平成25(ワ)3360 特許権侵害差止請求事件

裁判年月日・裁判所
平成27年9月29日 東京地方裁判所
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判決文本文19,725 文字)

平成27年9月29日判決言渡同日原本交付裁判所書記官東敏美 平成25年(ワ)第3360号特許権侵害差止請求事件口頭弁論終結日平成27年7月16日判決 東京都千代田区<以下略>原告JX日鉱日石金属株式会社 同訴訟代理人弁護士高橋雄一郎 同訴訟代理人弁理士望月尚子 東京都千代田区<以下略>被告田中貴金属工業株式会社 同訴訟代理人弁護士鈴木修大平茂大西千尋磯田直也 同訴訟復代理人弁護士森下梓 同訴訟代理人弁理士松山美奈子 主文 原告の請求をいずれも棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。 事実 及び理由 第1 請求 1 被告は,別紙被告製品目録記載2及び3の各製品(以下,それぞれを「被告製品2」,「被告製品3」という。)を,生産し,使用し,譲渡し,譲渡の申出をしてはならない。 2 被告は,原告に対し,30万円及びこれに対する平成26年11月5日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要 本件は,原告が被告に対し,被告による別紙被告製品目録記載1の製品(以下「被告製品1」という。)並びに被告製品2及び3の製造,販売等が原告の特許権の侵害に当たる - 2 -第2 事案の概要本件は,原告が被告に対し,被告による別紙被告製品目録記載1の製品(以下「被告製品1」という。)並びに被告製品2及び3の製造,販売等が原告の特許権の侵害に当たる旨主張して,特許法100条1項に基づき被告製品2及び3の製造等の差止めを,民法709条,特許法102条2項に基づき被告製品1の販売による損害賠償金30万円及びこれに対する特許権侵害行為の後の日である平成26年11月5日(同年10月31日付け訴え変る遅延損害金の支払を求めた事案である。 1 前提事実(当事者間に争いのない事実並びに後掲の証拠及び弁論の全趣旨により明らかに認められる事実)当事者原告及び被告は,いずれも,HDD用磁性材ターゲットの製造,販売等を行う会社である。 原告の特許権ア原告は,次の特許権(以下「本件特許権」といい,その特許出願の願書に添付された明細書及び図面を「本件明細書」という。)を有している。 発明の名称非磁性材粒子分散型強磁性材スパッタリングターゲット特許番号第4975647号出願日平成18年12月26日優先日平成18年1月13日登録日平成24年4月20日イ本件特許権の特許請求の範囲請求項1の記載は次のとおりであり(以下,この発明を「本件発明1」という。),下記の構成要件(以下,それぞれを「構成要件1-A」などという。)に分説される。 「Co若しくはFe又は双方を主成分とする材料の強磁性材の中に酸化物,- 3 -窒化物,炭化物,珪化物から選択した1成分以上の材料からなる非磁性材の粒子が分散した材料からなる焼結体スパッタリングターゲットであって,前記材料の研磨面で観察される組織の非磁性材の全粒子は,非磁性材料粒子内の任意の点を中心に形成し 1成分以上の材料からなる非磁性材の粒子が分散した材料からなる焼結体スパッタリングターゲットであって,前記材料の研磨面で観察される組織の非磁性材の全粒子は,非磁性材料粒子内の任意の点を中心に形成した半径2μmの全ての仮想円よりも小さいか,又は該仮想円と,強磁性材と非磁性材の界面との間で,少なくとも2点以上の接点又は交点を有する形状及び寸法の粒子とからなり,研磨面で観察される非磁性材の粒子が存在しない領域の最大径が40μm以下であり,直径10μm以上40μm以下の非磁性材の粒子が存在しない領域の個数が1000個/mm2以下であることを特徴とする焼結体からなる非磁性材粒子分散型強磁性材スパッタリングターゲット。」記1-ACo若しくはFe又は双方を主成分とする材料の強磁性材の中に酸化物,窒化物,炭化物,珪化物から選択した1成分以上の材料からなる非磁性材の粒子が分散した材料からなる焼結体スパッタリングターゲットであって,1-B 前記材料の研磨面で観察される組織の非磁性材の全粒子は,非磁性材料粒子内の任意の点を中心に形成した半径2μmの全ての仮想円よりも小さいか,又は該仮想円と,強磁性材と非磁性材の界面との間で,少なくとも2点以上の接点又は交点を有する形状及び寸法の粒子とからなり,1-C 研磨面で観察される非磁性材の粒子が存在しない領域の最大径が40μm以下であり,1-D 直径10μm以上40μm以下の非磁性材の粒子が存在しない領域の個数が1000個/mm2以下である1-E ことを特徴とする焼結体からなる非磁性材粒子分散型強磁性材ス- 4 -パッタリングターゲット。 ウ本件特許権の特許請求の範囲請求項2の記載は次のとおりであり(以下,この発明を「本件発明2」という。),下記の構成要件 らなる非磁性材粒子分散型強磁性材ス- 4 -パッタリングターゲット。 ウ本件特許権の特許請求の範囲請求項2の記載は次のとおりであり(以下,この発明を「本件発明2」という。),下記の構成要件(以下,それぞれを「構成要件2-A」などという。)に分説される。 「前記材料の研磨面で観察される組織の非磁性材の全粒子は,非磁性材料粒子内の任意の点を中心に形成した半径1μmの全ての仮想円よりも小さいか,又は仮想円と,強磁性材と非磁性材の界面との間で,少なくとも2点以上の接点又は交点を有する形状及び寸法の粒子とからなり,研磨面で観察される非磁性材の粒子が存在しない領域の最大径が40μm以下であり,直径が10μm以上40μm以下の非磁性材の粒子が存在しない領域の個数が1000個/mm2以下であることを特徴とする請求項1記載の非磁性材粒子分散型強磁性材スパッタリングターゲット。」