主文 被告人を懲役3年に処する。 未決勾留日数中190日をその刑に算入する。 理由の要旨 (罪となるべき事実)被告人は、大学生活での人間関係がうまくいかなかったことへのストレスを、建物に放火して、大きな火を見たいという興味を満たして解消しようなどと考え、第1 Aが所有し、現に人が住居に使用せず、かつ、現に人がいない京都府福知山市内所在の家屋(木造瓦葺平家建及び木造瓦葺2階建が一体となったもの、床面積合計約213.964㎡)に放火しようと考え、令和5年5月24日午後2時57分頃から同日午後3時3分頃までの間に、同家屋の木製雨戸及び木製掃き出し窓に着火剤を用いて火を放ち、その火を内壁及び天井等に燃え移らせ、よって同家屋1階の一部を焼損(焼損面積約0.99㎡)し、第2 宗教法人Bが所有し、現に人が住居に使用せず、かつ、現に人がいない同市内所在の神社(木造瓦葺平家建、床面積合計約82.475㎡)に放火しようと考え、同年6月15日午後6時3分頃から同日午後6時25分頃までの間に、同神社拝殿の東側柵にホワイトガソリンをかけた上、持っていたバーナーで同所に点火して火を放ち、その火を同神社拝殿及び本殿等に燃え移らせ、よって同神社建物を全焼させて焼損し、第3 宗教法人Cが所有し、現に人が住居に使用せず、かつ、現に人がいない同市内所在の神社(木造桧皮葺平家建、床面積合計約115.14㎡)に放火しようと考え、同月16日午後11時24分頃から同月17日午前0時7分頃までの間に、同神社の瑞垣にホワイトガソリンをかけた上、持っていたバーナーで同所に点火して火を放ち、その火を同瑞垣の菱格子等に燃え移らせ、よって同菱格子等を焼損(焼損面積約2.78㎡)し、第4 放火の目的で、同月18日午前2時25分頃、D店店長が看守する同市内 ーナーで同所に点火して火を放ち、その火を同瑞垣の菱格子等に燃え移らせ、よって同菱格子等を焼損(焼損面積約2.78㎡)し、第4 放火の目的で、同月18日午前2時25分頃、D店店長が看守する同市内所在 の同店敷地内に北側のフェンスを乗り越えて侵入し、その頃から同日午前2時29分頃までの間に、同店西側に置かれたカゴバケツ等在中の段ボール箱等に着火剤を用いて火を放ち、同段ボール箱等を炎上させて焼損させ、そのまま放置すれば、同店店舗に延焼するおそれのある危険な状態を発生させ、もって公共の危険を生じさせ、第5 Eが所有し、現に人が住居に使用せず、かつ、現に人がいない同市内所在の家屋(木造瓦葺2階建、床面積合計約344.5㎡)に放火しようと考え、同月19日午後5時54分頃から同日午後6時7分頃までの間に、同家屋の縁側下塞ぎ板に液化石油ガスを吹き付けた上、持っていたマッチで同所に点火して火を放ち、その火を同家屋に燃え移らせて同家屋を焼損しようとしたが、自然鎮火したため、その目的を遂げず、第6 Fが現に住居に使用し、かつ、同人が現にいる同市内所在の家屋(木造瓦葺2階建、床面積合計約99.6905㎡)について、現に人が住居に使用せず、かつ、現に人がいない建造物であるとの認識をもってこれに放火しようと考え、同月21日午前5時9分頃から同日午前5時26分頃までの間に、同家屋南側敷地内のコンクリート地面にホワイトガソリンを散布した上、持っていたマッチで同所に点火して火を放ち、その火を同家屋に燃え移らせて同家屋を焼損しようとしたが、自然鎮火したため、その目的を遂げなかった。 (争点に対する判断)第1 本件の争点等関係各証拠によれば、被告人が本件各犯行に及んだことが認められるところ、弁護人は、被告人は、本件各犯行当時、自閉スペクトラム症及 の目的を遂げなかった。 (争点に対する判断)第1 本件の争点等関係各証拠によれば、被告人が本件各犯行に及んだことが認められるところ、弁護人は、被告人は、本件各犯行当時、自閉スペクトラム症及び放火症に罹患しており、その影響で行動制御能力が著しく減退していたから、心神耗弱の状態にあったと主張する。当裁判所は、被告人は、本件各犯行当時、完全責任能力を有していたと判断したので、以下、その理由を説明する。 第2 当裁判所の判断 1 被告人の精神障害 ⑴ 被告人の簡易精神鑑定本件起訴後に弁護人の依頼で被告人の簡易精神鑑定を行った精神科医である証人Gの公判供述(第4回公判調書中の同証人の供述部分)及び同医師作成の鑑定書(以下合わせて「G鑑定」という。)