令和1(ネ)5306 謝罪広告等請求控訴事件

裁判年月日・裁判所
令和2年7月22日 東京高等裁判所 その他 東京地方裁判所 平成29(ワ)29650
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判決文本文15,301 文字)

- 1 - 主文 1 第一審被告の控訴に基づき,原判決中,第一審被告の敗訴部分を取り消す。 2 上記部分に係る第一審原告Aの請求を棄却する。 3 第一審原告B及び第一審原告Aの本件控訴をいずれも棄却す る。 4 訴訟費用は,第1,2審を通じ,第一審原告B及び第一審原告Aの負担とする。 事実 及び理由第1 控訴の趣旨 1 第一審被告の控訴の趣旨主文1,2項同旨 2 第一審原告B及び第一審原告A(以下,併せて「第一審原告ら」という。)の控訴の趣旨(1) 原判決中,第一審原告らの敗訴部分を取り消す。 (2) 第一審被告は,第一審原告Bに対し,5500万円及びこれに対する平成29年9月22日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 (3) 第一審被告は,第一審原告Aに対し,2090万円及びこれに対する平成29年2月22日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払 え。 (4) 第一審被告は,別紙1記載の謝罪広告を同記載の条件で,別紙2記載の新聞の各朝刊社会面及びCに掲載せよ。 第2 事案の概要(略語は,新たに定義しない限り,原判決の例による。以下,本判決において同じ。) 1 本件は,第一審原告らが,第一審被告に対し,第一審被告が平成29年7- 2 - 月27日発行の週刊誌「C」に掲載した記事等によって,第一審原告らの名誉が毀損されたと主張して,民法709条に基づき,第一審原告Bについて5500万円,第一審原告Aについて2200万円の各損害の賠償及びそれぞれ平成29年9月22日(不法行為の後の日である訴状送達の日の翌日)から支払済みまで民法(平成29年法律第44号により改正前のもの)所定 の年5分の割合による遅延損害金の支払並びに名誉回 それぞれ平成29年9月22日(不法行為の後の日である訴状送達の日の翌日)から支払済みまで民法(平成29年法律第44号により改正前のもの)所定 の年5分の割合による遅延損害金の支払並びに名誉回復措置として民法723条に基づき,謝罪広告の掲載を求める事案である。 2 原審は,第一審原告Aに対しては名誉毀損が成立するが,第一審原告Bに対しては成立しないと判断し,第一審原告Aの請求を110万円及びこれに対する遅延損害金の支払を認める限度で認容し,その余の請求を棄却し,第 一審原告Bの請求を全て棄却した。これに対し,第一審被告及び第一審原告らがそれぞれ控訴した。 3 争いのない事実等,争点及びこれに関する当事者の主張は,次のとおり付加訂正し,後記4のとおり当審における当事者の主張を加えるほかは,原判決の「事実及び理由」中,「第2 事案の概要」1ないし3(原判決2頁1 6行目から11頁6行目まで)に記載のとおりであるから,これを引用する。 (1) 原判決2頁21行目の「目的とする」の次に「認定」を,同頁22行目の「法人である。」の次に「第一審原告Bは,平成17年5月30日付けで,国税庁長官から,有効期間を平成17年6月1日から平成19年5月31日までとして認定特定非営利活動法人として認定され,平成 29年4月27日当時も認定特定非営利活動法人であった。」を,同頁23行目の「甲1」の次に「,甲16」を,それぞれ加える。 (2) 原判決3頁9行目の「35ページに,」の次に「本判決別紙3のとおり,」を加える。 (3) 原判決5頁7行目に改行の上,次のとおり加える。 「(4) 特定非営利活動促進法(以下「促進法」という。)等の規定- 3 - 促進法28条及び54条は,本判決別紙4のとおり,同法施行規則 5頁7行目に改行の上,次のとおり加える。 「(4) 特定非営利活動促進法(以下「促進法」という。)等の規定- 3 - 促進法28条及び54条は,本判決別紙4のとおり,同法施行規則32条は,本判決別紙5のとおり,それぞれ定めている。」(4) 原判決5頁10行目の「認められた場合に,」の次に「その前提事実について」を加える。 (5) 原判決5頁12行目を「(3) 損害の発生及びその額並びに謝罪広告の 必要性」と改める。 (6) 原判決6頁18行目から19行目を次のとおり改める。 