- 1 -平成18年8月29日判決言渡平成17年(ネ)第2259号損害賠償請求控訴事件(原審神戸地方裁判所姫路支部平成15年(ワ)第1005号)判決主文 原判決中,被控訴人社会福祉法人aに関する部分を次のとおり変更する。 ( )①被控訴人社会福祉法人aは,控訴人bに対し,金527万272 6円及びこれに対する平成14年11月17日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 ②被控訴人社会福祉法人aは,控訴人cに対し,金527万2726円及びこれに対する平成14年11月17日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 ( )控訴人らの被控訴人社会福祉法人aに対するその余の請求をいずれ も棄却する。 控訴人らの被控訴人医療法人社団dに対する本件控訴を棄却する。 訴訟費用は,控訴人らと被控訴人社会福祉法人aとの関係においては,第1,2審を通じてこれを3分し,その1を控訴人らの,その余を同被控訴人の,控訴人らと被控訴人医療法人社団dとの関係においては,控訴費用は,控訴人らの負担とする。 事実及び理由 第1当事者の求めた裁判 控訴人ら( ) 原判決を取り消す。 ( ) 被控訴人らは,控訴人bに対し,連帯して,金751万8561円及びこ れに対する平成14年11月17日から支払済みまで年5分の割合による金- 2 -員を支払え。 ( ) 被控訴人らは,控訴人cに対し,連帯して,金751万8561円及びこ れに対する平成14年11月17日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 ( ) 訴訟費用は,第1,2審とも,被控訴人らの負担とする。 被控訴人ら( ) 本件控訴を棄却する。 ( ) 控訴費用は控訴人らの負担とする。 第2事案の概要1( ) 本件は,亡e(以下「e」 用は,第1,2審とも,被控訴人らの負担とする。 被控訴人ら( ) 本件控訴を棄却する。 ( ) 控訴費用は控訴人らの負担とする。 第2事案の概要1( ) 本件は,亡e(以下「e」という)が,被控訴人社会福祉法人a(以下 。 「被控訴人a」という)の経営する特別養護老人ホームf園(以下「f。 園」という)の指定短期入所生活介護事業所利用契約に基づくショートス。 テイを利用した際,他の利用者に車椅子を押されて転倒して後遺症を負ったとして,被控訴人aに対し,ショートステイ利用契約上の債務不履行(事故を未然に防止できなかった安全配慮義務違反及び事故後に適切な治療を受けさせなかった義務違反)を主張し,また,転倒後に治療を受けた病院である被控訴人医療法人社団d(以下「被控訴人d」という)に対し,その経営。 にかかるg病院(以下「g病院」という)及びh病院(以下「h病院」と。 いう)の医師の診療契約上の債務不履行(迅速かつ適切な治療を怠った義。 務違反)を主張して,被控訴人らに対し,不真正連帯責任に基づく損害賠償を求め,eの死亡により,その相続人である控訴人らが訴訟承継した事案である。 ( ) 原判決は,控訴人らの請求をいずれも棄却した。 ( ) そこで,控訴人らが,本件控訴をした。 なお,控訴人らは,当審において,上記被控訴人らの行為は,それぞれ不法行為にも該当し,これらは,共同不法行為として不真正連帯の関係にある- 3 -ので,被控訴人らに対し,債務不履行責任と選択的に,不法行為に基づく損害賠償をも求める旨主張している。 前提となる事実以下の事実は,当事者間に争いがないか,証拠及び弁論の全趣旨によって容易に認められる事実である。 ( ) 当事者 アeは,明治44年8月26日生まれの女性で,平成12年10月1 前提となる事実以下の事実は,当事者間に争いがないか,証拠及び弁論の全趣旨によって容易に認められる事実である。 ( ) 当事者 アeは,明治44年8月26日生まれの女性で,平成12年10月18日からf園の指定短期入所生活介護の事業(以下「ショートステイ」という)を利用しており,平成14年11月6日に,要介護5の認定を受け。 た者である。なお,同人は,平成16年9月28日,死亡した。 イ控訴人b(以下「控訴人b」という)及び控訴人c(以下「控訴人。 c」という)は,eの子であり,本件訴訟の訴訟承継人である。i(以。 下「i」という)は,eの孫であり,eの生前,eの成年後見人であっ。 た者である。 ウ被控訴人aは,f園を経営する社会福祉法人である。 エ被控訴人dは,g病院及びh病院を経営する医療法人である。 ( ) eの身体状況及びf園利用状況 eは,平成12年10月18日,被控訴人aとの間で,f園指定短期入所生活介護事業所利用契約(いわゆるショートステイ利用契約,以下「本件契約」という)を締結した。 。 eは,本件契約締結時,認知症により要介護3の認定を受けていたが,その後,症状が進行して,平成14年11月6日,要介護5の認定を受け,同年12月1日から実施された。同年11月17日以前,eは,移動の際車椅子を使用していたが,第三者の介助を得れば自力歩行が可能であった。 ( ) 事故の発生 平成14年11月17日午後8時15分ころ,eは,f園デイルームにお- 4 -いて車椅子に座っていたところ,車椅子から落ちて転倒した(以下「本件事故」という。 。)同日,控訴人cは,f園の職員から,同園の利用者であるj(以下「j」という)が,eの使用していた車椅子をjの物と勘違いしてeを背後から。 押し,eはその勢いで転倒したと説明を受 故」という。 。)同日,控訴人cは,f園の職員から,同園の利用者であるj(以下「j」という)が,eの使用していた車椅子をjの物と勘違いしてeを背後から。 押し,eはその勢いで転倒したと説明を受けた。 jは,本件事故当時92歳であり,要介護3の認定を受けていた。 ( ) eの治療状況等 アeは,同日,g病院の医師の往診を受け,翌日,同病院において,頭部レントゲン及びCTの撮影が行われ,骨折等の異常はないと診断された。 控訴人cは,f園の職員から,顔面打撲以外には異常はないので,冷却療法をすればよいなどの説明を受けた。 同月18日,eは,再度,g病院において診察を受けた。この際,eに認められた症状は,左目の下に皮下出血が認められた程度であったので,同病院では,骨折の疑いはないと判断し,頭部レントゲン及び頭部CT検査を行った。これらの検査の際,eは抱きかかえられた状態で移動していた。 イ同月22日午後1時30分ころ,iらがf園を訪れ,eが歩行できないことを告げたところ,f園の職員は,eをh病院に連れて行った。同病院では頭部と左大腿部のレントゲン撮影が行われたが,eが暴れたため,左膝のレントゲン撮影はできなかった。同日の診断結果は「頭部打撲,顔面打撲,左下肢打撲」であった。 同月26日,eは,再度,同病院を受診し,その際,同病院では,左大腿骨頚部骨折と診断した(甲9。 )ウなお,eは,同月23日から同月25日の間,f園にショートステイしており,f園では,eの家族から,歩行が困難にならないよう足の曲げ伸ばしをして欲しいと言われていたこと(乙A2)や,骨折との診断もなか- 5 -ったことから,同期間中にeの足の曲げ伸ばし運動を行った。その際,eは屈曲時に疼痛を訴え,f園の職員は,その訴えに応じて,運動を中止した。もっとも,同期間中に 2)や,骨折との診断もなか- 5 -ったことから,同期間中にeの足の曲げ伸ばし運動を行った。その際,eは屈曲時に疼痛を訴え,f園の職員は,その訴えに応じて,運動を中止した。もっとも,同期間中に少なくとも3回は曲げ伸ばし運動を行っている(甲7,乙A2。 )( ) eの後遺症等 eは,同月27日,骨折の治療のために,k病院に入院し,同月29日,人工骨頭置換術の手術を受け,同年12月19日,左人工骨頭置換術後感染と診断されて,同月24日再手術を受けた。なお,仮に,本件事故直後にeの骨折が判明していたとしても,eの年齢に照らせば,治療方法としては人工骨頭置換術をとらざるを得なかった。 eは,平成15年1月21日,両股・膝関節拘縮,両下肢の機能全廃(左股関節に人工骨頭置換)との障害名でl県から身体障害者等級表1級に認定され(甲3,同年2月22日,同病院を退院し,その後,数か所のショー)トステイや訪問介護等を利用した。 争点 ( ) 本件事故に至る経緯 ( ) 被控訴人aが,f園における入所者の管理について,適切な管理を行わな かった安全配慮義務違反の有無( ) 被控訴人aが,eに適切な治療を受けさせる義務があったにもかかわらず, これを怠った注意義務違反の有無( ) 被控訴人dが,eに対し,適切な診断を行うべきであったのに,これを怠 った注意義務違反の有無( ) 被控訴人らの責任原因 ( ) 被控訴人らが賠償すべき損害額 当事者の主張( ) 本件事故に至る経緯 - 6 -(控訴人らの主張)本件事故は,平成14年11月17日午後8時15分ころ起こったもので,f園デイルームで,jが,eの座っていた車椅子をjの物であると勘違いして取り上げようとし,eを背後から押したため,その勢いでeは前のめりに転倒したも 年11月17日午後8時15分ころ起こったもので,f園デイルームで,jが,eの座っていた車椅子をjの物であると勘違いして取り上げようとし,eを背後から押したため,その勢いでeは前のめりに転倒したものである。 