平成18(わ)1793 殺人,死体遺棄,窃盗被告事件

裁判年月日・裁判所
平成19年8月31日 札幌地方裁判所
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判決文本文9,845 文字)

- 1 -主文被告人を懲役12年に処する。 未決勾留日数中190日をその刑に算入する。 理由 (罪となるべき事実)第1被告人は,平成18年11月19日午後5時45分ころ,北海道新冠郡A町字B町C番地のD被告人方において,E(当時66歳)に対し,殺意をもって両手で同人の頸部を圧迫するなどした上,同人が死亡したと考え,救命しよう,,,と同人の胸部を両手で強く叩いたり押したりするなどしてよってそのころ同所において,同人を胸部打撲又は圧迫による心挫裂により死亡させて殺害した。 第2被告人は,同日午後6時15分ころ,上記被告人方から,上記Eの死体を被告人が運転する普通乗用自動車の荷台に積載して北海道勇払郡F町字GH番地所在のF川河口左岸まで搬送した上,同日午後7時30分ころ,同河口左岸に上記死体を遺棄した。 第3被告人は,同月26日午前1時ころ,北海道新冠郡A町字B町I番地のJK方南西側空き地において,同人所有に係る普通乗用自動車1台(時価約10万円相当)を窃取した。 (争点に対する判断)第1 争点 ,。 ,「」本件の争点は判示第1の事実における以下の4点であるなお被害者とは判示第1の事実における被害者であるEをいう。 殺意の有無とその程度被告人に確定的殺意があったか。 死因被害者の死因が「頸部圧迫による窒息」であるか否か。 - 2 - 因果関係(仮に上記2で死因が「頸部圧迫による窒息」以外である場合)被告人が頸部を圧迫した行為と被害者の死亡との間に因果関係があるかどうか。 中止未遂の成否()。 仮に上記3で因果関係が認められない場合中止未遂が成立するかどうか第2争点1(被告人に確定的殺意があったか)について 弁護人の主張等弁護人は,被告人に殺意がなかったと主張する。なお,被告人は,公判 上記3で因果関係が認められない場合中止未遂が成立するかどうか第2争点1(被告人に確定的殺意があったか)について 弁護人の主張等弁護人は,被告人に殺意がなかったと主張する。なお,被告人は,公判廷において,かっとなってとっさに出た行動で,殺そうという考えはなかった,無,。 我夢中で我に戻ったら被害者が動かない状態になっていたなどと述べている 当裁判所の判断(1)被告人の行為の態様被告人の公判供述を含む関係各証拠によれば,被告人は,被告人方居間において,座っていた被害者から30ないし40センチメートルの位置にあぐらを掻いて座り,被害者と口論していたこと,座ったまま若干上体を右に捻り,右手を伸ばして被害者の頸部を掴み,そのまま被害者を仰向けに押し倒したこと,その後,膝立ちで上体を乗り出す姿勢をとり,被害者の頸部に右手と左手を添え,両腕を伸ばし被害者に体重をかけるようにして頸部を圧迫したことが認められる(なお,弁護人は,被告人は片手で被害者の頸部を押さえ付けたにすぎないと主張するが捜査報告書甲4 及び鑑定書甲,(,)(7)に対する独自の見方に基づく立論であって,採用できない。 。)頸部が人体の枢要部であり,しかも,頸部を圧迫するという行為が,素手でも比較的容易に他人の生命を奪うことができる手段の一つであることに照らせば,特別な事情がなければ,本件のような態様で被害者の頸部を圧迫した事実から,被告人には確定的な殺意があったとの推認が働く。 (2)被害者の死体の状況及びそこから認められる事実- 3 -捜査報告書(甲4,5)及び鑑定書(甲7,36[被害者にみられる所見については当事者に争いがない)によれば,被害者の下顎部から頸部に。]は左右に変色及び表皮剥脱が生じていること,頸部深部筋,舌筋内及び右甲状腺 ,5)及び鑑定書(甲7,36[被害者にみられる所見については当事者に争いがない)によれば,被害者の下顎部から頸部に。]