主文 1 原告らの請求をいずれも棄却する。 2 訴訟費用は原告らの負担とする。 事実 及び理由第1 請求 1 被告は、原告aに対し、130万円及びこれに対する平成29年3月10日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 被告は、原告aに対し、25万5000円及びこれに対する平成29年3月10日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 3 被告は、原告bに対し、130万円及びこれに対する平成29年3月10日 から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 4 被告は、原告bに対し、25万5000円及びこれに対する平成29年3月10日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要本件は、原告らの子である亡cが、平成24年4月、被告甲区役所(以下「甲 区役所」という。)の嘱託職員として採用され、子ども・家庭相談コーナー相談員(以下、単に「相談員」ということがある。)となったが、平成25年1月頃、うつ病エピソード、適応障害又は双極性障害Ⅱ型を発症し(以下、亡cが発症した精神障害を「本件疾病」という。)、同年3月に甲区役所を退職し、平成27年5月21日、自殺したこと(以下「本件自殺」という。)について、 原告らが、被告に対し、亡cは、採用後間もなく複雑かつ深刻な相談案件の担当者とされ、直属の上司から激しい叱責などのひどい嫌がらせを受け、更に業務内容が量的かつ質的にも過重となり精神的な負担が増大したことで、本件疾病を発症し、本件自殺に至ったと主張して、それぞれ、北九州市議会の議員その他非常勤の職員の公務災害補償等に関する条例(以下「本件条例」という。) 14条に基づ 的な負担が増大したことで、本件疾病を発症し、本件自殺に至ったと主張して、それぞれ、北九州市議会の議員その他非常勤の職員の公務災害補償等に関する条例(以下「本件条例」という。) 14条に基づく遺族補償一時金130万円及び本件条例15条に基づく葬祭補 償25万5000円並びにこれらに対する請求日の翌日である平成29年3月10日から支払済みまで民法(平成29年法律第44号による改正前のもの。 以下同じ。)所定の年5分の割合による遅延損害金の各支払を求めた事案である。 1 前提事実(当事者間に争いがないか、後掲各証拠及び弁論の全趣旨により容 易に認定できる事実)⑴ 当事者等ア原告らは、亡cの両親であり、亡cは、昭和△年△月△日生の女性である。(甲1)イ被告の有する行政区は、門司区、小倉北区、小倉南区、戸畑区、八幡 東区、八幡西区、若松区の7つである。 。甲区役所は、甲区の市民サービスを担っている。(甲2)⑵ 事実経過等 ア亡cは、平成24年3月、大学院を卒業後、同年4月に被告区役所子ども・家庭相談コーナー相談員(嘱託員)として採用され、甲区役所に配属された。甲区役所の同部署は、亡cを含めて6名で構成されており、係長はd(以下「d係長」という。)が務め、亡cを含め4名が嘱託員であった。亡cは、児童主務として、主に児童相談を担当していた。 イ亡cは、平成24年4月2日から平成25年1月11日まで甲区役所において勤務したが、同月15日以降、休職し、原告らの住む大分県佐伯市にある実家に帰った。 ウ 童相談を担当していた。 イ亡cは、平成24年4月2日から平成25年1月11日まで甲区役所において勤務したが、同月15日以降、休職し、原告らの住む大分県佐伯市にある実家に帰った。 ウ亡cは、同月18日、大分県佐伯市所在のe病院において、うつ病との診断を受けた。(甲6) エ亡cは、同年3月31日、委嘱期間の満了により甲区役所を退職した。 オ亡cは、同年4月1日以降、被告教育委員会の特別支援教育相談センター(以下「特相センター」という。)において、教育相談員として勤務し、同月20日以降、北九州市所在の心療内科である、fクリニックに通院して、g医師により、うつ病の治療を受けた。(甲9)カ亡cは、平成26年3月、委嘱を1年間更新した上で、特相センターに おいて勤務したが、平成27年3月には、次年度の更新を辞退し、同月末日をもって委嘱期間満了により同センターを退職した。 キ亡cは、同年5月21日、北九州市内の自宅の寝室において、多量の抗うつ剤及び睡眠剤を服用して死亡した。(甲4)ク原告らは、同年12月18日、本件に関し、福岡地方裁判所小倉支部に おいて、被告を相手方として、甲区役所保管に係る亡cの健康診断書等の検証を求める証拠保全の申立てを行い(同支部平成27年(モ)第132号)、平成28年2月1日、検証が実施された。 ケ原告らは、平成29年3月7日付けで、被告に対し、地方公務員災害補償法(平成29年法律第45号による改正前のもの。以下同じ。)及び本 件条例に基づく遺族補償一時金及び葬祭補償の請求を行い、同請求にかかる通知書面(甲30の1)は、同月9日、被告に到達した。(甲30の1及び2)コ原告らは、同年8月29日、被告に対し、労働基準法79条に基づく遺族補償及び同法8 祭補償の請求を行い、同請求にかかる通知書面(甲30の1)は、同月9日、被告に到達した。(甲30の1及び2)コ原告らは、同年8月29日、被告に対し、労働基準法79条に基づく遺族補償及び同法80条に基づく葬祭料等の支払を求め、本件訴訟を提起 した。 原告らは、令和元年7月1日付け(同月2日受付)訴えの変更申立書において、本件条例14条に基づく遺族補償一時金及び本件条例15条に基づく葬祭補償等を請求する旨の訴えの交換的変更を行った。 サ被告は、令和元年10月1日に原告代理人に到達した同年9月30日 付け準備書面⑸において、葬祭補償につき、本件条例16条、地方公務員 災害補償法71条及び63条により、権利を行使することができる時から2年間で時効により消滅するところ、亡cの死亡した平成27年5月21日から既に2年間が経過しているとして、消滅時効を援用するとの意思表示をした。 ⑶ 関連法令 別紙関連法令記載のとおり 2 争点⑴ 公務起因性(甲区役所での公務と本件自殺との相当因果関係)⑵ 葬祭補償請求の時効中断の有無 3 争点に対する当事者の主張 ⑴ 争点⑴(公務起因性)について(原告らの主張)ア甲区役所での公務による心理的負荷について亡cは、新卒の新入職員であり、社会経験や実務経験がほとんどないという属性を持つ平均的な労働者として、心理的負荷の程度を判断すべきで ある。 d係長によるハラスメントについて亡cは直属の上司であるd係長から、以下のとおり、遅くとも平成24年11月頃から、①無視したり、明らかに冷淡な態度をとったりする、②嘲笑したり、「給料泥棒」などと侮辱したりする、③一人だけ別室に 呼び出し、長時間叱 係長から、以下のとおり、遅くとも平成24年11月頃から、①無視したり、明らかに冷淡な態度をとったりする、②嘲笑したり、「給料泥棒」などと侮辱したりする、③一人だけ別室に 呼び出し、長時間叱責する、④何度も一方的にミスを厳しく非難する、⑤業務を常に監視する、⑥業務を遂行する上で必要な情報や知識などのサポートを与えない、⑦時間外勤務等命令書への記載を許さず、残業しないとできないほどの業務を指示する、⑧休日や深夜に業務連絡する、⑨他の職員とともにいじめるなどのひどい嫌がらせやいじめを受けた。 d係長は、遅くとも同月頃から、亡cと目を合わせずに無視をし、業 務上の誤りがあっても指摘をせずに嫌味な態度をとり、明らかに冷淡な態度をとるようになったほか、亡cに対し、「給料分仕事をしていない」「自覚がない」「意欲がない」などと侮蔑し、同年代の相談者と結婚したらよいなどと述べて嘲笑したりした。(①、②)d係長は、同年12月18日、亡cを個室に呼び出し、2時間もの長 時間にわたって亡cを泣かせるほど問い詰め、長時間の叱責を行った。 また、d係長は、同月27日、相談者Aの引継ぎがうまくいかなかったことについて、亡cは職場の先輩にも相談し対応したにもかかわらず、亡cに対し、亡cのミスだと何度も一方的に厳しく非難した。(③、④)d係長は、同年11月頃から、亡cを常に監視し始め、平成25年1 月11日からは、亡cをd係長の隣の席にし、亡cが窓口や電話の対応を行っているときに、亡cをにらみつけ、さらに細かく厳しく監視するようになった。亡cは、d係長の前で窓口や電話での対応を行うこと全てに恐怖を感じるようになった。(⑤)d係長は、亡cに対し、亡cの考えや対応を非難し、否定はするが、 どうしたら するようになった。亡cは、d係長の前で窓口や電話での対応を行うこと全てに恐怖を感じるようになった。(⑤)d係長は、亡cに対し、亡cの考えや対応を非難し、否定はするが、 どうしたらいいのか、具体的な対応方法など必要な情報や知識などのサポートを与えなかった。また、d係長は、平成24年12月6日には、亡cが悩んでいることを知りながら、週末に「何に悩んでいるのか」をレポートにまとめてくるように指示するなど、仕事の悩み事に対し、必要なアドバイスなどのサポートを与えず、むしろ逆に亡cをより苦しめ るような対応をしていた。