令和7年9月17日宣告令和5年(わ)第839号[基本事件]、第583号、第1037号、第1320号、令和6年(わ)第86号、第324号、第657号偽造有印公文書行使、詐欺、業務上横領被告事件判決 主文 被告人を懲役8年に処する。 未決勾留日数中240日をその刑に算入する。 理由 (罪となるべき事実)第1被告人は、福岡県弁護士会所属の弁護士であった当時、Bから、BのD社に対する貸金返還等請求の交渉等の業務を受任していたものであるが、Bから前記貸金返還等請求に関する債権仮差押命令申立てに係る供託金名目で金銭をだまし取ろうと考え、令和2年2月5日頃から同月15日頃までの間に、福岡市内又はその周辺等において、Bに対し、面談や書面を閲読させる方法又はBの長女であるCを介して電子メールや電話で伝える方法により、真実は、Bから振込送金を受けた金銭を自己の用途に費消するつもりであり、したがって前記仮差押命令申立てのために直ちに供託するつもりはないのに、これがあるかのように装い、前記仮差押命令を申し立てるために供託金として850万円が必要であり、入金され次第直ちに供託の手続を行うなどと種々のうそを言うなどした上、「仮差押決定」「これは正本である。」などと記載され、裁判所書記官印の印影が表出された福岡地方裁判所書記官作成名義の仮差押決定書正本の写し1通のデータを、これが真正に成立したものであるかのように装って、C宛ての電子メールに添付・送信してCを介してBに閲読させて行使し、Bにその旨誤信させ、よって、同月17日、2回にわたり、福岡市内の銀 行ほか1か所において、Bに関係口座aに合計850万円を振込入金させ、もって人を欺いて財物を交付させた。 第2被告人は、福岡県弁護士会 って、同月17日、2回にわたり、福岡市内の銀 行ほか1か所において、Bに関係口座aに合計850万円を振込入金させ、もって人を欺いて財物を交付させた。 第2被告人は、福岡県弁護士会所属の弁護士であった当時、BからBのD社代表取締役Eとの間における株式売買契約交渉に関し、株式売買契約及びこれに付随する金銭の受領等の業務を受任していたものであるが、令和2年4月30日及び同年5月1日、Eから、前記株式売買契約に基づく株式売買代金として、関係口座bに合計1941万9110円の振込入金を受け、これをBのために業務上預かり保管中、同年4月30日から同年5月11日までの間、6回にわたり、福岡市内の銀行ほか1か所において、自己の用途に費消する目的で、前記口座から現金合計1941万9110円を払い戻して着服し、もって横領した。 第3被告人は、福岡県弁護士会所属の弁護士であった当時、BからBのD社に対する貸金返還等請求に関し、和解契約の締結及びこれに付随する金銭の受領等の業務を受任していたものであるが、令和2年7月16日、D社から、前記貸金返還等請求に関する和解契約に基づく和解金として、関係口座bに500万円の振込入金を受け、これをBのために業務上預かり保管中、同日、福岡市内の銀行において、自己の用途に費消する目的で、前記口座から現金500万円を払い戻して着服し、もって横領した。 第4被告人は、福岡県弁護士会所属の弁護士であった当時、Fから、Fの亡き実母を債務者とする銀行に対する債務弁済の交渉等の業務を受任していたものであるが、令和2年10月30日午後3時54分頃、福岡市内の郵便局駐車場において、Fから、前記債務の元金返済資金として現金631万円の交付を受け、これをFのために業務上預かり保管中、自己の用途に費消する目的で、同日 年10月30日午後3時54分頃、福岡市内の郵便局駐車場において、Fから、前記債務の元金返済資金として現金631万円の交付を受け、これをFのために業務上預かり保管中、自己の用途に費消する目的で、同日午後4時14分頃から同日午後4時18分頃までの間、同市内の郵便局に設置された現金自動預払機から、 関係口座cに前記現金631万円を入金し、もって横領した。 