平成28年12月2日判決言渡同日原本領収裁判所書記官平成27年(ワ)第28699号特許権侵害差止請求事件(甲事件)同年(ワ)第28848号特許権侵害差止請求事件(乙事件)同年(ワ)第29004号特許権侵害差止請求事件(丙事件)口頭弁論終結日平成28年10月19日判決甲,乙及び丙事件原告デビオファーム・インターナショナル・エス・アー(以下「原告」という。)同訴訟代理人弁護士大野聖二同大野浩之同木村広行甲事件被告第一三共エスファ株式会社(以下「被告第一三共」という。)乙事件被告富士フイルムファーマ株式会社(以下「被告富士フイルム」という。)丙事件被告ニプロ株式会社(以下「被告ニプロ」といい,被告第一三共,被告富士フイルム及び被告ニプロを併せて「被告ら」という。)上記3名訴訟代理人弁護士吉澤敬夫同 川田篤同訴訟代理人弁理士紺野昭男同 井波実同補佐人弁理士伊藤武泰 主文 1 原告の請求をいずれも棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 3 この判決に対する控訴のための付加期間を30日と定める。 事実及び理由 第1 請求 1 被告第一三共は,別紙被告第一三共製品目録記載の各製剤について,生産,譲渡,輸入又は譲渡の申出をしてはならない。 2 被告第一三共は,別紙被告第一三共製品目録記載の各製剤を廃 由第1 請求 1 被告第一三共は,別紙被告第一三共製品目録記載の各製剤について,生産,譲渡,輸入又は譲渡の申出をしてはならない。 2 被告第一三共は,別紙被告第一三共製品目録記載の各製剤を廃棄せよ。 3 被告富士フイルムは,別紙被告富士フイルム製品目録記載の各製剤について,生産,譲渡,輸入又は譲渡の申出をしてはならない。 4 被告富士フイルムは,別紙被告富士フイルム製品目録記載の各製剤を廃棄せよ。 5 被告ニプロは,別紙被告ニプロ製品目録記載の各製剤について,生産,譲渡,輸入又は譲渡の申出をしてはならない。 6 被告ニプロは,別紙被告ニプロ製品目録記載の各製剤を廃棄せよ。 7 訴訟費用は,それぞれ被告らの負担とする。 8 仮執行宣言第2 事案の概要 1 本件は,発明の名称を「オキサリプラチン溶液組成物ならびにその製造方法及び使用」とする特許(第4430229号)を有する原告が,被告らがそれぞれ製造・輸入・販売等する別紙被告第一三共製品目録,被告富士フイルム製品目録及び被告ニプロ製品目録記載の各製剤が,上記特許の特許請求の範囲請求項1及び請求項2記載にかかる発明の技術的範囲に属すると主張して,被告らに対し,上記各製品の製造等の差止及び廃棄を求める事案である。 2 前提事実(当事者間に争いのない事実又は文中掲記した証拠及び弁論の全趣旨により容易に認定できる事実)(1) 当事者ア原告 原告は,医薬品等の製造,販売及び輸出等を業とし,スイス法に準拠して設立された法人である。 イ被告被告らは,それぞれ,医薬品等の製造,販売,輸入等を業とする株式会社である。 (2) 原告の有する特許権原告は,以下の特許権(請求項の数17。以下「本件特許権」又は「本件特許」といい,特許請求の範囲請求項 れ,医薬品等の製造,販売,輸入等を業とする株式会社である。 (2) 原告の有する特許権原告は,以下の特許権(請求項の数17。以下「本件特許権」又は「本件特許」といい,特許請求の範囲請求項1にかかる発明を「本件発明1」,同請求項2にかかる発明を「本件発明2」といい,両発明を併せて「本件各発明」という。また,本件特許に係る明細書〔甲2〕を「本件明細書」という。 なお,本件特許の特許公報を末尾に添付する。)の特許権者である。本件特許の出願人は訴外サノフィ-アベンティスであり,原告は,登録後に,出願人から特許権の移転を受けた。(甲1,2)発明の名称オキサリプラチン溶液組成物ならびにその製造方法及び使用特許番号特許第4430229号出願日平成11年2月25日優先日平成10年2月25日(優先権主張国英国/優先権主張番号9804013.2)(3) 本件特許の特許請求の範囲本件特許の特許請求の範囲請求項1及び2には次のとおり記載されている。 ア請求項1「オキサリプラチン,有効安定化量の緩衝剤および製薬上許容可能な担体を包含する安定オキサリプラチン溶液組成物であって,製薬上許容可能な担体が水であり,緩衝剤がシュウ酸またはそのアルカリ金属塩であり,緩衝剤の量が,以下の: (a)5x10-5M ~1x10-2M ,(b)5x10-5M ~5x10-3M ,(c)5x10-5M ~2x10-3M ,(d)1x10-4M ~2x10-3M ,または(e)1x10-4M ~5x10-4Mの範囲のモル濃度である,組成物。」イ請求項2「緩衝剤がシュウ酸またはシュウ酸ナトリウムである請求項1の組成物。」(4) 本件発明1及び本件発明 (e)1x10-4M ~5x10-4Mの範囲のモル濃度である,組成物。」イ請求項2「緩衝剤がシュウ酸またはシュウ酸ナトリウムである請求項1の組成物。」(4) 本件発明1及び本件発明2の構成要件ア本件発明1を構成要件に分説すると,次のとおりである。 A オキサリプラチン,B 有効安定化量の緩衝剤およびC 製薬上許容可能な担体を包含するD 安定オキサリプラチン溶液組成物であって,E 製薬上許容可能な担体が水であり,F 緩衝剤がシュウ酸またはそのアルカリ金属塩であり,G 緩衝剤の量が,以下の:(a)5x10-5M ~1x10-2M ,(b)5x10-5M ~5x10-3M ,(c)5x10-5M ~2x10-3M ,(d)1x10-4M ~2x10-3M ,または(e)1x10-4M ~5x10-4Mの範囲のモル濃度である,組成物。 イ本件発明2を構成要件に分説すると,次のとおりである。 J 緩衝剤がシュウ酸またはシュウ酸ナトリウムであるK 請求項1の組成物。 (5) 本件特許に関する特許無効審判請求及び訂正請求ア訴外ホスピーラ・ジャパン株式会社(以下「ホスピーラ」という。)は,特許庁に対し,本件特許が無効であると主張して,特許無効審判請求をした(無効2014-800121号事件)。 イ原告は,上記無効審判において,本件特許の特許請求の範囲請求項1について訂正請求をした(以下,同訂正請求による訂正を「本件訂正」という。)。 ウ特許庁は,平成27年7月14日,本件訂正を認めた上で,本件訂正後の特許請求の範囲請求項1に記載の発明(以下「本件訂正発明1」という。)に無効理由がない旨の審決(以下「本件審決」という。)をした。(甲 許庁は,平成27年7月14日,本件訂正を認めた上で,本件訂正後の特許請求の範囲請求項1に記載の発明(以下「本件訂正発明1」という。)に無効理由がない旨の審決(以下「本件審決」という。)をした。(甲8)エホスピーラは,同月24日,上記ウの審決に対し,知的財産高等裁判所へ審決取消訴訟を提起した。(甲9)(6) 本件訂正後の特許請求の範囲本件訂正後の特許請求の範囲請求項1は次のとおりである。(本件訂正による訂正部分を下線で示す。)「オキサリプラチン,有効安定化量の緩衝剤および製薬上許容可能な担体を包含する安定オキサリプラチン溶液組成物であって,製薬上許容可能な担体が水であり,緩衝剤がシュウ酸またはそのアルカリ金属塩であり,1)緩衝剤の量が,以下の:(a)5x10-5M ~1x10-2M ,(b)5x10-5M ~5x10-3M ,(c)5x10-5M ~2x10-3M ,(d)1x10-4M ~2x10-3M ,または(e)1x10-4M ~5x10-4Mの範囲のモル濃度である,pHが3~4.5の範囲の組成物,あるいは2)緩衝剤の量が,5x10-5M ~1x10-4M の範囲のモル濃度である,組成物。」 (7) 本件訂正発明1の構成要件本件訂正発明1を構成要件に分説すると,次のとおりである(本件訂正による訂正部分を下線で示す。)。 A オキサリプラチン,B 有効安定化量の緩衝剤およびC 製薬上許容可能な担体を包含するD 安定オキサリプラチン溶液組成物であって,E 製薬上許容可能な担体が水であり,F 緩衝剤がシュウ酸またはそのアルカリ金属塩であり,G 1)緩衝剤の量が,以下の:(a)5x10-5M ~1x10-2M ,(b)5x10-5M ~5x10-3M , 体が水であり,F 緩衝剤がシュウ酸またはそのアルカリ金属塩であり,G 1)緩衝剤の量が,以下の:(a)5x10-5M ~1x10-2M ,(b)5x10-5M ~5x10-3M ,(c)5x10-5M ~2x10-3M ,(d)1x10-4M ~2x10-3M ,または(e)1x10-4M ~5x10-4Mの範囲のモル濃度である,H pHが3~4.5の範囲の組成物,あるいはI 2)緩衝剤の量が,5x10-5M ~1x10-4M の範囲のモル濃度である,組成物。 (8) 被告らの各製品ア被告ニプロは,別紙被告第一三共製品目録,被告富士フイルム製品目録及び被告ニプロ製品目録記載の各製品の元となる製剤を製造し,これを被告第一三共及び被告富士フイルムに譲渡するとともに,自ら上記製剤を別紙被告ニプロ製品目録記載の各製品(以下「被告ニプロ製品」という。)として販売し,他方,被告第一三共は上記製剤を別紙被告第一三共製品目録記載の各製品(以下「被告第一三共製品」という。)として,被告富士 フイルムは上記製剤を別紙被告富士フイルム製品目録記載の各製品(以下「被告富士フイルム製品」といい,被告ニプロ製品及び被告第一三共製品と併せて「被告各製品」という。)として,それぞれ販売している。 イ被告各製品は,構成要件A,C,E及びHを充足する。 被告各製品は,オキサリプラチン,水及びリン酸を用いて製造されており,添加物として「リン酸」を含んでいる。被告各製品中には,オキサリプラチンが分解して溶液中に生じるシュウ酸(以下「解離シュウ酸」という。)が含まれているが,シュウ酸が別途に添加されてはいない。(甲5,10,13)(9) 本件特許の優先日前の先行文献の存在本件特許の優先日(平成10年2月25日)の 下「解離シュウ酸」という。)が含まれているが,シュウ酸が別途に添加されてはいない。(甲5,10,13)(9) 本件特許の優先日前の先行文献の存在本件特許の優先日(平成10年2月25日)の前には,以下の先行文献が存在する。 ア平成8年(1996年)2月22日に国際公開された国際公開第96/04904号公報(乙1の1。以下,同公報を「乙1公報」といい,同公報に記載された発明を「乙1発明」という。)。 イ平成6年(1994年)8月2日に公開された公開特許公報(特開平6-211883。乙9。以下,同公報を「乙9公報」といい,同公報に記載された発明を「乙9発明」という。)。 3 争点(1) 被告各製品は本件発明1の技術的範囲に属するかア構成要件B,F及びGの「緩衝剤」の充足性イ構成要件B及びDの「安定」の充足性ウ構成要件Gの「モル濃度」の充足性(2) 本件特許は特許無効審判により無効にされるべきものかア乙1発明による新規性欠如イ乙1発明による進歩性欠如 ウ乙9発明による新規性又は進歩性欠如エ記載要件違反の有無(3) 訂正の対抗主張の成否ア本件訂正により無効理由が解消するかイ pHの調整に関する実施可能要件違反の有無(4) 本件発明2に基づく請求の可否ア被告各製品は本件発明2の技術的範囲に属するかイ無効理由の有無ウ訂正の対抗主張の成否第3 争点に関する当事者の主張 1 争点(1)ア(構成要件B,F及びGの「緩衝剤」の充足性)について〔原告の主張〕(1) 本件発明1の「緩衝剤」には「シュウ酸」が含まれているところ,被告各製品は,5.0ないし5.5×10-5Mの有効安定化量のシュウ酸を包含しているから,構成要件B,F及びGの「緩衝剤」を充 (1) 本件発明1の「緩衝剤」には「シュウ酸」が含まれているところ,被告各製品は,5.0ないし5.5×10-5Mの有効安定化量のシュウ酸を包含しているから,構成要件B,F及びGの「緩衝剤」を充足する。 (2) 被告らの主張に対する反論この点に関して被告らは,本件発明1の「シュウ酸」は,オキサリプラチン溶液に更に緩衝剤として添加するシュウ酸(以下「添加シュウ酸」ということがある。)を意味するところ,オキサリプラチンを水に溶かした際に発生する解離シュウ酸は,「緩衝剤」に該当しない旨主張する。 しかし,以下の通り,被告らの上記主張は失当である。 ア特許発明の技術的範囲は,特許請求の範囲の記載に基づいて定められる(特許法70条1項)。 そして,本件特許の特許請求の範囲請求項1には,「オキサリプラチン,有効安定化量の緩衝剤および製薬上許容可能な担体を包含する安定オキサリプラチン溶液組成物であって,」及び「緩衝剤の量が,以下の:」と記 載されている。