(原審・横浜地方裁判所平成12年(ワ)第1654号遺言無効確認請求事件(原審言渡日平成13年7月4日)) 主文 1 本件控訴を棄却する。 2 控訴費用は,控訴人の負担とする。 事実及び理由 第1 控訴の趣旨 1 原判決を取り消す。 2 被控訴人らの請求をいずれも棄却する。 3 訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人らの負担とする。 第2 事案の概要本件は,別紙1記載の平成10年11月20日付け横浜地方法務局所属公証人A作成に係る亡B(明治44年1月1日生,平成11年5月7日死亡)の秘密証書遺言(以下「本件遺言」といい,本件遺言の内容が記載され封筒に封入された証書を「本件遺言書」という。)につき,亡Bの子である被控訴人らが,本件遺言がされた当時,亡Bには遺言をするために必要な意思能力がなかった上,本件遺言書は亡Bの意思に基づいて作成されたものではなく,また,亡Bが公証人に対し,本件遺言書の筆者の氏名及び住所を申述しなかったので,本件遺言は,秘密証書遺言としては無効であり,かつ,自筆証書による遺言としての効力も有しない旨主張し,亡Bの妻であり,本件遺言により亡Bの財産すべてを相続させる旨の遺言をされた控訴人に対し,本件遺言が遺言として無効であることの確認を請求した事案である。 控訴人は,本件遺言の当時,亡Bには遺言能力及び遺言意思の双方ともが存在し,かつ,本件遺言につき秘密証書遺言としての方式に欠けるところがない旨主張し,被控訴人らの遺言無効確認請求を争った。 原判決は,亡Bが,本件遺言書の筆者を公証人に申述しなかったので,本件遺言は民法970条1項3号所定の要件を欠き無効である旨判断し,被控訴人らの遺言無効確認請求を認容したので,控訴人が控訴をした。 1 前提となる事実(当事者間に争いのない事実は証拠 かったので,本件遺言は民法970条1項3号所定の要件を欠き無効である旨判断し,被控訴人らの遺言無効確認請求を認容したので,控訴人が控訴をした。 1 前提となる事実(当事者間に争いのない事実は証拠を掲記しない。)。 (1) 亡Bは,明治44年1月1日,山梨県甲府市で出生し,昭和16年9月25日訴外C(大正5年10月13日生)と婚姻し,同人との間に被控訴人ら3名の子をもうけた(甲9)。 亡Bは,昭和28年7月17日,訴外Cと離婚し,被控訴人D及び被控訴人Eの親権者をいずれも亡Bと,被控訴人Fの親権者を訴外Cとそれぞれ定めた。被控訴人Fは,以後,訴外Cに養育され,再び亡Bと同居することはなかった(甲9,13の①)。 (2) 亡Bは,昭和28年11月11日,控訴人(大正2年7月14日生)と婚姻した(甲9,10)。 控訴人は,再婚であり,前夫との間に訴外Gら4名の子をもうけていた。亡Bと控訴人の4名の子とは養子縁組をしておらず,他方,控訴人と被控訴人らとも養子縁組はしていない。したがって,亡Bの推定法定相続人は,控訴人と被控訴人3名の合計4名である。被控訴人D及び被控訴人Eは,婚姻して独立するまで,亡B・控訴人の夫婦に養育され,同居していた(甲9,11,12,乙3)。 (3) 亡Bは,平成6年4月30日ころ,脳梗塞を発症(再発)し,平成7年4月28日ころ,パーキンソン症候群と診断され(甲16の②の①),平成10年8月20日には脳梗塞,意識障害との診断を受けた(甲17の②の①)。 亡Bは,以上のような状態で入退院を繰り返しており,平成10年11月2日から同年12月5日まで,横浜市西区みなとみらい所在のH病院に入院していた(甲18の①の①ないし③,乙2)。 (4) 亡BがH病院に入院中の平成10年11月15日付けで,財産全部を控訴人に相 2日から同年12月5日まで,横浜市西区みなとみらい所在のH病院に入院していた(甲18の①の①ないし③,乙2)。 (4) 亡BがH病院に入院中の平成10年11月15日付けで,財産全部を控訴人に相続させる旨の本件遺言書(その表示はその写しである別紙1記載のとおりであり,作成年月日の「平成十年十一月拾五日」の記載のうちの「拾五」の記載及び遺言者の住所氏名のうち亡Bの署名部分のみ亡Bが記載し,その余は表題部分も含めてすべてワープロで印字されている。)が作成された。