平成19(行ウ)615 遺族補償給付不支給決定処分取消等請求事件(通称 川崎南労基署長遺族補償等不支給処分取消)

裁判年月日・裁判所
平成22年1月18日 東京地方裁判所
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判決文本文20,189 文字)

主文 1 川崎南労働基準監督署長が平成14年10月2日付けで原告に対してした労働者災害補償保険法に基づく遺族補償給付及び葬祭料を支給しない旨の処分を取り消す。 2 訴訟費用は被告の負担とする。 事実 及び理由第1 請求主文同旨第2 事案の概要原告は,長男であるP1が日本マクドナルド株式会社川崎P2店(以下「P2店」という。)勤務時に,業務に起因した急性心機能不全(以下「本件疾病」という。)を発症し,その結果死亡したと主張して,川崎南労働基準監督署長(以下「原処分庁」という。)に対し,平成13年2月26日に労働者災害補償保険法(以下「労災保険法」という。)に基づき遺族補償給付及び葬祭料を請求したが,原処分庁は,平成14年10月2日付けで,これらを支給しない旨の処分(以下「本件処分」という。)をした。 本件は,原告が,被告に対し,本件処分の取消を求める事案である。 1 前提事実(争いのない事実,後掲証拠及び弁論の全趣旨による認定事実)(1) P1の経歴等(甲5,6,8,24,乙8)P1は,平成11年3月,P3大学法学部を卒業し,同年4月1日に日本マクドナルド株式会社(以下「本件会社」という。)に入社した。 本件会社は,東京都新宿区<以下略>に本社を置き,日本全国に約3600店舗を設置し,労働者約10万人(平成12年末当時)を使用して,ハンバーガー・レストラン・チェーンの経営を行っている。 P1は,高校から大学にかけて約8年間,本件会社でアルバイトをし,店舗運営業務に習熟していたことから,研修終了後,P4店(P2店と併せて 「本件店舗」という。)に配属され,セカンドアシスタントマネージャー(第2店長代理)として, 本件会社でアルバイトをし,店舗運営業務に習熟していたことから,研修終了後,P4店(P2店と併せて 「本件店舗」という。)に配属され,セカンドアシスタントマネージャー(第2店長代理)として,基本となる品質管理,サービス,清潔衛生管理,アルバイト教育,事務処理等の店舗運営の実務及び各種管理の業務に従事していた。P1は,平成12年6月1日,P2店に配置換えとなったが,従事する業務内容に変更はなかった。 P1は,平成11年6月14日と平成12年6月14日に定期健康診断を受診したが,肥満,高血圧症,糖尿病及び高脂血症等心臓疾患につながる項目について異常所見は認められない。後者の健康診断において,心電図検査の結果,上室性期外収縮(散発性)を指摘されたが,判定は経過観察であり,本件疾病には何ら影響しないものである。 (2) 本件疾病の発症(甲1,5,30の2,乙18)P1は,本件疾病の発症前日である平成12年11月7日,正午ころ出勤し,午後10時32分に通常勤務終了後,午後11時30分ころから始まった清掃業者による店舗清掃の立会いのため,発症当日の午前5時30分ころまで勤務した。P1は,2~3回掃除の進捗状況を確認した以外は事務所でパソコン等を使用する作業を行っていた。 P1は,いったん退社した後,発症当日正午ころに再び出勤したが,出勤後間もなく倒れて,救急車で病院に搬送され,午後1時01分に本件疾病により死亡した。P1の死亡は,急性の症候が始まって1時間以内に,突然の意識消失が先行する心臓に起因した自然死である「突然死」に該当する。 (3) 本件訴訟に至る経緯(甲2~4,乙4~7)原告は,平成13年2月26日,遺族補償年金支給請求及び葬祭料を請求した。原処分庁は,業務起因性が明らかな疾病とはいえないとして,本件処分をし (3) 本件訴訟に至る経緯(甲2~4,乙4~7)原告は,平成13年2月26日,遺族補償年金支給請求及び葬祭料を請求した。原処分庁は,業務起因性が明らかな疾病とはいえないとして,本件処分をし,平成14年10月2日,原告に通知した。原告は,同年11月27日に審査請求したが,神奈川労働者災害補償保険審査官は,平成15年3月31日にこれを棄却した。原告は,同年5月9日に再審査請求をしたが,労 働保険審査会は,平成19年3月28日にこれを棄却した。 2 争点本件疾病発症の業務起因性(原告の主張)(1) 時間外労働時間ア P2店及びP4店では,社員は多くのサービス残業をしており,各シフトでの実際の始業,終業時刻は次のとおりであった。 (P2店) Oシフト‥‥5:00~19:00Dシフト‥‥9:30~21:30Cシフト‥‥12:00~23:30(P4店) Oシフト‥‥5:30~19:30Dシフト‥‥9:30~21:30Cシフト‥‥12:00~24:30イ個別の日ごとに,上記に基づく始業,終業時刻と異なる労働時間であったことが明らかな場合は修正して労働時間を計算すべきである。 P1は,本件会社の労働環境(細かく決められたスケジュール,仕事上要求される事柄の多さ,細かく評価され昇級等の判断材料とするシステム,サービス残業はやる気を測るバロメーターであるという本件会社の風潮,フロアコンテスト,インターメディライト・オペレーション・コース(IOC)等の会社内コンテストや研修があり,レベルアップの資料としたり,研修に上司の推薦が必要とされる制度)の中で,所定労働時間内に処理しきれない業務上の要求があり,期限のあ ペレーション・コース(IOC)等の会社内コンテストや研修があり,レベルアップの資料としたり,研修に上司の推薦が必要とされる制度)の中で,所定労働時間内に処理しきれない業務上の要求があり,期限のある仕事も多く,所定労働時間外で労働せざるを得ず,居残り残業,持ち帰り残業について,本件会社からの黙示,明示の業務命令と同視し得る行為状況があった。 ウ P1は,上司であるオペレーションコンサルタントのP5(以下「P5OC」という。)