ここで,「包含」とは,文言上,「つつみこみ,中に含んでいること」を意味するから,本件発明1の「緩衝剤の量」が「オキサリプラチン溶液組成物に現に含まれる全ての緩衝剤の量」を意味することは明らかである。 この点に関しては,本件特許に関する本件審決(甲8・10頁)も,「当業者はこの『緩衝剤の量』を『オキサリプラチン溶液組成物に現に含まれる全ての緩衝剤の量』と理解すると認められる。」と判断している。 イ被告らは,特許請求の範囲請求項12に記載の発明を指摘して,本件発明1は緩衝剤を入れた混合液を調製し,その後でオキサリプラチンを溶解するものであると主張する。 しかし,本件明細書には,緩衝剤を存在させる技術的思想とともに,緩衝剤を添加させる技術的思想も記載されており,請 剤を入れた混合液を調製し,その後でオキサリプラチンを溶解するものであると主張する。 しかし,本件明細書には,緩衝剤を存在させる技術的思想とともに,緩衝剤を添加させる技術的思想も記載されており,請求項12は後者の技術的意義を優先して特許発明を特定したというにすぎない。 そもそも,本件発明1は「緩衝剤・・・を包含する」と特定されているのに対し,請求項12では「緩衝剤を混合し」と特定されており,異なる文言が用いられていることからも,本件発明1では,「緩衝剤」が添加シュウ酸に限られない技術的思想を採用していることが明らかである。 ウ次に,本件明細書の記載を斟酌すると,「緩衝剤は,有効安定化量で本発明の組成物中に存在する。緩衝剤は,約5x10-5M ~約1x10-2M の範囲のモル濃度で,好ましくは約5x10-5M ~5x10-3M の範囲のモル濃度で,さらに好ましくは約5x10-5M ~約2x10-3M の範囲のモル濃度で,最も好ましくは約1x10-4M ~約2x10-3M の範囲のモル濃度で,特に約1x10-4M ~約5x10-4Mの範囲のモル濃度で,特に約2x10-4M ~約4x10-4M の範囲のモル濃度で存在するのが便利である。」(段落【0023】。下線は原告による。)と記載されており,「緩衝剤」は,添加されるか否かではなく,存在するか否かによって検討されるべきことが明らかであり,本件発明1における「緩 衝剤」は,解離シュウ酸であるか添加シュウ酸であるかにかかわらず,現に含まれるシュウ酸であれば足りる。 エさらに,本件明細書には,シュウ酸を添加していない実施例18(b)が記載されており,「緩衝剤」が添加シュウ酸に限られないことが明白である。そして,実施例18(b)の実験結果(【表14】)は,微量なシュウ ,本件明細書には,シュウ酸を添加していない実施例18(b)が記載されており,「緩衝剤」が添加シュウ酸に限られないことが明白である。そして,実施例18(b)の実験結果(【表14】)は,微量なシュウ酸を付加した実施例1及び8の実験結果(【表8】【表9】)と,大きな差がなく,同等の安定性を示している。 そして,オキサリプラチンの分解で生じるシュウ酸の量を,本件明細書の実施例1,8及び18(b)に記載された溶液中のジアクオDACHプラチン及びジアクオDACHプラチン二量体の量から推計すると次の〔表A〕のとおりとなるが,この表におけるオキサリプラチン溶液組成物中の(解離シュウ酸及び添加シュウ酸を問わない)シュウ酸濃度(下表の(C)+(D)の合計値)には大きな差がなく,添加シュウ酸ではなく,解離シュウ酸が支配的な働きをしていることが確認できる。 〔表A〕 ジアクオDACHプラチン(A)ジアクオDACHプラチン二量体(B)(A)及び(B)量から予想されるシュウ酸量(分解量)(C)付加されたシュウ酸量(D)(C)+(D)の合計値不純物総量(%w/w)実施例1(1ヶ月)3.0×10-51.2×10-55.3×10-51×10-56.3×10-50.49実施例8(1ヶ月)3.9×10-51.5×10-56.8×10-51×10-57.8×10-50.50実施例18(b)(1ヶ月)3.3×10-51.2×10-55.8×10-5 5.8×10-50.53この点に関して被告らは,実施例18は,公知技術による組成物であり,比較例であることは明白であると主張しているが,改良発明等に鑑み 10-55.8×10-5 5.8×10-50.53この点に関して被告らは,実施例18は,公知技術による組成物であり,比較例であることは明白であると主張しているが,改良発明等に鑑みれば公知技術の実施であっても実施例になり得るから,上記被告らの主張は失当である。 本件明細書には,「比較例18の安定性」(段落【0073】)との記載及び「比較のために」(段落【0050】)との記載があるが,前者は,「実施例18(b)」の安定性試験の結果と,実施例18(a)と同様の方法で調製したものの安定性試験の結果の両者を比較していることを意味するにすぎず(段落【0074】ないし【0076】),後者は,文字通り,シュウ酸又はそのアルカリ金属塩を添加していない実施例を比較のために挙げるということを意味するにすぎず,いずれも,実施例18が「比較例」であることを意味しない。 オ被告らは,解離シュウ酸は不純物として生成するものであり,「緩衝剤」 には該当しない旨主張する。 確かに,乙1発明に係る特許の出願当時においては,シュウ酸は不純物として認識されていた。しかし,本件発明1は,従来不純物として認識されていたシュウ酸を,敢えてオキサリプラチン水溶液中に一定量「存在」させることで,不純物の発生を抑制するというものであるから,被告らの上記主張は失当である。 また,被告らの主張は,溶液中の添加シュウ酸と解離シュウ酸を区別できることを前提としているところ,両者はいずれもシュウ酸であり,水溶液中において区別することはできないから,上記主張は当業者の理解としてあり得ない。 カところで,本件明細書の段落【0031】に「オキサリプラチンの従来既知の水性組成物よりも製造工程中に安定であることが判明しており」という記 から,上記主張は当業者の理解としてあり得ない。 カところで,本件明細書の段落【0031】に「オキサリプラチンの従来既知の水性組成物よりも製造工程中に安定であることが判明しており」という記載があるが,同記載は,本件発明1の溶液組成物が,乙1発明の溶液組成物よりも安定であることを意味するものではない。 すなわち,本件明細書の段落【0030】ないし【0032】は,段落【0012】(2段落目)ないし【0016】に対応した記載がされており,上記段落【0031】の記載は,段落【0013】(3段落)ないし【0016】(1行目)の記載に対応している。そして,段落【0013】(3段落)ないし【0016】(1行目)には,凍結乾燥物を利用する際の課題が記載され,これを解決するために,安定な溶液組成物の開発が望ましいと記載されている。 したがって,これに対応する段落【0031】における上記記載は,凍結乾燥物であるオキサリプラチンを水に溶かして再構築した水性組成物を意味している。 キそして,本件明細書(段落【0022】)では「例えばジアクオDACHプラチンおよびジアクオDACHプラチン二量体の生成を防止するかま たは遅延させ得るあらゆる酸性または塩基性剤を意味する」とされているところ,前記エのとおり,実施例1,実施例8及び実施例18(b)では,解離シュウ酸が支配的な働きをしており,解離シュウ酸が存在することにより,ジアクオDACHプラチン等の不純物の生成を「防止又は遅延」させている。 したがって,解離シュウ酸は「緩衝剤」に該当する。 クまた,被告らは,本件明細書の実施例では,付加されたシュウ酸についての記載がある旨指摘して,解離シュウ酸は「緩衝剤」に含まれないかのような主張をしている。 しかし,原告は添加シュウ 。 クまた,被告らは,本件明細書の実施例では,付加されたシュウ酸についての記載がある旨指摘して,解離シュウ酸は「緩衝剤」に含まれないかのような主張をしている。 しかし,原告は添加シュウ酸が緩衝剤から排除されると主張しているものではない。また,本件明細書には,シュウ酸が付加されていない実施例として,実施例18(b)が記載されている。さらに,本件明細書に示された付加されたシュウ酸の量は,オキサリプラチン溶液組成物の調製時における「オキサリプラチン溶液組成物に現に含まれる全ての緩衝剤の量」である。 そして,本件明細書をみると,実施例1及び8では,1×10-5Mのシュウ酸ナトリウム又はシュウ酸を添加することが開示されているのに対して,構成要件Gにおいては,緩衝剤の量は5×10-5Mが下限である。実施例における下限値と構成要件Gの下限値には差が存在しており,このことは実施例1及び8において,1×10-5Mのシュウ酸ナトリウム又はシュウ酸を添加した場合,5×10-5Mを上回る程度のシュウ酸がオキサリプラチン溶液組成物中に存在するということを意味する。したがって,本件明細書には,解離シュウ酸の存在を考慮した記載が存在している。 ケ被告らは,米国公開特許公報US2004/0186172A1に係る米国特許出願(乙5の2)に関する意見書における,本件特許に対応する米国特許(米国特許US6,306,902。乙5の1。以下「アンダー ソン特許」という。)に関する原告の言及を指摘しているが,アンダーソン特許と本件特許は別個独立した出願にかかる特許であり,アンダーソン特許に関する言及が,本件特許の技術的範囲の解釈に影響を及ぼすことはない。そもそも,特許権については属地主義の原則が採用され,米国における手続きが,日本における技 願にかかる特許であり,アンダーソン特許に関する言及が,本件特許の技術的範囲の解釈に影響を及ぼすことはない。そもそも,特許権については属地主義の原則が採用され,米国における手続きが,日本における技術的範囲の解釈に影響を及ぼすことは法的にあり得ない。 また,本件では,日本国における審査手続において,意見書等による限定がされ,これによって特許査定がされたという事情もないから,禁反言の法理が適用される余地もない。 なお,原告は,米国公開特許公報US2004/0186172A1に係る米国特許出願を放棄した(甲17)。 〔被告らの主張〕(1) 本件発明1は,オキサリプラチン溶液に緩衝剤としてシュウ酸を添加するものであるが,被告各製品は,「緩衝剤」として「シュウ酸」を添加していないから,構成要件B,F及びGを充足しない。 (2) 本件発明1に係る組成物は,例えば本件特許の特許請求の範囲請求項12記載の方法により製造されるが,同方法では,緩衝剤の混合物を調製し,その後,オキサリプラチンを混合物に溶解するという順序となっている。この順序を逆にして,オキサリプラチンを溶解してから,緩衝剤を溶解したのでは,緩衝剤を付加する前に水溶液中でオキサリプラチンが不必要に分解されてしまう。それでは,「不純物を全く生成しないか,あるいはこれまでに知られているより有意に少ない量でこのような不純物を生成するオキサリプラチンのより安定な溶液組成物を開発する」という本件発明1の課題の解決に反する。 また,本件明細書に記載された実施例のうち,実施例18を除くいずれの実施例においても,緩衝剤を注射用水に溶解してから,オキサリプラチンを 溶解している。 このように,本件発明1に係る組成物の製造方法との関係も踏まえると,本件発明2の技術的特徴は,あらかじ においても,緩衝剤を注射用水に溶解してから,オキサリプラチンを 溶解している。 このように,本件発明1に係る組成物の製造方法との関係も踏まえると,本件発明2の技術的特徴は,あらかじめ「緩衝剤」としての十分な量のシュウ酸を溶解した混合水溶液を調製しておき,それからオキサリプラチンを溶解することにあり,このような組成物により初めて毒性に懸念のある不純物の生成を可能な限り抑制するという本件発明1の課題を解決することができる。 (3) 次に本件明細書をみると,段落【0022】には,本件発明1の「緩衝剤」の定義として,「緩衝剤という用語は,本明細書中で用いる場合,オキサリプラチン溶液を安定化し,それにより望ましくない不純物,例えばジアクオDACHプラチンおよびジアクオDACHプラチン二量体の生成を防止するかまたは遅延させ得るあらゆる酸性または塩基性剤を意味する。」と記載されており,「緩衝剤」が生成を防止すべき対象である不純物は,「望ましくない不純物」であるが,「望ましくない不純物」には解離シュウ酸を含まないとは記載されていない。