主文 1 本件控訴をいずれも棄却する。 2 控訴費用は控訴人らの負担とする。 事実及び理由 第1 控訴の趣旨 1 原判決を取り消す。 2 被控訴人は,控訴人Aに対し,2億2300万円及びこれに対する昭和63年9月21日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 3 被控訴人は,控訴人B,同Cに対し,各550万円及びこれに対する昭和63年9月21日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 4 訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人の負担とする。 5 仮執行宣言第2 事案の概要 1 本件は,控訴人Cが,昭和63年9月21日,被控訴人の開設,経営する被控訴人病院において控訴人Aを出産したところ,被控訴人病院の担当医師らの過失により,控訴人Aが仮死状態で出生し,脳性麻痺の障害が残ったとして,控訴人A及びその父母である控訴人B,控訴人Cが,被控訴人に対し,債務不履行又は不法行為に基づき,損害賠償と遅延損害金の支払を求めた事案である。原判決は,担当医師らに過失は認められないとして,控訴人らの請求をいずれも棄却した。そのため,控訴人らがこれを不服として控訴をした。 2 以上のほかの事案の概要は,次のとおり控訴人らの当審における主張を付加して訂正するほか,原判決「第2 事案の概要」欄に記載のとおりであるから,これを引用する。 (1) 原判決4頁末行の「9月13日」を「9月12,13日」に改め,5頁5行目の次に,行を改め次を加える。 「 辺縁前置胎盤で出血量の少ないときには経膣分娩を試みてよいとする文献が一部にあるとしても,すべての文献が一致した考え方を述べるまでは医療水準になっていないと考えるべきではなく,多少遅れた考え方が一部の文献にあっても,それが同種の医療機関において みてよいとする文献が一部にあるとしても,すべての文献が一致した考え方を述べるまでは医療水準になっていないと考えるべきではなく,多少遅れた考え方が一部の文献にあっても,それが同種の医療機関においてほとんど実施されなくなっている状況下で,その医療機関が医学的知見の推移についての追跡を懈怠し,なお古いやり方を踏襲していたという場合には,その療法の選択について医療水準を逸脱した明らかな裁量違反と判断すべきである。辺縁前置胎盤でも,37週を過ぎたら,出血しないうちに,落ち着いているときに,予定帝王切開をするというのが原則的な治療法である。胎児と母体の双方に危険の予想される辺縁前置胎盤においては,より安全な分娩方法を選択すべきであり,37週以降の辺縁前置胎盤において,より安全とされる分娩方法(予定帝王切開)を選択せず,敢えて経膣分娩を選択したために悪結果が発生した場合,裁量範囲の逸脱があったものとして結果に責任を取らせるべきである。」(2) 同6頁6行目の次に,行を改め次を加える。 「 控訴人Cの性器出血は9月20日午前零時から始まったのではなく,既に9月19日午後11時前から始まっており,同時刻からの出血量をみると,21日午前零時までに422g+α(測定もれが当然ある。)の比較的多量の性器出血の反復があった。その後も,21日午前中に64g(19日夜からの合計486g+α)の出血があり,更に,21日午後7時20分までに217g(19日夜からの合計出血量は639g+α)となっている。前置胎盤では,どの種類の前置胎盤でも,合計出血量が300~500mlになれば緊急帝王切開をすべきというのが原則的な治療指針であり,21日昼頃の時点では出血量が486g+αとなっていたのであるから,その時点で経膣分娩をもう一度試みることとしたD医師の判断には 0mlになれば緊急帝王切開をすべきというのが原則的な治療指針であり,21日昼頃の時点では出血量が486g+αとなっていたのであるから,その時点で経膣分娩をもう一度試みることとしたD医師の判断には過失がある。 