平成17(ネ)185 損害賠償請求控訴及び同附帯控訴事件

裁判年月日・裁判所
平成17年5月30日 名古屋高等裁判所
ファイル
hanrei-pdf-3106.txt

判決文本文12,287 文字)

主文 1 本件控訴を棄却する。 2 本件附帯控訴に基づき,原判決中,被控訴人敗訴部分を取り消す。 3 控訴人の請求を棄却する。 4 訴訟費用は第1,2審を通じて控訴人の負担とする。 事実及び理由 第1 当事者の申立て 1 控訴人の本件控訴について(1) 原判決を次のとおり変更する。 (2) 被控訴人は,控訴人に対し,654万4438円及びこれに対する平成17年3月11日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 (3) 被控訴人は,控訴人に対し,平成17年2月9日から,1年につき148万円の割合による金員を支払え。 2 被控訴人の本件附帯控訴について(1) 原判決中被控訴人敗訴部分を取り消す。 (2) 控訴人の請求のうち,将来の給付の訴えにかかる部分を却下し,その余の請求を棄却する。 第2 事案の概要 1 本件は,控訴人が,自己の所有地(本件土地)に,被控訴人が何等の権限なく上水道の配水管(本件配水管)を埋設しているとして,不法行為に基づき過去から将来にわたる賃料相当損害金及び既発生の損害金に対する遅延損害金の支払を求めた事案の控訴審である。原判決が訴え提起時点から遡る過去3年分と訴え提起後将来にわたる1年につき6万2750円の割合による賃料相当損害金及び過去3年分に対する遅延損害金の支払を求める部分を認容し,その余は棄却したところ,控訴人が控訴し,被控訴人が附帯控訴したものである。 なお,当審において,控訴人は,訴え提起時点から遡る過去3年(平成12年9月3日)より以前の部分の請求を減縮した。また,被控訴人は,将来の給付の訴えにかかる部分が必要性を欠いて不適法であると主張し,その却下を求めた。 2 当裁判所は,原判決とは異なり,控訴人が被控訴人に対し,本件配水管の無償での埋設利用を黙示に承認または追認し,ま 給付の訴えにかかる部分が必要性を欠いて不適法であると主張し,その却下を求めた。 2 当裁判所は,原判決とは異なり,控訴人が被控訴人に対し,本件配水管の無償での埋設利用を黙示に承認または追認し,また,仮にそうでないとしても,被控訴人が本件配水管の埋設利用を目的とする無償の地上権を時効取得し,さらに,仮にそうでないとしても,本件請求は権利の濫用等として許されないと解するので,控訴人の請求は全部理由がないと判断する(なお,将来の給付の訴えにかかる部分については,本件配水管の設置利用が将来においても継続すると予測されることなどに照らし,およそ控訴人において予めその請求をする必要がないとはいい難いので,これを不適法とすることは相当でないと判断する。)ものである。 3 前提事実並びに争点及び当事者の主張は,次のとおり,原判決を補正するほかは,原判決「事実及び理由」欄の第2の1及び2記載(ただし,消滅時効に関する原判決9頁3行目から6行目まで及び10頁7行目から17行目までを除く。)のとおりであるから,これを引用する。 (1) 原判決4頁4行目から13行目までを次のように改める。 「 本件土地の平成12年9月4日以降の賃料相当損害金の額は年額148万円であり,同日から平成17年2月8日までの合計額は654万4438円である。 なお,賃料相当損害金の額については,土地収用法における損失補償の基準である正常な取引価格を下回ることはないところ,控訴人が提出した鑑定書(甲2)は本件土地が道路であることを考慮した上で正常な取引価格としての賃料相当損害金の額を算定したものであるから,これに基づくべきである。また,被控訴人が私有地を無断で使用しているという事案である本件の賃料相当損害金の額を算出するにつき,公道を私人が合法的に使用する場合に関する条例に準拠 したものであるから,これに基づくべきである。また,被控訴人が私有地を無断で使用しているという事案である本件の賃料相当損害金の額を算出するにつき,公道を私人が合法的に使用する場合に関する条例に準拠することには合理性がない。