の指示により,パソコンを使用してクローズ支援システ ム(本件会社店舗の終了業務を短縮するためのシステム。以下「本件システム」という。)のメンテナンスやその他の担当業務を行っていた。 P1が自宅で使用していたデスクトップパソコン(以下「本件デスクトップパソコン」という。),概ね本件会社の店舗で使用していたノートパソコン(以下「本件ノートパソコン」という。),PD(記録媒体,以下「本件PD」という。)内の保管ファイルは,ほとんどが本件会社での業務に関するものである。P1は,業務以外のために本件デスクトップパソコンを使用する余裕はなく,死亡前の6か月間に本件デスクトップパソコンで更新されたファイルは,すべて仕事に関係があるファイルであったから,自宅で本件デスクトップパソコンを使用していた時間は,概ね労働時間とみるべきである。また,上記のファイルの更新時刻が,本件デスクトップパソコン及び本件ノートパソコンのいずれの電源も切ってある時間の場合,P1が,店舗のパソコンでPDのファイルを作成,更新したとみるべきであるから,更新時刻に労働をしていたものである。 本件デスクトップパソコンの電源が入っていた時間中,インターネットに接続していた時間も,インターネット接続先には業務に関連するサイトがあるし,業務以外のインタ 新時刻に労働をしていたものである。 本件デスクトップパソコンの電源が入っていた時間中,インターネットに接続していた時間も,インターネット接続先には業務に関連するサイトがあるし,業務以外のインターネット接続中にも,並行して業務としてのパソコン作業をしていたから,これも労働時間と評価すべきである。 エ以上によって,P1の本件疾病発症前6か月の時間外労働時間を計算すると,次のとおり,1か月あたり平均は全て100時間を超える。 発症1か月前 142 時間発症2か月前 101.5時間平均 121.8時間発症3か月前 99 時間平均 114.2時間発症4か月前 142.5時間平均 121.3時間発症5か月前 117 時間平均 120.4時間発症6か月前 72 時間平均 112.3時間 (2) 業務によるストレスP1は,本件会社に就職後2~3か月後から,夜中に頻繁にトイレに行くようになった。平成12年1月13日,P1は,微熱,吐気,嘔吐,下痢,手足のしびれを訴え,P6病院で,急性胃腸炎,過呼吸症候群と診断され,同日入院し,同月15日に退院した。同年6月の本件会社の健康診断で,上室性期外収縮であり観察の判定となった。以上は,いずれも仕事時間が長時間でストレスが増大したことが原因であったと考えられる。 本件会社では,P1が作成した本件システムを神奈川県を中心とする50店舗で導入しており,同年11月半ばに本件店舗のパソコンが入替になるため,それまでに本件システムを更新しないと,これを導入している店舗の業務に大きな支障が出る可能性があった。P1は,同年10月末~同年11月初めの間,通常業務に加えて本件システムの更新作 入替になるため,それまでに本件システムを更新しないと,これを導入している店舗の業務に大きな支障が出る可能性があった。P1は,同年10月末~同年11月初めの間,通常業務に加えて本件システムの更新作業をしており,決められた時間どおりに遂行しなければならない困難な業務で,本件会社に多大な損失を生じさせ得る重大な責任のある業務であった。直属の上司であるP7店長は,P2店で採用していない本件システムに関する作業を黙認する態度であり,P1は,本件支援システムに関する作業を,所定労働時間に堂々とすることはできず,ストレスの大きい業務であった。P7店長から,休日には店に来るなと言われ店舗で作業できなくなったことで,大きな精神的ショックを受けた。同月に,本件会社のパソコンが入れ替わる予定であり,さらにストレスを増加させた。また,同年12月が昇進時期であり,推薦の権限を有するP5OCの指示による本件システム更新作業に支障を来すのは問題であった。このように,P1は,周囲の理解や支援のない状況下での困難な業務を遂行しなければならない立場にあった。 同年10月31日,アルバイトの怪我という突発的な出来事もあった。 (3) 死因及び基礎疾患等P1には器質的な基礎疾患がなく,QT延長症候群でもブルガダ症候群で もなく心室性頻脈性不整脈の発生の素地となった解剖学的変化は明らかでないが,長時間労働による疲労,ストレス,睡眠不足が循環器や交感神経系の反応性を高める等して,心室性頻脈性不整脈を発生させ,心臓突然死に至ったと考えられる。 (4) 結論本件では,厚生労働省平成13年12月12日基発第1063号通達による「脳血管疾患及び虚血性心疾患等(負傷に起因するものを除く。)の認定基準について」に示される基準(以下「認定基準」という。)を満たし 件では,厚生労働省平成13年12月12日基発第1063号通達による「脳血管疾患及び虚血性心疾患等(負傷に起因するものを除く。)の認定基準について」に示される基準(以下「認定基準」という。)を満たし,業務とP1の死亡との間の相当因果関係が認められる。 また,認定基準を離れても,P1は,死亡当時,肉体的精神的に全く健康な25歳の若者であり,平成12年の本件会社での健康診断においても上室性期外収縮という特に問題のない点が指摘されただけで,その他の異常や既往歴,基礎疾患はなく,家族にも同様の既往歴その他の既往歴等もない。P1は,喫煙せず,心臓疾患に関する危険因子も認められない。業務以外に死亡の原因はなく,長期間にわたる業務上の過重な負荷によりP1が死亡したものとして,業務とP1の死亡との間の相当因果関係がある。 (被告の主張)(1) 業務起因性の法的判断枠組み及び認定基準労災補償は,労働基準法の定める使用者の災害補償責任の担保にあり,使用者は,過失がなくても,その危険を負担し,労働者の損失填補に当たるべきであるとする危険責任の考え方に基づく。