平成17(ネ)135 損害賠償請求控訴事件

裁判年月日・裁判所
平成18年7月20日 札幌高等裁判所 棄却 札幌地方裁判所 平成15(ワ)282
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判決文本文28,053 文字)

主文 本件控訴を棄却する。 控訴費用は控訴人の負担とする。 事実及び理由 第1当事者の求めた裁判 控訴人(1)原判決中控訴人敗訴部分を取り消す。 (2)被控訴人らの請求を棄却する。 (3)訴訟費用は第1,2審とも被控訴人らの負担とする。 被控訴人ら主文同旨第2事案の概要次のとおり補正するほかは,原判決「事実及び理由」欄の「第2事案の概要」に記載のとおりであるから,これを引用する。 原判決6頁19行目及び22行目の各「雇用形態等選択通知書」をいずれも「雇用形態選択通知書」と改める。 同9頁7行目の末尾に「被控訴人Aは,上記不支給決定を不服として審査請求をしたが,北海道労働者災害補償保険審査官は,同年11月26日付けで審査請求を棄却する旨の決定をした(甲33)。」を加え,同頁12行目の末尾に改行して「(4)過失相殺の可否」を加える。 同11頁20行目から21行目にかけての「前下行枝(分枝)及び左回旋枝(分枝)の3か所に狭窄があり(冠状動脈3枝障害)」を「前下行枝の分枝(#9)及び左回旋枝の#13に狭窄があり(冠状動脈2枝障害)」と,同12頁1行目の「冠状動脈3枝障害」を「冠状動脈2枝障害」とそれぞれ改める。 同14頁11行目の「パニック症候群」を「パニック障害」と改める。 同15頁24行目の末尾に改行して以下のとおり加える。 「また,Bは,家族性高コレステロール血症(ヘテロ型)であったが,コレステロール値はコントロールされ,平成5年の入院治療後は禁煙していたのであるから,Bの死亡は陳旧性心筋梗塞を合併する家族性高コレステロール血症(ヘテロ型)の自然的経過による増悪の結果によるものではない。」 同17頁2行目から8行目までを以下のとおり改める。 「(ア)Bの死亡原因は,急性冠症候群の 塞を合併する家族性高コレステロール血症(ヘテロ型)の自然的経過による増悪の結果によるものではない。」 同17頁2行目から8行目までを以下のとおり改める。 「(ア)Bの死亡原因は,急性冠症候群のなかの心臓突然死である。 (イ)Bは,陳旧性心筋梗塞を合併する家族性高コレステロール血症(ヘテロ型)の患者であり,通常の2倍の投薬を受けながらもコレステロール値を下げることができなかったのであるから,その自然的経過ないしこれにスコップや鎌による作業が加わって死に至ったものと考えられる。なお,高脂血症,糖尿病,高血圧症,喫煙,感染などの動脈硬化危険因子による内皮細胞の機能障害とこれらの危険因子の刺激による内皮細胞の活性化によってプラークが形成され,形成されたプラークが破綻することにより急性冠症候群(急性心筋梗塞,不安定狭心症,心臓突然死など)が引き起こされるところ,Bがプラークの破綻によって死亡したのだとしても,それは上記の自然的経過の中に含まれるものである。 (ウ)家族性高コレステロール血症(ヘテロ型)の患者は60歳までに70パーセントが死亡するとされており,また,心筋梗塞の発症歴があり,冠状動脈の2枝障害であって,左室駆出分画が0.48程度の患者の10年後の死亡率が40パーセント前後であることからしても,Bが自然的経過の中で死亡したことは明らかである。」 同19頁末行の「宿泊」を「時間外労働及び宿泊」と改める。 同20頁2行目の「Bに対して」の次,同頁5行目の「対して」の次,同頁7行目の「対し,」の次にそれぞれ「時間外労働や」を加え,同頁22行目の「長時間」を「長期間」と改め,同頁25行目の末尾に以下のとおり加える。 「エ予見可能性 労働者が労働日に長時間にわたり業務に従事する状況が継続するなどして疲労や心理的負荷等が過度に蓄 2行目の「長時間」を「長期間」と改め,同頁25行目の末尾に以下のとおり加える。 「エ予見可能性 労働者が労働日に長時間にわたり業務に従事する状況が継続するなどして疲労や心理的負荷等が過度に蓄積すると,労働者の心身の健康を損なう危険のあることは,周知のところなのであるから,抽象的・類型的にみて,疲労や心理的負荷等が過度に蓄積するような状況が継続しているという事実自体を認識できていれば,労働者の心身の健康を損なうこと,したがって,その究極状態である過労死することについての予見可能性があるというべきである。 本件においては,控訴人は,Bが健康管理規程の「要注意(C)」の指導区分に該当すると判断していたのであるから,Bに対し,健康管理規程に違反した労働を行わせることがあれば,疲労や精神的負荷が過度に蓄積し,Bの心身の健康を損なう危険のあることは,当然である。しかるに,控訴人は,本件リストラ計画の実施により,控訴人の労働者全体が過大な精神的ストレスを受けており,特に,60歳満了型を選択したBが「全国転勤」,「高度な業務への職種転換」,「成果・業績主義の徹底」という職場状況の激変により,著しい心理的負荷を受けていたことを認識し,かつ,健康管理規程に反して恒常的に時間外労働を命じ,長期かつ継続した宿泊を伴う研修を命じたのであるから,控訴人にはBの過労死について予見可能性があったというべきである。」 同22頁9行目の「協議した上,」の次に「本人に対し上長から事前に健康状態を確認することを前提として,」を加える。 同23頁14行目の「財政基盤」の次に「強化」を加え,同24頁19行目の「会社」を「控訴人」と改める。 同27頁10行目の末尾に改行して以下のとおり加える。 「カ予見可能性控訴人がBに命じた時間外労働の時間は,平成13年 の次に「強化」を加え,同24頁19行目の「会社」を「控訴人」と改める。 同27頁10行目の末尾に改行して以下のとおり加える。 「カ予見可能性控訴人がBに命じた時間外労働の時間は,平成13年の1月平均で4.83時間であり,健康管理規程が定めている1日2時間,週2回の限度を大き く下回るものであるから,このような時間外労働がBに過度の精神的,肉体的ストレスを与え,健康障害を招くことを予見することはできない。 また,本件研修前のBの心臓は安定した状態であり,しかも,Bは本件研修直前及び本件研修中に健康面での不調や不良を訴えることはなかったのであるから,本件研修への参加がBに過度の精神的,肉体的ストレスを与えるものと予見することはできなかったことは明白である。 さらに,プラークの破綻は何の前兆もなく起きることが多く,その起きる時期を予測することは不可能であるから,控訴人がBのプラーク破綻について予見することはできなかった。 なお,Bの主治医である市立旭川病院のC医師は守秘義務を負っているから,控訴人が同医師からBの診療,病状の経過等の情報を得ることはできない。したがって,控訴人がC医師から情報を入手することを前提として,Bの死亡についての予見可能性の有無を論じることは相当ではない。」 同28頁20行目の末尾に改行して以下のとおり加える。 「(4)過失相殺の可否(争点(4))について(控訴人の主張)Bは,家族性高コレステロール血症(ヘテロ型)に罹患していた上,平成5年に冠状動脈疾患による心臓手術を受け,陳旧性心筋梗塞の状況になっていたものであり,平成5年以降このような状態にあったことが直接の死因たる急性心筋虚血に繋がったと解されるところ,Bの死亡について全責任を控訴人に負わせることは相当ではない。 また,①Bのコレステロール値は のであり,平成5年以降このような状態にあったことが直接の死因たる急性心筋虚血に繋がったと解されるところ,Bの死亡について全責任を控訴人に負わせることは相当ではない。 また,①Bのコレステロール値は通常の2倍の投薬を受けながらも日本動脈硬化学会が挙げる目標値を大幅に上回っていた,②Bは健康管理医から体調不良があれば研修を休むよう,東京での研修に不安等があれば主治医と相談するように指示されていたにもかかわらず,主治医に全く相談していなかった,③Bは東京での研修中に睡眠不足である等の申し出を控訴人に対し行 わなかった,④Bは死亡当日一人で長時間自家用車を運転し,人気の少ない墓地に赴いている,などの事情もある。 