平成13(う)2132 殺人被告

裁判年月日・裁判所
平成14年5月28日 東京高等裁判所
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判決文本文7,086 文字)

主文 本件控訴を棄却する。 当審における未決勾留日数中300日を原判決の刑に算入する。 理由 本件控訴の趣意は,弁護人作成の控訴趣意書並びに「意見及び控訴趣意補充書」に,これらに対する答弁は,検察官作成の答弁書にそれぞれ記載のとおりであるから,これらを引用する。 第1 事実誤認の主張について論旨は,要するに,原判決の「罪となるべき事実」のうち,犯行に至る経緯として,「高校時代の同級生であるAを誘い,B子をらちして強姦しようとしたが,抵抗されて目的を遂げなかった上,B子から罵倒されたこともあり」とする部分には,判決に影響を及ぼすことの明らかな事実誤認がある,というのである。すなわち,被告人がB子を強姦する目的を遂げなかったのではなく,Aに強姦させるつもりであったのにAが部屋から出ていってしまい,その後,B子から当日の非行やそれまでの仕打ちについてなじられ,被告人が土下座して謝るなどして終わった,というのである。 そこで,記録を調査し,当審における事実取調べの結果を併せて検討することとする。 被告人は,所論に沿う供述をしており,必要な限度でこれを要約すると次のとおりである。 被告人は,2年半以上にわたって交際し,結婚も考えていたB子との関係がうまくいかなくなり,平成10年6月ころ,自ら関係を解消すると言い出した。それにもかかわらず,その後,B子に対する未練を断ちがたく,種々接触を試みたが思うようにならず,行き違いなどもあって,その言動にプライドを傷つけられたと感じ,B子を痛めつける目的で,高校時代からの友人であるAに強姦させようとして,これをAに持ち掛けた。そして,8月26日,B子を欺いて呼び出した上,Aと2人で,B子の両手を縛り,口にガムテープを貼るなどした上で被告人の自室 で,高校時代からの友人であるAに強姦させようとして,これをAに持ち掛けた。そして,8月26日,B子を欺いて呼び出した上,Aと2人で,B子の両手を縛り,口にガムテープを貼るなどした上で被告人の自室に連行した。ところが,Aが部屋を出ていき,B子が内側から鍵を掛けてしまった。被告人は,B子に「やらせろよ。」と迫ったところ,B子が「やったらすぐ帰るよ。」と言って上着を脱いだ。しかし,B子から,当日の仕打ちやそれまで何度も堕胎させられたことなどについてなじられた。被告人は,姦淫することをやめ,土下座して自己の非を謝るなどした上,本当は付き合ってほしかったという自分の気持ちを述べたが,B子からは付き合っている人がいるなどと言われた。それでも,被告人は,交際の再開を考えてくれるように頼んだ上でB子を帰した。B子は,部屋を出る際,室内にあったはさみを手にして,Aらのいる付近では,このはさみを向けるようにしながら立ち去った。 被告人とB子が被告人の居室にいた際のやり取りに関しては,被告人の供述以外には直接的な証拠がなく,B子は,脱出後友人等に,被告人らにらちされて輪姦されそうになったことなどを恐怖感を持って話したものの,被告人との具体的なやり取りなどについては話していない。その状況を推認させる間接事実としては,被告人がAと共にB子を欺いて,手を緊縛するなどした上,被告人の居室に連れ込んだこと,被告人とB子が室内にいた際,B子の怒ったような声がドアの外まで聞こえたこと,B子がはさみを手に持って室内から出てきて,怒ったような様子でAやCにはさみを向けるようにしながら出ていったこと,B子が被告人らに見付からないように注意しながら逃走し,友人に電話して車で助けに来てもらったこと,その際非常におびえている様子であったことなどが明らかに認められる。一方,被告人の ら出ていったこと,B子が被告人らに見付からないように注意しながら逃走し,友人に電話して車で助けに来てもらったこと,その際非常におびえている様子であったことなどが明らかに認められる。一方,被告人の上記供述は,B子が自分で内側から鍵を掛けたという点や被告人からの性交の求めに応じようとしたという点が,B子が当日連行された事実さらにははさみを手に持って出てきた事実などに照らして不自然なようにも思われ,また,強姦目的で連行した上,いったんは「やらせろよ。」