「 第一審原告Aによる第一審原告Bからの取得は,「A」に対してではなく,「D」に対する業務委託契約の支払という名目で行われているとともに,法律上の記載義務に反してその取引が報告書に記載されてい ないため,第一審原告Bの内部関係者にも,報告書を見た市民にも,第一審原告Aが第一審原告Bから理事長報酬以外に金員を取得していることが明らかでない。そして,本件記事等は,第一審原告Aが,Dを経由させる方法により,第一審原告Bから理事長報酬以外に約7000万円を自らの口座に送金させてひそかに自分のものにしたことを指摘するも のである。」(7) 原判決7頁4行目の「認められた場合に,」の次に「その前提事実について」を加える。 (8) 原判決10頁1行目の「認識しえた」を「認識し得た」と改める。 (9) 原判決10頁8行目を「(3) 争点(3)(損害の発生及びその額並びに 謝罪広告の必要性)について」と改める。 (10) 原判決10頁10行目に改行の上,次のとおり加える。 「 本件目次及び本件見出しには,「元E次官が顧問 B理事長に7千万円“横領”疑惑」と記載され,第一審原告Bそのものが対象とされている。また,本件 判決10頁10行目に改行の上,次のとおり加える。 「 本件目次及び本件見出しには,「元E次官が顧問 B理事長に7千万円“横領”疑惑」と記載され,第一審原告Bそのものが対象とされている。また,本件記事等は,2003年以降,具体的には約15年とい う長期間にわたって,第一審原告Bは,第一審原告Aのダミー会社であ- 4 - る「D」に業務委託料として総額7000万円を支払い,同金額を第一審原告Aは横領していたというのであって,これは第一審原告Aの個人的非行と捉えられる内容ではなく,第一審原告Bのガバナンスの信用性に直接関わるものである。」(11) 原判決10頁末行目に改行の上,次のとおり,それぞれ加える。 「ウ謝罪広告慰謝料請求の本質はあくまで金銭の支払請求であり,それによる名誉の回復というのも,その間接的,付随的な事実上の効果にすぎず,これにより完全に名誉が回復されるというものでは決してない。 したがって,本件において,第一審被告に謝罪広告を命じること は,第一審原告Aに名誉を実効的に回復させるために必要不可欠である。」 4 当審における当事者の主張(1) 第一審被告仮に本件記事等が意見ないし論評ではなく,事実の摘示をしていると 認められるとしても,その事実については,従前,意見ないし論評の前提事実に関して主張していたとおり,真実性又は相当性が認められる。 (2) 第一審原告ら本件記事等は,意見ないし論評ではなく,事実の摘示をしているのであり,その事実については,従前,意見ないし論評の前提事実に関して も主張していたとおり,真実性及び相当性が認められない。 第3 当裁判所の判断 1 当裁判所は,第一審原告Bの請求は,原審同様棄却すべきであると判断するが,第一審 論評の前提事実に関して も主張していたとおり,真実性及び相当性が認められない。 第3 当裁判所の判断 1 当裁判所は,第一審原告Bの請求は,原審同様棄却すべきであると判断するが,第一審原告Aの請求は,原審と異なり,全て棄却すべきものと判断する。その理由は,次のとおりである。 2 本件記事等の掲載に至る経緯等は次のとおり付加訂正するほかは,原判決- 5 - の「事実及び理由」の「第3 争点に対する判断」1(原判決11頁8行目から14頁12行目まで)に記載のとおりであるから,これを引用する。 (1) 原判決12頁5行目の「平成18年8月1日」を「平成17年4月1日」と改める。 (2) 原判決12頁7行目に改行の上,次のとおり加える。 「(3)ア本件掲載誌発行時にC編集部の契約記者であったF(以下「F記者」という。)は,平成29年6月頃,第一審原告Bの内部関係者と面談して,アルバイトに対する労働基準法違反とかお金の流れが不透明であるとか問題点の指摘を受けるとともに内部資料(出納帳,スタッフ給与書類,源泉徴収票等)を入手して,第一 審原告Bに関心を持ち,同年7月13日頃,本件記事等の取材に着手した。 F記者は,第一審原告Bの平成26年度の事業報告書(乙1の1),平成27年度の事業報告書(乙2の1),平成26年度及び平成27年度の各54条書類(乙4,5の各1)を取得した。 前記各54条書類には,それぞれ「調査研究・編集費」として466万6656円,「調査研究・編集費業務委託料」として545万2623円が支出されていることが記載されていたものの,支出先は黒塗りされていた。