したがって,業務起因性が認められるためには,当該労働者が当該業務に従事しなければ当該結果が発生しなかったという条件関係が必要であり,そのためには,現時点における医学的知見等の専門的知見に照らし,疾病を発症させる可能性があると考えられる業務上の負荷が客観的に認められ,当該負荷がなければ疾病を発症していなかったという高度の蓋然性が認められなければならない。さらに,当該業 務と当該結果の発生との間に相当因果関係が必要であり,当該業務に脳・心臓疾患を発症させる実質的な危険性(脳・心臓疾患を発症させ得る程度の過重負荷)が認められ(危険性の要件),かつ,当該脳・心臓疾患が業務外に存在する危険等 に相当因果関係が必要であり,当該業務に脳・心臓疾患を発症させる実質的な危険性(脳・心臓疾患を発症させ得る程度の過重負荷)が認められ(危険性の要件),かつ,当該脳・心臓疾患が業務外に存在する危険等の現実化ではなく,業務による過重負荷が相対的に有力な原因となって発症したと認められること(現実化の要件)が必要と解される。 脳・心臓疾患の発症に関する業務起因性の具体的条件を定めたのが認定基準である。脳・心臓疾患は,発症の基礎となる血管病変等が長い年月の生活の営みの中で形成され,それが徐々に進行し,増悪するという自然経過をたどり発症するが,業務による明らかな過重負荷が加わることによって血管病変等がその自然経過を超えて著しく増悪し,発症した場合は,業務が相対的に有力な原因になっているものとして,労働基準法施行規則35条別表第1の2第9号にいう「業務に起因することの明らかな疾病」として取り扱うという考え方を基本とする。認定基準は,発症直前から前日までの間に,発生状態を時間的及び場所的に明確にし得る異常な出来事に遭遇したこと(異常な出来事),発症に近接した時期(発症前概ね1週間)に,特に過重な業務に就労したこと(短期間の過重業務),発症前概ね6か月間にわたって,著しい疲労の蓄積をもたらす特に過重な業務に就労したこと(長期間の過重業務)に加え,業務量,業務内容,作業環境等を考慮し,当該労働者と同程度の年齢,経験等を有する健康な状態にある者のほか,基礎疾患を有していたとしても日常業務を支障なく遂行できる同僚等にとっても,特に過重な身体的,精神的負荷と認められるか否かという観点から,客観的かつ総合的に判断するものである。認定基準に基づいて業務の過重性(危険性)が認められる場合であっても,業務外の要因が主たる原因となって発症したと認められる場合(現実 れるか否かという観点から,客観的かつ総合的に判断するものである。認定基準に基づいて業務の過重性(危険性)が認められる場合であっても,業務外の要因が主たる原因となって発症したと認められる場合(現実化の要件が認められない場合)には業務起因性は否定される。 (2) P1の死因に関する医学的知見P1は,心室細動による急性心機能不全により死亡したものと考えられ, 心室細動が生じた原因としては,P1の定期健康診断結果,行政解剖の結果に照らせば,「特発性心室細動」であった蓋然性が高い。 特発性心室細動は,虚血性心疾患などの器質的疾患に伴う突然死とは異なり,過重労働とは必ずしも結びつかないことから,特発性心室細動の発症には,外的リスクファクターよりも,心筋イオンチャネル異常などの何らかの内的(潜在的)要因が大きいと考えられており,P1にも,個体側要因としての潜在的な異常があったものと推認される。 (3) 条件関係がなく,業務起因性が認められないこと現時点の医学的知見に照らせば,P1の死亡は,心室細動による急性心機能不全と推認されるが,心室細動が生じた原因は不明である。そうすると,P1の業務と本件疾病の発症との間には条件関係すら認められないから,本件疾病の発症には,業務起因性が認められない。 (4) P1の時間外労働時間ア P1の同僚等は,所定労働時間を超えて勤務することがあり,また,必ずしも勤務実績どおりに時間外労働を申告していなかった旨述べているから,原処分庁がマネージャーワークスケジュール(勤務割表)及び時間外勤務一覧表等から認定した,P1の発症前6か月間における1か月(30日間)の時間外・休日労働時間数及び月平均時間外・休日労働時間に,P1の同僚等が陳述する各シフトごとの平均的な出退勤時刻に不足する時間を加算した ら認定した,P1の発症前6か月間における1か月(30日間)の時間外・休日労働時間数及び月平均時間外・休日労働時間に,P1の同僚等が陳述する各シフトごとの平均的な出退勤時刻に不足する時間を加算した。P2店におけるOシフトの際は,始業時刻5時,終業時刻19時,Dシフトの際は,始業時刻9時30分,終業時刻21時30分(例外的な時刻から始まるDシフトの際は,始業時刻から12時間後を終業時刻とした。),Cシフトの際は,始業時刻12時,終業時刻24時として,各拘束時間から休憩時間の1時間を控除した。P4店における詳細は,P2店の例により推計した。そうすると,本件疾病発症6か月間のP1の時間外労働時間は,以下のとおりと推認される。 発症1か月前 66時間30分発症2か月前 60時間平均 63時間15分発症3か月前 57時間30分平均 61時間20分発症4か月前 96時間30分平均 70時間7分発症5か月前 72時間30分平均 70時間36分発症6か月前 73時間30分平均 71時間5分イ原告の主張する起算日を採用し,P4店におけるCシフトの終業時刻を24時30分とした場合,本件疾病発症6か月間のP1の時間外労働時間は,以下のとおりと推定される。 発症1か月前 79時間30分発症2か月前 68時間00分平均 73時間45分発症3か月前 46時間30分平均 64時間40分発症4か月前 86時間30分平均 70時間07分発症5か月前 86時間30分平均 73時間24分発症6か月前 71時間00分平均 73時間00分( 症4か月前 86時間30分平均 70時間07分発症5か月前 86時間30分平均 73時間24分発症6か月前 71時間00分平均 73時間00分(5) 原告の主張する労働時間の捉え方に合理性がないこと自宅でのパソコン等による作業は,使用者の支配管理下になく,時間的,場所的な拘束を受けていない。