f園の職員は,翌18日午後8時ころ,e宅を訪れて,事故が起きたときには,職員は業務引継のために全員が詰め所におり,デイルームには誰もいなかった。音がして駆けつけた時には,eが転倒していたなどと説明して謝罪した。 また,jは,本件事故当時,痴呆状態であり,本件事故以前から不機嫌になり易い傾向にあった。不機嫌になると,暴力的な行為がみられたり,職員に手を挙げたり暴言を吐くなどしたことがあり,攻撃性を発揮しやすい傾向にあった。f園の職員も,jに関する処遇記録に「目が離せない状況」と記載しており,他人の物を自分の物と勘違いする症状や徘徊傾向もあり,徘徊の都度職員がjを居室へ誘導しても,再び徘徊を繰り返していた。 これらからすれば,jが,eを背後から押すことは十分にあり得ることであり,本件事故は,f園の職員がjから目を離した間に,jが,eを押したことによって発生したものである。 (被控訴人aの主張)本件事故当時,事故現場には誰もおらず,eが転倒した状況を現認した者はいなかったから,jがeを背後から押したという経緯は,推測に過ぎない。 後述のような,jの身体状況に照らせば,jが,eを押し倒したという事実を想定することには無理がある。しかし,現認者がいない以上,実際の状況は分からず,控訴人らの主張する状況があり得ないとはいえないので,事故に至る経緯については,積極的には争わない。 jは,一応の理非弁識能力があり,平成14年2月9日時点でのADL判- 7 -定によれば,失見当識はあるが,暴力的ではなく,介護施設で特に問題があるとは考えていないとさ ては,積極的には争わない。 jは,一応の理非弁識能力があり,平成14年2月9日時点でのADL判- 7 -定によれば,失見当識はあるが,暴力的ではなく,介護施設で特に問題があるとは考えていないとされている。f園において,他人の物を自分の物と錯覚することが度々あったが,その際には,直接的に暴力的行動に出ることはなく,通常の声の大きさで「どいて」と相手に言う程度であり,暴力的な行為にでたことは一度もない。 また,jは,膝関節症を患っていたから,掴まるものがなければ自力歩行は困難であり,下半身の力が伴わないため,車椅子に座っている人を立たせることは不可能であり,押し倒すことはできたとしても,その際にjも転倒してしまうはずである。 以上から,本件事故が,jがeを押したことによって発生したとはいえない。 ( ) 被控訴人aが,f園における入所者の管理について,適切な管理を行わな かった安全配慮義務違反の有無(控訴人らの主張)ア本件事故当時の職員の配置本件事故当時には,f園のデイルームには職員が誰もおらず,f園全体でも3名の介護職員しか勤務していなかった。 名の介護職員のうち,mは25号室の温度確認に行すなわち,この3っており,nはゴミ捨てのために本件事故が発生した2階におらず,oは17号室でおむつ交換を行っていた。このように,3名の介護職員が対応できていたのは,70名の利用者のうち,わずか2名に対してのみ,他の68名に対し,余裕を持った対応をすである。このような状態ではることはできず,これらの者のある利用者が他の利用者に危害を加えようとした場合,これを防止することが不可能であることは経験則上明らかであるというべきである。 - 8 -そして,本件事故に対応した介護職員のoは,17号室で他の入所者のおむつ交換を行ったり,16号室の利用 場合,これを防止することが不可能であることは経験則上明らかであるというべきである。 - 8 -そして,本件事故に対応した介護職員のoは,17号室で他の入所者のおむつ交換を行ったり,16号室の利用者を自室に誘導したりしており,デイルームでjがeの背中を押している状態を3度も目撃したにもかかわらず,適切な対応をすることができず,その結果,4度目に本件事故が発生した。 これには,後記のとおりのoの介護技術にも問題があるといえるが,そもそも,oは,17号室及び16号室における介護に追われ,余裕を持って適切な対処をすることが不可能であったという点も看過されてはならず,結局,jやeの精神状態,身体状態を把握して対応する余裕がなかったのである。 本件事故の発生には,少人数の介護職員に過密労働を要求このように,する人員配置,それぞれの利用者の身体状態,精神状態を把握するための余裕もない人員配置も大きく影響しており,3名しか介護職員を配置してf園の注意義務違反が認められることは明らかでいなかったこと自体に,ある。 イ本件事故以前のjの言動と一般的な予見可能性本件事故以前にも「居室とデイルームを伝い歩きで行き来し,jは,,座っているように声をかけるも落ち着くことがなく,目が離せない状態」(平成14年7月16日)になったりしたことが幾度かあり,また,職員に誘導されても納得せず,誘導される前の行動に固執し,徘徊行動等を繰り返す傾向にあったのである。さらに,jには,不機嫌になると暴言,暴力的な行為等がみられ,この暴力的な行為等は介護職員に対しても行われ,f園は,jのこのような傾向を十分に認識していた。 したがって,f園には,少なくとも,jが徘徊したり,他の利用者と口論をしたり,暴力を振るおうとしたり,現に振るっていたりした場合には,- 9 - f園は,jのこのような傾向を十分に認識していた。 したがって,f園には,少なくとも,jが徘徊したり,他の利用者と口論をしたり,暴力を振るおうとしたり,現に振るっていたりした場合には,- 9 -暴力行為への発展又は暴力行為の継続が予見可能であったというべきである。そして,このような予見の下,いざというときにjの行動を見守れるような余裕のある人員配置を施したり,他者に対する暴力行為を止めさせるための対応策を講じ,jの行動に適切に対処し,事故の発生を防止すべき義務があったというべきである(なお,このような問題行動を起こしうる利用者はjのみではなく,そのような者についても,同様である。 。)ウ具体的予見可能性本件においては,上記の一般的な予見可能性に加えて,f園には,具体的な予見可能性もあった。 oは,デイルームにおいて,jが執拗にeのすなわち,本件事故当時,車椅子のハンドルを揺さぶったり,eの背中を押したりするなどの暴力行また,jを自室に連れ戻しても繰り返してデイルームにい為を繰り返し,jがそのるeに固執し,デイルームに入っていったことを認識し,他方,から,転暴力行為を継続した結果として,本件事故が発生したものである倒事故等の発生は十分に予見可能であったといえる。 上半身の力が強かったことを認識してい加えて,f園においては,jはたのであるし,他方,eは,身長140センチメートルにも満たず,体重33キログラムの小柄な体格であり,実際に,jがeを倒すという結果が発生したことからしても,jがeを転倒させることを予見することは十分に可能であったというべきである。 本件事故における結果回避義務違反エ痴呆状態にあり,暴力的行動等を起こすことも度前記のとおり,jは,本件事故の前,oは,jを3回にわたって自室に帰らせ々あり,さらに であったというべきである。 本件事故における結果回避義務違反エ痴呆状態にあり,暴力的行動等を起こすことも度前記のとおり,jは,本件事故の前,oは,jを3回にわたって自室に帰らせ々あり,さらに,を揺さても,jは,その都度,デイルームに戻ってeの車椅子のハンドルぶったり,eの背中を押したりするなどの行動を繰り返したもので,jが- 10 -oの指導を理解せず,納得していなかったことは明らかである。 しかるに,oのjへの対応は,認知症の高齢者の不適切な行動に対し,介護者が不適切な対応をし,その対応が認知症の高齢者自身に伝わり,認知症の高齢者自身の行動障害を誘発し,また,その行動障害に対して介護者側が負担感や不快感などを感じた結果,再び不適切なケアを行うことになり,そのケアによってさらに行動障害を誘発されるという悪循環の典型的なものであった。このような不適切な対応が,jの感情を刺激し,攻撃的な興奮状態.暴力的行為を誘発する結果となり,本件事故発生を招来したというべきなのである。過去の暴力行為についても,jが自分から攻撃的に暴力を振るうというものではなかったのであるから,本件事故においても,j自身の暴力的性向が発現したのではなく,oの対応がjの暴力を誘発したというべきである。 結局,oの採るべき行為は,一旦,eに車椅子を降りてもらい,jを座らせ,その座った感覚から自分の車椅子でないことを納得してもらう(jの車椅子は電動車椅子であった,eをデイルームから連れ出し,jの暴。)jを頭ごなしに非難したり強制したりするので力行為から避難させる等,はなく,うまくできるようにさりげなく助言したり手伝ったりして,痴呆性高齢者の状態,個性に合わせた対応をとるべきであった。それにもかかわらず,oは,不適切な対応をしたものであり,このことがjの暴力的 はなく,うまくできるようにさりげなく助言したり手伝ったりして,痴呆性高齢者の状態,個性に合わせた対応をとるべきであった。それにもかかわらず,oは,不適切な対応をしたものであり,このことがjの暴力的行為を誘発したものというべきである。 オ以上のように,被控訴人aは,十分な介護職員を配置して勤務させべきる義務及び以前から粗暴な行動が認められていたjの行動について適切な注意を払うべき義務があったのに,これらの義務を怠った過失がある。 (被控訴人aの主張)ア本件のようなショートステイを行う施設において,どの程度のサービス- 11 -が提供されるべきかは,ショートステイの定義(介護保険法7条13項,老人福祉法5条の2第4項)を基本として,施設の設置目的及びサービス内容について定めた入所者と施設との契約内容等を加味して決定されるべきところ,これによれば,本件契約に基づく介護義務としては,入所者の日常生活上の基本的な介護を行うことに加えて,各入所者のおかれた状況に照らして必要とされる介護を行う義務があるに止まり,各入所者の行動を逐一監視するような完全介護態勢による介護を行う義務まではない。すなわち,f園は,完全介護施設ではなく,常に1人1人の介護を行うことは困難であり,通常必要とされる程度の施設内の安全には配慮していたものであり,本件のような入居者同士のけんかや暴力等について,全ての行動を24時間態勢で監視,監督することはそもそも不可能であり,そこまで高度な安全配慮義務は要求されていない。本件事故は,f園の職員の監視,監督義務の範囲外で発生したものであり,被控訴人aに安全配慮義務違反はない。 なお,本件事故当時,f園の職員全てが詰め所にいたのではなく,他の利用者の介護等にあたっていたものもいた。しかし,一般に,入所者の事故は,一度に何人も であり,被控訴人aに安全配慮義務違反はない。 なお,本件事故当時,f園の職員全てが詰め所にいたのではなく,他の利用者の介護等にあたっていたものもいた。しかし,一般に,入所者の事故は,一度に何人もが起こすものではないので,3人もの職員がいれば,その対応は十分に可能であり,これに反する控訴人らの主張は,ありとあらゆる事故を未然に防ぐには完全介護が必要であるというにほかならない。 以上から,勤務態勢及びjの管理について,被控訴人aに過失はない。 イまた,jが暴力行為等に及ぶ行動があったのは,介護等のために他人に自らの意思に反するような行動をさせられたときだけであり,普段には,他の入所者との間でもめ事を起こしたり,怪我をさせたりするようなことはなかった。そして,介護職員相手に暴れる際の態様も,ひっかく,叩くといった程度である。jは,本件事故当時,92歳であり,また,骨粗しょう症を煩っていた。このようなjのf園における普段の生活態度,暴れ- 12 -る契機や程度,jの年齢や心身の状況からすると,jが他の入所者の生命,身体に対して害を与える可能性が高かったということはなく,本件事故当時,f園において,jが他の入所者の生命,身体に対して害を与えるなどということを予見することは不可能であった。 ウまた,本件事故直前,jがeの車椅子のハンドルを揺さぶったり,eの背中を押すことを繰り返していたことからすれば,その後も継続してeに同様の行為を行うことは予測可能であったといえる。しかし,さらに進んで,jが車椅子に乗ったeを転倒させて怪我をさせることまで予見することは不可能である。すなわち,jの本件事故当時の年齢や心身の状況等に照らすと,jがeを車椅子から落とすほどに強い有形力を行使するとは考えがたいからである。 エ以上のとおり,被控訴人aには,本件事 とは不可能である。すなわち,jの本件事故当時の年齢や心身の状況等に照らすと,jがeを車椅子から落とすほどに強い有形力を行使するとは考えがたいからである。 エ以上のとおり,被控訴人aには,本件事故について,安全配慮義務違反はない。 ( ) 被控訴人aが,eに適切な治療を受けさせる義務があったにもかかわらず, これを怠った注意義務違反の有無(控訴人らの主張)f園では,eが重度の認知症であり,痛みの訴えも十分にできない場合もあることから,医師に対し,本件事故の態様,すなわち,車椅子に座っている状態で他の利用者に背後から押されて転倒したという事故状況や発見されたときのeの体位や姿勢,さらに,以前に発生した類似の事故の場合の結果等を適切に伝え,早期にレントゲン撮影を求めるなどして,eが,適切な治療を受けられるように手配し,また,eの安静を保つべきであった。 それにもかかわらず,f園では,医師に対して適切な説明をせず,また,eが,平成14年11月23日からf園をショートステイで利用した際,eにリハビリを行わせるなどしており,これらによって,eの左大腿の症状は悪化した。 - 13 -従って,被控訴人aには,eに適切な治療を受けさせ,また,安静を保たせる義務を怠った過失がある。 (被控訴人aの主張)本件事故後,eは左前頭部を打撲し,同箇所から出血があったため,f園の職員は,打撲した頭部以外に怪我がないかのチェックを行った。その際,eが,大腿部や下肢その他の箇所の痛みを訴えることはなかった。応急処置は看護師の指示を仰いで行っているし,直ちにg病院へ連絡し,宿直医の往診を受け,その指示に従い,アイシングとバイタルチェックを行っている。 また,本件事故の翌日にも,g病院の医師の診察を受けさせており,同医師により,骨折はないと判断されており,このよ 絡し,宿直医の往診を受け,その指示に従い,アイシングとバイタルチェックを行っている。 また,本件事故の翌日にも,g病院の医師の診察を受けさせており,同医師により,骨折はないと判断されており,このように専門家の医師が判断をした以上,素人である被控訴人aから進んでレントゲン撮影を求めることなどは,不可能である。 なお,被控訴人aがeのリハビリを行ったのは,同月22日,g病院の医師から,骨折は認められないとの連絡があり,かつ,同月23日からのショートステイに際して,eの家族から,eの歩行が困難になると困るので足の曲げ伸ばしを行って欲しいと依頼があったためである。 このように,f園の職員の対応は適切であり,被控訴人aには,適切な治療を受けさせる注意義務に違反したことはない。 ( ) 被控訴人dが,eに対し,適切な診断を行うべきであったのに,これを怠 った注意義務違反の有無(控訴人らの主張)ア(ア) eは,帰宅後,半狂乱の状態で「痛い」と訴え,自力歩行ができ,。 ず,抱えて家の中に移動させなければならないほど,手がつけられなかったものであり,このことからすれば,g病院においても,痛みを訴えていたはずである。 ところが,g病院の医師は,頭部及び顔面の外傷の酷さに対して意識- 14 -が集中し,その他の部位に対する外傷の有無の確認を怠った。 (イ) 仮に,eがg病院で痛みを訴えていなかったとしても,eは認知症であり,どの部分が痛むのか自ら適切に指摘できない状態であった。このようなeの状態及び本件事故後,足が立たなくなったとの事実自体を考慮すれば,医師としては,e本人の訴えがなくとも,職員による事故態様の説明を受けて,足の骨折を疑い,早急にレントゲン撮影を行うなどして,骨折を発見すべきであった。また,発見した上で,適切かつ迅速な治療を受けさせ としては,e本人の訴えがなくとも,職員による事故態様の説明を受けて,足の骨折を疑い,早急にレントゲン撮影を行うなどして,骨折を発見すべきであった。また,発見した上で,適切かつ迅速な治療を受けさせる義務があった。しかし,適切なレントゲン撮影は平成14年11月26日まで行われていない。 g病院では,同月17日に初診を行い,同月18日にも診察を行っているが,頭部のレントゲン写真,CTを撮ったのみで,足のレントゲン写真は撮影していない。 また,iは,同月22日の受診時以前に,f園の職員に対し,eが左足の痛みを訴えていることを告げており,h病院のレントゲン技師もeが足の痛みを訴えていることを認識していたのであるから,h病院においては,たとえeが暴れるなどしても,足のレントゲン撮影を行うべきであったのに,これを行わなかった。 なお,そもそも同日のレントゲン撮影は技術がつたないものであったというべきであり,骨折を発見できなかったことの原因もh病院にある。 以上から,g病院及びh病院は,必要かつ適切な診断を怠った注意義務違反がある。 イまた,仮に,早期に足のレントゲン撮影が行われていれば,早期の手術を行うことにより後遺症の程度に差が生じていた可能性があるし,骨折と診断されていれば,足を固定して安静にするよう指示したであろうから,f園においてリハビリが行われることもなかったといえる。 大腿骨頚部内側骨折においては,できるだけ早期に手術を行うことが望- 15 -ましく,早期に適切な治療が行われれば,約4分の3の症例では歩行可能となっている。よって,eについても,それまでは自力歩行が可能であったので,早期に適切な治療が行われていれば自力歩行が可能となっていたと考えられる。 しかし,g病院及びh病院において,早期に足のレントゲン撮影がなされず,骨折との診 ,それまでは自力歩行が可能であったので,早期に適切な治療が行われていれば自力歩行が可能となっていたと考えられる。 しかし,g病院及びh病院において,早期に足のレントゲン撮影がなされず,骨折との診断が遅れたなどの不適切な診断により,悪化した状態の後遺症が残った。 ウ従って,両病院を経営する被控訴人dは,適切な治療を行わなかった債務不履行ないし過失があり,これによってeの後遺症は悪化した。 (被控訴人dの主張)アg病院では,同月17日,eを診察した際,e及びf園の担当者から身体の痛みの訴えは全くなかったことや,臨床結果から,緊急処置の必要はないと判断し,レントゲン撮影等は行わなかった。 同月18日,g病院においてeを診察した際,f園の職員から事故態様の説明を受け,骨折を疑い,左右の膝関節を他動的に動かしたり,股関節部を叩打したりした。要介護5であっても痛みを感じる能力はあるところ,これによっても,eが痛みを訴えることはなく,痛みから顔をゆがめるなどのことがなかったため,骨折の疑いなしと判断した。