さらに,本件配水管が存在することにより,控訴人は,その埋設部分を除くその余の本件土地も現実には利用が不可能となっているから,上記埋設部分のみの使用を前提に賃料相当損害金の額を算定することは誤りである。 よって,控訴人は被控訴人に対し,不法行為による損害賠償請求として,上記654万4438円及びこれに対する本控訴状送達の日である平成17年3月11日から支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払と,平成17年2月9日以降,1年あたり148万円の割合による賃料相当損害金の支払を求める。」(2) 同5頁9行目の末尾に次を加える。 「なお,本件土地は,昭和14年12月24日までには道路として開設されており,また,これを含む知多郡a町が昭和14年5月17日付け内務省告示第293号により名古屋都市計画区域に編入されていたこと(乙32)から,控訴人がこれを取得する以前に,建築基準法の施行日の昭和25年11月23日以降,建築基準法上の既存道路となっていた。」(3) 同6頁9行目と10行目の間に次を加える。 「 また,控訴人の居住する岐阜市b町には戦前から水道管が敷設されており,控訴人は本件土地を購入する際に,本件土地が周囲の宅地のための道路であり,他の用途に利用できないことだけではなく,近いうちに配水管が敷設されることをも承知して取得したと推認できる。」(4) 同6頁16行目の末尾に次を加える。 「また,昭和40年代になって,控訴人が被控訴人に対し,本件土地の買収や土地使用料の支払を求めたことがあったとしても,その後は して取得したと推認できる。」(4) 同6頁16行目の末尾に次を加える。 「また,昭和40年代になって,控訴人が被控訴人に対し,本件土地の買収や土地使用料の支払を求めたことがあったとしても,その後は約40年にわたって,そのような要求をしていない。むしろ,控訴人は被控訴人に対し,平成2年,本件配水管の設置には何ら異議がなくその存在を前提として,給水装置設置工事の承諾書につき控訴人の意思確認をするよう要請している。」(5) 同6頁21行目の末尾に次を加える。 「このように本件配水管を積極的に利用して金銭を受領する行為は本件配水管の存在を黙示に承認する行為であり,昭和60年5月9日に成立した和解において,控訴人が5万円を受領して給水装置設置工事に同意した時点では上記黙示の承認等があったといえる。」(6) 同7頁11行目の末尾に次を加える。 「そして,地上権行使の意思が客観的に表現されていることについては,民法265条の「工作物」である本件配水管に給水装置が接続され,各戸に給水されているという事実が存し,これは,地下の一部を利用するに止まるから所有権に基づくものである必要はなく,また,半永久的に使用することが前提であるから使用貸借等の債権ではなく,物権たる地上権であることが示されている。なお,賃料を支払っていないから,賃貸借に基づくものではないことは明らかである。」(7) 同8頁6行目の末尾に次を加える。 「すなわち,A(A株式会社)から本件土地周辺の土地を購入した周辺住民は,購入した土地を宅地として利用するため本件土地を道路として無償で使用していたから,同社との間でその購入した土地を要役地とし本件土地を承役地とする地役権設定契約を締結していたものと解され,控訴人が本件土地が道路であることを容認して取得した以上,同契約を承継したものである たから,同社との間でその購入した土地を要役地とし本件土地を承役地とする地役権設定契約を締結していたものと解され,控訴人が本件土地が道路であることを容認して取得した以上,同契約を承継したものである。そして,上記地役権の内容としては,単に通行だけでなく,購入した土地を宅地として利用するために必要なその他の設備を設置することを含むものと解すべきである。したがって,控訴人は,本来周辺住民に対し本件土地に水道給水のための施設を設置することを無償で承諾すべき義務を負う。しかるに,控訴人の請求を認容すれば,控訴人が周辺住民の購入した土地へ水道を給水するための施設を本件土地に設置することを無償で承諾すべき義務を負うことを否定し,給水装置設置工事を承諾するにつき周辺住民から金銭を受領することを正当化することになり許容できない。」