また,解離シュウ酸は,水溶液中のオキサリプラチンが分解することによって生じる不純物である「ジアクオDACHプラチン」と対になって発生する物質であるから,オキサリプラチンの分解を防止して「オキサリプラチン溶液を安定化」しようとする場合,ジアクオDACHプラチンの生成を防止することは,解離シュウ酸の発生を防止することに他ならない。 (4) 本件明細書に記載された実施例において,「緩衝剤」とされるのは,いずれも添加シュウ酸であり,解離シュウ酸を含むものではない。本件明細書記載の実施例1ないし14の組成物は,いずれも,計量した緩衝剤を注射用水に混合し,これに計量したオキサリプラチンを加 れるのは,いずれも添加シュウ酸であり,解離シュウ酸を含むものではない。本件明細書記載の実施例1ないし14の組成物は,いずれも,計量した緩衝剤を注射用水に混合し,これに計量したオキサリプラチンを加えるという方法で得られており,「表1A」「表1B」「表1C」「表1D」には,添加したシュウ酸の量が記載されている。 ところが,本件明細書には,解離シュウ酸を緩衝剤とする実施例の記載はなく,解離シュウ酸を測定したとの記載や解離シュウ酸によって発明の作用効果を奏する旨の記載も存在しない。 (5) 対応外国特許について原告は,米国において,本件発明1とは別のオキサリプラチン関連発明に係る出願をしていたが(米国公開特許公報US2004/0186172A1に係るもの。乙5の2),その審査において,米国特許商標庁の審査官から,本件特許に対応する米国特許(アンダーソン特許)を引用例として拒絶理由を通知された。 この拒絶理由を受け,原告は,米国特許商標庁に対し,アンダーソン特許で言及しているシュウ酸は,特別に加えられたものであり,水溶液にもとから含まれているシュウ酸に関するものではない旨述べた。アンダーソン特許に関する原告の理解に従えば,オキサリプラチンの水溶液において自然に分解したシュウ酸を含むにすぎない被告各製品は,いずれも「緩衝剤」としてのシュウ酸を加えたものではないことは明らかである。 (6) 原告の主張に対する反論ア原告は,本件特許の特許請求の範囲請求項1に「包含する」という語が用いられていることから,本件発明1の「緩衝剤の量」は「オキサリプラチン溶液組成物に現に含まれる全ての緩衝剤の量」を意味し,「緩衝剤」には解離シュウ酸が含まれるなどと主張する。 しかし,請求項1の「オキサリプラチン,有効安定化 は「オキサリプラチン溶液組成物に現に含まれる全ての緩衝剤の量」を意味し,「緩衝剤」には解離シュウ酸が含まれるなどと主張する。 しかし,請求項1の「オキサリプラチン,有効安定化量の緩衝剤および製薬上許容可能な担体を包含」という文言には,「オキサリプラチン」,「緩衝剤」及び「担体」という三つの成分が含まれているということ以上の意味はない。また,同請求項には,「緩衝剤がシュウ酸またはそのアルカリ金属塩であり」と記載されており,「緩衝剤」が「シュウ酸」であることが規定されているだけで,「緩衝剤」に「解離シュウ酸」を含むことは規定されていない。 そして,「緩衝剤」とは,「緩衝液をつくるために用いられる試薬の総称」(乙33の1)であり,「緩衝液」とは「緩衝作用をもつ溶液」(乙33の2)であるから,「緩衝剤」は緩衝作用をもつ溶液をつくるために用いられる試薬を意味する。 イ原告は,解離シュウ酸も,「不純物の生成を防止するかまたは遅延させ得るあらゆる酸性または塩基性剤」に当たると主張する。 しかし,オキサリプラチン水溶液中で自然に発生した解離シュウ酸は,分解抑制手段を講じない結果発生した不純物そのものである。仮に緩衝剤が生成を防止又は遅延する「望ましくない不純物」が主として「ジアクオDACHプラチン」及び「ジアクオDACHプラチン二量体」であるとしても,緩衝剤としてのシュウ酸を全く付加しなければ,「ジアクオDACHプラチン」及び「ジアクオDACHプラチン二量体」は,オキサリプラチンの分解により,解離シュウ酸とともに所定の量だけ生じてしまうから,その解離シュウ酸が「ジアクオDACHプラチンおよびジアクオDACHプラチン二量体の生成を防止するかまたは遅延させ」ていないことは明らかである。 本件特許は,「緩衝剤」 だけ生じてしまうから,その解離シュウ酸が「ジアクオDACHプラチンおよびジアクオDACHプラチン二量体の生成を防止するかまたは遅延させ」ていないことは明らかである。 本件特許は,「緩衝剤」によってオキサリプラチン水溶液の分解を防いで安定性を得ようという発明であるのに,外から何も加えないために分解してしまった結果の「解離シュウ酸」を「緩衝剤」であるとする原告の主 張は,明らかに発明の趣旨と矛盾する。 ウ原告は,「実施例18(b)」が本件発明1の実施例であると主張するが,本件明細書の段落【0050】に,「比較のために,例えば豪州国特許出願第29896/95号(1996年3月7日公開)に記載されているような水性オキサリプラチン組成物を,以下のように調製した:」(下線は,被告らによる。)とあるように,実施例18は,公知技術を実施したものであるから,本件発明1の課題を解決している実施例であるはずがない。 また,本件明細書の段落【0073】には,「比較例18の安定性」との表題のもと,「非緩衝化オキサリプラチン溶液組成物」と記載されており,「実施例18」が「非緩衝化」された組成物であり,ジアクオDACHプラチン,ジアクオDACHプラチン二量体とも,大量に生成してしまうものであることが【表14】【表15】に示されているが,これは,手続補正によって請求項から除外された実施例1,実施例8と同様に,実施例9や実施例10などの他の実施例と比較して極めて悪い結果として示されているものである。 したがって,実施例18は比較例であって,本件発明1の実施例ではない。 エ原告は,添加シュウ酸と解離シュウ酸は区別できないから,添加シュウ酸のみが「緩衝剤」に該当すると理解する当業者はいないと主張し,また,本件明細書に記載のない〔表A 件発明1の実施例ではない。 エ原告は,添加シュウ酸と解離シュウ酸は区別できないから,添加シュウ酸のみが「緩衝剤」に該当すると理解する当業者はいないと主張し,また,本件明細書に記載のない〔表A〕なるものを持ち出して,実施例1,8,18(b)が実施例であるとも主張する。 しかし,上記主張は本件発明1の実施品をHPLC等の分析機器で測定した結果,添加シュウ酸と解離シュウ酸を互いに区別できないことを指摘しているにすぎず,本件明細書の記載に接した当業者が得る認識とは異なる。本件明細書では,「解離シュウ酸」についての記載はないから,本件 発明1の「緩衝剤」は添加シュウ酸の意味でしかなく,その意味では本件明細書ははっきりと区別しているというべきである。 また,〔表A〕における「(C)」((A)および(B)量から予想されるシュウ酸量(分解量))と,「(C)+(D)の合計値」なるものは,本件明細書に記載されていない数値であり,本件明細書には,添加シュウ酸と解離シュウ酸を合わせた「(C)+(D)の合計値」が本件発明1の「緩衝剤」であるなどとする記述はない。さらには「(C)+(D)の合計値」の値自体すら正しい数値であるかどうかも全く裏付けがないものであって,このような数値をもって原告のいう「解離シュウ酸」を「緩衝剤」と理解する根拠にできる道理はない。 そして,原告が〔表A〕でした計算方法により実施例10について計算し,〔表A〕に追記すると次の表のとおりとなり,明らかに「不純物」である「ジアクオDACHプラチン」や「ジアクオDACHプラチン二量体」の量に差がある。このことからも,実施例1,8,18(b)が本件発明1の効果をサポートする実施例と成り得ないことは明らかである。 実施例No. pH測定値ジアクオDACHプ ン二量体」の量に差がある。このことからも,実施例1,8,18(b)が本件発明1の効果をサポートする実施例と成り得ないことは明らかである。 実施例No. pH測定値ジアクオDACHプラチン(A)ジアクオDACHプラチン二量体(B)(A)及び(B)量から予想されるシュウ酸量(分解量)(C)付加されたシュウ酸量(D)(C)+(D)の合計値1(初期)5.262.9×10-51.2×10-55.2×10-51×10-56.2×10-51(1ヶ月)5.253.0×10-51.2×10-55.3×10-51×10-56.3×10-58(初期)5.923.2×10-51.3×10-55.8×10-51×10-56.8×10-58(1ヶ月)5.233.9×10-51.2×10-56.8×10-51×10-57.8×10-59(初期)4.402.2×10-50.38×10-52.9×10-55×10-57.9×10-59(1ヶ月)4.712.3×10-50.23×10-52.8×10-55×10-57.8×10-510(初期)3.701.9×10-5極微量1.9×10-510×10-511.9×10-510(1ヶ月)4.101.7×10-5ND(未検出)1.7×10-510×10-511.7×10-510(3ヶ月)3.941.9×10-5ND(未検出)1.9×10-510×10-511.9×10-510(6ヶ月)4.171.9×10-5ND(未検出)1.9×10-510× 1.9×10-5ND(未検出)1.9×10-510×10-511.9×10-510(6ヶ月)4.171.9×10-5ND(未検出)1.9×10-510×10-511.9×10-518(b)(初期)5.473.9×10-51.2×10-56.4×10-5 6.4×10-518(b)(1ヶ月)5.273.3×10-51.2×10-55.8×10-5 5.8×10-5 2 争点(1)イ(構成要件B及びDの「安定」の充足性)について〔原告の主張〕本件明細書では,「すぐに使える形態の製薬上安定なオキサリプラチン溶液組成物を提供することによりこれらの欠点を克服することが,本発明の目的である。」(段落【0017】)と明記されており,構成要件B及びDの「安定」とは「製薬上安定」であることが明らかである。そして,被告各製品はいずれも製薬上安定である。 〔被告らの主張〕本件発明1に係る組成物が「安定」であるのは,あらかじめ「緩衝剤」として溶解されたシュウ酸による効果であり,これによりオキサリプラチンの分解が抑制されている。あらかじめ「緩衝剤」として溶解されたシュウ酸が添加されることにより初めて,「これまでに知られている」量の不純物の発生を防止するという本件発明1の課題が解決される。 原告は「安定」とは「製薬上安定」であると主張するが,本件発明1でいう「製薬上安定」とは,医薬品の製造承認で求められる安定性を意味するのではなく,本件発明1を実施した組成物を提供することにより,「これまでに知られている」量の不純物の発生が防止されるか,又はより抑制されていることをいう。 そして,被告各製品は,医薬品の製造承認上の安定性を備えているこ を実施した組成物を提供することにより,「これまでに知られている」量の不純物の発生が防止されるか,又はより抑制されていることをいう。 そして,被告各製品は,医薬品の製造承認上の安定性を備えていることはいうまでもないが,本件発明1による効果を享受してはいないので,本件発明1の意味における「安定」を充足していない。 3 争点(1)ウ(構成要件Gの「モル濃度」の充足性)について〔原告の主張〕(1) 被告各製品は,5.0ないし5.5×10-5Mのシュウ酸を包含しているところ,構成要件Gのモル濃度の範囲に入るから,構成要件Gを充足する。 上記モル濃度は,米国薬局方であるUSP37に準拠して,HPLC法を 用いて被告各製品のシュウ酸濃度を計測した結果であり(甲7,12,15,19),信頼性がある。 (2) 被告らの主張に対する反論被告らは,被告各製品のシュウ酸濃度が構成要件Gの下限を下回ると主張するが,次のとおり,被告らの提出する実験結果は信用できない。 アオキサリプラチン水溶液中のシュウ酸の濃度を測定する方法は,少なくとも,本件特許の優先日当時,当業者が採用しえるものでなければならない。 ところが,訴外富士フイルム株式会社(以下「富士フイルム」という。)の方法は,①ODSカラムに替えてポリマー系充填剤のカラムを選択したこと,②HPLCの金属(SUS)配管を樹脂配管に変更したこと,③溶離液のpHを4.0としたこと,④流速として1mL/分を採用したことのいずれについても,合理性があることの裏付けがなく,また,①ないし④を組み合わせた場合における,オキサリプラチン水溶液中のシュウ酸濃度を測定した結果の信頼性について記載した文献はない。 