平成14(わ)252 殺人被告事件

裁判年月日・裁判所
平成17年2月24日 佐賀地方裁判所 佐賀地方裁判所
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判決文本文34,505 文字)

平成17年2月24日宣告平成14年・第252号判決被告人A主文被告人を懲役15年に処する。 未決勾留日数中500日をその刑に算入する。 理由 (罪となるべき事実)被告人は,Vに勧めて,昭和62年5月20日ころ,申込みの上,同年7月1日付けで同人を被保険者とする死亡保険金額5000万円の生命保険契約を当時のB生命保険相互会社との間で締結させ,その後,同年8月24日ころ,保険金受取人名義の変更により同契約に基づく死亡保険金の受取人となったものであるが,Vを殺害して同保険金を取得しようと企て,他者と共謀の上,同月29日未明ころ,佐賀県神埼郡神埼町内又はその周辺において,Vの顔面に布製粘着テープを圧着させ,その鼻口孔部を閉塞するなどし,よって,そのころ,同所において,同人を窒息死させて殺害したものである。 (証拠の標目)省略(事実認定の補足説明)第1事実認定における問題の所在被告人は,公判廷において,当初はV(以下「被害者」という)の殺害へ。 の関与を否定していたが,その後実施された被告人質問及び再度の罪状認否において本件殺人への関与を認めるに至り,弁護人も,被告人が本件殺人について共同正犯としての罪責を負うこと自体は争わないとしている。しかしながら,弁護人は,被告人の本件殺人への関与を認める旨の当公判廷における供述(以 下「被告人の公判供述」という)に基づいて,本件は,被告人とCが共謀の。 上,実行したものであるが,被告人は,Cの主導の下,その指示に従って本件殺人に関与したに過ぎないと主張するのに対し,検察官は,被害者の死因等に関する鑑定等により共犯者の存在や実行行為を認定することができるとする一方,被告人の公判供述については,罪責を認める内容の供述の信用性は高いとしながらも,共犯者や実行行為に関する供述部分 の死因等に関する鑑定等により共犯者の存在や実行行為を認定することができるとする一方,被告人の公判供述については,罪責を認める内容の供述の信用性は高いとしながらも,共犯者や実行行為に関する供述部分は殊更自己の罪責を軽減するためになされたものであり信用できないとして,共犯者を特定しないまま,種々の間接事実に基づいて被告人が本件犯行の首謀者であると主張している。したがって,被告人の自白以外には直接証拠のない本件においては,被告人の公判供述に信用性を認めて,それに基づいてCが本件殺人の共犯者かつ首謀者であるなどの事実を認定できるか否かにつき,検察官と弁護人との間に争いがあると言うべきである。 そこで,以下,被告人の公判供述の信用性について吟味し,これに基づいて本件殺人の共犯者等を認定することができるか否かを検討する。 第2前提事実関係各証拠によれば,前提事実として以下の各事実を認定することができる。 被告人と被害者との関係等被害者は,昭和53年ころからDと交際するようになったが,昭和55年ころ,2人で地元の佐賀県神埼郡神埼町を離れて関西方面で生活するようになった。昭和62年2月ころ,2人は地元に戻り,一旦は同町内のE部落にある被害者の実家に帰ったが,その後,同郡東脊振村にある被害者の妹であるF方に身を寄せていたところ,被告人がF方に遊びに来た際に被害者と会い,同年3月ころ,被害者とDが同村内の被告人方に同居することとなった。そのころ,被告人は,G生命の保険外交員であったHを被告人方に呼んで,被害者及びDに対して生命保険に加入するように勧めたが,当時,被害者が働いていなかったこともあって契約には至らなかった。同年4月ころ,被害者は建設現場の型 枠,鋼管等の解体を業とするI解体で稼働するようになり,被害者とDは被告人方を出て,同郡三田 ,当時,被害者が働いていなかったこともあって契約には至らなかった。同年4月ころ,被害者は建設現場の型 枠,鋼管等の解体を業とするI解体で稼働するようになり,被害者とDは被告人方を出て,同郡三田川町内のJアパートにおいて生活するようになったが,被告人は,その後も被害者方を度々訪れ,被害者の父親であるKや被告人の当時の交際相手であったCらとともに被害者方等で酒を飲むことがあった。また,本件当時,Cは,Lが経営する福岡県八女市内の焼鳥屋Mを手伝い,同焼鳥屋の近くにあった通称Lアパートで生活し,被告人も度々,焼鳥屋MやLアパートを訪れていた。 被害者及びDの生命保険加入状況等当時のB生命保険相互会社(以下「B生命」という)との間で,申込日が。 同年4月20日,契約日が同年6月1日,被保険者及び保険契約者をD,死亡保険金受取人を被告人(申込書には被保険者との続柄・関係について「妹」と記載されていた,死亡保険金額2000万円の生命保険契約が締結された。 。)なお,この契約の締結に当たっては上記申込日に被告人がDになりすましてB生命の診査医の検診を受けた。この生命保険の保険料は月額1万6865円であったが,その支払については,同年4月20日,銀行にD名義の普通預金口座が開設され,同年5月8日に2万円の入金があり,同月22日に月保険料1万6865円の引き落としがなされ,更に同年6月22日に1万3000円の入金があり,同日,月保険料1万6865円の引き落としがなされたが,その後は入金も保険料の引き落としもなされなかった。 次いで,B生命との間で,申込日が同年5月20日,契約日が同年7月1日,被保険者及び保険契約者を被害者,死亡保険金受取人をD,死亡保険金額5000万円の生命保険契約が締結された(以下「本件生命保険」という。な。)お,この 日が同年5月20日,契約日が同年7月1日,被保険者及び保険契約者を被害者,死亡保険金受取人をD,死亡保険金額5000万円の生命保険契約が締結された(以下「本件生命保険」という。な。)お,この契約の締結に当たっては申込日当日に被害者本人がB生命の診査医の検診を受けた。その際,被害者には黄疸,肝腫脹,腹水などはなく,肝機能障害も認められず,尿検査においても異常はなかった。本件生命保険等の保険料は月額2万9752円であったが,その支払については,同年5月21日,銀 行に被害者名義の普通預金口座が開設され,同年6月22日に2万9000円の入金があり,同日,月保険料2万9752円の引き落としがなされ,更に同年8月21日に6万円の入金があり,翌22日には2か月分の保険料5万9504円の引き落としがなされた。 被告人とCは,同年7月27日か28日ころ,B生命佐賀支社に赴き,応対した窓口係員に対し,本件生命保険について死亡保険金受取人をDから被告人に変更する手続を行いたい旨告げ,窓口のカウンターにおいて係員から必要書類の提出等について説明を受けた。係員が被告人に対して,被保険者・保険契約者である被害者の名字と死亡保険金受取人となる被告人のそれとが異なっていることについて尋ねると,被告人は「10月に結婚する」と言いながら,。 後ろのソファーに座っていたCに向かって「10月ね」と言って相づちを求。 め,それに対してCが笑っていたことから,係員はCが被害者本人であると誤認した。係員が被告人に保険証券が必要であることを伝えると,被告人は後日持参すると言って同支社を後にした。 被告人は,同年8月3日,B生命佐賀支社に1人で赴いて,死亡保険金受取人の名義変更のための必要書類である「名義変更請求書兼改印届」及び保険証券を提出した。その後,係員が関係書類をB 支社を後にした。 被告人は,同年8月3日,B生命佐賀支社に1人で赴いて,死亡保険金受取人の名義変更のための必要書類である「名義変更請求書兼改印届」及び保険証券を提出した。その後,係員が関係書類をB生命本社へ送ったが,第三者への死亡保険金受取人変更取扱報告書が添付されていなかったので,同本社から同佐賀支社に関係書類が返送され,係員において関係書類を整えた上,同月21日に同本社に再送付した。そして,同月24日,B生命において本件生命保険の死亡保険金受取人を被告人とする死亡保険金受取人の変更決定がなされた。 本件犯行直前の被告人及び被害者らの行動被告人は,同年8月27日午後8時ころ,Jアパートを訪ねて被害者及びDに対して,翌28日の夕食を一緒に食べようと誘った。翌28日午後7時過ぎころ,被告人,被害者,Dの3人は,被告人が運転する自動車で東脊振村内の食堂に行き,被害者とDがチャンポンを食べた。その後,Jアパートで酒を飲 むこととなり,同日午後8時ころ,3人は同アパートに戻った。帰宅すると被告人と被害者がJアパートの近くにあるコンビニエンスストアに酒などを買いに行き,しばらく,3人で酒を飲んだ。同日午後10時ころにも,被告人と被害者はビールを買いに外に出て,一緒に戻ってきた。同日午後11時ころ,被告人が帰るということで,被害者とDは被告人を同アパート近くに停めた被告人の自動車のところまで見送って自宅に戻った。その後,被害者とDは就寝したが,Dがその日の夜中に目を覚ましたときに被害者は自宅にいなかった。 なお,同日午後11時過ぎころ,被害者はJアパート近くのスナックに赴いたが,入店を断られたため,そのまま同店から立ち去っている。 被害者の遺体発見状況及び遺体の状況同年8月29日午前6時10分ころ,佐賀県神埼郡神埼町大字田道ケ里215番 ート近くのスナックに赴いたが,入店を断られたため,そのまま同店から立ち去っている。 被害者の遺体発見状況及び遺体の状況同年8月29日午前6時10分ころ,佐賀県神埼郡神埼町大字田道ケ里215番地北東方目測150メートル先の県道市武神埼線南側の路肩において,近隣住民が被害者の遺体を発見した。現場は一帯が田圃となっており周囲に人家はなく,上記県道が東西に延びている。被害者の遺体は,頭を西向きにし,仰向けで,右腕を頭部の方に挙げ,左腕は自然に下ろすような状態であった。被害者は水色カッターシャツと茶色ズボンを着用し,その頭部付近に青色サンダルの片方(右)だけが放置され,もう片方は現場付近では発見されなかった。 被害者の足の裏は,砂が少し付いていた程度であまり汚れていなかった。