特に,急激に出血量が増大することを考慮すると,大学病院などのような産婦人科医が常駐している病院でない限り,出血量が増加してきてから帝王切開に切り替るのでは遅すぎる場合が多い。被控訴人病院のように,産婦人科医が2名しかいない病院では,少量の性器出血が持続するような場合,大出血を起こす前に安全を期して帝王切開を行うべきであった。控訴人Cの出血は上記のとおりであったのであるから,21日の昼の時点では帝王切開を実施すべきであった。」(3) 同7頁18行目の次に,行を改め次を加える。 「 特に,本件は,辺縁前置胎盤で経膣分娩の安全性に大いに疑問のある分娩であり,他の通常の経膣分娩の場合と同じ基準で考えることは適切ではない。出血の危険性があり,経膣分娩の安全性に疑問のある辺縁前置胎盤の場合に,アトニン-Oを安全限界である40滴/分を超えて使用したことは法律的な過失というべきである。」(4) 同8頁16行目の「中止すべきである。」の次に「これは単なる目安ではなく,母児の生命にかかわる重大な基準であり産科医が遵守すべき準則である。また,日勤の助産師,看護師,医師の勤務は午後5時に終了するのが通常であり,それ以後は十分な監視ができなくなるのであるから,万全の監視を必要とし,何が起こるか分からない分娩誘発は中止するのが原則である。」を加える。 (5) 同9頁14行目の次に,行を改め次を加える。 「 そのため,分娩監視装置によれば,午後7時20分には,一過性徐脈や,陣痛周期が1分30秒を切って過強陣痛の可能性の高いこと を加える。 (5) 同9頁14行目の次に,行を改め次を加える。 「 そのため,分娩監視装置によれば,午後7時20分には,一過性徐脈や,陣痛周期が1分30秒を切って過強陣痛の可能性の高いことが認められたのに,何らの処置も執られなかったのである。」(6) 同10頁2行目の次に,行を改め次を加える。 「 上記のように,午後7時20分における過強陣痛等に対して適切な処置が執られなかったのもそのためである。看護記録には午後5時50分に内診の記載があるが,これは看護師(助産師)による内診であって,同時刻に医師が診察したことはなく,医師は午後6時30分以前から不在になっていたものである。 これは明らかに重大な過失であり,産婦人科医の極めて不適切な過失がある以上,結果との因果関係があるものと推定すべきである。 また,異常発生から緊急帝王切開実施まで1時間14分もかかっているのは遅すぎる。産科医もそろっていて30分程度の短時間内に緊急帝王切開が実施されていれば,控訴人Aの重度脳障害の発生は避けられたと考えられ,因果関係があるというべきである。」(7) 同10頁15行目の次に,行を改め次を加える。 「ク多数過失の総合認定責任原因(注意義務違反)の有無を判断するに際しては,当該診療行為の局面だけに分断せずに,一連の診療行為の全体を総合的にみる視点が必要である。すなわち,医療過誤が問題となる場合には,明白かつ一回的な過失のみが問題になるとは限らず,むしろ,個々的にみれば比較的軽微と思われる不手際や,手抜かり,不適切が積み重ねられ,その結果当初の疾病からすれば極めて意外に思われる結果が発生することも少なくない。そのような事案において,個々的な過失と悪結果との因果関係を一つ一つ問題にしていくと,診療の り,不適切が積み重ねられ,その結果当初の疾病からすれば極めて意外に思われる結果が発生することも少なくない。そのような事案において,個々的な過失と悪結果との因果関係を一つ一つ問題にしていくと,診療の初期の段階での過失(不十分性)については,その過失があったからといって,最後の結果が決定づけられるわけではないという理由で因果関係が否定され(あるいは過失という程の不手際ではないと評価され),逆に診療の終わりの方での過失については,その段階では,既にそれまでの過失の集積によって患者の容態が相当に悪化しているために,その過失がなくても結果が回避できたとはいえないという理由で責任が否定されることになる。