記2-A 前記材料の研磨面で観察される組織の非磁性材の全粒子は,非磁性材料粒子内の任意の点を中心に形成した半径1μmの全ての仮想円よりも小さいか,又は仮想円と,強磁性材と非磁性材の界面との間で,少なくとも2点以上の接点又は交点を有する形状及び寸法の粒子とからなり,2-B 研磨面で観察される非磁性材の粒子が存在しない領域の最大径が40μm以下であり,2-C 直径が10μm以上40μm以下の非磁性材の粒子が存在しない領域の個数が1000個/mm2以下である2-D ことを特徴とする請求項1記載の非磁性材粒子分散型強磁性材スパッタリングターゲット。 エ本件特許権の特許請求の範囲請求項3の記載は次のとおりであり(以下,- 5 -この発明を「本件発明3」という。),下記の構成要件(以下,それぞれを「構成要件3-A」などという。 ーゲット。 エ本件特許権の特許請求の範囲請求項3の記載は次のとおりであり(以下,- 5 -この発明を「本件発明3」という。),下記の構成要件(以下,それぞれを「構成要件3-A」などという。)に分説される。 「前記仮想円と,強磁性材と非磁性材の界面との間で,少なくとも2点以上の接点又は交点を有する形状及び寸法の粒子は,紐状またはヒトデ状の粒子であることを特徴とする請求項1又は2記載の非磁性材粒子分散型強磁性材スパッタリングターゲット。」記3-A 前記仮想円と,強磁性材と非磁性材の界面との間で,少なくとも2点以上の接点又は交点を有する形状及び寸法の粒子は,紐状またはヒトデ状の粒子である3-B ことを特徴とする請求項1又は2記載の非磁性材粒子分散型強磁性材スパッタリングターゲット。 オ本件特許権の特許請求の範囲請求項6の記載は次のとおりであり(以下,この発明を「本件発明6」といい,本件発明1~3と合わせて「本件各発明」という。),下記の構成要件(以下,それぞれを「構成要件6-A」などという。)に分説される。 「DCスパッタリング用ターゲットであることを特徴とする請求項1~5のいずれかに記載の非磁性材粒子分散型強磁性材スパッタリングターゲット。」記6-ADCスパッタリング用ターゲットである6-B ことを特徴とする請求項1~5のいずれかに記載の非磁性材粒子分散型強磁性材スパッタリングターゲット。 被告製品1(甲4,弁論の全趣旨)被告は,別紙被告製品目録の1項に記載された会社(以下「セミコンライト社」という。)の依頼を受けて被告製品1を製造し,これをサンプル品と- 6 -して同社に譲渡した。原告は,同社から未使用の被告製品1を入手した。 鑑 1項に記載された会社(以下「セミコンライト社」という。)の依頼を受けて被告製品1を製造し,これをサンプル品と- 6 -して同社に譲渡した。原告は,同社から未使用の被告製品1を入手した。 鑑定嘱託の結果構成要件1-Bは,換言すると,研磨面で観察される組織の非磁性材の全粒子が半径2μmの仮想円を内包する大きさの粒子ではないということである(以下,上記大きさの粒子を「粗大粒子」という。)。 当裁判所は,被告製品1につき,鑑定事項を「研磨面において観察される非磁性材料粒子に,半径2μmの仮想円を内包する大きさのものが存在するか」とする鑑定嘱託を行った。観察の手順は,要旨,被告製品1の刻印がない面の一部である「観察試料1」及び同面の別の部分である「観察試料3」の表面を研磨し,研磨面を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察して黒い領域の有無を確認し,黒い領域がある場合はSi及びOの面分析を行うというものである。観察の結果,① 観察試料1及び3の表面積はそれぞれ126.9mm2,98.3mm2であった,② 1回目の研磨後の観察では,観察試料1及び3のいずれにも非磁性材の粗大粒子は確認できなかった,③ 2回目の研磨後の観察では,観察試料1につき1か所,観察試料3につき6か所,非磁性材の粗大粒子を確認できたとされた。ただし,原告は上記③の観察試料3のうち3か所は粗大粒子でない旨,被告は上記②の観察試料1に2か所の粗大粒子が観察される旨,それぞれ主張している。 2 争点被告製品1について,構成要件1-Bの充足性(被告は被告製品1が本件発明1の他の構成要件を充足することを争っていない。また,被告製品1が構成要件1-Bを充足しないとすれば,本件発明2の構成要件2-A,本件発明3の構成要件3-B及び本件発明6の構成要件6-Bをいずれも充足し の構成要件を充足することを争っていない。また,被告製品1が構成要件1-Bを充足しないとすれば,本件発明2の構成要件2-A,本件発明3の構成要件3-B及び本件発明6の構成要件6-Bをいずれも充足しないことになる。)被告製品2について,本件各発明の構成要件充足性被告製品3について,対象物件の特定の当否及び本件各発明の構成要件- 7 -充足性本件各発明に係る特許(以下「本件特許」という。)の無効理由の有無ア特開平10-88333号公報(乙23。以下「乙23文献」といい,これに記載された発明を「乙23発明」という。)に基づく新規性又は進歩性の欠如イ特開2004-339586号公報(乙9(不提出扱いとした乙26と同じもの)。以下「乙9文献」といい,これに記載された発明を「乙9発明」という。)に基づく進歩性欠如ウ特開2001-236643号公報(乙19(不提出扱いとした乙27と同じもの)。以下「乙19文献」といい,これに記載された発明を「乙19発明」という。)に基づく進歩性欠如エ特開2006-176810号公報(乙28。以下「乙28文献」といい,これに記載された発明を「乙28発明」という。)