被害者の遺体の顔面,耳介,腕部等には損傷が複数あるものの,その多くは小さい表皮剥脱で,致命傷となるような外傷は存在しなかった。他方,被害者の顔面の鼻口孔部付近,左手掌外側付近,右手掌内側付近には灰白色の付着物が認められるとともに,被害者が着用していた茶色ズボンの左膝裏部には布製粘着テープ片(幅約2.3センチメートル,長さ約17.4センチメートル)が付着し,同粘着テープ片の粘着成分に類似したものが水色カッターシャツの左前ポケット,左腕,右胸中央,腹部,左脇腹中央,茶色ズボンの右側面中央に認められた。そして,上記粘着成分が付着した部位のうち,水色カッターシャツの 左腕上腕・左前ポケット・右胸中央のものや,左腹部横・左腕肘上・腹部のものがそれぞれ一連の線状をなしており,茶色ズボンの左膝裏部の布製粘着テープ片周辺及び同ズボン右側面中央に見られる粘着成分がほぼ同じ高さにあり,これも一連のものとみられる。 被害者の死因は,医師による死体検案の結果,肝硬変による急性心不全と判断さ 左膝裏部の布製粘着テープ片周辺及び同ズボン右側面中央に見られる粘着成分がほぼ同じ高さにあり,これも一連のものとみられる。 被害者の死因は,医師による死体検案の結果,肝硬変による急性心不全と判断され,犯罪に起因しないものとして処理された。被害者の遺体は,司法解剖に付されることもなく,Kに引き渡され,翌日火葬された。 被告人らによる死亡保険金請求状況等被告人は,同年9月2日,死亡保険金支払請求関係の書類を受け取るためにB生命鳥栖営業所を訪れたが,担当者が不在であったため,翌日,Cと共に再び同営業所を訪れ必要書類を受領した。同月7日,被告人は,Cと共に医師のもとを訪ねて被害者の死体検案書を受け取り,また,そのころ,Cと共に神埼町役場にも行って被害者の除籍謄本の交付を受け,これらを取りまとめた上,同月11日,同営業所を訪れ,死亡保険金支払請求書等を提出した。同月25日,被告人はB生命鳥栖営業所,同佐賀支社,同本社に死亡保険金の支払について問い合わせをした。同年12月16日には,Lが被告人に頼まれたとして,B生命久留米支社,同鳥栖営業所に保険金支払の問い合わせの電話をかけた。 さらに,昭和63年1月には,被告人は弁護士に保険金支払請求を委任し,同弁護士からB生命に対し保険金請求に関する照会がなされたほか,そのころ,被告人自身もB生命佐賀支社や同本社に電話をして支払の催促をした。 また,被告人は,昭和62年9月初めころ,Nに対し,被害者の死因は病死であることをうかがわせる内容の下書きを示して,手紙を清書してもらった。 第3被害者の殺害方法及び死因に関する鑑定の内容 鑑定結果の要旨本件においては,前述のとおり,当初は被害者の死亡は犯罪に起因しないものと判断されたため,被害者の死因や殺害方法を明らかにするための司法解剖 は実施されておらず, る鑑定の内容 鑑定結果の要旨本件においては,前述のとおり,当初は被害者の死亡は犯罪に起因しないものと判断されたため,被害者の死因や殺害方法を明らかにするための司法解剖 は実施されておらず,後日,遺体の検視結果,遺体の写真,被害者の着衣,被害者の本件生命保険加入時の診査医の供述等に基づいて被害者の死因等について鑑定が実施されている。その鑑定結果の要旨は以下のとおりである。 ・O教授による鑑定結果の要旨被害者の体表上に認められる損傷は,死因となるものとは考え難い。 被害者の遺体に認められる両側側頸部から両側前胸上外側部にわたる範囲の死斑の所見は急性死のそれであり,さらに顔面の鬱血,左眼瞼結膜に溢血点が存在する所見は被害者が急性死したことを強調するものである。そして,急性死の原因としては,内因性のもの,外因性のもの及び急性中毒によるものが考えられる。 内因性の急性死(突然死)を検討するに,被害者は,昭和62年5月20日,生命保険加入のための医師の検診において過去5年間持病もなく,7日間以上治療を受けたことや休養を取った既往もないと述べ,更に血圧,心臓,胃,肝,尿の異常もないなど,そのときの診察で全く異常は認められていない。加えて,死亡確認の前々日及び前日も日常生活を送っており,かかる健康状態にある被害者に無条件に死因となる内臓の病変があることは考え難い。 また,慢性疾患がある場合に考えられる突然死のうち,検視所見及び死亡前日までの被害者の健康状態からは食道静脈瘤破裂及び腫瘍の急激な悪化による死亡も考え難い。よって,被害者の内因的死因として可能性があるものは,動脈硬化に起因する心筋梗塞,脳出血,又は特発性心筋症等の全く異常所見がないものが挙げられる。 ところが,これらを死因とすると,発作が急激に起こるため,被害者が転倒したり,けいれん 性があるものは,動脈硬化に起因する心筋梗塞,脳出血,又は特発性心筋症等の全く異常所見がないものが挙げられる。 ところが,これらを死因とすると,発作が急激に起こるため,被害者が転倒したり,けいれんをきたし,身体上に表皮剥脱,皮下出血,挫創等の損傷が生じるところ,実際も被害者の身体上には損傷があるものの,そのうち被害者の耳介部及び上唇部に認められる損傷は,その部位・形状からして,転倒によって生じる可能性は皆無に等しいものとなっている。すなわち,これ らの損傷は,平面的な打撲面を有する鈍体では生じ得なく,耳介大の範囲に数本の突起を有する鈍体での打撲的あるいは擦過的作用によってのみ生じるものであって,遺体発見現場で被害者が発作により転倒したとしても,同現場にある枯れ草の切り端部によってこれらの部位に限定してかかる損傷が生じる可能性は考えられず,第三者が突起物を有する鈍体,例えば手指爪によって成傷したものとみられる。そうすると,被害者が遺体発見現場で内因性の急性死をした可能性はないこととなる。 次に,急性中毒による急性死については,検視時に口臭としてアルコール臭が存在したものの,その他の薬毒物による臭いはなかったこと,口周辺や口腔粘膜にびらん等が認められていないこと,現場に薬毒物等の容器も発見されていないこと,さらに上記の耳介部の成傷機序から,被害者が現場で死亡したものとした場合の死因として急性アルコール中毒あるいは薬毒物による急性中毒死の可能性も皆無に等しい。 最後に外因性の窒息による死亡については,検視所見や写真上からも被害者の頸部に縊痕,紋痕,扼痕等は認められないが,顔面の鼻口孔を中心とした部位に灰白物が付着しており,それらが被害者着用のズボンの左膝窩上部に貼られていたガムテープ周囲の灰白物と写真上極めて類似していることから,顔面の ,扼痕等は認められないが,顔面の鼻口孔を中心とした部位に灰白物が付着しており,それらが被害者着用のズボンの左膝窩上部に貼られていたガムテープ周囲の灰白物と写真上極めて類似していることから,顔面の灰白物はガムテープを剥がした後の糊様のものとしても矛盾はない。したがって,被害者の死はガムテープによる鼻口孔部閉塞による窒息死の可能性が残る。ガムテープで鼻口孔部を閉塞したとすれば,他為によると考えられるが,現場で行われたとは考え難い。なぜならば,現場で行われたとすると,被害者がそれに抵抗したにしては,身体上の損傷が少な過ぎる。 また,無抵抗状態や高度の酩酊状態等にあったとすれば,被害者の身体上の損傷が生ずる必要はなかったはずである。さらに,飲酒量から推定される被害者の死亡時の血中アルコール濃度は1ミリリットルあたり2ミリグラム程度であったと考えられるが,そうであるならば十分抵抗する余地があろう。 それを前提に考えると,被害者の左前腕及び両手掌付近に付着している灰白物は,両手を合わせるように両前腕下部から手部にわたる範囲をガムテープで巻いた痕跡と考えられる。さらに,左腕部には生活反応のある線状表皮剥脱があり,左上腕下部後面に外表上表皮剥脱を伴わない暗青色変色部が認められ,これらの損傷が同時に生じたとするならば,左上腕部損傷部位を手等で強く圧迫し,少なくとも左上肢の可能性(可動性)を制限させた状態で手部にガムテープを巻く動作が考えられる。したがって,左腕の2個の損傷は自為によるものではなく,他為によるものであり,さらに,無抵抗状態ではない被害者の手部にこのような動作でガムテープを巻くためには,この動作を1人で行うことは不可能に近く,少なくとも2人以上がかりで動作したものと考えられる。さらに,ズボンに認められるガムテープ及び灰白物は両下肢を膝 にこのような動作でガムテープを巻くためには,この動作を1人で行うことは不可能に近く,少なくとも2人以上がかりで動作したものと考えられる。さらに,ズボンに認められるガムテープ及び灰白物は両下肢を膝部においてガムテープで縛った痕跡と考えられる。このように手部及び膝部をガムテープで縛った状態であったとして矛盾はないが,このような状態にある被害者の鼻口孔部にガムテープを貼ろうとしても,被害者は首を振るなどして抵抗が可能であり,両耳介部の諸損傷は加害者の手指爪等で生じたものとしても妥当である。四肢の損傷も加害者の手指爪等で生じたものとして矛盾はない。 以上を総括すると,被害者は,2人以上の加害者により,遺体発見現場以外の場所において,手部及び膝部をガムテープで固定された上,鼻口孔部をガムテープで閉塞され窒息死した後,ガムテープを剥がされ,遺体発見現場に運ばれ遺棄されたものとして矛盾はない。 ・P教授による鑑定結果の要旨死体を検案した医師による死因は肝硬変による急性心不全であるとしているが,昭和62年5月20日に実施された検診では黄疸,腹水貯留,肝臓の萎縮等の所見は認められず,尿中ウロビリノーゲンも陰性であったこと,死体検案時にも眼瞼・眼球結膜に黄疸の所見は認められず,腹部は平坦でクモ 状母斑も認められないことから,被害者が重症の肝機能障害(肝硬変)に罹患していたとは考え難い。 被害者のような青壮年が急性心不全で死亡する場合としては心筋症や冠動脈症候群等により致死的不整脈を発症して急死することがあるが,被害者がこのような疾患に罹患していたか否かは不明である。しかし,被害者が歩行中に急性心不全状態に陥り,遺体発見現場で死亡したとすると,以下のような不条理な所見が認められる。すなわち,左右の耳介,鼻下,左右頬部には粒状及び斑状の損傷がやや多 不明である。