(⑥)亡cは、同日以降、相談者Aの引継対応や統計業務など、仕事量が増加したため、午後10時ないし11時頃まで時間外労働を行っていたが、d係長は、同月11日から、亡cに対し、時間外勤務等命令書への記載をほとんど付けさせないまま、時間外労働を強いた。(⑦) d係長は、同月9日、亡cに対し、午前0時過ぎにメールで業務連絡 を行っており、休日や深夜にもかかわらず、緊急性もないのにメールなどで業務連絡を行っていた。(⑧)d係長は、同年11月頃から、他の職員とともに、亡cの業務を監視し、相談員の募集要項を見て笑う、亡cの話と思われる話を笑いながらする、亡cに聞かせられない話を目の前で筆談するなど、陰湿ないじめ を行っていた。(⑨)以上のとおり、d係長の行為は、継続的で、極めて陰湿かつ悪質なものであったといえ、d係長は亡cの直属の上司であったことから、亡cは、業務の遂行などにおいて、常にd係長の監督や指示を受ける立場であったことも考慮すると、d係長によるハラスメントは、日々の業務の 中で亡cに逃れようのできない多大な精神的な負担を負わせていたと考えられる。ま において、常にd係長の監督や指示を受ける立場であったことも考慮すると、d係長によるハラスメントは、日々の業務の 中で亡cに逃れようのできない多大な精神的な負担を負わせていたと考えられる。また、社会経験や実務経験がほとんどない女性の新入職員が、男性の上司からハラスメントを受けた場合、受け流したりすることができず、深刻に受け止める傾向が強くなることは社会通念に照らしても明らかであるといる。したがって、d係長のハラスメントは、部下に対す る上司の言動が、業務指導の範囲を逸脱しており、その中に人格や人間性を否定するような言動が含まれ、かつ、これが執拗に行われた場合に該当することから、その心理的負荷の程度は強かったものといえる。 相談者Aの担当となったこと等による心理的負荷について亡cは、平成24年6月頃から、次第に深刻な相談を受けるようにな ったところ、亡cは、虚言癖や希死念慮もある相談者Aの担当になった。 相談者Aは知的障害者であり、幼少時に虐待を受けた経験を持ち、問題行動(性非行、窃盗、横領、放火)も改善されず、父親不明の自らの子を虐待するおそれもあるなど、問題の多い相談者であり、保護観察中であった。また、相談者Aは、虚言癖もあり、気分のムラも多く、リス トカットを行うなど、対応によっては自殺の危険もあるため、慎重な対 応が必須である相談者であった。 亡cが新卒の社会経験や実務経験のほとんどない新入職員であることを考えれば、このような対応の困難な相談者Aの担当を亡cに任せることはそもそも不適切であり、亡cにおいても精神的な負担の大きい業務であったと考えられる。 相談者Aは、同年12月頃から、他の行政管区に転居することになったことで、亡cにおいて、その行政管区への引継ぎやその資料の あり、亡cにおいても精神的な負担の大きい業務であったと考えられる。 相談者Aは、同年12月頃から、他の行政管区に転居することになったことで、亡cにおいて、その行政管区への引継ぎやその資料の作成など、業務量が大幅に増加し、時間外労働が増加した。 相談者Aは、転居先の区役所に行くと言いながらも行かないことが続き、同月20日にリストカットをし、同月27日、亡cが電話をしても、 「電話には出たくない。」などと言われ、相談者Aと連絡が取りにくい状況となった。亡cは、d係長から、相談者Aと連絡が取りにくい状況になり、転居先の行政管区の担当者に引継ぎができていないことについて、亡cのミスだと叱責された上、「このままやっていたら死にますよ。」と言われたことで、不安と緊張は限界に達した。相談者Aは、平成25 年1月になっても問題行動を継続して起こしていた。 このように、平成24年12月頃から、亡cが担当する相談者Aの状況が生死の危険を伴うほどまでに変化したことに伴い、その対応がより一層複雑かつ困難なものになり、亡cの業務量も大きく増加し、上司であるd係長からも亡cの判断ミスだと叱責され、亡cの対応で相談者A が死ぬことまでほのめかされたことにより、亡cは、相当強いストレスを受けていた。 したがって、亡cが相談者Aの担当になったことは、社会人経験や実務経験のほとんどない女性の新入職員を基準として判断すると、過去に経験したことがない仕事内容に変更となり、常時緊張を強いられる状態 となった場合に該当するというべきであるから、その心理的負荷の程度 は強かったものといえる。 退職の強要について亡cは、雇用期間1年の嘱託職員であるため、契約が更新されなければ、仕事を続けることはできない立場であった。 の心理的負荷の程度 は強かったものといえる。 退職の強要について亡cは、雇用期間1年の嘱託職員であるため、契約が更新されなければ、仕事を続けることはできない立場であった。亡cの契約更新の有無については、直属の上司であるd係長の評価や意見が最も重要視されて いたと思われ、亡cもそう思っていたところ、d係長は、平成24年12月頃、亡cに対し、前任者がこの仕事に向いていないことから辞めさせたと述べ、亡cも同様に辞めさせることをほのめかした。d係長は亡cに対し、直接退職するようには言わなかったものの、亡cを執拗に責め、「このまま仕事を続けたら、相談者を殺すことになる」などと思い 込ませ、亡cが自主的に退職するよう仕向けた。 かかる事実は、退職を強要されたものと評価でき、その心理的負荷は、社会経験や実務経験がほとんどない女性の新卒の新入職員を基準として判断すると、恐怖感を抱かせる方法を用いて退職勧奨された場合に該当することから、心理的負荷の程度は強かったものといえる。 小括以上により、亡cは、平成24年6月頃から、困難な対応を強いられる相談者Aの担当をさせられていたところ、d係長は、亡cに十分な支援を与えないばかりか、同年11月以降は、継続して悪質なハラスメントを行ったほか、恐怖心を抱かせる方法によって退職に追い込んだもの であって、上記事情を総合的に評価すると、その心理的負荷の程度は極めて強かったものといえる。 イ公務と本件自殺との因果関係について 亡cは、平成25年1月18日頃に、うつ病エピソードを発症し、その前後の症状が適応障害ないしは双極性障害Ⅱ型(長いうつの症状が続 いている間にごく短い期間〈数日間の〉軽い躁状態があり、その後は再 は、平成25年1月18日頃に、うつ病エピソードを発症し、その前後の症状が適応障害ないしは双極性障害Ⅱ型(長いうつの症状が続 いている間にごく短い期間〈数日間の〉軽い躁状態があり、その後は再 びうつの症状が続く病態。)であったと思われることから、少なくとも、公務災害認定上の対象疾病であるICD-10のF0からF4に分類される精神障害を発症していたものといえる。 そして、精神科の診断は症状と経過によって行われるため、治療経過中に症状が変われば診断も変わり得るところであって、亡cにおいても、 2年以上にわたる療養中にうつ病エピソード、双極性障害Ⅱ型又は適応障害の診断名がつくことは十分あり得る。 うつ病エピソード等の精神疾患(ICD-10のF0からF4に分類されるもの)は、精神障害の病態としての自殺念慮が出現する蓋然性が高いと医学的に認められることから、業務による心理的負荷によって、 うつ病エピソードを発症したと認められる者が自殺を図った場合には、精神障害によって正常の認識、行為選択能力が著しく阻害され、又は自殺行為を思いとどまる精神的な抑制力が著しく阻害されている状態で自殺が行われたものと推定し、原則として公務起因性が認められる。 そして、本件においては、亡cが、本件自殺時点において、正常な認 識、行為選択能力及び抑制力が著しく阻害されてはいなかったという事情や、業務以外の心理的負荷や亡c個人の脆弱性などから、本件自殺が業務に起因するうつ病エピソードの症状の蓋然的な結果とは認め難いなどの特段の事情も認められない。 したがって、本件自殺は、甲区役所での公務によって発症した本件疾 病によって引き起こされたというべきである。 被告は、本件疾病の発症から本件自殺まで2年以上の期間が経過している れない。 したがって、本件自殺は、甲区役所での公務によって発症した本件疾 病によって引き起こされたというべきである。 被告は、本件疾病の発症から本件自殺まで2年以上の期間が経過していることを指摘する。 しかしながら、本件疾病が双極性障害Ⅱ型であれば、同疾病は長期にわたり寛解しないことが多い病気であるところ、亡cは、甲区役所を退 職して以降も、fクリニックへの通院を継続しており、再就職ができた としても寛解したとはいえず、また、その状態や治療経過から見ても寛解状態に入ったとは評価できない。 さらに、本件疾病が適応障害であっても、平成24年11月下旬から12月上旬頃の時期に最初の適応障害を発症した後、うつ病エピソードの状態に移行し、その後しばらくして事後の適応障害に移行したものと いえ、このような場合にストレス因から離れた後2年を経過しても症状が遷延し、本件自殺に至ることは十分に考えられる。 