などと言いながら,結局強姦をしなかった理由についての被告人の説明は,容易には納得し難いところがある。このような点からすると,原判決のように,上記の間接事実を総合して,B子に抵抗されて強姦の目的を遂げなかった,と認定することも,あながち理由がないわけではない。 しかし,B子の脱出後の言動や当時の状況に照らせば,被告人の部屋に連れ込まれたB子は,Aらに輪姦されることを恐れ,それを回避しようと必死であったと思われるから,そのための手段として,室外に出たAが再び室内に入れないように内側から鍵を掛け,すぐに帰してもらうことを条件に,2か月ほど前まで肉体関係のあった被告人とだけの性交には応じるということはあり得ると思われる。また,脱出の際に,B子が,AやCに対してはさみを向けたことは,同人らに輪姦されないためにしたものと考える余地があることにかんがみると,被告人に対しても室内で同様にはさみを向けたはずであると強く推認できるわけではない。B子の抵抗がなかったにもかかわらず被告人が姦淫行為に及ばなかったというのも,B子を痛めつけるためにAに強姦させようとしたという経緯を考慮すれば,あながち理解できないことではない。そして,密室内でのB子とのやり取りに関する被告人の供述には具体性があり,B子の言動として述べられ 子を痛めつけるためにAに強姦させようとしたという経緯を考慮すれば,あながち理解できないことではない。そして,密室内でのB子とのやり取りに関する被告人の供述には具体性があり,B子の言動として述べられている内容は,被告人との従前の関係からして自然で,被告人にとって有利ともいえず,屈辱的ですらある。 そうすると,被告人の供述の信用性を一概に否定することはできず,上記の間接事実をもってしても,原判決のように,被告人がB子にはさみの刃先を向けられるなど激しく抵抗されて姦淫ができなかったと認定することは困難であり,この点に関する原判決の認定には,事実誤認があるといわなければならない。 しかしながら,被告人がB子をらちして強姦しようとした際に,抵抗されてそれを断念したか,それともAの予定外の行動やB子の対応などによりあきらめたかという点は,本件殺人に関する犯情として,さして重要な相違をきたすものではないから,上記事実誤認が判決に影響を及ぼすことが明らかであるとはいえない。結局のところ,論旨は理由がない。 第2 量刑不当の主張について論旨は,要するに,被告人を無期懲役に処した原判決の量刑は,重すぎて不当である,というのである。そこで,記録を調査し,当審における事実取調べの結果を併せて検討する。 本件は,殺人の共謀共同正犯の事案であるが,被害者を被告人の自室までらちし,自室から帰すまでの経緯については,被告人の前記供述のとおりと認められ,その後の経緯は,以下のとおりである。被告人は,被害者をらちするなどしたことから,警察に告訴されることをおそれて,Aと共に被害者方付近で待ち伏せをするなどしたが,被害者に会うことができなかった。らちから3日後の平成10年8月29日ころ,被害者に電話してらちするなどした件を謝って許してもらったが,交際の再開は断られ,目標 害者方付近で待ち伏せをするなどしたが,被害者に会うことができなかった。らちから3日後の平成10年8月29日ころ,被害者に電話してらちするなどした件を謝って許してもらったが,交際の再開は断られ,目標もなく自堕落な生活を続けている自分自身にふがいなさを覚えるとともに,自分の思いどおりにならない被害者にプライドを傷つけられたなどと感じ,逆恨みして被害者に対する憎悪を募らせ,これを殺害しようと考えるに至った。そこで,被告人は,Aに対し,強姦が未遂に終わったので告訴されるおそれがあり,強姦が成功しなかったのはAのせいであるなどと申し向けて,犯跡隠ぺいのために被害者を殺害するように働き掛け,さらに,告訴を控える代償として被害者から賠償金を要求されていると嘘を言い,Aに借金までさせて金を用意させてこれをだまし取った上,賠償金の額が次第につり上げられているなどと嘘を重ねて,告訴や賠償金の度重なる要求を回避するためには被害者を殺害するほかないものとAに誤信させた。