しかし,被害者が歩行中に急性心不全状態に陥り,遺体発見現場で死亡したとすると,以下のような不条理な所見が認められる。すなわち,左右の耳介,鼻下,左右頬部には粒状及び斑状の損傷がやや多数認められるが,これらの損傷は鈍的外力によるものと考えられ,かかる損傷が発見現場において成傷されたとすると,草の茎の部分で成傷されたと考えるのが妥当である。しかし,耳介部にはかかる茎の部分で成傷されたと考えられる損傷しか存在せず,葉の部分で成傷されたと考えられる損傷が存在しないのは不自然である。また,手拳面で身体を支えたり,周囲の草を手でつかむなどの所作を行った形跡が認められない。 さらに,皮膚を露呈している下肢及び足部が草の茎の部分で成傷されたにしては切創様の損傷が確認されず,粒状または斑状の損傷のみしか認められないのも不自然である。また,内因の急死の場合としては,脳底動脈瘤破裂によるくも膜下出血も考えられるが,上述した急性心不全で死亡したと仮定した場合と同様に不条理な所見が認められる。 本件の被害者のように致死的な外傷が認められない異常死体の死因(外因死)を推定する際にまず考えられるのは窒息死である。遺体の頸部に索条痕や扼痕が認められないこと,顔面鬱血の所見はあるものの,左眼瞼結膜に2個しか溢血点が認められないことから,索条を用いた頸部圧迫や通常の扼頸による窒息死は考え難い。しかし,索条痕を生じない鈍体による絞頸や扼痕を生じないような扼頸で,頸動脈洞反射を伴った場合は,被害者の遺体に認められる所見でも矛盾しない。鼻口孔部に灰白色微物の付着があり,鈍体の比較的軽微な作用による右鼻出血,口唇内出血が認められることや,発現す る溢血点がごく少数であることなどから,鼻口孔部閉塞による窒息死としても法医学的に矛盾する所見はない。 そのほかに薬毒 体の比較的軽微な作用による右鼻出血,口唇内出血が認められることや,発現す る溢血点がごく少数であることなどから,鼻口孔部閉塞による窒息死としても法医学的に矛盾する所見はない。 そのほかに薬毒物中毒死もあるが,提示された資料のみからは言及できない。 以上のとおり,被害者の死因としては,鼻口孔部閉塞による窒息や頸動脈洞反射を伴う頸部圧迫による窒息が考えられ,他殺の可能性が大きく,かつ,遺体発見現場周囲の草に踏み乱した形跡がないこと,顔面や左手部には単に地面に接触したような土砂の付着が認められ,足底部にほとんど草による損傷が認められないことから,被害者は発見現場とは別の場所で殺害されて,その後,同現場に放置された可能性が大きい。そして,被害者が鼻口孔部閉塞による窒息で死亡したと仮定した場合,着衣に残存する粘着テープや粘着成分,鼻口孔部等に残存する灰白色微物の付着等の所見を総合すると,鼻口孔部を粘着テープで閉塞された可能性が大と考える。 上記各鑑定の内容についての検討上記各鑑定によれば,被害者の死因及び殺害方法について,被害者の死因が鼻口孔部閉塞による窒息死であるとして被害者の遺体の所見と法医学的に矛盾がないことが認められる。 進んで,O教授の鑑定は,上記の鑑定結果を踏まえその鑑定主文において,被害者の死因をガムテープによる鼻口孔部閉塞に基づく窒息死に因るとしている。 しかしながら,O鑑定は,被害者に無条件に死因となる内臓疾患や,慢性疾患のうち食道静脈瘤破裂及び腫瘍の急激な悪化があったとは考え難いとする根拠として,死亡の3か月以上前に実施された生命保険加入時の検診の結果や被告人の日常生活の状況についての被害者周辺の関係者の供述を挙げているが,上記検診においてなされた検査はいずれも簡易に実施可能なものに限られており,その程度の検査内 れた生命保険加入時の検診の結果や被告人の日常生活の状況についての被害者周辺の関係者の供述を挙げているが,上記検診においてなされた検査はいずれも簡易に実施可能なものに限られており,その程度の検査内容や医学知識に乏しい者の供述によって死因となりうる 内臓の病変はなかったと言い得るのか疑問がある。確かに,O鑑定やP鑑定が指摘するように,被害者が遺体発見現場において(内臓の病変によるもの,,原因不明のものを問わず)内因性の急性死をしたとするならば,被害者の身体上の損傷は少な過ぎるし,被害者の耳介部及び上唇部に認められた損傷が遺体発見現場において生じる可能性は少ないといえよう。しかしながら,この点は被害者が遺体発見現場において急性死しなかったことの根拠とは言えても,遺体発見現場以外の場所において内因性の急性死をした可能性を排除する根拠とは言えない。 また,急性中毒死の可能性を排除した点についても,無臭の薬毒物や粘膜にびらんを残さない薬毒物の存在を無視できるのか疑問がある(なお,P鑑定においては,提示された資料からはこの点について言及できないとしている。 。)このように,上記各鑑定の内容からは,遺体発見現場以外の場所において,被害者が内因性又は急性中毒により急性死した可能性を全て排除できるわけではないというべきである。そうすると,上記各鑑定結果の内容から一義的に被害者の死因が特定されるわけではなく,結局のところ,被害者の顔面等に付着した灰白色微物が粘着テープの粘着成分であることを前提にすれば,被害者の死因は,粘着テープによる鼻口孔部閉塞に基づく窒息死である可能性が高いと言えるにとどまるものと解される。 次に,本件が他殺であるとして,加害者が複数であったか否かについては,O鑑定は,死因をガムテープによる鼻口孔部閉塞による窒息死として,被害 窒息死である可能性が高いと言えるにとどまるものと解される。 次に,本件が他殺であるとして,加害者が複数であったか否かについては,O鑑定は,死因をガムテープによる鼻口孔部閉塞による窒息死として,被害者は2人以上の加害者によって殺害されたと考えられるとしている。この鑑定結果は,被害者が殺害当時に無抵抗状態ではなかったこと及び被害者の左腕部に認められる生活反応のある線状表皮剥脱と左上腕下部後面に認められる外表上表皮剥脱を伴わない暗青色変色部がいずれも被害者死亡時に生じた成傷であることが前提となっているところ,被害者が無抵抗状態ではなかったとする根拠としては,Dの供述調書中の被害者の飲酒量から推定した被害者の酩酊度を挙 げているが,Dの就寝後に被害者が更に飲酒した可能性が排斥できない以上,死亡するまでの間の被害者の飲酒量は正確には不明というほかないから,不確実な事実を前提とする推定と言わざるを得ない。また,被害者の身体上の損傷についても,その成傷時期,順序は不明であって,死亡するより前に仕事中や日常生活において既に生じていた可能性も十分に考えられる。そうすると,いずれの前提も所与のものとは言えないのであって,結局のところ,O鑑定からは被害者が2人以上の加害者によって殺害されたとしても矛盾がないという程度のことが言えるに過ぎず,この鑑定結果のみに基づいて被告人以外の共犯者の存在を認定することは到底できないというべきである。 このように,上記各鑑定は,被害者の死因,殺害方法,共犯者の存在を認定する上で,これらの点に関する被告人の供述の裏付けにこそなれ,上記各鑑定のみに基づいてこれらの事実を認定することは困難である。したがって,判示の「罪となるべき事実」の認定に際しては,上記各鑑定以外の証拠,特に被告人の供述について慎重に検討する必要がある。 ,上記各鑑定のみに基づいてこれらの事実を認定することは困難である。したがって,判示の「罪となるべき事実」の認定に際しては,上記各鑑定以外の証拠,特に被告人の供述について慎重に検討する必要がある。 第4被告人の公判供述の信用性について被告人は,当公判廷において,本件犯行に至る経緯や犯行状況について一応自らの関与を認める旨の供述をしているものの,後記1及び2で明らかなように,かかる供述に至るまでには捜査段階において幾多の変遷を経ていることから,かかる被告人の公判供述に,事実認定の基礎として用いることができるだけの信用性が備わっているのかを以下検討する。 被告人の公判供述の要旨(なお,被告人の公判供述内においても数々の変遷が認められるが,以下は,基本的に第27回公判ないし第31回公判に実施された弁護人からの被告人質問によるものである)。 ・被害者及びDの生命保険加入の経緯等Kから被害者を生命保険に加入させるように依頼されたことから,G生命の保険外交員であるHを自宅に呼んで被害者やDに生命保険に加入するよう に勧めた。その後,被害者がI解体で働き始め,Kから保険の話はどうなったかと聞かれたので,Cにその話をしたところ,Cが鳥栖のB生命に電話をしてくれて,同人と一緒に鳥栖のB生命に行った。そして,B生命鳥栖営業所のQが被害者やDに保険の勧誘をした。 Dを被保険者及び保険契約者とするB生命の生命保険については,契約書や保険証券の死亡保険金受取人欄にある自分の名の署名は自分の筆跡であるが,その他の記載については分からない。死亡保険金の受取人が自分になっている理由も分からない。この保険加入時の検診は自分が受けたが,これはDの腹部には手術痕があったので,C,自分,被害者,Dの4人で相談して決めたことである。検診にはCと2人で行き,その帰 自分になっている理由も分からない。この保険加入時の検診は自分が受けたが,これはDの腹部には手術痕があったので,C,自分,被害者,Dの4人で相談して決めたことである。検診にはCと2人で行き,その帰りにDに報告した。Dから保険料を立て替えてくれと頼まれたことから,この生命保険の保険料を2か月分は自分が支払った。そのこともDに報告した。保険料支払いのためのD名義の口座は自分が作ってやったかもしれない。被害者死亡後にDやFからD名義の保険加入について問い詰められたことはない。Dを殺害して死亡保険金を取得したいという気持ちはなかった。 本件生命保険については,B生命のQから,被害者,D,自分,Cの4人が説明を受けた。検診にも4人で行って,被害者自身が診察を受けた。本件生命保険の保険料についても,被害者から頼まれて自分が立て替えていた。 自分が保険料を立て替えていたことは,被害者,D,C,Kも知っていた。 