また、被告は、亡cの脆弱性や、本件自殺直前の失恋の事実を指摘するが、亡cが平成21年頃にうつ病で通院した事実はなく(g医師は原告ら代理人の聴取に対し、睡眠障害の誤りであったと述べている。)、 亡cの脆弱性は存在しないし、失恋の事実も存在しない。 (被告の主張)ア甲区役所での公務による心理的負荷について d係長によるハラスメントについてd係長は、亡cに対し、適切な指導を行っており、無視をする、嘲笑 する、侮蔑するなどの行動をとったことはない。 原告らが指摘するd係長の態度は、いずれも亡cが業務上のミスをしたり、突然休んだり、遅刻したりした場合であって、亡cがd係長の指導を素直に受け入れることができず、d係長の発言を曲解した可 原告らが指摘するd係長の態度は、いずれも亡cが業務上のミスをしたり、突然休んだり、遅刻したりした場合であって、亡cがd係長の指導を素直に受け入れることができず、d係長の発言を曲解した可能性が高い。 亡cを別室で指導したとの点も、亡cにおいて、委嘱後半年経っても単独で窓口対応ができず、指示されないと電話にも出ないという状況であり、市職員としての責任感に欠ける面が見受けられたこと、d係長は、自身の異動が平成25年3月に予想され、それまでに亡cを独り立ちさせたいという思いを有していたことから、他の職員の目につかないとこ ろで丁寧に話を聞いて指導したものであって、正当な業務指導の範囲内 である。また、相談者Aに関する指導も、亡cが複数回にわたって必要な指示を仰がずに対応し、その後の対応に支障が生じたため、正規職員の指示を仰ぐように指導したものであって、正当な業務指導の範囲内であった。 d係長は、亡cに対して、必要な研修を受講させ、先輩職員に付き添 わせて相談技法を習得させたほか、業務にも目配りして必要な指導、助言、業務上のフォロー等を行っており、平成25年1月11日の配席変更も直接の指導をしやすくするものであった。他方で、時間外勤務等命令書への記載を許さずに時間外勤務を強いたことはない。 なお、原告らは、d係長が、亡cに対して深夜にメールを送信したこ とを指摘するが、かかるメールは亡cから届いたお礼のメールに対する返信であって、緊急性もないのに夜間や休日に業務連絡を行っていた事実はない。 以上によれば、原告らの主張は、d係長による嫌がらせやいじめ等の具体的事実が認められないか、仮に指導の範囲を多少超える可能性のあ る事実が認められたと を行っていた事実はない。 以上によれば、原告らの主張は、d係長による嫌がらせやいじめ等の具体的事実が認められないか、仮に指導の範囲を多少超える可能性のあ る事実が認められたとしても、ひどい嫌がらせ、いじめと評価されるようなものではなく、心理的負荷の程度が強いものとはいえない。 相談者Aの担当となったこと等による心理的負荷について被告は、亡cの社会経験、大学院での専攻等を考慮して、母子相談・婦人相談に比べて負担の少ない児童相談を担当させていた。相談者Aの 件についても、甲区役所においては、従前から相談者Aを複数の機関で連携して支援をしており、亡cは、他の相談員や関係機関の手厚いフォローがある中でそのケース対応に加わったに過ぎない。 また、相談者Aは、希死念慮を有していない上、平成24年12月頃の転居によって、亡cの業務量が大幅に増加する理由になるとは考えら れない。 したがって、相談者Aへの対応についても、心理的負荷の程度が強いものとはいえない。 退職の強要についてd係長が、亡cに対して、退職を強要していると取られるような発言をした事実はない。 イ公務と本件自殺との因果関係について 亡cの事故死の可能性原告らは、亡cが自殺したことを前提に公務との因果関係を主張するが、亡cは、遺書を残しておらず、死因を特定する解剖も行われていないことから、抗うつ剤及び睡眠薬を誤って多量摂取したことによる事故 死の可能性は否定できない。 公務と本件疾病との因果関係が認められないこと上記アのとおり、本件では公務による強い心理的負荷は認められない。 そして、亡cが発症した本件疾病は双極性 性は否定できない。 公務と本件疾病との因果関係が認められないこと上記アのとおり、本件では公務による強い心理的負荷は認められない。 そして、亡cが発症した本件疾病は双極性障害Ⅱ型である。原告らは、本件疾病をうつ病又は双極性障害Ⅱ型と主張していたが、争点整理の終 盤になって本件疾病がうつ病、双極性障害Ⅱ型又は適応障害のいずれかであり、公務起因性の判断に当たっては、本件疾病の病名がいずれであっても構わないと主張するに至った。 しかしながら、本件疾病の内容を特定することは、公務と本件疾病及び本件自殺との因果関係を判断するに当たって重要な意味があり、考慮 すべき事実関係に違いが生じるといえる。 そして、亡cは、平成21年頃、亡cが大学3年生でひとり暮らしをしていた頃に、双極性障害のうつ病エピソードの既往歴があることから、平成25年1月にe病院で診断された「うつ病」は、それ以前から亡cが罹患していた双極性障害の一症状だったのであり、繰り返し発症する 双極性障害の症状がこのときの亡cに顕れたものであって、本件疾病の 発症は精神疾患になり易いという亡cの個体側の要因によるものというべきである。 公務と本件自殺との因果関係について本件は、精神疾患を発症した者が後に自殺した事案であるが、これまでの裁判例で、自殺との間に公務起因性が認められた事案のほとんどは 精神疾患の発症後短期間で自殺するに至っており、精神疾患発症後若しくは公務から解放後2年以上経過してから自死に至った事案で公務起因性が認められた事案は見当たらない。 この点、人事院事務総局職員福祉局長発「精神疾患等の公務上災害の認定について」(平成20年4月1日職補-114)5頁には、「なお、 上記 公務起因性が認められた事案は見当たらない。 この点、人事院事務総局職員福祉局長発「精神疾患等の公務上災害の認定について」(平成20年4月1日職補-114)5頁には、「なお、 上記精神疾患の発症後の自殺等であっても発症後相当期間経過した後の自殺等については、業務以外の要因が影響している可能性があるため、療養の経過(通院、服薬等が十分であったか否か等)、私的な問題等で大きく影響したような事情がなかったか否か等を慎重に検討する必要がある。」と記載されており、精神疾患発症後長期間経過した事案におけ る公務起因性の認定については、真実、公務の影響による自殺なのか、慎重に判断するよう求められている。 殊に、本件は甲区役所で公務上発症したとする精神疾患の発症から2年4か月、亡cが甲区役所を退職し、原告らが主張する心理的負荷が取り除かれてから2年以上という相当期間が経過した後の自殺事案である。 亡cは、平成25年4月以降、特相センターに就職し、良好な職場環境で順調に業務をこなしていた。すなわち、当時の上司や同僚は、亡cが採用前に精神疾患で療養していたことを把握しており、採用当初から亡cは周囲の理解のもと、相応の配慮を受けながら業務を行うことができていた。また、特別支援教育に携わっていた専門家である教員らが同 僚であることもあり、亡cは意欲をもって仕事に取り組んでおり、出勤 状況、人間関係ともに良好であった。 また、亡cは、平成25年9月以降、フェイスブックに買い物や旅行、コンサート等の充実した私生活の状況や、交際相手との交際状況等を投稿していた。 このように、亡cは、平成25年3月に甲区役所を退職して以降約2 年間、甲区役所の業務や甲区役所の職員からの精神的負荷 の充実した私生活の状況や、交際相手との交際状況等を投稿していた。 このように、亡cは、平成25年3月に甲区役所を退職して以降約2 年間、甲区役所の業務や甲区役所の職員からの精神的負荷は一切受けておらず、その間、新たな職場に就職し、旅行や買い物、恋愛など、cの病状は軽快していたとうかがえることから、もはや甲区役所での出来事は過去のものとなっていたといえる。 他方、亡cは、平成26年11月から平成27年の年末年始、同年3 月頃までにかけて、亡cと両親である原告らとの間で強い衝突があったことがうかがわれるほか、同月上旬頃、職場の同僚の嘱託相談員とトラブルが発生し、その直後の同月10日以降、うつ状態の悪化による体調不良のため、同月末まで欠勤し、同月末頃、医師から就業は厳しいとの診断を受けたとして、翌年度以降の委嘱を辞退した。また、亡cは、結 婚を見据えて交際していた交際相手とも同年5月に破局している。 亡cは、死亡する直前に両親と衝突し、馴染んでいた職場を退職しなければならず、更には結婚を考えていた交際相手と破局するなど人生における極めて大きな精神的負荷を受ける出来事を立て続けに経験していた。 このような状況からすれば、本件自殺は、もともと精神的負荷に対する耐性が弱い亡cの特性に、家族との衝突、意に沿わない退職、結婚を考えていた交際相手との別れといった極めて大きな精神的負荷を伴う出来事が立て続けに生じたことにより惹起されたと考えるのが自然であって、本件自殺と公務との間に相当因果関係は存在しない。 ⑵ 争点⑵(葬祭補償請求の時効中断の有無)について (原告らの主張)原告らは、平成29年3月7日、被告に対して、地方公務員災害補償法及び本件条例に基づく遺族補償一時金及び葬祭補償の ⑵ 争点⑵(葬祭補償請求の時効中断の有無)について (原告らの主張)原告らは、平成29年3月7日、被告に対して、地方公務員災害補償法及び本件条例に基づく遺族補償一時金及び葬祭補償の請求を行い、同請求にかかる通知書面は同月9日に被告に到着した。したがって、原告らの葬祭補償の請求は、同日に行われているから、消滅時効は完成していない。 仮に、上記請求が本件条例に基づく請求に該当しないとしても、その請求をした日から6か月以内の同年8月29日に本件訴訟を提起しているのであるから、民法153条により消滅時効は成立しない。 原告らは、令和元年7月1日付けで訴え変更申立書により、訴えを交換的に変更しているが、訴え提起によって時効中断が認められるのは、訴訟物に 限られるものではなく、原告らの訴えの交換的変更前の請求の事実関係は同一であって、災害補償を請求するという給付を求める目的も同一であることから、消滅時効の時効中断効は訴え変更後の請求にも及ぶというべきである。 (被告の主張)原告らは、平成29年3月9日に被告に到着した「ご通知」と題する書面 (甲30の1)において、地方公務員災害補償法及び本件条例に基づく遺族補償一時金及び葬祭補償を請求したが、本件訴訟提起時の訴訟物は、労働基準法に基づく遺族補償及び葬祭料の請求権であって、本件条例に基づく葬祭補償請求権は含まれていないから、本件訴訟の提起によって時効中断の効力は生じていない。そして、原告らが、本件条例に基づく葬祭補償請求権に訴 えを交換的に変更したとしても、本件訴訟提起時の訴訟物である労働基準法に基づく葬祭料請求権とは基本的な請求原因事実が同一とはいえず、かつ同一の給付を目的としているわけではないから、労働基準法に基づく葬祭料を請求したことにより、本 件訴訟提起時の訴訟物である労働基準法に基づく葬祭料請求権とは基本的な請求原因事実が同一とはいえず、かつ同一の給付を目的としているわけではないから、労働基準法に基づく葬祭料を請求したことにより、本件条例に基づく葬祭補償の請求ないし催告をしたことにはならない。したがって、時効中断の効力が及ぶものではない。 第3 当裁判所の判断 1 認定事実後掲各証拠及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。 ⑴ 亡cの勤務内容等ア亡cは、平成22年3月、h大学を卒業し、同年4月、i大学大学院人文科学研究科に入学し、臨床心理学を専攻した。(甲12、乙2) イ亡cは、平成24年2月、被告区役所子ども・家庭相談コーナー相談員(嘱託員)採用試験を受験した。亡cは、同年3月、大学院を卒業し、同年4月、任期を平成25年3月末までとして、被告区役所子ども・家庭相談コーナー相談員(嘱託員)として採用され、甲区役所に配属された。(甲3、乙1、2) ウ相談員は、北九州市内の各区役所保健福祉課の子ども・家庭相談コーナーに配属され、子どもと家庭に関するあらゆる相談を担当するものとされ、DVや児童虐待に関する相談、母子家庭の母に対する福祉資金の貸付や自立支援給付金などの受付、相談に伴う家庭訪問等の業務も行っていた。 相談員は、非常勤嘱託員として、毎年4月1日から翌年3月31日まで の期間、年度ごとに委嘱されており、特に勤務状況が良い場合は、次年度も委嘱されるが、委嘱年数は最大5年度までとされていた。また、勤務日は、月曜日から金曜日のうち4日間であり、出勤しない日は週休日とされていた。 (以上につき、乙3) エ亡cは、平成24年4月から、北九州市内の中学校のスクールカウンセラーの委嘱を受けており 月曜日から金曜日のうち4日間であり、出勤しない日は週休日とされていた。 (以上につき、乙3) エ亡cは、平成24年4月から、北九州市内の中学校のスクールカウンセラーの委嘱を受けており、同年12月まで、主として週休日に、毎月合計10時間程度、学校に在席して相談業務等を行っていた。(乙13)オ甲区役所子ども・家庭相談センターにおける平成24年度の人員体制は、正規職員が、d係長及び保育士であるj職員の2名、嘱託職員がk職員、 元養護教諭であるl職員、元保育士であるm職員及び亡cの4名であった。 j職員、l職員、m職員及び亡cは、児童・婦人・母子相談に関する業務等を主に担当しており、亡cが、児童主務、j職員が児童副務を担当していた。また、亡cは、その他の業務として、保育所定例会議に関する業務、子育て支援ネットワーク連絡会に関する業務、母子寡婦福祉資金の滞納整理に関する業務、児童相談月報の作成、コーナー月報の作成を担当してい た。(甲24、乙5)⑵ 亡cの甲区役所子ども・家庭相談コーナーの勤務状況等 ア亡cは、平成24年4月の配属以降、児童、母子、婦人の分野ごとの若干の研修を受ける機会はあったものの、主としてОJTの形で、先輩相談員の相談に同席したり、自身の相談内容について先輩相談員からアドバイ スを受けたりするなどして、児童・婦人・母子相談に関する業務等を行っていた。(甲14、16、甲31)イ子ども・家庭相談コーナーは、子どもや家庭に関するあらゆる相談をひとつの窓口で受け、必要なサービス・支援へと繋ぐ総合的な相談窓口とされており、同コーナーにおける業務は、子どもや家庭について、困難な問 題を抱えた人の相談を受け、問題を整理して関係機関(子ども総合センター〔児童 要なサービス・支援へと繋ぐ総合的な相談窓口とされており、同コーナーにおける業務は、子どもや家庭について、困難な問 題を抱えた人の相談を受け、問題を整理して関係機関(子ども総合センター〔児童相談所〕、地域保健係、保護観察所、児童委員等)に繋ぐことが要求されていた。(甲2、19、24、弁論の全趣旨)ウ亡cは、平成24年10月頃以降、非行歴が多数あり、未成年のうちに子を出産した相談者Aの担当となった。相談者Aは、乳児である子の養育 をせずに友人宅を転々としており、相談者Aと同居している同人の父親及び兄が子の養育を担っていた。(甲17ないし19)エ d係長は、同年10月16日、上半期の総括と下半期に向けて、亡cを含む部下との面談を行ったところ、亡cに対し、仕事や人間関係等の悩みがないか尋ねるとともに、仕事の進め方について話をした。その際、亡c が、同年8月頃に担当した案件で、相談者との距離の取り方を誤り、生活 保護関連業務を行う保護課に迷惑をかけたことがあったため、d係長は、関わり方や仕事のやり方について指導を行ったほか、同年11月中旬及び同年12月6日にも、仕事の仕方について指導を行った。また、d係長は、同年11月2日及び同年12月11日、n保健福祉課長(以下「n課長」という。)に対し、亡cの業務の伸びが悪いことを伝えた。(甲32、乙 6)オ亡cは、同年11月頃から、原告bや大学時代の恩師に対し、d係長が電話や窓口での言動を監視しており、間違った対応を取ったときににらみつけて指摘する、無視をする、これまで学んできたことは何の役にも立たないと否定するなどのパワーハラスメントを受けており、ストレスを感じ て、朝が起きられなくなっていること、仕事に行きたくないことなどを内容 、無視をする、これまで学んできたことは何の役にも立たないと否定するなどのパワーハラスメントを受けており、ストレスを感じ て、朝が起きられなくなっていること、仕事に行きたくないことなどを内容とするメールを週に数回送信するようになった。(甲11)また、亡cは、同年12月以降、m職員に対しても、LINEメッセージのやり取りの中で、d係長のパワーハラスメントによってストレスを感じていることを記載していた。(甲10) カ d係長は、同月18日、亡cが、前日の業務で先輩相談員による離婚相談に同席した際に、相談者の子どもの相手しかしていなかったとの報告を受けたことから、亡cに対し、上記の件については、面接に留意して先輩相談員のノウハウを吸収しようとしなかったことを注意したほか、仕事の進め方、考え方について、2時間程度、相談室において指導を行った。(乙 6)同指導においては、亡cに対し、ケース対応が予想されたにもかかわらず、スクールカウンセラー業務を優先して年休を取得したこと、担当ケースに対する関わりが熱意に欠け不十分であること、周囲からのノウハウの吸収が足りないこと、j職員の指導に従っていないこと、先輩職員から指 導を受ける際にメモを取らないこと等についての注意指導が行われたが、 この指導の間、亡cが落涙することがあった。(甲10・36頁、乙6)亡cは、同月19日、原告bに対し、d係長から、面談室に呼び出されて2時間問い詰められ、泣かされた旨、仕事を辞めたい旨のメールを送信した。(甲11・38番のメール)キ d係長は、同月27日、同月26日に亡cによる相談者Aへの対応につ いて、係長ないしj職員に指示を仰ぐべき内容の報告を怠り、記録を残していなかったと した。(甲11・38番のメール)キ d係長は、同月27日、同月26日に亡cによる相談者Aへの対応につ いて、係長ないしj職員に指示を仰ぐべき内容の報告を怠り、記録を残していなかったとして、亡cに指導を行った。(乙6)ク亡cは、同月28日、週休日であったが、相談者方への訪問のため時間外対応として出勤をした。