令和5(行ヒ)397 生活保護基準引下げ処分取消等請求事件

裁判年月日・裁判所
令和7年6月27日 最高裁判所第三小法廷 判決 その他 大阪高等裁判所 令和3(行コ)38
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判決文本文26,806 文字)

- 1 - 主文 1 原判決主文第1項及び第2項のうち、上告人X1ら及び上告人X2らに関する部分を破棄し、同部分につき、被上告人各市の控訴を棄却する。 2 上告人X1ら及び上告人X3らの被上告人国に対する各上告を棄却する。 3 第1項に関する控訴費用及び各上告費用は被上告人各市の負担とし、前項に関する各上告費用は、上告人X1ら及び上告人X3らの負担とする。 理由 上告代理人丹羽雅雄ほかの上告受理申立て理由(ただし、排除されたものを除く。)について 1 大阪府内に居住して生活保護法に基づく生活扶助を受給していた上告人ら(上告人X3らについてはその各夫)は、平成25年から平成27年にかけて行われた、厚生労働大臣による「生活保護法による保護の基準」(昭和38年厚生省告示第158号。以下「保護基準」という。)中の生活扶助基準(別表第1)の改定(以下「本件改定」という。)を理由として、所轄の福祉事務所長らから、それぞれ、生活扶助の支給額を変更する旨の保護変更決定を受けた。 本件は、上告人らが、本件改定は違法であるなどと主張して、上告人X1ら及び上告人X2らにおいて被上告人各市を相手に上記の保護変更決定の取消しを求め、上告人X1ら及び上告人X3らにおいて被上告人国に対し国家賠償法1条1項に基づく損害賠償を求める事案である。 令和5年(行ヒ)第397号、第398号生活保護基準引下げ処分取消等請求事件令和7年6月27日第三小法廷判決- 2 - 2 原審の適法に確定した事実関係等の概要は、次のとおりである。 ⑴ア生活扶助基準は、基準生活費(第1章)と加算(第2章)とに大別されている。居宅で生活する者の基準生活費は、市町村別に1級地-1から3級地-2 に確定した事実関係等の概要は、次のとおりである。 ⑴ア生活扶助基準は、基準生活費(第1章)と加算(第2章)とに大別されている。居宅で生活する者の基準生活費は、市町村別に1級地-1から3級地-2まで六つに区分して定められる級地(別表第9)及び年齢別に定められる第1類と、級地等及び世帯人員別に定められる第2類とに分けられ、原則として世帯ごとに、当該世帯を構成する個人ごとに算出される第1類の額(以下「第1類費」という。)を合算したものに世帯人員別の所定の逓減率を乗じたものと第2類の額(以下「第2類費」という。)とを合計して算出される。第1類費は、食費、被服費等の個人単位の経費に、第2類費は、光熱水費、家具什器費等の世帯単位の経費にそれぞれ対応するものとされている。 イ厚生労働大臣は、基準生活費について、標準世帯(昭和61年度からは、1級地-1における夫33歳、妻29歳及び子4歳の3人世帯)の最低生活に要する費用を、標準世帯の生活扶助基準額として具体的に設定した上で、これを第1類費と第2類費とに分解し、それぞれ、年齢別、世帯人員別、級地別に所要の指数を乗ずることによって定めている(以下、このように、年齢、世帯人員、級地に応じた基準生活費の額を定めるために標準世帯の生活扶助基準額を基軸として所要の指数を乗ずることを「展開」といい、当該指数を「展開のための指数」という。)。 ⑵ 生活扶助基準の改定方式として、昭和25年の生活保護法施行当初は、マーケットバスケット方式(最低生活を営むために必要な飲食物や衣類、家具什器、入浴料といった個々の品目を一つ一つ積み上げて最低生活費を算出する方式)が採用されていたが、その後、エンゲル方式(栄養審議会の答申に基づく栄養所要量を満たし得る食品を理論的に積み上げて計算し、別に低所得世帯の実態調査から、こ 一つ一つ積み上げて最低生活費を算出する方式)が採用されていたが、その後、エンゲル方式(栄養審議会の答申に基づく栄養所要量を満たし得る食品を理論的に積み上げて計算し、別に低所得世帯の実態調査から、この飲食物費を支出している世帯のエンゲル係数の理論値を求め、これから逆算して総生活費を算出する方式)及び格差縮小方式(一般国民の消費水準の伸び率以上に生活扶助基準を引き上げ、結果的に一般国民と被保護世帯との消費水準の格差を縮小させようとする方式)が順次採用された。 - 3 -⑶ア厚生省(当時)の審議会である中央社会福祉審議会は、昭和58年12月、「生活扶助基準及び加算のあり方について(意見具申)」(以下「昭和58年意見具申」という。)を公表した。昭和58年意見具申のうち、生活扶助基準に関する部分の概要は、以下のとおりであった。 ① 現在の生活扶助基準は一般国民の消費実態との均衡上ほぼ妥当な水準に達しているとの所見を得た。しかしながら、生活保護世帯及び低所得世帯の生活実態を常時把握し、生活扶助基準の妥当性についての検証を定期的に行う必要がある。 ② 生活保護において保障すべき最低生活の水準は、一般国民生活における消費水準との比較における相対的なものとして設定すべきものであり、生活扶助基準の改定に当たっては、当該年度に想定される一般国民の消費動向を踏まえると同時に、前年度までの一般国民の消費水準との調整が図られるよう適切な措置をとることが必要である。また、当該年度に予想される国民の消費動向に対応する見地から、政府経済見通しの民間最終消費支出の伸びに準拠することが妥当である。なお、賃金や物価は、そのままでは消費水準を示すものではないので、その伸びは、参考資料にとどめるべきである。 イ昭和58年意見具申を踏まえ、昭和59年度以降、生活 びに準拠することが妥当である。なお、賃金や物価は、そのままでは消費水準を示すものではないので、その伸びは、参考資料にとどめるべきである。 イ昭和58年意見具申を踏まえ、昭和59年度以降、生活扶助基準の改定方式として、水準均衡方式(当時の生活扶助基準が一般国民の消費実態との均衡上ほぼ妥当であるとの評価を踏まえ、当該年度に想定される一般国民の消費動向を踏まえると同時に、前年度までの一般国民の消費実態との調整を図る方式)が採用されている。 ⑷ア厚生労働省の審議会である社会保障審議会の福祉部会内に設置された生活保護制度の在り方に関する専門委員会は、平成15年12月に「生活保護制度の在り方についての中間取りまとめ」(以下「平成15年中間取りまとめ」という。)を公表した。平成15年中間取りまとめのうち、生活扶助基準に関する部分の概要は、以下のとおりであった。 ① 水準均衡方式はおおむね妥当であると認められてきたが、最近の経済情勢は- 4 -この方式を採用した当時と異なることから、例えば5年に1度の頻度で、生活扶助基準の水準について定期的に検証を行うことが必要である。 ② 上記の定期的な検証を行うまでの毎年の改定については、近年、民間最終消費支出の伸びの見通しがプラス、実績がマイナスとなるなど安定しておらず、また、実績の確定も遅いため、これによる被保護世帯への影響が懸念されることから、改定の指標の在り方についても検討が必要である。この場合、国民にとって分かりやすいものとすることが必要であるので、例えば、年金の改定と同じように消費者物価指数の伸びも改定の指標の一つとして用いることなども考えられる。 イ上記専門委員会が平成16年12月に公表した報告書(以下「平成16年報告書」という。)は、勤労3人世帯の生活扶助基準について、低所 数の伸びも改定の指標の一つとして用いることなども考えられる。 イ上記専門委員会が平成16年12月に公表した報告書(以下「平成16年報告書」という。)は、勤労3人世帯の生活扶助基準について、低所得世帯の消費支出額との比較において検証・評価した結果、その水準は基本的に妥当であったとしつつ、今後、生活扶助基準と一般低所得世帯の消費実態との均衡が適切に図られているか否かを定期的に見極めるため、全国消費実態調査等を基に5年に1度の頻度で検証を行う必要があるとした。 