平成25(ワ)19418 特許権侵害禁止等請求事件

裁判年月日・裁判所
平成28年7月13日 東京地方裁判所
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判決文本文82,951 文字)

平成28年7月13日判決言渡同日原本領収裁判所書記官平成25年(ワ)第19418号特許権侵害禁止等請求事件口頭弁論終結日平成28年5月18日判決原告イーエイチエスレンズフィリピンインク(旧商号:ホーヤレンズマニュファクチャリングフィリピンインク)同訴訟代理人弁護士吉澤敬夫同川田篤同訴訟代理人弁理士紺野昭男同井波実同阿仁屋節雄同奥山知洋同補佐人弁理士橘高英郎同伊藤武泰被告株式会社ニコン・エシロール同訴訟代理人弁護士大野聖二同 小林英了同訴訟代理人弁理士鈴木守同補佐人弁理士大谷寛 主文 1 原告の請求をいずれも棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 3 この判決に対する控訴のための付加期間を30日と定める。 事実及び理由 第1 請求 1 被告は,原告に対し,2億3100万円及びこれに対する平成25年8月1 5日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 被告は,別紙物件目録記載の各製品を製造,販売してはならない。 3 訴訟費用は被告の負担とする。 4 仮執行の宣言第2 事案の概要 1 本件は,発明の名称を「累進多焦点レンズ及び眼鏡レンズ」とする特許権(第3852116号)を有する原告が, ならない。 3 訴訟費用は被告の負担とする。 4 仮執行の宣言第2 事案の概要 1 本件は,発明の名称を「累進多焦点レンズ及び眼鏡レンズ」とする特許権(第3852116号)を有する原告が,被告の製造・販売する別紙物件目録記載の各製品(以下まとめて「被告各製品」という。)が,上記特許の請求項3,7及び8の各発明の技術的範囲に属すると主張して,被告に対し,民法709条及び特許法102条2項(予備的に同条3項)に基づく損害賠償金2億3100万円及びこれに対する不法行為の後の日である平成25年8月15日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めるとともに,特許法100条1項に基づき,被告各製品の製造・販売の差止めを求める事案である。 2 前提事実(当事者間に争いがない事実又は文中掲記した証拠及び弁論の全趣旨により容易に認定できる事実)(1) 当事者ア原告原告は,眼鏡用レンズの製造及び販売並びに眼鏡用レンズ製造用のソフトウエア開発等を業とする会社である。(弁論の全趣旨)イ被告被告は,眼鏡用レンズの製造及び販売等を業とする株式会社である。 (2) 原告の有する特許権原告は,以下の特許権(請求項の数12。以下「本件特許権」又は「本件特許」といい,特許請求の範囲請求項3,7及び8にかかる各発明を請求項の番号に従ってそれぞれ「本件発明3」,「本件発明7」及び「本件発明8」 といい,これらの各発明を併せて「本件各発明」という。また,本件特許に係る明細書及び図面〔甲2〕を「本件明細書等」という。なお,本件特許の特許公報を末尾に添付する。)を有している。 特許番号第3852116号発明の名称累進多焦点レンズ及び眼鏡レンズ出願日平成8年1 2〕を「本件明細書等」という。なお,本件特許の特許公報を末尾に添付する。)を有している。 特許番号第3852116号発明の名称累進多焦点レンズ及び眼鏡レンズ出願日平成8年10月11日優先日平成7年11月24日登録日平成18年9月15日(3) 本件各発明の構成要件本件各発明の特許請求の範囲は,別紙「特許公報」記載のとおりであり,請求項3,7及び8はいずれも請求項1又は2の従属項である(以下,請求項1に従属する請求項3,7及び8記載の発明をそれぞれ「本件発明3の1」,「本件発明7の1」及び「本件発明8の1」と,請求項2に従属する請求項3,7及び8記載の発明をそれぞれ「本件発明3の2」,「本件発明7の2」及び「本件発明8の2」という。)。本件各発明を構成要件に分説すると,次のとおりである。なお,各構成要件の【ア】ないし【ウ】は請求項1記載の構成であり,【ア】′ないし【ウ】′は請求項2記載の構成である。 ア本件発明3の1【ア】異なる屈折力を備えた遠用部および近用部と,これらの間で屈折力が累進的に変化する累進部とを備えた視力補正用の累進多焦点レンズにおいて,【イ】この累進多焦点レンズの眼球側の面が,前記遠用部,近用部および累進部を構成するための累進屈折面と乱視矯正用の屈折面とが合成された面であることを特徴とする【ウ】累進多焦点レンズであり 【エ】前記累進多焦点レンズの物体側の面が球面であることを特徴とする累進多焦点レンズである。 イ本件発明3の2【ア】′異なる屈折力を備えた遠用部および近用部と,これらの間で屈折力が累進的に変化する累進部とを備えた視力補正用の累進多焦点レンズにおいて,【イ】′この累進多焦点レンズの眼球側の面に,前記遠用部,近用部およ 屈折力を備えた遠用部および近用部と,これらの間で屈折力が累進的に変化する累進部とを備えた視力補正用の累進多焦点レンズにおいて,【イ】′この累進多焦点レンズの眼球側の面に,前記遠用部,近用部および累進部を構成するための累進屈折面の曲率及び乱視矯正用の曲率が付加されていることを特徴とする【ウ】′累進多焦点レンズであり,【エ】前記累進多焦点レンズの物体側の面が球面であることを特徴とする累進多焦点レンズである。 ウ本件発明7の1【ア】異なる屈折力を備えた遠用部および近用部と,これらの間で屈折力が累進的に変化する累進部とを備えた視力補正用の累進多焦点レンズにおいて,【イ】この累進多焦点レンズの眼球側の面が,前記遠用部,近用部および累進部を構成するための累進屈折面と乱視矯正用の屈折面とが合成された面であることを特徴とする【ウ】累進多焦点レンズであり,【オ】前記遠用部から近用部に向かって延びる主注視線を有し,【カ】前記遠用部を構成するための前記累進屈折面の曲率は,少なくとも 1部の領域で,前記主注視線から離れるに従って小さくなることを特徴とする累進多焦点レンズである。 エ本件発明7の2【ア】′異なる屈折力を備えた遠用部および近用部と,これらの間で屈折力が累進的に変化する累進部とを備えた視力補正用の累進多焦点レンズにおいて,【イ】′この累進多焦点レンズの眼球側の面に,前記遠用部,近用部および累進部を構成するための累進屈折面の曲率及び乱視矯正用の曲率が付加されていることを特徴とする【ウ】′累進多焦点レンズであり,【オ】前記遠用部から近用部に向かって延びる主注視線を有し,【カ】前記遠用部を構成するための前記累進屈折面の曲率は,少なくとも1部の領域で,前記主注視線から離れる ′累進多焦点レンズであり,【オ】前記遠用部から近用部に向かって延びる主注視線を有し,【カ】前記遠用部を構成するための前記累進屈折面の曲率は,少なくとも1部の領域で,前記主注視線から離れるに従って小さくなることを特徴とする累進多焦点レンズである。 オ本件発明8の1【ア】異なる屈折力を備えた遠用部および近用部と,これらの間で屈折力が累進的に変化する累進部とを備えた視力補正用の累進多焦点レンズにおいて,【イ】この累進多焦点レンズの眼球側の面が,前記遠用部,近用部および累進部を構成するための累進屈折面と乱視矯正用の屈折面とが合成された面であることを特徴とする【ウ】累進多焦点レンズであり 【オ】前記遠用部から近用部に向かって延びる主注視線を有し,【キ】前記近用部を構成するための前記累進屈折面の曲率は,少なくとも1部の領域で,前記主注視線から離れるに従って大きくなることを特徴とする累進多焦点レンズである。 カ本件発明8の2【ア】′異なる屈折力を備えた遠用部および近用部と,これらの間で屈折力が累進的に変化する累進部とを備えた視力補正用の累進多焦点レンズにおいて,【イ】′この累進多焦点レンズの眼球側の面に,前記遠用部,近用部および累進部を構成するための累進屈折面の曲率及び乱視矯正用の曲率が付加されていることを特徴とする【ウ】′累進多焦点レンズであり,【オ】前記遠用部から近用部に向かって延びる主注視線を有し,【キ】前記近用部を構成するための前記累進屈折面の曲率は,少なくとも1部の領域で,前記主注視線から離れるに従って大きくなることを特徴とする累進多焦点レンズである。 (4) 無効審判ア被告は,平成26年8月27日,特許庁に対し,本件特許の請求項1,3,7及び8 で,前記主注視線から離れるに従って大きくなることを特徴とする累進多焦点レンズである。 (4) 無効審判ア被告は,平成26年8月27日,特許庁に対し,本件特許の請求項1,3,7及び8に係る発明についての特許に関し,無効審判請求(無効2014-800137。以下同請求に係る審判を「本件無効審判」という。)をした。(乙36,50)イ特許庁は,平成27年8月5日,本件特許の請求項1,3,7及び8に係る発明についての特許を無効とする旨の審決の予告をした。(甲50) ウ原告は,同年11月5日,特許庁に対し,本件各発明に係る請求項について訂正の請求をした(以下,同請求に係る訂正を「本件訂正」といい,本件訂正後の本件各発明を「本件各訂正発明」という。)。(甲51の1)エ特許庁は,平成28年2月3日発送の「手続補正指令書(方式)」により,原告に対し,特許法134条の2第9項・127条に従い,本件訂正請求をすることについて本件特許の通常実施権者全員の承諾書を提出するよう指令を出した。(甲54)(5) 本件訂正の内容本件訂正は,本件特許の請求項3,7及び8については請求項1のみに従属するものとし,本件各発明のうち請求項2に従属する部分を新たに請求項13,14及び15とするものである。本件訂正後の請求項3,7,8,13,14及び15は次のとおりである(訂正部分に下線を付した。以下,訂正後の各請求項記載の発明を請求項の番号に従って「本件訂正発明3」などといい,あわせて「本件各訂正発明」という。)。(甲51の1)【請求項3】請求項1において,前記累進多焦点レンズの物体側の面が球面であることを特徴とする累進多焦点レンズ。 【請求項7】請求項1において,前記遠用部から近用部に向かって延びる主注視線を有し, 項3】請求項1において,前記累進多焦点レンズの物体側の面が球面であることを特徴とする累進多焦点レンズ。 【請求項7】請求項1において,前記遠用部から近用部に向かって延びる主注視線を有し,前記遠用部を構成するための前記累進屈折面の曲率は,少なくとも一部の領域で,前記主注視線から離れるに従って小さくなることを特徴とする累進多焦点レンズ。 【請求項8】請求項1において,前記遠用部から近用部に向かって延びる主注視線を有し,前記近用部を構成するための前記累進屈折面の曲率は,少なくとも一部の領域で,前記主注視線から離れるに従って大きくなることを特徴とす る累進多焦点レンズ。 【請求項13】請求項2において,前記累進多焦点レンズの物体側の面が球面であることを特徴とする累進多焦点レンズ。 【請求項14】請求項2において,前記遠用部から近用部に向かって延びる主注視線を有し,前記遠用部を構成するための前記累進屈折面の曲率は,少なくとも一部の領域で,前記主注視線から離れるに従って小さくなることを特徴とする累進多焦点レンズ。 【請求項15】請求項2において,前記遠用部から近用部に向かって延びる主注視線を有し,前記近用部を構成するための前記累進屈折面の曲率は,少なくとも一部の領域で,前記主注視線から離れるに従って大きくなることを特徴とする累進多焦点レンズ。 (6) 被告の製品ア被告は,別紙物件目録記載のとおり,商品名を,「バリラックスセレクトT」,「バリラックスセレクトS」,「バリラックスコンフォート・ニュー」,「バリラックスオープンビュー」,「プレシオ・アドバンス」,「プレシオ・ライフ」及び「プレシオH&Oネオ」とする眼鏡用レンズである被告各製品を販売している。(甲4)イ被告各製品は,構成要件【 「バリラックスオープンビュー」,「プレシオ・アドバンス」,「プレシオ・ライフ」及び「プレシオH&Oネオ」とする眼鏡用レンズである被告各製品を販売している。(甲4)イ被告各製品は,構成要件【ア】,【ア】′,【ウ】及び【エ】を充足する。 (7) 本件特許の優先日に先行する文献の存在本件特許の優先日(平成7年11月24日)の前には,以下の先行文献が存在する。 ア昭和34年(1959年)3月24日を特許日とする米国特許第2878721号の米国特許公報(乙1。以下,同特許公報を「乙1公報」とい い,乙1公報記載の発明を「乙1発明」という。)イ昭和63年10月3日に公開された特開昭63-237025号の公開特許公報(乙2。以下,同特許公報を「乙2公報」といい,乙2公報記載の発明を「乙2発明」という。)ウ昭和13年(1938年)3月1日を特許日とする米国特許第2109474号の米国特許公報(乙4。以下,同特許公報を「乙4公報」といい,乙4公報記載の発明を「乙4発明」という。)エ平成7年(1995年)5月4日に公開されたドイツ連邦共和国特許第4337369号の公開特許公報(乙5。以下,同特許公報を「乙5公報」といい,乙5公報記載の発明を「乙5発明」という。)オ平成5年(1993年)8月5日に国際公開された国際公開番号WO93/15432号の国際公開公報(乙6。以下,同特許公報を「乙6公報」といい,乙6公報記載の発明を「乙6発明」という。)カ昭和49年1月26日を公告日とする特公昭49-3595号の特許公報(乙7。以下,同特許公報を「乙7公報」といい,乙7公報記載の発明を「乙7発明」という。) 3 争点(1) 被告各製品が本件各発明の技術的範囲に属するかア構成要件【イ】【イ】′(「合成」「 (乙7。以下,同特許公報を「乙7公報」といい,乙7公報記載の発明を「乙7発明」という。) 3 争点(1) 被告各製品が本件各発明の技術的範囲に属するかア構成要件【イ】【イ】′(「合成」「付加」)の充足性イ構成要件【オ】【カ】【キ】(「主注視線」)の充足性(2) 本件特許権が特許無効審判により無効にされるべきものか否かア本件発明3の1について(ア) 無効理由1-1(乙1発明に基づく新規性欠如及び進歩性欠如)(イ) 無効理由1-2(乙2発明による進歩性欠如)(ウ) 無効理由1-3(乙4発明に基づく新規性欠如及び進歩性欠如)(エ) 無効理由1-4(乙5発明に基づく新規性欠如及び進歩性欠如) (オ) 無効理由1-5(乙6発明に基づく新規性欠如及び進歩性欠如)イ本件発明7の1について(ア) 無効理由2-1(乙1発明に基づく新規性欠如及び進歩性欠如)(イ) 無効理由2-2(乙2発明に基づく進歩性欠如)(ウ) 無効理由2-3(乙7発明に基づく進歩性欠如)(エ) 無効理由2-4(乙4発明に基づく進歩性欠如)(オ) 無効理由2-5(乙5発明に基づく進歩性欠如)(カ) 無効理由2-6(乙6発明に基づく進歩性欠如)ウ本件発明8の1について(ア) 無効理由3-1(乙1発明に基づく新規性欠如及び進歩性欠如)(イ) 無効理由3-2(乙2発明に基づく進歩性欠如)(ウ) 無効理由3-3(乙7発明に基づく進歩性欠如)(エ) 無効理由3-4(乙4発明に基づく進歩性欠如)(オ) 無効理由3-5(乙5発明に基づく進歩性欠如)(カ) 無効理由3-6(乙6発明に基づく進歩性欠如)エサポート要件違反(ア) 無効理由4-1(「合成」)(イ) 無効理由4-2(「主注視線」) 由3-5(乙5発明に基づく進歩性欠如)(カ) 無効理由3-6(乙6発明に基づく進歩性欠如)エサポート要件違反(ア) 無効理由4-1(「合成」)(イ) 無効理由4-2(「主注視線」)(3) 本件訂正の適法性(特許法127条の承諾の要否と承諾を要する通常実施権者の範囲)(4) 被告各製品が本件各訂正発明の技術的範囲に属するか(5) 本件訂正により無効理由が解消されるか(6) 損害発生の有無及びその額第3 争点に関する当事者の主張 1 争点(1)ア(構成要件【イ】【イ】′〔「合成」「付加」〕の充足性)について 〔原告の主張〕(1) 「合成」の意義についてア広辞苑によれば,「合成」とは「①二つ以上のものを合して一つのものにすること。②力・速度など方向性をもつ量(ベクトル)を二つ以上加え合わせること」を意味するのであり,構成要件【イ】における「合成」とは,文字通り「累進屈折面と乱視矯正用の屈折面」が「合して一つのものにされている」ことを指す。 イ本件発明3の1及び3の2は,次の図のように,凸面となる物体側の面のベースカーブPbを一定になるようにする(球面とする)ようにし,累進屈折面,乱視補正面などの非球面要素を眼球側の面に設けることによって,遠用部と近用部の倍率差を必要最小限に止めて,同時に乱視矯正面によるゆがみも減らすことにより,累進焦点レンズの揺れや歪みを最少にしようとするものである。 このようにすることで,像の倍率の変化は,眼球側の面の度数変化のみによることになり,外面のカーブによる像の倍率の変化への影響がないので,揺れや歪みを大幅に減らすことができる。特に,遠用部と近用部の屈折力の差を「加入度」というが,本件各発明の場合には,その「加入度」の大きな累進多焦点レ カーブによる像の倍率の変化への影響がないので,揺れや歪みを大幅に減らすことができる。特に,遠用部と近用部の屈折力の差を「加入度」というが,本件各発明の場合には,その「加入度」の大きな累進多焦点レンズにおいて,揺れや歪みを大幅に低減することができる。 本件明細書等(4 頁41行~46行)には「そこで,本発明においては,累進屈折面をレンズの凹面となる眼球側の面に持ってくることにより,図1に実線で示したように物体側の面のベースカーブPbの変動を抑制し,例えば,ベースカーブが一定となる球面の累進多焦点レンズを提供できるようにしている。従って,本発明の累進多焦点レンズにおいては,遠用部と近用部の倍率差を必要最小限に止めることができ,また,累進部における倍率の変動も抑制できるので,像の歪みや揺れを低減することが可能となる。」とあり,累進屈折面と乱視矯正用の屈折面とを「凹面となる眼球側の面に持ってくることにより」,「遠用部と近用部の倍率差を必要最小限に止めること」ができ,「像の歪みや揺れを低減する」ことができることが記載されている。 ウ以上のとおり,本件各発明において,「合成」は「二つ以上のものを合して一つのものにすること」という,ごく一般的な用語として用いられている。 エ被告の主張に対する反論(ア) 被告は,構成要件【イ】の「合成」について,あたかも設計過程をクレームしているかのように限定解釈し,「方向性をもつ量(ベクトル)を二つ以上加え合わせること」を意味すると主張している。 (イ) しかし,本件特許の請求項1には,「眼球側の面が,前記遠用部,近用部および累進部を構成するための累進屈折面と乱視矯正用の屈折面とが合成された面である」と記載されており,ここでいう「合成された面」とは,「累進屈折面」と「乱視矯正用の 眼球側の面が,前記遠用部,近用部および累進部を構成するための累進屈折面と乱視矯正用の屈折面とが合成された面である」と記載されており,ここでいう「合成された面」とは,「累進屈折面」と「乱視矯正用の屈折面」とが客観的に「合成された面」を成しているという構造を規定しているのであって,合成するためにどのような設計をするのかとか,合成させるための製造工程がどのようなものであるのかといった事項については規定していない。また,本件明細書等には,「図15に,上記の合成式(5)を用いる代わりに, 図6に示したオリジナル累進屈折面のz座標の値に,図30に示したオリジナルトーリック面のz座標の値を加えて眼球側の面2を形成した累進屈折面を備えたレンズ19を示してある。また,図16にこのレンズ19の非点収差図を示し,図17にこのレンズ19の眼球側の面2のz座標を示してある。オリジナル累進屈折面のz座標の値に,オリジナルトーリック面のz座標の値を加えることによっても視力補正特性および乱視矯正特性を備えた累進屈折面を形成することは可能である。しかしながら図16から判るように,上述した合成式(5)を用いない場合は,図29に示した従来の乱視矯正用の累進多焦点レンズと同等の非点収差を得ることが難しく,従来の乱視矯正用の累進多焦点レンズと全く同等の視力の補正と乱視矯正能力は得にくいことが判る。」(本件明細書等11頁47行から12頁6行まで)という記載があるが,これは,「合成式(5)」を用いた方が,「オリジナル累進屈折面」のz座標と「オリジナルトーリック面」のz座標とを単純に加算したよりも,より好ましいとしているにすぎない。 (ウ) 発送日を平成18年5月16日とする拒絶理由通知書(乙37の1)に対する補正は,飽くまで本件特許の技術的意義をより的確に表 座標とを単純に加算したよりも,より好ましいとしているにすぎない。 (ウ) 発送日を平成18年5月16日とする拒絶理由通知書(乙37の1)に対する補正は,飽くまで本件特許の技術的意義をより的確に表現するための補正であるにすぎない。すなわち,「視力補正特性と乱視矯正特性とが付加されている」との記載を「累進屈折面と乱視矯正用の屈折面とが合成された」との記載に補正したものであり,その技術的範囲を限定するような趣旨の補正ではない。上記拒絶理由通知書を見ても,「例えば,累進屈折面とトーリック面を合成することにより生じた面,のように,眼球側の『面』に付加する形状・構造の具体的な構成が明確になるように補正されたい。」とあるのみである。この示唆は,本件各発明が,物を生産する方法の発明ではなく,累進屈折面とトーリック面を合成することにより(結果として)生じた面についての物の発明であるこ とを明確にすることを求めているのみである。ここで,審査官は「合成」の技術的意義を特に限定するような意味合いで,「合成」との用語を用いてはいない。上記拒絶理由通知書を受けて提出された本件特許の出願人作成にかかる平成18年6月26日付け意見書(乙37の2)をみても,「合成」の技術的意義を限定するような記載はない。 したがって,被告の主張は失当である。 (2) 「付加」の意義について構成要件【イ】′の「累進屈折面の曲率及び乱視矯正用の曲率が付加され」とは,「面の合成」の一態様として,累進屈折面の曲率と乱視矯正用の曲率同士を加えていることを指す。 本件特許の請求項2には,「眼球側の面に,前記遠用部,近用部および累進部を構成するための累進屈折面の曲率及び乱視矯正用の曲率が付加されている」と記載されており,これは,客観的に「累進屈折面の曲率」と「乱視矯 請求項2には,「眼球側の面に,前記遠用部,近用部および累進部を構成するための累進屈折面の曲率及び乱視矯正用の曲率が付加されている」と記載されており,これは,客観的に「累進屈折面の曲率」と「乱視矯正用の曲率」が眼球側の面に「付加」されているという構造を規定しているものであり,付加された結果に至る設計手法や,計算過程を特定しているものではない。 (3) 被告各製品の構成及び充足性ア被告各製品の構成被告各製品は,累進多焦点レンズの眼球側の面が,遠用部,近用部および累進部を構成するための累進屈折面と乱視矯正用の屈折面とが合成された面である。また,前記合成された面は,この累進多焦点レンズの眼球側の面に,前記遠用部,近用部および累進部を構成するための累進屈折面の曲率及び乱視矯正用の曲率が付加されて形成されている。 被告各製品は,累進屈折面と乱視矯正用の処方のレンズについて,外面は球面であるから,これらの処方の屈折面は眼球側にしかなく,累進屈折面と乱視矯正用の屈折面が眼球側の面において合して一つのものにされて いることは明白である。これらを調査するために,調査報告書(甲5ないし8,11,12)では,内面の各測定点から求められた乱視成分の値(量と方向:曲率)をベクトル減算することで累進成分を分離して抽出し,その値が,乱視が合成されていない同じ処方値の累進面の値と一致することを確認した。そして,本件特許の分野において,ベクトル演算をすることが相当であることは,特許4625554号の特許公報(甲19)の段落【0011】などにおいても,面上の非点収差(注:乱視成分など)をベクトル量として扱うべきことが記載されていることからも明らかである。 