本件遺言書の亡Bが自署した部分以外の部分は,控訴人の子である訴外Gの妻である訴外Iがワープロを用いて印字したものである(甲1の③,乙3,4)。 (5) 平成10年11月20日,H病院に横浜地方法務局所属公証人Aが出向き,弁護士の訴外J,会社顧問の訴外K立会いのもとに,秘密証書遺言の形式で本件遺言がされた。 その際,亡Bは,公証人A及び2名の立会人の面前に封筒(以下「本件封筒」という。)に入れられた本件遺言書を提出した上,公証人Aに対し,本件封筒に入れられた文書が亡Bの遺言書であって,亡B自身がこれを筆記した旨申述した。そこで,公証人Aは,本件封筒にその旨筆記して署名押印し,遺言者として亡Bが署名押印した上,立会人として訴外J及び訴外Kが署名押印した(なお,本件封筒の記載は別紙2記載のとおりである。甲1の①ないし③,乙3)。 (6) 控訴人は,本件遺言がされた後,亡Bから本件封筒の保管を依頼されて自宅に保管をしていたが,亡Bが平成11年5月7日死亡したので,訴外J弁護士に委任して横浜家庭裁判所に本件遺言書の検認を申し立て(同裁判所平成11年(家)第1621号),同年8月6日,検認期日が開かれ,本件封筒が提出され,本件遺言書の検認がされた(甲1の①ないし③)。 (7) 本件遺 庭裁判所に本件遺言書の検認を申し立て(同裁判所平成11年(家)第1621号),同年8月6日,検認期日が開かれ,本件封筒が提出され,本件遺言書の検認がされた(甲1の①ないし③)。 (7) 本件遺言書は,亡Bが全文を自筆したものではないから,自筆証書遺言としては無効である。 2 主たる争点及び主たる争点に関する当事者双方の主張(1) 本件遺言は,遺言者である亡Bが,公証人Aに対し,本件遺言書の筆者を亡B自身である旨申述したことにより秘密証書遺言としての様式又は要件を欠くことになり,秘密証書遺言としての効力を有しないか否か。 ア控訴人の主張(ア) 遺言書が肉筆で書かれている場合には,筆跡に個性があり,筆跡から誰が筆記者であるかを特定することができるので,偽造,変造等の判断をするため遺言書の筆者が誰であるかは重要な要素となるが,これと異なり,ワープロで印字された文字には個性がなく誰が印字しても同じであるから,ワープロで遺言書が印字されている場合にはワープロ操作者の住所,氏名を申述させる意味はないので,遺言書の内容をワープロで印字したにすぎない者は,民法970条1項3号に規定する筆者に当たらない。 本件遺言書の主要な部分は亡Bによって自署されており,また,本件遺言書が二義的な解釈を許すような体裁になっていないことを考慮すると,本件遺言書の筆者は,訴外Iではなく,亡Bである。 (イ) 仮に,本件遺言書の筆者が訴外Iであるとしても,亡Bが本件遺言書の筆者として訴外Iの住所氏名を申述しなかったことは,本件遺言が秘密証書遺言として無効であるとの効果を招来しない。すなわち,民法970条1項3号が,秘密証書遺言につき遺言者が筆者の住所氏名を公証人に申述しなければならないとしている意義は,後日,遺言についてその筆記内容が判読し 無効であるとの効果を招来しない。すなわち,民法970条1項3号が,秘密証書遺言につき遺言者が筆者の住所氏名を公証人に申述しなければならないとしている意義は,後日,遺言についてその筆記内容が判読しがたいことによって紛争が生じたときに筆者を尋問する便宜を考えたためであると解釈されているところ,本件遺言書は,亡Bの財産すべてを控訴人に相続させるというものであってその内容が明確であり,遺言の内容につき紛争が生じる余地はない。 秘密証書遺言をする際に遺言者が遺言書の筆者の住所氏名を申述することは,上記のような申述の意義に照らし,秘密証書遺言をする際に要求されている遺言者の署名の自署等の他の要件に比べ副次的なものというべきであり,筆者の住所氏名を申述しないという瑕疵は重要なものではないところ,遺言の内容が遺言者の真意に沿う場合に,このような副次的かつ重要でない要件が欠けていることにより遺言者の最終意思が実現できないとするのは相当でない。特に,遺言者が,民法970条1項3号に規定する筆者の意味を誤解し,遺言者自身が筆者である旨認識してその旨申述したような場合には,その申述は,同号に規定する要件を満たしていると解すべきであり,そうでないとしても秘密証書遺言としての無効を直ちに招来しないというべきである。 