亡cは、同日、m職員に対し、仕事を辞めるつもりである旨、自分にはできない仕事である旨、次の仕事の見通しが立た ないと辞められないので、伏せておいてほしい旨のLINEメッセージを送信した。(甲10・50頁、乙6)。 ケ亡cは、同月30日、実家である原告ら宅に帰省したが、同月31日の夜中に、激しい胃痛と吐き気を生じ、e病院の救急外来を受診したところ、ウイルス性の胃腸炎と診断され、点滴治療を受けた。(甲7、8、12、 原告b)コ亡cは、平成25年1月3日、e病院において、再度、点滴治療を受けた後、原告aの自動車で北九州市の自宅に戻り、同月4日以降、甲区役所に出勤した。(甲8、10・56頁、甲12、乙6)サ亡cは、同月8日、胃痛で年休を取得した。(乙6) 亡cは、同日、m職員に対し、d係長とj職員とのやり取りが怖い旨、週末には月曜日に出勤するのが苦痛である旨、目が覚めたらまず涙が出る旨、同日朝も胃痛があり、体が動かなかった旨のLINEメッセージを送信した。(甲10・62頁)シ亡cは、j職員の異動が決まったことから、同月9日以降、その担当業 務の引継作業を行った。また、d係長は、同日、亡cに対し、上記引継業 務や、亡cに直接指導を行いやすくするため、同月11日以降、部署内の配席替えを行うことを伝えた。亡cは、同配席替えにより、d係長 作業を行った。また、d係長は、同日、亡cに対し、上記引継業 務や、亡cに直接指導を行いやすくするため、同月11日以降、部署内の配席替えを行うことを伝えた。亡cは、同配席替えにより、d係長の隣の席となった。(甲11・62番のメール、乙6)ス亡cは、同月11日、甲区役所に出勤したが、帰宅後、原告bに対し、j職員の異動に伴う引継ぎのため、業務量が増加している旨のメールを送 信した。(甲11・64番ないし67番のメール)セ亡cは、同月12日(土曜日)、原告bに対し、仕事を辞めたい旨のメールを送信した。(甲11・70番のメール)ソ亡cは、同月13日、原告らの送迎により、実家である原告ら宅に帰った。亡cは、同日、m職員に対し、仕事を辞める旨、実家に帰ってきた旨 のLINEメッセージを送信した。(甲10・69頁、甲12、13、原告b)タ亡cは、同月15日以降、甲区役所に出勤せず、実家において療養し、スクールカウンセラーの業務も行っていない。(甲11・74番ないし85番のメール、甲23・12頁、乙13) ⑶ 亡cが甲区役所を退職するに至る経緯等ア原告aは、同月14日、d係長に架電し、亡cが、胃痛と精神的な不調により、出勤ができない旨、入院することになるかもしれない旨を伝えた。 これを受けて、d係長は、n課長に上記内容を報告した。(乙6)イ亡cは、同月18日、e病院を受診し、うつ病との診断を受けた。同日、 e病院の医師が作成した診断書には、病名として「うつ病(重度であり、スコア20/24)であり、当分の間、休職の必要があると判断します。」との記載があった。同病院の医師は、亡cに対し、精神科専門医であるo病院の受診を勧めた。(甲6、7)原告aは、同日、d係 ア20/24)であり、当分の間、休職の必要があると判断します。」との記載があった。同病院の医師は、亡cに対し、精神科専門医であるo病院の受診を勧めた。(甲6、7)原告aは、同日、d係長に架電し、亡cは衰弱して話せる状態ではない 旨、病院で診断書を受領したが、封緘されており見ていない旨を伝えた。 d係長は、n課長に報告を行い、原告aに対し、甲区役所に来所してもらい、課長を交えて同月23日に話をしたい旨伝えた。(乙6)ウ原告aは、同月23日、甲区役所を訪れ、n課長及びd係長と面談し、上記イの診断書を開封して、内容を確認した。原告aは、亡cの症状については、d係長のパワーハラスメントが原因であると主張した。n課長は、 原告aに対し、事実を確認して結果を文書で回答する旨伝えた。(乙6)エ原告aは、同月28日、佐伯市役所において、p総務企画課長(以下「p課長」という。)及びq庶務係長と面談した。(甲24)p課長は、上記ウの来所時に原告aが指摘した事項について、d係長、j職員及びl職員に個別に聴取りを行った結果、d係長による指導は、通 常の指導の範囲内のもので、パワーハラスメントというような行き過ぎたものはなかったと考えている旨を伝えた。また、p課長は、原告aに対し、亡cはd係長の指導を重く感じたと思われる旨、同係長の指導についてはどういうやり方があったのか内部で協議したい旨、亡cが今の状態のままであれば同年3月末以降嘱託員の更新はない旨、原告aが、補償に言及し たのに対し、今回のようなケースで市の制度として補償がされるというものではなく、損害賠償請求を行うのであれば裁判となる旨、今回のケースは傷病手当の支給対象となると考えられる旨、今後のことについて、亡cには適切 今回のようなケースで市の制度として補償がされるというものではなく、損害賠償請求を行うのであれば裁判となる旨、今回のケースは傷病手当の支給対象となると考えられる旨、今後のことについて、亡cには適切な治療を行ってもらいたいと考えており、傷病手当等の必要な手続は、区役所においてフォローを行う旨、原告aの指摘事項については、 再度内部調査を行って後日回答する旨を伝えた。(甲24、31、乙18、19)オ p課長は、同月31日、再度、職員から聴取り調査を行った上、同年2月5日、原告aに架電して、亡cにも面談して事情を聞き、行き過ぎの言動があったのであれば、お詫びしたい旨伝えたが、同月6日、原告aは、 電話で、亡cは話せる状況ではない旨伝えた。(甲32、乙20、25の 1)カ p課長は、同月8日、原告aに架電し、事情聴取の結果、全体的にはパワーハラスメントとはいえないと考えているが、結果的に亡cがうつ病の診断を受けて出勤できなくなった点は謝らなければならないと思っている旨、最終的には、亡cに会って話を聞く必要がある旨を伝えた。(乙2 5の1)キ亡cは、同年3月15日、e病院を受診した。同病院の医師は、改めて精神科専門医であるo病院への受診を勧め、同病院宛ての診療情報提供書を作成し、以前の受診時より表情が明るくなっていたが、まだ目が離せる状況ではなく診療が必要であること等を記載した。(甲7・6頁、11頁、 甲49)ク亡cは、同年3月頃、大学時代の恩師から、社会復帰のきっかけになるようにとのことで、北九州市の特相センターでの勤務を勧められ、同月26日、採用面接を受けた。(乙25の1、弁論の全趣旨)p課長は、同日、d係長から、教育委員会から亡cが特相センターの嘱 のことで、北九州市の特相センターでの勤務を勧められ、同月26日、採用面接を受けた。(乙25の1、弁論の全趣旨)p課長は、同日、d係長から、教育委員会から亡cが特相センターの嘱 託の面接を受けた旨及び亡cの相談員としての在籍状況について問合せを受けた旨の報告を受けた。p課長は、教育委員会に確認した上で、原告aに架電し、亡cの体調について確認した。(乙25の1)ケ p課長は、同月28日、教育委員会から、亡cが、同年4月1日付けで特相センターの嘱託職員として任用されることを確認したため、原告aに 架電したところ、原告aは、亡cに負担を掛けないようこれ以上連絡はしないでよい旨回答した。(乙25の2、弁論の全趣旨)コ亡cは、同月31日、相談員としての嘱託期間満了により、甲区役所を退職した。 ⑷ 甲区役所退職以降の経過 ア亡cは、同年4月1日、特相センターの「特別支援教育相談員」として、 委嘱を受けた。亡cは、北九州市内で一人暮らしを再開して、特相センターでの勤務を行った。亡cは、就学相談の際に「保護者の心に入り込んで話す」ことが見受けられたことから、相談には不向きと判断され、淡々と業務を進められる検査者(テスター)として配置された。 亡cは、採用前に北九州市教育委員会特別支援教育課の指導主事に対し、 心身の状況を申告していたことから、特別支援教育課は、特相センター長に対し、亡cへの配慮を行うことを依頼していた。これを受けて、特相センター長は、亡cに対し、担当案件が溜まることがないよう分担内容や分担量を調節する配慮を行い、亡cは、概ね問題なく業務を行っていた。 亡cについては、大学院まで進学したことによる奨学金の返済のため経 済的に困窮している様子が見られた とがないよう分担内容や分担量を調節する配慮を行い、亡cは、概ね問題なく業務を行っていた。 亡cについては、大学院まで進学したことによる奨学金の返済のため経 済的に困窮している様子が見られたため、特相センターの職員が差し入れをするなどの支援を行っていたが、その一方で、高額なバッグやアイドルグッズを大量に購入したり、自宅から職場まで徒歩10分程度の距離であったにもかかわらず、朝起きられないとタクシーで出勤したりするなどの行動も見られた。 亡cは、平成26年4月には、特相センターの「特別支援教育相談員」としての委嘱を更新した。その際、自身が躁うつ病である旨申告した。 (以上につき、乙13)イ亡cは、平成25年4月20日、北九州市所在の心療内科であるfクリニックを受診した。