)度から被告会社にDDSOを導入するに当たり,このことを平成30年(2018年)11月の取締役会に提案すること,提案に当たってはYと相談しながら進めることを指示したほか,その翌日頃,Cの了解がとれたことをDに伝え,手続を進めるように指示した。 ⑶ 平成30年(2018年)9月下旬のCに対するプレゼンテーション 被告人Bは,Cに対して,DDSOを導入することによってCがどのような利益を受け取ることができるのかについてプレゼンテーションを行うに当たり,その資料の作成をYに依頼した。被告人Bは,依頼に当たり,Cに付与することとするDDSOの「グラントバリュー(grantvalue)」(権利付与時の株価から付与された権利による購入価格(例えば1円など)を差し引くことによって得られるDDSOの実質的な価値のこと)について,Yに対し,既に算定されていた額(約133億円)はもっと減額する必要があるとして,当初90億円を指定し,更に85億円から95億円と改めさせた(2018年9月24日付け「HRDiscussion」と題する資料(甲188資料9))。 億円)はもっと減額する必要があるとして,当初90億円を指定し,更に85億円から95億円と改めさせた(2018年9月24日付け「HRDiscussion」と題する資料(甲188資料9))。 平成30年(2018年)9月24日,被告人Bは,Cに対してプレゼンテーションを行い(甲119,120,153),その中でCの取締役退任後の契約においてCに対しDDSOを付与することを提案し,その内容を説明した。被告人Bの説明を受けて,Cは,DDSOの導入を進めることを了承するとともに,提示された前記資料(甲188資料9)の中のグラントバリューの金額を合計100億円と修正した上で,これを50億円ずつ2回に分けてCに付与する旨の記載をした。このプレゼンテーションを踏まえて,被告人Bは,被告会社におけるDDSOの導入を取締役会に諮る準備を進めた。 他方,Dは,DDSOを既に導入していたc株式会社の株主総会や取締役会の資料を参照したほか,制度設計を担当していたYとの打合せを行うなどして,同年11月の取締役会で平成31年(2019年)度のDDSOの導入について決議するための準備を進めていたが,平成30年(2018年)10月頃になって,東京地方検察庁で取調べを受けるようになったため,DDSOの導入の検討を止めた(甲37)。 Ⅲ 当事者間で争いのある事実関係第1 Payback文書の作成及び平成21年(2009年)度のCの報酬の返金についての被告人Bの関与・認識 1 問題の所在前記Ⅱ第5のとおり,Dが平成22年(2010年)2月にPayback文書を作成した事実が認められるところ,この文書の作成を被告人BがDに指示したのか否かについて,Dと被告人Bの供述は相反している。また,平成21年(2009年)度のCの報酬のうち7億円 yback文書を作成した事実が認められるところ,この文書の作成を被告人BがDに指示したのか否かについて,Dと被告人Bの供述は相反している。また,平成21年(2009年)度のCの報酬のうち7億円が返金されているところ,その事実を被告人Bが認識していたのか否かについても,Dと被告人Bの供述は相反しており,上記の各点について検察官と弁護人との間で争いがあるので,以下検討する。 2 Dの証言要旨役員報酬個別開示制度に関する金融庁の案が公表された後の平成22年(2010年)2月中旬頃,Dは,被告人Bから,日本の経営トップの報酬について日本人の感覚としていくらぐらいが妥当と思うかを尋ねられ,一桁(ひとけた)億円という意味で1ビリオン以下だろうと回答した(D第3回46~47頁,第15回19頁,29頁)。また,Dは,被告人Bから,Cが平成21年(2009年)度に受け取る報酬額を尋ねられ,16億円であると回答したほか,うち12億円は同年度に通常どおり支払ったものであり,残りの4億円は,平成20年(2008年)度にCに支払った報酬のうち取締役の総報酬額の開示の関係で平成21年(2009年)3月末に4億円を戻してもらい,翌4月に払ったものであることを説明した(D第3回48~49頁,第15回33頁)。 そして,平成22年(2010年)2月22日,Dは,被告人Bから,平成21年(2009年)度のCの報酬額について,①平成21年(2009年)度の報酬のうち7億円を被告会社に返金し,翌年度に支払うという方法,②平成21年(2009年)度の報酬のうち3億円を被告会社に返金し,翌年度に支払うとともに,平成21年(2009年)度の報酬のうち4億円をF・A会社が支払ったこととする方法の2つの案について話され,これらについてCに説明するために長所と短所をまとめた 社に返金し,翌年度に支払うとともに,平成21年(2009年)度の報酬のうち4億円をF・A会社が支払ったこととする方法の2つの案について話され,これらについてCに説明するために長所と短所をまとめた文書をすぐに作るよう指示された(D第3回47~48頁,50頁,第15回34~35頁,40頁)。指示を受けたDは,慌ててPayback文書 を作成し,その日のうちに被告人Bに渡した(D第3回50頁,53頁,第15回46~47頁)。 Dは,F・A会社を利用する上記の②案については,金融庁や税務当局等への発覚リスクやオランダから日本に送金を行う際の所得税の処理の問題等の複数の懸念を抱いており,これらの懸念をCに伝えるためにConcern文書を作成してCに対して提出し,F・A会社を関与させることの懸念を伝えた。もっとも,Cは,Dの説明に対して特段の指示をしなかった(D第3回57~60頁)。 同月下旬頃,Dは,被告人Bから,平成21年(2009年)度のCの報酬16億円のうち7億円を平成22年(2010年)3月末までに被告会社に戻し,翌年度にF・A会社から支払う方法を採る旨を伝えられた(D第4回1~2頁)。被告人BにはCから7億円の返金があったことを伝えているはずだが,具体的な記憶はない(D第16回37~38頁)。 3 被告人Bの公判供述要旨被告人Bは,Payback文書を見たことはなく,Dが証言するような2つの案をDに伝えたことはないし,Cに説明するため,2つの案についてメリットとデメリットを記載した書面をまとめてほしいと依頼したこともない(被告人B第50回46頁,52頁)。 被告人Bは,当時,DからCの報酬額を聞いておらず,Cが報酬としていくらもらっているか全く知らなかったため,Payback文書にある「7oku-yen」とD 被告人B第50回46頁,52頁)。 被告人Bは,当時,DからCの報酬額を聞いておらず,Cが報酬としていくらもらっているか全く知らなかったため,Payback文書にある「7oku-yen」とDに言うことはありえない。7億円という返還する金額についてDから言われたこともない(被告人B第50回48頁)。 被告人Bは,平成22年(2010年)2月の段階で,Cが平成20年(2008年)度に報酬の一部を被告会社に返還したことは知らなかったから,前年度と同様に報酬の一部を返還して翌年度に支払を受ければよいというアイデアを被告人BがDに伝えることはない(被告人B第50回48~49頁)。 被告人Bは,当時,F・A会社からCに対して支払を行うとすれば,その支払額 はCのF・A会社に対する役務の対価でなければならず,CがF・A会社に何らの役務も提供しない状態で被告会社の報酬の一部をF・A会社経由で支払う場合は,形式上はF・A会社が支払っているとしても,その金額を被告会社が開示しなければならないと考えており,被告会社の報酬をF・A会社に付け替えることはできないと理解していた。また,被告人Bは,当時,Cが報酬の一部を被告会社に返還することはできるが,税金の問題で税務当局等と問題が生じる可能性があると考え,この問題が解決されなければ報酬を返還する方法は採りえないと考えていた(被告人B第50回56~57頁)。 結局,被告人Bは,平成21年(2009年)度末の時点で,同年度のCの報酬の一部が被告会社に返金されたことは知らなかった(被告人B第56回16~18頁)。 Qメモには「OurintentionwastofindanapproachwherewecoulddeferFY09 compensationtoFY10 an 頁)。 Qメモには「OurintentionwastofindanapproachwherewecoulddeferFY09 compensationtoFY10 andprovidethatcompensationinFY10 inamannerwhichwouldnotrequiredisclosure.」との記載があるところ,被告人Bは,この記載の趣旨について,Qが外部の弁護士とともに検討した結果,合法的にある年度において返金を行い,翌年度にそれを支払うアプローチが可能かを検討したが,そのような合法的なアプローチはなかったという結論が記載されていると理解している。平成21年(2009年)度中に報酬を返還し,その返還した報酬の支払を平成22年(2010年)度に延期して開示を必要としない方法で支払う方法があるかを模索することが目的であったという意味ではない。特定の会計年度に支払われるべき報酬を次の年度に回すということをQは推奨していなかった(被告人B第58回17~19頁,第62回4~5頁)。 4 検察官の主張検察官は,C及び被告人Bらは,平成22年(2010年)2月頃,役員報酬個別開示制度が導入される見通しとなったことを踏まえ,Cの報酬の一部を有価証券報告書における開示を避けてCに支払う方法について検討することとし,同月から 同年3月にかけて,有価証券報告書において開示する平成21年(2009年)度のCの報酬額を10億円未満に抑える方策を検討していたが,被告人Bは,Qに法的問題の検討を依頼するとともに,Dに指示してPayback文書を作成させ,それをもってCに提案するなどしたところ,Cは,被告人Bの意見を踏まえ,平成22年(2010年)3月下旬頃,既に支払済みの報 問題の検討を依頼するとともに,Dに指示してPayback文書を作成させ,それをもってCに提案するなどしたところ,Cは,被告人Bの意見を踏まえ,平成22年(2010年)3月下旬頃,既に支払済みの報酬のうち7億円を同月末までに被告会社に一時的に返金し,翌年度にF・A会社からまとめてその支払を受ける方法を採用することを決め,報酬の返金等に係る手続を進めるようにDに指示し,それを受けてCが7億円を被告会社に一時的に返金したと主張する(論告62~64頁)。 そして,検察官は,その理由として以下の4点を指摘する。 ① D証言は,被告人BがPayback文書の作成日の前日である平成22年(2010年)2月21日にQから受け取ったQメモと極めて整合性を有している。 すなわち,Payback文書に記載された2つの方法は,「Cが報酬の一部を一旦被告会社に返金して翌年度に支払を延期する」,「F・A会社からCに対する報酬であるかのような体裁をとることで有価証券報告書における開示を避ける」という点において,被告人BがQメモに記載された検討結果をアレンジして組み合わせたものであることは明らかである(論告63頁)。 ② Payback文書の「Op2」に記載されているF・A会社について,Dは,被告人BからF・A会社に付け替えると言われて,そういう方法があるのだと思い印象に残っており,F・A会社という会社の中身まではよく知らなかったので,当時アライアンス・オフィスの長であったMに確認していろいろと教えてもらったという趣旨の説明をしており,その説明に特段不自然な点はない(論告63~64頁)。 ③ Qメモの内容とPayback文書の内容の共通性に照らすと,Payback文書のアイデアはQメモに由来することは疑いようがなく,Dの発案とは考えられない。仮にDが い(論告63~64頁)。 ③ Qメモの内容とPayback文書の内容の共通性に照らすと,Payback文書のアイデアはQメモに由来することは疑いようがなく,Dの発案とは考えられない。仮にDがPayback文書の作成指示を受けたのが被告人BからではなくCからだったとすると,CがDに2つの案を説明した上でわざわざ2つの 案をC宛てに提案する内容の資料を作成させるのは不自然である(論告64頁)。 ④ 仮にDがCの指示に従ってPayback文書を作成し,Cに提案を行ったのだとすると,その後まもなく,DがCにConcern文書を用いて平成21年(2009年)度のCの報酬の処理においてF・A会社を利用することのリスクをCに指摘したことと一貫性を欠く(論告64頁)。 5 弁護人の主張弁護人は,被告人Bは,既に受領した報酬の一部を被告会社に返金した場合,返金した額を控除した額を報酬とすればよいのか,また,F・A会社のような非連結子会社から報酬を受けた場合,その報酬は何に対するものでなければならないかについて,Qに意見を求めていた最中であり,DにPayback文書を作成させるようなことはあり得ないと主張する(弁論61~81頁)。 そして,弁護人は,その理由として主に以下の5点を指摘する。 ① Qメモでは,返金がされた場合,それは開示する必要がないとしか記載されておらず,その返金を再び被告会社からCに支払うことへの言及などは一切ないのに対し,Payback文書では,返金のみならず,その後に同額を再び被告会社から支払うこととされている。また,Qメモでは,CのF・A会社に対する貢献の対価としてF・A会社がCに報酬を支払うものとされているのに対し,Payback文書では,F・A会社から支払を受けるのは被告会社とされ,CのF・ いる。また,Qメモでは,CのF・A会社に対する貢献の対価としてF・A会社がCに報酬を支払うものとされているのに対し,Payback文書では,F・A会社から支払を受けるのは被告会社とされ,CのF・A会社に対する貢献を要するのかについての視点は含まれていない。さらに,Qメモでは,返金された場合の金融庁や税務当局の反応を懸念事項として挙げているのに対し,Payback文書では,返金された場合でも税務当局に対する説明は可能であるとされている。このように,Payback文書は,Qメモとは内容が異なっている(弁論67~74頁)。 ② Dが16億円というCの報酬額をCの承諾なく被告人Bに伝えたとは考えられず,そのような流れでPayback文書の作成を指示されたというのは信用できない(弁論64~66頁)。 ③ 検察官の理由②の点は,実際にはCとの間であったやり取りを被告人Bとの間であったやり取りに置き換えて証言すれば述べられることであり,D証言の信用性を高める事情とはならない(弁論81頁)。 ④ Qメモに基づいて被告人Bからの説明を聞いたCが,C以外に唯一Cの報酬について知っているDに対してPayback文書の作成を指示し,被告会社への返金やF・A会社からの支払について,具体的な金額を当てはめた場合にどのようになるのかを知りたいと考えても不自然ではない(弁論81頁)。 ⑤ Dの証言を前提にすると,Dは,被告人Bに相談することなくCにConcern文書を見せたことになるが,それでは被告人Bの案を陰でつぶそうとしたことになり不自然である一方,DがPayback文書に基づき2つの案をCに説明したとすれば,その後にDが被告人Bに相談することなくCにConcern文書を見せたというのは自然である(弁論78頁)。 6 当裁判所の判 一方,DがPayback文書に基づき2つの案をCに説明したとすれば,その後にDが被告人Bに相談することなくCにConcern文書を見せたというのは自然である(弁論78頁)。 6 当裁判所の判断⑴ Payback文書作成への関与前記Ⅱ第5の1のとおり,PayBack文書には,7億円を被告会社に返金する方法やF・A会社から被告会社に支払う方法が記載されているところ,前記Ⅱ第4の2⑵のとおり,Qメモには,Cが当年度中に報酬の一部を被告会社に返金することで開示を避ける方法やF・A会社からCの報酬を支払うことで開示を避ける方法が記載されていた。そうすると,Payback文書とQメモの記載内容は,整合するものといえる。 他方で,Qメモには具体的な金額について記載はないが,Payback文書には支払時期や支払金額についての記載がある。また,QメモのF・A会社に関する記載は,CのF・A会社に対する貢献の対価としてF・A会社がCに報酬を支払うものとされているのに対し,Payback文書には,CのF・A会社に対する貢献を要するのか否かについての記載がない。このように,Payback文書とQメモの内容には差異があることから,Payback文書は被告人Bの説 明内容がそのまま反映されたものとはいえない。 また,Dの証言を前提にすると,Dは,被告人Bに相談することなく,F・A会社を利用することの懸念を説明するためCに対してConcern文書を提示したことになるが,Payback文書で書かれた2つの案をCに提案することを被告人Bから告げられていながら,この案のうちの1つに反対する内容を上司である被告人Bに話すことなくCに説明したというDの証言内容には不自然さが残る。Dが平成22年(2010年)2月22日にCから上 告人Bから告げられていながら,この案のうちの1つに反対する内容を上司である被告人Bに話すことなくCに説明したというDの証言内容には不自然さが残る。Dが平成22年(2010年)2月22日にCから上記の2つの案の説明を受け,それらの長所と短所を文書にまとめるように指示を受け,Payback文書を作成してCに説明した後になって,F・A会社からの支払を行うことに懸念を抱き,同月25日に,CにConcern文書を提出したという経緯も十分に考えられる。 さらに,検察官は,仮にDがPayback文書の作成指示を受けたのが被告人BからではなくCからだったとすると,CはDに2つの案を説明した上でわざわざ2つの案をC宛てに提案する内容の資料を作成させたことになるが,それは不自然であると主張する(論告64頁)。しかし,Qメモに基づいて被告人Bから説明を聞いたCが,Dに対して,被告会社への返金やF・A会社からの支払について,具体的な金額を当てはめた上でその長所と短所を検討させることは十分にあり得ることであって,必ずしも不自然とはいえない。 以上のとおり,被告人BがPayback文書の作成に関与していなければ不自然であるとまではいえない。前述したとおり,Dが協議・合意の当事者であり,基本的にその供述内容には客観的な証拠や信用性の高い第三者の供述等による裏付けの有無等を踏まえて慎重に検討すべきところ,そのような裏付け証拠は存在しないし,前後の事実関係からDの証言内容が確かであるともいえない。したがって,Payback文書の作成への被告人Bの関与に関するDの証言は信用し難い。 そして,Dの証言を除いて被告人BがPayback文書の作成に関与したことを示す証拠は存在しないことからすると,被告人BがDに対してCの報酬の一部返金とF・A会社を利用した 証言は信用し難い。 そして,Dの証言を除いて被告人BがPayback文書の作成に関与したことを示す証拠は存在しないことからすると,被告人BがDに対してCの報酬の一部返金とF・A会社を利用した支払等について教示してPayback文書の作成 を指示したとは認められない。 ⑵ 7億円返金についての認識前記⑴と同様に,Dが被告人BにCの報酬のうち7億円が返金された事実を伝えた旨のDの証言については,その内容が曖昧である上,裏付け証拠もないことから,信用し難い。 そして,Dの証言を除いて被告人Bが7億円の返金の事実を認識していたことを示す証拠は存在しないことからすると,Cの報酬の返金額が7億円であることを被告人Bが認識していたとは認められない。 しかしながら,前記Ⅱ第4の2⑵のとおり,役員報酬個別開示制度の導入に際して,有価証券報告書における開示を避けるために,被告人Bが,Qメモ等を用いて,Cが平成21年(2009年)度の報酬の一部を当年度中に被告会社に返金することで開示を避ける方法をCに説明した際に,F・A会社からCの報酬を支払うことで開示を避ける方法についても説明がなされていたところ,Qメモの記載(「OurintentionwastofindanapproachwherewecoulddeferFY09 compensationtoFY10 andprovidethatcompensationinFY10 inamannerwhichwouldnotrequiredisclosure.」)からは,被告人Bらが平成21年(2009年)度のCの報酬の支払を平成22年(2010年)度に延期して同年度に開示を避けてその報酬を支払うことを意図していたことは明らかである。弁護 losure.」)からは,被告人Bらが平成21年(2009年)度のCの報酬の支払を平成22年(2010年)度に延期して同年度に開示を避けてその報酬を支払うことを意図していたことは明らかである。弁護人は,過去形の文章であることから,上記の記載は,被告人Bらが検討したものの断念した過去のアプローチについてのものである旨主張するが(弁論50~52頁),「was」との記載だけから上記の意図が断念されたとはいえない。したがって,被告人Bは,Qメモ等を用いてCに説明をした際に,Cの報酬の一部を被告会社に返金し,返金した報酬を翌年度に開示を避けて支払う方法として,F・A会社からの支払方法をCに提案したものと認められる。そして,Qメモの記載のとおりに実際に返金がなされ,その後も引き続いてF・A会社からの支払方法について被告人Bが検討を続けていたのであるから,被告人Bにおいても,Cの報酬の一部が返金された事実は当然に認識 していたものと考えられる。したがって,被告人Bは,「7億円」という具体的な金額まで認識していたかはともかく,Cが同年度の報酬の一部を被告会社に返金したこと自体は認識していたものと認められる。 第2 F・A会社等の非連結会社からの支払方法に関する検討についての被告人Bの関与・認識 1 問題の所在前記Ⅱ第8及び第9のとおり,被告人Bは,F・A会社やWといった非連結会社からの支払方法を検討しているところ,非連結会社からの支払方法が有価証券報告書における開示を避けてCの報酬の一部を支払うための方法として検討していたものか否か,検討の過程で作成されたOptions文書の作成への被告人Bの関与状況,W設立の趣旨・目的等について,検察官と弁護人との間で争いがあるので,以下検討する。 2 Dの証言要旨前記第1の2に加えて の過程で作成されたOptions文書の作成への被告人Bの関与状況,W設立の趣旨・目的等について,検察官と弁護人との間で争いがあるので,以下検討する。 2 Dの証言要旨前記第1の2に加えて,Dは,平成22年(2010年)3月以降,F・A会社からCに報酬を支払う方法を検討する中で,被告人Bから,Cにだけ支払うと不自然なので,ダミーとして何人かにも支払うこととする旨の話を聞いた。F・A会社からCへ支払う方法を断念し,WからCに支払う方法を検討した際にも被告人Bから同様の話をされた(D第4回20~21頁,48頁)。 3 被告人Bの公判供述要旨前記第1の3に加えて,前記Ⅱ第8の2⑵のOptions文書を用いたDとの打合せにおいて,被告人Bは,Dからpayrollのトライアルをすると聞き,Dが「dummy」と表現したので,それをそのまま書き留めたにすぎない(被告人B第51回23~24頁)。 4 検察官の主張⑴ F・A会社からの支払方法の趣旨・目的及びOptions文書についての被告人Bの関与 検察官は,被告人Bは,Cの「未払報酬」について開示を避けつつ確実にCに支払う方策として,F・A会社からの報酬の名目で支払う方法を検討していたもので,平成22年(2010年)夏頃,Dに対し,開示を避けてCの報酬の一部を支払う方法として,F・A会社からの支払方法の代替手段と考えられる支払方法と,それぞれの長所・短所等をまとめるように指示し,その指示に基づいて,DがOptions文書を作成したものであると主張する(論告15頁)。 検察官は,その理由として,Options文書に記載された7つの各方法が相互に「代替」たり得るのは,それぞれの支払名目におけるCに対する支払の実質が,いずれも有価証券報告書における開示を避けてC 検察官は,その理由として,Options文書に記載された7つの各方法が相互に「代替」たり得るのは,それぞれの支払名目におけるCに対する支払の実質が,いずれも有価証券報告書における開示を避けてCの報酬の一部を支払おうとするものであるという意味で共通しているからであると主張する(論告15~16頁)。 また,検察官は,CのF・A会社における貢献については,従前,被告会社では被告会社の取締役としての職務執行に対する貢献と捉え,これに対する対価は被告会社の報酬と位置づけていたものであり,役員報酬個別開示制度の導入の前後で,上記の構造に特段の変化は認められないから,これをF・A会社の報酬という位置づけに変化させることは,有価証券報告書における開示を避けるために形式を操作するもので,脱法の試みにすぎず,F社側で開示が必要になったという理由でF・A会社からの支払方法を断念したことがその証左であると主張する(論告17頁)。 さらに,検察官は,被告人BがCにだけ支払うと不自然なので,ダミーとして何人かにも支払うこととする旨の話をしていたとのDの証言内容は,Options文書(弁24資料50)の書き込みによって裏付けられており,高い信用性があると主張する(論告65頁)。 ⑵ W設立の趣旨・目的検察官は,被告人Bは,有価証券報告書における開示を避けてCの報酬の一部を支払う方法として,当初「F・A会社からCへの支払」を念頭に準備を進めていたが,F社側で開示されるおそれが高いことが判明したため,平成22年(2010年)秋頃,Cに対する報酬の一部をF・A会社から支払うことを断念し,これに代 えて,Options文書のオプション2の「2 Aの非連結会社で支払う」方法を模索することとし,そのために新たに設立した被告会社の非連結子会社であるW 会社から支払うことを断念し,これに代 えて,Options文書のオプション2の「2 Aの非連結会社で支払う」方法を模索することとし,そのために新たに設立した被告会社の非連結子会社であるW1の子会社W2からCに支払を行うことで有価証券報告書における開示を避ける方法を検討しようとしたものであると主張する(論告17頁)。 