保険料支払いのための被害者名義の口座も自分が開設したと思う(ただし,第29回公判における被告人質問においては,このことは思い出さないと供述している。 。)・本件生命保険の死亡保険金受取人変更の経緯時期は分からないが,本件生命保険の契約締結後,被害者,D,C,自分,Kの5人で,被害者方において酒を飲む機会があった。その際,DとCが席を外したときに,Kから「被害者は被告人と一緒になり,DはKとよりを, 戻す。生命保険の死亡受取人を被告人に変更する」という話になり,被害。 者も承諾していた。死亡保険金受取人の名義を被告人に変更する旨の,被害者作成名義の昭和62年6月3日付けのメモは被害者本人又はKから受け取った。また別の機会に,C,自分,Kの3人で本件生命保険の死亡保険金を分け合うという話になったこともある。 CとB生命佐賀支社に死亡保険 名義の昭和62年6月3日付けのメモは被害者本人又はKから受け取った。また別の機会に,C,自分,Kの3人で本件生命保険の死亡保険金を分け合うという話になったこともある。 CとB生命佐賀支社に死亡保険金受取人の名義変更の手続に行った。そのとき提出した「名義変更請求書兼改印届」の中で自分が書いたところはない。 その際に,Cに対して「結婚するもんね」と言ったことはあるが,何故そ。 んなことを言ったのかは分からない。 死亡保険金受取人の名義変更手続後,Lアパートにおいて,受取人変更の事実をCがLに話していた(ただし,第28回公判における被告人質問においては,このことを覚えていないと供述している。Lは「おなごはうた。),うから(信用)できんもんね」と言っていた。これを聞いて保険金の話,。 だと思った。 ・被害者殺害に至る経緯死亡保険金受取人の名義変更手続後,Lアパートにおいて,Lもいるところで,Cから保険料を払っておかないといけないと言われた。Cは来月分は誰かから借りるなどという話もしていた。Kは,被害者殺害のことは事前には知らなかったと思う。 被害者を殺害する前にCからガムテープを持っているか否かを尋ねられ,車の中にあると答えた。その後,昭和62年8月28日の二,三日前に,Cから,直接会ってか又は電話で,久留米に飲みに行こうと言って被害者を誘い出すように言われた。そのときには,被害者を殺害することになると分かっていた。その前にも話合いはあったように思うがはっきり思い出せない。 同月28日,被害者方で酒を飲んでいた際に,被害者を飲みに誘った。同日午後10時ころ,被害者方を出て自宅に戻り,10分ほど自宅にいた後,軽 自動車を運転して被害者方アパート近くのコンビニエンスストアに行き,同日午後11時ころ,C及び被害者と落ち合った。コンビニエ 午後10時ころ,被害者方を出て自宅に戻り,10分ほど自宅にいた後,軽 自動車を運転して被害者方アパート近くのコンビニエンスストアに行き,同日午後11時ころ,C及び被害者と落ち合った。コンビニエンスストアでビール,焼酎を買った後,Cが運転し,自分と被害者が後部座席に座った。3人で車で3時間くらいぶらぶらし,途中車を止めてビール等を飲んだ後,療養所の南側に着いた。翌29日午前3時ころ,自分と被害者がトイレに行って戻ってきて,被害者は助手席,自分は運転席,Cは後部座席に座った。被害者が「帰ろう,眠くなった」と言ったので,Cが「寝ていていい,送っ。 ていく」と言った。被害者がシートを倒して眠っていたところ,Cが「テ。 ープどこにあんね」と聞いてきたので「後ろにある」と答えた。それを。 ,。 聞いて,Cが被害者をテープで殺すつもりだと思った。Cが被害者にテープを巻き付けるところは見ていないが,音で被害者の体にテープを巻き付けていることが分かった。体のどこに巻き付けてあったかは分からない。被害者が足をバタバタさせていたのでCが助手席の方に回ってきて,足にもガムテープを巻き付けようとしていた。被害者のうめき声も聞いたように思う。Cから足を押さえるように言われた(ただし,第35回公判における被告人質問においては,そのように言われなかったと供述している)が,自分は体。 が震えてできなかった。その後,Cから車を出すように言われ,自分が車を運転して被害者の実家のあるE部落まで来た。Cが被害者の体からテープをはがして,車から降ろし,道端に置いていた。そのときの被害者の状況は見ていない。その後,2人で被告人方に戻り,Cはすぐに車でLアパートに戻って行った。 その後,Cから電話がかかってきて,死体遺棄現場を見に行ってくれと言われたので,同日午前9時ころ の被害者の状況は見ていない。その後,2人で被告人方に戻り,Cはすぐに車でLアパートに戻って行った。 その後,Cから電話がかかってきて,死体遺棄現場を見に行ってくれと言われたので,同日午前9時ころ,自転車で現場を見に行った。現場には何もなかったので,被害者の実家であるK方を訪ねた。そこでKの娘か妻から被害者が死んだことを聞いた。通夜の料理を作るのに必要な鍋がないということだったので,自宅に戻って,被害者の実家に鍋を持っていった。 ・被害者の死亡保険金の請求手続等本件生命保険から被害者の死亡保険金の支払を得るため,Cと共に医師のところにいって死体検案書を書いてもらった。また,Cと共に神埼町役場で被害者の除籍謄本をもらった。それらの書類と共に保険金の支払請求をした。 受取人の名義変更がなされた後の保険証券がどうなっていたか分からない。 自分がB生命に保険金請求をすることや保険金の額をKは知っていた。保険金が下りないことについてB生命に電話するようにLに頼んだことはない。 昭和63年1月には,Kから保険金の支払について弁護士に相談するように言われ,3万円もらって弁護士に相談に行った。保険金の支払が受けられないという段階に至って,Kから今までのことはなかったことにしてくれと言われた。 被害者の死因が病死であることをうかがわせる内容の手紙の下書きをLから受け取ってNに書いてもらうように言われた。Cと2人でNの家に行ってNに書いてもらった。手紙の内容については承知していない。Lから手紙をKに出すように言われた。被害者死亡後に,Kから本件生命保険について厳しく責められるようなことはなかった。 被告人の捜査段階における供述経過・昭和63年2月10日ないし同年3月2日における被告人の供述内容アK,D,Cを共犯者とする供述昭和62年8月の盆 厳しく責められるようなことはなかった。 被告人の捜査段階における供述経過・昭和63年2月10日ないし同年3月2日における被告人の供述内容アK,D,Cを共犯者とする供述昭和62年8月の盆ころに,被害者方において,K,D,C,自分の4人で被害者を殺して保険金を取ろうという話し合いをした。KがDとよりを戻して被害者を殺害することを提案してきたので,D,C,自分はこれを承諾した。保険金の分配は,K3000万円,D1000万円,Cと自分がそれぞれ500万円ずつであった。CとKが殺害を担当し,自分は車を貸すだけの役割であった。同年8月28日は,午後11時ころ被害者方を出て,自宅に帰った。車は鍵を掛けずに止めておいた。翌日,K方に行 ってみると,Kの娘が被害者が殺されたという話をしていたので,Kが被害者を殺害したと確信した(乙8)。 K,D,C,自分で5回くらい集まったことがあるが,被害者を殺害して保険金を得ること,受取人の名義を自分にすること,保険金の分配額や役割分担等について話をした。5回目のときに,Kが,8月28日の夜に被害者を殺害すること,Dが午後12時半ころに被害者に薬を飲ませてコンビニエンスストアの近くに連れてくること,自分がKを午後12時ころまでに迎えに行くことを決めた。28日は被害者方を出た後自宅に戻り,午後11時40分ころに自宅を出て,待ち合わせ場所にKを迎えに行った。 Kと落ち合った後,Kが,Cがアパートにいると言うのでアパートに行くと,帰ってよいと言われた。Cが出てきたのを見てから帰った。翌日,Cからは「おいがした。おいは動かんごと足ば握っとった。かわいそかった」と言っていた。殺したのは,KとCと誰かもう一人の名前を言って。 いた(乙10)。 イL,Cを共犯者とする供述同年8月16日ころ,C,L,自分の おいは動かんごと足ば握っとった。かわいそかった」と言っていた。殺したのは,KとCと誰かもう一人の名前を言って。 いた(乙10)。 イL,Cを共犯者とする供述同年8月16日ころ,C,L,自分の3人で話をしていたところ,自分が本件生命保険の死亡保険金受取人になっていることを事前に知っていたLが,被害者を殺害して保険金を取ろうということを言いだした。Lの提案に賛成して,月末に被害者を殺害することとした。保険金の分配は,Lが1000万円,自分が1000万円,Cが1000万円となり,残りの2000万円のうち1000万円は被害者の母親に渡した方がいいと自分が言った。Lが28日の晩に殺そうと言い,更に具体的な殺害方法について話をしていた。 同月28日夜,被害者方で酒を飲んでいたが,Dが便所に行った際に,被害者に「今夜久留米に飲みに行こう。嫁さんに黙って今夜1時にコンビニエンスストアのところにきとかんね」と言ったところ,被害者は承知。 した。その後,自宅に戻り,午前零時40分ころにコンビニエンスストアに行くとLとCがLの車で来ていた。L,C,被害者,自分の4人で車に乗って移動し,午前2時ころ,山中の三叉路のところに来て,Lが自分に車から降りていいと言ったので,車から降りると,CとLが被害者の体にガムテープを巻き付けたり足を捕まえたりしていた。テープは現場でほどいて捨てた。その後,死体を捨てに行く途中で自分は車から降りた。 KとDを共犯にしようと考えて名前を出した理由は,Kと被害者がつかみ合いのけんかをしたことがあったこと,Kの女であったDを被害者が取ったことを知っていたこと,雑談の中でKがDに自分に付いてくるかと言っていたことなどからである。 ウ単独犯行であるとする供述当初は,Dを殺害しようと思っていたが,その後,被害者に目を付けて が取ったことを知っていたこと,雑談の中でKがDに自分に付いてくるかと言っていたことなどからである。 ウ単独犯行であるとする供述当初は,Dを殺害しようと思っていたが,その後,被害者に目を付けて保険に加入させた。