亡cは、g医師に対し、平成24年秋頃から体のだる さ、起きられない、頭痛、めまい、肩こりといった症状を感じ、平成25年1月から3月に休職して大分でうつ病の診断を受けたこと、転居したので北九州市内で病院を探していること、現在は、めまい、頭痛、疲れやすさ、朝のきつさに困っていることを伝えた。g医師は、亡cをうつ病と診断し、現状は症状が落ち着いているものと考え、投薬治療を開始した。(甲 9・3頁) g医師は、同年4月20日、e病院の医師宛ての紹介患者経過報告書を作成したが、既往歴及び家族歴の欄に4年前にうつ病の既往ありとの記載をした。(甲22)ウ亡cは、同日から平成27年5月18日まで、主としてうつ病の傷病名で、概ね月2回程度、fクリニックに通院していた。(甲9) 亡cのうつ症状は、投薬内容を変更するなどして軽快することもあれば、うつ状態が遷延していると判断されることもあり、うつ状態が遷 、概ね月2回程度、fクリニックに通院していた。(甲9) 亡cのうつ症状は、投薬内容を変更するなどして軽快することもあれば、うつ状態が遷延していると判断されることもあり、うつ状態が遷延しているとの判断がされる際には、亡cは特相センターにおける仕事の忙しさを訴えていることが多かった。(甲9)fクリニックの診療録には、亡cの主訴として、平成25年7月6日か ら同年8月3日にかけて、仕事がきつく、連日残業を行い、午後10時頃に帰宅する旨が、同年9月28日には、仕事が忙しくなっている旨、今年度は特に忙しい旨が、平成26年1月6日には、支えだった人がいなくなった旨、職場に居づらい旨が、同年3月29日には、同年4月から同僚15人のうち6人が異動する旨、自分と仲の良かったグループ4名のうち自 分以外が異動する旨、関係性が良かった上司と同僚が異動することで心配している旨が、同年5月10日には、支えになっていた人が3月で異動になり、自分が同僚に仕事を教える必要があり、仕事がきつい旨、ここ数日、自分で人間関係を壊してしまった旨が、同年6月7日には、薬が効いているが、仕事ができないことが欠点である旨、周りの人から病気と思われる ようになった旨、仕事を頑張っていたのに、評価されていなかった旨が、同年7月19日、同年8月1日、同年9月20日には、仕事が忙しい旨や、怒られたり、上司から過剰に心配されたりしている旨が、それぞれ記載されている。なお、fクリニックの診療録には、亡cの甲区役所における業務内容やd係長に関する記載はない。(甲9) g医師は、平成25年12月21日の診断時の診療録に、亡cについて、 双極性障害のうつの方であるが、気分の波が大きくあり、仕事の多忙さも重なっており、症状は遷延し 9) g医師は、平成25年12月21日の診断時の診療録に、亡cについて、 双極性障害のうつの方であるが、気分の波が大きくあり、仕事の多忙さも重なっており、症状は遷延している旨、今のところ、希死念慮などは生じておらず、様子を見ているところである旨の記載をした。(甲9・22頁、23頁)エ亡cは、フェイスブックに主として友人向けの近況報告等の投稿を行っ ていたが、平成25年9月以降、平成26年5月まで、月に複数回、食事や旅行の様子、アイドルのライブに参加した際の様子、交際相手と出掛けた際の様子などの投稿を行った。(乙12)また、亡cは、特相センターについて、平成25年4月6日、ワクワクするくらいレベルが高い職場である旨の投稿を、平成26年3月23日、 多数の同僚が4月異動することについて、今のメンバーで働ける最後の1週間が寂しくてならない旨、平成27年4月1日、2年間お世話になった大好きな職場を退職した旨の投稿を行った。(乙12・14、52、79頁)オ亡cは、平成26年9月19日、特相センター長から、仕事が回ってい ないことについて、個室で指導を受けた。亡cは、同月20日のfクリニックの診察において、仕事量が多すぎる旨、もう少しゆっくり仕事がしたい旨を訴えた。g医師は、同日の診療録に病状は安定しているとの所見を記載し、投薬治療を継続した。亡cは、同月21日、原告bに対し、メールで調子が悪いことを伝えた。同メールには「所長に個室に呼び出された のが本当はすごく怖かった。甲のがフラッシュバックして。今でも思い出したら涙出る。」などの記載があった。(甲9・60頁、甲40)カ亡cは、同年10月頃、臨床心理士の国家試験を受験したが、不合格となった。(争いがない のがフラッシュバックして。今でも思い出したら涙出る。」などの記載があった。(甲9・60頁、甲40)カ亡cは、同年10月頃、臨床心理士の国家試験を受験したが、不合格となった。(争いがない。)キ亡cは、同年12月から平成27年1月の年末年始にかけて、原告らと 揉めたため、北九州市の自宅で過ごした。(甲9・69頁) ク亡cは、同年3月頃、同僚の嘱託相談員が行った亡cへの指導について、プライドが傷付けられたとして反発し、同相談員と激しい口論になったことがあった。亡cは、その直後の同月10日以降、欠勤した。(乙13、14の2)ケ g医師は、平成26年11月15日から平成27年2月21日までの亡 cの診察時の診療録において、症状について特に変わりない(ただし、平成26年12月25日の診察時には、病状軽快しているとの所見を記載している。)との所見を記載していたが、亡cは、平成27年3月12日の診察時において、同月9日月曜日から不安定になってきて、仕事を休んだこと、薬を飲みすぎたことを訴えた。g医師は、これを受けて、その日の 診療録に、うつ状態は遷延している旨の所見を記載した。(甲9・65ないし73頁)g医師は、同月12日、病名をうつ病とし、病状は悪化しており、同日から同月31日まで休職、自宅療養を要する旨の診断書を作成した。(甲39の1) また、g医師は、同月27日、病名をうつ病とし、病状遷延にあり、同年4月1日から同年5月31日まで休職、自宅療養を要する旨の診断書を作成した。(甲39の2)コ特相センター長は、同年3月27日、亡cに対し、同年4月以降の委嘱更新の意向を伝え、亡cの意向を確認した。亡cは、特相センター長に対 し、上記申出 断書を作成した。(甲39の2)コ特相センター長は、同年3月27日、亡cに対し、同年4月以降の委嘱更新の意向を伝え、亡cの意向を確認した。亡cは、特相センター長に対 し、上記申出に感謝し、ゴールデンウィーク頃まで療養すれば復帰できるとの見通しを伝えた。しかしながら、亡cは、同日夜、特相センター長に対し、医師から就業は厳しい旨の診断を受けたとして、気落ちした様子で委嘱辞退の申出をした。特相センター長は、繰り返し亡cを慰留したが、亡cは、体調不良が回復しないことを理由に委嘱更新を固辞した。この頃、 亡cは、「フラッシュバックが酷い。」という趣旨の発言をしていた。(甲 39の2、乙13)亡cは、同月31日、特相センターを委嘱期間満了により退職した。 ⑸ 特相センター退職以降の経過ア亡cは、同年4月4日、同月14日、同月28日、同年5月12日、同月15日及び同月18日、fクリニックを受診した。(甲9・76頁ない し81頁)イ亡cは、同年4月4日の診察時、g医師に対し、特相センターを退職したこと、自宅に閉じこもっているが、金銭的に厳しいこと、障害年金を申請したいと思っていることなどを述べた。g医師は、同日及び同月14日の診療録に、うつ状態は遷延しているとの所見を記載した。(甲9・76 頁、77頁)ウ亡cは、同月28日の診察時、g医師に対し、調子が良くなく、頭痛と音と光、人が怖くて外に出られなかったが、3日前に突然調子が良くなり、家の中を片付けたりしたと述べた。g医師は、同日の診療録に躁とうつの波が続いている旨の所見を記載した。(甲9・78頁) エ亡cは、同年5月12日の診察時、g医師に対し、躁とうつの差が激しいこと、仕事を辞めて、自 。g医師は、同日の診療録に躁とうつの波が続いている旨の所見を記載した。(甲9・78頁) エ亡cは、同年5月12日の診察時、g医師に対し、躁とうつの差が激しいこと、仕事を辞めて、自分の波が変わるのがよく分かるようになったことを述べた。g医師は、同日の診療録に病状軽快しているとの所見を記載した。(甲9・79頁)オ亡cは、同月15日、g医師の診察を受けた際、新薬の治験に参加する ことに同意した。g医師は、同日以降、睡眠剤と抗不安薬を変更した。(甲9・80頁)カ亡cは、同月18日の診察時、g医師に対し、手足のしびれとイライラが生じている、不眠になったと訴えた。g医師は、同日の診療録に病状が再燃している所見を記載し、睡眠剤と抗不安薬を元のものに変更した。亡 cは、同月29日にfクリニックを受診する旨の予約をした。(甲9・8 1頁)キ亡cは、同年5月21日夕方頃、北九州市内の自宅の寝室において、多量の抗うつ剤及び睡眠剤を服用して死亡した(本件自殺)。死体検案書において、直接死因は薬物中毒死とされ、死因の種類は自殺とされた。(甲4) 2 争点⑴(公務起因性)について⑴ 亡cの死因について被告は、亡cの死因について、遺書がなく、誤って大量の薬剤を服用したことによる事故死の可能性が否定できない旨を主張する。 