また,検査の際,eを抱きかかえて移動させたが,その時にeが痛みを訴えることもなかった。 イh病院においては,同月22日,レントゲン技師及びeに付き添ってきた者とが一緒になって協力して,eに対して左膝のレントゲン撮影を試みたけれども,eが暴れたため撮影できなかった。なお,eを無理矢理押さえつけると,高齢者で怪我をさせる危険性もあり,撮影をするには,患者であるeの協力が不可欠であったたため,協力するよう説得をしたが,聞き入れられなかった。そのため,左大腿部は撮影を行ったが,左膝の撮影- 16 -はできなかった。 ウそして,確かに,担当医師は,整形外科医ではないこと及びレントゲン撮影が十分に行われなかったことから,付添の者に,後日整形外科を受 腿部は撮影を行ったが,左膝の撮影- 16 -はできなかった。 ウそして,確かに,担当医師は,整形外科医ではないこと及びレントゲン撮影が十分に行われなかったことから,付添の者に,後日整形外科を受診するように指示している。 このように,被控訴人dは,必要かつ可能な範囲の診察を行い,適切な診断をしており,注意義務違反はない。 エまた,仮に,被控訴人dに何らかの注意義務違反が認められたとしても,eの足機能が全廃したこととは相当因果関係がなく,損害が拡大したとの事実もない。 すなわち,仮に,同月17日又は同月18日に骨折との診断に至っていたとしても,eの年齢や身体及び精神状況に照らせば,人工骨頭置換術による手術を行うことが極めて一般的かつ最も適切であるから,診断の時期にかかわらず,同様の治療方法を採っていたと考えられる。 従って,いずれにせよ人工骨頭置換術を行う必要があったといえるから,被控訴人dの注意義務違反があったとしても,損害の拡大は認められない。 オ以上のとおり,被控訴人dには,注意義務違反はなく,過失も認められず,仮に,これらが認められたとしても,それによって損害が発生したとはいえない。 ( ) 被控訴人らの責任原因 (控訴人らの主張)控訴人らは,原審において,被控訴人らの上記( )ないし( )の各注意義務 違反は,被控訴人aにおいては,本件契約等の,被控訴人dにおいては,診療契約上の義務違反として,債務不履行責任を構成する旨主張してきたが,当審においては,同時に,これらは,被控訴人らの過失による不法行為責任をも構成し,これらは不真正連帯関係にある旨主張用するものである。 すなわち,被控訴人らは,それぞれ業として,被控訴人aにおいては,介- 17 -護サービスを,被控訴人dにおいては,医療行為を提供する専門機関である は不真正連帯関係にある旨主張用するものである。 すなわち,被控訴人らは,それぞれ業として,被控訴人aにおいては,介- 17 -護サービスを,被控訴人dにおいては,医療行為を提供する専門機関であるところ,上記のとおり,被控訴人aにおいては,適切な介護サービスを提供しなかった注意義務違反(過失)により,本件事故が発生し,その後,被控訴人dにおいては,適切な治療を怠った過失により,eは脚の機能が全廃するまでの後遺症を負った上,k病院に入院をするまでの間において,脚を骨折しているにもかかわらず,その脚のリハビリをさせられるに至ったものであるから,被控訴人らは,eの相続人である控訴人らに対し,主位的に民法415条の債務不履行の,予備的に同法709条及び715条の不法行為責任を負い,これらは共同不法行為の関係にあり,被控訴人らは,連帯してその損害の全額を賠償する義務がある。 そして,控訴人らは,これら被控訴人らの責任につき,債務不履行もしくは不法行為に基づくものとして,選択的に主張するものである。 (被控訴人らの主張)上記控訴人らの主張は争う。 ( ) 被控訴人らが賠償すべき額 (控訴人らの主張)ア治療費関係27万0357円(ア)治療費(k病院)23万6010円整形(入院分)22万9980円口腔3330円本件事故後eは寝たきりとなり,これによってあごの肉がやせ細ったために入れ歯が合わなくなったことから,入れ歯の調整をしたことに要したものである。 退院後の治療費2700円(イ)器具等の代金2万8047円リハビリ用のスポーツシューズ2047円- 18 -股関節固定キーパー代2万6000円(ウ)文書料6300円イ付添看護費74万7600円1日8400円とし,入院期間89日に近親者3名が付き添ったから,そ ーズ2047円- 18 -股関節固定キーパー代2万6000円(ウ)文書料6300円イ付添看護費74万7600円1日8400円とし,入院期間89日に近親者3名が付き添ったから,その合計額は上記のとおりとなる。 ウ入院雑費13万3500円1日1500円とし,89日間入院したから,その合計額は上記のとおりとなる。 エ通院交通費2万4468円p分1万4892円往復14.6㎞,1㎞あたりを走行するのに要するガソリン代を12円として,付添のために85回通院した合計額である。 i分9576円往復8.4㎞,1㎞あたりを走行するのに要するガソリン代を12円として,付添のために95回通院した合計額である。 オ本件事故後eが死亡するまでに要した介護費用の増額分99万4913円(従前の99万6913円を当審において上記のとおり訂正)(ア) 本件事故前eの介護に要した費用1か月あたり4万7342円(イ) 本件事故後e死亡までに負担した費用合計189万6411円qステーション,xケアセンター利用料30万3434円rステーション8万3759円s苑,y苑,z園利用料120万2759円介護タクシー2万3050円ベッド,車椅子レンタル料4万8750円訪問医師(tクリニック,u皮ふ科分)10万0719円- 19 -紙おむつ代13万3940円(ウ)差額本件事故後に要した費用と本件事故前から要した費用の差額は99万6913円である。 -×19か月=99万6913円1,896,41147,342996,913カ症状固定後の付添費150万4285円平成15年2月22日から平成16年9月28日までの585日間について,週3日1日中自宅で介護を行い,週3日自宅で半日介護を行っており,1日あたりの付添費 カ症状固定後の付添費150万4285円平成15年2月22日から平成16年9月28日までの585日間について,週3日1日中自宅で介護を行い,週3日自宅で半日介護を行っており,1日あたりの付添費を4000円として計算すると上記の額となる。 キ傷害慰謝料150万円通院10日,入院3か月の傷害慰謝料は150万円が相当である。 ク後遺障害慰謝料810万円後遺障害等級1級と3級の慰謝料額の差額である。 ケ弁護士費用176万円被控訴人aが示談に応じなかったために,訴訟提起に踏み切らざるを得ず,本件訴訟を行うためには弁護士を依頼する必要があり,本件事故と相当因果関係にある弁護士費用は176万円である。 コeは,以上のとおり,合計1503万5123円(従前の1503万7123円を当審において上記のとおり訂正)の損害を受け,控訴人らは,これを2分の1ずつの割合で相続した。 従って,控訴人b及び控訴人cが被控訴人らから支払われる損害額は,それぞれ751万8561円である。 (被控訴人aの主張)ア口腔治療費について本件事故との直接の因果関係はない。 イ付添看護費について- 20 -eの入院中には,病院の看護師が常時いるし,介護職員も付き添っているから,親族3名が付き添う必要はなかった。また,付添費が1日あたり8400円というのは高額に過ぎる。 ウ入院雑費について高額に過ぎる。 エ通院交通費について親族の付添は必要なかったので,交通費も必要なかった。 オ本件事故後e死亡までに要した介護費用について本件事故以前からeが要介護5であったことに照らせば,以前から控訴人ら主張以上の介護費用が必要であったはずであり,控訴人らの請求は高額に過ぎる。症状固定後の付添費についても,そもそも本件事故以前から付添が必要であったというべきであるから に照らせば,以前から控訴人ら主張以上の介護費用が必要であったはずであり,控訴人らの請求は高額に過ぎる。症状固定後の付添費についても,そもそも本件事故以前から付添が必要であったというべきであるから,本件事故による損害にあたらない。 カ傷害慰謝料について高額に過ぎる。 キ後遺障害慰謝料について本件事故によるeの後遺障害は8級ないし6級であるから,1級を基準とする控訴人らの請求は高額に過ぎる。 クその余については不知。 (被控訴人dの主張)すべて争う。 第3当裁判所の判断 証拠(甲1ないし9,23,24の1ないし5,35,36,46,47,48の1ないし6,51,55の1ないし3,乙A1ないし3,5,乙B1,4,10ないし12,原審証人i及び同vの証言)及び弁論の全趣旨によれば,争点( ),すなわち本件事故に至る経緯及びその後の状況等について,以下の - 21 -事実が認められる。 ( ) 本件事故前のeの身体症状及び介護状況 アeは,平成8年から特別養護老人ホームw園でデイサービスを利用し,平成9年ころから,自宅で家族の介護を受けて生活していた。 平成12年10月18日から,f園のショートステイを利用するようになり,平成13年4月1日からデイサービス,同年5月8日からは訪問介護サービスを利用するようになった。 eは,平成11年11月10日に要介護3の認定を受けて以来,平成12年12月8日には要介護4の認定を受け,平成14年11月6日に要介護5の認定を受けた。要介護5は同年12月1日から開始された。