なお,被告各製品の眼球側の面には,累進屈折面と乱視矯正用の屈折面のほか,非球面補正もさ ,面上の非点収差(注:乱視成分など)をベクトル量として扱うべきことが記載されていることからも明らかである。 なお,被告各製品の眼球側の面には,累進屈折面と乱視矯正用の屈折面のほか,非球面補正もされているので,同様の引き算の結果は,累進屈折面の値と必ずしもぴったりとは一致しない。しかし,調査報告書(甲5ないし8,11)により,被告各製品の眼球側の面から,乱視処方の成分をベクトル減算することによって,乱視処方のない累進屈折面とかなりよく一致する累進屈折面が残ることが明らかとされており,このことから,被告各製品の眼球側の面がこれらの「合成された面」であること及び「累進屈折面の曲率および乱視矯正用の曲率が付加されている」ことは立証されている。 イ充足性以上から,被告各製品が,累進屈折面と乱視矯正用の屈折面が眼球側の面において合して一つのものにされているもの,すなわち,累進屈折面と乱視矯正用の屈折面とが「合成」されたものであり,また,累進屈折面の曲率と乱視矯正用の曲率同士を加えたもの,すなわち,「累進屈折面の曲率及び乱視矯正用の曲率が付加され」たものであって,構成要件【イ】及び【イ】′を充足することは明らかである。 〔被告の主張〕(1) 「合成」の意義について ア本件明細書等には,「合成」の定義や意味について述べた記載は存在しない。そこで,以下に述べるとおり,クレーム文言,明細書の記載及び審査経過の観点からみると,「合成」とは,「方向性をもつ量(ベクトル)を二つ以上加え合わせること」にほかならない。 イ 「合成」という用語について,広辞苑には,「①二つ以上のものを合して一つのものにすること。「―命題」②力・速度など方向性をもつ量(ベクトル)を二つ以上加え合わせること。③化学元素から出発して化合物を製出 」という用語について,広辞苑には,「①二つ以上のものを合して一つのものにすること。「―命題」②力・速度など方向性をもつ量(ベクトル)を二つ以上加え合わせること。③化学元素から出発して化合物を製出すること。」を意味すると記載されている。このうち,①の意味は漠然としており,しかも,技術的な意味としての定義ではない。また,③の意味は,化学分野におけるものであり,本件各発明の技術分野における意味とは関係がないことは明らかである。 したがって,本件各発明の技術分野の当業者においては,「合成」という用語の意味を,技術用語として,「②力・速度など方向性をもつ量(ベクトル)を二つ以上加え合わせること。」と一義的に解釈するほかない。 ウ 「合成」を「力・速度など方向性をもつ量(ベクトル)を二つ以上加え合わせること」よりも広義に,たとえば,トーリック面と累進屈折面とのベクトル加算ではなく,これらのz座標のスカラー加算であるレンズ19をも含むように解すると,本件明細書等に課題を解決できる発明として記載された範囲を明らかに超えるクレーム解釈を行うこととなり,サポート要件違反が明らかである。すなわち,本件明細書等では,図14においてのみ,累進屈折面とトーリック面とを「合成」することによる遠用部と近用部の倍率差に対する影響が具体的に説明されており,ここでは,式(5)の合成式により得られたレンズ10と,従来の外面累進の累進多焦点レンズとの間で,倍率差が対比され,レンズ10では12ないし13%の改善がみられることのみが述べられている(本件明細書等11頁32~35行)。 つまり,ここでは,z座標の加算によっても,「遠用部と近用部の倍率差 を必要最小限に止め」ることができるのか否か,それにより「累進焦点レンズの揺れや歪みを最少」にするという課題の解 。 つまり,ここでは,z座標の加算によっても,「遠用部と近用部の倍率差 を必要最小限に止め」ることができるのか否か,それにより「累進焦点レンズの揺れや歪みを最少」にするという課題の解決がなされるのか否かがまったく不明と言わざるを得ない。 エ 「合成」は,「力・速度など方向性をもつ量(ベクトル)を二つ以上加え合わせること」と解すべきであり,かかる文言解釈は,本件明細書等において,終始一貫して常に「合成式」を説明する文脈でのみ現れること及びベクトル加算を用いる式(5)の合成式が実施例として記載されていることと整合する。すなわち,式(5)は,以下のとおりであり, 式(5)の分子のみに着目すると,次のように表現することができる。 つまり,合成式(5)は,累進屈折面の曲率を表すベクトル(Cp,Cp)と,トーリック面の曲率を表すベクトル(Cx,Cy)とを加え合わせることにより合成し,z座標Zを算出するものである。 (2) 「付加」の意義について原告によれば,本件各発明の「累進屈折面の曲率及び乱視矯正用の曲率が付加され」とは,「面の合成」の一態様であるから,本件発明3の2,7の2及び8の2は,それぞれ,本件発明3の1,7の1及び8の1に包含されているから,本件発明3の1,7の1及び8の1の技術的範囲に属しなければ,これらについても技術的範囲に属しないことは明らかである。 しかも,被告各製品は,曲率が付加されたものではないので,かかる観点からも本件各発明の技術的範囲に入らない。 2 争点(1)イ(構成要件【オ】【カ】【キ】〔「主注視線」〕の充足性)について〔原告の主張〕(1) 「主注視線」の意義についてア 「主注視線」は,「累進屈折力レンズを使用するときに視線の透過するレンズ上の位置 【オ】【カ】【キ】〔「主注視線」〕の充足性)について〔原告の主張〕(1) 「主注視線」の意義についてア 「主注視線」は,「累進屈折力レンズを使用するときに視線の透過するレンズ上の位置で,視線が透過する頻度(使用頻度)の高い位置を示すもの」で,人間の生理学的な視覚特性に基づいて考えられたものである。 すなわち,人がものを注視するときには顔の正面でものを見る。また遠方のものを注視するときには左右の眼の視線はほぼ平行にレンズに向かいレンズを透過する。近方のものを注視するときは左右の視線をその距離に合わせて内側に向ける(輻輳する)ので視線のレンズ上の通過位置は遠方視時に比べ鼻側に偏寄する。遠視や近視の矯正に使われる単焦点レンズでは,このようなものを注視する際の生理的な視覚特性は考慮する必要はない。なぜならレンズの光軸を含む広いレンズ上の範囲で充分な光学性能を達成しているからである。 一方,累進レンズは遠用部,近用部,中間部(累進部)と見る距離に応じて領域が限定されており,独特な非点収差分布をもっており,特に中間部や近用部の側方では非点収差によりものをはっきり見ることができない。 したがって,遠方視から近方視までの視線のレンズ上の透過位置を意識し,そこでの非点収差等の光学性能が充分に達成されるように設計することが必要となる。このように累進レンズにおいて,視線の使い方を意識して設定されているのが主注視線である。具体的には累進レンズの主注視線は,遠用部では遠方視が前提となるので左右視線は平行であり,遠方視では正面方向を最も高頻度に見るので,主注視線はレンズ上では水平正面視(第 1眼位)の状態から,垂直方向に真直ぐ上方に延びる。中間部では加入度数の変化に応じて見るものの距離が近づくので,レンズの加入度数の変化に対応して 主注視線はレンズ上では水平正面視(第 1眼位)の状態から,垂直方向に真直ぐ上方に延びる。中間部では加入度数の変化に応じて見るものの距離が近づくので,レンズの加入度数の変化に対応して主注視線は鼻側に偏寄し,近用部では近方距離に応じたほぼ一定の輻輳を想定し,主注視線は再びほぼ垂直に下方に延びる。なお,近用部での主注視線については,所定の加入度数に到達した後も徐々に度数が変化し,視距離が近づく設計を行なう場合もあり,主注視線は垂直方向になるのではなく更に鼻側に偏奇し続けることもある。 このように,「主注視線」は,累進レンズの設計において遠方から中間,近方の距離を見るときに視線がレンズ上を通過する位置の基準となるレンズ上の線であって,主注視線上での度数の変化(累進開始点,累進終了点,累進長,度数加入のさせ方など)がそのレンズの特性を大きく決定づける。 イ 「主注視線」と同義の表現は多数ある。例えば,「主子午線」も「主注視線」と同義である。また,「主子午線曲線」も「主注視線」と同義である。なお,「へそ状子午線」は「主注視線」のうち,主注視線上において非点収差が生じないようにしたものを意味するが,「へそ状子午線」も「主注視線」に属することはいうまでもない。 (2) 被告各製品の構成及び充足性被告各製品は,遠用部から近用部に向かって延びる主注視線を有しており,構成要件【オ】【カ】【キ】における「主注視線」を有する。累進屈折力レンズである被告各製品において,「主注視線」が存在しないことはありえない。 (3) 被告の主張に対する反論ア被告は,「主注視線」以外にも幾つかの異なる表現があり,「主注視線」の意義を一義的に理解することができないから,構成要件【オ】【カ】【キ】における「主注視線」の意義については,本件明細書 論ア被告は,「主注視線」以外にも幾つかの異なる表現があり,「主注視線」の意義を一義的に理解することができないから,構成要件【オ】【カ】【キ】における「主注視線」の意義については,本件明細書等の記載に基づいて限定して解釈すべきであると主張する。しかし,異なる表現があるとして も,下位の概念として「主注視線」に包括される「へそ状子午線」を除けば,いずれも同義であるから,被告の上記主張には理由がない。 イ被告は,「主注視線」とは,「非点収差が一定の線」に限定されるものであり,ここで「一定」とは,非点収差の差違が「0.25D(ディオプトリ)」未満であることをいうと主張しているが失当である。 本件明細書等には,乱視を伴わない場合,「主注視線14の上では,x方向およびy方向の曲率差をほとんど無くして非点収差が発生しない」(3頁23~24行目)ことが記載されており,乱視矯正のない場合の例として非点収差が発生しないことを示しているが,これは非点収差を発生させる場合を排除するものではない。 また,本件明細書等には,「この乱視用の累進多焦点レンズ1は,主注視線14に沿って乱視を矯正するために2.00Dの非点収差がほぼ均等に導入され」(3頁39~40行目),「乱視の矯正を行うためにトーリック面が眼球側の面2に付加された場合は,次の実施例に示すように主注視線14はへそ点の集合とはならず,乱視を矯正するために主注視線14に沿ってほぼ一定の非点収差が付加される」(10頁8~10行目)との記載があるが,これは主注視線上に乱視矯正用として必要な一定の非点収差が加えられることを述べているのであり,主注視線における面非点収差が常に一定とされていることを必ずしも意味しない。 すなわち,本件各発明には,訴外HOYA株式会社( 矯正用として必要な一定の非点収差が加えられることを述べているのであり,主注視線における面非点収差が常に一定とされていることを必ずしも意味しない。 すなわち,本件各発明には,訴外HOYA株式会社(以下「HOYA」という。) 作成に係る平成26年9月30日付け「調査報告書 (7) 」と題する書面(甲36)に記載されたような非球面補正設計が付加されることにより,主注視線上の面非点収差は一定ではなくなる場合を含んでいる。 ウさらに,被告がその主張の根拠として引用する本件明細書等における記載(本件明細書等10頁8~10行)が,被告の主張の根拠となり得ないことは,次に示すその前後の本件明細書等の記載により明らかである。 「乱視の矯正を行うためにトーリック面が眼球側の面2に付加された場合は,次の実施例に示すように主注視線14はへそ点の集合とはならず,乱視を矯正するために主注視線14に沿ってほぼ一定の非点収差が付加される。 また,詳しくは特公平2-39768号に開示されているように,眼鏡レンズをより薄型化し,また,規格化するなどの原因により主注視線14に沿って屈折力に方向性が生じてしまう場合は,その屈折力による非点収差を打ち消す方向に,曲率差による非点収差を発生させることが望ましい。」(本件明細書等10頁8行~14行)上記のとおり,乱視の矯正を行うために累進屈折面にトーリック面が付加されるときは,主注視線14は「へそ点」(非点収差がない点)の集合にはならないことが記載されている。 また,主注視線14に沿って屈折力に方向性が生じてしまうとき,すなわち,軸外収差(視線の方向により屈折力が生ずる典型例である。)が生じるようなときは,その屈折力による非点収差(軸外収差のこと)を打ち消す方向に,曲率差による非点収差を発生させるとさ まうとき,すなわち,軸外収差(視線の方向により屈折力が生ずる典型例である。)が生じるようなときは,その屈折力による非点収差(軸外収差のこと)を打ち消す方向に,曲率差による非点収差を発生させるとされている。このときは,主注視線14は,軸外収差を打ち消す方向に非点収差が生ずるのであり,方向により異なる非点収差が生ずることになる。 このように,本件明細書等には,「主注視線14」において非点収差がほぼ一定になるときと,方向により異なる非点収差が生ずるときとが併記されているのであって,本件明細書等の記載は被告の主張の根拠となるものではない。 〔被告の主張〕 (1) 「主注視線」の意義についてア 「主注視線」は,その文言自体は,「主子午線」,「へそ状子午線」,「主子午線曲線」等,多くの異なる表現でも理解されるものであり,その多義性は枚挙にいとまがないほどである。よって,クレーム文言のみからその意義を一義的に理解することは,できない。 そこで,当該文言の意義の解釈にあたっては本件明細書等の記載を考慮することとなる(特許法70条2項)。 イ本件明細書等には,次の記載がある。 「乱視を伴わない眼鏡の使用者(ユーザー)は,レンズに現れた非点収差が1.0ディオプトリ,望ましくは0.5ディオプトリ以下であれば,像のボケをそれほど知覚せずに明瞭な視覚が得られる。このため,遠用部から近用部に向かって延び,目の輻輳を加味して若干鼻側に曲がった主注視線(へそ状子午線)14に沿って非点収差が1.0ディオプトリあるいは望ましくは0.5ディオプトリ以下となる明視域21を配置してある。特に,この主注視線14の上では,x方向およびy方向の曲率差をほとんど無くして非点収差が発生しないようにしている。」(3頁18~24行)上記記載によれば乱 リ以下となる明視域21を配置してある。特に,この主注視線14の上では,x方向およびy方向の曲率差をほとんど無くして非点収差が発生しないようにしている。」(3頁18~24行)上記記載によれば乱視を伴わない場合の「主注視線」とは,その線上で非点収差の発生しないへそ状子午線であると解釈される。さらに,本件明細書等には,乱視用の累進多焦点レンズにおける「主注視線」に関して次の記載がある。 「この乱視用の累進多焦点レンズ1は,主注視線14に沿って乱視を矯正するために2.00Dの非点収差がほぼ均等に導入され,・・・」(3頁39~40行)「乱視の矯正を行うためにトーリック面が眼球側の面2に付加された場合は,次の実施例に示すように主注視線14はへそ点の集合とはなら ず,乱視を矯正するために主注視線14に沿ってほぼ一定の非点収差が付加される。」(10頁8~10行)これらの記載によれば,乱視用の累進多焦点レンズにおける「主注視線」とは,非点収差がないへそ状子午線に乱視矯正用の一定の非点収差が加えられた線,すなわち「非点収差が一定の線」であると解釈される。 ウしたがって,本件発明における「主注視線」とは,「非点収差が一定の線」と解すべきである。 そして,処方値は0.25Dピッチで与えられるものであり,0.25D以上の非点収差の差異は別の処方値を意味する。 したがって,本件特許の優先日における技術常識によれば,「一定」とは,非点収差の変動幅が0.25D未満であることを意味する。 (2) 被告各製品の構成及び充足性ア被告各製品では,遠用部から近用部に至る領域において非点収差は一定ではなく,遠用部から近用部にわたって非点収差が一定となる線は存在しない。 イ原告は,HOYA作成に係る平成25年6月19日付け,同年7 製品では,遠用部から近用部に至る領域において非点収差は一定ではなく,遠用部から近用部にわたって非点収差が一定となる線は存在しない。 イ原告は,HOYA作成に係る平成25年6月19日付け,同年7月3日付け及び同年8月24日付けの「調査報告書(1)」ないし「調査報告書(5)」と題する各書面(甲5ないし8,11。以下,単に「調査報告書(1)ないし(5)」という。)において,原告のいう「主注視線」上の内面の面非点収差を示し(甲5,5.1③欄等),これが本件の「主注視線」に該当する旨主張している。 しかし,たとえば,被告各製品のうちの一つである「プレシオ・アドバンス」については,非点収差(C)が,遠用度数測定位置Fから近用度数測定位置Nにかけて,0.25D程度変動している(下図参照。黒線付加)。 【甲5,5.1③の図】これは,他の被告各製品についても同様であって,処方値のピッチである0.25Dに相当する変動があるから,非点収差が一定であるとはいえない。 ウ念のため,原告が用いた処方値とは異なる処方値について,被告各製品の加工面の設計データを開示する。 以下に,「プレシオ・アドバンス」につき,S+4.00,C-2.00,Ax90,ADD2.50の処方値で設計したレンズの内面における面非点収差分布を示す(乙19の2)。これによれば,「プレシオ・アドバンス」において,遠用部から近用部にかけて,非点収差が一定の線を引くことが不可能であることは明らかである。遠用部から近用部に向かって延びるいかなる線を「主注視線」であると考えても,非点収差は0.25~0.50D程度の変化を伴い,非点収差が一定の線は存在しない。 (省略)そして,このことは,他の被告各製品についても同様である(乙20の2ないし乙2 」であると考えても,非点収差は0.25~0.50D程度の変化を伴い,非点収差が一定の線は存在しない。 (省略)そして,このことは,他の被告各製品についても同様である(乙20の2ないし乙23の2)。 エしたがって,被告各製品は,構成要件【オ】【カ】【キ】における「主> 0.25D 注視線」を有しない。 3 争点(2)ア(ア),同イ(ア),同ウ(ア)(無効理由1-1,2-1,3-1。乙1発明に基づく新規性欠如及び進歩性欠如)について〔被告の主張〕(1) 無効の主張について請求項3は,請求項1又は2に従属する請求項であるから,請求項1に従属する本件発明3の1について無効理由が存在すれば,請求項1又は2に従属する請求項3に係る特許に無効理由が存在する。そして,請求項7及び8についても同様に,請求項1に従属する本件発明7の1,8の1について無効理由が存在すれば,請求項1又は2に従属する請求項7,8に係る特許に無効理由が存在する。 よって,被告は,以下,本件発明3の1,7の1及び8の1について無効主張をする。 (2) 乙1発明は,以下の構成を有する。 a 異なる屈折力を備えた上部区域及び下部区域と,b 上部区域と下部区域との間の累進区域とc を備えた装用者の一つ又は複数の視覚異常を矯正するための多焦点眼鏡レンズにおいて,d-1 後面が,上部区域,下部区域及び累進区域を有する多焦点表面であり,d-2 当該多焦点表面は,元の設計を記述する関数のz座標に,円筒状もしくはトロイダル表面を記述する関数のz座標が加えられた表面である。 e 後面ではない他方の面である前面が,球面である。 f 上部区域から下部区域に向かって延びる主注視線を有する。 g 主注視線から横方向に る関数のz座標が加えられた表面である。 e 後面ではない他方の面である前面が,球面である。 f 上部区域から下部区域に向かって延びる主注視線を有する。 g 主注視線から横方向に離れるに従って,遠用帯域では曲率が小さく なっており,近用帯域では曲率が大きくなっている。 (3) 無効理由1-1(本件発明3の1の新規性欠如及び進歩性欠如)についてア本件発明3の1と乙1発明との対比(ア) 乙1発明は,異なる屈折力を備えた上部区域及び下部区域と,上部区域と下部区域との間の累進区域とを備えた装用者の一つ又は複数の視覚異常を矯正するための多焦点眼鏡レンズである(構成aないしc)。 したがって,構成要件【ア】は乙1公報に開示されている。 (イ) 乙1発明は,後面が,上部区域,下部区域及び累進区域を有する多焦点表面であり,当該多焦点表面は,元の設計を記述する関数のz座標に,円筒状もしくはトロイダル表面を記述する関数のz座標が加えられた表面である(構成d-1及びd-2)。 ここで,乙1発明の後面は,累進区域を含む累進屈折面に円筒状もしくはトロイダル表面が合わされているから,「合成」に該当する。円筒状もしくはトロイダル表面が乱視矯正を目的として付与される形状であることは,本件特許の優先日における公知の事実であり,当業者の技術常識である。なお,ここでは,「合成」は,「合して一つのものにされていること」を意味するという原告の解釈を前提としている。 したがって,構成要件【イ】は乙1公報に開示されている。 (ウ) 乙1発明は,累進区域を有する多焦点眼鏡レンズであるから(構成aないしc),累進多焦点レンズに該当する。 したがって,構成要件【ウ】は乙1公報に開示されている。 (エ) 乙1発明は,後面ではな 乙1発明は,累進区域を有する多焦点眼鏡レンズであるから(構成aないしc),累進多焦点レンズに該当する。 したがって,構成要件【ウ】は乙1公報に開示されている。 (エ) 乙1発明は,後面ではない他方の面である前面が,球面である(構成e)。レンズの前面は物体側の面であるから,構成要件【エ】は乙1公報に開示されている。 イ本件発明3の1の新規性又は進歩性の欠如(ア) 以上のとおり,本件発明3の1と乙1発明との間には相違点がない。 仮に原告が何らかの相違点を主張したとしても,本件特許の優先日における技術常識に照らして,実質的な相違点ではあり得ず,新規性を有しないことは明らかである。 (イ) 原告は,乙1発明は構成要件【イ】を有していないと主張するが,乱視矯正用の円柱面(トーリック面)を内面(後面)に設けることは本件特許の優先日当時の技術常識である。たとえは,周知技術・公知技術の一例である乙6公報には,「内面が累進面であっても内面に所定の乱視の曲率を与えればよい」と記載されている。 乙1公報には,外面が球面で内面が累進面である累進屈折力レンズが開示されているが,これは,乙6公報に記載された「外面m3が球面であり,内面m4が累進面である眼鏡レンズⅡ」と同一の構成であるから,当業者において,乙6公報における「内面が累進面であっても内面に所定の乱視の曲率を与えればよい」という教示を,乙1発明に適用することについて,動機付けがあったことは明らかである。そして,乙1発明に,乙6公報の記載内容を適用することを妨げる阻害事由は存在しない。 したがって,乙6公報は,当業者に対し,乙1発明におけるレンズの内面に乱視矯正用の屈折面を形成することを極めて容易に想到させるものである。 (ウ)よって,本件発明3の1は,特許法29条1項3 い。 したがって,乙6公報は,当業者に対し,乙1発明におけるレンズの内面に乱視矯正用の屈折面を形成することを極めて容易に想到させるものである。 (ウ)よって,本件発明3の1は,特許法29条1項3号または同条2項の規定により特許を受けることができないものであって,同法123条1項2号の無効理由がある。 (4) 無効理由2-1(本件発明7の1の新規性欠如及び進歩性欠如)についてア本件発明7の1と乙1発明との対比(ア) 構成要件【ア】ないし【ウ】については,前記(3)において述べたとおり,乙1公報に開示されている。 (イ) 乙1発明は,主注視線を有するから(構成f),構成要件【オ】は, 乙1公報に開示されている。 (ウ) 乙1発明は,遠用帯域では主注視線から横方向に離れるに従って,曲率が小さくなっている(構成g)。 したがって,構成要件【カ】は,乙1公報に開示されている。 イ本件発明7の1の新規性又は進歩性の欠如以上のとおり,本件発明7の1と乙1発明との間には相違点がない。 仮に,原告が,構成要件【オ】及び【カ】につき,何らかの相違点を主張したとしても,構成要件【オ】及び【カ】は,当業者に自明なものにすぎない。 