しかしながら、前記認定事実⑸キによれば、亡cは、平成27年5月21 日夕方頃、北九州市内の自宅の寝室において、多量の抗うつ剤及び睡眠剤を服用し、薬物中毒により死亡したことが認められるところ、亡cは、平成25年4月以降、fクリニックを継続的に受診して投薬治療を受けており、本件自殺直前の同年5月18日の診察時に睡眠剤及び抗不安薬を従前服用してい 中毒により死亡したことが認められるところ、亡cは、平成25年4月以降、fクリニックを継続的に受診して投薬治療を受けており、本件自殺直前の同年5月18日の診察時に睡眠剤及び抗不安薬を従前服用していたものに戻したところであって、誤って大量の薬を服用することは考 えにくく、死体検案書において、死因の種類は自殺とされていること、後記のとおり、亡cは、同年3月31日に特相センターを退職せざるを得なくなり、当時、経済的な不安を抱えていたことからすれば、遺書がないことを考慮しても、亡cの死因は自殺と認めるのが相当である。 ⑵ 公務と本件自殺との因果関係について ア亡cは、甲区役所に勤務していた平成25年1月18日に、うつ病の診断を受け、その後も継続的に心療内科に通院している中、平成27年5月21日に自殺するに至っているところ、原告らは、本件自殺が甲区役所での公務によって発症した本件疾病によって引き起こされたと主張することから、かかる事案の性質に鑑み、まず甲区役所における公務と本件自殺と の因果関係について検討する。 イ本件条例に基づく補償は、地方公務員災害補償法69条に基づくものであって、公務上の災害(負傷、疾病、障害又は死亡)について給付されるところ(同法1条、45条1項)、公務上の災害といえるためには、単に当該公務と死亡等の発生との間に条件関係が存するだけではなく、相当因果関係が認められることが必要である(最高裁昭和50年(行ツ)第11 1号同51年11月12日第二小法廷判決・裁判集民事119号189頁参照)。そして、地方公務員災害補償制度は、公務に内在又は随伴する危険が現実化して職員に死亡等の結果がもたらされた場合には、被災職員が所属する地方公共団体の過失の有無を問わず、地方公共団体がその危険 参照)。そして、地方公務員災害補償制度は、公務に内在又は随伴する危険が現実化して職員に死亡等の結果がもたらされた場合には、被災職員が所属する地方公共団体の過失の有無を問わず、地方公共団体がその危険を負担して職員が被った損失を補填すべきであるとの危険責任の法理に基づ くものであるところ、このことからすれば、上記の相当因果関係を認めるためには、社会通念上、当該死亡等の結果が、公務に内在又は随伴する危険が現実化して発生したと認められることが必要である(最高裁平成6年(行ツ)第24号同8年1月23日第三小法廷判決・裁判集民事178号83頁、最高裁平成4年(行ツ)第70号同8年3月5日第三小法廷判決・ 裁判集民事178号621頁参照)。 ウそして、精神疾患が原因で自殺をしたとする場合においては、①公務と精神疾患との間に相当因果関係が認められ、かつ、②当該精神疾患と自殺との間に相当因果関係が認められるときに、自殺についての公務起因性が認められるところ、多くの精神疾患においては、その病態としての自殺念 慮が出現する蓋然性が高いと医学的に認められることから、公務に起因して精神疾患を発症した者が自殺を図った場合には、当該精神疾患によって正常の認識、行為選択能力が著しく阻害され、又は自殺行為を思いとどまる精神的な抑制力が著しく阻害されている状態で自殺が行われたものと推認するのが相当である。 ただし、公務に起因して発症した精神疾患と認められる場合であっても、 発症後療養等が行われ、相当期間経過した後の自殺については、治癒の可能性やその経過の中での公務以外の様々な負荷要因の発生の可能性があるため、直ちに公務に内在する危険が現実化したものとして、公務との相当因果関係を推認することはできず、療養の経過、公務以外の負荷 の可能性やその経過の中での公務以外の様々な負荷要因の発生の可能性があるため、直ちに公務に内在する危険が現実化したものとして、公務との相当因果関係を推認することはできず、療養の経過、公務以外の負荷要因の内容等を総合して判断する必要がある。 (以上につき、乙8参照)エ前記認定事実によれば、亡cは、甲区役所で公務に従事していた間の平成25年1月18日、e病院において、うつ病との診断を受け(認定事実⑶イ)、甲区役所を退職後、fクリニックにおいて、同年4月20日にうつ病との診断を、同年12月21日に双極性障害との診断をそれぞれ受け、 同年4月20日から本件自殺直前の平成27年5月18日まで、主としてうつ病の傷病名で、月2回程度、fクリニックに継続して通院し、服薬等による治療を受けていたことが認められること(認定事実⑷イ、同ウ)から、甲区役所で公務に従事している期間中に発症した本件疾病の症状が本件自殺に至るまで継続していたものと認められる。 しかしながら、亡cは、平成25年3月31日に甲区役所を退職しており、平成27年5月21日に本件自殺に至るまで、発症から約2年4か月が、甲区役所を退職してから約2年2か月が経過していることを考慮すれば、仮に本件疾病が公務によるものであったとしても、本件疾病の発症から長期間経過後に自殺に至っているものといえ、直ちに公務と自殺との相 当因果関係を推認することはできない。 オそして、亡cは、平成25年1月11日を最後に甲区役所には出勤しておらず、その後の職場とのやり取りは原告aにおいて行っており、原告aと職場との連絡も同年3月28日を最後に終了していること(認定事実⑵タ、同⑶ケ)、亡cは、同月31日付けで甲区役所を退職していること(認 定事実⑶コ)からすれば、甲区役所 て行っており、原告aと職場との連絡も同年3月28日を最後に終了していること(認定事実⑵タ、同⑶ケ)、亡cは、同月31日付けで甲区役所を退職していること(認 定事実⑶コ)からすれば、甲区役所における公務による直接のストレスは、 少なくとも同日以降は、消失しているものといわざるを得ない。また、亡cは、平成26年9月21日、同月19日に特相センター長から個室において指導を受けた際に、甲区役所における指導がフラッシュバックして怖かった旨のメールを送信しているものの、それ以外に、fクリニックの診療録において、甲区役所における出来事やd係長のパワーハラスメント行 為に言及するような記載はない(認定事実⑷ウ、同オ)。 そうすると、甲区役所における公務によるストレスが退職後も継続し、大きな負荷要因となっていたとみることはできない。 そして、亡cは、平成25年4月から平成27年3月まで、特相センターの特別支援教育相談員として勤務しており、職場の上司や同僚のサポー トを受けつつ、概ね良好な関係性のもと、勤務を行っていた(認定事実⑷ア)。同職場は、亡cのスキルを活かせる職場であって、フェイスブックの投稿等から、亡c自身も職場に対して好印象かつ意欲を持って仕事に取り組んでいたことがうかがえる(認定事実⑷ア、同エ)。また、私生活においても、フェイスブックに食事や旅行の様子等を投稿しており、充実し た生活を送っていたことがうかがえる(認定事実⑷エ)。 また、fクリニックの診療録の記載によれば、亡cは、甲区役所退職後の平成25年4月20日以降、本件自殺直前の平成27年5月18日までの2年以上にわたり、月2回程度、fクリニックに継続して通院して、服薬等の治療を受けており、その間、亡cのうつ症状は軽快 役所退職後の平成25年4月20日以降、本件自殺直前の平成27年5月18日までの2年以上にわたり、月2回程度、fクリニックに継続して通院して、服薬等の治療を受けており、その間、亡cのうつ症状は軽快と悪化を繰り返 し、うつ状態が遷延しているとの所見が示された際には、特相センターでの残業が多く、仕事がきついとの主訴があったことからすると、特相センターにおける業務の負荷も相当程度あったものと認められる(認定事実⑷ウ)。加えて、亡cは、同年3月頃に同僚の嘱託相談員と激しい口論をして、同月9日頃から不安定となり、同月10日以降、特相センターを欠勤 し、同月12日にg医師において、同月31日まで休職、自宅療養を要す る旨の診断書が作成されていることから、この時期に亡cの病状が急激に悪化したものといえる(認定事実⑷ク、ケ)。そして、亡cは、同月27日、特相センター長から委嘱更新の申出を受け、上記申出に感謝し、亡c自身は、ゴールデンウィーク頃までの療養によって職場復帰できるとの見通しを持っていたものの、同日、g医師から就業が厳しい旨の診断を受け て、委嘱更新を断念したものであって(認定事実⑷コ)、意欲を持って取り組んでいた特相センターでの仕事を、医師の判断により退職せざるを得なくなったことは、亡cにとって、大きなストレスとなったことが推察される。 さらに、亡cは、大学院までの進学に伴う奨学金返済のため経済的な余 裕はなかったところ、特相センター退職後の亡cは、fクリニックでの診察の際に経済的な不安を訴えており(認定事実⑷ア、同⑸イ)、このような事情も亡cのストレスとなったものといえる。 カ以上の経過からすれば、亡cは、甲区役所における公務に従事していた期間中に本件疾病を発症したものの、その後は、甲区役 定事実⑷ア、同⑸イ)、このような事情も亡cのストレスとなったものといえる。 