ウ平成16年報告書を踏まえ、平成19年10月、厚生労働省社会・援護局長の下に、生活扶助基準について専門的な分析、検討を行うことを目的として、学識経験者等から成る生活扶助基準に関する検討会が設置された。 上記検討会は、同年11月、報告書(以下「平成19年報告書」という。)を公表したところ、そのうち、生活扶助基準に関する部分の概要は、以下のとおりであった。 ① 夫婦子1人(有業者あり)の一般低所得世帯における生活扶助相当支出額(消費支出額から家賃、医療等の生活扶助に相当しないものを除いたもの。以下同じ。)は、世帯当たり14万8781円であったのに対して、それらの世帯の平均の生活扶助基準額は、世帯当たり15万0408円であり、生活扶助基準額がやや高めとなっている。 ② 単身世帯(60歳以上の場合)の一般低所得世帯における生活扶助相当支出- 5 -額は、世帯当たり6万2831円であったのに対して、それらの世帯の平均の生活扶助基準額は、世帯当たり7万1209円であり、生活扶助基準額が高めとなっている。 ⑸ 厚生労働大臣は、平成20年度の生活扶助基準について、原油価格の高騰が消費に与える影響等の社会経済情勢を見極める必要性があるなどとして、水準均衡方式による改定をせず、 が高めとなっている。 ⑸ 厚生労働大臣は、平成20年度の生活扶助基準について、原油価格の高騰が消費に与える影響等の社会経済情勢を見極める必要性があるなどとして、水準均衡方式による改定をせず、生活扶助基準は据え置かれた。 さらに、平成20年9月のリーマンショックに端を発する世界的な金融危機が我が国の実体経済に大きな影響を及ぼし、同年頃から平成23年頃にかけて、物価、賃金、家計消費がいずれも下落した。厚生労働大臣は、上記金融危機の影響等を踏まえて、平成21年度から平成24年度までについても、水準均衡方式による改定をせず、この間も生活扶助基準は据え置かれた。 ⑹ 社会保障審議会は、平成23年2月、生活扶助基準について専門的かつ客観的に評価、検証を行うため、生活保護基準部会(以下「基準部会」という。)を設置した。 基準部会は、生活扶助基準の展開部分についての検証(以下「平成25年検証」という。)を行い、平成25年1月に報告書(以下「平成25年報告書」という。)を公表したところ、その概要は、以下のとおりであった。 ① 平成25年検証は、平成21年に実施された全国消費実態調査のデータに基づき、年齢別、世帯人員別、級地別に一般低所得世帯間における消費支出の較差を分析し、これと生活扶助基準における展開のための指数とのかい離を評価、検証したものであり、その結果、年齢別、世帯人員別、級地別のいずれにおいても、生活扶助基準における展開のための指数と一般低所得世帯間における消費支出の較差を示す指数との間にかい離が認められた。この結果を踏まえ、年齢別、世帯人員別、級地別の指数を生活扶助基準に反映した場合の影響は、以下のようになった。 例えば、現行の基準額(第1類費、第2類費のほか、冬季加算、児童養育加算、母子加算を含む。)とこれに検証結果を 世帯人員別、級地別の指数を生活扶助基準に反映した場合の影響は、以下のようになった。 例えば、現行の基準額(第1類費、第2類費のほか、冬季加算、児童養育加算、母子加算を含む。)とこれに検証結果をそのまま反映した場合の平均値とを個々の- 6 -世帯構成ごとにみると、夫婦と18歳未満の子1人世帯では、年齢、世帯人員、地域による各影響の合計は8.5%減となり、夫婦と18歳未満の子2人世帯では、上記各影響の合計は14.2%減となった。また、母親と18歳未満の子1人の母子世帯では上記各影響の合計は5.2%減となった。他方で、60歳以上の単身世帯では上記各影響の合計は4.5%増、共に60歳以上の高齢夫婦世帯では上記各影響の合計は1.6%増、20~50代の若年単身世帯では上記各影響の合計は1.7%減となった。 ② 厚生労働省において生活扶助基準の見直しを検討する際には、平成25年報告書の評価及び検証の結果を考慮し、その上で他に合理的説明が可能な経済指標などを総合的に勘案する場合は、それらの根拠についても明確に示されたい。なお、その際には見直しが現在生活保護を受給している世帯及び一般低所得世帯に及ぼす影響についても慎重に配慮されたい。 ③ 平成25年検証により、個々の生活保護受給世帯を構成する世帯員の年齢、世帯人員、居住する地域の様々な組合せによる生活扶助基準の妥当性について、よりきめ細かな検証が行われたことになる。しかし、消費に影響を及ぼす要因は多様であるところ、具体的にどのような要因がどの程度消費に影響を及ぼすかは現時点では明確に分析ができないこと、また、特定の世帯構成等に限定して分析する際にサンプルが極めて少数となるといった統計上の限界があることなどから、全ての要素については分析、説明に至らなかった。 ④ 平成25年検証の手法は透 こと、また、特定の世帯構成等に限定して分析する際にサンプルが極めて少数となるといった統計上の限界があることなどから、全ての要素については分析、説明に至らなかった。 ④ 平成25年検証の手法は透明性の高い一つの妥当な手法である一方、これまでの検証方法との継続性、整合性にも配慮したものであることから、これが唯一の手法ということでもなく、将来の検証手法を開発していくことが求められる。今後、政府部内において具体的な基準の見直しを検討する際には、平成25年検証の結果を考慮しつつも、同時に検証手法について一定の限界があることに留意する必要がある。 ⑤ 今般、生活扶助基準の見直しを具体的に検討する際には、現在生活保護を受- 7 -給している世帯及び一般低所得世帯、とりわけ貧困の世代間連鎖を防止する観点から、子どものいる世帯への影響にも配慮する必要がある。 ⑺ア厚生労働大臣は、平成25年厚生労働省告示第174号、平成26年厚生労働省告示第136号及び平成27年厚生労働省告示第227号により、生活扶助基準を順次改定した(本件改定)。本件改定は、主に、平成25年検証の結果を生活扶助基準に反映するとともに、物価変動率を指標として基準生活費を変更することを内容とするものであり(以下、前者を「ゆがみ調整」といい、後者を「デフレ調整」という。)、それぞれの概要は、次のイ及びウのとおりである。 なお、本件改定は、ゆがみ調整及びデフレ調整による生活扶助基準の改定を3年間かけて段階的に実施するものであり、また、ゆがみ調整及びデフレ調整を行うことによる減額幅の上限を10%としている。 イゆがみ調整は、平成25年報告書により、年齢別、世帯人員別、級地別のいずれにおいても、生活扶助基準における展開のための指数と一般低所得世帯間における消費支出の較差を示 限を10%としている。 イゆがみ調整は、平成25年報告書により、年齢別、世帯人員別、級地別のいずれにおいても、生活扶助基準における展開のための指数と一般低所得世帯間における消費支出の較差を示す指数との間にかい離があるとされたことを踏まえ、当該かい離を解消し、生活保護受給世帯間の公平を図るため、生活扶助基準における展開のための指数を適正化することを目的とするものである。具体的には、平成25年検証の結果に基づき、一般低所得世帯間における消費支出の較差を生活扶助基準の展開部分に反映させるものであり、①第1類費について、各年齢区分間の基準額の差を小さくする、②第1類費に係る逓減率について、世帯人員の増加に応じた逓減割合を大きくするとともに、第2類費について、世帯人員の増加に応じた世帯人員別の基準額の増額の幅を大きくする、③第1類費及び第2類費について、それぞれ級地区分間の基準額の差を小さくすることを内容とする。ただし、ゆがみ調整は、平成25年検証の結果をそのまま生活扶助基準の改定に反映させるのではなく、その2分の1のみを反映させるものである(以下、これを「2分の1処理」という。)