しかし,このように過失と因果関係を一つ一つ分断して判断していくと,一連の不適切・不十分な治療によって患者の病状が悪化し,最後に不測の事態が発生しているにもかかわらず医師の責任が否定されることになり,極めて不当である。」(8) 同11頁16行目の「証明はなされていない。」の次に,「被控訴人は,羊水塞栓症の定義が,妊娠時アナフィラキシーショック様症候群,すなわち症候群としての羊水塞栓症に変わってきているため従来の教科書の診断基準は妥当しないとの主張をするが,羊水塞栓症発症のメカニズムが,従来の羊水塞栓症成分が肺動脈を閉塞するということでは説明できず,何らかの胎児成分・羊水成分が血管内に入ることによりアナフィラキシーショック様反応が起こるのではないかと考えられるようになってきたということであり,胎児成分・羊水成分が血管内に入ることが必要条件であることには変わりがない。 したがって,やはり診断のためには羊水成分が証明されることが必要である。」を加える。 (9) 同11頁20行目の「されている。」の次に「また,本件においてDICが起こったのは大量出 わりがない。 したがって,やはり診断のためには羊水成分が証明されることが必要である。」を加える。 (9) 同11頁20行目の「されている。」の次に「また,本件においてDICが起こったのは大量出血後である。」を加える。 (10) 同11頁20行目の次に,行を改め次を加える。 「 また,9月21日午後7時54分頃からの嘔吐,児心音低下,意識混濁,ショック状態発現の原因について,除外診断的に判断して羊水塞栓症であった可能性が高いとしても,分娩誘発や過強陣痛(破水後),遷延分娩などの場合,羊水塞栓症が発症し得るとされていること,アトニン-Oの添付文書にも重大な副作用として羊水塞栓症が挙げられているところ,本件では遷延分娩で既に破水後であり,過強陣痛があったと考えられること,分娩誘発中であったことからすれば,これらが原因で羊水塞栓症が発症した可能性がある。」第3 当裁判所の判断 1 当裁判所も,控訴人らの請求はいずれも理由がないと判断する。その理由は,次のとおり付加訂正するほかは,原判決「第3 争点に対する判断」欄に記載のとおりであるから,これを引用する。 (1) 原判決17頁1行目の「甲1ないし5」の次に「(枝番を含む。以下,同じ。)」を加え,2行目の「24ないし27」を「24ないし29」に改める。 (2) 同28頁13行目の「非薄」を「菲薄」に改める。 (3) 同29頁13行目の「されている」の次に,「(ただし,待機の目安については,上記の甲38が38週とするほか,甲43(標準産科婦人科学,平成11年発行),甲44(産科婦人科学,平成11年)はいずれも37~38週としている。)」を加える。 (4) 同29頁14行目から30頁12行目までを次のとおり改める。 「 しかしながら,帝王切開の適応があるとする上記の文献にお ,平成11年)はいずれも37~38週としている。)」を加える。 (4) 同29頁14行目から30頁12行目までを次のとおり改める。 「 しかしながら,帝王切開の適応があるとする上記の文献においても,経産婦で辺縁性で子宮口が十分に開大している場合(甲38),子宮口が拡大していて部分または辺縁前置胎盤で,陣痛があり,人工破膜後,児頭により確実に圧迫止血が可能と考えられる場合(甲14)に,それぞれ経膣分娩の適応がある,あるいは,患者・家族が十分に前置胎盤の危険性を理解したうえで,経膣分娩を希望する辺縁前置胎盤の症例では,double set-upの体制で試みてもよい,早期に人工破膜を行い,先進部の圧迫による止血効果を図るが,出血量が多い場合は帝王切開へ切り換えねばならない(甲35)などとされ,例外的な位置付けではあるが経膣分娩の適応がある場合が明示的に認められているものも少なくない。 