平成13(ワ)737 損害賠償請求

裁判年月日・裁判所
平成14年11月26日 札幌地方裁判所
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判決文本文15,038 文字)

主文 1 被告らは,原告に対し,連帯して44万円及びこれに対する平成13年2月23日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 原告のその余の請求をいずれも棄却する。 3 訴訟費用はこれを6分し,その5を原告の,その余を被告らの各負担とする。 4 この判決は,1項に限り,仮に執行することができる。 事実 第1 当事者の求めた裁判 1 請求の趣旨(1) 被告らは,原告に対し,連帯して281万0571円及びこれに対する平成13年2月23日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 (2) 訴訟費用は被告らの負担とする(3) 仮執行宣言 2 被告らの答弁(1) 原告の請求をいずれも棄却する。 (2) 訴訟費用は原告の負担とする。 第2 当事者の主張 1 請求原因(1) 原告の負傷及び診療契約の締結ア原告は,平成3年10月15日,右手にグラスを持ったまま床に転倒したところ,そのグラスが割れて,右手に切創を負った(以下「本件負傷」という。)。 イ(ア) 被告Aは,医師であり,平成3年10月15日当時,札幌市中央区a条b丁目c番d号において,Cを開設していた。 (イ) 被告Aは,平成3年10月15日,原告との間で,原告の右手切創について適切な診療をする旨の診療契約を締結した。 ウ(ア) 被告Bは,平成3年10月16日当時,札幌市中央区e条f丁目g番地hにおいて,Dを開設していた。 (イ) 被告Bは,平成3年10月16日,原告との間で,原告の右手切創について適切な診療をする旨の診療契約を締結した。 (2) 被告らの開設する病院における診療経過ア原告は,平成3年10月15日,Cで受診し,同病院の医師Eは,原告の右手拇指の切創及び第3指の切創(厳密には,第3指から第4指にかけての切 結した。 (2) 被告らの開設する病院における診療経過ア原告は,平成3年10月15日,Cで受診し,同病院の医師Eは,原告の右手拇指の切創及び第3指の切創(厳密には,第3指から第4指にかけての切創であるが,以下,叙述の便宜上,「第3指」の切創という。)を縫合した。 イ(ア) 原告は,平成3年10月16日,Dで受診し,同病院の医師Fは,原告の右手切創の処置をした。 (イ) Dの医師は,同月22日,原告の右手第3指の縫合部位の全抜糸及び拇指の縫合部位の半抜糸をした。 (ウ) Dの医師は,同月25日,原告の右手拇指の縫合部位の全抜糸をした。 (3) その後の経緯ア(ア) 原告は,右手第2指に違和感や痛みがあったことから,平成12年11月13日,Gの開設する医院(以下「H」という。)で受診し,右手についてX線写真撮影を受け,これにより,右手第2指にガラス片様のものがあることが発見された。 (イ) 原告は,同月18日,Hの医師Iから,原告の右手第2指に異物(ガラス片)混入があり,同指深指屈筋腱癒着のため手術を要し,右手第2指関節拘縮のためリハビリ治療を要するとの診断を受け,Jの開設する病院(以下「K」という。)を紹介された。 イ原告は,平成12年12月1日,Kで受診し,同外科の医師Lから,原告の右手には,第2指UP関節部異物及び同指屈筋腱損傷があり,1日の入院手術及び3週間の通院加療を要するとの診断を受け,同月4日,同外科に入院し,手術を受けて右手第2指からガラス片を摘出し,その後同月12日まで,通院して治療を受けた。 (4) 責任原因ア原告の本件負傷の際,原告の右手第2指にガラス片が刺さり,これが皮下に入り込んだ。 イ被告Aの開設するCのE医師は,平成3年10月15日に原告を診療した際,原告の右手の切創が割れたグラスによるものであるこ 件負傷の際,原告の右手第2指にガラス片が刺さり,これが皮下に入り込んだ。 イ被告Aの開設するCのE医師は,平成3年10月15日に原告を診療した際,原告の右手の切創が割れたグラスによるものであること及び右手第2指に切創があることを認識していたのであるから,原告の右手についてX線写真撮影をすべき注意義務があった。 しかるに,E医師は,原告の右手についてX線写真撮影をせず,これによって,原告の右手第2指にガラス片があることを発見しなかった。 