被害者は自分の言うことをよく聞いたし,外に連れ出しやすく,飲んだら眠ってしまうことも知っていたので,殺しやすいと考えた。殺す方法については誰かからガムテープがよいと聞いていた。 昭和62年8月28日の夜,ビールを買うために被害者方を出たときに,被害者に「今夜久留米に飲みに行くけん,嫁さんに黙って,今夜1時にコンビニエンスストアに出てこんね」と誘った。翌29日午前1時ころ,。 被害者がコンビニエンスストアに来たので,被害者を助手席に乗せて自分が運転した。E部落に向かい,午前3時過ぎ,K方近くの川沿いの道路に車を停めた。道路端で被害者と話をしていると被害者が眠ったので,被害者の腕と胸をガムテープで縛り付け,両腕と両足をそろえてガムテープを巻き付けた上で鼻と口にガムテープを貼り付け,鼻と口のところに貼ったテープを押え付けてその場で殺害した。ガムテープはその場で取り外し,車の後部座席に死体を抱えて乗せ,その死体をE部落の道路端に抱えて捨てた。 L,Cとは話し合っておらず,一度,話を持ちかけたことがあったが,Lには,そがんことはせんがよかろうと言われた。L,Cには無理矢理に性関係を持たされたり,サラ金から金を借りるように脅されたりしたことがあり,歯痒かったので共犯者にしたてあげた。 ・平成14年8月3日ないし同月21日における被告人の供述内容アKが本件殺人に関与していたことをうかがわせる供述Kが被害者に対して「お前はDと別れてからAと一緒になれ。保険もかかっとるとは,受取人をAに変えろ」と言っていた。Kは被害者を殺し。 て 述内容アKが本件殺人に関与していたことをうかがわせる供述Kが被害者に対して「お前はDと別れてからAと一緒になれ。保険もかかっとるとは,受取人をAに変えろ」と言っていた。Kは被害者を殺し。 て保険金を取った上,Dも取り返そうと考えていたようであった。 イC,Lを共犯者とする供述本件犯行の1週間から10日くらい前にLから呼び出されて焼鳥屋Mに行くとLが名義変更が済んでいるのか聞いてきた。済んでいる旨答えると,Lは「そこまで済んどるなら」と言った。それからしばらくして,Cか。 らの電話で「Aさん,どうもVさんばやっこったよ」と言ったので,L。 とCが被害者を殺害して保険金を取ろうとしていると思った。それから数日後,Lアパートにおいて,Cからガムテープを持っていないか尋ねられたので,Cにガムテープを渡した。昭和62年8月27日の夜にCから電話で「明日すっかわからんよ。明日Vさんば呼びださんばいかんよ」と。 言われた。翌28日に被害者方で酒を飲んでいた際に,Dが被害者から離れた時を見て,被害者に飲みに行くことを誘った。 その後,待ち合わせ場所で待っているとLが白っぽい車を運転してCとともにやってきた。Cが帰っていいと言ってくれたので,殺しの手伝いをしなくてよかったと思い,ほっとして帰った。翌朝,Cから電話で被害者の死体を道に置いているから見てくるように言われ,遺棄現場に見に行った。 Nに書いてもらう手紙の下書きをLから渡され,Cと2人でNのところ に行き,自分1人が同人に会って手紙を書いてもらった。 ウCを共犯者とする供述Dに保険をかけて殺害し保険金を取ろうと考え,B生命のQに自分のところに来てもらいDに保険の説明をしてもらったが,Dは保険に入らなかった。Qが書類を置いていったので,自分で勝手に書き込んで印鑑を押したと思う。 被 殺害し保険金を取ろうと考え,B生命のQに自分のところに来てもらいDに保険の説明をしてもらったが,Dは保険に入らなかった。Qが書類を置いていったので,自分で勝手に書き込んで印鑑を押したと思う。 被害者がI解体で仕事中に足を怪我したことがあったので,自分が被害者に生命保険加入を勧めて,B生命のQを被害者方に呼んで契約をした。 死亡保険金が高かったので,後で受取人を自分に変更して被害者を殺害し保険金を受け取るつもりであった(ただし,乙38においては,後にKから受取人の名義変更をするように言われて被害者を殺して保険金を得ようと考えるようになった旨供述している。被害者が保険に入ってしばら。)くして,被害者,K,Cと酒を飲んでいるときに,Kが被害者に対し,「お前はDと別れてAと一緒になれ,入っている保険は受取人をAにしろ」と言った。被害者も自分に気があるようで,言われるとニコニコし。 ていた。受取人の名義変更手続の前にCには,被害者を殺害して保険金を取る考えがあることを話した。被害者の気が変わる前にということで,Cと共にB生命佐賀支社に必要な書類を取りに行ったと思う。死亡保険金受取人名義の変更手続をした二,三日後にCが自宅に来て「お金がないや,ろう,Vを殺して保険金を得ようか」という話をしてきた。被害者を殺。 害する方法については,Lアパートに行った際に何回かに分けて,被害者の鼻と口にガムテープを貼って殺す,酔わせて眠ったところを殺す,酔わせるために被害者を呼びだして車に乗せて車の中で殺す,被害者をKの家の近くに置くという話をした。被害者を殺害する前にCとともに殺害場所の下見をした。 昭和62年8月28日は,午後10時過ぎころまで被害者方で,被害者, Dと飲んでいた。Dがトイレに立ったときやコンビニエンスストアに買い物に行った際に被 る前にCとともに殺害場所の下見をした。 昭和62年8月28日は,午後10時過ぎころまで被害者方で,被害者, Dと飲んでいた。Dがトイレに立ったときやコンビニエンスストアに買い物に行った際に被害者に「久留米に飲みに行かんね」と誘った。待ち合。 わせの時間は午後11時ころだったと思う。午後11時前ころに自宅に戻って,Cと会って一緒に車で待ち合わせ場所のコンビニエンスストアの裏の道に行った。被害者が来ると,自分と被害者が車の後部座席に座って(ただし,乙37においては,被害者は助手席に座ったと供述している,Cが運転してしばらく車を走らせ,いろいろな所に行った後,療。)養所の敷地内に入って車を停めた。3人とも小便をして車に戻り,被害者が助手席,自分が運転席,Cが後部座席に座った。被害者が「眠くなった,帰ろう」と言ったのでCが「寝とってよか,送ってやるけん」と言っ。 。 た。被害者は助手席を倒して眠ってしまった。Cが「Aしゃん,ガムテープは」と聞いてきたので後ろにあると答えた。運転席に座ったままでい。 ると,助手席の方から苦しそうな声が聞こえてきた。後ろを振り返ると被害者の胸のところにガムテープが巻かれていた。被害者が足をばたつかせると,Cが自分に「押さえて」と言った。自分は運転席から被害者の腰。 付近か両足の太股あたりを上から押え付けた。Cが助手席の横にやってきて被害者の膝あたりをガムテープで巻き付けた。その後,Cが後部座席に座って車を出すように言ったので,南の方へ向かった。K方付近の道路で車を停め,Cが助手席のドアを開けて被害者の死体を抱え上げて道端に置いた。その後,自宅に戻り,Cは自宅近くに止めてあった車に乗って帰っていった。その際,Cから,朝になったらK方がどうなっているか見てきてくれと言われた。 被告人の公判供述の信用 え上げて道端に置いた。その後,自宅に戻り,Cは自宅近くに止めてあった車に乗って帰っていった。その際,Cから,朝になったらK方がどうなっているか見てきてくれと言われた。 被告人の公判供述の信用性の検討被告人の第27回公判以降の公判供述は,当初の罪状認否において被害者の殺害への関与を否認していた被告人が,公開の法廷の場において殺人罪の共同正犯としての罪責を認める内容の供述をするに至ったものであり,かかる供述 経過や殺人罪という重罪について自己の責任を認めるという供述内容の持つ意味合いからすると,それだけで相応の信用性を有するとも考えられる。 しかしながら,被告人は,上記2のとおり,昭和63年2月ないし同年3月の取調べにおいて,既に被害者の殺害に関与した旨供述しており,さらに,平成14年7月に本件殺人について逮捕され,引き続き勾留された際の取調べにおいても,被害者の殺害に関与した旨の供述はしていたのであって,当公判廷において初めて被害者殺害について自己の罪責を認める供述をするに至ったというわけではない。しかも,被告人の供述内容は,前述したように,捜査段階から数々の変遷を繰り返している。すなわち,昭和63年の取調べでは,K,D,C,被告人の4人で共謀し,自分は殺害現場にいなかったと供述し,その後,L,C,被告人の3人で共謀し,自分も殺害現場にいた旨供述を変遷させ,さらには単独で被害者を殺害したと変遷させている。平成14年の取調べでも,当初は,Kが本件殺人に関与しているかのような供述をし,その後,L,C,被告人の3人で共謀し,自分は殺害現場にはいなかった旨供述し,さらに,Cと2人で共謀し,自分も殺害現場にいたと供述を変遷させている。確かに,上記1の被告人の公判供述は,捜査段階における最終的な供述(検察官に対する供述調書等)と共通点が はいなかった旨供述し,さらに,Cと2人で共謀し,自分も殺害現場にいたと供述を変遷させている。確かに,上記1の被告人の公判供述は,捜査段階における最終的な供述(検察官に対する供述調書等)と共通点が多いものの,Dを殺害して保険金を詐取する意図があったか否か,被害者を殺害する際に被告人自身が被害者を押え付けたか否かといった点等において変遷が認められるばかりか,公判供述内においても変遷が見られる。しかるに,被告人は,これらの変遷の理由について合理的な説明を十分にしていない。加えて,被告人は,自己に不利な内容の質問や矛盾を追及されると「分からない「覚えていない」との供述を繰り返し,また,質,。」,。 問者が変わると,自らがした直前の供述内容と異なる供述をするなど場当たり的に供述を変遷させているが,このような被告人の供述態度は,時間の経過による記憶の減退や被告人の体調不良のほか,被告人自身の知的能力の問題もその一因になっていると解されるが,他方で自らに都合の悪い質問を避けようと する意図もうかがわれるところである。 以上のとおり,被告人の公判供述は,殺人罪について自己の罪責を認める内容ではあるものの,変遷を繰り返してきたこれまでの供述経過,当公判廷における供述態度等からして,その供述内容全てについて無条件に高度の信用性を認めることはできないというべきである。