このような富士フイルムの試験結果(乙4の1)が,USP37に準拠してなされ を組み合わせた場合における,オキサリプラチン水溶液中のシュウ酸濃度を測定した結果の信頼性について記載した文献はない。 このような富士フイルムの試験結果(乙4の1)が,USP37に準拠してなされた原告の試験結果より信頼できるはずもない。 イ被告らは,被告各製品の中のシュウ酸濃度を測定した結果として,訴外株式会社住化分析センター(以下「住化分析センター」という。)作成に係る分析・試験報告書(乙28の1ないし3)を提出している。しかし,これは,被告ら独自の富士フイルムの方法ないしこれに準じた方法による測定結果でしかなく,本件特許の優先日当時の当業者がおよそ採り得る試験方法ではないから,その結果が本件において採用される余地がない。 〔被告らの主張〕(1) 仮に,解離シュウ酸が「緩衝剤」に含まれるとしても,原告が提出した測定結果は,USP37に記載の測定方法によるものであるが,これは,本件 特許の優先日当時存在しない方法であり,しかも,生産管理のための方法にすぎない。さらに,測定方法の詳細は不明であり,測定方法の妥当性や測定結果の正確性の裏付けがなく,信用できない。 (2) そして,次のとおり,被告各製品に含まれるシュウ酸のモル濃度は,構成要件Gの下限値を下回るから,構成要件Gを充足しない。 ア被告らにおいて被告各製品中のシュウ酸の量を測定するために最適と思われる方法による測定を富士フイルムの解析技術センターに依頼したところ,被告富士フイルム製品について,シュウ酸濃度は平均4.5~4.7×10-5Mであった(乙4の1:富士フイルムの解析技術センターの試験報告書)。被告第一三共製品,被告ニプロ製品についても,同一製剤であるから,同一の測定値となるものと考えられる。 この結果によれば,被告各製品はいずれも本件発明の イルムの解析技術センターの試験報告書)。被告第一三共製品,被告ニプロ製品についても,同一製剤であるから,同一の測定値となるものと考えられる。 この結果によれば,被告各製品はいずれも本件発明のG要件の「緩衝剤の量」の数値範囲にも含まれない。 なお,上記測定では,測定対象に合わせた条件を設定するというHPLCの基本(従来技術である。)に従い,分解しやすいオキサリプラチン水溶液中のシュウ酸の濃度をより正確に測定するために最適と考えられるHPLCの測定条件を採用しているなどしており,その測定方法が適切であることは,被告富士フイルムの知財法務部・医療情報部部長の陳述書(乙34)において詳細に述べられているとおりである。 イ被告らは,第三者機関である住化分析センターに対し,被告各製品(被告第一三共製品及び被告富士フイルム製品については原告がUSP37に準拠して測定したもの〔甲19〕と同じロット番号のもの。)のシュウ酸の濃度測定を依頼した。その結果,被告第一三共製品は4.5~4.6×10-5M,被告富士フイルム製品は4.2~4.4×10-5M,被告ニプロ製品は4.1~4.3×10-5Mであった(乙28の1ないし3)。この結果によっても,被告各製品はいずれもシュウ酸濃度が「5.0×10 -5M」を下回ることが裏付けられた。 4 争点(2)ア(乙1発明による新規性欠如)について〔被告らの主張〕(1) 本件発明1の「緩衝剤」は添加したものに限定されず,溶液中に存在していれば足りるとの原告の主張を前提とすれば,本件発明1は,以下のとおり,公知の乙1発明のオキサリプラチン水溶液と同一であるから,新規性がない。 ア乙1発明の「オキサリプラチン」は本件発明1の「オキサリプラチン」(構成要件A)である。その水溶液は,「製薬上 のとおり,公知の乙1発明のオキサリプラチン水溶液と同一であるから,新規性がない。 ア乙1発明の「オキサリプラチン」は本件発明1の「オキサリプラチン」(構成要件A)である。その水溶液は,「製薬上許容可能な担体が水」(構成要件E)であり,それを「包含する」(構成要件C)。 イ乙1発明は,実施例3において,「クロマトグラムのピークの分析は,不純物の含量と百分率の測定を可能にし,そのうち主要なものは蓚酸であると同定した」(乙1公報・8頁22~25行)と記載されており,水溶液中にシュウ酸を含有しているので,「緩衝剤」(構成要件B,F,G,I)の要件を満たす。 ウ乙1発明では実施例3について,「使用したすべての実験条件下において,この発明によるオキサリプラティヌム水溶液の安定性が,50℃で3か月以上貯蔵した後においても,回収したオキサリプラティヌムの百分率と要求される値より少ない不純物のそれから考えて,医薬的に許容されると考えられることを示した。」(乙1公報・9頁1ないし8行)と記載されており,「安定」であるから,「安定オキサリプラチン溶液組成物」(構成要件D)であり,また,溶液中に存在するシュウ酸は「有効安定化量の緩衝剤」(構成要件B)に該当する。 エ乙1公報には,解離シュウ酸の量の記載はないものの,「シュウ酸」が発生すること自体は実施例3中に明記してあり,その数値は乙1発明の実施例を測定すれば足りる。 そして,原告は乙1発明に係る特許権存続期間延長登録願(乙7)にお いて,シュウ酸含量が6.6×10-5モルから7.4×10-5モルまでの範囲にあると主張しているから,乙1発明の実施品のシュウ酸含量は構成要件G所定のモル濃度の範囲に含まれる。 (2) 原告は,乙1公報記載の実施例3で明示されているオキサリプ .4×10-5モルまでの範囲にあると主張しているから,乙1発明の実施品のシュウ酸含量は構成要件G所定のモル濃度の範囲に含まれる。 (2) 原告は,乙1公報記載の実施例3で明示されているオキサリプラチン水溶液についてシュウ酸濃度は最大でも「3.5×10-5M~4.2×10-5M」であると計算しているが,不純物の量の仮定が妥当ではなく,また,2mg/mlを前提とする点も妥当性を欠く。仮に,原告の計算方法に従い,乙1発明の請求項1に記載された「5mg/ml」について計算すれば,「8.75×10-5M~10.5×10-5M」の範囲になる。 したがって,乙1発明のシュウ酸の濃度は本件発明1の数値範囲に含まれる。 (3) 以上のとおり,本件特許は新規性を欠くから,特許法29条1項3号及び同法123条1項2号により,特許無効審判により無効にされるべきものである。 〔原告の主張〕(1) 乙1発明は,オキサリプラチンの濃度,pH,安定性等で規定した発明であるのに対して,本件発明1は含有されるシュウ酸またはそのアルカリ金属塩の量,安定性等で規定した発明であり,両者は全く異なる技術思想となっている。そして,少なくとも,乙1発明と本件発明1とは,乙1発明では明示的にシュウ酸のモル濃度が開示されていない点で相違する。 (2) そして,乙1公報から,仮にシュウ酸のモル濃度が読み取れるとしても,本件発明1の範囲から外れる。乙1公報の実施例3で開示されているオキサリプラチンの水溶液に基づいて,オキサリプラチンの分解により生じるもののうちジアクオDACHプラチン,ジアクオDACHプラチン二量体,シュウ酸以外のものは無視できるほど微量であるという被告らに有利な仮定をして計算しても,乙1発明におけるシュウ酸濃度は最大でも3.5×10-5な い ,ジアクオDACHプラチン二量体,シュウ酸以外のものは無視できるほど微量であるという被告らに有利な仮定をして計算しても,乙1発明におけるシュウ酸濃度は最大でも3.5×10-5な いし4.2×10-5(mol/L=M)である。 (3) したがって,乙1発明により本件発明1は新規性が否定されない。 5 争点(2)イ(乙1発明による進歩性欠如)について〔被告らの主張〕(1) 仮に,乙1発明には,本件発明1で規定されている緩衝剤の量の数値が明記されていない点が相違点であるとしても,本件発明1は,乙1発明から容易に想到できる。 (2) 原告の主張によれば,本件発明1の「緩衝剤」には解離シュウ酸が含まれるが,オキサリプラチン水溶液において不純物としてシュウ酸が分解して生ずることは乙1発明においても知られていたから,当業者にとって,安全性が問題となり得る医薬品として開発された乙1発明について,不純物であるシュウ酸の濃度を測定することは動機付けがある。仮に乙1公報から直接に解離シュウ酸のモル濃度を読みとれないとしても,その値を計測し確認することは,当業者に極めて容易である。そして,本件発明1の数値要件は,乙1発明が当然に有していた数値を記載しているにすぎず,その数値要件の選択において何ら進歩性は認められない。 また,本件発明1の作用効果も,乙1発明が当然に有していたものであり,公知発明が当然有していた効果を確認したからといって,進歩性は認められない。 (3) したがって,本件特許は進歩性を欠くから,特許法29条2項及び同法123条1項2号により,本件特許は特許無効審判により無効にされるべきものである。 〔原告の主張〕(1) 乙1発明の実施品における緩衝剤の量が構成要件G所定のモル濃度の範囲にあることは明らかになっ 3条1項2号により,本件特許は特許無効審判により無効にされるべきものである。 〔原告の主張〕(1) 乙1発明の実施品における緩衝剤の量が構成要件G所定のモル濃度の範囲にあることは明らかになっていない。むしろ,前記4〔原告の主張〕のとおり,乙1発明のシュウ酸濃度は,構成要件Gのシュウ酸濃度から逸脱してい るから,乙1発明には,本件発明1とは明らかに異なる構成が開示されているのであり,これを計測したところで,本件発明1のシュウ酸モル濃度に想到することなどあり得ない。 (2) また,乙1発明では,シュウ酸が不純物として開示されているが(乙1公報抄訳2参照),本件発明1では,シュウ酸またはそのアルカリ金属塩は,緩衝剤とされている点においても相違するところ,被告らの主張は,かかる相違点にかかる構成に容易に想到し得る論理付けがない。むしろ,乙1公報では,シュウ酸が不純物であるとして開示されているのであるから,シュウ酸を「緩衝剤」として,添加し,あるいは敢えて一定量存在させる構成に想到するにあたり,阻害事由がある。加えて,乙1公報には,既に医薬的に安定な製剤が開示されており,さらにシュウ酸を添加し,存在させることの動機付けは皆無である。 したがって,乙1公報に触れた当業者は,シュウ酸を不純物として理解するのであって,かかるシュウ酸を「緩衝剤」として,添加し,あるいは敢えて一定量存在させる構成に想到することはあり得ない。 (3) 以上のとおり,本件発明1 には,乙1発明に基づく無効理由はない。 6 争点(2)ウ(乙9発明による新規性又は進歩性欠如)について〔被告らの主張〕(1) 乙9発明乙9公報記載の実施例1ないし3には,光学純度e.e.=100%のオキサリプラチンとその製造方法が記載されており,段落【0026】 性又は進歩性欠如)について〔被告らの主張〕(1) 乙9発明乙9公報記載の実施例1ないし3には,光学純度e.e.=100%のオキサリプラチンとその製造方法が記載されており,段落【0026】の【表3】には,上記実施例の高純度品の[0.5% H2O]で,比旋光度「>74.5°」のもの(水溶液)が記載されている。なお,乙9公報における「シス-オキザラート(トランス-l-1,2-シクロヘキサンジアミン)白金(II)」は,本件発明1の「オキサリプラチン」と同一化合物である。 (2) 本件発明1との比較 ア一致点乙9公報記載の,光学純度が高いオキサリプラチンを用いて得られた[0. 5% H2O]は,5mg/mlに相当するオキサリプラチン水溶液であり,不純物が入り込む余地はない。仮に,原告が主張するように,本件発明1がシュウ酸を一切付加しないオキサリプラチンの水溶液も含み得るのであるとすれば,乙9発明は,本件発明1の「オキサリプラチン溶液組成物」と一致する。 仮に,下記イの相違点があるとしても,これらの相違点は,乙9発明の水溶液が当然に有する性質にすぎず,実質的に同一であるか,少なくとも技術常識及び周知技術を適用することにより,容易に導かれるものである。 イ相違点(ア) 相違点1本件発明1の「オキサリプラチンの水溶液」は,緩衝剤であるシュウ酸の量について規定されているが,乙9公報には,シュウ酸とその量について記載がない点(イ) 相違点2本件発明1は「安定オキサリプラチン溶液組成物」であるところ,乙9公報にはそのような記載がない点(3) 相違点の検討ア相違点1について乙9発明の高純度のオキサリプラチン水溶液について,乙9公報にはシュウ酸の量について開示されていないが,オキサリプラ 9公報にはそのような記載がない点(3) 相違点の検討ア相違点1について乙9発明の高純度のオキサリプラチン水溶液について,乙9公報にはシュウ酸の量について開示されていないが,オキサリプラチン水溶液中に不純物としてシュウ酸が生じることは公知である。 