令和6年7月11日判決言渡同日原本領収裁判所書記官令和4年(ワ)第1413号国家賠償請求事件口頭弁論終結日令和6年3月11日判決当事者:別紙当事者目録記載のとおり 主文 1 被告は、原告に対し、1万1000円及びこれに対する平成27年3月3日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 原告のその余の請求をいずれも棄却する。 3 訴訟費用は、これを300分し、その299を原告の負担とし、その余は被 告の負担とする。 事実 及び理由第1 請求の趣旨 1 被告は、原告に対し、220万円及びこれに対する平成26年3月31日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 被告は、原告に対し、55万円及びこれに対する平成30年8月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 3 被告は、原告に対し、33万円及びこれに対する令和3年10月15日から支払済みまで年3分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要 A労働基準監督署長(以下「A署長」という。)は、原告の父であるB(以下「亡B」という。)に係るアスベスト関連事業場に関する労災給付実地調査復命書等を廃棄した。 本件は、原告が、①A署長が、通達及び事務連絡に反して亡Bに係る労災給付実地調査復命書等の保存期間を常用ないし30年に変更しなかったこと、② A署長が、厚生労働省が平成27年に実施したアスベスト関連文書の誤廃棄に 関する調査において上記廃棄の事実をC労働局や厚生労働省に報告せず、原告に対しても上記廃棄に関する連絡をしなかったこと、③C労働局長が、A署長から上記廃棄の事実について報告を受けたにもかかわらず、厚生労働省が平成30年に実施したアスベスト関連文書の誤 に報告せず、原告に対しても上記廃棄に関する連絡をしなかったこと、③C労働局長が、A署長から上記廃棄の事実について報告を受けたにもかかわらず、厚生労働省が平成30年に実施したアスベスト関連文書の誤廃棄に関する調査において上記廃棄の事実について報告を行わず、A労働基準監督署に対しこのことについて原告 に連絡するよう指示しなかったこと、④C労働局長が、亡Bに係る労災給付実地調査復命書等の保有個人情報開示請求に対して令和3年10月15日付けで部分開示決定を行った際、亡Bに係る労災給付実地調査復命書等を廃棄したことを決定通知書に記載せず、原告が文書により証明を求める事項を聴取し、証明が可能な範囲でその内容を整理し、労働基準監督署名で文書により回答する という措置を講じなかったことが、それぞれ国家賠償法1条1項の適用上違法である旨主張し、被告国に対し、国家賠償法1条1項に基づき、次の各請求をする事案である。 ⑴ 上記①の不作為によって原告に生じた損害220万円及びこれに対する不法行為の日(原告が主張する廃棄の日)である平成26年3月31日から支 払済みまで平成29年法律第44号による改正前の民法(以下「改正前民法」という。)所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める請求(第1・1)⑵ 上記②及び③の不作為によって原告に生じた損害55万円及びこれに対する不法行為の終期である平成30年8月1日から支払済みまで改正前民法所 定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める請求(第1・2)⑶ 上記④の不作為によって原告に生じた損害33万円及びこれに対する不法行為の日(部分開示決定が行われた日)である令和3年10月15日から支払済みまで民法所定の年3分の割合による遅延損害金の支払を求める請求(第1・3) 原告に生じた損害33万円及びこれに対する不法行為の日(部分開示決定が行われた日)である令和3年10月15日から支払済みまで民法所定の年3分の割合による遅延損害金の支払を求める請求(第1・3) 1 関係法令の定め 関係法令の定めは、別紙関係法令の定めのとおりである。 2 前提事実(当事者間に争いがない事実並びに後掲各証拠及び弁論の全趣旨により容易に認定することができる事実)⑴ 通達等の定め(甲4、5)ア厚生労働省大臣官房地方課長は、平成17年12月27日、都道府県労 働局長に対し、アスベスト関連事業場に関する労災給付実地調査復命書等については、現行の文書管理規定に定める文書の保存期間にかかわらず、当分の間、廃棄することなく保存することとされたい旨などを通知する「アスベストに関連する文書の保存について」と題する通達(以下「平成17年通達」という。)を発出した。 イまた、厚生労働省大臣官房地方課長補佐は、同日、都道府県労働局総務部長に対し、①アスベストに関連する文書は当分の間は廃棄することなく保存すること、②行政文書ファイル管理簿上の保存期間欄には、体裁上、最長の保存期間である30年と記載すること、③保存期間30年が経過した後も、当該文書を廃棄することなく当分の間保存し続けることなどを通 知する「アスベストに関連する文書の保存に当たって留意すべき事項について」と題する事務連絡を発出した(以下「平成17年事務連絡」といい、平成17年通達と平成17年事務連絡を併せて「平成17年通達等」という。)。 ⑵ A労働基準監督署(以下「A署」という。)におけるアスベストに関連する 文書の取扱い状況A署長は、平成17年通達等が存在したにもかかわらず、平成2 年通達等」という。)。 ⑵ A労働基準監督署(以下「A署」という。)におけるアスベストに関連する 文書の取扱い状況A署長は、平成17年通達等が存在したにもかかわらず、平成27年度まで、A労働基準監督署標準文書保存基準(平成28年度以降の名称はA労働基準監督署標準文書保存期間基準。以下「本件文書保存基準」という。)のうち「補償関係調査復命書綴」の保存期間について、アスベストに関連する か否かを問わず「5年」としていた。なお、A署長は、平成28年度におい て、労災・補償に関する「アスベスト関連文書綴」を新たに行政文書ファイルとして設定し、その保存期間を「常用」とした。(甲23、乙1、2、弁論の全趣旨)⑶ 亡Bに係る労災記録の作成及び保存状況ア原告は、労災保険の中小事業主等特別加入をしていた父である亡Bが建 設現場におけるアスベスト粉じんのばく露により「胸膜中皮腫」に罹患し、平成▲年▲月▲日に死亡したのは業務に起因したものであるとして、平成20年▲月▲日にA署長に遺族補償一時金等の支給を請求した。