主文 1 処分行政庁が原告に対して平成29年2月14日付けでした保護廃止決定処分を取り消す。 2 訴訟費用は被告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求主文同旨第2 事案の概要等 1 事案の概要本件は、熊本県玉名郡a町に居住して生活保護(医療扶助)の支給を受けてい た原告が、処分行政庁が原告に対して平成29年2月14日付けでした生活保護廃止決定処分(以下「本件処分」という。)は、生活保護法上の世帯の認定を誤り、世帯分離を継続すべきであるのに世帯分離解除を行った違法があり、処分通知に十分な理由が付記されていない違法もあるなどと主張して、被告を相手に、本件処分の取消しを求める事案である。 2 関係法令の定め等別紙「関係法令の定め等」のとおり 3 前提事実(争いがない事実並びに各項掲記の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認定できる事実)⑴当事者等 ア原告原告は、昭和▲年▲月生まれの男性であり、熊本県玉名郡a町内の自宅において、妻のB(以下、原告と併せて「原告夫婦」という。)と居住している者である。(争いがない。)イ原告の孫 原告の孫(原告夫婦の長女の子)であるC(平成▲年▲月▲日生まれ。 以下、単に「孫」という。)は、両親の離婚に伴い、保育園の頃から原告夫婦の下で養育され、原告の自宅で原告夫婦と同居していた。 (争いがない。)孫は、一時期は不登校、引きこもりの状況にあったが、平成26年4月、D看護専門学校(学校教育法上は専修学校に該当する。以下「看護専門学校」という。)准看護科(2年過程。講義も実習も日中行われる。入学金1 0万円、教育充実費4万8000円、テキスト等8万円。月額授業料2万1000円、同実習費8000円 当する。以下「看護専門学校」という。)准看護科(2年過程。講義も実習も日中行われる。入学金1 0万円、教育充実費4万8000円、テキスト等8万円。月額授業料2万1000円、同実習費8000円、同その他7000円の合計は3万6000円である。)に入学し、同校に在学しながら福岡県大牟田市内のE病院(以下「E病院」という。)に勤務し、収入を得ていた。(甲1、2、13の2、乙11) ウ被告被告は、所管区域内の要保護者に対する保護実施義務を負い、熊本県内に処分行政庁を含む9の福祉事務所を設置する地方公共団体である。(乙6)⑵原告の生活保護の受給開始及び原告夫婦と孫の世帯分離ア原告は、生活に困窮し、平成26年8月8日付けで、同年7月14日から 生活保護(医療扶助)の受給を開始した。その際、孫は原告夫婦の世帯から世帯分離され、原告夫婦のみの世帯に対する生活保護の受給が認められた。 (乙8)イ処分行政庁の担当者は、平成27年10月13日、孫から、同年5月以降は月のうち2週間は看護専門学校准看護科で勉強し、2週間はE病院に勤務 して月6万円程度の就労収入を得ていること、学費は就労収入だけでなく奨学金等でも賄っており、同校看護科進学の意向を有していることなどを聴取した。(乙7の6~7頁)ウ処分行政庁は、平成27年10月21日、ケース診断会議を開催し、孫の世帯分離の継続について検討した。その結果、当該時点では局長通知第1の ⑶の要件(生業扶助の対象とならない専修学校又は各種学校で就学する場 合であって、その就学が特に世帯の自立助長に効果的であると認められる場合)に該当するとして、孫の世帯分離を継続することとされた。(乙7の 校又は各種学校で就学する場 合であって、その就学が特に世帯の自立助長に効果的であると認められる場合)に該当するとして、孫の世帯分離を継続することとされた。(乙7の7頁。乙9の2頁)エ処分行政庁の担当者は、平成27年12月14日、原告から孫のE病院における給与明細を受領し、孫の給与総支給額が同年8月分は9万6040円、 同年9月分は7万1980円、同年10月分は8万5250円であることを把握したが、当初孫から聴取していた金額よりも多額ではあるものの、世帯分離者の収入額は直接世帯分離要件に影響するものではないと判断し、孫の世帯分離を継続した。(乙7の8頁)⑶孫の看護専門学校准看護科卒業、看護科進学後の経緯 ア孫は、平成28年3月に看護専門学校准看護科を卒業して准看護師の資格を取得し、同年4月に同校看護科(3年過程。講義は夜間、実習は日中行われる。入学金22万円、教育充実費7万2000円、テキスト等15万円。 月額授業料2万6000円、同実習費9000円、その他1万円の合計は4万5000円である。)に進学した。孫は、同校看護科進学後も、在学しなが らE病院に勤務し、月約12~16万円(手取り)の収入を得ていた。 (甲3、13の1)イ処分行政庁の担当者は、平成28年5月23日、原告の自宅を訪問して原告夫婦と面談し、孫が朝6時30分頃家を出て夜9時30分頃帰宅する生活を送っていることを聴取した。(乙7の10頁) ウ処分行政庁の担当者は、平成28年8月19日、原告の自宅を訪問して原告夫婦と面談し、孫がE病院から奨学金を受けており、同病院に就職するつもりであることを聴取した。(乙7の12頁)エ処分行政庁の担当者は、平成28年12月16日、原告の自宅を訪問して を訪問して原告夫婦と面談し、孫がE病院から奨学金を受けており、同病院に就職するつもりであることを聴取した。