主文 1 被告は,原告に対し,金826万2019円及びこれに対する平成14年12月17日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。 2 原告のその余の請求を棄却する。 3 訴訟費用は,これを10分し,その1を原告の負担とし,その余は被告の負担とする。 4 この判決の第1項は仮に執行することができる。 事実及び理由 第1 原告の請求被告は,原告に対し,金956万1062円及びこれに対する平成14年12月17日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要 1 請求原因(1) 原告は,土木建築工事等請負及び設計を業とする株式会社である。 (2) 原告(ただし,当時の商号は「株式会社乙」)は,平成13年9月12日,甲株式会社(本店所在地・京都市e区f町g番地代表取締役A)との間で,下記工事を甲株式会社に請け負わせる契約(以下「本件請負契約」という。)を締結した。 ① 工事名 D庁舎新築工事(以下「本件工事」という。)② 工事場所神戸市a区b通c丁目d番地内③ 契約金額 2378万8800円(消費税込み)④ 工期平成13年9月10日から平成14年3月8日まで⑤ 前払金契約金額の40パーセント⑥ 残代金支払方法竣工検査後40日以内に支払⑦ 遅延損害金甲株式会社の責めに帰すべき事由により工期内に工事を完成することができない場合には,原告は,請負代金額から部分引渡を受けた部分に相応する請負代金額を控除した額につき,遅延日数に応じ年10.75パーセントの割合で めに帰すべき事由により工期内に工事を完成することができない場合には,原告は,請負代金額から部分引渡を受けた部分に相応する請負代金額を控除した額につき,遅延日数に応じ年10.75パーセントの割合で計算した額の遅延損害金を甲株式会社に請求できる。 (3) 原告は,甲株式会社に対し,本件請負契約の前払金として合計987万7326円を,以下のとおり支払った。 平成13年10月上旬 300万円平成13年10月末 300万円平成13年11月末 350万円平成13年12月4日 37万7326円(4) 原告は,本件工事の途中で,甲株式会社の代表取締役Aから,甲株式会社は被告名(丙株式会社)に商号変更をしたと告げられ,これを信じた原告は,以後,被告を本件請負契約の相手方として本件工事の交渉等を行ってきた。 (5) 被告は,平成13年10月中旬ころから正当な理由なく工事を中断して行わず,その後の平成14年1月10日には,ついに本件工事の履行を一方的に放棄した。 (6) 前払金の返還金 778万3620円被告が,本件工事の履行を一方的に放棄した時点での出来高は209万3706円であった。 したがって,本件工事の履行を一方的に放棄した被告には,前払金987万7326円から上記出来高を控除した778万3620円を原告に返還すべき義務がある。 (7) 立替金 72万7932円原告は,被告が本件工事につき,下記下請業者に下請けさせて行った工事代金につき,その支払をしないため,次のとおり合計72万7932円を立て替えて支払った。 W 直接仮設 原告は,被告が本件工事につき,下記下請業者に下請けさせて行った工事代金につき,その支払をしないため,次のとおり合計72万7932円を立て替えて支払った。 W 直接仮設工事 29万1732円X 共通仮設工事 18万9000円Y 基礎工事 15万7500円Z 残土・産業廃棄物処理 8万9700円(8) 遅延損害金 54万9510円上記被告の正当な理由のない工事の中断及び放棄により,本件工事の遅延日数は86日に及んだ。 したがって,原告が,上記遅延損害金約定に従って請求できる遅延損害金は54万9510円となる。 (2378万8800円-209万3706円)×10.75パーセント×86/365=54万9510円(9) 調査費用 50万円原告は,被告が上記金員を支払わないため,本訴提起を余儀なくされたが,その調査費用として,少なくとも50万円を要した。 (10) 甲株式会社と被告との関係について被告と甲株式会社とは,同一会社が商号変更したものではなく,別途の法人であることが判明したが,双方の会社の代表者を務めるA自身において,原告に対し,甲株式会社が被告に商号変更したものであるとして同一会社であることを明言し,これを信じさせ,自ら本件請負契約の相手方として行為しておきながら,原告が被告に対し債務の支払を請求するや,被告と甲株式会社は別法人であり,本件請負契約の相手方は甲株式会社であって被告ではないとの主張をして,その支払を拒絶するがごときは,信義則上到底許されるもので 告が被告に対し債務の支払を請求するや,被告と甲株式会社は別法人であり,本件請負契約の相手方は甲株式会社であって被告ではないとの主張をして,その支払を拒絶するがごときは,信義則上到底許されるものではない。 