ウ被告Bの開設するDのF医師は,平成3年10月16日に原告を診療した際,原告の右手の切創が割れたグラスによるものであること,右手第2指に切創があること及び前医であるCにおいてX線写真撮影をしていないことを認識していたのであるから,原告の右手についてX線写真撮影をすべき注意義務があった。 しかるに,F医師は,原告の右手についてX線写真撮影をせず,これによって,原告の右手第2指にガラス片があることを発見しなかった。 エ E医師は被告Aの,F医師は被告Bの各履行補助者又は被用者であるから,被告らは,民法415条又は民法715条に基づき,上記医師らの注意義務違反行為(過失)によって原告が被った損害を賠償すべき義務を負う。 (5) 損害原告は,被告らの開設する病院の医師らの上記注意義務違反行為(過失)によって,本件負傷日である平成3年10月15日から約9年後の平成12年12月4日に右手第2指からガラス片を摘出する手術を受けることなどを余儀なくされ,これによって,次のとおりの損害を被った。 ア診療費 3万4085円原告は,右手第2指にガラス片があったことによる障害について,平成12年11月13日から同年12月12日までの間,H及びKに入院又は通院して診療を受け,その診療費として3万4085円の支 4085円原告は,右手第2指にガラス片があったことによる障害について,平成12年11月13日から同年12月12日までの間,H及びKに入院又は通院して診療を受け,その診療費として3万4085円の支出を余儀なくされた。 イ通院費 2980円原告は,平成12年12月4日,通院費として2980円を支出することを余儀なくされた。 ウ入院雑費 3000円原告は,平成12年12月4日から同月5日にかけて,円山整形外科に入院したところ,その2日間の入院雑費として,1日当たり1500円,2日間で3000円の支出を余儀なくされた。 エ休業損害 31万5000円原告は,平成12年12月4日から15日間,休業を余儀なくされ,その当時原告がしていた果物類の仕入れ及び配達の代行を第三者に依頼し,その費用として31万5000円の支出を余儀なくされた。 オ入通院慰謝料 20万0000円原告は,右手第2指のガラス片の摘出のため,平成12年12月1日から同月12日まで,Kに入通院することを余儀なくされたものであり,これによって被った原告の精神的な苦痛は,20万円をもって慰謝するのが相当である。 カ慰謝料 200万0000円原告は,9年間にわたり,利き手である右手第2指に苦痛を覚え,これを使用できないという不便を被ったばかりか,右手第2指に残存したガラス片の摘出手術を受けることを余儀なくされたものであるから,これによって被った原告の精神的な苦痛は,200万円をもって慰謝するのが相当である。 キ弁護士費用 25万5506円被告らが任意に損害を弁償しなかったため,原告は被告らに対して本訴を提起・追行することを弁護士に委任することを余儀なくされたところ,その弁護士費用は,上記アないしカの合計 25万5506円被告らが任意に損害を弁償しなかったため,原告は被告らに対して本訴を提起・追行することを弁護士に委任することを余儀なくされたところ,その弁護士費用は,上記アないしカの合計額である255万5065円の1割である25万5506円とするのが相当である。 ク合計 281万0571円(6) 支払催告原告は,平成13年2月22日配達の書面をもって,被告らに対し,上記損害金を支払うように催告した。 (7) 結びよって,原告は,被告らに対し,債務不履行又は不法行為による損害賠償請求権に基づき,損害金281万0571円及びこれに対する支払催告の日の翌日であり,不法行為以後の日である平成13年2月23日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金を連帯して支払うことを求める。 2 請求原因に対する被告Aの認否反論(1)ア請求原因(1)アの事実は知らない。 イ同イの事実は認める。 (2)ア同(2)アの事実は認める。 イ同イの事実は知らない。 (3) 同(3)の事実は知らない。 (4)ア同(4)アの事実は否認する。 原告が被告Aの開設するCで受診した際にも,また,原告が被告Bの開設するDで受診した際にも,原告の右手第2指に切創はなく,原告の右手第2指にあったガラス片は,本件負傷の際に刺さって皮下に入り込んだものではなく,その後の機会に刺さって入り込んだものである。 