同様に甲40(産婦人科学書2周産期医学,平成6年発行)では,「辺縁前置胎盤または軽度の一部前置胎盤で,それまでの出血量が少量であり,かつ,経膣分娩が容易であると考えられる場合,double set-up examinationを行っても出血が少なければ,経膣分娩を試みてもよい。児頭による胎盤の圧迫によって出血を少なくする目的で,人工破膜が積極的に行われる。」,乙7(救急医学・産婦人科救急,平成7年発行)では,「辺縁前置胎盤では胎児が成熟し,児頭が固定している場合は,出血量と児のwell beingをモニターしながら経膣分娩を試みることも可能である。」,乙10(産婦人科の実際,平成7年発行)では,一部あるいは辺縁前置胎盤の場合について,「少量の出血のみで子宮口が3~4cm開大し,胎児先進部が十分下降していれば,人工破膜による経膣分娩を試みてもよい。」,甲3 人科の実際,平成7年発行)では,一部あるいは辺縁前置胎盤の場合について,「少量の出血のみで子宮口が3~4cm開大し,胎児先進部が十分下降していれば,人工破膜による経膣分娩を試みてもよい。」,甲39(NEW産婦人科学,平成9年発行)では,「辺縁前置胎盤や軽度の一部前置胎盤で出血量が少ない場合には経膣分娩が考慮される。」,甲43(標準産科婦人科学,平成11年発行)では,「部分・辺縁前置胎盤では人工破膜を行い,経膣分娩を試みることがある。」などとされ,いずれも経膣分娩の適応がある場合が認められている。さらに,甲7(小産科書,平成元年発行)では,一般に前置胎盤の程度の軽いときなどには経膣分娩を図るとされ,その後に刊行された乙9(産婦人科の実際,平成6年発行)でも,辺縁前置胎盤や低置胎盤の場合は経膣分娩を試みるのを原則とし,分娩の進行にともない出血量が増加してくれば直ちに帝王切開とするとされ,むしろ経膣分娩を原則とする立場を明らかにしている。また,鑑定人Eの鑑定結果及び同人の原審における証言によると,前置胎盤の危険性は母体の出血にあり,出血の多寡によって管理が異なること,したがって,辺縁前置胎盤であることのみをもって帝王切開の適応があるとはいえず,出血量が少ない場合には,母体への侵襲が大きい帝王切開ではなく経膣分娩を選択するのが普通であり,分娩中に出血量が増加してきたら,人工破膜を行って児頭で胎盤辺縁部を圧迫することで出血が止まることが多いというのであり,甲64の2(F作成の鑑定意見書)及び同人の当審における証言によっても,37週を過ぎた場合の処置としては原則として帝王切開をするとまではいえず,また,出血量にかかわらず帝王切開をすべきとはいえないとしている。 以上を考え合わせると,本件出産当時の一般的な臨床医学の水準において,辺縁前置 しては原則として帝王切開をするとまではいえず,また,出血量にかかわらず帝王切開をすべきとはいえないとしている。 以上を考え合わせると,本件出産当時の一般的な臨床医学の水準において,辺縁前置胎盤で妊娠37週を経過しているときには帝王切開の適応が認められる場合が多いとされていたものの,その期間については妊娠38週とする見解もある上,特に娩出方法の選択に関しては,経膣分娩の適応を一般的に排除するものではなく,出血量などの条件次第では妊娠37週経過後も経膣分娩の適応を認める見解も少なくなかったものであって,妊娠37週を過ぎても出血量等を観察した上で経膣分娩を試みること自体は医師の裁量の範囲内の措置であったというべきである。また,これが,このような判断ないし措置が,同種の医療機関において殆ど実施されなくなっている状況下で,その医療機関が医学的知見の推移についての追跡を懈怠し,なお古いやり方を踏襲していたにすぎないものということもできない。」(5) 同31頁12行目の「個々の産婦の状態によって異なる」を「,どの程度の時間にどの程度の量が出るかの問題であって一律にはいえず,また,産婦の状態によっても異なり,結局は管理している産科医の臨床的判断にならざるを得ない」に改める。 (6) 同31頁14行目から32頁9行目までを次のとおり改める。 