。 なお、厚生労働大臣は、2分の1処理をすることにつき、基準部会やその委員等- 8 -の専門家から意見を聴取するなどしなかった。 ウデフレ調整は、本件改定前の基準生活費を一律に4.78%減ずるものである。これは、総務省から公表されている消費者物価指数を基に、その算出の基礎とされている消費品目から、生活扶助以外の扶助で賄われる品目(家賃、教育費、医療費等)と生活保護受給世帯において支出することが想定されていない品目(自動車関係費等)を除いた上で、特定の方式により算出し直した指数(以下「生活扶助相当CPI」という。)の平成20年から平成23年までの下落率が 保護受給世帯において支出することが想定されていない品目(自動車関係費等)を除いた上で、特定の方式により算出し直した指数(以下「生活扶助相当CPI」という。)の平成20年から平成23年までの下落率が4.78%であることから、これを生活扶助基準額に反映させるものである。 ⑻ 所轄の福祉事務所長らは、1審判決別紙処分一覧表記載のとおり、上告人ら(上告人X3らについてはその各夫)に対し、本件改定を理由として、生活扶助の支給額を変更する旨の保護変更決定をした。 ⑼ その後、基準部会は、平成26年に実施された全国消費実態調査のデータに基づく生活扶助基準の検証(以下「平成29年検証」という。)等を行い、平成29年12月、夫婦子1人世帯について、本件改定後の生活扶助基準額と一般低所得世帯の生活扶助相当支出額はおおむね均衡しているなどとする報告書(以下「平成29年報告書」という。)を公表した。 3 原審は、上記事実関係等の下において、要旨次のとおり判断し、上告人らの各請求をいずれも棄却すべきものとした。 ⑴ 基準部会による平成25年検証の結果の合理性を否定すべき事情は認められない。そして、2分の1処理は、生活保護受給世帯間の公平を図るため生活扶助基準の展開部分を改定するというゆがみ調整の本質的部分に沿う措置であり、平成25年報告書が激変緩和措置を講ずることを予定していたといえること等からすると、2分の1処理に係る厚生労働大臣の判断は、急激な保護費の減額等による被保護者の期待的利益や生活への影響等の観点に配慮したものとして、合理的なものということができ、この判断に裁量権の範囲の逸脱又はその濫用があるとはいえない。 - 9 -⑵ 被上告人らは、デフレ調整は、平成20年9月のリーマンショックに端を発する世界的な金融危機等の影響で、生活保護受 き、この判断に裁量権の範囲の逸脱又はその濫用があるとはいえない。 - 9 -⑵ 被上告人らは、デフレ調整は、平成20年9月のリーマンショックに端を発する世界的な金融危機等の影響で、生活保護受給世帯の可処分所得が相対的、実質的に増加していたことを踏まえ、その適正化を図ったものであるなどと説明するところ、上記の説明に照らせば、厚生労働大臣が、上記の可処分所得の増加に着目し、これを生活扶助基準に反映させるために物価変動率を指標としてデフレ調整を行うこととした判断は、一応合理的なものということができる。また、生活扶助CPIに依拠して基準生活費を一律に4.78%減ずることとした厚生労働大臣の判断の過程に、統計等の客観的な数値等との合理的関連性や専門的知見との整合性に欠けるところはない。 ⑶ 以上によれば、本件改定に係る厚生労働大臣の判断に裁量権の範囲の逸脱又はその濫用があるとはいえないから、本件改定が生活保護法3条、8条2項に違反するものであるとはいえず、本件改定につき国家賠償法1条1項にいう違法があるということもできない。 4 しかしながら、原審の上記判断のうち、損害賠償請求に関する部分は結論において是認することができるが、保護変更決定の取消請求に関する部分は是認することができない。その理由は、次のとおりである。 ⑴ 生活保護法3条によれば、同法により保障される最低限度の生活は、健康で文化的な生活水準を維持することができるものでなければならないところ、同法8条2項によれば、保護基準は、要保護者(同法による保護を必要とする者をいう。)の年齢別、性別、世帯構成別、所在地域別その他保護の種類に応じて必要な事情を考慮した最低限度の生活の需要を満たすに十分なものであって、かつ、これを超えないものでなければならない。これらの規定にいう最低 年齢別、性別、世帯構成別、所在地域別その他保護の種類に応じて必要な事情を考慮した最低限度の生活の需要を満たすに十分なものであって、かつ、これを超えないものでなければならない。これらの規定にいう最低限度の生活は、抽象的かつ相対的な概念であって、その具体的な内容は、その時々における経済的・社会的条件、一般的な国民生活の状況等との相関関係において判断決定されるべきものであり、同条1項の委任を受けた厚生労働大臣がこれを保護基準において具体化するに当たっては、国の財政事情を含めた多方面にわたる複雑多様な、しかも高度- 10 -の専門技術的な考察とそれに基づいた政策的判断を必要とするものである。 そうすると、厚生労働大臣は、生活扶助基準を改定するに当たり、それにより基準生活費を減額されることとなる被保護者の期待的利益についての配慮の要否等を含め、上記のような専門技術的かつ政策的な見地からの裁量権を有しているものというべきであり、本件改定は、その判断に上記見地からの裁量権の範囲の逸脱又はその濫用がある場合に、生活保護法3条、8条2項に違反して違法となるものと解される。そして、生活扶助基準の改定の要否の判断の前提となる最低限度の生活の需要に係る評価や被保護者の期待的利益についての配慮は、上記のような専門技術的な考察に基づいた政策的判断であるところ、これまでも生活扶助基準の改定に際しては、専門家により構成される合議制の機関等により、各種の統計や資料等に基づく専門技術的な検討がされてきたところである。これらの経緯等に鑑みると、厚生労働大臣の上記の裁量判断の適否に係る裁判所の審理においては、主として本件改定に至る判断の過程及び手続に過誤、欠落があるか否か等の観点から、統計等の客観的な数値等との合理的関連性や専門的知見との整合性の有無等について審査され 否に係る裁判所の審理においては、主として本件改定に至る判断の過程及び手続に過誤、欠落があるか否か等の観点から、統計等の客観的な数値等との合理的関連性や専門的知見との整合性の有無等について審査されるべきものと解される(以上につき、最高裁平成22年(行ツ)第392号、同年(行ヒ)第416号同24年2月28日第三小法廷判決・民集66巻3号1240頁、最高裁平成22年(行ヒ)第367号同24年4月2日第二小法廷判決・民集66巻6号2367頁参照)。 ⑵ そこで、まず、ゆがみ調整に係る厚生労働大臣の判断についてみると、本件において、平成25年検証の結果に統計等の客観的な数値等との合理的関連性や専門的知見との整合性に欠けるところがあるというべき事情は見当たらない。そして、上記事実関係等によれば、平成25年報告書においては、平成25年検証の結果をそのまま生活扶助基準に反映させると、児童のいる世帯への減額の影響が大きくなることが見込まれており、生活扶助基準の見直しを具体的に検討する際には児童のいる世帯への影響に配慮する必要があるともされていたというのであるから、このような観点から、その反映に当たり減額率を限定することには合理性があると- 11 -いうことができる。また、ゆがみ調整が、生活保護受給世帯間の公平を図るため、生活扶助基準における展開のための指数を適正化することを目的とするものであることに照らせば、減額率に合わせて増額率を限定することにも一定の合理性があるということができる。