そこで,乙9発明と同等の高純度のオキサリプラチンを注射用水に溶解し「5mg/ml」とする実験を行ったところ,比旋光度が「+75.8°」,シュウ酸濃度が「5.2×10―5M」となった(乙11)。すなわち,高純 度のオキサリプラチンを水に溶解して「5mg/ml」としさえすれば,本件発明1のシュウ酸の量に必然的になる。 本件発明1のシュウ酸の量の要件は,本件特許の出願前に存在していた高純度のオキサリプラチン水溶液が当然に有していた性質であり,本件発明1とは実質的に相違しない。またそのような公知物質が有していた必然的な性質を特許請求の範囲に規定することは極めて容易である。 イ相違点2について仮に,原告が主張するように,あらかじめシュウ酸を一切付加しない本件明細書の「比較例18(b)」までが本件発明1の実施例であり,かつ,「安定」オキサリプラチン溶液組成物であるとすれば,乙9発明に係るオキサリプラチンの水溶液も本件発明1の意味における「安定」オキサリプラチン溶液組成物である。 したがって,相違点2の「安定」は,オキサリプラチンの水溶液に当然に伴う性質であり,実質的な相違点ではない。 なお,喜谷喜徳作成に係る「制癌性白金錯体の研究」(薬学雑誌 105巻10号・昭和60年・909~925頁。乙10。以下「乙10文献」という。)においても,オキサリプラチンの水溶液が,安定であること及び「1週間以上放置しても安定である」ことが記載されており,これらの記載からも,特に高純 09~925頁。乙10。以下「乙10文献」という。)においても,オキサリプラチンの水溶液が,安定であること及び「1週間以上放置しても安定である」ことが記載されており,これらの記載からも,特に高純度のオキサリプラチン水溶液は「安定」であることが裏付けられる。 したがって,相違点2は,公知物質が有していた必然的な性質であるから,本件発明1と乙9発明は実質的に同一である。またそのような必然的な性質を特許請求の範囲に規定することは極めて容易である。 (4) 小括以上のとおり,乙9発明と本件発明1との各相違点は,乙9発明の高純度のオキサリプラチン水溶液が当然に有していた性質であって,実質的な相違 点とはいえないか,当業者が容易に測定することによって規定できるものである。 したがって,仮に,本件発明1の「緩衝剤」が解離シュウ酸を含むとしても,本件発明1は,乙9発明と実質的に同一であるか,乙9発明から容易に想到できるものであるか,又は乙9発明に乙10文献を組み合わせることによって容易に想到できるものにすぎず,本件特許は新規性又は進歩性を欠くから,特許法29条1項又は2項及び同法123条1項2号により,特許無効審判において無効にされるべきものである。 〔原告の主張〕(1) 乙9発明乙9公報記載の実施例1ないし3では,最終的にいずれも凍結乾燥物質が得られている。例えば,乙9公報(段落【0013】)には,「凍結乾燥することにより光学異性体が混合しない光学純度e.e.=100%のシス-オキザラート(トランス-l-1,2-シクロヘキサンジアミン)白金(II)が得られた。」と記載されている。したがって,乙9公報記載の実施例は,凍結乾燥物質としてのオキサリプラチンの製造工程を開示するものである。 そして,乙9公報の「0 クロヘキサンジアミン)白金(II)が得られた。」と記載されている。したがって,乙9公報記載の実施例は,凍結乾燥物質としてのオキサリプラチンの製造工程を開示するものである。 そして,乙9公報の「0.5% H2O」「>74.5°」との記載(下図参照)はオキサリプラチンの凍結乾燥物質の物性について,比旋光度が74. 5°を超えることを意味するにすぎず,オキサリプラチン溶液組成物を開示するものではないし,それが製薬上安定であることも示されていないし,緩衝剤の濃度範囲を開示するものではないし,シュウ酸が緩衝剤であることの開示もない。 (2) 相違点の検討ア相違点1について被告らは,乙9公報記載と同等のオキサリプラチンを溶解して「5mg/ml」とする実験(乙11)を行ったところ,シュウ酸濃度が「5.2×10-5M」となった旨主張する。 しかし,前記(1)のとおり,乙9の実施例はオキサリプラチンの凍結乾燥物質の製造工程を開示するものであるが,被告らの実験はこのような製造工程を再現しておらず,乙9公報記載の実施例の追試になっていない。 また,被告らは,5mg/mlであれば必然的に本件発明1のシュウ酸量になるかのような主張をしているが,そのような事実はない。 イ相違点2について本件発明1は,所定の緩衝剤の濃度等により特定された発明であり,従来の製薬上安定とは考えられていなかったオキサリプラチン溶液組成物を,製薬上安定なものとして提供するものである。ところが,乙9発明は,上記のような緩衝剤の量を有するわけでもないし,「安定」であることも開示されていない。 また,被告らは,乙10文献のオキサリプラチンが「水溶液中1週間以上放置しても安定であり」との記載を用いて,オキサリプラ もないし,「安定」であることも開示されていない。 また,被告らは,乙10文献のオキサリプラチンが「水溶液中1週間以上放置しても安定であり」との記載を用いて,オキサリプラチン水溶液は「安定」であると主張する。 しかし,上記記載は,水溶液中1週間程度しか安定でなかったことを意味し,製薬上安定であることを意味しない。 ウその他の相違点について相違点1及び2の他にも,乙9発明は,オキサリプラチン溶液組成物を開示するものではない点及びシュウ酸が緩衝剤であることの開示がない点において,本件発明1と相違する。 (3) 小括前記(2)のとおり,乙9発明と本件発明1とは同一ではない。また,乙9公報には,シュウ酸と安定性との関連性について開示がないから,本件発明1の緩衝剤の範囲に想到することはない。その他,前記(2)ウで指摘した相違点に想到する論理付けもない。 したがって,乙9発明により,本件発明1の新規性ないし進歩性が否定される余地はない。 7 争点(2)エ(記載要件違反の有無)について〔被告らの主張〕(1) 本件発明1に係る特許には,(2)ないし(4)の各記載要件違反の無効理由がある。 (2) 解離シュウ酸に関するサポート要件違反本件明細書の発明の詳細な説明に記載されているのは,付加されたシュウ酸のみであり,解離シュウ酸については一切言及されていない。そして,本件特許の出願前の公知のオキサリプラチン溶液における分解によるシュウ酸の量は,「5.0×10-5M」を超える(乙9,11)。そうすると,本件発明1の「緩衝剤」を,添加シュウ酸のみならず,オキサリプラチン水溶液 に「存在」する全てのシュウ酸を含むものと拡張ないし一般化することはできない。 したがって,仮 すると,本件発明1の「緩衝剤」を,添加シュウ酸のみならず,オキサリプラチン水溶液 に「存在」する全てのシュウ酸を含むものと拡張ないし一般化することはできない。 したがって,仮に,「緩衝剤」が「オキサリプラチン水溶液に『存在』する全てのシュウ酸」をいうとする原告の主張に従うと,本件発明1に係る特許は,「出願時の技術常識に照らしても,請求項に係る発明の範囲まで,本発明の詳細に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない場合」に該当し,特許法36条6項1号のいわゆるサポート要件に違反する。 (3) 委任省令要件違反本件発明1は,強い毒性の懸念のある「ジアクオDACHプラチン」や「ジアクオDACHプラチン二量体」などの白金分解物である不純物をこれまで知られているオキサリプラチン水溶液よりも極力抑制した「安定オキサリプラチン組成物」を提供することにある。そして,本件発明1の効果を得るためには,「事前に一定量の付加シュウ酸の水溶液を作成し,そこにオキサリプラチンを溶解させる」ことが必要であって,単に製剤中のシュウ酸濃度を構成要件Gの下限である5×10―5M以上に保てば,本件発明1の課題を解決する安定なオキサリプラチン製剤が提供できるわけではない。そして,前記1〔被告らの主張〕のとおり,実施例1,8及び18は,本件発明1の課題を解決していない。 したがって,仮に,原告が主張するように,オキサリプラチンから分解して生じたシュウ酸も「緩衝剤」に含まれ,実施例1,8及び18のオキサリプラチン溶液も本件発明1に包含されるとすれば,本件発明1は,「明細書及び図面の記載並びに出願時の技術常識に基づいて,請求項に係る発明の属する技術分野の理解又は課題及びその解決手段の理解をすることができないもの」であり,委任省令要件違 すれば,本件発明1は,「明細書及び図面の記載並びに出願時の技術常識に基づいて,請求項に係る発明の属する技術分野の理解又は課題及びその解決手段の理解をすることができないもの」であり,委任省令要件違反の無効理由がある(特許法36条4項1号)。 (4) シュウ酸モル濃度に関するサポート要件違反及び実施可能要件違反ア原告の別件の米国出願(乙5の2)に係る審査経過における原告の技術 的理解に従うならば,本件特許の優先日当時の技術常識としては,オキサリプラチン原薬中に少なくとも「0.19%」のシュウ酸が含まれており,この「0.19%」は,モル濃度に換算すると,「10.6×10―5M」であるから,本件発明の「緩衝剤」の下限値である「5×10―5M」を上回る。そうすると,本件発明1の「緩衝剤」の下限値である「5×10―5M」をサポートする数値は,本件明細書には存在しないことになり,本件発明1に係る特許には,いわゆるサポート要件違反の無効理由がある。 イまた,本件特許の優先日当時の技術常識からは,オキサリプラチンの原薬として「10.6×10―5M」以上のシュウ酸を含有したものしか,当業者において入手することができなかったとすれば,仮に「緩衝剤」がオキサリプラチン水溶液中に「存在」する全てのシュウ酸を含むとの原告の主張に従えば,当時の当業者において,「10.6×10―5M」より低濃度の「5×10―5 M」のみが存在するオキサリプラチン溶液組成物を製造することはおよそ不可能である。ところが,本件明細書は,当業者がシュウ酸を含まないオキサリプラチン原薬の製造方法を開示していないから,本件発明1に係る特許には,実施可能要件違反の無効理由がある(特許法36条4項1号)。 〔原告の主張〕(1) 解離シュウ酸に関するサポート要件違反につ ラチン原薬の製造方法を開示していないから,本件発明1に係る特許には,実施可能要件違反の無効理由がある(特許法36条4項1号)。 〔原告の主張〕(1) 解離シュウ酸に関するサポート要件違反について公知のオキサリプラチン溶液の解離シュウ酸は「5.0×10-5M」を超えるという事実は存在しないから,被告らの主張は前提を欠く。 この点を措くにしても,本件発明1は,オキサリプラチン溶液組成物中にシュウ酸を存在させることを内容とするものであり,添加シュウ酸や解離シュウ酸を区分していない。そして,「オキサリプラチン溶液組成物の調製時におけるオキサリプラチン溶液組成物に現に含まれる全ての緩衝剤の量」は,本件明細書の実施例から理解でき,本件発明1に対応しており,これにより 課題が解決できることが記載されている。また,当業者は,本件明細書から,調製時以降の解離シュウ酸を含めたシュウ酸濃度も読み取ることもできる。 したがって,「特許請求の範囲に記載された発明が,発明の詳細な説明に記載された発明で,発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものである」といえるから,サポート要件に違反することはない。 (2) 委任省令要件違反について本件明細書には,実施例1ないし17において,製薬上安定なオキサリプラチン溶液組成物の具体的な調製方法が開示されており,その調製時におけるオキサリプラチン水溶液中の緩衝剤の量も開示されている。また,実施例18(b)において,緩衝剤を添加しない態様による製薬上安定なオキサリプラチン溶液組成物の具体的な調製方法が開示されており,その水溶液中の緩衝剤の量も出願当時の技術常識に基づき推計可能である。 