平成27(ワ)1246

裁判年月日・裁判所
平成27年9月14日 福岡地方裁判所 その他
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判決文本文40,178 文字)

平成30年9月14日判決言渡同日原本領収裁判所書記官 平成27年(ワ)第1246号未払割増賃金等本訴請求事件(以下「甲事件」という。)平成27年(ワ)第2490号未払割増賃金等請求事件(以下「乙事件」という。)平成28年(ワ)第3076号損害賠償請求反訴事件(以下「丙事件」という。)口頭弁論終結日平成30年4月25日 判決福岡県筑紫野市a町b番地c甲乙事件原告・丙事件反訴被告 A(以下「原告」という。)同訴訟代理人弁護士光永享央同関 五行 福岡県宗像市d町e番地f甲事件被告・丙事件反訴原告株式会社B(以下「被告会社」という。)同代表者代表取締役 C福岡県宗像市j町k番地m 甲事件被告 C同所乙事件被告 D前記3名訴訟代理人弁護士田中雅敏同柏田剛介 主文 1 被告会社は,原告に対し,937万0829円及びうち902万5361円に対する平成26年4月6日から支払済みまで年14.6パーセントの割合による金員を支払え。 2 被告会社は,原告に対し,494万8855円及びこれに対する本判決確定 の日の翌日から支払済みまで年5パーセントの割合による金員を支払え。 3 被告D及び被告会社は,原告に対し,連帯して,110万円及びこれに対する平成27年9月1日から支払済みまで年5パーセントの割合による金員を支払え。 4 被告Dは, る金員を支払え。 3 被告D及び被告会社は,原告に対し,連帯して,110万円及びこれに対する平成27年9月1日から支払済みまで年5パーセントの割合による金員を支払え。 4 被告Dは,原告に対し,110万円に対する平成26年3月6日から平成27年8月31日まで年5パーセントの割合による金員を支払え。 5 原告は,被告会社に対し,12万2609円及びうち6万0022円に対する平成25年9月30日から,うち6万2587円に対する平成26年3月8日から,各支払済みまで年5パーセントの割合による金員を支払え。 6 原告の被告Cに対する請求,原告の被告D及び被告会社に対するその余の請求並びに被告会社のその余の反訴請求をいずれも棄却する。 7 訴訟費用中,被告Cに生じたものは原告の負担とし,その余の当事者に生じたものは,全事件を通じてこれを100分し,その7を原告の負担とし,その89を被告会社の負担とし,その余を被告Dの負担とする。 8 この判決は,第1項,第3項,第4項及び第5項に限り,仮に執行することができる。 事実 及び理由第1 請求 1 甲乙事件⑴ 被告会社は,原告に対し,963万4144円及びうち929万7149円に対する平成26年4月6日から支払済みまで年14.6パーセントの割 合による金員を(ただし,後記⑵の限度で被告C及び被告Dと連帯して)支払え。 ⑵ 被告C及び被告Dは,原告に対し,被告会社と連帯して,929万7149円及びこれに対する平成27年9月1日から支払済みまで年5パーセントの割合による金員を支払え。 ⑶ 被告会社は,原告に対し,541万2912円及びこれに対する本判決確 定の日の翌日から支払済みまで年5パーセントの割合による金員を支払え。 ーセントの割合による金員を支払え。 ⑶ 被告会社は,原告に対し,541万2912円及びこれに対する本判決確 定の日の翌日から支払済みまで年5パーセントの割合による金員を支払え。 ⑷ 被告D及び被告会社は,原告に対し,連帯して,165万円及びこれに対する被告Dについて平成26年3月6日から,被告会社について平成27年9月1日から,支払済みまで年5パーセントの割合による金員を支払え。 2 丙事件 原告は,被告会社に対し,229万7635円及びうち6万0022円に対する平成25年9月29日から,うち223万7613円に対する平成26年3月8日から,各支払済みまで年5パーセントの割合による金員を支払え。 第2 事案の概要甲乙事件は,被告会社に雇用されて長距離トラック運転手として稼働してい た原告が,①被告会社に対し,未払賃金929万7149円(うち,割増賃金が783万2880円であり,それ以外の賃金が146万4269円である。)並びにこれに対する各支払期日(最終のものを除く。)の翌日から最終の支払期日である平成26年4月5日まで商事法定利率年6パーセントの割合による遅延損害金33万6995円及び同月6日から支払済みまで賃金の支払の確保等 に関する法律6条1項,同法施行令1条所定の年14.6パーセントの割合による遅延損害金を支払うよう求め(後記②の限度で他の被告らと連帯。請求1⑴),②被告C及び被告Dに対し,被告会社が前記①の未払賃金を支払わないことについて,被告Cが同社の代表取締役として,被告Dが同社の事実上の取締役として,それぞれ会社法429条1項又は民法709条に基づく損害賠償責 任を負うと主張して,前記①の未払賃金929万7149円及びこれに対する不法行為の後である平成27年9月 の事実上の取締役として,それぞれ会社法429条1項又は民法709条に基づく損害賠償責 任を負うと主張して,前記①の未払賃金929万7149円及びこれに対する不法行為の後である平成27年9月1日から支払済みまで民法所定の年5パーセントの割合による遅延損害金を被告会社と連帯して支払うよう求め(請求1⑵),③被告会社に対し,労働基準法(以下「労基法」という。)114条に基づく付加金541万2912円(平成25年5月5日以降に支払期日が到来す る未払割増賃金相当)及びこれに対する本判決確定の日の翌日から支払済みま で民法所定の年5パーセントの割合による遅延損害金の支払を求め(請求1⑶),④被告D及び被告会社に対し,被告Dは原告に対しパワーハラスメント(以下「パワハラ」という。)と評価されるべき不法行為を行っていたところ,被告Dは民法709条に基づき損害賠償責任を負い,被告会社は会社法350条の類推適用により事実上の取締役である被告Dがその職務を行うについてし たパワハラについて損害賠償責任を負うと主張して,165万円(慰謝料150万円及び弁護士費用15万円)及び不法行為の後である平成27年9月1日から支払済みまで民法所定の年5パーセントの割合による遅延損害金を連帯して支払うよう求めるほか,被告Dに対しては前記165万円に対する不法行為の後である平成26年3月6日から平成27年8月31日まで同割合の遅延損 害金の支払を求めた(請求1⑷)事案である。 丙事件は,被告会社が,原告に対し,原告が平成25年9月28日及び平成26年3月7日に業務指示を受けていた運送業務を無断で放棄したため,被告会社は受注していた運送業務を履行できず損害を被ったと主張して,不法行為又は債務不履行に基づき,229万7635円及びうち6万00 6年3月7日に業務指示を受けていた運送業務を無断で放棄したため,被告会社は受注していた運送業務を履行できず損害を被ったと主張して,不法行為又は債務不履行に基づき,229万7635円及びうち6万0022円に対す る不法行為の日の翌日である平成25年9月29日から,うち223万7613円に対する不法行為の日の翌日である平成26年3月8日から,各支払済みまで民法所定の年5パーセントの割合による遅延損害金の支払を求めた事案である(請求2)。 1 前提事実(当事者間に争いがないか,掲記の証拠(枝番があるものは特に断 りない限り枝番全てを含む。以下同じ。)及び弁論の全趣旨により容易に認定できる事実)⑴ 当事者等ア原告は,平成24年3月頃,被告会社と労働契約(以下「本件労働契約」という。)を締結し,平成26年3月6日までの間,被告会社本店において, 長距離トラック運転手として運送業務に従事していた者である。なお,原 告は,被告本店に隣接する社員寮に寄宿していた。 イ被告会社は,運送業,土木工事等を目的とする株式会社であり,福岡県宗像市に本店を置き,福岡市中央区(福岡支店)及び兵庫県加西市(関西営業所)に支店を置いている。 ウ被告Cは,被告会社の代表取締役であり,被告Dは,被告Cの夫である。 被告会社の専務であるE及び常務であるFは,いずれも被告会社の運送業部門を担当していた。 ⑵ 原告の労働条件原告の所定の労働条件は次のとおりである。 ア雇用形態正社員 イ期間期間の定めなしウ職務内容長距離貨物10トントラックの運転エ勤務地本店勤務オ賃金支払方法毎月20日締め,翌月5日払カ所定労働時間始業時刻午後5時,終業時刻翌午前3 間の定めなしウ職務内容長距離貨物10トントラックの運転エ勤務地本店勤務オ賃金支払方法毎月20日締め,翌月5日払カ所定労働時間始業時刻午後5時,終業時刻翌午前3時20分,休憩時 間2時間20分⑶ 原告の業務内容被告会社は,G株式会社の協力会社として積荷運送を行っており,原告は,被告会社本店を出発し,G社の九州,関西,北陸,東京等の各配送センターへの長距離運送に従事していた。 ⑷ 原告の実労働時間等ア始業及び終業時刻平成24年9月21日から平成26年3月6日までの間の原告の始業及び終業時刻は,平成26年2月14日から同月16日までの期間を除き,別紙A1のとおりである。 イ休憩時間 平成24年9月21日から平成26年3月6日までの間の原告の休憩時間は,別紙B記載の時間帯を除き,別紙A1のとおりである。 ⑸ 原告に対する賃金の支払被告会社は,原告に対し,次の要領で算定し,控除金を差し引いて,賃金を支払った。なお,控除すべき債務の存在及び控除の適法性については,税 金,社会保険料並びに滞納していた税金及び生命保険料の支払原資に充てるとされた金額の控除を除き,争いがある(以下,被告会社が原告の賃金について行った各控除(税金及び社会保険料を除く。)を総称するときは「本件各賃金控除」という。)。 ① 毎月の運行実績に基づく路線単価(乙13)を合計した金額から,退職 積立金1万円を控除する(この金額は,給与明細別紙(甲7)では「仮合計」と表示される。)。 ② ①の「仮合計」から,勤続1年以内の労働者については5パーセント,勤続3年以内の労働者については3パーセントを控除する(この金額は,給与明細別紙では「合 7)では「仮合計」と表示される。)。 ② ①の「仮合計」から,勤続1年以内の労働者については5パーセント,勤続3年以内の労働者については3パーセントを控除する(この金額は,給与明細別紙では「合計給料」と表示される。)。 ③ ②の「合計給料」から,被告会社が,原告の職場放棄による損害として主張する金額を控除する(この金額は,給与明細別紙では「基本給」と表示される。)。 ④ ③の「基本給」から,税金及び社会保険料のほか,社員寮の風呂代2000円,互助会費600円並びに原告が滞納していた税金及び生命保険料 の支払原資に充てるとされた金額(賃金台帳(甲5)及び給与明細一覧表(甲6)では「その他」と表示される。)を控除した金額が賃金として支払われていた(この金額は,賃金台帳及び給与明細一覧表では「差引支給合計」と表示される。)。 なお,前記の路線単価とは,G社等からの受注金額に対し,当該路線で取 り扱う貨物の積込み作業の業務量に応じて25ないし30パーセントの率を 乗じ,更に燃料費や高速道路費を反映させて,被告会社が決定した金額である。 (弁論の全趣旨)⑹ 被告会社の就業規則被告会社の就業規則(乙1。以下「本件就業規則」という。)には,次の定 めがある。 2条(適用範囲)この規則は,会社に勤務するすべての従業員に適用する。ただし,パートタイマー等就業形態が特殊な勤務に従事する者について,その者に適用する特別の定めをした場合はその定めによる。 6条(勤務時間)…その他の従業員(事務職以外)の1週間の所定労働時間は40時間以内とし,1日の所定労働時間は,6時間40分とする。 