被告と甲株式会社は,形式的には別法人であるものの,その実質は,代表者であるAが,法人格を濫用して,債務逃れのために2つの法人格を巧みに使い分けているものにほかならず,この点からも,被告は,被告が甲株式会社と別法人であることを主張することはできない。 (11) よって,原告は,被告に対し,(6)ないし(9)の合計金956万1062円及びこれに対する本件訴状送達の翌日である平成14年12月17日から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による金員の支払を求める。 2 請求原因に対する認否及び被告の主張(認否)請求原因(2)の事実は認めるが,同(1)の事実は知らないし,その余の請求原因事実は否認ないし争う。 (主張)本件請負契約は請求原因(2)のとおり原告と甲株式会社の間で締結されたものであり,本件請負契約の相手方は甲株式会社であって,被告ではない。被告は,孫請業者の1社として本件工事に関与していたに過ぎない。 第3 当裁判所の判断 1 請求原因(1)の事実は証拠(甲1)によって認められ,同(2)の事実(本件請負契約の締結)は当事者間に争いがない。 2 同(3)の事実(前払金の支払)について証拠(甲13の1~4,原告代表者)によれば,原告は,甲株式会社に対し,本件請負契約の前払金として,次のとおり合計950万円を支払ったことが認められる。 平成13年10月2日 300万円平成13年11月1日 300万円(ただし,うち51万 負契約の前払金として,次のとおり合計950万円を支払ったことが認められる。 平成13年10月2日 300万円平成13年11月1日 300万円(ただし,うち51万1441円は立替金との相殺)平成13年11月30日 350万円(ただし,うち51万6990円は立替金との相殺)なお,原告は,上記の外に平成13年12月4日に37万7326円を甲株式会社に支払っていることが認められるところ(甲13の1・5),原告はこれも前払金の支払であると主張するが,証拠(甲10,原告代表者)によれば,これは,甲株式会社からの派遣社員の給与を別途原告において負担することを求められて支払ったものであることが認められるから,これを前払金の支払いとして認めることはできない。 3 同(4)の事実について証拠(甲2,4の1・2,6の1~3,7~9,16,17,19~22,23の1~3,24~28,33,34,乙1,11の1・2,原告代表者,被告代表者〔ただし,一部〕)及び弁論の全趣旨を総合すると,原告は,本件工事途中の平成13年11月ころ,甲株式会社の従業員で本件工事を担当していたBらから,甲株式会社が被告名(丙株式会社)に社名変更(商号変更)した旨の挨拶を受け,Bからは被告の総括部長との肩書の名刺の交付を受けたこと,これを信じた原告は,それ以降,被告を本件請負契約の相手方として本件工事につき交渉を行い,被告も本件請負契約の相手方としてこれに対応してきたこと,もっとも,その後も,前払金の振込等は,甲株式会社で口座が残っているので,甲株式会社宛に振り込んでほしいとのことであり,請求書も甲株式会社名義で作成されていた(乙11の1・2)ので,原告は,特に疑うこともなく甲株式会社宛に振り込んでこ 甲株式会社で口座が残っているので,甲株式会社宛に振り込んでほしいとのことであり,請求書も甲株式会社名義で作成されていた(乙11の1・2)ので,原告は,特に疑うこともなく甲株式会社宛に振り込んでこれを支払ったこと,また,上記以外にも,甲株式会社名で追加工事の見積書(甲27)が出されたりもしていたが,これについても,原告は,特段不審に感じたり,疑念を抱くこともなかったことが認められる。 なお,被告代表者尋問の結果中には,前記認定と異なり,被告は孫請業者の1社として本件工事に関与していたに過ぎないとの部分があるが,原告代表者尋問の結果と対比してにわかに措信できず,他に前記認定を覆すに足りる証拠はない。 4 同(5)の事実について証拠(甲4の1・2,16,34,原告代表者)及び弁論の全趣旨を総合すると,被告及び甲株式会社は,平成13年12月27日ころから一方的に本件工事を中断し,本件工事現場に施錠をして原告が入れなくしたうえ,平成14年1月10日には本件工事の履行を放棄し,撤退する旨を原告に通告するに至ったことが認められる。 なお,この点につき,乙1(Bの陳述書)及び被告代表者尋問の結果中には,甲株式会社が本件工事から撤退したのは,原告が,水道工事の予納金の支払につき理解を示さなかったからであり,原告に責任があるかのように述べる部分があるが,前掲証拠(甲34,原告代表者)と対比してにわかに措信できず,他に前記認定を覆すに足りる証拠はない。 