検察官は,その理由として,Options文書(弁24資料50)に書き込まれた日付(「9/2/10」)からすると,被告人Bが同文書にある非連結子会社からの支払方法について目にした時期とコーポレート・プランニング部門のゼネラル・マネージャーが非連結子会社に関する提案資料(弁24資料51)を作成した時期が接近していたことや,F・A会社からの支払方法を断念したのと同時期に,Dが非連結子会社から報酬を支払うプロセス案等の資料(甲179資料Ⅱ14-1)を被告人Bに提供していたことを挙げている(論告18頁)。 5 弁護人の主張⑴ F・A会社からの支払方法の趣旨・目的弁護人は,被告人Bは,Qから,F・A会社がCに報酬を支払うのであれば,その報酬はF・A会社の役務の対価でなければならないとの報告を受けていたし,Dが作成した2010年6月12日付け「F・A会社 payrollProcess」と題する文書(弁24資料39)においても,F・A会社のpayrollによって支払が行われる場合には,それはF・A会社での仕事の対価であること,つまりC又はその他の個人がF・A会社から報酬を受ける場合には,それはF・A会社における役務の対価でなければいけないということが書かれていることから,F・A会社からの支払は合法であることを前提にしていたと主張する(弁論273~289頁,291~292頁)。 また,弁護人は,Option 価でなければいけないということが書かれていることから,F・A会社からの支払は合法であることを前提にしていたと主張する(弁論273~289頁,291~292頁)。 また,弁護人は,Options文書の書き込みは被告人Bがしたものであるが,F・A会社のために仕事をするC以外の人に対しても支払をすることを計画し,F・A会社で雇用することを想定していた10人強のうちの4人か5人程度についてpayrollのトライアルを実行する必要があるとのことで,その四,五人について「as dummy」とDが述べたので,それをそのまま記載したものであり,Cの支払を目立たなくするためのダミーという意味ではないと主張する(弁論191~198頁)。 弁護人は,その理由として,被告人Bは,F・A会社から給与を受ける人に関して,何人かの具体的な名前を実際にCに対して伝えたことがあり,平成22年(2010年)7月20日と思われる日付が記載された被告人Bの手書きのメモ(弁23資料2)の中に「Listof F・A会社 employees」という記載があり,これは,被告人BがF・A会社から支払を受ける従業員にしてはどうかとCに対して提案した人の名前であると主張する(弁論194~196頁)。 ⑵ Options文書についての被告人Bの関与弁護人は,Options文書は,Dが作成したもので,被告人Bの考えを反映したものではなく,Options文書に記載されているのは支払方法であり,支払う対象が「未払報酬」であることを示す記載はなく,文面にはない支払の対象をベースに行われている検察官の主張は憶測にすぎないと主張する(弁論295頁)。 ⑶ W設立の趣旨・目的弁護人は,被告人Bの供述(被告人B第51回25~44頁,第57回1~18頁)を踏まえて,W スに行われている検察官の主張は憶測にすぎないと主張する(弁論295頁)。 ⑶ W設立の趣旨・目的弁護人は,被告人Bの供述(被告人B第51回25~44頁,第57回1~18頁)を踏まえて,Wは,Vらが正当な目的で提案し,経営会議の承認を得て設立された会社であるが,CがWから適法に開示を避けて支払を受けられないかと言い出したことから,被告人Bにおいてその検討を行ったものであって,当初からCの報酬の一部を有価証券報告書における開示を避けて支払うための手段として設立されたものではない旨主張する(弁論296~311頁)。 6 当裁判所の判断⑴ F・A会社からの支払方法の趣旨・目的前記第1の6⑵で認定したとおり,被告人Bは,Qメモ等を用いてCに説明をした際に,平成21年(2009年)度のCの報酬の一部を被告会社に返金し,返金した報酬を翌年度に開示を避けて支払う方法として,F・A会社からの支払方法をCに提案し,引き続き検討していたものと認められるから,被告人Bが行っていた F・A会社からの支払方法の検討は,Cの報酬の一部返金に引き続いて,その後の年度のCの未払の報酬についても開示を避けて支払うためであったと考えられる。 また,Dは,被告人Bから,Cに対してF・A会社から支払を行ったことが社内外に知られたときに備え,C以外の者に対してもF・A会社から支払を行うことを検討するように指示されたと証言しているところ,被告人Bが行ったOptions文書への「possibility」,「10 orplusasdummy」,「pay 4 or 5 individuals」との書き込みは,Dが証言するところの被告人Bの指示内容と符合するもので,Cへの支払を目立たなくするためのダミーという意味であったと考えられる。そうすると,F・ or 5 individuals」との書き込みは,Dが証言するところの被告人Bの指示内容と符合するもので,Cへの支払を目立たなくするためのダミーという意味であったと考えられる。そうすると,F・A会社からの支払方法は,開示を避けてCの報酬の一部を支払うための方法であって,真にCのF・A会社における役務の対価を支払う趣旨のものとは認められない。 なお,前記Ⅱ第8の1⑵のとおり,被告人Bは,有価証券報告書において,特定の取締役の報酬に関する情報を欠落させた場合の刑事罰等についてQから情報を入手し,Cに報告しているが,このような被告人Bの行動は,「F・A会社からの支払方法は,CのF・A会社における役務の対価を支払うものであり,合法であることを前提にしたものであった。」旨の被告人Bの説明内容とは相容れないものといわざるを得ず,F・A会社からの支払方法に関する被告人Bの供述は信用し難い。 ⑵ Options文書についての被告人Bの関与前記Ⅱ第8の1のとおり,Options文書の内容からDが自発的に同文書を作成したとは考え難いことや,被告人BがOptions文書を用いてDと打合せをしていたことからすると,被告人Bの指示によりOptions文書が作成されたものと考えられる。そして,Options文書には,開示を避けることが「Pro」すなわち長所とされ,開示をされることが「Con」すなわち短所とされていることからすると,Options文書を用いた被告人BとDの打合せが,開示を避けてCの未払の報酬を支払う方法について検討を行うものであったことは明らかというべきである。 ⑶ W設立の趣旨・目的前記Ⅱ第9の1のとおり,社内からの提案を受けて,経営会議の承認を得てWが設立されていることから,被告会社においても新しい投資会社 かというべきである。 ⑶ W設立の趣旨・目的前記Ⅱ第9の1のとおり,社内からの提案を受けて,経営会議の承認を得てWが設立されていることから,被告会社においても新しい投資会社を設立する必要性があったと認められる。また,Wにおいていくつかの投資案件が検討されていた事実も認められることからすると,W設立の趣旨・目的の中には投資案件を扱うという正当な目的もあったことは否定できないものと思われる。 しかしながら,前記Ⅱ第9の3のとおり,結局のところ,Wにおいて投資案件は一件も実行されず,不動産物件の取得以外に目立った活動をしていないことからすると,投資が主たる目的でなかったことは明らかというべきである。Wの設立について検討が開始された時期がF・A会社からの支払方法を断念した時期と軌を一にしていることからすれば,Wも同じ非連結会社であるF・A会社と同様に有価証券報告書における開示を避けてCの未払の報酬を支払うための手段とすることがその設立の主たる目的であったと認められる(この点について,被告人Bは,捜査段階において,W2の設立目的はCの報酬を支払うこと以外になかった旨供述している(乙29)が,この内容は,上記の認定と整合するもので信用できる。)。 第3 Payment文書の作成への被告人Bの関与 1 問題の所在前記Ⅱ第11及び第12のとおり,平成23年(2011年)2月から同年4月にかけて,複数のPayment文書がDによって作成されているところ,同年3月1日付けのものと同月14日付けのものについて,被告人Bがその作成に関与し,その内容を把握していたか否かについて,検察官と弁護人との間で争いがあるので,以下検討する。 2 Dの証言要旨⑴ 2011年3月1日付けPayment文書等の作成状況平成2 関与し,その内容を把握していたか否かについて,検察官と弁護人との間で争いがあるので,以下検討する。 2 Dの証言要旨⑴ 2011年3月1日付けPayment文書等の作成状況平成23年(2011年)2月末頃,Dは,被告人Bから,Cの報酬の一部を支払う方法として,①LTCIPにより支払う方法,②退職慰労金打切支給で支払う 方法,③取締役退任後に相談役の報酬に加えて支払う方法,④Wから支払う方法と,それらの方法の法律や経理の観点からの問題点や,取締役の報酬について税務当局や金融庁から過去に指摘のあった事項についてまとめた文書を作成するように指示された(D第6回9頁,12頁,14頁,第18回23頁)。 そこで,Dは,上記の①ないし④の方法について,会社法,所得税法及び法人税法の3つの法律に関する検討結果を記載するなどした同年3月1日付けPayment文書と同日付け「InvestigationonDirectorsRemuneration」と題する文書(甲179資料Ⅴ3-1-2)を作成し,これらを同月7日に電子メール(甲179資料Ⅴ3)で被告人Bに送信した(D第6回18頁)。 ⑵ 2011年3月14日付けPayment文書等の作成状況前記⑴のDが送付した電子メールに対し,被告人Bから,Cに対して提案をするので,内容をより簡素にし,長所,短所等を記載するように指示があった(D第6回19~20頁,第18回31~32頁)。そこで,Dは,2011年3月1日付けPayment文書の内容を簡略化し,長所と短所の項目を加えた同月14日付けPayment文書(甲179資料Ⅴ4。標題が「PaymentforCEO(Ⓑ) [Bの氏名の頭文字のアルファベット2字]」であるもの)を日本語で作成し,これをUに英訳させたも た同月14日付けPayment文書(甲179資料Ⅴ4。標題が「PaymentforCEO(Ⓑ) [Bの氏名の頭文字のアルファベット2字]」であるもの)を日本語で作成し,これをUに英訳させたもの(甲179資料Ⅴ5。標題が「PaymentforCEO」であり,「(Ⓑ)[Bの氏名の頭文字のアルファベット2字]」の記載はないもの)を,同日,被告人Bに対して提出した(D第6回19~22頁,24頁)。Dは,被告人Bが同月14日付けPayment文書をどのように使用したかは分からない(D第18回32頁)。 3 被告人Bの公判供述要旨⑴ 2011年3月1日付けPayment文書被告人Bは,2011年3月1日付けPayment文書の作成をDに依頼した記憶は全くない。また,被告人Bは,Dと同文書について話をしたこともない。同年2月の段階で,CがWから報酬を得ることはできないと考えていたので,この文 書の中のWからの支払の記載は自分の考えではなかった(被告人B第52回12~13頁,第57回28頁,34頁)。 ⑵ 2011年3月14日付けPayment文書被告人Bは,「PaymentforCEO」という標題の文書を受け取ったことは覚えているが,それが2011年3月14日付けのものだったかは分からない。同日は東日本大震災から3日しか経っていない日で,様々なことの対応に追われていた時期だったため,この文書を見たかは思い出せない。この文書の中にはWからの支払について記載があるが,WからCが支払を受けることはできないというのが当時の考えであったため,この記載は当時の被告人Bの理解とは異なる(被告人B第52回14~15頁,第57回34~35頁)。 4 検察官の主張検察官は,2011年3月1日付けPayment が当時の考えであったため,この記載は当時の被告人Bの理解とは異なる(被告人B第52回14~15頁,第57回34~35頁)。 4 検察官の主張検察官は,2011年3月1日付けPayment文書及び同月14日付けPayment文書にそれぞれ記載されている上記の①,③及び④の方法は,被告人BとDがOptions文書の内容を確認した平成22年(2010年)9月初めの打合せ以降に,被告人Bが検討してきた内容を反映したものであること,上記の②の方法もOptions文書の中のオプション7として記載されていた方法を記載したものであること,2011年3月14日付けPayment文書の日本語版(甲179資料Ⅴ4)の標題が「PaymentforCEO(Ⓑ)[Bの氏名の頭文字のアルファベット2字]」と被告人Bのイニシャルが付されていることからすると,同日付けPayment文書は,被告人Bの意向を受けて同月1日付けPayment文書が改訂更新されたものといえるから,同日付けPayment文書及び同月14日付けPayment文書は,いずれも,被告人BがCの報酬の一部を有価証券報告書における開示を避けて支払う方法として認識していたものがまとめられたものであると主張する(論告20~22頁)。 5 弁護人の主張弁護人は,被告人Bの供述を踏まえて,2011年3月1日付けPayment 文書が,被告人Bの指示により,被告人Bの考えをまとめて記載したものとは考えられないと主張する(弁論207~213頁)。また,同月14日付けPayment文書についても,同文書が被告人Bに手渡されたという証拠がないことなどから,同日付けPayment文書を被告人Bは見ていないと主張する(弁論314~316頁)。 6 当裁判所の判断⑴ 2011年3月1日 も,同文書が被告人Bに手渡されたという証拠がないことなどから,同日付けPayment文書を被告人Bは見ていないと主張する(弁論314~316頁)。 6 当裁判所の判断⑴ 2011年3月1日付けPayment文書2011年3月1日付けPayment文書は,Dから被告人Bに送られた電子メール(甲179資料Ⅴ3)に添付されたものであるが,その本文に「Attachedisthedocumentyourequestedtodays’(ママ) morning.」との記載があることから,被告人Bの要請に基づいて送られたことは明らかである。また,同文書に記載されている上記の①,③及び④の方法は,被告人Bがそれまでに行ってきた検討内容を反映したものであり,上記の②の方法もOptions文書に記載されていたものであるように,被告人Bが検討していた内容と整合するものである。 また,同日付けPayment文書と同時に被告人Bに送付された同日付け「InvestigationonDirectorsRemuneration」と題する文書(甲179資料Ⅴ3-1-2の2枚目及び3枚目)の内容に照らせば,Dがこれらの文書を自発的に作成したとは考え難い。 弁護人は,被告人BがDに対して同日付けPayment文書の送付を要請したという前記電子メール(甲179資料Ⅴ3)が同月7日に送られているのに対し,同文書の作成日付が同月1日となっていることを指摘し,同日付けPayment文書が,被告人Bの指示により,被告人Bの考えをまとめて記載したものとは考えられないと主張する(弁論313~314頁)。 しかし,前記電子メールは,被告人Bが同文書の送付を求めたのが同月7日であることを示すにすぎず,Dが同文書の作成を指示されたのが同日であるとは限らない(Dは いと主張する(弁論313~314頁)。 しかし,前記電子メールは,被告人Bが同文書の送付を求めたのが同月7日であることを示すにすぎず,Dが同文書の作成を指示されたのが同日であるとは限らない(Dは,同年2月末頃に被告人Bから作成を指示されたと述べている(D第6回 9頁)。)。したがって,弁護人の指摘する点は,被告人Bが同年3月1日付けPayment文書の作成を指示したとのDの証言の信用性を減殺する事情とはならない。 以上によれば,同日付けPayment文書の作成経緯に関するDの証言は信用でき,Dは被告人Bの指示により同文書を作成したものと認められる。 ⑵ 2011年3月14日付けPayment文書2011年3月14日付けPayment文書は,同月1日付けPayment文書の標題や,上記の①ないし④の方法はそのままに文書の体裁を整えたものと認められること,同月14日付けPayment文書の日本語版(甲179資料Ⅴ4)の標題に「(Ⓑ) [Bの氏名の頭文字のアルファベット2字]」と被告人Bのイニシャルが付されていたこと(Uも「(Ⓑ) [Bの氏名の頭文字のアルファベット2字]」は被告人Bのイニシャルと理解していた(U第26回13~14頁)。)に照らせば,同月14日付けPayment文書は被告人Bの指示により作成されたものと認められる。 ⑶ 小括前記⑴及び⑵のとおり,被告人Bの指示に基づいて2011年3月1日付けPayment文書及び同月14日付けPayment文書が作成されたことからすると,被告人Bは,Cの報酬の一部を有価証券報告書における開示を避けて支払う方法として,①取締役在任中に毎年度LTCIPをCに付与し,Cの取締役退任後に金銭を支払う方法,②Cの取締役退任後に退職慰労金打切支給の金額に加算して支払 を有価証券報告書における開示を避けて支払う方法として,①取締役在任中に毎年度LTCIPをCに付与し,Cの取締役退任後に金銭を支払う方法,②Cの取締役退任後に退職慰労金打切支給の金額に加算して支払う方法,③Cの取締役退任後に相談役として契約して相談役報酬として支払う方法,④Cの報酬をWから支払う方法について認識していたものと認められる。 そして,被告人Bは,このような文書をわざわざDに作成させたのであるから,この内容を確認した上でCに対して説明したものと認められる。この説明を受けたCは,同時期にOやPから受けていた提案も踏まえて,自らの未払となっている報酬を相談役報酬等の名目によって支払う方法を選択し,O・P文書による手順を踏 まえて2011年C・D署名文書をDに作成させたものと考えられる。 第4 2011年C・D署名文書の作成への被告人Bの関与 1 問題の所在前記Ⅱ第15のとおり,Dは,2011年C・D署名文書を作成しているが,同文書に関しては,Dと被告人Bの供述が相反しており,同文書の作成への被告人Bの関与の有無や同文書に関する被告人Bの認識の有無について,検察官と弁護人との間には争いがあるので,以下検討する。 2 Dの証言要旨平成23年(2011年)3月23日から同月30日までの間,Dは,Cから,平成21年(2009年)度及び平成22年(2010年)度の報酬について,確定した報酬,支払った報酬,未払となっている報酬を明らかにし,未払となっている報酬についてはCが取締役退任後に相談役に就任した際にその報酬として支払われることや,退職金の支払時期を記載した「合意文書(Agreement)」を作成することを指示された(D第7回1~4頁,10頁)。 Dは,被告人Bに対して,Cから取締役退任後に相談役報酬と 支払われることや,退職金の支払時期を記載した「合意文書(Agreement)」を作成することを指示された(D第7回1~4頁,10頁)。 Dは,被告人Bに対して,Cから取締役退任後に相談役報酬として支払うことを指示されたことや,上記の「合意文書」を作成するように指示されたことについて報告した(D第7回4~5頁,第19回15~16頁)。Dは,「合意文書」の作成を指示されたと伝えたことに対する被告人Bの反応は覚えていない(D第19回17頁)。また,Dは,平成23年(2011年)4月上旬頃に,詳細については覚えていないが,平成21年(2009年)度及び平成22年(2010年)度の延期された報酬や支払時期等の「合意文書」に記載する項目について被告人Bと話した(D第7回34~35頁,第19回18頁)。さらに,Dは,「合意文書」に署名を得た後だったと思うが,被告人Bに対し報告がてら「合意文書」を示した。 これに対して,被告人Bは,「OK」か「Iunderstand.」か覚えていないが,さっと一読して,すぐ「合意文書」をDに戻した(D第7回34頁,42頁)。Dとしては,Cが署名したものを被告人Bに見せた記憶が強いが,もしかすると署名の直 前のものだったかもしれない(D第19回19~20頁,29頁)。「合意文書」を被告人Bに見せ,すぐに戻してもらった記憶はあるが,どのようなことを話したかの記憶はない(D第19回20頁)。署名前の「合意文書」と署名後の「合意文書」の両方を被告人Bに対して見せたという記憶はない(D第19回21~22頁)。 Dは,被告人Bに対して「合意文書」を見せることについて,事前にCの了解を得たことはなく,事後的にCに伝えたこともない(D第19回22頁)。 3 被告人Bの公判供述要旨被告人Bは,平成23年(2011 人Bに対して「合意文書」を見せることについて,事前にCの了解を得たことはなく,事後的にCに伝えたこともない(D第19回22頁)。 3 被告人Bの公判供述要旨被告人Bは,平成23年(2011年)3月ないし同年4月に,この「Agreement」を見たことは全くない。被告人Bは,このような「Agreement」に関することをCからもDからも聞いたことはないし,C又はDの署名がある「Agreement」を見たことはないし,署名のないドラフト段階の「Agreement」を見たこともない。署名のある「Agreement」をDから見せられ,内容を一読し,同文書をDに返却したようなことはなかった(被告人B第52回19~21頁)。 4 検察官の主張検察官は,2011年C・D署名文書の内容は,O・P文書による提案の内容と整合するところ,同提案は,それまでに被告人Bが検討し,被告人B自身がCに説明するなどしてきたCの「未払報酬」の支払方法の延長線上にあるものであり,被告人Bがその当時まで続けてきた検討の成果を形にしたものであるから,2011年C・D署名文書の作成に被告人Bの関与がなければ不自然である旨を主張した上で,Dの証言は,流れとして自然で,無理がなく信用できるとして,Dが証言するとおり,被告人BはDから2011年C・D署名文書を見せられて,その内容を確認している旨主張する(論告24~26頁,67~68頁)。 そして,2011年C・D署名文書を被告人Bに見せた時点に関するDの供述の変遷については,Dは,捜査段階では資料の確認や記憶喚起に十分な時間を取れなかったが,捜査終了から公判廷での証言までの間に,資料や事実関係をより時間をかけて整理しつつ確認したことにより,従前の不正確な供述が修正されたという理 由によるものと考えられ 間を取れなかったが,捜査終了から公判廷での証言までの間に,資料や事実関係をより時間をかけて整理しつつ確認したことにより,従前の不正確な供述が修正されたという理 由によるものと考えられるほか,供述が変遷していることは,Dが検察官に迎合することなく,その時点における自己の記憶に従って真摯に供述をしていることの証でもあると主張する(論告59~60頁)。さらに,被告人Bに見せたのか見せていないのかという記憶は,出来事の存否に関するシンプルなものであって,混乱が起きにくいのに対し,Cの署名前に見せたのか署名後に見せたのかという先後関係が絡む記憶は,10年前のことともなれば,容易に不確かなものとなり,混乱も生じやすいので,上記の供述の変遷は,被告人Bに見せたことは確かであるが,そのタイミングが署名前だったか署名後だったかはそれほど記憶が確かでないということを示しているにすぎず,不自然なところはなく,証言の核心部分である被告人Bに対して見せたのか見せていないのかという部分については,全く揺らいでいないと主張する(論告60頁)。 また,Dが協議・合意の当事者である点については,Dの証言内容によれば,被告人Bは,「合意文書」の作成に当たって重要な役割を果たしたというわけでもなく,ほぼDから経過の報告を受けていただけの存在であるところ,Dが検察官に迎合しているのであれば,被告人Bの位置づけがこのような消極的なものにとどまるとは考えにくいと主張する(論告67頁)。 5 弁護人の主張弁護人は,被告人Bが2011年C・D署名文書を見たことはなく,同文書を被告人Bに見せたというDの証言は信用できないと主張するところ,その理由として,主に以下の3点を指摘している。 ① Dが2011年C・D署名文書に関して被告人Bと3回にわたって話をしたと ,同文書を被告人Bに見せたというDの証言は信用できないと主張するところ,その理由として,主に以下の3点を指摘している。 ① Dが2011年C・D署名文書に関して被告人Bと3回にわたって話をしたという供述内容は,1回目及び2回目に関してはCから作成を指示された「合意文書」の概要を述べているだけであり,3回目も「合意文書」の最終版ができて被告人Bに見せた際のやり取りについて具体性が希薄である。このように,2011年C・D署名文書に関して被告人Bが関与した状況に関するDの証言内容は曖昧で具体性がない(弁論83~84頁)。 ② 2011年C・D署名文書の内容にしても,記載する中心的な事項は全てCの指示によるもので,記入する具体的な金額もDが作成した報酬計算書に基づくものであるように,被告人Bに相談しなければ決まらない事項は一切なかった。D自身も被告人Bに具体的なアドバイスを求めたことがないことを自認している(弁論84~86頁)。 ③ Dは,捜査段階では,英訳した「合意文書」案を上司の被告人Bに見せて内容を説明したところ,DがCから指示を受けて「合意文書」案を作成していることを既に知っていた被告人Bは,一読して「Iunderstand.」などとすぐに了解してくれた旨供述し,同文書を案の段階で被告人Bに見せたとしていたが,公判廷においては,同文書を案の段階で被告人Bに見せたことはない旨証言しているように,2011年C・D署名文書を被告人Bに見せた時点について不合理な変遷がある。この点について,検察官は,Dの証言内容は,Cの署名前の文書を被告人Bに見せた可能性を完全に否定するものではない旨主張している(論告60頁)が,Dは,Cの署名後に被告人Bに見せた理由について,無事に終わったという形で被告人Bに対して報告した,初めての経験 を被告人Bに見せた可能性を完全に否定するものではない旨主張している(論告60頁)が,Dは,Cの署名後に被告人Bに見せた理由について,無事に終わったという形で被告人Bに対して報告した,初めての経験だったのでよく覚えているなどとその時点での自己の心境と関連付けてよく覚えている旨証言していることからすると,被告人Bに見せたのはCの署名後の文書のはずである。