主文 1 原判決を次のとおり変更する。 (1) 被控訴人は,高松市に対し,金5億5000万円及び内金2億円に対しては平成9年7月13日から,内金3億5000万円に対しては平成9年12月23日から,各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 (2) 控訴人のその余の請求を棄却する。 2 訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人の負担とする。 事実及び理由 第1 控訴の趣旨 1 原判決を取り消す。 2 被控訴人は,高松市に対し,金5億5000万円及びこれに対する平成9年7月13日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 3 仮執行の宣言第2 事案の概要 1 原判決の引用本件請求の概要,前提事実等,争点及び争点に対する当事者の主張は,以下のとおり補正するほか,原判決「事実及び理由」第二の一ないし四(2頁9行目から29頁7行目まで)記載のとおりであるから,これを引用する。 (1) 原判決3頁2行目の「一三八条の二」の次に「(平成11年法律第87号による改正前のもの。以下同じ。)」を,5行目から6行目の「二四二条の二第一項四号前段」の次に「(平成14年法律第4号による改正前のもの)」を各加える。 (2) 同4頁4行目冒頭の「立法メートル」を「立方メートル」に,末行の「弦打漁協は、高松市αにおいて」を「弦打漁協の組合員は,高松市αにおいて,同漁協の有する第1種区画漁業権及び第3種区画漁業権に基づき」に各改める。 (3) 同5頁2行目の「区第一〇〇号」を「区第1008号」に,6行目の「東川」を「香東川」に各改める。 (4) 同6頁5行目の「弦打漁協」の次に「の組合員」を加え,6行目から7行目の「取っていた。」を「とる者が多かった。」に改める。 (5) 同7頁2行目の「同年」を「平成9年」に改め,5行目の「衛生課長の」の次に「平成8 「弦打漁協」の次に「の組合員」を加え,6行目から7行目の「取っていた。」を「とる者が多かった。」に改める。 (5) 同7頁2行目の「同年」を「平成9年」に改め,5行目の「衛生課長の」の次に「平成8年12月25日付け及び平成9年3月30日付け各」を加え,10行目の「支出された二つの公金を」を「2回にわたって支出された公金を,合わせて」に改める。 (6) 同8頁3行目から4行目の括弧書を削り,4行目末尾から5行目冒頭の「二億円以外の」を鉤括弧「」で括り,6行目の「同年六月三日付けで右住民監査請求を」を「両住民監査請求につき,それぞれ,同年6月3日付けで請求を」に改め,7行目の「同通知は」の次に「,それぞれ」を加え,8行目から9行目の「。 以下、合わせて『本件住民監査』という。」を削る。 (7) 同9頁7行目の「提出し」の次に「(同日被控訴人に送達)」を加える。 (8) 同10頁2行目の「故意・過失,損害」を「被控訴人の故意・過失」に,7行目の「損害」を「損害賠償」に各改める。 (9) 同11頁5行目の「損害賠償代位の訴え」を「損害賠償代位請求の訴え」に改める。 (10) 同12頁5行目の「違法性)」の次に「及び争点3(被控訴人の故意・過失)」を加える。 (11) 同15頁8行目の「立法メートル」を「立方メートル」に,9行目の「排水量が約一七五立法メートル」を「排水量約175立方メートル」に各改める。 (12) 同16頁末行の「高松市食肉センター」を「本件新食肉センター」に改める。 (13) 同17頁10行目から18頁2行目までを削る。 (14) 同18頁4行目から5行目及び7行目の各「高松市食肉センター」をいずれも「本件新食肉センター」に改める。 (15) 同21頁2行目の「故意・過失,損害」を「被控訴人の故意・過失」に改め,5行目の「二三二条一項 行目から5行目及び7行目の各「高松市食肉センター」をいずれも「本件新食肉センター」に改める。 (15) 同21頁2行目の「故意・過失,損害」を「被控訴人の故意・過失」に改め,5行目の「二三二条一項」の次に「(平成11年法律第87号による改正前のもの)」を,6行目の「二条一三項」の次に「(平成11年法律第87号による改正前のもの)」を各加え,8行目の「本件合意」を「本件漁業補償契約」に改める。 (16) 同22頁7行目の「暫時」を「漸次」に改める。 (17) 同23頁末行の「残すことになる上」から24頁1行目の「上回ることになるから」までを「残すことになるから」に改める。 (18) 同26頁8行目の「本件合意の締結に際し」を削る。 (19) 同29頁6行目の「故意・過失,損害」を「被控訴人の故意・過失」に改める。 2 当審補充主張(1) 被控訴人ア行政の分野においては,その本来の公益目的を実現するため,流動する複雑多様な事態に対応して,弾力的な判断,運用が要請される場合が少なくない。本件においては,被控訴人は,後記のような理由から,消滅補償の必要性があるとの政策的判断をして,本件漁業補償契約を締結したものであって,同契約は適法であり,被控訴人に誠実執行義務違反はない。また,本件のような場合には,その判断が著しく不当とされるものでない限り,判断の当否は政治的責任の範疇に属することであり,法的責任の問題は生じないものというべきである。 イ本件新食肉センター設置事業は,昭和45年ころよりほぼ毎年のように高松市議会定例会で質疑事項の対象となっており,いわば積年にわたる高松市の最重要の行政課題であった。 そして,同センター設置の問題は,地元住民の理解と協力なくしてはなしえないとの共通認識のもと,移転先候補地が明確化した平成元年ころからは,市議会 わば積年にわたる高松市の最重要の行政課題であった。 そして,同センター設置の問題は,地元住民の理解と協力なくしてはなしえないとの共通認識のもと,移転先候補地が明確化した平成元年ころからは,市議会の質疑事項でも,専ら「地元対策」がその焦点とされた。 また,都市計画法上,同センターのようないわゆる迷惑施設の設置計画を実現するためには都市計画の決定手続を経ることを要し,市町村が都市計画を定めるためには都道府県知事の承認を得る必要があるとされている。そして,知事が都市計画を承認する際には都市計画地方審議会の議を経なければならないとされているところ,その審議の過程で常に指摘されてきたのが,周辺地区住民の同意状況や当該迷惑施設の設置において直接権利侵害を受けることが予想される利害関係人との合意状況であった。このことから,都市計画地方審議会の理解を得るために,県と市の間で,都市計画(案)受理前に事前協議がされ,これら同意状況につき県から行政指導がされるという構造になっていた。このため,高松市が本件新食肉センターを建設するに当たっても,少なくとも一定の施設周辺関係者の同意が得られない限り,都市計画地方審議会の理解を得られないことになり,同意が事前に得られない場合には,県の行政指導との関係から,県による市の都市計画(案)の受理も適わぬこととなり,受理前の段階で,施設設置計画が中断・挫折することにもなる。 