は左右に変色及び表皮剥脱が生じていること,頸部深部筋,舌筋内及び右甲状腺後部に出血又は血腫を来していることが認められ,これらの所見は,被告人が被害者の頸部を圧迫した力が,かかる損傷が残るほどの相当強いものであったことを示している。また,被害者の肺のうっ血が著明であること,眼結膜に溢血点から斑が多数あること,心外膜に溢血点があること,舌尖が歯列より前にあり,歯牙による挫裂創を来していることが認められ,これらの窒息時に認められる所見は,被告人が少なくとも数分単位の長い時間,被害者の頸部を圧迫し続けたことを示している。 以上より,被告人が,被害者の頸部を,少なくとも数分単位の長い時間,相当程度の力で圧迫し続けたことが認められる。人体の枢要部である頸部にかかる強度の攻撃を加えたことは,上記2(1)で述べた確定的殺意の推認を妨げる特別の事情がなかったことを示すと同時に,被害者の生命を奪うことに向けられた被告人の強固な意思をうかがわせ,確定的な殺意の存在を強く推認させる事情といえる。 (3)犯行に至る経緯被告人の公判供述を含む関係各証拠によれば,被告人は,犯行の当日である平成18年11月19日,前妻方で遊んでいた自分の子供達を見かけながらも,声をかけることができなかったこと,また生活に困窮していたにもかかわらず,知人の暴力団員に貸していた約15万円の返済を受けられなかったことなどがあり,苛立ちと疲れから心身共に余裕のない状態で,午後5時30分ころ帰宅したこと,被告人方では,被害者が,居間でテレビを見ていたが,ほどなく,被告人が仕事をしないことなどに関して,被告人と被害者は口論となったこと,その際,被告人は,被害者から,仕事 5時30分ころ帰宅したこと,被告人方では,被害者が,居間でテレビを見ていたが,ほどなく,被告人が仕事をしないことなどに関して,被告人と被害者は口論となったこと,その際,被告人は,被害者から,仕事をしないことや子供達を連れてこれなくなったことなどを責められ「お前なんか生まなき,- 4 -ゃよかった」と言われたことに激高し,本件犯行に及んだことが認められ。 る。 上記犯行に至る経緯をみると,被告人が被害者に対して確定的殺意を抱くことを妨げるような事情は見あたらない。 (4)結論上記のとおり検討した,被告人の行為の態様,被害者の死体の状況及びそこから認められる事実,犯行に至る経緯を総合考慮すれば,被告人の捜査段階における供述に依拠するまでもなく,被告人に確定的な殺意があったと合理的に推認できる。 後記のとおり,被告人が,上記頸部圧迫行為をした後に,救命行為類似の行為をしたことが認められるが,激高して確定的殺意を抱いた被告人が我に返って救命行為をしたとしても格別不自然ではなく,このことが上記推認を妨げるものではない。 これに対し,被告人は,上記のとおり,殺意の存在自体を否定するが,一方で,頸部を圧迫した時間やそのときの感情などに関する記憶について曖昧な供述をするにとどまっている。かかる被告人の供述によっても,確定的殺意があったとする上記推認に疑いを生じさせるものではない。この点に関する弁護人の主張は採用できない。 第3争点2(被害者の死因が「頸部圧迫による窒息」であるか否か)について 当事者の主張被害者の死因について,検察官は「頸部圧迫による窒息又は胸部打撲若しくは圧迫による心挫裂」であると主張し,弁護人は「胸部打撲あるいは圧迫による心挫裂」であると主張する。 当裁判所の判断(1)鑑定書(甲7)についてL大学医学部教授M作 よる窒息又は胸部打撲若しくは圧迫による心挫裂」であると主張し,弁護人は「胸部打撲あるいは圧迫による心挫裂」であると主張する。 当裁判所の判断(1)鑑定書(甲7)についてL大学医学部教授M作成の鑑定書(甲7)における,被害者の死因につい- 5 -ての鑑定本文の中で,結論にあたると思料される箇所は「胸部打撲あるい,は圧迫による心挫裂である。