その上で,初めて作成した文書について,無事に終わって安心したという心境で,Cの署名を得たものを被告人Bに報告として見せたのか,それとも,初めて作成する文書ゆえ,その作成過程で相談すべく文案を被告人Bに対して見せたのかの違いは大きな意味を持つ。殊に,この文書が未払となっている報酬をCに支払う方法を定めた正式な文書として重要な意味を持っていたとすれば,Dとしてもその点は印象に残るはずであり,重要な書類をいつどのような目的で被告人Bに見せたのかについて誤るはずがない(弁論86~91頁)。 6 当裁判所の判断D証言の内容の具体性,合理性について検討すると,Dは,Cと行ったやり取りについては具体的に証言する一方,2011年C・D署名文書の作成等に当たって 被告人Bと行ったやり取りについては,被告人Bの反応を覚えていないなど,詳細に供述できていない。 また,2011年C・D署名文書を見せた時点については,捜査段階では,Cの署名前の文書を見せたことを前提に供述しながら,公判廷では,無事に終わったという形で被告人Bに対して報告したとしてC署名後のものを見せた記憶が強いが,もしかするとC署名前のものだったかもしれないなどと曖昧な証言をしており,その供述内容を実質的に変遷させている。 検察官は,Dは,捜査段階では資料の確認や記憶喚起に十分な時間が取れなかったが,その後,資料や事実関 前のものだったかもしれないなどと曖昧な証言をしており,その供述内容を実質的に変遷させている。 検察官は,Dは,捜査段階では資料の確認や記憶喚起に十分な時間が取れなかったが,その後,資料や事実関係を,時間をかけて整理しつつ確認したことにより,従前の不正確な供述が修正されたという理由や,C署名前に見せたのか署名後に見せたのかという先後関係が絡む記憶は,10年前のことともなれば,容易に不確かなものとなり,混乱も生じやすいという理由を挙げて,供述の変遷には相応の合理的な理由があると主張する(論告60頁,67頁)。 しかし,Cの署名後のものを見せるのと,Cの署名前のものを見せるのとでは,見せる趣旨が大いに異なるというべきである。弁護人も指摘するように,Cから作成を命じられた「合意文書」は,Dにとって初めて作成する文書である上,Cに対して未払となっている報酬を支払う方法を定めた重要な文書であることからすると,この文書について上司である被告人Bとどのような情報を共有したかということもDにとっては印象的なはずである。それにもかかわらず,公判廷におけるDの証言内容は曖昧である上,実質的に供述内容を変遷させているのであるから,Dが確たる記憶に基づいて証言していないことは明らかというべきである。 さらに,「合意文書」を作成するに当たってDはCから指示を受けている上,記載する具体的な内容についてもD自身が作成した報酬計算書等に基づいて「合意文書」を作成することは可能であったから,2011年C・D署名文書を作成するに当たって被告人Bに相談する必然性は認められず,被告人Bの関与がなかったとしても不自然とはいえない。 この点について,検察官は,「合意文書」の内容は被告人Bがそれまで続けてきた検討の成果を形にしたものだとして,被告人Bの関 ず,被告人Bの関与がなかったとしても不自然とはいえない。 この点について,検察官は,「合意文書」の内容は被告人Bがそれまで続けてきた検討の成果を形にしたものだとして,被告人Bの関与がないのは不自然であると主張する(論告24~25頁)。確かに,2011年C・D署名文書は,O・P文書(甲179資料Ⅴ10-1及び2)の内容を反映させたものと考えられるが,被告人BがO・P文書の作成等に関与したことを示す証拠は存在しないことから,被告人BがO・P文書や同文書による提案内容を認識していたとの事実は認められない(検察官もその旨を主張している(論告25頁)。)。 以上のとおり,Dの証言内容には多くの疑問点がある上,前述したとおり,Dが協議・合意の当事者であり,基本的にその供述には客観的な証拠や信用性の高い第三者の供述等による裏付けの有無等を踏まえて慎重に検討すべきところ,そのような裏付け証拠は存在しない。確かに,被告人Bは,2011年3月1日付けPayment文書や同月14日付けPayment文書の作成に関与した事実は認められるが,それらの文書の作成に関与したからといって,2011年C・D署名文書に被告人Bが関与したとは当然にはいえないので,前後の事実関係からDの証言内容が確かであるともいえない。したがって,2011年C・D署名文書の作成への被告人Bの関与に関するD証言は信用し難い。 そして,D証言を除いて被告人Bが2011年C・D署名文書の作成に関与していたことを示す証拠は存在しない(検察官もそのように主張している(論告25頁)。)ことからすると,被告人Bが2011年C・D署名文書の作成に関与したとは認められず,その記載内容について被告人Bが認識していたとは認められない。 第5 LTIP文書等の作成への被告人Bの関与 とからすると,被告人Bが2011年C・D署名文書の作成に関与したとは認められず,その記載内容について被告人Bが認識していたとは認められない。 第5 LTIP文書等の作成への被告人Bの関与 1 問題の所在前記Ⅱ第22の2のとおり,平成25年(2013年)9月に,DがLTIP文書及びバックデートLTIP通知文書を作成した事実が認められるが,Dはこれらの文書の作成について被告人Bの指示があった旨証言するのに対し,被告人Bはそのような指示をしたことはない旨供述するので,以下検討する。 2 Dの証言要旨平成25年(2013年)の夏以降,LTIPについての費用計上について被告人BからDに対して照会がなされ,DがXらに問合せをしていた。 同年9月23日午前8時頃か,同日のそれよりも前の時間帯に,Dは,Cに対して,従前Cから検討を指示されていた平成22年(2010年)度から平成24年(2012年)度までのCのSARに関する検討結果について,「DearMr.C」と題する文書(甲183資料2-1)を用いて報告した(D第8回33頁,第20回17頁)。 その後,同日の午前中の早い時間帯に,被告人BがDのもとへやってきて,秘書室に付属している会議室で,平成21年(2009年)度から平成24年(2012年)度までの各年度のCの延期された報酬について,これをLTIPに置き換える文書を作ることと,作成した文書をCのもとへ持っていくことを指示された(D第8回36~37頁,第20回29頁)。 被告人Bの上記の指示を聞いたDは,とっさに2011年と2013年の各C・D署名文書を想起し,秘書室の職員と共に,平成21年(2009年)度から平成24年(2012年)度までの確定した報酬額,支払済みの報酬額と延期された報酬額を1枚に記載した 11年と2013年の各C・D署名文書を想起し,秘書室の職員と共に,平成21年(2009年)度から平成24年(2012年)度までの確定した報酬額,支払済みの報酬額と延期された報酬額を1枚に記載したLTIP文書(甲183資料6)を作成した(D第8回37頁~38頁)。なお,Dは,作成したLTIP文書を,Cに見せる前に被告人Bに見せることはしなかった(D第8回38~39頁)。 Dは,作成したLTIP文書をCに提出したところ,Cは,全然違うと述べた上で,年度ごとに用意すること,業績達成目標を記載すること,業績評価期間を「APower88」とすることや支払時期を平成29年(2017年)7月にすることなどを指示した(D第8回42頁,第20回37~38頁)。Dは,Cのこれらの指示を自身の手帳に慌てて記載した(甲183資料7の2枚目)。 Dは,Cの指示を受け,直ちに修正版の作成に取りかかり,平成21年(2009年)度から平成24年(2012年)度までの各年度の延期された報酬額をLT IPの権利に置き換える文書4通(甲183資料8)を,作成日付を遡らせて作成し,その日のうちに同文書をCに提出した(D第8回45~46頁)。 Cは,Dが提出した文書4通について,各文書の冒頭の記載の表現を被告会社の一般従業員に対してLTIPを付与する旨の文書の表現と合わせることなどの修正を指示した(D第8回49頁~50頁)。そこで,DはCの指示を反映させた修正を行った上,修正した文書(甲183資料9)をCに提出した(D第8回52頁)。 これに対し,Cが同文書の内容を了承したので,Dは,各年度の文書4通(甲183資料10。バックデートLTIP通知文書)を2部ずつレターヘッド付きの文書に印刷し,Dの署名欄に自ら署名をした上で,Cに提出した。Cは,各バックデー を了承したので,Dは,各年度の文書4通(甲183資料10。バックデートLTIP通知文書)を2部ずつレターヘッド付きの文書に印刷し,Dの署名欄に自ら署名をした上で,Cに提出した。Cは,各バックデートLTIP通知文書に署名して各1部をDに返却した(D第8回54頁)。 なお,Dは,被告人Bとの間で,「A Power88」の記載に関して,いずれかのタイミングで,平成21年(2009年)度及び平成22年(2010年)度は「APower88」がまだ存在していないということについて話をした(D第8回49頁,第20回44~45頁)。 3 被告人Bの公判供述要旨被告人Bは,平成25年(2013年)9月頃,Cの報酬の「shortfall」をLTIPに置き換えた文書を作るようにというCからの指示をDに対して伝えたことはない。また,同年度以降,C又はDからC用のLTIPについて費用計上を行うという話が出たこともない(被告人B第60回18~19頁)。 4 検察官の主張検察官は,以下の3点を指摘して,Dの証言は信用できるとし,被告人BがDに対してLTIP文書の作成を指示したと主張する。 ① Dの証言は,流れとして自然で迫真性に富んでいる(論告69頁)。 ② Dの証言は,当時作成された資料や手帳の記載などの客観証拠により随所で裏付けられており,特にDが被告人Bの指示を受けて作成した文書を提出した際にCから全然違うなどと言われて修正を指示され,その内容を慌てて書き留めたという Dの手帳の内容は,その証言内容や修正後のバックデートLTIP通知文書の記載とよく符合している(論告69~70頁)。 ③ Dが証言する被告人Bの具体的な動きは,平成25年(2013年)9月23日の朝にCの指示をDに伝えるにとどまっており,この証言によりDの責任を 書の記載とよく符合している(論告69~70頁)。 ③ Dが証言する被告人Bの具体的な動きは,平成25年(2013年)9月23日の朝にCの指示をDに伝えるにとどまっており,この証言によりDの責任を被告人Bに転嫁できるものではなく,事実をねつ造するにはあまりにも中途半端な内容であり,意図的に虚偽の証言をしていることもうかがわれない。被告人Bの言動はいずれもシンプルなもので,記憶違いのおそれも想定し難い(論告70頁)。 5 弁護人の主張弁護人は,主に以下の3点を指摘して,Dの証言は信用できず,被告人BがDにLTIP文書の作成を指示した事実は認められない旨を主張する。 ① 被告人Bが文書作成を指示しながら,被告人Bに見せずにCに直接持っていくように指示したという証言の内容は,被告人Bの普段の態度と相容れず,不自然である(弁論100~101頁)。 ② Dは,被告人Bと「A Power88」がまだないということについて話をしたのはLTIP文書に関してであると証言し,その根拠として,「futuremid-termplan」と「power88」とを書き分けているのはLTIP文書だけだからであると証言する。 しかし,Dは,平成25年(2013年)9月23日,バックデートLTIP通知文書を作成する前に,平成22年(2010年)度から平成25年(2013年)度までのSARの業績達成目標に関する文書4通(弁63資料7)を作成しているところ,それらの文書においては,「A Power88」と「A'sfuturemid-termplan」が書き分けられていたのであり,Dの証言は前提を欠いている。むしろ,DがCから修正を指示された際に手帳に「power88」や「mid-termplan」と記載しており,その後に作成したバックデートLTIP通知文書 いたのであり,Dの証言は前提を欠いている。むしろ,DがCから修正を指示された際に手帳に「power88」や「mid-termplan」と記載しており,その後に作成したバックデートLTIP通知文書においても「power88」と「mid-termplan」が実際に書き分けられていることからすると,DがCから「power88」と「mid-termplan」を書き分けるように注意されたと考えるのが合理的である(弁論102~104頁)。 ③ 被告人BがCとの打合せの準備のために作成した2013年10月24日付けのメモ(弁23資料13)には,「Annualcashcompensation」,「SARs」,「Komon」,「Pension」の記載はあるものの,「LTIP」の記載はない(弁論105~106頁)。 6 当裁判所の判断Dは,被告人Bから文書作成を指示されながら,被告人Bに見せることなくCに直接持っていくように指示されたと証言するが,被告人Bから日常的に作成を指示されていた文書であればともかく,Dにおいて初めて作成を依頼された文書であったから,被告人Bが想定している文書とは異なる文書が作成されてCに提出されてしまうおそれがあったことを踏まえると,まずは被告人Bにおいて内容を確認するのが通常であると考えられる。そうすると,Dの上記の証言内容は,不自然といわざるを得ない。 また,Dは,LTIP文書に関して被告人Bと「A Power88」について話をしたという証言の根拠として,「futuremid-termplan」と「power88」とを使い分けているのはLTIP文書だけだからと証言するが,この点は,弁護人が指摘するように,その証言内容に反する文書4通(弁63資料7)の存在から前提を欠いているというほかな と「power88」とを使い分けているのはLTIP文書だけだからと証言するが,この点は,弁護人が指摘するように,その証言内容に反する文書4通(弁63資料7)の存在から前提を欠いているというほかない。むしろ,弁護人が指摘するとおり,Dは,Cから「A Power88」はバックデートした文書の最初の頃にはまだ始まっていないとの注意を受けたと考える方が合理的である。 以上に加え,前述したとおり,Dが協議・合意の当事者であり,基本的にその供述内容には客観的な証拠や信用性の高い第三者の供述等による裏付けの有無等を踏まえて慎重に検討すべきところ,そのような裏付けは存在しないし,前後の事実関係からDの証言内容が確かであるともいえない。検察官は,Dの証言は当時作成された資料や手帳の記載などの客観証拠により裏付けられていると主張するが(論告69~70頁),その裏付けは,Cとのやり取りに関する供述の裏付けにはなっても,被告人Bが作成を指示したことの裏付けにはなっていない。したがって,被 告人BからLTIP文書の作成を指示されたというDの証言は信用し難い。 そして,Dの証言を除く関係証拠を精査しても,被告人BがLTIP文書やバックデートLTIP通知文書の作成に関与していたとの事情はうかがわれないことからすると,被告人BがDにLTIP文書の作成を指示したとの事実は認められない。 第6 LTIPの費用計上への被告人Bの関与 1 問題の所在前記Ⅱ第22の3のとおり,平成25年(2013年)10月下旬頃に,DがOutline文書を作成した事実のほか,その後にLTIPに関する費用計上がなされた事実が認められるが,DはOutline文書を被告人Bに提示して説明し,Cの未払の報酬を支払うためのLTIPに関する費用計上について被告人Bの了解を得 か,その後にLTIPに関する費用計上がなされた事実が認められるが,DはOutline文書を被告人Bに提示して説明し,Cの未払の報酬を支払うためのLTIPに関する費用計上について被告人Bの了解を得た旨証言するのに対し,被告人Bはそのような文書を目にしたことはなく,LTIPの費用計上について了承したことはない旨供述するので,以下検討する。 2 Dの証言要旨Dは,平成25年(2013年)10月頃,被告人Bから,Cに付与したLTIPの費用計上について話をしたいと言われた(D第8回61頁)。そこで,Dは,平成25年(2013年)10月24日,Cの平成21年(2009年)度から平成24年(2012年)度までの延期された報酬額やLTIPの費用計上の方針等を記載した日本語の文書(「CEOの報酬のイメージ図」という名称の添付ファイル)を,被告人Bの平成25年(2013年)度の報酬の見通しについて説明する日本語の文書等と共にUに電子メールで送り,英訳を依頼した(D第9回3~5頁)。 この電子メールの中では,LTIPの費用計上の方針案等を記載した文書と被告人Bの平成25年(2013年)度の報酬の見通しについて説明する文書については,一緒に被告人Bのところへ持って行くために,資料作成の締切日を同じ日としたほか,確認日も同じ日とすることを伝えた(D第9回7頁)。 Uは,翌25日午後0時1分,LTIPの費用計上の方針等が記載された「CE Oの報酬のイメージ図」を基に作成したOutline文書(甲184資料1-2)及び平成25年(2013年)度の被告人Bの報酬について記載した「Paymentcalculation」と題する文書(弁63資料8。日付は「Oct.25,2013」)を電子メール(甲184資料1)でDに送付し(D第9回3頁),さらに, Bの報酬について記載した「Paymentcalculation」と題する文書(弁63資料8。日付は「Oct.25,2013」)を電子メール(甲184資料1)でDに送付し(D第9回3頁),さらに,同日午後2時43分,作成日付を入力した改訂版のOutline文書(甲102資料3-2。日付は「Oct.28,2013」)をDに電子メール(甲102資料3-1)で送付した。 そこで,Dは,翌週頃,改訂版のOutline文書を,前記「Paymentcalculation」と題する文書(弁63資料8)と共に持参し,被告人Bに対して説明を行った(D第9回7頁,14頁,第20回55~56頁,第21回4頁)。この際の被告人Bとの細かい会話の内容は思い出すことができないが,平成26年(2014年)度から平成28年(2016年)度までの3年度にわたって各10億円ずつ費用計上する方針について,被告人Bの了解が得られた(D第9回14頁,第20回52頁,第21回11~12頁)。なお,DがOutline文書をCに対して見せたことはなかった(D第20回50頁,54頁,第21回16頁)。CからLTIPについて40億円を平成26年(2014年)度に全額計上するように指示を受けたことを,被告人Bにもどこかのタイミングで報告したと思うが,具体的な記憶はない(D第9回37~38頁)。その後の8000万米国ドルの費用計上についても被告人Bに報告しているはずである(D第9回54~55頁)。その取崩しについて被告人Bに報告した際,被告人Bは,当たり前だというような返事をした(D第10回24頁)。 3 被告人Bの公判供述要旨平成25年(2013年)7月24日,被告人Bは,Dに対して,平成23年(2011年)に導入されたLTIPについて正確に費用計上されているのかを確認する電 4頁)。 3 被告人Bの公判供述要旨平成25年(2013年)7月24日,被告人Bは,Dに対して,平成23年(2011年)に導入されたLTIPについて正確に費用計上されているのかを確認する電子メール(弁27資料88)を送った。これに対して,Dは,同日,被告人Bの質問の趣旨とは異なり,平成23年(2011年)度から平成25年(2013年)度までのLTIPの予算額について報告するとともに,詳細についてXと話を する旨の電子メールを送信してきた(弁27資料91)。その後,同年9月9日,被告人BがDに平成23年(2011年)度及び平成24年(2012年)度のLTIPの費用計上について確認の電子メールを送ったところ,同月10日,Dは,被告人Bに対し,それについては,経理部の方で適切な方法で取り扱ってくれる旨の回答を行った(弁27資料104)。被告人Bは,この回答によって費用計上の問題が適切に取り扱われることがより明確になったと考えた(被告人B第54回43~45頁)。 平成25年(2013年)10月28日頃に,Outline文書をDから見せられた上で,平成21年(2009年)度以降の各年度のCの延期された報酬額や今後の延期される報酬の見通し,その延期された報酬をLTIPとして支払うに当たっての費用計上の方針等について説明を受けたことはない。CやDとの間で,何らかの支払をLTIPと置き換えるというような話をしたことは一度もない(被告人B第60回19~20頁)。 捜査段階では,Outline文書を見て思い出したことがあるとして,Cから何らかの名目で費用計上して,それを退任後の契約のために使うという考えを明かされたが,まだ契約が存在していない今の段階ではできないと述べて費用計上を拒否したこと,その1日か2日後にDが費用計上の件で報 らかの名目で費用計上して,それを退任後の契約のために使うという考えを明かされたが,まだ契約が存在していない今の段階ではできないと述べて費用計上を拒否したこと,その1日か2日後にDが費用計上の件で報告相談に来たということを供述した(乙47)。実際には,Dは費用計上する目的については言及せずに,DがCから受けた「費用計上をせよ。」との指示について自分に伝えたものである。 上記のやり取りがあったのは平成26年(2014年)初めのことである(被告人B第60回20~22頁,25~26頁)。 4 検察官の主張検察官は,信用できるDの証言によれば,被告人BがDからCの平成21年(2009年)度から平成24年(2012年)度までの各年度の「未払報酬」の額を1000円単位まで明記するとともに,費用計上の方針案等を記載したOutline文書を見せられて,CにLTIPとして付与したことにした平成21年(20 09年)度から平成24年(2012年)度までの「未払報酬」の合計約29.7億円について,平成26年(2014年)度から平成28年(2016年)度までの3年度にわたり10億円ずつ費用計上する方針を提案し,被告人Bはその方針を了承した旨を主張する(論告70~73頁)。 そして,検察官は,以下の3点を理由として,D証言の信用性が肯定できると主張する。 ① DがOutline文書を示す相手として想定できるのはCか被告人Bに限られるところ,Cに対して見せたのだとすると,Outline文書に示されている費用計上の方針と,平成26年(2014年)5月14日にDがCから指示された内容(平成25年(2013年)度までの未払となっている報酬を平成26年(2014年)度に一括計上する方針)と不整合を来す(論告71頁)。 ② 平成25年(2013年)1 4日にDがCから指示された内容(平成25年(2013年)度までの未払となっている報酬を平成26年(2014年)度に一括計上する方針)と不整合を来す(論告71頁)。 ② 平成25年(2013年)10月24日にDがUに送った電子メールの中で,Outline文書と被告人Bのための「Paymentcalculation」と題する文書の両文書の作成作業の締切を金曜日中とし,最終確認を月曜日にするなどいずれもそろえており,両文書を共に被告人Bのもとへ持参して説明を行ったというDの証言は説得的である(論告71~72頁)。 ③ Outline文書に記載された日付と「Paymentcalculation」と題する文書に記載された日付は異なるが,「Paymentcalculation」と題する文書の中には,Dが被告人Bに対して口頭で説明した内容をあらかじめ書き込んだメモがあり,その中には「Iwillinform C tommorw(ママ)」,「ThisweekIwilltaked(ママ) with X-sanagain」などと,Dがこの文書を用いて被告人Bに対して説明を行ったのが平成25年(2013年)10月25日(金曜日)であることと矛盾する書き込みがある。したがって,「Paymentcalculation」と題する文書を用いて被告人Bに対して説明を行ったのは同月28日(月曜日)以降であると認められ,両文書に記載された作成日付が異なるとしても,Dの証言の信用性は減殺されない(論告72~73頁)。 5 弁護人の主張弁護人は,Dの証言は信用できず,被告人BがOutline文書を見たことはなく,LTIPの費用計上についても被告人Bは知らない旨を主張している。そして,Dの証言の信用性について,弁護人は,主に以下の2点 人は,Dの証言は信用できず,被告人BがOutline文書を見たことはなく,LTIPの費用計上についても被告人Bは知らない旨を主張している。そして,Dの証言の信用性について,弁護人は,主に以下の2点を指摘する。 ① Dは,Outline文書と「Paymentcalculation」と題する文書の締切日と確認日を同じ日としてUに依頼していることがOutline文書が被告人B用であることの根拠であると証言するが,被告人Bに対して同時に説明するために同時期に作成したOutline文書と「Paymentcalculation」と題する文書について,わざわざ別の日付を入れる合理性はなく,被告人Bへ同時に説明するために両文書を作成したというD証言に信用性はない(弁論111~112頁)。 Dは平成25年(2013年)10月25日の同人のスケジュールに照らし,その日に「Paymentcalculation」と題する文書を被告人Bに対して渡していないと思う旨証言するが,同日午後2時59分にDが送信した電子メール(弁63資料12)にはDが同日に被告会社本社へ出勤したことを示すやり取りがあり,同日に「Paymentcalculation」と題する文書を被告人Bに対して示している可能性がある(弁論112~113頁)。 また,Xの供述(甲112)によれば,Xは平成25年(2013年)10月18日及び同月21日に退職慰労金打切支給の増額に関してDと会っている事実が認められる一方で,その翌週にXがDにあらためて会ったことを示す証拠や供述はない。また,Dは,同月21日にEに対して送った電子メールでも,同日,Dが退職慰労金打切支給の増額に関してXと話をし,そこで結論を得たことを伝えている。 