(乙7の12頁)エ処分行政庁の担当者は、平成28年12月16日、原告の自宅を訪問して原告及び孫と面談し、孫から平日は看護専門学校看護科に就学しながらE病 院で働き、土曜日は同校が休みのため同病院で働いていることを聴取すると ともに、孫の給与明細を受領し、孫の給与総支給額が同年1月分は9万3360円(通勤費を除く。以下同じ。)、同年2月分は7万2335円、同年3月分は10万3320円、同年4月分は14万4820円(推計)、同年5月分は13万9960円、同年6月分は18万5132円、同年7月分は16万4317円、同年8月分は同16万0025円(推計)、同年9月分は16 万0025円(推計)、同年10月分は16万0025円(推計)、同年11月分は15万6525円であることを把握した。また、同担当者は、孫が同年4月から月20日・1日7時間以上、時給1000円の条件でE病院で就労するとともに、健康保険、厚生年金等に加入していたこと、看護科の入学金等の一時金44万2000円、月謝4万5000円、車検費用等をE病院 からの給与及び奨学金により賄っていることを確認した。(乙7の16~17頁)オ処分行政庁は、平成29年1月26日、ケース診断会議を開催し、平成29年2月1日付けで孫と原告の世帯分離を解除し、本件処分を行うことを決定した。同会議の検討票には、担当者の意見として「これまでは孫が生業扶 助の対象とならない専修学校に就学しており、その就学が特に世帯の自立助長に効果的であるとして世帯分離としてきたが、平成28年4月から勤務条件が代わり、平成28年5月以降は社会保険・厚生年金・雇用保険に加入し、 らない専修学校に就学しており、その就学が特に世帯の自立助長に効果的であるとして世帯分離としてきたが、平成28年4月から勤務条件が代わり、平成28年5月以降は社会保険・厚生年金・雇用保険に加入し、給与額(総支給額)も14~19万円と大幅に増えたため、世帯分離を解除し、保護廃止としたい。」との意見が記載されている。(乙7の19頁、乙1 0の1~2頁)⑷本件処分及びその通知ア処分行政庁の担当者は、平成29年2月1日、原告に対し、同日付け「A(原告)さん世帯の世帯分離解除について」と題する書面を原告に交付し、同日付けで保護廃止とする予定であることを通知した。当該書面には、孫が 「病院にお勤めですが、平成28年4月から健康保険加入、厚生年金保険、 雇用保険にも加入し、一般就労されている方並みに収入もあるため、収入、稼働能力の活用状況等を考慮すると、世帯分離を解除することが適当と考えられます。」との記載がある。(甲4、乙7の19~20頁)イ処分行政庁の担当者は、同日の原告夫婦への説明の際に原告夫婦が同年4月以降孫の看護専門学校における実習が始まる予定であり、孫の給与が激減 することを心配していたため、まずは保護停止としておき、同年4月以降の状況を踏まえて保護廃止又は停止解除とすることを原告夫婦に提案したが、同年2月6日に原告から電話で孫の実習が始まり収入がなくなるのは同年12月からであるとの連絡を受けたことから、保護廃止とする方針を変更しないこととした。(乙7の19~20頁) ウ処分行政庁は、平成29年2月14日に本件処分を行い、同日付けの保護廃止決定通知書を同月16日に処分行政庁の担当者が原告に対して交付した。上記保護廃止決定通知書には、「1 廃止した保護の種類医療、2 廃止する時期平 年2月14日に本件処分を行い、同日付けの保護廃止決定通知書を同月16日に処分行政庁の担当者が原告に対して交付した。上記保護廃止決定通知書には、「1 廃止した保護の種類医療、2 廃止する時期平成29年2月1日、3 理由世帯の収入が最低生活費を上回るため」と記載されていた。(甲5、乙7の22頁) ⑸審査請求及び再審査請求(争いがない。)ア原告は、平成29年5月11日、熊本県知事に対して本件処分の取消しを求める旨の審査請求をしたが、同年12月27日に同請求を棄却する旨の裁決がされた。 イ原告は、平成30年1月31日、厚生労働大臣に対して本件処分の取消し を求める旨の再審査請求をしたが、令和元年12月2日に同再審査請求を棄却する旨の裁決(その内容について令和2年7月8日付け原告上申書参照)がされた。 ⑹本件訴えの提起原告は、令和2年6月1日、本件訴えを提起した。(当裁判所に顕著な事実) 4 争点 ⑴世帯分離解除の処分性の有無⑵本件処分が処分行政庁の裁量を逸脱・濫用した違法な処分か否か⑶本件処分が理由付記を欠く違法な処分か否か 5 争点に関する当事者の主張⑴世帯分離解除の処分性の有無 (原告の主張)世帯分離解除は、生活保護法25条2項に基づく保護変更決定であり、原告に関する保護の要否及び程度に変動を及ぼすものであるから国民の権利義務を形成するものであって、行政事件訴訟法上の処分性を有する。 (被告の主張) 世帯分離又はその解除は、処分行政庁が保護の要否及び程度を判定するに当たって、世帯単位で検討することが相当かどうかという観点でする取扱いであって、これによって直ちに国民の権利義務を形成し、又はその範囲を確定することが法律上認めら 庁が保護の要否及び程度を判定するに当たって、世帯単位で検討することが相当かどうかという観点でする取扱いであって、これによって直ちに国民の権利義務を形成し、又はその範囲を確定することが法律上認められているものではない。