平成15年6月6日,iが成年後見人に選任された。 イ本件事故以前,eは,第三者の介助があれば,杖なしで自力歩行が可能であった。 f園への送迎時は介助歩行をしており,本件事故当日も入所時はf園の駐車場から同園の2階まで歩いて 後見人に選任された。 イ本件事故以前,eは,第三者の介助があれば,杖なしで自力歩行が可能であった。 f園への送迎時は介助歩行をしており,本件事故当日も入所時はf園の駐車場から同園の2階まで歩いて行った。f園においては,同園から,移動に便利であるため車椅子を利用して欲しいとの要望があったことから,同園においてのみ車椅子を利用していた。f園における日常生活は,トイレへ行く際には誘導が必要で,入浴は介助が必要であり,居室は畳の部屋を使用していた。 ウ平成13年9月ころ,eがf園のショートステイを利用した際,手に血の付いたガーゼを貼られて帰ってきたり,青あざを作って帰ってきたりすることがあった。また,同年10月1日にはトイレットペーパーでお尻を拭くと血が付いたことがあり,同年12月25日は点滴の跡とみられるような針の跡を作って帰ってきたことがあるが,いずれもf園からの報告はなく,原因は分からなかった。平成14年2月25日には,eが自分で転倒して頭を打ったという報告がf園からあった。その後も,ショートステ- 22 -イ利用中に,仰向けに倒れて後頭部を打ったり,左目やのど元に青あざを作って帰ってくることがあり,同年7月29日は転んで頭にたんこぶを作って帰ってきた。 iは,このような状況を踏まえ,eが怪我をした部位を示したり,意思表示をしたりできないことから,大きな怪我をしたときにはCT及びレントゲン撮影等による怪我の確認を行うようにf園に申し入れていた。 ( ) 本件事故前のjの認知症の症状及び介護状況 アjは,明治43年1月8日生まれの女性で,本件事故以前から認知症の状態にあり,本件事故当時,要介護2の認定を受けていた。本件事故の起こる半年くらい前から,f園を利用し始めた。 イ平成14年7月ころ,自宅ではほとんどベッドで寝ている状態 ,本件事故以前から認知症の状態にあり,本件事故当時,要介護2の認定を受けていた。本件事故の起こる半年くらい前から,f園を利用し始めた。 イ平成14年7月ころ,自宅ではほとんどベッドで寝ている状態であったが,移動の際は,杖を使ったり,這ったり,物に掴まって伝え歩きをしており,外出は車椅子で行っていた。なお,骨粗しょう症及び腰椎圧迫骨折の既往症又は現疾患があった。また,他人の物を自分の物であると勘違いすることがあり,その際,jの自宅では,同人を怒ることもあったが,話題を変えるなどの方法で対処していた。 しかし,同人は,元々喜怒哀楽が激しく,加えて認知症の症状が出てからは,暴言又は暴力とみられる行為に出ることがあった。 ウjは,平成14年7月9日及び10日,同月15日及び16日,同年8月15日及び16日,同年9月15日及び16日,同年10月9日ないし11日にf園のショートステイを利用していた。ショートステイ利用時,不機嫌になることがあり,不機嫌になると暴言,暴力的な行為等がみられることがあった。jは,歩行については自力独歩行はできず,伝え歩きができる程度であったから,転倒の危険性が高く,転倒防止のための見守り等注意を払う必要が高かった。f園では,職員の目の届きやすいところで過ごさせるよう注意を払っていた。 - 23 -同年7月9日からのショートステイでは,午前8時30分ころ入所し,午後6時に夕食を自室で摂り,午後9時ころまで眠っていたが,その後目を覚まして自室内を歩き回っていた。f園の職員は,jの足元が不安定で危険であったことから注意したが,jは聞き入れる様子がなく,翌10日午前3時ころまで自室内でごそごそしていた。2日目は,入浴時に少し不機嫌になるも,特に変化なく過ごした。同日午後9時ころ,家族が迎えに来て退所する際,不機嫌となっ jは聞き入れる様子がなく,翌10日午前3時ころまで自室内でごそごそしていた。2日目は,入浴時に少し不機嫌になるも,特に変化なく過ごした。同日午後9時ころ,家族が迎えに来て退所する際,不機嫌となって介護職員に対し暴言を吐いたり暴力的な行為をした。 同年7月15日からのショートステイでは,1日目は特に変化なく過ごした。2日目も午後5時ころまでは不機嫌になることもなかったが,このころ,衣類に尿がついていたことから職員が更衣をさせようとすると,興奮,立腹し,暴言を吐いたり,職員の手や体を叩いたりして抵抗した。その後,居室とデイルームを伝い歩きで行き来し,座っているように声をかけるも落ち着くことがなく,目が離せない状態となった。同日,退所時,着替えをさせようとした際にも,大声を出したり,職員に手をあげ,足で蹴ろうとするなどの行動があった。 同年8月15日からのショートステイでは,午前8時45分ころ,家族に送られて入所し,同日午前10時ころ,自室内にいるよう職員が誘導しても落ち着くことなく廊下へ出てきたりしていた。その際,足元はしっかりしていたが,職員は転倒に注意していた。2日目は,デイルームで昼食を摂った後,午後1時ころ,自室以外の部屋のベッドで休んでいたところ,その部屋の入所者と口論となり,その時対応した職員にも暴言を吐いた。 同年9月15日からのショートステイでは,入所後,同日午前10時ころ,職員が着替えをさせようとすると,引っ掻く,叩くなどして抵抗し,着替えをさせることができなかった。その他は特に変化なく過ごしたが,2日目の退所時,車椅子を使用して誘導されている際,忘れ物があるなど- 24 -と言って不機嫌となり暴力をふるった。 同年10月9日からのショートステイ時には,2日目の同月10日の日中に,車椅子に座らずに車椅子を押して歩行し して誘導されている際,忘れ物があるなど- 24 -と言って不機嫌となり暴力をふるった。 同年10月9日からのショートステイ時には,2日目の同月10日の日中に,車椅子に座らずに車椅子を押して歩行していたため,f園の職員は,転倒のおそれを考えてjに注意したが,あまり効果はなかった。同日の夕食後,他の入所者の徘徊が気になって不穏になり,歩き回っていた。職員が,車椅子で自室へ誘導しており,同日午後9時ころには落ち着いて自室内で休んだ。3日目は,日中は自室内をうろうろしたり,廊下へ出たりして過ごしていた。 jは,f園の利用を開始してから本件事故までの間,他人の物を間違えて持って帰ってきたことが1ないし2回あった。 ( ) f園内の一般的な介護状況 本件事故当時,f園にはパート4名を含めて22名の介護職員が勤務しており,午前7時から午後4時までのA勤務,午前8時30分から午後5時30分までのB勤務,午前9時45分から午後6時45分までのC勤務,午後4時から翌日の午前9時30分までのD勤務の4勤務体制で勤務していた。 f園の2階は,南西の角に16号室があり,そこから東側に15号室,13号室,12号室,11号室が,16号室の北側に17号室,18号室がある。デイルームは,内廊下を挟んで13号室ないし17号室に面した角に設けられたスペースで,廊下との間が壁で仕切られていることはなく,廊下から見渡せる作りになっていた。テーブルが3列に置かれ,テレビが置かれており,入所者がテレビを見たり食事をしたりする憩いの場として使用されていた。デイルームへは,1時間に1回程度職員が見回りをしていた。 f園では,おおむね,朝食を午前7時30分ころ,昼食を午後0時ころ,夕食を午後6時ころに摂っており,入浴は,午前又は午後2時ころに行うことが多かった。本件事故の発生した午 度職員が見回りをしていた。 f園では,おおむね,朝食を午前7時30分ころ,昼食を午後0時ころ,夕食を午後6時ころに摂っており,入浴は,午前又は午後2時ころに行うことが多かった。本件事故の発生した午後8時ころの時間帯は,通常,ほとんどの入所者が自室内で過ごしていた。 - 25 -( ) 本件事故前後の状況 アjは,平成14年11月15日から同月17日までのショートステイ,eは,同日から同月18日までのショートステイで,それぞれf園へ入所していた。f園では,転倒のおそれのある入所者には畳敷きの和室である13号室を使用させており,同月17日はjが13号室を自室として使用していた。jは,同日午後7時までには家族が迎えに来ることになっていたが,迎えが遅れており,そのまま13号室を使用していた。そして,eも同日から13号室を使用する予定であったので,jの迎えが来るまでデイルームで過ごしていた。 イ本件事故当日のf園における勤務職員は,B勤務3名,C勤務2名,D勤務3名で,事故の発生した午後8時15分ころはm,n及びoの3名の介護職員が勤務していた。 介護職員は,デイルームの医務室を挟んだ北側の寮母室に詰めており,mは,午後8時前に25号室の入所者から空調の調子がよくないとの連絡を受けて温度確認に巡回しており,nは,ゴミを捨てに階下に降り,2階にはいなかった。oは,17号室の入所者のおむつ交換を行っていた。 ウ(ア) そのころ,eは,デイルームの2列目のテーブル付近で車椅子に座ってテレビを見ていた。jは,eの車椅子を自らの物と勘違いして13号室を出てデイルームに入っていき,eの車椅子のハンドルを掴んだ。oは,jがデイルームに入っていくところを見かけたため,jのところへ行き,jに対して,jの車椅子を示し,ハンドルを掴んでいる車椅子はeのもの てデイルームに入っていき,eの車椅子のハンドルを掴んだ。