A署長は、亡Bの胸膜中皮腫が業務に起因した疾病であるとして同年▲月▲日、遺族補償一時金等の支給決定を行った。(甲3〔3~7頁〕) イ A署長は、亡Bに係る「保険給付に関する実地調査復命書」及びその添付資料(以下「本件実地調査復命書等」という。)を平成20年度「保険給付に関する実地調査復命書綴」(以下「本件復命書綴」という。)に編綴した。(弁論の全趣旨)ウ A署長は、本件復命書綴を本件文書保存基準上「補償関係調査復命書綴」 に分類し、その保存期間を平成26年3月31日とした。A署長は、平成27年2月12日、本件復命書綴の廃棄を決定した。A署職員は、同年3月3 命書綴を本件文書保存基準上「補償関係調査復命書綴」 に分類し、その保存期間を平成26年3月31日とした。A署長は、平成27年2月12日、本件復命書綴の廃棄を決定した。A署職員は、同年3月3日、専門業者に委託をして本件復命書綴を廃棄し、これにより、本件実地調査復命書等は廃棄された(以下「本件廃棄」という。)。なお、本件実地調査復命書等の一部は、写しが現存している。(甲3、乙3〔8枚 目〕、乙4)⑷ 平成27年の厚生労働省による調査厚生労働省は、平成27年9月1日付けで、都道府県労働局長に対し、アスベスト関連文書は、平成17年通達により、文書の保存期間に関わらず当分の間廃棄することなく保存するよう指示されているが、複数の労働局にお いて保存期間が満了した他の行政文書と併せてアスベスト関連文書が誤廃 棄されていた事例が発覚したとして、このような誤廃棄が発生することがないよう、①行政文書ファイルの中にアスベスト関連文書とそれ以外とが編綴されているものについては、平成27年度末までにアスベスト関連文書を抜き出し、それまで保有している行政文書ファイルの破棄はしないこと、②アスベスト関連文書に係る行政文書ファイルには、アスベスト関連文書である 旨及び保存期間は「常用」である旨を標示することなどを徹底することを求める通知をした。そして、厚生労働省は、平成27年9月1日付けで、都道府県労働局労働基準部長に対し、アスベスト関連文書の保存状況を確認の上、誤廃棄の有無等の報告を行うように依頼をした(以下、厚生労働省によるこの調査を「平成27年調査」という。)。上記アスベスト関連文書には、アス ベストに関連する労災保険給付に関する実地調査復命書が含まれている。 A署は、C労働局の指示を受け、アス よるこの調査を「平成27年調査」という。)。上記アスベスト関連文書には、アス ベストに関連する労災保険給付に関する実地調査復命書が含まれている。 A署は、C労働局の指示を受け、アスベスト関連疾患に係る実地調査復命書等の関係書類の保管状況を確認したが、平成20年度に支給決定した被災者3名(亡Bを含む。)に係る労災給付請求について、調査結果復命書の写しが残存していれば誤廃棄に該当しないものと判断し、誤廃棄はない旨の報告 をC労働局に対して行った。(以上につき、甲7、8、18〔1、3頁〕、甲19の2〔23頁〕、甲43)⑸ A署長による誤廃棄の事実の把握平成20年度に支給決定した被災者3名のうち1名の遺族から、平成30年3月23日、当該被災者に係る保有個人情報の開示請求があった。これに より、A署長は、当該被災者に係る実地調査復命書等を誤廃棄していることを認識した。(甲18〔3頁〕)⑹ 平成30年の厚生労働省による調査厚生労働省は、平成30年5月11日、都道府県労働局労働基準部長に対し、アスベスト関連文書の保存状況を確認の上、報告を行うように依頼をし た(以下「平成30年調査」という。)。 A署長は、平成30年6月、C労働局長に対し、本件実地調査復命書等を含む3件のアスベスト関連文書を誤廃棄しており、調査復命書の写ししか残存していないことを報告した。 しかし、C労働局は、平成30年6月13日、厚生労働省に対し、平成30年調査で新たに判明したアスベスト関連の労災保険給付等実地調査復命書 の誤廃棄事案は0件であると報告した。(以上、甲15、甲18〔1、3頁〕、甲19の2〔23~26頁〕、甲33、47、弁論の全趣旨)⑺ 原告に対する本件廃棄 の労災保険給付等実地調査復命書 の誤廃棄事案は0件であると報告した。(以上、甲15、甲18〔1、3頁〕、甲19の2〔23~26頁〕、甲33、47、弁論の全趣旨)⑺ 原告に対する本件廃棄の発生の通知A署長は、平成31年3月18日、原告に対し、本件廃棄の発生を書面で通知した。(乙5) ⑻ 原告による保有個人情報の開示請求等原告は、令和3年9月14日、C労働局長に対し、行政機関個人情報保護法に基づき、「A署に保管されている、亡Bがアスベストによる悪性中皮腫として死亡したことについて原告がした、遺族補償給付請求に関する調査結果復命書、添付資料一切、その他労災一件記録すべて」を対象として、保有 個人情報の開示請求を行った(以下「本件開示請求」という。)。(甲1の1)C労働局長は、同年10月5日付けで、原告に対し、個人情報の部分開示をする旨の決定通知を行った(以下、同決定を「本件部分開示決定」といい、同決定の通知文書を「本件通知書」という。)。本件通知書の「不開示とし た部分及びその理由」欄には、開示対象に係る保有個人情報には、行政機関個人情報保護法14条2号所定の不開示事由が存在する旨が記載されているが、本件廃棄の発生に関する記載はない。(甲2、3) 3 争点⑴ A署長が、本件実地調査復命書等の保存期間を常用ないし30年に変更し なかった不作為(以下「本件不作為1」という。)が国家賠償法1条1項の 適用上違法であるか否か(争点1)⑵ 本件不作為1による原告の損害(争点2)⑶ ①A署長が、平成27年調査において、本件廃棄の発生をC労働局や厚生労働省に対して報告せず、原告に対しても本件廃棄に関する連絡をしなかった不作為及び②C労働局長が、平 原告の損害(争点2)⑶ ①A署長が、平成27年調査において、本件廃棄の発生をC労働局や厚生労働省に対して報告せず、原告に対しても本件廃棄に関する連絡をしなかった不作為及び②C労働局長が、平成30年調査において、A署から本件廃棄 について報告を受けたにもかかわらず、厚生労働省に対して直ちに報告せず、A署に対しても本件廃棄について原告に連絡するよう指示しなかった不作為(以下、①及び②を併せて「本件不作為2」という。)