また,前記各54条書類には,「役員,社員,職員若しくは寄附者又はこれらの者の親族等との取引」 には,いず 5万2623円が支出されていることが記載されていたものの,支出先は黒塗りされていた。また,前記各54条書類には,「役員,社員,職員若しくは寄附者又はこれらの者の親族等との取引」 には,いずれも「なし」と記載されていた。 一方,F記者が別途入手した平成26年度の54条書類(乙8)には墨塗がなく,「調査研究・編集費」としての466万6656円の支出先は,「D」「東京都足立区ab-c-d-e」と記載されていた。そして,Dについては,登記が確認できず,その 所在地は第一審原告Aの前の住所で,Dは第一審原告Aと同一と- 6 - 判断した。 また,F記者が取材の過程で入手した第一審原告Bの平成27年4月から平成29年3月までの出納帳(乙14,15の各1ないし12)によれば,第一審原告Bは,Dに対し,平成27年4月から同年8月までは毎月38万8888円,同年9月から平成 29年3月までは毎月50万1169円を,それぞれ支払っていることが判明した。」(3) 原判決12頁8行目の「(3)」から9行目の「という。)」までを「イF記者」と改める。 (4) 原判決12頁21行目以下の「被告A」を,全て「第一審原告A」と 改める。 (5) 原判決13頁12行目及び同頁18行目の「平成26年度から」をいずれも「少なくとも平成26年度から」と改め,同頁17行目の「13の1」及び同頁20行目の「3の2」の次に,それぞれ「,第一審原告A」を加える。 (6) 原判決14頁9行目の「問い合わせ」を「問合せを」と改める。 3 争点(1)(本件記事等の掲載は,第一審原告らに対する名誉毀損に当たるか)及び当審における当事者の主張について(1) 第一審原告らは,第一審原告ら主張摘示事実のとおり,本件 を」と改める。 3 争点(1)(本件記事等の掲載は,第一審原告らに対する名誉毀損に当たるか)及び当審における当事者の主張について(1) 第一審原告らは,第一審原告ら主張摘示事実のとおり,本件記事等は,「第一審原告A(第一審原告Bの理事長)がDなるダミー会社を用いて, 業務委託料を名目として,同業務の事実がないにもかかわらず,第一審原告Bから総額7000万円を自己の個人名義の口座に振り込ませて,同金員を着服し,黒塗りのハイヤーを使用するなどして,上記着服した金員を費消している」との事実を摘示して第一審原告らの名誉を侵害したと主張している。 これに対し,第一審被告は,本件記事等は,「第一審原告Aが,Dを- 7 - 経由させる方法により,第一審原告Bから理事長報酬以外に約7000万円を自らの口座に送金させて,ひそかに自分のものにした」ことを指摘するものであり,本件記事等にいう「横領」との表現は,法的な見解の表明であり,「横領の疑惑がある」との表現も法的な見解の表明であって,事実を摘示したものではなく,意見ないし論評(本件論評)を表 明したものであると主張し,仮にそうでないとしても,本件各記事の摘示する事実については,真実性又は相当性が認められると主張している。 (2) 名誉毀損の判断基準等についてそこで,本訴においては,事実摘示による名誉毀損の場合と,意見ないし論評による名誉毀損が問題になり,その違法性の判断基準について 検討を加える必要がある。 そこで,まず名誉毀損を理由とする損害賠償請求について検討するに,事実を摘示しての名誉毀損にあっては,その行為が公共の利害に関する事実に係り,かつ,その目的がもっぱら公益を図るものである場合に,摘示された事実がその重要な部分において真実であることの 検討するに,事実を摘示しての名誉毀損にあっては,その行為が公共の利害に関する事実に係り,かつ,その目的がもっぱら公益を図るものである場合に,摘示された事実がその重要な部分において真実であることの証明があっ たときには,その行為には違法性がなく,仮にその事実が真実であることの証明がなくても,行為者においてその事実を真実と信ずるについて相当の理由があれば,その故意又は過失が否定され,不法行為は成立しないものと解するのが相当である(最高裁判所昭和37年(オ)第815号昭和41年6月23日第1小法廷判決・民集20巻5号1118頁 参照)。