イ同イ及びエの主張は争う。 仮に,原告が被告Aの開設するCで受診した際に,原告の右手第2指にガラス片があったとしても,その存在を疑わせるような事情はなかったから,このような場合に,CのE医師にX線写真撮影をする注意義務はない。 ちなみに,異物の存在を疑わせるような事情がない場合にX線写真撮影をすることは,国民健康保険連合会における診療報酬 はなかったから,このような場合に,CのE医師にX線写真撮影をする注意義務はない。 ちなみに,異物の存在を疑わせるような事情がない場合にX線写真撮影をすることは,国民健康保険連合会における診療報酬の査定において,過剰診療と指摘されるものであって,E医師は,過剰診療と指摘されないようにX線写真撮影をしなかった。 (5) 同(5)の事実は否認する。 3 請求原因に対する被告Bの認否反論(1)ア請求原因(1)アの事実は知らない。 イ同ウの事実は認める。 ただし,原告と被告Bとの間の診療契約は,前医である被告Aの開設するCの医師がした縫合部位の抜糸を内容とするものである。 (2)ア同(2)アの事実は知らない。 イ同イの事実は認める。 (3) 同(3)の事実は知らない。 (4)ア同(4)アの事実は否認する。 原告が被告Aの開設するCで受診した際にも,また,原告が被告Bの開設するDで受診した際にも,原告の右手第2指に切創はなく,原告の右手第2指にあったガラス片は,本件負傷の際に刺さって皮下に入り込んだものではなく,その後の機会に刺さって入り込んだものである。 イ同ウ及びエの主張は争う。 仮に,原告が被告Bの開設するDで受診した際に,原告の右手第2指にガラス片があったとしても,原告と被告Bとの間の診療契約は,前医である被告Aの開設するCの医師がした縫合部位の抜糸を内容とするものであった上,原告は,DのF医師に対し,右手第2指について,何らかの症状(疼痛又は違和感)があることを訴えていなかったから,このような場合に,F医師にX線写真撮影をする注意義務はない。 (5) 同(5)の事実は否認する。 理由 1 請求原因(1)について(1) 請求原因(1)アの事実(原告の負傷)は,甲第12号証及び原告本人尋問 い。 (5) 同(5)の事実は否認する。 理由 1 請求原因(1)について(1) 請求原因(1)アの事実(原告の負傷)は,甲第12号証及び原告本人尋問の結果によって,これを認めることができる。 (2) 同イの事実(被告Aと原告との間の診療契約の締結)は,原告と被告Aとの間で,当事者間に争いがない。 (3) 同ウの事実(被告Bと原告との間の診療契約の締結)は,原告と被告Bとの間で,当事者間に争いがない。なお,被告Bと原告との間の診療契約の具体的な内容については争いがあるところ,この点については,責任原因の有無を判断する際に検討する。 2 請求原因(2)について(1) 請求原因(2)アの事実(被告Aの開設する病院における診療経過)は,原告と被告Aとの間で,当事者間に争いがなく,原告と被告Bとの間では,弁論の全趣旨によってこれを認めることができる。 (2) 同イの事実(被告Bの開設する病院における診療経過)は,原告と被告Bとの間で,当事者間に争いがなく,原告と被告Aとの間では,弁論の全趣旨によってこれを認めることができる。 3 請求原因(3)について請求原因(3)の事実(その後の経緯)は,甲第2,第3号証,第12号証,第13号証の1,2,第14ないし第26号証,乙ロ第4号証及び原告本人尋問の結果によって,これを認めることができる。 4 請求原因(4)について(1) 請求原因(4)アの事実(原告の本件負傷の際,原告の右手第2指にガラス片が入り込んだこと)についてア原告は,本件負傷の際,原告の右手第2指にガラス片が刺さり,これが皮下に入り込んだ旨主張し,被告らは,これを否認して,原告が被告Aの開設するCで受診した際にも,また,原告が被告Bの開設するDで受診した際にも,原告の右手第2指に切創はな にガラス片が刺さり,これが皮下に入り込んだ旨主張し,被告らは,これを否認して,原告が被告Aの開設するCで受診した際にも,また,原告が被告Bの開設するDで受診した際にも,原告の右手第2指に切創はなく,原告の右手第2指にあったガラス片は,本件負傷の際に刺さって皮下に入り込んだものではなく,その後の機会に刺さって入り込んだものである旨主張する。 イそこで検討するに,甲第12号証,第14,第15号証,第19号証,第24ないし第26号証,乙イ第1号証,乙ロ第2号証,第4,第5号証,証人Eの証言,原告本人尋問の結果によれば,次の事実が認められる。 (ア) 原告は,平成3年10月15日の午前中の深夜,グラス(以下「本件グラス」という。)を右手に持ったまま,床に転倒し,右手に体重がかかって本件グラスが割れ,右手に本件負傷をしたところ,本件グラスは,もともと,直径約7センチメートル,高さ約8センチメートルのクリスタル製のもので,下部は厚みがあるものの,上部は薄いもので,割れた際には,下部は原型をとどめたものの,上部は粉々に壊れた(原告本人調書1頁,2頁,39頁)。 (イ) 原告の右手からは相当な出血があり,原告は,同日,右手にタオルを巻いて,タクシーでCに赴き,E医師の診療を受けた(甲第12号証の2項,原告本人調書2頁)。 (ウ) F医師は,原告の右手のうち,拇指の下部及び第3指に切創を認め,10数針の縫合をしたが,原告の右手のうちの第2指には縫合をしなかった(乙イ第1号証)。 (エ) 原告は,同月16日,Dに赴き,F医師の診療を受けたが,その際,F医師は,原告の右手のうち,拇指の下部及び第3指に縫合部位を認めたが,原告から,右手第2指についての症状(疼痛又は違和感)がある旨の訴えを受けなかった(乙ロ第2号証,第5号証)。 (オ) 原告は,平成12 ,原告の右手のうち,拇指の下部及び第3指に縫合部位を認めたが,原告から,右手第2指についての症状(疼痛又は違和感)がある旨の訴えを受けなかった(乙ロ第2号証,第5号証)。 (オ) 原告は,平成12年11月10日までは,右手第2指にひどい痛みを覚えることはなかったが,同日,自動車を運転しようとしてハンドルを握った際に右手の内側に何かが刺さったような感じがしたことから,右手第2指の内側部分の付け根付近に堅いものがあり,そこに触れると鋭い痛みが走ることが分かり,そこで,同月13日,Hで受診し,右手についてX線写真撮影を受けた結果,右手第2指にガラス片様のものがあることが発見され,同年12月4日,Kでその摘出手術を受け,そのガラス片様のものが,幅約4mm,長さ約8mmのガラス片(以下「本件ガラス片」という。)であることが確認された(甲第12号証,第14,第15号証,第19号証,第24ないし第26号証,乙ロ第4号証)。 以上の事実が認められ,上記認定を左右するに足りる証拠はない。 ウ以上の事実によれば,① 原告は,床に転倒した際,右手に体重がかかって本件グラスが割れ,その割れた本件グラスの下部に右手が押しつけられることによって,右手拇指及び第3指に縫合を要する大きな切創を負い,② 原告の右手第2指には,本件グラスの上部の破片である本件ガラス片が刺さって入り込んだが,その切創は,少なくとも幅4mmはあるものの,右手拇指及び第3指の切創のように大きいものではなく,かつ,縫合を要する状態のものでもなく,③ また,本件ガラス片は,原告の右手第2指の神経に直接触れるものではなく,本件負傷直後はもちろんその後も,耐え難い痛みを伴うものではなく,④ このため,原告は,本件負傷直後は,右手拇指及び第3指の大きな切創及びその痛みから,右手第2指の切創及びその 触れるものではなく,本件負傷直後はもちろんその後も,耐え難い痛みを伴うものではなく,④ このため,原告は,本件負傷直後は,右手拇指及び第3指の大きな切創及びその痛みから,右手第2指の切創及びその痛みに大きな関心を払わず,E医師及びF医師に対しても,右手第2指の切創及び痛みについて訴えず,E医師及びF医師も,原告の右手第2指の切創について大きな関心を向けなかったとしても,不自然ではないものと認めることができる。 そして,原告が,本件負傷後に,右手第2指に,本件ガラス片が刺さって入り込むような受傷機会のあったことを認めるに足りる的確な証拠はない。 以上によれば,原告の本件負傷の際,原告の右手第2指に本件ガラス片が刺さり,これが皮下に入り込んだものと推認するのが相当である。 エなお,乙イ第1,第2号証及び乙ロ第2号証によれば,E医師が平成3年10月15日に原告を診療した際に作成したカルテには,原告の右手第2指に切創を認めた上,同切創部分に治療をした旨の記載がなく,また,F医師が同月16日に原告を診療した際に作成したカルテにも,同様に,その旨の記載がないことが認められるが,上記各カルテに上記の各記載がないことは,前記ウの認定と背反するものではなく,前記ウの認定を左右するに足りるものではない。 (2) 請求原因(4)イの主張(E医師の過失)についてア原告は,E医師が平成3年10月15日に原告を診療した際,原告の右手についてX線写真撮影をすべき注意義務があったのにこれをせず,原告の右手第2指にガラス片があることを発見しなかった過失がある旨主張し,被告Aは,これを争う。 イそこで,まず,事実関係について検討するに,甲第12号証,乙イ第1ないし第3号証,証人Eの証言,原告本人尋問の結果によれば,①原告は,平成3年10月15日の午前中の深夜,本 告Aは,これを争う。 イそこで,まず,事実関係について検討するに,甲第12号証,乙イ第1ないし第3号証,証人Eの証言,原告本人尋問の結果によれば,①原告は,平成3年10月15日の午前中の深夜,本件グラスを右手に持ったまま,床に転倒し,右手に体重がかかって本件グラスが割れ,右手に本件負傷をし,右手から相当な出血があったため,救急当番病院で受診することとし,新聞を見てその日の救急当番病院がCであることを確認し,タクシーでCに赴いたこと,②E医師は,同日午前4時40分ころ,原告を診察し,原告から受傷経緯を聞き,カルテに,「H3.10.15 4:30AM頃仕事中右拇指基底部と右ⅢとⅣ指の間をガラスで切った。」と記載したこと,③E医師は,原告の治療に当たって,まず,原告の右手全体を消毒液で消毒し,次に,原告の右手を清潔な布の上に置き,そこで,原告の右手拇指及び第3指に大きな切創があることを確認してその切創の縫合をしたこと,その縫合は,10数針に及んだこと,④ しかし,E医師は,原告の右手についてX線写真撮影をしなかったことが認められる。 ウ次に,医学的な知見について検討するに,甲第4号証(順天堂大学教授山内裕雄他1名の共訳に係るアメリカ手の外科学会編の「手の診察マニュアル」,昭和59年4月20日発行)によれば,手の切創の診察をする場合には,「正面,側面,斜位のX線写真を必ずとっておく。ガラス片は,X線に写り,みつかることがある。しかし,木片やプラスチックや,時にはガラスも写らないことがあるので注意を要する。」と記載されていることが認められ,また,証人Eの証言によれば,①骨折の疑いが強い場合,②交通外傷の場合,③道路上で起こった切り傷など異物が入った可能性がある場合には,X線写真撮影をすることが認められる(同証人調書6頁)。 エ以上に ,証人Eの証言によれば,①骨折の疑いが強い場合,②交通外傷の場合,③道路上で起こった切り傷など異物が入った可能性がある場合には,X線写真撮影をすることが認められる(同証人調書6頁)。 エ以上によれば,原告は,本件グラスが割れて右手に負傷したものであり,右手拇指及び第3指に10数針の縫合を要する大きな切創があったことが明らかであったところ,E医師は,原告からその受傷経緯を聞き,かつ,原告の右手のその負傷状態を見たのであるから,上記ウに掲記の文献の記載に照らしても,また,上記ウの証人Eの証言(とりわけ③の場合に関する証言)に照らしても,E医師は,原告の右手拇指及び第3指の大きな切創部分にガラス片が入り込んでいる可能性があるほか,それ以外の部分にも軽微な切創があってそこにガラス片が入り込んでいる可能性があることを考慮して,原告の右手についてX線写真撮影をする注意義務があったものと認めるのが相当である。 オそして,本件ガラス片が幅約4mm,長さ約8mmのものであることは,前記(1)イ(オ)で認定したとおりであるところ,甲第4号証,第15号証,第27号証,証人Eの証言によれば,E医師が平成3年10月15日に原告を診療した時点で原告の右手についてX線写真撮影をしていれば,原告の右手第2指の本件ガラス片を発見できたものと認められる。 そうすると,E医師には,原告主張のとおりの過失があったものと認めるのが相当である。 カなお,被告Aは,異物の存在を疑わせるような事情がない場合にX線写真撮影をすることは,国民健康保険連合会における診療報酬の査定において,過剰診療と指摘されるものであって,E医師は,過剰診療と指摘されないようにX線写真撮影をしなかった旨主張するが,前記認定の事実によれば,本件は,異物であるガラス片の存在を疑わせるような事情がある場 ,過剰診療と指摘されるものであって,E医師は,過剰診療と指摘されないようにX線写真撮影をしなかった旨主張するが,前記認定の事実によれば,本件は,異物であるガラス片の存在を疑わせるような事情がある場合に該当するものであるから,その主張は採用できない。 (3) 請求原因(4)ウの主張(F医師の過失)についてア原告は,F医師が平成3年10月16日に原告を診療した際,原告の右手についてX線写真撮影をすべき注意義務があったのにこれをせず,原告の右手第2指にガラス片があることを発見しなかった過失がある旨主張し,被告Bは,これを争い,原告と被告Bとの間の診療契約は,前医である被告Aの開設するCの医師がした縫合部位の抜糸を内容とするものであった上,原告は,DのF医師に対し,右手第2指について,何らかの症状(疼痛又は違和感)があることを訴えていなかったから,このような場合に,F医師にX線写真撮影をする注意義務はない旨主張する。 イそこで,まず,事実関係について検討するに,乙ロ第2号証,第5号証及び弁論の全趣旨によれば,①F医師は,平成3年10月16日,原告を診察し,原告の右手を観察して,カルテに,原告の右手の縫合部位が拇指及び第3指であることを絵に表示した上,原告から受傷経緯及び前医での治療経緯を聞いて,カルテに,「14日夜中,グラスで M(注記:Cの省略記載)にてNahtした(注記:縫合した)」と記載したこと,②そして,F医師は,原告の右手拇指及び第3指の縫合部位の消毒などの創部の処置をし,抗生剤及び伸縮包帯を処方し,縫合部位の抜糸のために約6日後に再度来院することを指示したこと,③しかし,F医師は,原告の右手についてX線写真撮影をしなかったこと,④原告は,その際,F医師に対し,右手第2指に症状(疼痛又は違和感)がある旨を訴えなかったことが認 度来院することを指示したこと,③しかし,F医師は,原告の右手についてX線写真撮影をしなかったこと,④原告は,その際,F医師に対し,右手第2指に症状(疼痛又は違和感)がある旨を訴えなかったことが認められ,上記認定を左右するに足りる証拠はない。 ウそこで,次に,原告と被告Bとの間の診療契約の内容について検討するに,被告Bは,その内容が,前医である被告Aの開設するCの医師がした縫合部位の抜糸を内容とするものであった旨主張する。 しかし,原告とF医師との間で,診療契約の内容を上記のようなものに限定する旨の合意が成立したことを認めるに足りる証拠はない。 むしろ,原告は平成3年10月15日の午前中の深夜に本件グラスが割れることによって本件負傷をしたこと,原告が同日午前4時40分ころ救急当番病院であるCで受診し,E医師によって原告の右手拇指及び第3指の縫合をしてもらったことは,前記認定のとおりであるところ,これに,上記イのカルテの記載を併せみると,原告は,同月16日,F医師に対し,原告の受傷経緯及び前医での治療経緯を述べるとともに,原告の右手の本件負傷について,前医での救急医療では対処できなかった事項を含めて,改めて適切な診療をすることを求めたものであり,F医師も,その原告の求めを承諾したものと認めるのが相当である。 エ以上の事実に加えて,前記認定の医学的な知見をも勘案すると,F医師は,既に縫合されている原告の右手拇指及び第3指の大きな切創部分にガラス片が入り込んでいる可能性があるほか,それ以外の部分にも軽微な切創があってそこにガラス片が入り込んでいる可能性があることを考慮して,前医において原告の右手についてX線写真撮影をしたことを確認した場合を除いては,そのX線写真撮影をする注意義務があったものと認めるのが相当である。すなわち,本件のような場 能性があることを考慮して,前医において原告の右手についてX線写真撮影をしたことを確認した場合を除いては,そのX線写真撮影をする注意義務があったものと認めるのが相当である。すなわち,本件のような場合に,後医であるF医師は,前医において原告の右手についてX線写真撮影をしたことを確認した場合には,念のため,改めてそのX線写真撮影をすることもでき(これによって,前医では発見できなかったガラス片を発見できることもある。),また,前医を信頼し,かつ,患者の負担を避けるため,改めてそのX線写真撮影をしなくてもよいが,前医においてそのX線写真撮影をしたことを確認しなかった場合には,そのX線写真撮影をする注意義務があるものと認めるのが相当である。 そして,本件全証拠によるも,F医師が前医においてそのX線写真撮影をしたことを確認したことはこれを認めるに足りないから(なお,E医師が原告の右手についてX線写真撮影をしていないことは,前記認定のとおりである。),F医師において,そのX線写真撮影をする注意義務があったことになる。 オ被告Bは,原告がF医師に対して原告の右手第2指について何らかの症状(疼痛又は違和感)があることを訴えていなかったから,このような場合に,F医師にX線写真撮影をする注意義務はない旨主張する。 