労働とは,使用者の指揮命令下で労働力を提供する行為を指す。P1の自宅での作業について,明示,黙示の業務命令があったと認めるに足りる証拠はなく,自宅で労働していたとは認められない。 また,労働者が自宅で仕事に関連する作業に従事しても,勤務場所での労働とは異なり,緊張感に乏しく,ストレスも小さいから,使用者の支配管理下における労働の場合と同等には評価できない。 P1は,本件デスクトップパソコンで,長時間をインターネットのニュース,ゲーム,通販,ネットオークション等業務と関連のない事柄に費やしていた。してみれば,インターネットに接続していない時間も私的なことに時 間を費やしていたと推認される。自宅で業務に関連する作業が行われていても,当該作業とそれに要した時間は,適宜休息を取りながら無理のない範囲で行われたから,業務の過重性に関する評価の対象にはならない。 本件システムの更新作業は月末月初のことであり,平成12年10月下旬以降に本件会社のパソコンの入替に伴う更新作業があったとしても,それ以前の月末月初以外の,P1のパソコン作業の内容は何なのか不明である。なお,本件システムの更新は,本来であれば必要はなく,ただ見栄えを良くするために月1回行っていたものであり,時間的には他店への送信を含めて1時間~3時間程度の作業であるから,月1回の本件システムの更新作業にそれほどの時間がかかるとは思われ 要はなく,ただ見栄えを良くするために月1回行っていたものであり,時間的には他店への送信を含めて1時間~3時間程度の作業であるから,月1回の本件システムの更新作業にそれほどの時間がかかるとは思われない。 以上によれば,P1の時間外労働時間は,被告主張の範囲にとどまる。 (6) P1の業務に過重負荷が認められないことア異常な出来事の有無について。発症当日ないし前日に突発的又は予測困難な異常な事態に遭遇した事実は認められない。 イ短期間の過重業務の有無について。発症直前から前日及び発症前おおむね1週間における業務に,過重性は認められない。 ウ長期間の過重業務の有無について。発症前6か月間にわたる時間外労働時間は,最大でも,発症直前の1か月間で66時間30分,2か月~6か月平均では,発症6か月前の1か月平均で71時間5分であり,認定基準に定める時間外労働時間数を超えない。認定基準では,過重負荷の有無の判断に当たり,当該労働者と同程度の年齢,経験等を有する健康な状態にある者のほか,基礎疾患を有していたとしても日常業務を支障なく遂行できる者を基準とする。基礎疾患を有している者であっても,発症前2か月~6か月間における1か月平均の週40時間を超える時間外労働時間が80時間を超えて初めて脳・心臓疾患の発症と業務との関連が認められる。 仮に,P1に心臓疾患に関する既往歴や特段の既往症や健康上の問題がな かったのであれば,なおさら業務と本件発症との関連は認められない。 (7) その他の負荷要因の検討労働時間以外にも,P1には業務による負荷要因は見当たらない。 P1は,高校時代からマクドナルドが好きでアルバイトをし,チャンピオンになる等情熱を持って働いていた。社員になってからのP1の仕事ぶりから,強いストレスを抱えていたこと 負荷要因は見当たらない。 P1は,高校時代からマクドナルドが好きでアルバイトをし,チャンピオンになる等情熱を持って働いていた。社員になってからのP1の仕事ぶりから,強いストレスを抱えていたことは窺われない。P1は,好きな会社で,仕事に誇りと生き甲斐を持って働いていたことが窺われ,業務による精神的負担が大きかったとはいえない。 (8) P1の業務と本件疾病発症との間に相当因果関係が認められないこと以上によれば,P1の業務には,脳・心臓疾患を発症させ得る程度の過重負荷が認められないから,危険性の要件を欠き,P1の業務と本件疾病との間に相当因果関係は認められない。 第3 当裁判所の判断 1 認定事実括弧内掲記の証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実を認定することができる。 (1) P1の業務内容等(甲5,6,9~11,14,17の3,5)ア P1は,本件店舗で,基本となる品質管理・サービス・清潔衛生管理,アルバイト教育,事務処理作業,金銭管理,食材,備品発注管理等の店舗運営の実務及び各種管理の業務に従事しており,交代勤務であった。 本件会社では,P1が作成した本件システムを,神奈川県を中心とする50店舗で導入していたが,P2店では導入していなかった。本件システムは,1か月に1度,更新する必要があった。P1は,上司であるP5OCの指示により,パソコンを使用して,本件システムのメンテナンスを行っていた。直属の上司であるP7店長は,P2店で採用していない本件システムに関する作業を,積極的に認めるのでなく,黙認していた。本件シ ステムの更新は各店舗への送信も含め1時間程度の作業である。平成12年11月半ばには,本件会社のパソコンが入替になる予定があり,本件システムの更新が必要になっていた。 P1は,同月中に ステムの更新は各店舗への送信も含め1時間程度の作業である。平成12年11月半ばには,本件会社のパソコンが入替になる予定があり,本件システムの更新が必要になっていた。 P1は,同月中に,本件会社のIOC研修に参加することになっていた。 本件会社では,そのための勉強は,基本的には営業中に時間を取って行うということになっていた。 イ本件店舗の交代勤務制では,勤務の終業時間と次の始業時間の間の時間が最短となるのは,Cシフトの次の日がOシフトの場合(所定労働時間によれば6時間)であるが,原則としてこのシフトが組まれることはない。 予め組まれる勤務シフトで勤務間の時間が最短となるのは,Dシフトの翌日がOシフトの場合(所定労働時間によれば10時間30分)である。 