第5被告人は、福岡県弁護士会所属の弁護士であった当時、第4のとおり、Fから前記実母を債務者とする銀行に対する債務弁済の交渉等の業務を受任していたものであるが、Fから金銭をだまし取ろうと考え、真実は、第4のとおり交付を受けた現金631万円を銀行に対する前記債務の弁済のために供託しておらず、かつ、Fから受領する金銭を銀行に対する利息等の債務の弁済のために直ちに供託するつもりもないのに、これらがあるかのように装い、令和2年11月20日頃、福岡市内の路上において、Fに対し、「銀行から通知が来ました。」などと言って、「元金630万7898円について、本年11月4日付けでの弁済供託を確認しております。」「経過利息は15万2557円、遅延損害金は155万4201円となりますので、合計170万6758円の弁済供託手続きをお願いします。」などと記載された内容虚偽の回答書を呈示した上、「今日中に供託しようと思っているので、170万円を用意してください。」などとうそを言って、Fにその旨誤信させ、よって、その頃、前記郵便局駐車場において、Fから現金170万円の交付を受け、もって人を欺いて財物を交付させた。 第6被告人は、福岡県弁護士会所属の弁護士であった当時、G及びGが代表取締役を務めるH社の代理人になりすまし、G及びH社がそれぞれI社と締結した委託契約に基づいて支払われる管理費等の名目で 第6被告人は、福岡県弁護士会所属の弁護士であった当時、G及びGが代表取締役を務めるH社の代理人になりすまし、G及びH社がそれぞれI社と締結した委託契約に基づいて支払われる管理費等の名目で、I社から金銭をだまし取ろうと考え、令和2年12月23日、福岡市内において、I社統括部長Jらに対し、真実は、Gから前記各委託契約に基づいて支払われる管理費等の受領について依頼された事実はなく、したがってその管理費等を受領する正当な権限がないのに、これがあるかのように装い、G及びH社の代理人である旨の内容虚偽の受任通知書を大阪市内のI社宛てにFAX送信するなどして、その管理費等を被告人が指定する預金口座に振り込むように要求し、Jにその旨誤信させ、よって、同月28日、2回にわたり、 同市内において、Jから指示を受けたI社従業員をして、関係口座bに現金合計154万8971円を振込入金させ、もって人を欺いて財物を交付させた。 第7被告人は、福岡県弁護士会所属の弁護士であった当時、第6におけるのと同様に、G及びH社の代理人になりすまし、G及びH社がそれぞれI社と締結した委託契約に基づいて支払われる管理費等の名目で、I社から金銭をだまし取ろうと考え、令和3年1月13日及び同月15日、福岡市内において、Jらに対し、真実は、Gから前記各委託契約等に基づいて支払った金銭を目的とする不当利得返還請求を委任された事実はなく、したがってその返還請求をする正当な権限がないのに、これがあるかのように装い、G及びH社の代理人として前記不当利得返還請求をする旨の内容虚偽の「金銭返還請求書(2)」をI社宛てにFAX送信するなどして金銭の支払を要求し、Jにその旨誤信させ、よって、同月19日、大阪市内において、Jから指示を受けたI社従業員をして、関係口座bに現金 容虚偽の「金銭返還請求書(2)」をI社宛てにFAX送信するなどして金銭の支払を要求し、Jにその旨誤信させ、よって、同月19日、大阪市内において、Jから指示を受けたI社従業員をして、関係口座bに現金1336万893円を振込入金させ、もって人を欺いて財物を交付させた。 第8被告人は、福岡県弁護士会所属の弁護士であった当時、Kから、KらのLに対する抵当権設定登記抹消登記手続請求事件に関し、その訴訟遂行及び和解交渉等の業務を受任していたものであるが、令和4年1月28日、福岡市内の銀行において、Kから、前記抵当権設定登記抹消登記手続請求事件に関し、Lに対する債務の弁済費用として、関係口座bに1200万円の振込入金を受け、これをKのために業務上預かり保管中、同日から同年2月1日までの間、3回にわたり、同市内の銀行ほか1か所において、自己の用途に費消する目的で、前記口座から現金合計1200万円を払い戻して着服し、もって横領した。 第9被告人は、福岡県弁護士会所属の弁護士であった当時、Mから、MのN社に対する損害賠償請求に関し、訴訟遂行及び和解等の業務を受任していたものであるが、 令和4年3月29日、N社から、前記損害賠償請求に関する和解契約に基づく和解金として、関係口座dに32万円の振込入金を受け、これをMのために業務上預かり保管中、同日、福岡市内の銀行において、自己の用途に費消する目的で、前記口座から現金32万円を払い戻して着服し、もって横領した。 