そして、平成25年報告書において、平成25年検証の手法に係る統計上の限界も指摘されていたほか、生活扶助基準については基準部会による5年ごとの検証が行われるため、改定による影響については、将来的に検証することが可能であったといえることなども踏まえると、ゆがみ調整におけ 界も指摘されていたほか、生活扶助基準については基準部会による5年ごとの検証が行われるため、改定による影響については、将来的に検証することが可能であったといえることなども踏まえると、ゆがみ調整における改定率を平成25年検証の結果をそのまま生活扶助基準に反映する場合の2分の1に限定したことが不合理であるともいえない。 なお、厚生労働大臣は、基準部会やその委員等の専門家から意見を聴取するなどせずに2分の1処理をしたものである。しかし、生活保護法その他の法令において、厚生労働大臣が保護基準を改定するに当たり基準部会の審議検討等を経なければならないとされているものではないし、これを経た場合であっても、その意見等は同大臣を法的に拘束するものではなく、その考慮要素として位置付けられるべきものであるから(前掲最高裁平成24年4月2日第二小法廷判決参照)、上記の事情をもって、2分の1処理に係る厚生労働大臣の判断の過程及び手続に過誤、欠落があったものということはできない。 以上によれば、2分の1処理を含むゆがみ調整に係る厚生労働大臣の判断に、統計等の客観的な数値等との合理的関連性や専門的知見との整合性に欠けるところがあるということはできない。 ⑶ 次に、デフレ調整に係る厚生労働大臣の判断についてみる。 ア被上告人らは、厚生労働大臣がデフレ調整をすることとした理由について、平成20年以降の経済情勢により生じた生活扶助基準の水準と一般国民の生活水準との間の不均衡を是正することとしたものである旨説明するところ、上記事実関係等によれば、平成19年報告書において、生活扶助基準額が一般低所得世帯における生活扶助相当支出額より高い状態にある旨の指摘があったほか、平成20年頃か- 12 -ら平成23年頃にかけて、リーマンショックに端を発する世界的な金融危 いて、生活扶助基準額が一般低所得世帯における生活扶助相当支出額より高い状態にある旨の指摘があったほか、平成20年頃か- 12 -ら平成23年頃にかけて、リーマンショックに端を発する世界的な金融危機が我が国の実体経済に大きな影響を及ぼし、物価が下落していただけでなく、賃金、家計消費がいずれも下落していたというのである。そのような中で、平成20年度から平成24年度までの生活扶助基準について水準均衡方式による改定が行われなかったことからすると、厚生労働大臣が、本件改定当時、生活扶助基準の水準と一般国民の生活水準との間に不均衡が生じていると判断したことにつき、統計等の客観的な数値等との合理的関連性や専門的知見との整合性に欠けるところがあるとはいい難い。 イ被上告人らは、現時点において、厚生労働大臣が物価変動率のみを直接の指標として基準生活費を一律に減ずることとした理由について、平成15年中間取りまとめにおいて消費者物価指数の伸びも改定の指標の一つとして用いることも考えられるとされていたこと等を踏まえ、消費そのものではなく、物価変動率を指標として用いた旨説明しているところ、生活扶助基準の改定方式につき、生活保護法その他の法令には何らの定めもなく、同大臣に専門技術的かつ政策的な見地からの裁量権が認められることからすれば、生活扶助基準の改定の際にどのような指標を用いるかについても、同大臣の裁量判断に委ねられているものということができる。 もっとも、生活保護法8条2項は、保護基準は、保護の種類に応じて必要な事情を考慮した最低限度の生活の需要を満たすものとすべき旨を規定しているところ、ここにいう「最低限度の生活の需要を満たす」とは、生活扶助については、最低限度の消費水準を保障することを意味するものとして理解されてきたものである。昭和58年意 ものとすべき旨を規定しているところ、ここにいう「最低限度の生活の需要を満たす」とは、生活扶助については、最低限度の消費水準を保障することを意味するものとして理解されてきたものである。昭和58年意見具申を踏まえて昭和59年度以降採用されてきた水準均衡方式も、当時の生活扶助基準が、一般国民の消費実態との均衡上、最低限度の消費水準を保障するものとしてほぼ妥当なものとなったとの評価を前提として、一般国民の消費動向を踏まえると同時に、前年度までの一般国民の消費実態との調整を図る方式により生活扶助基準を改定していくことによって、一般国民の消費実態との関係において妥当な生活扶助の水準を維持しようとするものである。 - 13 -これに対し、物価は、これが変動すれば消費者の消費行動に一定の影響が及ぶとは考えられるものの、飽くまで消費と関連付けられる諸要素の一つにすぎず、物価変動が直ちに同程度の消費水準の変動をもたらすものとはいえない。この点は、昭和58年意見具申においても、賃金や物価は、そのままでは消費水準を示すものではないので、参考資料にとどめるべきものとされているところである。平成15年中間取りまとめでは、生活扶助基準の改定方式の在り方に関し、改定の指標についても検討が必要であるとされ、例えば、消費者物価指数の伸びを改定の指標の一つとして用いることも考えられるとされているが、これも、物価変動率を考え得る指標の一つとして例示し、その検討の必要性に言及したにすぎないものと解される。 平成25年報告書にも、平成25年検証の結果を踏まえて生活扶助基準の見直しを検討する際に、他に合理的説明が可能な経済指標を総合的に勘案する場合があり得ることを前提とする記載があるところ、ここにいう経済指標に物価変動率が含まれるとしても、それは総合的に勘案する指標の一つに位 検討する際に、他に合理的説明が可能な経済指標を総合的に勘案する場合があり得ることを前提とする記載があるところ、ここにいう経済指標に物価変動率が含まれるとしても、それは総合的に勘案する指標の一つに位置付けられているにすぎないし、平成25年報告書も、これを勘案する場合にはその根拠を明確に示すべきことを求めている。現に、本件改定前において、物価変動率のみを直接の指標として生活扶助基準の改定がされたことはなかったものである。 以上に述べたところによれば、物価変動率は、生活扶助基準の改定の際の指標の一つとして勘案することが直ちに許容されないものとはいえないとしても、それだけでは消費実態を把握するためのものとして限界のある指標であるといわざるを得ない。そうすると、上記アの不均衡を是正するために物価変動率のみを直接の指標として基準生活費の改定率を定めることが、統計等の客観的な数値等との合理的関連性や専門的知見との整合性を有するものというためには、上記限界を踏まえてもなお物価変動率のみを直接の指標とすることが合理的であることにつき、物価と最低限度の消費水準との関係や、従来の水準均衡方式による改定との連続性、整合性の観点を含め、専門的知見に基づいた十分な説明がされる必要があるというべきである。 - 14 -しかるに、被上告人らは、平成15年中間取りまとめにおいて、消費者物価指数の伸びも改定の指標の一つとして用いることも考えられるとされていたこと等を挙げて、物価変動率のみを直接の指標として用いても専門的知見と整合しないものではないなどと説明するにすぎず、上記不均衡を是正するために物価変動率のみを直接の指標として用いることが合理的であることについて、専門的知見に基づいた十分な説明がされているということはできない。上記のとおり、平成15年中間取りま 上記不均衡を是正するために物価変動率のみを直接の指標として用いることが合理的であることについて、専門的知見に基づいた十分な説明がされているということはできない。上記のとおり、平成15年中間取りまとめは、消費者物価指数の伸びを指標とすることについての検討の必要性に言及したものにすぎないし、平成25年報告書にも、厚生労働省において他に合理的説明が可能な経済指標を総合的に勘案する場合もあり得ることを前提とする記載があるにすぎない。