仮に,控訴人について損害賠償責任が認められるとしても,過失相殺に関する規定を類推適用し,上記のような事情を斟酌して,控訴人が賠償すべき額を大幅に減額すべきである。 (被控訴人らの主張)控訴人は,原審において,Bには著しい過失がある旨の主張をしたが,その際,裁判所からの求釈明に対して,控訴人は過失相殺の主張をする趣旨ではない旨釈明し,過失相殺の主張をする意思がないことを明らかにし,その後も,過失相殺の主張をすることはなかった。しかるに,控訴人は,当審において,過失相殺に関する規定の類推適用を主張するのであるが,このような主張をすることは,原審における主張と明らかに矛盾するものであり,禁反言の原則に反し,また,時機に後れたものとして,許されるものではない。」第3当裁判所の判断当裁判所も,被控訴人らの請求は,原判決が認容した限度で理由があると判断する。その理由は,次のとおりである。 争点(1)(因果関係の有無)について(1)Bの症状と治療の経過等証拠(甲3,4,11ないし15,28,29,乙8の1ないし3,37,40,63 と判断する。その理由は,次のとおりである。 争点(1)(因果関係の有無)について(1)Bの症状と治療の経過等証拠(甲3,4,11ないし15,28,29,乙8の1ないし3,37,40,63,証人D,同E,被控訴人A本人)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実を認めることができる。 アBは,平成4年9月,左肩から前頚部の痛みを感じ,国立療養所道北病院(以下「道北病院」という。)で診察を受けたが,特に異常は指摘されず,痛みも消失した(甲11,13,乙37)。 イBは,平成5年5月30日の職場検診で心電図の異常を指摘され,道北 病院で受診したところ,心電図に異常が認められ,また,安静時に数分間の胸痛発作があることから,虚血性心疾患の疑いがあるとされ,同年6月14日,市立旭川病院を紹介された。同病院における心臓超音波検査の結果,Bには心臓の後壁から内側壁の運動低下と壁の菲薄化が認められ,陳旧性心筋梗塞が疑われたため,心臓カテーテル検査など精査のため入院することとなった。 ウBは,平成5年7月5日から同月16日までの間,市立旭川病院に1回目の入院をしたが,その際,冠状動脈造影により,右冠状動脈(#1)で100パーセントの閉塞が,左前下行枝の分枝(#9)で50パーセントの狭窄が,左回旋枝の#13で99パーセントの狭窄がそれぞれ認められた。一般に,75パーセント以上の狭窄が認められる場合には,有意な狭窄であるとされていることから,右冠状動脈及び左回旋枝の2枝の障害の程度は高度であり,左回旋枝の#13について,血管拡張を試みるPTCA(経皮的経管的冠状動脈血管形成術)の手術適応があると判断された。 さらに,左室造影の結果,4番(下壁)が低運動,5番(後壁基部)及び7番(後側壁)が極めて低運動であるなど壁運動の低下が見られ,陳旧性心筋梗塞 管的冠状動脈血管形成術)の手術適応があると判断された。 さらに,左室造影の結果,4番(下壁)が低運動,5番(後壁基部)及び7番(後側壁)が極めて低運動であるなど壁運動の低下が見られ,陳旧性心筋梗塞と診断された。なお,この入院の際の胸部レントゲン写真によると,心胸郭比(CTR)は49パーセント(50パーセント以下が正常値)であった。 加えて,負荷心電図トレッドミル検査により,Bの運動耐容量は5-8METs以下であり,日常生活に一定の制約(スポーツでもゆっくりとした縄跳びができる程度)が要求される状態にあることが明らかになった。 併せて,Bには,家族性高コレステロール血症(ヘテロ型)が認められたため,同人に対し,虚血性心疾患に対する亜硝酸製剤や冠状動脈拡張剤,抗凝血剤が投与され,更には,高脂血症治療剤の内服治療が開始された。 エ上記の診療経過及び診断結果等を踏まえ,勤医協札幌西区病院のD医師 (日本循環器学会所属)は,Bには,平成4年9月以前に急性心筋梗塞が発症していたと考えられるが,動脈硬化の進行と冠状動脈の攣縮が関与した狭心症発作のくり返しの過程で,虚血心筋への血流を補給する冠状動脈の副血行路となる新生血管が発達し,前下行枝など比較的狭窄の軽度な血管から新生血管を介して心筋への血流が供給されたことから,Bには,心筋梗塞の発症に一般に伴うとされる一定時間続く激しい胸痛が見られず,致死的な状態に陥らないまま急性期を経過して,前記イの段階で心電図に陳旧性の心筋梗塞を示す異常が出たものと考えられるとの判断を示している(甲12,証人D)。これに対し,美唄労災病院のE医師(日本循環器学会所属)は,Bの冠状動脈病変について,家族性高コレステロール血症(ヘテロ型)及び長年の喫煙からくる冠状動脈の器質的な動脈硬化の進展によるもので,冠攣縮の関与は小 美唄労災病院のE医師(日本循環器学会所属)は,Bの冠状動脈病変について,家族性高コレステロール血症(ヘテロ型)及び長年の喫煙からくる冠状動脈の器質的な動脈硬化の進展によるもので,冠攣縮の関与は小さいとの判断を示している(乙40,63,証人E)。 オBは,平成5年8月6日から同月17日までの間,市立旭川病院に2回目の入院をし,同月9日,左回旋枝の#13の拡張を試みるPTCAを受け,その結果,左回旋枝の#13の狭窄が99パーセントから25パーセントに改善した。しかし,同年12月2日から同月14日にかけて3回目に同病院に入院した際,冠状動脈造影を実施した結果によると,左回旋枝の#13が90パーセント狭窄するなど再び悪化していることが認められたほか,右冠状動脈の起始部(#1)からその末梢部(#2)で100パーセントの閉塞,左前下行枝の分枝(#9)の狭窄も前回の50パーセントから90パーセントに悪化し,左回旋枝の他の分枝(#14,#15)も90パーセントの狭窄となっていて,2枝障害であることが判明した。そこで,再び左回旋枝の#13のPTCAを受けたが,同手術によっても左回旋枝の#13は100パーセント閉塞のまま改善は認めらなかった。そして,その後は家族性高コレステロール血症(ヘテロ型)の治療と 併せて内服治療を続けることとなった。なお,同年12月8日に行われた心臓超音波検査の結果によれば,左室収縮能を示す左室駆出分画(EF)は,0.48(0.5以上が正常値。0.4を下回ると重度とされる。)であり,同月3日に行われたエルゴメータの運動負荷試験による心筋シンチグラフィーでは新たな虚血所見は見られなかった。 Bは,上記2回目の入院と3回目の入院の間の同年10月30日ころ,約2時間にわたる胸痛を経験したが,その際は病院には行かなかった。D医師 る心筋シンチグラフィーでは新たな虚血所見は見られなかった。 Bは,上記2回目の入院と3回目の入院の間の同年10月30日ころ,約2時間にわたる胸痛を経験したが,その際は病院には行かなかった。D医師は,その後の冠状動脈造影の結果の所見が悪化していることに鑑み,この胸痛は心筋梗塞の再発によるものとの意見を述べている(甲12,証人D)。これに対し,E医師は,上記胸痛について,3回目の入院記録から心筋梗塞の再発を疑う所見は見られず,心筋梗塞の再発の可能性は否定しがたいものの,心筋梗塞の再発とは考えがたいとの意見を述べている(乙63,証人E)。 カ平成8年に行われた成人病健診において,Bの血中脂質中総コレステロール値が245mg/dlと高く,陳旧性心筋梗塞を示す心電図において,初めて心室性期外収縮(不整脈)が認められ,時々息苦しくなったり,肩や首筋がこるという自覚症状が認められたが,平成10年の旭川赤十字病院における人間ドックの検査では,明らかな狭心症発作や進行する心不全の兆候は窺われず,心電図の異常の他は腹部超音波検査での胆のうポリープ,腎のう胞を認めるのみであった。 キ平成13年6月以降,Bは,頻脈,脈の欠滞(不整脈),不眠等の症状をC医師に訴えていた。具体的には,同医師に対し,同月15日には「脈が時折ゆっくりになるが,早いときもある。」旨を,同年8月10日には「体調は良い。1分間に1,2回程度の不整脈は出ているが気にしないようにしている。家では脈拍は50から60の間で,血圧は110くらいである。」旨を,同年11月6日には「入眠して2,3時間経つと途中で目 ざめることが多い。」旨を,平成14年1月25日には「毎日ではないが,脈がとぶ。」,「1分間に2個くらい。」