「 以上によれば,本件出産当時は,性器出血の量が300mlになれば帝王切開を行うべきであると提唱する産婦人科医はいたものの,他方で,500ml程度を基準とする見解も多く,帝王切開に踏み切るべき性器出血量としては,概ね300ないし500ml程度のものと理解されていたものと認められるが,上記認定のとおり,その量は時間的な単位について必ずしも明確な基準があるわけではなく(ただし,一部には上記のとおり1 しては,概ね300ないし500ml程度のものと理解されていたものと認められるが,上記認定のとおり,その量は時間的な単位について必ずしも明確な基準があるわけではなく(ただし,一部には上記のとおり1時間当たり100mlとの基準を提唱するものもある。),結局は,母体の危険ないしショックを回避する観点から,上記の数値を一応の目安としながらも,個々の産婦の状態に応じて医師の専門的知見に基づいた裁量によって帝王切開か経膣分娩かを選択することが認められていたものであって,形式的に,ないしは単なる累積量によって,性器出血が300ないし500mlを超えたからといって直ちに帝王切開をすべき義務があるものということはできない。 (3) 本件では,控訴人Cの9月19日午後11時以降の性器出血は原判決添付の別紙「出血量の推移」のとおりであり,9月19日の合計出血量は60g,9月20日の合計出血量は約362g,9月21日に入って以降同日午後零時までの合計出血量は約64g(9月19日午後11時以降の総合計は486g)であって,それまでの総累積出血量の数値は上記認定のような基準値の上限に近いものであるが,そのような累積量が直ちに帝王切開に踏み切るべき出血量と評価することができないことは上記判示のとおりである。そして,控訴人Cの出血量が最も多かったのは9月20日午前8時40分の104gであり,これは時間当たり100mlを超えるものとして上記一部の見解の基準を超えるものであるが,その後は単位時間当たりの出血量で見ても大きく減少し,9月21日に入っても性器出血量は少量で推移している。 もっとも,上記認定のとおり,辺縁前置胎盤において経膣分娩を試みる際の出血防止対策は,胎児先進部の下降により胎盤剥離部が圧迫されることにより出血量が減少することがある点を前提にす している。 もっとも,上記認定のとおり,辺縁前置胎盤において経膣分娩を試みる際の出血防止対策は,胎児先進部の下降により胎盤剥離部が圧迫されることにより出血量が減少することがある点を前提にするものであるところ,甲64の2(F作成の鑑定意見書)においては,同趣旨を指摘する乙9や,少量の出血のみで子宮口が3~4cm開大し,胎児先進部が十分下降していれば,人工破膜により経膣分娩を試みてよいとする乙10を指摘し,この観点からの検討が必要であるとした上,9月21日午後2時20分の時点での児頭の下降度スコアが0点であって,児頭が十分に下降しているとはいえず,出血量の減少や分娩の進行が期待できる状態ではなく,この点をも考慮すると,上記のような出血量がある状態では帝王切開をすべきであったとする。そして,当審における証人Fの証言及び甲69の2によれば,同人は,被控訴人病院における入院記録(乙2)のスコア記載欄のうち,胎児の下降度を示す「S」の欄に記載された「0」の意味について,ビショップスコア0であり,ステーションでいうとマイナス3位(児頭先端が坐骨棘間線より上方3㎝にある状態)であるとの理解を前提に上記判断をしたことが認められる。しかし,原審における証人Gの証言及び乙28によれば,被控訴人病院における表記方法は,ビショップスコアではなく,下降度マイナス1㎝を0点,同0㎝を1点,同プラス1㎝を2点と修正する方法で運用していたものであって,そうであれば,原審における証人Gの証言や当審における証人Fの証言によっても,ステーションマイナス1は児頭が十分に,あるいは相当に下降している状態ということができるのである。