7条(始業,終業の時刻)始業,終業の時刻および休憩 間)…その他の従業員(事務職以外)の1週間の所定労働時間は40時間以内とし,1日の所定労働時間は,6時間40分とする。 7条(始業,終業の時刻)始業,終業の時刻および休憩の時刻は次のとおりとする。 事務職(略)その他の従業員始業:8時00分,終業:17時00分休憩:9時00分より9時10分まで10時00分より10時30分まで12時00分より13時00分まで 14時00分より14時10分まで15時00分より15時30分まで10条(休日)休日は次のとおりとする。 1号日曜日および国民の祝日 2号 (略) 3号盆休み(8月13日~16日)4号正月(12月31日~1月4日)5号雨,雪,洪水,台風その他避けることの出来ない事由によって作業に従事することが出来ないと認めた日15条(割増賃金) …時間外労働,休日労働又は深夜労働に対しては,賃金規程の定めるところによって割増賃金を支払う。 41条(賃金)従業員の賃金は,別に定める賃金規程により支給する。 ⑺ 被告会社の賃金規程 被告会社の賃金規程(乙2。以下「本件賃金規程」といい,本件就業規則と併せて総称するときは「本件就業規則等」という。)には,次の定めがある。 1条(適用範囲)この規定は,就業規則第41条に基づき,従業員の賃金等について定めたものである。ただし,パートタイマー等就業形態が特殊な勤務に従事す る者について,その者に適用する特別の定めをした場合は,その定めによる。 5条(賃金の支払方法)1項賃金は のである。ただし,パートタイマー等就業形態が特殊な勤務に従事す る者について,その者に適用する特別の定めをした場合は,その定めによる。 5条(賃金の支払方法)1項賃金は通貨で直接従業員にその全額を支払う。 2項前項の規程にかかわらず,次に掲げるものは支払いのとき控除する。 ただし,第6号以下については,従業員の代表者と書面による控除協定に基づいて行うものとする。 1号給与所得税 2号市町村民税 3号健康保険料4号雇用保険料 5号厚生年金保険料6号会社の貸付金の当月返済分 6条(基本給) 基本給は,日給月給制とする。 7条(基本給の決定)基本給は,本人の学歴,能力,経験,技能,作業内容などを勘案して各人ごとに決定する。 9条(時間外勤務割増賃金・休日勤務割増賃金・深夜勤務割増賃金) 1項所定勤務時間を超えて又は休日に勤務した場合には時間外勤務割増賃金又は休日勤務割増賃金を,深夜(午後10時から午前5時までの間)において勤務した場合には深夜勤務割増賃金を,それぞれ次の計算により支給する。 時間外勤務割増賃金 所定日給額/1日の所定勤務時間×1.25×時間外勤務時間数休日勤務割増賃金所定日給額/1日の所定勤務時間×1.35×休日勤務時間数深夜勤務割増賃金所定日給額/1日の所定勤務時間×0.25×深夜勤務時間数 2項所定勤務時間を超えて,または休日に勤務した時間が深夜に及んだ場合は,それぞれ,時間外勤務割増賃金または休日勤務割増賃金と深夜勤務割増賃金を合計した割増賃金を支給する 時間数 2項所定勤務時間を超えて,または休日に勤務した時間が深夜に及んだ場合は,それぞれ,時間外勤務割増賃金または休日勤務割増賃金と深夜勤務割増賃金を合計した割増賃金を支給する。 ⑻ 原告の1回目の失踪原告は,平成25年9月28日,被告会社の本店で点呼を終えた後,同日 の運送業務を履行せず,被告会社からいなくなった(以下「本件失踪1」という。)が,同年10月5日頃までに,被告会社に戻って勤務を再開した。 ⑼ 原告の2回目の失踪原告は,平成26年3月6日,同日の運送業務を終えた後に被告会社からいなくなり(以下「本件失踪2」という。),翌日以降は運送業務に従事しな かった。 2 甲乙事件の争点及び争点に対する当事者の主張(甲乙事件関係)⑴ 原告の実労働時間(争点1)【原告の主張】ア休憩時間休憩時間は,所定労働時間のとおり,1日当たり2時間20分とみるべ きである。目的地に到着してから翌日の出発地に向かうまでの回送運行中の長時間の停車時間には,渋滞,通行止め,補給,被告会社からの指示待ちなどの手待ち時間が含まれており,一律に休憩時間とはいえない。 イ平成26年2月14日から同月16日までの実労働時間(始業時刻,終業時刻及び休憩時間) 平成26年2月14日,原告は東京方面へ運行したが,同月15日明け方に三多摩事務所に到着したところで大雪のため走行不能となり,被告会社からG社の指示に従うよう命じられたことから,G社の指示に従って積荷を搭載したまま車内で待機していた。同日深夜,G社から指示を受けて東京センター(東京都江東区)に向かったが,同月16日明け方,路面凍 結のために立ち往生し,被告会社から待機を命じられた。同日午後,走行可能となったことか いた。同日深夜,G社から指示を受けて東京センター(東京都江東区)に向かったが,同月16日明け方,路面凍 結のために立ち往生し,被告会社から待機を命じられた。同日午後,走行可能となったことから被告会社に連絡して運行を再開し,同日午後10時頃,東京センターに到着した。以上の走行態様はタコグラフ(甲10の5)からも裏付けられる。そして,前記のような被告会社の指示による待機時間については,原告が労働から解放されていたとはいえないから,原告は 同月14日から17日午前1時まで連続勤務していたことになる。 【被告らの主張】ア休憩時間休憩時間は,1日当たり所定の2時間20分に加え,タコグラフ(甲10の1~6)から認められる回送運行中の長時間の停車時間を含めるべき であり,別紙Bのとおりである。原告は,回送運行中は被告会社による時 間管理(指揮監督)から解放されており,自由に休憩を取ることができるため,長時間の停車は休憩時間とみるべきである。 イ平成26年2月14日から同月16日までの実労働時間G社の運行実績一覧表(甲8)によれば,平成26年2月14日は,始業時刻午後3時30分,終業時刻翌15日午前6時51分,休憩時間2時 間20分であり,同月16日は,始業時刻午後9時48分,終業時刻翌17日午前1時,休憩時間2時間20分である。同月15日については,タコグラフ及び運転日報(甲10)に記載があるものの,被告会社の配車表(甲9)やG社の運行実績一覧表(甲8の4)に記載がないため,休日とみるべきである。 ⑵ 割増賃金の算定方法(争点2)【原告の主張】原告の賃金は,本件就業規則等が適用されて日給月給制となり(賃金規程6条),割増賃金の算定基礎は,平成24年9月21日から平成26年3月6日 ⑵ 割増賃金の算定方法(争点2)【原告の主張】原告の賃金は,本件就業規則等が適用されて日給月給制となり(賃金規程6条),割増賃金の算定基礎は,平成24年9月21日から平成26年3月6日までの給与明細別紙(甲7)の路線単価の合計額(本件各賃金控除をしな い金額)を月数で除した金額を,月の所定労働時間数で除した金額とすべきであり,別紙A2及び別紙A3のとおり2208円となる(労基法施行規則(以下「労基規則」という。)19条1項4号)。 本件就業規則等がもともと運転手を想定したものでなかったとしても,運転手を対象とした就業規則が別途作成されていない以上,運転手である原告 にも本件就業規則等が適用される。原告に本件就業規則等が適用されないというためには,被告らにおいて,①原告との間で本件就業規則等と異なる労働条件の合意があり(個別合意の存在。労働契約法(以下「労契法」という。)7条ただし書),②その労働条件が本件就業規則等で定めるよりも原告に有利であること(最低基準効。同法12条)を主張立証しなければならない。 しかし,①被告らは,本件就業規則等と異なる労働条件(出来高払制)の個 別合意があった旨主張するものの,原告の賃金は,賃金台帳(甲5)及び給与明細一覧表(甲6)で「基本給(日給)」名目とされ,給与明細別紙(甲7)にも「本日給料」として日給であると明示されているだけでなく,出来高払制に不可欠な賃金算定基準(路線単価)の事前開示及び労働者の創意工夫による賃金の変動という要素がないから,本件就業規則等と異なる労働条件の 合意がされたとは認められない。また,②就業規則が本来対象としている土木業従業員の賃金(乙21~23)と比較して,原告(長距離トラック運転手)の賃金の方が低額であり,被告ら主張の就業 働条件の 合意がされたとは認められない。また,②就業規則が本来対象としている土木業従業員の賃金(乙21~23)と比較して,原告(長距離トラック運転手)の賃金の方が低額であり,被告ら主張の就業規則と異なる労働条件が原告により有利であったとも認められない。したがって,原告に対しては本件就業規則等の賃金算定方法が適用される。 【被告らの主張】原告の賃金は,路線単価に基づく運行実績によって定まるから,労基規則19条1項6号の「出来高払制」であり,割増賃金の算定基礎は,給与明細別紙(甲7)の路線単価の合計額(本件各賃金控除をする前の金額)を総労働時間数で除した金額とすべきである。 被告会社は,日ごとに賃金が変動し得ることを示し,各労働日に担当する路線ごとに賃金が定まることを前提とした内容で長距離トラック運転手を募集し(乙15),原告は同募集を前提として応募した。さらに,採用面接において,被告会社は,原告に対し,賃金が路線ごとの運行実績によって定まり,単価の良い路線を担当するほど賃金が上がることを説明している。したがっ て,原告と被告会社は,労働契約締結時,賃金が担当する路線によって変動する出来高払制の合意をしたものというべきである。 なお,被告会社が本件賃金規程を作成した平成12年9月1日当時,被告会社は長距離運送業を開始しておらず,本件賃金規程は土木工事事業に従事する従業員の固定給を想定したものである。そのため,本件就業規則等を長 距離トラック運転手に適用すれば,賃金算定の前提たる始業・終業時刻や休 日の定めが労働実態と合わず,賃金算定の方法も現実とかい離することになる。したがって,本件就業規則等は「合理的な労働条件が定められている就業規則」(労契法7条本文)とはいえず,本件賃金 日の定めが労働実態と合わず,賃金算定の方法も現実とかい離することになる。したがって,本件就業規則等は「合理的な労働条件が定められている就業規則」(労契法7条本文)とはいえず,本件賃金規程を長距離トラック運転手である原告に適用することはできない。 ⑶ 深夜割増賃金支払の要否(争点3) 【被告らの主張】長距離トラック運転手の始業時刻は,午後3時ないし午後6時頃であり,その業務には深夜の運転業務,荷役等が含まれるから,その基本給は当該業務に従事する対価として支払われていた。したがって,原告と被告会社との間では,基本給に深夜労働についての割増賃金を含むとの合意が成立してい た。したがって,被告会社は別途深夜割増賃金を支払う義務はない。 【原告の主張】本件賃金規程は,基本給とは別に労基法に従って深夜割増賃金を支払う旨を定めているから,深夜割増賃金は基本給に組み込まれているとの合意をしたとしても,労基法及び本件賃金規程よりも不利であるのは明らかであり, 就業規則の最低基準効(労契法12条)に反し,無効である。また,割増賃金を基本給に組み込んで支払うことが許容されるためには,①通常の賃金部分と割増賃金部分とが明確に区分され,②労基法所定の計算方法による割増賃金との差額(過不足額)の計算が可能であり,③当該差額を支払うことが合意され,実際に毎月支払がされている必要があるが,本件においてはいず れの要件も満たさない。 ⑷ 本件各賃金控除の適法性(争点4)【被告らの主張】ア退職積立金の控除(別紙A3⑨欄関係)被告会社は,平成25年2月,中小企業退職金共済制度に加盟する際, 原告を含む各従業員との間で,掛金月額1万円を賃金から控除(相殺)す ることを合意した。 