,「夜に発汗して目覚めることがある。」旨を,同月31日には「昨日嘔吐,下 つと途中で目 ざめることが多い。」旨を,平成14年1月25日には「毎日ではないが,脈がとぶ。」,「1分間に2個くらい。」,「夜に発汗して目覚めることがある。」旨を,同月31日には「昨日嘔吐,下痢があり,夜には脈が速かった。」旨を,同年4月19日には「ときに脈が100くらいまで増えることがある。」旨をそれぞれ訴えていた。Bは,平成13年11月6日から催眠鎮静剤ベンザリンの投与を受けたが,平成14年3月19日にはベンザリンはもういらないとのBの申し出により同剤の投与は中止された。 この間,平成13年1月26日に行われた心臓超音波検査の結果によれば,左室駆出分画は0.47であり,同年1月31日に行われた心電図検査の検査記録紙には,Bの心電図の波形の記録とともに,「3633陳旧性(?)の下壁心筋梗塞〔II.AVFでQ巾40ms以上,ST.T異常のいずれか〕」,「4012中程度のST低下〔0.05mV以上のST低下〕」,「9150**abnormalECG**」,「医師の確認が必要です。」などというコメントが自動で印字され,同日に行われた胸部レントゲン写真によれば,心胸郭比(CTR)は43パーセントで,心拡大はなかった。 さらに,Bは,平成13年1月ころから,被控訴人Aに対して,仕事量が多く疲れる旨を述べるようになったほか,同年秋ころからは,「そうしないとだめか。」,「俺が我慢すればいいのか。」といった独り言を言ったり,「遠くになんか行きたくない。」,「東京には行きたくない。」などという寝言まで言うようになり,眠りが浅く,睡眠途中に目ざめることがあった。また,平成14年2月初旬から中旬ころにかけて,「肩が凝る。眠れない。胃が動かない。食欲がない。食べ物を消化できない。」などの症状を訴えることもあった。このほか,同年1月25日には,市 とがあった。また,平成14年2月初旬から中旬ころにかけて,「肩が凝る。眠れない。胃が動かない。食欲がない。食べ物を消化できない。」などの症状を訴えることもあった。このほか,同年1月25日には,市立旭川病院のC医師に対して「働きすぎだなあと思っている。」旨を述べたこともあった。 これらを総合すると,平成13年6月以降,Bには自律神経に関わると思われる多彩な症状が現われていると評価することができる。 クBは,愛煙家で,約30年間,1日に約25本のタバコを吸っており,2回目の入院でも禁煙に踏み切ることができず,3回目の入院を契機に禁煙を実行した。Bは,3回目の入院以降,定期的に診察,投薬を受け,医師の指示に従って規則正しい生活を維持し,過激な運動を避け適度の運動を行うなど,健康に留意した生活に徹していた。 (2)Bの業務について前記前提事実及び証拠(甲2,6,12,15,18の1ないし9,19の1ないし3,21の1ないし15,乙52,58,証人F,同G,同D,被控訴人A本人)並びに弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。 アBは,平成13年1月1日から平成14年4月23日までの間,電話の新規加入,移転,増設,名義の変更,各種通信機器の設置等について利用者からの注文や問い合わせに対応する部門である116センタにおいて,SOC(サービスオーダーセンタ)の業務のうち,結了と呼ばれる仕事を担当していた。結了の仕事内容は,窓口担当者が利用者から受け付けた様々な電話サービスに関わる注文内容が正確に処理されているか否かを点検し,不備があれば受付担当者と連絡をとり,場合によっては直接利用者に問い合わせるなどして不備を補正し,注文処理を完了させるというものであるが,Bは,その中でも,日締め作業及びバックオーダーと呼ばれる作業を担当していた 担当者と連絡をとり,場合によっては直接利用者に問い合わせるなどして不備を補正し,注文処理を完了させるというものであるが,Bは,その中でも,日締め作業及びバックオーダーと呼ばれる作業を担当していた。このうちの日締め作業は,電話等の工事約束をした1日分の注文伝票の工事の進捗状況を点検し,完了処理を行い,未完了となったものはその原因調査・分析を行うというものであり,バックオーダー処理業務は,利用者の都合や控訴人側の都合で工事内容,工事日時等に変更が生じ,工事が持ち帰りとなったものの後処理を行うというものであった。 イBは,雇用形態・処遇体系の選択に際して60歳満了型を選択したが,同選択をするに際しては,転勤の可能性等の将来の生活設計,心疾患の状況,妻がパニック障害であって単身赴任が困難と思われたことなどを含め,深刻に悩んでいた。結局,60歳満了型を選択して控訴人に残留することになり,平成14年4月24日で北海道支店旭川営業支店に配置換えとなったが,控訴人の基幹業務であった固定電話等の業務を新会社に外注委託するとの方針が実行されたことにより,同人が従前担当していた業務自体は存在しなくなった。その後にBが新たに担当することとされた業務は,ソリューション業務(提案型業務)と呼ばれ,法人に対して情報システムを構築するための提案を行うことを主とするものであって,Bがこれまで担当してきた業務とは全く異なる内容のものであった。そして,その業務(法人業務)に必要な技能等を習得することを目的として,Bは本件研修への参加を命じられ,同研修終了後の同年7月以降,新たな業務に就くことが予定されていた。 ウBの死亡前半年以内の勤務については,旭川において継続して勤務をしており,平成14年の平均時間外労働時間は月0.5時間であり,休日労働は合計1日8時 降,新たな業務に就くことが予定されていた。 ウBの死亡前半年以内の勤務については,旭川において継続して勤務をしており,平成14年の平均時間外労働時間は月0.5時間であり,休日労働は合計1日8時間であった。 エ本件研修は,平成14年4月24日から同年6月30日まで2か月以上の長期にわたって実施されるものであったが,研修場所がBの自宅のある旭川市ではなく,札幌及び東京であったことから,同人にとっては,同研修の全期間を通じて,宿泊を伴う研修とならざるを得なかった。そこで,Bは,旭川から札幌へ,札幌から東京へ,そしてまた東京から札幌へと生活環境,自然環境の異なる土地に複数回移動することを余儀なくされた。 この間,札幌での研修においては,週末には旭川の自宅に戻ることができたものの,ウィークデーには北海道セミナーセンタやNTT東日本研修センタ等の控訴人の研修施設やホテルに宿泊することになり,その際には, 5泊だけは1人部屋をあてがわれたものの,その余はすべて2人ないし4人部屋であったため,生活習慣の異なる他の研修生との同室を余儀なくされることにより,生体リズム及び生活のリズムが変わることとなった。 オ本件研修は,土,日,祝日及び移動日等を除く午前9時から午後5時30分までの所定時間内で実施され,研修時間が延長されたり,課題が出されたりしたことはなかったものの,研修担当者はほとんどの研修参加者が法人営業の未経験者で,心労の蓄積も相当あると考え,時には15分から30分程度研修時間を短縮することがあった。また,多くの研修資料が事前に配布されたが,これらはこれまでの業務とは異なる全く新たな分野に関するものであった(甲18の1ないし9,19の1ないし3,21の1ないし15)。本件研修期間中,Bは休憩時間になると机に突っ伏して休むなど疲れた様子が らはこれまでの業務とは異なる全く新たな分野に関するものであった(甲18の1ないし9,19の1ないし3,21の1ないし15)。本件研修期間中,Bは休憩時間になると机に突っ伏して休むなど疲れた様子が見られ,東京での研修に際しては,同僚や被控訴人Aに対して,同室者が早朝に起き出すなどするためよく眠れないなどと睡眠不足を訴えており,生体リズム及び生活リズムに大きな影響が出ていたことが窺われる(なお,東京における研修の際の同室者であるHからの聴取書である乙56には,同室者の中には午前3時に起きる者はいなかったと思う旨の記載があるが,一方,Hは午前5時30分には起床していたとの記載もあるから,乙56も,同室者が早朝から起き出すとの上記認定に反するものではない。)。 