が国家賠償法1条1項の適用上違法であるか否か(争点3)⑷ 本件不作為2による原告の損害(争点4) ⑸ C労働局長が、本件廃棄の発生を本件通知書に記載せず、原告が証明を求める事項を聴取し、証明が可能な範囲で内容を整理し、労働基準監督署名で文書により回答するという措置を講じなかった不作為(以下「本件不作為3」という。)が国家賠償法1条1項の適用上違法であるか否か(争点5)⑹ 本件不作為3による原告の損害(争点6) 4 当事者の主張⑴ 本件不作為1が国家賠償法1条1項の適用上違法であるか否か(争点1)【原告の主張】ア国民は、行政機関が保有する個人情報について、開示請求をしてこれを利用する権利利益を有し、行政機関は、上記権利利益を保障するため、自 ら通達で定めた保存期間内においては、文書を廃棄することなく適正に保存する義務を有する。 平成17年通達等は国民の権利利益を保障するために発出されたものであり、本件実地調査復命書等が原告個人にとって極めて有用性の高い情報であることも加味すると、亡Bの相続人である原告は、本件実地調査復命 書等について、行政機関が自ら通達で定めた保存期間内は、開示請求をす ることによって情報の開示を受けられ の高い情報であることも加味すると、亡Bの相続人である原告は、本件実地調査復命 書等について、行政機関が自ら通達で定めた保存期間内は、開示請求をす ることによって情報の開示を受けられる権利利益を有するといえる。 本件不作為1は、かかる原告の法律上保護された権利利益を侵害するものであるから、国家賠償法1条1項の適用上違法といえる。 イまた、行政機関個人情報保護法6条1項は、行政機関の保有する個人情報について滅失又はき損の防止に必要な措置を講じるべきことを定めて おり、同項は、行政機関が保有する個人情報について開示請求をしてこれを利用する権利を保護する目的を含む。そうすると、A署長は、原告の個人情報に当たる亡Bに係る情報が掲載された本件実地調査復命書等の保存期間を「常用」ないし「30年」に変更して、その滅失又は毀損を避ける法的義務を負っていたといえる。この義務は、個人情報の主体である個 別の国民(その相続人を含む。)に対する個別具体的な義務である。 【被告の主張】ア行政機関個人情報保護法は、少なくとも、行政機関が保有していない個人情報の開示を求める権利を保護の対象としていない。つまり、A署長が、本件実地調査復命書等について、公文書管理法に基づき保存期間を5年と 定めた以上、その開示を求める請求権は上記保存期間の経過(平成26年3月31日の経過)をもって法律上保護された利益ではなくなる。したがって、本件不作為1は、法律上保護された権利又は利益を侵害するものではないから、違法と判断される余地はない。 平成17年通達等は、行政機関内部における今後の検証の便宜のために 発出されたものであって、個別の国民の便宜に配慮して保存期間を延長したものではない。したがって、行政機関が れる余地はない。 平成17年通達等は、行政機関内部における今後の検証の便宜のために 発出されたものであって、個別の国民の便宜に配慮して保存期間を延長したものではない。したがって、行政機関が、平成17年通達等をもって、被災者等の個別の国民との関係で保存期間を延長しなければならない職務上の法的義務を負っていたとみることはできない。 イ本件実地調査復命書等の廃棄は、文書管理者が定めた法定の保存期間満 了後に、内閣府に廃棄同意を得るなど適切な手続を経て廃棄したものであ るから、「滅失又はき損」に該当しない。 ⑵ 本件不作為1による原告の損害(争点2)【原告の主張】精神的損害200万円、弁護士費用20万円【被告の主張】 否認ないし争う。 ⑶ 本件不作為2が国家賠償法1条1項の適用上違法であるか否か(争点3)【原告の主張】労災記録の誤廃棄は、開示を受けて自ら利用することができる情報を得る機会を喪失するという重大かつ深刻な問題であるから、廃棄した行政機関は、 誤廃棄の事実を速やかに当該被災者や遺族に知らせ、廃棄された情報の保全や復元の機会を与える法的義務を負う。平成27年調査や平成30年調査の際、国が、誤廃棄事案について当該被災者や遺族に紛失通知や資料提供依頼通知を送付しているのは、その表れである。 本件不作為2は、上記義務に違反するものであるから、国家賠償法1条1 項の適用上違法といえる。 【被告の主張】平成27年調査及び平成30年調査は、厚生労働省が実態把握のために各都道府県労働局に対して調査を指示したものであり、内部的な準則を定めたものにすぎず、国民との関係で個別具体的な職務上の法的義務を負担させる 年調査及び平成30年調査は、厚生労働省が実態把握のために各都道府県労働局に対して調査を指示したものであり、内部的な準則を定めたものにすぎず、国民との関係で個別具体的な職務上の法的義務を負担させる ものではない。 ⑷ 本件不作為2による原告の損害(争点4)【原告の主張】精神的損害50万円、弁護士費用5万円【被告の主張】 否認ないし争う。 ⑸ 本件不作為3が国家賠償法1条1項の適用上違法であるか否か(争点5)【原告の主張】厚生労働省労働基準局の事務連絡により、誤廃棄がなされた労災記録について開示請求があった場合は、開示決定通知書に文書を廃棄したため存在しないことを明示した上で、請求人が証明を求める事項を聴取し、証明が可能 な範囲で内容を整理し、労働基準監督署名で文書により回答するという措置を講じることが求められており、本件不作為3は、かかる義務に違反する点で、国家賠償法1条1項の適用上違法といえる。 【被告の主張】本件開示請求は、その対象を「A署に保管されている」ものに限定してお り、本件開示請求時点で不存在であった廃棄済みの記録は請求の対象となっていない。したがって、C労働局長は、本件開示請求の対象となる記録を、不開示情報を除き全て開示したものであって、「不存在」を理由に不開示としたものはない。 そして、本件通知書には、不開示情報を不開示とした理由が記載されてお り、本件部分開示決定は、行政手続法8条1項本文に違反しない。 原告主張に係る厚生労働省労働基準局の事務連絡は内部的な準則を定めたものにすぎず、国民との関係で個別具体的な職務上の法的義務を課すものではないから、C労働局の対応に十分でない点があ に違反しない。 原告主張に係る厚生労働省労働基準局の事務連絡は内部的な準則を定めたものにすぎず、国民との関係で個別具体的な職務上の法的義務を課すものではないから、C労働局の対応に十分でない点があったとしても、国家賠償法1条1項の適用上違法となるものではない。 ⑹ 本件不作為3による原告の損害(争点6)【原告の主張】精神的損害30万円、弁護士費用3万円【被告の主張】否認ないし争う。 第3 当裁判所の判断 1 争点1(本件不作為1が国家賠償法1条1項の適用上違法であるか否か)について⑴ 本件で検討すべき事項国家賠償法1条1項は、国又は公共団体の公権力の行使に当たる公務員が個別の国民に対して負担する職務上の法的義務に違背して当該国民に損害を 加えたときに、国又は公共団体がこれを賠償する責に任ずることを規定するものである(最高裁昭和60年11月21日第一小法廷判決・民集39巻7号1512頁)。そして、上記のような公務員の職務上の法的義務が肯定されるためには、当該公務員の行為によって国民の法律上保護された利益が侵害されることを要するというべきである(最高裁平成2年2月20日第三小法 廷判決・裁判集民事159号161頁、最高裁平成17年4月21日第一小法廷判決・裁判集民事216号579頁参照)。 原告は、本件開示請求の時点(令和3年9月14日)で本件実地調査復命書等が現存していれば、行政機関個人情報保護法12条に基づきその開示を受けることができた(ただし、同法14条2号に該当し、かつ同号ただし書 イからハまでのいずれにも該当しない情報が記載されている部分を除く。)と認められる(弁論の全趣旨)。しかし、実際には本件実地調査復命 ができた(ただし、同法14条2号に該当し、かつ同号ただし書 イからハまでのいずれにも該当しない情報が記載されている部分を除く。)と認められる(弁論の全趣旨)。しかし、実際には本件実地調査復命書等は現存していなかったのであるから、同時点で、原告は行政機関個人情報保護法12条に基づく本件実地調査復命書等の開示請求権自体を有していたということはできない。 そこで、以下では、①原告の、本件開示請求の時点で本件実地調査復命書等について開示請求をすることにより開示を受ける利益(以下「本件利益」という。)が法律上保護された利益に当たるか否かを検討し、その上で、②A署長による本件不作為1が国家賠償法1条1項の適用上違法であるか否かを検討する。 ⑵ A署長が本件実地調査復命書等を法令上保存する必要があった期間 まず、A署長が法令上、本件実地調査復命書等をいかなる期間において保存する必要があったか当事者間に争いがあるので、先行して検討する。 ア公文書管理法5条1項、同法施行令8条2項1号及び別表は、行政文書の類型ごとに保存期間を規定する。そして、同法5条4項、同法施行令9条2項は、行政機関の長は、保存期間が満了した行政文書について、その 職務の遂行上必要があると認めるときには、保存期間を延長することができる旨を規定する。 そうすると、行政文書を管理する行政機関の長は、行政文書の保存期間が満了した時点で保存期間を延長するか否かについて一定の裁量権を有するものと解される。 イ(ア) 平成17年通達等は、都道府県労働局に対し、①アスベスト関連事業場に関する労災給付実地調査復命書等については、現行の文書管理規程に定める文書の保存期間にかかわらず、当分の間、廃棄するこ イ(ア) 平成17年通達等は、都道府県労働局に対し、①アスベスト関連事業場に関する労災給付実地調査復命書等については、現行の文書管理規程に定める文書の保存期間にかかわらず、当分の間、廃棄することなく保存すること、②アスベスト関連文書について、保存期間を行政文書ファイル管理簿上は30年とし、実際上は当分の間保存することとすること を、通知したものである(前提事実⑴)。平成17年通達等は、その内容に照らすと、アスベスト関連事業場に関する労災給付実地調査復命書等の保存期間の延長に関し、A署長が有する裁量権(上記ア)について一定の基準(裁量基準)を定めたものと解される。 (イ) 行政庁がその裁量に任された事項について裁量権行使の準則を定める ことがあっても、このような準則は、本来、行政庁の行為の妥当性を確保するためのものであるから、行為が上記準則に違背して行われたとしても、原則として当不当の問題を生ずるにとどまり、当然に違法となるものではない(最高裁昭和53年10月4日大法廷判決・民集32巻7号1223頁参照)。 しかし、平成17年通達等は、中皮腫が30年から40年という潜伏 期間を経て発症することから、10年あるいは20年後にアスベスト問題を再度検討対象とする必要があることを踏まえ、厚生労働省が都道府県労働局長に対し、アスベスト関連事業場に関する労災給付実地調査復命書等を当分の間、廃棄することなく保存することを求めたものである(前提事実⑴、甲4)。加えて、厚生労働省が平成27年9月1日付け で都道府県労働局長に対して発出した文書においては、厚生労働省は平成17年通達によりアスベスト関連文書を破棄せず保存するよう「指示」しており、複数の労働局においてアスベスト関連文書が廃棄されて で都道府県労働局長に対して発出した文書においては、厚生労働省は平成17年通達によりアスベスト関連文書を破棄せず保存するよう「指示」しており、複数の労働局においてアスベスト関連文書が廃棄されていた事象は「誤廃棄」である旨が記載され、さらに、アスベスト関連文書を他の文書と分離し、アスベスト関連文書である旨及び保存期間が「常用」 である旨を記載するなど、アスベスト関連文書が廃棄されないための具体的な作業手順が指示されている(前提事実⑷、甲6)。これらを踏まえると、平成17年通達等が求めるアスベスト関連文書を破棄することなく保存するという取扱いは、全国一律で行うことが想定されていたといえる。また、後記⑶エのとおり、アスベスト関連事業場に関する労災 給付実地調査復命書等は、労働災害の発生原因を究明し、同種災害の再発防止策の策定に資することに加え、アスベスト関連疾患にり患した者及びその相続人が、訴訟手続等においてアスベストにばく露した事実の有無や事業場の状況等を立証する重要な手段となるものである。そうすると、平成17年通達等は、相応の合理性を有するということができる。 他方、A署長が本件実地調査復命書等について平成17年通達等に沿った取扱いをしなかった理由は、単に、平成17年通達等の存在を看過し、本件文書保存基準の改定を怠ったというものにすぎず(弁論の全趣旨)、平成17年通達等によることができない合理的理由があったとは認められない。 