そして,仮に,不十分な同意状況のもとで迷惑施設の建設にかかったとすれば,施設周辺関係者からの事実上又は法的手続による阻止行動に遭遇し,その結果,事実上又は法律上施設の設置が大幅に遅延しあるいは中止に追い込まれることにもなりかねない。 このように,地元の同意は,本件新食肉センター設置に必要不可欠であると認識されてきたものであった。 ウ弦打漁協の組 法律上施設の設置が大幅に遅延しあるいは中止に追い込まれることにもなりかねない。 このように,地元の同意は,本件新食肉センター設置に必要不可欠であると認識されてきたものであった。 ウ弦打漁協の組合員の大多数は,地元のβ自治会の住民であったところ,本件新食肉センターの設置を,死活問題(排出水の漁業への悪影響)ないし同地区の淡水漁業従事者に対する戦前からの職業的差別意識の増長要因と捉え,永らく同センターの設置自体に反対していた。しかし,前高松市長a及び当時の環境部長bの説得工作により,弦打漁協より,同センター設置に対する交渉の場につく前提条件として,区画漁業権の消滅とその補償の要求がされた。高松市としては,この機会を逃しては,地元住民の協力を得られず,本件新食肉センターの早期実現という積年にわたる行政課題を解決できないと判断し,当該消滅補償要求の妥当性を検討することとしたのである。 エすなわち,高松市(担当者)としては,本件新食肉センターの有用性とその早期実現の必要性という公益目的を達成するために,同センターからの排出水による地元漁協に対する直接被害及び風評被害の蓋然性の検討に加えて,職業的差別意識解消方策の一環としてもこの問題を検討し,地元住民の同意が必要不可欠であるとの過去の行政経験による共通認識のもと,裁量権の範囲内において消滅補償が妥当であるとの合目的的判断を下したものである。市長としての被控訴人も,同様の認識のもとにこの判断をしたものであり,当該判断自体,社会通念上も妥当な判断であったものである。 オなお,被控訴人は,原審において,影響補償の試算額につき,1年ごとに1億円少々であり,補償期間は少なくとも数年以上継続するものであった旨主張した。 しかし,当審において改めて調査したところ,当時行った影響補償の試算額は,影響期間を 影響補償の試算額につき,1年ごとに1億円少々であり,補償期間は少なくとも数年以上継続するものであった旨主張した。 しかし,当審において改めて調査したところ,当時行った影響補償の試算額は,影響期間を6年間とし,この間の補償総額が1億4400万円余りであるとするものであったことが判明した。したがって,高松市(担当者)において,消滅補償方式と影響補償方式とを比較検討した上で,金額的に消滅補償方式が高松市にとって有利であると判断した,というものではなかったので,被控訴人は,影響補償についての原審での主張を撤回する。 (2) 控訴人ア被控訴人は,「その判断が著しく不当とされるものでない限り,判断の当否は政治的責任の範疇に属することであり,法的責任の問題は生じない」との独自の基準を作っている。しかし,控訴人の主張は,本件漁業補償金の支出は必要のない違法な公金支出であるというのに尽きるものであり,厳格な調査も経ずに5億5000万円という多額の公金支出をしたことについて被控訴人に法的責任があることはいうまでもない。けだし,被控訴人は,初めに「消滅補償ありき」として,補償金の具体的な積算も怠ったものであり,仮に漁業補償の必要性があると判断したとしても,香東川流域下水道事業が完成するまでの影響補償で足りたのに,あえて消滅補償として5億5000万円という多額の公金を支出したのであり,その判断はまさに「著しく不当」であり,法的責任を負わせるのに十分であるからである。 イ本件新食肉センターについては必要性がないという主張も多く,仮に有用性や早期実現の必要性があると仮定しても,現実に漁業損失の生じない場合に漁業補償金を支出する必要はない。 被控訴人は,地元の同意が不可欠であると認識してきたと主張するが,虚偽である。高松市は,香川県の行政指導により本件新食肉セ 定しても,現実に漁業損失の生じない場合に漁業補償金を支出する必要はない。 被控訴人は,地元の同意が不可欠であると認識してきたと主張するが,虚偽である。高松市は,香川県の行政指導により本件新食肉センターから半径500m以内の住民の同意が必要であると言いながら,その範囲内の区域であるγ自治会の住民の同意を得ることなく,同センターの建設を行ったのである。それでも,同自治会の住民が工事を妨害したという事実はない。また,地元の同意は,何ら同センター建設に係る法定要件ではない。さらに,当然のことながら,地元の同意を得るためなら違法な漁業補償金の支出が許されるというわけでもない。 ウ被控訴人のいう職業的差別意識解消方策と本件漁業補償金の支出とは何の関係もない。弦打漁協の組合員が本件漁業補償金の支給を受けたとしても,β地区内に食肉センターが建設されることに変わりなく,何ら職業的差別意識解消方策にはならない。仮に,職業的差別意識対象からの解放の切実な要求があったとしても,公金を漁業権の消滅補償金の名目で支出することは許されない。また,仮に何らかの漁業補償を要するとしても,漁業権の影響補償とするのか,消滅補償とするのかの検討もしないで,職業的差別意識解消方策という理由で初めから消滅補償と決めてかかっていたのであり,このような結論を追認した被控訴人にも法的責任があることは明らかである。 エ被控訴人は,本件漁業補償金の支出の判断が社会通念上も妥当な判断であったなどと主張するが,何らの根拠も証拠もない。同主張が前提とする本件新食肉センターの有用性や必要性,本件漁場での直接被害及び風評被害の蓋然性,職業的差別意識解消方策との関連性,地元住民の同意が必要不可欠であることはいずれも認められない。 オ被控訴人が影響補償の試算額についての原審における主張を撤回した での直接被害及び風評被害の蓋然性,職業的差別意識解消方策との関連性,地元住民の同意が必要不可欠であることはいずれも認められない。 オ被控訴人が影響補償の試算額についての原審における主張を撤回したことにより,同主張を前提とした原判決の誤りが明らかとなった。控訴人は,影響補償も含め漁業補償の必要性を認めるものではないが,仮に被控訴人主張の影響補償の金額で計算したとすれば,本件新食肉センターの運用開始日である平成11年11月1日から香東川流域下水道事業の供用開始日である平成13年8月1日まで2年間弱の約4800万円(1億4400万円÷6年×2年間=4800万円)で済んだのであり,高松市に対し,少なくとも5億0200万円の損害を与えたことになる。 第3 当裁判所の判断 1 争点1(本件訴えのうち,3億5000万円の損害賠償を求める追加的変更分は適法か)について当裁判所も,控訴人の平成9年12月22日付け訴えの変更申立書により拡張された請求部分(3億5000万円の損害賠償を求める部分)に係る訴えは適法であると判断する。