第10被告人は、福岡県弁護士会所属の弁護士であった当時、かつて不倫に関するトラブル解決業務の依頼を受任したことがあったAから、慰謝料、記事掲載禁止仮処分命令申立てに係る供託金及び弁護士報酬等の名目で金銭をだまし取ろうと考え、令和4年8月6日から同月8日頃までの間に、福岡市 ブル解決業務の依頼を受任したことがあったAから、慰謝料、記事掲載禁止仮処分命令申立てに係る供託金及び弁護士報酬等の名目で金銭をだまし取ろうと考え、令和4年8月6日から同月8日頃までの間に、福岡市内等において、Aに対し、電話、電子メール又は面談の方法により、真実は、Aと過去に不倫関係にあった女性の配偶者がAに対して慰謝料を請求している事実も、同配偶者が取材を受けてAの過去の不倫に関する記事がニュースサイトに掲載される動きもないのに、同配偶者がAに対して慰謝料500万円を請求するとともに、同配偶者が取材を受けてAの過去の不倫に関する記事がニュースサイトに掲載される動きがあり、これらの問題解決のためには、同配偶者に慰謝料300万円を支払うとともに、記事掲載禁止仮処分命令申立てのための供託金500万円そのほか弁護士報酬等を用意する必要があるなどとうそを言うなどし、Aにその旨誤信させ、よって、同月9日及び同月10日の2回にわたり、福岡市内の駐車場に駐車中の自動車内ほか1か所において、Aから現金合計865万円の交付を受け、もって人を欺いて財物を交付させた。 (事実認定の補足説明)被告人は、(1)判示第2及び第3につき、Bから株式売買契約及び和解契約の締結並びにこれらに付随する金銭の受領等の業務を受任していた事実はないから、被告人が判示のとおり受領した各金銭の占有は業務上横領罪の成立に必要な委託信任関係に基づくものではなく、したがって判示現金合計2441万9110円の引出しは横領には当たらず同罪は成立しない、(2)判示第9につき、Mから和解契約締結の業務を受任していた事実はないから、(1)におけるのと同様に、被告人が判示 のとおり受領した金銭の占有は委託信任関係に基づくものではなく、現金32万円の引出しは横領には当たらず同罪は成立 業務を受任していた事実はないから、(1)におけるのと同様に、被告人が判示 のとおり受領した金銭の占有は委託信任関係に基づくものではなく、現金32万円の引出しは横領には当たらず同罪は成立しない、(3)上記(1)(2)について、仮に現金の引出しが横領に当たるとしても、弁護士報酬相当額については被害額から控除されるべきである、(4)判示第6及び第7につき、判示同様の欺罔行為はしたものの、その相手方はJではなく、I社の代表取締役であったなどと弁解し、弁護人もこれらに沿う主張をする(以下、被告人が縷々弁解する点とこれを踏まえた弁護人の主張を包括して「被告人の弁解等」という。)。 しかしながら、次のとおり、いずれも採用できない。 1 判示第2及び第3に係る業務受任(委託信任関係)の有無について(1) Bの供述によれば、従前から、D社に対する代表者貸付金返還請求等の事件につき、交渉や裁判所への手続等の一切を被告人に委任しており、その事件処理の過程で、Bが所有するD社の株式売却に関する交渉対応の一切も併せて委任することにし、令和2年4月30日、被告人と対面して、株式売却の合意ができそうである旨被告人から話を聞き、それに納得して、手続に必要な印鑑証明書等を被告人に渡した、というのである。 (2) 同供述は、被告人との間における従前からの継続的な契約関係を具体的に説明するものであるばかりか、①実際にその内容に整合する訴訟委任状(貸金等請求事件に関するもので、委任事項に和解が含まれるもの)及び委任状(株式売買に関する契約交渉(価格交渉を含む)・契約締結)が存在し、かつ、現に、被告人がBとの連絡役であったBの娘に対し、売却価格の交渉状況や目標値、見込まれる契約締結時期について連絡をしたり、売買契約の速やかな締結を条件に株式譲渡承認請求の 契約締結)が存在し、かつ、現に、被告人がBとの連絡役であったBの娘に対し、売却価格の交渉状況や目標値、見込まれる契約締結時期について連絡をしたり、売買契約の速やかな締結を条件に株式譲渡承認請求の撤回に同意する旨の書面を作成するよう持ち掛けたりしていたこと(Bの娘の供述調書。