たとえば,本件特許の出願人は,審査経過において,平成17年11月25日付け意見書(乙3・9頁23~29行)において,次のように述べており,構成要件【オ】及び【カ】が自明なものであり,本件特許の優先日における当業者の当然の技術常識にすぎないことを示している。 「・・・眼球側の凹面に累進屈折面を付加すると,遠用部の曲率は凹んだ大きな曲率となり,近用部の曲率は平面に近い小さな曲率になり,遠用部と近用部とを滑らかに連絡させるようにすると,遠用部の側方においては近用部の曲率に近くなるように漸次曲率を小さく 用部の曲率は凹んだ大きな曲率となり,近用部の曲率は平面に近い小さな曲率になり,遠用部と近用部とを滑らかに連絡させるようにすると,遠用部の側方においては近用部の曲率に近くなるように漸次曲率を小さくし,近用部側方においては遠用部に近くなるように漸次曲率を大きくする必要がある。従って,請求項7及び請求項8(注:本件特許の請求項7及び8と完全に一致)に係る曲率の変化は,眼球側の凹面に累進屈折面を付加することによる必然的な曲率変化である。」そうすると,本件発明7の1は,少なくとも,乙1発明に基づいて当業者が容易に想到し得た。 したがって,本件発明7の1は,特許法29条1項3号または同条2項の規定により特許を受けることができないものであって,同法123条1項2号の無効理由がある。 (5) 無効理由3-1(本件発明8の1の新規性欠如及び進歩性欠如)について本件発明8の1は,本件発明7の1が遠用部を対象とするのに対し,近用部を対象とする点で本件発明7の1と相違する。 しかしながら,遠用部ではなく近用部に係る構成要件【キ】も,乙1公報に開示されている構成である。すなわち,乙1発明は,近用帯域では主注視線から横方向に離れるに従って,曲率が大きくなっており(構成g),したがって,構成要件【キ】は,乙1公報に開示されている。 以上のとおり,本件発明8の1と乙1発明との間に相違点はなく,本件発明8の1は,乙1発明と同一である。 また,そもそも,構成要件【キ】は,眼球側の凹面に累進屈折面を付加することによる必然的な曲率変化であるにすぎず,当業者に自明な構成である。 したがって,本件発明8の1には,本件発明7の1と同様に,特許法29条1項3号または同条2項の規定により特許を受けることができないものであって,同法123条1項2号の無効 業者に自明な構成である。 したがって,本件発明8の1には,本件発明7の1と同様に,特許法29条1項3号または同条2項の規定により特許を受けることができないものであって,同法123条1項2号の無効理由がある。 〔原告の主張〕(1) 被告の無効の主張について請求項3,7及び8は,請求項1の従属項であるばかりではなく,請求項2の従属項でもあり,原告は,本件発明3の2,7の2及び8の2についても特許権侵害を主張している。それにもかかわらず,被告は,本件発明3の2,7の2及び8の2に対しては無効理由を主張しておらず,少なくとも,本件発明3の1,7の1及び8の1の無効理由と本件発明3の2,7の2及び8の2の無効理由の関係について,何ら具体的な理由を示していない。 したがって,被告においても本件発明3の2,7の2及び8の2については無効理由がないものと認識していると理解せざるを得ない。 (2) 無効理由1-1(本件発明3の1の新規性欠如及び進歩性欠如)についてア乙1発明は,以下で述べるとおりのものであって,被告の主張する本件 発明3の1に相当するような構成は有していない。 なお,乙1公報は,平成17年9月15日付け拒絶理由通知書(甲26)において「引用文献1」として,本件特許出願の審査官により引用され,同審査官は,「本願の請求項1及び2に係る発明は引用文献1に記載された発明である」との拒絶理由を通知している(同通知書5頁15行~16行)。しかし,上記拒絶理由は,本件特許の請求項の文言を補正することもなく,平成17年11月25日付け意見書(甲27)において,拒絶理由における「引用文献1」の理解の誤りの指摘をすることにより解消している(同意見書14頁8行~17頁10行)。 イ構成要件【ア】の非充足性乙1発 月25日付け意見書(甲27)において,拒絶理由における「引用文献1」の理解の誤りの指摘をすることにより解消している(同意見書14頁8行~17頁10行)。 イ構成要件【ア】の非充足性乙1発明は,レンズの上部から下部にかけて度数を累進的かつ連続的に増加させることによって,従来の二重焦点レンズの境界線で発生するようなレンズの垂直軸近くでの度数の急変がないレンズを提供するものである。 ここでいう「従来の二重焦点レンズ」とは,「境界線に度数の急変」があるものであるから,下記のような大玉の中に近距離用の小玉を備えたようなレンズを意味する。 そして,乙1発明は,従来の二重焦点レンズのような境界での「度数の急変」のないようにするため,レンズの上部から下部にかけて度数を累進的かつ連続的に増加させるレンズであり,いわば「累進部」だけで構成さ台玉(遠用部)小玉(近用部)境界線境界線小玉(近用部)台玉(遠用部)台玉光学中心台玉光学中心 れたレンズである。この点は,乙1公報(第1欄49~70行,訳文:甲25・1頁30行~2頁3行)に次のように記載されている。 「本発明はこのような欠点を克服するために,レンズの上部から下部にかけて度数を累進的かつ連続的に増加させることによって,従来の二重焦点レンズの境界線で発生するようなレンズの垂直軸近くでの度数の急変がないレンズを提供する。」「したがって,本発明は,レンズの上端部(トップ)から下端部(ボトム)に向かって度数が累進的に増加し,レンズで生じる非点収差の量がどの部分においても不快感を与えるほど大きくなく,前述の制限値を超えないレンズをさらに提供する。」このように,乙1発明では,レンズの上端から下端まで連続的に度数が変化するもの,すなわち,いわば がどの部分においても不快感を与えるほど大きくなく,前述の制限値を超えないレンズをさらに提供する。」このように,乙1発明では,レンズの上端から下端まで連続的に度数が変化するもの,すなわち,いわば全面が累進部であるものしか開示がなく,全ての領域で連続的に度数が変化しているから,本件各発明における(遠距離の物を見るための屈折力を備えた視野部分である)「遠用部」,(近距離の物を見るために,遠用部と異なる屈折力を備えた視野部分である)「近用部」,「これらの間で屈折力が累進的に変化する累進部」がなく,加えて,「遠用部から近用部に向かって延びる」ような主注視線に相当するものがない。 したがって,乙1発明は,構成要件【ア】を備えていない。 ウ構成要件【イ】の非充足性乙1発明において円筒状もしくはトロイダル表面のz座標が加えられているのは,乱視矯正の目的ではなく,眼鏡レンズの内側を顔の形状に沿って湾曲したメニスカス(三日月)形状にするためにすぎない。 円筒状(シリンドリカル)面は,一方の軸の曲率がゼロで,かつ,その軸と直交する方向の曲率が一定の円柱表面を切り取った面であり,トロイダル面は,シリンドリカル面の曲率がゼロの軸方向の曲率が一定の曲率を 有する面を意味する単純な形状である。このシリンドリカル面やトロイダル面は,眼鏡の分野では顔の形状に沿わせる湾曲形状とするために利用されている。 例えば,フラットに近い平面形状の眼鏡レンズとした場合,レンズの周縁部を通して物を見ると,物がはっきり見えず,有効視界の範囲が狭いので,有効視界の範囲を広くするために,顔の形状に沿わせる湾曲形状(メニスカス形状)として形成するため球面,シリンドリカル面,トロイダル面が用いられているのである。このような例は,米国特許第1697030号の公報( 囲を広くするために,顔の形状に沿わせる湾曲形状(メニスカス形状)として形成するため球面,シリンドリカル面,トロイダル面が用いられているのである。このような例は,米国特許第1697030号の公報(甲28)や,「Gargoyles」との商標が表示されたホームページ(http://www.sporteyes.com/gargoyle.htm)(甲29)にも記載されている。 そして,乙1公報には,「例えば,レンズの裏面に多焦点表面を作る場合,慣例にしたがって,この裏面を必ず凹面とし負の度数をもつ面とすることが望まれる。説明してきたどの設計からも,レンズ面にわたりほとんど同じ度数勾配を有し,全ての点でオリジナル設計よりある高い(度数)か,又は(ある)低い度数を有する設計を容易に得ることができる。このためには,球面又はシリンドリカル面若しくはトロイダル面のZ軸座標値に対して対応する値のZ値を加えることで充分である。もしそれがなされると,結果である表面は,オリジナルな面と球面又はシリンドリカル面若しくはトロイダル面の表面の点での度数の代数的な正確な合計ではないが,かなり近似した度数をそれぞれの点で持つだろう。」と記載されている。このように,乙1発明では,眼鏡レンズの裏面(すなわち,眼球側の面)を凹面(メニスカス形状)にすべく,裏面に凹状の湾曲を与える目的だけのために,累進レンズ面に球面またはシリンドリカル面もしくはトロイダル面のZ座標を加算しているにすぎない。すなわち, 乙1発明においては,そのような眼球側の面(裏面)において,累進屈折面に,乱視の処方面を合成するような技術的思想は,何ら開示されていない。 したがって,乙1発明は,構成要件【イ】を備えていない。 エ構成要件【エ】の非充足性乙1公報(第1欄71行~第2 屈折面に,乱視の処方面を合成するような技術的思想は,何ら開示されていない。 したがって,乙1発明は,構成要件【イ】を備えていない。 エ構成要件【エ】の非充足性乙1公報(第1欄71行~第2欄4行,訳文:甲25・2頁5行~8行)には,「本発明を構成する眼鏡レンズは,レンズの一方の面,好ましくはレンズの裏面,すなわち着用者の目に最も近い面に特殊な多焦点面を有する。レンズのもう一方の面は,装用者の眼球の不完全さを補正するために用いられる球面,シリンドリカル又はトロイダル形状が付与される。」と記載されており,多焦点面は遠近調節力を補てんするために眼球側の面(裏面)に設け,視力の不完全さ(遠視,近視,乱視など)の矯正については他方の面(表面,すなわち,物体側の面)で行うことを開示している。 乙1発明は,遠視,近視,乱視処方の乱視屈折面と,老視処方の累進屈折面とをそれぞれ異なる面で設計することを開示したものであり,累進処方と乱視処方を2つの面で充足させる,従来どおりの処方面分配思想に基づくものである。 このように,乙1発明では,老視処方の累進屈折面が眼球側にあるときは,(シリンドリカル面またはトロイダル面である)乱視矯正面は,物体側(外面)にあるので,物体側の面は球面とはならない。 したがって,乙1発明は,構成要件【エ】を備えていない。 オ以上のとおり,乙1発明は,本件発明3の1と同一ではない。また,上記イないしエのとおり,本件発明3の1と乙1発明の相違点は明確であり,相互に課題,解決手段を全く異にしており,乙1発明に技術常識や公知技 術を組み合わせて本件発明3の1に至るべき動機付けなどは見当たらず,進歩性が否定される理由もない。 本件各発明は,「像の揺れや歪みの発生しやすい遠用部と近用部の度数の差(加入度) 術を組み合わせて本件発明3の1に至るべき動機付けなどは見当たらず,進歩性が否定される理由もない。 本件各発明は,「像の揺れや歪みの発生しやすい遠用部と近用部の度数の差(加入度)の大きなユーザーに対しても,揺れや歪みが少なく明瞭な視野を提供できる累進多焦点レンズ及び眼鏡レンズを提供することを目的」(本件明細書等4頁12行~14行)とするが,乙1発明は,レンズの上部から下部にかけて度数を累進的かつ連続的に増加させるレンズを提供するもので,本件各発明のように「遠用部」,「近用部」及び「これらの間で屈折力が累進的に変化する累進部」を備えたものではなく,全部累進部であるから,使用者にとっても見え方や使い勝手が全く異なり,本件各発明の作用効果としての視野も全く異なるものである。 さらに,乙1公報には,レンズ設計において,老視処方の累進屈折面と乱視処方の乱視屈折面との面に合成について論じている記載が全くない。 乙1発明は,「累進屈折面」としての機能と「乱視矯正面」としての機能とを一つの面に合成して統合することについて何ら開示又は示唆するものではなく,本件各発明とは得られる光学的機能及び光学的効果が全く異なる。 このように,乙1公報には,本件発明3の1に関する開示も示唆もなく,本件発明3の1は乙1公報の記載内容から容易に想到し得るものでもない。 カ乙6発明の適用について(ア) 乙1発明は,レンズの一方の面の全体が累進面で構成されており,遠用部と近用部を備えていない点(構成要件【ア】),円筒状又はトロイダルの座標値を加える意味はメニスカス形状にするためであるにすぎず,「累進屈折面と乱視矯正用の屈折面とが合成された面」を開示しているものではない点(構成要件【イ】),遠視,近視,乱視処方の乱視屈折面と,老視処方の累進屈折 はメニスカス形状にするためであるにすぎず,「累進屈折面と乱視矯正用の屈折面とが合成された面」を開示しているものではない点(構成要件【イ】),遠視,近視,乱視処方の乱視屈折面と,老視処方の累進屈折面とをそれぞれ異なる面で設計することを開示 しており,物体側の面が球面とはならない点(構成要件【エ】)において,本件発明3の1と相違する。 (イ) そして,乙1発明に乙6発明を組み合わせても,次のとおり,上記(ア)の相違点は解消されない。 まず,乙6発明は,そもそも2枚のレンズ一組で度数矯正レンズとして機能するものであり,その2枚のレンズのうちの1枚を取り出しても,およそ眼鏡レンズとして機能するものではなく,構成要件【ア】,【イ】及び【エ】に相当する構成を乙6発明は備えないばかりか,乙1発明に適用することについては,阻害要因が認められる。 したがって,乙6発明を乙1発明に適用することは困難であり,構成要件【ア】,【イ】及び【エ】に係る相違点は解消されない。 また,乙6発明の2枚のレンズのうちの1枚のレンズを取り出したところで,その累進面はレンズの全面にわたり設けられており,これを同じくレンズの全面にわたり累進面が設けられた乙1発明に適用したところで,構成要件【ア】に係る相違点も解消されない。 さらに,乙6公報の「乱視の曲率を加味しておけばよい」との記載についても,およそ具体的な構成を備えないものであり,そもそも引用発明としての適格性を欠いており,構成要件【イ】に相当する構成には当たらない。いずれにせよ乙6公報においては,「乱視の曲率を加味」するという記載を,遠用部,累進部及び近用部のある累進面を備えた眼鏡レンズに適用することを示唆する記載は一切ない。 したがって,この記載により,構成要件【イ】に係る相違点は解消されない 率を加味」するという記載を,遠用部,累進部及び近用部のある累進面を備えた眼鏡レンズに適用することを示唆する記載は一切ない。 したがって,この記載により,構成要件【イ】に係る相違点は解消されない。 (ウ) このように,乙1発明に乙6発明又は乙6公報の「乱視の曲率を加味しておけばよい」ようにするとの記載を適用しようとしても,適用しようがないか,又は適用することが困難であり,本件発明3の1の構成要 件【ア】,【イ】又は【エ】に係る相違点はおよそ解消されない。 (3) 無効理由2-1(本件発明7の1の新規性欠如及び進歩性欠如)についてア新規性欠如について(ア) 乙1公報に構成要件【ア】ないし【ウ】に相当する構成aないしeの開示がある,とする被告の主張が誤りであることは,上記(2)で述べたとおりである。 (イ) そして,乙1発明は,そもそも「遠用部」も「近用部」も備えていないのであるから,「遠用部から近用部に向かって延びる主注視線」を備えていない。 したがって,乙1発明は,構成要件【オ】を備えていない。 (ウ) また,乙1発明には,「遠用部」もなければ「主注視線」もないのであるから,「主注視線」の存在を前提とする構成要件【カ】の「少なくとも一部の領域で,前記主注視線から離れるに従って小さくなる」ような「遠用部を構成するための前記累進屈折面の曲率」との構成も備えていないというほかない。 (エ) 以上のとおり,乙1発明は,構成要件【ア】ないし【ウ】,【オ】及び【カ】のいずれも備えていない。 したがって,本件発明7の1に係る特許は,特許法29条1項3号に抵触しない。 イ進歩性欠如について(ア) 上記(2)で主張したとおり,乙1発明にいかなる公知技術や周知技術を組み合わせようとも本件発明3の1に至ることはな 係る特許は,特許法29条1項3号に抵触しない。 イ進歩性欠如について(ア) 上記(2)で主張したとおり,乙1発明にいかなる公知技術や周知技術を組み合わせようとも本件発明3の1に至ることはないが,まして更に固有の構成(構成要件【オ】及び【カ】)を備えた本件発明7の1は,当業者において容易に発明をすることができたものではない。 (イ) したがって,本件発明7の1に係る特許は,特許法29条2項に抵触しない。 (4) 無効理由3-1(本件発明8の1の新規性欠如及び進歩性欠如)についてア新規性欠如について(ア) 乙1発明が構成要件【ア】ないし【ウ】及び【オ】に相当する構成を有していないことは上記(2)及び(3)のとおりである。 (イ) そして,乙1発明には,「近用部」もなければ「主注視線」もないのであるから,「主注視線」の存在を前提とする構成要件【キ】の「少なくとも一部の領域で,前記主注視線から離れるに従って大きくなる」ような「近用部を構成するための前記累進屈折面の曲率」との構成も備えていないというほかない。 (ウ) 以上のとおり,乙1発明は,構成要件【ア】ないし【ウ】,【オ】及び【キ】のいずれも備えていない。 したがって,本件発明8の1に係る特許は,特許法29条1項3号に抵触するものではない。 イ進歩性欠如について(ア) 上記(2)で主張したとおり,乙1発明にいかなる公知技術や周知技術を組み合わせようとも,本件発明3の1に至ることはないが,まして更に固有の構成(構成要件【オ】および【キ】)を備えた本件発明8の1は,当業者において容易に発明をすることができたものではない。 (イ) したがって,本件発明8の1に係る特許は,特許法29条2項に抵触しない。 4 争点(2)ア(イ),同イ(イ),同ウ( 明8の1は,当業者において容易に発明をすることができたものではない。 (イ) したがって,本件発明8の1に係る特許は,特許法29条2項に抵触しない。 4 争点(2)ア(イ),同イ(イ),同ウ(イ)(無効理由1-2,2-2,3-2。乙2発明に基づく進歩性欠如)について〔被告の主張〕(1) 無効理由1-2(本件発明3の1の進歩性欠如)についてア本件発明3の1と乙2発明との対比(ア) 乙2発明において,「多焦点セグメント(部分)」が「累進面」を 意味するものか否かについて明らかではない点及びトーリック面よりも「もっと複雑な形状」の具体例が必ずしも定かではない点が,乙2発明と本件発明3の1の相違点である。 (イ)「多焦点セグメント」について本件特許の優先日前に公開されている米国特許第5402607号明細書(乙14)において,乙2公報に接した当業者が,乙2公報記載の装置により,凹面に累進面などの非球面を生成することができるものと理解していることが示されている。現に当業者が乙2公報から凹面の累進面に想到しているのであるから,乙2発明が凹面に有する「多焦点セグメント」が「累進面」と同視できるか否かは定かでないとしても,当業者がこれを「累進面」とすることに何ら支障はない。 「多焦点」とは,そもそも二重焦点,三重焦点又は累進多焦点のいずれかを意味し(乙43ないし45),累進多焦点を含意している。そして,乙2公報に開示された装置は,3軸制御により任意の三次元表面を加工するための切削機械である。ここでいう任意の三次元表面には非球面も含まれる。 かかる事実に照らせば,乙2公報について,原告が主張するように「『小玉』を意味する『多焦点セグメント』を切削すること以上には,全く開示がない」などと理解することは不自然であり 非球面も含まれる。 かかる事実に照らせば,乙2公報について,原告が主張するように「『小玉』を意味する『多焦点セグメント』を切削すること以上には,全く開示がない」などと理解することは不自然であり,やはり,上記切削機械によって累進面を含む非球面が切削されることが示唆されていると理解するのが合理的であるから,当業者が乙2発明の「多焦点セグメント」を「累進面」とすることは極めて容易というべきである。 原告も,当業者が乙2発明の「多焦点セグメント」を「累進面」とすることができない阻害事由については何ら主張していない。 (ウ)トーリック面よりも「もっと複雑な形状」について乙2発明は,トーリック面よりも「もっと複雑な形状を与えてやるよ うな手段」(乙2公報7頁右下欄9~10行)の提供をその基本的な目的としているところ,トーリック面と多焦点セグメントとを共に凹面に配置した形状を有する本件発明3の1と比べ,乙2発明においては「トーリック面よりももっと複雑な形状」の具体例が必ずしも定かではないという相違点がある。 上記相違点は,乙2公報において少なくとも示唆されており,具体例としてトーリック面と多焦点セグメントとを共に凹面に配置した形状を想到することは,当業者において容易であったと言える。 すなわち,乙2公報(7頁右下欄6~14行)には,従来は,トーリック面の複雑性を超えない形状しか加工することができず,もっと複雑な形状を与えてやるような手段が望まれることが記載されている。そして,次の段落では,多焦点レンズでは,色々な多焦点セグメントが一方の表面に形成されたレンズブランクをストックしておき,対向表面を切削加工して,与えられた所定の処方を満たすようにする必要があったことが記載されている。つまり,従来は,トーリック面の複雑性を超え 一方の表面に形成されたレンズブランクをストックしておき,対向表面を切削加工して,与えられた所定の処方を満たすようにする必要があったことが記載されている。つまり,従来は,トーリック面の複雑性を超える形状の加工はできなかったため,処方値によっては,多焦点セグメントとトーリック面の両方の切削加工が求められる事態を防ぐため,非経済的ではあるものの,多焦点セグメントを予め形成したレンズブランクをストックしておくという解決策が取られていたことが記載されている。 以上のような背景を踏まえれば,処方によって特性が指定される乙2発明が可能とする「トーリック面よりももっと複雑な形状」の具体例として,当業者が,レンズブランクのストックを減らす経済的観点から,多焦点セグメントにトーリック面を合成した形状に想到することは,極めて容易であったと言える。 以上のとおり,乙2公報には,「トーリック面よりももっと複雑な形状」,具体的には,トーリック面に多焦点セグメントを合わせた形状が 示唆されている。 そして,多焦点セグメントを累進面とすることが当業者に容易であり,現にそのような構成に想到した当業者が存在したことは,上記(イ)で論じたとおりである。 したがって,乙2発明に基づいて,当業者が,トーリック面に累進面を合わせた形状に想到することを妨げるべき理由は一切存在しない。 イ乙6公報の適用原告は,乙2発明は構成要件【イ】を有していないと主張するが,乱視矯正用の円柱面(トーリック面)を内面(後面)に設けることは本件特許の優先日当時の技術常識である。たとえば,周知技術・公知技術の一例である乙6公報には,「内面が累進面であっても内面に所定の乱視の曲率を与えればよい」と記載されている。 乙2公報には,外面が球面で内面が累進面である累進屈折 ある。たとえば,周知技術・公知技術の一例である乙6公報には,「内面が累進面であっても内面に所定の乱視の曲率を与えればよい」と記載されている。 乙2公報には,外面が球面で内面が累進面である累進屈折力レンズが開示されているが,これは,乙6公報に記載された「外面m3が球面であり,内面m4が累進面である眼鏡レンズⅡ」と同一の構成であるから,当業者において,乙6公報における「内面が累進面であっても内面に所定の乱視の曲率を与えればよい」という教示を,乙2発明に適用することについて,動機付けがあった。そして,乙2発明に,乙6公報の記載内容を適用することを妨げる阻害事由は存在しない。 