また、生活保護法25条2項は、既に決定された保護の種類、程度及び方法について変更する必要が生じたとき に、保護の実施機関が職権で変更を決定する規定であり、保護それ自体の変更を決定する点で、その判定のための取扱いである世帯分離解除とは異なる。したがって、世帯分離解除に処分性は認められないし、被処分者は保護変更決定や保護廃止決定の適否を争う機会があるから、世帯分離解除の取消しを求める訴訟提起を認めないことが国民の権利救済の観点から合理性がないともいえ ない。 ⑵本件処分が処分行政庁の裁量を逸脱・濫用した違法な処分か否か(原告の主張)ア原告夫婦と孫とは、同一家屋に居住する事実はあるもの、年代や生活態様も異なり、相互の収入・支出を把握していないなど互いに立ち入らない 関係にあり、生計を別にする世帯と認定すべきであった。そのような実態に もかかわらず、処分行政庁は、本件処分を行った平成29年2月の時点において、原告夫婦と孫について生計を一にする世帯と誤って認定しており、事実誤認の違法がある。 イ原告夫婦と孫の世帯分離は局長通知第1の5⑶の「生業扶助の対象とならない専修学校又は各種学校で就学する場合であって、その就学が特に世帯の 自立助長に効果的であると認められる場合」に該当するものとして実施されたものであるところ、処分行政庁は、平成28年1月以降の孫の収入の増加、特に同年4月以降の孫の収入が10万円を上回っていたことを理由に孫の世帯分離を解除して本 れる場合」に該当するものとして実施されたものであるところ、処分行政庁は、平成28年1月以降の孫の収入の増加、特に同年4月以降の孫の収入が10万円を上回っていたことを理由に孫の世帯分離を解除して本件処分を行っているが、本件処分当時も孫は看護専門学校に就学しており、局長通知第1の5⑶の要件を満たす状況は消滅してい ない。また、局長通知第1の5⑶に基づく世帯分離については、局長通知第1の2各号の一部で世帯分離の要件とされている「世帯分離を行わないとすれば、その世帯が要保護世帯となる場合に限る」という要件が定められていないから、孫の収入が増え、原告夫婦と孫の世帯分離を行わなければ原告夫婦と孫で構成される世帯収入が最低生活費を上回る状態となる場合でも世 帯分離を継続することができる。さらに、生活保護手帳別冊問答集2017の65頁によれば、就学者の収入が就学費用及び生活費を上回るときは、保護を受けている出身世帯に対する扶養の履行を行うとされているから、処分行政庁は、本件処分ではなく、孫に対し原告夫婦への扶養を行うこと等の指導をすべきであったといえる。したがって、本件処分は局長通知第 の ⑶ の要件を満たす状況が継続しているのに世帯分離解除を行い、それを前提として行われた違法がある。 ウ仮に本件処分時に世帯分離解除の要件が満たされていたとしても、処分行政庁は、孫の収入の増加のみに着目し、その収入が孫の看護専門学校の就学費用等に充てられていたことや、孫は同校看護科3年生となる平成30年4 月以降は午前8時30分から午後4時30分まで実習があり、E病院での就 労は一日4時間が限度となって収入が半減するためにその費用を貯蓄しておく必要があったこと、原告世帯のような高齢世帯では将来的な医療費の 時30分から午後4時30分まで実習があり、E病院での就 労は一日4時間が限度となって収入が半減するためにその費用を貯蓄しておく必要があったこと、原告世帯のような高齢世帯では将来的な医療費の増額が見込まれることなどを考慮せず、直ちに保護を廃止するのではなく保護停止決定を経ることの検討もせずに本件処分を行ったものであり、保護実施機関としての裁量を逸脱・濫用するものであって違法である。 エ孫は祖父母である原告夫婦に対して生活保持義務ではなく生活扶助義務を負うにすぎないのであり、世帯分離解除により孫に原告夫婦への生活保持義務を負わせることは違法である。また、現在の生活保護上は、事実上扶養がされたときにそれを収入として認定することとされており,事実上の扶養の有無の判断や孫の援助の意思の有無の確認を経ずに生活保護を廃止する などということはあってはならない。 オ本件処分がされた当時、子どもの貧困対策法や同法に基づく子供の貧困対策に関する大綱により、生活保護世帯の子どもの就学を支援する施策として世帯内の子どもの収入がその子ども自身の将来の就学費用に充てられ得ることが広く認められていた。生活保護手帳別冊問答集2017の65頁や問 答集62頁・問1-47(答)の記載によれば、本件で生活保護法4条の補足性の原理を持ち出したり、処分行政庁に広い裁量があるなどという被告の主張は明らかに誤りである。また、厚生労働省社会・援護局主管会議の資料でも大学等への進学・就学のために世帯分離制度を積極的に活用することが推奨され、保護の実施機関でも子どもの就学を支援する方向での世帯分離制 度の適切な運用が求められているのであるから、世帯分離を解除して就学中の孫の就労収入を原告夫婦と孫の世帯の収入と認定し、孫の就学を妨害することが認め 子どもの就学を支援する方向での世帯分離制 度の適切な運用が求められているのであるから、世帯分離を解除して就学中の孫の就労収入を原告夫婦と孫の世帯の収入と認定し、孫の就学を妨害することが認められる余地はない。 (被告の主張)ア原告夫婦と孫は、孫が小学生の頃から本件処分までの間、同一の住居に居 住し、同住居やその内部の家具等を共同使用していたと考えられる上、原告 と孫との間で家事が分担されていたとか、生活費の負担割合が取り決められていた等の申告はなかったのであるから、次官通知第1に基づき原告夫婦と孫について生計を一にする世帯とした処分行政庁の判断に誤りはなく、適法である。