(8) 同9頁11行目と12行目の間に次を加え,12行目の「(2)」以下を順次「(3)」以下に繰り下げる。 「(2) 同イの黙示の承認等について控訴人が,被控訴人に対し,本件配水管につき,その撤去や損害賠償の請求等の措置をとらなかった経緯は次のとおりである。 控訴人は,本件土地に本件配水管が埋設されたことを知ったことから,a町及び同町が被控訴人と合併した昭和39年12月1日以降は被控訴人との間で,本件土地の買収,代替地との交換,又は賃料相当損害金の支払に応じるよう申し入れたが,a町も被控訴人もこれに応じず,被控訴人は昭和40年に最終的な回答として本件土地を無償で寄付せよと述べたので,これによって控訴人は諦めるしかない状況に追い込まれた。 また,撤去を求めなかったのは,控訴人が周辺住民の生活に配慮したからである。 したがって,上記の点が黙示の承認等に当たるものではない。」第3 当裁判所の判断 1 争点(1)について 争点 れた。 また,撤去を求めなかったのは,控訴人が周辺住民の生活に配慮したからである。 したがって,上記の点が黙示の承認等に当たるものではない。」第3 当裁判所の判断 1 争点(1)について争点(1)に対する判断は,原判決「事実及び理由」欄の第3の1記載のとおりであるから,これを引用する。ただし,原判決11頁13,14行目の「本件土地は原告の上記主張の経過により」を「控訴人の上記供述は直ちに採用できないものの,本件土地は上記登記簿等の記載の経過により」に改める。 2 争点(2)について(1) 被控訴人の主張(2)アに対する判断は,原判決「事実及び理由」欄の第3の2ア記載のとおりであるから,これを引用する。 (2) 同イについてア証拠(乙21の1,3,6,8,9のほか,後掲のもの)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。 (ア) 本件土地の付近一帯の土地を所有していたAは,昭和13年ころ,本件土地を道路として宅地造成と分譲を進め(この際販売された土地を「分譲地」という。),昭和14年12月2日に道路として区画した本件土地を分筆した。そして,分譲地の中には,他人所有地を通行しなければ公道に至ることのできないものが多数含まれ,これらの土地にとって本件土地を通行することがその損害が最も少ないことから,仮に他の通行権が存しないなら本件土地につき囲繞地通行権が成立することが明白な状況であった。(甲2の添付の公図写し,乙1,乙2の1及び2,乙3の3,乙4)(イ) そこで,同社は,ほぼ分譲が完了した時点で,当時の知多郡a町に対し,道路とした本件土地について寄付採納願出書を提出したが,その後の昭和17年4月2日に同社が住所を変更したことから,同町は同寄付採納願を却下した。 (ウ) 本件土地は,これを含む知多郡a町が昭和14年5月17日付け 土地について寄付採納願出書を提出したが,その後の昭和17年4月2日に同社が住所を変更したことから,同町は同寄付採納願を却下した。 (ウ) 本件土地は,これを含む知多郡a町が昭和14年5月17日付け内務省告示第293号により名古屋都市計画区域に編入されていたこと(乙32)から,控訴人が本件土地を取得する以前に,建築基準法の施行日の昭和25年11月23日以降,建築基準法上の既存道路となった(同法42条1項3号,41条の2,昭和25年政令第319号)。したがって,本件土地内への建築は一部の例外を除き禁止され,かつ,これを道路として接道義務を満たした建物がある以上,その廃止も禁止される(同法44,45条)。 (エ) 控訴人が本件土地を取得した経過の詳細は明らかではないが,前記(補正後の原判決「事実及び理由」欄の第3の1)のとおり昭和35年3月ころこれを取得した。 (オ) 昭和37年ころ,当時分譲地に居住し本件土地を道路として使用していた約100戸の住民がa町に対し本件土地に上水道を敷設し住民らに給水することを強く要請し,同町が調査したところ,これらの分譲地が本件土地を道路として宅地開発がなされ分譲されたことが判明したため,同町は,そのころ本件土地に本件配水管を敷設し,当時の住民はこれに接続する給水設備を設置して上水道を使用するようになった(乙21の1,6)。 (カ) 控訴人は,本件土地に本件配水管が埋設されたことを知ったことから,昭和38年,a町に対し,現地調査をすることなく前主から担保物件として取得したところ道路であることが判明したなどと述べて,本件土地の買収などを申し入れ,両者の間で再三交渉がもたれたが,妥結しないまま,昭和39年12月同町は被控訴人に編入された(甲10,控訴人本人)。 (キ) そこで,控訴人は,被控訴人に対して,本件 本件土地の買収などを申し入れ,両者の間で再三交渉がもたれたが,妥結しないまま,昭和39年12月同町は被控訴人に編入された(甲10,控訴人本人)。 (キ) そこで,控訴人は,被控訴人に対して,本件土地の買収,代替地との交換を主とし,あるいは使用料の支払に応じるよう申し入れたが,被控訴人は,補償金を支払って私道に水道管を設置することは一切しておらず,控訴人の申入れを明確に拒否した。その後も,控訴人は,当時名古屋市議会議員であったBと同行して被控訴人との交渉を重ねたが,昭和40年,被控訴人の水道局長らが控訴人に対し,金銭の支払には応じないこと,本件土地を無償で寄付するならそれを受けることを被控訴人の最終的な回答として告知した。これによって,控訴人は,被控訴人に対して上記のような請求をすることを諦めた。その後,控訴人は,被控訴人に対し,平成2年ころ,控訴人名義の給水設備設置工事の承諾書が偽造されているとして,被控訴人に対し書面で苦情を申し入れた際も含め,本件配水管の設置使用に異議を述べたことや本件配水管の設置使用に関し使用料等の金銭を請求したことは一度もないまま経過した。ところが,平成14年8月に至って,控訴人は,本件の紛争とは直接的な関連はないが,愛知県c町が私有地に水道管を設置していたことから紛争となって多額の金銭を支払って解決した旨の新聞記事を見て,本件訴訟を提起することを決意した。(甲6ないし8,甲10,乙10,乙20,乙21の3,証人C3頁,控訴人本人7ないし12頁)(ク) 昭和42年当時,分譲地には約110戸472人が居住していた(乙21の1)。このうち,上記(オ)の後に居住するようになった住民が,被控訴人に対し本件配水管に接続する給水装置設置工事を申請するにつき,被控訴人は申請者において土地所有者の同意を取り付けないか (乙21の1)。このうち,上記(オ)の後に居住するようになった住民が,被控訴人に対し本件配水管に接続する給水装置設置工事を申請するにつき,被控訴人は申請者において土地所有者の同意を取り付けないかぎり水道工事をしないことにしていたため(乙10,乙20,乙7の4条2項,甲14),控訴人の同意を取得しなければならなかった。ところが,控訴人は,申請者がしかるべき金銭を支払えばこれに同意するが,そうでないかぎり同意しないという姿勢であった(甲15,17)。そのような経過で,上記工事がされず,これら住民が水道を利用できない事態が続いたことから,昭和42年8月21日,このうち11名が控訴人を相手方として上記工事の同意を求める仮処分を申請し認容された(乙21の3,8,9)。その後も昭和59年までの間に,19件28名の住民が同様の仮処分を申請しいずれも認容された(乙22,23)。そして,このうち昭和59年申請の仮処分事件の異議審において,昭和60年5月9日,控訴人が住民から5万円を受領して給水装置設置工事に同意するとの和解が成立した(甲18)。なお,控訴人は,同仮処分事件で提出した答弁書において,「名古屋市から補償金が貰えるわけではない。」「給水装置設置工事の同意請求に対しては,土地を永久使用する以上それ相応の対価を支払うのが筋ではないかと回答している。」などと主張した(甲15)。 (ケ) その他にも,控訴人は,周辺住民から対価を得て被控訴人宛に水道管接続の同意書を提出しており,その中には既設の水道管をより口径の大きいものに更新する際に300万円の金銭を受領したこともあった(控訴人本人30頁,甲17,乙8,9,30)。 (コ) 被控訴人は,本件配水管の修理が必要な場合に予め控訴人に連絡した上で施工し,完了後にも修理の内容を報告している(乙26)。 受領したこともあった(控訴人本人30頁,甲17,乙8,9,30)。 (コ) 被控訴人は,本件配水管の修理が必要な場合に予め控訴人に連絡した上で施工し,完了後にも修理の内容を報告している(乙26)。 (サ) 被控訴人以外の政令指定都市の調査結果でも,私道に水道管を設置して補償金を支払った例があるのは,2市だけで,ほか8市は例がない(乙15)。 (シ) 昭和39年以降,本件土地は非課税となっている(乙12)。 イそこで,上記アの認定事実を下に,本件土地について被控訴人が本件配水管の無償による埋設利用の権限を有するかどうかについて検討する。 (ア) 上記ア(ア)のとおり,Aが分譲地の宅地開発のため本件土地を道路として開設した上,分譲地を販売し,購入者の利用に供してきた経過からすると,同社は分譲地の販売に際し,明示又は黙示により分譲地のため本件土地を承役地とする地役権を設定したものというべきであり,その内容は,上記ア(ウ)のとおり本件土地が建築基準法上の道路として同法の拘束を受け,所有者において土地の利用ができないことなどからすると,単に通行だけでなく分譲地を宅地として利用するために必要なその他の設備を設置することを含むものと解される。また,同社が分譲地購入者に対し本件土地の使用料を請求した形跡がないばかりか,ほぼ分譲が完了した時点で当時のa町に本件土地の寄付採納願出書を提出したことからすると,開設に要した費用は宅地の分譲価格に含めるなどしており,その後の使用に関しては無償とする内容であったと推認できる。 (イ) そして,上記ア(ア)の事実に,証拠(甲9ないし18,乙1ないし6,21ないし25,控訴人本人)及び弁論の全趣旨を併せると,本件土地については,その公図を閲覧すれば,分譲地居住者の通行に供するための道路として区画されたことが明らか (甲9ないし18,乙1ないし6,21ないし25,控訴人本人)及び弁論の全趣旨を併せると,本件土地については,その公図を閲覧すれば,分譲地居住者の通行に供するための道路として区画されたことが明らかであり,また,現に分譲地から公道に通じるのに必要不可欠な生活道路として利用されている状況が外形的にも明らかとなっていたものと認められる上,控訴人は会社経営の経歴を有し,不動産の取引経験を含む経済活動について十分な知識と調査能力を有するものであることが明らかであって(乙16ないし18,25,控訴人本人),控訴人が本件土地を取得するにあたり,上記のような本件土地の性状を調査しなかったとは考え難く,したがって,控訴人において,本件土地が周囲の宅地のための道路として利用されており,その他の使途には利用できないものであることを承知の上で取得したものと認めるのが相当である。 また,控訴人の居住地には戦前から水道管が敷設されていたことからしても(控訴人本人21頁),控訴人においては,本件土地周辺の分譲地を含む他の地域にも,早晩,上水道による給水が行われるであろうと予測することができ,また,分譲地に給水する際はその道路である本件土地に配水管を設置することになることは明らかであるから,控訴人はこれを念頭に置いて本件土地を取得したものと推認できる。 これに対し,控訴人は,昭和35年に前所有者のDから本件土地を売買により600万円で取得したとし,当時,本件土地が道路であることを知らなかった旨を供述する。しかし,控訴人は,控訴人が被告であった別件の名古屋地方裁判所昭和44年(ワ)第1898号水道工事に対する同意請求事件においては,本件土地取得の経緯につき,控訴人がEに対して有していた1000万円あまりの毛織物代金債権が回収困難となったのでこれに 地方裁判所昭和44年(ワ)第1898号水道工事に対する同意請求事件においては,本件土地取得の経緯につき,控訴人がEに対して有していた1000万円あまりの毛織物代金債権が回収困難となったのでこれに対する代物弁済として本件土地を取得することとし,まず山林売買に通じた知人のD名義に所有権移転登記を経た後,自己名義に移したと主張しており,また,上記ア(カ)のとおり,昭和38年ころa町の担当者に対しては,前所有者から担保物件として取り立てたとも述べているのであって,控訴人の本訴における主張とは一致していないばかりか,控訴人は本訴において主張しているような売買を裏付ける書証について,重要書類として保存しておくべき登記済証を含め一切提出していない。