oは,jがデイルームに入っていくところを見かけたため,jのところへ行き,jに対して,jの車椅子を示し,ハンドルを掴んでいる車椅子はeのものであることを説明して13号室に戻らせた。jは,自分の車椅子を受け取って自室へ戻った。 (イ) そこで,oは,17号室におむつ交換のため戻ったが,その後,jが,再度デイルームに行き,eの車椅子のハンドルを揺さぶったり,eの背中を押したりしていることに気づき,再度,jに言い聞かせて13号室- 26 -へ戻らせた。 (ウ) しかし,jは,その後も,また,デイルームへ来て,eの車椅子のハンドルを揺さぶったり,eの背中を押したりしたので,oは,また,jを13号室に戻らせた後,17号室へ戻って同室の入所者のおむつ交換を行い,更に,同室のベッドの上で失禁して眠ってしまった16号室の入所者の衣類交換を行って,同人を16号室へと誘導していた。 (エ) ところが,デイルームからドスンという物音が聞こえ,oは,16号室の入所者を自室へ送り届けた後,すぐにデイルームへと向かったところ,デイルームでは,eが車椅子の横に車椅子の方向とは反対方向を向いてうつぶせに倒れていた。車椅子は倒れておらず,jは,車椅子の背後にハンドルを掴んで立っていた。oが,声を出してmを呼んだところ,介護員室付近にいたmがデイルームへと駆けつけた。 ( ) 本件事故後のf園の対応及びeに対する治療状況 ア本件事故後,mがeを抱え起こし,処置を行うためにoと共に介護員室へ連れて行った。eは,左前頭部を打撲した様子で,同箇所から血がにじんでいた。mとoは,eの傷の処置として,同箇所にアイシングを行い,ほかに怪我がないか身体のチェックを行ったが,打撲痕等は見当たらず,eが痛みを訴えるような態度を 打撲した様子で,同箇所から血がにじんでいた。mとoは,eの傷の処置として,同箇所にアイシングを行い,ほかに怪我がないか身体のチェックを行ったが,打撲痕等は見当たらず,eが痛みを訴えるような態度を示すこともなかった。 f園では,同園の相談員及び看護師に連絡をとってeが負傷した状況及びeの状態を報告し,看護師の指示により隣接するg病院の医師に往診してもらうことにした。同病院に連絡したところ,同日午後9時45分ころ,同病院から医師が往診に来た。医師は,1ないし2時間おきにバイタルチェックを行い,頭部にアイシングを続行するよう指示をした。同日午後9時30分ころ,mが,eの家族に電話で連絡し,本件事故が発生したことと怪我の状態について説明し,往診後に再度電話をして,医師に診てもらったところ大丈夫であると説明し,来園する必要はないと言った。 - 27 -イ同月18日,eは,g病院において受診した。その際,被控訴人aの職員は,同病院の医師に対し,eが車椅子に座っていて,他の利用者から押されて前方へと転落した旨説明した。同病院では,eの左目の下には皮下出血があり,頭を強く打っていると認められたため,頭部のレントゲン撮影及びCT検査を行い,更に,骨折の有無を判断するため,膝関節については他動的に左右に動かしたり,屈曲させ,股関節については叩打した際の叩打痛の有無を確かめたが,いずれもeが痛みを訴えたり,痛そうな表情や態度を示すことはなく,脚部に骨折の疑いはないと判断した。 また,レントゲン撮影の際,レントゲン技師及び補助員が,eの頭部側と両足側をそれぞれ両手で抱きかかえてレントゲン台又はCT台へと移動させたが,その際eが痛みを訴えたり,顔を歪めたりすることもなかった。 同日の診断結果は,頭部外傷Ⅱ型とされている。 ウ同月20日,eはf園のショートス 手で抱きかかえてレントゲン台又はCT台へと移動させたが,その際eが痛みを訴えたり,顔を歪めたりすることもなかった。 同日の診断結果は,頭部外傷Ⅱ型とされている。 ウ同月20日,eはf園のショートステイを利用する予定になっていたが,朝起きることができず,足が立たなかったこと,右目が腫れて開かない状態であったことから,ショートステイを休んだ。 同月22日午後1時30分ころ,eが歩けないとeの家族がf園に連絡したことから,f園の課長及び職員1名が付き添ってeを自宅まで迎えに行き,h病院を受診させた。h病院の医師には,eが左足を痛がっていることが伝えられ,同医師は,頭部CT,左大腿部及び左膝部X-Pの撮影を行うことを指示した。しかし,撮影時,eと意思疎通を図ることが困難であり,また,eは腰部,股関節,膝等が屈曲,硬化していたため適切な撮影体位を自力でとることができなかった。そのため,付添人の介助を得て可能な範囲で大腿部等を固定して撮影を行ったが,eが強く抵抗し,放射線技師の左頬を殴るなどの行動を始めたため,撮影台から転落する危険が生じた。そこで,放射線技師は,それ以上の撮影継続は危険であると判断し,撮影を中止したため,頭部CT及び左大腿部X-Pは撮影されたが,- 28 -左膝部X-Pは撮影できなかった。 同日の診断結果は,撮影したCTに異常はなく,左大腿部には骨折はないとされ,頭部打撲,顔面打撲,左下肢打撲との傷病名であった。 ( ) 本件事故後におけるeのf園でのショートステイ状況 同月23日ないし同月25日にかけてeは,ショートステイでf園を利用した。その際,eの家族から,自宅では畳の上で座椅子に座って生活しているから,f園内でも畳の上で生活をさせて欲しいとの依頼があった。f園では,eが歩行困難にならないようにするため,eの家族の承諾 用した。その際,eの家族から,自宅では畳の上で座椅子に座って生活しているから,f園内でも畳の上で生活をさせて欲しいとの依頼があった。f園では,eが歩行困難にならないようにするため,eの家族の承諾を得て,eの足の曲げ伸ばし運動を行っており,3日間のショートステイ中に少なくとも3回の足の曲げ伸ばし運動を行った。その際,左膝を屈曲,進展すると痛みを訴えたり,顔を歪めたりすることがあり,eが痛がった時には,屈曲運動は直ちに中止された。 ( ) 本件事故後のeの治療及び介護状況等 ア上記( )の同月22日の診察の際の担当医は脳神経外科専門であり,下 肢については専門外であったことから,同医師が整形外科の受診を指示し,同月26日に,整形外科の予約をした。同日,同病院整形外科を受診したところ,左大腿骨頚部骨折と診断され,eの家族に手術の必要性について説明がなされ,k病院が紹介された。 イeは,骨折の治療のため,同月27日からk病院へ入院し,同月29日に手術を受けた。同年12月2日から同月24日までの間,f園の職員が,入院しているeに朝夕付き添い,食事の介助を行った。 ウeは,平成15年2月22日にk病院を退院後,y苑のショートステイ,qステーションの訪問介護とデイサービス,rステーションを利用するようになった。また,同年1月21日,両股・膝関節拘縮,両下肢の機能全廃(左股関節に人工骨頭置換)との障害名で,l県から身体障害者等級表1級に認定された。 - 29 -上記のとおり認められ,上記認定を覆すに足りる証拠はない。そこで,以下上記認定の事実及び前記前提となる事実を踏まえて,争点( )以下の被控訴人 らの義務違反の有無について判断する。 争点( )(被控訴人aが,f園における入所者の管理について,適切な管理 を行わなかった安全配 び前記前提となる事実を踏まえて,争点( )以下の被控訴人 らの義務違反の有無について判断する。 争点( )(被控訴人aが,f園における入所者の管理について,適切な管理 を行わなかった安全配慮義務違反の有無)について( ) まず,本件契約(eと被控訴人aとの間のショートステイ利用契約)の内 容等についてみるに,本件契約は,事業者が,介護保険法令の趣旨に従い,契約者がその有する能力に応じ,可能な限り自立した日常生活を営むことができるように支援することを目的とし,事業者が,契約者に対して介護保険給付対象サービスとしての入浴,排せつ,食事等の介護その他日常生活上の世話及び機能訓練を提供し,また,契約者との合意に基づき介護保険給付対象外のサービス等を提供するものである。そして,事業者の義務として,事業者及びサービス従事者は,サービスの提供にあたって契約者の生命,身体,財産の安全に配慮すること,事業者は,契約者の体調・健康状態からみて必要な場合には,事業所の看護職員もしくは主治医又はあらかじめ定めた協力医療機関と連携し,契約者からの聴取・確認のうえでサービスを実施すること,事業者及びサービス従事者は,契約者又は他の利用者等の生命又は身体を保護するため緊急やむを得ない場合を除き,身体的拘束その他契約者の行動を制限する行為を行わないこと,事業者は,サービス提供時において,契約者の病状の急変が生じた場合その他必要な場合は,速やかに主治医又はあらかじめ定めた協力医療機関への連絡を行う等の必要な措置を講じることが定められている(甲5。 )( ) 控訴人らは,f園では,本件契約に基づいて,十分な介護が可能である程 度の人員配置を行うべきであるのに,十分な人数の職員を配置していなかったこと自体が安全配慮義務違反に当たる旨主張する。 そして,前記 人らは,f園では,本件契約に基づいて,十分な介護が可能である程 度の人員配置を行うべきであるのに,十分な人数の職員を配置していなかったこと自体が安全配慮義務違反に当たる旨主張する。 そして,前記認定のとおり,本件事故当日,f園では,約70名の入居者- 30 -がおり,これに対し,午後5時までは8名の介護職員が,午後6時45分以降,すなわち,本件事故が発生した午後8時15分ころは,3名の介護職員のみが勤務している状況であった。 