カBは,再度の札幌での研修期間中の平成14年6月7日(金)の研修終了後に旭川の自宅に帰宅し,同月9日(日)に墓参りに出かけ,同日午後10時過ぎころ,北海道樺戸郡a町bc番地所在の先祖の墓の前で死亡しているのを発見されたが,死体検案書では,死亡時刻は同日午前11時ころと推定され,直接の死亡原因については,急性心筋虚血であって,約10年前の狭心症が影響を及ぼしており,発症から死亡までの期間は短時間であると判定された(甲2,乙52)。 (3)虚血性心疾患の危険因子心筋梗塞を含む虚血性心疾患の危険因子としては,加齢(男性では45歳以上),冠動脈疾患の家族歴,喫煙習慣,高血圧,高コレステロール血症,精神的・肉体的ストレスが挙げられている(甲26,乙62)。これらの危険因子について,証拠(甲11,13,46の1及び2,乙22,37,40,62,証人E)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。 ア冠動脈疾患の家族歴Bの父親であるIは,心筋梗塞のため72歳で死亡した(甲31, 11,13,46の1及び2,乙22,37,40,62,証人E)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。 ア冠動脈疾患の家族歴Bの父親であるIは,心筋梗塞のため72歳で死亡した(甲31,甲11,13,乙37)。 イ喫煙習慣30年間にわたり1日25本以上喫煙することが危険因子とされており(乙40),禁煙しても数年間はリスクは減少しない(証人E)。しかし,心筋梗塞後の禁煙は死亡率を30パーセントから60パーセントまで減少させるとの報告もある(乙62)。 ウ高コレステロール血症Bのコレステロール値の推移は次のとおりである(甲11,乙37,弁論の全趣旨)。 採取年月日総コレステロール値LDL-コレステロール値 2001.11.6 2001.1.26 2000.9.29 1993.12 1993.8.6 1993.7.6日本動脈硬化学会が平成14年に発表した動脈硬化性疾患診療ガイドラインによると,冠状動脈疾患(確定診断された心筋梗塞,狭心症)のある 者のコレステロール値の管理目標値は,総コレステロール値が180,LDL-コレステロール値が100(原則としてLDL-コレステロール値で評価し,総コレステロール値は参考値とする。)とされており,家族性高コレステロール血症は別に考慮するとされている。 家族性高コレステロール血症とは,LDLレセプター異常で遺伝的に総コレステロール値が高くなる疾患で,ヘテロ型(両親の一方の遺伝子を受け継いだ場合)は500人に1人の頻度で出現し,男性では30歳ころから心筋梗塞を発症するといわれている(乙22,40)。なお,家族性高コレステロール血症(ヘテロ型)の患者692人(男性340人,女性352人)のうち 00人に1人の頻度で出現し,男性では30歳ころから心筋梗塞を発症するといわれている(乙22,40)。なお,家族性高コレステロール血症(ヘテロ型)の患者692人(男性340人,女性352人)のうち,心筋梗塞に罹患したのは男性75人,女性35人であり,死亡した54人のうち38人の死因は冠状動脈性心疾患であり,死亡平均年齢は男性54歳,女性69歳であるとの調査報告がある(甲46の1,2)。 (4)以上に認定した事実及び前記前提事実に基づき,Bの業務と死亡との間の因果関係の有無について検討する。 ア急性心筋虚血は,冠状動脈の血流が何らかの原因で急激に途絶えることによって心筋に酸素が供給されなくなった状態を指すところ,その原因としては,心筋梗塞,狭心症や不整脈を含む心疾患によるものと心疾患以外の病態によるショック等が考えられる(甲12,証人D)が,死体検案書には直接死因の原因が記載されておらず(甲2),死体検案では,前記のとおり心疾患である狭心症の影響が考えられていることに照らすと,心筋梗塞などの急性の冠状動脈疾患等が関与して発症した急性心筋虚血の可能性が強いと解されるところである(甲12,証人D)。 Bは,陳旧性心筋梗塞を合併する家族性高コレステロール血症(ヘテロ型)の患者であり,冠状動脈の2枝に障害があったものである。前記のとおり,心筋梗塞を含む虚血性心疾患の危険因子としては,加齢,冠動脈疾 患の家族歴,喫煙習慣,高血圧,高コレステロール症,精神的・肉体的ストレス等が挙げられているが,Bには約30年にわたる喫煙習慣があり(但し,平成5年の3回目の手術後は禁煙した。),家族性高コレステロール血症(ヘテロ型)にも罹患していて,年齢的にも死亡当時58歳であるなど,上記危険因子を有するということができる。しかし,Bは死亡当時には8年半を 3回目の手術後は禁煙した。),家族性高コレステロール血症(ヘテロ型)にも罹患していて,年齢的にも死亡当時58歳であるなど,上記危険因子を有するということができる。しかし,Bは死亡当時には8年半を超えて禁煙していたのであるから,喫煙によるリスクは相当程度減少していたということができるし,コレステロール値は管理目標値を超えていたとはいえ,投薬により一定程度コントロールされていたと評価することが可能である。 一方,Bは,本件リストラ計画に伴う雇用形態・処遇体系の選択に際して60歳満了型を選択したが,その選択に際しては前記のとおり深刻に迷っており,Bには精神的なストレスがあったということができる。さらに,本件研修は,控訴人における構造改革を前提として,控訴人に残るか新会社等に転出するかという処遇選択を伴ったもので,研修後にこれまでとは全く異なる職種の仕事に従事しなければならなくなるといった点でBの精神面に大きな作用を及ぼしたと考えられること,本件研修の担当者自身が,本件研修は研修参加者の心労の蓄積も相当あると考えるほどの内容のものであったこと,本件研修参加者も病院通いを強いられている者にとってはかなりのストレスがあったと思うとの感想や,Bの病状からして相当のストレスがかかっていたと思うとの感想を述べていること(乙56,57),本件研修が,長期間の連続する宿泊を伴うものであることから,Bの従前からの生体リズム及び生活リズムに大きな変化をもたらしたことが十分に考えられ,実際にも,研修内容がBにとって全く新たな分野であったことや宿泊場所が他の研修者と同室であったことなどからBは睡眠不足に陥ったことなどからすると,Bには本件研修に参加することによって精神的,身体的にも多大なストレスがあったというべきである。 イ一般に,心筋梗塞,動脈硬化な 室であったことなどからBは睡眠不足に陥ったことなどからすると,Bには本件研修に参加することによって精神的,身体的にも多大なストレスがあったというべきである。 イ一般に,心筋梗塞,動脈硬化などの基礎疾患が存在している場合に,業務に起因する過重な精神的,身体的負担によって労働者の基礎疾患が自然的経過を超えて増悪し,急性心筋虚血等の急性心疾患を発症するに至ったといえる場合には,業務と急性心筋虚血等との間の因果関係を肯定できると解するのが相当である。 これを本件についてみるに,前記の家族性高コレステロール血症(ヘテロ型)に関する調査報告に照らすと,家族性高コレステロール血症(ヘテロ型)に罹患していたというだけでは急性心筋虚血の確たる発症因子ということはできないし,喫煙や高コレステロール血症には上記のような事情があるから,これらは急性心筋虚血の確たる発症因子ということはできず,他に急性心筋虚血の確たる発症因子の存在が窺えない(なお,平成5年の手術以降のBの心臓は左室機能が軽度に低下していたものの比較的安定した状態にあった(証人E)。)以上,Bの本件リストラ計画に伴う雇用形態・処遇体系の選択の際の精神的ストレス,本件研修参加に伴う精神的,身体的ストレスが自然の経過を超えて冠状動脈の状態を増悪させる要因となり得たものというべきである。そして,Bの冠状動脈の状態が,確たる発症因子がなくてもその自然の経過により急性心筋虚血を発症させる寸前にまで増悪していることを窺わせる事情は見出しがたい(E医師の見解については後述するとおりである。)