確かに,原告がF医師に対して原告の右手第2指について何らかの症状(疼痛又は違和感)があることを訴えていなかったことは,前記イで認定したとおりである。 しかし,原告がF医師に対して原告の右手第2指について何らかの症状(疼痛又は違和感)があることを訴えていれば,F医師が原告の右手についてX線写真撮影をする注意義務があることはもちろんであるが,その訴えがなければ,そのX線写真撮影をする注意義務がないとされるものではなく,本件においては,その訴えの有 れば,F医師が原告の右手についてX線写真撮影をする注意義務があることはもちろんであるが,その訴えがなければ,そのX線写真撮影をする注意義務がないとされるものではなく,本件においては,その訴えの有無にかかわらず,F医師にそのX線写真撮影をする注意義務があったことは,前記エで説示したとおりである。 カそして,F医師が原告の右手についてX線写真撮影をしていれば,原告の右手第2指の本件ガラス片を発見できたことは,前記(2)オで説示したところから,これを認めることができる。 そうすると,F医師には,原告主張のとおりの過失があったものと認めるのが相当である。 (4) 請求原因(4)エの主張(被告らの責任)についてE医師は被告Aの,F医師は被告Bの各履行補助者又は被用者であることは,前記2の事実及び弁論の全趣旨によってこれを認めることができる。 そうすると,被告らは,民法415条又は民法715条に基づき,上記医師らの注意義務違反行為(過失)によって原告が被った損害を賠償すべき義務を負うことになる。 5 請求原因(5)について(1) 治療費,通院費,入院雑費,休業損害及び入通院慰謝料についてア原告は,被告らの開設する病院の医師らの前記注意義務違反行為(過失)によって,本件負傷日である平成3年10月15日から約9年後の平成12年12月4日に右手第2指から本件ガラス片を摘出する手術を受けることを余儀なくされ,これによって,治療費,通院費,入院雑費を支出し,休業による損害を被り,また,入通院によって精神的な苦痛を被った旨主張する。 イしかし,原告の右手第2指の本件ガラス片は,原告の本件負傷によって入り込んだものであって,被告らの開設する病院の医師らの行為によって入り込んだものではない(すなわち,本件は,医師が手術の際に,患者の体内に鉗子やガーゼを 指の本件ガラス片は,原告の本件負傷によって入り込んだものであって,被告らの開設する病院の医師らの行為によって入り込んだものではない(すなわち,本件は,医師が手術の際に,患者の体内に鉗子やガーゼを残置したようなケースではない。)。そして,被告らの開設する病院の医師であるE医師及びF医師が,平成3年10月15日又は同月16日に,原告の右手についてX線写真撮影をして右手第2指に本件ガラス片のあることを発見していたとしても,原告の右手第2指から本件ガラス片を摘出する手術をすることになるであろうことには何らの変わりがない。そうすると,被告らの開設する病院の医師らが原告の右手についてX線写真撮影をして右手第2指に本件ガラス片のあることを発見しなかったことによって,原告が,右手第2指から本件ガラス片を摘出する手術をすることを余儀なくされたとはいえない。 ウそして,被告らの開設する病院の医師であるE医師及びF医師が,平成3年10月15日又は同月16日に,原告の右手についてX線写真撮影をして右手第2指に本件ガラス片のあることを発見し,原告がその後間もなく原告の右手第2指から本件ガラス片を摘出する手術を受けていたとすれば,原告が平成12年12月4日に右手第2指から本件ガラス片を摘出する手術を受けることによって発生した治療費,通院費,入院雑費の支出,休業による損害及び入通院による精神的な苦痛が,より少なくなり得るとしても,そのより少なくなる程度及び金額について,これを認めるに足りる的確な証拠はない。 