したがって,供述内容ごとに,その内容の合理性,捜査段階及び公判を通じた供述の一貫性,鑑定等の他の客観的証拠・情況との符合状況,裏付けの有無等を慎重に吟味してその信用性を判断する必要があるので,以下,供述内容ごとに検討を進めることとする。 供述内容ごとの信用性の検討及びそれに基づく事実認定の可否・本件生命保険加入状況,死亡保険金受取人の名義変更の経緯等について被害者に本件生命保 で,以下,供述内容ごとに検討を進めることとする。 供述内容ごとの信用性の検討及びそれに基づく事実認定の可否・本件生命保険加入状況,死亡保険金受取人の名義変更の経緯等について被害者に本件生命保険の加入を勧めた理由について,被告人は,Kから依頼されたことをあげているが,就職直後の,経済的にも不安定な状況下において,何故にKが被害者らに保険加入を勧めたのか,しかも他人である被告人を通したのかについて被告人は納得できる説明をしていない。同様に本件生命保険の死亡保険金受取人がDから被告人に変更された理由についても,Kが言いだしたことであるかのような供述をしているところ,Kがそのようなことを言い出した背景事情として,K自身はDと一緒になるので,被害者は被告人と一緒になるように勧めていたことを挙げ,また,被害者が受取人の変更を納得した理由として,被害者は自分に気があるようだった旨述べているが,当時,KがDとよりを戻すことを望んでいたとの事情や被害者とDとの間に不和なり感情的な問題があったことをうかがわせる事情も見当たらない上,被告人自身が当時,Cと交際していた(なお,被告人は当公判廷においてKとの間でも男女関係があった旨述べている)ことからすると,被。 告人の上記供述は何ら裏付けのないものであるばかりか,ことの成り行きとして非常に不自然というほかない。また,被告人がD及び被害者に代わって保険料の立替払いを行っていた理由についても,D及び被害者から頼まれた からであると供述するが,借金を抱え,公共料金等の支払も滞るなどの経済的な困窮下にあった被告人が多額の保険料を立て替える理由としては到底納得できるものではない。このように,被害者が生命保険に加入した経緯や死亡保険金受取人の名義変更がなされた経緯等に関する被告人の当公判廷における供述は, 人が多額の保険料を立て替える理由としては到底納得できるものではない。このように,被害者が生命保険に加入した経緯や死亡保険金受取人の名義変更がなされた経緯等に関する被告人の当公判廷における供述は,その内容自体が不合理,不自然であり,当然なされるべき供述や説明が欠落している上に,信用性に特段の問題が見当たらないKやDの供述内容とは相違し,裏付けとなる事実も存在しないのであって,到底信用することができない。 他方で,被告人は,捜査段階において,当初からDや被害者を殺害する意図をもって保険に加入させた旨供述していたが,D加入の生命保険については当初から被告人本人が死亡保険金の受取人となっているのに対し,本件生命保険では契約時には死亡保険金受取人がDとされており,当初から被害者を殺害する意図があったとするには不自然との感が否めない。また,死亡保険金受取人の名義をDから被告人に変更することになった理由・経緯についても,被告人以外の関係者の供述はほとんど存在せず,被告人の供述も捜査段階から変遷を繰り返しており,どのような理由・経緯によって名義変更がなされたのかその詳細は不明というほかない。結局,被告人が被害者を殺害して死亡保険金を取得する意図の下,あらかじめ被害者を本件生命保険に加入させたと認定できないことはもとより,上記意図の下で死亡保険金受取人の名義変更を行ったと認定することもできない。 ・被告人による誘い出しと殺害現場への臨場について被告人の公判供述のうち,被告人自身が被害者を誘い出したとする点については,その内容自体が被告人の罪責に直結する被告人に不利益な事実である上に,捜査段階から供述内容がほぼ一貫していること,誘い出す前の状況についてはDの供述により裏付けられていることなどから,その供述は十分に信用することができる。そして,被告人 人に不利益な事実である上に,捜査段階から供述内容がほぼ一貫していること,誘い出す前の状況についてはDの供述により裏付けられていることなどから,その供述は十分に信用することができる。そして,被告人が被害者を誘い出したとすると, その後も被告人と被害者が行動を共にし,その結果,被害者殺害の現場にも被告人が居合わせていたと考えるのが自然の流れであって,これも被告人に不利益な事実でもあることから,この点に関する被告人の公判供述も信用することができるというべきである。 なお,被告人は,当公判廷において「公判の当初は,誘い出した後で自,宅に帰った旨述べていたが,弁護人と話をするうちに被害者に申し訳ないと思い,殺害現場に行ったことを正直に話した」旨供述しており,公判廷に。 おける供述の変遷について一応首肯し得る理由を述べていることからもその信用性は肯定できるものと解される。 したがって,被告人が被害者を殺害すべく誘い出し,その殺害現場に臨場していたとの事実が認められる。 なお,被告人は,当公判廷では,療養所の南側において被害者を殺害した旨供述しているが,殺害場所についての被告人の供述は捜査段階から変遷を繰り返しており,何らの裏付けも存在しないことから殺害場所に関する供述は信用することができない。もっとも,被害者の生存が最後に確認されたのが昭和62年8月28日午後11時過ぎころであり,被害者の遺体発見が翌29日午前6時10分ころであって,さらに,検視結果,O鑑定及びP鑑定によれば,同日未明ころに被害者は死亡したものと認められる。そうすると,上記各時間の関係からすると,被告人らが自動車で移動していたとしても,遺体発見現場からそう遠くない場所で被害者は殺害されたものと考えられることから,殺害現場は神埼町内又はその周辺であると認められる。 ・被害 の関係からすると,被告人らが自動車で移動していたとしても,遺体発見現場からそう遠くない場所で被害者は殺害されたものと考えられることから,殺害現場は神埼町内又はその周辺であると認められる。 ・被害者の死因及び殺害方法について被告人の捜査段階の供述のうち殺害方法に関し具体的に言及したものは,被害者の体に粘着テープを巻き付けた上で,粘着テープで被害者を殺害したといった内容のもので,他の殺害方法について述べたものはないことからすると,被害者の殺害方法に関する供述は捜査・公判を通じてほぼ一貫してい るといえる。また,O鑑定及びP鑑定によれば,被害者の死因が鼻口孔部閉塞による窒息死であるとして被害者の遺体の所見と矛盾はないとされていること(もっとも,これらの鑑定結果のみに基づいて被害者の死因及び殺害方法を認定できないことは前述のとおりである,及び被害者が着用してい。)た茶色ズボンの左膝裏部付近には布製粘着テープ片が付着し,同粘着テープ片の粘着成分に類似したものの付着が水色カッターシャツや茶色ズボンに認められたことは,殺害方法に関する被告人の公判供述の客観的な裏付けとなっている。そうすると,この点に関する被告人の公判供述は,十分に信用することができ,粘着テープを被害者の体に巻き付け,粘着テープで鼻口孔部を閉塞して被害者を窒息させて殺害したとの事実が認められる。なお,被害者の茶色ズボンの裏側に付着していた布製粘着テープ片は,その際に使用された粘着テープが残存したものと認められる。 もっとも,上記認定にかかる殺害行為に被告人自身が直接加担したか否かについて,被告人は,昭和63年の取調べの最終段階においては単独で被害者の鼻・口にガムテープを貼り付けた旨の供述をし,平成14年の取調べにおいては被害者の足等を押え付けた旨供述している一方,当公判廷 について,被告人は,昭和63年の取調べの最終段階においては単独で被害者の鼻・口にガムテープを貼り付けた旨の供述をし,平成14年の取調べにおいては被害者の足等を押え付けた旨供述している一方,当公判廷においては運転席に座ったまま両手でハンドルを握りしめており,テープを巻き付けたり,被害者の体を押さえるようなことはしていないと供述しており,その間に変遷が見られるが,かかる変遷について合理的な説明はなされていない。 もとより,被告人の供述以外に殺害行為を行った者を特定するための証拠は全く存在しないことからすると,いずれの供述が信用できるのか決し得ず,被告人が上記殺害行為に直接関与したか否かは結局のところ判然としないと言わざるを得ない。 ・共犯者の存在について本件殺人に関与した共犯者の存在について,被告人は,昭和63年の取調べにおいて,本件殺人は単独犯である旨の供述を一時期していた以外は,ほ ぼ一貫して共犯者が存在する旨供述している。この単独犯供述について,被告人は,当時,共犯者とする人物が暴力団の関係者であって,その暴力団の関係者が自宅に押し掛けてきて,共犯者の名前を出さないように脅迫されてやむなく供述した旨当公判廷において供述しているところ,昭和63年当時の取調官もこれを裏付ける証言をしていることからすると,被告人が共犯者が存在しながら虚偽の単独犯供述をしたことは十分に考えられるものである。 加えて,O鑑定及びP鑑定は,被害者は遺体発見現場以外の場所で殺害され,同現場に遺棄された可能性を強く指摘しており,それは遺体発見現場でサンダルが片方だけしか発見されていないことや被害者の足の裏があまり汚れていないことなどの客観的状況とも一致することから,被害者は遺体発見現場以外の場所で殺害されたものと認められる。そうすると,女性である被告人が単 しか発見されていないことや被害者の足の裏があまり汚れていないことなどの客観的状況とも一致することから,被害者は遺体発見現場以外の場所で殺害されたものと認められる。そうすると,女性である被告人が単独で成人男性である被害者の遺体を運搬して遺棄することは相当困難であると考えられることからすれば,被告人の公判供述は,共犯者が存在するという限度では裏付けとなる証拠も認められ,十分信用することができると言うべきである。 