の内容は以下のとおりである。すなわち、被告人は、本件各犯行当時、放火症であり、放火への衝動性が強い症状であった。被告人は、幼少期から火に対する興味を持ち、令和5年4月に大学に進学する前にも家の中で物を燃やすなどする中で、放火症に後天的に罹患した。被告人が放火症に罹患した背景には、先天的な自閉スペクトラム症(自閉症スペクトラム障害)があり、火に対するこだわりや興味が強いことがあった。 被告人は、自閉スペクトラム症のため、対人交流能力や共感性が乏しく、大学生活で周囲とうまく人間関係を構築できず、ストレスを感じていた。放火症による衝動と、自閉スペクトラム症による火に対するこだわりが、上記のストレスを解消する方法としての本件各犯行に及ぶに至る動機の形成に大きな影響があった。本件各犯行を短期間に連続して行ったこと、放火による興奮、気持ちの高ぶりを被告人が自覚していたこと、現場に人がいて放火が困難な場合には、再度出直してまで犯行に及ぶ執拗性から、放火症による衝動が強く、衝動を抑えることが に連続して行ったこと、放火による興奮、気持ちの高ぶりを被告人が自覚していたこと、現場に人がいて放火が困難な場合には、再度出直してまで犯行に及ぶ執拗性から、放火症による衝動が強く、衝動を抑えることが困難であったことがうかがえる。G鑑定の概要は以上である。 ⑵ G鑑定の信用性検察官はG医師の鑑定能力及び鑑定の前提条件等に誤りがあると指摘して、G鑑定の信用性を争う。しかし、G医師は、精神科医であり、約15年にわたり200件程の主として簡易精神鑑定の経験を重ね、相応の専門知識を備えていると認められ、被告人の簡易精神鑑定に当たっても、本件の事件記録を参照の上、被告人との面談の結果を踏まえて判断しており、判断の資料となった客観的事実に誤りはないことなどから、その信用性を否定することはできない。 2 被告人の責任能力の有無⑴ G鑑定によれば、被告人は、本件各犯行当時、放火症の影響で、放火への衝動 が強く、自閉スペクトラム症による火へのこだわりが影響して、他のストレス解消の手段を選ばず、本件各犯行に及んだことが認められるが、これらの精神障害が被告人の本件各犯行当時の行動制御能力に影響していた程度について検討する。 ⑵ 被告人は、令和5年5月24日、判示第1の犯行に及び、同年6月15日から同月21日にかけて、判示第2から第6までの各犯行に及んだものであり、放火への衝動が強く、ストレス解消の手段として放火に執着した点は自閉スペクトラム症の影響を否定できない。もっとも、G鑑定によっても、自閉スペクトラム症は、精神障害よりも被告人の特性ないし性格のようなものであるとされている。 一方で、本件各犯行に至るまでの経緯として、被告人は、大学進学以前から、大きな火を見ることに興味があり、大きなものに火をつけたいという気持ちはあったが、それまでは、警 うなものであるとされている。 一方で、本件各犯行に至るまでの経緯として、被告人は、大学進学以前から、大きな火を見ることに興味があり、大きなものに火をつけたいという気持ちはあったが、それまでは、警察に捕まるのが怖かったため、家屋等への放火をしたことはなく、自宅の流し台で、割り箸、コピー用紙、消毒液等に火をつけるにとどまり、大学進学以降、本件各犯行までは、下宿先で同様のものや机の端に火をつけるにとどまっていた。 しかし、被告人は、大学での人間関係がうまくいかず、1か月ほどで大学に通学しなくなり、そのような生活が嫌になって、警察に捕まっても構わないという気持ちが生じ、従前の大きな火を見たいという気持ちを満たしてストレスを解消するために判示第1の犯行に及び、その後も同様の火をつけたいという気持ちと、周囲の地域社会が放火事件に騒いでいる様子を見たいという気持ちを満たしてストレスを解消するために、判示第2から第6までの犯行に及ぶに至った。このように、被告人は、本件各犯行以前は、放火の衝動があったとしても行動を制御できていたと認められる。本件各犯行に及ぶに至った直接の動機もストレス解消という一応の了解が可能なものであり、本件各犯行当時の行動制御能力に疑問を生じさせるほどの異常なものではない。 