閉店後の清掃又は工事の立会いといった非定常の事由で発生する深夜残業は,平均1か月に1~2回程度であった。 P1は,平成12年10月31日,P7店長から,休日には店に来るなと言われた。 (2) P1の労働時間ア所定労働時間等(甲5,9,10,乙9)P1の所定労働時間は1日8時間で,1か月に10日(2月は9日)の休日が付与され,1か月平均で週40時間以下に設定されており,休憩時間は1時間であった。具体的には,マネージャーワークスケジュールという勤務割表で,各日のシフトが定められ,交代勤務をすることになっていた。本件店舗の営業時間並びに各シフトにおける所定の始業・終業時刻は次表のとおりであった。例外的な時刻を始業時刻とするDシフトは,その9時間後が終業時刻とされていた。 営業時間OシフトDシフトCシフトP4店自 7:00至 23:00自 6:00至 15:00自 10:00至 19:00自 営業時間OシフトDシフトCシフトP4店自 7:00至 23:00自 6:00至 15:00自 10:00至 19:00自 15:00至 24:00P2店自 7:00至 21:30自 5:30至 14:30自 10:00至 19:00自 14:00至 23:00 イ本件店舗での労働時間(甲8の230頁,9~11,20,22,原告本人)本件店舗における労働時間は,上記のマネージャーワークスケジュールに従い,タイムカード等の方法ではなく,労働者が時間外・休日労働を行ったときは,その時間数等を自主申告する方法(時間外勤務一覧表等)が採用されていた。P1を含む本件店舗に勤務する本件会社の正社員は,所定労働時間を超えて勤務することがほとんどであり,勤務実績どおりに時間外労働を申告していなかった。そこで,マネージャーワークスケジュール及び時間外勤務一覧表等の記載から,P7店長及び同僚らの陳述等に鑑み,本件店舗の各シフトにおける平均的な労働時間を次のとおり修正(以下「修正シフト」という。)して認定すべきである(各拘束時間から休憩時間の1時間を控除する。)。例外的な時刻を始業時刻とするDシフトは,その12時間後を終業時刻として認定する。 営業時間 OシフトDシフトCシフトP4店 自 7:00至 2 3 :0 0自 5:30至 1 9 :3 0自 9:30至 2 1 :30自 12:00至 2 4 :3 0P2店 自 7:00至 2 1 :3 0自 5:00至 1 9 :0 0自 9:30至 2 1 :3 0 自 12:00至 2 4 :3 0P2店 自 7:00至 2 1 :3 0自 5:00至 1 9 :0 0自 9:30至 2 1 :3 0自 12:00至 2 4 :0 0 P1が本件店舗にいたことが明らかな時間に本件ノートパソコンに電源が入っていた場合,電源が切られる時刻までP1が本件店舗にいたと考えられ,その時刻が修正シフトの終業時刻よりも遅い場合も認められる。 その一方で,本件デスクトップパソコンの電源が切られた時刻には,P1は自宅にいたと考えられ,その時刻が修正シフトの始業時刻よりも遅い場合も散見される。このように,修正シフトによって労働時間を認定することにより,一定範囲の偏りが生じると言わざるを得ない。少なくとも,上記の修正シフトの終業時間を超えて労働していた時間の合計が,P1が修正シフトの始業時刻よりも遅い時刻に自宅にいた時間を超えると認めるだけの根拠がないことから,修正シフトは,そのような労働時間の偏りを考慮した各シフトにおける平均的な労働時間であると認めるのが相当である。 ウ P1の持ち帰り残業(甲11,35~37,乙20)P1は,本件システムの更新作業,新製品の準備,IOC研修のための勉強等の作業について,相当に長時間,自宅でパソコン作業等を行っていた。他方,P1は,インターネット接続のゲームと並行し,また,オークションや通販サイトに接続する間に,上記作業を行っていた。そして,P1が本件デスクトップパソコンの駆動時間中,上記作業にどれだけの時間を費やしたかについては,客観的なデータが存しない。以上から,P1がこれらの持ち帰りの作業をしていたことは,後述のとおり,業務の過重性を判断する上で考慮するが,P1の労働時間の計算においては, 時間を費やしたかについては,客観的なデータが存しない。以上から,P1がこれらの持ち帰りの作業をしていたことは,後述のとおり,業務の過重性を判断する上で考慮するが,P1の労働時間の計算においては,この点を計上しない。 エ個別の日ごとの労働時間(甲11,14,15,17)平成12年11月2日,P1は,P5OCと夕食をともにした。しかし,この会食が,業務命令に基づくものである等業務として行われたものであることを認めるに足りる証拠はない。 同年10月31日,P1は,シフト上休日であったが,夕方ころ本件店舗に出勤し,1~2時間で帰った。このとき,P1は,P7店長から,特に予定もないのに休みの日に来るなと注意されて帰ったこと,この間,本件ノートパソコンが使用されておらず,P1が店のパソコンで何らかの操作したことは窺われるものの,何をしていたのか明らかでないこと,上記P7店長からの注意の際にはP2店の同僚であるP8が店のパソコンを使用していたことを併せ考慮すると,P1のパソコン作業の質及び量が労働といいうる程度のものであるか疑問が残るから,上記1~2時間の出勤を業務であって,労働時間と認めることはできない。 同月29日,P1は,同僚のP9の送別会に参加した。しかし,これは参加が強制されていたとか,業務上必要なものであったことを認めるだけの根拠はなく,参加時間を労働時間と認めることはできない。 同月28日,P1は,怪我をしたアルバイトを病院に運ぶ等したことが認められるが,これに要した時間は証拠上明らかではなく,修正シフトに加算しなければならないほど多くの時間労働したとは認め難い。 