イ 「仮合 係)被告会社は,平成25年2月,中小企業退職金共済制度に加盟する際, 原告を含む各従業員との間で,掛金月額1万円を賃金から控除(相殺)す ることを合意した。 イ 「仮合計」からの3パーセント又は5パーセントの控除(別紙A3⑩欄関係)被告会社は,入社時に原告との間で,賃金の算定方法を合意した際,「仮合計」からの3パーセント又は5パーセントの控除についても合意した。 ウ損害賠償金の控除(別紙A3⑦欄関係)原告は,平成25年9月28日から同年10月4日までの間,無断で業務を放棄して失踪したため(本件失踪1),被告会社は,確定していた原告への一週間分の配車のうち,代替の運転手を確保できなかった路線(同年9月28日の須恵センターから中部ハブセンターまでの路線(受注金額9 万2480円),同年10月1日の福岡センターから金沢営業所までの路線(受注金額9万6850円),同月3日の福井営業所から鴻池センターまでの路線(受注金額4万8770円))及び代替の運転手を確保したことにより同運転手が担当できなかった路線(同年9月30日の住之江営業所から北九州センターまでの路線(受注金額9万1170円))について,G社 にキャンセルを申し入れ,受注金額32万9270円相当の損害を被った。 また,被告会社は同年10月以降G社から増便を得られる予定であったところ,本件失踪1を理由として増便を中止されたため,同年12月31日までの受注予定額346万0080円相当の損害を被った。 被告会社は,同年10月4日,原告が被告会社に戻った際,原告に対し, 被告会社の損害を具体的に説明して賃金から弁償するよう求め,原告はこれを承諾し,原告と被告会社との間に賃金債権と損害賠償請求権とを相殺する旨の口頭の合意が成立した。原 戻った際,原告に対し, 被告会社の損害を具体的に説明して賃金から弁償するよう求め,原告はこれを承諾し,原告と被告会社との間に賃金債権と損害賠償請求権とを相殺する旨の口頭の合意が成立した。原告は,その頃,他の運送業者への採用が決まっており,被告会社に戻る必要がなかったにもかかわらず,賃金から損害を弁償することを承知で被告会社に戻ったのであるから,相殺の合 意は真に自由な意思によってなされたものであることが明らかである。 エ社員寮の風呂代の控除(別紙A3⑧欄関係)被告会社は,入社時,原告に対し,社員寮の入寮者は風呂代として月額2000円を納めなければならず,これを毎月の賃金から控除すると説明し,原告はこれを承諾して入寮したから,原告と被告会社との間で,毎月の賃金から風呂代2000円を控除(相殺)する旨の合意が成立した。 オ互助会費の控除(別紙A3⑧欄関係)被告会社は,冠婚葬祭の祝金,慶弔費及び入院時の見舞金を支給するために従業員により構成される互助会を運営しているところ,原告は,入社時に説明を受けて同会に加入し,その自由な意思に基づいて毎月の賃金から互助会費600円を控除(相殺)する旨を合意した。 なお,被告会社は,互助会の規程(乙18)を従業員が点呼の際に立ち寄る場所に備え置き,自由に閲覧できるようにしていた。 カ滞納していた税金及び生命保険料の原資の控除の残金(別紙A3⑧欄関係)被告会社と原告は,原告が滞納していた税金及び生命保険料を,原告に 代わって被告会社が支払うこととし,その支払原資に充てるため,被告会社が原告の賃金から一定額を控除することを合意していた。被告会社は,同控除金から原告が滞納していた税金等を支払い,残金は原告に現金で返還した。 社が支払うこととし,その支払原資に充てるため,被告会社が原告の賃金から一定額を控除することを合意していた。被告会社は,同控除金から原告が滞納していた税金等を支払い,残金は原告に現金で返還した。 【原告の主張】 ア本件各賃金控除は,本件就業規則等に定めがなく,控除協定(本件賃金規程5条2項)も作成されていないから,就業規則の最低基準効(労契法12条)及び賃金全額払の原則(労基法24条)に反し,原則として違法無効である。 イ退職積立金の控除について 被告会社は中小企業退職金共済制度に加入しているところ,その契約当 事者は,事業主と独立行政法人勤労者退職金共済機構であって,掛金は全額事業主が負担することとされており,従業員に負担させることはできないから,その掛金合計8万円を退職積立金として控除することはできない。 ウ 「仮合計」からの3パーセント又は5パーセントの控除について3パーセント又は5パーセントの控除は,これに相当する反対債権は存 在しないから,賃金放棄と解すべきである。そして,かかる控除(賃金放棄)については,原告の利益にならず,放棄に関する書面も作成されていないことから,客観的合理的な理由は認められず,また,原告の自由な意思に基づくものともいえないから,平成25年1月締日分ないし平成26年3月締日分の合計16万8049円の控除は許されない。 エ損害賠償金の控除について原告は,被告会社から損害額の内訳や総額について書面を示されておらず,合意を証する書面もないから,原告の自由意思により,客観的合理的理由に基づいて意思表示がされたとはいえず,相殺合意がされたものとは認められない。 また,被告らが主張する損害のうち,①代替運転手を確保できずにキャ ら,原告の自由意思により,客観的合理的理由に基づいて意思表示がされたとはいえず,相殺合意がされたものとは認められない。 また,被告らが主張する損害のうち,①代替運転手を確保できずにキャンセルした路線については,受注金額から高速道路費,燃料費,人件費等の費用を控除する必要があるし,②増便の中止についても,本件失踪1に起因することを裏付ける証拠はない。 使用者の労働者に対する損害賠償請求は損害の公平な負担という見地か ら信義則上相当と認められる限度に制限されるところ,貨物運送業の性質上,交通事故,運転手の急病等による欠便は一定の確率で発生するものであって,使用者は代替運転手を確保するなどして欠便に備えておくべきである一方,本件失踪1は,原告が被告会社の違法な長時間過密労働や被告Dのパワハラという過酷な労働環境からの脱出を図って起こったもので あるから,被告会社の損害について,信義則上原告が負担すべきものは存 在しない。 オ互助会費及び風呂代の控除について互助会費及び風呂代を賃金から控除ないし相殺する旨の合意を証する書面はなく,原告の自由意思に基づき,客観的合理的理由に基づいて合意がされたともいえないから,互助会費及び風呂代の控除ないし相殺する旨 の合意がされたものとは認められない。なお,被告会社が互助会の規程であるとする書面(乙18)は,作成日が原告の就労が終了した後の平成27年8月1日である上,会費の額も,実際に原告が控除された月額600円とは異なり,月額500円としているから,証拠価値はない。 カ滞納していた税金及び生命保険料の原資の控除の残金について 原告が滞納していた税金及び生命保険料について,被告会社が控除した金員から支払をしたものがあったことは認め 価値はない。 カ滞納していた税金及び生命保険料の原資の控除の残金について 原告が滞納していた税金及び生命保険料について,被告会社が控除した金員から支払をしたものがあったことは認める。 しかし,支払後の残金については,原告は被告会社から返還を受けていない。 キ被告会社が違法に控除した金額(原告が滞納していた税金及び生命保険 料について,被告会社が支払った額を除く。)は,別紙A3の⑦ないし⑩の合計欄記載のとおりとなる。 ⑸ 被告会社の原告に対する未払賃金の額(争点5)【原告の主張】別紙A3のとおり,被告会社の原告に対する未払割増賃金は783万28 80円,違法な本件各賃金控除に係る未払賃金は146万4269円である。 【被告らの主張】争う。 ⑹ 賃金未払に関する被告Cの損害賠償責任の有無(争点6)【原告の主張】 取締役の任務には,会社経営上直面することが不可避な労基法の遵守が含 まれるところ,被告会社の代表取締役である被告Cが,悪意又は重過失により任務を懈怠した結果,労基法に違反して未払賃金が生じ,原告に損害を与えたと評価できるから,被告Cは会社法429条1項又は民法709条により損害賠償責任を負う。そして,被告Cの損害賠償責任は,会社法350条又は民法719条1項前段により,被告会社の債務と不真正連帯債務の関係 にある。なお,会社法429条1項は,補充性を要件としていないから,被告会社の資産減少等とは無関係に任務懈怠と損害との間の因果関係が認められる。 【被告Cの主張】被告会社の原告に対する未払賃金の支払義務が認容されれば,被告会社は 同支払義務を履行して原告の損害は回復されるから,被告Cの任務懈怠と損害との間には相当因果関 れる。 【被告Cの主張】被告会社の原告に対する未払賃金の支払義務が認容されれば,被告会社は 同支払義務を履行して原告の損害は回復されるから,被告Cの任務懈怠と損害との間には相当因果関係がない。 ⑺ 賃金未払に関する被告Dの損害賠償責任の有無(争点7)【原告の主張】被告Dは,①配偶者である被告Cが被告会社の代表取締役に就任している こと,②従業員に対する賃金額等の決定権限を有し,運転手の帰社時刻を監視し,被告会社のブログ作成等の日常的業務の指揮命令を行っていたこと,③原告が被告会社に復帰することを最終決定しており,実質的な採用の決定権限を有していたこと,④対外的に「株式会社Bグループ代表取締役CEO」と称し,代表者の肩書を使用していること,⑤被告会社内において,役員か らも「社長」と呼ばれ,経営の重要事項につき采配を振るっていたことから,被告会社の業務の運営,執行について,取締役に匹敵する権限を有し,内部的にも対外的にもこれに準じる活動を行っていたといえる。 したがって,被告Dは,被告会社の事実上の取締役として,被告Cと同じく,会社法429条1項類推適用又は民法709条により,被告会社の賃金 未払について損害賠償責任を負う。そして,被告Dの損害賠償債務は,会社 法350条類推適用又は民法719条1項前段により,被告会社の債務と不真正連帯債務の関係にある。 【被告Dの主張】被告会社は,E専務及びF常務によって運営されており,経営の重要事項も同人らが中心となって決めているから,運送業の経験のない被告Dに実質 的な関与はできない。また,被告Cは,形骸化した取締役ではなく,被告会社の代表者として対外的に活動していたのであって,被告Dが実質的に被告会社の代表者としての役目を担っていた ない被告Dに実質 的な関与はできない。また,被告Cは,形骸化した取締役ではなく,被告会社の代表者として対外的に活動していたのであって,被告Dが実質的に被告会社の代表者としての役目を担っていたとはいえない。以上によれば,被告Dが事実上の取締役として損害賠償責任を負うことはない。 仮に被告Dが事実上の取締役に当たるとしても,その任務懈怠と原告の損 害との間には相当因果関係がない。 ⑻ 付加金支払の要否(争点8)【原告の主張】被告会社は,①タイムカードなど客観的方法による労働時間管理把握義務を懈怠していたこと,②原告を三六協定や過労死基準を超える長時間労働に 恒常的に従事させたこと,③割増賃金を一切支払っていないこと,④賃金から違法な控除をしていたこと,⑤違法に原告の貯蓄金を管理していたこと,⑥実質的な代表者であった被告Dがパワハラを繰り返していたこと,⑦労働契約書を作成せず,本件就業規則等を作成しながら原告には適用されないなどという,法令の趣旨及び労働契約上の信義則(労契法3条4項)に反する 主張を行っていることから,被告会社による賃金未払は悪質であり,付加金の支払を免れない。 【被告会社の主張】争う。