そして,本件における9月21日昼頃の児頭の下降度がステーションマイナス1であることは前記認定のとおりである(なお,被控訴人病院の上記表記方法 いは相当に下降している状態ということができるのである。そして,本件における9月21日昼頃の児頭の下降度がステーションマイナス1であることは前記認定のとおりである(なお,被控訴人病院の上記表記方法では,下降度マイナス1㎝に至らない場合も同様に0点と表記されると考える余地が生ずるが,乙1及び原審における証人D,同Gの各証言によれば,十分に下降していない場合には「-1」の表記もされているほか,所見をそのまま記載することとされていて,本件において「0」と記載したのはステーションマイナス1を示すというのであり,現に,乙2(看護記録)の9月20日の欄の下降度の記載として「st~-1」の記載があることからすれば,上記のスコア欄の「0」の記載はステーションマイナス1を示すものと認められる。)。したがって,甲64の2の上記見解は,児頭の下降度についての誤った認識を前提としたもので採用することはできない。 そして,当審における証人Fの証言によっても,9月21日午前中の出血量は少量で安定したものといえるのであり,さらに,この時点において子宮口の開大は4cmとなっていたものである。また,午前8時50分から午後零時までの間,児心音は胎児心拍数基線130ないし140bpmで良好であり,陣痛周期,陣痛持続時間ともに異常は認められていない。 以上のような状況に加えて,前記認定のとおり控訴人Bが経膣分娩を強く希望していたこと及び鑑定人Eの鑑定結果(本件において9月21日午後零時の時点で帝王切開の適応はないとするのが妥当であり,同日午後零時45分に,夫,本人と相談した上,朝からの出血量が50gしかなく,できれば自然分娩でいきたい,明日分娩にならなければ帝王切開という結論に至ったのは妥当であったとする。)をも総合すると,9月21日昼ころの時点で,帝王切開に 談した上,朝からの出血量が50gしかなく,できれば自然分娩でいきたい,明日分娩にならなければ帝王切開という結論に至ったのは妥当であったとする。)をも総合すると,9月21日昼ころの時点で,帝王切開に踏み切らずに経膣分娩をもう一度試みることとしたD医師の判断には専門的な知見に基づく相当な根拠があり,これをもって過失があるということはできない。このことは,被控訴人病院の産婦人科医師が2名だったからといって異なるものではない。」(7) 同33頁19行目の「あったと供述している。」を「あった旨,また,産婦の感受性によって異なり,安全基準は過強陣痛を防止して産婦及び胎児の安全をはかる指標である旨証言(原審)し,同人の鑑定においては,安全投与限界の設定は,それ以上の投与量を必要とするような場合には,過強陣痛をきたす危険性が増すという意義の他に,子宮筋の感受性が低く,無効であることをも意味するとしている。」に改める。 (8) 同34頁19行目の次に,行を改め次を加える。 「 控訴人らは,辺縁前置胎盤の本件では,通常の経膣分娩の場合と同様に考えることはできないとするが,上記のような控訴人C及び胎児の状態からしても,母児の全身状態や子宮収縮についての十分な観察下での投与であれば,控訴人らが安全限界と主張する40滴/分を超えて45滴/分を投与したからといって,直ちに過失があるということはできない。」(9) 同36頁5行目の次に,行を改め次を加える。 「(4) さらに,9月21日午後7時54分頃以降の母体のショック状態等が生じた原因について,鑑定人Eの鑑定の結果及び甲64の2(F作成の鑑定意見書)は,いずれも羊水塞栓症であった可能性が高いとし,その理由について,E鑑定は,「妊娠前からショックに結びつくような持病がなく,妊娠中も前置胎盤以 人Eの鑑定の結果及び甲64の2(F作成の鑑定意見書)は,いずれも羊水塞栓症であった可能性が高いとし,その理由について,E鑑定は,「妊娠前からショックに結びつくような持病がなく,妊娠中も前置胎盤以外の特別な異常を認めなかった妊婦が突然に,「苦しいヨオ」と苦悶しながら,呼吸数42/分の頻呼吸を伴って,全身チアノーゼを呈し,意識混濁と共に血圧が触診でも測定不能なショック状態に陥って,同時に胎児心拍数も急激に徐脈を呈する胎児ジストレスをきたす急激な病態は,羊水塞栓症のそれに一致する。