令和5(わ)1611 傷害致死被告事件

裁判年月日・裁判所
令和6年12月25日 千葉地方裁判所
ファイル
hanrei-pdf-93783.txt

判決文本文2,841 文字)

令和5年第1611号傷害致死被告事件令和6年12月25日千葉地方裁判所刑事第5部宣告 主文 被告人を懲役3年に処する。 未決勾留日数中300日をその刑に算入する。 理由 (罪となるべき事実)被告人は、令和4年2月4日午後11時10分頃から同日午後11時27分頃までの間、千葉県我孫子市(住所省略)当時の被告人方において、実子であるA(当時3歳)に対し、その頭部を覆うように全身を掛け布団で巻いた上、その周囲を敷き布団で巻いて放置する暴行を加え、よって、同月5日午前1時28分頃、同県柏市(住所省略)B病院において、同人を吐物吸引による窒息により死亡させた。 (量刑の理由)被告人は、当時3歳の被害者を大人用の掛け布団の短辺と平行にその頭部が中央付近に来るように横たえ掛け布団で何重にも巻いた上、更にその周囲を敷き布団でも巻いて放置したものである。被害者が身動きできず、その鼻や口が布団で完全に覆われた状態で約17分間も放置されていたことからすれば、本件犯行は被害者を窒息死させる危険性が高い行為であったといえる。 本件犯行の経緯や動機についてみるに、被告人は、被害者の出産後しばらくの間実家で生活し、平成30年の年末頃から被害者及び元夫との同居を開始したが、家事や育児について元夫からの協力を十分に得られず、令和元年12月頃に元夫の出会い系サイト利用が発覚したことをきっかけに家事等の負担を強く感じるようになった。令和3年9月頃から被害者が保育園に通うことになり、被告人の育児負担は軽くなったものの、被告人が令和2年夏頃から始めた動画編集の仕事を深夜まで行 い、登園準備を整えられないときには、被告人が自宅で被害者の面倒を見ることもあった。いわゆるイヤイヤ期で 児負担は軽くなったものの、被告人が令和2年夏頃から始めた動画編集の仕事を深夜まで行 い、登園準備を整えられないときには、被告人が自宅で被害者の面倒を見ることもあった。いわゆるイヤイヤ期であった被害者は、トイレトレーニングを嫌がり大声で泣き叫ぶなどしていたところ、令和3年夏頃には、階下の住民が騒音に応じて天井を突くようになり、同年11月頃には、被害者の泣き声を聞き児童虐待を疑った近隣住民からの通報を受け、市役所職員が自宅を訪問するということがあった。被告人は、遅くとも市役所職員の訪問を受けた頃から被害者が大声で泣いた際に手っ取り早く静かにさせようとして、被害者を布団で巻くようになり、その後も月に1回よりは多い頻度でこうした行為を繰り返していた。被告人は、本件当日、トイレトレーニングに失敗したことで怒られた被害者が泣くなどし、階下の住民から天井を突かれたこともあって、被害者を布団で巻いたが、被害者が大人しくなったため布団をほどいた。元夫がドライブに出かけた後、被害者が寝ずに大騒ぎを始めたことから、被告人は被害者を静かにさせようとして判示の行為に及んだ。 こうした犯行の経緯や動機を踏まえて、被告人に対する非難可能性の程度について検討する。確かに、被告人が家事や育児を基本的に一人で行う中で、過去にいじめを受けた経験から人間不信が強く、物事を悪く受け止める傾向があり保育園や行政にも十分に頼ることができずに、強い負担感を覚えていたことは理解できる。しかし、被告人が保育園を十分に利用できなかったのは、動画編集の仕事にのめり込んだことも原因となっており、実家に更なる手助けを求めることもできたことからすると、自らの力で全く状況を改善することができなかったというわけではない。 また、被告人が本件犯行に及んだのは被害者を静かにさせようとしたからであ おり、実家に更なる手助けを求めることもできたことからすると、自らの力で全く状況を改善することができなかったというわけではない。 また、被告人が本件犯行に及んだのは被害者を静かにさせようとしたからであり、決して被害者を痛めつけようとしたわけではなく、その背景には、前記の性格傾向により、市役所職員から児童虐待を疑われ、自分の子育てを糾弾されていると思い込んでおり、再度訪問を受けるような事態になるのは避けたいと考えていたことがあったことは考慮すべきである。被告人が元夫からこれまで被害者を布団で巻く行為を黙認されており、本件当日もドライブに出掛ける元夫に対し、被害者が悪いこととかしたら布団で巻いていいと確認したところ、これを肯定されたことで、布団 で巻くという行為に対する抵抗感が薄れたことも否定できず、被告人のみを責めるのも酷な面がある。しかし、被告人は、布団で巻く行為による窒息死の危険性を明確に認識していたわけではないにしても、これまで数回にわたって被害者を布団で巻いており、布団をほどいた際の被害者の様子などを見てこの行為が被害者の身体に負担を掛けるものであることは認識していたはずである。これは、被告人が前記のとおり元夫に布団で巻いていいと確認を求めたことからも明らかである。そうであれば、被告人は、幼い被害者を布団で巻くという行為の危険性に目を向けるべきであり、被害者を外に連れ出すなど他に適切な方法を試みるべきであった。さらに、被告人が、前記の性格傾向から保育園や行政を頼ることが難しかったとしても、子育てに協力的であった両親には自らの悩みを打ち明け、他に適切な方法がないか相談することもできたはずであり、そうすべきであった。しかるに、被告人は、これまで被害者を布団で巻いた際に手っ取り早く静かにさせることができたという経験から、他の方法 ち明け、他に適切な方法がないか相談することもできたはずであり、そうすべきであった。しかるに、被告人は、これまで被害者を布団で巻いた際に手っ取り早く静かにさせることができたという経験から、他の方法を十分に検討することなく、被害者を布団で巻くという危険な行為を選択した。以上によれば、弁護人が主張するように、本件を被告人が自らの力ではどうしようもない事情により精神的に追い詰められて衝動的に犯した犯行とみることはできず、被告人はなお非難に値するというべきである。 そうすると、本件は、前科のない者が犯した傷害致死1件の同種事案(共犯関係等「単独犯」、動機「児童虐待」)の中で、中程度より軽いところに位置づけられるべきではあるが、執行猶予を付すべき事案とまではいえず、相応期間の実刑に処すのが相当である。 その上で、被告人が犯行直後に119番通報を介して捜査機関に自首し、当公判廷でも深い後悔と反省の態度を示していること、被告人の母親が情状証人として出廷の上、今後も被告人を支え見守っていくと誓約していることなども考慮し、主文のとおり量定した。 (求刑:懲役6年〔実刑〕、弁護人の科刑意見:付執行猶予)令和7年1月7日 千葉地方裁判所刑事第5部 裁判長裁判官鎌倉正和裁判官椙山葉子裁判官中村大樹

▼ クリックして全文を表示

🔍 類似判例を検索𝕏 でシェア← 一覧に戻る