このように,控訴人の本件土地取得の経過に関する供述は,かなり変遷しており,本来であれば存在するはずの裏付け証拠も欠くなどしているのに加え,そもそも控訴人が本件土地の取得にあたり道路であることを知らなかったということ自体,甚だ不自然,不合理であるといわざるをえず,控訴人の主張や供述は必ずしも信用し難いのであり,控訴人が本件土地を取得する当時,道路であることなどを知らなかったとする上記主張は採用できない。 (ウ) しかも,上記ア(ア)ないし(オ)及びイ(ア),(イ)の経過からすれば,被控訴人としては分譲地の多数の住民が給水を受けるのに使用する本件土地に埋設された本件配水管を撤去することはできず,これが半永久的に使用される状況にあるところ,控訴人もそのように認識していたというべきであり,控訴人は,上記ア(カ)ないし(ケ)のとおり,当初から旧a町や合併後の被控訴人に本件配水管の撤去は求めず,その存在を前提として本件土地の買い取りなどを求め,その後も,本件配水管の撤去を一度も求めていないばかりか,かえって,周 (ケ)のとおり,当初から旧a町や合併後の被控訴人に本件配水管の撤去は求めず,その存在を前提として本件土地の買い取りなどを求め,その後も,本件配水管の撤去を一度も求めていないばかりか,かえって,周辺住民から本件配水管へ給水装置設置工事の承諾をするにつき金銭を請求して得た上,被控訴人に対し土地所有者として工事の承諾書を提出するなど,本件配水管の埋設を積極的に利用し,さらには,本件訴訟においても本件配水管の撤去は求めておらず,本件配水管の存在を前提とした行動をしているのであって,控訴人が本件配水管の設置及び使用を黙示に承諾していたことは明らかである。 さらに,被控訴人による本件配水管の設置及び使用についての控訴人の承諾が無償であるか否かについても,そもそも,上記イ(ア),(イ)のとおり,本件土地は分譲地を宅地として使うために必要な設備の設置を含めて無償で利用する道路として区画されたものであり,控訴人もそれを認識して取得したものというべきであり,実際にも,控訴人は,上記ア(カ),(キ)のとおり,本件土地に本件配水管が埋設されたことを知ったとする昭和38年ころから旧a町に対し,本件土地の経済価値の回収の方策を求め,本件土地の買取や交換を請求するほか,使用料の請求について言及したことがあったものの,同町が被控訴人に編入された後である昭和40年,被控訴人から最終的な回答として金銭の支払には応じられないなどとして控訴人の申入れを明確に拒否されたことから,控訴人は被控訴人に対する使用料の請求を諦め,以後,本件配水管は三十数年もの間,控訴人と被控訴人との間では無償で設置,使用され続けているのである。また,その間に,控訴人は,上記ア(ク)のとおり,周辺住民から仮処分申請により給水装置設置工事の同意を求められるや,その答弁書にお 控訴人と被控訴人との間では無償で設置,使用され続けているのである。また,その間に,控訴人は,上記ア(ク)のとおり,周辺住民から仮処分申請により給水装置設置工事の同意を求められるや,その答弁書において被控訴人からは補償金が貰えるわけではないなどと主張し,当該住民から上記工事に同意する補償として金銭を受領している。このような経過にかんがみると,控訴人は被控訴人に対し,昭和40年,本件配水管について,無償による埋設利用を黙示的に認めたものというべきである。なお,控訴人が本件訴訟を提起したことは,上記ア(キ)のとおり,本件紛争とは直接的に関連のない別の事例に誘発されたと考えられるのであり,本件における以上の判断を左右するものではない。 (エ) したがって,被控訴人の上記イの主張は理由がある。 (3) 同エについて仮に,上記イの主張が理由のないものであるとしても,以下のとおり,被控訴人は本件土地について本件配水管の設置,利用を内容とする無償の地上権を時効取得したものと認められる。 