カ以上の経過からすれば、亡cは、甲区役所における公務に従事していた期間中に本件疾病を発症したものの、その後は、甲区役所における公務に よるストレスからは解放され、新たな職場である特相センターで意欲を持って取り組める仕事に就き、充実した生活を送るようになっていたことがうかがえる一方で、特相センターにおける業務による負荷もあり、うつ状態が遷延し、亡c本人は特相センターでの仕事を続けることを望んでいたにもかかわらず、本件疾病の悪化により特相センターでの仕事を退職せざ るを得なくなったことや、退職後の経済的な不安が、本件自殺直前の大きな負荷要因になったものといえる。 そうすると、仮に亡cが甲区役所での公務によって本件疾病を発症していたとしても、本件自殺は、甲区役所での公務を終えた後、新たな職場での業務負荷等によりうつ状態が遷延し、意欲を持って取り組んでいた仕事 を退職せざるを得なくなったことや退職後の経済的な不安が大きな負荷 要因となり発生したものと解するのが相当であって、社会通念上、本件自殺が、甲区役所での公務に内在又は随伴する危険が現実化して発生したものとは認められず、甲区役所での公務と本件自殺との間に相当因果関係を認めることはできない。 キ原告らは、本件疾病が適応障害であった場合、平成24年11月下旬か ら12月上旬頃の時期に最初の適応障害を発症した後、うつ病エピソードの状態に移行し、その後しばらくして事後の適応障害に移行し、この適応障害の状況が2年を超えて遷延して本件自殺に至ったものといえることなどを主張し、これに沿う内容の精神科医師の意見書(甲53、63)を提出する。 しかしながら、亡cが発症 この適応障害の状況が2年を超えて遷延して本件自殺に至ったものといえることなどを主張し、これに沿う内容の精神科医師の意見書(甲53、63)を提出する。 しかしながら、亡cが発症した本件疾病が原告ら主張の上記経過をたどったとしても、本件自殺については、亡cが甲区役所の公務を離れて2年以上が経過し、甲区役所での公務によるストレスが退職後も継続していたとは認められないことや、特相センターにおいて2年にわたって就労し、特相センターでの業務負荷が症状の遷延に影響していたことがうかがえ るほか、特相センターの退職と経済的不安によるストレスが大きな負荷要因となったものと考えられることは、上記オのとおりであって、これらを踏まえると、甲区役所での公務と本件自殺との間に相当因果関係を肯定することはできないから、原告らの主張は採用することができない。 第4 結論 よって、原告らの請求は、その余の争点について判断するまでもなく、いずれも理由がないからこれを棄却することとして、主文のとおり判決する。 福岡地方裁判所第5民事部 裁判長裁判官小野寺優子 裁判官有田浩規 裁判官松本高明 別紙関連法令 1 北九州市議会の議員その他非常勤の職員の公務災害補償等に関する条例(目的) 第1条この条例は、地方公務員災害補償法(昭和42年法律第121号。以下「法」という。)第69条及び第70条の規定に基づき、議会の議員その他非常勤の職員の公務上の災害(負傷、疾病、障害又は死亡をいう。以下同じ。)又は通勤による災害に対する補償(以下「補償」という。)に関する制度等を定 69条及び第70条の規定に基づき、議会の議員その他非常勤の職員の公務上の災害(負傷、疾病、障害又は死亡をいう。以下同じ。)又は通勤による災害に対する補償(以下「補償」という。)に関する制度等を定め、もって議会の議員その他非常勤の職員及びその遺族の 生活の安定と福祉の向上に寄与することを目的とする。 (職員)第2条この条例で「職員」とは、議会の議員、委員会の非常勤の委員、非常勤の監査委員、審査会、審議会及び調査会等の委員その他の構成員、非常勤 の調査員及び嘱託員その他の非常勤の職員(地方公務員災害補償法施行令(昭和42年政令第274号)第1条各項に規定する職員を除く。)で次に掲げる者(略)以外の者をいう。 (遺族補償) 第11条職員が公務上死亡し、または通勤により死亡した場合においては、遺族補償として、その遺族に対して、遺族補償年金または遺族補償一時金を支給する。 (遺族補償一時金) 第14条遺族補償一時金は、次の場合に支給する。 (1)職員の死亡の当時遺族補償年金を受けることができる遺族がないとき。 (2)遺族補償年金を受ける権利を有する者の権利が消滅した場合において、他に当該遺族補償年金を受けることができる遺族がなく、かつ、当該職員の死亡に関し既に支給された遺族補償年金の額の合計額が前号 の場合に支給される遺族補償一時金の額に満たないとき。 2 遺族補償一時金を受けることができる遺族は、職員の死亡の当時において次の各号の一に該当する者とする。 (1) 配偶者(2) 職員の収入によって生計を維持していた子、父母、孫、祖父母およ び兄弟姉妹(3) 前2号に掲げる者以外の者で、主として職員の収入によって生計を維持していたもの(4) 第2号に該当 2) 職員の収入によって生計を維持していた子、父母、孫、祖父母およ び兄弟姉妹(3) 前2号に掲げる者以外の者で、主として職員の収入によって生計を維持していたもの(4) 第2号に該当しない子、父母、孫、祖父母および兄弟姉妹 3 遺族補償一時金を受けるべき遺族の順位は、前項各号の順序とし、同項 第2号および第4号に掲げる者のうちにあっては、それぞれ当該各号に掲げる順序とし、父母については、養父母を先にし、実父母を後にする。 4 遺族補償一時金の額は、第1項第1号の場合にあっては、補償基礎額の400倍に相当する金額、同項第2号の場合にあっては、補償基礎額の400倍に相当する金額からすでに支給された遺族補償年金の額の合計額 を控除した額とする。 (年金たる補償の額の端数処理)第14条の2 年金たる補償の額に50円未満の端数があるときは、これを切り捨て、50円以上100円未満の端数があるときは、これを100円に 切り上げるものとする。 (葬祭補償)第15条職員が公務上死亡し、または通勤により死亡した場合においては、葬祭を行なう者に対して、葬祭補償として、通常葬祭に要する費用を考慮して規則で定める金額を支給する。 (この条例に定めがない事項)第16条この章に定めるもののほか、補償に関し必要な事項については、法第3章(法第24条、第25条、第39条の2、第45条及び第46条を除く。)の規定の例による。 2 地方公務員災害補償法(この法律の目的)第1条この法律は、地方公務員等の公務上の災害(負傷、疾病、障害又は死亡をいう。以下同じ。)又は通勤による災害に対する補償(以下「補償」と いう。)の迅速かつ公正な実施を確保するため、地方公共団体等に代 法律は、地方公務員等の公務上の災害(負傷、疾病、障害又は死亡をいう。以下同じ。)又は通勤による災害に対する補償(以下「補償」と いう。)の迅速かつ公正な実施を確保するため、地方公共団体等に代わつて補償を行う基金の制度を設け、その行う事業に関して必要な事項を定めるとともに、その他地方公務員等の補償に関して必要な事項を定め、もつて地方公務員等及びその遺族の生活の安定と福祉の向上に寄与することを目的とする。 (補償の手続)第45条基金は、この章の規定による補償(傷病補償年金を除く。以下この項において同じ。)を受けようとする者から補償の請求を受けたときは、その補償の請求の原因である災害が公務又は通勤により生じたもので あるかどうかを速やかに認定し、その結果を当該請求をした者及び当該 災害を受けた職員の任命権者に通知しなければならない。 2及び3(略) (時効)第63条補償を受ける権利は、2年間(障害補償及び遺族補償については、5 年間)行わないときは、時効によつて消滅する。 (非常勤の地方公務員等に係る補償の制度)第69条地方公共団体は、条例で、職員以外の地方公務員(特定地方独立行政法人の役員を除く。)のうち法律(労働基準法を除く。)による公務上 の災害又は通勤による災害に対する補償の制度が定められていないものに対する補償の制度を定めなければならない。 2 地方独立行政法人は、職員以外の役員のうち労働者災害補償保険法の規定の適用を受けないものに対する補償の制度を定めなければならない。 3 第一項の条例で定める補償の制度及び前項の地方独立行政法人が定める補償の制度は、この法律及び労働者災害補償保険法で定める補償の制度と均衡を失したものであつてはならない ればならない。 3 第一項の条例で定める補償の制度及び前項の地方独立行政法人が定める補償の制度は、この法律及び労働者災害補償保険法で定める補償の制度と均衡を失したものであつてはならない。 (職員に関する規定の準用) 第71条第58条、第59条、第62条及び第63条の規定は、第69条第1項の規定に基づく条例による補償について準用する。この場合において、第58条及び第59条中「基金」とあるのは「地方公共団体」と、第62条第1項中「職員」とあるのは「第69条第1項に規定する者」と、(中略)、第63条中「障害補償及び遺族補償」とあるのは「障害補償 及び遺族補償に相当する補償」と読み替えるものとする。 以上
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