仮に孫と原告夫婦の生活態様が異なり、互いに金銭の授受がなく、収支も把握していないなどの事情が認められたとして、それらの事情は生計 の同一性を否定する決定的な要素とならない。 イ世帯分離の解除は、飽くまで同一世帯に属していることを前提に保護の要否及び程度の判定上は世帯を分離して取り扱うという擬制的かつ生活保護法10条本文の世帯単位の原則に対する例外的な措置であり、処分行政庁の合理的な裁量に委ねられている。処分行政庁は、孫が平成28年3月に看護 専門学校の准看護科を修了して准看護師の資格を取得し、同年4月から看護科に進学したことで、孫の就学の時間帯が全日制から夜間定時制(おおむね午後5時30分から午後8時40分まで)に変わり、月20日以上・1日7時間以上のペースで就労し、その収入も一般就労者と同程度となったこと、同年5月以降は健康保険等にも加入して、その収入が大幅に増えるなどの事 情の変更が認められたことから、原告夫婦及び孫で構成される世帯が経済的に自立することができる状態になったと判断したものであり、孫の稼働能力の活 等にも加入して、その収入が大幅に増えるなどの事 情の変更が認められたことから、原告夫婦及び孫で構成される世帯が経済的に自立することができる状態になったと判断したものであり、孫の稼働能力の活用を求めることが孫の就学を妨げるものともいえないから、その判断は世帯分離の趣旨に沿う合理的なものであって、何ら裁量の逸脱濫用はない。 また、処分行政庁は、本件処分の前に、看護専門学校看護科での実習開始に より孫の収入が減少するおそれがあることを考慮して保護停止処分とする方針であったが、その直後に原告から、孫の収入が実習により減少するのは同年12月以降となることが見込まれる旨の連絡を受けたことにより本件処分を行うこととしたものであり、その判断過程に不合理な点はない。 ウ個別の原告の主張に対する反論 原告は、看護専門学校看護科での実習が始まれば、孫は日中に勤務がで きなくなるためそれに備えて貯蓄をしておく必要があったと主張するが、実習が開始されたときに収入が減少し、それによって収入が最低生活費を下回るという状況に至ればその時点で再度生活保護を申請することが可能であり、将来の経済的不安まで広く考慮する必要はない。 原告は、大学等に就学したことを理由に世帯分離が認められた世帯構成 員が就学費用及び生活費を上回る収入を得た場合であっても、直ちに世帯分離を解除するべきではなく、保護を受けている出身世帯に対する扶養の履行を先行させるべきと主張するが、世帯分離が認められていた構成員が出身世帯に対して生活費等の交付をしない問題は、基本的に世帯内で解決するべきものである。 原告は、本件処分の判断過程において、孫が原告夫婦に対し生活費を渡していなかったという事情が十分に考慮されておらず、原告夫婦の医療費について 、基本的に世帯内で解決するべきものである。 原告は、本件処分の判断過程において、孫が原告夫婦に対し生活費を渡していなかったという事情が十分に考慮されておらず、原告夫婦の医療費についての検討もなされていない旨主張するが、孫から原告夫婦への生活費の交付のような事情を事細かく取り上げることになれば世帯単位の趣旨が没却されてしまうし、処分行政庁は原告夫婦の将来の医療費を本件処 分当時の医療費に基づいて推計するなど適正に考慮していた。 原告は、原告世帯に係る保護の要否を検討する際に、孫の収入に関する必要経費の控除が適切に行われていないと主張するが、列挙する各費用が必要経費に当たると主張するにとどまり、それがいかなる根拠に基づき必要経費と認められるのか不分明である。 原告は、処分行政庁が世帯分離解除により孫に原告夫婦に対する扶養義務(生活扶助義務を超えた生活保持義務)を負わせたことが違法である旨主張するが、孫の収入が原告世帯の収入として認定されたのは適法に世帯分離解除がされた結果にすぎないし、祖父母、孫等は社会生活上特別な関係が望まれているとして一般的に同一世帯に属するときは世帯単位の原 則をそのまま適用して差し支えないとされているから、原告の上記主張は 失当である。 ⑶本件処分が理由付記を欠く違法な処分か否か(原告の主張)処分行政庁は、本件処分の際に原告に交付した書面に、本件処分の理由として「世帯の収入が最低生活費を上回る」とだけ記載し、根拠法令を全く示して おらず、不利益処分に係る理由を記載しておらず、理由付記として重大な欠缺がある。また、処分行政庁が被処分者に交付する書面には記載された内容自体から被処分者が当該処分の過程を了知することが求められているから、仮 利益処分に係る理由を記載しておらず、理由付記として重大な欠缺がある。また、処分行政庁が被処分者に交付する書面には記載された内容自体から被処分者が当該処分の過程を了知することが求められているから、仮に、処分行政庁の担当者が原告宅を訪問して本件処分の理由を説明していたとしても、本件処分の不十分な理由付記を補完するものではない。 (被告の主張)処分行政庁の担当者は、本件処分の前に複数回原告の自宅を訪問し、孫の世帯分離解除及び要否判定による保護廃止の予定について「Aさん世帯の世帯分離解除について」と題する書面を交付するなどして繰り返し説明しており、孫も原告夫婦と同一世帯と認定されることを理解した上で原告夫婦を自分の社 会保険の被扶養者とする予定であるとの申告があったことからすれば、平成29年2月14日付け保護廃止決定通知書の「世帯の収入が最低生活費を上回るため」という記載によって、原告夫婦は本件処分の理由やその根拠法令が生活保護法26条であることを容易に了知することができたというべきであるし、処分行政庁の判断の慎重及び合理性は十分担保され、その恣意も排除されてい たといえるから、本件処分に係る理由付記に違法性を帯びるような瑕疵はない。 第3 当裁判所の判断 1 争点⑴(世帯分離解除の処分性の有無)について 原告は、世帯分離解除に処分性がある旨主張する。しかし、世帯分離又はその解除は、処分行政庁が保護の要否及び程度を世帯単位で判定、検討することが相 当か否かという観点から行う取扱いであり、保護の申請者や受給者に対する保護 の要否及び程度に直接変動を及ぼすものではなく、これらによって直ちに国民の権利義務を形成し、又はその範囲を確定することが かという観点から行う取扱いであり、保護の申請者や受給者に対する保護 の要否及び程度に直接変動を及ぼすものではなく、これらによって直ちに国民の権利義務を形成し、又はその範囲を確定することが法律上認められているものではないから、行政事件訴訟法3条2項の「行政庁の処分」には当たらないと解される。よって、原告の上記主張を採用することはできない。 2 争点⑵(本件処分が処分行政庁の裁量を逸脱・濫用した違法な処分か否か)に ついて⑴本件処分と世帯分離解除の関係ア本件処分の後に処分行政庁から原告に交付された保護廃止決定通知書には処分の理由として単に「世帯の収入が最低生活費を上回るため」と記載されている(前記第 の ⑷ウ)が、本件処分の前に行われたケース診断会議 では世帯分離の解除の理由として孫の収入の増加、社会保険加入等が挙げられていること(同⑶オ)及び処分行政庁の担当者から本件処分前に原告夫婦に交付された「Aさん世帯の世帯分離解除について」と題する書面にも孫の収入の増加が世帯分離の解除の理由として同様の事由が挙げられていること(同⑷ア)に照らすと、本件処分時までに原告夫婦の年金収入等は特段増 加しておらず、本件処分は、孫の収入が増加したことに着目して原告夫婦と孫の世帯分離解除がされ、それを前提とする原告夫婦及び孫により構成される世帯の収入が同世帯の最低生活費を上回ることを理由として行われたことが認められる。 イそこで、本件処分の適法性を判断するに当たっては、当該時点における原 告夫婦と孫の世帯分離解除の適法性を判断することが必要となる。 ⑵世帯分離解除の適法 れたことが認められる。 イそこで、本件処分の適法性を判断するに当たっては、当該時点における原 告夫婦と孫の世帯分離解除の適法性を判断することが必要となる。 ⑵世帯分離解除の適法性に係る判断の枠組みア生活保護法上の保護については、世帯単位の原則が採られ、世帯を単位としてその要否及び程度を定めるものとされている(生活保護法10条本文)が、例外的に、これによりがたいときは、個人を単位として定めることがで きるものとされており(同条ただし書)、これらを受けた通達等の一部であ る局長通知第1の5⑶は、世帯員が専修学校等で就学する場合であって、その就学が特に世帯の自立助長に効果的であると認めるときは、当該世帯員を生活保護の対象となる世帯から分離して差しつかえない旨を定めている(一方、専修学校等に進学した世帯員の収入が少ないことは要件とされていない。)。一方、課長通知第1の問8の(答)は、その後の事情の変更により、 個々の世帯分離の要件(本件では局長通知第1の5)に該当しなくなった場合には、世帯分離を解除し、世帯分離解除の対象となっていた者を含む元の世帯を単位として保護の要否及び程度を改めて判断すべき旨を定めている。 イこのように生活保護法10条ただし書及び局長通知第1の5⑶により世帯単位の原則の例外として専修学校等に進学した世帯員の保護世帯からの 分離が認められている趣旨は、専修学校等に進学した世帯員を保護世帯から分離して保護世帯とは別の世帯を構成しているとみなすことにより、専修学校等に進学した世帯員の経済的負担を軽減し、引き続き保護世帯との同居を続けながら専修学校等の教育課程を修了することができるようにして、専修学校等の在学中に十分な稼働能力を取得させ、専修学校等に進学した世帯員 帯員の経済的負担を軽減し、引き続き保護世帯との同居を続けながら専修学校等の教育課程を修了することができるようにして、専修学校等の在学中に十分な稼働能力を取得させ、専修学校等に進学した世帯員 及び分離された保護世帯の将来的な自立を促進助長することにあるものと解される。このような上記各規定の趣旨及び文言(生活保護法10条ただし書の「定めることができる」、局長通知第1の5⑶に係る「差し支えない」及び「就学が特に世帯の自立助長に効果的であると認めるとき」)に照らすと、専修学校等に進学した世帯員の世帯分離又は世帯分離解除をするか否か の判断については、処分行政庁に相応の裁量権が付与されているものの、その判断時における専修学校等に進学した世帯員の就学状況、収入・支出等の経済状況、分離された保護世帯の状況等に基づき、世帯分離又は世帯分離解除を行うことにより専修学校等に進学した世帯員及び分離された保護世帯の将来的な自立の促進助長に効果的であると認められるか否かが検討され るべきであり、その検討過程ないし結果(判断の内容)が著しく合理性を欠 く場合には、当該世帯分離又は世帯分離解除の判断は、処分行政庁の裁量の範囲を逸脱・濫用するものとして違法性が認められると解するのが相当である。 