に基づくいわゆる拡大先願要件(特許法29条の2)の違反オサポート要件(同法36条6項1号)の違反被告製品1について,原告の損害額被告製品2及び3について,差止請求の可否 3 争点に関する当事者の主張 (原告の主張)ア被告製品1の研磨面で観察される非磁性材の粒子は全て半径2μmの仮想円より小さい。このことは,被告製品1の研磨面を撮影した650枚ものSEM写真において粗大粒子が観察されないこと(甲4,7,43)から明らかである。なお,上記SEM写真は被告製品1の研磨面全体を撮影したものでない のことは,被告製品1の研磨面を撮影した650枚ものSEM写真において粗大粒子が観察されないこと(甲4,7,43)から明らかである。なお,上記SEM写真は被告製品1の研磨面全体を撮影したものでないが,本件発明1の技術分野ではスパッタリングターゲットの組織の均一性が要求されること,被告のパンフレット等- 8 -(甲3,6,45,52)においても,酸化物を磁性材料中に微細かつ均一に分散させた旨記載され,微細な粒子が分散しているSEM写真が掲載される一方,巨大な凝集物の存在に触れられていないことからすれば,被告製品1の研磨面全体に粗大粒子が存在しないと認めることができる。 イこれに対し,被告は,① 被告が被告製品1と同一の原料及び方法で製造したという製品(以下「本件再製品」という。)の研磨面に粗大粒子が存在すること(乙2),② 鑑定嘱託の結果によれば粗大粒子が複数観察されたことから,構成要件1-Bを充足しない旨主張する。 しかし,上記①につき,本件再製品が被告製品1と同様の組織を有するか否かは明らかでない上,仮に粗大粒子が存在するとしても,製造上不可避的な粗大粒子(後記ウ)であるから,これにより構成要件1-Bの充足が否定されることはない。また,上記②については以下のとおりであり,被告製品1は本件発明1の技術的範囲に含まれる。 構成要件1-Bにいう「研磨面」は1回目の研磨後の表面をいうところ(後記エ),1回目の研磨後に粗大粒子は確認できなかったとするのが鑑定嘱託の結果であって,2回目の研磨後の粗大粒子の存否は充足性に関係しない。 鑑定嘱託において粗大粒子と判断されたSEM写真上の黒色の領域は,その内部に白色の領域を含んでいる。後者は,強磁性材であるので,仮想円から除外されるべきである。そうすると,黒色の領域は半径2μmの 鑑定嘱託において粗大粒子と判断されたSEM写真上の黒色の領域は,その内部に白色の領域を含んでいる。後者は,強磁性材であるので,仮想円から除外されるべきである。そうすると,黒色の領域は半径2μmの仮想円を内包するものとならないから,非磁性材の粗大粒子は存在しないことになる。 仮に1回目の研磨後に非磁性材の粗大粒子が存在し,又は2回目の研磨後の表面が「研磨面」に含まれるとしても,観察された粗大粒子は不可避的な粗大粒子(後記ウ)であるから,その存在により構成要- 9 -件1-Bの充足は否定されない。 仮に被告製品1に粗大粒子が存在することにより構成要件1-Bを文言上は充足しないと判断されるとしても,そのような粒子は観察試料1及び3の表面積に照らせばごく僅かである。他の非磁性材の粒子は全て構成要件1-Bに規定する大きさであり,被告製品1は本件発明1の作用効果を奏するから,本件発明1の構成と均等ということができる。 ウ本件発明1に係るスパッタリングターゲットは工業製品であり,自然現象を利用して製造する以上,非磁性材の大きさをどんなに制御しても粗大粒子が生成されることは避けられない。したがって,構成要件1-Bにいう「非磁性材の全粒子」にはそのような例外的に存在する不可避的な粗大粒子は含まれないと解するのが相当である。本件発明1は,不可避的な粗大粒子をなくす発明ではなく,そのことは本件明細書の実施例1~3並びに比較例1及び2から明らかである。 エ本件明細書には,ターゲットの表面のSEM写真が掲載されているのみであり,ターゲットの組織を観察するために準備された研磨面を更に掘り下げた面を用いて組織を観察することは記載されていない。ターゲットの組織は数枚のSEM写真で観察されるものがターゲット全面に同様に広がっていると評価するのが 観察するために準備された研磨面を更に掘り下げた面を用いて組織を観察することは記載されていない。ターゲットの組織は数枚のSEM写真で観察されるものがターゲット全面に同様に広がっていると評価するのがターゲットの分野における技術常識である。したがって,構成要件1-Bにいう「前記材料の研磨面」には,一度研磨した面を更に掘り下げた面は含まれない。 (被告の主張)ア被告製品1は被告がセミコンライト社に納入するため1枚だけ製造したものであるので,被告はこれと同一の原料及び方法により本件再製品を製造した。そして,その研磨面を観察したところ非磁性材の粗大粒子が存在したので,被告製品1にも同様の粗大粒子が存在すると考えられ- 10 -る。 また,鑑定嘱託の結果によれば,被告製品1に非磁性材の粗大粒子が含まれることは明らかである。 したがって,被告製品1は構成要件1-Bを充足しない。 イこれに対し,原告は,① 不可避的な粗大粒子は構成要件1-Bの「全粒子」に含まれないこと,② 構成要件1-Bの「研磨面」とは1回目の研磨後のものをいうこと,③ 非磁性材の粒子中に含まれる強磁性材を除外すべきこと,④ 被告製品1は本件発明1の構成と均等であることを理由に,構成要件1-Bの充足性を主張する。 しかし,上記①につき,本件明細書に非磁性材の粗大粒子の存在を許容する記載はなく,原告は本件特許の出願経過において非磁性材の粗大粒子がないことが公知技術と区別されるべき本件発明1の特徴である旨繰り返し述べていた。したがって,構成要件1-Bにいう「全粒子」は文字どおり全ての粒子をいうと解すべきである。 上記②につき,スパッタリングターゲットは,スパッタリングの進行に従って内部がターゲット面として露出してくるから,表面と内部の組織は同じでなければなら 字どおり全ての粒子をいうと解すべきである。 