令和5(わ)529 殺人被告事件

裁判年月日・裁判所
令和7年2月27日 水戸地方裁判所
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判決文本文3,686 文字)

令和7年2月27日宣告令和5年(わ)第529号 主文 被告人を懲役4年に処する。 未決勾留日数中320日をその刑に算入する。 理由 (罪となるべき事実)被告人は、同居していた娘のAが令和5年5月頃にアルコール依存症等と診断されたのに医療機関への通院を拒否し、食事や睡眠をほとんどとらないで、昼夜を問わず多量の酒を飲み大声で話し続けるなどしたため、その対応に苦慮する状況が続 き、同年9月10日頃からは、Aに付き合って被告人もほとんど睡眠をとれなくなっていた。 被告人は、同月15日明け方頃、茨城県石岡市ab番地cd号室の当時の被告人方において、酒に酔い大声で話し続けるA(当時44歳)に対し、Aが死ぬ危険性が高いことを認識しながら、あえてその鼻口部を手に持った枕で塞いで押さえ付け、 よって、その頃、同所において、Aを鼻口部閉塞による窒息により死亡させて殺害した。 なお、被告人は、同日午前6時50分頃、茨城県石岡警察署に出頭して自首した。 (証拠の標目)記載省略(事実認定の補足説明) 1 弁護人の主張等について被告人は当公判廷で、大声で話し続ける被害者に寝てもらいたいという思いで被害者の顔に枕を載せて押さえていただけであり、枕を押し付けてはいない旨供述し、弁護人も、被告人は人が死ぬ危険性の高い行為をそのような行為と分かって行ったのではないから、被告人に殺意はなく、傷害致死罪が成立するにとどま る旨主張するので、当裁判所が判示の事実を認定した理由を補足して説明する。 2 犯行態様について⑴ 被害者の司法解剖を実施したB医師の証言をはじめとする関係証拠によれば、①被害者の遺体には窒息死の所見があること、②個人差はあるが人が窒息死に至る時間は2分から5 2 犯行態様について⑴ 被害者の司法解剖を実施したB医師の証言をはじめとする関係証拠によれば、①被害者の遺体には窒息死の所見があること、②個人差はあるが人が窒息死に至る時間は2分から5分程度であること、③被害者の顔面には鼻背部と上唇部に表皮剥脱があり、傷の状況から鼻口部に鈍体が作用したと考えられること、 ④被害者の頸部や気道には窒息死の原因となる所見がなかったこと、⑤被害者の右側頭部後部にも表皮剥脱があり、左右の肩甲上部等には皮下出血や軟部組織内出血が認められたこと、⑥表皮剥脱は死亡から遡って1日以内に、皮下出血や軟部組織内出血は死亡から遡って二、三日以内に生じた新しい傷であり、これらが同時期に生じたと考えて矛盾しないこと、⑦顔面の表皮剥脱は枕のよ うな鈍体を載せるだけでなく、ある程度の力を加えないと生じず、両肩付近の皮下出血等も体重を掛けるなどの強い力を加えない限り生じないことが認められる。また、被害者の血中アルコール濃度は約0.98㎎/㎖、尿中アルコール濃度は約2.78㎎/㎖で、全般的にはアルコールの分解期にあり、被害者は死亡の直前、アルコールの影響によって体が動かない状況にはなかったものの、 逃避行動に出る判断力や抵抗力が低下していた可能性、呼吸機能が低下して窒息死するまでの時間が多少短くなった可能性が考えられることから、被害者の死因はエタノール影響下の鼻口部閉塞による窒息であると推定されたことが認められる。 以上を基礎付ける解剖経験豊富なB医師の見解は合理的なものであって、 弁護人の指摘を踏まえても、その判断過程に疑問を差し挟むべき点は見当たらず、十分に信用できる。 ⑵ 被告人は捜査段階において、被害者の鼻口部を塞いだ時間については曖昧な部分もあるものの、右手で被害者の左肩付近をつかみ ても、その判断過程に疑問を差し挟むべき点は見当たらず、十分に信用できる。 ⑵ 被告人は捜査段階において、被害者の鼻口部を塞いだ時間については曖昧な部分もあるものの、右手で被害者の左肩付近をつかみ、左手で被害者の口から鼻の辺りを枕で塞ぎ押し付けた状態で、右手と左手に体重を掛ける格好で被害 者に覆い被さったことや、当初は被害者の左肩をつかんでいた右手に押し返さ れる衝撃があり、被害者の話す言葉も聞こえたが、それらは段々と弱く小さくなり、最終的にはなくなったことを供述している。