ウそして、厚生労働省社会・援護局保護課長事務連絡を基にした問答集には「そもそも世帯分離措置の効果は、基本的には、分離によって保護を受けな くなった者が最低生活の枠内という制約を受けない点にある。また、被保護者でない者の収入を被保護世帯の収入として自動的に認定することは、いかなる場合にあっても認められるものではない。したがって、世帯分離の結果被保護者でなくなった者の収入は、当然には他の世帯の収入と合算して認定すること 被保護世帯の収入として自動的に認定することは、いかなる場合にあっても認められるものではない。したがって、世帯分離の結果被保護者でなくなった者の収入は、当然には他の世帯の収入と合算して認定することはできず、扶養義務の履行等により現実に金銭の移転があった場合 に、はじめてその金額を収入額として認定すべきである。とりわけ、『その世帯が要保護世帯となる場合に限る』という要件が課されていない分離については、世帯分離の趣旨が生かされるよう配慮が必要である。」と記載されていることに照らすと、局長通知第 の ⑵、⑷、⑸、⑹及び⑻の場合と異なり、世帯分離を行わないとすれば「その世帯が要保護世帯となる場合に限る」 という要件が付されていない局長通知第 の ⑶の世帯分離については、専修学校等に進学した世帯員の収入が増えて世帯分離を行なわなければ当該世帯員を含めた世帯収入が最低生活費を上回る状態となる場合であっても世帯分離を継続することが可能とされていると考えられるのであって、専修学校等に進学した世帯員の収入が増加したことのみをもって世帯分離を解 除することは相当でないというべきである。 ⑶原告夫婦と孫の世帯分離解除についての検討ア上記⑵の枠組みを前提として、原告夫婦と孫の世帯分離解除の判断に係る処分行政庁の判断がその裁量権を逸脱・濫用するものか否かについて検討する。 イまず、処分行政庁が平成26年7月に原告夫婦と孫の世帯分離を認めた後、 孫は看護専門学校の准看護科で就学しながらE病院で手取り月6万円程度の収入を得ており(前記第 の ⑵イ)、同病院から平成27年8月から10月まで総支 帯分離を認めた後、 孫は看護専門学校の准看護科で就学しながらE病院で手取り月6万円程度の収入を得ており(前記第 の ⑵イ)、同病院から平成27年8月から10月まで総支給額(月額)7万円強ないし10万円弱程度の収入(同⑵エ)、平成28年1月から同年3月まで総支給額(月額)9万円強ないし10万円強程度の収入を得ていた(同⑶エ)が、処分行政庁はそれを問題視していな かったもので、平成28年4月に孫が看護専門学校看護科に進学した以降も定期的に孫の就労状況等を聴取しつつ(同⑶イ、ウ)、平成28年12月に孫の給与明細を受領するまで看護科進学以降E病院からの収入が増えたことを問題視していた形跡も見当たらない。また、本件処分に先立ち平成29年1月26日に開催された処分行政庁内部のケース診断会議における処分行 政庁の担当者の意見は、孫が看護専門学校看護科に進学した平成28年4月から孫の勤務条件が代わり、同年5月以降は社会保険・厚生年金・雇用保険に加入し、給与額(総支給額)も月額14~19万円と大幅に増えたことから世帯分離を解除するというものであったこと(同⑶オ)、本件処分の直前である平成29年2月1日付けで原告に示された「Aさん世帯の世帯分離解 除について」と題する書面にも、孫が平成28年4月から健康保険加入、厚生年金保険、雇用保険にも加入し、一般就労されている方並みに収入もあるため、収入、稼働能力の活用状況等を考慮すると、世帯分離を解除することが適当と考えられる旨が記載されていたこと(同⑷ア)に鑑みると、処分行政庁の担当者は、孫が看護専門学校の准看護科を卒業し看護科に進学した平 成28年4月以降、E病院での就労収入が月額(総 が適当と考えられる旨が記載されていたこと(同⑷ア)に鑑みると、処分行政庁の担当者は、孫が看護専門学校の准看護科を卒業し看護科に進学した平 成28年4月以降、E病院での就労収入が月額(総支給額である。)が大幅に増額したことを契機に世帯分離解除を行ったものであり、准看護士の資格を取得して一般人と同等の稼働能力を取得した孫の収入を含めれば原告夫婦への生活保護が廃止できると考えて世帯分離解除をすべきであるとの判断をしたものと推認される。 ウしかし、看護専門学校准看護科と同校看護科がその年限、授業内容、就学 に要する費用等において異なることを踏まえても、両科は学生にいずれも看護に携わる専門的な能力を取得させることを目的とするものであり、同質性・連続性を有する課程であるということができる。また、孫が原告夫婦と同居して看護専門学校で就学しつつE病院で就労し、看護専門学校の費用(なお、看護科の月額授業料等は准看護科の月額授業料等よりも9000円 多い。前記第 の ⑴イ、同⑶ア)をE病院での収入及び奨学金により賄っていたことは、原告夫婦と孫の世帯分離がされた時点と世帯分離解除がされた時点とで変わりない。