したがって,乙6公報は,当業者に対し,乙2発明におけるレンズの内面に乱視矯正用の屈折面を形成することを極めて容易に想到させるものである。 ウ本件発明3の1の進歩性の欠如について以上のとおり,本件発明3の1と乙2発明の相違点は,本件特許の優先日における,累進多焦点レンズの技術分野における技術常識ないし公知技術を乙2発明に適宜組み合わせることで,当業者が容易に想到し得たもの にすぎないから,進歩性を有しないことは明らかである。 したがって,本件発明3の1は,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものであって,同法123条1項2号の無効理由がある。 (2) 無効理由2-2(本件発明7の1の進歩性欠如)について原告の解釈によれば,乙2発明に「主注視線」が存在しないことはあり得ない(構成要件【オ】)。そして,上記(1)で述べたことに加え,構成要件【カ】が,本件特許の優先日における技術常識であること(乙1,乙3,乙7,乙35)からすると,本件発明7の1は,乙2発明に基づいて当業者が容易に想到し得たものであることが明らかである。 した 要件【カ】が,本件特許の優先日における技術常識であること(乙1,乙3,乙7,乙35)からすると,本件発明7の1は,乙2発明に基づいて当業者が容易に想到し得たものであることが明らかである。 したがって,本件発明7の1は,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものであって,同法123条1項2号の無効理由がある。 (3) 無効理由3-2(本件発明8の1の進歩性欠如)について本件発明8の1は,本件発明7の1が遠用部を対象とするのに対し,近用部を対象とする点で本件発明7の1と相違する。 ところで,遠用部ではなく近用部に係る構成要件【キ】は,眼球側の凹面に累進屈折面を付加することよる必然的な曲率変化であるにすぎず,当業者に自明な構成である。 したがって,本件発明8の1は,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものであって,同法123条1項2号の無効理由がある。 〔原告の主張〕(1) 無効理由1-2(本件発明3の1の進歩性欠如)についてア乙2発明は,レンズの成形加工をする装置の発明にすぎず,レンズの具体的構成については一切開示していないことから,本件発明3の1と乙2発明とは,構成要件【ア】から【エ】までにおいて相違する。 例えば,乙2発明は,構成要件【ア】,【ウ】及び【エ】に相当する構成 を備えた累進多焦点レンズを開示していない。 また,乙2公報にはセグメント(小玉)をもったレンズの記述しかなく,累進屈折面を形成することはもとより,「累進屈折面」と「乱視矯正用の屈折面とが合成」されることについても全く記載がない。すなわち,乙2公報は構成要件【イ】に相当する累進多焦点レンズを開示していない。 イ被告は,乙2発明に係る欧州出願(EP281754)が,被告の関連会社の米国特許 ることについても全く記載がない。すなわち,乙2公報は構成要件【イ】に相当する累進多焦点レンズを開示していない。 イ被告は,乙2発明に係る欧州出願(EP281754)が,被告の関連会社の米国特許の明細書(乙14)に,「累進面(progressivesurface)」を加工することができる多軸の数値制御装置の例として記載されているから,累進面も乙2公報において開示されている旨の主張をしているが,この主張には理由がない。すなわち,加工装置のみでは,レンズをどのように加工するかは決まらない。被告の論法は,加工装置の開示があれば,その装置により加工可能な形状は,全て開示されているというにも等しい。 いずれにせよ,乙2公報には,本件発明3の1の構成の開示は一切ない。 ウ(ア) このように,乙2発明は,およそ本件発明3の1と対比することができるような構成を示しているものではなく,その相違点を技術常識により補えるようなものではない。 (イ) 被告は,乙2発明に乙6発明を適用することで本件発明3の1が容易に想到できると主張するが失当である。 まず,乙6発明は,2枚のレンズ一組で度数矯正レンズとして機能するものであり,その2枚のレンズのうちの1枚を取り出しても,およそ眼鏡レンズとして機能するものではなく,構成要件【ア】ないし【エ】に相当する構成を乙6発明は備えていない。 したがって,乙6発明を乙2発明に適用すること自体困難であり,仮に適用したところで,構成要件【ア】ないし【エ】に係る相違点は解消されない。 また,乙6発明の2枚のレンズのうちの1枚のレンズを取り出したと ころで,その累進面はレンズの全面にわたり設けられており,これを乙2発明に適用したところで,構成要件【ア】に係る相違点は解消されない。 さらに,乙6公報の「乱 レンズを取り出したと ころで,その累進面はレンズの全面にわたり設けられており,これを乙2発明に適用したところで,構成要件【ア】に係る相違点は解消されない。 さらに,乙6公報の「乱視の曲率を加味しておけばよい」との記載についても,およそ具体的な構成を備えないものであり,そもそも引用発明としての適格性を欠いており,構成要件【イ】に相当する構成には当たらない。 したがって,この記載により,構成要件【イ】に係る相違点は解消されない。 (ウ) このように乙2発明に乙6発明又は乙6公報の「乱視の曲率を加味しておけばよい」との記載を適用しようとしたとしても,適用しようがないか,又は適用することが困難であり,構成要件【ア】ないし【エ】に係る相違点はおよそ解消されない。 エしたがって,無効理由1-2には理由がなく,本件発明3の1は進歩性を欠くものではない。 (2) 無効理由2-2(本件発明7の1の進歩性欠如)について上記(1)のとおり,乙2発明は本件各発明とはその技術の前提がおよそ異なり,これといかなる公知技術や周知技術を組み合わせようとも,本件発明3の1に至ることはなく,まして,その従属発明であり,かつ,固有の構成を有する本件発明7の1について,進歩性が否定されることはない。 (3) 無効理由3-2(本件発明8の1の進歩性欠如)について上記(1)のとおり,乙2発明は本件各発明とはその技術の前提がおよそ異なり,これといかなる公知技術や周知技術を組み合わせようとも,本件発明3の1に至ることはなく,まして,その従属発明であり,かつ,固有の構成を有する本件発明8の1について,進歩性が否定されることはない。 5 争点(2)ア(ウ),同イ(エ),同ウ(エ)(無効理由1-3,2-4,3-4。乙4 発明に基づく新規性 ,固有の構成を有する本件発明8の1について,進歩性が否定されることはない。 5 争点(2)ア(ウ),同イ(エ),同ウ(エ)(無効理由1-3,2-4,3-4。乙4 発明に基づく新規性欠如及び進歩性欠如)について〔被告の主張〕(1) 乙4発明は,次の構成を有する。 a 異なる屈折力を有する遠用部及び近用部と,b これらの間で屈折力が連続的に変化する累進部とc を備えた多焦点レンズにおいて,d-1 この多焦点レンズの凹側の表面は,遠用部,近用部及び累進部で構成された累進面であり,d-2 当該凹側の表面は,さらに,乱視矯正用に水平方向と垂直方向で異なる屈折力を有する。 e レンズの凸側の表面が球面である。 (2) 無効理由1-3(本件発明3の1の新規性欠如及び進歩性欠如)についてア本件発明3の1と乙4発明との対比(ア) 乙4発明は,異なる屈折力を有する遠用部及び近用部と,これらの間で屈折力が連続的に変化する累進部とを備えた多焦点レンズである(構成aないしc)。 したがって,構成要件【ア】は,乙4公報に開示されている。 (イ) 乙4発明は,凹側の表面が,遠用部,近用部及び累進部で構成された累進面であり,当該凹側の表面は,さらに,乱視矯正用に水平方向と垂直方向で異なる屈折力を有する(構成d-1及びd-2)。そして,乙4発明の凹側の表面において,累進屈折面に乱視矯正用の屈折力が合わされているから,「合成」に該当する。なお,ここでは,「合成」は,「合して一つのものにされていること」を意味するという原告の解釈を前提としている。 したがって,構成要件【イ】は,乙4公報に開示されている。 (ウ) 乙4発明は,累進部を有する多焦点レンズであるから(構成aないし c),累進多焦 いう原告の解釈を前提としている。 したがって,構成要件【イ】は,乙4公報に開示されている。 (ウ) 乙4発明は,累進部を有する多焦点レンズであるから(構成aないし c),累進多焦点レンズに該当する。 したがって,構成要件【ウ】は,乙4公報に開示されている。 (エ) 乙4発明は,レンズの凸側の表面が球面であるが(構成e),レンズの凸側の表面は物体側の面である。 したがって,構成要件【エ】は,乙4公報に開示されている。 イ本件発明3の1の新規性又は進歩性の欠如(ア) 新規性欠如について以上のとおり,本件発明3の1と乙4発明との間には相違点がない。 原告が,仮に何らかの相違点を主張したとしても,本件特許の優先日における技術常識に照らして,実質的な相違点ではあり得ず,新規性を有しないことは明らかである。 (イ) 進歩性欠如について仮に相違点が認められるとしても,本件特許の優先日における,累進多焦点レンズの技術分野における技術常識ないし公知技術を乙4発明に適宜組み合わせることで,当業者が容易に想到し得たものにすぎないから,進歩性を有しないことは明らかである。 この点に関して原告は,乙4発明は構成要件【イ】を有していないと主張するが,乱視矯正用の円柱面(トーリック面)を内面(後面)に設けることは本件特許の優先日当時の技術常識である。たとえば,周知技術・公知技術の一例である乙6公報には,「内面が累進面であっても内面に所定の乱視の曲率を与えればよい」と記載されている。 乙4公報には,外面が球面で内面が累進面である累進屈折力レンズが開示されているが,これは,乙6公報に記載された「外面m3が球面であり,内面m4が累進面である眼鏡レンズⅡ」と同一の構成であるから,当業者において,乙6公報における「内面が累進面であって 力レンズが開示されているが,これは,乙6公報に記載された「外面m3が球面であり,内面m4が累進面である眼鏡レンズⅡ」と同一の構成であるから,当業者において,乙6公報における「内面が累進面であっても内面に所定の乱視の曲率を与えればよい」という教示を,乙4発明に適用するこ とについて,動機付けがあった。そして,乙4発明に,乙6公報の記載内容を適用することを妨げる阻害事由は存在しない。 したがって,乙6公報は,当業者に対し,乙2発明におけるレンズの内面に乱視矯正用の屈折面を形成することを極めて容易に想到させるものである。 (ウ) 以上のとおり,本件発明3の1は,特許法29条1項3号または同条2項の規定により特許を受けることができないものであって,同法123条1項2号の無効理由がある。 (3) 無効理由2-4(本件発明7の1の進歩性欠如)について前記(2)のとおり,乙4公報には,構成要件【ア】ないし【ウ】が開示されている。 そして,無効理由2-1に関して明らかにしたとおり,構成要件【オ】及び【カ】は,当業者に自明なものにすぎない。 したがって,本件発明7の1は,乙4発明に基づいて当業者が容易に想到し得たものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。 (4) 無効理由3-4(本件発明8の1の進歩性欠如)について本件発明8の1は,本件発明7の1が遠用部を対象とするのに対し,近用部を対象とする点で本件発明7の1と相違する。 しかしながら,遠用部ではなく近用部に係る構成要件【キ】は,乙7公報に開示されている構成であり,また,乙1公報に開示されている。そもそも,構成要件【キ】は,眼球側の凹面に累進屈折面を付加することによる必然的な曲率変化であるにすぎず,当業者に自明な構成である(乙3) に開示されている構成であり,また,乙1公報に開示されている。そもそも,構成要件【キ】は,眼球側の凹面に累進屈折面を付加することによる必然的な曲率変化であるにすぎず,当業者に自明な構成である(乙3)。 したがって,本件発明8の1は,本件発明7の1と同様に,乙4発明に基づいて当業者が容易に想到し得たものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。 〔原告の主張〕(1) 乙4発明について乙4発明は,段階的に屈折力の変化するストライプ状に分割された屈折面(セグメント)を多数並べた多焦点レンズであるにすぎない。そのような各セグメント内において,非点収差が除去される。いずれにせよ,昭和6年に出願された乙4発明には,遠用部及び近用部並びに累進屈折面からなる現代の累進屈折レンズが有する光学レイアウトはおよそ開示されていない。 (2) 無効理由1-3(本件発明3の1の新規性欠如及び進歩性欠如)についてア本件発明3の1と乙4発明との対比(ア) 乙4発明は,段階的な凹表面を設けることを開示しているにすぎず,本件発明3の1の累進多焦点レンズの遠用部,近用部及び累進部のレイアウトを備えていない。 したがって,乙4発明は,構成要件【ア】及び【ウ】に相当する構成を有していない。 (イ) 乙4発明は,「累進屈折面と乱視矯正用の屈折面とを合成した面」を有していない。 したがって,乙4発明は,構成要件【イ】に相当する構成を有していない。 (ウ) 乙4発明は,乱視の矯正をするとき,「一つの面を焦点が段階的に変化するように研磨」する一方,「もう一つの面は,目の特定の欠陥を矯正」することを開示している。その結果,乙4発明において,乱視の矯正面を形成するときは,「物体側の面が球面」となり得ない。すなわち,乙4 るように研磨」する一方,「もう一つの面は,目の特定の欠陥を矯正」することを開示している。その結果,乙4発明において,乱視の矯正面を形成するときは,「物体側の面が球面」となり得ない。すなわち,乙4発明は,構成要件【エ】の「物体側の面が球面であること」に相当する構成を有していない。 イ本件発明3の1の新規性又は進歩性の欠如(ア) 新規性欠如について 以上のとおり,本件発明3の1が乙4発明と同一であることはあり得ない。また,乙4発明との相違点は余りに大きく,乙4発明に接した当業者において,それ以外の公知発明を適用したところで,本件発明3の1を発明することは考え難い。 (イ) 進歩性欠如について被告は,乙4発明に乙6発明を適用することで本件発明3の1が容易に想到できると主張するが失当である。 乙6発明は,そもそも2枚のレンズ一組で度数矯正レンズとして機能するものであり,その2枚のレンズのうちの1枚を取り出しても,およそ眼鏡レンズとして機能するものではなく,構成要件【ア】ないし【エ】に相当する構成を備えないばかりか,乙4発明に適用することについて阻害要因がある。 したがって,乙6発明を乙4発明に適用することは困難であり,構成要件【ア】から【エ】までに係る相違点は解消されない。 また,乙6発明の2枚のレンズのうちの1枚のレンズを取り出したところで,その累進面はレンズの全面にわたり設けられており,これを乙4発明に適用したところで,構成要件【ア】に係る相違点は解消されない。 さらに,乙6公報の「乱視の曲率を加味しておけばよい」との記載についても,およそ具体的な構成を備えないものであり,そもそも引用発明としての適格性を欠いており,構成要件【イ】に相当する構成には当たらない。いずれにせよ乙6公報においては,乙6公報の い」との記載についても,およそ具体的な構成を備えないものであり,そもそも引用発明としての適格性を欠いており,構成要件【イ】に相当する構成には当たらない。いずれにせよ乙6公報においては,乙6公報の「乱視の曲率を加味しておけばよい」との記載を遠用部,累進部及び近用部のある累進面を備えた眼鏡レンズに適用することを示唆する記載も一切ない。 したがって,乙6公報の記載により,構成要件【イ】に係る相違点は解消されない。 このように乙4発明に乙6発明又は乙6公報の「乱視の曲率を加味しておけばよい」との記載を適用しようとしたとしても,適用しようがないか,又は適用することが困難であり,構成要件【ア】ないし【エ】に係る相違点はおよそ解消されない。 (ウ) 以上のとおり,無効理由1-3には理由がなく,本件発明3の1は,新規性又は進歩性を欠くものではない。 (3) 無効理由2-4(本件発明7の1の進歩性欠如)について前記(2)のとおり,乙4発明は,構成要件【ア】ないし【ウ】を有していない。しかも,被告は相違点に係る構成を明確に主張していない。 そして,例えば,「累進屈折面」と「乱視矯正用の屈折面」とを「合成」したものが,乙4発明はもとより乙5発明及び乙6発明においても開示されていないから,これらをどのように組み合わせようとも,本件発明7の1の構成になるものではない。 したがって,無効理由2-4には理由がなく,本件発明7の1は,進歩性を欠くものではない。 (4) 無効理由3-4(本件発明8の1の進歩性欠如)について前記(3)と同様に,無効理由3-4には理由がなく,本件発明8の1は,進歩性を欠くものではない。 6 争点(2)ア(エ),同イ(オ),同ウ(オ)(無効理由1-4,2-5,3-5。乙5発明に基づく新規性欠如及び進 様に,無効理由3-4には理由がなく,本件発明8の1は,進歩性を欠くものではない。 6 争点(2)ア(エ),同イ(オ),同ウ(オ)(無効理由1-4,2-5,3-5。乙5発明に基づく新規性欠如及び進歩性欠如)について〔被告の主張〕(1) 乙5発明は,以下の構成を有する。 a それぞれ一定の効果を有する遠用部及び近用部と,b 遠用部と近用部との間の主線に沿った累進部とc を備えた累進眼鏡レンズにおいて,d 眼鏡レンズの内側の表面が,主線に沿って面屈折力が変化する累進面で あり,かつ,矯正用の非点収差をもたらすための形状が付与された表面である。 e 当該レンズの外側の表面が,回転対称面である。 (2) 無効理由1-4(本件発明3の1の新規性欠如及び進歩性欠如)についてア本件発明3の1と乙5発明との対比(ア) 乙5発明は,それぞれ一定の効果を有する遠用部及び近用部と,遠用部と近用部との間の主線に沿った累進部とを備えた累進眼鏡レンズである(構成aないしc)。 したがって,構成要件【ア】は,乙5公報に開示されている。 (イ) 乙5発明は,眼鏡レンズの内側の表面が,主線に沿って面屈折力が変化する累進面であり,かつ,矯正用の非点収差をもたらすための形状が付与された表面である(構成d)。ここで,乙5発明の内側の表面は,累進面に矯正用の非点収差をもたらすための形状が付与されており,「合成」に該当する。 したがって,構成要件【イ】は,乙5公報に開示されている。 (ウ) 乙5発明は,累進眼鏡レンズであるから(構成c),累進多焦点レンズに該当する。 したがって,構成要件【ウ】は,乙5公報に開示されている。 (エ) 乙5発明は,レンズの外側の表面が,回転対称面である(構成e)。 レンズの外側の表面 c),累進多焦点レンズに該当する。 したがって,構成要件【ウ】は,乙5公報に開示されている。 (エ) 乙5発明は,レンズの外側の表面が,回転対称面である(構成e)。 レンズの外側の表面は物体側の面であり,球面は回転対称面の典型例であるから,構成要件【エ】は,乙5公報に開示されている。 イ本件発明3の1の新規性又は進歩性の欠如(ア) 新規性欠如について以上のとおり,本件発明3の1と乙5発明との間には相違点がない。 原告が,仮に何らかの相違点を主張したとしても,本件特許の出願時の技術常識に照らして,実質的な相違点ではあり得ず,新規性を有しない ことは明らかである。 (イ) 進歩性欠如について仮に相違点が認められるとしても,本件特許の出願時における,累進多焦点レンズの技術分野における技術常識ないし公知技術を乙5発明に適宜組み合わせることで,当業者が容易に想到し得たものにすぎないから,進歩性を有しないことは明らかである。 この点に関して原告は,乙5発明は構成要件【イ】を有していないと主張するが,乱視矯正用の円柱面(トーリック面)を内面(後面)に設けることは本件特許の優先日当時の技術常識である。たとえば,周知技術・公知技術の一例である乙6公報には,「内面が累進面であっても内面に所定の乱視の曲率を与えればよい」と記載されている。 乙5公報には,一方の面が球面で他方の面が累進面である累進屈折力レンズが開示されているが,これは,乙6公報に記載された「外面m3が球面であり,内面m4が累進面である眼鏡レンズⅡ」と同一の構成であるから,当業者において,乙6公報における「内面が累進面であっても内面に所定の乱視の曲率を与えればよい」という教示を,乙5発明に適用することについて,動機付けがあった。そして,乙5発明に, 構成であるから,当業者において,乙6公報における「内面が累進面であっても内面に所定の乱視の曲率を与えればよい」という教示を,乙5発明に適用することについて,動機付けがあった。そして,乙5発明に,乙6公報の記載内容を適用することを妨げる阻害事由は存在しない。 したがって,乙6公報は,当業者に対し,乙5発明におけるレンズの内面である累進面に乱視矯正用の屈折面を形成することを極めて容易に想到させるものである。 (ウ) 以上のとおり,本件発明3の1は,特許法29条1項3号または同条2項の規定により特許を受けることができないものであって,同法123条1項2号の無効理由がある。 (3) 無効理由2-5(本件発明7の1の進歩性欠如)について構成要件【ア】ないし【ウ】は,前記(2)のとおり,乙5公報に開示され ている。 そして,無効理由2-1に関して明らかにしたとおり,構成要件【オ】及び【カ】は,当業者に自明なものにすぎない。 したがって,本件発明7の1は,乙5公報に基づいて当業者が容易に想到し得たものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。 (4) 無効理由3-5(本件発明8の1の進歩性欠如)について本件発明8の1は,本件発明7の1が遠用部を対象とするのに対し,近用部を対象とする点で本件発明7の1と相違する。 しかしながら,遠用部ではなく近用部に係る構成要件【キ】は,乙7公報に開示されている構成であり,また,乙1公報に開示されている。そもそも,構成要件【キ】は,眼球側の凹面に累進屈折面を付加することによる必然的な曲率変化であるにすぎず,当業者に自明な構成である(乙3)。 したがって,本件発明8の1には,本件発明7の1と同様に,乙5公報に基づいて当業者が容易に想到し得たものであるから することによる必然的な曲率変化であるにすぎず,当業者に自明な構成である(乙3)。 したがって,本件発明8の1には,本件発明7の1と同様に,乙5公報に基づいて当業者が容易に想到し得たものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。 〔原告の主張〕(1) 乙5発明について乙5発明に対応する日本特許出願については,日本出願の補正前の明細書(甲39)における「非点収差」,「面非点収差」,「軸外非点収差」(斜光束非点収差)及び「全非点収差」(総非点収差)の技術的意義を理解できないとの理由により拒絶査定がされている(甲34・3頁4行以下の「【2】原査定の概要」)。 これに対し,拒絶査定不服審判請求がされたが,審決は,特許請求の範囲が不明確であり,発明の構成に欠くことができない事項のみを記載しているとは認められず(平成6年改正前特許法36条5項2号違反),かつ,発明の詳細 な説明も当業者において発明を実施することができる程度に記載されていないとして(同法36条4項違反),請求は成り立たないとした(甲34)。その後,審決取消訴訟が提起されたが,請求は棄却された(東京高等裁判所平成15年(行ケ)第75号・平成16年1月30日判決)。 このような日本特許出願におけるやや変則的な経過の原因ともなっている不明瞭さは,乙5発明においても同様であり,乙5発明において,「非点収差」,「面非点収差」,「斜光線方向の非点収差」及び「全非点収差」の技術的意義,特にその相互の関係が必ずしも明らかではない。また,明細書の記載と実施例(表1~5)との関係も明らかではない。