そうすると、A署長が平成17年通達等に沿わない取扱いをすること は許容されず、本件廃棄の際に本件実地調査復命書等の保存期間を30年に延長しなかったことには裁量権の範囲の逸脱又は濫用があり、A署長は本件実地調査復命書等の保存期間を30年に延長しな と は許容されず、本件廃棄の際に本件実地調査復命書等の保存期間を30年に延長しなかったことには裁量権の範囲の逸脱又は濫用があり、A署長は本件実地調査復命書等の保存期間を30年に延長しなければならなかったというべきである。 ⑶ ①本件利益は法律上保護された利益に当たるか否か ア行政文書の管理に関する法制度の沿革(公知の事実)平成21年法律第66号による改正前の情報公開法22条1項は、行政機関の長は、同法の適正かつ円滑な運用に資するため、行政文書を適正に管理するものと規定し、同条2項は、行政機関の長が政令の定めるところにより行政文書の管理に関する定めを設けるものと規定していた。 その後、現用文書と非現用文書とを包括する形で、公文書の管理についての一般法として公文書管理法が制定され、平成23年4月1日に施行された(平成21年法律第66号による改正により情報公開法の行政文書の管理に関する上記規定は削除された。)。 公文書管理法は、国等の諸活動や歴史的事実の記録である公文書等が、 健全な民主主義の根幹を支える国民共有の知的資源として、主権者である国民が主体的に利用し得るものであることにかんがみ、国民主権の理念にのっとり、公文書等の管理に関する基本的事項を定めること等により、行政文書等の適正な管理、歴史公文書等の適切な保存及び利用等を図り、もって行政が適正かつ効率的に運営されるようにするとともに、国及び独立 行政法人等の有するその諸活動を現在及び将来の国民に説明する責務が全うされるようにすることを目的としている(1条)。 イ本件廃棄当時の行政文書の開示請求制度(ア) 行政文書の開示請求制度を規定する情報公開法は、その目的を、国民主権の理念にのっとり が全うされるようにすることを目的としている(1条)。 イ本件廃棄当時の行政文書の開示請求制度(ア) 行政文書の開示請求制度を規定する情報公開法は、その目的を、国民主権の理念にのっとり、行政文書の開示を請求する権利につき定めるこ と等により、行政機関の保有する情報の一層の公開を図り、もって政府 の有するその諸活動を国民に説明する責務が全うされるようにするとともに、国民の的確な理解と批判の下にある公正で民主的な行政の推進に資することと規定する(1条)。 (イ) 同法3条は、開示請求権の対象となる文書を「当該行政機関の保有する行政文書」としており、請求時点において保有していない行政文書を 開示請求に応じるために作成する必要はないことを明らかにしている。 (ウ) 同法5条は、個人に関する情報、法人等に関する情報、国の安全等に関する情報等について、不開示事由を規定している。 ウ本件廃棄当時の保有個人情報の開示請求制度(ア) 行政機関個人情報保護法2条3項は、情報公開法所定の行政文書に記 録されている個人情報を「保有個人情報」と定義し、同法12条1項は、自己を本人とする保有個人情報の開示請求権を規定していた。 (イ) 行政機関個人情報保護法は、その目的を、行政機関における個人情報の取扱いに関する基本的事項及び行政機関非識別加工情報の提供に関する事項を定めることにより、行政の適正かつ円滑な運営を図り、並びに 個人情報の適正かつ効果的な活用が新たな産業の創出並びに活力ある経済社会及び豊かな国民生活の実現に資するものであることその他の個人情報の有用性に配慮しつつ、個人の権利利益を保護することと規定していた(1条)。 エ本件実地調査復命書等の性質 (ア) 災害調査復命 実現に資するものであることその他の個人情報の有用性に配慮しつつ、個人の権利利益を保護することと規定していた(1条)。 エ本件実地調査復命書等の性質 (ア) 災害調査復命書は、特定の労働災害が発生した場合に、労働基準監督官、産業安全専門官等の調査担当者が、労働安全衛生法の規定に基づいて、事業場に立ち入り、関係者に質問し、帳簿、書類その他の物件を検査し、又は作業環境測定を行うなどし(同法91条、94条)、また、関係者の任意の協力を得たりして、労働災害の発生原因を究明し、同種 災害の再発防止策等を策定するために、調査結果等を踏まえた所見を取 りまとめ、労働基準監督署長に対し、その再発防止に係る措置等の判断に供するために提出されるものである。 (イ) アスベストによる疾病に係る業務上外の労働災害認定において、調査の結果作成される災害調査復命書には、業務上外の判断の根拠資料として、①就労関係資料(就労歴・石綿ばく露歴申立書、被災者の本人聴取 書、事業主・同僚・同業者等の聴取書等)、②医学的資料(診療録、検査記録等)が添付される。(甲26~28)(ウ) アスベスト製品の製造作業等に従事したことによりアスベスト関連疾患にり患した者及びその相続人らが、国や使用者等を被告とする損害賠償請求事件を提起する場合、アスベストにばく露した事実の有無や事業 場の状況等を立証するため、災害調査復命書とその添付資料を証拠提出することが一般的である。(甲34~36〔枝番を含む。〕、弁論の全趣旨)法務省訟務局民事訟務課の作成した内部資料にも、アスベスト関連の国を被告とする損害賠償請求訴訟について、災害調査復命書とその添付 資料が、石綿工場における就労歴の立証に関し、類型的に 法務省訟務局民事訟務課の作成した内部資料にも、アスベスト関連の国を被告とする損害賠償請求訴訟について、災害調査復命書とその添付 資料が、石綿工場における就労歴の立証に関し、類型的に高度の信用性を有することを示唆する記載がある。(甲32〔52~62頁〕)オ検討(ア) 行政文書の保存期間については、平成23年の公文書管理法施行前は、情報公開法22条が規律していた(上記ア)。同条は、「この法律の適 正かつ円滑な運用に資するため」というその文言に現れているように、あるべき行政文書がなかったり、その所在が明確でない状態では、情報公開法が的確に機能しないことを踏まえ、情報公開法に基づく開示請求の対象となる行政文書が適切に分類、作成、保存、廃棄されるよう、行政文書管理の基本原則について定めることを目的とした規定であると解 される。そして、情報公開法22条を継承する形で制定された公文書管 理法5条も、基本的には同様の目的を持った規定であると考えられる。 そうすると、法は、行政文書が法令上の保存期間内において適正に管理され、適式な情報公開の対象となることを予定しているものと考えられる。 