したがって,DがXと再び会ったのは同月21日のことであり,「Thi 1日にEに対して送った電子メールでも,同日,Dが退職慰労金打切支給の増額に関してXと話をし,そこで結論を得たことを伝えている。 したがって,DがXと再び会ったのは同月21日のことであり,「ThisweekItalkedwith X-sanagain」と書こうとして英文を誤って「ThisweekIwilltakedwith X-sanagain」と記載したと考えられるから,Dが「Paymentcalculation」と題する文書を被告人Bに説明した日は,平成25年(2013年)10月25日であったと考えられる(弁論113~116頁)。 「Iwillinform C tommorw(ママ)」という記載についても,バックデートLTIP通知文書を作成した平成25年(2013年)9月23日は祝日であるにもかかわらず関係者が出社していたことを考慮すると,同年10月25日(金曜日)の翌日の土曜日にCと会うことはないとはいえない。また,Dの英語力や多数のスペルミスからすると,単に次週を意図して「tommorw(ママ)」と書いた可能性も否定できない(弁論116~117頁)。 ② Cが退職慰労金打切支給の増額の費用計上に関心を抱いていたこと(甲182資料4)からすると,平成25年(2013年)9月下旬に合計30億円に関するバックデートLTIP通知文書を作成させたCが,LTIPの費用計上に関心を抱いて,それに関する資料の作成を指示した可能性が高い。平成26年(2014年)5月14日にDがCから指示された内容(平成25年(2013年)度までの延期された報酬を平成26年(2014年)度に一括計上する方針)は,Cが会社の業績の変化を受けて判断を変えただけのことであり,約半年前と異なる指示を出したとしても不自然ではない 2013年)度までの延期された報酬を平成26年(2014年)度に一括計上する方針)は,Cが会社の業績の変化を受けて判断を変えただけのことであり,約半年前と異なる指示を出したとしても不自然ではない。現にCは平成26年(2014年)10月には同年度に計上する額を8000万米国ドルとするように指示を変更している(弁論120~123頁)。 6 当裁判所の判断検察官は,平成25年(2013年)10月24日にDがUに送った電子メールの中で,Dが,Outline文書とBのための文書である「Paymentcalculation」と題する文書の両文書の締切日や最終確認日をそろえていることをもって,両文書を共に被告人Bのもとへ持参して説明を行ったというDの証言は説得的だと主張する(論告72~73頁)。 しかし,「Paymentcalculation」と題する文書に記入された日付は2013年10月25日(金曜日)であるのに対し,Outline文書に記入された日付は2013年10月28日(月曜日)と異なっており,両文書を共に被告人Bのもとへ持参して説明を行ったという証言内容には疑問が残る。当初は,Dが同月25日 (金曜日)に出勤しない予定であったことから,同月24日の時点で両文書の締切日を金曜日に設定し,その確認を月曜日に行う予定であったと思われるが,関係証拠(弁63資料12等)によれば,その後に予定が変更になり,Dが同月25日に被告会社本社へ出勤したものと考えられるから,同日に「Paymentcalculation」と題する文書を被告人Bに対して示している可能性は否定できない。この可能性に関して,検察官は,「Paymentcalculation」と題する文書に書き込んだDの手書き部分の内容について指摘してその可能性はない旨主 人Bに対して示している可能性は否定できない。この可能性に関して,検察官は,「Paymentcalculation」と題する文書に書き込んだDの手書き部分の内容について指摘してその可能性はない旨主張するが,弁護人が主張する解釈・可能性も十分にあり得ることからすれば,同手書き部分は,Dが「Paymentcalculation」と題する文書を用いて被告人Bに対して説明を行ったのが同月25日(金曜日)であることと矛盾しないというべきである。そうすると,Dが同月24日にOutline文書及び「Paymentcalculation」と題する文書の締切日や確認日をそろえたことは,両文書を共に被告人Bのもとへ持参して説明を行ったとのDの供述の裏付けになるとはいえない。 以上に加え,前述したとおり,Dが協議・合意の当事者であり,基本的にその供述内容には客観的な証拠や信用性の高い第三者の供述等による裏付けの有無等を踏まえて慎重に検討すべきところ,そのような裏付けは存在していないし(検察官も,DがOutline文書を見せた相手が被告人Bであったことを直接裏付ける客観証拠はないとしている(論告71頁)。),前後の事実関係からDの証言内容が確かであるともいえない。したがって,Outline文書と「Paymentcalculation」と題する文書を同じ日に被告人Bに示し,Outline文書によってLTIPの費用計上について説明した旨のDの証言は信用し難い。 検察官は,DがOutline文書を示す相手として想定できるのはCか被告人Bに限られるところ,Cに対して見せたのだとすると,Outline文書に示されている費用計上の方針と,翌年の平成26年(2014年)5月14日にDがCから指示された内容が不整合を来すと主張するが(論告71頁),弁護人が指摘す て見せたのだとすると,Outline文書に示されている費用計上の方針と,翌年の平成26年(2014年)5月14日にDがCから指示された内容が不整合を来すと主張するが(論告71頁),弁護人が指摘するとおり,Cが半年後になって会社の業績の変化を受けるなどして判断を変え,異 なる指示を出したとしても何ら不自然ではない。このことは,現にCが同年5月の指示から数か月が経過した同年10月には同年度に計上する額を8000万米国ドルとするように更に指示を変更していることからもいえる。 そして,Dの証言を除く関係証拠を精査しても,Dが被告人Bに対してOutline文書を示したとの事情はうかがわれないことからすると,被告人BがOutline文書を目にしていたとは認められないし,同文書を基にCの未払の報酬を支払うためのLTIPの費用計上についてDから被告人Bが説明を受けたとの事実も認められない。 第7 2018年6月27日付けRAPR文書についての被告人Bの認識等 1 問題の所在前記Ⅱ第31の2⑴のとおり,被告人Bは,平成30年(2018年)6月27日に,D及びEとDDSO導入に関する打合せを行ったが,その際,Dは,被告人B及びEに対して,同日付けRAPR文書を示した旨証言しているところ,被告人Bは同文書とは異なる体裁及び記載の文書を示されたことはあったが,同日付けRAPR文書を示されたことはない旨供述していることから,被告人Bが同日の打合せにおいて同日付けRAPR文書を目にしたか否かについて争いがあるので,以下検討する。 2 Dの証言要旨平成30年(2018年)6月27日,Dは,被告人BとEと打合せを行い,この席で,被告人Bから,被告会社にDDSOを導入することに関する話をされた後,Cの延期された報酬はいくらなのか尋ねられた 旨平成30年(2018年)6月27日,Dは,被告人BとEと打合せを行い,この席で,被告人Bから,被告会社にDDSOを導入することに関する話をされた後,Cの延期された報酬はいくらなのか尋ねられた(D第11回15~18頁)。そこで,2018年6月27日付けRAPR文書(甲187資料1。平成21年(2009年)度から平成29年(2017年)度(同年度については,「Forecast」と記載されていた。)までの各年度のCの確定した報酬額(「FixedRemuneration」),支払済みの報酬額(「PaidRemuneration」)及び延期された報酬額(「PostponedRemuneration」)やその累積額(「TOTAL」)を1円単位で記載し(「PostponedR emuneration」の「TOTAL」の欄には「9,349,140,777」円と記載されていた。),これとは別に退職慰労金打切支給の金額等を記載したもの。)を被告人B及びEに渡して見せ,約90億円である旨を伝えた(D第11回20頁)。なお,Dは,同日付けRAPR文書を被告人Bに対して見せることについて,事前にも事後にもCから了解を得ていなかった(D第21回48頁)。 これに対し,被告人Bは,退職慰労金打切支給の増額分は延期された報酬約90億円の一部ではないかとDに尋ねてきた(D第11回20頁)。Dは,被告人Bの理解とは異なり,退職慰労金打切支給の増額分は延期された報酬とは別のものであるという理解であったが,そのときは,被告人BとCとの間でどのような話になっているのか分かっていなかったこともあり,Cに確認しようと考え,曖昧な返事で終わらせた(D第11回23頁,25頁)。被告人B及びEは,打合せが終了した後,同文書をDに返却した(D第11回33頁)。 いるのか分かっていなかったこともあり,Cに確認しようと考え,曖昧な返事で終わらせた(D第11回23頁,25頁)。被告人B及びEは,打合せが終了した後,同文書をDに返却した(D第11回33頁)。 上記の打合せが終了した後,Dは,退職慰労金打切支給の増額分が延期された報酬の一部だと被告人Bが述べていたことをUに対して伝え,退職慰労金打切支給の増額分と延期された報酬がどのような関係にあるのかについて特化したもので,SARに関する記載も加えた2018年6月27日付け「RetirementAllowance / PostponedRemuneration / L」と題する文書(甲187資料2)を作成した(D第11回33~34頁)。Uは,被告人Bが述べたこととしてDから聞いた話の内容を,同文書内に日本語で付記した(D第11回35頁)。 その後,同年7月上旬頃,Dは,Cに対し,平成21年(2009年)度から平成29年(2017年)度までのCの延期された報酬の累積額や退職慰労金打切支給の金額等を記載した2018年7月9日付け「RetirementAllowance / PostponedRemuneration / L」と題する文書2部(延期された報酬の累積額約93億円とは別に退職慰労金打切支給の増額分を支払うことを前提にするもの(甲187資料3)と,その前提とは異なる被告人Bの上記の指摘内容等を記載するなどしたもので,「<Confirmationversion>」と記載されたもの(甲187資料4))を示して, 被告人Bの上記の指摘内容を伝え,退職慰労金打切支給の増額分約24.2億円が延期された報酬の累積額の支払に充てるためのものであるのか否かについて,Cに確認した(D第11回37~43頁)。 これに対し,Cは,退職慰労金打 を伝え,退職慰労金打切支給の増額分約24.2億円が延期された報酬の累積額の支払に充てるためのものであるのか否かについて,Cに確認した(D第11回37~43頁)。 これに対し,Cは,退職慰労金打切支給の増額分と延期された報酬の累積額とは別のものであって,Dの理解が正しい旨を回答した。その際,Cは,Dに対して,Dには引き続きお金の管理をしっかりやってほしい,お金を支払う方法を考えるのが被告人Bの仕事である旨を述べた(D第11回43~44頁)。 その後,同年8月頃,Dが渡米してシカゴで被告人Bと打合せをした際,Cの延期された報酬等をまとめた2018年7月9日付け「RetirementAllowance / PostponedRemuneration / L」と題する文書のうち延期された報酬の累積額約93億円とは別に退職慰労金打切支給の増額分を支払うことを内容とするもの(甲187資料3)を被告人Bに渡した(D第11回52~53頁)。 3 被告人Bの公判供述要旨⑴ 平成30年(2018年)6月27日頃のD及びEとの打合せ平成30年(2018年)6月27日頃(株主総会が行われた週の頃),被告人Bは,被告会社本社でDDSOを被告会社に導入する可能性に関して協議するため,D及びEと10分弱の打合せを行った。その打合せで,報酬とSARsの数字が書かれた1枚の文書をDから見せられた。同日付けRAPR文書(甲187資料1)ではない。報酬については,93億円という数字が1行書かれており,その内訳等の記載はなかった。93億以下の桁の記載がどうなっていたかは記憶がない。SARsは47億円と書かれていた。報酬及びSARsの数字以外の数字や文言の記載はなかったと思う。文書のタイトルは何か書かれていたが,思い出すことができない。「Retireme いたかは記憶がない。SARsは47億円と書かれていた。報酬及びSARsの数字以外の数字や文言の記載はなかったと思う。文書のタイトルは何か書かれていたが,思い出すことができない。「RetirementAllowance」の項目があったかは覚えていないが,「Originalamount」「AdditionalAmount」といった記載はなかった(被告人B第55回32~36頁,38~41頁)。 被告人Bは,その当時のCの報酬の「shortfall」の金額は大体80億円前後と考 えており,「shortfall」が退職慰労金打切支給の増額分によって減額されていないように思われたことから,93億円という数字がDの算定方法により得たCの報酬の「shortfall」であるか尋ねたところ,Dは,「イエス。」と答えた。そこで,被告人Bは,Dに対して,その文書に記載されている93億円は,Cが述べていた退職慰労金打切支給の増額分が「shortfall」に含まれるということを考慮した上でのものなのかを質問した。Dの返答は,退職慰労金打切支給の増額分は「shortfall」に含まれていないというものであった。被告人Bは,Cから退職慰労金打切支給の増額分は「shortfall」に含まれると聞いていたため,Dに対し,Cがそのように説明していることを伝えた上で,Cに直接聞くように依頼した。Dは,Cに聞いてみると述べていた。見せられた同文書は,Dが持ち帰った(被告人B第55回36~38頁,42~43頁,第60回37~41頁)。 その後,被告人Bは,Dから,Cの報酬の「shortfall」に退職慰労金打切支給の増額分を充てない(カウントしない)とDがCから聞いたという説明を受けた(被告人B第55回43頁)。 ⑵ 平成30年(2018年)7月のパリ の報酬の「shortfall」に退職慰労金打切支給の増額分を充てない(カウントしない)とDがCから聞いたという説明を受けた(被告人B第55回43頁)。 ⑵ 平成30年(2018年)7月のパリでのCとの打合せ平成30年(2018年)7月下旬頃,被告人Bは,パリのF社本社でCと打合せを持った。その場で,被告人Bは,Cに対し,Cの退任後の契約のための資金としてDDSOがあり得ること,それにより平成23年(2011年)から自分たちが検討してきた退任後の契約に関する支払金額とほぼ同じレベルを達成することができること,そのような形態を採ることでフランス政府が受け入れられるレベルの開示を合法的に行うことができることを伝えた。また,その場で,Cから,同月にCとDとの間で打合せをし,文書をレビューしたことを聞かされた。もっとも,Cは,レビューした文書の内容については言わなかった。この打合せの際,被告人Bは,平成25年(2013年)末から平成26年(2014年)初めにかけてCから受けた指示に従い,退職慰労金打切支給の増額分はCの報酬の「shortfall」にカウントされるという前提でプレゼンテーションを行ったが,Cから特段のコメント はなかった。しかし,その一方で,被告人Bは,CとDが文書をレビューしたとCから聞いたので,平成30年(2018年)7月27日,Dに対し,電子メール(甲187資料9)で,CとDがレビューした文書を,被告人BとDとでレビューするために,シカゴまで持ってくるように依頼した(被告人B第60回44~45頁,第61回1~3頁)。 ⑶ 平成30年(2018年)8月のシカゴでのDとの打合せ平成30年(2018年)8月,被告人Bは,シカゴでDと打合せを行ったが,その際,Dが持参した文書のレビューはDと行わなかった 頁)。 ⑶ 平成30年(2018年)8月のシカゴでのDとの打合せ平成30年(2018年)8月,被告人Bは,シカゴでDと打合せを行ったが,その際,Dが持参した文書のレビューはDと行わなかった。被告人Bは,Dとレビューする事項が3つあり,そのうち2つについては実際に文書のレビューを行った。 その2つの文書(弁23資料21)は,この打合せのために被告人Bが用意したものである。そして,退職慰労金打切支給の増額分がCの報酬の「shortfall」に含まれるかどうかについて,Cがどのように考えているかDに尋ねたところ,Dは,退職慰労金打切支給の増額分は「shortfall」に適用されないとCが述べていたと答えた。このため,自分は,Dに持ってきてほしいと依頼していた文書をレビューする必要はないと考えてレビューをしなかった(被告人B第61回5~8頁,第62回33~35頁)。 4 検察官の主張検察官は,以下の事情からすれば,被告人Bは2018年6月27日付けRAPR文書を目にしたことをきっかけに,退職慰労金打切支給の増額分が延期された報酬の一部ではないかとの指摘をDに対して行ったものと認められる旨主張している(論告46~48頁)。 同日付けRAPR文書の電子データファイルである「TotalList & L_20180627(B-san& E-san)」のシート名「20180709」には「18年6月27日:Bさん,Eさん,DさんのMTGにてBさんからコメントがあり追加した退職金分を差し引く」と記載があり,同日の打合せの際の被告人Bの指摘に従って退職慰労金打切支給の増額分を累積した「未払報酬」から差し引いた処理が記載されている。そして,こ れを基に作成された同年7月9日付け「RetirementAllowance / Pos 退職慰労金打切支給の増額分を累積した「未払報酬」から差し引いた処理が記載されている。そして,こ れを基に作成された同年7月9日付け「RetirementAllowance / PostponedRemuneration / L」と題する2つの文書のうち<Confirmationversion>と記載された文書(甲187資料4)には,「<Pleaseconfirm>*B-sanmentionedtheaddedretirementallowancewasapartofthepostponedremuneration(tobedeductedfromthepostponedremuneration)」と,被告人Bの上記の指摘内容とそれに関してCに確認を要求する旨の記載がされている。以上の各記載からすると,同年6月27日の打合せにおける被告人BのDに対する指摘は「<Confirmationversion>」と記載された文書の「<Pleaseconfirm>」以下の記載に示された内容と考えられる。 そして,同日付けRAPR文書は,そのファイル名に照らして同日の被告人B及びEとの打合せのために作成されたものと認められる上,Cの退職慰労金打切支給の増額分の総額だけでなく,その内訳がオリジナルの金額と追加の金額に分けて記載され,さらに,平成21年(2009年)度以降の各年度の延期された報酬及びその累積額等が記載され,退職慰労金打切支給の総額と延期された報酬の累積額の合計をCに支払う旨の内容が記載されているのであるから,被告人Bの上記の指摘のきっかけとなり得る条件をすべて満たしている。 5 弁護人の主張弁護人は,主に以下の3点を理由として,平成30年(2018年)6月27日の打合せで,Dが るのであるから,被告人Bの上記の指摘のきっかけとなり得る条件をすべて満たしている。 5 弁護人の主張弁護人は,主に以下の3点を理由として,平成30年(2018年)6月27日の打合せで,Dが被告人Bらに示した文書は,同日付けRAPR文書ではない旨を主張する。 ① 被告人Bが逮捕時に所持していた手書きメモ(甲189資料6)にはSARsの金額についての記載があるところ,同日付けRAPR文書にはSARsの情報は記載されていないから,被告人Bが同文書に基づいてSARsの金額を書くことは不可能である。そうすると,同日の打合せでDが被告人Bに見せた文書は同日付けRAPR文書ではなかったと考えられる(弁論129~130頁)。 ② 同年7月9日付け「DearMr.C」と題する文書(弁63資料9)の中に,「Italkedwith B-sanaboutretirementallowance,notfiguresbutaboutlogic /structure.」と記載があり,DはCに対して被告人Bとは数字の話はしていないと伝えているのであるから,Cの報酬に関して示された文書は情報量の少ないものであったと推認するのが妥当であり,同年6月27日付けRAPR文書のような,Cの報酬について何年間にもわたる詳細な情報を記載した文書を被告人Bに示したとは考え難い(弁論130~131頁)。 ③ 同日付けRAPR文書のファイル名は「TotalList & L_20180627(B-san&E-san)」となっているが,このファイル作成に関与したUは同日の打合せに同席したわけではないから,同人の証言は,同日付けRAPR文書をDが被告人Bに見せたことの裏付けにはならない(弁論128~129頁)。また,EがDを通じて同文書のファイル名 与したUは同日の打合せに同席したわけではないから,同人の証言は,同日付けRAPR文書をDが被告人Bに見せたことの裏付けにはならない(弁論128~129頁)。また,EがDを通じて同文書のファイル名に被告人Bの名前を入れるよう仕組んだ可能性がある。したがって,ファイル名に「B」とあることをもって,同文書を被告人Bに見せたとはいえない(弁論131~133頁)。 6 当裁判所の判断⑴ D証言の信用性2018年6月27日付けRAPR文書のファイル名が「TotalList & L_20180627(B-san& E-san)」となっており,Uも,同文書はDが被告人BやEとの打合せに持っていくために作成した文書であるから,このファイル名をつけた旨証言している(U第26回23頁,25頁。このUの証言の信用性については弁護人も特段争っていない(弁論131頁))。このように,同日付けRAPR文書を同日の被告人B及びEとの打合せに持って行ったとのDの証言には客観的な証拠及び信用できる証言による裏付けが存在する。 また,Dが同日付けRAPR文書を被告人Bに対して見せたところ,被告人Bから,退職慰労金打切支給の増額分は延期された報酬の一部ではないかと尋ねられたというDの証言についても,信用できるUの証言内容(U第26回26頁)と合致している上,Uが作成した同日付け「RetirementAllowance / PostponedRemuneration / L」と題する文書(甲187資料2)の日本語部分の記載や,同文書を元 に作成された同年7月9日付け「RetirementAllowance / PostponedRemuneration / L」と題する2つの文書のうち<Confirmationversion>と記載された文 年7月9日付け「RetirementAllowance / PostponedRemuneration / L」と題する2つの文書のうち<Confirmationversion>と記載された文書(甲187資料4)の「<Pleaseconfirm>」以下の記載内容とも合致している。 加えて,被告人Bが退職慰労金打切支給の増額分は延期された報酬の一部ではないかと尋ねたのは,被告人Bがそれとは異なる見解,すなわち退職慰労金打切支給の増額分を延期された報酬に含めないという見解を何かしらの形でDから示されたからであると考えるのが合理的であるところ,同年6月27日付けRAPR文書には,Cの退職慰労金打切支給の増額分や平成21年(2009年)度以降の延期された報酬及びその累積額等のほか,退職慰労金打切支給の総額と延期された報酬の累積額の合計をCに支払うことなど,被告人Bが上記のとおりDに尋ねる契機となる情報が漏れなく記載されている。 このように,2018年6月27日付けRAPR文書を被告人B及びEとの打合せに持っていき,被告人Bらに見せたところ,被告人Bから退職慰労金打切支給の増額分は延期された報酬の一部ではないかと尋ねられたというDの証言には客観的な証拠及び信用できる証言による裏付けが存在するから,信用することができる。 ただし,Dの証言によっても被告人Bが「延期された報酬」を意味する「postponedremuneration」と述べたかまでは定かではなく,被告人Bが普段使用していた「shortfall」という用語を用いた可能性は否定できない(検察官も同旨の主張している(論告47頁注159)。)。 ⑵ 弁護人の主張についての検討弁護人は,上記のようなファイル名にしたUは平成30年(2018年)6月27日の打合せに同席したわけ 検察官も同旨の主張している(論告47頁注159)。)。 ⑵ 弁護人の主張についての検討弁護人は,上記のようなファイル名にしたUは平成30年(2018年)6月27日の打合せに同席したわけではないから,同人の証言は,Dが被告人Bに同日付けRAPR文書を見せたことの裏付けにはならないと主張するが(弁論128~129頁),Dが打合せに持っていくと説明してUに指示して資料を作成させたのであれば,作成させた資料を打合せで示すのが通常であろうから,Uが同日の打合せに同席していないからといって,Uの証言が被告人Bに同文書を示した旨のDの証 言の裏付けでなくなるわけではない。 また,弁護人は,EがDを通じて,同日付けRAPR文書のファイル名に被告人Bの名前を入れるように仕組んだ可能性がある旨主張するが(弁論131頁),Uまで巻き込んでそのような工作がされたとの事情はうかがわれない。 次いで,被告人Bが逮捕時に所持していた手書きメモ(甲189資料6)にはSARsの金額についての記載があるのに,同日付けRAPR文書にはSARsの情報が記載されていない点についても,被告人Bが別の機会にSARsの金額について知って前記手書きメモに記載した可能性も十分考えられるから,Dの証言の信用性を減殺する事情とはならない(なお,Dがシカゴでの打合せで被告人Bに示したと証言する同年7月9日付け「RetirementAllowance / PostponedRemuneration/ L」と題する文書(甲187資料3)にはSARsの金額が記載されている。)