したがって,乙5公報が,当業者において明確にその技術的事項を把握することができるだけの引用発明たり得るような技術的思想を開示しているかについては,大いに疑 施例(表1~5)との関係も明らかではない。したがって,乙5公報が,当業者において明確にその技術的事項を把握することができるだけの引用発明たり得るような技術的思想を開示しているかについては,大いに疑問がある。 (2) 無効理由1-4(本件発明3の1の新規性欠如及び進歩性欠如)についてア乙5発明は,累進屈折面をもつレンズの面非点収差と斜光束非点収差を合わせた総非点収差を主線に沿って,生理的な障害となる値以下にしようとするものであって,乱視矯正用の非点収差については,反対側の面で処理しようとするものであることは,乙5公報の請求項2について解説している明細書の次の記載,「請求項2に記載されているものは,ある面だけを効果の変化に寄与させるというものであり,他の面は,従来の方法により,いわゆる処方面として,球面作用又はトーリック作用を備えるように形成することができる。」(訳文:甲35・段落[0010])および請求項5の「5.もう一つの面が非点収差の作用を有していてもよく,特にアトーリック面として形成されていてもよいことを特徴とする請求項1又は2の眼鏡レンズ。」(訳文:甲35・「特許請求の範囲」の請求項5) との記載から明白である。 イ乙5公報には,一方の面に屈折力が変わりかつ総非点収差を修正する面を設け,他方の面に乱視などの処方用の面を設けることが記載されており,レンズの両面を加工することが前提とされていて,その一面,とりわけ内面のみを加工するような処方は記載されていない。 ウ以上のように,乙5公報には構成要件【イ】【ウ】に相当する記載はなく,乙5発明は,本件発明3の1と同一ではない。また,本件発明3の1と乙5発明は,その技術思想を異にしていて,乙5発明に本件発明3の1に至る示唆も動機もなく,乙5発明や周 】【ウ】に相当する記載はなく,乙5発明は,本件発明3の1と同一ではない。また,本件発明3の1と乙5発明は,その技術思想を異にしていて,乙5発明に本件発明3の1に至る示唆も動機もなく,乙5発明や周知技術に基づき,本件発明3の1が容易に想到できるという事情もない。 エこの点に関して被告は,乙5発明に乙6発明を適用することで本件発明3の1が容易に想到できると主張するが失当である。 乙6発明は,2枚のレンズのうちの1枚を取り出しても,およそ眼鏡レンズとして機能するものではなく,構成要件【ア】から【エ】までに相当する構成を備えていない。また,乙6公報の「乱視の曲率を加味しておけばよい」との記載についても,およそ具体的な構成を備えないものであり,そもそも引用発明としての適格性を欠いており,構成要件【イ】に相当する構成には当たらない。いずれにせよ,乙6公報には,「乱視の曲率を加味しておけばよい」との記載を,遠用部,累進部及び近用部のある累進面を備えた眼鏡レンズに適用することを示唆する記載は一切ない。したがって,乙6公報の記載により,構成要件【イ】に係る相違点は解消されない。 このように乙5発明に乙6発明又は乙6公報の「乱視の曲率を加味しておけばよい」との記載を適用しようとしたとしても,乙5発明及び乙6発明又は乙6公報の「乱視の曲率を加味」するとの記載のいずれにおいてもその構成が不明確であり,適用しようがないか,又は適用することが困難であり,本件発明3の1の構成を全て備えたものになることはあり得ない。 オしたがって,無効理由1-4には理由がなく,本件発明3の1は,新規性及び進歩性を欠くものではない。 (3) 無効理由2-5(本件発明7の1の進歩性欠如)について前記(2)のとおり,乙5公報に構成要件【ア】ないし【ウ】が開 は理由がなく,本件発明3の1は,新規性及び進歩性を欠くものではない。 (3) 無効理由2-5(本件発明7の1の進歩性欠如)について前記(2)のとおり,乙5公報に構成要件【ア】ないし【ウ】が開示されているとする被告の主張は誤りであり,構成要件【カ】が自明であるとする点も,乙7公報に反対の技術の開示があることからも誤りであることが明らかであって,当業者が容易に乙5発明から本件発明7の1を想到できたとする被告の主張には理由がない。 (4) 無効理由3-5(本件発明8の1の進歩性欠如)について本件発明8の1についても,本件発明7の1と同様に,被告の主張には理由がない。 7 争点(2)ア(オ),同イ(カ),同ウ(カ)(無効理由1-5,2-6,3-6。乙6発明に基づく新規性欠如及び進歩性欠如)について〔被告の主張〕(1) 乙6発明は,以下の構成を有する。 a 異なる度数を有する遠用部及び近用部と,b これらの間で屈折力が連続的に変化する累進帯とc を備えた累進多焦点レンズにおいて,d-1 この累進多焦点レンズの眼球側の面は,遠用部,近用部及び累進帯で構成された累進面であり,d-2 当該眼球側の面は,さらに,乱視処方用の曲率を有する。 e レンズの物体側の面は球面である。 (2) 無効理由1-5(本件発明3の1の新規性欠如及び進歩性欠如)についてア本件発明3の1と乙6発明との対比(ア) 乙6発明は,異なる度数を有する遠用部及び近用部と,これらの間で屈折力が連続的に変化する累進帯とを備えた累進多焦点レンズである (構成aないしc)。 したがって,構成要件【ア】は,乙6公報に開示されている。 (イ) 乙6発明は,眼球側の面が,遠用部,近用部及び累進帯で構成された累進 進多焦点レンズである (構成aないしc)。 したがって,構成要件【ア】は,乙6公報に開示されている。 (イ) 乙6発明は,眼球側の面が,遠用部,近用部及び累進帯で構成された累進面であり,さらに,乱視処方用の曲率を有する(構成d-1及びd-2)。ここで,眼球側の面において,累進面に乱視処方用の曲率が合わされているから,「合成」に該当する。 したがって,構成要件【イ】は,乙6公報に開示されている。 (ウ) 乙6発明は,累進多焦点レンズである(構成c)。 したがって,構成要件【ウ】は,乙6公報に開示されている。 (エ) 乙6発明は,レンズの物体側の面が球面である(構成e)。 したがって,構成要件【エ】は,乙6公報に開示されている。 イ本件発明3の1の新規性又は進歩性の欠如(ア) 新規性欠如について以上のとおり,本件発明3の1と乙6発明との間に相違点はなく,本件発明3の1は,乙6発明と同一である。 念のため補足すると,乙6発明の発明者のうち2名は,本件各発明の発明者である。そして,本件発明3の1は,乙6公報に記載されており,本件特許の優先日においては,それ自体に何ら新規なところはなく,この事実は,本件特許の出願人が十分に認識していたはずであり,また,原告は,本件訴訟の提起時において,この点を十二分に認識していたはずである。本件特許に明らかな瑕疵があり,特許無効審判により無効にされるべきものであることは論を俟たない。 (イ) 進歩性欠如について仮に,本件発明3の1と乙6発明の間に相違点が認められるとしても,本件特許の優先日における,累進多焦点レンズの技術分野における技術常識ないし公知技術を乙6発明に適宜組み合わせることで,当業者が容 易に想到し得たものにすぎないから,本件発明3の1が 本件特許の優先日における,累進多焦点レンズの技術分野における技術常識ないし公知技術を乙6発明に適宜組み合わせることで,当業者が容 易に想到し得たものにすぎないから,本件発明3の1が進歩性を有しないことは明らかである。 (ウ) したがって,本件発明3の1は,特許法29条1項3号または同条2項の規定により特許を受けることができないものであって,同法123条1項2号の無効理由がある。 (3) 無効理由2-6(本件発明7の1の進歩性欠如)について構成要件【ア】ないし【ウ】は,前記(2)のとおり,乙6公報に開示されている。 そして,無効理由2-1に関して明らかにしたとおり,構成要件【オ】及び【カ】は,当業者に自明なものにすぎない。 したがって,本件発明7の1は,乙6公報に基づいて当業者が容易に想到し得たものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。 (4) 無効理由3-6(本件発明8の1の進歩性欠如)について本件発明8の1は,本件発明7の1が遠用部を対象とするのに対し,近用部を対象とする点で本件発明7の1と相違する。 しかしながら,遠用部ではなく近用部に係る構成要件【キ】は,乙7公報に開示されている構成であり,また,乙1公報に開示されている。そもそも,構成要件【キ】は,眼球側の凹面に累進屈折面を付加することによる必然的な曲率変化であるにすぎず,当業者に自明な構成である(乙3)。 したがって,本件発明8の1は,乙6公報に基づいて当業者が容易に想到し得たものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。 〔原告の主張〕(1) 乙6発明について乙6発明は,単体で老眼を補助するいわゆる遠近両用レンズではなく,下 図(FIG. 21)に示されるとおり,2 を受けることができない。 〔原告の主張〕(1) 乙6発明について乙6発明は,単体で老眼を補助するいわゆる遠近両用レンズではなく,下 図(FIG. 21)に示されるとおり,2枚のレンズを組み合わせて,スライド機構により上下に互いにスライドさせることにより,度数矯正用レンズとしての度数を実現するもので,そのうちの1枚を取り出しても眼鏡レンズとして機能するものではないから,そのうちの1枚について構成を論じても意味はない。 (2) 無効理由1-5(本件発明3の1の新規性欠如及び進歩性欠如)についてア新規性欠如について乙6発明におけるレンズは,上端から下端まで直線的に変化する度数分布をもつもので,遠用部,近用部に相当するものはなく,レンズ全体が累進部であり,この点は乙1発明と同様である。 乙6公報には,屈折面m2と屈折面m3とを球面で製作する,との記載があるが,これらは二つのレンズを組み合わせてスライドさせるための構成であり(球面を向かい合わせ,スライドを可能にする。),本件各発明とはその意味が異なる。本件各発明の物体側の面と対比するのであれば,乙6発明の物体側の面m1とを対比しなければならないが,面m1は累進面または乱視矯正面であるから,球面ではない。 乱視矯正について,乙6公報には「累進面であるm1またはm4に所定の乱視の曲率を加味しておけばよい。」との記載があるが,単に技術的な可能性に言及したにすぎず,具体的にどのようにすれば可能であるのかの 記載はない。 以上のとおり,乙6発明は,基本となる構成が本件特許とは異なるもので,乙6公報に本件発明3の1が開示されているというべき根拠はない。 イ進歩性欠如について乙6公報には,容易想到性の根拠となる記載はな おり,乙6発明は,基本となる構成が本件特許とは異なるもので,乙6公報に本件発明3の1が開示されているというべき根拠はない。 イ進歩性欠如について乙6公報には,容易想到性の根拠となる記載はない。乙6発明の累進面が面全体にわたる技術は,遠用部,近用部及び累進部を備える累進多焦点レンズの技術とおよそ相容れない。 乙6発明では,「m2」及び「m3」が球面であることから,乱視度数を処方するためには,レンズIの物体側の面「m1」又はレンズⅡの眼球側の面「m4」で何らかの対応をしなくてはならない。このようなことから,乙6公報には「このとき問題となるのが乱視処方への対応であるが,累進面であるm1またはm4に所定の乱視の曲率を加味しておけばよい」(5頁右下欄14~16行)と記載されている。しかし,乙6公報は,「乱視の曲率を加味」するための具体的な方法又は構成は一切開示していない。 したがって,乙6公報の「乱視の曲率を加味しておけばよい」との記載は技術的思想たり得ない単なる思い付きにすぎないものであり,引用発明としての適格性を欠いている。そもそも,乙6公報は,およそ遠用部及び近用部を備えた累進屈折力レンズを前提としているものではなく,本件発明3の1の「累進屈折面と乱視矯正用の面とが合成された面」という技術的思想を一切開示も示唆もしていない。 そして,乙6発明の眼鏡レンズⅡは,眼鏡レンズⅠと組み合わせて初めて,安定化された遠方視および近方視を可能にするものであるから,2枚1組の眼鏡レンズの一方のみに,安定化された遠方視または近方視を備えた領域を設けるような動機付けがない。そればかりか,そのような領域を乙6発明に設けることについては,乙6発明の本来の機能を発揮することができなくなることから,技術的な阻害要因があるといわざるを得ない。 るような動機付けがない。そればかりか,そのような領域を乙6発明に設けることについては,乙6発明の本来の機能を発揮することができなくなることから,技術的な阻害要因があるといわざるを得ない。 ウしたがって,無効理由1-5には理由がなく,本件発明3の1は新規性又は進歩性を欠くものではない。 (3) 無効理由2-6(本件発明7の1の進歩性欠如)について前記(2)のとおり,乙6公報に構成要件【ア】ないし【ウ】が開示されているとする被告の主張は誤りであり,構成要件【カ】が自明であるとする点も,乙7公報に反対の技術の開示があることからも誤りであることが明らかである。 したがって,無効理由2-6には理由がなく,本件発明7の1は進歩性を欠くものではない。 (4) 無効理由3-6(本件発明8の1の進歩性欠如)について本件発明8の1についても,本件発明7の1と同様に,原告の主張には理由がない。 したがって,無効理由3-6には理由がなく,本件発明8の1は進歩性を欠くものではない。 8 争点(2)イ(ウ),同ウ(ウ)(無効理由2-3,3-3。乙7発明に基づく進歩性欠如)について〔被告の主張〕(1) 乙7発明の構成について乙7公報において,累進屈折面と乱視矯正用の屈折面とを合成した面が開示されているか否かが不明であることは争わない(構成要件【イ】)。 (2) 無効理由2-3(本件発明7の1の進歩性欠如)及び無効理由3-3(本件発明8の1の進歩性欠如)についてア乱視矯正用の円柱面(トーリック面)を内面(後面)に設けることは本件特許の優先日当時の技術常識である。本件特許の優先日前に出版された文献(乙31ないし33)には,光学的観点,生産的観点,美的観点などから,外面トーリックよりも内面トーリックの方が好ましいこと は本件特許の優先日当時の技術常識である。本件特許の優先日前に出版された文献(乙31ないし33)には,光学的観点,生産的観点,美的観点などから,外面トーリックよりも内面トーリックの方が好ましいことが記載さ れている。また,別の本件特許の優先日前に出版された文献(乙34)には,トーリック面を有する眼鏡レンズにおいて,トーリック面を内面(後面)とすることにより,トーリック面が形状倍率Msに対して影響を与えないようにできることが記載されている。したがって,光学的観点から,外面トーリックよりも内面トーリックの方が好ましいことは,当業者の技術常識である。 イ加えて,乙6公報には,内面の累進面m4に関し,「累進面であるm1またはm4に所定の乱視の曲率を加味しておけばよい」(5頁右下欄15~16行)と記載されている。このことから,内面の累進面に乱視の曲率を加えることが公知であった事実及び乙6公報に接した当業者に対し,かかる構成を試みることが示唆されていた事実が明らかである。 ウしたがって,乙7発明において,累進面を凹面に配置するとともに,乱視矯正用の円柱面(トーリック面)を凹面に設けることは,当業者にとって極めて容易であったというべきである。 そして,乙7公報において,凹面に円筒形状を設けることの記載があり,かかる構成を示唆している一方,かかる構成を妨げる阻害事由は一切存在しない。 エよって,乙7公報に接した当業者が凹面に乱視矯正面を設けることは,本件特許の出願時における技術常識に照らして容易に想到できた事項にすぎない。 したがって,本件発明7の1及び8の1は,乙7発明に基づいて当業者が容易に想到し得たものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。 〔原告の主張〕(1) 乙7発明 したがって,本件発明7の1及び8の1は,乙7発明に基づいて当業者が容易に想到し得たものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。 〔原告の主張〕(1) 乙7発明について乙7発明は,累進屈折面と乱視矯正用の屈折面とが合成されたこと,すな わち,構成要件【イ】に相当する構成を開示していない。 また,乙7発明は,遠方帯域において,子午線から離れるに従い曲率半径が減少し,曲率が大きくなることを開示しており,これは,構成要件【カ】の「遠用部を構成するための累進屈折面の曲率は,少なくとも一部の領域で,主注視線から離れるに従って小さくなること」と全く逆の構成である。すなわち,乙7発明は構成要件【カ】を備えていない。 さらに,乙7発明は,近用帯域において,子午線から離れるに従い曲率半径が増加し,曲率が小さくなることを開示しており,これは,構成要件【キ】の「近用部を構成するための累進屈折面の曲率は,少なくとも一部の領域で,主注視線から離れるに従って大きくなること」とは全く逆の構成である。すなわち,乙7発明は,構成要件【キ】を備えていない。 (2) 無効理由2-3(本件発明7の1の進歩性欠如)及び無効理由3-3(本件発明8の1の進歩性欠如)についてア乙7発明では,主子午線の側方領域での曲率の変化が,本件発明7の1及び8の1とは全く逆であるから,乙7発明と公知技術,技術常識を組み合わせても,本件発明7の1または8の1を容易に想到することはできない。 イ被告は,乙7発明に乙6公報の記載を適用することで本件発明7の1及び8の1を容易に想到できる旨の主張をするが,乙6発明は,2枚のレンズ一組で度数矯正レンズとして機能するものであり,その2枚のレンズのうちの1枚を取り出しても,およそ眼鏡レンズと で本件発明7の1及び8の1を容易に想到できる旨の主張をするが,乙6発明は,2枚のレンズ一組で度数矯正レンズとして機能するものであり,その2枚のレンズのうちの1枚を取り出しても,およそ眼鏡レンズとして機能するものではなく,構成要件【イ】,【カ】又は【キ】に相当する構成を乙6発明は備えないばかりか,乙7発明に適用することについては,阻害要因がある。したがって,乙6発明を乙7発明に適用することは困難であり,構成要件【イ】,【カ】又は【キ】に係る相違点は解消されない。 また,乙6公報の「乱視の曲率を加味しておけばよい」との記載につい ても,およそ具体的な構成を備えないものであり,そもそも引用発明としての適格性を欠いており,本件発明7の1又は8の1の構成要件【イ】に相当する構成には当たらない。いずれにせよ,乙6公報においては,「乱視の曲率を加味しておけばよい」との記載を,遠用部,累進部及び近用部のある累進面を備えた眼鏡レンズに適用することを示唆する記載は一切ない。 このように乙7発明に乙6発明又は乙6公報の「乱視の曲率を加味しておけばよい」旨の記載を適用しようとしたとしても,適用しようがないか,又は適用することも困難であり,本件発明7の1又は8の1の構成要件【イ】,【カ】又は【キ】に係る相違点はおよそ解消されない。 ウしたがって,無効理由2-3及び無効理由3-3にはいずれも理由がなく,本件発明7の1及び8の1は進歩性を欠くものではない。 9 争点(2)エ(無効理由4-1「合成」,無効理由4-2「主注視線」)について〔被告の主張〕(1) サポート要件違反について特許請求の範囲に記載された発明が,明細書に課題を解決できる発明として記載された範囲を超える場合には,サポート要件(特許法36条6項1号)に適合し の主張〕(1) サポート要件違反について特許請求の範囲に記載された発明が,明細書に課題を解決できる発明として記載された範囲を超える場合には,サポート要件(特許法36条6項1号)に適合しないと判断される。 そして,本件発明3の1,7の1及び8の1の「合成」につき,原告が主張する広義のクレーム解釈が採られるとすれば,本件各発明の課題を解決することができないことが明らかである。また,本件発明7及び8の「主注視線」についても,原告が主張する広義のクレーム解釈が採られるとすれば,本件各発明の課題を解決することができないことが明らかである。 以下,それぞれについて詳述する。 (2) 無効理由4-1(「合成」にかかるサポート要件違反)についてア原告は,本件発明3の1,7の1及び8の1の「合成」には,本件明細 書等に記載されたレンズ19のように,累進屈折面と乱視矯正用の屈折面のz座標の値を加えることが包含されると主張したが,かかる主張は,本件明細書等に課題を解決できる発明として記載された範囲を明らかに超えるクレーム解釈である。仮に,「合成」につき原告主張のクレーム解釈が採られるとすれば,サポート要件違反の無効理由が存在することが明白である。 イ本件各発明の課題は,少なくとも,物体側の面に累進屈折面を設け眼球側の面にトーリック面を設けた従来の累進多焦点レンズと同等の性能を備えた累進多焦点レンズを得ることである。これに対し,累進屈折面にトーリック面のz座標の値を加えて眼球側の面を形成したレンズ19では,「従来の乱視矯正用の累進多焦点レンズと同等の非点収差を得ることが難し」いのであるから(本件明細書等11~12頁),上記課題が明らかに解決されていない。 したがって,原告が主張するように,「合成」にz座標の値を加える 累進多焦点レンズと同等の非点収差を得ることが難し」いのであるから(本件明細書等11~12頁),上記課題が明らかに解決されていない。 したがって,原告が主張するように,「合成」にz座標の値を加えることを含むのであれば,これは発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲を明らかに超えており,サポート要件に適合しない。 (3) 無効理由4-2(「主注視線」にかかるサポート要件違反)についてア仮に,本件各発明の課題を,より抽象的に「像の揺れや歪みを改善すること」(本件明細書等13頁49~50行)と理解すると,本件発明7及び8における「主注視線」を「非点収差が一定の線」と解さない限り,当該課題を解決することができない。 イ仮に万が一,本件発明7及び8にかかる「主注視線」が「非点収差が一定の線」よりも広義に解されるとすれば,かかる「主注視線」によっては本件各発明の課題が明らかに解決されないから,本件発明7及び8につき,サポート要件違反の無効理由が存在する。 ウまた,本件発明3には,「主注視線」が規定されていないが,本件各発明の課題は「主注視線」を安定させること,すなわち「非点収差が一定の線」を有することによって解決されるものである。そして,「主注視線」を,「非点収差が一定の線」よりも広義に解するとなると,課題解決手段が反映されておらず,本件明細書等に記載した範囲を超えることとなるから,本件発明3についても,サポート要件違反の無効理由がある。 〔原告の主張〕(1) 無効理由4-1(「合成」にかかるサポート要件違反)について本件明細書等(11頁47行~12頁6行)には,次のとおり記載されている。 「図15に,上記の合成式(5)を用いる代わりに,図6に示したオリジナル累進屈折 成」にかかるサポート要件違反)について本件明細書等(11頁47行~12頁6行)には,次のとおり記載されている。 「図15に,上記の合成式(5)を用いる代わりに,図6に示したオリジナル累進屈折面のz座標の値に,図30に示したオリジナルトーリック面のz座標の値を加えて眼球側の面2を形成した累進屈折面を備えたレンズ19を示してある。また,図16にこのレンズ19の非点収差図を示し,図17にこのレンズ19の眼球側の面2のz座標を示してある。 オリジナル累進屈折面のz座標の値に,オリジナルトーリック面のz座標の値を加えることによっても視力補正特性および乱視矯正特性を備えた累進屈折面を形成することは可能である。しかしながら図16から判るように,上述した合成式(5)を用いない場合は,図29に示した従来の乱視矯正用の累進多焦点レンズと同等の非点収差を得ることが難しく,従来の乱視矯正用の累進多焦点レンズと全く同等の視力の補正と乱視矯正能力は得にくいことが判る。」