そして、物価変動率を指標とすることが、一般論としては専門的知見と整合しないものではないからといって、それまで水準均衡方式によって改定されてきた生活扶助基準を、物価変動率のみを直接の指標として改定することが直ちに合理性を有するものということにはならないところ、上記不均衡を是正するために物価変動率のみを直接の指標として用いることについて、基準部会等による審議検討が経られていないなど、その合理性を基礎付けるに足りる専門的知見があるとは認められない。 そうすると、デフレ調整における改定率の設定については、上記不均衡を是正するために物価変動率のみを直接の指標として用いたことに、専門的知見との整合性を欠くところがあり、この点において、デフレ調整に係る厚生労働大臣の判断の過程及び手続には過誤、欠落があったものというべきである。 なお、上記事実関係等によれば、平成29年報告書において、本件改定後の夫婦子1人世帯における生活扶助基準額が一般低所得世帯の生活扶助相当支出額とおおむね均衡することが確認されたと評価されているが、デフレ調整において物価変動率のみを直接の指標として用いた厚生労働大臣の判断には、従来の水準均衡方式における改定との連続性等の点において専門的知見との整合性を欠くところがあったというべきことは上記のとおりであ おいて物価変動率のみを直接の指標として用いた厚生労働大臣の判断には、従来の水準均衡方式における改定との連続性等の点において専門的知見との整合性を欠くところがあったというべきことは上記のとおりであって、デフレ調整が基準生活費を一律に4.7- 15 -8%も減ずるものであり、生活扶助を受給していた者の生活に大きな影響を及ぼすものであることも考慮すると、本件改定後に行われた平成29年検証の結果によって、デフレ調整に係る同大臣の判断の過程及び手続に過誤、欠落があったとの上記評価が左右されることはないものというべきである。 ⑷ 以上によれば、本件改定は、物価変動率のみを直接の指標としてデフレ調整をすることとした点において、その厚生労働大臣の判断に裁量権の範囲の逸脱又はその濫用があり、生活保護法3条、8条2項に違反して違法というべきである。 ⑸ 以上のとおり、本件改定は、生活保護法3条、8条2項に違反して違法であるが、そのことから直ちに本件改定につき国家賠償法1条1項にいう違法があったとの評価を受けるものではなく、厚生労働大臣が職務上通常尽くすべき注意義務を尽くすことなく漫然と本件改定をしたと認め得るような事情がある場合に限り、上記評価を受けるものと解するのが相当である(最高裁平成元年(オ)第930号、第1093号同5年3月11日第一小法廷判決・民集47巻4号2863頁、最高裁平成17年(受)第1977号同19年11月1日第一小法廷判決・民集61巻8号2733頁参照)。 上記⑴のとおり、保護基準は、最低限度の生活の需要を超えないものでなければならないのであり、仮に本件改定前の生活扶助基準が上記需要を超えたものとなっていたというのであれば、これを引き下げることは、生活保護法8条2項の規定に沿うところであるということができる(前掲最高裁平 ならないのであり、仮に本件改定前の生活扶助基準が上記需要を超えたものとなっていたというのであれば、これを引き下げることは、生活保護法8条2項の規定に沿うところであるということができる(前掲最高裁平成24年2月28日第三小法廷判決、前掲最高裁平成24年4月2日第二小法廷判決参照)。そして、上記⑶アに説示したとおり、厚生労働大臣が、本件改定当時、生活扶助基準の水準と一般国民の生活水準との間に不均衡が生じていると判断したことにつき、統計等の客観的な数値等との合理的関連性や専門的知見との整合性に欠けるところがあるとはいい難く、平成24年8月に施行された社会保障制度改革推進法附則2条1号においても、政府は、生活保護制度に関し、生活扶助の給付水準の適正化その他の必要な見直しを早急に行うものとする旨が規定されていたものである。加えて、上記⑶イに- 16 -説示したとおり、生活扶助基準の改定に当たり物価変動率を指標とすること自体が直ちに許容されないものとはいえず、平成15年中間取りまとめにおいては、生活扶助基準の改定の指標の在り方について検討の必要性が指摘され、消費者物価指数の伸びを上記指標とすることも考えられるとされていたところである。 これらに照らせば、厚生労働大臣が職務上通常尽くすべき注意義務を尽くすことなく漫然とデフレ調整に係る判断をしたと認め得るような事情があったとまでは認められず、他に、同大臣が職務上通常尽くすべき注意義務を尽くすことなく漫然と本件改定をしたと認め得るような事情があったというべき根拠は見当たらない。 したがって、本件改定につき国家賠償法1条1項にいう違法があったということはできない。 5 以上によれば、上告人X1ら及び上告人X3らの損害賠償請求を棄却すべきものとした原審の判断は、結論において是認することができる。 き国家賠償法1条1項にいう違法があったということはできない。 5 以上によれば、上告人X1ら及び上告人X3らの損害賠償請求を棄却すべきものとした原審の判断は、結論において是認することができる。この点に関する論旨は採用することができない。 他方、上告人X1ら及び上告人X2らの保護変更決定の取消請求に関する原審の判断には、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。この点に関する論旨は以上の趣旨をいうものとして理由があり、原判決のうち上記請求に関する部分は破棄を免れない。そして、既に説示したところによれば、上記請求に係る保護変更決定は違法というべきであり、上記請求を認容した第1審判決は正当であるから、同部分につき被上告人各市の控訴を棄却すべきである。 よって、裁判官宇賀克也の反対意見があるほか、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。なお、裁判官林道晴の補足意見がある。 裁判官林道晴の補足意見は、次のとおりである。 本件改定に当たっては、デフレ調整についても、2分の1処理についても、基準部会の審議検討等は経られていないところ、多数意見が説示するとおり、前者に係る厚生労働大臣の判断には、その過程及び手続に過誤、欠落があったというべきであるが、後者に係る厚生労働大臣の判断については、そのようにいうことはできな- 17 -い。 このように、デフレ調整と2分の1処理で反対の結論となった理由について敷衍すると、物価変動率のみを直接の指標として生活扶助基準を改定することは、生活扶助基準の改定の根幹に関わる部分であるところ、この点について、物価と最低限度の消費水準との関係や、従来の水準均衡方式による改定との連続性の観点を含め、専門的知見との整合性に疑問があるにもかかわらず、厚生労働大臣は、基準部会等による審議検討を経ず 点について、物価と最低限度の消費水準との関係や、従来の水準均衡方式による改定との連続性の観点を含め、専門的知見との整合性に疑問があるにもかかわらず、厚生労働大臣は、基準部会等による審議検討を経ずにデフレ調整をしたものである。そして、他に上記の整合性を基礎付けるに足りる専門的知見を示せていない以上、デフレ調整に係る厚生労働大臣の判断には、その過程及び手続に過誤、欠落があったものといわざるを得ない。 これに対し、ゆがみ調整については、その基礎とされた基準部会による平成25年検証の結果に統計等の客観的な数値等との合理的関連性や専門的知見との整合性に欠けるところは見当たらない(上告人らも、少なくとも当審においては、この点を争っていない。)。そして、2分の1処理は、上記のような統計等に係る専門的知見を前提とした上で、平成25年報告書において、児童のいる世帯への影響に配慮する必要があるとされていたことや、ゆがみ調整が生活保護受給世帯間の公平を図ることを目的とするものであること等を踏まえ、政策的観点から、減額率、増額率とも2分の1に限定して上記結果を反映させたものといえ、その判断が不合理であるということはできないものである。 