そして,遂に,Aに対し,被告人の指示どおりに,被害者をナイフで突き刺して殺害させたものである。 その犯行態様は,被害者方付近で待ち伏せし,自宅から出てきた被害者に対し,白昼,平穏な住宅街の路上において,所携の刃体の長さ約10.5センチメートルのバタフライナイフで,その頸部,胸部,腹部等を多数回にわたって突き刺し,路上に崩れ落ちた後いったん立ち上がろうとするところに,さらにとどめを刺すために突き刺して,ついに惨殺したものであって,計画的で,極めて冷酷かつ残忍な犯行である。被告人は,本件犯行の首謀者であり,自らの不法な行為を被害者に許してもらったにもかかわらず,交際の再開を断られて逆恨みし,殺害を企てたのであって,その余りにも自分勝手で短絡的な動機は,厳しく非難されなければならない。しかも,被告人 ,自らの不法な行為を被害者に許してもらったにもかかわらず,交際の再開を断られて逆恨みし,殺害を企てたのであって,その余りにも自分勝手で短絡的な動機は,厳しく非難されなければならない。しかも,被告人は自ら殺害することはできないとして,自分の言いなりになるAに殺害させようと考え,B子から金銭要求を受けているなどと嘘を言い,B子に対するいわれのない憎悪をAに抱かせるとともに金の調達に窮したAを精神的に追い詰め,自らの手を汚すことなく殺害計画を実行させたものであって,実に卑劣である。自宅付近において,全く無防備なところに,突然にナイフで多数回にわたり刺されるというしつような攻撃を受け,多くの深い傷を負わされて殺害された被害者の被った恐怖や,精神的,肉体的な苦痛を思い量るに,まことに無惨というほかなく,何ら落ち度がないのに,将来ある人生を,わずか20年足らずで絶たれた被害者の無念は察するに余りある。しかも,被告人は,被害者から賠償金を要求されていたなどと,犯行後に虚偽の弁解をして被害者の名誉をも毀損している。理不尽にも被害者を突然に失った上,被告人の虚言に基づく報道により被害者の名誉を傷つけられた遺族らの受けた衝撃の大きさ,心痛の深さに思いを致せば,被告人に極刑を望む心情も十分に理解できるところである。また,Aは,被告人に仕向けられ,欺かれることがなければ,本件犯行に及ぶことはなかったのであって,Aを欺いて共犯者として引き込み,その人生を大きく狂わせた責任も被告人にある。さらに,被告人は,犯行後も自己に対する嫌疑を回避するために,Aに口止めをした上で出頭させ,友人に口裏合わせを依頼し,事情聴取に対して,Aにすべての責任を負わせて,犯行への関与を否認し,いったんは関与を自供するに至ったものの,なお自己の刑事責任を軽減させるような虚偽を混ぜた供述を させ,友人に口裏合わせを依頼し,事情聴取に対して,Aにすべての責任を負わせて,犯行への関与を否認し,いったんは関与を自供するに至ったものの,なお自己の刑事責任を軽減させるような虚偽を混ぜた供述を行い,原審弁護人が就いた後には再度否認に転ずるなど,原判決に至るまで,本件犯行を真しに反省する態度を示すことがなかったものである。 この点について,所論は,被告人は,当審においては殺意及び共謀を全面的に認めるものであって,捜査の当初において自白していたものが,捜査途中から黙秘,否認に転じたのは,被告人自身の人間的な未熟さや弱さの外に,原審弁護人の指導によるところが大きいと思料される,という。被告人の上申書及び当審における供述によれば,原審弁護人らは,被告人に対し,捜査段階から,次のように助言したというのである。すなわち,被告人の言っているとおりに裁判で話せば間違いなく殺人罪になる,裁判の前に弁護人と打合せをして,もう一つのストーリーを造り,裁判で主張していこう,本件は被告人自身が実行行為に及んだものではないから,否認すれば,傷害致死で5,6年になるし,重過失致死になれば2,3年になる,殺人罪なら,認めても,否認しても10年になる,Aが人を殺すはずがないと思っていたと言えばいい,警察,検察は被告人にとって最悪の調書を作るからどんなことを言われても黙秘するように,などと教えられたというのである。 