。 さらに,弁護人は,Dが同日付け「DearMr.C」と題する文書(弁63資料9)の中で,「Italkedwith B-sanaboutretirementallowance,no )。 さらに,弁護人は,Dが同日付け「DearMr.C」と題する文書(弁63資料9)の中で,「Italkedwith B-sanaboutretirementallowance,notfiguresbutaboutlogic/structure.」と記載し,被告人Bとは数字の話はしていないとCに伝えていることを指摘するが(弁論130頁),同記載は,退職慰労金打切支給の増額分が延期された報酬との関係でどのように取り扱われるべきかについて被告人Bと話をしたというDの証言の内容と相反・矛盾するものではないから,同記載の存在はDの証言の信用性を減殺する事情とはならない。 ⑶ 小括以上の検討の結果,平成30年(2018年)6月27日に行われた,被告人B,D及びEによる打合せにおいて,被告人Bが同日付けRAPR文書を目にして,その記載内容を踏まえてDに対し「退職慰労金打切支給の増額分は延期された報酬の一部ではないか。」と尋ねた事実が認められる。 Ⅳ 争点に関する判断第1 Cの開示すべき未払の報酬の存否 1 問題の所在 前記Ⅰ第3の1のとおり,本件においては,「Cの開示すべき未払の報酬の存否」が争点となっているところ,検察官は,支払済みの報酬のほか未払の報酬を含む報酬総額について決定がなされていたと主張する一方,弁護人は,そのような決定は存在せず,未払の報酬に関して被告会社の決定は存在しないと主張している。このように,「Cの開示すべき未払の報酬の存否」の問題は,すなわち「Cの未払の報酬について,いかなる決定がなされたか」の問題であって,その前提として,「取締役の報酬について,いかなる決定がなされれば,会社は有価証券報告書に記載して開示しなければならないのか」が問題となる。 2 検察官の主張 る決定がなされたか」の問題であって,その前提として,「取締役の報酬について,いかなる決定がなされれば,会社は有価証券報告書に記載して開示しなければならないのか」が問題となる。 2 検察官の主張検察官は,有価証券報告書に取締役の報酬の情報を開示すべきとされているのは,取締役の報酬に関する情報から会社のガバナンスの状況を判断することができるよう一般投資家にその情報を適切に提供するためであるとする。そして,そのような金商法における開示規制の制度趣旨に照らすと,有価証券報告書で開示することが求められている報酬の額は,会社のガバナンスの状況を適切に判断する際の資料となるべき報酬の金額ということになるから,「実質的に報酬の決定権限を有する者が,当該取締役等の職務執行の対価として実質的に支払うことを決定したものである以上,通常その金額は,当該取締役の会社の職務執行の対価として支払われることになるはずであり」,それが開示すべき取締役の報酬の金額ということになると主張する(論告8頁)。 その上で,検察官は,本件有価証券報告書に記載されるべきであったCの報酬額は,取締役の報酬について実質的な決定権限を有していたCが,Dが作成した報酬計算書を用いて,自己が支払を受けるべき金額として決定した報酬計算書上の「GRANDTOTAL」に記載された金額(当年度中の実支払額に基づく現物給付等については,年度末までに判明したものを当初の算定額に加減することから,若干の修正があることを踏まえたもの)であると主張する(論告4~10頁)。 検察官は,かかる主張の根拠として,①各年度の報酬計算書には,「ABS」を 起点に定型的に算出された本来の報酬総額である「GRANDTOTAL」の金額,有価証券報告書で開示することとした,その年度に実際に支われた して,①各年度の報酬計算書には,「ABS」を 起点に定型的に算出された本来の報酬総額である「GRANDTOTAL」の金額,有価証券報告書で開示することとした,その年度に実際に支われた報酬額である「Actuallypaidamount」の金額,「GRANDTOTAL」から「Actuallypaidamount」を差し引いた残額である「Remaining」の金額が,いずれも1円単位まで記載され(甲176資料8ないし16),これがそのままCによる決定の対象とされていたこと,②D(秘書室)において,各年度の報酬計算書に記載された「Remaining」の金額及びその累積額を「PostponedRemuneration」と表記して,2011年C・D署名文書,2013年C・D署名文書,更にはRAPR文書等に1円単位で記載し,支払額ベースの報酬明細書(「PAYROLL」)と報酬総額(「GRANDTOTAL」)ベースの報酬明細書(「PAYROLL(ORIGINAL)」)を作成して保管するなどして管理していたこと,③役員報酬個別開示制度が導入される前頃から平成30年(2018年)に逮捕されるまで,C及び被告人Bが,「Remaining」に相当する金額の累積額を,有価証券報告書における開示を避けて確実にCに支払うために各種の支払方法等の検討や準備を続けていたことを挙げる(論告4~10頁)。 検察官の上記の主張によれば,Cが毎年度,報酬計算書を用いて決定していた「GRANDTOTAL」の金額が各年度の有価証券報告書において記載すべきCの報酬額である(論告10頁)ので,同額から実際に支払われた「Actuallypaidamount」の額を差し引いた「Remaining」の額の報酬がCの開示すべき未払の報酬に当たり,検察官は,C 酬額である(論告10頁)ので,同額から実際に支払われた「Actuallypaidamount」の額を差し引いた「Remaining」の額の報酬がCの開示すべき未払の報酬に当たり,検察官は,Cの開示すべき未払の報酬が存在したと主張する。 3 弁護人の主張弁護人は,被告会社により有価証券報告書で報告された金額が,唯一かつ真実のCの「役員として受ける財産上の利益」,すなわち報酬であり,それとは別の実際の報酬金額が存在するわけではないとして,Cの開示すべき未払の報酬は存在しないと主張する(弁論15~18頁)。 具体的には,弁護人は,報酬の決定は,報酬を決定する権限を有する者が,会社としての支払義務を負うという確定的な意思表示をした時に,その決定がされたと 解すべきであり,本件においては,Cが自己の報酬について被告会社としての支払義務を負うという確定的な意思表示をしたという事実が必要であると主張する(弁論17~19頁)。その上で,弁護人は,確定的な意思表示があったというためには,その意思内容が何らかの形で外部に表出されなければならず,外部に表出されるには文書によって将来支払われる見込みの報酬等が決定されなければならないが,本件において,そのような文書は存在しないので,有価証券報告書で報告された報酬額の他に開示しなければならない報酬についての決定は存在しない旨主張する(弁論19~21頁)。 さらに,弁護人は,Cが供述するとおり(弁46・9頁,14頁,弁47・2頁,弁48・7頁),報酬計算書における「GRANDTOTAL」や「Remaining」の欄に記載された金額は「参考」にすぎないこと,CはO・P文書による手順(毎年度,文書により条件を確定させ,代表取締役が署名,秘書室長が計算し,額を受領者に報告する手順)を取 「Remaining」の欄に記載された金額は「参考」にすぎないこと,CはO・P文書による手順(毎年度,文書により条件を確定させ,代表取締役が署名,秘書室長が計算し,額を受領者に報告する手順)を取っていないことから,Cにおいても報酬計算書に記載された金額を支払われるべき報酬とは考えていなかった旨主張する(弁論41~44頁)。 4 当裁判所の判断⑴ 取締役の報酬について会社が開示しなければならない場合とはどのような場合かア有価証券報告書の提出義務を負っているのは会社であり(金商法24条1項1号),会社は,実際に支払われたものであるか否かとは無関係に有価証券報告書作成時点においてその内容とすることが可能な程度にその額が明らかな取締役の報酬については,その事業年度に対応する報酬として有価証券報告書に記載して開示すべきであるとされている(「会社役員の報酬等」の意義に関する会社法施行規則121条3号に関する解説(甲12)参照)。しかし,金商法や開示府令には,「取締役の報酬について,いかなる決定がなされれば,会社は有価証券報告書に記載して開示しなければならないのか」という点について具体的な規定があるわけではない。 そこで検討すると,会社における権限規定に基づいて取締役の報酬について決定する正当な権限を与えられていない者が決定したような場合には,会社の正規の決定として取り扱われる余地はないから,会社に開示義務があるとはいえない。また,権限がある者が決定したとしても,取締役の報酬の決定手続が全く履践されておらず,その権限者のみが取締役の報酬に関する情報を管理していて,取締役の報酬の管理を担当する部署が全く把握していないような場合には,会社としては開示義務を果たしようがないといわざるを得ない(ただし,このような場合 者のみが取締役の報酬に関する情報を管理していて,取締役の報酬の管理を担当する部署が全く把握していないような場合には,会社としては開示義務を果たしようがないといわざるを得ない(ただし,このような場合には,権限者の背任罪等の成否が問題となるであろう。)。特に,未払の報酬は,現実に金銭等の動きがなく,その存在を把握することが困難であることから,当該年度に所定の手続に従ってその額が決定され,将来支払われるものとして継続的に管理されているものであれば,これを開示することが必要であるというべきである。 これらの事情を踏まえると,会社における権限規定等に基づいて取締役の報酬について決定する正当な権限を有する者が,会社の所定の手続に従って取締役の報酬額を決定し,会社の所定の部署において取締役の報酬が継続的に管理されている場合であれば,会社としては当然にその取締役の報酬額を開示すべきであると考えられる。 イそこで,まず,Cが取締役の報酬について決定する正当な権限を有していたか否かについて検討する。この点については,前記Ⅱ第2の1のとおり,被告会社の取締役会決議により,株主総会で定めた取締役全体の報酬総額の上限額(平成20年(2008年)6月以降は29億9000万円)の範囲内で,他の代表取締役との協議を前提に,各取締役に対する報酬の配分を取締役社長又は取締役会長に一任することとされていたところ,本件当時,取締役社長又は取締役会長の地位にあったCは,C自身を含む各取締役の報酬について決定する正当な権限を有していたといえる。 ウ次いで,会社の所定の手続に従って取締役の報酬が決定され,管理されたか否かについて検討する。この点についても,前記Ⅱ第7,第13及び第18の とおり,Cは,本件当時,毎年度,年度末に,新年度の報酬計算書 定の手続に従って取締役の報酬が決定され,管理されたか否かについて検討する。この点についても,前記Ⅱ第7,第13及び第18の とおり,Cは,本件当時,毎年度,年度末に,新年度の報酬計算書の作成に先立ってABSのベースアップ率など新年度の自己の報酬に関する方針を秘書室長に指示し,これを受けて秘書室長ら秘書室職員が,ベースアップしたABSの金額を基に諸手当や会社において負担することとされていた租税額を加算するなど所要の計算を行って機械的に算定された報酬総額(「GRANDTOTAL」),有価証券報告書において開示することとした報酬額(「Actuallypaidamount」),報酬総額から開示することとした報酬額を差し引いた残額である未払の報酬額(「Remaining」)を1円単位まで明記した報酬計算書を作成した上,毎年3月から4月にかけて秘書室長が同報酬計算書をCに提示していた。そして,Cは,秘書室長から提示された報酬計算書を確認し,必要があれば修正を指示するなどした上,その報酬計算書を再度確認して新年度の報酬額の案を決定し,その決定を踏まえて,秘書室において報酬総額算定の基礎となるABSの金額を記載したC名義の報酬通知書が作成されてCに交付され,報酬計算書で確認された内容に従って月次の報酬がCに支払われ,さらに,秘書室において,支払額に基づく報酬明細書(「PAYROLL」)のほかに報酬総額に基づく報酬明細書(「PAYROLL(ORIGINAL)」)も作成して保管していたほか,「Remaining」又は「PostponedRemuneration」の額をその後の年度において累積していくものとして継続的に管理していたとの事実が認められる。 このように,本件において,取締役の報酬について最終的に決定する正当な権限を有するC neration」の額をその後の年度において累積していくものとして継続的に管理していたとの事実が認められる。 このように,本件において,取締役の報酬について最終的に決定する正当な権限を有するCが被告会社の所定の手続に従ってCの報酬を決定し,その後もCの報酬は秘書室において継続的に管理されていたといえる。 エもっとも,前記Ⅱ第2の3のとおり,Cは,C自身の報酬について,取締役会決議にあった「他の代表取締役との協議」を行っていなかった。しかし,本件当時のC以外の代表取締役であったP,O及びIは,Cの報酬に関する協議を行わないことについて特段の異議も差し挟まず,C単独で決定することを容認していた(甲84,87)。このように,Cの報酬の決定については,他の代表取締役の容認のもと,同人らとの間で具体的な協議を行わなくても,「他の代表取締役との 協議」を行ったこととするとの慣行が被告会社において確立していたといえるから,Cの報酬の決定について「他の代表取締役との協議」が行われていなかったとしても,被告会社の所定の手続に従ってCの報酬を決定していたことに変わりはないというべきである。 なお,この点について,被告人B自身は,被告会社の代表取締役であった間,毎年度,取締役の報酬水準に関する調査結果をCに提供して共にレビューしていたほか,特定の取締役に関しては自分がレコメンデーションをしていた旨供述している(被告人B第61回31~32頁)ことからすると,それらのCとの打合せをもって「他の代表取締役との協議」と考えていたものと思われ,この点について特段争っていないと解される。 オ以上によれば,本件において,被告会社は,各連結会計年度において,Cが報酬計算書に基づいて決定した報酬額,すなわち報酬計算書に記載された実際に支 点について特段争っていないと解される。 オ以上によれば,本件において,被告会社は,各連結会計年度において,Cが報酬計算書に基づいて決定した報酬額,すなわち報酬計算書に記載された実際に支払われた報酬額(「ActuallyPaidAmount」)と未払の報酬額(「Remaining」)を合わせた報酬総額(「GRANDTOTAL」)を,当事業年度に係るCの報酬として開示すべきであったと認められる。 ⑵ 検察官の主張についての検討前述したとおり,検察官は,金商法における開示規制の制度趣旨から,「実質的に報酬の決定権限を有する者が,当該取締役等の職務執行の対価として実質的に支払うことを決定したものであれば,開示すべき報酬等の金額ということになる」と主張している。 しかしながら,検察官は,「実質的に報酬の決定権限を有する者」にはどのような者が該当するのか,「実質的に支払うことを決定した」とはどのような場合を指すのかについて何ら説明をしておらず,検察官の上記の主張では,どのような場合に取締役の報酬について開示すべきなのか甚だ不明瞭といわざるを得ない。仮に「実質的に報酬の決定権限を有する者」が,報酬について内心で意思決定を行った場合も「実質的に支払うことを決定した」といえるとするならば,決定権限者以外の者 が知り得ない事実についてまで会社は開示義務を負うことになってしまう。また,取締役の報酬の決定に関する何らかの事情が当該決定権者以外の者にも明らかになっていたとしても,どのような事情が明らかになれば,会社に開示義務が生じるのか,開示義務があるとしてどの範囲の事情を有価証券報告書に記載して開示しなければならないかが不明確であり,結局のところ,取締役の報酬の決定に関して何らかの事情が明らかになれば,処罰や課徴金等 じるのか,開示義務があるとしてどの範囲の事情を有価証券報告書に記載して開示しなければならないかが不明確であり,結局のところ,取締役の報酬の決定に関して何らかの事情が明らかになれば,処罰や課徴金等の制裁を避けるために,細大漏らさず全てを有価証券報告書に記載せざるを得なくなる。そして,かかる事情を認識しながら有価証券報告書に記載せずに提出すれば,虚偽記載有価証券報告書提出罪の刑責を問われ得ることになってしまう。 このように,検察官の上記の主張は,会社に対し過重な負担を強いるばかりか,過度に広範な処罰を可能にするものであり,企業活動に不当な制約を課すおそれも否定できない。したがって,検察官の上記の主張は採用できない。 ⑶ 弁護人の主張についての検討ア弁護人は,Cが年度の途中でボーナスの支給決定をする場合や年度内に業績を踏まえて支払額を変更する場合もあったほか,当年度の終わりにならないと現物給付等の金額が確定せず報酬総額の金額は決まらなかったのであるから,報酬計算書によって年度当初にCの報酬額が確定的に決定していたとはいえない旨主張する(弁論25~26頁)。 しかしながら,被告会社において根拠・理由もなく取締役に対して報酬を支払うことはできないはずであるから,年度当初にC自身を含む各取締役の当年度の報酬額をCが決定していたことは自明というべきである。確かに,弁護人が主張するように当年度の最終的な報酬総額は現物給付等の調整を経なければ確定しないが,その調整額は報酬総額と比較するとかなり少額であったから,取締役の報酬額は年度当初に基本的に支払われるべき額として決定されていたというべきである。また,年度の途中で支払額が変更になる場合があることも弁護人が指摘するとおりであるが,これは年度当初の決定が事情の変更によって修正された 基本的に支払われるべき額として決定されていたというべきである。また,年度の途中で支払額が変更になる場合があることも弁護人が指摘するとおりであるが,これは年度当初の決定が事情の変更によって修正されたものというべきである。 したがって,Cは,年度当初に,その連結会計年度に係るCの報酬額を決定していたといえる。 イ次いで,弁護人は,取締役の報酬(特に未払の報酬)の決定について確定的な意思表示があったというためには,その意思内容が何らかの形で外部に表出されなければならず,そのためには文書によらなければならないと主張した上で,報酬計算書は文書ではあっても,報酬の金額を整理・区分して記載しただけのものであって,これをもって報酬等を付与する旨の決定がなされたとはいえないし,報酬通知書についても,年度当初における取締役の報酬額の査定あるいは暫定的な決定にとどまるもので,そこに記載されているABSについて支給する旨の決定をしたと見ることはできない旨主張する(弁論19~21頁,26頁)。 確かに,Cの報酬総額(「GRANDTOTAL」)を記載した被告会社発行の正式な文書が存在するわけではない。しかし,取締役の報酬の決定については文書を用いなければならないとの法的な規制はない。前述したとおり,Cは,本件当時,毎年度,報酬計算書に基づいて自らの報酬額の案を確認して決定し,その決定を踏まえて秘書室において,Cが決定したABSの金額が記載され,報酬決定権者であるCの署名が入った報酬通知書を作成してCに交付するとともに月次の報酬をCに支払っていた。そして,この報酬通知書には当年度の報酬総額算定の基礎となるABSの金額が記載されていたのであるから,Cによる報酬計算書の確認・決定と報酬通知書の交付によって,被告会社がCに対して報酬を支払う旨の 。そして,この報酬通知書には当年度の報酬総額算定の基礎となるABSの金額が記載されていたのであるから,Cによる報酬計算書の確認・決定と報酬通知書の交付によって,被告会社がCに対して報酬を支払う旨の意思表示は明確になされていたというべきである。 なお,2011年C・D署名文書等には,Cと被告会社が「合意」したかのような文言が存在するが,検察官も主張するように(論告24頁注83),これらの文書は,権利を発生させる趣旨の文書とはいえず,あくまでもCが被告会社に対して後に請求する際の証拠とするために作成させた文書と捉えるべきものであるから,これらの文書をもって被告会社の支払義務を負う旨の意思が表示されたということはできない。 ウまた,弁護人は,報酬計算書における「GRANDTOTAL」や「Remaining」の欄に記載された金額は,被告会社の取締役を退任した後,競業避止やコンサルタントの契約等を締結して退職後に行う仕事や義務に対して支払われる報酬や,被告会社やF社を退任してアライアンスのCEOになった場合に支払われる報酬を計算する際の「参考」にすぎないとCが供述していることを踏まえて,Cが,役員報酬個別開示制度が導入される前と同様に報酬をもらっていたとすれば,自分はいくらくらいの報酬をもらっていたのか,それを累積すればいくらになるのかについて関心を持ち,参考としてその額を把握しておきたいと思ったとしても不思議はない旨主張する(弁論41~44頁)。 しかしながら,報酬計算書の「GRANDTOTAL」や「Remaining」の欄に記載された金額が,Cの主張するような単なる「参考」にすぎないとすれば,概算額で足りるはずであり,毎年度1円単位で把握する必要はないばかりか,仮に「参考」として具体的な計算をさせていたとし 」の欄に記載された金額が,Cの主張するような単なる「参考」にすぎないとすれば,概算額で足りるはずであり,毎年度1円単位で把握する必要はないばかりか,仮に「参考」として具体的な計算をさせていたとしても,その額を「PostponedRemuneration」と表記させて累積額とともに秘書室に継続的に管理させていたほか,「PostponedRemuneration」やその累積額が記載された各種文書を繰り返し作成させていたのは,単なる「参考」としては過剰なものというべきである。 また,Cは,平成22年(2010年)11月頃,翌月に支給を予定していた被告会社の役員のボーナスを決定するに当たり,秘書室がボーナスの決定に用いるために作成した文書である同年11月29日付けの「Directors’remunerationFY10Forecast」(甲179資料Ⅲ1)において,空欄となっていた取締役らに対するボーナス額の欄(単位は円)の「C」の欄に「200000000」と書き込んだ上,その内訳として,「100000000 paidindecember」,「100000000 addedtotheowedamount」と読める記載を書き込み,1億円を同年12月に支払い,残り1億円については「theowedamount」に加算するようDに指示していた事実が認められるところ(甲17),この事実は,その時点では支払われていない「theowedamount」が実体のあるものであることをC自身が認識していたことを示すもので,「参考」であった とのCの主張とは相反するものといえる(Cは,捜査段階において,「owedamount」が何か覚えていないと供述しており(弁53),具体的な反論をしていない。)。 加えて,前記Ⅱ第13の とのCの主張とは相反するものといえる(Cは,捜査段階において,「owedamount」が何か覚えていないと供述しており(弁53),具体的な反論をしていない。)。 加えて,前記Ⅱ第13の3のとおり,平成23年(2011年)4月初旬から同月中旬にかけて,Dが,平成20年(2008年)度にスペシャルプレミアムと呼ばれる前払を受けた退職慰労金打切支給の一部と平成21年(2009年)度末頃に有価証券報告書における開示額を抑えるためにCが被告会社に一時的に返金するなどした報酬とを相殺するなどの処理をした際に生じた差額の500万円について,平成22年(2010年)度の未払となっている報酬(「PostponedCompensation」)に加算するなどの処理を行っているところ,この処理について,Dが,2011年4月14日付け「HistoryofPaymentforCEO」と題する文書(甲179資料Ⅵ3)を用いてCに説明した際に,Cは,Dに対し何ら異議を申し立てていない。上記のような処理が可能であるのは,平成22年(2010年)度の未払となっている報酬(「PostponedCompensation」)が実体のあるものであることが前提となるから,このような処理を知らされたCが何ら異議を申し立てていない事実も「参考」であったとのCの供述内容とは相反するものといえる。 なお,弁護人が主張するとおり(弁論36頁),本件においてO・P文書による手順が完全に履践されていたわけではないが,2011年C・D署名文書や2013年C・D署名文書はO・P文書による手順の一部と評価できる。また,平成26年(2014年)5月以降は,退職慰労金打切支給に関する記載も合わせたRAPR文書が頻繁に作成されてCの確認を得ていたのであるから,前記手順の趣旨に沿っ による手順の一部と評価できる。また,平成26年(2014年)5月以降は,退職慰労金打切支給に関する記載も合わせたRAPR文書が頻繁に作成されてCの確認を得ていたのであるから,前記手順の趣旨に沿った運用がなされていたというべきである。そうすると,O・P文書による手順が完全に履践されていたわけではなかったからといって,そのことが「参考」であったとのCの供述を裏付けるものとはいえない。 以上によれば,報酬計算書における「GRANDTOTAL」や「Remaining」の欄に記載された金額は「参考」にすぎないとのCの供述内容は信用できず,これに依拠した弁護人の主張も採用できない。 エさらに,弁護人は,有価証券報告書による開示義務を負うのは会社であるから,会社の最高意思決定機関である株主総会が授権した範囲を超えた行為について会社に責任を負わせることはできないとし(弁論18頁,38頁),本件において,Cが被告会社から受ける財産上の利益と他の役員等が受ける財産上の利益を合計すると平成28年(2016年)度と平成29年(2017年)度については,前述した株主総会で定めた取締役全体の報酬総額の上限額(29億9000万円)を超えることになるから,Cにはそのような報酬の決定をする権限はなく,かかる決定をしたとはいえない旨を主張する(弁論37~39頁)。 