イ被控訴人らの反論本件遺言書は,訴外Iが亡Bの署名及び作成年月日欄の「拾五」の記載以外の部分をワープロで印字して作成したものであり,本件遺言書の筆者は訴外Iであるところ,亡Bは,本件遺言をする際,公証人Aに対し,本件遺言書の筆者が亡B自身である旨申述し,本件遺言書の筆者が訴外Iであることを申述していないから,本件遺言は,民法970条1項3号に違反し,秘密証書遺言としては無効である。 (2) 本件遺言がされた当時,亡Bには遺言をするために 述し,本件遺言書の筆者が訴外Iであることを申述していないから,本件遺言は,民法970条1項3号に違反し,秘密証書遺言としては無効である。 (2) 本件遺言がされた当時,亡Bには遺言をするために必要な意思能力があったか否か及び本件遺言書は,亡Bの意思に基づいて作成されたか否か。 ア控訴人の主張亡Bは,本件遺言書が作成された当時及び本件遺言がされた当時,H病院に入院していたが,元気であり,意識,判断能力に異常はなく,遺言能力を欠くことはなかった。亡Bは,その意思に基づいて本件遺言書を作成し,本件遺言をしたものである。 イ被控訴人らの反論本件遺言書は,亡Bの署名及び作成年月日欄の「拾五」の記載以外の部分がワープロで印字されているところ,亡Bは,ワープロを使用して文書を作成する技能がなく,また,本件遺言書が作成された当時,パーキンソン氏病等に罹患していて本件遺言書を作成する物理的能力がなかった。また,亡Bは,本件遺言書に記載されているような内容の言葉遣いをしたことはない上,控訴人と被控訴人らとの間に法律上も事実上も親子関係がないのに,本件遺言書の記載においては控訴人が被控訴人らの「母」であると表示されていることを考慮すると,本件遺言書は,亡Bが作成したものでないことが明らかである。さらに,亡Bは,本件封筒に遺言者として署名押印しているが,亡Bは,その際,遺言書としての認識も秘密証書遺言としての認識もないまま本件封筒に署名押印したものである。 第3 当裁判所の判断 1 当裁判所も,本件遺言書の筆者は訴外Iであり,本件遺言は,遺言者である亡Bが筆者の住所氏名を公証人Aに申述していないので,秘密証書遺言としては無効であると判断する。そのように判断する理由は,次のとおりである。 (1) 民法970条1項3号が,秘密証書によって ある亡Bが筆者の住所氏名を公証人Aに申述していないので,秘密証書遺言としては無効であると判断する。そのように判断する理由は,次のとおりである。 (1) 民法970条1項3号が,秘密証書によって遺言をする方式として,証書(遺言書の本文)の筆者の住所氏名を公証人に申述することを要求している趣旨は,後日,秘密証書遺言について争いが生じたときに,当該筆者に対する尋問を行う便宜を慮った点にある。 すなわち,秘密証書遺言の場合,公証人は,封書に封じられた当該遺言書につき,遺言者がその封書入りのまま遺言書を提出したこと及び遺言者においてその遺言書が自己の遺言である旨を申述したことを公証するにすぎず,提出された遺言書についてその記載内容を検証し,遺言者に遺言書に記載された遺言の趣旨と遺言者の真意との間に齟齬があるか否か等を確認することはしないので,遺言者の真意を確認するには,遺言者以外に遺言書の本文を筆記した者がいる場合には,一般的には,その筆記者を尋問して,遺言者が遺言を口述した当時の遺言者の言動や遺言時の状況等を明らかにし,遺言書作成当時の遺言者の遺言能力及び遺言意思の有無,遺言者が遺言につきどのような考えをもっていたか等を確認し,また,遺言書について,書き間違いやすり替え等があるか否か,あるいは判読しがたい部分についてどのような記載がされているか等を確定し,遺言書が遺言者の真意に沿うものであるか否かを判断するのが相当であると考えられたものと理解されるのである。そこで,秘密証書遺言をするに当たっては,一律に,遺言者に筆記者を明らかにさせ,遺言者死亡後に筆記者を尋問することができるよう配慮したものと解することができる。 (2) 遺言者に筆者の氏名及び住所を申述することを要求する趣旨を上記(1)のとおりに解すると,民法970条1項3号に規定する筆 記者を尋問することができるよう配慮したものと解することができる。 (2) 遺言者に筆者の氏名及び住所を申述することを要求する趣旨を上記(1)のとおりに解すると,民法970条1項3号に規定する筆者とは,遺言者以外の者であって,実際に遺言書を筆記した者をいうのであり,遺言書がワープロで印字されている場合には,そのうち,遺言者自身がワープロを操作して印字した場合はもちろん,遺言者以外に筆者は存在しようがないが,その他の,遺言者以外の者がワープロを操作して印字した場合は,遺言者自身がワープロを操作して印字したと同視することが許される特段の事情がある場合,すなわち当該ワープロ印字部分の一語一語に係るワープロ入力が,遺言者があらかじめ自筆で作成した原稿を添えてワープロ操作者に直接なした依頼に基づき,ワープロ操作者において,何らの加除訂正その他の作為を行わず,ひたすらその原稿文どおりに純然たる機械的方法により行われるとともに,その入力されたとおりに出力(印字)されたにすぎない場合を除き,ワープロを操作したもの(遺言者の遺言の内容を入力し,これを出力〔印字〕した者)が筆者に当たると解するのが相当である。 本件遺言書は,別紙1記載のとおり,表題及び本文が全文ワープロで印字されており,亡Bにより自署された部分は,亡Bの署名及び作成年月日欄の「拾五」の記載の合計6文字にすぎないこと,そして,亡Bがその自署部分以外の部分の原稿を自筆で作成した上その逐語のワープロ入力・ワープロ出力(印字)をワープロ操作者に直接依頼したと認めるに足りる証拠がないことを考慮すると,本件遺言に係る証書(本件遺言書の本文)の筆者は,ワープロを操作して遺言内容を印字した訴外Iであるといわざるを得ない。 そして,亡Bは,公証人Aに対し,本件遺言書の筆者が亡B自身である旨申述し,訴外I 遺言に係る証書(本件遺言書の本文)の筆者は,ワープロを操作して遺言内容を印字した訴外Iであるといわざるを得ない。 そして,亡Bは,公証人Aに対し,本件遺言書の筆者が亡B自身である旨申述し,訴外Iが筆者であることを申述していないので,亡Bは,本件遺言に際し,真実の筆者を申述していないといわざるを得ない。 (3) 筆者の申述を欠く秘密証書遺言は,以下のとおり,無効であるというべきである。 上記(1)のとおり,秘密証書遺言において,遺言者が公証人に対し筆者を申述することは,その方式上,実質的かつ重要な要素というべきところ,民法960条は,「遺言は,この法律に定める方式に従わなければ,これをすることができない。」と規定して,遺言につき同法に定める方式でなければ遺言としての効力を認めないとする厳格な定めをし,同法970条において,秘密証書遺言の方式について詳細な規定をし,同法971条が,秘密証書遺言が同法970条に定める方式に欠けるものがあっても同法968条の自筆証書遺言としての方式を具備するときには,これを自筆証書遺言としての効力を有すると規定していることにかんがみれば,秘密証書遺言につき同法970条の要件が欠ける場合には,同法971条により自筆証書遺言としての効力が認められない限り,遺言としては無効とするというのが同法の趣旨であるといわざるを得ない。したがって,上記(2)認定のとおり,亡Bは,公証人Aに対し,本件遺言書の筆者が訴外Iであることを申述せず,亡B自身が筆者である旨申述したのであるから,本件遺言は,秘密証書遺言としては無効である。 (4) 控訴人は,本件遺言書は,亡Bの財産すべてを控訴人に相続させるというものであってその内容が明確であり,遺言の内容につき紛争が生じる余地はない旨主張するが,遺言の有効無効は,遺言書の記載内容が明 4) 控訴人は,本件遺言書は,亡Bの財産すべてを控訴人に相続させるというものであってその内容が明確であり,遺言の内容につき紛争が生じる余地はない旨主張するが,遺言の有効無効は,遺言書の記載内容が明確であるか否かのみによって定まるものではなく,遺言の内容が遺言者の真意にそうものであるか否かを多方面から検討して判断するものであり,本件遺言書の記載内容が明確であるからといって,亡Bから公証人Aに対する筆者の申述がない本件遺言が有効とされるものではない。 