もっとも、宇賀裁判官が指摘するとおり、2分の1処理についても基準部会の意見を聴取し、その結果を平成25年報告書に反映することは可能であったとも考えられ、2分の1処理が被保護者の生活に与える影響の大きさ等にも鑑みれば、そのような手続を経る方が、生活保護行政の在り方として、より丁寧であったということはできよう。加えて、本件改定に当たり、2分の1処理がされたことが一般国民に知らされていなかったという問題もある。保護基準の改定の内容が統計等の客観的な数値等との合理的関連性や専門的知見との整合性に欠けるものであってはなら- たり、2分の1処理がされたことが一般国民に知らされていなかったという問題もある。保護基準の改定の内容が統計等の客観的な数値等との合理的関連性や専門的知見との整合性に欠けるものであってはなら- 18 -ないことは当然であるが、今後は、被保護者のみならず、国民一般の理解も得られるよう、丁寧な手続による検討が進められ、その結果について意を尽くした説明がされることを期待したい。 裁判官宇賀克也の反対意見は、次のとおりである。 私は、原判決のうち保護変更決定の取消請求に関する原審のデフレ調整に関する判断には、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反があるとする多数意見の結論及び理由に賛成し、その理由を補足して意見を述べるとともに、多数意見のうち、ゆがみ調整の2分の1処理に違法はないとする部分及び本件改定につき国家賠償法1条1項にいう違法があったとはいえないとする部分については、意見を異にするので、その理由について述べる。 1 厚生労働大臣の行政裁量の審査方法本件訴訟では、国民感情、財政事情、与党の政権公約という生活保護法8条2項で例示されていない事項が、「その他保護の種類に応じて必要な事情」に当たるかが、争点になっている。上記の事項が「その他保護の種類に応じて必要な事情」に含まれ、政策的裁量として考慮事項になり得るとしても、生活保護法8条2項は、「最低限度の生活の需要を満たすのに十分なもの」である保護基準の策定を厚生労働大臣に義務付けているのであるから、多数意見の参照する最高裁平成24年2月28日第三小法廷判決及び最高裁平成24年4月2日第二小法廷判決が判示するように、保護基準の改定に当たっては、「高度の専門技術的な考察とそれに基づいた政策的判断」を必要とする。したがって、まずは、専門技術的判断の部分について判断過程審査を行 2日第二小法廷判決が判示するように、保護基準の改定に当たっては、「高度の専門技術的な考察とそれに基づいた政策的判断」を必要とする。したがって、まずは、専門技術的判断の部分について判断過程審査を行い、その部分で判断過程の過誤、欠落が認められれば、政策的判断の部分の適法性に立ち入るまでもなく、本件改定に基づく保護変更決定は、裁量権の逸脱・濫用として違法となると考えられる。 2 社会権規約(経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約)2条1項等憲法98条2項の規定により、条約は公布とともに国内的効力を有し、国家機関である立法機関、行政機関及び司法機関にはその効力が及ぶ。社会権規約2条1項- 19 -等は、国民に対する直接適用可能性はないと考えられるし、国が保護基準を引き下げることを一律に禁止するものではないが、国は、その引下げがやむを得ないことについての説得力ある説明を行う必要があるという解釈を基礎付けるものといえる。 3 外部有識者による専門機関の関与保護基準の改定は、専門技術的な検討を要することから、従来、専門機関の検討を経たうえで、その結果に基づき行われてきた。しかし、本件では、ゆがみ調整の2分の1処理及びデフレ調整を行うことについて、基準部会の意見を聴取しておらず、厚生労働省内部で判断がされており、事前に社会保障審議会にも知らされていなかった(むしろ部外秘扱いとされ秘匿されていた。)。この点については、保護基準の改定に当たり、社会保障審議会(基準部会)の意見聴取を義務付ける明文の規定は存在しないので、基準部会の意見を聴取しなかったことが、直ちに、本件改定の違法性につながるとまではいえないと考えられる。もっとも、基準部会の検討結果に基づく改定の場合には、基準部会における判断過程を審査し、そこに合理性が認められれば、 なかったことが、直ちに、本件改定の違法性につながるとまではいえないと考えられる。もっとも、基準部会の検討結果に基づく改定の場合には、基準部会における判断過程を審査し、そこに合理性が認められれば、その検討結果を尊重して行った厚生労働大臣の改定の合理性も基本的には肯定されることになると思われるが、他方、ゆがみ調整の2分の1処理及びデフレ調整について外部有識者による専門機関の関与がない本件の場合には、厚生労働省内部において、いかなる資料に基づき、いかなる判断過程を経て、そのような処理がされたのかについて、被上告人らには、統計等の客観的な数値との合理的関連性や専門的知見との整合性等について主張立証する必要が生ずることになり、判断過程審査においては、この点について十分な審査が行われる必要がある。 4 ゆがみ調整における2分の1処理厚生労働省内部でゆがみ調整における2分の1処理が検討されたのは、基準部会が平成25年報告書を取りまとめる前であった。基準部会で2分の1処理が検討されていなかったにもかかわらず、厚生労働省内部で、2分の1処理が妥当と考えたのであれば、その根拠を示して基準部会の意見を聴取し、その結果を平成25年報告書に反映させることが可能であり、かつ望ましいと考えられるところ、基準部会- 20 -の意見を聴取することは容易であったにもかかわらず、なぜ、そのような対応をしなかったのかについて、被上告人らは、政策的判断であると述べるのみで、具体的理由を明らかにしていない。他方、平成25年報告書の取りまとめに先立ち行われた平成25年1月における厚生労働省担当者と内閣官房副長官との協議では、本件改定を行うことにより財政削減効果がある旨が記載されていたが、この文書は取扱厳重注意とされ、対外的には公にされず、行政文書開示請求を受けて開示され る厚生労働省担当者と内閣官房副長官との協議では、本件改定を行うことにより財政削減効果がある旨が記載されていたが、この文書は取扱厳重注意とされ、対外的には公にされず、行政文書開示請求を受けて開示されて、初めてその内容が明らかになった。多くの生活保護受給者に重大な影響を与える2分の1処理の必要性と根拠については、行政の説明責任があるはずであるにもかかわらず、なぜ、それを基準部会にも国民にも秘匿する必要があったのかについても、説得力ある説明はなされていない。後に、被上告人らは、2分の1処理の理由は激変緩和措置であると説明するようになったが、ゆがみ調整の結果、生活扶助を減額される者にとっては、2分の1処理は激変緩和措置といえても、増額される者にとっては増額分を減少させられることになるから、激変緩和措置とはいえず不利益な措置となる。したがって、2分の1処理の理由は激変緩和措置であるとする被上告人らの説明には疑問がある。 もっとも、ゆがみ調整を行うと、保護基準が引き下げられる世帯の方が多く、特に児童のいる世帯への減額の影響が大きいとされ、2分の1処理を行うことが、ゆがみ調整の結果、減額となる児童のいる世帯にとっては、激変緩和措置としての意味を有するということはいえる。しかし、すべて国民は、生活保護法の要件を満たす限り、同法による保護を無差別平等に受ける権利を有するのであり(同法2条)、児童のいる世帯を優遇するために、児童のいない世帯が不利益を受ける措置を正当化することができるのかという疑問が生ずる。ゆがみ調整の結果、減額となる世帯のための激変緩和措置として2分の1処理が正当化されるとしても、激変緩和措置であれば、減額世帯のみを対象として行えばよく、増額世帯に2分の1処理を行うことの合理性にも疑問が残る。