被告会社は,割増賃金の計算に必要な保管資料を全て開示し,法的に適切な主張をして争っており,原告の権利実現を妨害しようとしているも のではないから,付加金を課すべき理由はない。 ⑼ 原告に対するパワハラ行為の有無並びに被告D及び被告会社の損害賠償責任の有無(争点9)【原告の主張】ア被告Dは,平成25年春頃,原告に対し,「お前の給料はいつでも下げられるんだ。」と脅し,木製バットで殴打して,原告から同人名義の銀行預金 口座の通帳,キャッシュカード及び届出印を取り上げ,同年10月 Dは,平成25年春頃,原告に対し,「お前の給料はいつでも下げられるんだ。」と脅し,木製バットで殴打して,原告から同人名義の銀行預金 口座の通帳,キャッシュカード及び届出印を取り上げ,同年10月頃,キャッシュカードのみ返還したものの,通帳及び届出印は保管し続けた。原告が被告Dに対して通帳や届出印等の返還を求めると,同被告に反抗したとして,その配下にある従業員に責められるから,返還を求めることはできなかった。 イ平成25年6月30日頃,原告が大分に配送した際の帰路において,汗を流すために短時間温泉に入ったところ,被告Dは,原告の帰社が遅れたことに腹を立て,原告の頭頂部及び前髪を刈り,落ち武者風の髪型にした上,洗車用スポンジで原告の頭部を洗髪し,最終的に原告を丸刈りにした。 その上,被告Dは,原告に対し,下着一枚になるように命じ,洗車用の高 圧洗浄機を至近距離から原告の身体に向けて噴射し,洗車用ブラシで原告の体を洗った。 ウ被告Dは,平成25年9月16日,社員旅行から帰った後,被告会社本店において,原告に対し,車内からロケット花火を持ってくるように命じた上,下着一枚になって裏の川に入るように命じた。そして,被告Dは, 他の従業員に対し,当てたら賞金を与えるとして原告に向けてロケット花火を発射するように命じ,従業員をして,至近距離からロケット花火を原告に向けて発射させ,逃げ出した原告に対して石を投げさせた。 エ原告は,平成25年9月28日,被告会社でのいじめに耐えかねて被告会社から逃亡したものの(本件失踪1),同月分の給与が振り込まれていな かったことから所持金がわずかとなって困窮し,同年10月4日又は5日 にやむなく被告会社に戻った。その際,原告は,F常務から,被告会社に戻りたければ丸坊主 の給与が振り込まれていな かったことから所持金がわずかとなって困窮し,同年10月4日又は5日 にやむなく被告会社に戻った。その際,原告は,F常務から,被告会社に戻りたければ丸坊主にして被告Dに土下座するようにと求められた。原告はこれに従うしかなく,被告Dは原告に土下座で謝罪させた。 なお,原告は,被告Dの面前で採用面接を受けていた会社から合格の電話を受けたが,被告Dから詰問を受けて入社を辞退せざるを得なくなった。 オ被告Dは,前記イないしエに関し,被告会社のブログに原告が丸刈りにされ,土下座している写真等とコメントを掲載し,不特定多数が閲覧できるような状態とした。このブログは,被告会社のホームページにリンクされ,「HグループのCEODのひとりごと」とのタイトルで公開されているものであるから,被告Dが関与していることは明らかである。 カ以上の被告Dの行為は,いずれも原告の尊厳を踏みにじる行為であるが,前記アについては,被告会社が原告の預金口座を管理するものとして犯罪行為に当たり(労基法18条1項,119条1号),前記イ及びウの行為については身体に対する危険がある行為であって,いずれも不法行為に当たる。 被告Dは,民法709条に基づき,被告会社は会社法350条の類推適用により,前記各不法行為について損害賠償責任を負う。そして,前記各不法行為により原告が受けた精神的苦痛に対する慰謝料は150万円を下らない。また,弁護士費用として15万円が前記各不法行為と相当因果関係のある損害である。 【被告会社及び被告Dの主張】ア被告Dは,原告の預金口座に関するやり取りに関わっていない。原告は,本件訴訟を提起するまで,被告Dがバットにより殴打したなどと主張したこともなかった。また,原告は, 被告会社及び被告Dの主張】ア被告Dは,原告の預金口座に関するやり取りに関わっていない。原告は,本件訴訟を提起するまで,被告Dがバットにより殴打したなどと主張したこともなかった。また,原告は,貴重品を自己管理することができず,自ら被告会社に対し,通帳及び預金通帳を預けたが,キャッシュカードは自 らが所持していた上,E専務に対し,いつでも貴重品の返還を求めること ができた。このような場合,労基法18条1項に該当するからといって,直ちにパワハラとして不法行為が成立するとはいえない。 イ平成25年4月,頭皮に皮膚病を持つ従業員が被告会社に入社し,原告と同じ社員寮に入寮したところ,パンチパーマにしていた原告の頭部に皮膚病に似た症状が現れたため,原告に前記従業員の皮膚病が移ったのでは ないかとの疑いが生じた。そこで,原告は,同僚に相談し,丸刈りにしてもらったのである。原告が指摘する写真(甲11の1)はその際に撮影されたものであって,原告が温泉から戻った際のものではないし,被告Dは丸刈り等に関与していない。 ウ原告は,社員旅行から被告会社に帰った際,同僚に対し,花火で戦争ご っこをしようと言い出し,トラックから花火を取り出した。そこで,被告D及び被告会社の管理職が,火薬類を許可なくトラックに載せていたことについて原告を叱責したところ,原告が逃げ出したことから,従業員が原告に対し,ロケット花火を打ったのである。このように,原告は,自ら遊びを持ちかけて花火の標的となることを想定していた一方,被告Dは,花 火を発射していないし,これを命じてもいない。 エ原告は,本件失踪1の後,職場放棄したことを悔いて,自ら丸刈りにして被告会社に現われ,再雇用を求めて自ら土下座をしたのであり,被告Dが丸刈り及び土下座を強要 ていないし,これを命じてもいない。 エ原告は,本件失踪1の後,職場放棄したことを悔いて,自ら丸刈りにして被告会社に現われ,再雇用を求めて自ら土下座をしたのであり,被告Dが丸刈り及び土下座を強要したのではない。原告は,失踪中に22万円の預金を下ろし,風俗店で消費するなど経済的に困窮していなかったし,原 告は他の運送業者の採用面接に合格していたから,パワハラを受けていたのであれば,再雇用を求めることもない。 オ原告の写真が掲載されたブログは,被告会社の従業員が撮りためた写真を利用するなどして,社内の出来事を日記風にして記載するものであり,誹謗中傷を目的とするものではないし,被告Dはこれに関与していない。 また,原告は前記写真の存在を知らなかったから,精神的苦痛を受けるこ ともない。 3 丙事件の争点及び争点に対する当事者の主張(丙事件関係)⑴ 原告の本件失踪1に関する損害賠償責任の有無(争点10)【被告会社の主張】原告は,被告会社から平成25年9月28日(須恵センターから中部ハブ センターまでの路線。受注金額9万2480円。以下「路線①」という。)及び同月30日(港営業所から北九州センターまでの路線。以下「路線②」という。)の運送業務を指示されていたにもかかわらず,同月28日,一旦乗り込んだ車を放置して失踪し(本件失踪1),前記業務を無断で履行しなかった。 本件失踪1による業務放棄により,原告が担当していた路線①がキャンセル となり,路線②を他の従業員に担当させたことで,同人が担当するはずであった路線(同月30日の住之江営業所から北九州センターまでの路線。受注金額9万1170円。以下「路線③」という。)がキャンセルとなったため,被告会社は路線①及び③の受注金額から高速道路費,燃料費,人 った路線(同月30日の住之江営業所から北九州センターまでの路線。受注金額9万1170円。以下「路線③」という。)がキャンセルとなったため,被告会社は路線①及び③の受注金額から高速道路費,燃料費,人件費等を控除した額に相当する6万0022円(路線①につき2万1640円,路線③ につき3万8382円)の損害を被った。 したがって,原告は,被告会社に対し,不法行為又は債務不履行に基づき,6万0022円の損害を賠償すべき義務を負う。 【原告の主張】原告は,被告会社から路線①及び②の運送業務を指示されていたが,あま りの過重労働やパワハラに耐えかね,緊急避難的にやむなく逃亡した(本件失踪1)ものであるから,不法行為責任も債務不履行責任も負わない。 ⑵ 原告の本件失踪2に関する損害賠償責任の有無(争点11)【被告会社の主張】ア原告は,被告会社から平成26年3月7日(川崎南営業所から西日本ハ ブセンターまでの路線。受注金額8万6270円。以下「路線④」という。) 及び同月8日(西日本ハブセンターから北九州センターまでの路線。受注金額8万5930円。以下「路線⑤」という。)の運送業務を指示されていたにもかかわらず,いずれの路線の点呼時間に連絡もせず,かつ,指示された接車時刻に各営業所に現れずに失踪し(本件失踪2),前記業務を無断で放棄した。本件失踪2による業務放棄により,原告が担当していた路線 ④及び⑤がキャンセルとなったため,被告会社は路線④及び⑤の受注金額から高速道路費,燃料費,人件費等を控除した額に相当する6万2587円(路線④につき2万9504円,路線⑤につき3万3083円)の損害を被った。 イ被告会社は,原告の本件失踪2により,G社から減便を強いられ,平成 費等を控除した額に相当する6万2587円(路線④につき2万9504円,路線⑤につき3万3083円)の損害を被った。 イ被告会社は,原告の本件失踪2により,G社から減便を強いられ,平成 26年3月21日以降,深江営業所から大阪鶴見営業所までの路線(受注金額1万5380円。以下「路線⑥」という。),新庄センターから姫路営業所までの路線(受注金額2万3680円。以下「路線⑦」という。),東神戸店から鴻池センターまでの路線(受注金額1万6690円。以下「路線⑧」という。)及び鴻池センターからたつの営業所までの路線(受注金額 2万5950円。以下「路線⑨」という。)を受注できなくなり,その影響は少なくとも同年6月20日まで継続した。したがって,被告会社の減便による損害額は以下のとおり217万5026円となる。 路線⑥:9151円(1回当たりの損害額)×62日(配車日である月曜日から金曜日までの合計日数)=56万7362円 路線⑦:9874円(1回当たりの損害額)×62日(配車日である月曜日から金曜日までの合計日数)=61万2188円路線⑧:7176円(1回当たりの損害額)×62日(配車日である月曜日から金曜日までの合計日数)=44万4912円路線⑨:1万1236円(1回当たりの損害額)×49日(配車日であ る月曜日から木曜日までの合計日数)=55万0564円 ウよって,原告は,被告会社に対し,不法行為又は債務不履行に基づき,前記ア及びイの合計223万7613円の損害を賠償すべき義務を負う。 【原告の主張】ア路線④及び⑤について原告は,平成26年2月下旬にF常務に退職の意思を伝え,数日後には 被告会社宛に退職届を郵送した後,退職届の発送からある程度時間が経過し 【原告の主張】ア路線④及び⑤について原告は,平成26年2月下旬にF常務に退職の意思を伝え,数日後には 被告会社宛に退職届を郵送した後,退職届の発送からある程度時間が経過したのを見計らって,同年3月6日の業務終了後にトラックの鍵を被告会社宛に発送している。そのため,原告は遅くとも同年3月6日までに被告会社を退職しており,路線④及び⑤に従事する義務を負わないから,不法行為責任も債務不履行責任も負わない。 イ路線⑥ないし⑨について原告は路線④及び⑤に従事する義務を負っていない。また,それまでにも,被告会社では,運転手の逃亡等で運送不能に陥ったことがあったが,これを理由として減便されたことはない。 