したがって,本件明細書には,本件発明1にかかる物を製造する方法について プラチン溶液組成物の具体的な調製方法が開示されており,その水溶液中の緩衝剤の量も出願当時の技術常識に基づき推計可能である。 したがって,本件明細書には,本件発明1にかかる物を製造する方法についての具体的な記載があり,当業者が,上記実施例を参考に本件発明1を実施することが可能なことは明らかである。 (3) シュウ酸モル濃度に関するサポート要件違反及び実施可能要件違反について乙1公報には,シュウ酸が0.18%よりはるかに少ない量となるオキサリプラチン水溶液が開示されている。例えば,仮に,1mg/mlのオキサリプラチンにシュウ酸が0.036%含まれるとしてみても,シュウ酸濃度は4.0×10-6M(1×0.036÷100÷90.03)と計算されるから(なお,90.03はシュウ酸の分子量である。),オキサリプラチン溶液に少なくとも「10.6×10-5M」のシュウ酸が存在することを前提とする被告らの主張は理由がない。 8 争点(3)ア(本件訂正により無効理由が解消するか)について 〔原告の主張〕本件訂正発明1には無効理由がない。 〔被告らの主張〕本件訂正発明1には,いままで主張した全ての無効理由があり,さらに,下記9の無効理由がある。 9 争点(3)イ(pHの調整に関する実施可能要件違反の有無)について〔被告らの主張〕本件訂正発明1では,シュウ酸のモル濃度が「5×10―5 M」付近であって「pHが3~4.5の範囲」である組成物が権利範囲に含まれているが,本件明細書の発明の詳細な説明においては,シュウ酸のモル濃度が「5×10―5M」付近である場合に「pHが3~4.5の範囲」に調整する方法が記載されていない。 そして,乙9発明の追試(乙11)によれば,オキサリプラチン水溶液においてオキサリプラチ モル濃度が「5×10―5M」付近である場合に「pHが3~4.5の範囲」に調整する方法が記載されていない。 そして,乙9発明の追試(乙11)によれば,オキサリプラチン水溶液においてオキサリプラチンの分解により生じたシュウ酸の濃度は5.0×10-5Mを超え,かつ,pHは5.11である。この結果は,本件明細書(【表14】)において,実施例18(b)のpHが,初期に5.47,1か月後に5.27であることとも符合する。このように,解離シュウ酸のみでそのモル濃度が「5. 0×10-5M」を少し超える組成物においては,シュウ酸のモル濃度が薄いため「pHが3~4.5の範囲」には,およそなり得ない。 そうすると,本件明細書からは,当業者は,シュウ酸のモル濃度が「5×10―5 M」付近であって「pHが3~4.5の範囲」である組成物を実施することはできず,過度の試行錯誤を要するから,実施可能要件(特許法36条4項1号)を充足しない。 したがって,本件訂正発明1に係る特許は実施可能要件を満たさない発明の詳細な説明の記載に基づいてされたものであり,実施可能要件違反の無効理由がある(特許法36条4項1号)。 〔原告の主張〕オキサリプラチン溶液組成物を調製したからといって,シュウ酸濃度が「5. 0×10-5M」を超えるとはいえない。現に,「3.11×10-5M」の濃度のシュウ酸を含むオキサリプラチン溶液組成物が調整された例がある(甲30)。 そして,原告は,「緩衝剤」が解離シュウ酸も添加シュウ酸も含まれると主張しているところ,本件明細書記載の実施例を参考に,適宜のオキサリプラチン溶液組成物を調製すれば,シュウ酸の濃度「5.0×10-5M」付近で「pHが3~4.5の範囲」に調整できる。例えば,上記のような「3.11×10-5M」のシュウ酸を含 参考に,適宜のオキサリプラチン溶液組成物を調製すれば,シュウ酸の濃度「5.0×10-5M」付近で「pHが3~4.5の範囲」に調整できる。例えば,上記のような「3.11×10-5M」のシュウ酸を含むオキサリプラチン溶液組成物に,シュウ酸を添加して調整することができるし,その他の本件特許の優先日当時の従来技術に従って適宜pHを調整できるのは明らかである。 したがって,本件訂正発明1には実施可能要件違反の無効理由はない。 争点(4)ア(被告各製品は本件発明2の技術的範囲に属するか)について〔原告の主張〕被告各製品は,いずれも,緩衝剤がシュウ酸であるから,構成要件Jを充足し,本件発明1の技術的範囲に属するから構成要件Kを充足する。 〔被告らの主張〕被告各製品は,本件発明1の技術的範囲に属さないから,本件発明2の技術的範囲にも属さない。 11 争点(4)イ(無効理由の有無)について〔被告らの主張〕本件発明1に係る無効理由をいずれも本件発明2に援用する。 〔原告の主張〕本件発明2が乙1発明に基づいて新規性・進歩性が否定されるおそれがあるものの,それは誤りである。 12 争点(4)ウ(訂正の対抗主張の成否)について 〔原告の主張〕(1) 本件発明2が乙1発明に基づいて新規性・進歩性が否定されるおそれがあることから,本件発明2の訂正について主張する(以下,訂正後の本件発明2を「本件訂正発明2」という。)。 ア訂正後の請求項2には,次のとおり記載される予定である。 「オキサリプラチン,有効安定化量の緩衝剤および製薬上許容可能な担体を包含する安定オキサリプラチン溶液組成物であって,製薬上許容可能な担体が水であり,緩衝剤がシュウ酸またはシュウ酸ナトリウムであり,緩衝剤の量が,以下の: 緩衝剤および製薬上許容可能な担体を包含する安定オキサリプラチン溶液組成物であって,製薬上許容可能な担体が水であり,緩衝剤がシュウ酸またはシュウ酸ナトリウムであり,緩衝剤の量が,以下の:(a)5x10-5M ~1x10-2M ,(b)5x10-5M ~5x10-3M ,(c)5x10-5M ~2x10-3M ,(d)1x10-4M ~2x10-3M ,または(e)1x10-4M ~5x10-4Mの範囲のモル濃度である,pHが3~4.5(4.5を除く)の範囲の組成物。」イ本件訂正発明2を構成要件に分説して示すと,以下のとおりである。 A オキサリプラチン,B 有効安定化量の緩衝剤およびC 製薬上許容可能な担体を包含するD 安定オキサリプラチン溶液組成物であって,E 製薬上許容可能な担体が水であり,F 緩衝剤がシュウ酸またはシュウ酸ナトリウムであり,G 緩衝剤の量が,以下の: (a)5x10-5M ~1x10-2M , (b)5x10-5M ~5x10-3M , (c)5x10-5M ~2x10-3M , (d)1x10-4M ~2x10-3M ,または (e)1x10-4M ~5x10-4Mの範囲のモル濃度である,H’pHが3~4.5(4.5を除く)の範囲の組成物(2) 被告各製品は,いずれも構成要件AないしGを充足する。また,被告各製品のpHは,4.1ないし4.2であるから(甲7,甲12及び甲15),構成要件H’も充足する。 (3) 被告らの主張に照らしても,少なくとも,本件特許の優先日当時,「pHが3~4.5(4.5を除く)の範囲の」オキサリプラチン組成物は開示されておらず,またかかる構成に容易に想到するこ する。 (3) 被告らの主張に照らしても,少なくとも,本件特許の優先日当時,「pHが3~4.5(4.5を除く)の範囲の」オキサリプラチン組成物は開示されておらず,またかかる構成に容易に想到することはあり得ない。 よって,本件訂正発明2には無効理由がなく,訂正により乙1発明に基づく本件発明2の無効理由は解消される。 〔被告らの主張〕(1) 原告の本件発明2に係る特許についての訂正の主張は,訂正要件を満たさないので,失当である。 すなわち,本件特許については,原告とホスピーラとの間の審決取消訴訟(知財高裁平成27年(行ケ)第10167号)が係属しており(甲9),原告は,訂正することができない。 (2) 被告各製品は,本件発明2の技術的範囲に属さないから,本件訂正発明2の技術的範囲に属する余地はない。 (3) 本件訂正発明2には次の無効理由があり,訂正により無効理由は解消されない。 ア本件明細書には,シュウ酸のモル濃度が「5×10-5M」程度のオキサリプラチン水溶液において,オキサリプラチンに悪影響を与えることなく, pHを「3~4.5」の範囲に適切に調整する方法が開示されておらず,本件特許出願の優先日当時の当業者において実施することが困難であるから,本件訂正発明2は,実施可能要件を満たさない。 イ仮に,原告が主張するように,オキサリプラチンの水溶液について,本件特許の優先日当時の従来技術に従って適宜pHを調製できるのは明らかなのであれば,本件訂正発明2は,乙1発明又は乙9発明に,原告が言及する「従来技術」を組み合わせることで,当業者が容易に発明をすることができたから,新規性又は進歩性を欠くというべきである。 第4 当裁判所の判断 1 本件発明の内容(1) 本件明細書には,次の各記載がある。 組み合わせることで,当業者が容易に発明をすることができたから,新規性又は進歩性を欠くというべきである。 第4 当裁判所の判断 1 本件発明の内容(1) 本件明細書には,次の各記載がある。 【発明の詳細な説明】・「本発明は,製薬上安定なオキサリプラチン溶液組成物,癌腫の治療におけるその使用方法,このような組成物の製造方法,およびオキサリプラチンの溶液の安定化方法に関する。」(段落【0001】)・「甲等(豪州国特許出願第29896/95号,1996年3月7日公開)(WO96/04904,1996年2月22日公開の特許族成員)は,1~5mg/mLの範囲の濃度のオキサリプラチン水溶液から成る非経口投与のためのオキサリプラチンの製薬上安定な製剤であって,4.5~6の範囲のpHを有する製剤を開示する。同様の開示は,米国特許第5,716,988号(1998年2月10日発行)に見出される。」(段落【0010】)・「オキサリプラチンは,注入用の水または5%グルコース溶液を用いて患者への投与の直前に再構築され,その後5%グルコース溶液で稀釈される凍結乾燥粉末として,前臨床および臨床試験の両方に一般に利用可能である。しかしながら,このような凍結乾燥物質は,いくつかの欠点を有する。 中でも第一に,凍結乾燥工程は相対的に複雑になり,実施するのに経費が掛かる。さらに,凍結乾燥物質の使用は,生成物を使用時に再構築する必要があり,このことが,再構築のための適切な溶液を選択する際にそこにエラーが生じる機会を提供する。例えば,凍結乾燥オキサリプラチン生成物の再構築に際しての凍結乾燥物質の再構築用の,または液体製剤の稀釈用の非常に一般的な溶液である0.9%NaCl溶液の誤使用は,迅速反応が起こる点で活性成分に有害であり,オキサリプラチンの チン生成物の再構築に際しての凍結乾燥物質の再構築用の,または液体製剤の稀釈用の非常に一般的な溶液である0.9%NaCl溶液の誤使用は,迅速反応が起こる点で活性成分に有害であり,オキサリプラチンの損失だけでなく,生成種の沈澱を生じ得る。凍結乾燥物質のその他の欠点を以下に示す:(a) 凍結乾燥物質の再構築は,再構築を必要としない滅菌物質より微生物汚染の危険性が増大する。 (b) 濾過または加熱(最終)滅菌により滅菌された溶液物質に比して,凍結乾燥物質には,より大きい滅菌性失敗の危険性が伴う。そして,(c) 凍結乾燥物質は,再構築時に不完全に溶解し,注射用物質として望ましくない粒子を生じる可能性がある。」(段落【0012】,【0013】前段)・「水性溶液中では,オキサリプラチンは,時間を追って,分解して,種々の量のジアクオDACHプラチン(式I),ジアクオDACHプラチン二量体(式II)およびプラチナ(IV)種(式III ):【化3】 【化4】 を不純物として生成し得る,ということが示されている。任意の製剤組成物中に存在する不純物のレベルは,多くの場合に,組成物の毒物学的プロフィールに影響し得るので,上記の不純物を全く生成しないか,あるいはこれまでに知られているより有意に少ない量でこのような不純物を生成するオキサリプラチンのより安定な溶液組成物を開発することが望ましい。」(段落【0013】後段ないし【0016】)・「したがって,前記の欠点を克服し,そして長期間の,即ち2年以上の保存期間中,製薬上安定である,すぐに使える(RTU)形態のオキサリプラチンの溶液組成物が必要とされている。したがって,すぐに使える形態の製薬 て,前記の欠点を克服し,そして長期間の,即ち2年以上の保存期間中,製薬上安定である,すぐに使える(RTU)形態のオキサリプラチンの溶液組成物が必要とされている。したがって,すぐに使える形態の製薬上安定なオキサリプラチン溶液組成物を提供することによりこれらの欠点を克服することが,本発明の目的である。」