ところで,かかる共犯者が存在するとなると,その者は被告人と共に被害者の殺害現場に臨場し,被害者殺害の実行行為に直接関与したか,少なくとも実行行為と密接に関連する行為を担ったものと認められるから,かかる共犯者も本件殺人の共同正犯としての罪責を負うものと認められる。 ・共犯者の特定について上記1で見たとおり,被告人は,当公判廷において,KやLが本件殺人に関与していたかのような供述をしているが,その事実関係はいずれもあいまいなものである上,客観的にKやLの関与がうかがわれる事実としては,昭和62年12月にLがB生命に電話をかけ本件生命保険の保険金支払について問い合わせをした事実が挙げられるのみであって(ただし,被告人自身はLがB生命に電話をした事実は知らないと供述している,ほとんど裏付。) けを欠いており,到底信用できない。仮に被告人が当公判廷で述べるところが事実であったとしても,その事実関係からはKやLが本件殺人の共犯者であったとは認定できない。 次に,Cが共犯者であるか否かという点について,被告人は,当公判廷において,Cが共犯者であることを明言し,捜査段階からほぼ一貫して共犯者のうちの1人としてCの名前を挙げているものの,共犯者の顔ぶれについては,昭和63年の取調べにおいては,①K,D,Cを共犯者とする供述,②L,Cを であることを明言し,捜査段階からほぼ一貫して共犯者のうちの1人としてCの名前を挙げているものの,共犯者の顔ぶれについては,昭和63年の取調べにおいては,①K,D,Cを共犯者とする供述,②L,Cを共犯者とする供述,③被告人の単独犯とする供述がそれぞれなされ,平成14年の取調べにおいては,①Kが本件殺人に関与していたことをうかがわせる供述,②L,Cを共犯者とする供述,③Cを共犯者とする供述がそれぞれなされ,当公判廷においてはCを共犯者とする供述がなされているように著しい変遷が認められる。また,共犯者間の具体的な役割分担等の点についても,①Kが被害者の殺害を提案し,Kが被告人に対し被害者を誘い出すように指示し,KとCが実行行為を行ったとする供述,②Lが被害者の殺害を提案し,LとCが実行行為を行ったとする供述,③被告人が単独で犯行を行ったとする供述,④Cが被告人に被害者を誘い出すように指示し,LとCが実行行為を行ったとする供述,⑤Cが被害者の殺害を提案し,被害者を誘い出すことを指示し,被告人と共に実行行為を行ったとする供述というように変遷が認められる。 確かに,Cは,死亡保険金受取人の名義変更手続に被告人と同行していること,死亡保険金請求のための種々の手続にも被告人と同行していること,本件当時はCと被告人との間には男女関係があり,Cは被告人と常に行動を共にしていた人物であること等の事実が認められることから,Cが共犯者であった蓋然性は認められる。しかしながら,他方で,上記手続は主に被告人が前面に立って行っており,本件生命保険に関連してCが単独で行動していたとの事情は全くうかがえないこと,C自身が当公判廷に出廷した上で本件 殺人への関与を全面的に否定し,上記の手続に関与したのは被告人からついてくるように言われたからついて行ったに過ぎないと ていたとの事情は全くうかがえないこと,C自身が当公判廷に出廷した上で本件 殺人への関与を全面的に否定し,上記の手続に関与したのは被告人からついてくるように言われたからついて行ったに過ぎないと述べていることなどからすれば,Cが被告人と行動を共にしていたことが,Cが共犯者である旨の被告人の公判供述を決定的に裏付ける事実であるとまでは言えない。 加えて,その供述内容を吟味してみても,死亡保険金受取人の名義変更手続を行った後,被害者の殺害に至るまでの間に,Cとの間で本件殺人に関して如何なるやりとりがあったかについて,被告人は,Cから粘着テープを持っているのか尋ねられたこと,殺害の二,三日前に被害者を誘い出すようにCから言われ,被害者を殺害することになることが分かったことなどを供述するのみで,それ以外についてはあいまいな供述に終始し,ほとんど具体的な供述をしていないことから,Cとの間で殺害方法等についてどのような事前謀議があったのか,いかなる経緯で被害者殺害が実行に移されるに至ったのかについてその詳細は全く明らかになっていない。仮に被告人が述べるところのやりとりしかなされなかったとした場合,被告人はほとんど詳しい事情を知らないまま,突然,被害者を殺害するために同人を誘い出す役割を担うことになったということになるのであって,本件殺人の前後において被告人の果たした役割の重要性からしてあまりに不自然というほかない。 以上の検討からも明らかなように,Cが共犯者である旨の被告人の公判供述は,C自身の役割についても変遷があることやCとの具体的な共謀の経緯等について,あいまいな点や説明の欠落が多々認められ全体として不自然な内容になっていることなどからすると,高度の信用性までは認められず,被告人の公判供述に基づいて共犯者がCであると認定することはできない ついて,あいまいな点や説明の欠落が多々認められ全体として不自然な内容になっていることなどからすると,高度の信用性までは認められず,被告人の公判供述に基づいて共犯者がCであると認定することはできないというべきである。 第5結論してみると,被告人の公判供述の中で信用性が認められる部分及び関係各証拠により,上記「罪となるべき事実」記載のとおりの日時・場所において,被 告人が共犯者と共謀の上,判示の方法により被害者を殺害した事実を認定することができるが,他方で,本件殺人において共犯者の存在が認められ,それがCである蓋然性も認められるものの,合理的な疑いを超えて共犯者がCであったと認定することはできず,結局のところ,特定の人物を本件殺人の共犯者として認定することはできないことから,上記「罪となるべき事実」記載のとおり「他者と共謀の上」と判示するほかない。 ,(法令の適用)省略(量刑の理由)第1本件犯行における被告人の役割について 問題の所在検察官は,被告人が,被害者の死亡保険金を得ることを目的として被害者の殺害を計画し,現にその殺害を実行に移した中心人物,首謀者であると主張するのに対し,弁護人は,Cこそが本件殺人を計画し実行した首謀者であって,被告人は首謀者ではないと主張するので,以下,被告人が本件犯行において果たした役割について検討する。 弁護人の主張について弁護人は,Cこそが本件殺人を計画し実行した者であり,被告人に対して優越的な地位にあった首謀者であって,被告人は従属的な地位にあったに過ぎない旨主張するところ,被告人以外の共犯者の存在自体は認定できる以上,その共犯者が,本件生命保険の死亡保険金受取人名義の変更手続や死亡保険金請求手続において被告人と行動を共にしていたCであった蓋然性自体は認められる。 しかしな 以外の共犯者の存在自体は認定できる以上,その共犯者が,本件生命保険の死亡保険金受取人名義の変更手続や死亡保険金請求手続において被告人と行動を共にしていたCであった蓋然性自体は認められる。 しかしながら,前述したとおり,被害者が本件生命保険に加入した経緯,死亡保険金受取人の名義変更の経緯に関する被告人の公判供述の内容が不合理,不自然であって信用できない上,被告人とCとの間における被害者殺害に関する事前謀議等についても具体的な供述はなく,結局,Cを共犯者とする被告人の 公判供述によったとしても,被告人とCとの間で被害者を殺害する計画の立案や殺害行為を実行するに当たっての打合せが具体的にいかなる形で行われたのかは明らかになっておらず,被告人とCのどちらがより優越的な地位にあったかは不明であるというほかない。 検察官の主張について検察官は,共犯者を特定することなく,種々の間接事実に基づいて,被告人が本件犯行の中心人物,首謀者であると主張する。 確かに,被告人自身が本件生命保険において死亡保険金の受取人となって,被害者の死亡による経済的利益を直接享受する立場にあり,かつ,実際に死亡保険金請求の手続も主体的に行っていること,本件犯行直前に被害者と行動を共にし,被告人自身が被害者を誘い出し,殺害現場にも臨場していることなどの事実によれば,本件殺人において,被告人が,犯行の成否につき大きな利害関係を有し,重要で不可欠な役割を担っていたことは認められる。 さらに進んで,検察官は,被告人自身が本件犯行の首謀者であると主張し,その根拠の1つとして,本件生命保険契約の締結,死亡保険金受取人名義の変更及び死亡保険金の請求の一連の経緯において,被告人が主体的に行動していることを指摘する。しかしながら,上記「事実認定の補足説明」中の第4の4の・で述べたとお 険契約の締結,死亡保険金受取人名義の変更及び死亡保険金の請求の一連の経緯において,被告人が主体的に行動していることを指摘する。しかしながら,上記「事実認定の補足説明」中の第4の4の・で述べたとおり,被告人が当初から被害者を殺害して死亡保険金を取得する意図の下,被害者を本件生命保険に加入させ,あるいは死亡保険金受取人の名義変更手続を行ったとまでは認められず,したがって,被告人がこれらの手続において主体的に行動していたことが被告人が本件犯行の首謀者であることを示す事実であるとは言えない。また,本件生命保険の保険料を被告人自身が振り込んでいたとの事情も認められるが,その原資の詳細については不明であり,最終的に被告人の負担においてなされたものか否かは明らかではなく,さらに,死亡保険金請求の手続を被告人が主体的に行っていたことは,被告人が死亡保険金受取人となっている以上,共犯者間の役割分担としてむしろ当然の ことで,共犯者の指示に基づいて被告人がかかる行動をとっていた可能性も排斥できないのであって,これらについても被告人が首謀者であることを推認させる事実であるとはいえない。 また,検察官は,被告人自身が,Nに対して被害者殺害を依頼していること,ガムテープに指紋が付くか気にするなど被告人が犯行発覚について強い関心を示していたこと,Nに対する手紙作成の依頼等罪証隠滅工作を被告人自身が行っていることなども被告人が本件犯行の首謀者であることを推認させる事実として指摘する(なお,被告人はこれらの事実を否定しているが,関係者の証言等によれば,これらの事実をいずれも認定することができる。