原告は,同月19日,20日,23日のいずれかの日に,P1が,プレミアムコーヒーについて他店に見学に行き,その移動時間2時間と見学時間30 しなければならないほど多くの時間労働したとは認め難い。 原告は,同月19日,20日,23日のいずれかの日に,P1が,プレミアムコーヒーについて他店に見学に行き,その移動時間2時間と見学時間30分を労働時間とみるべきである旨主張する。しかし,仮に上記見学が業務であるとしても,移動時間については業務とみるべきではなく,また,見学時間の30分は,時間的にも質的にも,これを修正シフトで考慮されている範囲の平均的な労働時間とは別に労働時間として考慮するほどのものとは考えられないから,原告の上記主張は採用できない。 原告は,FCマスターズOM戦(業務として行われたイベント)の前日に下見に行ったこと,P1の帰宅が遅いことがほとんどであった等,修正シフトに加算すべき労働時間がその他にもあると主張する。しかし,それらが業務に係るものであることを認めるに足りる証拠はなく(業務とされ ているイベントであっても,その下見についてまで,直ちに業務とは認め難い。),かえって,P1は,同月29日のP9の送別会終了後,同僚であったP10を誘って3人で横浜に食事に行き,午前3時ころに帰宅したこと,普段からP10とは平均的に週に3回ぐらいは会って酒を飲んで食事をしていたこと等私的な理由により帰宅が遅くなっていた場合も多かったと認められ,原告の上記主張は採用できない。 オ以上のとおり,本件疾病発症6か月間のP1の時間外労働時間については,マネージャーワークスケジュール及び時間外勤務一覧表等の記載を,修正シフトにより修正して認定するのが相当であるところ,P1の本件疾病発症前6か月間の労働時間は別紙のとおりであり,その時間外労働時間及び休日は,次のとおりであると認められる(労働時間算定の起算日を本件疾病発症前日とする。)。 発症1か月前 79時 疾病発症前6か月間の労働時間は別紙のとおりであり,その時間外労働時間及び休日は,次のとおりであると認められる(労働時間算定の起算日を本件疾病発症前日とする。)。 発症1か月前 79時間30分休日 8日発症2か月前 68時間00分平均73時間45分休日 10日発症3か月前 46時間30分平均64時間40分休日 12日発症4か月前 86時間30分平均70時間07分休日 6日発症5か月前 86時間30分平均73時間24分休日 6日発症6か月前 71時間00分平均73時間00分休日 7日(3) 心筋梗塞,心停止(不整脈による突然死等を含む。)等の虚血性心疾患等(以下「心臓疾患」という。)と身体的・精神的負荷との関係(乙1,2)心臓疾患は,主に加齢,日常生活等によって生体が受ける通常の負荷により,徐々に血管病変等が形成,進行,増悪するという自然的経過をたどり発症する。しかし,業務による過重な負荷が加わることにより,血管病変等がその自然的経過を超えて著しく増悪し,心臓疾患が発症する場合があることは医学的に広く認知されている。心臓疾患の発症に影響を及ぼす業務による過重負荷としては,発症に近接した時期における負荷のほか,長期間にわた る疲労の蓄積も考慮すべきであると考えられている。具体的には,時間外労働が1か月当たり45時間を超えて長くなるほど,業務と虚血性心疾患発症との関連性が強まり,発症前1か月間に概ね100時間又は発症前2か月~6か月にわたり1か月当たり概ね80時間を超える時間外労働が認められる場合には,業務と虚血性心疾患発症との関連性が強いと評価することができる。また,不 症前1か月間に概ね100時間又は発症前2か月~6か月にわたり1か月当たり概ね80時間を超える時間外労働が認められる場合には,業務と虚血性心疾患発症との関連性が強いと評価することができる。また,不規則な勤務は生活リズムの悪化をもたらす場合が多いとする報告があり,交替制勤務の心血管疾患に対するリスクは概ね1.2~1.5倍になり,深夜勤務は心臓疾患に対するリスクが高いことが報告されている。 (4) P1の死因に関する医学的意見(甲43,乙18)ア P11医師の意見書(以下「P11意見」という。)P1の死亡原因である急性心機能不全すなわち心臓性突然死について,基礎疾患として,心筋梗塞や狭心症などの虚血性心疾患,拡張性心筋症,弁膜症,QT症候群,肥大型心筋症,高血圧などは,過去の病歴や健診記録などから否定できる。ブルガダ症候群は,ST上昇所見すら認められないことから,その可能性は明確に否定できる。 P1は,深夜勤をともなう不規則な交代勤務で,発症・死亡に至るまでの6か月間の時間外労働は,店での営業関連の勤務時間のみをみても,月時間外労働が80時間内外の場合が多く,自宅持ち帰り業務のコンピューター作業を加えると100時間を超える場合もしばしばあり,長時間で,ストレスの大きい労働は,自律神経(交感神経及び副交感神経)の過度な緊張を来すだけでなく,疲労蓄積や過労状態の発症に強く関連し,心室細動等心臓刺激伝導系の異常を引き起こした可能性が大きいと考える。 心臓突然死は,①ストレスが強く関与しているときよりもその後に発症する,②メカニズムの一つには,強い交感神経緊張(頻脈)の後に生じる副交感神経緊張(除脈)というリズムの乱れが関与している,③ストレスの性質では,急性ストレスより慢性の消耗ストレスの関与が大きい。 前日の午後か は,強い交感神経緊張(頻脈)の後に生じる副交感神経緊張(除脈)というリズムの乱れが関与している,③ストレスの性質では,急性ストレスより慢性の消耗ストレスの関与が大きい。 前日の午後から翌日の明け方までの長時間勤務に続き,若干の休息を経て再び職場に出勤した直後に発症・急死したP1の急性心発作による死亡は,上記経過が典型的に当てはまる事例であり,過重業務が強く関連したものである。 イ P12医師の意見(以下「P12意見」という。)本件は突然死であったと解される。解剖所見では,各臓器に特記すべき異常が認められていないことを考えると,死因は心室細動による急性心機能不全と考えられる。