第3 当裁判所の判断 1 争点1(原告の実労働時間)について⑴ 休憩時間被告らは,別紙B記載のとおり,原告は回送運行中に休憩を取った旨主張する。 そこで検討するに,回送運行中のタコグラフ(甲10)のうち,別紙C1 記載の時間帯は,10分間から数時間にわたって走行が全くなかったことが記録されており,その一部には駐車(Parking)を意味すると思われる「P」や仮眠(Zzz...)を意味すると思われる「Z」との記載もある。さらに,証拠(証人F(9頁))によれば,回送運行は,積荷を降ろした後の走行であって,翌日の点呼の時間までに車庫に帰着していれば足り,被告会社は労働時 間として管理していなかったことが認められる。これらの事情に照らすと, 別紙C1記載の時間帯は,原告が被告会社からの指示を待っていた手待ち時間であったとはいえず,休憩時間であったと認めるのが相当である。 したがって,別紙C1記載の時間帯は,労働時間として管理されていた積荷の運送業務中の休 ,原告が被告会社からの指示を待っていた手待ち時間であったとはいえず,休憩時間であったと認めるのが相当である。 したがって,別紙C1記載の時間帯は,労働時間として管理されていた積荷の運送業務中の休憩時間(各日2時間20分)とは別に,実労働時間から控除されるべきである。 なお,被告らが回送運行中の休憩時間として主張する時間帯(別紙B)のうち,別紙C1記載の時間帯を除く部分は,タコグラフ(甲10)によれば停車していなかったと認められるから,休憩時間とは認められない。 ⑵ 平成26年2月14日から同月16日までの実労働時間証拠(甲8の4,9,10の5,22,31,原告)によれば,原告は, 平成26年2月14日から同月16日午後9時50分まで,概ね原告の主張イのとおりの経過で業務に従事していたものと認められる。そうすると,この間の指示待ち待機の時間帯は,被告会社や同社の指示によってG社から命じられれば直ちに出発できるように車内で待機していたもので,被告会社の指揮監督下にあったものといえるから,これも含めた全ての時間帯が労働時 間と認められる。 ⑶ 小括以上によれば,原告の始業時刻,終業時刻,休憩時間,実労働時間,法定時間外労働時間及び深夜労働時間は,別紙C2のとおりと認められる。 2 争点2(割増賃金の算定方法)について ⑴ 日給月給制を前提とすることの当否についてア本件就業規則等の適用の有無使用者と労働者が労働契約を締結する際,合理的な労働条件が定められた就業規則が周知されていた場合,これと異なる労働条件の合意がない限り,就業規則に定められた労働条件が適用される(労契法7条)。 本件就業規則は,「会社に勤務するすべての従業員に適用する。ただし, パート 場合,これと異なる労働条件の合意がない限り,就業規則に定められた労働条件が適用される(労契法7条)。 本件就業規則は,「会社に勤務するすべての従業員に適用する。ただし, パートタイマー等就業形態が特殊な勤務に従事する者について,その者に適用する特別の定めをした場合はその定めによる。」(乙1・2条)と定めており,長距離トラック運転手について「特別の定め」はないから,文言上,長距離トラック運転手にも適用されるものとなっている。そして,本件就業規則等の内容は,労基法に反する部分があるともうかがわれず,所 定の労働条件は,長距離トラック運転手である労働者に適用しても不利益をもたらすものとは解されない。そうすると,本件就業規則等は,長距離トラック運転手にも適用される就業規則であって合理的な労働条件を定めるものであるから,原告と被告会社が本件就業規則等とは異なる労働条件を合意したものと認められない限り,本件労働契約の内容となるもので あり,したがって,原告には本件賃金規程の定める日給月給制が適用されるというべきである。 この点,被告らは,本件就業規則等の作成当時,被告会社は長距離トラック運送業を行っておらず,土木従業員の固定給が想定されていたため,賃金算定の前提となる始業・終業時刻や休日の定めが労働実態と合わず, 賃金算定の方法も現実とかい離しているから,「合理的な労働条件が定められている就業規則」とはいえないと主張する。しかし,本件就業規則等の定める労働条件が合理的なものといえることは上記のとおりであり,就労や賃金支払の実態とかい離しているからといって,就業規則としての合理性が失われるわけではない。そもそも,就業規則の契約内容規律効を認め る前提として,合理的な労働条件であることが求められる趣 や賃金支払の実態とかい離しているからといって,就業規則としての合理性が失われるわけではない。そもそも,就業規則の契約内容規律効を認め る前提として,合理的な労働条件であることが求められる趣旨は,就業規則が,労働契約は労使の対等な立場における合意に基づいて締結及び変更されるとする原則(労契法3条1項)によらず労働者を拘束するものであるため,その拘束力を制限して労働者の権利を保護することにあり,個別の合意によることなく労働者の労働条件を規律すべく,就業規則を定めた 使用者において,労働者との個別の合意がないにもかかわらず,就業規則 が合理的な労働条件ではないことを理由として,自らその拘束力を否定するのは禁反言の法理に反するというべきである(民法1条2項)。したがって,原告において,日給月給制を定める本件賃金規程が合理的な労働条件であることを否定せず,自らに適用されると主張する場合,被告らにおいて,原告への本件賃金規程の適用を否定することは許されない。 イ前記アのとおり原告には本件就業規則等が適用されるから,仮に被告らが主張するように,本件就業規則等と異なる労働条件の合意が存したとしても,その内容が本件就業規則等よりも原告に有利なものでない限り,当該合意は無効である(労契法12条)。そして,被告ら主張の出来高払制が本件就業規則等よりも原告に有利なものであることを認めるに足りる証拠 はない(被告ら主張の出来高払制では,各日に担当する運送業務の総労働時間に対する賃金は路線単価によって支払済みとされ,基礎賃金の0.25倍の時間外割増賃金(労基規則19条1項6号)等の支払の有無が問題となるのみである。他方,本件賃金規程では1.25以上の割増率が定められており,被告ら主張の出来高払制よりも労働者に有利なものと 5倍の時間外割増賃金(労基規則19条1項6号)等の支払の有無が問題となるのみである。他方,本件賃金規程では1.25以上の割増率が定められており,被告ら主張の出来高払制よりも労働者に有利なものといえ る。)。したがって,仮に被告らが主張するような本件就業規則等と異なる労働条件の合意があったとしても,就業規則の最低基準効に反して無効であるといわざるを得ない。 ⑵ 割増賃金の算定基礎前記⑴のとおり,原告の賃金は日給月給制であるから,割増賃金の算定基 礎は労基規則19条1項4号に基づいて算定される。 そして,各月の賃金について,前提事実⑸のとおり,各日に担当した路線単価の合計額から本件各賃金控除がなされているが,後記4のとおり同控除はいずれも違法なものであるから,路線単価の合計額である別紙C3の「仮合計」欄記載の金額を基準に算定するべきである。 また,各月における所定労働時間は,1日8時間,週40時間を上限とし, 休日は,本件就業規則のとおり,日曜日,国民の祝日,盆休み(8月13日~16日)及び正月(12月31日~1月4日)(乙1・10条)として算定すると,別紙C3の「所定労働時間」欄のとおりであり,月平均所定労働時間数は168時間(2856時間÷17か月)となるが(所定労働日数が1か月に満たない平成26年2月21日から同年3月6日までの期間を除 く。),原告が主張し,被告に有利な173.8時間とする。 以上によれば,各月における原告の基礎賃金の額は,別紙C3の「算定基礎」欄のとおりとなる。ただし,平成25年5月21日から同年6月20日までの期間は,当時の福岡県の最低賃金である時給712円に満たないことになるため,同金額による。 3 争点3(深夜割増 礎」欄のとおりとなる。ただし,平成25年5月21日から同年6月20日までの期間は,当時の福岡県の最低賃金である時給712円に満たないことになるため,同金額による。 3 争点3(深夜割増賃金支払の要否)について被告らは,基本給に深夜労働に対する割増賃金を含めるとの合意が成立していた旨主張する。 しかし,基本給に深夜労働等の割増賃金が含まれていると認めるには,通常の労働時間の賃金に当たる部分と深夜等の割増賃金に当たる部分とが判別でき ることが必要となるところ(最高裁平成6年6月13日第二小法廷判決・集民172号673頁),原告に交付されていた給与明細(甲7)にはそのような判別ができる記載はない。また,証拠(甲8,乙14)によれば,路線には深夜労働時間帯(午後10時~午前5時)が含まれるものとそうでないものがあり,同一の路線でも日ごとに深夜労働時間が異なったりするにもかかわらず,路線 単価を決定するについて,深夜労働の有無や長さを厳密に検討することはされていないことが認められる。 そうすると,基本給に深夜労働に対する割増賃金を含むとの合意が成立していたとは認められないから,被告会社は,原告に対し,基本給とは別に深夜割増賃金を支払わなければならない。 4 争点4(本件各賃金控除の適法性)について ⑴ 控除の合意の有無被告らは,原告と被告会社との間で本件各賃金控除の合意があったと主張するところ,そのような賃金全額払の原則(労基法24条)の例外となる合意が有効であると認められるためには,労働者の自由な意思に基づいてされたものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在することが必要となる (最高裁昭和48年1月19日第二小法廷判決・民集27巻1号27頁)。 以上を前提に,以下 労働者の自由な意思に基づいてされたものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在することが必要となる (最高裁昭和48年1月19日第二小法廷判決・民集27巻1号27頁)。 以上を前提に,以下,控除項目ごとに,前記の有効と認められるための要件を備えた合意の有無及び有効性について検討する。 ア退職積立金の控除F常務の陳述書(乙30)及び証人尋問における供述(31頁)には, 月1万円の退職積立金を賃金から控除することについて,原告ら従業員が入社する際に説明して合意した旨の,被告ら主張に沿う部分がある。 しかし,証拠(甲23)及び弁論の全趣旨によれば,退職積立金として控除された金員は中小企業退職金共済制度の掛金に充てられるものとされていたところ,そもそも同制度では掛金を従業員に負担させることを禁 止していることが認められるから,控除することに合理的な根拠があったとはいえない。そうすると,退職積立金について説明を受けていない旨の原告の本人尋問における供述(5頁)にも照らし,前記の被告ら主張に沿う証拠によっても,退職積立金を賃金から控除することについて前記の有効と認められるための要件を備えた合意がされたと認めるには足りない というべきであり,他にそのような合意がされたと認めるに足りる証拠はない。 イ 「仮合計」からの3パーセント又は5パーセントの控除F常務の陳述書(乙30)及び証人尋問における供述(20~21頁)には,被告会社では,長距離トラック運転手から勤務年数によって賃金に 差をつけるよう申し出があったため,勤務年数が1年以内の者について 「仮合計」の5パーセント,勤務年数が3年以内の者について「仮合計」の3パーセントを控除していたものであり,F常務は本件労働 をつけるよう申し出があったため,勤務年数が1年以内の者について 「仮合計」の5パーセント,勤務年数が3年以内の者について「仮合計」の3パーセントを控除していたものであり,F常務は本件労働契約の締結に際し,そのことを原告に説明して合意した旨の,被告ら主張に沿う部分がある。 