本件で問題となっている保有個人情報開示請求制度は、情報公開法に 基づく情報公開制度とは別個の制度である。もっとも、保有個人情報開示請求制度は、情報公開法が個人情報について不開示事由を規定しているために本人による自己の個人情報が記録された行政文書の開示請求(いわゆる本人開示請求)が認められないことに鑑み、自己の個人情報に関する開示請求権を規定したという側面を有する(公知の事実)。さ らに、情報公開制度と個人情報保護制度は、異なる目的を有する別個の制度ではあるが、互いに相いれない性質のもの 、自己の個人情報に関する開示請求権を規定したという側面を有する(公知の事実)。さ らに、情報公開制度と個人情報保護制度は、異なる目的を有する別個の制度ではあるが、互いに相いれない性質のものではなく、むしろ、相互に補完し合って公の情報の開示を実現するための制度ということができる(最高裁平成13年12月18日第三小法廷判決・民集55巻7号1603頁参照)。 以上のような保有個人情報開示請求制度の沿革を踏まえると、法は、個人情報の記録された行政文書が、法令上の保存期間内において適正に管理され、適式な本人開示請求の対象となることを予定しているものと考えられる。 (イ) さらに、本件実地調査復命書等は、アスベストによる疾病に係るもの であるから、労働災害の発生原因の究明に加え、亡Bの死亡に係る損害賠償請求訴訟等における立証方法として活用される性質の行政文書である(上記エ参照)。アスベストによる疾病に係る労働災害認定を業務として行っており、平成17年通達等の通知も受けていたA署長は、本件実地調査復命書等のこのような性質を理解し、仮に本件実地調査復命書 等が平成17年通達等に従わずに廃棄されれば、亡Bの遺族による訴訟 活動等が困難となることを容易に予期することができたといえる(弁論の全趣旨)。また、平成17年通達等は、中皮腫の潜伏期間が30年から40年にわたり、アスベスト問題が10年あるいは20年後に再度検討対象となり得ることを踏まえて、アスベスト関連事業場における労災給付実地調査復命書等の保存を指示するものであるところ(上記⑵イ(イ))、 平成17年通達等が述べる「検討」には、行政機関内部の検討だけでなく、本人又はその相続人によるアスベストに起因する労働災害の損害賠償請求に係る 存を指示するものであるところ(上記⑵イ(イ))、 平成17年通達等が述べる「検討」には、行政機関内部の検討だけでなく、本人又はその相続人によるアスベストに起因する労働災害の損害賠償請求に係る検討も含まれると考えられる。 (ウ) そうすると、原告は本件開示請求時点において行政機関個人情報保護法12条に基づく本件実地調査復命書等の開示請求権自体を有していた とはいえないものの(上記⑴)、A署長は本件実地調査復命書等の保存期間を30年に延長しなければならなかったこと(上記⑵)、保有個人情報開示請求制度の趣旨・沿革(上記(ア))並びに本件実地調査復命書等及び平成17年通達の特質(上記(イ))を踏まえると、原告の本件利益、すなわち原告が本件開示請求の時点で本件実地調査復命書等の開示を受 ける利益は、法律上保護された利益に当たると評価するのが相当である。 ⑷ ②本件不作為1は国家賠償法1条1項の適用上違法であるか否かア国の公務員による権限の不行使は、その権限を定めた法令の趣旨、目的や、その権限の性質等に照らし、具体的事情の下において、その不行使が許容される限度を逸脱して著しく合理性を欠くと認められるときは、その 不行使により被害を受けた者との関係において、国家賠償法1条1項の適用上違法となるものと解するのが相当である(最高裁平成元年11月24日第二小法廷判決・民集43巻10号1169頁、最高裁平成7年6月23日第二小法廷判決・民集49巻6号1600頁、最高裁平成16年10月15日第二小法廷判決・民集58巻7号1802頁等各参照)。 イ公文書管理法5条4項及び同法施行令9条は、行政機関の長に対して行 政文書の保存期間の延長について一定の裁量権を付与している(上記⑵参照)。こ 号1802頁等各参照)。 イ公文書管理法5条4項及び同法施行令9条は、行政機関の長に対して行 政文書の保存期間の延長について一定の裁量権を付与している(上記⑵参照)。この趣旨は、情報公開法が的確に機能するためには同法に基づく開示請求の対象となる行政文書が適正に管理される必要があるところ(上記⑶オ(イ)参照)、個々の行政文書の重要性については当該行政機関の長が精通している点にあるものと解される。 平成17年通達等は、A署長の有する上記裁量に関する裁量基準であると考えられるところ(上記⑵参照)、その趣旨は、アスベスト問題が10年あるいは20年後に再度検討の対象となることを見据えてアスベスト関連の文書を当分保存するというものであり、これは、国の諸活動を現在及び将来の国民に説明する責務を全うするという公文書管理法の目的(同 法1条)とも合致する合理的なものである。また、上記文書は本人又はその相続人によるアスベストに起因する労働災害の損害賠償請求の有用な資料となる性質のものであり(上記⑶オ(イ))、そうであるからこそ、厚生労働省は平成17年通達に従った取扱いを全国一律に実施するよう求めたと評価することができる(上記⑵イ(イ))。 これに対し、A署長が平成17年通達等に従って本件実地調査復命書等の保存期間を延長しなかった原因は、A署長が平成17年通達等の存在を看過し、本件文書保存基準の改定を怠ったというものにすぎず(上記⑵イ(イ))、この点に合理的理由があるということはできない。 以上のようなA署長の権限の趣旨、平成17年通達等の内容、本件廃棄 の原因を踏まえると、A署長が本件実地調査復命書等の保存期間を30年に延長しなかった不作為は、許容される限度を逸脱して 以上のようなA署長の権限の趣旨、平成17年通達等の内容、本件廃棄 の原因を踏まえると、A署長が本件実地調査復命書等の保存期間を30年に延長しなかった不作為は、許容される限度を逸脱して著しく合理性を欠くものと評価するのが相当である。 ⑸ 小括したがって、本件不作為1は、原告の法律上保護された利益を侵害し、A 署長の職務上の法的義務に違背するものとして、国家賠償法1条1項の適用 上違法の評価を受けるというべきである。 2 争点2(本件不作為1による原告の損害)本件不作為1が原告の本件利益を侵害するものであること、原告が亡Bの相続人であり、本件実地調査復命書等が訴訟手続等において利用する必要性が高いものであること、本件不作為1は平成17年通達等を看過するというA署長 の過失によるものであること等の、本件に現れた一切の事情を考慮すると、本件不作為1によって原告が被った精神的苦痛を慰藉するための金銭は、1万円を下らないというべきである。 