もっとも,書籍の執筆,出版を含む表現行為一般について公益を図ることが唯一の動機であることが必要であるとすることは,実際上困難であるから,ここにいう「その目的がもっぱら公益を図るものである場合」というのは,書籍の執筆,出版について,他の目的を有することを完全に排除することを意味するのではなく,その主要な動機が公益 を図る目的であれば足りると解するのが相当である。 - 8 - また,ある書籍中の記述が他人の社会的評価を低下させるものであるかどうかは,当該記述についての一般の読者の普通の注意と読み方とを基準として判断すべきである(最高裁判所昭和29年(オ)第634号昭和31年7月20日第二小法廷判決・民集10巻8号1059頁参照)。 ところで,公然と事実を摘示した場合に限定する刑法230条1項の 名誉毀損罪と異なり,民事上の名誉毀損は,人の品性,徳行,名声,信用等の人格的価値について社会から受ける客観的評価を違法に低下させることによって成立するものであり,侵害の手段は格別限定されないから,意見ないし論評によっても,民事上の名誉毀損は,成立し得る。 そして,ある事実を基礎とし 会から受ける客観的評価を違法に低下させることによって成立するものであり,侵害の手段は格別限定されないから,意見ないし論評によっても,民事上の名誉毀損は,成立し得る。 そして,ある事実を基礎としての意見ないし論評の表明による名誉毀 損にあっては,その行為が公共の利害に関する事実に係り,かつ,その目的がもっぱら公益を図ることにあった場合に,その意見ないし論評の前提としている事実が重要な部分について真実であることの証明があったときには,人身攻撃に及ぶなど意見ないし論評としての域を逸脱したものでない限り,その行為は違法性を欠くものというべきである(最高 裁判所昭和55年(オ)第1188号昭和62年4月24日第2小法廷判決・民集41巻3号490頁参照)。そして,仮にその意見ないし論評の前提としている事実が真実であることの証明がないときにも,行為者においてその事実を真実と信ずるについて相当の理由があれば,その故意又は過失が否定され,不法行為は成立しないものと解するのが相当 である(最高裁判所平成6年(オ)第978号平成9年9月9日第3小法廷判決・民集51巻8号3804頁参照)。 (3) 本件記事の性格の確定の必要性,本件記事等が事実を摘示したものであることは,次のとおり付加訂正するほかは,原判決「第3 争点に対する判断」2(1)アないしウ(14頁22行目から17頁13行目)のと おりであるので,引用する。 - 9 - ア原判決14頁22行目の「問題とされている表現が」を「以上(2)のとおり,問題とされている表現が」と改める。 イ原判決14頁24,25行目の「必要となるが,」の次に「前記(2)のとおり,」を加え,15頁1行目の「(最高裁」から同頁2行目の「参照)」までを削る。 ウ原判決16頁1 」と改める。 イ原判決14頁24,25行目の「必要となるが,」の次に「前記(2)のとおり,」を加え,15頁1行目の「(最高裁」から同頁2行目の「参照)」までを削る。 ウ原判決16頁1行目の「原告Aが,」から4行目の「存在する」までを次のとおり改める。 「第一審原告Bの理事長である第一審原告Aが,第一審原告Bの事業報告書に役員及びその近親者との取引については明示しなければならないにもかかわらず,不正にDなるダミー会社を経由させる方法によ り,第一審原告Bから正当な報酬以外に7000万円を自らの口座に送金させて不正な取得をしたことを強くうかがわせる事実が存在する」エ原判決16頁24行目の「不正な方法により」から同頁25行目の「のであって,」までを「不正な手段によりひそかに領得する行為自体を表現する場合にも使用され,そのように理解されるのであって,」 と改める。 オ原判決16頁26行目,17頁1行目の「横取りした」を「ひそかに領得した」と改める。 カ原判決17頁6行目の「会社成り」を「会社なり」と改める。 キ原判決17頁8行目の「横取り」を「ひそかに領得」と改める。 (4) 本件記事等による事実摘示が第一審原告Aの名誉を毀損することは,原判決17頁16行目の2つの「横取り」をいずれも「ひそかに領得した」と改めるほか,原判決「第3 争点に対する判断」2(2)(17頁14行目から17頁19行目)のとおりであるので,これを引用する。 (5) 本件記事等による事実摘示が第一審原告Bの名誉を毀損するか否かに ついて検討するに,本判決で付加訂正の上で引用する原判決第3・2(1)- 10 - イで判示したとおり,本件記事等は,第一審原告Bの理事長である第一審原告Aが,第一審原告Bの事業報 に ついて検討するに,本判決で付加訂正の上で引用する原判決第3・2(1)- 10 - イで判示したとおり,本件記事等は,第一審原告Bの理事長である第一審原告Aが,第一審原告Bの事業報告書に役員及びその近親者との取引については明示しなければならないにもかかわらず,不正にDなるダミー会社を経由させる方法により,第一審原告Bから正当な報酬以外に7000万円を自らの口座に送金させて不正な取得をしたことを強くうか がわせる事実が存在するとの事実を摘示するものであるところ,それは,社会的に適正な運営がなされることが求められる認定特定非営利活動法人である第一審原告Bにおいて,不適切な運営がなされているとの印象を与えるものである。 したがって,本件記事等は,第一審原告Bに対する関係においても, その社会的評価を低下させる名誉毀損に当たると認められる。 (6) そこで,次に本件記事等が事実を摘示し,第一審原告らの名誉を毀損したことを前提に,前記(2)に記載した違法性阻却事由について検討を加える。 まず,本件記事等が公共の利害に関する事実に係り,かつ,その目的 がもっぱら公益を図るものであるかについて検討するに,第一審原告Bは多額の寄付金や補助金により運営されているのであるから(認定事実(5)),これについて不適切,不公正な金銭の流れが生じていないかどうかは,公衆の正当な関心が寄せられる事項であり,本件記事等で報じた内容は,公共の利害に関する事実であると認められる。そして,第一審 被告は,報道機関として公衆の正当な関心に応えることになると判断して本件記事等を掲載したもので,本件記事等の掲載は公益を図る目的に基づくものと推認され,これを覆すに足りる証拠はない。 よって,事実の公共性及び第一審被告の公益目的も 関心に応えることになると判断して本件記事等を掲載したもので,本件記事等の掲載は公益を図る目的に基づくものと推認され,これを覆すに足りる証拠はない。 よって,事実の公共性及び第一審被告の公益目的も認められる。 (7)ア次に本件記事等により摘示された事実がその重要な部分において真実 であるか,仮にそうでないとしても,第一審被告において,その事実- 11 - を真実であると信じるについて相当な理由があるかについて判断する。 本件記事等が摘示している事実の重要な部分は,①第一審原告BがDに業務委託料として月額約50万円を支払っていること,②Dは第一審原告Aのダミーであること,③平成15年から始まったDとの業務委託に基づいて第一審原告Bから支払われた金額は,推計で約70 00万円に上ること,④特定非営利活動法人においては,代表者が自分の会社と取引をする場合は,事業報告書等にこれについて記載する義務があるにもかかわらず,第一審原告Bの事業報告書等には,同項目に該当する取引先としてDの記載がなく,促進法違反の疑いがあること,⑤以上によれば,第一審原告Bにおいては金銭の流れが不透明 で,第一審原告Aには,理事長報酬以外に不当に報酬を得ている可能性があり,「“横領”疑惑」がある,ということといえる。そこで,以下,これらの各事実(以下,それぞれ「本件記事等摘示事実①」などという。)について検討する。 イ第一審原告Bは,Dこと第一審原告Aに対し,平成17年4月1日 から平成29年3月31日までにおいて,業務委託報酬として合計5923万9899円の業務委託報酬を支払ったものであり(原判決第3・1(2),以下,原判決第3・1が認定する事実を「認定事実」という。),その1か月の平均額は,約41万1388円となる(甲10 計5923万9899円の業務委託報酬を支払ったものであり(原判決第3・1(2),以下,原判決第3・1が認定する事実を「認定事実」という。),その1か月の平均額は,約41万1388円となる(甲10)。 また,第一審原告Bの担当者Gは,平成27年3月までの月額の業務 委託料を問うF記者に対し,基本的には月額44万円で推移しているなどと回答したこと(認定事実(3))も認められる。 そうすると,平成17年4月1日から平成29年3月31日までの業務委託料の1か月の平均額は約41万1388円と50万円を下回り,不正確な面はあるものの,第一審原告Bの担当者の認識は月額4 4万円で推移しているものであり,また本件記事等ときには- 12 - 月額50万1169円が支出されているのであるから,これが重大な誤りであるとまではいい難い。 