まず,前記第3の2(2)ア(オ)のとおり,旧a町が昭和37年ころ本件土地に工作物である本件配水管を敷設し,多数の住民がこれに接続する形で給水設備を設置した上,その後今日まで,被控訴人は本件配水管を管理し,分譲地住民は日々これを経由して水道水を使用しているのであるから,昭和37年ころ以降,地下地上権行使としての土地の継続的使用の外形的事実が存在するというべきである(なお,地下の地上権を認めた民法269条の2の施行日は昭和41年7月1日であるが,同改正法の附則により,同条はその施行前に生じた事項にも適用するとされているから,上記敷設のときから上記事実が認められる。)。 次に,その使用が地上権行使の意思に基づくものであることが客観的に表現されているかについて見るに はその施行前に生じた事項にも適用するとされているから,上記敷設のときから上記事実が認められる。)。 次に,その使用が地上権行使の意思に基づくものであることが客観的に表現されているかについて見るに,前記第3の2(2)イ(ウ)の事情,特に,控訴人及び被控訴人の双方が本件配水管という工作物が設置され,これが半永久的に使用されることを前提とし,その使用料を請求した控訴人に対し,被控訴人がこれを明確に拒否したことは,すなわち,土地所有者に対し,無償で工作物を設置し半永久的に使用する意思,すなわち期限の定めのない無償による地上権を行使するとの意思を表示したものと見ることができる。 したがって,被控訴人は,遅くとも昭和40年の10年後又は20年後には,本件配水管の設置及び使用につき本件土地の地下を無償で期限の定めなく使用することを目的とする地上権の取得時効が完成したものと解するのが相当である。 そして,被控訴人は,平成15年11月19日,原審の弁論準備手続期日において上記時効を援用したことが明らかである。 これに対し,控訴人は,本件配水管の埋設は控訴人に無断でなされたもので,本件土地に対する権利行使は平穏になされたとはいえないと主張するが,所有者に無断で行うことが直ちに平穏な行使ではないということはできず,前記事実に照らすと控訴人の主張を認めるに足りる証拠はない。 以上のとおり,被控訴人の上記エの主張は理由がある。 (4) 同オについて仮に,上記エの主張も理由がないとしても,以下のとおり,控訴人の本件損害賠償請求は権利の濫用として許されない。 すなわち,前記第3の2(2)アの経過からすれば,そもそも本件土地は,従前の所有者である宅地開発業者により,宅地である分譲地のため,単に通行だけではなく,宅地として利用するのに必要な設備の設置も すなわち,前記第3の2(2)アの経過からすれば,そもそも本件土地は,従前の所有者である宅地開発業者により,宅地である分譲地のため,単に通行だけではなく,宅地として利用するのに必要な設備の設置も含む道路として無償で開設されたものであること,控訴人もそのような本件土地の性状を認識してこれを取得していること,控訴人は,本件配水管の存在を前提にして,同配水管から分岐して給水を受ける周辺の住民に給水装置設置工事承諾料名下に相当高額な金員を支払わせていること,本件土地は建築基準法による道路となり,非課税でもあり,控訴人にとって本件配水管の設置,利用により特段の損害が生ずるものとは窺えないこと,控訴人は本件配水管の設置,利用を知ってからも40年近くにわたり被控訴人に使用料等の請求をしていないことが認められるのであり,これらの事情を考慮すると,控訴人の本件配水管の設置,利用を根拠とする本件損害賠償請求は権利の濫用として許されないというべきである。 したがって,被控訴人の上記オの主張は理由がある。 第4 結論以上によれば,控訴人の請求は理由がなく棄却すべきであるから,これを一部認容した原判決はその限度で取消しを免れない。 よって,控訴人の本件控訴は理由がないからこれを棄却し,被控訴人の本件附帯控訴に基づき,原判決中被控訴人敗訴部分を取消し,控訴人の請求を棄却することとして,主文のとおり判決する。 名古屋高等裁判所民事第2部裁判長裁判官熊田士朗裁判官多見谷寿郎裁判官堀内照美

▼ クリックして全文を表示

🔍 類似判例を検索𝕏 でシェア← 一覧に戻る