上記②につき,スパッタリングターゲットは,スパッタリングの進行に従って内部がターゲット面として露出してくるから,表面と内部の組織は同じでなければならない。したがって,2回目の研磨後も「研磨面」に含まれる。なお,1回目の研磨後につき,鑑定嘱託の結果では粗大粒子が存在しないとされているが,正しく観察すれば2か所に存在が認められる。 上記③につき,非磁性材の粒子は小さな粒子が多数集まって形成されるものであるから,内部に強磁性材が取り込まれたとしても全体として一つの凝集物とみるべきである。 上記④につき,原告は作用効果の同一をいうのみであり,均等による特許権侵害成立のための要件を主張していない。 ウ被告製品1は,被告がセミコンライト社(なお,原告は被告製品1の- 11 -入手経路を明らかにしなかったが,その成分割合が被告の製造したスパッタリングターゲットの中で特殊なものであったので,被告はこれをセミコンライト社に納入した2枚のサンプル品の一つと特定することができた。)の依頼により,同社からの具体的な指示に従って製造したものである。被告は被告製品1を包装袋に密封してセミコンライト社に提供したが,原告は密封された状態の被告製品1を入手した上,その分析を行ったところ本件各発明の構成要件を全て充足していたと主張して,本件訴訟を提起した(他の1枚のサンプル品についても,原告は別の特許権に基づいて被告を提訴している。)。このような事情からすれば,原告は,特許権侵害訴訟を提起する目的で,被告に被告製品1を製造させたということができるから,仮にこれが本件発明1の技術的範囲に含まれるとするならば,その製造については原告の許諾があると評価することができる。 (原告の主張)垂直磁気記 1を製造させたということができるから,仮にこれが本件発明1の技術的範囲に含まれるとするならば,その製造については原告の許諾があると評価することができる。 (原告の主張)垂直磁気記録メディア用ターゲットは,金属の粗粒を含有しない微細化品と,金属の粗粒を含有することによりPTF(漏洩磁束)値を高くした高PTF品に大きく分類されるところ,被告製品1は微細化品に属する。 また,原告が被告製品2と同一の仕様で同じターゲットユーザーに納品している製品は微細化品であるので,被告製品2も微細化品である蓋然性が高い。そして,同じターゲットメーカーが製造する微細化品は,高品質かつ安定供給などの観点から,いずれも同様の組織となる。したがって,被告製品2は,被告製品1と同様に本件各発明の構成要件を全て充足する。 (被告の主張)垂直磁気記録メディア用ターゲットが微細化品と高PTF品の2種類に分類されるという事実はない。また,あるターゲットメーカーが製造する- 12 -ターゲットが原告のいう「微細化品」であれば同様の組織となることもない。 (原告の主張)ア原告は,被告製品3の特定に当たり,納品先と組織及び組成を組み合わせ,さらに,「幅が10μm以上の金属の相が研摩面で観察されない」という限定により微細化品に限定しているから,特定として十分である。 イ同じターゲットユーザーに納品されている製品は,原告製造のものも被告製造のものも同様の組成であり,同様の性能を有すると合理的に推測される。そして,被告製品1と同様の組成である被告製品3は,被告製品1と同様の組織を有している。したがって,被告製品3は,被告製品1と同様に本件各発明の構成要件を全て充足する。 (被告の主張)原告による被告製品3の特定は,組成や製品番号等に 品3は,被告製品1と同様の組織を有している。したがって,被告製品3は,被告製品1と同様に本件各発明の構成要件を全て充足する。 (被告の主張)原告による被告製品3の特定は,組成や製品番号等による限定が不十分であり,実質的に被告が製造する全てのスパッタリングターゲットを包含しかねないものであって,不当である。 (被告の主張)本件特許には以下の無効理由があるから,原告は本件特許権を行使することができない(特許法104条の3第1項)。 ア乙23文献に基づく新規性及び進歩性の欠如乙23発明は,以下の構成を備えている。なお,ターゲットの組織を示す乙23文献の図1は不鮮明であるが,この公開特許公報に係る特許願に鮮明な図面(図面代用写真。以下「乙24写真」という。)が添付されており,これによれば,乙23発明のターゲットは次のb- 13 -~dの構成を備えると認められる。 aSiO2がCo82Cr13Ta5合金中に分散した組織を有する非磁性材粒子分散型強磁性材スパッタリングターゲットであって,b 前記ターゲットの研磨面で観察される組織のSiO2の全粒子は,非磁性材料粒子内の任意の点を中心に形成した半径1μmの全ての仮想円よりも小さいか,又は該仮想円と少なくとも2点以上の接点又は交点を有する形状及び寸法の粒子からなり,cSiO2粒子が存在しない領域の最大径が10μm以下であり,d 直径10μm以上40μm以下のSiO2粒子が存在しない領域の個数が0個/mm2であるe ことを特徴とする焼結体からなる酸化物分散型Co系合金スパッタリングターゲット。 乙23発明の上記各構成は,それぞれ本件発明1の構成要件1-A~1-Eと一致する。また,上記構成bは,本件発明2の構成要件2-Aと一致し,本件発明3の構成要 o系合金スパッタリングターゲット。 乙23発明の上記各構成は,それぞれ本件発明1の構成要件1-A~1-Eと一致する。また,上記構成bは,本件発明2の構成要件2-Aと一致し,本件発明3の構成要件3-Aに含まれるから,乙23発明と本件発明2及び3の間に相違点はない。本件発明6についても,乙23発明がDCスパッタリング用ターゲットに限定されていない点で一応相違するが,乙23発明をDCスパッタリングに用い得ることは乙23文献の記載から明らかである。 