5 同(6)の事実について証拠(甲6の3,原告代表者)及び弁論の全趣旨によれば,被告及び甲株式会社が本件工事から撤退した平成14年1月10日時点における本件工事の出来高は,209万3706円であったと認められ,これを覆すに足りる確たる証拠はない。 び弁論の全趣旨によれば,被告及び甲株式会社が本件工事から撤退した平成14年1月10日時点における本件工事の出来高は,209万3706円であったと認められ,これを覆すに足りる確たる証拠はない。 そうすると,甲株式会社は,受領済の前払金950万円から上記出来高209万3706円を控除した740万6294円を原告に返還すべき義務があると認められる。 6 同(7)の事実について証拠(甲6の1,20,22,原告代表者)及び弁論の全趣旨によれば,原告は,甲株式会社ないし被告が本件工事につき下記下請業者に下請けさせて行った工事代金につき,次のとおり合計72万7932円を立て替えて支払ったことが認められる。 W 直接仮設工事 29万1732円(平成14年2月22日から同月27日にかけて支払)X 共通仮設工事 18万9000円(平成14年3月27日支払)Y 基礎工事 15万7500円(平成14年3月21日支払)Z 残土・産業廃棄物処理 8万9700円(平成14年5月31日支払) 7 同(8)の事実について証拠(原告代表者)及び弁論の全趣旨によれば,本件工事は予定より約20日遅れて平成14年3月28日ころ完成したことが認められるところ,同完成の遅れは,前記4で認定の被告及び甲株式会社による工事の一方的中断とその後の撤退に起因するものと推認でき,他にこれを覆すに足りる証拠はない。 そうすると,原告は,本件請負契約の特約(請求原因(2)の⑦)に基づき,甲株式会社に対し,遅延損害金として12万7793円の支払を求めることができるものと認められる。 (2378万88 うすると,原告は,本件請負契約の特約(請求原因(2)の⑦)に基づき,甲株式会社に対し,遅延損害金として12万7793円の支払を求めることができるものと認められる。 (2378万8800円-209万3706円)×10.75パーセント×20/365=12万7793円 8 同(9)の事実について原告は,本訴提起のための調査費用として,少なくとも50万円を要した旨を主張するが,これを認めるに足りる証拠はない。 9 同(10)(甲株式会社と被告との関係)の事実について被告と甲株式会社とは別法人ではあるが,前記認定のとおり,被告は,その従業員らをして,原告に対し,被告は甲株式会社が社名変更(商号変更)したものであると称して,原告をして被告と甲株式会社が同一会社であるものと誤信させ,本件請負契約の相手方として本件工事に関与してきたものである。そして,実際にも,前記認定事実,証拠(甲2,19,25,27,乙12)及び弁論の全趣旨によれば,被告代表者のAは甲株式会社の代表者でもあること,甲株式会社の登記簿上の本店所在地は「京都市e区f町g番地」であるが,原告に宛てた甲株式会社作成の見積書(甲27)中には,その住所として被告と同じ「京都市h区i町jビル3F」が記載されていること,当裁判所宛てに甲株式会社から送られてきたファクス(甲25)は,被告の上記本店のファクスから送信されていること,被告の従業員中,総括部長,工事部長といった重要な役職を努めるB,Cは甲株式会社においても同様の従業員の地位にあること,甲株式会社は,原告に対し被告名に社名変更したと告げた後も,前払金の支払は甲株式会社宛てに行わせ,また,その後も甲株式会社名での見積書(甲27)も発行していたこと等を総合すると,被告と甲株式会社は,形式的には ,原告に対し被告名に社名変更したと告げた後も,前払金の支払は甲株式会社宛てに行わせ,また,その後も甲株式会社名での見積書(甲27)も発行していたこと等を総合すると,被告と甲株式会社は,形式的には別法人であることを奇貨として,その2つの法人格を恣意的に使い分けていたのではないかと認められる。 そうとすれば,被告が,原告に対し,自らが本件請負契約の当事者であると表示し,それに即した行為をしておきながら,後になって,甲株式会社と被告とが別法人であることを主張し,原告からの請求を拒絶することは,信義則上許されないというべきである。 10 以上の事実によれば,原告の本件請求は,5の前払金返還金740万6294円,6の立替金72万7932円及び7の工事遅延損害金12万7793円の合計金826万2019円とこれに対する本件訴状送達の翌日である平成14年12月17日から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。 よって,原告の請求を上記の限度でこれを認容することとし,主文のとおり判決する。 神戸地方裁判所第4民事部裁判官上田昭典
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