さらに、孫は本件処分当時看護専門学校看護科を卒業後は看護師としてE病院に就職する意向を有していたこと(前記第2の ⑶ウ)に加え、証拠(甲26~28、29の1及び2、30~32、33 の1~3)によれば、看護師の資格を取得すれば准看護師の資格しか取得していない場合よりも病院等への就職がしやすくなり、支給される給与額や仕事のやりがいも増加することが認められることを併せ考慮すると、長期的・俯瞰的な視点からすれば、孫が看護専門学校の准看護科を卒業し看護科に進学したことを踏まえても、平成2 くなり、支給される給与額や仕事のやりがいも増加することが認められることを併せ考慮すると、長期的・俯瞰的な視点からすれば、孫が看護専門学校の准看護科を卒業し看護科に進学したことを踏まえても、平成29年2月の世帯分離解除の時点において、 看護専門学校看護科に就学中の孫と原告夫婦の世帯分離を継続することが孫及び原告夫婦の経済的な自立に資する状況にあったことは明らかであるというべきである。 エそうすると、処分行政庁の担当者は、原告夫婦と孫の世帯分離解除の判断に際して孫の看護科への進学及びそれに伴う収入の大幅な増加という表層 的な現象に専ら着目したがゆえに、孫を原告夫婦の世帯から分離していることが原告夫婦及び孫の経済的な自立助長に効果的である状況が継続しているかという視点に欠けるところがあったというべきであり、本件処分の前に行われた処分行政庁のケース診断会議でそのような視点からの質疑・検討が行われた形跡も窺われないこと(前記第 の ⑶オ。 なお、乙第9号証の「出 席者意見」欄は空欄となっている。)に照らすと、生活保護法4条の定める保 護の補足性の原則を踏まえても、処分行政庁における世帯分離解除の検討過程ないし結果(判断の内容)は著しく合理性を欠いていたといわざるを得ない。 オそして、処分行政庁は、孫が看護専門学校入学後、本件処分時に至るまで原告夫婦に対し自らの収入から生活費等を支払っておらず、本件処分後に原 告夫婦が生活費の援助を依頼しても看護専門学校での就学に支障がある旨述べて拒否し、それに対し原告夫婦が孫が不登校や引きこもりの状態に戻ることをおそれて孫に対し生活費の援助を重ねて依頼することはできなかった(甲35、乙7の28頁、原告本人5~9頁、15~22頁)という原告夫婦と孫の関 対し原告夫婦が孫が不登校や引きこもりの状態に戻ることをおそれて孫に対し生活費の援助を重ねて依頼することはできなかった(甲35、乙7の28頁、原告本人5~9頁、15~22頁)という原告夫婦と孫の関係性を世帯分離解除に至る検討過程において特に検討してお らず(なお、孫から原告夫婦への生活費の援助が認められた場合には、それを原告夫婦の収入として認定すれば足りる。)、平成29年2月1日の処分行政庁の担当者と原告夫婦の面談時には保護廃止ではなく保護停止とする選択肢があることを一時示している(前記第 の ⑷イ)ものの、当該面談に至るまで保護停止の選択肢が検討された形跡は見当たらないのであって、こ れらの点でも処分行政庁内における世帯分離解除の検討が不十分であったことが窺われる。 カしたがって、処分行政庁が平成29年2月に原告夫婦と孫の世帯分離の解除をした時点においても、孫の看護専門学校看護科における就学は孫及び原告夫婦の自立助長に効果的であって、原告夫婦と孫との世帯分離は局長通知 第1の5⑶の要件を満たしていたというべきであり、当該世帯分離解除の判断は、処分行政庁の裁量の範囲を逸脱・濫用したものとして違法性が認められる。 ⑷小括そして、上記のとおり孫と原告夫婦の世帯分離解除に係る処分行政庁の判断 が違法であって、本件処分時における原告と孫の世帯分離解除が認められない 以上、孫の収入を原告夫婦の世帯の収入と認定することはできず、その場合には原告夫婦の世帯の収入がその最低生活費を上回ることはないから、本件処分はその前提を欠くものとして、その余の争点(争点⑶)について判断するまでもなく違法であり、取消しを免れない。 ⑸被告の主張について ア被 ることはないから、本件処分はその前提を欠くものとして、その余の争点(争点⑶)について判断するまでもなく違法であり、取消しを免れない。 ⑸被告の主張について ア被告は、孫が平成28年3月に看護専門学校の准看護科を修了して准看護師の資格を取得し、同年4月から同看護科に進学して就学の時間帯が全日制から夜間定時制に変わり、雇用も安定して収入が一般人と同様程度になり、世帯の自立促進という世帯分離の趣旨が達成されたことから世帯分離の解除をしたものであり、その判断は合理的である旨主張する。 しかし、局長通知第1の5⑶は世帯分離の要件として「専修学校(中略)で就学する場合であって、その就学が特に世帯の自立助長に効果的であると認められる場合」と定めているだけであって、世帯分離された進学した世帯員の収入が増加ないし一般人と同程度となり社会保険等に加入するなどした場合に直ちに処分行政庁が世帯分離を解除することを許容する旨の規定 等は存在しない。また、看護専門学校看護科に進学した孫が一般就労者と同程度の収入を得て社会保険にも加入したことをもって直ちに孫の自立助長が達成されたということはできないし、上記の事情により保護世帯である原告夫婦の自立助長が達成されたということもできないことは明らかである。 よって、被告の上記主張を採用することはできない。 イ被告は、孫の稼働能力の活用を求めることが孫の就学を妨げるものとはいえないから、世帯分離解除の判断は合理的なものであって、裁量の逸脱・濫用はない旨主張する。 しかし、孫の稼働能力の活用を求めることが直ちに孫の就学を妨げないとしても、世帯分離解除により原告夫婦が生活保護の受給を廃止されれば、原 告夫婦(保護世帯 濫用はない旨主張する。 