心室細動の原因として,急性心筋虚血を生じる急性冠症候群(急性心筋梗塞),冠攣縮性狭心症(異型狭心症)又は特発性心室細動特にブルガダ症候群の可能性が考えられる。P1が,平成11年,平成12年に受けた健康診断で,肥満,高血圧症,糖尿病,高脂血症等の脳・心臓疾患の原因となる異常は認められず,解剖所見で各臓器に特記すべき異常が認められないことから,急性心筋虚血は考え難い。P1が25歳という年齢であったことを考えると特発性心室細動が最も考えられる。 明らかな心疾患を有さず,突然に心室細動を起こすのが突発性心室細動である。その中で,心電図上右脚伝導障害,右側胸部誘導のST上昇を示すものをブルガダ症候群と呼ぶ。以前より睡眠時に起こる「ポックリ病」と呼ばれていたもののほとんどはブルガダ症候群又は原因不明の心室細動と考えられている。P1の健康診断時の心電図は,ブルガダ症候群の典型的心電図所見とはいえないが,軽度の右脚伝導障害と軽度の右脚胸部誘導のST上昇が認められるので,ブルガダ症候群の可能性があるといえる。 起こった結果からは,ブルガダ症候群を含む突発性心室 症候群の典型的心電図所見とはいえないが,軽度の右脚伝導障害と軽度の右脚胸部誘導のST上昇が認められるので,ブルガダ症候群の可能性があるといえる。 起こった結果からは,ブルガダ症候群を含む突発性心室細動と考えられるが,死因を特定することはできない。 全くの健常人に心室細動が起こることは考え難く,突発性心室細動には,心筋イオンチャネル異常等,何らかの潜在的な異常の関与が存在しており,発症には外的リスクファクターより,内的(潜在的)異常の関与が大きい と考えられる。虚血性心疾患等器質的疾患に伴う突然死と異なり,突発性心室細動の発生と過重労働とは必ずしも結びつかないが,認定基準にP1の勤務実態を当てはめてみても,過労死を起こすような異常な出来事,短期間の過重業務及び長期間の過重業務は認められない。前日の時間外勤務時間は7時間であったが,内容は特に過重なものとはいえない。したがって,医学的見地からは,直接の死亡原因に及ぼすP1の勤務実態の影響が,他のリスクファクターに比して相当程度有力であったとはいえない。 2 争点に関する判断(1) 業務起因性の判断基準労災保険法に基づく保険給付は,労働者の業務上の死亡等について行われるのであり(同法7条1項1号),労働者の死亡等を業務上のものと認めるためには,業務と死亡等との間に相当因果関係が認められることが必要である(最高裁第二小法廷昭和51年11月12日判決・判例時報837号34頁参照)。そして,労災保険制度が,労働基準法上の危険責任の法理に基づく使用者の災害補償責任を担保する制度であることからすれば,上記の相当因果関係を認めるためには,当該死亡等の結果が,当該業務に内在する危険が現実化したものであると評価し得ることが必要である(最高裁第三小法廷平成8年1月23日判決・判例時報 ことからすれば,上記の相当因果関係を認めるためには,当該死亡等の結果が,当該業務に内在する危険が現実化したものであると評価し得ることが必要である(最高裁第三小法廷平成8年1月23日判決・判例時報1557号58頁,最高裁第三小法廷平成8年3月5日判決・判例時報1564号137頁参照)。 本件については,前記前提事実のとおり,P1が本件疾病により死亡したことが認められるので,本件疾病の発症が本件会社におけるP1の業務に内在する危険が現実化したものと評価できるかを検討することになる。 (2) P1の死因及び本件疾病と業務との条件関係上記認定事実によれば,P1は,本件疾病により心臓突然死したものであり,P1の死因は,突発性心室細動による急性心機能不全であると認められること,基礎疾患は特定できないが,全くの健常人に心室細動が起こること は考え難く,突発性心室細動には,心筋イオンチャネル異常等何らかの潜在的な異常の関与が存在すると考えられていることから,P1には,何らかの基礎疾患があった可能性が高いというべきである。上記認定事実のP11意見は,長時間で,ストレスの大きい労働は,自律神経の過度な緊張を来し,疲労蓄積や過労状態の発症に強く関連し,心室細動等心臓刺激伝導系の異常を引き起こす可能性が大きいと捉えている。また,上記認定事実のP12意見によっても,死因の特定ができず,その発症には外的リスクファクターより,内的異常の関与が大きいとはいうものの,長時間でストレスの大きい労働と本件疾病発症との関連性を否定しているわけではない。以上によれば,本件疾病の発症が,本件会社におけるP1の業務に内在する危険が現実化したものと評価できるのであれば,本件疾病と業務の条件関係を肯定することができると解すべきであり,以下,P1の業務内容を検討する ,本件疾病の発症が,本件会社におけるP1の業務に内在する危険が現実化したものと評価できるのであれば,本件疾病と業務の条件関係を肯定することができると解すべきであり,以下,P1の業務内容を検討することとする。 (3) 本件疾病発症前6か月における業務上の時間外労働時間上記認定事実のとおり,P1の本件疾病発症前2か月~6か月の平均時間外労働時間は,別紙のとおり64時間40分~73時間45分であり,全て45時間を超えている。してみると,上記認定事実の,一般的な経験則に照らせば,業務と本件疾病発症との関連性が強まっている労働時間であるということができる。そして,上記認定事実のとおり,P1が自宅で行った作業は,持ち帰って行うことについて明示的な業務命令はないものの,パソコン作業等のうち,本件システムに関する作業については,上司であるP5OCの指示によるものであること,直接の上司であるP7店長には,店舗での作業を黙認されているという程度の評価しか受けず,後に休日出勤を止められたという事情からすれば,相当に長時間に及ぶ自宅でのパソコン作業等にも,業務遂行性を認めるべきである。