その供述内容は、客観的な添付資料に基づく具体的なものであって、信用できる。)、②被告人自身、株式売買に関する契約交渉・契約締結に係る委任状につき、売却交渉がまとまった段階で必要かもしれないとBに説明した上で委任状を作成した旨、自認していること等によって強力に裏付けられており、優に信用で きる(その反面において、委任状は相手方に対し契約締結権限を示すものに過ぎなかったなどという被告人の弁解は排斥される。)。Bの前記供述ほか関係証拠により、被告人が判示のとおり受領した各金銭の占有が、Bとの委託信任関係に基づくものであることは明らかというべきであり、被告人の弁解等を踏まえても、この結論は揺るがない。 2 判示第9に係る業務受任(委託信任関係)の有無について(1) 証人として出廷したM及びMの夫によれば、Mは、訴訟の内外を問わず、和解契約の締結等の業務を含めて事件の解決を被告人に委任していた、というのである。 (2) これらの供述は、①現に和解契約の締結を含めた訴訟委任状をMが作成していること、②被告人が、Mとの連絡役であるMの夫に対し、「京都簡裁に訴状提出済みです」「名古屋に移管の前に、裁判所から当事者間での協議・解決を強く勧められております」などと連絡していること等の事実関係に照らして優に信用でき、被告人が判示のとおり受領した金銭の占有がMとの委託信任関係に基づくことも明らかである。この結論は被告人の弁解等を踏まえても揺るがない。 3 判示第2、第3 こと等の事実関係に照らして優に信用でき、被告人が判示のとおり受領した金銭の占有がMとの委託信任関係に基づくことも明らかである。この結論は被告人の弁解等を踏まえても揺るがない。 3 判示第2、第3及び第9に係る横領額について委任契約に基づく報酬請求権は、受任者においてなすべき義務を履行した場合に認められる(民法648条2項本文)。 しかし、被告人は、もともと判示各相手方からの振込入金を手中に収めるために各委任関係を利用しているのであって、被告人が契約の本旨に沿った義務を履行していないことは明らかである。このような被告人に委任契約に基づく報酬請求権は発生していないとみるべきであるから、被害額から報酬相当額を減額すべきとする被告人の弁解等は前提を欠いており、当を得ない。 4 判示第6及び第7における欺罔行為の相手方について被告人はI社の代表取締役とのみ交渉した旨述べるが、Jは証人として出廷した上、被告人から欺罔行為を受けたのは自分であって代表取締役ではない旨具体的に 述べており、その内容は、携帯電話に登録された連絡先情報といった客観的な証拠との整合等に照らし、優に信用できる。これを否定する被告人の弁解等は排斥される。 (量刑の理由)被告人は、不正流用の穴埋めの資金捻出策として、あろうことか弁護士の立場と専門知識を悪用し、弁護士の援助を必要としている被害者側の事情と被告人に対する被害者の信頼を逆手にとって(判示第1ないし第9)、あるいはかつての顧客のプライバシー情報を悪用し、弁護士の援助が必要な状況であるかのように積極的に偽って被害者を一方的に窮状に陥れて(判示第10)、判示のとおり財産犯を繰り返した。被害者を助けるかのように装うべく、種々の策を弄して嘘に嘘を重ねる犯行態様は卑劣であり、被害者6名にもたらした被害の総 って被害者を一方的に窮状に陥れて(判示第10)、判示のとおり財産犯を繰り返した。被害者を助けるかのように装うべく、種々の策を弄して嘘に嘘を重ねる犯行態様は卑劣であり、被害者6名にもたらした被害の総額は7680万円もの高額に達している。 以上のような、市民の権利を擁護すべき弁護士にあるまじき卑劣な犯行態様、顕著な常習性、結果の重大性に照らし、犯情は重大というほかなく、前科前歴がないこと、被告人が反省の弁を述べていること等の事情を考慮しても、主文の刑は免れない。 (求刑:懲役8年)令和7年9月17日福岡地方裁判所第2刑事部 裁判長裁判官井野憲司 裁判官武田夕子 裁判官荒木克仁
▼ クリックして全文を表示