また、被告人は、上記の動機で本件各犯行に及んだものであるが、放火の対象が燃焼しやすい木造建築物であるかを考慮する一方で、人が死傷することを恐れて、現に人がいないと被告人が考えた建造物を放火の対象として選択しており、犯行動機を超える結果が生じないよう行動したといえる。 被告人の犯行態様についても、以下の点を指摘できる。被告人は、判示第2について、犯行の数日前に、放火のために神社に赴いたが、人がいたため、見つかることを恐れて放火を断念してその場を去り、再 被告人の犯行態様についても、以下の点を指摘できる。被告人は、判示第2について、犯行の数日前に、放火のために神社に赴いたが、人がいたため、見つかることを恐れて放火を断念してその場を去り、再度現場を訪れて犯行に及んだ。判示第3についても、犯行当日の昼間、放火のために現場に赴いたが、人がたくさんいたため放火を断念して現場を去り、その際、再度夜に赴くことを考え、犯行道具であるホワイトガソリンを夜中持ち歩くと怪しまれると考え、現場の近くの空き家の敷地に隠した。再度、現場を訪れて犯行に及ぶ際、現場に近い駐車場に人がいたが、被告人としてはその場にいることを怪しまれないようにするため、その人に声をかけた。判示第6の際も、現場に向かう道中、かばんを持っていると怪しまれると考えて、犯行道具であるホワイトガソリンを服の中に隠して持った。このように、被告人は、本件各犯行を現認されたり、犯行の用に供する道具を持ち歩いていることを発見されると、通報等をされるなどして犯行を阻止されると考え、人がいる場合は犯行に及ばず、被告人なりに道具を隠すといったことをしている。 そして、被告人は、多くの犯行において、火を放つと、人に見つかるのを恐れて、直ちにその場を離れている。 これらの事情からすれば、被告人は、本件各犯行に及ぶまでは、放火をすることへの衝動は強かったものの、警察に捕まることを恐れて犯行に及ばなかったが、本件各犯行時は、ストレス解消のため、捕まっても構わないと本件各犯行を決意し、放火の対象、時期及び状況を被告人なりに考え、犯行の実現に障害があると認識した場合には犯行を中断し、再度の機会を窺うといった、犯行遂行のため合目的的な行動をとり、犯行後には自己防御的行動をとったものと認められる。自閉スペクトラム症による執着心の強さや放火症による放火への衝動の強 には犯行を中断し、再度の機会を窺うといった、犯行遂行のため合目的的な行動をとり、犯行後には自己防御的行動をとったものと認められる。自閉スペクトラム症による執着心の強さや放火症による放火への衝動の強さが被告人の行動制御能力に与えた影響は限定的であり、本件各犯行当時の被告人の行動制御能力に著しい減退がなかったと認められる。 ⑶ 弁護人は、本件各犯行時の被告人の異常性をうかがわせる事情として、①放火を決意した直後に判示第1の犯行に及んでおり、衝動的に行動していること、②放火 行為に及ぶまでは警察に捕まってもいいという気持ちであり、放火の衝動にあらがえない精神状態であったこと、③本件各犯行後、犯行の用に供した道具を現場付近に放置していたこと、④被告人の生活状況等を指摘するが、既に検討したところにも照らし、いずれも被告人の行動制御能力が著しく減退していたことをうかがわせるものではない。 3 結論以上のとおり、被告人の本件各犯行に至る経緯や具体的な犯行態様等に照らせば、被告人は、本件各犯行当時、放火症に罹患し、そのために放火に対する衝動が強く、自閉スペクトラム症があいまって、放火に執着した点に、精神障害による影響があったとしても、事理弁識能力はもとより、行動制御能力は著しく減退していなかったものであり、完全責任能力を有していたと認められる。 (法令の適用) 1 構成要件及び法定刑を示す規定被告人の判示第1から第3までの各所為はいずれも刑法109条1項に、判示第4の所為のうち、建造物侵入の点は刑法130条前段に、建造物等以外放火の点は刑法110条1項に、第5及び第6の各所為はいずれも刑法112条、109条1項にそれぞれ該当する。 2 科刑上の一罪の処理判示第4の建造物侵入と建造物等以外放火との間には手段結果の関係があるので、 110条1項に、第5及び第6の各所為はいずれも刑法112条、109条1項にそれぞれ該当する。 