この点に関し,会社法等の商法分野の研究者である証人Zは,有価証券報告書において開示すべき役員の報酬等とは,会社法上適法有効なものであることが前提となるところ,株主総会で定めた上限額を超える報酬等の決定は,少なくとも超過部分については会社法上違法無効であり,当事業年度に係る取締役の報酬等とはいえないので,有価証券報告書において報酬等として開示すべき義務はない旨証言している(Z第4 る報酬等の決定は,少なくとも超過部分については会社法上違法無効であり,当事業年度に係る取締役の報酬等とはいえないので,有価証券報告書において報酬等として開示すべき義務はない旨証言している(Z第47回12~19頁,24~30頁)。 そこで検討するに,まず,株主総会で定めた上限額を超える報酬等の決定の効力が問題となる。取締役の報酬等について定める会社法361条1項において,取締役の報酬等の額等は,定款に定めていないときは,株主総会の決議によって定めるとされている。したがって,株主総会で定めた上限額を超えてなされた報酬等の決定は,同項の規定に反することとなり,会社法上は無効といわざるを得ない(その無効の範囲については,報酬の決定全体とする考えと上限額を超過した部分とする考えがある。)。 しかしながら,同項の趣旨が取締役や取締役会によるお手盛りの危険を防止するため取締役の報酬等の決定を株主の判断に委ねるところにあることからすると,事後的な株主総会の決議によっても株主の判断に委ねるという趣旨は全うできるのであるから,違法無効な取締役の報酬等の決定がなされても,事後的に株主総会の決議によって当初より適法有効なものであったのと同様に取り扱うことはあり得ると 考えられる(株主総会の決議を経ずに支払われた役員報酬について事後に株主総会の決議を経た場合における当該役員報酬の支払の効力に関する最高裁判所平成17年2月15日判決参照)。そうすると,株主総会で定めた上限額を超える取締役の報酬等の決定がなされたとしても,事後的に当初より有効なものであったのと同様に取り扱われる余地はあるというべきであるから,会社法以外の法規制,具体的には金商法が規定する開示規制においては,会社法とは異なった取扱いをすることも十分にあり得るというべきである。 たのと同様に取り扱われる余地はあるというべきであるから,会社法以外の法規制,具体的には金商法が規定する開示規制においては,会社法とは異なった取扱いをすることも十分にあり得るというべきである。 確かに,開示府令において有価証券報告書で開示すべき取締役の報酬等の定義は,会社法上の取締役の報酬等の定義と同じと考えられているが,このことから当然に,会社法上適法有効な報酬等でなければ,金商法上も有価証券報告書において報酬等として開示すべき義務がないとの結論が導かれるわけではない。会社法が会社全般を対象とし,現在の株主や会社債権者の権利保護を重視しているのに対し,金商法は,有価証券を発行している上場会社を念頭に,現在のみならず将来の株主を含む投資者全般の保護もその立法趣旨・目的としている。このように両者の立法趣旨・目的は異なっていることからすれば,両者の間で一方が他方に常に優位するといった関係性は認められず,両者が相互に補完し合いながら上場会社の組織と運営の適正化を図っているものと解され,それぞれの制度についてはそれぞれの趣旨・目的に沿った解釈・適用が求められているというべきである。したがって,有価証券報告書による開示規制の問題は,まずは金商法及び開示府令の立法趣旨・目的に沿って考えられるべきである。 そこで,株主総会で定めた上限額を超える報酬等の決定による報酬等の額等を有価証券報告書において開示しなければならないのかについて,金商法及び開示府令の観点から検討する。前記Ⅱ第3の1のとおり,開示府令において役員の報酬等の額が有価証券報告書における開示の対象とされているのは,投資者が投資判断を行うに当たっては,会社の財務情報のみならず,その背景にある会社のガバナンスの状況についての情報も重要な要素となるからである。それに加えて役員報酬個別開 示の対象とされているのは,投資者が投資判断を行うに当たっては,会社の財務情報のみならず,その背景にある会社のガバナンスの状況についての情報も重要な要素となるからである。それに加えて役員報酬個別開 示制度が導入されたことによって,会社の業績と個別の取締役の報酬額とのバランスや取締役間の報酬額の偏りの有無等の,会社のガバナンスの状況に関わるより具体的な情報が提供されるようになり,投資者の投資判断により資する情報が得られることとなった。このような開示府令の趣旨及び改正経緯を踏まえて検討すると,取締役の報酬等の決定過程とその内容(報酬等の額等)が当該会社のガバナンスの状況を反映したものというべきであるから,その決定の内容(報酬等の額等)をそのまま開示することが,金商法及び開示府令の立法趣旨・目的に適うものと解される。また,自ら違法なことをしておきながら,会社法上適法有効なものでなければ開示する必要がないとして,違法無効と思われる取締役の報酬等について開示する義務を免れられるということになれば,その違法を糊塗することを許すこととなり,投資者の保護を図る金商法等の立法趣旨・目的を没却することとなってしまう。 以上の検討によれば,株主総会で定めた上限額を超える取締役の報酬等の決定がなされたとしても,その決定した内容(報酬等の額等)をそのまま有価証券報告書において開示することが義務づけられているものと解される。 本件についてみると,問題となっている平成28年(2016年)度と平成29年(2017年)度においても,取締役の報酬について決定する正当な権限を有していたCが,被告会社の所定の手続に従って取締役であるCの報酬を決定していたのであるから,株主総会で定めた上限額を超える取締役の報酬等の決定がなされていたとしても,決定された報酬の額 当な権限を有していたCが,被告会社の所定の手続に従って取締役であるCの報酬を決定していたのであるから,株主総会で定めた上限額を超える取締役の報酬等の決定がなされていたとしても,決定された報酬の額をそのまま当該年度の有価証券報告書において開示すべきであったといえ,これに反する弁護人の前記主張は採用できない。 5 Cの開示すべき未払の報酬の存在⑴ 開示すべきであったCの報酬額以上の検討の結果,被告会社が,平成22年(2010年)度以降の各連結会計年度において,本件有価証券報告書で開示すべきであったCの報酬額は,各年度当初に報酬計算書によって算定された「GRANDTOTAL」の額に,現物給付等の調整等を行った上で最終的に算定された額となる。具体的には,以下のとおりである(甲3, 5)。なお,平成24年(2012年)度以降は,被告会社の主要な連結子会社であるAインターナショナルホールディングスビーブイの報酬も含んだ額である(甲5,27,142)。 平成22年(2010年)度 17億7696万2492円平成23年(2011年)度 18億9391万0678円平成24年(2012年)度 20億2492万7314円平成25年(2013年)度 19億4593万8900円平成26年(2014年)度 22億1267万0322円平成27年(2015年)度 22億8194万3949円平成28年(2016年)度 24億0213万9971円平成29年(2017年)度 24億9105万9943円⑵ 実際に開示されたCの報酬額他方,被告会社が,平成22年(2010年)度以降の各連結会計年度の有価証券報告書において実際に開示したCの報酬額は,以下のとおりである(甲1)。 平成22年(2010年) 示されたCの報酬額他方,被告会社が,平成22年(2010年)度以降の各連結会計年度の有価証券報告書において実際に開示したCの報酬額は,以下のとおりである(甲1)。 平成22年(2010年)度 9億8200万円平成23年(2011年)度 9億8700万円平成24年(2012年)度 9億8800万円平成25年(2013年)度 9億9500万円平成26年(2014年)度 10億3500万円平成27年(2015年)度 10億7100万円平成28年(2016年)度 10億9800万円平成29年(2017年)度 7億3500万円⑶ 小括前記⑴及び⑵によれば,本件当時,各連結会計年度において,いずれも,Cの開示すべきであった報酬額が実際に開示された報酬額を大きく超過していることから,Cの開示すべき未払の報酬が存在することが認められる。 第2 虚偽記載有価証券報告書提出罪の成否(客観的構成要件該当性) 1 虚偽記載有価証券報告書提出罪の趣旨前記Ⅱ第3の1で述べた有価証券報告書による継続開示規制の趣旨等を踏まえると,会社は,その財務状況や事業内容等といった,投資者の投資判断に影響を与える事項について,真実の情報を記載した有価証券報告書を適時に提出することが求められているというべきであり,その記載の真実性を担保する手段として,金商法は,投資者の投資判断を誤らせることとなる「重要な事項につき虚偽の記載のある」有価証券報告書を提出した場合は,課徴金納付命令の対象となる(金商法172条の4第1項)旨を規定しているほか,故意がある提出者については,虚偽記載有価証券報告書提出罪という刑事罰の対象としている(金商法207条1項1号,197条1項1号)。なお,上記の課徴金納付命令は,提 の4第1項)旨を規定しているほか,故意がある提出者については,虚偽記載有価証券報告書提出罪という刑事罰の対象としている(金商法207条1項1号,197条1項1号)。なお,上記の課徴金納付命令は,提出した有価証券報告書に「記載すべき重要な事項の記載が欠けている」場合も対象となる(金商法172条の4第1項)。 2 取締役の報酬等の額は金商法197条1項1号の「重要な事項」に当たるか前記1の虚偽記載有価証券報告書提出罪の趣旨によれば,「重要な事項」とは,投資者の投資判断に影響を与えるような基本的な事項,すなわち,その記載内容によって投資者の投資判断が変わり得る事項をいうものと解される。 前記Ⅱ第3の2で述べた開示府令による「コーポレート・ガバナンスの状況」に関する情報開示の一環として,役員区分ごとの報酬等の総額開示に加え,一定額以上の報酬の支払を受けている役員の種類別の報酬等の額の個別開示を義務付けるに至った経緯及び背景事情によれば,役員の報酬等に関する情報は,投資者が会社のガバナンスの状況を評価する重要な手がかりとなるものであり,その評価を基に投資判断を行うことが想定される事項であるから,その記載内容によって投資者の投資判断が変わり得る事項といえる。 よって,取締役の報酬等の額は,「重要な事項」に当たるというべきである。 3 本件有価証券報告書の記載は金商法197条1項1号の「虚偽の記載」に当 たるか⑴ 「虚偽の記載」の意義等前記1のとおり,金商法は,「重要な事項につき虚偽の記載のある」有価証券報告書を提出した場合(以下「虚偽記載の場合」という。)のみを刑事罰の対象とし,「記載すべき重要な事項の記載が欠けている」有価証券報告書を提出した場合(以下「不記載の場合」という。)は刑事罰の対象としていない。いずれ 合(以下「虚偽記載の場合」という。)のみを刑事罰の対象とし,「記載すべき重要な事項の記載が欠けている」有価証券報告書を提出した場合(以下「不記載の場合」という。)は刑事罰の対象としていない。いずれの場合であっても,投資者の投資判断を誤らせる危険性を有しているといえるが,金商法が両者を区別しているのは,不記載の場合は,投資判断における重要な事項について情報を投資者に提供しなかったにとどまる一方で,虚偽記載の場合は,投資判断における重要な事項について真実に合致しない情報を投資者に提供する点において投資判断を誤らせる危険性がより高いことから,悪質性が高く,刑事罰をもって抑制すべきと考えられるからである。 このような両者の差異に鑑みれば,真実に合致しない情報を投資者に提供したと評価される場合には「虚偽の記載」があるといえるものと解される。 ⑵ 本件有価証券報告書の「役員の報酬等」の記載内容別紙(平成29年(2017年)度の被告会社の有価証券報告書の抜粋)のとおり,本件有価証券報告書には,取締役の報酬について,ほぼ共通して,以下の記載がある。 ① 「役員の報酬等」との標題に続いて,「当社の取締役に対する報酬は,平成15年6月19日開催の第104回定時株主総会において決議されたとおり,確定額金銭報酬と株価連動型インセンティブ受領権から構成されている。確定額金銭報酬は,平成20年6月25日開催の第109回定時株主総会の決議により年額29億9,000万円以内とされており,その範囲内で,企業報酬のコンサルタント,k社による大手の多国籍企業の役員報酬のベンチマーク結果を参考に,個々の役員の会社業績に対する貢献により,それぞれの役員報酬が決定される。」との記載がある。 ② 前記①の記載の下には,「一方,株価連動型インセンティブ受領権は,当社の のベンチマーク結果を参考に,個々の役員の会社業績に対する貢献により,それぞれの役員報酬が決定される。」との記載がある。 ② 前記①の記載の下には,「一方,株価連動型インセンティブ受領権は,当社の 持続的な利益ある成長に対する取締役の意欲を一層高めることを目的としており,会社のビジネスプランに直接連動した目標を達成することにより付与される。株価連動型インセンティブ受領権は,・・・定時株主総会の決議により,年間付与総数の上限を当社普通株式600万株相当数としている。」との記載がある。そして,この記載の下には,監査役の報酬に関する記載がある。 ③ 前記②の監査役の報酬に関する記載の下には,「当事業年度の取締役及び監査役に支払われた報酬は以下の通りである。」との記載がある。 ④ 前記③の記載の下には,「<役員区分ごとの報酬等の総額等>」との標題の一覧表の記載がある。同一覧表は,「取締役(社外取締役を除く)」,「監査役(社外監査役を除く)」及び「社外役員」の各区分の「総報酬」,「金銭報酬」,「株価連動型インセンティブ受領権」及び「人数」の各項目について数値(金額は百万円単位)が記載されている。 ⑤ 前記④の一覧表の下には,「<役員ごとの連結報酬等の総額等但し,連結報酬等の総額1億円以上である者>」との標題の一覧表がある。同一覧表には,連結報酬等の総額が1億円以上である取締役の「氏名」,「役員区分」,「会社区分」,「総報酬」,「金銭報酬」及び「株価連動型インセンティブ受領権」の各項目について記載がある(金額は百万円単位)。なお,Cの「総報酬」と「金銭報酬」については,それぞれ同じ金額が記載されていた一方,「株価連動型インセンティブ受領権」については,「0」又は「-」(割り当てられていない趣旨)が記載されていた。 ⑥ 前記⑤の一 酬」と「金銭報酬」については,それぞれ同じ金額が記載されていた一方,「株価連動型インセンティブ受領権」については,「0」又は「-」(割り当てられていない趣旨)が記載されていた。 ⑥ 前記⑤の一覧表の欄外下方には,「(注) 株価連動型インセンティブ受領権の上記金額は平成23年3月31日時点の株価を用いて算定した公正価額であり,支払いが確定されたものではない。」(平成22年(2010年)度の有価証券報告書)又は「(注) 株価連動型インセンティブ受領権の上記金額は平成●●年3月31日時点の株価を用いて算定した公正価額に基づき,当事業年度に計上した会計上の費用を記載している。この公正価額で,支払いが確定されたものではない。」(平成 23年(2011年)度から平成29年(2017年)度までの各有価証券報告書)との注記がある。 ⑦ 前記⑥の注記の下には,「<役員報酬の決定方法>」の標題があり,「取締役の報酬については,取締役会議長が,各取締役の報酬について定めた契約,業績,第三者による役員に関する報酬のベンチマーク結果を参考に,代表取締役と協議の上,決定する。」との記載がある。 ⑶ 当裁判所の判断前記①ないし⑦の記載全体を読んだ投資者は,前記①のとおり,被告会社が支払う取締役の報酬には,確定額金銭報酬と株価連動型インセンティブ受領権があるものと理解すると考えられる。そして,後者の株価連動型インセンティブ受領権については,前記⑥の注記により,未払の報酬であることが明らかであるから,投資者は,被告会社が支払う取締役の報酬として,未払の報酬についても前記④及び⑤の一覧表に記載されているものと理解すると考えられる。そうすると,前記④及び⑤の前提となる前記③の「支払われた報酬」とは,既に支払われた報酬に限定する意味ではなく,未払の報 酬についても前記④及び⑤の一覧表に記載されているものと理解すると考えられる。そうすると,前記④及び⑤の前提となる前記③の「支払われた報酬」とは,既に支払われた報酬に限定する意味ではなく,未払の報酬をも含むものと理解すると考えられる。この場合,「支払われた」の意味は,「支払われることとなった」という意味に解釈することになる(このような文言解釈は,我々が日常生活において実践しているものと思われる。)。 また,前記⑤の記載を読んだ投資者は,Cには株価連動型インセンティブ受領権が割り当てられておらず,Cの「総報酬」とは「金銭報酬」のみから構成されているものと理解すると考えられる。 したがって,本件有価証券報告書の「役員の報酬等」の項目を読んだ投資者は,被告会社がCに支払う「総報酬」欄及び「金銭報酬」欄には,既に支払われた金銭報酬と未払の金銭報酬のいずれもが記載されているとの認識を持つと考えられる。 ところが,実際には,Cの「総報酬」欄及び「金銭報酬」欄には実際に支払われた金銭報酬のみが記載され,未払の金銭報酬については,それがあるにもかかわらず記載されていなかった。そうすると,本件有価証券報告書には真実に合致しない記 載がなされていて,それによってCの「総報酬」欄及び「金銭報酬」欄の記載は未払の金銭報酬を含むものであるとの誤った情報が投資者に提供されたと評価できる。 よって,本件有価証券報告書におけるCの「総報酬」欄及び「金銭報酬」欄の記載は,「虚偽の記載」に当たる。 ⑷ 弁護人の主張についての検討これに対し,弁護人は,「報酬等」の定義を知らない一般の投資者であれば,前記③の記載(「支払われた報酬」)を文字どおり現に当事業年度に支払われた報酬が記載されたものと理解し,株価連動型インセンティブ受領権については,前記⑥ 酬等」の定義を知らない一般の投資者であれば,前記③の記載(「支払われた報酬」)を文字どおり現に当事業年度に支払われた報酬が記載されたものと理解し,株価連動型インセンティブ受領権については,前記⑥の注記により,前記③の記載の例外をなしていると理解する一方,確定額金銭報酬については,前記⑥のような注記がないので,前記③の記載の例外には当たらず,本件有価証券報告書には文字どおり「支払われた報酬」を記載しているのであり,未払の金銭報酬の有無については何ら記載されていないから,未払の金銭報酬があったとしても,それは不記載の場合にとどまり,虚偽記載の場合には当たらない旨を主張する(弁論485~492頁,495頁)。 しかしながら,弁護人の上記の主張は,まず前記③の「支払われた報酬」の意味を「既に支払われた報酬」という意味で絶対的に固定した上で,株価連動型インセンティブ受領権については,前記⑥の注記によって遡って前記③の例外になると理解し,そこから更に,確定額金銭報酬については,前記⑥のような注記がないことから前記③の例外はないと理解するというものであるが,前記③の意味を当初から絶対的に固定して他の解釈を排除するという点において不自然・不合理なものである。前記③の「支払われた報酬」の意味は,「役員の報酬等」の項目全体の記載を踏まえて解釈されるべきであり,前記⑶において検討した文言解釈が自然で合理的というべきである。また,注記はその対象とされている事柄についての補足説明であるから,前記⑥の注記は,株価連動型インセンティブ受領権の金額がその時点における計算上のもので,実際に支払われる金額というわけではないことを補足して説明したものにとどまるととらえるのが通常であり,前記⑥の注記には明示されて いない前記③の「支払われた報酬」の記載とわざ 上のもので,実際に支払われる金額というわけではないことを補足して説明したものにとどまるととらえるのが通常であり,前記⑥の注記には明示されて いない前記③の「支払われた報酬」の記載とわざわざ結び付けて解釈することは一般には想定し難い。 したがって,弁護人が主張する本件有価証券報告書の記載に関する解釈は,不自然・不合理というほかなく,採用できない。 4 C及びDの行為は金商法197条1項1号の「提出」に当たるか有価証券報告書の提出は有価証券の発行者である会社の義務であるから(金商法24条1項1号),虚偽記載有価証券報告書提出罪(金商法197条1項1号)の主体である有価証券報告書を「提出」した者とは,有価証券報告書の提出義務を負う会社ということになるが,その会社の業務に関して,有価証券報告書の提出に関与した役職員等については,金商法207条1項の「その行為者を罰するほか」の文言により同罪の主体が拡張修正されるため,同罪によって処罰されることになる。 そして,一般に有価証券報告書の提出が,その作成や承認等の各過程を経てなされるものであることを踏まえると,虚偽記載有価証券報告書提出罪にいう有価証券報告書の「提出」とは,財務局長への提出行為そのもののほか,提出を前提として有価証券報告書を作成し,その内容を承認するなど,提出先である財務局長に到達させるまでの一連の過程における各種行為を指すものと解される。 本件について検討すると,Cは,本件有価証券報告書に記載して開示する自身の報酬の額を決定し,平成27年(2015年)度までは,本件有価証券報告書の提出の決裁にも関与し,Dは,Cが決定したC自身の報酬の開示額を,本件有価証券報告書に記載する額として同報告書の作成を担当する経理部連結会計グループに伝達したのであるから,いずれの行為も 券報告書の提出の決裁にも関与し,Dは,Cが決定したC自身の報酬の開示額を,本件有価証券報告書に記載する額として同報告書の作成を担当する経理部連結会計グループに伝達したのであるから,いずれの行為も「虚偽の記載」のある有価証券報告書の「提出」に当たる。 第3 CとDとの共謀の有無等 1 虚偽記載有価証券報告書提出罪の成立に必要な認識虚偽記載有価証券報告書提出罪が成立するためには,同罪の故意がなければならず,同故意が認められるためには,提出する有価証券報告書に「虚偽の記載」のあ ることを認識していることが必要となる。 前述したとおり,本件有価証券報告書において開示すべきであったCの報酬額は,各連結会計年度当初に報酬計算書において算定された「GRANDTOTAL」の額に,現物給付等の調整等を行った上で最終的に算定された額であったから,実際には支払済みの報酬額のみを開示していたことが「虚偽の記載」に当たることになる。したがって,本件において虚偽記載有価証券報告書提出罪の故意があるというためには,Cの報酬の中に支払済みの報酬以外の「開示すべき未払の報酬」が存在することの認識が行為者になければならないこととなる。 このように「開示すべき未払の報酬」の存在について認識する必要があるから,取締役の職務執行の対価として被告会社から受け取ってしかるべきであるのに,受け取っていない報酬(O・P文書でいうところの「GAP」がこれに当たる。以下,単に「差額」と表記することもある。)があるという認識だけでは足りず,その「差額」が有価証券報告書に記載して開示すべきものであるという認識も必要ということになる。そして,前述したとおり,取締役の報酬を決定する正当な権限を有していたCが,被告会社の所定の手続に従ってCの報酬を決定し,秘書室におい に記載して開示すべきものであるという認識も必要ということになる。そして,前述したとおり,取締役の報酬を決定する正当な権限を有していたCが,被告会社の所定の手続に従ってCの報酬を決定し,秘書室においてCの報酬を管理していた場合には,Cの報酬を当事業年度に係る報酬として開示すべきであるから,そのようなCの報酬の決定手続及び管理状況について認識があれば,Cの未払となっている報酬も開示すべきであること,すなわちCの「開示すべき未払の報酬」の存在について認識していたといえることになる。 2 C及びDの虚偽記載有価証券報告書提出罪についての故意の有無⑴ Cの開示すべき未払の報酬に関する認識の有無前記第1の4⑴ウのとおり,Cは,本件当時,毎年度,秘書室において算定された報酬総額(「GRANDTOTAL」)と,それから実際に支払われた報酬額(「Actuallypaidamount」)を差し引いた残額である未払の報酬額(「Remaining」)が記載された報酬計算書の提示を受け,その内容を確認・決定し,その決定を踏まえて,秘書室長からCに対し報酬総額算定の基礎となるABSの金額を記載したC名義 の報酬通知書が交付され,報酬計算書で確認された内容に従って月次の報酬が支払われていたほか,さらに,秘書室において,2種類の報酬明細書(「PAYROLL」)が作成され,「Remaining」又は「PostponedRemuneration」の額をその後の年度においても累積していくものとして継続的に管理していたとの事実が認められる。 また,本件当時,毎年度,Cが新年度の自身の報酬の案を検討するに当たっては,現物給付等の調整を経た上で得られた当年度に実際に支払われた報酬額(「Actuallypaidamount」)を,Dが報酬計算書に 当時,毎年度,Cが新年度の自身の報酬の案を検討するに当たっては,現物給付等の調整を経た上で得られた当年度に実際に支払われた報酬額(「Actuallypaidamount」)を,Dが報酬計算書に記載するなどしてCに報告し,Cにおいて当年度の有価証券報告書において開示する額として確認・了承していた事実も認められる。 