また,控訴人は,遺言者が公証人に対し筆者を申述することは,遺言者の署名の自署等の他の要件に比べ副次的なものであり,重要な瑕疵ではない旨主張するが,前記(1)で説示したとおり,遺言者が公証人に対し筆者を申述することは,秘密証書遺言の方式上実質的かつ重要な要素であるから,これが,遺言者の署名の自署等の他の要件に比べ副次的なものであるということはできない。 さらに,控訴人は,遺言の内容が遺言者の真意に沿う場合に,筆者の申述というような副次的かつ重要でない要件が欠けていることにより遺言者の最終意思が実現できないとするのは相当でなく,特に,遺言者が,民法970条1項3号に規定する筆者の意味を誤解し,遺言者自身が筆者である旨認識してその旨申述したような場合には,その申述は,同号に規定する要件を満たしていると解するべきであり,そうでないとしても秘密証書遺言としての無効を直ちに招来しないというべきである旨主張する。しかし,遺言者が公証人に対し筆者を申述することは,秘密証書遺言の方式上実質的かつ重要な要素であることは繰り返し説示しているとおりであり,遺言の内容が遺言者の真意に沿う場合に,筆者の申述が欠けていることにより遺言者の最終意思が実現できなくなるというような事態が生じる可能性があるとしても,それは,遺言 り返し説示しているとおりであり,遺言の内容が遺言者の真意に沿う場合に,筆者の申述が欠けていることにより遺言者の最終意思が実現できなくなるというような事態が生じる可能性があるとしても,それは,遺言の様式につき厳格な方式を要求する法の趣旨のしからしむるところであり,やむを得ないところというほかない。遺言者の意思は,秘密証書遺言を自筆証書遺言として有効にし,又は死因贈与としての効力を認めることにより実現する余地も存するのである。したがって,遺言者が,民法970条1項3号に規定する筆者の意味を誤解し,遺言者自身が筆者である旨認識してその旨申述したような場合であっても,その申述に係る秘密証書遺言は,同号の規定に違反し,無効であるといわざるを得ない。 ちなみに,本件遺言書のうち亡Bの自筆部分以外の部分は,前記のとおり,控訴人の子である訴外Gの妻訴外Iがワープロを用いて印字したものであるが,訴外G及び訴外Iが陳述するところによっても,このワープロ印字部分は,市販の遺言書の書き方の書式をそのまま模倣したというのであり,亡Bがその原稿を書き下ろしたものでもなければ,亡Bの口述をワープロで入力したものでもないのであって,遺言書に表現されている語句そのものから亡Bならではの遺言意思ないし遺言についての考えをほとんどうかがうことができない(かえって,被控訴人らが主張するように,控訴人が被控訴人らの「母」であるかの如く表示されており,少なくとも,この表示の含まれる遺言部分は,その文言が亡Bの考えであるとは理解しがたい。)。しかも,訴外G及び訴外Iが陳述するところによっても,亡Bは,訴外Iに対して上記のワープロ印字を直接依頼したのではないというのであり,亡Bは,このワープロ印字部分の筆者が訴外Iであること自体を知っていたと認めるに足りる証拠はない。以上のような事 も,亡Bは,訴外Iに対して上記のワープロ印字を直接依頼したのではないというのであり,亡Bは,このワープロ印字部分の筆者が訴外Iであること自体を知っていたと認めるに足りる証拠はない。以上のような事情に徴すると,本件遺言が亡Bの真意に沿うもの(その最終意思)であることを示す遺言書文面上の根拠は,ほとんど本件遺言書上に署名があることの一事に尽きることになるのであって,控訴人の前記主張にかかわらず,本件は,直ちに遺言の内容が遺言者の真意に沿う場合と認めるには方式上の障害が大きすぎるといわなければならない。 以上の次第で,控訴人の上記各主張は,いずれも採用することができない。 2 よって,その余の点について判断するまでもなく,本件遺言は,秘密証書遺言としても自筆証書遺言としても無効であるといわざるを得ず,本件遺言は遺言として無効であるので,被控訴人らの請求を認容した原判決は正当であり,本件控訴は,理由がないから棄却することとし,控訴費用の負担につき民事訴訟法67条1項,61条を適用して,主文のとおり判決する。 東京高等裁判所第9民事部裁判長裁判官雛形要松裁判官小林正 裁判官萩原秀紀
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