以上によれば,第一審原告BはDに平均して業務委託料として月額40万円を超え,50万円未満の多額の金員を支払っていると認められ,本件記事等摘示事実①は,その摘示された重要な部分において真 実であると認められるというべきであり,仮にそうでないとしても,出納帳の検討,Gに対する取材結果等からみても,第一審被告が本件記事等摘示事実①が真実であると信ずるには相当な理由があったというべきである。 ウ Dは,第一審原告Aが個人で受注する仕事の収入を管理するために 設立した個人事務所の屋号であり(認定事実(1)),第一審原告Bとの取引のみにその名称が使用され,第一審原告A個人名義の口座と第一審原告Aの自宅を使用して活動し,従業員はいないというのである(乙8,13,第一審原告A14,15,17,19頁)。また,前記のとおり,Dは,第一審原告Aの屋号であって会社ではないが,本件記 事は,Dについて 用して活動し,従業員はいないというのである(乙8,13,第一審原告A14,15,17,19頁)。また,前記のとおり,Dは,第一審原告Aの屋号であって会社ではないが,本件記 事は,Dについて「ダミー会社」と表現する部分があるものの,他方で,これに会社登記がないことも明記しており(原判決第2・1(2)イ(エ),以下,原判決第2・1記載の事実を「前提事実」という。),要するに,全体として,専らDが第一審原告Aとは別個の経済主体であるかのように扱われているとの事実を述べていることが容易に理解で きる。Dは,第一審原告Aの屋号にすぎないが,第一審原告Bは,これを対外的に明らかにせず,第一審原告Aとは別個の経済主体であるかのような表記をしていたものである(認定事実(4))。そうすると,これを「第一審原告Aのダミー」と表現した本件記事等摘示事実②は,真実であると認めるのが相当である。 よって,本件記事等摘示事実②は,真実性が認められる。 - 13 - エ本件記事等摘示事実③の枢要部は,第一審原告BがDとの業務委託契約に基づき推計で約7000万円の支払をしたことにあるところ,第一審原告Bは,Dこと第一審原告Aに対し,平成17年4月1日から平成29年3月31日までにおいて,業務委託報酬として合計5923万9899円の業務委託報酬を支払っていた上(認定事実(2)), 認定特定非営利活動法人としての認定を受ける前である平成16年8月1日から平成17年3月31日までにも,合計316万円を支払ったことが認められ(甲10),以上の合計は,6239万9899円となる。そして,前記合計額と「7000万円」とは差があり,それは不正確な表現と評価できないではないが,そもそも本件記事等では, 「推計で約」7000万円と表現さ 合計は,6239万9899円となる。そして,前記合計額と「7000万円」とは差があり,それは不正確な表現と評価できないではないが,そもそも本件記事等では, 「推計で約」7000万円と表現されているものであり,また,実際の支払額も6000万円を超え,7000万円未満であるから,本件記事等摘示事実③の重要な部分に誤りがあるとまではいえない。 また,本件記事等摘示事実③においては,第一審原告BとDとの間の業務委託関係は平成15年から始まったとしているところ,第一審 原告BとDは平成16年8月1日に業務委託契約を締結しており(認定事実(2)),それ以前に両者間に業務委託関係があったことを認めるに足りる証拠はない。しかし,本件記事等摘示事実③の部分は前記のとおりである上,その経過年数に比較すると1年程度の前記時点のずれは,本件記事等摘示事実③の重要な誤りとはいえない。 以上によれば,本件記事等摘示事実③は,その重要な部分において真実であると認められる。 オ(ア) 促進法54条2項3号は,認定特定非営利活動法人は,都道府県又は指定都市の条例で定めるところにより,前事業年度の収益の明細その他の資金に関する事項,資産の譲渡等に関する事項,寄附金 に関する事項その他の内閣府令で定める事項を記載した書類(54- 14 - 条書類)をその事務所に備え置かなければならないと定め(別紙4),同法施行規則32条3号ロは,促進法54条2項3号に規定する内閣府令で定める事項の一つとして,「役員等との取引」を定めている(別紙5)。そして,Hにおける54条書類の書式には,「3 取引の内容に関する事項」欄の「(3) 役員,社員,職員若しくは寄附 者又はこれらの者の親族等との取引」として,その取引の内容を記載する欄が設けられてい ,Hにおける54条書類の書式には,「3 取引の内容に関する事項」欄の「(3) 役員,社員,職員若しくは寄附 者又はこれらの者の親族等との取引」として,その取引の内容を記載する欄が設けられている(甲11,12,13の1)。 