他方、ゆがみ調整の結果、減額となる世帯に として2分の1処理が正当化されるとしても、激変緩和措置であれば、減額世帯のみを対象として行えばよく、増額世帯に2分の1処理を行うことの合理性にも疑問が残る。他方、ゆがみ調整の結果、減額となる世帯についてのみ2分の1処理を行えば、新たなゆがみが生ずるので、生活保護受給世帯- 21 -間の公平を図るというゆがみ調整の趣旨に適合しないのではないかという疑問も生ずる。しかし、判断過程審査は、判断過程の過誤、欠落を審査するものであり、そのような司法審査を行うことによって、行政裁量の行使が適正な過程で行われることを促す意義も有する。本件の2分の1処理が行われた過程が、極めて疑問の残るものであることに鑑みれば、2分の1処理についても、判断過程に過誤があると解すべきと考える。 5 デフレ調整デフレ調整が本件訴訟で大きな争点になった理由は、(ⅰ)生活扶助基準の改定については、従前、基準部会等の専門機関の検討を経てきたにもかかわらず、本件のデフレ調整は基準部会等の専門機関の検討を経ずに厚生労働省内部での検討のみで行われたこと、(ⅱ)平成19年報告書によれば、生活扶助基準が一般低所得世帯の消費実態に比べて高くなっていたとされているが、その程度はわずかといえ、平成19年検証後の社会経済情勢や物価の動向、特に食料費や光熱水費といった一般低所得世帯の家計に重要な費目に係る物価はむしろ上昇していることに照らし、平成23年までに生活扶助基準が一般低所得世帯の消費実態と比較して高くなっているとはにわかに認めがたいこと、(ⅲ)従前、生活扶助基準の改定は、昭和58年意見具申に基づき水準均衡方式で行われてきたが、本件のデフレ調整は、物価変動率を単独で直接の指標とする新しい方法であり、本件改定前に、物価変動率を単独で直接の指標として保護基準の改定がされた例がないに 見具申に基づき水準均衡方式で行われてきたが、本件のデフレ調整は、物価変動率を単独で直接の指標とする新しい方法であり、本件改定前に、物価変動率を単独で直接の指標として保護基準の改定がされた例がないにもかかわらず、物価変動率を単独で直接の指標とすることの合理性を裏付ける統計や専門家の作成した資料があるという事実はうかがわれないこと、(ⅳ)物価変動率を算定するに当たり、一般に用いられている消費者物価指数(総務省CPI)によらず、厚生労働省職員が本件で独自に作成した生活扶助相当CPIを用いたことにより物価の下落率が著しく大きく算定されたこと(総務省CPIを用いると物価下落率は2.35%、生活扶助相当CPIを用いると物価下落率は4.78%と2倍以上になる。)等、多岐にわたる。 - 22 -このうち、(ⅰ)については、専門機関の検証を経なかったことが直ちに違法とまではいえないが、常設の基準部会が存在する以上、その意見を聴取することは容易であり、それを省く必要があるほどの緊急性があったわけではなく、従前、基準部会の意見を聴取してきた経緯に照らしても、本件で、基準部会の意見を聴取しなかったことについての合理的説明が、被上告人らによってなされる必要がある。 (ⅱ)については、まずもって、生活保護法8条2項の規定に着目する必要がある。なぜならば、厚生労働大臣が生活扶助基準を定めるに当たっては、「最低限度の需要を満たすに十分なもの」とすることが義務付けられているからである。厚生労働大臣が、生活扶助基準の作成に当たり行政裁量を有するといっても、行政裁量は法律が許容する範囲内でしか認められず、法律に違反した生活扶助基準を定めれば、その生活扶助基準は、委任の範囲を逸脱して違法となることはいうまでもない。「最低限度の需要を満たすに十分なもの」とは、昭和55 が許容する範囲内でしか認められず、法律に違反した生活扶助基準を定めれば、その生活扶助基準は、委任の範囲を逸脱して違法となることはいうまでもない。「最低限度の需要を満たすに十分なもの」とは、昭和55年の「生活保護専門分科会審議状況の中間的とりまとめ」で述べられているように、最低限度の需要を満たす消費を行うのに十分なものであること、すなわち、最低限度の消費支出を保障することを意味する。厚生労働大臣が被保護者に対する給付額を引き下げる方向で保護基準を改定するためには、「最低限度の需要」が縮小したことが要件になり、その要件を満たすことを被上告人らが立証する必要がある。したがって、被上告人らによって、この立証責任が果たされているかを検証する必要がある。 (ⅲ)については、水準均衡方式が昭和58年意見具申に基づき昭和59年から採用され、約30年という長期間にわたって用いられてきたのも、「最低限度の需要を満たすに十分なもの」を算定するためには消費に着目するのが最も適切であるからといえる。物価変動は消費行動に一定の影響を及ぼし得るが、消費に影響を与える一要素にすぎず、物価変動が直ちに同程度の消費実態の変動をもたらすわけではない。そのため、昭和58年意見具申でも、賃金や物価は、そのままでは消費水準を示すものではないので、参考資料にとどめるべきとされたのである。平成15年中間取りまとめでは、保護基準の改定に当たり消費者物価指数(総務省CPI)- 23 -の伸びを改定の指標の一つとして用いることも考えられるとされていたが、その利用を積極的に推奨する趣旨ではなく、検討の必要性を指摘したにすぎない。平成25年報告書においても、物価の位置付けは、総合的に勘案する指標の一つにすぎないとされている。したがって、本件改定に当たり、物価変動率を単独で直接の指標とし 、検討の必要性を指摘したにすぎない。平成25年報告書においても、物価の位置付けは、総合的に勘案する指標の一つにすぎないとされている。したがって、本件改定に当たり、物価変動率を単独で直接の指標として用いることの合理性について、専門的知見に基づく説明が被上告人らによりなされる必要がある。 この点についての被上告人らの説明では、本件改定に当たりいかなる指標を用いるかは、厚生労働大臣の専門技術的かつ政策的見地からの裁量に属し、平成15年中間取りまとめで「消費者物価指数の伸びも改定の指標の一つとして用いることなども考えられる」とされていたことが挙げられている。しかし、保護基準の改定に当たり厚生労働大臣に政策的判断の余地があるとしても、前掲各最高裁判決が判示するように、それは「専門技術的な考察に基づいた政策的判断」でなければならないから、専門技術的な判断が先行しなければならない。しかし、被上告人らの以下の説明は、専門機関により推奨された水準均衡方式に代えて、物価変動率を単独で直接の指標として用いることの専門技術的合理性を説明できていないといわざるを得ない。すなわち、被上告人らの説明のうち、①平成21年全国消費実態調査によれば、夫婦子1人の一般低所得世帯の消費水準が平成16年全国消費実態調査から約11.6%下落しており、平成19年検証時点における同世帯の生活扶助基準額を約12.6%下回る状況になっていたから、消費を基礎とすると減額幅がより大きくなったと想定されるという主張は、「一般低所得世帯」の消費水準との比較によるものであるところ、被上告人ら自身が、「最低限度の生活」は「一般国民」の生活水準との相関関係で捉えられるべきと強調していることと符合しない。現在も用いられている水準均衡方式の下では、一般国民の生活水準との比較を行っており、一般低所得 「最低限度の生活」は「一般国民」の生活水準との相関関係で捉えられるべきと強調していることと符合しない。現在も用いられている水準均衡方式の下では、一般国民の生活水準との比較を行っており、一般低所得世帯の消費水準との比較を行っているわけではないから、一般低所得世帯の消費水準との比較を根拠とする被上告人らの主張の合理性は認め難い。しかも、①の主張は、平成16年全国消費実態調査から平成21年全国消費実態調査- 24 -までの変化を問題にするものであって、本件改定時における大幅な生活扶助水準の引下げを正当化する根拠とはいい難い。