したがって,本件各発明は,いずれも乙23発明と実質的に同一であるから,新規性を欠く。 乙23文献の図1が不鮮明であり,乙23発明が本件各発明と同一であると認められないとしても,当業者は,乙23文献に記載の実施例を再現することによってターゲットを作製し,その組織を容易に確認することができる(乙25)。また,本件発明6につき,当業者が乙23文献の記載及び周知技術に基づいて乙23発明をDCスパッタ- 14 -リングに用いることは容易である。 したがって,本件各発明は,進歩性を欠く。 イ乙9文献に基づく進歩性欠如乙9発明は,① SiO2の全粒子が半径2μmの全ての仮想円より小さいといえない点,② 直径10~40μmのSiO2粒子が存在しない領域が1000個/mm2以下か否か明確でない点で本件各発明と相違し,さらに,③ DCスパッタリング用ターゲットに限定されていない点で本件発明6と相違するが,その余の構成は一致する。 上記①につき,乙9発明はシリカ相の平均幅を0.9μmとするものであるが,本件各発明と乙9発明は非磁性材粒子を微細粒子とすることでパーティクル発生を阻止するという原理において共通するから,シリカ相の幅を半径2μmの仮想円より小さくすることを容易に想到し得る。 であるが,本件各発明と乙9発明は非磁性材粒子を微細粒子とすることでパーティクル発生を阻止するという原理において共通するから,シリカ相の幅を半径2μmの仮想円より小さくすることを容易に想到し得る。 上記②につき,当業者であれば,乙9文献の記載及び技術常識に基づき,混合条件を変更するなどして,より一層均一に混在した組織を達成することができる。上記③につき,乙9発明をDCスパッタリングに用い得ることは当業者が容易に想到し得る事項である。 したがって,本件各発明は,いずれも進歩性を欠く。 ウ乙19文献に基づく進歩性欠如乙19発明は,① 非磁性材の全粒子が半径2μmの全ての仮想円より小さいといえない点,② 直径10~40μmの非磁性材の粒子が存在しない領域が1000個/mm2以下か否か明確でない点で本件各発明と相違し,さらに,③ DCスパッタリング用ターゲットでない点で本件発明6と相違するが,その余の構成は一致する。 上記①につき,乙19文献の記載によれば,非磁性材粒子の粒径が5μm以下であっても2μm以下であってもパーティクルの発生抑制について同一の効果を発揮するといえるから,この点は実質的な相違でない。 - 15 -上記②につき,乙19文献にはSiO2粒子が微細かつ均一に合金相中に分散した組織となることが開示されているから,本件各発明の構成は当業者が技術常識に基づいて容易に達成できるものである。上記③につき,乙19発明をDCスパッタリングに用い得ることは当業者が容易に想到し得る事項である。 したがって,本件各発明は,いずれも進歩性を欠く。 エ乙28文献に基づく拡大先願要件の違反本件発明1の構成は,乙28発明と一致する。 乙28発明は,非磁性材の全粒子が半径1μmの仮想円より小さいといえない点で本件発明2,3及 性を欠く。 エ乙28文献に基づく拡大先願要件の違反本件発明1の構成は,乙28発明と一致する。 乙28発明は,非磁性材の全粒子が半径1μmの仮想円より小さいといえない点で本件発明2,3及び6と一応相違するが,乙28文献には平均粒径0.1~10μmのSiO2粉末を用いることで微細な組織が得られることが開示されているから,この点に実質的な相違はない。また,乙28発明をDCスパッタリングに用いることは当業者の技術常識の範囲内である。 したがって,本件各発明は,本件特許より前に出願され,その後に公開された乙28文献に記載された発明と同一であるから,特許を受けることができない。 オサポート要件違反本件特許は,① Co又はFeを主成分とし,酸化物等からなる非磁性材の粒子が分散しているとするのみで,ターゲットの成分組成を特定していない点,② 非磁性材の粒子の形状及び寸法につき,観察の対象,方法,条件等が不明な点,③ 非磁性材の粒子が存在しない領域の最大径ないし個数の意義及び決定方法が記載されていない点,④ 本件発明6につき,DCスパッタリング用ターゲットとする根拠が示されていない点において,本件明細書の発明の詳細な説明に記載された範囲を超えて特許を請求するものであるから,サポート要件に違反する。 - 16 -(原告の主張)以下のとおり,被告の無効主張はいずれも失当である。 ア乙23文献に基づく新規性及び進歩性の欠如の主張について被告は,乙23文献の発明の詳細な説明の記載及び図1(乙24写真を含む。)に基づいて乙23発明の構成を特定している。 しかし,原告が検討したところ,乙23文献の記載には信ぴょう性がなく,技術的に意味がないことが分かった。すなわち,乙23文献に記載された合金と酸化物(SiO2)の重量 発明の構成を特定している。 しかし,原告が検討したところ,乙23文献の記載には信ぴょう性がなく,技術的に意味がないことが分かった。すなわち,乙23文献に記載された合金と酸化物(SiO2)の重量%に基づいてモル比率及び体積比率を換算すると,酸化物の体積比率は11.5%となる。他方,図1の一部を酸化物の領域を示す黒い部分と金属素地の部分に2値化し,面積比率を算出すると,酸化物の領域は1.8%となる。また,マトリックス相と分散相が均一に分散したバルク体における分散相の体積比率は,任意に選択した組織面で観察される分散相の面積比率と一致するのが技術常識である。ところが,乙23文献においては面積比率が体積比率の約6分の1となっており,技術常識に反している。 以上のとおり,乙23発明を本件各発明の先行技術と位置付けることはできないから,乙23文献に基づく無効主張は認められない。 