また,促進法28条1項は,特定非営利活動法人は,都道府県又は指定都市の条例で定めるところにより,前事業年度の事業報告書等を作成し,これらをその事務所に備え置かなければならないと定 めている(別紙4)。そして,Hにおける促進法28条関係の事業報告書の書式には,各年度の「計算書類の注記」の「7 役員及びその近親者との取引の内容」として,その取引の内容を記載する欄が設けられている(乙1の1,2の1,3の1)。 以上によれば,本件記事等摘示事実④のうち,特定非営利活動法 人においては,代表者が自分の会社と取引をする場合は,事業報告書等にこれについて記載する義務があるとの摘示は,真実性が認められる。 (イ) 第一審原告Bは,平成28年度まで,54条書類の前記(ア)の「(3)役員,社員,職員若しくは寄附者又はこれらの者の親族等との取 引」欄には,いずれも「なし」と記載した(認定事実(4))。これは,促進法54条2項3号,同法施行規則32条3号ロに反するものである。 また,第一審原告Bは,平成28年度まで,促進法28条関係の事業報告書における計算書類の注記において,前記(ア)の「7 役員 及びその近親者との取引の内容」欄に,「なし」と記載した(認定- 15 - 事実(4))。これは,Hにおける事業報告書の書式が前記(ア)のとおりのものであることに照らせば,促進法28条1項に反するものであることが推認される。 以上によれば,本件記事等摘示事実④のうち,第一審原告Bの事業報告書等に促 る事業報告書の書式が前記(ア)のとおりのものであることに照らせば,促進法28条1項に反するものであることが推認される。 以上によれば,本件記事等摘示事実④のうち,第一審原告Bの事業報告書等に促進法違反の疑いがあるとの摘示は,真実であると認 められる。 (ウ) 第一審原告Bは,54条書類の「3 取引の内容に関する事項」欄の「(2)費用の生ずる取引の上位5者」欄には,Dを記載していた(認定事実(4))。しかし,先に判示したとおり,Dは第一審原告Aの屋号にすぎず,法人格も取得していないのであるから,制度の趣 旨としては第一審原告Aと書くべきであり,そうでなくとも,Dこと第一審原告Aと書くべきである。本件記事は,これを全体として読むならば,以上のような記載がなされていないことを指摘するものであると容易に理解できるところ,54条書類及び事業報告書の記載は前記(イ)のとおりなのであるから,前記のとおり54条書類に Dについて記載した部分があることに触れていないことは,本件記事等摘示事実④の摘示において重要な部分とはいえない。 (エ) 以上に対し,第一審原告Aは,原審における本人尋問において,要旨,「Hから,Dとの取引を役員との取引として記載しなくていいという指示を受けていた。しかし,平成29年に本件記事等が掲 載されるという問題があってから,改めてHに問い合わせたところ,今後は記載するように指導があった。」と供述し,その作成に係る陳述書にもその趣旨の記載をする(甲23の13頁,第一審原告A11,24,34,35頁)。 しかし,54条書類の記載内容は,促進法54条2項3号,同法 施行規則32条3号ロで定められているのであり,もとよりHの方- 16 - 針に左右されるものではなく,第一審原告Aの前記供 しかし,54条書類の記載内容は,促進法54条2項3号,同法 施行規則32条3号ロで定められているのであり,もとよりHの方- 16 - 針に左右されるものではなく,第一審原告Aの前記供述により前記(ウ)の認定は左右されない。 また,第一審原告Aの前記供述の内容は,何らこれを裏付ける証拠がなく,Hから指示を受けた時期,経緯,双方の担当者などの重要部分について明らかにしない,かなり曖昧なものである上(第一 審原告A25ないし30頁),従前第一審原告Bがしていた,54条書類には,資産の譲渡,資産の貸付,役務の提供を記載する必要があるが,第一審原告Bにおいては,Dに委託した業務は,役務の提供に当たらないと解釈していたので,なしと記載したとする説明とも齟齬するものである(乙16の2頁,第一審原告A25,26 頁)。そして,54条書類の記載内容は,前記のとおり法定されている上,54条書類及び促進法28条関係の事業報告書のいずれについても,Hにおける書式には役員との取引の内容を記載する欄が設けられているのであるし,かかる取引の存否及び内容を明らかにすることは,特定非営利活動法人の活動の適正を担保する上で重要 なことといえるから,Hがその記載をあえてしなくてよいと指導したというのは,不自然,不合理である。 