また、被上告人らの説明のうち、②平成29年検証の結果、本件改定後の夫婦子1人世帯における生活扶助基準額が一般低所得世帯の消費水準とおおむね均衡することが確認されたと評価されており、デフレ調整の妥当性が裏付けられているという主張については、やはり、一般低所得世帯の消費水準との比較を根拠としており、上記①について述べたように、合理性を認め難い。 以上を要するに、本件のデフレ調整については、(ⅳ)等について検討するまでもなく、判断過程に過誤、欠落があり、違法と評価せざるを得ないと考える。 6 ゆがみ調整とデフレ調整の併用ゆがみ調整の結果、標準世帯の生活扶助基準額に影響が及んでいることとデフレ調整との関係について専門技術的見地からの検討が行われたとは認められないところ、ゆがみ調整とデフレ調整を併せて行うことの影響を検討することは当然といえるが、それが行われた形跡がないため、ゆがみ調整とデフレ調整の併用についても、判断過程に過誤、欠落があり、違法と評価せざるを得ないと考える。 7 国家賠償請求平成24年8月に成立した社会保障制度改革推進法附則2条1号において、政府は、生活保護制度に関し、生活扶助の給付水準の適 過誤、欠落があり、違法と評価せざるを得ないと考える。 7 国家賠償請求平成24年8月に成立した社会保障制度改革推進法附則2条1号において、政府は、生活保護制度に関し、生活扶助の給付水準の適正化その他の必要な見直しを早急に行うものとされていたこと等に鑑みれば、本件改定に当たり、厚生労働大臣が生活扶助基準額の引下げを検討したこと自体は、違法とはいい難い。しかしながら、本件改定に当たり、ゆがみ調整の2分の1処理及びデフレ調整については、専門機関の意見を聴取していないのみならず、厚生労働省内部でも、統計や専門的知見と整合する検討が行われた形跡をうかがうことはできない。とりわけ、専門機関の推奨を受けて長年にわたり用いられてきた水準均衡方式に代えて、物価指数のみを単独で直接の指標とする改定を行ったことは明らかに違法といわざるを得ないと思われる。なぜならば、昭和58年意見具申では、「賃金や物価は、そのままでは- 25 -消費水準を示すものではないので、その伸びは、参考資料にとどめるべき」とされ、平成16年報告書では消費者物価指数が補充的指標となり得るとの指摘すらなく、平成25年報告書では、他の合理的説明が可能な経済指標等を総合的に勘案する場合には、その根拠について明確に示し、見直しの影響に慎重に配慮すべき旨の指摘がされていたにもかかわらず、昭和58年意見具申を受けて約30年間にわたり一貫して用いられてきた水準均衡方式に代えて、前例のない物価指数単独の指標を用いるのであれば、常設の基準部会の意見を聴取すべきであり、それが困難であったとみるべき事情は見当たらない。また、基準部会の意見を聴取しないのであれば、厚生労働省内で、専門技術的検討が十分に行われるべきであったのに、それが行われた形跡は見当たらない。 さらに、物価変動率を算定するに当た 見当たらない。また、基準部会の意見を聴取しないのであれば、厚生労働省内で、専門技術的検討が十分に行われるべきであったのに、それが行われた形跡は見当たらない。 さらに、物価変動率を算定するに当たり、生活扶助相当CPIを用いるということは、最低限度の生活を営むのに必要な費用の減少割合が一般的世帯よりも被保護者世帯の方が大きいことが前提となるところ、それを裏付ける統計や専門家の作成した資料があるという事実はうかがわれない。生活扶助相当CPIの算出過程については、社会保障生計調査の結果によれば、被保護者世帯の教養娯楽に属する品目に対する支出の割合が一般的世帯よりも相当低いという客観的な数値を見いだし得る以上、その特徴に整合するよう専門的知見を駆使した形で生活扶助基準の改定をすべきであったのに、それがされていないため、教養娯楽に属する品目、とりわけ教養娯楽用耐久財(テレビ、ビデオレコーダー、パソコン等)の物価の大幅な下落の影響が増幅されていること、世界的な原油価格の高騰や穀物価格の高騰を原因として石油製品を始め、多くの食料品目の物価が上昇し、消費者物価指数が11年振りに1%を超えた特異な物価上昇があった平成20年を物価変動率の起算点としたため、同年からの物価下落率が大きくなっているが、生活扶助基準が平成17年度以降本件改定に至るまで改定されていなかったことに鑑みれば平成17年との比較がより合理的なこと、ゆがみ調整においては、平成21年の全国消費実態調査の結果に基づいて改定率が定められていること等に鑑みると、平成20年を起算点とす- 26 -ることの合理性が説明できていないこと、物価指数の算定には伝統的にラスパレイス指数が用いられているところ、本件改定に当たっては、平成20年度から平成23年度にかけて、異なる算定方法(平成20年度から平成2 の合理性が説明できていないこと、物価指数の算定には伝統的にラスパレイス指数が用いられているところ、本件改定に当たっては、平成20年度から平成23年度にかけて、異なる算定方法(平成20年度から平成22年度については、平成22年度をウエイトの基準時にして物価指数を過去に遡及する形で計算するパーシェ方式、平成22年度から平成23年度は平成22年度をウエイトの基準時にして将来に向かって計算するラスパレイス方式)を用いたため、保護受給世帯には関係が希薄な電気製品の価格低下の影響が強く表れ、生活扶助基準額の引下げに寄与していることなどの問題がある。 また、本件改定以前に加算部分を除いた生活扶助基準の引下げが行われたのは2回のみで、いずれも1%未満(それぞれ0.9%と0.2%。)であったが、本件のデフレ調整による引下げは、3年間にわたり最大10%(年平均6.5%)、総額670億円に及び、期末扶助手当70億円も削減されたので、総額740億円(年平均7.3%)という大規模な減額であって、多人数世帯や子育て世帯ほど削減率が大きかったが、激変緩和措置として減額幅の上限を10%に設定したため、激変緩和措置の対象となった被保護者世帯は約2%にとどまり、被保護者世帯の期待的利益に可及的に配慮するという観点からも裁量権の逸脱・濫用と判断される可能性は否めないと思われる。 そして、物価指数を用いる場合に総務省CPIではなく、国際的基準にも合致しない生活扶助相当CPIを用いたことについても、被保護者世帯の消費実態が生活扶助相当CPIと異なることは、統計等の客観的数値に真摯に向き合い、専門的知見に基づいて冷静に分析すれば探知できたはずである。また、平成20年を物価下落率算定の起算点とすれば、同年の特異な物価上昇が織り込まれて物価の下落率が大きくなることは、本件改 摯に向き合い、専門的知見に基づいて冷静に分析すれば探知できたはずである。また、平成20年を物価下落率算定の起算点とすれば、同年の特異な物価上昇が織り込まれて物価の下落率が大きくなることは、本件改定が始まった平成25年には明らかであった。したがって、本件改定は、違法であり少なくとも過失も認められると考えられる。 次に、上告人らに慰謝すべき精神的損害が生じているかを検討することとする。 生活保護法8条2項は、「最低限度の生活の需要を満たすに十分なもの」となるよ- 27 -うに保護基準を定めることを厚生労働大臣に義務付けており、本件改定が、違法に引下げ幅を拡大して、その結果、上告人らが「最低限度の生活の需要を満たす」ことができない状態を9年以上にわたり強いられてきたとすれば、財産的損害が賠償されれば足りるから精神的損害は慰謝する必要はないとはいえず、その額は、それぞれの請求額である1万円を下回らないと思われる。したがって、上告人X1ら及び上告人X3らの損害賠償請求は認容すべきと考える。 (裁判長裁判官宇賀克也裁判官林道晴裁判官渡辺惠理子裁判官石兼公博裁判官平木正洋)

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