(段落【0017】)・「より具体的には,本発明は,オキサリプラチン,有効安定化量の緩衝剤および製薬上許容可能な担体を包含する安定オキサリプラチン溶液組成物に関する。」(段落【0018】)・「オキサリプラチンは,約1~約7mg/mL ,好ましくは約1~約5mg/mL ,さらに好ましくは約2~約5mg/mL ,特に約5mg/mL の量で本発明の組成物中に存在するのが便利である。」(段落【0022】前段)・「緩衝剤という用語は,本明細書中で用いる場合,オキサリプラチン溶液を安定化し,それにより望ましくない不純物,例えばジアクオDACHプ ラチンおよびジアクオDACHプラチン二量体の生成を防止するかまたは遅延させ得るあらゆる酸性または塩基性剤を意味する。したがって,この用語は,シュウ酸またはシュウ酸のアルカリ金属塩(例えばリチウム,ナトリウム,カリウム等)等のような作用物質,あるいはそれらの混合物が挙げられる。緩衝剤は,好ましくは,シュウ酸またはシュウ酸ナトリウムであり,最も好ましくはシュウ酸である。」(段落【0022】後段)・「緩衝剤は,有効安定化量で本発明の組成物中に存在する。緩衝剤は,約5x10-5M~約1x10-2Mの範囲のモル濃度で,好ましくは約5x10-5M~5x10-3Mの範囲のモル濃度で,さらに好ましくは約5x10-5M~約2x10-3Mの範囲のモル濃度で,最も好ましくは約1x10-4M~約2x10-3Mの のモル濃度で,好ましくは約5x10-5M~5x10-3Mの範囲のモル濃度で,さらに好ましくは約5x10-5M~約2x10-3Mの範囲のモル濃度で,最も好ましくは約1x10-4M~約2x10-3Mの範囲のモル濃度で,特に約1x10-4M~約5x10-4M の範囲のモル濃度で,特に約2x10-4M ~約4x10-4M の範囲のモル濃度で存在するのが便利である。」(段落【0023】)・「前記の本発明のオキサリプラチン溶液組成物は,本明細書中でさらに詳細に後述するように,現在既知のオキサリプラチン組成物より優れたある利点を有することが判明している,ということも留意すべきである。凍結乾燥粉末形態のオキサリプラチンとは異なって,本発明のすぐに使える組成物は,低コストで且つさほど複雑ではない製造方法により製造される。」(段落【0030】)・「さらに,本発明の組成物は,付加的調製または取扱い,例えば投与前の再構築を必要としない。したがって,凍結乾燥物質を用いる場合に存在するような,再構築のための適切な溶媒の選択に際してエラーが生じる機会がない。本発明の組成物は,オキサリプラチンの従来既知の水性組成物よりも製造工程中に安定であることが判明しており,このことは,オキサリプラチンの従来既知の水性組成物の場合よりも本発明の組成物中に生成される不純物,例えばジアクオDACHプラチンおよびジアクオDACHプラチン二量体が少ないことを意味する。」(段落【0031】) ・「表1Aおよび1Bに記載された実施例1~14の組成物は,以下の一般手法により調製した:注射用温水(W.F.I.)(40℃)を分取し,濾過窒素を用いて約30分間,その中で発泡させる。 必要とされる適量のW.F.I.を,窒素中に保持しながら容器に移す。 最終容積を満たすた した:注射用温水(W.F.I.)(40℃)を分取し,濾過窒素を用いて約30分間,その中で発泡させる。 必要とされる適量のW.F.I.を,窒素中に保持しながら容器に移す。 最終容積を満たすために残りのW.F.I.を別に取りのけておく。 適切な緩衝剤(固体形態の,または好ましくは適切なモル濃度の水性緩衝溶液の形態の)を適切な容器中で計量して,混合容器(残りのW.F.I. の一部を含入する濯ぎ容器)に移す。例えば,磁気攪拌機/ホットプレート上で,約10分間,または必要な場合にはすべての固体が溶解されるまで,溶液の温度を40℃に保持しながら混合する。」(段落【0034】後段,【0035】)・「注:実施例8~14の組成物のために用いられた密封容器は,20mL透明ガラスアンプルであった。 * シュウ酸は二水和物として付加される;ここに示した重量は,付加されたシュウ酸二水和物の重量である。」(段落【0042】前段)・「表1C二記載した実施例15および16の組成物は,実施例1~14の組成物の調製に関して前記した方法と同様の方法で調製した。」(段落【0042】後段)・「注:実施例15~16の組成物のために用いられた密封容器は,20mL透明ガラスアンプルであった。 * シュウ酸は二水和物として付加される;ここに示した重量は,付加されたシュウ酸二水和物の重量である。」(段落【0044】前段)・「表1Dに記載した実施例17の組成物は,実施例1~14の組成物の調製に関して前記した方法と同様の方法で調製したが,但し,(a)窒素の非存在下で(即ち酸素の存在下で)密封容器中に溶液を充填し,(b)充 填前に密封容器を窒素でパージせず,(c)容器を密封する前に窒素でヘッドスペースをパージせず,そして(d)密封容器はアンプルよりむ ち酸素の存在下で)密封容器中に溶液を充填し,(b)充 填前に密封容器を窒素でパージせず,(c)容器を密封する前に窒素でヘッドスペースをパージせず,そして(d)密封容器はアンプルよりむしろバイアルであった。」(段落【0044】後段)・「注:実施例17の溶液組成物1000mLを,5mL透明ガラスバイアル中に充填し(4mL 溶液/バイアル),これをWestFlurotec ストッパーで密封し(以後,実施例17(a)と呼ぶ),実施例17の残りの1000mL溶液組成物を5mL 透明ガラスバイアル中に充填し(4mL 溶液/バイアル),これをHelvoetOmniflexストッパーで密封した(以後,実施例17(b)と呼ぶ)。」(段落【0046】)・「* シュウ酸は二水和物として付加される;ここに示した重量は,付加されたシュウ酸二水和物の重量である。」(段落【0047】前段)・「実施例18比較のために,例えば豪州国特許出願第29896/95号(1996年3 月7 日公開)に記載されているような水性オキサリプラチン組成物を,以下のように調製した:」(段落【0050】前段)・「23本のアンプルをオートクレーブ処理せずに保持し(以後,実施例18(a)と呼ぶ),即ちこれらを最終滅菌せず,残り27本のアンプル(以後,実施例(b)と呼ぶ)を,SAL(PD270)オートクレーブを用いて,121℃で15分間オートクレーブ処理した。」(段落【0053】)・「実施例1~17の組成物に関する安定性試験実施例1~14のオキサリプラチン溶液組成物を,6ヶ月までの間,40℃で保存した。この試験の安定性結果を,表4および5に要約する。」(段落【0063】)・ 「実施例15および16のオキサリプラチン溶液組成物を,9ヶ月までの間,25 成物を,6ヶ月までの間,40℃で保存した。この試験の安定性結果を,表4および5に要約する。」(段落【0063】)・ 「実施例15および16のオキサリプラチン溶液組成物を,9ヶ月までの間,25℃/相対湿度(RH)60%および40℃/相対湿度(RH)75%で保存した。この試験の安定性結果を,表6に要約する。」(段落【0067】) ・「実施例17(a)および17(b)のオキサリプラチン溶液組成物を,1ヶ月までの間,25℃/相対湿度(RH)60%および40℃/相対湿度(RH)75%で保存した。この試験の安定性結果を,表7に要約する。」(段落【0070】)・「これらの安定性試験の結果は,緩衝剤,例えばシュウ酸ナトリウムおよびシュウ酸が,本発明の溶液組成物中の不純物,例えばジアクオDACHプラチンおよびジアクオDACHプラチン二量体のレベルを制御する場合に非常に有効である,ということを実証する。」(段落【0072】)・「比較例18の安定性実施例18(b)の非緩衝化オキサリプラチン溶液組成物を,40℃で1ヶ月間保存した。この安定性試験の結果を,表8に要約する。」(段落【0073】) (【表14】)(2) 本件各発明の意義ア上記各記載によれば,本件各発明は,製薬上安定なオキサリプラチン溶液組成物に関するものであって,①従来用いられていた凍結乾燥物質における,経費がかかり,また,使用時に再構築する際エラーが生じるおそれがあるという欠点を克服し,かつ,②水性溶液において,オキサリプラチ ンが分解することによって生じる不純物であるジアクオDACHプラチン,ジアクオDACHプラチン二量体及びプラチナ種をまったく生成しないか,あるいはこれまで知られているより有意に少ない量で生成するオキサリプ することによって生じる不純物であるジアクオDACHプラチン,ジアクオDACHプラチン二量体及びプラチナ種をまったく生成しないか,あるいはこれまで知られているより有意に少ない量で生成するオキサリプラチンのより安定な溶液組成物として,2年以上の期間,製薬上安定であってすぐに使える形態のオキサリプラチン溶液組成物を提供することを目的とする発明であり,緩衝剤が「シュウ酸又はそのアルカリ金属塩」であるものが本件発明1,緩衝剤が「シュウ酸又はシュウ酸ナトリウム」であるものが本件発明2であると認められる。 イこの点に関して原告は,本件各発明は,凍結乾燥物質を再構築したものの欠点を克服するために,製薬上安定な溶液組成物を提供するものであると主張する。 しかし,本件明細書において,本件明細書の段落【0013】後段ないし【0016】に水性溶液の欠点に関する記載があり,また,段落【0031】には,「本発明の組成物は,オキサリプラチンの従来既知の水性組成物よりも製造工程中に安定である」という記載があるところ,乙1発明に対応する豪州国出願が従来技術として紹介されており(段落【0010】),これが,段落【0031】の「従来既知の水性組成物」から除外される理由がないこと及び凍結乾燥物質は,使用時に再構築されるものであって,再構築後に長期間保存することは想定されていないから,凍結乾燥物質の欠点として,水性溶液中で分解により不純物が生成されることをあげることは考えがたいことに照らすと,本件明細書の段落【0013】後段ないし【0016】における水性溶液の欠点に関する記載部分は乙1発明も含めた従来既知の溶液組成物の欠点を指摘するものであり,段落【0031】の記載は,本件各発明の組成物は,乙1発明を含むオキサリプラチンの従来既知の水性組成物よりも製造工程中に安定で 部分は乙1発明も含めた従来既知の溶液組成物の欠点を指摘するものであり,段落【0031】の記載は,本件各発明の組成物は,乙1発明を含むオキサリプラチンの従来既知の水性組成物よりも製造工程中に安定であることを意味するというべきである。 したがって,本件発明は,乙1発明よりも不純物が有意に少ない,より安定な溶液組成物を提供することを目的とするものであると認めるのが相当である。 2 争点(1)ア(構成要件B,F及びGの「緩衝剤」の充足性)について(1) 本件発明1における「緩衝剤」は,添加されたシュウ酸またはそのアルカリ金属塩をいい,オキサリプラチンが分解して生じた解離シュウ酸は「緩衝剤」には当たらないと解することが相当である。理由は以下のとおりである。 (2)ア特許発明の技術的範囲は特許請求の範囲の記載に基づいて定めるものとされているから(特許法70条1項),「緩衝剤」を解釈するに当たり,特許請求の範囲請求項1の記載をみると,緩衝剤について,「有効安定化量の緩衝剤」,「緩衝剤がシュウ酸またはそのアルカリ金属塩」,「緩衝剤の量が・・・のモル濃度」である旨記載されている。 上記記載を踏まえて検討するに,「緩衝剤」とは,「緩衝液をつくるために用いられる試薬の総称」を意味する(化学大辞典2。乙33の1)。 そして,広辞苑第六版によれば,「試薬」とは「実験室などで使用する純度の高い化学物質」を意味するところ,解離シュウ酸が「純度の高い化学物質」である「試薬」に当たるとは考えがたいから,解離シュウ酸は一般的な意味で「緩衝剤」とはいえないというべきである。 イ次に,特許請求の範囲に記載された用語の意義は,明細書の記載を考慮して解釈するものとされているから(特許法70条2項),本件明細書の記載をみると,段落【0 」とはいえないというべきである。 イ次に,特許請求の範囲に記載された用語の意義は,明細書の記載を考慮して解釈するものとされているから(特許法70条2項),本件明細書の記載をみると,段落【0022】には「緩衝剤という用語は,本明細書中で用いる場合,オキサリプラチン溶液を安定化し,それにより望ましくない不純物,例えばジアクオDACHプラチンおよびジアクオDACHプラチン二量体の生成を防止するかまたは遅延させ得るあらゆる酸性または塩基性剤を意味する。」