ただし,頸部深部筋と舌筋に出血および血腫を認めるため,相当な頸部圧迫によって窒息を来した可能性が高い。また,死亡までの時間は短時間の急死である」というものである。 。 そして,鑑定本文の中で,上記結論を導く推論は,大要,「眼結膜・心外膜に溢血点から班と心臓内流動血は急死の所見である。 また,左右肋骨骨折,心臓右心房挫滅開口,心臓内流動血の所見は胸部正中に強い外力が加わった可能性を示す。 心臓右心房挫滅開口については周囲に血腫を伴うため,死後というよりも生前あるいは死戦期と考えた方が矛盾しない。その結果として開口部がない心嚢内に血性液200mL貯留(心タンポナーデは80mL以上の液体で来すとされている)を来して心タンポナーデで死亡したと考えることができ。 る。 舌筋内血腫,頸部皮下筋肉内出血散在については,いわゆる血腫状になっているものは少ないため,一部については死後であっても矛盾はしない。これらについては頸部に対して強い圧迫が加わった可能性が高く,窒息を来したとして矛盾はしない。 以上を総合すると,胸部打撲ないしは胸部圧迫によって心挫滅を来たし,心タンポナーデで死亡したとするのが,最も矛盾しない。 しかしながら,心嚢内血性液が凝血しておらず,一般的に認められる心タンポナーデとは異なっている。このことは,心挫滅を来す前に別な原因によって短時間の内に心臓が停止しており,いわゆる心臓内流動血の状態であ しながら,心嚢内血性液が凝血しておらず,一般的に認められる心タンポナーデとは異なっている。このことは,心挫滅を来す前に別な原因によって短時間の内に心臓が停止しており,いわゆる心臓内流動血の状態であったところへ胸部打撲による心挫裂が加わり心タンポナーデとなったと考えることもできる。その場合は,頸部圧迫による窒息が先にあって,死亡し,その直後,強い胸部圧迫により肋骨骨折,心挫滅,肝挫滅を来して心嚢内に血液が流出したと考えることができる。 - 6 -この推論には一つ問題がある。肝挫滅による出血が乏しいことである。腹腔内には血性液が80mL貯留していた。通常頸部圧迫による窒息の場合,諸臓器はうっ血する。その場合,挫滅した肝からは相当量出血すると考えられるが,被検者において出血量が少ない。したがって,諸臓器はうっ血していなかった,つまり,死亡して間もないかあるいはまだ死亡していなかった可能性,さらに心挫滅を来した後に肝挫滅を来した可能性が存在する。生前であれば,心臓が動いている限り出血し続けるので,生前の損傷と仮定する。 ,と肝挫滅の直後心挫滅を生じた可能性が高いということになるしたがってこのことを考慮すれば,死因については,頸部圧迫による窒息を来して心停止を来した直後に胸部打撲により,心挫滅を来たし,さらに間もない時間に肝挫滅を来したとして矛盾はしない。 一方,頸部圧迫がどの程度死亡に結びついたかを考えてみると,頸部に深部筋,さらに甲状腺周囲まで出血を来しているため,相当な圧迫があり気管が閉塞したことは間違いない。また舌筋内にも出血を来たし,また左右外耳道にも出血を認めることから,頸部圧迫時は顔面が相当うっ血した可能性が。 ,,。 存在するまた舌尖は歯列より前にあり歯牙による挫裂創も来しているいわゆる窒息時に認められる所見の上 左右外耳道にも出血を認めることから,頸部圧迫時は顔面が相当うっ血した可能性が。 ,,。 存在するまた舌尖は歯列より前にあり歯牙による挫裂創も来しているいわゆる窒息時に認められる所見の上,舌を強くかんでいることを示している。眼結膜の溢血点も多数認められたことから,頸部圧迫によって窒息したとして矛盾ないものと考えられる。 したがって,胸部打撲ないし圧迫によって心挫滅を来したが,その直前に相当な頸部圧迫による窒息が存在した可能性が高い」。 というものである。 この推論の過程に特段不合理な点は見あたらないまた追補の鑑定書甲。 ,(36)によれば,死因に関して,組織検査で得られた所見について,舌の出血や甲状腺の出血が筋繊維の断裂等に起こっており,頸部について相当な圧迫があったことを示していること,右心房の挫裂部についても同様に筋繊維- 7 -の断裂と出血があること,これらについては組織学的に著明な時間差は認められず,頸部圧迫と胸部圧迫が組織学的には著明な時間差を生じない範囲で行われたことを示すという鑑定判断がなされており,これらは,上記結論を導く推論の過程と整合するものといえる。他方で,かかる鑑定判断に疑問を差し挟むような証拠は提出されていない。 よって,鑑定書(甲7)の記載内容は信用できると認められる。 (2)証人Mについて証人として出廷したM教授は,被害者の死因について,上記信用できる鑑定書の記載内容にほぼ沿う供述をし,弁護人による反対尋問にも誠実に対応している。また,鑑定者の適格性や鑑定手法について,疑問を生じさせるような事情も見あたらない。 よって,被害者の死因に関する証人Mの供述も信用できると認められる。 (3)結論(),上記信用できる鑑定書甲7の記載内容及び証人Mの供述内容によれば被害者が頸部圧迫により窒息を 見あたらない。 よって,被害者の死因に関する証人Mの供述も信用できると認められる。 (3)結論(),上記信用できる鑑定書甲7の記載内容及び証人Mの供述内容によれば被害者が頸部圧迫により窒息を来していたことは合理的な疑いを越えて認定できるが,心挫裂が生じた時点で死亡していなかった可能性も少なからず残。 ,「」ると言わざるをえないそうすると被害者の死因が頸部圧迫による窒息であると認定するにはなお合理的な疑いが残るので,被告人に有利に「胸部打撲又は圧迫による心挫裂」であると認定するほかない。 なお,第4で述べるとおり,被告人が「胸部打撲又は圧迫による心挫裂」を生じさせた行為をした時点では,被告人に殺意がなかったと認めるほかないのだから,被害者の死因を,検察官が主張するとおり「頸部圧迫による窒息又は胸部打撲若しくは圧迫による心挫裂」と認定することは,許されない択一的認定というべきである。 第4争点3(被告人が頸部を圧迫した行為と被害者の死亡との間に因果関係があるかどうか)について- 8 - 弁護人の主張被害者の死因は「胸部打撲あるいは圧迫による心挫裂」であり,この死因は被告人が被害者の頸部を圧迫したという実行行為とは全く無関係であるので,かかる実行行為と被害者の死亡結果との間の因果関係は否定されるべきである。 当裁判所の判断(1)条件関係の有無本件事実関係の下では,被害者の頸部を圧迫するという被告人の行為がなければ,被害者が心挫裂により死亡するという結果が発生しなかったことは明らかであり,条件関係は問題なく認められる。 (2)被告人は救命行為をしたか被告人は,捜査,公判を通じて,被害者の頸部を圧迫した結果,被害者が動かなくなったのを見て窒息死したと思い,心臓マッサージのつもりで両手で被害者の胸部を強く叩いたり (2)被告人は救命行為をしたか被告人は,捜査,公判を通じて,被害者の頸部を圧迫した結果,被害者が動かなくなったのを見て窒息死したと思い,心臓マッサージのつもりで両手で被害者の胸部を強く叩いたり押したりしたなどと供述している。 この点につき,証人Mは,被害者の側胸部で肋骨が骨折していることや横隔背部に血腫があり,胸部大動脈周囲にも血腫を来していることなどから,比較的広い面積をもって強く圧迫されており,通常の手で行う心臓マッサージでは被害者の胸部の損傷は生じないこと,人的な物体でできたと仮定すれば足等による踏みつけなどが考えられること,胸部に1回から2回程度のかなりの強度の圧迫,腹部にも1回から2回程度かなりの強度の圧迫が加わっており,いずれも比較的軟らかい物体によることなどを供述し,上記鑑定書(甲7)もそれに沿う内容となっている。 