しかし,このような控除は原告に経済的利益がなく,合意の存在を裏付 ける書面等もないから,前記の被告ら主張に沿う証拠は,反対趣旨の原告の供述(6頁)に照らしてたやすく採用できず,他に被告ら主張の合意があったと認めるに足りる証拠はない。 ウ損害賠償金の控除E専務の陳述書(乙31)及び証人尋問における供述(21~22頁) には,被告会社では,従業員が不注意で交通事故を起こして被告会社に損害が生じた場合には,当該従業員の承諾の下,賃金から損害賠償金を分割して控除しており,原告との間でも,本件失踪1によって生じた被告会社の損害について,その承諾を得た上で賃金から控除していた旨の,被告ら主張に沿う部分がある。 しかし,そのような合意の存在を裏付ける書面等はないから,前記の被告ら主張に沿う証拠は,反対趣旨の原告の陳述書(甲31)に照らしてたやすく採用できず,他に被告ら主張の合意があったと認めるに足りる証拠はない。 エ社員寮の風呂代の控除 E専務の陳述書(乙31)及び証人尋問における供述には,入社時に社員寮の風呂代として毎月2000円を賃金から控除することを原告に説明し,その承諾を得ている旨の,被告ら主張に沿う部分がある。 しかし,そのような合意の存在を裏付ける書面等はないから,前記の被告ら主張に沿う証拠は,反対趣旨の原告の陳述書(甲31)に照らしてた やすく採用できず,他に被告ら主張の合意が う部分がある。 しかし,そのような合意の存在を裏付ける書面等はないから,前記の被告ら主張に沿う証拠は,反対趣旨の原告の陳述書(甲31)に照らしてた やすく採用できず,他に被告ら主張の合意があったと認めるに足りる証拠 はない。 オ互助会費の控除E専務の陳述書(乙31)及び証人尋問における供述には,入社時に互助会費として毎月600円を賃金から控除することを原告に説明し,その承諾を得ている旨の,被告ら主張に沿う部分がある。 しかし,そのような合意の存在を裏付ける書面等はないから,前記の被告ら主張に沿う証拠は,反対趣旨の原告の陳述書(甲31)に照らしてたやすく採用できず,他に被告ら主張の合意があったと認めるに足りる証拠はない。 カ滞納していた税金及び生命保険料の原資の控除の残金について 被告らは,原告が滞納していた税金及び生命保険料を支払った後の残金を原告に返還した旨主張し,E専務の陳述書(乙31)及び証言にはこれに沿う部分がある。 しかし,E専務の上記供述は,裏付けとなる客観的な証拠が全くないからたやすく採用できず,他に同事実を認めるに足りる証拠はない。したが って,被告会社は,原告に対し,同残金の支払義務を負う。 ⑵ 以上によれば,本件各賃金控除に係る合意があったとは認められないから,被告会社は,原告に対し,本件各賃金控除相当額すなわち別紙A3の⑦ないし⑩の合計欄の金額合計146万4269円について,未払賃金として支払う義務を負う。 5 争点5(被告会社の原告に対する未払賃金の額)前記1ないし4で説示したところによれば,被告会社の原告に対する未払賃金の額は,別紙C3のとおり,割増賃金について756万1092円,本件各賃金控除に係る未払 社の原告に対する未払賃金の額)前記1ないし4で説示したところによれば,被告会社の原告に対する未払賃金の額は,別紙C3のとおり,割増賃金について756万1092円,本件各賃金控除に係る未払賃金について146万4269円であり,合計902万5361円となり,被告会社は原告に対して同金額を支払う義務を負う。 そして,証拠(証人F(15~16頁))によれば,原告は遅くとも平成26 年3月8日に被告会社を退職する旨をF常務に伝えたことが認められるから,同日から2週間(民法627条1項)の経過により,本件労働契約は終了したものと認められる。したがって,被告会社は,原告に対し,前記未払賃金について,別紙C4のとおり,各支払期日(最終のものを除く。)の翌日から最終の支払期日である平成26年4月5日まで年6パーセントの割合による遅延損害 金34万5468円及び同月6日から支払済みまで年14.6パーセントの割合による遅延損害金を支払う義務を負う 6 争点6(賃金未払に関する被告Cの損害賠償責任の有無)について前記1ないし5で認定,説示したところによれば,被告会社は,原告に対し,賃金の全額を支払う義務を負うことはもちろん,本件就業規則等に従って,原 告の時間外・深夜労働時間を正確に把握した上,その時間数に応じた割増賃金を算定して,これを原告に支払う義務を負っていたにもかかわらず,これらを怠っているものである。そして,被告Cは,被告会社の代表取締役として,従業員の賃金から不当な控除がされないよう監督する任務を負うことはもちろん,従業員の時間外・深夜労働時間を正確に把握できるよう体制を整えた上, その時間数に応じた割増賃金が従業員に確実に支払われるよう,被告会社内部の制度を構築し,実施する任務を負っていたにも ろん,従業員の時間外・深夜労働時間を正確に把握できるよう体制を整えた上, その時間数に応じた割増賃金が従業員に確実に支払われるよう,被告会社内部の制度を構築し,実施する任務を負っていたにもかかわらず,これらを懈怠したものであり,その結果,前記のとおり被告会社が原告に対する賃金及び割増賃金の支払義務の履行を怠ることとなったものといえる。 しかし,賃金全額が支払われるよう監督する任務についていえば,本件各賃 金控除は,仮に原告と被告会社との間で有効に合意がされていれば違法,不当とはいえないものである。そして,原告が滞納していた税金及び生命保険料を被告会社が支払うための控除のように原告との有効な合意によるものを含んでいたものである。また,社員寮の風呂代,互助会費及び損害賠償分のように,被告会社が原告に別途請求することは可能と解されるものもあり,これらにつ いては,被告会社として控除合意の成立を期待してもおかしくはない。また, 「仮合計」からの3パーセント又は5パーセントの控除については,被告会社が出来高払制を主張していることに鑑みると,被告会社内部においては,歩合給を算出する過程で一定の係数処理を行う趣旨でなされていたものと位置付けることも可能と思われる。そして,弁論の全趣旨によれば,原告は在職中に本件各賃金控除に係る金員について被告会社に支払を求めたことは特になかった ことが認められる。以上の事情に照らすと,被告Cにおいて,本件各賃金控除について原告との合意が有効にされていると誤信しても無理からぬ状況があったといえる。したがって,賃金全額が支払われるよう監督する任務の懈怠について,被告Cに過失があったとはにわかに認め難いというべきである。 また,割増賃金が従業員に支払われるよう制度を構築し,実施する任務 いえる。したがって,賃金全額が支払われるよう監督する任務の懈怠について,被告Cに過失があったとはにわかに認め難いというべきである。 また,割増賃金が従業員に支払われるよう制度を構築し,実施する任務につ いては,証拠(乙14,証人F(3~7頁))によれば,路線単価は概ね運行距離が長くなるほど金額が増すように設定されていたことが認められるから,被告会社が実際に採用していた賃金体系は,結果的には,運行時間すなわち労働時間が長いほど賃金が増えるものとなっており,労基法及び本件就業規則等に適合する形にはなっていないにせよ,長時間労働に対し一定程度の対価を支払 う制度となっていたことは否定できない。そうすると,被告Cについては,割増賃金の支払に関し,労基法の遵守という観点からは任務懈怠があったことは否めないものの,この任務懈怠について会社法429条1項にいう重大な過失があったとまではいえないし,また,原告に対する関係で,不法行為成立の要件となる過失(民法709条にいう過失)といえるほどに程度の高い注意義務 違反が存したともいえない。 以上のとおりであるから,被告Cは,被告会社の原告に対する賃金未払について損害賠償責任を負うとはいえない。 7 争点7(賃金未払に関する被告Dの損害賠償責任の有無)について⑴ 後掲の証拠によれば,次の事実が認められる。 ア原告が被告会社で就労していた当時の代表取締役は被告Cであったとこ ろ,被告Cは被告Dの妻であり,同人から命じられて代表取締役に就任したが,会合に出席するなど対外的な活動は行っていたものの,家庭内の事情から被告会社に出勤することはほとんどなく,従業員の採用や労働条件の決定に関与することはなく,F常務ら役員が被告会社の業務について相談する相手は被告Cでは 外的な活動は行っていたものの,家庭内の事情から被告会社に出勤することはほとんどなく,従業員の採用や労働条件の決定に関与することはなく,F常務ら役員が被告会社の業務について相談する相手は被告Cではなく被告Dであった。また,被告C自身,被告会 社の実情を深く把握しておらず,「BグループCEO」を名乗っていた被告Dの方が上位にあると認識していた。 (被告C本人(1~11頁))イ F常務は,被告会社の運送業部門における運転手らへの配車や業務指示を行い,基本給の基準となる路線単価を決定していたところ,路線単価の 決定は被告Dから赤字を出さない程度に売上げを従業員に還元せよとの命令に従っていた。また,採用面接は基本的に自ら又はI部長が行うが,被告Dが行うこともあった。また,被告D以外の者が面接した場合にも,採否について被告Dに相談し,同人が肯定的な意見を述べればこれに従っていた。 (証人F(1頁,6~8頁,43~44頁))ウ被告Dは,被告会社の代表取締役であったことがあるが,退任後も,F常務ら役員や原告ら従業員から「オーナー」と呼ばれたり,毎日出勤したりしており,被告D自身,代表取締役退任前と後で被告会社の物流部門との関わりがさほど変化したとの認識は有していなかった。実際にも,被告 Dは,被告会社のトラックにラッピングをするなどの広報活動や大雪の際の被告会社の運送業部門と土木工事部門の合同を指示するなどしていた。 (証人F,原告本人,被告D本人(1頁,17頁,19頁,20頁,35頁))エ被告Dは,被告会社のホームページ等で対外的に「Bグループ代表取締 役CEO」の肩書を用いており,経済誌において被告会社の経営戦略を語 っていた。 (甲13,15)⑵ 前記⑴で認定した事実によ 社のホームページ等で対外的に「Bグループ代表取締 役CEO」の肩書を用いており,経済誌において被告会社の経営戦略を語 っていた。 (甲13,15)⑵ 前記⑴で認定した事実によれば,被告Dは,代表取締役退任後も,取締役に匹敵ないしこれを上回る権限(人事権や経営権)を有していたものであり,被告会社内部においても,対外的にも代表権を有する者と認識されていたも のである。 被告Dは,被告会社がE専務及びF常務によって運営されており,経営の重要事項は同人らが中心に決めているから,運送業の経験のない被告Dに実質的な関与はできない旨供述するが,これはF常務らの運送業部門における専門的知見を尊重していることを述べたにすぎないと解され,被告Dが被告 会社の経営に実質的に関与していたことを否定するものとはいえない。 以上のとおりであるから,被告Dは,被告会社の事実上の代表取締役に当たると認められる。 しかしながら,被告Dは,事実上の代表取締役に当たるとはいえ,被告Cと同様,会社法429条1項にいう重大な過失及び民法709条にいう過失 のいずれも認めるに足りず,被告会社の原告に対する賃金未払について損害賠償責任を負うとはいえない。その理由は,前記6で被告Cについて述べたところと同様である。そして,被告会社が第三者に対して損害を与えた場合には,会社法429条1項の類推適用により,任務懈怠責任を負うと解すべきである。 