その理由は,次のとおり補正するほか,原判決29頁10行目(ただし,冒頭の「1」を除く。)から31頁末行までのとおりであるから,これを引用する。 (1) 原判決30頁10行目の「被告の支出命令」を「被控訴人が専決処理させた衛生課長の支出命令」に,末行の「本件漁業契約」を「本件漁業補償契約」に各改める。 (2) 同31頁2行目の「被告が」から4行目冒頭の「の二6)」までを次のとおり改める。 「平成9年4月4日,2億円の公金支出が違法であるなどと主張して住民監査請求を行い,続いて同月18日には,『2億円以外の』公金支出も違法であるなどと主張して住民監査請求を行った(これは,訴えの追加的変更に係る3億5000万円の公金支出を対象とする どと主張して住民監査請求を行い,続いて同月18日には,『2億円以外の』公金支出も違法であるなどと主張して住民監査請求を行った(これは,訴えの追加的変更に係る3億5000万円の公金支出を対象とするものであることが明らかである。)のであるが,同年6月4日に住民監査請求棄却の各監査結果の通知を受けた後,本件訴えの提起に際しては,2億円の公金支出が違法であるとして,被控訴人に対する2億円の損害賠償代位請求の訴えとし(原判決第二の二6(一)),その後,被控訴人の平成9年11月12日付け準備書面において本件漁業補償金が合計5億5000万円であることが明らかにされるに及んで,同年12月22日,訴えの追加的変更をしたものであるところ(原判決第二の二6(二),本件記録),弁論の全趣旨によると,控訴人が本件訴え提起の段階で請求金額を2億円に限定したのは,本来,本件漁業補償金全額を請求額としたかったものの,高松市が2億円以外の公金支出額を明らかにしていなかったため,現在の民事訴訟の制度では請求額を特定しない金員の給付請求の訴えは認められないことから,やむを得ずそのように限定したものであると推認されること」(3) 同31頁6行目の「損害賠償代位請求については」を「損害賠償代位請求は,出訴期間の関係においては」に,8行目の「本件住民監査の通知」を「各監査結果の通知の送達を受けた平成9年6月4日」に各改める。 2 争点2(本件漁業補償金支出の違法性)について(1) 前提事実等(原判決引用部分)に加え,証拠(甲4,7,9,17の1~8,18の1~24,19ないし26,28,乙1,5,9,10,14ないし16,証人c,同d,同e,同b,農林水産省中国四国農政局香川統計情報事務所に対する調査嘱託,高松市に対する調査嘱託〔3件〕)及び弁論の全趣旨を総合すると,次のア 8,乙1,5,9,10,14ないし16,証人c,同d,同e,同b,農林水産省中国四国農政局香川統計情報事務所に対する調査嘱託,高松市に対する調査嘱託〔3件〕)及び弁論の全趣旨を総合すると,次のアないしスの事実が認められる。 ア高松市δ所在の旧食肉センターは,昭和30年ころに建築されたものであり,昭和44年ころから,高松市議会において,その建物及び敷地が狭隘であること,施設が老朽化していること,周囲が住宅地であって環境上問題があること及び食肉需要の高まり等を指摘した上で,同センターの移転及び新たな施設の整備をすべきであるとの趣旨の質疑が繰り返し行われ,長年にわたり高松市の懸案事項として採り上げられてきた。また,昭和53年9月には,高松食肉事業協同組合理事長及び旧食肉センター周辺の3自治会の会長から,と畜場の移転整備促進に関する請願がされ,同月22日の高松市議会定例会で採択された。 このような中で,高松市は,旧食肉センターの移転整備の必要性があるとの認識を示し,昭和51年度からは調査費を計上して,調査と検討を進めていた。そして,昭和59年ころには,土地開発公社による先行取得として,現在本件新食肉センターの敷地とされている土地が,生活関連等の施設用地として確保された。ところが,平成元年3月ころ,同土地が食肉センターの移転先候補地であることが明らかにされると,周辺住民の一部による反対運動や建設中止の陳情がされ,市議会でも,地元住民の理解を得るように努力することを強く要望することを含む質問等がされた。高松市は,平成2年3月には,土地開発公社から,同土地を本件新食肉センター用地として取得した。しかし,主として地元の同意が得られないとの理由により,その後も本件新食肉センター建設着手の見通しは立たず,市議会においても,地元の同意を得て早期に同計画 地を本件新食肉センター用地として取得した。しかし,主として地元の同意が得られないとの理由により,その後も本件新食肉センター建設着手の見通しは立たず,市議会においても,地元の同意を得て早期に同計画を実現するよう求める趣旨の質問等が繰り返されていた。 イ高松市職員として永らく各種事業の実施に伴う用地取得関係の職務に従事していたbは,平成6年3月,市長としての任期が残り1年ほどになっていた当時の高松市長aから直接,環境部長就任の内示を受け,同年4月1日付けで環境部長に任命された。bは,a前市長から,本件新食肉センター建設実現のため,地元の同意・協力,具体的には同センターが建設される地の直接の自治会であるβ自治会及び小学校区全体の連合自治会である弦打小学校区連合自治会,とりわけ前者の同意を取り付けることを命ぜられ,併せて,β自治会と構成員をほぼ同じくする弦打漁協の同意を取り付けることも命じられた。なお,bは,これらの同意を取り付ける理由についてa前市長から告げられなかったが,用地取得業務に携わっていた経験から,予算措置の際の市議会の審議や都市計画承認の際の都市計画地方審議会の審議で地元住民の同意の有無が常に問題とされることから,上記各同意を得ることが当然必要であると認識していた。 bは,a前市長からの指示を受けて,β自治会のf会長や弦打漁協のg組合長,cらと接触を持ったが,同人らは,本件新食肉センター建設に強い反対姿勢を示していた。同人らは,反対の理由として,同センターがいわゆる迷惑施設であること,同センターからの排出水が漁業に深刻な影響を与え,また,本件漁場で採取されたのり等が本件排出水放流口の近くで採取されたという理由で消費者にボイコットされるのではないかという危惧を挙げたほか,β地区の淡水漁業者に対しては戦前から職業的差別があり, また,本件漁場で採取されたのり等が本件排出水放流口の近くで採取されたという理由で消費者にボイコットされるのではないかという危惧を挙げたほか,β地区の淡水漁業者に対しては戦前から職業的差別があり,食肉センターの従事者に対しても職業的差別意識が存することから,本件新食肉センターが同地区に建設されると同地区に対する差別意識を助長することになるのではないか,ということも述べていた。しかし,bが本件新食肉センター建設への協力依頼を継続したところ,β自治会及び弦打漁協関係者は,同地区に対して道路,下水道,公園等の環境整備が行われることと,差別意識のもとになっていた淡水漁業を廃業し,損失補償を受けることを条件に,同センター建設に同意するという方針に転換する姿勢を見せるようになった。