から,Bの本件リストラ計画に伴う雇用形態・処遇体系の選択の際の精神的ストレス,本件研修参加に伴う精神的,身体的ストレスがBの冠状動脈の状態を自然の経過を超えて増悪させ,心筋梗塞などの冠状動脈疾患等が発症したこと ストラ計画に伴う雇用形態・処遇体系の選択の際の精神的ストレス,本件研修参加に伴う精神的,身体的ストレスがBの冠状動脈の状態を自然の経過を超えて増悪させ,心筋梗塞などの冠状動脈疾患等が発症したことによる急性心筋虚血により死亡したものとみるのが相当であり,このことは本件研修の約4か月前からBが不整脈や体調の不良をC医師や被控訴人Aに対して具体的に訴えており,研修期間中も睡眠不足等の不具合を訴えていたことなどの事情もあったことからも裏付けられる。したがって,Bの死亡の原因となった急性 心筋虚血の発症と控訴人がBに対し,本件リストラ計画に伴って雇用形態・処遇体系の選択を迫り,60歳満了型を選択したBに本件研修に参加させたこととの間に相当因果関係が存在するというべきである。 ウこれに対し,日本循環器学会認定循環器専門医(乙10)である証人Jは,Bの死亡原因である急性心筋虚血の原因として,心筋梗塞の再発,特に心室細動や心室破裂を合併した心筋梗塞の再発の可能性や脳梗塞などの脳血管疾患の可能性が考えられるところ,次の①ないし⑥の理由から業務と死亡との因果関係はない旨供述しており,同証人作成の意見書(乙11)にはこれに副う供述記載がある。 すなわち,①Bに心筋梗塞が発症してから約10年が経過し,その間病状悪化を理由とする入院や心臓血管造影などの検査を受けておらず,平成13年1月31日の心臓の検査においても,心胸郭比(CTR)が正常値の範囲内(43パーセント)であり,心電図の所見も従前の陳旧性心筋梗塞の所見のみであって,保健師や健康管理医との面談でも狭心症の症状や心不全の症状などの症状悪化の訴えがほとんどなかったことにより,心筋梗塞後の経過としては安定した状態が継続していたものと考えられること,②死亡直前の24時間は,休日で勤務に就いていないこ 症の症状や心不全の症状などの症状悪化の訴えがほとんどなかったことにより,心筋梗塞後の経過としては安定した状態が継続していたものと考えられること,②死亡直前の24時間は,休日で勤務に就いていないこと,③死亡前1週間の勤務は,1日7時間30分の通常の所定勤務時間で実施され,セミナーセンタ内におけるデスクワーク的な研修であること,④死亡半年以内の勤務では,平成14年の月平均時間外労働が0.5時間であり,その勤務場所もこれまでずっと継続的に勤務してきた旭川であること,⑤本件研修に関しても,研修そのものは規定勤務時間内で実施され,時間外勤務はなく,土曜,日曜は休日であったこと,⑥東京での研修前に健康管理医であるK医師が面談した際,Bから体調不良に関する申し出等はなかったことなどを総合考慮すると,心筋梗塞など急性疾患を発症させる業務負荷があったとは考えられないとしている。 確かに,J医師が指摘する上記①ないし⑥の各事実自体については特段これを否定する事情は見当たらない。しかし,前記認定のとおり,Bの心筋の障害は広範囲に及び,心筋梗塞後の経過としては比較的安定した状態が継続していたということはできるものの,家族性高コレステロール血症(ヘテロ型)を患い,コレステロール値は投薬によりコントロールされてはいたものの,管理目標値を超えていたのであり,更には,指導区分として「要注意(C)」に指定されていて,原則として宿泊を伴う出張はさせないこととされていたのに,2か月以上にわたって宿泊を伴う本件研修に参加を命じられ,その間,本件研修中に睡眠不足を訴えるなど,生活環境の変化,生体リズム及び生活リズムの変化を余儀なくされ,精神的,身体的にかなりの程度のストレスがあったと認められること,他に急性心筋虚血の確たる発症因子の存在が窺われないなどの事情を併せ ,生活環境の変化,生体リズム及び生活リズムの変化を余儀なくされ,精神的,身体的にかなりの程度のストレスがあったと認められること,他に急性心筋虚血の確たる発症因子の存在が窺われないなどの事情を併せ考慮すると,心電図が従前の陳旧性心筋梗塞の所見のみであったことや,心胸郭比が正常値であったことなどの検査上の所見があったことをもって,控訴人がBに対し本件リストラ計画に伴って雇用形態・処遇体系の選択を迫り,本件研修に参加させたことが死亡の原因となったことを否定するには足りず,その他,同証人が指摘する上記の①ないし⑥の事実を考慮するとしても,Bの業務と死亡との間の因果関係の存在を左右するに足りないというべきである。 また,証人Jは,「血圧と脈拍を見る限りは安定しており,不整脈も連続して続いているわけではなく,外来診療では不整脈は認められず,心電図等の指示がなされていないことから,主治医も心筋梗塞に伴う重篤な症状と考えていなかったのではないか。」とも供述しているが,前段に述べたような諸事情を考慮すると,同証人の指摘する上記の点によっては,因果関係の存在が左右されるものとはいいがたい。 エE医師は,Bは陳旧性心筋梗塞を合併する家族性高コレステロール血症 (ヘテロ型)の患者として,その自然的経過の中で急性冠症候群の心臓突然死を来したものである旨の見解を述べる(乙40,63,証人E)。 ところで,急性冠症候群とは,急激な冠状動脈病変の変化により,血流の突然の阻止ないし減少により,心筋虚血が惹起された結果発生する症候群であり,急性心筋梗塞,不安定狭心症,虚血性の心臓突然死などが含まれ,冠状動脈内に形成されたプラークが内的,外的ストレスを受けることによって破綻し,それに引き続き冠状動脈内に血栓が形成され,内腔が閉塞,あるいは亜閉塞することにより発症 血性の心臓突然死などが含まれ,冠状動脈内に形成されたプラークが内的,外的ストレスを受けることによって破綻し,それに引き続き冠状動脈内に血栓が形成され,内腔が閉塞,あるいは亜閉塞することにより発症するとされており,プラーク破綻を引き起こす原因(トリガー)として代表的なものは,身体的,精神的負荷であるが,同定できるようなトリガーなくして自然経過で発症する例も多いといわれている(甲41,乙60,61,弁論の全趣旨)。 前記のとおり,Bは,本件リストラ計画に伴って迫られた雇用形態・処遇体系の選択,本件研修への参加によって多大な身体的,精神的なストレスを受けていたものであるところ,自然経過の中で急激な冠状動脈病変を惹起し,心筋虚血を発生させるほどBの冠状動脈の状態が悪化していたとはいいがたいうえ,身体的,精神的ストレス以外に急激な冠状動脈の病態変化のトリガーとなるべきものが見出せない(証人Eは,死亡直前の労作がトリガーである旨供述するが,後記の理由でこの供述を採用することはできない。)本件においては,仮にBの死亡が急性冠症候群の心臓突然死であるというとしても,上記ストレスがトリガーとなってプラーク破綻をもたらし,冠状動脈を閉塞させるに至ったと認めるのが相当であり,Bの死亡と業務との間には相当因果関係があることに変わりはない。 なお,前記のとおり,Bの平成5年12月当時の左室駆出分画は48パーセントであったところ,証拠(乙48の1ないし3,証人E)によれば,冠状動脈2枝障害を患い,左室駆出分画が48パーセントの者の10年後の死亡率は40パーセント程度であることが認められるが,このことだけ からBの死亡が陳旧性心筋梗塞を合併する家族性高コレステロール血症(ヘテロ型)の自然経過で生じたものということができないことは明らかである。 オ控訴人は あることが認められるが,このことだけ からBの死亡が陳旧性心筋梗塞を合併する家族性高コレステロール血症(ヘテロ型)の自然経過で生じたものということができないことは明らかである。 オ控訴人は,Bの死の直前の行為が急性心筋虚血の直接的原因となったのであり,業務と死亡との間に因果関係はない旨主張するところ,証拠(甲11,15,乙55,被控訴人A本人)によれば,Bが先祖の墓参り及び墓の手入れをすべく一人で出掛け,墓の前で仰向けになって死亡していたこと,傍らにスコップ,鎌があったことが認められるものの,それ以上に,Bが死の直前にスコップを用いて穴を掘ったり,鎌を用いて草刈りをするなどの作業をしたことを具体的に窺わせるに足りる周囲の状況があるわけではなく,これを窺わせるような的確な証拠もない上,前記のとおり,Bは3回目の入院以降激しい運動を避けていたことも考慮すると,Bがスコップや鎌を用いて心臓に負担のかかるような作業をしたとまでは認めることはできない。 争点(2)(控訴人の過失又は安全配慮義務違反の有無)について(1)控訴人における健康管理体制前記前提事実(3)及び証拠(乙3ないし5,証人L,同J)並びに弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。 