上記判断のとおり,P1の労働時間の把握は困難であり,特に自宅への持ち帰り残業について,P1は,業務と関係のないインターネットやゲーム等をも行いながら遂行しているものの,少なく とも一定量の業務をある程度の時間を費やしていたと推認することができるのである。そうすると,本件疾病発症前6か月間におけるP1の業務に関する時間外労働時間は,月当たり概ね平均80時間を超える範囲に達していた月が相当程度あった蓋然性が高いといわなければならず,業務と本件疾病発症との関連性が強いと評価することができる。 (4) P1が従事していた業務の性質上記認定事実のとおり,まずもって していた月が相当程度あった蓋然性が高いといわなければならず,業務と本件疾病発症との関連性が強いと評価することができる。 (4) P1が従事していた業務の性質上記認定事実のとおり,まずもって,本件会社における業務のシフトは,不規則な勤務であって,その性質上,深夜勤務を含む業務形態であり,しかも,P1をはじめとする正社員は,所定労働時間を超えて勤務することがほとんどで,勤務実績どおりに時間外労働を申告しておらず,いわばサービス残業を行うことが常態化していた勤務態勢であったことを指摘しなければならない。この業務態勢は,単に交替制の深夜勤務というだけでなく,業務の不規則性や実際の労働時間の長さに,心理的にも長い拘束時間を従業員に意識させるものであり,心血管疾患に対するリスクを増大させる要因となるものである。 次に,上記判断のとおり,自宅にも持ち帰っていたパソコン上の作業のうち,本件システムの更新に関する業務は,本件システムはP1が開発したものであること,上司であるP5OCの指示によるものの,直接の上司であるP7店長との関係では,本件店舗で作業することが憚られる環境にあり,しかも,後には休日の出勤を禁止されたことからすれば,そのメンテナンス作業は,P1自身の責任を感じさせられる作業であって,精神的な緊張を強いられるものであるといわなければならない。 そして,上記認定事実によれば,平成12年11月半ばには,本件会社のパソコンが入替になる予定があり,本件システムの更新が必要になっていたこと,厳密な意味での業務内容とは言い難い面も否定できないものの,時を同じくして,同月中に,本件会社のIOC研修に参加することになっており, P1は,自宅でもこの研修に参加するための予習を行っていたことが窺えるものであり,これらの期限の設定され ものの,時を同じくして,同月中に,本件会社のIOC研修に参加することになっており, P1は,自宅でもこの研修に参加するための予習を行っていたことが窺えるものであり,これらの期限の設定された業務が重なることは,ストレスを亢進させる事情であるということができるのである。 以上のような本件会社における業務の内容,P1に課せられた業務の内容と態様,本件疾病発症前後の事情は,いずれもP1が,相応のストレスに晒されており,負荷のかかる業務に従事していたことを裏付ける事情であるといわなければならない。 (5) 本件疾病発症前の業務上の負荷前記前提事実及び上記認定事実のとおり,本件疾病発症前1か月間は,P1の時間外労働時間が算定可能なだけで79時間30分であったこと,深夜にわたる勤務が10回,11回のシフト変更があったこと,本件疾病発症前1週間には,算定が可能なだけでも時間外労働時間が24時間30分で,深夜にわたる勤務が2回,シフト変更が2回あったこと,本件疾病発症日の前日である平成12年11月7日正午ころ出勤し,同月8日朝5時30分まで16時間30分(拘束時間17時間30分)の間,労働したこと,この勤務は,Oシフト勤務での修正シフトによる通常の労働時間13時間(拘束時間14時間)を3時間30分超えるものであることという事情が認められる。 もとより,上記認定事実のとおり,シフト変更には,概ね休日が挟まれており,休日が一定程度あったことは認められるが,上記判断のとおり,本件疾病発症前の段階では,さらに業務の負荷が増大したものということができる。 (6) 小括前記前提事実及び上記認定事実によれば,P1には,従前の健康診断で,脳・心臓疾患の原因となる異常は認められず,解剖所見でも特記すべき異常が認められないものであり,本件会社の業 。 (6) 小括前記前提事実及び上記認定事実によれば,P1には,従前の健康診断で,脳・心臓疾患の原因となる異常は認められず,解剖所見でも特記すべき異常が認められないものであり,本件会社の業務により,負荷の強い業務に長期間にわたって晒され,さらに直前の業務の負荷が増大することにより,自律神経の過度な緊張を来し,疲労蓄積や過労状態の発症に強く関連し,心室細 動等心臓刺激伝導系の異常を引き起こした可能性が極めて高いということができる。そうすると,上記認定事実のとおり,P1には,何らかの基礎疾患が存在していた可能性はあるものの,上記のメカニズムにより,業務上の過重負荷によりその自然の経過を超えて増悪して本件疾病が発症したということができる。すると,本件疾病の発症は,本件会社におけるP1の業務に内在する危険が現実化したものと評価でき,業務と本件疾病との間には相当因果関係があることを認めることができるのである。 なお,上記認定事実のP12意見のうち,業務起因性を否定する結論部分は,業務の過重性についての評価につき,当裁判所の上記判断と前提を異にしており,上記結論を左右するものではない。 第4 結論以上によれば,P1の死亡は,業務に起因すると認められるところ,P1の死亡が業務に起因するものではないことを前提とする本件処分は違法であり,取消を免れない。 よって,本件処分の取消を求める原告の請求は理由があるのでこれを認容することとし,主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第36部 裁判長裁判官渡邉 弘 裁判官田中一隆 裁判官丹下将克 長裁判官渡邉弘 裁判官田中一隆 裁判官丹下将克

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