しかし,他方,証人Mは,通常の手で行う心臓マッサージでは被害者の胸部の損傷は生じないという点については一般論として鑑定書(甲7)に記載したこと,所見につながった圧迫が1回から2回であり,加えてその強度以下の圧迫が複数回あっても矛盾はしないこと,全く経験のない者がなした心- 9 -臓マッサージ類似の行為によってかかる所見が生じる可能性はあり得ることをも供述しているから,被告人の上記供述をにわかに排斥することはできない。被告人は,被害者の胸部を強く叩いたり押したりした回数やそれにかけた時間などについてはあいまいな供述をするも,被告人の上記供述内容自体は特に不自然なものとはいえない。他に被告人の供述を排斥する証拠が見あたらない以上,被告人は,救命行為のつもりで,両手で被害者の胸部を強く叩いたり押したりしたと認定するほかない。被害者の死亡結果は,直接的には,被告人が両手で被害者の胸部を強く叩いたり押したりした過 たらない以上,被告人は,救命行為のつもりで,両手で被害者の胸部を強く叩いたり押したりしたと認定するほかない。被害者の死亡結果は,直接的には,被告人が両手で被害者の胸部を強く叩いたり押したりした過失行為に起因するものといえる。 (3)被告人の過失行為の介在により,因果関係は否定されるかそこで,上記被告人による過失行為が介在したことにより,因果関係が否定されるかにつき,更に検討を進める。 被告人の公判供述を含む関係各証拠によれば,被害者には,被告人による頸部を圧迫する行為により,死亡の可能性があるほどの窒息が生じていて,このことは被告人も認識していたことが認められる。このような事態に直面,,した行為者が救命行為に関する知識も経験も不足しているにもかかわらず119番通報などをすれば犯行が発覚することを危惧し,自ら救命行為を行うことは経験則上あり得る事柄である。そして,心臓マッサージに代表される救命行為は,その性質上,知識も経験も不十分な者が不適切に行えば,むしろ生命の危険を生じさせるといえるのであって,被告人がなした心臓マッサージ類似の行為も,まさにそのような不適切なものであった。その結果として,被害者に「胸部打撲又は圧迫による心挫裂」が生じたのだから,被害者が「胸部打撲又は圧迫による心挫裂」で死亡したのは,被告人が被害者の頸部を圧迫したという殺人の実行行為に起因すると評価できる。 そうすると,上記被告人の過失行為の介在によっても,被告人のした殺人の実行行為と被害者の死亡との間の因果関係は否定されない。この点に関す- 10 -る弁護人の主張は採用できない。 第4争点4(中止未遂が成立するかどうか)について上記検討のとおり,被害者に死亡という既遂結果が発生しており,その結果を被告人に帰責できる以上,中止未遂については成立の余地がない は採用できない。 第4争点4(中止未遂が成立するかどうか)について上記検討のとおり,被害者に死亡という既遂結果が発生しており,その結果を被告人に帰責できる以上,中止未遂については成立の余地がないことは明らかである。 (法令の適用)罰条判示第1の行為刑法199条判示第2の行為刑法190条判示第3の行為刑法235条刑種の選択判示第1の罪有期懲役刑を選択判示第3の罪懲役刑を選択併合罪の処理刑法45条前段,47条本文,10条(最も重い判示第1の罪の刑に法定の加重)未決勾留日数の算入刑法21条訴訟費用の不負担刑事訴訟法181条1項ただし書(量刑の理由)本件は,被告人が母親を殺害してその遺体を遺棄したという殺人,死体遺棄各1件(判示第1,第2,その数日後,逃走するために他人の自動車を盗んだという)窃盗1件(判示第3)の事案である。 被告人は,両親の愛情を感じられず,父親に対して暴力をふるうことなどがあったが,犯行当日,苛立ちと疲れから心身共に余裕のない状態で帰宅したところ,母親である被害者から,被告人が仕事をしないことや子ども達を連れてこなくなったことなどを責められ「お前なんか生まなきゃよかった」などと言われたことを,。 