ア控訴人は,従業員に対する健康管理に関し,健康管理規程(乙4)及び健康管理規程取扱細則(乙5)を定め,その中で,控訴人が設置しているNTT札幌病院の中に健康管理センタを置き,健康管理医(労働安全衛生法上の産業医とされている。)を複数名指定しているが,Bの所属する旭川地区は,札幌市に所在する同病院に勤務するK医師が担当の健康管理医であった。控訴人は,その従業員で健康上の管理を要する要管理者に対し,その健康状態に応じて,健康管理医を介して,AないしDの指導区分を決定し,これを当該要 る同病院に勤務するK医師が担当の健康管理医であった。控訴人は,その従業員で健康上の管理を要する要管理者に対し,その健康状態に応じて,健康管理医を介して,AないしDの指導区分を決定し,これを当該要管理者の所属する組織の長等に通知している。このう ち,指導区分「要注意(C)」に指定された者に対しては,「ほぼ平常の勤務でよいもの」とされてはいたものの,健康管理規程取扱細則28条2項(3)において,「要注意(C)の服務については,①日勤,夜勤以外の服務につかせない。ただし,やむを得ぬ理由で前記の服務以外の服務につかせる場合は,組織の長と健康管理医が協議して決める。②時間外労働は命令しない。ただし,やむを得ぬ理由で時間外労働を命令する場合は,組織の長と健康管理医が協議して決める。この場合においても,1日2時間,1週2回を限度とする。③過激な運動を伴う業務,宿泊出張はさせない。 ただし,やむを得ぬ理由で宿泊出張させる場合は,組織の長と健康管理医が協議して決める。」こととされており,これら例外規定の適用に際しては,当該要管理者の所属する組織の長と健康管理医が協議して決定することとされていた。 なお,Bの前記認定の心臓疾患の状態,治療等の経過に照らすと,同人につき,健康指導区分による規制が必要とされる状態であり,その症状に照らすと,「要注意(C)」の指導区分に指定されたことには十分な合理性があったということができる。 その際,「やむを得ぬ理由」に該当する事由があるか否かは,控訴人においては担当業務の繁忙度や研修参加のように代替性があるか否かといった観点から検討されていたが,本件研修のように,一般的に代替性がないと判断される場合でも,健康状態が良くないことを理由に本件研修に参加することが困難であれば,研修参加に代わる何らかの代替措置をとることは から検討されていたが,本件研修のように,一般的に代替性がないと判断される場合でも,健康状態が良くないことを理由に本件研修に参加することが困難であれば,研修参加に代わる何らかの代替措置をとることは可能であり,Bの場合もそのような措置をとることも視野に入れていた(証人L)。 イ控訴人は,年1回定期健康診断を実施しているほか,健康管理医もしくは保健師が各職場を定期的に巡回し,その際に要管理者に対する健康相談や保健指導等を行うシステムになっているところ,Bの場合には,K医師 が年に数回(直近では平成13年9月及び平成14年1月)旭川に出向き,平成13年9月には直接Bと面談するなどしたほか,M保険師が毎月Bの所属する職場を巡回していた。また,健康管理センタの電話番号,健康管理医及び保険師のPHSの番号は公開されており,直接電話で相談することも可能であった。 ウ指導区分「要注意(C)」に指定されていたBに対する時間外労働及び休日労働の実施については,健康管理医であるK医師又は健康管理医で,当時健康管理センタ部長であったJ医師とBの組織の長に該当する職場の上長であるN課長が協議して決定することとなっていたが,Bの健康状態が安定していたとの理由で,時間外労働等の可否について,その都度個別に協議されることはなく,包括的な協議でこれに代える取扱いとなっていた。 エ控訴人は,ウの取扱いに基づき,平成13年には,Bの健康状態が安定していることを理由に,上記包括的な協議に基づき,前記例外規定の範囲内で,1か月平均4.83時間の時間外労働及び合計16時間(1回8時間を2日)の休日労働を命じていた。 (2)本件研修前記認定の事実及び証拠(甲15,乙11,16,17,58,証人F,同G,同J,同O,被控訴人A本人)によれば,以下の事実を認めることが 回8時間を2日)の休日労働を命じていた。 (2)本件研修前記認定の事実及び証拠(甲15,乙11,16,17,58,証人F,同G,同J,同O,被控訴人A本人)によれば,以下の事実を認めることができる。 ア本件研修は,前記認定のとおり,Bが60歳満了型を選択して控訴人に残留することになり,従来担当していた業務がなくなったことから,新たに担当する法人営業業務の遂行に必要な知識・技能の習得を目的として参加を命じられたものであって,具体的には,控訴人において提供できる商品の概要,企業に関わる通信システムの構築の基礎,顧客対応の基礎等を習得するというものであり,これまでの業務とは異なる全く新たな分野の 研修内容で,その意味で研修の必要性があったというべきである。 イ本件研修は,平成14年4月24日から同年6月30日まで2か月以上の長期にわたって札幌及び東京において実施され,その全期間を通じて宿泊を伴うもので,宿泊場所も,控訴人の研修施設やホテルであり,札幌での研修においては,週末には旭川の自宅に戻ることが可能であったものの,それ以外では,ごく一部を除いて2人ないし4人部屋があてがわれたため,生活習慣の異なる他の研修生との同室を余儀なくされることとなり,生体リズム及び生活リズムが変わるなど大きな環境の変化があることは明らかであった。 ウK医師とN課長は,宿泊を伴う本件研修にBを参加させるか否かについて協議した結果,前年のK医師による面談等で特別問題がなかったこと,毎月の保健師による職場巡回でBから症状の悪化等体調不良の訴えがなかったこと,職場の上司との話合いの中でも特別な事情が出てこなかったことから,Bが安定した状態にあると判断し,Bを本件研修に参加させることにつきやむを得ぬ理由があると判断した。なお,K医師は,その決定に先立つ平 場の上司との話合いの中でも特別な事情が出てこなかったことから,Bが安定した状態にあると判断し,Bを本件研修に参加させることにつきやむを得ぬ理由があると判断した。なお,K医師は,その決定に先立つ平成14年1月16日及び17日の両日にわたって旭川のBの職場を訪れたが,Bと面談することはできなかった。また,同医師は,東京での研修が始まる1週間前の同年5月13日,Bと面談し,体調等の不良があればいつでも研修を休むようにすること及び東京への出張に関し不安等があれば主治医であるC医師に相談するよう伝えた。 エ本件研修は,土,日,祝日及び移動日等を除く午前9時から午後5時30分までの所定時間内で実施され,研修時間が延長されたり,課題が出されたりはしなかった(研修担当者はほとんどの研修参加者が法人営業の未経験者で,心労の蓄積も相当あると考え,時には15分から30分程度研修時間を短縮することはあった。)ものの,多くの研修資料が事前に配布され,これまでの業務とは異なる全く新たな分野の研修が行われたことな どから,Bは,本件研修期間中,休憩時間になると机に突っ伏して休むなどの姿が認められ,札幌での研修中,土日に旭川の自宅に帰宅した際には,被控訴人Aに対して,疲れたと訴えたり,肩の凝り,不眠,食欲不振等の症状が出ており,札幌での研修が始まって3日間ほどは,脈拍が100以上になり,同年4月27日には「ちょっと調子が悪い」と言って病院を受診し,疲労によるものだと診断されたこともあった。また,同年5月20日からの東京での研修では,非常に疲れた様子で顔色も良くなく,同僚や被控訴人Aに対して,「寮が古いので,4人部屋の2段ベッドがギシギシする。」などと訴えており,生体リズム及び生活リズムに大きな影響が出ていたことが窺われ,同月31日に東京での研修から旭川の自 同僚や被控訴人Aに対して,「寮が古いので,4人部屋の2段ベッドがギシギシする。」などと訴えており,生体リズム及び生活リズムに大きな影響が出ていたことが窺われ,同月31日に東京での研修から旭川の自宅に戻った際には,目に隈ができており憔悴しきった様子であった。