8 争点8(付加金支払の要否)被告会社は,長距離トラック運転手の時間外及び深夜割増賃金は出来高払制の路線単価に含まれていると主張して,原告に対して時間外及び深夜割増賃金を一切支払っておらず,労基法37条違反の程度は大きいから,前記1ないし3で認められる,平成25年5月5日以降に支払期が到 払制の路線単価に含まれていると主張して,原告に対して時間外及び深夜割増賃金を一切支払っておらず,労基法37条違反の程度は大きいから,前記1ないし3で認められる,平成25年5月5日以降に支払期が到来した未払割増賃金(訴 えが提起された平成27年4月24日から遡って2年以内に支払期日が到来し たもの)と同額の付加金を課すべきである。 以上によれば,被告会社が支払うべき付加金は,別紙C3のとおり,494万8855円となる。 9 争点9(原告に対するパワハラ行為の有無並びに被告D及び被告会社の損害賠償責任の有無) ⑴ 原告の主張アについてア証拠(乙31,33,証人E(3~7頁),被告D本人(4~5頁,7頁))及び弁論の全趣旨によれば,原告の主張アに係る事実は後記の限度で認定することができる。原告の主張アに係る事実のうち,その余の点については,これに沿う原告の陳述書(甲31)及び本人尋問における供述は,反 対趣旨のE専務の陳述書(乙31)及び証人尋問における供述並びに被告Dの陳述書(乙33)及び本人尋問における供述に照らしてたやすく採用できず,他に同事実を認めるに足りる証拠はない。 原告が居住していた社員寮では,従前,盗難被害が生じたことがあった。 原告は,被告会社に入社した当時に所持金をほとんど持ち合わせていなかった。そのため,被告会社では,原告を社員寮に入寮させた上,衣食を与えたりするなどしていた。 また,原告は,一晩で給料を使い切ってしまうなどの浪費癖があったため,被告会社では,原告の賃金の一部を預かり,原告の生活費が不足 した際に交付したり,原告が滞納した税金を被告会社が立替払したりすることがあった。 以上のような事情があったことから,平成25年春頃,E専務は,原告ら の一部を預かり,原告の生活費が不足 した際に交付したり,原告が滞納した税金を被告会社が立替払したりすることがあった。 以上のような事情があったことから,平成25年春頃,E専務は,原告ら従業員に対して希望があれば貴重品を金庫で預かる旨告知し,これをうけて,原告は通帳等をE専務に預けた。しかし,E専務は,原告か ら申し出がある度,保管していた通帳等を原告に返還していた。 イ前記アで認定したところによれば,原告は通帳等を任意にE専務に預けていたものであり,労基法18条1項,119条1号にいう強制貯金に当たるとはいえない。 なお,被告会社は,原告から通帳等を預かるに当たり,行政官庁に届け出たり(労基法18条2項),管理に関する規程を定めたり(同条3項)し ていないが,これらが労基法違反に当たるとしても,手続的な違反にとどまるから,被告会社の預かり行為が不法行為にいう違法性を帯びることにはならないと解される。 ⑵ 原告の主張イについてア証拠(甲11の1・2,31,原告本人)及び弁論の全趣旨によれば, 次のとおり,原告の主張イに係る事実を認めることができる(原告主張事実とは,細部で異なる部分もあるが,実質的には同主張事実と同趣旨であるものと考えられる。)。 平成25年6月30日頃,原告は,大分に配送をしたが,その帰路に温泉に立ち寄ったため,帰社が遅れた。 被告Dは,原告の帰社が遅れたことに腹を立て,原告の頭頂部及び前髪を刈り,落ち武者風の髪型にした上,洗車用スポンジで原告の頭部を洗髪し,最終的に原告を丸刈りにした。 引き続いて,原告は,他の被告会社従業員から,下着姿にさせられた上,洗車用の高圧洗浄機を至近距離から身体に向けて噴射され,洗車用 ブラシで身体を洗われたが,この 終的に原告を丸刈りにした。 引き続いて,原告は,他の被告会社従業員から,下着姿にさせられた上,洗車用の高圧洗浄機を至近距離から身体に向けて噴射され,洗車用 ブラシで身体を洗われたが,この様子を被告Dはその場で黙認し,制止しなかった。 イ前記アの認定と反対趣旨の証拠としては,F常務の陳述書(乙30)及び証人尋問における供述,被告会社の従業員であるJの陳述書(乙32)及び証人尋問における供述並びに被告Dの陳述書(乙33)及び本人尋問 における供述があり,その内容は被告会社及び被告Dの主張イと同趣旨で ある。 しかし,証拠(甲11の1・2)によれば,被告D名義の平成25年6月30日付けブログには,原告が,大分からの帰社途中に温泉に入っていたため,「オーナー」である被告Dから丸刈りにされ,車体用洗剤とブラシで頭を洗われたこと,「同僚」から体を車体用洗車ブラシで擦られたり高圧 洗浄機を噴射されたことが記載され,その様子を写した写真が掲載されていることが認められ,これに照らすと,前記アの信用性は裏付けられる一方,前記の反対趣旨に各証拠の信用性には疑義が生じるというべきである。この点に関し,Jは,同ブログを作成していたのは同人であるところ,面白おかしくするために事実を脚色することもあった旨供述するが(証人 J(2~5頁)),前記7のとおり被告Dは事実上の代表者であり,にもかかわらず一従業員にすぎないJが被告Dの名前で事実と異なる記事を掲載したとは考え難いこと,被告Dは前記の平成25年6月30日付けブログ記事に関しJを咎めたことはなかったこと(被告D本人(13~14頁))に照らし,たやすく採用できない。 また,F常務は,原告の帰社時間が遅いためトラックに装着したGPSで居場所を確認したところ,大分 Jを咎めたことはなかったこと(被告D本人(13~14頁))に照らし,たやすく採用できない。 また,F常務は,原告の帰社時間が遅いためトラックに装着したGPSで居場所を確認したところ,大分で路上駐車したまま温泉に立ち寄っていたため,帰社した際に叱責したことを認める供述をしており(証人F(11頁)),被告Dも,原告が丸刈りとなった場面に立ち会い,高圧洗浄機を噴射されているのを目撃しながら制止しなかったことは認める供述をし ている(被告D本人(26~28頁))。 以上検討したところによれば,前記の反対趣旨の各証拠はたやすく採用できない。他に前記アの認定を覆すに足りる証拠はない。 ウ被告Dの行為は,原告に対する暴行及び原告の人格権を侵害 為も,原告に対する暴行及び原告の人格権を侵害する行為であるところ, 被告Dの暗黙の指示に基づくものと推認でき,仮にそうでないとしても,被告Dとしては,事実上の取締役として,社内において原告に対する侵害行為がされるのを制止すべき義務を負っていたのに,これを懈怠したものであることは明らかである。したがって,被告Dは,民法709条に基づき, を負う。 被告Dは事実上の代表取締役であると認められ,前記の被告Dの行為は,原告の帰社が遅れたことに対する制裁としてされたもの,すなわち事実上の代表取締役としての職務を行うについ てされたものであるから,被告会社は,会社法350条の類推適用により,う。 ⑶ 原告の主張ウについてア証拠(甲11の3,31,原告本人(15~18頁,38~39頁,4 9~50頁))及び弁論の全趣旨によれば,原告の主張ウに係る事実を認めることができる。 イ前記アの認定と反対趣旨(被告Dが花火等による暴行に関与していない ~18頁,38~39頁,4 9~50頁))及び弁論の全趣旨によれば,原告の主張ウに係る事実を認めることができる。 イ前記アの認定と反対趣旨(被告Dが花火等による暴行に関与していないとの趣旨)の証拠(乙30,32,33,証人F(12~13頁),同J(5~6頁,15~16頁),被告D本人(9~11頁,29~31頁))の内 容は,概ね被告会社及び被告Dの主張ウのとおりである。 しかし,平成25年9月17日付けの被告Dの「社員研修旅行打ち上げ」と題するブログ(甲11の3)には,半裸になった原告が花火の発射を受けながら川に向かって走り,川の中に入り,肩まで水につかりながら歩く等の一連の様子が鮮明に撮影された写真が8葉掲載されており,撮影者は 予め原告に花火が発射されたり,原告が川に入ったりすることを知ってい たこと,すなわち原告の行動が指示に基づく予定されたものであったことをうかがわせるものになっている。そして,前記の反対趣旨の各証拠によっても,複数の従業員らが一斉に花火の発射及び投石を行い,これをあえて制止するものは特になかったことが認められるが,このような事態が偶発的に生じたとは考えにくく,やはり指示に基づくことがうかがわれると いうべきである。そうすると,前記アの認定と反対趣旨の前記各証拠はたやすく採用できないといわざるを得ない。他に同認定を覆すに足りる証拠はない。 ウ前記アで認定した従業員らの原告に対する行為は,原告に対する暴行及び原告の人格権を侵害する行為であるから,これを指示した被告Dは,民 法709条に基づき,前記の従業員らの行為により原告が受けた身体的,精神的苦痛について不法行為責任を負う。 また,上記被告Dの行為は,社員旅行という会社の行事に際して行われたもの,すな 民 法709条に基づき,前記の従業員らの行為により原告が受けた身体的,精神的苦痛について不法行為責任を負う。 また,上記被告Dの行為は,社員旅行という会社の行事に際して行われたもの,すなわち事実上の代表取締役としての職務を行うについてされたものであるから,被告会社は,会社法350条の類推適用により,前記の 原告が受けた身体的,精神的苦痛について賠償責任を負う。 ⑷ 原告の主張エについてア証拠(甲11の4,31,原告本人(20頁,41頁))及び弁論の全趣旨によれば,原告は,本件失踪1の後に復職を認めてもらおうとして被告会社に戻った際,F常務に指示されて,社屋入口前で,被告Dが出社して 来るまで土下座をし続け,出社して来た被告Dはこれを一瞥したが土下座を止めさせることはなく,原告はその後も数時間にわたり土下座を続けたことが認められ,したがって原告の主張エに係る事実は概ね認められるといえる。 イ前記アの認定に反する証拠(乙33,証人F(34~35頁),証人J(6 ~7頁,16~17頁),被告D本人(11~13頁))には,原告が自発 的に土下座をした旨の部分がある。 しかし,被告D名義の平成25年10月14日付けブログ(甲11の4)には,被告会社の看板が掲げられた社屋入口の前で土下座する原告を正面から撮影した写真が2葉掲載されているが,原告が自らF常務又は被告Dに向けて謝るつもりで土下座をしたのであれば,土下座は偶発的にF常務 又は被告Dに向けてされたはずであり,このような写真が撮影される機会はなかったはずである。にもかかわらず,このような写真が存するということは,予め指示があったことを裏付けるものといえる。そうすると,原告が自発的に土下座をしたとの前記各証拠はにわかに採用できないとい はなかったはずである。にもかかわらず,このような写真が存するということは,予め指示があったことを裏付けるものといえる。そうすると,原告が自発的に土下座をしたとの前記各証拠はにわかに採用できないといわざるを得ない。他に,前記アの認定を覆すに足りる証拠はない。 ウ従業員が数時間にわたり社屋入口で土下座し続けるという行為は,およそ当人の自発的な意思によってされることは考えにくい行為であり,被告Dとしても,原告が強制されて土下座をしていることは当然認識し得たものとみられる。にもかかわらず,前記アの認定のとおり,被告Dは制止することなく原告に土下座を続けさせたのであるから,原告は被告Dの指示 で土下座させられたのと同視できるというべきである。したがって,被告Dは,民法709条に基づき,土下座させられたことにより原告が受けた身体的,精神的苦痛について不法行為責任を負う。 