イ乙9文献に基づく進歩性欠如,乙19文献に基づく進歩性欠如及び乙28文献に基づく拡大先願要件違反の主張について被告はこれら各文献の記載に基づいて乙9発明,乙19発明及び乙28発明の各構成を特定したとするが,これらの文献にはターゲットの組織写真が存在せず,又は掲載された組織写真が不鮮明であって,ターゲットの具体的な組織は分からない。したがって,被告主張のように各発明の構成を特定することは不可能であり,本件各発明と対比して進歩性等を判断することはできない。 ウサポート要件違反の主張について- 17 -本件各発明の特許請求の範囲の記載は明確であり,具体的構成,効果等も本件明細書に記載されているから,サポート要件の違反はない。 (原告の主張)原告と被告は競合関係にあり,被告が特許権侵害行為により得た利益の額は原告の受けた損害の額と推定され 効果等も本件明細書に記載されているから,サポート要件の違反はない。 (原告の主張)原告と被告は競合関係にあり,被告が特許権侵害行為により得た利益の額は原告の受けた損害の額と推定される(特許法102条2項)。被告製品1の販売による被告の利益額は30万円を下らない。 (被告の主張)争う。 (原告の主張)被告は,被告製品2及び3を現に製造販売し,本件特許権の侵害行為を継続しているから,原告は,被告に対し,特許法100条1項に基づき,被告製品2及び3の生産,使用,譲渡及び譲渡の申出の差止めを求める。 (被告の主張)争う。 第3 当裁判所の判断 非磁性材の全粒子が粗大粒子(半径2μmの仮想円を内包する大きさの粒子)でないことを要件とするところ,鑑定嘱託の結果及び当事者の主張によれば,被告製品1には2回目の研磨後の研磨面に少なくとも4か所の粗大粒子が存在することが明らかである。そうすると,被告製品1は構成要件1-Bを充足せず,本件発明1の技術的範囲に属しない(したがって,本件発明2,3及び6の技術的範囲にも属しない)と判断するのが相当である。 - 18 -これに対し,原告は,① 不可避的な粗大粒子は「全粒子」に含まれない,② 「研磨面」とは1回目の研磨後の面をいう,③ 非磁性材の粒子中に含まれる強磁性材は除外される,④ 被告製品1は本件発明1の構成と均等であるとして,構成要件1-Bを充足する旨主張するが,以下のとおり,いずれも失当と解すべきである。 ア上記①(不可避的な粗大粒子)について構成要件1-Bに係る特許請求の範囲の記載は「前記材料の研磨面で観察される組織の非磁性材の全粒子は,非磁性材料粒子内の任意の点を中心に形成した半径2μmの全ての仮想円よりも小さいか,又は いて構成要件1-Bに係る特許請求の範囲の記載は「前記材料の研磨面で観察される組織の非磁性材の全粒子は,非磁性材料粒子内の任意の点を中心に形成した半径2μmの全ての仮想円よりも小さいか,又は該仮想円と,強磁性材と非磁性材の界面との間で,少なくとも2点以上の接点又は交点を有する形状及び寸法の粒子とからなり,」というものであり,非磁性材の全ての粒子が「非磁性材料粒子内の任意の点を中心に形成した半径2μmの全ての仮想円よりも小さい」か,又は「該仮想円と,強磁性材と非磁性材の界面との間で,少なくとも2点以上の接点又は交点を有する」形状及び寸法であること,すなわち,半径2μmの仮想円を内包する大きさでないことを要件としている。 そうすると,特許請求の範囲の文言上,非磁性材の粗大粒子が存在する場合には構成要件1-Bを充足しないと解するのが相当である。 とができる。 本件明細書には次の趣旨の記載がある一方,本件発明1において非磁性材の粗大粒子の存在が許容されることをうかがわせる記載は見当たらない。(甲2)a 背景技術(段落【0005】,【0006】)酸化物等の非磁性材料を細かく球状に分散させた組織を持つスパッタリングターゲットの工夫がされているが,パーティクルが大量- 19 -に発生するという問題があった。公知技術はいくつかあるが,そのような方法では,スパッタリングによって膜を形成する際にパーティクルが極端に増加し,ターゲット材料には適合しないことが強く予想される。 b 発明が解決しようとする課題(段落【0007】)本件各発明は,スパッタリングによって膜を形成する際にDCスパッタによる高速成膜が可能であり,さらに,スパッタ時に発生するパーティクル(発塵)やノジュールを低減させ,品質のばらつきが少なく量産性を向上さ 発明は,スパッタリングによって膜を形成する際にDCスパッタによる高速成膜が可能であり,さらに,スパッタ時に発生するパーティクル(発塵)やノジュールを低減させ,品質のばらつきが少なく量産性を向上させることができ,かつ,結晶粒が微細であり高密度の非磁性材粒子分散型強磁性材スパッタリングターゲットを得ることを目的とする。 c 課題を解決するための手段(段落【0008】~【0010】)上記の課題を解決するため,発明者らが鋭意研究を行った結果,非磁性材粒子分散の形態を調整し,導電性を保有させてDCスパッタを可能とし,かつ,密度を高め,さらに,スパッタ時に発生するパーティクルやノジュールを大幅に低減できるとの知見を得た。本件各発明のスパッタリングターゲットは,強磁性材の中に非磁性材の粒子が分散した材料の研磨面で観察される組織中の非磁性材の全粒子が特許請求の範囲に記載された形状及び寸法を備えていることを特徴とする。すなわち,半径2μmの仮想円が非磁性材料粒子に内包されるような粗大化した粒子は,本件各発明に含まれない。上記条件を満たせば,非磁性材料粒子の形状及び大きさに特に制限はない。球状の場合は直径が4.0μm以下となり,このような微細粒子はパーティクルの発生にほとんど影響しない。非磁性材の粒子は,球状である必要はなく,むしろ,ひも状,ヒトデ状又は網目状が望ましいとすらいえる。研磨面で観察される大型の球状物は脱粒- 20 -を起こしやすく,脱粒した場合にパーティクル発生量はその影響を強く受けるからである。 