また、本件不作為1と相当因果関係のある弁護士費用は1000円が相当である。 そして、本件不作為1は遅くとも本件廃棄までに行うべき作為義務に係る不作為であるから、遅延損害金の起算日は、本件廃棄の日である平成27年3月3日(前提事実⑶ウ)と認められる。 3 争点3(本件不作為2が国家賠償法1条1項の適用上違法であるか否か)について 前提事実⑷、⑹によれば、平成27年調査及び平成30年調査の法的性質は職務命令(国家公務員法98条1項)であると認められる。そうすると、これらは行政組織内部における命令にすぎず、当該命令を受けた公務員に対し、原告に対する職務上の法的義務を負わせるものではない。なお、原告は、本件廃棄につ 98条1項)であると認められる。そうすると、これらは行政組織内部における命令にすぎず、当該命令を受けた公務員に対し、原告に対する職務上の法的義務を負わせるものではない。なお、原告は、本件廃棄について原告に対して連絡しなかった、あるいはA署に対してその指示をし なかった不作為が違法である旨主張するが、平成27年調査及び平成30年調査において誤廃棄が判明した際に本人又は相続人に連絡することが定められていたと認めるに足りる証拠はないから、上記不作為が原告の法律上の権利利益を侵害したとみる余地はない。 したがって、本件不作為2は国家賠償法1条1項の適用上違法であるとは認 められない。 4 争点5(本件不作為3が国家賠償法1条1項の適用上違法であるか否か)について⑴ 原告は、誤廃棄がなされた労災記録である本件実地調査復命書等について開示請求を受けたC労働局長は、①本件通知書に本件実地調査復命書等を廃棄したため存在しないことを明示した上で、②原告が証明を求める事項を聴 取し、証明が可能な範囲で内容を整理し、労働基準監督署名で文書により回答するという措置を講じる義務がある旨主張する。 ⑵ア本件通知書は、原告による本件開示請求に対する一部拒否処分である部分開示決定(本件部分開示決定)の通知文書である(前提事実⑻)。C労働局長は、行政手続法8条に基づき、当該処分の理由を示さなければならな いところ、この理由の提示は、拒否事由の有無についての行政庁の判断の慎重と公正・妥当を確保して恣意を抑制するとともに、拒否理由を申請者に明らかにすることによって透明性の向上を図り不服申立てに便宜を与える趣旨に出たものである。 証拠(甲14)によれば、厚生労働省労働基準局補償課長補佐(業務担 当 拒否理由を申請者に明らかにすることによって透明性の向上を図り不服申立てに便宜を与える趣旨に出たものである。 証拠(甲14)によれば、厚生労働省労働基準局補償課長補佐(業務担 当)が、平成29年3月14日付けで、C労働局労働基準部労災補償課長に対し、平成27年通達発出以前に誤廃棄した文書に関する保有個人情報の開示請求について、①災害調査復命書本体の写し等が保存されている場合は、開示請求人に対し、原本は廃棄したため存在しないことを説明し、写しが存在する範囲で開示し、開示決定通知書にも一部文書が廃棄したた め存在しないことを明記すること、②一切の文書が残っていない場合は不開示決定をした上で、開示請求人が証明を求める事項を聴取し、証明が可能な範囲で内容を整理し、労働基準監督署名で文書により回答することを指示した(以下「平成29年事務連絡」という。)と認められる。これも開示請求に対する対応として行うことが記載されていることからすれば、開 示請求に含まれていない対象文書についてまで上記①及び②の対応が求 められているとはいえない。 したがって、本件通知書に記載することが必要な理由の提示等は、本件開示請求に対して一部拒否をした部分に係るものに限られる。 イ本件開示請求は、「A署に保管されている、亡Bがアスベストによる悪性中皮腫として死亡したことについて原告がした、遺族補償給付請求に関 する調査結果復命書、添付資料一切、その他労災一件記録すべて」の保有個人情報の開示を求めるものであり(前提事実⑻)、原告本人が請求しているものの、弁護士である谷真介がC労働局に対してこの開示請求に関する連絡は同人のみ又は原告本人と同人に対して行うよう求めていること(甲1の2)も踏まえれば、A署が保管して ⑻)、原告本人が請求しているものの、弁護士である谷真介がC労働局に対してこの開示請求に関する連絡は同人のみ又は原告本人と同人に対して行うよう求めていること(甲1の2)も踏まえれば、A署が保管していない資料に記載されている 保有個人情報を対象としていたとはいえない。 したがって、上記⑴①及び②がされていないことが不法行為に当たる旨の原告の主張は採用することができない。 ⑶ また、平成29年事務連絡は、通達であって、上級行政機関が関係下級行政機関及び職員に対してその職務権限の行使を指揮し、職務に関して命令す るために発する、行政組織内部における命令にすぎない(最高裁昭和43年12月24日第三小法廷判決・民集22巻13号3147頁参照)から、平成29年事務連絡から直接にC労働局長の国民に対する個別的な法的義務を導くことはできない。また、全証拠によっても、C労働局長が原告に対して上記⑴②の義務を負っていると認めることはできない。 ⑷ したがって、本件不作為3が国家賠償法1条1項の適用上違法であるとは認められない。 5 結論以上の次第で、原告の請求は、主文の限度で理由があるからこれを認容し、その余はいずれも理由がないからこれらを棄却し、仮執行宣言については相当 でないからこれを付さないこととして、主文のとおり判決する。 神戸地方裁判所第2民事部 裁判長裁判官 野上あや 裁判官 鈴鹿祥吾 裁判官 関根隆 鈴鹿祥吾 裁判官 関根隆朗 関係法令の定め 1 行政機関の保有する個人情報の保護に関する法律(令和3年法律第37号による廃止前のものであり、2条及び6条については平成28年法律第51号による 改正前のもの。以下「行政機関個人情報保護法」という。)(定義)第2条 (略) 2 この法律において「個人情報」とは、生存する個人に関する情報であって、当該情報に含まれる氏名、生年月日その他の記述等により特定の個人 を識別することができるもの(他の情報と照合することができ、それにより特定の個人を識別することができることとなるものを含む。)