そこで,bは,fやcらに根回しをして,a前市長がβ地区の住民らに直接話をする場を設けることとし,a前市長は,平成7年4月26日,同地区の自治会館において,住民らに対し,同地区を本件新食肉センター建設場所と選定したことに配慮不足があったとして謝罪し,地区の環境整備事業及び弦打漁協組合員に対する損失補償に誠心誠意取り組むので,同センター建設に協力してほしいと頼んだ。 ウ平成7年4月,高松市長選挙が実施され,a前市長は立候補せず,被控訴人が同選挙で市長に当選した。被控訴人も,同年5月末ころ,β地区の自治会館に赴き,住民らに対し,改めて本件新食肉センター建設に対する協力を依頼した。 弦打漁協では,このころも,組合員の間で,補償を前提に本件新食肉センター建設に同意することに賛成する者とあくまで建設に反対する者とに意見が分かれていたが,同年7月末,組合員総会を開催し,多数決により,本件漁場での漁業権を消滅させその損失補償を受けることで,同センター建設に同意する旨の決議を行った。そ くまで建設に反対する者とに意見が分かれていたが,同年7月末,組合員総会を開催し,多数決により,本件漁場での漁業権を消滅させその損失補償を受けることで,同センター建設に同意する旨の決議を行った。そして,弦打漁協役員は,同年8月ころ,高松市(環境部)に対し,漁業権の消滅補償として5億5000万円を要求し,この金額は譲れない旨の意思を伝えた。なお,弦打漁協は,この金額の積算根拠となる資料等を高松市担当者に交付することはせず,高松市担当者も,その提出を求めることをしなかった。 エ bは,弦打漁協からの5億5000万円の消滅補償の要求を受けて,部下である環境部衛生課長及び衛生課課長補佐に対し,その金額の当否について検討を命じた。 衛生課では,弦打漁協に対する漁業補償について試算を行い,その合計額を5億5138万4970円と算出し,これを予算積算資料とすることとした。その内容は次のとおりである。①漁業権の消滅に関する補償については,黒のり,青のり,あさりの漁獲高は,農林水産省中国四国農政局香川統計情報事務所による弦打漁協の調査結果に基づき,平成元年から平成5年までの年間漁獲額の平均値(ただし,黒のりについては平成3年分を除く4年分の平均値)を平均年間漁獲額として採用し,建干網等(一本釣り等)の漁獲額は弦打漁協組合員からの聞取りによる額を採用し,平均年間経営費については,純収益率を用いることにし,過去の事例(昭和54年ころの高松市東部下水処理場建設に伴う玉藻漁業協同組合への消滅補償)を参考にして,各魚種ごとに50~60%の収益率を設定し,これを平均年間漁獲額に乗じて純収益を算出し,さらに年利率8%(公共用地の取得に伴う損失補償基準細則第七4項)で除し,漁場依存度率(黒のり100%,青のり40%,あさり60%,建干網等100%)及び依存度率(100 額に乗じて純収益を算出し,さらに年利率8%(公共用地の取得に伴う損失補償基準細則第七4項)で除し,漁場依存度率(黒のり100%,青のり40%,あさり60%,建干網等100%)及び依存度率(100%)を乗じて補償額を算出した。 ②所得に関する損失補償(転業補償)については,同様に求めた各魚種ごとの平均年間漁獲額に,過去の事例(①の事例に同じ。)を参考にそれぞれの漁種の実情を勘案して設定した所得率70~80%及び廃止率(①の漁場依存度率と同じ。)を乗じて所得相当額を計算し,転業期間2年ないし4年を乗ずることにより補償額を算出した。③資本に関する損失補償については,漁具等の売却損として500万円を計上した(なお,収益率や所得率を定める上で参考にした先例の内訳及び合理性,資本に対する損失補償額の根拠は,必ずしも明らかでない。)。 また,衛生課では,上記と異なる収益率,依存度率,所得率,転業期間等の数値を各魚種ごとに設定した複数のタイプの試算も行っていたが,これによる最高額は9億0325万1030円,最低額は4億2413万6160円であった。 オ bは,衛生課職員から弦打漁協の要求額5億5000万円が妥当な金額である旨の報告を受け,b自身も同報告内容が妥当であると判断し,平成7年夏ころ,弦打漁協との間で,同金額の消滅補償をすることで,本件新食肉センターの建設に対する同意,協力を得る旨の事実上の合意をするに至った。 カ高松市は,弦打漁協から本件新食肉センター建設の同意が得られる見通しが付いたと判断し,同センター建設事業に着手することとし,同年8月ころから,都市計画課及び衛生課の担当者が,香川県土木部都市計画課の担当者と都市計画決定についての協議を継続的に行った。この協議においては,香川県側から,高松市側に対し,火葬場等について建設省が示した「計画 都市計画課及び衛生課の担当者が,香川県土木部都市計画課の担当者と都市計画決定についての協議を継続的に行った。この協議においては,香川県側から,高松市側に対し,火葬場等について建設省が示した「計画標準(案)」を参考に同センターから500m以内の周辺地域の住民の同意を得ておくようにとの行政指導が口頭でされた。 キ衛生課では,上記オの算出額を踏まえ,平成8年度食肉センター事業特別会計における補償・補填及び賠償金予算として6億9000万円の予算案を作成した。 同予算案は,平成8年3月開会の高松市議会において,原案どおり可決された。 弦打漁協は,平成8年4月に執行部が交代し,高松市環境部に対し,税引き後の手取額が5億5000万円になるよう補償額の増額を要求した。しかし,高松市は,この要求には応じず,弦打漁協は,交渉の過程で,高松市の担当の衛生課長に漁業権の消滅補償に代えて影響補償に切り換えればどうなるかという話をしたりもしたが,所得税の問題については特別控除の措置を求めて税務当局と交渉した上,結局,同年秋ころには当初の要求額である5億5000万円で本件新食肉センター建設に同意する方針を固めた。そして,弦打漁協は,同年12月21日,組合員総会を開催し(組合員65名中60名出席),本件漁場における漁業権を平成9年3月31日をもって消滅することを出席者全員の賛成により議決した。 ク高松市(代表者市長被控訴人)は,平成8年12月20日,弦打漁協組合員65名全員(代理人弦打漁協代表理事h)との間で大要次のとおりの内容の覚書を取り交わすことについての執行伺いに対し市長である被控訴人が決裁した上,同月24日,衛生課長ないし環境部長の支出負担行為決裁(衛生課長の専決処理事項であるが,事案の重要性に鑑み,環境部長も決裁した。)により,同旨の覚書を取り交わした し市長である被控訴人が決裁した上,同月24日,衛生課長ないし環境部長の支出負担行為決裁(衛生課長の専決処理事項であるが,事案の重要性に鑑み,環境部長も決裁した。)により,同旨の覚書を取り交わした。 (ア) 弦打漁協組合員は,高松市が本件新食肉センターの建設及び操業に伴う処理水を地先海面に放流することに同意し,高松市はこれに伴い弦打漁協組合員の通常漁業の継続が不能となることにより,弦打漁協組合員の享有に係る一切の漁業権等を消滅し,弦打漁協組合員が漁業を廃止することに同意する。 (イ) 弦打漁協組合員は,本件漁場に係る各区画漁業権に関する権利その他の漁業に関する一切の権利を漁業損失補償に関する契約締結の日から放棄し,平成9年3月31日を目途に漁業を廃止し,弦打漁協を解散するものとする。 (ウ) 高松市は,弦打漁協組合員が漁業に関する一切の権利放棄及び漁業を廃止すること並びに弦打漁協が解散することに伴い,弦打漁協組合員が受ける一切の漁業損失の補償金として5億5000万円を弦打漁協組合員に支払うものとする。 (エ) 上記(ウ)の補償金の支払は,弦打漁協が,一切の漁業権を消滅し,組合解散の決議をしたことに伴い,補償金の一部として,2億円を支払うものとし,残金3億5000万円については,高松市が都市計画法に規定する都市計画決定の承認を知事から受けた後に,別途漁業権損失補償に関する契約を締結し,「弦打漁協組合員が弦打漁協の解散登記を完了した後に」(ただし,この部分は,その後平成9年2月7日付け覚書の一部変更覚書により,「弦打漁協組合員が提出した漁業協同組合解散認可申請書を知事が受理した後に」と改められた。),支払うものとする。 (オ) 弦打漁協組合員は,高松市が上記都市計画決定の承認を受けられない場合又は弦打漁協組合員が弦打漁協の解散登記をしない場合は 認可申請書を知事が受理した後に」と改められた。),支払うものとする。 (オ) 弦打漁協組合員は,高松市が上記都市計画決定の承認を受けられない場合又は弦打漁協組合員が弦打漁協の解散登記をしない場合は,既に支払を受けた補償金を高松市に返還する。 ケ高松市は,上記覚書に係る合意に基づき,被控訴人が専決処理させた衛生課長の平成8年12月25日付け支出命令により,同月27日,弦打漁協(組合員全員の代理人)に対し,2億円を支払った。弦打漁協は,香川県知事に対し,漁業協同組合解散認可申請書を提出し,平成9年2月12日,受理された。 そして,高松市(代表者市長被控訴人)は,同年3月28日,契約締結及び契約内容についての執行伺いに対し市長である被控訴人が決裁した上,同月30日,衛生課長の支出負担行為決裁により,弦打漁協組合員65名全員との間で,上記クの覚書の(エ)の規定に基づき,高松市が本件新食肉センターを建設すること及び同センターの操業に伴い処理水を地先海面に放流することに対する漁業損失補償について(前文),「弦打漁協組合員は,契約締結の日から本件漁場に係る各区画漁業権に関する権利その他の漁業に関する一切の権利を放棄し,漁業を廃止し,高松市が本件新食肉センターの建設工事に着手すること,同センターの操業に伴い,高松市が事業処理水を地先海面に放流することに同意する。高松市は,上記漁業に関する一切の漁業損失の補償金として,覚書(ウ)規定の5億5000万円のうち支払済みの2億円を差し引いた3億5000万円を,弦打漁協組合員より適法な請求を受けた日から30日以内に支払う。」との,覚書の内容に沿った内容の漁業損失補償に関する契約書を取り交わした。これに基づき,高松市は,被控訴人が専決処理させた衛生課長の同日付け支出命令により,同月31日,弦打漁協(組合員全員の 払う。」との,覚書の内容に沿った内容の漁業損失補償に関する契約書を取り交わした。これに基づき,高松市は,被控訴人が専決処理させた衛生課長の同日付け支出命令により,同月31日,弦打漁協(組合員全員の代理人)に対し,3億5000万円を支払った。 コ平成9年2月20日開催の第94回香川県都市計画地方審議会において,本件新食肉センター(香川県中央都市計画と畜場)の決定に関する審議がされた。同審議会では,香川県が高松市に対する行政指導で同意を得るよう求めていた同センターから500mの範囲の区域の住民の一部が建設に同意していないことを問題視し,継続審議を求める趣旨の意見を述べる委員もいたが,会長名で「事業実施に当たっては,今後とも周辺住民の同意を得るよう,誠意を持って対応すること」を審議会の要望として答申することで,本件新食肉センターに関する議案を全員一致で原案どおり可決した。香川県知事は,同月27日付けで,本件新食肉センターに係る都市計画を承認し,併せて,同日付けで,高松市長に対し,香川県都市計画地方審議会長の上記要望につき十分配慮するよう願う旨通知した。 サ高松市は,本件漁業補償契約締結に先立ち,本件新食肉センター建設に伴う環境影響調査を実施した。その「環境影響調査報告書」(平成8年11月付け,甲4)及びその元になる「調査予測業務」(同年10月付け,甲7,9)によると,同年10月9日の満潮時,中間時及び干潮時の3回行われた本件排出水の排水口から12m,25m,40mの各地点の各表層,中層における水質測定の結果,COD(化学的酸素要求量),SS(浮遊物質量),T-N(全窒素),T-P(全リン)を水質検査項目とした予測としては,本件新食肉センターの最大排水量(250●/日)を前提としても,本件排出水の排水口から概ね40mの範囲でしか濃度変化が 物質量),T-N(全窒素),T-P(全リン)を水質検査項目とした予測としては,本件新食肉センターの最大排水量(250●/日)を前提としても,本件排出水の排水口から概ね40mの範囲でしか濃度変化がなく,周辺海域への影響は軽微であり,同センターの設置に伴って周辺海域の現況の水質が悪化することはなく環境保全目標は満足されると結論付けられている。高松市の担当者から,漁業補償の交渉過程において,弦打漁協側にこの調査結果が伝えられたことはない。 また,本件新食肉センターの操業開始後に予定されていた本件排出水の水質は次の①のとおりであり,水質汚濁防止法(排水基準を定める省令)及び香川県公害防止条例によるBOD(生物化学的酸素要求量),COD,SSの各排水基準は,次の②及び③のとおりである。 ① 本件新食肉センターの操業開始後に予定されていた本件排出水の水質BOD 最大10㎎/l 日間平均8㎎/lCOD 最大20㎎/l 日間平均18㎎/lSS 最大10㎎/l 日間平均5㎎/l② 水質汚濁防止法(排水基準を定める省令)による排水基準BOD 最大160㎎/l 日間平均120㎎/lCOD 最大160㎎/l 日間平均120㎎/lSS 最大200㎎/l 日間平均150㎎/l③ 香川県公害防止条例による排水基準BOD 最大30㎎/l 日間平均20㎎/lCOD 最大30㎎/l 日間平均20㎎/lSS 最大50㎎/l 日間平均40㎎/lシ本件新食肉センターは,原判決「事実及び理由」第二の二2後段記載のとおり,平成10年1月にその建設工事が着工され,平成11年3月に竣工し,同年11月にその操業を開始し,予定どおりの量の本件排出水を放流している。 操業開始以降,月に2回又は3回継続的に行われている本件排出水の水質検査の結果(甲17の1~7,18の1~ 年3月に竣工し,同年11月にその操業を開始し,予定どおりの量の本件排出水を放流している。 