Bは,本件研修のインストラクターであったP課長と平成14年6月5日に面談した際,研修内容について新鮮な気持ちで受講できたなどと述べた(なお,P課長作成の平成16年4月16日付けの陳述書(乙16)には,同課長が平成14年6月5日にBと面談した際,同人は,東京研修で特に疲れた感じはなく,健康状態について安定しているなどと述べていた旨の記載があるが,この陳述書は当審になって初めて提出されたもので,原判決が証人Oの供述を採用しなかったことを受けて作成されたものであると推認される上,Bとの面談調書(乙17)には,健康状態について,無理ができない状態(今は安定している)との記載があることに照らして,上記陳述書の記載はこれをそのまま採用することができない)。 (3)Bの使用者である控訴人は,その雇用する労働者に従事させる業務を定めてこれを管理するに際し,業務の遂行に伴う疲労や心理的負荷等が過度に蓄積して労働者の健康を損なうことがないように注意する義務を負うと解される。前記前提事実(3),ウに記載したとおり,Bは,平成5年8月20日に「要注意(C)」とされたのであるが,平成5年8月17日で市立旭川病院 の入院証明書(診断書)(甲3)が作成され,これには入院の原因となった傷病名として「陳旧性心筋梗塞」と,合併症として「高脂血症」と記載されていたのであるから,控訴人は,Bに陳旧性心筋梗塞の既往症があり,合併症として高脂血症に罹患していたことを前提に,Bに対して指導区分「要注意(C)」の指定を 」と,合併症として「高脂血症」と記載されていたのであるから,控訴人は,Bに陳旧性心筋梗塞の既往症があり,合併症として高脂血症に罹患していたことを前提に,Bに対して指導区分「要注意(C)」の指定をし,原則として,時間外労働や休日勤務を禁止し,過激な運動を伴う業務や宿泊を伴う出張をさせないこととしていたのであるから,その例外事由としてのやむを得ぬ理由があるかどうかの組織の長と健康管理医との協議に際しては,Bのその後の治療経過や症状の推移,現状等を十分検討した上で時間外労働や宿泊出張の可否が決定されるべきであったというべきである。 具体的には,精神的ストレスは虚血性心疾患のリスクを増大させるものであり,このことは産業医が認識し,または認識し得たものである(甲26)ところ,心疾患の症状が平成5年の手術後は比較的安定していたとはいえ,高脂血症を合併する陳旧性心筋梗塞で「要注意(C)」に指定されていたBを本件研修(本件研修は,Bがそれまで担当してきた業務とは全く異なる内容のものであり,平成14年4月24日から同年6月30日までの2か月以上にわたって,Bの自宅のある旭川から離れて,札幌及び東京で宿泊を伴うものであり,その際の宿泊場所として,そのほとんどを2人ないし4人部屋で過ごすことになることは,当然控訴人において予め分かっていた事柄である。)に参加させることになれば,同人の生体リズム及び生活リズムに著しい変化を生じさせ,過度の精神的,身体的ストレスを与えることが十分予測できたというべきである。したがって,Bを本件研修に参加させるか否かを決定するに当たっては,慎重な検討をすべきであって,控訴人が行った健康診断の結果やBから得た情報のみで判断するのではなく,市立旭川病院のカルテを取り寄せたり,主治医のC医師からカルテ等に基づいた具体的な診療,病 っては,慎重な検討をすべきであって,控訴人が行った健康診断の結果やBから得た情報のみで判断するのではなく,市立旭川病院のカルテを取り寄せたり,主治医のC医師からカルテ等に基づいた具体的な診療,病状の経過及び意見を聴取するなどすべきであったのであり,そうすれば, Bは家族性高コレステロール血症(ヘテロ型)に罹患しており,コレステロール値も管理目標値を超えていたなどの情報を入手でき,その検討の結果,Bを本件研修に参加させることについての危険性に気付き,Bを本件研修に参加させることはなかったものと考えられる。 にもかかわらず,健康管理医であるK医師と職場の上長であるN課長は協議の上,前年におけるK医師との面談等で特別問題がなかったこと,毎月の保健師による職場巡回の際に,Bから症状の悪化や体調不良等の訴えがなく,職場の上司との話合いの中でも特別な事情が出てこなかったことから,控訴人は,漫然と,Bが本件研修に耐えられる状態にあると判断し,Bの本件研修への参加を決定したのであって,その結果,Bが急性心筋虚血によって死亡するに至ったのであるから,控訴人の担当者には,その雇用する労働者に従事させる業務を定めてこれを管理するに際し,業務の遂行に伴う疲労や心理的負荷等が過度に蓄積して労働者の健康を損なうことがないように注意する義務に違反した過失があるということができる。 なお,Bの主治医であるC医師は,旭川労働基準監督署長の照会に対し,「病態が安定していたので,研修参加は可能な状態であったと思われる。」と回答していることが認められる(乙53,54)が,C医師が本件研修の内容,期間等の詳細までを把握していたとは考えがたいから,控訴人が本件研修の内容,期間等の詳細を説明した上でC医師の見解を求めれば,異なる内容となったことも十分考えられるのであって,C が本件研修の内容,期間等の詳細までを把握していたとは考えがたいから,控訴人が本件研修の内容,期間等の詳細を説明した上でC医師の見解を求めれば,異なる内容となったことも十分考えられるのであって,C医師の回答も上記認定を覆すに足りないというべきである。控訴人は,C医師は守秘義務を負っているから,控訴人が同医師からBの診療,病状の経過等の情報を収集することはできない旨主張するが,Bが同意すればC医師の守秘義務は解除されるところ,Bが同意を拒否するとは考えがたいから,C医師が負う守秘義務は控訴人の上記義務違反の有無を判断する上で考慮する必要はない。 また,本件研修開始後については,K医師が東京研修が始まる1週間前の 平成14年5月13日にBと面談し,その際,同医師は,Bに対し,「体調が悪ければいつでも申し出て休むよう。東京出張に関して不安等があれば市立旭川病院の主治医であるC医師と相談して必要な診断書が出ればいつでも出張は回避できる。」旨話したが,一般的な内容に終始しており,Bの心臓の状況を適切に把握した上のものではなく,十分な指示であったとはいいがたいところである。また,東京研修の直前で,かつ札幌での研修中であったBが旭川のC医師に相談するのは必ずしも容易ではなかったと考えられる(ゴールデンウィーク期間中は有給休暇を取る者があることを前提にカリキュラムを組んでいた(乙13)から,この期間に有給休暇を取ることは容易だったと考えられ,現にBは同年4月30日から同年5月2日まで有給休暇を取って旭川市の自宅に帰宅している(乙13)が,Bに対し,その時に,あるいはそれ以外の時期に,有給休暇を取って,旭川のC医師に相談に行くことを求めることは酷というべきである。)。 控訴人は,労働者自身の健康管理義務を主張するが,本件研修が控訴人の構造改革に伴 に,あるいはそれ以外の時期に,有給休暇を取って,旭川のC医師に相談に行くことを求めることは酷というべきである。)。 控訴人は,労働者自身の健康管理義務を主張するが,本件研修が控訴人の構造改革に伴う雇用形態・処遇体系の選択に伴うものであって,Bが控訴人に対し本件研修への参加を見合わせることを要請することを期待できるような状況にあったとは考えにくいことを考慮すると,Bが本件研修への参加を見合わせることを申し入れなかったといった事情は,控訴人の注意義務違反を否定ないし軽減するものではない。 (4)前記(3)のとおり,控訴人の担当者はBを本件研修に参加させれば同人の生体リズム及び生活リズムに著しい変化を生じさせ,過度の精神的,身体的ストレスを与えることが十分予測できたというべきであり,また,C医師等からBの心臓の状況等について適切に情報を収集すれば,Bを本件研修に参加させることの危険性に気付くはずであったから,控訴人の担当者にはBが本件研修に参加したことにより死亡することの予見可能性があったことは明らかである。 (5)以上に認定,説示したところによれば,控訴人の担当者は,比較的安定していたBの生体リズム及び生活リズムに大きな変化を招来し,これをを壊しかねない本件研修への参加を止めさせるべきであったというべきであり,それにもかかわらずBを本件研修に参加させた控訴人の担当者には上記注意義務に違背した過失がある(なお,仮に参加させるにしても,一人部屋をあてがうなど十二分な配慮をする必要があったというべきである。)