きっかけに激高し,被害者の殺害を決意して頸部圧迫行為に及んだ(判示第1。 )- 11 -被告人は,自らの頸部圧迫行為によって動かなくなった被害者を見て,いったんは救命行為類似の行為をしたが,それが功を奏さないとみるや,犯行発覚をおそれ,自分の車で被害者の遺体を移動させた上で河口付近に遺棄した(判示第2。その)数日後に被害者の仮通夜が行われたところ,被告人は,実弟や親族などから疑いの目を向けられていると感じ,いたたまれなくなってその場から逃げることを決意したが,自分の車 近に遺棄した(判示第2。その)数日後に被害者の仮通夜が行われたところ,被告人は,実弟や親族などから疑いの目を向けられていると感じ,いたたまれなくなってその場から逃げることを決意したが,自分の車は警察に差し押さえられているので使えないなどと思い込み,他人の車を盗んだ(判示第3。かかる一連の犯行の経緯や動機をみるに,いずれも極)めて短絡的かつ自己中心的であり,そこに酌量の余地は全くない。被害者が被告人を責めたことは,母親としてみれば自然な心情であって,その中でたとえ被害者に「お前なんか生まなきゃよかった」などの不適切な言動があったからといって,。 それが被害者にとって殺されるほどの落ち度とは言えないことは明らかである。 殺人の行為態様は,確定的殺意のもと,被害者の頸部を少なくとも数分単位の長い時間,相当程度の力で圧迫し続けたという粗暴で残虐かつ執拗なものであって,非常に悪質である。当裁判所は,頸部圧迫行為による窒息が被害者の死因とは認定しなかったが,死亡の可能性があるほどの窒息を生じさせたのは明らかであって,かかる認定が量刑にさほど影響するものではない。罪から逃れるために母親である被害者の遺体を遺棄したり,他人の車を盗んでまで逃げようとしたことも,強い非難に値する。 被害者のかけがえのない命が失われたという結果は,何といっても重大である。 自らが生み育てた息子に殺害されて生涯を終えることとなった被害者の無念も容易に推察される。遺族である被告人の父親(被害者の夫)や実弟が受けた精神的な衝撃も大きい。 被告人が救命行為類似の行為をしたことについては,酌量の余地はあるものの,自分には知識も経験もないことを知りながら,119番通報などすれば自らの犯行が発覚することをおそれてなした不適切な行為であり,量刑上重視することはできない。被告人の応訴態度 酌量の余地はあるものの,自分には知識も経験もないことを知りながら,119番通報などすれば自らの犯行が発覚することをおそれてなした不適切な行為であり,量刑上重視することはできない。被告人の応訴態度,被告人質問における供述内容やその態度などをみると,- 12 -被告人が述べる反省の弁もどれほど真摯なものなのか疑問が残る。かかる人命軽視事犯に対する一般予防の観点も量刑上考慮しなければならない。 以上の事情によれば,被告人の刑責は誠に重大である。 そうすると,本件各犯行には計画性まではなく,いずれも偶発的犯行と認められること,反省の点はともかく,被害者の冥福を祈っていることは認められること,被告人の父親(被害者の夫)が寛大な処罰を望んでいること,被告人の実弟が,当公判廷において,被告人には,早く社会復帰して高齢の父親の面倒を見て欲しい旨,([]])述べていること平成8年に道路交通法違反速度時速54キロメートル超過により懲役4月(執行猶予3年)に処せられた前科以外に前科はないこと,身柄拘束期間が相当長期に及んでいること,その他被告人の稼働歴等被告人に有利に考慮することができる事情を十分に考慮しても,なお主文掲記の刑を科すのが相当である。 よって,主文のとおり判決する。 (求刑懲役15年)平成19年8月31日札幌地方裁判所刑事第3部裁判長裁判官井口実裁判官馬場純夫裁判官吉岡透

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