という記載があり,「緩衝剤」という用語の定義がされている。 ここで,「緩衝剤」は,「酸性または塩基性剤」と定義されているが,広辞苑第六版によれば,「剤」とは「各種の薬を調合すること。また,その薬。」を意味するから,「酸性または塩基性剤」は,酸性または塩基性の各種の薬を調合した薬を意味すると考えることが自然である。そして,解離シュウ酸は,「各種の薬を調合した薬」に当たるとはいえない。 したがって,本件明細書の段落【0022】記載の「緩衝剤」の定義は,緩衝剤に解離シュウ酸が含まれることを意味していないと考えられる。 ウまた,本件明細書における実施例18(b)に関する記載をみると,「比較のために,例えば豪州国特許出願第29896/95号(1996年3月7日公開)に記載されているような水性オキサリプラチン組成物を,以下のように調製した」(段落【0050】前段),「比較例18の安定性実施例18(b)の非緩衝化オキサリプラチン溶液組成物を,40℃で1ヶ月間保存した。」(段落【0073】)といった記載がある。ここで,豪州国特許出願第29896/95号(1996年3月7日公開)は,乙1発明に対応する豪州国特許であり,同特許は水性オキサリプラチン組成物に係る発明であるか 【0073】)といった記載がある。ここで,豪州国特許出願第29896/95号(1996年3月7日公開)は,乙1発明に対応する豪州国特許であり,同特許は水性オキサリプラチン組成物に係る発明であるから,上記各記載からは,実施例18(b)は,「実施例」という用語が用いられているものの,その実質は本件各発明の実施例ではなく,本件各発明と比較するために,「非緩衝化オキサリプラチン溶液組成物」,すなわち,緩衝剤が用いられていない従来既知の水性オキサリプラチン組成物を調製したものであると認めるのが相当である。そうすると,本件明細書において,緩衝剤を添加しない水性オキサリプラチン組成物は,本件各発明の実施例ではなく,比較例として記載されているというべきである。 また,本件明細書には,実施例1ないし17については,シュウ酸が付加されていることが明記されている。さらに,本件明細書では,実施例1ないし17について,添加されたシュウ酸のモル濃度が記載されているが, 解離シュウ酸を含むシュウ酸のモル濃度は記載されていない。 他方で,本件明細書には,「緩衝剤」である「シュウ酸」に,オキサリプラチンが分解して生じた解離シュウ酸が含まれることを示唆する記載はない。 以上からすると,本件明細書の記載では,解離シュウ酸については全く考慮されておらず,緩衝剤としての「シュウ酸」は添加されるものであることを前提としていると認められる。 エ前記1(2)のとおり,本件各発明は,乙1発明よりも不純物が有意に少ない,より安定な溶液組成物を提供することを目的とするものである。 ところが,本件明細書をみると,乙1発明と実質的に同一であると推認される実施例18において生成される不純物の量と比較して,シュウ酸を添加した実施例(ただし,実施例1及び8 的とするものである。 ところが,本件明細書をみると,乙1発明と実質的に同一であると推認される実施例18において生成される不純物の量と比較して,シュウ酸を添加した実施例(ただし,実施例1及び8を除く。なお,実施例1及び8は,後記(3)エのとおり,本件各発明の技術的範囲に含まれる実施例ではない。)において生成される不純物の量は有意に少ないことが示されている。 したがって,本件各発明は,乙1発明とは異なり,オキサリプラチン溶液組成物に緩衝剤を添加したことによって,不純物が少なく,より安定な溶液組成物を提供することができたことを特徴とする発明と考えるのが自然である。 オ証拠(乙5の4・5)によれば,原告は,乙1発明の発明者の一人である甲を発明者とする米国特許出願(出願番号10/482367)について米国特許商標庁に提出した平成19年(2007年)6月21日付け意見書及び平成20年(2008年)12月23日付け手続補正書において,「(本件特許の米国対応特許である)アンダーソン特許は,・・オキサリプラチンおよび注射用水をすでに含有する溶液に特に加えられたシュウ酸二水和物の量のみを報告している」「アンダーソン特許は,そのオキサリプラチン医薬溶液中のシュウ酸含有量の測定量について何も言っていませ ん。」と述べていることが認められ,これらから,上記意見書及び手続補正書を提出した時点における原告の認識は,本件各発明における「緩衝剤」が添加シュウ酸に限られるとの解釈と矛盾しないといえる。 (3) 原告の主張に対する判断ア原告は,「オキサリプラチン,有効安定化量の緩衝剤および製薬上許容可能な担体を包含する安定オキサリプラチン溶液組成物」との表現における「包含」が「つつみこみ,中に含んでいること」を意味するから,本件発明1 「オキサリプラチン,有効安定化量の緩衝剤および製薬上許容可能な担体を包含する安定オキサリプラチン溶液組成物」との表現における「包含」が「つつみこみ,中に含んでいること」を意味するから,本件発明1における「緩衝剤の量」は,「オキサリプラチン溶液組成物に現に含まれる全ての緩衝剤の量」を意味しており,「緩衝剤」は添加したものに限られないと主張する。 しかし,「包含」という文言の意味を原告の主張するとおりに解するとしても,「緩衝剤を包含する安定オキサリプラチン溶液組成物」とは,「緩衝剤が添加された安定オキサリプラチン溶液組成物」を意味するものと解し,また,「緩衝剤の量」とは「オキサリプラチン溶液組成物に添加された全ての緩衝剤の量」を意味するものと解することも何ら不自然ではないから,特許請求の範囲請求項1が「包含」という表現を用いていることをもって,本件発明1の「緩衝剤」に解離シュウ酸が含まれることを示しているということはできない。 また,本件発明1における「緩衝剤」はシュウ酸又はシュウ酸アルカリ金属塩であるが(構成要件F),「緩衝剤」がシュウ酸アルカリ金属塩である場合を考えると,シュウ酸アルカリ金属塩は,水溶液中で,シュウ酸イオンとアルカリ金属イオンに分解し,「シュウ酸アルカリ金属塩」が溶液中に存在するものではないから,この点においても,解離シュウ酸を緩衝剤と解するとはおよそ考えられない。 イ次に,原告は,本件明細書における「緩衝剤」の定義(段落【0022】)は,添加されたものに限定しておらず,また,「緩衝剤は,有効安定化量 で本発明の組成物中に存在する。」(段落【0023】)との記載からも,本件発明1における「緩衝剤」は溶液組成物中に「存在する」か否かによって検討されるべきもので,解離シュウ酸も除外されないと で本発明の組成物中に存在する。」(段落【0023】)との記載からも,本件発明1における「緩衝剤」は溶液組成物中に「存在する」か否かによって検討されるべきもので,解離シュウ酸も除外されないと主張する。 しかし,本件明細書における「緩衝剤」の定義が,添加された緩衝剤を前提としていることは前記(2)ウで述べたとおりであるし,また,「存在する」との文言は,シュウ酸が添加されたものに限定される場合であったとしても何ら不自然ではない。 ウさらに,原告は,本件明細書における「緩衝剤」の定義(段落【0022】)において,「オキサリプラチン溶液を安定化し,それにより望ましくない不純物,例えばジアクオDACHプラチンおよびジアクオDACHプラチン二量体の生成を防止するかまたは遅延させ得るあらゆる酸性または塩基性剤を意味する。」とあることを踏まえ,オキサリプラチンが分解して生じた解離シュウ酸と添加シュウ酸は,溶液中で区別することができず,いずれもオキサリプラチンの分解を抑制する働きをするのであるから,解離シュウ酸は上記定義に合致すると主張する。 しかし,シュウ酸を添加していないオキサリプラチン溶液において,解離シュウ酸が溶液中に存在するということは,オキサリプラチンが分解されて不純物が生じたことを意味する。また,オキサリプラチンは下式の反応により分解し,同式の右辺と左辺は平衡状態にあるから,オキサリプラチンの分解が進んで不純物の量の増加が止まったとすれば,単に平衡状態にあるということを意味するにすぎず,平衡状態に達したことをもってオキサリプラチン溶液が安定化されたなどということはできない。 ← そもそも,オキサリプラチン溶液中に,オキサリプラチンの分解により生じた解離シュウ酸が存在することは自然の理であるから,上 ラチン溶液が安定化されたなどということはできない。 ← そもそも,オキサリプラチン溶液中に,オキサリプラチンの分解により生じた解離シュウ酸が存在することは自然の理であるから,上記段落【0022】に定義された「緩衝剤」は,このように「解離シュウ酸を含むオキサリプラチン溶液」を安定化するものを意味するといえる。そうすると,上記定義によっても,「緩衝剤」には,解離シュウ酸を含まないという解釈と何ら矛盾するものではないというべきである。 以上のとおり,原告の上記主張は採用することができない。 エ原告は,本件明細書には,シュウ酸が添加されていない実施例18(b)が記載されているから,「緩衝剤」としての「シュウ酸」が添加されるものであることは前提となっておらず,また,実施例18(b)における不純物の量は,実施例1及び8と大差がないことからも,実施例18(b)が実施例であることは明らかであるとも主張するが,実施例18(b)が比較例であることは前記(2)ウのとおりである。 そして,構成要件Gにおけるモル濃度が添加した緩衝剤のモル濃度であるとすると,実施例1及び8は,本件発明1の技術的範囲に入らないものであるから,実施例1及び8と実施例18(b)における不純物の量に有意の差がないとしても何ら不自然ではない。 オしたがって,本件発明1の「緩衝剤」には解離シュウ酸が含まれるという原告の主張は採用することができない。 (4) そして,前記第2,2(8)イのとおり,被告各製品にはシュウ酸が添加されていないから,被告各製品は,構成要件B,F及びGを充足しない。 よって,被告各製品は,本件発明1に属しない。 なお,本件訂正において構成要件B及びFは訂正されていないところ,被告各製品は構成要件B及びFを充足しないから,仮 件B,F及びGを充足しない。よって,被告各製品は,本件発明1に属しない。なお,本件訂正において構成要件B及びFは訂正されていないところ,被告各製品は構成要件B及びFを充足しないから,仮に本件訂正が認められたとしても,被告各製品は,本件訂正発明1の技術的範囲に属しない。 3 争点(4)(本件発明2に基づく請求の可否)について 前記2のとおり,被告各製品は,本件発明1の技術的範囲に属しないから本件特許の「請求項1の組成物」に当たらず,構成要件Kを充足しない。よって,被告各製品は,本件発明2の技術的範囲に属しない。また,仮に,原告の主張する本件発明2の訂正が適法であるとしても,前記2のとおり被告各製品は構成要件B,F及びGを充足しないから,本件訂正発明2の技術的範囲に属しない。 4 結論以上によれば,その余の点につき判断するまでもなく,原告の請求はいずれも理由がないから,これを棄却することとし,主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第40部 裁判長裁判官 東海林保 裁判官 瀬孝 裁判官 勝又来未子 別紙 被告第一三共製品目録 1 オキサリプラチン点滴静注液50mg「DSEP」 2 オキサリプラチン点滴静注液100mg「DSEP」 3 オキサリプラチン点滴静注液200mg「DSEP」 別紙 被告富士フイルム製品目録 1 オキサリプラチン点滴静注液50mg「FFP」 2 オキサリプラチン点滴静注液100mg「FFP」 3 オキサリプラチン点滴静注液200mg「DSEP」 別紙 被告富士フイルム製品目録 1 オキサリプラチン点滴静注液50mg「FFP」 2 オキサリプラチン点滴静注液100mg「FFP」 3 オキサリプラチン点滴静注液200mg「FFP」 別紙 被告ニプロ製品目録 1 オキサリプラチン点滴静注液50mg「ニプロ」 2 オキサリプラチン点滴静注液100mg「ニプロ」 3 オキサリプラチン点滴静注液200mg「ニプロ」 別紙「特許公報」は省略
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