。よって,控訴人は,民法715条に基づき,Bが死亡したことにより,同人及びその相続人である被控訴人らが被った損害を賠償する責任がある。 争点(3)(損害)について控訴人の不法行為により,B及び被控訴人らには以下の限度で損害が に基づき,Bが死亡したことにより,同人及びその相続人である被控訴人らが被った損害を賠償する責任がある。 争点(3)(損害)について控訴人の不法行為により,B及び被控訴人らには以下の限度で損害が生じていると認められる。 (1)逸失利益3086万4211円(請求額3380万9160円)Bは,前記のとおり,死亡当時58歳であって,陳旧性心筋梗塞,家族性高コレステロール血症(ヘテロ型)の疾患を抱えてはいたものの,心筋梗塞発症後8年間は安定した状態で生活,稼働していたところ,証拠(甲9の1ないし12)によれば,Bは,平成13年1月から12月までの間(但し,2月及び7月を除く。)に,合計492万9881円の給与の支給を受けており,これから通勤費相当額を控除すると,合計485万5481円となるから(平均給与月額は48万5548円(小数点未満切捨て。以下同じ。)),これを年間収入に換算した582万6576円に特別手当て及び住宅補助費合計230万1777円を加算すると,Bの年間推計平均賃金合計額は812万8353円ということになる。 (計算式)(531402+484864+530942+491177+476565+476565+491177+512324+465606+469259-24800-24800-24800)÷10×12=5826576971200+266400+1064177=2301777 5826576+2301777=8128353以上によれば,Bは,少なくとも被控訴人らが本件で請求している620万3288万円の限度で年収があったものと推認するのが相当である。生活費控除割合については,Bが一家の支柱であったことから30パーセントとし,67歳までの9年間就労が可能であったと考えられるから,9年に相当する年5パーセントの割 たものと推認するのが相当である。生活費控除割合については,Bが一家の支柱であったことから30パーセントとし,67歳までの9年間就労が可能であったと考えられるから,9年に相当する年5パーセントの割合によるライプニッツ係数(7.1078)により中間利息を控除して逸失利益の現価を算出するのが相当である。 なお,被控訴人らは,中間利息の控除割合につき,年3パーセントの割合によるライプニッツ係数を用いるのが相当である旨主張するが,損害賠償請求訴訟の実務においては,将来の逸失利益の額を算定するに際して控除すべき中間利息の割合を民法所定の年5パーセント(民法404条)とする運用が定着しているところ,この民事法定利率は,法律の規定に基づいて発生する利息,当事者間に利率に関する合意のない場合の利息等について統一的に適用されるべき規定であって,将来の請求権の現価評価をするに際して,法定利息により中間利息が算定されることが法律上定められている例(破産法99条1項2号,民事再生法87条1項1号等)が存在することに照らすと,これらの諸規定と同様に,将来発生する権利利益の現在の価額を評価するに当たり,一律に民事法定利率によって中間利息を控除することが,法的安定性及び統一的処理の見地から合理性を有するというべきである。よって,被控訴人らの主張を採用することはできない。 そうすると,Bに生じた逸失利益の現価は,次の計算式のとおり,3086万4211円となる。 (計算式)6203288×(1-0.3)×7.1078=30864211(2)慰謝料2800万円(請求額3000万円)前記認定の控訴人の注意義務違反の内容,程度,Bの年齢,生活状況その 他本件に現れた一切の事情を考慮すると,本件によりBが被った精神的苦痛を慰謝するには,2800万円の支払をもってする 0万円)前記認定の控訴人の注意義務違反の内容,程度,Bの年齢,生活状況その 他本件に現れた一切の事情を考慮すると,本件によりBが被った精神的苦痛を慰謝するには,2800万円の支払をもってするのが相当である。 (3)被控訴人らによる相続以上によれば,本件によりBが被った損害の合計額は5886万4211円となるところ,被控訴人らは,Bの死亡により,同人の控訴人に対する損害賠償請求権をその相続分(各2分の1)に応じて相続したことになる。よって,被控訴人らは,相続によりBから承継した分として,控訴人に対し,それぞれ2943万2105円の損害賠償請求権を有する。 (4)葬儀費用合計141万9563円(請求額同額)弁論の全趣旨によれば,被控訴人らは,Bの葬儀費用として相当額を支出したものと認められるところ,このうち,本件と相当因果関係の範囲内にある葬儀費用としては,本件において被控訴人らが主張する141万9563円の限度であると解するのが相当というべきであり,弁論の全趣旨によれば,被控訴人らがこれを2分の1ずつ(各70万9781円)を負担したものと認められる。 (5)弁護士費用600万円(請求額652万円)弁論の全趣旨によれば,被控訴人らは,被控訴人ら訴訟代理人に本件訴訟の提起,遂行を委任し,相当額の費用及び報酬の支払を約束していることが認められるところ,本件事案の内容,難易度,主な争点,審理経過,認容額その他諸般の事情を総合考慮すると,本件と相当因果関係のある損害として控訴人に請求しうる弁護士費用の額は,(3)と(4)の合計額の約1割に相当する600万円と認めるのが相当であり,被控訴人らは,これを2分の1ずつ負担したものと認めるのが相当である。 争点(4)(過失相殺の可否)について控訴人は,Bは家族性高コレステロール血症( 相当する600万円と認めるのが相当であり,被控訴人らは,これを2分の1ずつ負担したものと認めるのが相当である。 争点(4)(過失相殺の可否)について控訴人は,Bは家族性高コレステロール血症(ヘテロ型)に罹患し,陳旧性心筋梗塞の状況になっていたことなどから,過失相殺に関する規定を類推適用 し,控訴人が賠償すべき額を減額すべき旨主張する。 しかし,本件記録によれば,控訴人は,原審において,裁判所からの求釈明に応じて過失相殺の主張をしない旨答えていたことが認められるところ,当審において,控訴人が上記主張をすることは著しく信義に反するものであり,また,第一審の軽視にもつながるものである。したがって,当裁判所は,訴訟上の信義則に反するものとして,控訴人が上記主張をすることを許さない。また,上記経緯に照らすと,控訴人の主張がないのに過失相殺規定の類推適用をすることも相当ではないと判断する。 なお,被控訴人らは,不法行為(民法715条の使用者責任)に基づく損害賠償請求をするとともに,選択的に債務不履行(安全配慮義務違反)に基づく損害賠償請求もしているところ,これまでに説示したところによれば,不法行為請求により原判決が認容した範囲で控訴人は損害賠償金の支払義務を負うから,被控訴人らが控訴ないし附帯控訴をしていない本件においては,債務不履行請求については判断するまでもない。 小括以上によれば,本件請求は,控訴人に対し,被控訴人らに対してそれぞれ3314万1886円及びこれに対する不法行為の日である平成14年6月9日から各支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから,その範囲で控訴人に支払を命じた原判決は相当である。 第4 結論 よって,本件控訴は理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決する 5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから、その範囲で控訴人に支払を命じた原判決は相当である。 第4 結論 よって、本件控訴は理由がないから棄却することとし、主文のとおり判決する。 札幌高等裁判所第3民事部裁判長裁判官伊藤紘基 裁判官北澤晶裁判官石橋俊一

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