上記部分には,「単純」にz座標を加算した結果として得られた「累進屈折面」と「乱視矯正用の屈折面」とが「合成」された面については,「従来の乱視矯正用の累進多焦点レンズと全く同等の視力の補正と乱視矯正能力は得にくい」と記載されているにすぎない。同記載は,単純にz座標を加算し たことにより得られた「累進屈折面」と「乱視矯正用の屈折面」とが「合成」された面においても,ある程度の効果が得られることを示しており,また,更にz座標の加算をして,「累進屈折面」と「乱視矯正用の屈折面」とが「合成」された面を補正することを妨げるものではない。 そもそも,本件各発明における,「眼球側の面に累進屈折面を設けて」,「遠用部と近用部の倍率差を必要最小限に止め」,「乱視を矯正することが可能であると共 された面を補正することを妨げるものではない。 そもそも,本件各発明における,「眼球側の面に累進屈折面を設けて」,「遠用部と近用部の倍率差を必要最小限に止め」,「乱視を矯正することが可能であると共に像の歪みや揺れが少なく,乱視を有するユーザーに対してもさらに快適な視野を提供することができる。」との課題は,眼球側の面において,単純にオリジナル累進面のz座標とオリジナルトーリック面のz座標を加算するのみでも解決される。 被告は,恣意的に,本件各発明の課題の一部のみを取り出して,かつ,単純にオリジナル累進面のz座標とオリジナルトーリック面のz座標を加算する「合成」の一態様についてのみ課題の解決が十分ではないと主張しているにすぎない。本件各発明は,結果として,「累進屈折面」と「乱視矯正用の屈折面」とが「合成」がされていることが重要であり,単純にz座標の加算により「合成」されているときでも課題は既に十分に解決されている。また,非点収差についても,z座標の加算を繰り返して,その補正により,「合成」された面を形成することを妨げる理由もない。 以上より,無効理由4-1には理由がない。 (2) 無効理由4-2(「主注視線」にかかるサポート要件違反)について本件発明7及び8の「主注視線」の非点収差については,例えば,本件明細書等においては,「累進屈折面としては,主注視線上において累進屈折面を構成する上での非点収差を最小限することが望ましく」(5頁30行~31行)と記載されているのみである。すなわち,非点収差を最小限にすることが望ましいとしても,「累進屈折面を構成する上での」という条件付きである。 また,本件明細書等の【図18】に係る実施例について,本件明細書等には,「主注視線のほぼ全域にわたって従来の累進多焦点レンズ1と同様 進屈折面を構成する上での」という条件付きである。 また,本件明細書等の【図18】に係る実施例について,本件明細書等には,「主注視線のほぼ全域にわたって従来の累進多焦点レンズ1と同様に,乱視矯正を目的とした視力補正能力を害することのない2Dの非点収差が非常に安定して確保できている」ことから,「オリジナル累進屈折面の座標にオリジナルトーリック面の座標を単純に加えた」ものよりも,「いっそう快適で揺れの少ない視野の確保された累進多焦点レンズを提供できる」と記載されている(12頁12行~24行)。すなわち,「オリジナル累進屈折面の座標にオリジナルトーリック面の座標を単純に加えた」ものよりは,「いっそう」快適であるというのみである。 また,【図18】をよくみると,その縦軸の目盛りは,「0.05D」というかなり細かいものである。そして,横軸の「Y軸座標」の上下「20mm」~「-20mm」の範囲においては,「z座標」を加算したときの非点収差を示す「33」の線は,「2.00D」を基準として,「+0.05D」~「-0.05D」の範囲にあることが分かる。したがって,本件各発明の課題が全く解決されないものではない。 被告が主張する「一定」の意義は不明であるが,いずれにせよ,本件明細書等の記載全体を考慮しても,「非点収差が一定の線」でなければ,本件各発明の課題が解決されないと理解されるような記載はない。 したがって,無効理由4-2には理由がない。 争点(3)(本件訂正の適法性〔特許法127条の承諾の要否と承諾を要する通常実施権者の範囲〕)について〔原告の主張〕(1) 承諾の要否についてア特許法134条の2第9項により準用される同法127条において通常実施権者の承諾を必要としている趣旨は,「特許権者が誤解に基づいて不 )について〔原告の主張〕(1) 承諾の要否についてア特許法134条の2第9項により準用される同法127条において通常実施権者の承諾を必要としている趣旨は,「特許権者が誤解に基づいて不必要な訂正審判を請求することもあり,また瑕疵の部分のみを減縮すれば 十分であるのにその範囲をこえて訂正することも考えられ,そうなると前記の権利者は不測の損害を蒙ることもあるので,一応訂正審判を請求する場合にはこれらの利害関係ある者の承諾を得なければならないこととした」と説明されている(特許庁編『工業所有権法(産業財産権法)逐条解説〔第19版〕』376頁~377頁)。 イところで,本件訂正は,「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること。」を目的とする訂正の請求(特許法134条の2第1項4号)であるにすぎず,単に形式的に請求項相互の引用形式を解消するものであって,特許請求の範囲を減縮するものではなく,通常実施権者に不測の損害を与えるものでもない。 したがって,本件訂正のように,特許法134条の2第1項4号の引用関係の解消を目的とする訂正の請求は,通常実施権者の承諾を必要とする訂正には,そもそも当たらないと解されるべきである。 ウ特許法127条は,昭和34年に現行の特許法が制定された当時から存在する規定であるが,特許法134条の2第1項4号は,特許法等の一部を改正する法律(平成23年法律第63号)により新設された規定である。 平成23年改正に先立ち,産業構造審議会知的財産政策部会特許制度小委員会において審議が進められており,①引用関係にある一群の請求項を単位として訂正をすべきことを検討すると同時に,引用関係を解消する目的による訂正を認めることが検討されたほか,②通常実施権を第三 小委員会において審議が進められており,①引用関係にある一群の請求項を単位として訂正をすべきことを検討すると同時に,引用関係を解消する目的による訂正を認めることが検討されたほか,②通常実施権を第三者に対抗するために登録を必要としない当然対抗制度の導入が検討されていることを踏まえ,訂正における通常実施権者の承諾を廃止することが検討された。 上記検討を踏まえ,平成23年2月18日,同小委員会による「特許制度に関する法制的な課題について」と題する報告書(甲59)が,産業構造審議会知的財産政策部会に提出され,当該報告書には,訂正における通 常実施権者の承諾を廃止する旨記載されていた。 ところが,それから1か月も経過しない,同年3月11日に閣議決定された平成23年改正法案においては,特許法127条の規定から「通常実施権者」を削除する提案は反映されなかった。この方針転換の理由は明らかではない。 そして,その結果,新たな訂正の目的として規定された特許法126条1項4号所定の引用関係を解消する目的でなされるにすぎない,特許請求の範囲を一切減縮しない訂正についてまで,通常実施権者の承諾が必要であるかのような規定相互の関係とされた。これは,平成23年改正当時,特許法127条から「通常実施権者」を削除する改正を見送ることとした際の立法担当者の見落としではないかと思われる。 そうだとすれば,特許法126条1項4号の引用関係を解消するにすぎない訂正は,特許請求の範囲を減縮するものではないから,通常実施権者の承諾を必要とする実質的な理由はないというべきである。また,引用関係の解消という訂正の目的要件を満たしているかどうかは(なお,同法126条1項1号の特許請求の範囲の減縮とは区別されている。),審判官が職権で審査すべき事項であるから,通常 べきである。また,引用関係の解消という訂正の目的要件を満たしているかどうかは(なお,同法126条1項1号の特許請求の範囲の減縮とは区別されている。),審判官が職権で審査すべき事項であるから,通常実施権者に「不測」の不利益を与えることもない。 そうすると,本件訂正のように引用関係の解消のみを目的とする訂正は,特許法127条にいう通常実施権者の承諾を必要とする「訂正」には当たらないと解すべきである。 (2) 訂正について承諾を必要とする通常実施権者の範囲についてア仮に本件訂正が特許法127条所定の通常実施権者の承諾を要する訂正に当たるとしても,承諾を必要とする通常実施権者は,本件特許の訂正について利害関係のある通常実施権者に限られるというべきである。そのような通常実施権者でなければ,「不測の損害を蒙ること」はないからであ る。 イまた,本件では,外国法人は,訂正について承諾を必要とする「通常実施権者」には当たり得ない。 原告が,本件特許権を含めてライセンス契約をしている外国法人は存在する。しかし,当該外国法人自体に直接実施権を許諾しているのは,当該ライセンス契約の本文において特許番号が明示されている当該外国のものに限られ,我が国も含めて,それ以外の国の対応する特許権については,いわゆるポートフォリオライセンスである。言い換えれば,それ以外の国における流通に異議を述べない旨を表明しているにすぎない。したがって,我が国の特許権について,当該外国法人自体は特許法127条にいう「通常実施権者」には当たらない。 それのみならず,当該ライセンス契約は「医療機器」に係るものであるから,外国法人が我が国において実施することはそもそも困難である。すなわち,「視力補正用眼鏡」は,医薬品,医療機器等の品質,有効性及び安全性の確 ず,当該ライセンス契約は「医療機器」に係るものであるから,外国法人が我が国において実施することはそもそも困難である。すなわち,「視力補正用眼鏡」は,医薬品,医療機器等の品質,有効性及び安全性の確保等に関する法律(昭和35年法律第145号)(以下「医薬品医療機器法」という。)の定める「医療機器」に当たる(同法施行令第1条別表第1,71)。そして,「一般医療機器」に該当するものとされ,「第三種製造販売業」の許可が必要である(医薬品医療機器法23条の2第1項)。ここで,外国法人は,我が国において外国製造医療機器等の製造販売の承認を得ることはできるが,それは「選任した医療機器…の製造販売業者に製造販売させることについての承認」である(医薬品医療機器法23条の2の17第1項)。すなわち,製造販売をするのは,飽くまで我が国における,いわゆる「選任製造販売業者」である。当該外国法人が,我が国において日本法人である子会社を設立し,選任製造販売業者とすることも可能であるが,その場合,実施しているのは,当該日本法人であり,外国法人ではない。 したがって,当該外国法人は,日本法人のみにより実施をすることができることになり,外国法人自身が実施することはないから,当該外国法人自体が,訂正について承諾を必要とする通常実施権者に当たる余地はない。 当該外国法人が,本件特許権を含めてライセンス契約をしている趣旨は,契約の当事者こそ外国法人であるとしても,外国法人自体が実施をすることが困難であることから,日本法人(将来設立するものも含み得る。)に通常実施権を許諾する趣旨の第三者のためにする契約(民法537条)であることになる。 ウそして,原告は,HOYAを含め,通常実施権者として認識している日本法人(外国法人の子会社である日本法人も含み得る。 権を許諾する趣旨の第三者のためにする契約(民法537条)であることになる。 ウそして,原告は,HOYAを含め,通常実施権者として認識している日本法人(外国法人の子会社である日本法人も含み得る。)の全てについて本件訂正について既に承諾を得た。 したがって,原告は,本件特許権についての通常実施権者の全てから既に本件訂正について承諾を得ている。 〔被告の主張〕(1) 承諾の要否について原告は,本件訂正のように,特許法134条の2第1項4号の引用関係の解消を目的とする訂正の請求は,通常実施権者の承諾を必要とする訂正には当たらないと主張する。 しかし,原告が引用する「工業所有権法(産業財産権法)逐条解説〔第19版〕」が「特許権者が誤解に基づいて不必要な訂正審判を請求することもあり・・・」と述べているとおり,訂正が必要か否かに関しても,通常実施権者の承諾を要するものとしている以上,全ての訂正に関して,承諾の対象となることは明らかである。 また,請求項間の引用形式を解消する旨の訂正の根拠は,特許法134条の2第1項4号にあり,これは平成23年法改正により付加されたものであることはその通りであるが,特許法134条の2第9項が準用する同法12 7条においては,通常実施権者の承諾に関して,特許法134条の2第1項4号に基づく訂正請求の場合を除外する旨の規定は設けられていない。原告は「立法担当者の見落とし」であると主張しているが,「立法担当者の見落とし」なのであれば直ちに法改正がなされてしかるべきところ,その後の法改正においても何ら検討の俎上に挙げられていない。 このように,従属関係を外す趣旨の訂正の場合であっても,他の理由に基づく訂正請求の場合と同様に,通常実施権者の承諾が必要であることは,法改正の経緯からも明らかである 検討の俎上に挙げられていない。 このように,従属関係を外す趣旨の訂正の場合であっても,他の理由に基づく訂正請求の場合と同様に,通常実施権者の承諾が必要であることは,法改正の経緯からも明らかである。 なお,原告は,本件訂正は特許請求の範囲を減縮するものではないと主張しているが,請求項2の「曲率が付加されている」ことは合成の一態様であって,請求項1の「合成」より狭義である。したがって,請求項1又は2に従属していた請求項3を請求項2のみに従属するものとした訂正後の請求項13は請求項3よりも狭義の一態様であるのであるから,特許請求の範囲が減縮されていることが明らかである。 (2) 訂正について承諾を必要とする通常実施権者の範囲についてア原告は,特許法127条の承諾を必要とする通常実施権者は,当該特許の訂正について利害関係のある通常実施権者に限られると主張している。 しかし,同条は,通常実施権者に,承諾書の提出を通じて訂正請求の要否の判断を委ねるものであり,特許権者が利害関係の有無を判断することは許されない。 しかも,本件訂正は,全ての通常実施権者において,実施権の範囲が減縮される可能性があるものであるから,全ての実施権者からの承諾書が必要なことは明らかであり,原告の主張は明らかに失当である。 イ原告は,外国法人とのライセンス契約において,当該外国法人に直接許諾している実施権は,ライセンス契約の本文で特許番号が明記されている当該外国の特許に限られ,それ以外の国の対応する特許権については許諾 していないかのような主張をしている。 しかし,特許番号が明記されているか否かにかかわらず,外国法人とのライセンス契約において,当該外国法人の国における特許の対応日本特許が本件特許であることについて当事者間に争いはないのであり 。 しかし,特許番号が明記されているか否かにかかわらず,外国法人とのライセンス契約において,当該外国法人の国における特許の対応日本特許が本件特許であることについて当事者間に争いはないのであり,当該外国法人が本件特許についての特許法78条1項の規定による通常実施権者であることは明らかである。 医療機器である眼鏡または眼鏡レンズは第三種製造販売業の許可との関係上,外国法人が我が国において直接販売等を行うことができず,当該外国法人が選任した業者により販売等が行われることは,現時点においては原告の主張のとおりである。しかしながら,このことは,本件特許についてライセンス契約を締結した外国法人が,本件特許の通常実施権者であるという事実に影響を及ぼすものではない。 原告は,外国法人が本件特許を実施することが極めて困難であり,日本法人に通常実実施権を許諾する趣旨の第三者のためにする契約である旨の主張をしているが,ライセンス契約の受益者たる日本法人の範囲や,当該日本法人に対して,いつ,どのような条件でライセンスが許諾されるのか,何ら具体的な根拠をもって示されておらず,原告の主張は単なる願望にすぎない。 ウそして,原告が外国法人も含めた通常実施権者全員の承諾書を提出しない限り,本件訂正請求は特許庁により却下される。しかし,原告は,通常実施権者である外国法人の承諾書を提出する予定がない。 したがって,本件訂正に基づく再抗弁は認められない。 11 争点(4)(被告各製品が本件各訂正発明の技術的範囲に属するか)について〔原告の主張〕(1) 本件各訂正発明は,本件各発明の引用関係を一部解消したものにすぎないことから,本件各訂正発明の技術的範囲は本件各発明の技術的範囲と同一で ある。そこで,被告各製品が本件各訂正発明の技術的範囲 訂正発明は,本件各発明の引用関係を一部解消したものにすぎないことから,本件各訂正発明の技術的範囲は本件各発明の技術的範囲と同一で ある。そこで,被告各製品が本件各訂正発明の技術的範囲に属することについては,前記1及び2における原告の主張を次の表のように読み替えて,全て援用する。 〔表本件各発明と本件各訂正発明との対照〕本件各発明本件各訂正発明本件発明3の1本件訂正発明3本件発明3の2本件訂正発明13本件発明7の1本件訂正発明7本件発明7の2本件訂正発明14本件発明8の1本件訂正発明8本件発明8の2本件訂正発明15(2) 本件訂正発明13ないし15は,請求項2を引用し,「累進屈折面の曲率及び乱視矯正用の曲率が付加されている」ことを特徴としている。被告製品が,このような「曲率が付加されている」との構成を満たしていることは,調査報告書(1)ないし(5)(甲5ないし8,11)により明らかである。 すなわち,上記各調査報告書の「5.2 『請求項2』に対する構成要件の充足②」の「充足判断」の項目において,いずれの被告製品についても,「○物体側の面(外面)は累進面の特徴である曲率分布はなく,乱視矯正用の曲率もない球面である。 内面の曲率分布から,乱視矯正用の曲率を除去したところ,乱視度数をもたない同デザインの製品の累進面の曲率分布とよく一致した曲率分布が得られた,以上から,眼球側の面(内面)に累進屈折面の曲率と乱視矯正用の曲率が付加されている累進多焦点レンズである。」と記載されているとおりである。 本件特許のように,眼球側屈折面を累進屈折面と乱視矯正面を合成した面 とする場合に,乱視矯正のためのトーリック面などの面成分は,レンズ上に等しく加えられており れているとおりである。 本件特許のように,眼球側屈折面を累進屈折面と乱視矯正面を合成した面 とする場合に,乱視矯正のためのトーリック面などの面成分は,レンズ上に等しく加えられており,ひいては当該レンズの面を構成する全ての点において等しく加えられている。そこで,上記各調査報告書においては,被告各製品が「曲率が付加されている」かどうかの解析は,被告各製品の累進面上の全ての点において所定の乱視屈折力に相当する曲率を除去することにより,元の累進屈折面特性(乱視矯正する前の累進屈折面特性)が現れるかどうかにより判断している(正しく乱視矯正成分が付加されていなければ,乱視付加前の累進屈折面とはかけ離れた累進屈折面が現れてしまうことになる。)。 〔被告の主張〕(1) 本件訂正請求は審理対象を変えるものではないから,被告による本件特許の権利侵害はないとの結論に影響を及ぼすものではない。 (2) 念のため指摘すれば,本件訂正発明13ないし15は,訂正前の請求項3,7及び8のうち請求項2に従属していた部分に対応するものであり,請求項2についてみると,被告各製品は「累進屈折面の曲率及び乱視矯正用の曲率が付加されている」ものではない。また,被告製品は本件明細書等記載の式(5)を用いていない。 (3) 本件訂正発明13ないし15において「累進屈折面の曲率及び乱視矯正用の曲率が付加されている」ことは,「累進屈折面の曲率と乱視矯正用の曲率とがベクトル加算されている」ことを意味すると解すべきである。 そして,累進多焦点レンズの光学特性は,面非点収差と平均面度数の双方を合わせて特定されるものであるから,両者に一致がみられて初めて,二つのレンズ表面が「一致」すると判定される。ところが,原告が提出した調査報告書(1)ないし(5)(甲5ないし8,11 均面度数の双方を合わせて特定されるものであるから,両者に一致がみられて初めて,二つのレンズ表面が「一致」すると判定される。ところが,原告が提出した調査報告書(1)ないし(5)(甲5ないし8,11)及びHOYA作成に係る平成25年10月19日付けの「調査報告書(6)」と題する書面(甲20)に示された判定結果によれば,被告各製品において,乱視処方がされているレンズからベクトル減算をしたものを,乱視処方以外が同じ処方値の累進面と比較し たところ,面非点収差と平均面度数の双方が一致しているものはない。また,被告各製品の設計データ(乙19の1ないし乙23の1)によっても,被告製品の内面が累進面に乱視面をベクトル加算したものではないことが明らかである。 したがって,原告は,被告各製品について「累進屈折面の曲率及び乱視矯正用の曲率が付加されている」ことを立証できていない。 12 争点(5)(本件訂正により無効理由が解消されるか)について〔原告の主張〕(1) 本件特許に関し平成27年8月5日付けで審決の予告(甲50)がされ,特許庁は,本件の無効理由1-1及び無効理由2-1に相当する無効理由(乙1発明による進歩性欠如)に理由があるものとして,本件特許の請求項1,3,7及び8に係る発明についての特許を無効とする旨予告した。 (2) 上記審決の予告では,乙1発明におけるいわゆる「z座標」の加算の技術的意義と,本件各発明における「合成」との関係が争点となっており,その無効理由はもっぱら本件訂正発明3,7及び8に対するものである。 ところで,本件訂正発明13ないし15は,特許請求の範囲請求項2を引用し,「累進屈折面の曲率及び乱視矯正用の曲率が付加されている」ことを特徴とするものである。そうすると,上記審決の予告において,理由がある ,本件訂正発明13ないし15は,特許請求の範囲請求項2を引用し,「累進屈折面の曲率及び乱視矯正用の曲率が付加されている」ことを特徴とするものである。そうすると,上記審決の予告において,理由があると判断された無効理由は,本件訂正発明13ないし15に対する無効理由とはなり得ない。 そして,被告が主張する無効理由の基礎とされたいずれの引用例においても,「累進屈折面の曲率及び乱視矯正用の曲率が付加されている」構成は開示されていない。 したがって,本件訂正発明13ないし15は,いずれも,特許無効審判により無効とされるべきものとは認められないことは明らかである。 (3) なお,上記審決の予告における無効理由には理由がないことは,前記3で 主張したとおりである。 〔被告の主張〕(1) 本件訂正発明13ないし15は,請求項2に従属するものであり,請求項2は,レンズの眼球側の面に「累進屈折面の曲率及び乱視矯正用の曲率が付加されている」ことを規定している。そして,原告は,「曲率が付加されている」ことは「合成」より狭義の一態様であると主張している。 (2) 本件訂正発明13ないし15は,乙1発明,乙2発明,乙4発明,乙5発明もしくは乙7発明に基づき,又はこれらに周知技術である乙6発明を考慮することにより,新規性欠如及び進歩性欠如の無効理由を有する。 具体的には,被告がこれまで主張してきたように,請求項1に従属する本件発明3の1,7の1及び8の1ないし本件訂正発明3,7及び8は,乙1発明,乙2発明,乙4発明,乙5発明もしくは乙7発明のそれぞれ,又はこれらに周知技術を考慮することにより新規性欠如および進歩性欠如の無効理由を有している。そして,請求項2における「曲率が付加されている」ことは請求項1の「合成」の一態様であるところ,乙6公 れ,又はこれらに周知技術を考慮することにより新規性欠如および進歩性欠如の無効理由を有している。