以上によれば,第一審原告Aの前記供述は信用性が認められず,採用することができない。 (オ) 以上によれば,本件記事等摘示事実④は,その重要な部分におい て真実性が認められる。 カ本件記事においては,第一審原告AがDの名義で業務委託報酬を受領していることについて,第一審原告B自身は了承していることを明記している(別紙3,前提事実(2)イ(カ))。しかし,第一審原告Bは,多額の寄付金及び補助金により運 告AがDの名義で業務委託報酬を受領していることについて,第一審原告B自身は了承していることを明記している(別紙3,前提事実(2)イ(カ))。しかし,第一審原告Bは,多額の寄付金及び補助金により運営されている特定非営利活動法人な のであるから(認定事実(5)),これらを原資としてその代表者理事で- 17 - ある第一審原告Aに対してした金銭の支払を,法律上の義務に従って対外的にも明らかにすることは,前記寄付金及び補助金の各拠出者において拠出の判断をする上においても,また,前記補助金の拠出の相当性について社会的に評価する上においても,重要なことであったといえる。しかるところ,前記エのとおり,第一審原告Bにおいては, 第一審原告Aに対する金銭の支払のうち,少額とはいえない部分について,対外的に明らかにしていなかったものである。 そうすると,本件記事等摘示事実⑤のうち,第一審原告Bの金銭の流れが不透明であるとの摘示及び第一審原告Aが理事長報酬以外に得ていた前記業務委託報酬が不当なものである可能性があるとの摘示は, 真実であると認められる。 ところで,横領という言葉は,辞書等では,「他人または公共のものを不法に奪うこと」(甲26),「他人の財産や公共の金品を不正な手段を用いてひそかに自分のものにすること」(乙21)とされているところ,F記者も,横領の意義について,「不適切な形で,会社 なり組織なりのお金を得ること」だと証言している。こうした辞書等の記載も踏まえて一般の読者の普通の注意と読み方に従って読むならば,本件記事等は,前記の事実関係をもって,第一審原告Aが,前記寄付金及び補助金等を原資とする金員を,その拠出者の認識を免れて,あるいはこれに対する社会的評価を免れて,取得した可能性があり, これを不 事等は,前記の事実関係をもって,第一審原告Aが,前記寄付金及び補助金等を原資とする金員を,その拠出者の認識を免れて,あるいはこれに対する社会的評価を免れて,取得した可能性があり, これを不正な方法によりひそかに取得したという意味での「“横領”疑惑」があると表現したと理解できるのであり,その摘示にも真実性が認められるものといえる。 なお,本件記事等のうちの本件広告は,読者には以上のような本件記事の記載内容がわからない状態で,「元E次官が顧問 B理事長に 7千万円“横領”疑惑」との広告がなされたものである。しかし,本- 18 - 件広告自体からは,これが第一審原告Bや第一審原告Aの記事であるかどうかも不明であるから,第一審原告らに対する名誉毀損の成否について検討するに当たっては,本件広告のみを独立して検討する必要はなく,本件記事等を全体として検討するのが相当である。 以上によれば,本件記事等摘示事実⑤にも真実性が認められる。 キ以上によれば,本件記事等が摘示している事実の重要な部分について,真実性が認められ,仮にそうでない部分があるとしても,第一審被告において本件記事等が摘示している事実を信ずるには相当な理由があったというべきである。 4 その他,第一審原告らは縷々主張するが,以上の認定,判断を左右するも のはない。 以上によれば,その余の点を判断するまでもなく,第一審原告らの請求はいずれも理由がない。 第4 結論よって,第一審被告の控訴に基づき,原判決中,第一審被告敗訴部分を取 り消して,同部分に係る第一審原告Aの請求を棄却し,第一審原告らの控訴はいずれも理由がないから棄却することとして,主文のとおり判決する。 東京高等裁判所第1民事部 同部分に係る第一審原告Aの請求を棄却し,第一審原告らの控訴はいずれも理由がないから棄却することとして,主文のとおり判決する。 主文 東京高等裁判所第1民事部 裁判長裁判官深見敏正 裁判官内田博久 裁判官澤田久文

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