すなわち,甲第19号証,第21,第22号証,第24,第25号証及び弁論の全趣旨によれば,原告は,平成12年12月4日,Kにおいて,右手第2指にあった本件ガラス片の摘出手術を受けたが,その手術は,L医師が執刀を担当し,N医師が助手をし(甲第19号証),3人 証及び弁論の全趣旨によれば,原告は,平成12年12月4日,Kにおいて,右手第2指にあった本件ガラス片の摘出手術を受けたが,その手術は,L医師が執刀を担当し,N医師が助手をし(甲第19号証),3人の介助者と1人の記録者が立ち会い(甲第22号証),事前投薬をした上,局所麻酔をし,血圧の推移を観察しながら,皮膚を切開し,屈筋腱の様子を確認しつつ,本件ガラス片を摘出したというもの(甲第21,第22号証,第24,第25号証)であったことが認められるところ,このような手術の実態に照らすと,仮に,E医師が平成3年10月15日午前4時40分に原告を診療した際に原告の右手についてX線写真撮影をして右手第2指に本件ガラス片のあることを発見したとしても,本件ガラス片の摘出手術は,原告の右手第2指の神経や屈筋腱を損傷しないように留意しながら行うことが要請されるものであって,E医師において直ちに実行できるものではなく,また,原告がその当時右手第2指について疼痛や違和感を訴えていなかったことも併せ考えると,本件ガラス片の摘出手術は,待機手術となる可能性が高かったものと推認される。そして,E医師が平成3年10月15日午前4時40分に原告を診療した際に原告の右手についてX線写真撮影をして右手第2指に本件ガラス片のあることを発見し,その後間もなくその摘出手術がされたとしても,その摘出手術が,原告が平成12年12月4日に受けたその摘出手術と比べてどの程度軽くなるものであるかについて,本件全証拠によっても,これを的確に確定することができない。以上のことは,F医師についても,同様である。 エ以上によれば,原告の主張する治療費,通院費,入院雑費,休業損害及び入通院慰謝料は,被告らの開設する病院の医師らの前記注意義務違反行為(過失)と相当因果関係のある損害であるとは,直 同様である。 エ以上によれば,原告の主張する治療費,通院費,入院雑費,休業損害及び入通院慰謝料は,被告らの開設する病院の医師らの前記注意義務違反行為(過失)と相当因果関係のある損害であるとは,直ちに認めることができない。 (2) 慰謝料について甲第12号証,原告本人尋問の結果によれば,原告は,被告らの開設する病院の医師らが原告の右手についてX線写真撮影をして右手第2指に本件ガラス片のあることを発見しなかったことによって,本件負傷をした平成3年10月から本件ガラス片を摘出した平成12年12月までの約9年間にわたり,利き手である右手第2指にときおり電気が走るような苦痛を覚え,右手第2指を十分に使用できないという不便を被ったことが認められる。 しかし,甲第12号証によれば,原告は,平成3年10月25日にDで受診して,右手拇指及び第3指の抜糸がすべて終了した際,Dの医師から,「今後何かあったらまた来てください。」と言われていたことも認められる(甲第12号証3頁)。 以上の事実に加えて,本件に顕れた諸般の事情を斟酌すると,原告が右手第2指について上記のような期間にわたって上記のような苦痛を覚え,また,十分に使用できないという不便を被ったことによって受けた原告の精神的な苦痛は,40万円をもって慰謝するのが相当と認める。 (3) 弁護士費用について弁論の全趣旨によれば,被告らが任意に損害を弁償しなかったため,原告は被告らに対して本訴を提起・追行することを弁護士に委任することを余儀なくされたことが認められるところ,本件の事案の内容,審理経過,認容額などにかんがみると,本件と相当因果関係のある弁護士費用は,4万円と認めるのが相当である。 6 請求原因(6)について請求原因(6)の事実(支払催告)は,甲第10,第11号証によって,これを認めるこ どにかんがみると,本件と相当因果関係のある弁護士費用は,4万円と認めるのが相当である。 6 請求原因(6)について請求原因(6)の事実(支払催告)は,甲第10,第11号証によって,これを認めることができる。 7 結論以上によれば,原告の被告らに対する本訴請求は,債務不履行による損害賠償請求権に基づき,損害金44万円及びこれに対する請求の日の翌日である平成13年2月23日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金を連帯して支払うことを求める限度で理由があるからこれを認容し,その余は失当であるからこれを棄却し,訴訟費用の負担について民事訴訟法61条,64条本文,65条1項本文を,仮執行の宣言について同法259条1項をそれぞれ適用して,主文のとおり判決する。 札幌地方裁判所民事第2部裁判長裁判官橋本昇二裁判官岩松浩之裁判官石川真紀子

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