そして,請求項2における「曲率が付加されている」ことは請求項1の「合成」の一態様であるところ,乙6公報には「累進面であるm1またはm4に所定の乱視の曲率を加味しておけばよい」(5頁右下欄15~16行)と記載されており,眼球側の面であるm4に乱視の曲率を付加することが開示されているから,乙1発明,乙2発明,乙4発明,乙5発明又は乙7発明に基づいて本件訂正発明3,7又は8を容易に発明した当業者が,乙6公報の記載に基づいて「合成」の一態様として「曲率を付加する」ことに想到することも極めて容易である。 よって,本件訂正発明13ないし15は,乙1発明,乙2発明,乙4発明,乙5発明もしくは乙7発明に基づき,又はこれらに周知技術である乙6発明を考慮することにより,新規性欠如及び進歩性欠如の無効理由を有する。 (3) 他方,請求項2の「曲率が付加されている」が,「眼球側の面を形成する過程においてどのような設計を行ったか,どのような計算を行ったかは関係 がなく」,「結果として」「累進屈折面と乱視矯正用の屈折面の曲率が付加されたものになっている」ことを意味するのであれば,累進屈折面と乱視矯正用の屈折面が「合して一つのものにされていること」と何ら変わりがない。 すなわち,請求項2の「曲率が付加されている」は,本件訂正発明3,7及び8について原告が主張する「合成」と実質的に同じことを示していることとなる。そして,本件訂正発明3,7及び8は,少なくとも乙1発明に基づく新規性欠如及び進歩性欠如の無効理由がある。 よって,本件訂正発明13ないし15は,本件訂正発明3,7及び8と同様に,少なくとも,乙1発明に基づく新規性欠如及び進歩性欠如の無効理由を有す に基づく新規性欠如及び進歩性欠如の無効理由がある。 よって,本件訂正発明13ないし15は,本件訂正発明3,7及び8と同様に,少なくとも,乙1発明に基づく新規性欠如及び進歩性欠如の無効理由を有する。 13 争点(6)(損害発生の有無及びその額)について〔原告の主張〕(1) 被告の利益相当額の損害(特許法102条2項)ア被告は,平成25年3月15日以降,被告各製品の製造・販売をしており,売上高の累積は,少なくとも6億6000万円を下らない。 イ上記アの売上に対する被告の利益率は,35%を下らない。 ウよって,原告には,平成25年3月15日から現在に至るまでの被告による本件特許権の侵害行為により,2億3100万円の損害が生じた。 (2) 実施料相当額の損害(予備的主張。特許法102条3項)ア被告が平成25年3月15日以降に販売した被告各製品の数量は,60万枚を下らない。 イ本件各発明に対する実施料率は,そのうち一つの発明を実施する場合であっても,レンズ1枚当たり300円が相当である。 ウよって,原告には,少なくとも1億8000万円の実施料相当額の損害が生じた。 〔被告の主張〕 否認ないし争う。 第4 当裁判所の判断 1 本件各発明の意義(1) 本件明細書等には次の記載がある。 ア技術分野・「本発明は,視力補正用の累進多焦点レンズ及びこれを用いた眼鏡レンズに関するものである。」(2頁34~36行)イ背景技術・「累進多焦点レンズは,屈折力の異なる2つの視野部分と,これらの間で屈折力が累進的に変わる視野部分とを備えたレンズであり,これらの視野部分に境目がなく外観的に優れ,さらに,1つのレンズで異なる屈折力の視野を得ることができる。このため,老視などの視力の補正機能を備え 折力が累進的に変わる視野部分とを備えたレンズであり,これらの視野部分に境目がなく外観的に優れ,さらに,1つのレンズで異なる屈折力の視野を得ることができる。このため,老視などの視力の補正機能を備えた眼鏡レンズとして多く用いられている。図25に,眼鏡レンズとして多く用いられている従来の累進多焦点レンズの一般的な構造を示してある。この累進多焦点レンズ1は,遠距離の物を見るための視野部分である遠用部11が上方に設けられ,近距離の物をみるために遠用部11と異なる屈折力を備えた視野部分が近用部12として遠用部11の下方に設けられている。そして,これら遠用部11と近用部12が,遠距離と近距離の中間距離の物を見るために連続的に変化する屈折力を備えた視野部分である累進部13によって滑らかに連絡されている。」(2頁38~47行)・「眼鏡用に用いられる単板のレンズ1においては,眼球側の屈折面2と,注視する物体側の屈折面3の2つの面によって眼鏡レンズに要求される全ての性能,例えば,ユーザーの度数に合った頂点屈折力,乱視を矯正するための円柱屈折力,老視を補正するための加入屈折力,さらには斜位を矯正するためのプリズム屈折力などを付与する必要がある。このた め,図25に示すように,従来の累進多焦点レンズ1においては,これら遠用部11,近用部12および累進部13を構成するために連続的に変化する屈折力を与える累進屈折面5が物体側の屈折面3に形成され,眼球側の屈折面2は後述するように乱視矯正用の屈折面などとして用いられている。」(2頁48行~3頁5行)・「累進屈折面を用いて遠用部から近用部に連続的に屈折力が変化する眼鏡用レンズが乱視矯正も含めて市販されており,視力の補正用として多く用いられている。累進多焦点レンズは,視力の補正対象となる度数が ・「累進屈折面を用いて遠用部から近用部に連続的に屈折力が変化する眼鏡用レンズが乱視矯正も含めて市販されており,視力の補正用として多く用いられている。累進多焦点レンズは,視力の補正対象となる度数が大きく,また,遠用部と近用部の屈折力の差である加入度が大きいと,累進屈折面がさらに非球面化されるのでレンズに現れる非点収差も大きなものになる。このため,累進屈折面の形状を改良し,非点収差を通常使用するレンズの領域から外したり,急激な非点収差の変動を防止してユーザーに快適な視野を提供できるようにしている。非点収差の変動を抑制することにより像のゆれや歪みを改善できるが,累進多焦点レンズにおいては,遠用部と近用部の屈折力(パワー)の違いによっても像のゆれや歪みが発生する。すなわち,遠用部11は遠方に焦点が合うような屈折力を備えており,一方,近用部12は近傍に焦点が合うように遠用部11と異なる屈折力を備えている。従って,累進部13においては,倍率が徐々に変動するので,得られる像が揺れたり歪んだりするもう1つの主な原因となっている。」(3頁43行~4頁4行)・「累進屈折面の設計においては,多種多様な提案がすでになされ,また,コンピュータの計算能力を生かした設計も盛んに行われており,累進屈折面の非点収差を改善して像のゆれや歪みを抑制するのはほぼ限界に達していると考えられる。そこで,本発明においては,累進多焦点レンズの遠用部と近用部の倍率の変動に起因する像の歪みや歪みを改善できる累進多焦点レンズを提供することを目的としている。そして,現状,累 進屈折面の設計では限界に達しつつある像の揺れ・歪みをさらに大幅に低減でき,ユーザーに対しさらに快適な視野を提供できる累進多焦点レンズおよび眼鏡レンズを提供することを目的としている。また,像の揺れ 進屈折面の設計では限界に達しつつある像の揺れ・歪みをさらに大幅に低減でき,ユーザーに対しさらに快適な視野を提供できる累進多焦点レンズおよび眼鏡レンズを提供することを目的としている。また,像の揺れや歪みの発生しやすい遠用部と近用部の度数の差(加入度)の大きなユーザーに対しても,揺れや歪みが少なく明瞭な視野を提供できる累進多焦点レンズおよび眼鏡レンズを提供することを目的としている。」(4頁5~14行)ウ発明の開示・「このため,本願の発明者らは,累進多焦点レンズの倍率に与える累進屈折面の配置に着目し,累進屈折面を眼球側の面にもってくることにより,遠用部と近用部における倍率の差を縮小でき,これに起因する像の揺れや歪みを大幅に低減できることを見いだした。すなわち,本発明の,異なる屈折力を備えた遠用部および近用部と,これらの間で屈折力が累進的に変化する累進部とを備えた視力補正用の累進多焦点レンズにおいては,累進多焦点レンズの眼球側の面に遠用部,近用部および累進部を構成するための累進屈折面の曲率が付加されていることを特徴としている。」(4頁16~22行)・「本発明においては,累進屈折面をレンズの凹面となる眼球側の面に持ってくることにより,図1に実線で示したように物体側の面のベースカーブPbの変動を抑制し,例えば,ベースカーブが一定となる球面の累進多焦点レンズを提供できるようにしている。従って,本発明の累進多焦点レンズにおいては,遠用部と近用部の倍率差を必要最小限に止めることができ,また,累進部における倍率の変動も抑制できるので,像の歪みや揺れを低減することが可能となる。このため,本発明により,非点収差による性能は従来の累進多焦点レンズと同程度であっても,像のゆれ・ゆがみが低減された累進多焦点レンズおよび眼鏡レンズを提供す 揺れを低減することが可能となる。このため,本発明により,非点収差による性能は従来の累進多焦点レンズと同程度であっても,像のゆれ・ゆがみが低減された累進多焦点レンズおよび眼鏡レンズを提供す ることができ,ユーザーにさらに快適な視野を提供することができる。 特に,加入度の大きな累進多焦点レンズにおいては,ゆれ・ゆがみを大幅に低減することができる。」(4頁41~50行)・「本発明の累進多焦点レンズにおいては,眼球側の面に累進屈折面を設けるので,眼球側の面に乱視矯正用のトーリック面の曲率も付加することにより,眼球側の面が乱視矯正特性を有する乱視矯正用の累進多焦点レンズを提供することができる。すなわち,眼球側の面が累進屈折面であり,さらに,円柱屈折力を有する累進多焦点レンズを提供することができる。そして,本発明の乱視矯正特性を備えた累進多焦点レンズを眼鏡レンズとして採用することにより,眼球側の面に累進屈折面を設けてあるので上述したように遠用部と近用部の倍率差を必要最小限に止めることができ,乱視を矯正することが可能であると共に像の歪みや揺れが少なく,乱視を有するユーザーに対してもさらに快適な視野を提供することができる。」(5頁33~41行)・「眼球側の面に視力補正特性と乱視矯正特性とが付加された累進多焦点レンズは,眼球側の面が所望の視力補正特性を発揮することのみを目的として累進屈折面(以降においてはオリジナル累進屈折面)を求める第 1 の工程と,眼球側の面が所望の乱視矯正特性を発揮することのみを目的としてトーリック面(以降においてはオリジナルトーリック面)を求める第2の工程と,累進多焦点レンズの眼球側の面を,オリジナル累進屈折面およびオリジナルトーリック面から求める第3の工程とを有する製造方法を用いることにより製造することが リジナルトーリック面)を求める第2の工程と,累進多焦点レンズの眼球側の面を,オリジナル累進屈折面およびオリジナルトーリック面から求める第3の工程とを有する製造方法を用いることにより製造することができる。オリジナル累進屈折面とオリジナルトーリック面とが合成された累進屈折面を眼球側の面に持ってくることにより,トーリック面を用いた乱視の矯正機能,および乱視の矯正以外の累進屈折面を用いた視力補正機能の両者を備え,さらに,ゆれや歪みの少ない累進多焦点レンズを実現することができる。」 (5頁42行~6頁1行)・「上述した第3の工程において,乱視矯正特性を備えたオリジナルトーリック面を構成するためのz座標の値に,視力補正特性を備えたオリジナル累進屈折面を構成するz座標の値を付加して乱視矯正特性を備えた累進屈折面を構成することも可能である。しかしながら,本願発明者が検討した結果によると,従来の物体側が累進屈折面で眼球側がトーリック面の乱視矯正用の累進多焦点レンズと同等の乱視を矯正する性能(非点収差特性) を得るためには,次の式(5)に示すような合成式を用いて累進屈折面を構成することが望ましい。すなわち,第3の工程では,累進多焦点レンズの眼球側の面の任意の点P(X,Y,Z) における値Zを,オリジナル累進屈折面の近似曲率Cp,オリジナルトーリック面のx方向の曲率Cxおよびy方向の曲率Cyとを用いて次の式(5) によって求めることにより,従来の累進多焦点レンズと同等の乱視を矯正する能力と視力を補正する能力を備え,さらに,倍率差が小さく揺れや歪みの改善された乱視矯正用の累進多焦点レンズを提供することができる。 」(6頁2~18行)・「本発明においては,このような合成式(5)を採用することにより,眼球側の面 歪みの改善された乱視矯正用の累進多焦点レンズを提供することができる。 」(6頁2~18行)・「本発明においては,このような合成式(5)を採用することにより,眼球側の面にオリジナル累進屈折面とオリジナルトーリック面の特性を付加することが可能である。」(6頁31~32行)エ基本構成例・「図4に,本発明の眼球側の面2に累進屈折面5を設けた累進多焦点レンズ10を示してある。本例の累進多焦点レンズ10は,図25に示し た従来の累進多焦点レンズと同様に,上方に遠距離の物を見るための視野部分である遠用部11が設けられ,下方に近距離の物をみるために遠用部11と異なる屈折力を備えた視野部分が近用部12として設けられており,さらに,これら遠用部11と近用部12を連続的に屈折力が変化する累進部13によって滑らかに連絡された累進多焦点レンズである。 本例の累進多焦点レンズ10は,遠用部11,近用部12および累進部13を構成するために非球面となる累進屈折面5を眼球側の面2に設けてある。このため,物体側の面3はベースカーブPdが一定となる球面に成形することができる。従って,〔中略〕遠用部11と近用部12の倍率差が小さくなっており,累進部13においては倍率が変化する割合を小さくすることができる。従って,従来の物体側の面に累進屈折面を設けた累進多焦点レンズに比べ,倍率差に起因する像の揺れや歪みを大幅に低減することができる。」(8頁4~16行)・「遠用部11の主注視線14に対して直交する方向15の曲率半径は,図8(a)に示すように,曲率半径の大きな近用部12と連続的な累進部13を構成するために主注視線14から離れるに従って大きくなる領域を備えている。一方,近用部12の主注視線14に対して直交する方向16の曲率は 示すように,曲率半径の大きな近用部12と連続的な累進部13を構成するために主注視線14から離れるに従って大きくなる領域を備えている。一方,近用部12の主注視線14に対して直交する方向16の曲率は,図8(b)に示すように曲率半径の小さな遠用部11と連続的な累進部13を構成するために主注視線14から離れるに従って小さくなる領域を備えている。」(9頁6~11行)オ実施例・「図12に本例の累進多焦点レンズ10のz座標の値を示してある。上記式(5)を用いて図6に示したオリジナル累進屈折面5と,図30に示したオリジナルトーリック面6を合成することにより,図12に示したようなz座標の値Zを備えた眼球側の面2を合成することができる。」(11頁18~21行) ・「本例においては,眼球側の面に視力補正用の累進屈折面の曲率に加え乱視矯正用のトーリック面の曲率を付加でき,眼球側の面が乱視矯正特性も有するように,すなわち,円柱屈折力を有するようにすることができる。従って,視力補正能力と乱視矯正能力を備えた累進屈折面を眼球側に用意できるので,視力補正能力と乱視矯正能力に加え,遠用部11と近用部12の倍率差を少なくでき,像の揺れや歪みが改善された累進多焦点レンズ10を提供することができる。」(11頁27~32行)・「図15に,上記の合成式(5)を用いる代わりに,図6に示したオリジナル累進屈折面のz座標の値に,図30に示したオリジナルトーリック面のz座標の値を加えて眼球側の面2を形成した累進屈折面を備えたレンズ19を示してある。また,図16にこのレンズ19の非点収差図を示し,図17にこのレンズ19の眼球側の面2のz座標を示してある。 オリジナル累進屈折面のz座標の値に,オリジナルトーリック面のz座標の値を加えることによっても視力補正特 このレンズ19の非点収差図を示し,図17にこのレンズ19の眼球側の面2のz座標を示してある。 オリジナル累進屈折面のz座標の値に,オリジナルトーリック面のz座標の値を加えることによっても視力補正特性および乱視矯正特性を備えた累進屈折面を形成することは可能である。しかしながら図16から判るように,上述した合成式(5)を用いない場合は,図29に示した従来の乱視矯正用の累進多焦点レンズと同等の非点収差を得ることが難しく,従来の乱視矯正用の累進多焦点レンズと全く同等の視力の補正と乱視矯正能力は得にくいことが判る。」(11頁47行~12頁6行)・「本発明の累進多焦点レンズにおいては,累進屈折面を眼球側の面に設定することにより,物体側の面を非球面とせざるを得ない設計から開放し,物体側の面をベースカーブが一定の球面で構成できるようにしている。従って,物体側の面に起因するシェープ・ファクターMsによる倍率MSの変動を防止することができるので,遠用部と近用部の倍率差を低減することが可能になる。」(13頁35~39行)カ産業上の利用可能性 ・「本発明は,眼鏡レンズとして用いられる累進多焦点レンズに関するものであり,本発明により,従来の累進多焦点レンズと同等に老視補正機能と乱視矯正機能に加えて,遠用部と近用部の倍率差の少ない,ユーザーに対し像の揺れや歪みが大幅に低減された明るく快適な視野を提供できる累進多焦点レンズを実現できる。」(14頁31~34行)(2) 上記各記載によれば,本件各発明は,異なる屈折力を備えた遠用部及び近用部と,これらの間で屈折力が累進的に変化する累進部とを備えた視力補正用の累進多焦点レンズにおいて,従来は物体側に設けられていた累進屈折面を眼球側の面に設けることとし,眼球側の面が累進屈折面であり,さらに, これらの間で屈折力が累進的に変化する累進部とを備えた視力補正用の累進多焦点レンズにおいて,従来は物体側に設けられていた累進屈折面を眼球側の面に設けることとし,眼球側の面が累進屈折面であり,さらに,円柱屈折力を有する累進多焦点レンズを提供するもので,このレンズを眼鏡レンズとして使用することで,遠用部と近用部の倍率差を必要最小限にとどめることができ,乱視を矯正することが可能であると共に像の歪みや揺れが少なく,乱視を有するユーザーに対してもさらに快適な視野を提供することができるという作用効果を有するものということができる。 そして,本件各発明における累進多焦点レンズは,遠用部と近用部の倍率差を低減するために物体側のレンズを球面としたり(本件発明3),近用部の主注視線に対して直交する方向の曲率半径は,曲率半径の小さな遠用部と連続的な累進部を構成するために主注視線から離れるに従って小さくなる領域を備えていたり(本件発明7),遠用部の主注視線に対して直交する方向の曲率半径が,曲率半径の大きな近用部と連続的な累進部を構成するために主注視線から離れるに従って大きくなる領域を備えている(本件発明8)といった構成を有することによって,上記の作用効果を達成する発明である,と認めることができる。 2 争点(2)ア(ア),同イ(ア),同ウ(ア)(無効理由1-1,2-1,3-1。乙1発明に基づく新規性欠如及び進歩性欠如)について事案に鑑み,争点(2)ア(ア),同イ(ア),同ウ(ア)について,まず,判断する。 (1) 無効の判断について被告は,本件発明3の1,7の1及び8の1について無効主張が存在すれば,請求項1又は2に従属する請求項3,7及び8に係る特許に無効理由が存在するとして,本件発明3の1,7の1及び8の1についてのみ無効理由の 件発明3の1,7の1及び8の1について無効主張が存在すれば,請求項1又は2に従属する請求項3,7及び8に係る特許に無効理由が存在するとして,本件発明3の1,7の1及び8の1についてのみ無効理由の主張をしているのに対し,原告は,被告が本件発明3の2,7の2及び8の2に対しては無効理由を主張しておらず,少なくとも,本件発明3の1,7の1及び8の1の無効理由と本件発明3の2,7の2及び8の2の無効理由の関係について何ら具体的な理由を示していないと主張しているので,まずこの点につき,検討する。 この点,特許法123条1項により,無効審判請求は請求項ごとにするものとされているから,特許が有効であるか否かは請求項ごとに判断されるのであって,単一の請求項に係る特許の一部のみが無効で,残部は有効であるなどとされることはないというべきところ,本件特許の請求項3,7及び8は,請求項1及び2のいずれをも引用しているのであるから,本件発明3の1,7の1及び8の1について無効理由が存在すれば,請求項3,7及び8に係る特許に無効理由が存在することになり,結局,上記各請求項に記載された発明全体が無効になるというべきである。 そこで,以下,本件発明3の1,7の1及び8の1に無効理由があるか否かを検討する。 (2) 乙1発明についてア乙1公報には次の記載がある(記載文は甲25の全訳による。頁数及び行数は甲25のものである。)。 ・「この発明はレンズに関し,具体的には多焦点眼鏡レンズに関するものである。」(第1欄。1頁本文1行目)・「二重焦点レンズには強い度数が存在する下方部とレンズ上方部が接する個所にくっきりとした境界線ができる。このはっきりとした境界線は, 当該線の所でレンズを見た場合に,装用者の眼前に煩わしいぼやけとなって見える。 が存在する下方部とレンズ上方部が接する個所にくっきりとした境界線ができる。このはっきりとした境界線は, 当該線の所でレンズを見た場合に,装用者の眼前に煩わしいぼやけとなって見える。」(第1欄。1頁本文17~19行目)・「本発明はこのような欠点を克服するために,レンズの上部から下部にかけて度数を累進的かつ連続的に増加させることによって,従来の二重焦点レンズの境界線で発生するようなレンズの垂直軸近くでの度数の急変がないレンズを提供する。」(第1欄。1頁本文20~22行目)・「本発明を構成するレンズは,レンズの一方の面,好ましくはレンズの裏面,すなわち着用者の目に最も近い面に特殊な多焦点面を有する。レンズのもう一方の面は,装用者の眼球の不完全さを補正するために用いられる球面,シリンドリカル又はトロイダル形状が付与される。」(第1欄~第2欄。2頁5~8行目)・「例えば,レンズの裏面に多焦点表面を作る場合,慣例にしたがって,この裏面を必ず凹面とし負の度数をもつ面とすることが望まれる。説明してきたどの設計からも,レンズ面にわたりほとんど同じ度数勾配を有し,全ての点でオリジナル設計よりある高い(度数)か,又は(ある)低い度数を有する設計を容易に得ることができる。このためには,球面又はシリンドリカル面若しくはトロイダル面のZ軸座標値に対して対応する値のZ値を加えることで充分である。もしそれがなされると,結果である表面は,オリジナルな面と球面又はシリンドリカル面若しくはトロイダル面の表面の点での度数の代数的な正確な合計ではないが,かなり近似した度数をそれぞれの点で持つだろう。」(第9欄。11頁14~22行目)・「例えば,式(12)及び式(13)によって表されている設計(判決注:下記イの図で示される実施形態の設計)を,レン り近似した度数をそれぞれの点で持つだろう。」(第9欄。11頁14~22行目)・「例えば,式(12)及び式(13)によって表されている設計(判決注:下記イの図で示される実施形態の設計)を,レンズ上端で度数を-6ディオプトリにし,レンズ下端で度数を-4ディオプトリに設定し,加入度数はそのまま2ディオプトリとする修正が望まれるかもしれない。この場 合は,面全体にわたって-5ディオプトリの度数を加算する。屈折率が1.500の材料でこの度数を有する凹状球面の曲率半径は100mmになり,この面のz座標は次のようになる。 」(第9欄。11頁23~28行目)・「このレンズにおいて,等しい度数の線は,各線が5ディオプトリだけ減少した度数を表すことを除けば,図3(FIG.3)と本質的に同じである。同じ非点収差の線も本質的に図4(FIG.4)と同じになる。」(第10欄。12頁3~5行目)イ乙1公報には下図及びその説明として次の記載がある(説明文は,甲25の全訳による。頁数及び行数は甲25のものである。)。 ・「図3(FIG.3)は,平均度数の変化で,1/8ディオプトリ間隔の線で度数の分布を表すレンズの正面図である。」(第2欄。2頁29~30行目)・「図4(FIG.4)は,非点収差の量の変化を示すための,1/8ディオプトリ間隔の線で非点収差の量の分布を示すレンズの正面図である。」(第2欄。