d 発明の効果(段落【0014】)本件各発明のスパッタリングターゲットを使用することにより,品質の優れた材料を得ることができ,特に磁性材料を低コストで安定して製造できるという著しい効果がある。さらに,スパッタリングターゲ )本件各発明のスパッタリングターゲットを使用することにより,品質の優れた材料を得ることができ,特に磁性材料を低コストで安定して製造できるという著しい効果がある。さらに,スパッタリングターゲットの密度向上は,非磁性材と強磁性材の密着性を高めることにより,非磁性材の脱粒を抑制することができ,また,空孔を減少させ結晶粒を微細化し,ターゲットのスパッタ面を均一かつ平滑にすることができるので,スパッタリング時のパーティクルやノジュールを低減させ,さらに,ターゲットライフも長くすることができるという著しい効果を有する。 子が存在することによりパーティクルが発生するとの従来技術の問題点を解決するため,非磁性材の粒子を特許請求の範囲に記載された形状及び寸法に限定するという構成を採用したものであり,これにより上記の効果が得られたと認められる。そうすると,非磁性材の粒子の大きさが上記の範囲内にあること,すなわち,非磁性材の粗大粒子が存在しないことは課題解決のための本質的部分であり,粗大粒子の存在は本件発明1の目的に反するとみることができる。 これに加え,原告は,本件特許の出願経過において,① 本件各発明のスパッタリングターゲットにおいては,半径2μmの仮想円を超える球形の粒子は存在せず,球形以外の粒子については仮想円と少なくとも2点以上の接点又は交点を有する形状及び寸法を有しており,これ以外の粒子が存在すると発明の目的を達成することができないので,その存在は許容されない旨(早期審査に関する事情説明書。乙8),- 21 -② 存在しては困る非磁性材の粒子は,半径2μmの全ての仮想円よりも大きく,しかも2点以上の接点又は交点を有しない形状及び寸法の粒子であり,このような「太った粒子」が存在すると,本件各発明の効果を得ることができない 非磁性材の粒子は,半径2μmの全ての仮想円よりも大きく,しかも2点以上の接点又は交点を有しない形状及び寸法の粒子であり,このような「太った粒子」が存在すると,本件各発明の効果を得ることができない旨(拒絶理由通知に対する意見書。乙6)を述べている。そうすると,原告が不可避的な粗大粒子が存在しても構成要件1-Bを充足すると主張することは許されないと解すべきである。 イ上記②(研磨面)について構成要件1-Bに係る特許請求の範囲には「前記材料の研磨面」と記載されているところ,この「前記材料」は,直前の「非磁性材の粒子が分散した材料からなる焼結体スパッタリングターゲットであって」との記載を受けたものであるから,スパッタリングターゲット自体ではなく,その材料を指すと認められる。そうすると,特許請求の範囲の文言上,「研磨面」が1回目の研磨後のターゲットの表面に限られるとみることは困難である。 また,証拠(甲2)及び弁論の全趣旨によれば,スパッタリングターゲットを用いたスパッタリング法とは,正の電極となる基板と負の電極となるターゲットを対向させ,不活性ガス雰囲気下で基板とターゲットの間に高電圧又は高周波を印加して電場を発生させてプラズマを形成し,プラズマ中の陽イオンがターゲット表面に衝突してターゲット構成原子をたたき出し,この原子が対向する基板表面に付着して膜が形成されるという原理を用いたものであり,スパッタリングの進行に伴ってターゲットの表面が消耗するとターゲットの内部が露出し,その部分もスパッタリングに供されることが認められる。そうすると,非磁性材の粗大粒子によるパーティクル発生の防止という課題は,非磁性材がターゲットの表面にある場合だけでなく,ターゲットの内部- 22 -にある場合にも共通すると解される。 以上によれ と,非磁性材の粗大粒子によるパーティクル発生の防止という課題は,非磁性材がターゲットの表面にある場合だけでなく,ターゲットの内部- 22 -にある場合にも共通すると解される。 以上によれば,構成要件1-Bにいう「前記材料の研磨面」は,焼結体スパッタリングターゲットの材料の表面又は内部の任意の箇所を研磨した面を意味し,2回目以降の研磨後の面も含むと判断するのが相当である。 なお,鑑定嘱託の結果報告書中の1回目の研磨後の観察試料1のSEM写真を精査すると,半径2μmの仮想円を内包する大きさの非磁性材の粒子が2か所存在するとみることが可能である(乙41参照)。 そうであるとすれば,「研磨面」につき原告主張の解釈を採用したとしても,被告製品1は構成要件1-Bを充足しないことになる。 ウ上記③(強磁性材の除外)について本件明細書(甲2)には,本件発明1のスパッタリングターゲットの製造方法として,強磁性材及び非磁性材の1~5μmの微粉(実施例1~3並びに比較例1及び2では平均粒径1μmの非磁性材の微粉が用いられている。)を混合した後に焼結することが記載されており,比較例1では直径5~8μm程度の擬似球状の粗大なSiO2(非磁性材)粒子が分散していたと,比較例2では非常に大きな強磁性材粒子の粒界にSiO2の粗大粒子が分散した層が存在したとされている(段落【0016】,【0022】,【0025】,【0027】,【0029】,【0031】)。上記の製造方法に照らすと,比較例における非磁性材の粗大粒子は微粉が凝集して粗大化したものと推認され,その過程で強磁性材の微粉を取り込むことがあると想定されるが,本件明細書には,上記各比較例の非磁性材の粗大粒子に関して,強磁性材の含有の有無やこれによる本件発明1の効果との関係等を出願人が考慮し ,その過程で強磁性材の微粉を取り込むことがあると想定されるが,本件明細書には,上記各比較例の非磁性材の粗大粒子に関して,強磁性材の含有の有無やこれによる本件発明1の効果との関係等を出願人が考慮したとうかがわせる記載はない。 