令和7年11月20日宣告犯人隠避被告事件(令和7年(わ)第21号) 主文 被告人を懲役1年6月に処する。 未決勾留日数中100日をその刑に算入する。 この裁判が確定した日から3年間その刑の執行を猶予する。 理由 (犯罪事実)被告人は、医療法人Aの理事長として同法人が開設した青森県八戸市(以下省略)B病院を統括して管理・運営していたもの、分離前相被告人Cは、B病院の主要診療科である精神科の運営について責任を有する常勤医師として勤務し、実兄である被告人によるB病院の管理・運営を補佐する立場にあった上、同科の入院患者であったD及びEの主治医を務めていたものであるが、被告人及びCは、令和5年3月12日から翌13日にかけて、B病院において、DがEに暴行を加えて死亡させた殺人事件が発生したことを知ったのであるから、Eに対する適切な死体検案を実施し、異状死体として所轄警察署に届け出るべき義務を負っていたにもかかわらず、被告人は、同事件を隠蔽する目的で、Cと共謀の上、同日、B病院において、Eに対する適切な死体検案を実施せず、所轄警察署に異状死体として届け出ることもしなかった上、Eの妻に対し、B病院看護師を介するなどして、Eの死因を「肺炎」とする内容虚偽の死亡診断書を交付し、Eの死体を引き渡すことにより、警察官が同事件を認知してDを同事件の犯人として検挙するのを妨げ、もって罰金以上の刑に当たる罪を犯した者を隠避させた。 (量刑の理由)被告人は、B病院の院長であり、かつ、B病院を運営する医療法人Aの理事長として、B病院を統括して管理・運営していたものであるが、B病院の医師であるC や看護師から、B病院において、EがDから凶器で顔面を刺されて多量の出血を伴う 病院を運営する医療法人Aの理事長として、B病院を統括して管理・運営していたものであるが、B病院の医師であるC や看護師から、B病院において、EがDから凶器で顔面を刺されて多量の出血を伴う重傷を負い、処置が難航しているなどの報告を受け、その時点で適切な外科的処置を実施できる他の医療機関に転送する必要性を認識しつつ、これが表沙汰になれば騒ぎになりB病院の評判が落ちるのではないかなどと危惧する余り、看護師らが訴える事態の深刻さを軽く考え、転送するための努力を全くしないばかりか、患者対応を看護師らに丸投げし、自らB病院に駆けつけることも、他の医師を向かわせることもなかった。Eは、医師による直接の診療がされないまま、前記負傷に伴う失血等により死亡したが、その後間もなく、被告人は、看護師からEが死亡した旨の報告を受けたにもかかわらず、Cと話をする中で、B病院内で発生した前記殺人事件が警察等に発覚すればB病院の信用に傷がつくなどと考え、同事件を隠蔽する目的で、本件犯行に及んだものである。このような犯行動機は、理事長兼院長としてB病院を統括管理していた者としてあるまじき、誠に身勝手で浅はかなものというほかなく、医師の職業倫理にもとる行動の延長線上で起きたものと理解できる経緯を含めて酌量の余地はない。 B病院では、令和3年頃から、夜間などに患者が死亡した際には、アルツハイマー型認知症等でB病院に入院中であり、適切な診療に当たることが困難な状態の医師(以下「みとり医」という。)に死亡診断させることが常態化していたことがうかがわれるところ、被告人は、前記殺人事件を隠蔽するため、その立場を利用し、看護師らに指示して、Eの死因を肺炎とする内容虚偽の死亡診断書をみとり医に作成させた上、遺族に同診断書を交付し、Eの遺体を引き渡すに当たり、その外傷が徘徊 殺人事件を隠蔽するため、その立場を利用し、看護師らに指示して、Eの死因を肺炎とする内容虚偽の死亡診断書をみとり医に作成させた上、遺族に同診断書を交付し、Eの遺体を引き渡すに当たり、その外傷が徘徊に起因するものである旨の虚偽の説明をさせるなどの行為にも及んでおり、本件犯行において重要かつ不可欠な役割を果たしている。本件は、地域の精神科医療を支えていたB病院の医師らが病院ぐるみで組織的に行った不正行為であるという点において犯行態様が悪質であるばかりか、医療への信頼を大きく揺るがすものであって、社会的な影響も看過できない。 他方で、B病院の関係者がEの死亡当日のうちに警察に通報したことから、警察 は早期に前記殺人事件の発生を認知し、同事件の犯人の検挙に至っている。また、被告人に前科前歴がないこと、起訴後に事実を認め、公判廷において、今後、医療法人A及び傘下の病院等の管理・運営に関与することは考えていない旨述べるなどして反省の態度を示していること、妻が情状証人として出廷し、被告人の監督を誓約していること、被告人が本件により医師法上の行政処分を受けることが見込まれることなどの事情も認められるので、被告人に対しては、主文の懲役刑を選択した上で、刑の執行は猶予するのが相当と判断した。 (求刑:懲役1年6月、弁護人の科刑意見:執行猶予付き判決)令和7年11月20日青森地方裁判所刑事部 裁判長裁判官藏本匡成 裁判官三塚祐太郎 裁判官大井俊哉 大井俊哉
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