確かに,こ。)れらの事実は被告人が本件犯行に深く関与していたことを示す事実ではあるものの,他方で,共犯者との比較において被告人が優越的な地位,首謀者であったことを ずれも認定することができる。確かに,こ。)れらの事実は被告人が本件犯行に深く関与していたことを示す事実ではあるものの,他方で,共犯者との比較において被告人が優越的な地位,首謀者であったことを推認させる事実であるとまでは言えない。すなわち,Nに対する被害者の殺害依頼や手紙作成の依頼は,被告人自身が行ってはいるものの,共犯者の指示の下になされた可能性も排斥できないし,被告人が被害者の殺害現場に臨場し,被害者がガムテープによって殺害されたことを知っていた以上は,ガムテープに指紋が付くか否かを気にすることは,むしろ当然であって,そのこと自体が被告人が首謀者であることを推認させる事情であるとは言えないのである。検察官は,被告人自身が被害者を誘い出したり,本件犯行直後の朝方にK方を訪れていることも被告人が首謀者であることを示す事実であるというが,被害者殺害の実行行為自体には被告人以外の共犯者が関与していた可能性が認められる以上,その共犯者自らは必要不可欠である殺害の実行行為のみを担い,その他の準備的行為,あるいは後始末的な行為を被告人に指示してさせていたという可能性も十分に考えられる。また,被害者やKと親しい関係にあった被告人がこれらの役割を担うのは共犯者間の役割分担としてむしろ当然とも考えられる。したがって,これらの事実も被告人が首謀者であることを推認させる事実であるとまではいえない。 さらに,検察官は,被告人が当時の夫を被保険者とする生命保険の死亡保険金の受取人となった上,複数の者に対して当時の夫の殺害について依頼や相談を持ちかけた事実があり,これは本件犯行においても被告人が首謀者であったことを示しているとする。しかしながら,仮に被告人が当時の夫の殺害を他人に依頼した事実が認められるとしても,被告人が死亡保険金取得目的で殺害を依 あり,これは本件犯行においても被告人が首謀者であったことを示しているとする。しかしながら,仮に被告人が当時の夫の殺害を他人に依頼した事実が認められるとしても,被告人が死亡保険金取得目的で殺害を依頼したとは断定できない上,そもそも,本件犯行と当時の夫の殺害を依頼した事実とは全く関連性のない別個の事実関係であるから,仮に被告人が死亡保険金取得目的で当時の夫の殺害を依頼していたとしても,本件犯行において首謀者であることが推認されるとはいえない。 結局,検察官の主張する各事実は,被告人が本件犯行に深く関与していたことを推認させる事実とはいえても,被告人が他の共犯者よりも優越的な地位にあること,首謀者であることを推認させる事実とまではいえない。そもそも,首謀者であるか否かは,他の共犯者との比較において初めて認定できるものであるところ,検察官において,共犯者の存在を前提としながら,共犯者を具体的に特定せず,被告人と共犯者間の共謀状況,役割分担について具体的な主張・立証をしない以上は,共犯者の指示に基づいて被告人が行動していた可能性を排斥することができず,被告人が他の共犯者との比較において優越的な地位,すなわち首謀者であったと認定することはできないのである。 小括以上によれば,被告人と共犯者との比較において,どちらがより優越的な地位にあったかは,結局のところ不明であると言わざるを得ない。そうすると,本件犯行における被告人の役割としては,被告人が,本件犯行の成否につき大きな利害関係を有し,重要で不可欠な役割を担っていたことを前提としつつも,他方で,共犯者が被告人と比較して優越的な地位にあり,被告人はその指示の下に従属的立場で行動していた可能性も完全には排斥できないことも踏まえて被告人の量刑を判断するほかないと解する。 第2量刑上で特に考 者が被告人と比較して優越的な地位にあり,被告人はその指示の下に従属的立場で行動していた可能性も完全には排斥できないことも踏まえて被告人の量刑を判断するほかないと解する。 第2量刑上で特に考慮した事情本件は,被害者を被保険者,被告人を死亡保険金受取人とする生命保険の死亡保険金5000万円を得んがために,被告人が,他者と共謀の上,被害者の顔面等に布製粘着テープを貼り付けるなどして被害者を窒息死させて殺害したという保険金取得目的の殺人の事案である。 被告人らは,本件生命保険の死亡保険金受取人を被告人自身に変更する手続を行ったことに乗じて,被害者を殺害して死亡保険金5000万円を取得しようと考えて本件犯行に及んだものであるが,自己の金銭的な欲望を満たすために何ら落ち度のない他人の生命を犠牲にするという,人命の尊厳を無視した利欲的かつ冷酷無慈悲な犯行動機に酌量の余地は全くない。被告人らは,飲みに行こうなどと甘言を用いて深夜に被害者を誘い出し,その後,被害者の腕部,膝部等に粘着テープを巻き付け,顔面に粘着テープを貼り付けて鼻口孔部を閉塞し,被害者を窒息死させたものであるが,その犯行は計画的である上,犯行態様は狡猾かつ残忍であって悪質極まりない。本件犯行により被害者の貴い生命が奪われており,生じた結果はあまりにも重大である。被害者は,地元に戻って仕事に就き,内妻とともに新たな生活を送っていた矢先に,信頼していた被告人に裏切られ,32歳という若さで突如としてその生涯を終えなければならなかったのであって,被害者の無念さ,悔しさは察するに余りある。被害者の親族や内妻にとって,優しい性格で家族になくてはならない存在であった被害者を失った悲しみ,怒りは甚大であって,被告人に対して峻烈な処罰感情を有しているのも当然である。また,被告人は,被害者の死亡 の親族や内妻にとって,優しい性格で家族になくてはならない存在であった被害者を失った悲しみ,怒りは甚大であって,被告人に対して峻烈な処罰感情を有しているのも当然である。また,被告人は,被害者の死亡保険金の受取人となり,被害者の死亡によって直接の利益を受ける立場にあった上,本件犯行を敢行するにあたって,被害者を誘い出して殺害現場まで同行するなど必要不可欠な役割を担っていたものと認められる。なお,被告人が被害者を殺害する際にその体を押さえるなどの行為を実際に行ったか否かは明らかではないが,上記のような必要不可欠な役割を担っていた以上,実行行為を直接担当したと認 定できないことが,被告人の刑責を判断する上で特段有利な事情になるとはいえない。 さらに,本件は,保険金取得目的の殺人事件として広く社会の耳目を集めた上,利欲犯的犯行であって模倣性も高いことから一般予防のために被告人を厳罰に処する必要性も相当高い。 以上によれば,被告人の刑事責任は極めて重く,その犯行の動機,態様,結果の重大性,被告人の果たした役割等にかんがみると,被告人に対しては,無期懲役刑を科することも十分に考えられるところである。 しかしながら,他方で,被告人が最終的には当公判廷において本件犯行への関与を認め,一応の反省の態度を示していることは被告人の刑責を決する上で重要な事実と言わなければならない。すなわち,上記「事実認定の補足説明」において述べたとおり,被害者の遺体が解剖されないなど客観的な証拠の少ない本件において,被害者の死因や殺害方法については,被告人の自白によって初めて判示のとおりの犯罪事実が認定できたものであり,事案の解明に被告人が大きく寄与したことは否定できない。検察官は,被告人がこれまでに供述を幾多も変遷させ,公判廷においてすら,あいまいな供述をしており,反 示のとおりの犯罪事実が認定できたものであり,事案の解明に被告人が大きく寄与したことは否定できない。検察官は,被告人がこれまでに供述を幾多も変遷させ,公判廷においてすら,あいまいな供述をしており,反省していない旨主張しているが,被告人が当公判廷において合理的な説明や具体的な供述をできない部分がある原因としては,自己の刑責を軽減する意図がうかがわれる部分もないではないが,他方で事件発生から17年もの年月が経過したことによる記憶の減退や被告人自身の知的能力上の問題によるところも大きいと考えられるのであって,被告人の当公判廷における供述の一部に信用性が認められないことをもって,反省の情が皆無であると見るのは被告人に対して酷に過ぎ,被告人には,本件犯行について一定の反省の情を看取することができるというべきである。また,本件が起訴されるまでに長期間を要したのは,被害者の死因に不審な点が多々あったにもかかわらず,捜査機関の不手際により被害者の遺体の解剖がなされなかった点にも大きな要因があったといわざるを 得ず,被害者遺族の苦しみが事件未解決のまま長期間継続した責めを被告人のみに押し付けることはできないというべきである。さらに,被告人が本件犯行において果たした役割についても,前述のとおり,重要な役割を果たしたことは認められるものの,検察官が共犯者を特定せず,したがって共犯者との共謀状況や実行行為者の特定等について具体的な主張・立証をしない以上は,共犯者との比較において被告人が従属的地位にあって,その共犯者の指示の下に行動していた可能性も完全に排斥することはできない。加えて,被告人は業務上過失傷害罪や傷害罪による罰金前科2犯を有しているものの,そのほかには前科を有していないこと,被告人が比較的高齢であること,その帰りを待つ実子ら親族がいることな とはできない。加えて,被告人は業務上過失傷害罪や傷害罪による罰金前科2犯を有しているものの,そのほかには前科を有していないこと,被告人が比較的高齢であること,その帰りを待つ実子ら親族がいることなどをも考慮すると,被告人に無期懲役刑を科することには躊躇を覚えざるを得ず,被告人に対しては有期懲役刑をもって臨むのが相当である。 もっとも,被告人に対して有期懲役刑を選択しても,被告人の刑責は前述のとおり重大であって,本件当時の有期懲役刑の上限をもって処断するほか選択の余地はないというべきである。 よって,主文のとおり判決する。 (求刑無期懲役)佐賀地方裁判所刑事部裁判長裁判官坂主勉裁判官下津健司裁判官村川主和

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