しかしながら,このような人員の配置自体が介護保険法や老人福祉法及びその他の関係法令に違反するというものであれば格別,このような事実を認めることのできない本件においては,上記のような人員配置の結果,入所者に対して十分な配慮や対応ができず,その結果,安全配慮義務違反が生ずる結果となったとの事情の一つとして考慮されることはあり得るとしても,このことが直ちに,違法なものであり,被控訴人aの負う安全配慮義務に違反するということはできないものというべきである。 ( )アその一方で,被控訴人aにおいては,上記( )のとおりの約款にもいう とおり,その事業者の義務として,サービスの提供にあたり,契約者の生命,身体の安全に配慮すべき義務を負うことは当然のことであり,そこで,本件における具体的な状況の下で,被控訴人aにおいて,このような義務を怠ったとの事実が認められるどうかについて検討する。 イ(ア) 前記認定の事実によれば,本件事故の発生した平成14年11月17日午後8時15分ころは,m,n及びoの3名の介護職員が勤務し,そのうち,mは,他の入所者から空調の調子がよくないとの連絡を受けて温度確認に巡回しており,nは,ゴミを捨てに階下に降りていて2階にはおらず,oは,17号室の入所者のおむつ交換を行っているという状態で,い ,mは,他の入所者から空調の調子がよくないとの連絡を受けて温度確認に巡回しており,nは,ゴミを捨てに階下に降りていて2階にはおらず,oは,17号室の入所者のおむつ交換を行っているという状態で,いわば上記3名の手は,それぞれ塞がっている状態であった。 他方,当日は,jが13号室を自室として使用し,同日午後7時までには家族が迎えに来ることになっていたが,迎えが遅れたため,そのまま13号室を使用し,その後に同室を使用する予定であったのeは,jの迎えが来るまでデイルームで待機し,車椅子に座ってテレビを見ている状態であった。 - 31 -(イ) このような折り,jは,eの車椅子を自らの物と勘違いしてデイルームに入って行き,eの車椅子のハンドルを掴んだだため,oは,いったんは,その車椅子はeのものであることを説明して13号室に戻らせた。 (ウ) しかし,jは,再度,デイルームに来て,eの車椅子のハンドルを単に掴んでいたというのではなく,これを揺さぶり,さらに,eの背中を押したりしていたというものであり,この際も,oは,jに言い聞かせて13号室へ戻らせた。 (エ) ところが,jは,3度目にデイルームへ来て,eの車椅子のハンドルを揺さぶったり,eの背中を押したりしていたものの,oは,また,jを13号室に戻らせることをしたのみで,17号室へ戻り,他の入所者の介護等を行っていたところ,デイルームからドスンという物音が聞こえ,本件事故の発生を知ったというものである。 ウ以上によれば,jは,2度,3度と重ねて執拗にeの乗っている車椅子は自分の物であると主張し,しかも,その行為も,単に車椅子を掴むというものではなく,これを揺さぶり,さらに,eの背中を押したりと直接有形力を行使していたものである。そして,このようなjの行動に照らせば,jは,oの説得には納得せ も,その行為も,単に車椅子を掴むというものではなく,これを揺さぶり,さらに,eの背中を押したりと直接有形力を行使していたものである。そして,このようなjの行動に照らせば,jは,oの説得には納得せず,その後も継続してeに同様の行為を行うことは予測可能であったというべきであり,このことは,被控訴人aにおいても,自認するところであって,むしろ,このような経過に照らせば,jの行動は,さらにエスカレートしていくことも十分に予測可能であったといえる。 しかも,jは,日頃から,f園において,不機嫌となって介護職員に対し暴言を吐いたり暴力的な行為をしたり,更衣に際し,興奮,立腹し,暴言を吐いたり,職員の手や体を叩いたりして抵抗した,また,大声を出したり,職員に手をあげ,足で蹴ろうとした,職員が着替えをさせようとすると,引っ掻く,叩くなどして抵抗し,着替えをさせることができなかっ- 32 -た等の暴言や暴力行為を行っていて,f園の職員においては,このようなjの言動を承知していたはずである。加えて,jは,本件事故当時92歳で,自力歩行はできなかったが,原審証人vの証言によれば,若いときから肉体労働をしていて腕力が強く,他方,甲49,50によれば,eは,身長140センチメートルに満たず,体重約33キログラム程度の小柄な体格であり,前記のように,jが,eの車椅子のハンドルを揺さぶったり,eの背中を押したりすれば「前方へと転落(乙B11)させ,本件の,」ような事故が発生しうることは容易に予見が可能であったというべきである(身長が低く,体重の軽いeでも,車椅子に深く座っていれば,たやすく落下することはないと考えられるが,eがjの行動を避けようとして身体をずらしたりすると,前方へ落下することは十分ありうることである。 。)そうであれば,oは,単に, に深く座っていれば,たやすく落下することはないと考えられるが,eがjの行動を避けようとして身体をずらしたりすると,前方へ落下することは十分ありうることである。 。)そうであれば,oは,単に,jを自室に戻るよう説得するということのみではなく,さらに,eを他の部屋や階下に移動させる等して,jから引き離し,接触できないような措置を講じてeの安全を確保し,本件事故を未然に防止すべきであったものというべきところ,このような措置を講ずることなく,本件事故を発生させたものであり,被控訴人aには,安全配慮義務の違反があるといわざるを得ない。 エこれに対し,被控訴人aは,jは,自力独立歩行はできず,杖を使うか這うか,伝い歩きをして移動していたこと,本件事故当時92歳であったこと,骨粗しょう症を患っていたことなど,jの当時の心身の状況に照らすと,jがeを車椅子から落とすほどに強い有形力を行使するとは考え難いし,もし,jがeを押し倒すことができたとしても,その際には,jも転倒してしまうはずであるなどと旨主張する。 しかし,実際,jは,伝い歩き等はできるのであり,車椅子のハンドル等に掴まり立ちすれば,手は十分に使うことができるし,むしろjの腕力- 33 -は強く,現に,eの車椅子のハンドルに掴まり立ちし,そのハンドルを揺さぶったり,eの背中を押したりした結果,車椅子に深く座り続けることのできなくなったeが,前方に転落し,本件事故が発生したと認められるものであるから,同被控訴人の上記主張は,採用することができない。 ( ) 以上によれば,争点( )(被控訴人aが,eに適切な治療を受けさせる義 務があったにもかかわらず,これを怠った注意義務違反の有無)について判断するまでもなく,被控訴人aには,本件事故につき,安全配慮義務の違反があり,eに生じた が,eに適切な治療を受けさせる義 務があったにもかかわらず,これを怠った注意義務違反の有無)について判断するまでもなく,被控訴人aには,本件事故につき,安全配慮義務の違反があり,eに生じた損害について,これを賠償する責任があるというべきである。 争点( )(被控訴人dが,eに対し,適切な診断を行うべきであったのに, これを怠った注意義務違反の有無)について( ) 控訴人らは,eの骨折を早期に判明させるために,より早い時期に足のレ ントゲン撮影を行うべきであったと主張する。 しかし,前記認定のとおり,eは,平成14年11月18日にg病院を受診した際,足の痛みを訴えることはなかったところ,eが認知症であり,意思疎通が十分に行えないとしても,要介護5の者であっても,痛みを感じる能力はあるとされており,実際,eはf園において痛みに反応して顔を歪めたりすることもあったのであるから,態度で痛みを示すことは可能であったことが認められる。加えて,同日,g病院の医師は,骨折の可能性を念頭におき,膝の他動運動等を行ったけれども,eが,痛みを感じているような反応を見せることはなく,その他,骨折を疑わせる症状は見受けられなかったのであるから,医師としては,足のレントゲンを撮る必要がないと判断しても,無理からぬことである。 控訴人らは,eは,帰宅後,半狂乱の状態で「痛い」と訴えていたこ,。 となどから,g病院においても,痛みを訴えていたはずである旨主張するが,上記認定のとおり,eが,g病院においても,痛みを訴えていたとの事実は,- 34 -これを認めることができない。 よって,同日,g病院の医師にレントゲン撮影を行うべき義務は認められず,レントゲン撮影を行わなかったことが,適切な診察をする義務に違反しているとはいえない。 ( ) さらに,e めることができない。 よって,同日,g病院の医師にレントゲン撮影を行うべき義務は認められず,レントゲン撮影を行わなかったことが,適切な診察をする義務に違反しているとはいえない。 ( ) さらに,eは,同月22日及び26日にh病院を受診しており,26日に 骨折が判明したところ,同月22日には,eの家族において,eが足を痛がることを理由として同病院を受診したことからすると,同病院の医師としては,骨折の可能性を念頭において,原因を明らかにすべく診察する義務があり,検査方法としては,レントゲン等の撮影が適切な方法であるといえる。 