2 科刑上の一罪の処理判示第4の建造物侵入と建造物等以外放火との間には手段結果の関係があるので、刑法54条1項後段、10条により1罪として重い建造物等以外放火罪の刑で処断する。 3 併合罪の処理刑法45条前段の併合罪であるから、刑法47条本文、10条により刑及び犯情の最も重い判示第2の罪の刑に法定の加重をする。 4 宣告刑の決定以上の刑期の範囲内で被告人を懲役3年に処する。 5 未決勾留日数の算入 刑法21条を適用して未決勾留日数中190日をその刑に算入する。 6 訴訟費用の不負担訴訟費用は、刑事訴訟法181条1項ただし書を適用して被告人に負担させない。 (量刑の理由)本件は、被告人が放火を繰り返し、空き家の一部を焼損したもの(判示第1)、神社を全焼させたもの(判示第2)、神社の一部を焼損したもの(判示第3)の非現住建造物等放火3件、ホームセンター敷地に侵入し、段ボール箱等を焼損した(判示第4)建造物侵入及び建造物等以外放火1件、空き家に放火したが自然鎮火したもの(判示第5)、住宅を空き家と認識して放火したが自然鎮火したもの(判示第6)の非現住建造物等放火未遂2件からなる事案である。 量刑の判断の中心となる判示第2の非現住建造物等放火についてみると、あらかじめ用意した燃料を用いて、木造の神社という可燃性の高い対象を選んで放火するという危険性が大きい手口による悪質なものであり、現に拝殿及び本殿等の全焼という重大な結果をもたらしている。また、被告人は、犯行の数日前に被害神社に放火のために赴いたものの、敷地内に人がいたため断念して引き返したにもかかわらず、再度赴いて犯行に及んだものであり、強固な犯意に基づくものとい もたらしている。また、被告人は、犯行の数日前に被害神社に放火のために赴いたものの、敷地内に人がいたため断念して引き返したにもかかわらず、再度赴いて犯行に及んだものであり、強固な犯意に基づくものといえる。判示第2の犯行は、長い歴史を有する地域の信仰の場を失わせたもので、再建に約1億6,000万円が必要と見込まれており、被害関係者の処罰感情も厳しい。 その他の犯行も、早朝又は深夜を含む、周囲に人がほぼいない状況で、着火剤又は燃料を用いて、可燃性のある対象を選んで放火したもので、結果として、消火活動によって僅かな焼損にとどまるか、焼損に至らず自然鎮火しているが、周囲の住宅や建物等への延焼の危険性が少なくない犯行である。これらに加え、周囲に人がいる場合には出直して犯行に及んでいることにも照らし、強固な犯意に基づく計画的な犯行でもある。被告人の父親が判示第4の被害会社に対して25万円を支払って示談を成立させ、その処罰感情が和らいでいることを考慮しても、これらの犯行に係る犯情も悪質である。 なお、本件一連の犯行により、地域社会に大きな不安を感じさせたことも看過できない。 被告人は、僅か約1か月間で6回にわたり同種犯行を繰り返したもので、強い非難を免れない。被告人が、本件各犯行に及んだ動機は、判示のとおり、大学生活で人間関係をうまく構築できなかったことに伴うストレスを解消するというものである。被告人が、そのようなストレスを抱えたことや、そのストレス解消の方法として放火を選択し、これを繰り返したことには、前記のとおり、被告人の自閉スペクトラム症や放火症の影響が見られ、これらの点は、被告人の責任非難を減少させる事情として相応に考慮する必要がある。もっとも、前記のとおり、被告人の精神障害が本件各犯行に与えた影響は限定的であって、その酌量の程 や放火症の影響が見られ、これらの点は、被告人の責任非難を減少させる事情として相応に考慮する必要がある。もっとも、前記のとおり、被告人の精神障害が本件各犯行に与えた影響は限定的であって、その酌量の程度には限度がある。 以上によれば、被告人には前科がなく、本件各犯行当時は特定少年であったこと等を考慮しても、その刑事責任は重く、相当期間の実刑は免れない。そこで、被告人が一貫して犯行を認めており、反省の態度が認められること、今後父親による支援が期待できること等も踏まえ、被告人を主文の刑に処することとした。 よって、主文のとおり判決する。 (求刑懲役5年)令和6年6月12日京都地方裁判所第1刑事部裁判長裁判官増田啓祐裁判官安福幸江裁判官長船源
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