2頁31~32行目)ウ乙1公報の図3(FIG.3)の修正 前記イのとおり,乙1公報には,図3(FIG.3)に示された設計から,レンズ上端で度数を-6ディオプトリ,レンズ下端で度数を-4ディオプトリとし,かつ,加入度数はそのまま2ディオプトリとする修正を加えたものが開示されており,この場合の平均度数の変化を れた設計から,レンズ上端で度数を-6ディオプトリ,レンズ下端で度数を-4ディオプトリとし,かつ,加入度数はそのまま2ディオプトリとする修正を加えたものが開示されており,この場合の平均度数の変化を図に表すと次の図のとおりである。このとき,非点収差の量の分布は,本質的に図4(FIG.4)と同じである。 下図に,補助線として,図4(FIG.4)において非点収差の量の変化が0.25ディオプトリ未満である中央上部区域から下部区域に延びる部分に赤色点線を記入し,上部区域及び下部区域において,横方向に青色実線を記入した。 下図の上部区域において青色実線に沿って中央から離れる方向に屈折力の変化をみると,-5(5/8),-5(1/2),-5(3/8),-5(1/4)と屈折力が小さくなっている。また,下部区域について同様にみると,-4(3/8),-4(1/2),-4(5/8),-4(3/4)と屈折力が大きくなっている。 〔図3(FIG.3)を修正し,補助線を付したもの〕エ乙1発明の構成上記アないしウによれば,乙1発明は,二重焦点レンズにはくっきりとした境界線ができて煩わしいという欠点を克服するために,レンズの上方から下方にかけて度数を累進的かつ連続的に増加させる累進多焦点レンズに関するものであって,次の構成を有すると認められる。 (ア) レンズの上部から下部にかけて屈折率が累進的かつ連続的に増加する多焦点レンズであって,(イ) レンズの一方の面,好ましくはレンズの裏面,すなわち着用者の目に最も近い面に特殊な多焦点面を有し,(ウ) レンズのもう一方の面は,装用者の眼球の不完全さを補正するために用いられる球面,シリンドリカル又はトロイダル形状が付与され,(エ) レンズの裏面(眼球側の面)に多焦点表面を作る場合,こ (ウ) レンズのもう一方の面は,装用者の眼球の不完全さを補正するために用いられる球面,シリンドリカル又はトロイダル形状が付与され,(エ) レンズの裏面(眼球側の面)に多焦点表面を作る場合,これを凹面とし負の度数をもつ面とするが,レンズ面にわたりほとんど同じ度数勾配を有し,全ての点でオリジナル設計よりある高い度数か,又はある低い度数を有するものとするため,球面又はシリンドリカル面若しくはトロイダル面のZ軸座標値に対して対応する値のZ値を加えたもの。 (オ) レンズの全面に負の屈折力を与えた場合,中央上部から下部に延びる非点収差の量の変化が0.25ディオプトリ未満である部分から離れるに従って,上部区域では屈折力が小さくなり,下部区域では屈折力が大きくなるもの。 (3) 本件各発明と乙1発明の対比ア一致点(ア) 上記を総合すると,本件発明3の1,7の1及び8の1と乙1発明は,①屈折力が累進的に変化する累進部を備えた視力補正用の累進多焦点レンズにおいて,②この累進多焦点レンズの眼球側の面に,累進屈折面と トーリック面が合成された面である累進多焦点レンズ,という点及び③累進屈折面の曲率は,一部の領域において,主注視線から離れるに従って小さくなり,④一部の領域において,主注視線から離れるに従って大きくなるという点において一致する。 (イ) 原告の主張に対する判断この点に関して原告は,乙1発明には主注視線が存在しないと主張しているので検討する。 原告は,本件各発明における「主注視線」について,「累進屈折力レンズを使用するときに視線の透過するレンズ上の位置で,視線が透過する頻度(使用頻度)の高い位置を示すもの」であり,主注視線上において非点収差が生じないようにしたものを「へそ状子午線」というなどと主張して 使用するときに視線の透過するレンズ上の位置で,視線が透過する頻度(使用頻度)の高い位置を示すもの」であり,主注視線上において非点収差が生じないようにしたものを「へそ状子午線」というなどと主張している。 しかし,原告の上記主張を前提にすれば,眼鏡レンズにおいて視線が透過する頻度が高い場所はその中央部分であることは明らかであるから,乙1公報の図4(FIG.4)における中央上部から下部に延びる非点収差の量の変化が0.25ディオプトリ未満である部分の中央に引いた線が主注視線に当たると認めるのが相当である。 したがって,乙1発明は主注視線を備えているというべきである。 なお,原告が主張するように,主注視線が,遠方視では水平正面視の状態から垂直方向にまっすぐ上方に延びるが,中間部では加入度数の変化に対応して鼻側に偏寄するものと仮定して,前記(2)ウの図の赤線が下方に向かうに従って鼻側にやや偏寄するものとした場合であっても,下部区域のうちの少なくとも一部の領域において同線から離れるに従って累進屈折面の曲率が大きくなることが認められるから,このことは前記(ア)の認定を左右しない。 イ相違点 本件発明3の1,7の1及び8の1と乙1発明は,次の各点で相違する。 ① 本件発明3の1,7の1及び8の1は,異なる屈折力を備えた遠用部及び近用部を備えている(構成要件【ア】)のに対し,乙1発明では異なる屈折力を備えた遠用部及び近用部を備えているか不明である点(以下「相違点①」という。)② 本件発明3の1,7の1及び8の1では,累進屈折面と乱視矯正用の屈折面とが合成された面である(構成要件【イ】)のに対し,乙1発明では,累進屈折面とトーリック面が合成された面ではあるものの,トーリック面が乱視矯正用であるかが不明である ,累進屈折面と乱視矯正用の屈折面とが合成された面である(構成要件【イ】)のに対し,乙1発明では,累進屈折面とトーリック面が合成された面ではあるものの,トーリック面が乱視矯正用であるかが不明である点(以下「相違点②」という。)③ 本件発明3の1は,累進多焦点レンズの物体側の面が球面であるが,乙1発明では,物体側の面が球面であるか不明である点(以下「相違点③」という。)④ 本件発明7の1及び8の1では,主注視線が遠用部から近用部に向かって延びる(構成要件【オ】)のに対し,乙1発明では主注視線が上部区域から下部区域に延びている点(以下「相違点④」という。)⑤ 本件発明7の1では,遠用部を構成するための累進屈折面の曲率が,少なくとも一部の領域で,主注視線から離れるに従って小さくなる(構成要件【カ】)のに対し,乙1発明では上部区域において主注視線から離れるに従って小さくなっているものの,上部区域が遠用部であるか不明である点(以下「相違点⑤」という。)⑥ 本件発明8の1では,近用部を構成するための累進屈折面の曲率が,少なくとも一部の領域で,主注視線から離れるに従って大きくなる(構成要件【キ】)のに対し,乙1発明では下部区域において主注視線から離れるに従って大きくなっているものの,下部区域が近用部であるか不明である点(以下「相違点⑥」という。) (4) 相違点①④⑤⑥についてア本件明細書等には,近用部及び遠用部について「遠距離の物を見るための視野部分である遠用部」「近距離の物をみるために遠用部と異なる屈折力を備えた視野部分が近用部」といった記載がされており(2頁:43-45行),これ以上の説明はされていない。 原告は,乙1発明は,全面を累進部とするものであるから,「遠用部」及び「近用部」がないと主張しており 野部分が近用部」といった記載がされており(2頁:43-45行),これ以上の説明はされていない。 原告は,乙1発明は,全面を累進部とするものであるから,「遠用部」及び「近用部」がないと主張しており,同主張は,遠用部又は近用部の区域において屈折力が変動しないことを前提としたものと解されるが,本件明細書等には,「遠用部」及び「近用部」の区域内において屈折力が一定であることを示す記載はない上,昭和41年(1966年)7月に発表された「バーナード・メイテナッツ,アメリカン・ジャーナル・オブ・オプトメトリー,43巻7号」に掲載された論文(乙11)には,遠方視や近方視の区域内において屈折力が変動する累進屈折面を有するレンズが記載されており,遠用部又は近用部においても屈折力が変動することがあるものと認められるから,近用部又は遠用部が一般的に屈折力が変動しない部分を指すという技術常識があるということもできない。 そうすると,乙1発明において全面が累進部であることをもって,本件各発明にいう「遠用部」及び「近用部」が存在しないということはできない。 そして,本件明細書等の上記記載からすると,遠用部は遠距離の物を見るための視野部分であり,近用部は近距離の物を見るために遠用部と異なる屈折力を備えた部分なのであるから,本件各発明においては,累進多焦点レンズのうち,遠用視に適した部分が遠用部,近用視に適した部分が近用部を指すものと認めるのが相当である。 イ次に,乙1発明においては,累進多焦点レンズの上部から下部にかけて屈折率が累進的かつ連続的に増加するが,眼球側の面に多焦点表面を作る 場合,前記(2)ウのとおり,上部から下部にかけて屈折力が小さくなるから,乙1発明において,上部区域の方が下部区域に比べて屈折力が大きい(度数が大きい)といえ の面に多焦点表面を作る 場合,前記(2)ウのとおり,上部から下部にかけて屈折力が小さくなるから,乙1発明において,上部区域の方が下部区域に比べて屈折力が大きい(度数が大きい)といえる。ここで,屈折力が大きい方が遠距離の物を見るのに適しており,屈折力が小さい方が近距離の物を見るのに適していること,さらには,一般に,遠距離の物を見る場合には前方を見ることが通常であり,近距離の物を見る場合には手元などの下方を見ることが多いことからすると,乙1発明においては,上部区域が遠距離の物を見るための視野分野である遠用部に当たり,下部区域が近距離の物を見るために遠用部と異なる屈折力を備えた視野分野である近用部に当たると認められる。 ウ以上から,乙1発明は,上部に「遠用部」,下部に「近用部」を備えており(相違点①),上部の遠用部から下部の近用部に向かって主注視線が延びており(相違点④),遠用部である上部区域を構成するための累進屈折面の曲率が,主注視線から離れるに従って小さくなっており(相違点⑤),近用部である下部区域を構成するための累進屈折面の曲率が,主注視線から離れるに従って大きくなっている(相違点⑥)といえる。 したがって,相違点①④⑤⑥はいずれも実質的な相違点ではない。 (5) 相違点②についてア前記(3)イのとおり,本件各発明では,眼球側の面が,累進屈折面と乱視矯正用の屈折面とが合成された面である(構成要件【イ】)のに対し,乙1発明では,累進屈折面とトーリック面が合成された面ではあるものの,トーリック面が乱視矯正用であるかが不明である点において相違する。 イ本件優先日当時の周知技術(ア) 昭和55年3月20日発行の柳沢安夫著「メガネは眼そのもの」と題する文献(乙12,32。以下「乙12文献」という。)には,次の記 である点において相違する。 イ本件優先日当時の周知技術(ア) 昭和55年3月20日発行の柳沢安夫著「メガネは眼そのもの」と題する文献(乙12,32。以下「乙12文献」という。)には,次の記載がある。 ・「乱視レンズには,円柱レンズと,球面レンズのカーブと円柱レンズ のカーブを一つに組合せたトーリックレンズの二種類がある」(乙12の68頁:2-3行)・「現在私たちが乱視矯正用レンズとして一般的に使っているトーリックレンズ」(乙12の70頁8~9行目)・「一般的に乱視レンズのことを円柱レンズといいますが,その場合はいまお話してきた,トーリックレンズも含めた意味を持っています。」(乙12の75頁1~2行目)・「トーリックレンズを作る場合,トーリック面をレンズの表面につけたものと,裏面につけたものとの二種類があります。前者を外面TC,後者を内面TCと呼んでいます。」(乙12の75頁8~10行目)・「内面TCは外面TCの欠点を補うべく,最近多く用いられるようになりました。」(乙32の76頁4~5行目)(イ)平成2年5月1日発行の日本眼科医会監修「眼科診療のための眼鏡ハンドブック」と題する文献(乙33。以下「乙33文献」という。)には次の記載がある。 ・「乱視レンズのレンズカーブはトーリック面が採用されている。従来は主にレンズ後面を球面,前面にトーリックを採用した乱視レンズが用いられてきたが,最近は逆に前面を球面,後面にトーリックを採用した乱視レンズも増加している。このレンズの特徴は,外観上の見栄えや像倍率の影響が少ないなどの利点があると言われている。」(33頁下から2行目~35頁3行目)ウ容易想到性について(ア) 前記イのとおり,乙12文献及び乙33文献には,トーリック面を乱視矯正用に用 が少ないなどの利点があると言われている。」(33頁下から2行目~35頁3行目)ウ容易想到性について(ア) 前記イのとおり,乙12文献及び乙33文献には,トーリック面を乱視矯正用に用いることは一般的であることが記載されており,トーリック面を乱視矯正用に用いることは,本件特許の優先日(平成7年11月24日)において周知であったといえる。そして,乙1公報には,「装 用者の眼球の不完全さを補正するために用いられる球面,シリンドリカル又はトロイダル形状が付与される。」との記載があるところ,「眼球の不完全さ」には乱視も含まれると考えられるから,乙1公報には,乱視矯正のためにトロイダル形状を有するトーリック面を用いることが示唆されていると認めるのが相当である。 (イ) この点に関して原告は,乙1発明にトロイダル表面のz座標が加えられているのは乱視矯正の目的ではなく,メニスカス(三日月)形状にするためにすぎないと主張するが,乙1公報には,トーリック面を設けることがメニスカス形状にする目的であることを示唆する記載はなく,原告が指摘するようにメニスカス形状にする目的でトーリック面を用いた事例(甲28,29)があることを考慮しても,乙1発明においては,トーリック面をメニスカス形状にすることのみを目的とするものであって,乱視矯正に用いることはできないとまではいえない。そして,乙1発明におけるトーリック面を乱視矯正用とすることについて,阻害する事情があることはうかがえない。 (ウ) 以上からすると,乙1発明において,累進屈折面と合成されたトーリック面を乱視矯正用とすることは,本件特許の優先日において,当業者が容易に想到できたというべきである。 (6) 相違点③についてア前記(3)イのとおり,本件発明3の1は,累進多焦点 れたトーリック面を乱視矯正用とすることは,本件特許の優先日において,当業者が容易に想到できたというべきである。 (6) 相違点③についてア前記(3)イのとおり,本件発明3の1は,累進多焦点レンズの物体側の面が球面であるところ,乙1発明では,物体側の面が球面であるか不明である点において相違する。 イそこで検討するに,乙1公報には,「本発明を構成するレンズは,レンズの一方の面,好ましくはレンズの裏面,すなわち着用者の目に最も近い面に特殊な多焦点面を有する。レンズのもう一方の面は,装用者の眼球の不完全さを補正するために用いられる球面,シリンドリカル又はトロイダ ル形状が付与される。」と記載されており,物体側の面を球面とすることが示唆されている。そして,乙1発明における累進多焦点レンズの物体側の面を球面とすることについて,阻害する事情があることはうかがえない。 ウ以上からすると,乙1発明において,物体側の面を球面とすることは,本件特許の優先日において,当業者が容易に想到できたというべきである。 (7) 無効理由1-1,2-1及び3-1について以上のとおり,本件発明3の1,7の1及び8の1はいずれも乙1発明に周知技術を組み合わせることにより当業者が容易に想到できるものであるから,進歩性を欠くというほかない。 したがって,本件各発明はいずれも,特許無効審判により無効とされるべきものである。 3 争点(3)(本件訂正の適法性〔特許法127条の承諾の要否と承諾を要する通常実施権者の範囲〕)について(1) 特許法104条の3の抗弁に対する訂正の再抗弁が成立するためには,①特許庁に対し適法な訂正審判の請求又は訂正の請求を行っていること,②当該訂正が訂正要件を充たしていること,③当該訂正によって被告が主張している無効 3の抗弁に対する訂正の再抗弁が成立するためには,①特許庁に対し適法な訂正審判の請求又は訂正の請求を行っていること,②当該訂正が訂正要件を充たしていること,③当該訂正によって被告が主張している無効理由が解消されること,④被告各製品が訂正後の特許発明の技術的範囲に属すること,以上の各要件を充たすことを要するというべきである。 原告は,本件無効審判において審決の予告(甲50)を受け,特許法134条の2第1項に基づき,上記審決の予告において定められた期間内に訂正請求書(甲51の1・2)を提出して本件訂正請求をしているから,上記①の要件を充足するものと認められる。 ところで,特許権者は,同法78条1項の規定による通常実施権者がいる場合には,その承諾を得た場合に限り,特許法134条の2第1項に基づいて訂正請求をすることができるものとされている(同法134条の2第9項,127条)。 そして,原告が,外国法人を含む複数の第三者に対し,本件特許権を対象に含むライセンス契約(通常実施権設定契約)をしていること,しかし,原告は上記外国法人から,本件訂正に関し何らの承諾も得ていないことは当事者間に争いがない。 そこで,本件訂正が上記②の要件を充足するか否かが問題となる。 (2) この点に関して原告は,本件訂正は,形式的に引用関係を解消する訂正であって,通常実施権者に不測の損害を与えないから,特許法127条所定の承諾を必要とする場合に当たらない,仮に承諾を要する場合に当たるとしても,同条所定の「通常実施権者」は,訂正について利害関係のある通常本件では,外国法人は,同条所定の「通常実施権者」には当たらない旨主張しているので,以下,検討する。 (3) 上記(2)について特許法127条には,通常実施権者の承諾を得る必要がない場合につ 本件では,外国法人は,同条所定の「通常実施権者」には当たらない旨主張しているので,以下,検討する。 (3) 上記(2)について特許法127条には,通常実施権者の承諾を得る必要がない場合について特段の除外規定はない。そして,同法の趣旨は,特許権者が誤解に基づいて不必要な訂正を請求したり,瑕疵の部分のみを減縮すれば十分であるのにその範囲を超えて訂正したりすると,実施許諾を受けた範囲が不当に狭められるなど,通常実施権者等が不測の損害を被ることがあるので,訂正審判を請求する場合に上記のような利害関係を有する者の承諾を要することとしたものであると考えられる。 また,通常実施権者には,訂正による権利範囲の減縮の程度にかかわらず,訂正により特許が有効に存続することとなったり,あるいは,訂正の承諾を拒否することで特許が無効になるなどすることで,何らかの利益又は損失を生じる場合もあり得るのであるから,通常実施権者は,特許権者による訂正について常に利害関係を有する可能性があると認められる。 そうすると,訂正が減縮にあたる場合はもちろんのこと,訂正が単なる減縮に当たらない場合であっても,特許権者が訂正をする場合には常に通常実 施権者の承諾が必要であるというべきである。 この点に関して原告は,引用関係を解消する目的でされる訂正について通常実施権者の承諾を要するような改正がされたのは,立法担当者の見落としである旨の主張もしているが,それを裏付ける証拠はなく,むしろ,原告の主張のとおりに通常実施権者の承諾について議論があったにもかかわらず通常実施権者の承諾を要するものとして改正がされたのであるとすれば,法の趣旨は通常実施権者の承諾を要するものとして通常実施権者の利益を保護しようとしているというべきであるから,原告の上記主張は らず通常実施権者の承諾を要するものとして改正がされたのであるとすれば,法の趣旨は通常実施権者の承諾を要するものとして通常実施権者の利益を保護しようとしているというべきであるから,原告の上記主張は独自の見解というほかない。 したがって,引用関係を解消する目的でされる訂正については特許法127条の適用がない旨の原告の上記主張には理由がない。 (4) 上記(2)について原告は,特許法127条の「通常実施権者」は利害関係があるものに限定されるとか,本件では,外国法人は同条所定の「通常実施権者」に含まれない旨主張している。 しかし,特許法には,同条の「通常実施権者」について訂正に利害関係のある者や現に実施している者に限定する旨の規定はないのであって,特許法127条は,「特許権者は,専用実施権者,質権者又は第35条第1項,第77条第4項若しくは第78条第1項の規定による通常実施権者があるときは,これらの者の承諾を得た場合に限り,訂正審判を請求することができる。」と規定しており,通常実施権者として,外国の会社を排除するものではないとともに,訂正について実質的な利害関係があることを要件としているわけでもないというべきである。 さらには,通常実施権者であれば,現に実施しておらず,また,自らは実施する可能性がないとしても,今後,子会社や関連会社を含む第三者をして実施させる可能性はあるのであるから,訂正の内容や特許の有効性に利害関 係を有することは明らかであり,現に実施しておらず,かつ,自らは実施する可能性がない通常実施権者を,特許法127条の承諾を要するべき「通常実施権者」から除外すべき理由がない。 したがって,原告の上記主張は採用できない。 (5) 以上のとおり,原告は,本件特許権の通常実施権者の一部について,本件 特許法127条の承諾を要するべき「通常実施権者」から除外すべき理由がない。 したがって,原告の上記主張は採用できない。 (5) 以上のとおり,原告は,本件特許権の通常実施権者の一部について,本件訂正請求をすることにつき承諾を得ていないから,本件訂正に係る原告の再抗弁は,前記(1)で説示した②の要件を充たしていないというほかない。 したがって, 原告の主張する訂正の再抗弁は,その余の点について判断するまでもなく,理由がない。 4 結論以上によれば,本件各発明には無効理由があり,本件各発明にかかる特許は,特許無効審判により無効にされるべきものであるから,特許法104条の3により,原告は被告に対し,本件特許権を行使することができない。 したがって,その余の点につき判断するまでもなく,原告の請求は理由がないから,これを棄却することとし,主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第40部 裁判長裁判官 東海林保 裁判官 瀬孝 裁判官 勝又来未子 (別紙)物件目録 商品名「バリラックスセレクトT」,「バリラックスセレクトS」,「バリラックスコンフォート・ニュー」,「バリラックスオープンビュー」,「プレシオ・アドバンス」,「プレシオ・ライフ」,「プレシオH&O ネオ」などであって,以下の構成を有する累進多焦点レンズ 【あ】視力補正用の累進多焦点レンズであり,異なる屈折力を備えた遠用部と近用部と,これらの間で屈折力が累進的に変化する累 プレシオH&O ネオ」などであって,以下の構成を有する累進多焦点レンズ 【あ】視力補正用の累進多焦点レンズであり,異なる屈折力を備えた遠用部と近用部と,これらの間で屈折力が累進的に変化する累進部を備える。 【い】この累進多焦点レンズの眼球側の面が,遠用部,近用部および累進部を構成するための累進屈折面と乱視矯正用の屈折面とが合成された面である。 【い】′前記合成された面は,この累進多焦点レンズの眼球側の面に,前記遠用部,近用部および累進部を構成するための累進屈折面の曲率及び乱視矯正用の曲率が付加されて形成されている。 【う】累進多焦点レンズである。 【え】物体側の面は,球面である。 【お】遠用部から近用部に向かって延びる主注視線を有している。 【か】遠用部を構成するための累進屈折面の曲率は,少なくとも一部の領域で,前記主注視線から離れるに従って小さくなっている。 【き】近用部を構成するための前記累進屈折面の曲率は,少なくとも一部の領域で,前記主注視線から離れるに従って大きくなっている。 (別紙「特許公報」は省略)

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