をいう。 3 この法律において「保有個人情報」とは、行政機関の職員が職務上作成し、又は取得した個人情報であって、当該行政機関の職員が組織的に利用するものとして、当該行政機関が保有しているものをいう。ただし、行政 文書(行政機関の保有する情報の公開に関する法律(平成11年法律第42号)第2条第2項に規定する行政文書をいう。以下同じ。)に記録されているものに限る。 4、5 (略)(安全確保の措置) 第6条行政機関の長は、保有個人情報の漏えい、滅失又はき損の防止その他の保有個人情報の適切な管理のために必要な措置を講じなければならない。 2 (略)(開示請求権)第12条何人も、この法律の定めるところにより、行政機関の長に対し、当該 行政機関の保有する自己を本人とする保有個人情報の開示を請求するこ とができる。 2 (略)(開示請求に対する措 、この法律の定めるところにより、行政機関の長に対し、当該 行政機関の保有する自己を本人とする保有個人情報の開示を請求するこ とができる。 2 (略)(開示請求に対する措置)第18条行政機関の長は、開示請求に係る保有個人情報の全部又は一部を開示するときは、その旨の決定をし、開示請求者に対し、その旨、開示する 保有個人情報の利用目的及び開示の実施に関し政令で定める事項を書面により通知しなければならない。(略) 2 行政機関の長は、開示請求に係る保有個人情報の全部を開示しないとき(前条の規定により開示請求を拒否するとき、及び開示請求に係る保有個人情報を保有していないときを含む。)は、開示をしない旨の決定を し、開示請求者に対し、その旨を書面により通知しなければならない。 2 公文書等の管理に関する法律(以下「公文書管理法」という。)(目的)第1条この法律は、国及び独立行政法人等の諸活動や歴史的事実の記録である公文書等が、健全な民主主義の根幹を支える国民共有の知的資源として、主 権者である国民が主体的に利用し得るものであることにかんがみ、国民主権の理念にのっとり、公文書等の管理に関する基本的事項を定めること等により、行政文書等の適正な管理、歴史公文書等の適切な保存及び利用等を図り、もって行政が適正かつ効率的に運営されるようにするとともに、国及び独立行政法人等の有するその諸活動を現在及び将来の国民に説明する責務が全う されるようにすることを目的とする。 (整理)第5条行政機関の職員が行政文書を作成し、又は取得したときは、当該行政機関の長は、政令で定めるところにより、当該行政文書について分類し、名称を付するとともに、保存期間及び保存期間の満了する日を設定しなけれ ばな が行政文書を作成し、又は取得したときは、当該行政機関の長は、政令で定めるところにより、当該行政文書について分類し、名称を付するとともに、保存期間及び保存期間の満了する日を設定しなけれ ばならない。 2、3 (略) 4 行政機関の長は、第1項及び前項の規定により設定した保存期間及び保存期間の満了する日を、政令で定めるところにより、延長することができる。 5 (略) 3 公文書等の管理に関する法律施行令(令和4年政令第31号による改正前のもの。)(行政文書ファイル等の分類、名称及び保存期間)第8条 (略) 2 法第5条第1項の保存期間は、次の各号に掲げる行政文書の区分に応じ、 それぞれ当該各号に定める期間とする。 一別表の上欄に掲げる行政文書(次号に掲げるものを除く。) 同表の下欄に掲げる期間3~9 (略)(保存期間の延長) 第9条行政機関の長は、法第5条第4項の規定に基づき、次の各号に掲げる行政文書ファイル等について保存期間を延長する場合は、当該行政文書ファイル等の区分に応じ、それぞれ当該各号に定める期間が経過する日までの間、当該行政文書ファイル等を保存しなければならない。(略)一~四 (略) 2 行政機関の長は、保存期間が満了した行政文書ファイル等について、その職務の遂行上必要があると認めるときには、一定の期間を定めて行政文書ファイル等の保存期間を延長することができる。 4 行政機関の保有する情報の公開に関する法律(平成28年法律第51号による改正前のもの。以下「情報公開法」という。) (目的) 第1条この法律は、国民主権の理念にのっとり、行政文書の開示を請求する権利につき定めること等により、行政機関の保有する情報の一層の公開 以下「情報公開法」という。) (目的) 第1条この法律は、国民主権の理念にのっとり、行政文書の開示を請求する権利につき定めること等により、行政機関の保有する情報の一層の公開を図り、もって政府の有するその諸活動を国民に説明する責務が全うされるようにするとともに、国民の的確な理解と批判の下にある公正で民主的な行政の推進に資することを目的とする。 (定義)第2条 (略) 2 この法律において「行政文書」とは、行政機関の職員が職務上作成し、又は取得した文書、図画及び電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られた記録をいう。 以下同じ。)であって、当該行政機関の職員が組織的に用いるものとして、当該行政機関が保有しているものをいう。ただし、次に掲げるものを除く。 一~三 (略)(開示請求権)第3条何人も、この法律の定めるところにより、行政機関の長(略)に対し、 当該行政機関の保有する行政文書の開示を請求することができる。 (行政文書の開示義務)第5条行政機関の長は、開示請求があったときは、開示請求に係る行政文書に次の各号に掲げる情報(以下「不開示情報」という。)のいずれかが記録されている場合を除き、開示請求者に対し、当該行政文書を開示しなければ ならない。 一個人に関する情報(事業を営む個人の当該事業に関する情報を除く。)であって、当該情報に含まれる氏名、生年月日その他の記述等により特定の個人を識別することができるもの(他の情報と照合することにより、特定の個人を識別することができることとなるものを含む。)又は特定の 個人を識別することはできないが、公にすることにより、なお個人の権 利利益を害するおそれがある 合することにより、特定の個人を識別することができることとなるものを含む。)又は特定の 個人を識別することはできないが、公にすることにより、なお個人の権 利利益を害するおそれがあるもの。ただし、次に掲げる情報を除く。 イ~ハ (略)二~六 (略)以上(別紙当事者目録は掲載省略)
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