以上の事実によれば,C及びDは,Cが自身を含む各取締役の報酬を決定する正当な権限を有していることを当然に認識していたといえる上,Cが,役員報酬個別開示制度の導入以前から確立し,導入後も継続していた被告会社の手続に従ってCの報酬を決定し,未払となっている報酬については秘書室が将来支払われるものとして継続的に管理していたことも認識していたのであるから,報酬計算書の報酬総額(「GRANDTOTAL」)から実際に支払われた報酬額(「Actuallypaidamount」)を差し引いた残額(「Remaining」)に当たる報酬は,有価証券報告書において開示すべきものであること,すなわちCの開示すべき未払の報酬の存在について認識していたといえる。換言すれば,C及びDは,有価証券報告書において開示すべきCの報酬額は,実際に支払われた報酬額ではなく報酬総額であることを認識していたといえる。 ⑵ 虚偽記載有価証券報告書提出罪の故意の有無前記第2の4によれば,Cは,本件当時,毎年度6月に提出する有価証券報告書において開示する自身の報酬の額について,実際に支払われた報酬額とするようにDに指示し,その指示を受けたDがその額を経理部連結会計グループに連絡し,同グループで有価証券報告書を作成し,Cらの承認を受けて関東財務局長に提出していた事実が認められる。 このように,C及びDは,開示すべきCの報酬額としては報酬総額 グループに連絡し,同グループで有価証券報告書を作成し,Cらの承認を受けて関東財務局長に提出していた事実が認められる。 このように,C及びDは,開示すべきCの報酬額としては報酬総額を記載しなければならないのに,実際には支払われた報酬額のみが記載された「虚偽の記載」のある有価証券報告書を提出することについても認識していたといえるから,虚偽記載有価証券報告書提出罪の故意を有していたといえる。 3 C及びDの虚偽記載有価証券報告書提出罪についての共謀の有無⑴ 平成23年(2011年)4月におけるCとDとの共謀状況前記Ⅱ第11及び第12のとおり,Cは,平成23年(2011年)3月から同年4月にかけて,自らの報酬について,Dとの間でPayment文書等のやり取りを通じて,確定した報酬と支払済みの報酬と延期された報酬の区分を明らかにし,延期された報酬を支払う方法について,被告会社の取締役を退任後に相談役等の報酬の名目で支払を受ける案を選択するとともに,O・P文書による手順を採用することとし,その一環として作成された2011年C・D署名文書において,平成21年(2009年)度及び平成22年(2010年)度の報酬の区分を確認した。 さらに,平成22年(2010年)度のCの報酬については,実際に支払った報酬額を同年度のCの報酬額として有価証券報告書において開示し,未払となっている残額については支払を延期した上で継続的に管理するように指示し,その指示を受けてDが報酬計算書の書式を変更するなどしたことからすると,平成23年(2011年)4月の時点で,CとDとの間で,平成22年(2010年)度のCの報酬に関し,報酬総額ではなく実際に支払われた報酬額を記載した「虚偽の記載」のある有価証券報告書を提出することについて共謀が成立したとい 4月の時点で,CとDとの間で,平成22年(2010年)度のCの報酬に関し,報酬総額ではなく実際に支払われた報酬額を記載した「虚偽の記載」のある有価証券報告書を提出することについて共謀が成立したといえる。 そして,有価証券報告書において開示する取締役の報酬額等は,Cの指示により秘書室において秘匿管理され,株主総会の終了を待って秘書室から経理部連結会計グループに伝達されて有価証券報告書に記載されていた。そのようにして作成された「虚偽の記載」のある有価証券報告書は,Cにおいて承認され,平成23年(2011年)6月28日に関東財務局長に提出された。 このように,C及びDは,「虚偽の記載」のある有価証券報告書を提出すること の認識を共有しながら,当該有価証券報告書の提出に当たって協働していたのであるから,共謀の上,被告会社の業務に関し,「虚偽の記載」のある平成22年(2010年)度の有価証券報告書を提出したといえる。 ⑵ 平成23年(2011年)4月以降におけるCとDとの共謀状況平成23年(2011年)4月より後の各連結会計年度においても,Cは,前記⑴と同様に,Dが作成した報酬計算書によって報酬総額,実際に支払われた報酬額,報酬総額から実際に支払われた報酬額を差し引いた残額である未払の報酬額を確認するなどし,報酬総額ではなく実際に支払われた報酬額が記載された「虚偽の記載」のある有価証券報告書が作成され,提出された。 このように,C及びDは,前記⑴と同様に,共謀の上,被告会社の業務に関し,「虚偽の記載」のある平成23年(2011年)度から平成29年度(2017年)度までの各有価証券報告書を提出したといえる。 第4 被告人BとC及びDとの共謀の有無等 1 問題の所在⑴ 本件の共謀等に関する証拠構造等弁護 1年)度から平成29年度(2017年)度までの各有価証券報告書を提出したといえる。 第4 被告人BとC及びDとの共謀の有無等 1 問題の所在⑴ 本件の共謀等に関する証拠構造等弁護人も指摘するとおり,本件において,被告人BとC又はDとの間でCの「未払報酬」を開示しないことについてやり取りがされた事実は認められず(弁論3~4頁),C,D及び被告人Bが一堂に会してCの「未払報酬」の支払について協議した事実も認められない(弁論153頁)。このように,本件においては,被告人BがC及びDとの間で「虚偽の記載」のある本件有価証券報告書を提出することについて共謀(意思連絡)したことを直接証明する証拠は存在しない。 ⑵ Cの報酬の決定手続・管理状況に関する被告人Bの認識前述したとおり,虚偽記載有価証券報告書提出罪について共謀及び故意を認定するには,未払の報酬が存在していることのみならず,当該報酬が有価証券報告書において開示すべきものであることの認識が必要となる。C及びDについては,取締役の報酬の決定権限を有していたCが被告会社の所定の手続に従って取締役の報 酬額を決定していた一連の手続に関与していたものであるから,いずれも「Remaining」又は「PostponedRemuneration」の額に相当する報酬がCの開示すべき未払の報酬として存在し,秘書室で管理していることの認識があり,両者の間で虚偽記載有価証券報告書提出罪の共謀が成立することは先に認定したとおりである。 他方で,前述したとおり,Cの報酬に関する決定手続に関与していたのは,C及びDのほか秘書室職員の数名というごく少数であり,Cの報酬に関する情報は秘書室において厳重に秘匿管理されていた。また,被告人Bは,平成20年(2008年)9月以降,被告会社 に関与していたのは,C及びDのほか秘書室職員の数名というごく少数であり,Cの報酬に関する情報は秘書室において厳重に秘匿管理されていた。また,被告人Bは,平成20年(2008年)9月以降,被告会社の秘書室の業務を所管する執行役員として稼働し,秘書室長のDの業務に対する監督も被告人Bの業務内容となってはいたが,Cの報酬の決定・管理等において使用されていた各種文書(報酬計算書,報酬通知書,報酬明細書(「PAYROLL」)等)が被告人Bの決裁を受けることはなかった。その他の関係証拠を見ても,被告人BがCの報酬の決定手続及び管理状況に直接関与していたとの事情は認められない。このように,Cの報酬の決定手続・管理状況に関する被告人Bの認識を直接証明する証拠も存在しない。 ⑶ 本件の関係者間の情報共有の状況等本件において,被告人BとC又はDとの間の情報共有の状況等に関して,検察官は,Dや被告人Bが作成した各種の書面の内容の類似性や作成時期の近接性等を根拠に,CとDとの間で共有された情報は被告人Bとの間でも当然に共有されていた(関係者間で意思連絡はあった)はずであるとの前提に立っているように思われる(例えば,論告37頁等)。 しかしながら,Cは,自らの報酬に関する秘匿をDに厳しく求めていた(D第21回49頁等)。また,2011年C・D署名文書でCに支払うとされていた金額(合計10億円余り)と2011年I署名文書のそれ(一括金4000万米国ドルに年次報酬の合計が3000万から4500万米国ドル)との間には大きな差異があったように,被告人BとDとの間で各自が作成する文書の内容について情報交換がされていた形跡は見当たらない。 このように,本件における関係者の関係は,基本的に,主犯であるCが被告人BとDに対して個別に指示し,指示 で各自が作成する文書の内容について情報交換がされていた形跡は見当たらない。 このように,本件における関係者の関係は,基本的に,主犯であるCが被告人BとDに対して個別に指示し,指示を受けた被告人BとDがそれぞれ個別にCに対して資料や情報を提供するというものである(検察官も,両者の役割は基本的に分断されているとする(論告56頁)。)。そのため,Cから同時期に同じ課題について個別の指示を受けた被告人BとDが,それぞれ同様の資料等を作成してCに提出していたと考えられ,被告人BとDの作成する文書等の内容や作成日付が近似することは何ら不自然とはいえないこととなる。そして,上記のような分断された関係からすると,被告人BとDとの間で本件に関して密な情報共有がなされていたとは考え難いから,CとDとの間で共有されていた事実・情報が被告人Bとの間でも共有されていたわけでは必ずしもなかったというべきである(検察官も,本件に関する被告人Bの具体的な動きを,Dはそれほど把握していないとする(論告58頁注177)。)。 ⑷ Cの報酬の「shortfall」に関する被告人Bの認識Oらにおいて,平成21年(2009年)度のCの開示された報酬額は従前の報酬額から大幅に減額されており,Cには取締役の職務執行の対価として被告会社から受け取ってしかるべき報酬がありながら,受け取っていない未払の報酬,すなわち「差額」が存在すると認識していたところ(甲85),被告人Bも,Cの報酬が大幅に減額されたことは認識しており,この減額によって生じた得べかりし利益の減少分のことを「shortfall」と表現している(被告人B第53回36頁,第54回29~36頁,第62回46頁等)。 なお,Eは,被告人Bは「haircut」という言葉を使っていた旨証言している(E のことを「shortfall」と表現している(被告人B第53回36頁,第54回29~36頁,第62回46頁等)。 なお,Eは,被告人Bは「haircut」という言葉を使っていた旨証言している(E第31回21~25頁)が,「shortfall」と「haircut」は,役員報酬個別開示制度の導入に際してCが自らの報酬を減額し,それによって生じたものという意味において基本的に同じものと解される。 検察官は,被告人Bは,Cの報酬の「shortfall」を有価証券報告書に記載して開示すべき報酬であると認識していたと主張する(論告42頁)。他方で,弁護人 は,「shortfall」とは,「ある額に不足している」ことや「収入を減らす」ことを意味し,「報酬」のように,その額を将来支払うといった意味合いは含まないから,被告人Bは,Cの報酬の「shortfall」を開示すべき報酬であると認識していたわけではないと主張する(弁論7頁,179頁)。このように,Cの報酬の「shortfall」に関する被告人Bの認識については,検察官と弁護人との間で争いがある。 前記⑴によれば,被告人BとC及びDとの共謀(意思連絡)の有無について,これを直接証明する証拠はなく,また,前記⑵及び⑶によれば,CとDとの間の共謀(意思連絡)関係から被告人BとC及びDとの共謀(意思連絡)関係を推認することも困難である。したがって,本件においては,前記Ⅱ及びⅢにおいて認定した事実関係を基に,Cの報酬に関する被告人Bの認識を推認することによって,被告人Bの虚偽記載有価証券報告書提出罪の故意が認められるか否か,更にはC及びDとの共謀(意思連絡)が認められるか否かを検討することとなる。中でも,Cの報酬に関する被告人Bの認識については,前述したとおり,「shortfall」に 提出罪の故意が認められるか否か,更にはC及びDとの共謀(意思連絡)が認められるか否かを検討することとなる。中でも,Cの報酬に関する被告人Bの認識については,前述したとおり,「shortfall」に関する被告人Bの認識がどのようなものであったのか,すなわち被告人Bが「shortfall」を「開示すべき未払の報酬」として認識していたのか否かを明らかにする必要がある。 2 検察官の主張についての検討⑴ 検察官の主張この点について,検察官は,DがCから「被告人Bが未払となっている報酬を支払う方法を考え,Dはその報酬を管理してほしい。」と言われた旨証言していること(D第4回6頁)等を踏まえて,平成23年(2011年)4月の時点で,被告人BとC及びDとの間で,DはCの「未払報酬」の管理を行い(論告56頁),被告人Bは「未払報酬」を有価証券報告書における開示を避けて支払う方法を検討する(論告41頁)との役割分担の下,虚偽記載有価証券報告書提出罪についての共謀が成立した旨主張する。そして,被告人Bが検討していた各種の支払方法等のう ち,非連結会社からの支払方法の検討は,本件共謀の成立(平成23年(2011年)4月)に先立つ平成22年(2010年)3月の時点において,本件の共謀の基となる基本的な考え方がCと被告人Bとの間で共有されていたことを意味し,本件共謀の存在を裏付ける事実であると主張する(論告10~12頁)。また,検察官は,被告人Bが検討していた相談役報酬等の名目による支払方法等は,Cの「未払報酬」を支払うためのものであり,このような検討を被告人Bが行っていたことは,平成23年(2011年)4月に成立した被告人BとC及びDとの共謀の存在を裏付けるものであると主張する(論告3~26頁,28~42頁)。 また,「sho のような検討を被告人Bが行っていたことは,平成23年(2011年)4月に成立した被告人BとC及びDとの共謀の存在を裏付けるものであると主張する(論告3~26頁,28~42頁)。 また,「shortfall」の点について,検察官は,被告人Bは,Cの報酬の「shortfall」を有価証券報告書において開示すべき「報酬等」に含まれる,すなわちCの開示すべき未払の報酬として認識していたと主張し(論告42頁),その理由として,以下の3点を指摘する。 ① 役員報酬個別開示制度の導入に伴い,平成21年(2009年)度のCの報酬のうち,有価証券報告書における開示額を抑えるために返金された一定の金額が当該年度のCの報酬の「shortfall」となっていること,平成22年(2010年)度以降のCの報酬においても,有価証券報告書における開示を避けるため当該年度中に支払われない一定の金額,すなわち「shortfall」は毎年度生じ,累積していくものであることを,被告人Bは認識していた(論告43~44頁)。 ② 被告人Bは,平成22年(2010年)以降,一貫して「shortfall」を賄える金額をCに支払うための各種の支払方法等を検討していたが,そのような高額の支払を既定路線とする被告人Bの姿勢に全く変化がなかったこと,退職慰労金打切支給の増額分は「shortfall」を補塡するものと理解していたことから,被告人Bは,累積していく「shortfall」について,いずれ被告会社がCに支払わなければならないものと認識していた(論告44~46頁)。 ③ 前記Ⅲ第7で検討したとおり,平成30年(2018年)6月27日のDとEとの打合せにおいて,被告人Bが同日付けRAPR文書を目にして退職慰労金打切 支給の増額分は延期された報酬の一部ではないかと尋ねた事 したとおり,平成30年(2018年)6月27日のDとEとの打合せにおいて,被告人Bが同日付けRAPR文書を目にして退職慰労金打切 支給の増額分は延期された報酬の一部ではないかと尋ねた事実が認められるところ,同文書に記載された「PostponedRemuneration」は被告人Bがいうところの「shortfall」と同じものといえるから,被告人Bは,「shortfall」は「PostponedRemuneration」であると認識していた(論告46~50頁)。 ⑵ 検討検察官の上記の主張は,必ずしも論旨が明瞭ではないが,要するに,検察官は,Cは,平成22年(2010年)3月,役員報酬個別開示制度の導入に伴い平成21年(2009年)度の報酬の一部を返金したものの,Dに対し,当該返金分に加えて今後も毎年度一定の金額で発生する「shortfall」について管理することを指示する一方,被告人Bに対しては,当該返金分と「shortfall」を有価証券報告書における開示を避けて支払う方法の検討を指示し,その指示に基づいて被告人BがF・A会社からの支払方法を検討していたもので,ここに被告人BとC及びDとの間で同年度の有価証券報告書については当該返金分について記載しないという「虚偽の記載」のある有価証券報告書を提出することについて共謀が成立したと主張しているものと思われる。 その上で,検察官は,平成21年(2009年)度の有価証券報告書について一旦成立した共謀関係は,平成22年(2010年)度以降の有価証券報告書についても同じ役割分担のまま被告人BとC及びDとの間に引き継がれたのであり,そのことは実際に被告人Bが相談役報酬等やDDSO等の名目で支払う方法を検討していたことから裏付けられると主張しているものと思われる。 分担のまま被告人BとC及びDとの間に引き継がれたのであり,そのことは実際に被告人Bが相談役報酬等やDDSO等の名目で支払う方法を検討していたことから裏付けられると主張しているものと思われる。 そして,検察官は,被告人Bは,各種支払方法を検討するに当たって念頭に置いていたCの報酬の「shortfall」について,毎年度一定の金額で発生し累積されるもので,Dにおいて管理され,将来支払われるものとして認識していたのであるから,それがCの開示すべき未払の報酬であることを認識していたと主張しているものと思われる。 このような検察官の主張を踏まえて,Cの報酬の「shortfall」に関する被告人B の認識が,被告人Bが行っていた各種の支払方法等の検討状況から推認し得るのか,また,被告人Bが目にしたCの報酬に関する文書の記載から推認し得るのかについて,以下,更に検討する。 3 各種支払方法等の検討状況からの推認⑴ 平成21年(2009年)度のCの報酬の一部返金に関する検討前記Ⅲ第1のとおり,被告人Bは,平成22年(2010年)4月頃,Cが平成21年(2009年)度の報酬の一部を返金したことを認識しており,これを受けて,前記Ⅲ第2のとおり,この一部返金に伴うCの報酬の「shortfall」をどのように開示を避けて支払うのかという検討の一環として,F・A会社等の非連結会社からの支払方法を検討していたものと認められる。 そして,平成21年(2009年)度の確定した報酬の一部である7億円は,役員報酬個別開示制度の導入という緊急事態に対応するために返金したものの,翌年度以降に支払うことを検討していたのであるから,当該返金分は平成21年(2009年)度の確定した金銭報酬として有価証券報告書に記載して開示すべきものであったこと に対応するために返金したものの,翌年度以降に支払うことを検討していたのであるから,当該返金分は平成21年(2009年)度の確定した金銭報酬として有価証券報告書に記載して開示すべきものであったことは明らかである。そうすると,同年度の報酬に関していえば,被告人BにはCの開示すべき未払の報酬の存在について認識があり,同年度の有価証券報告書について当該返金分を記載していない「虚偽の記載」のある有価証券報告書であるとの認識もあったといえる。したがって,同年度の有価証券報告書については,被告人BとC及びDとの間で虚偽記載有価証券報告書提出罪について共謀があったと考えられる。 ⑵ F・A会社等からの支払方法の検討ア前記Ⅲ第2のとおり,被告人Bは,前記⑴の一部返金に伴う「shortfall」に加えて,それ以降も毎年度発生することが見込まれる「shortfall」をどのように開示を避けて支払うのかについての検討の一環として,F・A会社等の非連結会社からの支払方法を検討していたものと認められる(なお,被告人Bは,捜査段階で,平成22年(2010年)6月から少し後,Cから,「今後も開示額はフラ ンスで受け入れられる額にしないといけない。開示額を抑えるために,今後も不足分(shortfall)が出てきて累積していくだろう。その不足分を合法的に開示を避けて補う方法があるか検討してもらいたい」と言われた旨供述している(乙26)。)。 被告人Bは,F・A会社やWから支払われる報酬については,報酬という性質から毎年度発生するものであり,一定の金額になることを想定していたものと思われる。また,被告人Bは,DがCの報酬を管理していることも認識し(被告人B第50回18頁,第62回40~41頁),F・A会社等からの報酬もDが管理する口座から支 額になることを想定していたものと思われる。また,被告人Bは,DがCの報酬を管理していることも認識し(被告人B第50回18頁,第62回40~41頁),F・A会社等からの報酬もDが管理する口座から支払われることが予定されていたようにDによって継続的に管理されるとの認識もあったものと考えられる。 そうすると,平成22年(2010年)度以降のCの報酬の「shortfall」については,毎年度発生する一定の金額のもので,Dにおいて継続的に管理されるものとの認識が被告人Bにあったものと思われる。 イしかしながら,前記1⑵のとおり,被告人Bが被告会社におけるCの報酬の決定手続及び管理状況について認識を有していたとの証拠は存在しないところ,F・A会社等から支払われるCの報酬の決定手続及び管理状況についても被告人Bが認識していたとの事情は見受けられない(Dらが検討し,被告人Bに報告していたのは,F・A会社等からの支払方法(プロセス)についてであり,支払の前提となる報酬の決定手続や管理状況についてではない。実際にも,Dは,平成22年(2010年)4月9日にSに宛てた電子メール(甲179資料Ⅱ4)において,「メール資料はBさんから紙でもらったものですが,彼がいろいろな人に法的問題について尋ねているのがわかります。従って,スキームを作るにあたって全く内緒ということはありませんが,問題は「人と金額」について秘匿を守ることでしょう。 これはTさんにもBさんにも伝えることはできません。」と記載していた。)。 そうすると,F・A会社等からの支払方法について検討していたからといって,平成22年(2010年)度以降のCの報酬がどのように決定・管理されるのか,具体的には,平成22年(2010年)度以降もこれまでと同様に被告会社の所定 の手続に従っ ていたからといって,平成22年(2010年)度以降のCの報酬がどのように決定・管理されるのか,具体的には,平成22年(2010年)度以降もこれまでと同様に被告会社の所定 の手続に従ってCの報酬が決定・管理された上で,その一部がF・A会社等から支払われるのか,被告会社からの報酬とF・A会社からの報酬を完全に切り離して,被告会社からの報酬は開示することとした報酬額についてのみ被告会社の所定の手続に従って決定・管理されるのかなどといった点について,被告人Bが認識していたとはいえない。 ウまた,F・A会社等からの支払方法は,結局のところ,平成23年(2011年)4月の時点までにいずれも断念され,代わって取締役退任後に相談役報酬等の名目による支払方法が検討されることとなったが,この相談役報酬等の名目による支払方法は,F・A会社等からの支払方法のように毎年度一定の金額を支払うことを前提にしておらず,退任後にまとめて支払うものとされていたことからすると,毎年度被告会社の所定の手続においてその額を決定させる必然性はないことになる(もっとも,O・P文書による提案においては,その額を毎年度確認するとしていたものの,前記Ⅲ第4の6のとおり,平成23年(2011年)3月当時,被告人BがOやPの提案内容やO・P文書等の存在を認識していたことを証明する証拠は存在せず,被告人BがO・P文書の作成やO・PのCへの提案に関与した事実は認められない。)。そして,毎年度その額を決定させる必然性がないとなれば,決定以降の報酬の管理も,秘書室において継続的になされる必然性はないこととなる。 このようなF・A会社等からの支払方法と相談役報酬等の名目による支払方法の差異に鑑みれば,被告人Bが平成21年(2009年)度のCの報酬の一部返金の事実を認識し,F れる必然性はないこととなる。 このようなF・A会社等からの支払方法と相談役報酬等の名目による支払方法の差異に鑑みれば,被告人Bが平成21年(2009年)度のCの報酬の一部返金の事実を認識し,F・A会社等からの支払方法を検討していたからといって,平成22年(2010年)度以降のCの報酬の決定手続及び管理状況について未必的にも認識していたとはいえないから,同年度以降のCの報酬の「shortfall」が開示すべきものであるとの認識が被告人Bにあったとはいえない。 ⑶ 相談役報酬等の名目による支払方法及びDDSOの名目による支払方法の検討 ア前記Ⅲ第3のとおり,被告人Bが2011年3月1日付けPayment文書等において開示を避けてCの報酬を支払う方法の一つとして相談役報酬等の名目による支払方法を挙げ,その後,前記Ⅱ第16,第23及び第26のとおり,被告人Bにおいて,Cの取締役退任後の顧問・競業避止契約に関する契約書案をたびたび作成し,それにIや自らの署名を入れたものをCに交付するなどの作業を行っていた事実が認められることからすると,被告人Bは,Cの報酬の「shortfall」を支払うために相談役報酬等の名目による支払方法を検討していたと認められる。 イまた,前記Ⅱ第31のとおり,被告人BがDDSOを被告会社に導入し,Cにその権利を付与することを計画していた事実が認められる。そして,これまでに被告人Bが検討してきた各種の支払方法等がいずれもCの報酬の「shortfall」を支払うためのものであったことに加え,平成30年(2018年)6月27日のDDSOの導入に関する打合せにおいて,被告人BがDに対しCの延期された報酬がCの報酬の「shortfall」であるのか確認していたことなどを踏まえると,被告人Bは 30年(2018年)6月27日のDDSOの導入に関する打合せにおいて,被告人BがDに対しCの延期された報酬がCの報酬の「shortfall」であるのか確認していたことなどを踏まえると,被告人Bは,DDSOをCの報酬の「shortfall」を支払う方法の一つとして検討していたものと考えられる。 