さらに,その後のDIC(播種性血管内凝固)による出血傾向を示す大量出血をきたしているのも,羊水塞栓症に一致するものである。」とし,F意見書は,「母体のショック後,回復過程において明らかなDICを発症したことを考慮すると,仰臥位低血圧症候群や前置胎盤からの出血による出血性ショックは極めて考えにくい。DICを発症する産科疾患としては,常位胎盤早期剥離もしくは羊水塞栓症が最も考えられるが,術中所見や胎盤所見からは常位胎盤早期剥離があったという客観的証拠はなく,除外診断的ではあるが,羊水塞栓症の可能性が最も高い。」としており,本件においてこれらの判断ないし診断を否定し得る証拠はなく,羊水塞栓症が原因と認めるのが相当である。控訴人らは,前置胎盤剥離による大量出血が原因であると主張するが,午後7時54分の時点で出血性ショックを起こすほどの大量の出血があったことを認めるに足りる証拠はなく,輸血をする前に帝王切開の手術が可能な状態に回復していることからしても上記主張は認められない。 そして,上記F意見書は,「羊水塞栓症は陣痛発来後,特に破水後に発症することが多い。したがって,経産婦,分娩誘発,過強陣痛(破水後),遷延分娩,羊水混濁,分娩前後の発熱例,また,軟産道裂傷, そして,上記F意見書は,「羊水塞栓症は陣痛発来後,特に破水後に発症することが多い。したがって,経産婦,分娩誘発,過強陣痛(破水後),遷延分娩,羊水混濁,分娩前後の発熱例,また,軟産道裂傷,子宮破裂,早剥など,さらに羊水穿刺や羊水過少例に対する人工羊水(温生食水)の子宮内注入などで,発症することもあり得る・・」との文献(日母研修ノートNo62母体救急疾患~こんな時どうする~,日本母性保護産婦人科医会,平成11年発行)を引用した上,本件の場合はこれらのうち分娩誘発,過強陣痛(破水後),遷延分娩が当てはまるとし,また,アトニン-Oの重大な副作用として羊水塞栓症があげられているとし,さらに,同人の当審における証言によれば,本件において,21日夕方に医師が不在になる際にアトニン-Oの点滴を中止していれば羊水塞栓症の発症を防止できた可能性が高いとする。また,甲65(産科学(第7版),平成13年発行)では,「本症は,過期妊娠,羊水過多,強直陣痛あるいはoxytocinの注射により,子宮内圧が急激に上昇したときなどにおこりやすい。」とされ,甲66(プリンシプル産科婦人科学(改訂版),平成10年発行)では,「過強陣痛に伴う子宮内圧亢進などが関与するので,陣痛促進剤使用時は過強陣痛とならないよう注意する。」とされ,甲67では,羊水塞栓症による死亡例7例中5例で陣痛促進剤が使用されていたとされる。 しかし,他方,原審における証人Eの証言によれば,病態が判然としなかった時期には子宮収縮剤と羊水塞栓症とが関係があるものと考えられていたが,現在では無関係とされているというのであり,同人の鑑定書添付の資料(ウイリアムズ産科学第20版,平成9年発行)でも,「過去には,過強陣痛が羊水塞栓症の原因である可能性が高いと考えられていた。しかし,疫学的研究や 係とされているというのであり,同人の鑑定書添付の資料(ウイリアムズ産科学第20版,平成9年発行)でも,「過去には,過強陣痛が羊水塞栓症の原因である可能性が高いと考えられていた。しかし,疫学的研究や最近の臨床データから,その考え方は否定されている(Clarkら,1995)。」「羊水塞栓症に伴ってしばしば認められる過強陣痛は,初期の病態の原因というよりむしろそれに対する反応と考えられる。」「同様に,オキシトシンの使用が羊水塞栓症の原因になるということもなく,オキシトシン使用群が非使用群に比べて羊水塞栓症の頻度が増加するということもない(米国産婦人科学会,1993)。」とされている。