また,上記被告Dの行為は,原告の被告会社での就労再開に関して行われたもの,すなわち事実上の代表取締役としての職務を行うについてされ たものであるから,被告会社は,会社法350条の類推適用により,前記の原告が受けた身体的,精神的苦痛について賠償責任を負う。。 ⑸ 原告の主張オについてア証拠(甲11の1~4,被告D本人(13,14,31頁))及び弁論の全趣旨によれば,次のとおり,原告の主張オに係る事実を認めることがで きる。 被告D名義のブログには,前記⑵ないし⑷認定の記載及び写真が掲載されており,その中には原告が同僚の従業員からいじめ行為を受けたり土下座したりしている写真や,「ホラ吉」「葉山小亀夫」といった原告を侮蔑するような表現が含まれていた。 前記ブログはインターネットを通じて不特定多数人が閲覧可能な状 態 いじめ行為を受けたり土下座したりしている写真や,「ホラ吉」「葉山小亀夫」といった原告を侮蔑するような表現が含まれていた。 前記ブログはインターネットを通じて不特定多数人が閲覧可能な状 態にあった。 被告Dは自らの名義となっている前記ブログを確認することもあったが,前記⑵ないし⑷の原告に関する記事について,同ブログを作成管理するJに対し,掲載を止めるよう求めたことはない。 イ前記アの認定によれば,被告D名義のブログ記事は,これが他人から閲 覧されれば原告の名誉を棄損する内容であり,前記⑵ないし⑷の原告に関する記事が掲載されることによって,原告の名誉を棄損するものであると認められる。そして,前記⑵のとおり被告Dは従業員に対する名誉毀損行為を防止すべき義務を負っていたといえるから,ブログ記事の掲載を放置したことについて,民法709条に基づき不法行為責任を負う。 また,被告Dは事実上の代表取締役であると認められるから,被告会社は,会社法350条に基づき,被告Dが職務を行うについて原告に与えた精神的苦痛を賠償すべき責任を負う。 ウ被告D及び被告会社の主張について被告D及び被告会社は,被告D名義のブログは原告の誹謗中傷を目的 としたものではないし,被告Dはこれに関与していないと主張し,同ブログを作成していたJは,記事の掲載について被告Dの了解は取っていないと供述する(証人J)。しかし,前記各記事は,これを閲覧した者の通常の読み方を基準とすれば,原告の名誉を棄損するものであることが明らかである。また,Jが事実上の代表取締役である被告Dの名を用い てその意に反する記事を掲載するとは考え難いから,被告Dは前記各記 事を黙認していたものといえ,不法行為責任を免れない。 被告D及び被告会社は の代表取締役である被告Dの名を用い てその意に反する記事を掲載するとは考え難いから,被告Dは前記各記 事を黙認していたものといえ,不法行為責任を免れない。 被告D及び被告会社は,原告が前記ブログを認識していないので,原告が精神的苦痛を被っていないと主張する。しかし,原告が具体的に認識する以前であっても同人の外部的名誉(社会的評価)は棄損されており,少なくとも本件訴訟の提起時までに同ブログを認識することによっ て,精神的苦痛を被った以上,損害の発生を否定する事情とはならない。 ⑹ 慰謝料額以上によれば,被告D及び被告会社は原告に対し,前記⑵の丸刈り及び高圧洗浄機の使用,前記⑶のロケット花火や投石によるの強制,前記⑸の被告D名義のブログへの掲載について,連帯して損害賠償 責任を負う。 前記⑵の丸刈りを被告D自身が行っていることや,前記⑶の行為が原告の生命身体に危険を及ぼすものであることを考慮すれば,原告の身体的及び精神的苦痛に対する慰謝料額は100万円が相当であり,弁護士費用は10万円が相当であるから,被告D及び被告会社は,原告に対し,連帯して110 万円を支払うべき義務を負う。 10 争点10(原告の本件失踪1に関する損害賠償責任の有無)について⑴ 認定事実後掲の証拠及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。 ア原告は,平成25年9月28日の運行業務開始のための点呼後,トラッ ク内に同日付けで退職する意思を示した書置き(乙12)を残して失踪した(本件失踪1)が,F常務らに退職の意思を事前に伝えたことはなかった。 (乙12,原告本人(7~8頁,18頁))。 イ F常務は,平成25年9月28日よりも前に,同日の須恵センターから 中 失踪1)が,F常務らに退職の意思を事前に伝えたことはなかった。 (乙12,原告本人(7~8頁,18頁))。 イ F常務は,平成25年9月28日よりも前に,同日の須恵センターから 中部ハブセンターへの運行(路線①)及び同月30日の港営業所から北九 州センターへの運行(路線②)を原告に指示していたところ,原告の本件失踪1によって,路線①は履行不能となり,路線②は代替のK運転手に担当させたが,同日にK運転手が担当するはずだった住之江営業所から北九州センターへの運行(路線③)は履行不能となり,被告会社は路線①の受注金額9万2480円及び路線③の受注金額9万1170円を得られな かった。 (甲8,乙20の1・3,30,証人F)ウ路線①の受注金額から経費(高速道路費,燃料費,人件費等)を控除すると2万1640円となり,路線③の受注金額から経費を控除すると3万8382円となる。 ⑵ 労働者は,労働契約上の義務として,具体的に指示された業務を履行しないことによって使用者に生じる損害を,回避ないし減少させる措置をとる義務を負うと解される。 そして,前記⑴アで認定したとおり,原告は路線①及び②の運送業務を具体的に指示されたにもかかわらず,トラック内に退職する旨の書置きを残し たのみで無断欠勤し,前記運送業務を履行しなかったものであるが,これは前記の使用者に生じる損害を,回避ないし減少させる措置をとる義務に違反2円の損害が生じたものである。 原告は,被告会社における過重労働やパワハラに耐えかね,緊急避難的に 本件失踪1に及んだものであるから,不法行為責任を負わないと主張するが,事前に退職の意思を伝えることができないほどの緊急性があったとはいえないから,原告の責任は否定されないし,原 急避難的に 本件失踪1に及んだものであるから,不法行為責任を負わないと主張するが,事前に退職の意思を伝えることができないほどの緊急性があったとはいえないから,原告の責任は否定されないし,原告の賠償責任を信義則上制限すべき事情があるともいえない。 以上のとおりであるから,原告は,被告会社に対し,民法709条に基づ き,6万0022円及びこれに対する不法行為による損害発生日である平成 25年9月30日から民法所定の年5分の割合による遅延損害金を支払うべき義務を負う。 11 争点11(原告の本件失踪2に関する損害賠償責任の有無)について⑴ 認定事実後掲の証拠及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。 ア原告は,平成26年3月7日に無断欠勤した(本件失踪2)。 (乙30)イ原告は,平成26年3月7日より前に,同日の川﨑南営業所から西日本ハブセンターへの運行(路線④)及び同月8日の西日本ハブセンターから北九州センターへの運行(路線⑤)を指示されていたところ,原告の本件 失踪2によって,路線④及び⑤は履行不能となり,被告会社は路線④の受注金額8万6270円及び路線⑤の受注金額8万5930円を得られなかった。 (乙30)ウ路線④の受注金額から経費(高速道路費,燃料費,人件費等)を控除す ると2万9504円となり,路線⑤の受注金額から経費を控除すると3万3083円となる。 ⑵ 前記⑴アで認定したとおり,原告は路線④及び⑤の運送業務を具体的に指示されたにもかかわらず,無断欠勤し,前記運送業務を履行しなかったものであるが,これは前記10⑵のとおり,使用者に生じる損害を回避ないし減 少させる措置をとる義務に違反する行為であり, 的に指示されたにもかかわらず,無断欠勤し,前記運送業務を履行しなかったものであるが,これは前記10⑵のとおり,使用者に生じる損害を回避ないし減 少させる措置をとる義務に違反する行為であり,これによりとおり被告会社に6万2587円の損害が生じたものである。 また,原告の賠償責任を信義則上制限すべき事情があるとはいえない。 ⑶ 原告の主張について原告は,平成26年2月下旬にF常務に退職の意思を伝えた上,数日後に 被告会社宛に退職届を送付したから,平成26年3月7日までに退職してお り,労働契約上の義務を負わないから,不法行為責任ないし債務不履行責任を負わないと主張し,原告もこれに沿う供述をする(原告本人44~46頁)。 しかし,F常務が原告から退職の意思を伝えられたり退職届を送られたりしたことはないと供述していることに加え(証人F15頁),原告は過去に本件失踪1に及んで被告会社に損害を与えており,仮に原告から事前に退職の 意思表示がなされていれば,F常務において原告に真意を確認したり,運送業務から外すなど,原告が再び失踪することで被告会社に損害を与えないような対応をしたはずであるのに,原告を従前と変わりなく運送業務に就かせていたことに照らすと,原告が平成26年3月7日より相当前に退職の意思を伝えたり,退職届を送付したりしていたとは考え難いことからして,原告 の前記供述は容易に信用することができない。そして,他に原告が事前にF常務に退職の意思を伝えたり,退職届を送付していたとの事実を認めるに足りる証拠はなく,原告が平成26年3月7日までに被告会社を退職したとは認められない。 ⑷ 被告会社の主張(路線⑥ないし⑨の減便による損害)について 被告会社は,原告の本件失踪2によ 証拠はなく,原告が平成26年3月7日までに被告会社を退職したとは認められない。 ⑷ 被告会社の主張(路線⑥ないし⑨の減便による損害)について 被告会社は,原告の本件失踪2によって,G社から路線⑥ないし⑨の減便を強いられ,損害を被った旨主張する。しかし,被告の主張する前記損害が発生したことを認めるに足りる証拠はない。また,仮に被告会社が路線⑥ないし⑨の減便を強いられた事実があったとしても,F常務は,G社による減便の制裁は,運行が履行不能となった場合だけでなく,交通事故を起こした 場合にもなされ得るというのであるから(証人F16頁),他の長距離トラック運転手によってG社から減便の制裁を受けるに至った可能性が相当程度あり(原告と同じく被告会社に長距離トラック運転手として勤務していたL及びMは交通事故を起こしている(甲39,40)。),被告会社の主張する損害と原告の本件失踪2との因果関係も明らかであるとはいえない。 ⑸ 小括 以上によれば,原告は,被告会社に対し,民法709条に基づき,6万2587円及びこれに対する不法行為による損害発生日である平成26年3月8日から民法所定の年5分の割合による遅延損害金を支払うべき義務を負う。なお,前記⑵記載の事情に照らせば,原告の損害賠償責任を信義則上制限すべきであるとはいえない。 12 結論したがって,原告の請求は主文第1項ないし第4項の限度で理由があるから認容し,被告会社の反訴請求は主文第5項の限度で理由があるから認容し,その余の原告の請求及び被告会社の反訴請求はいずれも理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決する。 福岡地方裁判所第5民事部 裁判長裁判官岡田 健 裁判官 求及び被告会社の反訴請求はいずれも理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決する。 主文 福岡地方裁判所第5民事部 裁判長裁判官岡田健 裁判官柵木澄子 裁判官横山寛 別紙A1~C4 〔※省略〕

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