ウなお,前記Ⅲ第5のとおり,被告人BがLTIP文書やバックデートLTIP通知文書を目にしていたとの事実は認められない。また,前記Ⅲ第6のとおり,LTIPに関する費用計上についても,被告人Bの関与は明確には認められない(そもそもDが証言するところのLTIPの費用計上に関する被告人Bの関与は希薄である。)。 エ以上のとおり,相談役報酬等の名目による支払方法及びDDSOの名目による支払方法は,Cの報酬の「shortfall」を支払う方法として被告人Bが検討していたことが認められる(ただし,弁護人も指摘するとおり,各検討においてCに支給しようとしていた金額は,各検討当時の「shortfall」の累積額と必ずしも整合していない。また,被告人Bが検討していた金額がCの意向により変更(増額)されることも度々あったことからすると,各種の支払方法等によってCに支給され る予定の金額と「shortfall」の累積額との相関関係は薄いといわざるを得ない。)。 オしかしながら,前述したとおり,相談役報酬等の名目による支払方法は,F・A会社等からの支払方法のように毎年度支払うことを前提にしておらず,退任後にまとめて支払うとされていることからすると,前提となるCの報酬の「shortfall」の額を毎年度被告会社の所定の手続に従って決定し,その後も秘書室において継続的に管理する必然性はないことになるから,相談役報酬等の名目による支払方法 ると,前提となるCの報酬の「shortfall」の額を毎年度被告会社の所定の手続に従って決定し,その後も秘書室において継続的に管理する必然性はないことになるから,相談役報酬等の名目による支払方法を検討した事実は,Cの報酬の決定手続及び管理状況に関する認識を推認するものとはいえない。DDSOの名目による支払方法も,毎年度決定した金額を支払うことを前提にしていないことからすると,相談役報酬等の名目による支払方法と同様であると考えられる。 そうすると,被告人Bが相談役報酬等の名目による支払方法及びDDSOの名目による支払方法を検討していたからといって,Cの報酬の決定手続及び管理状況について未必的にも認識していたとは必ずしもいえないから,Cの報酬の「shortfall」が開示すべきものであるとの認識が被告人Bにあったとはいえない。 ⑷ LTCIPの付与及び退職慰労金打切支給の増額への関与ア LTCIPの付与への関与前記Ⅱ第10のとおり,平成23年(2011年)2月に,Cに対してLTCIPを付与する旨の文書(LTCIP文書)が作成され,その作成に被告人Bが関与したことが認められる。また,前記Ⅲ第3のとおり,被告人Bの関与の下で作成された2011年3月1日付けPayment文書及び同月14日付けPayment文書には,Cの報酬の一部を有価証券報告書における開示を避けて支払う方法の一つとしてLTCIPを用いた支払方法が記載されていることに照らせば,被告人Bは,LTCIPの付与による支払方法をCの「shortfall」を支払う方法の一つとして理解していたと認められる。 しかしながら,LTCIPの付与により受け取ることができる金額は,有価証券報告書において公表された金額であり,「shortfall」との直接的な関連性はない として理解していたと認められる。 しかしながら,LTCIPの付与により受け取ることができる金額は,有価証券報告書において公表された金額であり,「shortfall」との直接的な関連性はない ことから,LTCIP文書の内容から「shortfall」の性質が明らかになるものではない。また,2011年3月1日付けPayment文書及び同月14日付けPayment文書には,LTCIPによって支払うべき金額の確定に関する記載がなかったから,一定額が毎年度発生するか否かはこれらの文書からは不明というほかない。そうすると,被告人BがLTCIP文書の作成に関与したからといって,Cの報酬の「shortfall」が開示すべきものであるとの認識が被告人Bにあったとはいえない。 イ退職慰労金打切支給の増額への関与前記Ⅱ第21のとおり,平成25年(2013年)夏から秋にかけて,退職慰労金打切支給の増額に関する検討が行われ,同年度末に約24億円が増額されているところ,被告人Bは,Cから,退職慰労金打切支給の増額分は「shortfall」に充当させる旨の指示を折に触れて言われていたことから,そのように理解していた旨供述している(被告人B第55回13~14頁)。このことを踏まえて,検察官は,被告人Bは,Cの「shortfall」を支払う方法の一つとして,退職慰労金打切支給の増額を検討していた旨主張する(論告35頁)。 上記の被告人Bの公判供述に加えて,前記Ⅲ第3のとおり,被告人Bが作成に関与した2011年3月1日付けPayment文書等にも退職慰労金打切支給による支払方法が記載されていたことをも踏まえると,被告人Bは,退職慰労金打切支給の増額をCの報酬の「shortfall」を支払うための方法の一つと捉えていたと認められる(もっとも, 慰労金打切支給による支払方法が記載されていたことをも踏まえると,被告人Bは,退職慰労金打切支給の増額をCの報酬の「shortfall」を支払うための方法の一つと捉えていたと認められる(もっとも,C(弁59)もD(甲106)も退職慰労金打切支給の増額と「未払報酬」との関連を否定している。)。 しかしながら,退職慰労金打切支給の増額を検討していたことは,「shortfall」というものが将来支払われる実体のあるものであるとの認識を推認するものではあるが,毎年度被告会社の所定の手続に従って決定されるものであるとの認識まで推認するものではないから,被告人BがCの退職慰労金打切支給の増額について検討していたからといって,Cの報酬の「shortfall」が開示すべきものであるとの 認識が被告人Bにあったとはいえない。 ⑸ 小括以上によれば,被告人Bが各種の支払方法等を検討していた状況から,被告人Bにおいて,Cの報酬の「shortfall」が毎年度発生する一定の金額のものであり,将来Cに支払われるものとしてDによって継続的に管理されているものであるとの認識があったことは推認できるものと解される。この点に関して,前記Ⅱ第24の2のとおり,平成26年(2014年)10月に被告人BがCに対して行った説明の資料等(「FY'15 HRPlanning」と表紙に書かれた資料(甲185資料Ⅴ4-1)の「Payments」のスライドの中に,「shortfall」が毎年度「10」ずつ累積していく記載がなされていたとの事実が認められるところ,この事実は,上記の推認を裏付けるものといえよう。 しかしながら,一定の金額といった場合,上記の「Payments」のスライドの記載(「10」)のように,毎年度10億円といったことも考えられる。現に上記 は,上記の推認を裏付けるものといえよう。 しかしながら,一定の金額といった場合,上記の「Payments」のスライドの記載(「10」)のように,毎年度10億円といったことも考えられる。現に上記のスライドが存在することからすれば,被告人BがCから平成22年(2010年)度以降に発生する「shortfall」として概算で10億円を算定し,これをDに将来支払うべきものとして管理させるという話をその当時されていた可能性も否定できない。 そして,この10億円という切りの良い金額は,被告会社における所定の手続において算定されたものでないことは明らかであり,また,秘書室でわざわざ管理する必然性もないから,被告人BがCから上記のような話を聞いていたとしても,この10億円,すなわちCの報酬の「shortfall」が開示すべきものであると認識していたとは必ずしもいえない。やはり,Cの未払の報酬については,概算の額ではなく個々具体的な金額を認識していなければ,当該報酬がどのような手続において決定・管理されているのかは判断できないというべきである。さらに,実際のDによる取締役の報酬の管理状況について被告人Bが認識していたとの事実は証拠上認められないから,DがCの報酬を管理していることを被告人Bが認識していたからといって,Cの報酬の「shortfall」の管理状況を認識していたとはいえない。 なお,被告人Bが,平成24年(2012年)6月に代表取締役に就任する際,有価証券報告書における開示を避けるために被告人B自身の報酬を減額することにより生じる「shortfall」について,取締役退任後に顧問契約等によって支払うことをCとの間で合意している(2014年12月11日付けのメモ(甲189資料2))ところ,被告人Bの報酬の「shortfall」に hortfall」について,取締役退任後に顧問契約等によって支払うことをCとの間で合意している(2014年12月11日付けのメモ(甲189資料2))ところ,被告人Bの報酬の「shortfall」については,厳密な決定・管理がされていなかったことからすると,被告人Bがこのような合意をしていたからといって,Cの報酬の「shortfall」に関する被告人Bの認識について具体的な内容が推認されるわけではない。 以上の検討を総合すると,被告人Bが各種の支払方法等を検討していた状況からは,平成22年(2010年)度以降のCの報酬が毎年度被告会社の所定の手続に従って決定されるのか,秘書室において継続的に管理されるのかといった点について,被告人Bが認識していたとは推認されない。したがって,Cの報酬の「shortfall」が開示すべきものであるとの認識が被告人Bにあったとはいえず,Cの開示すべき未払の報酬の存在について被告人Bが認識していたことを認定することはできない。 4 Cの報酬に関する文書の記載からの推認⑴ 問題の所在前記3のとおり,被告人Bが各種の支払方法等を検討していたことからは,Cの報酬の「shortfall」が開示すべきものであるとの認識が推認されるわけではないが,被告人BがC及びDとやり取りする中で得られたCの報酬に関する情報からCの「shortfall」がどのように決定・管理されているかを推知することは可能であったと考えられる。すなわち,被告人Bにおいて,Cの報酬の「Remaining」や「PostponedRemuneration」といった金額が1円単位で数年度にわたって記載されている秘書室作成の文書を目にしていたとすれば,Cの「shortfall」は,毎年度,被告会社の所定の手続によって算定され,Cによって決定 ation」といった金額が1円単位で数年度にわたって記載されている秘書室作成の文書を目にしていたとすれば,Cの「shortfall」は,毎年度,被告会社の所定の手続によって算定され,Cによって決定された報酬から実際に支払われた報酬を差し引いたものとして発生し,それを累積するものとして秘書室が 継続的に管理している状況を認識したといえるから,Cの報酬の「shortfall」が開示すべきものであるとの認識が被告人Bにあったといえることになる。 ⑵ 2018年6月27日付けRAPR文書に関する被告人Bの認識ア 2018年6月27日付けRAPR文書には,将来支払われることが確実な退職慰労金打切支給とともに,平成21年(2009年)度から平成29年(2017年)度までの各連結会計年度におけるCの「FixedRemuneration」,「PaidRemuneration」及び「PostponedRemuneration」が1円単位で記載されていた。そして,前記Ⅲ第7のとおり,被告人Bは,平成30年(2018年)6月27日のD及びEとの打合せにおいて,同日付けのRAPR文書を目にしていた事実が認定できるところ,この文書を目にした被告人Bは,その記載から,Cの報酬の「shortfall」の額が,Cによって毎年度被告会社の所定の手続に従って決定され,その後,秘書室において「PostponedRemuneration」として継続的に管理されている状況を明確に認識したといえる。 したがって,遅くとも同日付けRAPR文書を目にした時点では,Cの報酬の「shortfall」が開示すべきものであるとの認識が被告人Bにはあったと認められるから,Cの開示すべき未払の報酬の存在について被告人Bが認識していたことを認定することができる。 では,Cの報酬の「shortfall」が開示すべきものであるとの認識が被告人Bにはあったと認められるから,Cの開示すべき未払の報酬の存在について被告人Bが認識していたことを認定することができる。 イ Dは,同日付けRAPR文書以前にも,同様のRAPR文書を被告人Bに見せていた旨証言し(D第10回42~44頁),Uも同様の証言をしているが(U第26回24頁),いずれも時期が特定できていない。 また,前記Ⅱ第30のとおり,EがDから2018年1月16日付けRAPR文書を入手した事実が認められるが,Eが同文書を被告人Bに送信した事実は認められない。 なお,2011年C・D署名文書(前記Ⅲ第4),LTIP文書(前記Ⅲ第5)及びOutline文書(前記Ⅲ第6)については,前述したとおり,いずれも被告人Bが目にしたとは認定できない。 そうすると,2018年6月27日付けRAPR文書を目にする以前にCの開示すべき未払の報酬に関する認識が被告人Bにあったとは認定できない。 5 被告人Bの故意及び共謀についての当裁判所の判断⑴ 被告人Bの虚偽記載有価証券報告書提出罪の故意の有無前記4⑵のとおり,遅くとも平成30年(2018年)6月27日に同日付けのRAPR文書を目にした時点では,Cの開示すべき未払の報酬に関する認識が被告人Bにあったと認められるから,平成29年(2017年)度の有価証券報告書には,Cの開示すべき未払の報酬を含めた報酬総額を記載すべきであるのに支払済みの報酬額のみが記載されていること,すなわち「虚偽の記載」があることを被告人Bは認識していたといえる。そして,被告人Bは,後記⑵のとおり,報酬総額が記載されていないという「虚偽の記載」のある同年度の有価証券報告書が,C及びDらによって提出されること 載」があることを被告人Bは認識していたといえる。そして,被告人Bは,後記⑵のとおり,報酬総額が記載されていないという「虚偽の記載」のある同年度の有価証券報告書が,C及びDらによって提出されることも認識していたのであるから,虚偽記載有価証券報告書提出罪の故意があったといえる。 ⑵ 被告人BとC及びDとの共謀の有無被告人Bは,Cの報酬の「shortfall」を支払うための各種の支払方法等を検討していく中でC及びDとの間で様々なやり取りをしていたことから,これから提出される平成29年(2017年)度の有価証券報告書に関して,C及びDが虚偽記載有価証券報告書提出罪の故意を有していることは十分に了解していたものと認められる。また,被告人Bが虚偽記載有価証券報告書提出罪の故意を有していることも,前記Ⅲ第7で認定した状況からすると,Dにおいても当然に了解していたものと認められる。このような相互認識の下,被告人Bは,代表取締役として虚偽記載を是正すべき立場にありながら,何らの措置を執ることなく「虚偽の記載」のある同年度の有価証券報告書が提出されるままにしていたのであるから,C及びDと共謀の上,虚偽記載有価証券報告書提出罪を犯したものと認められる。 ⑶ 本件共謀の成立範囲ア検察官は,C及び被告人Bと共謀を遂げた人物はD以外にも存在すると ころ,その者を共犯者としてその氏名を特定して明らかにすることは,その者の名誉等を不当に侵害するおそれがあるので明らかにしないとしている(令和2年(2020年)1月31日付け回答書)。 イ確かに,Cには被告会社から取締役の職務執行の対価として被告会社から受け取ってしかるべきであるのに,受け取っていない報酬,すなわち「差額」が存在することは,当時の被告会社の経営陣の共通認識で イ確かに,Cには被告会社から取締役の職務執行の対価として被告会社から受け取ってしかるべきであるのに,受け取っていない報酬,すなわち「差額」が存在することは,当時の被告会社の経営陣の共通認識であったと認められるから,「差額」の存在について認識を有していた者は複数に及ぶものと考えられる。 しかしながら,「差額」の存在を認識していたとしても,その認識があるだけでは,当該「差額」が有価証券報告書において「報酬等」として開示されなければならないことの認識があったとはいえない。当公判廷における証拠調べの結果によれば,Cの報酬に関する決定手続に関与していたのは,C及びDのほかは秘書室職員の数名とごく少数であり,Cの報酬に関する情報はその少数者の間で厳重に秘匿管理されており,Cの報酬の決定手続の詳細についてはC以外の代表取締役らにおいても把握していなかったのであるから,Cの開示すべき未払の報酬に関する認識があったとして本件の共犯とされ得る者は,被告会社内でも極めて限定されるというべきである。 そして,上記の秘書室職員についても,Dの指示の下,事務的な作業を行っていたにすぎないことからすれば,Cの開示すべき未払の報酬の存在について認識していたとしても,本件の共同正犯としての罪責を問い得るほどの関与は認められず,せいぜい幇助犯が成立するにとどまるというべきである。 ウ本件の証拠関係を踏まえれば,被告人Bとの間で共謀の有無が問題となり得るのは,C及びDを除けば,Eのみといわざるを得ない。しかし,前述したとおり,Eの本件への関与の程度がDと比較するとさほど強いものではないなどの本件の事実関係を前提にすれば,被告人Bの罪責を検討する上で,「Eとの共謀の有無」を検討する必要性はさほど高いものとはいえない(検察官においても,平成23年(201 るとさほど強いものではないなどの本件の事実関係を前提にすれば,被告人Bの罪責を検討する上で,「Eとの共謀の有無」を検討する必要性はさほど高いものとはいえない(検察官においても,平成23年(2011年)6月末までに被告人Bとの間で直接共謀を遂げたのはC及びD のみであると主張する(前記回答書)。)。また,被告人Bの量刑を検討するに当たっても部下であるEの罪責を検討する必要性は乏しい。さらに,「Eとの共謀の有無」に関して,当事者の主張立証は尽くされておらず,当公判廷で取り調べた証拠のみでは正確な判断が困難との事情も存在する。 エしたがって,本件においては,被告人Bの共謀の相手方としては,C及びDのみを認定することとした。 Ⅴ 結論以上の検討の結果,本起訴及び追起訴に係る全公訴事実について,C及びDが,共謀の上,被告会社の業務に関し,「虚偽の記載」のある有価証券報告書を提出したことが認められるから,被告会社については,起訴された平成23年(2011年)度から平成29年(2017年)度までの各連結会計年度において,いずれも虚偽記載有価証券報告書提出罪の成立が認められる。 他方,被告人Bは,平成29年(2017年)度については,C及びDと共謀の上,被告会社の業務に関し,「虚偽の記載」のある有価証券報告書を提出したことが認定できるが,同年度より前の平成22年(2010年)度から平成28年(2016年)度までの各連結会計年度に係る各公訴事実については,Cの開示すべき未払の報酬の存在について認識していたとはいえないので,犯罪の証明がないことになるから,刑事訴訟法336条により被告人Bに対し無罪の言渡しをする。 よって,判示のとおり認定する。 (量刑の理由)第1 被告人両名に共通の事情本件は,被告会社が代表取 明がないことになるから,刑事訴訟法336条により被告人Bに対し無罪の言渡しをする。 よって,判示のとおり認定する。 (量刑の理由)第1 被告人両名に共通の事情本件は,被告会社が代表取締役等であったCの報酬額を過少に記載した有価証券報告書を財務局長に提出したという虚偽記載有価証券報告書提出罪の事案である。 Cは,役員報酬個別開示制度の導入に伴ってC個人の報酬額を有価証券報告書に記載して開示することを迫られていたところ,Cの真の報酬額が明らかになれば,F社の株主であるフランス政府がCの高額な報酬を問題視し,F社のみならず被告 会社における地位も失いかねないことから,Cの真の報酬額のうち実際に支払を受けた報酬額を有価証券報告書に記載して開示することとする一方,未払となっている報酬額については,取締役の報酬の決定・管理等の業務を担当していた秘書室長のDに命じて秘書室において厳重に秘匿しつつ継続的に管理させるとともに,被告人Bに命じて別の名目で支払う方策の検討をさせたものである。このように,本件は,高額の報酬の支払を確保しつつ自らの保身を図ろうとするC個人の私利私欲に基づくものであり,その動機において酌むべき事情は一切ない。 また,本件が役員報酬個別開示制度の導入を契機に企図されたものであることからすると,開示府令の改正に対し真っ向から挑戦するかのごとき本件犯行は,同種事案の中でも,有価証券報告書による開示規制の趣旨・目的をないがしろにする程度において最も悪質な部類の事案というべきである。 さらに,本件は,我が国の有価証券報告書による企業情報開示制度の信頼性を揺るがすものであるばかりか,世界的にも著名な企業経営者が行った不正行為であるという点において経済界のみならず社会全般に大きな衝撃を与えており,その社会的な 券報告書による企業情報開示制度の信頼性を揺るがすものであるばかりか,世界的にも著名な企業経営者が行った不正行為であるという点において経済界のみならず社会全般に大きな衝撃を与えており,その社会的な影響も看過できない。 第2 被告会社に関する事情被告会社は,平成23年(2011年)度から平成29年(2017年)度までの7連結会計年度もの長期にわたって,代表取締役であるCの報酬について虚偽の記載のある有価証券報告書を提出し,その結果,被告会社のガバナンスを評価する重要な手がかりとなる代表取締役個人の報酬について,少ない年度でも9億円余り,多い年度では17億円余り,7連結会計年度の合計で約83億4400万円もの多額の報酬が開示されなかったのであるから,本件が投資者の投資判断を誤らせる危険性の程度は高かったというべきである。 本件がCの私利私欲に基づくものであることは前述したとおりであるところ,この点について,被告会社の弁護人は,本件は被告会社の組織ぐるみの犯行ではないから,主に責任を負うべきはCであり,被告会社に対する責任非難の程度は減じら れるべきであると主張する。 しかしながら,本件の要因は,Cによる長期にわたる独裁体制の下で醸成された本件当時の被告会社の企業体質にあったといわざるを得ない。すなわち,本件当時の被告会社の役員らの間では,過去に低迷していた被告会社の業績を急速に回復させるなどしたCの経営者としての力量への依存と,役員らの人事及び報酬の決定権限を掌握するCに対する過度の萎縮が年を経るごとに深まっていった結果,被告会社の組織全体においてCへの監視機能が形骸化し,このことがCの専横に拍車をかけて本件のような事態を招いたものと考えられる。したがって,被告会社のガバナンスの機能不全こそが長期にわたるCの身勝手な犯行 社の組織全体においてCへの監視機能が形骸化し,このことがCの専横に拍車をかけて本件のような事態を招いたものと考えられる。したがって,被告会社のガバナンスの機能不全こそが長期にわたるCの身勝手な犯行を許したものといえ,被告会社に被害者的な側面もあると見る余地はない。本件によって被告会社の社会的な評価が著しく低下したことは,まさに「身から出た錆」というほかない。 このように,被告会社は,長期にわたって投資者らに対し虚偽の内容を開示し続けたのであり,その刑事責任は重大である。 そうすると,被告会社が,自ら本件の実態解明に努め,本件有価証券報告書を適切に是正する旨の訂正報告書を提出したこと,監督官庁である金融庁から本件について課徴金10億円余りの納付命令の告知を受け,本件確定後に定まる納付額については速やかに全額納付する予定であること,指名委員会等設置会社に移行するなどして経営体制を刷新するとともに役員報酬の決定・管理等の過程を透明化・厳格化するなどガバナンスの正常化に向けた改善策に取り組んでいることなど,被告会社のために考慮すべき事情はあるものの,本件の重大性・悪質性に鑑みれば,被告会社に対しては主文掲記の罰金刑を科すのが相当であると判断した。 第3 被告人Bに関する事情被告人Bは,被告会社の代表取締役として法令を遵守して被告会社の利益のために忠実に職務を遂行する義務を負っていたにもかかわらず,提出する有価証券報告書に記載されたCの報酬額が虚偽であることを認識しながら,そのまま提出されるに任せて判示第2の犯行に及んだものである。 被告人Bの弁護人は,被告人Bが本件に関与したのは,Cのリテンション・リスクを回避するためであり,被告会社のためであった旨主張する。確かに,Cが被告会社を退社するリスクがあったこと自体は否定でき 被告人Bの弁護人は,被告人Bが本件に関与したのは,Cのリテンション・リスクを回避するためであり,被告会社のためであった旨主張する。確かに,Cが被告会社を退社するリスクがあったこと自体は否定できないが,Cを引き留めるために法令に違反することが許容されないことはいうまでもない。結局のところ,被告人Bは,本来であれば代表取締役として被告会社の利益を優先すべきであるのにCの利益を優先したものであって,その動機において酌むべき事情があるとはいえない。 被告会社の代表取締役であったのみならず,米国の法曹資格を有していながら,金商法等の我が国の開示規制を無視して判示第2の犯行に及んだ被告人Bの意思決定には強い非難が向けられるべきである。 加えて,被告人Bは,判示第2の犯行に関して不合理な弁解を述べており,真摯な反省悔悟の情は見られない。 このように,被告人Bについては,有罪を認定できるのが1連結会計年度のみとはいえ,その責任を軽視することはできず,その重さからすれば懲役刑が相当である。その上で,判示第2の犯行は,Cの利益のためになされたものであり,被告人B自身には本件犯行による直接的な利得はなかったこと,本件の主犯はCであり,果たした役割はCやDに比較すると軽いこと,被告人Bに日本における前科がないことなどの被告人Bのために有利に考慮すべき事情を踏まえれば,被告人Bに対しては,主文掲記の懲役刑を科すものの,その執行を猶予するのが相当であると判断した。 (求刑被告会社につき罰金2億円,被告人Bにつき懲役2年)令和4年3月24日東京地方裁判所刑事第17部 裁判長裁判官下津健司 裁判官秋田志保 裁判官松下 刑事第17部 裁判長裁判官下津健司 裁判官秋田志保 裁判官松下健治

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