また,オキシトシンの使用頻度の高いのに比較して,羊水塞栓症の発症数が少ないことも事実である(当審における証人F,弁論の全趣旨)。 これらを総合すると,陣痛促進剤の使用ないしこれに伴う過強陣痛が羊水塞栓症の原因であると断定するには疑問があり,本件においても,9月21日午後7時54分頃以降の母体のショック状態等が生じた原因が陣痛促進剤の使用にあったと認めるにはなお十分ではない。 そして,乙2の看護記録によれば,本件では9月21日の午前中に陣痛の見られない時間があったことから,必ずしも遷延分娩とはいえず,また分娩誘発時間も特に長すぎたものとは認められず,本件においては遷延分娩は余り問題にならないことが認められるのである(甲64の2,乙2,当審における証人F)。 さらに,証拠(甲28,31,36,原審における証人E,当審における証人F)によれば,羊水塞栓症の病態生理や病原についてはいまだ明確な結論は得られておらず,その発症割合も2~3万の分娩に1例程度と低く,前駆症状もなしに突然発症するものであることから,事前に予測して予防することは極め 水塞栓症の病態生理や病原についてはいまだ明確な結論は得られておらず,その発症割合も2~3万の分娩に1例程度と低く,前駆症状もなしに突然発症するものであることから,事前に予測して予防することは極めて困難なことが認められるのであって,本件において,これを予測し得なかったことをもって過失ということはできない。」(10) 同36頁25行目の次に,「控訴人らは,9月21日午後7時20分に一過性徐脈が見られた旨主張し,甲64の2(F作成の鑑定意見書)にも同様の記載が存する。しかし,分娩監視記録(乙2の29丁)によれば,午後7時20分に胎児心拍の記録が一時的に不鮮明となっているものの,その状態や同じ時点における母体の拍動記録,その後の胎児心拍は母体に急変が生じるまで全く正常に推移していることなどに照らして,胎動等による記録上の問題によるものと考えられ,一過性徐脈ではないと認めるのが相当である(原審における証人E,弁論の全趣旨)。」を加える。 (11) 同38頁1行目の次に,「また,上記のとおり分娩監視装置による監視や助産婦による内診等が行われていたことからも,産婦人科医師の不在により十分な診療を受けられなかったものともいえない。控訴人らは,緊急帝王切開の実施までに1時間14分も要したのは遅すぎるとも主張するが,上記のとおり,控訴人Cの全身状態が手術可能なまでに改善するのを待っていたためであり,これをもって過失ということはできない。」を加える。 (12) 控訴人らは,当審において,一連の診療行為を総合的に見て責任原因の有無を判断すべきであると主張する。しかし,本件において,問題とされる各段階の診療行為に過失の認められないことは既に述べたとおりであり,これを一連の診療行為として捉えてみても,被控訴人病院の担当医師らに注意義務違反があり,そ する。しかし,本件において,問題とされる各段階の診療行為に過失の認められないことは既に述べたとおりであり,これを一連の診療行為として捉えてみても,被控訴人病院の担当医師らに注意義務違反があり,それによって控訴人Cの状態が急変し,緊急帝王切開を要する事態になったものと評価することはできず,また,本件が控訴人らの主張するような不当な結果の生じる事案であるとも認められない。それにもかかわらず,帰責事由の不明確なまま起こった結果から責任原因を肯定すべきとすることは,過失責任の見地からして相当とは思われない。 2 以上によれば,控訴人Aの脳性麻痺の原因等,その余の点について検討するまでもなく,控訴人らの本訴請求はいずれも理由がなく,これを棄却した原判決は相当である。 よって,本件控訴はいずれも理由がないから,棄却することとし,主文のとおり判決する。 広島高等裁判所第3部裁判長裁判官西島幸夫裁判官大段亨裁判官齋藤憲次
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