被告人が被害者の鼻と口を枕で塞いで相応の時間体重を掛けて押さえ付けたという供述は、被害者の遺体の状態やB医師の証言に整合することに加え、犯行からそれほど経たない時期にされたものであり、実際に体験したからこそ述べられるような具体的な内容 となっていることなどからすると、十分に信用できる。 ⑶ したがって、被告人は、少なくとも窒息死に至るのに必要な相応の時間、被害者の鼻背部等に表皮剥脱が、両肩付近に皮下出血等が生じる程度の強い力で被害者の鼻口部を枕で塞いで押さえ付けたと認められる。 ⑷ これに対し、被告人は当公判廷において、仰向けからやや右半身を下にした 体勢で寝転がった被害者と向かい合う形で、被告人が左半身を下にして横になり、被害者を静かにさせるために左手でつかんだ枕を被害者の顔に置き、そのまま枕に左手を置いて、被害者に掛けたタオルケットが落ちないようにその肩関節付近に右手を置いたが、被告人は寝てしまったのかもしれず、枕を置いた後の被害者の様子の記憶がなく、気が付くと被害者が静かになっていたなどと 供述する。しかし、被告人の公判供述は、被害者の遺体の状態ともB医師の証言とも整合しない上、被害者が窒息死に至る状況等の肝心な部分につき、寝て なく、気が付くと被害者が静かになっていたなどと 供述する。しかし、被告人の公判供述は、被害者の遺体の状態ともB医師の証言とも整合しない上、被害者が窒息死に至る状況等の肝心な部分につき、寝てしまったのかもしれない、覚えていない、などと非常に曖昧な供述に終始している。したがって、被告人の公判供述は信用できない。 3 被告人の行為が人が死ぬ危険性の高い行為であり、被告人がそのような行為と 分かって行ったかについて⑴ 鼻背部等に表皮剥脱が生じ、両肩付近に皮下出血等が生じる程度の強い力で被害者の鼻口部を枕で塞いで押さえ付ける行為は、枕の材質を考慮しても、被害者の呼吸を強く妨げる行為であり、被告人はそのような行為を、少なくとも被害者が窒息死するのに必要な相応の時間続けたのであるから、被告人の行為 が被害者が死ぬ危険性の高い行為であることは明らかである。そして、被告人 は、自らの意思で意図的にその行為に及んでいる以上、それが被害者が死ぬ危険性の高い行為であると分かって行ったと認められる。 ⑵ 弁護人は、被害者がアルコールの影響により窒息死しやすい状態にあったと主張するが、B医師の証言によれば、アルコールの影響があったとしても、窒息死するまでの時間が多少短くなった可能性があるにとどまることからすると、 アルコールの影響は上記の認定を左右しない。 また、弁護人は、被告人が心身ともに疲れ切っていたことなどから自らの行為の危険性を認識していなかったと主張するが、犯行当時、被告人の認知機能に特に問題があったとはうかがわれないから、被告人の認識について疑いが生じることにはならない。 4 したがって、判示のとおり、被告人は人が死ぬ危険性の高い行為を、そのような行為と分かって行ったと認定した。 (法令の適用)記載省略 人の認識について疑いが生じることにはならない。 4 したがって、判示のとおり、被告人は人が死ぬ危険性の高い行為を、そのような行為と分かって行ったと認定した。 (法令の適用)記載省略(量刑の理由)計画性はなく衝動的な犯行とはいえ、被害者の鼻口部を枕で塞ぎ、強い力で相応 の時間押さえ続けるという態様は、危険かつ執拗である。被害者の生命が奪われたという結果が重大であることはいうまでもなく、実母により窒息死させられた被害者の肉体的、精神的苦痛の大きさは察するに余りある。被害者がアルコール依存症等のため日常生活に支障を来たし、被告人に暴言を吐くこともあった中で、心身ともに疲弊して追い詰められた被告人の境遇は理解できなくもないが、被害者から一 旦離れるなどの手段をとることなく、被害者が死ぬ危険性の高い行動に出ることがやむを得なかったとはいえない。こうした事情に照らすと、本件は、被害者が1名でその立場が被告人の子である家族関係等に起因する殺人の中で、最も軽い部類に属する事案とはいえない。 以上に加え、被告人が犯行後程なく警察署に出頭して自首し、公判でも自らの行 為で被害者を死亡させたことは認めて反省の言葉を述べていること、被告人には前 科がないことなどの事情を考慮し、自首減軽をした上で、主文の実刑に処するのが相当であると判断した。 (求刑懲役5年)令和7年2月27日水戸地方裁判所刑事第1部 裁判長裁判官有賀貞博 裁判官君塚知弥子 裁判官宮澤裕登 弥子 裁判官宮澤裕登

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