そして,同日の検査では,左膝部X-P撮影が実施できなかったのであるが,これは,前記のとおり,医師が頭部CT,左大腿部及び左膝部X-P撮影を指示し,放射線技師が撮影を行おうとしたにもかかわらず,eが暴れたため,頭部CT及び左大腿部X-Pのみしか撮れなかったという事情があったところ,レントゲン撮影には,患者が撮影に適した体勢で一定時間制止している必要があり,患者が暴れるなどして医師の指示に従わない場合,医師らが暴れる患者を無理矢理押さえつけるなどすれば,かえって患者に怪我をさせるおそれもあるうえ,現に,eは,放射線技師の左頬を殴るなどし,暴れて撮影台から転落する危険性があったとの事実に照らせば,eが認知症の状態にあり,自己の置かれている状況について十分な認識が不可能であったことを考慮に入れたとしても,医師には,上記の程度の強制力を用いてレントゲン撮影を敢行しなければならない義務まではなかったというべきである。 そうすると,同月22日の診察では,医師が行うべきことで,なしうる範囲のことは行ったと認められるから,この日の診断について,h病院の医師が,適切な診断を怠ったとは認められない。 以上のとおりであるから,g病院及びh病 2日の診察では,医師が行うべきことで,なしうる範囲のことは行ったと認められるから,この日の診断について,h病院の医師が,適切な診断を怠ったとは認められない。 以上のとおりであるから,g病院及びh病院の医師が,レントゲン撮影を始めとする診察を行うべき義務に反して必要な診察を行わなかったとは認め- 35 -られないから,被控訴人dに債務不履行ないし不法行為責任は認められない。 争点( )の被控訴人aが賠償すべき額について ( ) 本件事故により,eが被った損害について検討するに,前提となる事実に, 甲1,10ないし13,14の1ないし16,15,16の各1,2,17,18の1ないし4,19及び20の各1ないし8,21の1ないし9,22の1ないし4,37ないし43,64,原審証人iの証言及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。 eは,本件事故による左大腿骨頚部骨折の治療のために,平成14年11月27日,k病院に入院し,同月29日,左人工骨頭置換術の手術を受け,同年12月19日,同術後感染と診断されて,同月24日再手術を受けた。 そして,平成15年1月21日,両股・膝関節拘縮,両下肢の機能全廃(左股関節に人工骨頭置換)との障害名でl県から身体障害者等級表1級に認定され,同年2月22日,同病院を退院し,その後,数か所のショートステイや訪問介護等を利用していたところ,eは,平成16年9月28日死亡した。 そして,これらの経過において,本件事故と相当因果関係のあるeに生じた損害は,次のとおりと認めるのが相当である。 ア治療費関係27万0357円(ア) 治療費(k病院)23万6010円a整形分(入院分,甲14の1ないし7)22万9980円b口腔分(甲14の9ないし12)3330円本件事故により,eは寝たきりとなること 357円(ア) 治療費(k病院)23万6010円a整形分(入院分,甲14の1ないし7)22万9980円b口腔分(甲14の9ないし12)3330円本件事故により,eは寝たきりとなることを余儀なくされ,これによってあごの肉がやせ細ったために入れ歯が合わなくなったことから,入れ歯の調整をしたことに要したものである。 c退院後の治療費(甲14の13ないし16)退院後に脚に異常がないかどうか,レントゲン撮影及び血液検査を- 36 -月1回の割合で4か月間行った。 2700円(イ) 器具等の代金2万8047円aリハビリ用のスポーツシューズ(甲15の1)2047円b股関節固定キーパー代(甲15の2)2万6000円(ウ) 文書料(甲14の8,16の1,2)6300円イ付添看護費(甲17,64)53万4000円eは,平成14年11月27日から平成15年2月22日までの89日間入院したところ,eは,認知症であったため,常時家族の付添が必要な状態であり,病院側からも,意思の伝達のためや食事あるいはリハビリ室への往復等に際し,家族の付添を要請されていたこと,また,f園から来ていたヘルパーは,平成14年12月22日ころまでで,それも主に朝食と夕食の介助だけであったことなどから,この間の介護は,24時間態勢で,家族全員の協力が必要であり,これに要した費用としては,1日6000円に入院期間89日間を乗じた53万4000円と認めるのが相当である。 ウ入院雑費13万3500円上記89日間の入院雑費として,1日1500円とし,その合計額13万3500円。 エ通院交通費(甲17,18の1ないし4)2万4468円p分1万4892円往復14.6㎞,1㎞あたりを走行するのに要するガソリン代を12円として,付添のために85回通 額13万3500円。 エ通院交通費(甲17,18の1ないし4)2万4468円p分1万4892円往復14.6㎞,1㎞あたりを走行するのに要するガソリン代を12円として,付添のために85回通院した合計額。 i分9576円往復8.4㎞,1㎞あたりを走行するのに要するガソリン代を12円として,付添のために95回通院した合計額。 オ本件事故後eが死亡するまでに要した介護費用の増額分- 37 -99万4913円本件事故前の平成14年1月から10月までのeの介護に要した費用は1か月あたり4万7342円であったところ,eがk病院を退院した平成15年2月22日から死亡した平成16年9月28日までの19か月間に負担した費用の合計は次のとおり189万4411円であり,その差額99万4913円(-×=)1,894,41147,342 994,913qステーション,xケアセンター利用料(甲19の1ないし8,37)30万1434円rステーション(甲20の1ないし8,38)8万3759円s苑,y苑,z園利用料(甲21の1ないし9,39)120万2759円介護タクシー(甲40)2万3050円ベッド,車椅子レンタル料(甲22の1ないし4,41)4万8750円訪問医師(tクリニック,u皮ふ科分(甲22の1ないし4,42)10万0719円紙おむつ代(甲43)13万3940円カ症状固定後の付添費112万8214円上記イの入院中の付添看護の状況からしても,退院後,本件事故以前と比較して,eの介護にはより困難度を増し,家族らが協力してこれに当たってきたところ,退院時の平成15年2月22日から死亡時の平成16年9月28日までの585日間について,週3日は,1日中自宅で介護を行い,週3日は,自宅で半日介護を行ってきたことが認 してこれに当たってきたところ,退院時の平成15年2月22日から死亡時の平成16年9月28日までの585日間について,週3日は,1日中自宅で介護を行い,週3日は,自宅で半日介護を行ってきたことが認められる。しかし,同時に,上記介護施設を利用することにより,多少なりとも家族の負担は軽減されているものと認められ,これらの事情を考慮すると,上記1日あたりの付添費を3000円として計算するのが相当であり,これによれば,- 38 -上記の金額となる(××=)3,000 41,128,214÷7.キ傷害慰謝料150万円通院10日,入院3か月の傷害慰謝料は150万円が相当である。 ク後遺障害慰謝料500万円eは,最終的には,両股・膝関節拘縮,両下肢の機能全廃との障害名で身体障害者等級表1級に認定されているものの,本件事故による直接の傷害は,左大腿骨骨折であり,これにより左股関節に人工骨頭置換術を受けたところ,これのみでは,上記後遺障害までには至らなかったものと推認されるところ,その後に術後感染があり,そのために再手術を余儀なくされ,その後の経過により,上記の障害等級の認定に至っていること,eは,本件事故以前,自力歩行には第三者の介助が必要であったこと,さらに,その年齢等を考慮すると,本件事故と相当因果関係のある後遺障害による慰謝料の額としては,500万円と認めるのが相当である。 ケ弁護士費用96万円本件事案の内容,本件事件の審理経過等,諸般の事情を考慮すると,弁護士費用としては,96万円が相当である。 コeは,以上のとおり,合計1054万5452円の損害を受けた。 ( ) eは,以上のとおり,合計1054万5452円の損害を受けたところ, 控訴人らは,これを2分の1ずつの割合で相続した。 従って,控訴人 以上のとおり,合計1054万5452円の損害を受けた。 ( ) eは,以上のとおり,合計1054万5452円の損害を受けたところ, 控訴人らは,これを2分の1ずつの割合で相続した。 従って,控訴人b及び控訴人cが被控訴人aから支払われる損害額は,それぞれ527万2726円となる。 まとめそうすると,控訴人らの被控訴人らに対する本訴請求は,被控訴人aに対し,債務不履行に基づく損害賠償請求として,控訴人b及び控訴人cにおいて,それぞれ527万2726円の支払を求める限度で理由があるから認容すべきであるが,その余の請求は,いずれも理由がないから,これを棄却すべきであり,- 39 -また,被控訴人dに対する請求は,いずれも理由がないから,これを棄却すべきである。 第4 結論 よって,控訴人らの被控訴人らに対する本訴請求中,被控訴人aに関する部分を上記のとおり変更し,被控訴人dに関する部分の本件控訴を棄却し,主文のとおり判決する。 大阪高等裁判所第1民事部裁判長裁判官横田勝年裁判官梅津和宏裁判官植屋伸一
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