また,粗大粒子が脱粒することがパーティクル発生の原因とされると- 23 -含んでいるか否かにより変わるものでないと解される。 そうすると,非磁性材の粗大粒子中の強磁性材の存在は構成要件1-Bの充足性と関係がないと解すべきである。 エ上記④(均等)について原告は,被告製品1と本件発明1の作用効果の共通をいうものの,均等の成立を認めるに足りる要件の主張をしていない。かえって,前記ア部分というべきものであるから,これが存在する被告製品1につき均等による特許権侵害を認めることはできない。 したがって,その余の点について判断するまでもなく,被告製品1に係る原告の損害賠償請求は理由がない。 成要件充足性)について原告は,被告製品1が本件各発明の技術的範囲に属することを前提に,被告製品2及び3の組織がいずれも被告製品1と同一であることから,被告製品2及び3の製造販売等も本件特許権を侵害する旨主張する。しかし,被告製品1が本件各発明の技術的範囲に属しないことは上記1において判断したとおりであるから,被告製品2及び3に係る原告の請求は,前提を欠き,その余の点について判断するまでもなく,いずれも理由がない。 被告製品1~3がいずれも本件各発明の技術的範囲に属しないことは上記新規性及び進歩性の欠如について更に判断する。 原告は,乙23文献は酸化物の体積比率と面積比率がかい離する点で記載内容に信ぴょう性がないから,これに基づく無効主張は認められない旨- 24 -主張する。 そこ 如について更に判断する。 原告は,乙23文献は酸化物の体積比率と面積比率がかい離する点で記載内容に信ぴょう性がないから,これに基づく無効主張は認められない旨- 24 -主張する。 そこで判断するに,まず,仮に乙23文献に誤りがあるとしても,そのことから直ちに同文献が特許法29条1項3号所定の「刊行物」に当たらないとすることはできない。 また,原告は,従業員作成の陳述書(甲53)を根拠に,乙23発明のターゲットに含まれる酸化物の体積比率及び面積比率を算出した旨主張するが,体積比率については,ターゲット中の金属部分及び酸化物粒子それぞれの密度が不明であるなど,これを算出した過程が明らかでなく,その正確性は判断し難い。面積比率については,図1から分析対象として抜き出す範囲の選定及び黒い部分とそれ以外に2値化した基準のいずれについても客観的に適正であることの裏付けに欠けている(なお,原告は,本件特許の出願経過において,乙23文献の図1は不鮮明であり,これに記載されている組織は全く判別できない旨述べており(乙8),2値化をいうこと自体がこれと矛盾するというほかない。)。さらに,体積比率と面積比率が一致するとの技術常識を認めるべき証拠もない。 したがって,原告の上記主張を採用することはできない。 進んで,乙23文献の記載と本件各発明の構成を対比すると,証拠(乙23,24)及び弁論の全趣旨によれば,乙23文献にはれていると認めることができる。なお,乙23文献の図1は不鮮明であり,非磁性材の粒子の大きさや分散状況を認定するのは困難であるが,乙24写真は何人も閲覧可能であるので(特許法186条1項参照),これを含めて上記a~eの構成が公知であったと認められる。 そうすると,本件発明1~3は,乙23発明と同一であり,新規性を欠 が,乙24写真は何人も閲覧可能であるので(特許法186条1項参照),これを含めて上記a~eの構成が公知であったと認められる。 そうすると,本件発明1~3は,乙23発明と同一であり,新規性を欠くと判断すべきものとなる。 また,本件発明6は,DCスパッタリング用とされる点において,その- 25 -ような限定のない乙23発明と相違するが,乙23発明は合金中に少量の酸化物(実施例においては3重量%)を均一かつ微細に分散させたものであり,同種の組成のターゲットをDCスパッタリングに用いることが公知であったこと(乙29~31)に照らせば,この点は当業者が容易に推考することができたと解される。 以上によれば,本件特許は無効にされるべきものであるから,原告が本件特許権を行使することはできない(特許法104条の3第1項)。 第4 結論よって,原告の請求はいずれも理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第46部 裁判長裁判官長谷川 浩 二 裁判官清野正彦 裁判官藤原典子 - 26 -別紙被告製品目録 1 Coを含有し,さらに,Cr:6-10mol%,Pt:11-15mol%,SiO2:8-12mol%を含有する磁気記録メディア用ターゲット(大韓民国京畿道龍仁市<以下略>所在のセミコン・ライト株式会社向け製品であって,被告社内の品名コードが2301353508であるものに限る。) 2 ●(省略)● 3 アメリカ合衆国95014カリファルニア州クッパチーノ市<以下略>所在のシーゲイト・テクノロジー社,アメリカ合衆国92612 コードが2301353508であるものに限る。) 2 ●(省略)● 3 アメリカ合衆国95014カリファルニア州クッパチーノ市<以下略>所在のシーゲイト・テクノロジー社,アメリカ合衆国92612カリファルニア州アーバイン市<以下略>所在のウエスタンデジタル社,東京都港区<以下略>所在の昭和電工株式会社,東京都品川区<以下略>所在の富士電機株式会社及びアメリカ合衆国95135カリファルニア州サンノゼ市<以下略>所在のHGST社向けの磁気記録メディア用ターゲットであって,Coを主成分とする強磁性材の中に酸化物を含有するが,幅が10μm以上の金属の相が研摩面で観察されない磁気記録メディア用ターゲット(但し,被告製品1,2,●(省略)●を除く。)以上

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