操業開始以降,月に2回又は3回継続的に行われている本件排出水の水質検査の結果(甲17の1~7,18の1~24)によると,そのBOD,COD及びSSの数値は,上記②,③の排水基準の日間平均の数値を下回っており,かつ,平成12年2月4日のSSの数値が6.2㎎/lとされているのを除き,上記①の予定されていた本件排出水の水質の日間平均の数値をも大幅に下回っている(BODは,平成11年11月26日の3.3㎎/l,平成12年2月4日の7.8㎎/lを除き1㎎/l前後,CODは平成11年11月12日の12.5㎎/l,同年12月10日の11.4㎎/lを除き10㎎/l未満,SSは,平成12年2月4日の6.2㎎/l,同年9月8日の3.1㎎/lを除き1㎎/l以下。)。 ス本件新食肉センターからの本件排出水については,公共下水道が整備された後は,下水道に放流することが予定されていた(漁業補償の交渉過程において,このことを高松市の担当者が弦打漁協側に伝えたことはない。)。この下水道事業は,香東川流域下水道事業として,香川県が,平成2年12月,高松市,ε,ζ,η及びθとの間で協定を締結し,平成10年度処理場供用開始,平成13年度管渠工事完成を目標として計画したものであり,現実には平成13年8月ころ供用が開始されている。 以上のアないしスの事実が認められ,上記認定を覆すに足りる証拠はない。以下,上記認定事実を前提に,本件漁業補償金支出の違法性について判断する。 (2) 本件漁業補償契約は,いうまでもなく,本件新食肉センターの操業に伴い処理水(本件排出水)を同センターの地先海面に放流することによる本件漁場における漁業損失を補償する内容のものである。そして,公共事業の施行のために 約は,いうまでもなく,本件新食肉センターの操業に伴い処理水(本件排出水)を同センターの地先海面に放流することによる本件漁場における漁業損失を補償する内容のものである。そして,公共事業の施行のために,漁場そのものを埋め立てたり,工事による土砂が漁場に流入するような場合と比較して,将来本件排出水の放流により本件漁場における漁業に影響が生じるかどうか,その有無及び程度を正確に予測することには大きな困難が伴うものであり,その判断は,非常に不確実な予測に基づく判断とならざるを得ない。したがって,本件排出水の放流を理由として,損失補償を行う必要があるか,仮に必要があるとした場合にどの程度の補償を行うかを,厳格かつ適正に判断することは,実際に本件新食肉センターの操業を開始してから,本件排出水の放流により,本件漁場での漁業に損害が発生するかどうかを現実に検証することなくしては容易でない。 他方,公共事業の実施により現実に損害が発生するかどうかが判明するのを待ち,損害が生じた場合にのみ補償ないし損害賠償を行うとすれば,損害を被った者の救済は事後的なものとなり,その保護に欠けるきらいがある。また,僅かでも損害を被る可能性のある者は,当然その公共事業に反対し,あるいは事前の補償を求めることが予測される。そして,高松市では,積年の課題とされてきた本件新食肉センターの建設が,地元の同意が得られないことが主たる理由となって進捗しないでいたところ,同センター建設予定地の直接の自治会であるβ自治会と構成員をほぼ同じくする弦打漁協は,従前から本件排出水が漁業に与える影響に対する危惧等を理由に本件新食肉センターの建設に強く反対していたが,(淡水)漁業を廃業し,損失補償を受けることを条件に,同センター建設に同意するという方針に転換していたものであった。したがって,これを る危惧等を理由に本件新食肉センターの建設に強く反対していたが,(淡水)漁業を廃業し,損失補償を受けることを条件に,同センター建設に同意するという方針に転換していたものであった。したがって,これを受け入れて漁業補償契約に応じることは,市議会や都市計画地方審議会の理解を得て,同センターの建設を早期かつ円滑に進める上で,大きな意味合いを持つものであったと認められる。このように,事前補償を行うことが,重要な行政目的を実現することに資する場合には,事前補償を行うかどうかを決定する上でそのことをも考慮することが許容されると考えられる。すなわち,将来の漁業に対する影響の有無,程度の判断に不確実な点があっても,地方公共団体の長が,事前補償契約を締結した結果として得られる行政目的遂行上の利点をも併せ考慮した上で,その裁量に基づき,事前に漁業補償契約を締結することを選択したとしても,そのことが直ちに違法になるわけではないと解される。 しかし,漁業補償契約は,あくまでも将来発生する漁業損失を補填する性質のものであり,これにより関係者の同意が得られるということは副次的な効果として位置づけられるべきものである。したがって,事前の漁業補償契約を締結するかどうかを判断するに際して,まず吟味されなければならないのは,将来の漁業損失発生の蓋然性の程度である。仮に,ある重要な行政目的を達成する上で特定の者の同意を得る必要があったとしても,そのことを理由に,漁業損失発生の蓋然性の検討を等閑に付して,漁業補償を求める者が主張する損失発生の可能性を否定できないというだけで,事前の漁業補償契約を締結することまで,地方公共団体の長の行政裁量の範囲内にあると解することはできない。これがその行政裁量の範囲内にあると解することは,行政目的実現の名目で無制約に不必要な公金支出がされる 漁業補償契約を締結することまで,地方公共団体の長の行政裁量の範囲内にあると解することはできない。これがその行政裁量の範囲内にあると解することは,行政目的実現の名目で無制約に不必要な公金支出がされることを容認することにほかならない。まして,本件においては,市議会で地元の同意を得て早期に本件新食肉センター建設計画を実現するよう求める趣旨の質問等が繰り返され,香川県から500m以内の周辺地域の住民の同意を得ておくようにとの行政指導が口頭でされていたとはいえ,地元(本件漁業補償契約との関係でいえばβ自治会及び弦打漁協)の同意を得ることは,本件新食肉センター建設のための法律上の要件ではなかったのである(ちなみに,高松市は,同センターの建設につき,香川県が行政指導で求めた500m以内の周辺地域の自治会すべての同意を得たというわけではない。)。したがって,同センター建設による損失発生の蓋然性のない場合に,それにもかかわらず,弦打漁協の同意を得るために,事前に補償をするということは,政策的判断の名の下に許容されるものではない。 このように考えると,地方公共団体が本件漁業補償契約のような事前の損失補償契約を締結し,その補償金を公金から支出することが許容されるためには,損害ないし損失の発生が相当程度の蓋然性をもって予測されることが必要であると解すべきである。そして,そのような蓋然性が認められる場合に初めて,行政目的の実現等の観点からの考慮をも加えて事前補償契約を締結するか,それとも現実の検証を待ち,被害が発生した場合にのみ,適正な金額を算出することが可能な事後の補償を行うかの判断が,地方公共団体の長の政策的な裁量判断に委ねられているものと解すべきである。 (3) そこで,本件新食肉センターの操業により,本件漁場における漁業に損害が生じることが相当程度の 補償を行うかの判断が,地方公共団体の長の政策的な裁量判断に委ねられているものと解すべきである。 (3) そこで,本件新食肉センターの操業により,本件漁場における漁業に損害が生じることが相当程度の蓋然性をもって予測されると判断することに合理性が認められるかどうかを検討する。 ア直接被害について被控訴人は,本件排出水により,周辺海域が汚染され,将来にわたって継続して排出される結果,汚物が漸次蓄積され,排出海域から約200m離れた本件漁場において弦打漁協組合員が養殖するのり等の品質が低下することは必至であるなどと主張する。そして,証人c及び同dの証言中には,これに沿う部分もある。 しかし,これらの証言は何らの科学的裏付けを伴うものではなく,また,証人cの証言は,本件排出水が本件新食肉センターで汚水処理をした後の排出水であることを正しく認識して述べているかどうかも甚だ疑わしいものである。他方,前記(1)サで認定したとおり,高松市において実施した環境影響調査によると,本件新食肉センターの最大排水量(250●/日)を前提としても,本件排出水の排水口から概ね40mの範囲でしか濃度変化がなく,周辺海域への影響は軽微であり,同センターの設置に伴って周辺海域の現況の水質が悪化することはないと結論付けられている。また,同調査によると,本件新食肉センターの操業開始後に予定されていた本件排出水のBOD,COD,SSの数値は,水質汚濁防止法(排水基準を定める省令)及び香川県公害防止条例による各排水基準の数値を下回っていたものである。この事実からは,むしろ,本件排出水が放流される海面から約150m離れた本件漁場で養殖されるのり等の品質低下が生じないであろうことが予測されていたということができる。もとより,これらの調査結果は科学的分析結果の1つに過ぎないから 水が放流される海面から約150m離れた本件漁場で養殖されるのり等の品質低下が生じないであろうことが予測されていたということができる。もとより,これらの調査結果は科学的分析結果の1つに過ぎないから,これをもって,本件漁場でのり等への影響が絶対に生じないと断定することは,かえって科学的でないともいえる。しかし,そのことは,本件排出水によるのり等の品質低下の可能性(それも科学的な裏付けを欠く可能性である。)の存在が否定されないことを意味するにとどまるのであり,本件漁場ののり等の品質低下が発生することが相当の蓋然性をもって予測されることとは明らかに異なるものである。まして,本件排出水により,本件漁場における漁業の継続が不能ないし著しく困難になるほどの重大な影響が生じることが相当の蓋然性をもって予測されるとは到底いえない。香東川流域においては,当時,平成10年度処理場供用開始,平成13年度管渠工事完成を目標として公共下水道の整備事業が進行しており,その供用開始後は,本件排出水もこの下水道に放流することが予定されていたことを考慮すると,尚更漁業権の消滅補償をするに足る直接被害発生の蓋然性を肯定し難い。 したがって,本件排出水による本件漁場での漁業に直接被害が発生することを理由として本件漁業補償契約をすることは許されなかったというべきである。 イ風評被害について被控訴人は,弦打漁協組合員が育成収穫したのり等は本件排出水により汚染された海域で育成されたものであるとの風評が立ち,生鮮食品の市場原理によって販売不振に陥り,商品販売による利益を含む漁業権行使が不能となり,廃業に至ることが予見されたなどと主張する。 しかし,前示のとおり,高松市による環境影響調査結果によると,本件新食肉センターの設置により周辺海域の現況の水質が悪化することはないとされ が不能となり,廃業に至ることが予見されたなどと主張する。 しかし,前示のとおり,高松市による環境影響調査結果によると,本件新食肉センターの設置により周辺海域の現況の水質が悪化することはないとされていたのであり,本件漁場で育成収穫したのり等は本件排出水により汚染された海域で育成されたものであるとの風評が立つと予測する根拠は非常に不十分なものである。もとより,風評被害というものは,そもそも合理的な根拠に基づき発生するものとは限らず,その意味では,被控訴人が主張するような風評が立つことも考えられないではない。しかし,不合理な根拠に基づいて発生する風評被害に対する予測は余りにも不確実なものであって,そのような風評被害については,一般に相当程度の蓋然性をもって発生すると予測することは困難であり,事前の損失補償に馴染むものではない。もっとも,風評被害の原因となる事由(本件では本件排出水の放流)が,一般人において,人体に対して被害を及ぼすと懸念するのももっともであるというような性格のものである場合には,風評被害の発生が蓋然性をもって予測されることがあり得る。しかし,前示の環境影響調査結果に鑑みても,本件新食肉センターからの本件排出水の放流がそのような性格を有するものであるとはいえない(ちなみに,被控訴人は,風評被害ないしこれに準ずる被害に関する報道等の事例として,乙13の1~5を提出するが,これらは,ιの産業廃棄物,κの臨界事故,所沢市周辺のダイオキシン問題,病原性大腸菌O-157による集団食中毒〔カイワレ大根の事例〕,タンカーの重油流出を原因とするものであって,まさに,一般人において人体に対して直接かつ重大な被害を及ぼすと懸念するのももっともであるというような性格のものであり,本件排出水の問題とは明らかに異なる。)。 そうすると,結局のところ であって,まさに,一般人において人体に対して直接かつ重大な被害を及ぼすと懸念するのももっともであるというような性格のものであり,本件排出水の問題とは明らかに異なる。)。 そうすると,結局のところ,本件排出水により発生することが予測される風評被害とは,いわゆる迷惑施設である本件新食肉センターの近くで取れたのり等であるという消費者の抽象的嫌悪感,イメージの低下によるものにとどまるというべきである。もっとも,このような抽象的嫌悪感やイメージの低下であっても,これにより販売不振等が生じることはあり得るところであるから,その発生が不確実なものであるとはいえ,これによる利益の低下に対しても,事前にその補填を行うことが一切許されないといえるかは検討の余地があるところである。しかし,上記のような消費者の抽象的嫌悪感やイメージの低下により,本件漁場における漁業の継続が不能ないし著しく困難となり,弦打漁協組合員が廃業せざるを得なくなることまでも,相当程度の蓋然性をもって予測されるとは到底いえない。弦打漁協の組合員は,本件漁場で取れたのり等につき,中央卸売市場を通さず,固定客となっている個人消費者の家庭を回るなど直接販売を行う形態をとる者が多かったこと(証人cの証言によると,市場に卸す組合員もいたことが認められる。)を考慮しても,この判断は変わらない。 したがって,被控訴人主張の風評被害についても,少なくとも事前の消滅補償を行う内容の本件漁業補償契約を正当化する理由にならないというべきである。 (4) 以上によれば,本件漁業補償契約の締結は,消滅補償を要するような漁業損失の生じる相当程度の蓋然性が認められないにもかかわらず行われたものであり,同契約に基づく支出命令による本件漁業補償金合計5億5000万円の支払は,裁量権の逸脱によりされた公金支出として,全 漁業損失の生じる相当程度の蓋然性が認められないにもかかわらず行われたものであり,同契約に基づく支出命令による本件漁業補償金合計5億5000万円の支払は,裁量権の逸脱によりされた公金支出として,全体として違法との評価を免れず,これによって,高松市は同額の損害を被ったと認められる。 3 争点3(被控訴人の故意・過失)について上記2で検討したとおり,本件漁業補償契約の締結及び本件漁業補償金の支出は違法であり,被控訴人は,その違法であることを認識し得なかったとは考え難い。 むしろ,前記2(1)の認定事実によると,高松市の担当者は,弦打漁協が本件新食肉センター建設に対して強い反対姿勢から,漁業権の消滅補償を受けることを条件に同センター建設に同意するという方針に転換する姿勢を示し,譲れない金額として5億5000万円を要求したのに対し,その積算根拠となる資料等の提出も求めず,その合理性が必ずしも明らかにされていない収益率,所得率等を用いて弦打漁協組合員に対する補償額を試算し,複数のタイプの試算結果から弦打漁協の要求額である5億5000万円を僅かに上回る金額を選定して予算積算資料とする一方で,周辺海域の現況の水質が悪化することはないと結論付けられた環境影響調査結果が出る前から消滅補償を当然の前提として弦打漁協と交渉を行い,同調査結果が出た後も,その調査結果を弦打漁協側には伝えることなく,本件漁業補償契約を締結したものである。また,漁業補償が将来弦打漁協の組合員に現実に生じるであろう損失を補償するものであるという意識が真にあれば,本件排出水によって本件漁場に損害が発生する蓋然性について,環境部内部で当然議論されるべきである筈であるが,当時の環境部長であった証人b,衛生課長であった証人dの証言によっても,本件排出水による直接被害,風評被害の発生の有無 に損害が発生する蓋然性について,環境部内部で当然議論されるべきである筈であるが,当時の環境部長であった証人b,衛生課長であった証人dの証言によっても,本件排出水による直接被害,風評被害の発生の有無や,これにより弦打漁協組合員が漁業を続けることが困難になるかどうかについて,部内で真摯な討議がされたことは窺われない。そして,本件新食肉センターの建設が高松市で積年の課題とされながら,地元住民の同意がないことが障害となって進捗しないでいたこと,市議会での質問等や香川県の行政指導で,地元の同意を得ることが求められてきたこと,さらには,淡水漁業を廃止して職業的差別の原因を取り除きたいとの弦打漁協(β地区)側の意向からして消滅補償以外の補償では弦打漁協が同センターの建設に容易に同意しなかったと考えられること等の諸事情に鑑みると,高松市の担当者は,本件排出水による本件漁場での漁業損失発生の蓋然性まではないことを認識しながら,あるいは,少なくともこの蓋然性の問題については等閑視して,弦打漁協の要求に応じるという政策的判断をし,被控訴人も同じ認識のもとにこの判断を追認したと推認される。 当裁判所としても,被控訴人がこのような判断をしたことに対して一定の理解ができないものではない。しかも,被控訴人は,a前市長が進めてきた本件新食肉センター建設事業を引き継いだものであることを考慮すれば,被控訴人が弦打漁協に対し消滅補償による漁業補償をしないという決断をすることが,それほど容易でなかったことも推察されるところである。しかし,前示のとおり漁業補償契約があくまでも将来発生する漁業損失を補償するものである以上,将来の漁業継続が不能ないし著しく困難になる蓋然性が認められない場合にまで,裁量的に消滅補償を行うことを適法視することはできない。また,弦打漁協に対して漁業権 生する漁業損失を補償するものである以上,将来の漁業継続が不能ないし著しく困難になる蓋然性が認められない場合にまで,裁量的に消滅補償を行うことを適法視することはできない。また,弦打漁協に対して漁業権の消滅補償を行うことによって,職業的差別意識の解消につながるとすれば,そのこと自体は望ましいことではあるが,このような差別解消措置は,本来,別途の対策をもって行うべきものであり,上記のような蓋然性が認められない場合に消滅補償をすることを適法ならしめるものではない。なお,極めて重要な行政目的を実現するために不可欠の要件を充足するため高度の政策的判断に基づき行われる地方公共団体の長の行為については,裁判所の違法・適法の法律判断の対象外となり得る場合も考えられなくはないが,弦打漁協の同意が本件新食肉センターを建設する上での法的要件ではない本件は,そのような場合に当たるということはできない。したがって,本件漁業補償契約及び本件漁業補償金の支出の違法性及び被控訴人の過失を否定することは困難である。 なお,控訴人は,支出負担行為たる本件漁業補償契約及びこれに基づく支出命令をもって,本件住民監査請求ないし本件住民訴訟の対象たる財務会計上の行為としているものと解されるところ,2件の支出負担行為(前記覚書及び漁業損失補償に関する契約書に係る各契約の締結)は衛生課長ないし環境部長の決裁によるものであり,これに基づく各支出命令は衛生課長の専決処理によるものであるが,いずれの支出負担行為についても,その執行伺いに対し被控訴人自身が市長として決裁したものであるから,被控訴人は,本来的に権限を有する者として,損害賠償責任を負うことが明らかである。 4 結論以上の次第で,高松市に代位しての控訴人の被控訴人に対する本訴請求は,5億5000万円及び内金2億円に対しては訴 は,本来的に権限を有する者として,損害賠償責任を負うことが明らかである。 4 結論以上の次第で,高松市に代位しての控訴人の被控訴人に対する本訴請求は,5億5000万円及び内金2億円に対しては訴状送達の日の翌日である平成9年7月13日から,内金3億5000万円に対しては同額の請求を追加した訴えの変更申立書送達の日の翌日である平成9年12月23日から,各支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから認容すべきであり,その余の請求(附帯請求の一部)は理由がないから棄却すべきである(控訴人は,訴えの変更により追加した3億5000万円についても訴状送達の日の翌日を附帯請求の起算日としているが,訴状で請求していない同金額については,訴状送達によって付遅滞の効果が生じるものではない。)。 よって,控訴人の請求を棄却した原判決を,上記判断に従い変更することとして,主文のとおり判決する。なお,本件訴訟の特質に鑑み,控訴人申立ての仮執行宣言については,必要ないものと認め,付さないこととする。 高松高等裁判所第2部裁判長裁判官水野武裁判官豊永多門裁判官朝日貴浩
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