この内容は,本件の証拠関係に照らせば,事件の見通しが不的確であり,量刑の実情にも相違するものであって,経験ある弁護士による助言とするには不自然とも思われるが,内容に具体性がある上,被告人が黙秘,否認に転じたのが原審弁護人と2度目の接見を約1時間かけてした直後ころであったことからしても,そのすべてをあながち排斥することはできず,原審弁護人らから助言を受け 内容に具体性がある上,被告人が黙秘,否認に転じたのが原審弁護人と2度目の接見を約1時間かけてした直後ころであったことからしても,そのすべてをあながち排斥することはできず,原審弁護人らから助言を受けたことが,捜査段階及び原審における被告人の供述態度に大きな影響を及ぼしたことは否定し難い。 しかしながら,被告人は,当初の犯行計画において,Aに殺害を実行させる日に,アリバイ工作を行っていることや,犯行後において自己に嫌疑が及ぶと,口止めした上でAに単独で警察に出頭させた経緯などからしても,Aに実行させた上で,自己の関与を否認することは,被告人自身の方針であったといわざるを得ない。換言すれば,警察官の追及に耐え切れず一部自白するに至ったことはあったものの,関与を否定するために偽りのストーリーを造り上げるというのは,被告人の当初からの意図に沿うものであったのである。しかも,自己の犯行についてどのように供述するかについては,最終的には被告人自身が自らの責任で決めるべき事柄であって,本件においても,捜査や公判の過程で,被告人が自らの意思によって自白して反省の情を示す機会は十分にあったのである。被告人は,供述を変えようかと思ったことも何度かあったが,原審弁護人らに相談すると,今までやってきたことが無駄になるとか,やったかやらないかはっきりしない事件はそんなに重くならないから,などといって思いとどまるよう促されたという。しかし,そのような助言があったとしても,利害や打算からでなく,真に反省して被害者やその遺族に謝罪する気持ちがあれば,自己の犯した罪について真実を告白することは,少しも困難ではない。結局のところ,嘘を維持し続けた被告人には,罪を償うために,自分で正当な処罰を受け入れるだけの深い反省の気持ちはなかったものといわざるを得ない。 被告人は,当審に 告白することは,少しも困難ではない。結局のところ,嘘を維持し続けた被告人には,罪を償うために,自分で正当な処罰を受け入れるだけの深い反省の気持ちはなかったものといわざるを得ない。 被告人は,当審において,殺意と共謀を認める供述を行うに至っており,その反省悔悟の情が偽りとは見受けられないが,同時に,被告人が供述を変更したのは,原審で有罪とされ,無期懲役に処せられた後であって,原審判決がきっかけとなったことは明らかであって,ここにおいても打算のあることを否定できない。 このように,被告人が,原審において不合理な弁解を繰り返して反省の態度を示すことがなかったことについては,原審弁護人らの助言に影響されたところが大きいと認められる外,当審においては事実を認めて反省の態度を示すに至っていること,前科がないこと,若年であること,被告人の両親から賠償金の一部として遺族に1000万円が支払われていること,被害者の父親から被告人に対し申し立てられた損害賠償請求の民事訴訟に被告人の両親が利害関係人として参加し,和解の努力が重ねられたことなどの酌むべき諸事情を考慮しても,前記のとおり,本件犯行が計画的であり,残忍かつ卑劣でもあること,共犯者を引き込んだこと,動機が余りにも自分勝手であること,結果が極めて重大であること,被害者に落ち度がないこと,遺族の被害感情が峻烈であることなどからすれば,被告人を無期懲役に処した原判決の量刑は,やむを得ないものであって,これが重すぎて不当であるとはいえない。論旨は理由がない。 よって,刑訴法396条により本件控訴を棄却することとし,刑法21条を適用して当審における未決勾留日数中300日を原判決の刑に算入して,主文のとおり判決する。 平成14年5月28日東京高等裁判所第8刑事部裁判長裁判官山 刑法21条を適用して当審における未決勾留日数中300日を原判決の刑に算入して,主文のとおり判決する。 平成14年5月28日東京高等裁判所第8刑事部裁判長裁判官山田利夫裁判官柴田秀樹裁判官藤井敏明

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