しかし、孫の稼働能力の活用を求めることが直ちに孫の就学を妨げないとしても、世帯分離解除により原告夫婦が生活保護の受給を廃止されれば、原 告夫婦(保護世帯)が遠からず経済的に困窮し、看護師の資格を取得して自立 しようとしていた孫の看護専門学校での就学に支障が生じる可能性が高いことは処分行政庁が本件処分を行うに際し容易に予測できたものと考えられる。また、原告夫婦及び孫が生活保護の廃止後更なる経済的な困窮に陥ってから再度生活保護を申請して受給するのでは、それまでに看護専門学校での学業とE病院での就労を両立させていた孫の生活が破壊され、かえって孫 の経済的な自立を阻害する結果になることも想像に難くない(なお、祖父母と孫の間には生活保持義務ではなく生活扶助義務しか存在しないから、世帯分離解除により孫が自らの収入で原告夫婦の扶養を強制されるような事態を招くことは相当でないということもできる。)から、それを看過して世帯分離解除を行った処分行政庁の判断について合理性は見い出し難い。よって、 被告の上記主張を採用することはできない。 第4 結論以上によれば、原告の請求は理由があるから認容することとし、主文のとおり判決する。 熊本地方裁判所民事第3部 裁判長裁判官中雄一朗 裁判官佐藤丈宜 裁判官池邊大喜 (別紙)関係法令の定め等 1 生活保護法⑴1条(この法律の目的) この法律は、日本国憲法第25条に規定する理念に基き、国が生活に困窮するすべての国民に対し、その困窮の程度に応じ、必要な保護を行い、そ 等 1 生活保護法⑴1条(この法律の目的) この法律は、日本国憲法第25条に規定する理念に基き、国が生活に困窮するすべての国民に対し、その困窮の程度に応じ、必要な保護を行い、その最低限度の生活を保障するとともに、その自立を助長することを目的とする。 ⑵3条(最低生活)この法律により保障される最低限度の生活は、健康で文化的な生活水準を維 持することができるものでなければならない。 ⑶4条(保護の補足性)ア 1項保護は、生活に困窮する者が、その利用し得る資産、能力その他あらゆるものを、その最低限度の生活の維持のために活用することを要件として行われる。 イ 2項民法に定める扶養義務者の扶養及び他の法律に定める扶助は、すべてこの法律による保護に優先して行われるものとする。 ウ 3項前2項の規定は、急迫した事由がある場合に、必要な保護を行うことを妨げるものではない。 ⑷10条(世帯単位の原則) 保護は、世帯を単位としてその要否及び程度を定めるものとする。但し、これによりがたいときは、個人を単位として定めることができる。 ⑸17条(生業扶助)生業扶助は、困窮のため最低限度の生活を維持することのできない者又はそのおそれのある者に対して、左に掲げる事項の範囲内において行われる。但し、 これによって、その者の収入を増加させ、又はその自立を助長することのでき る見込のある場合に限る。 一生業に必要な資金、器具又は資料二生業に必要な技能の修得三就労のために必要なもの⑹25条(職権による保護の開始及び変更) ア 1項保護の実施機関は、要保護者が急迫した状況に 、器具又は資料二生業に必要な技能の修得三就労のために必要なもの⑹25条(職権による保護の開始及び変更) ア 1項保護の実施機関は、要保護者が急迫した状況にあるときは、すみやかに、職権をもって保護の種類、程度及び方法を決定し、保護を開始しなければならない。 イ 2項保護の実施機関は、常に、被保護者の生活状態を調査し、保護の変更を必要とすると認めるときは、速やかに、職権をもってその決定を行い、 書面をもって、これを被保護者に通知しなければならない。(以下略)⑺26条(保護の停止及び廃止)保護の実施機関は、被保護者が保護を必要としなくなったときは、速やかに、保護の停止又は廃止を決定し、書面をもって、これを被保護者に通知しなければならない。(以下略) ⑻56条(不利益変更の禁止)被保護者は、正当な理由がなければ、既に決定された保護を、不利益に変更されることがない。 2 生活保護法による保護の実施要領について(昭和36年4月1日厚生省発社第 123号厚生事務次官通知。乙1)(以下「次官通知」という。)第1(世帯の認定)同一の住居に居住し、生計を一にしている者は、原則として、同一世帯員として認定すること。なお、居住を一にしていない場合であっても、同一世帯として認定することが適当であるときは、同様とすること。 第10(保護の決定) 保護の要否及び程度は、原則として、当該世帯につき認定した最低生活費と、第8によって認定した収入(以下「収入充当額」という。)との対比によって決定すること。また、保護の種類は、その収入充当額を、原則として、第1に衣食等の生活費に、第2に住宅費に、第3に教育費及び高等学 第8によって認定した収入(以下「収入充当額」という。)との対比によって決定すること。また、保護の種類は、その収入充当額を、原則として、第1に衣食等の生活費に、第2に住宅費に、第3に教育費及び高等学校等への就学に必要な経費に、以下介護、医療、出産、生業(高等学校等への就学に必要な経費を除く。)、 葬祭に必要な経費の順に充当させ、その不足する費用に対応してこれを定めること。 (注)上記のうち、生活費から介護までの経費に収入が充当されることにより医療扶助のみ保護の適用を受ける場合においては、「生活保護法による医療扶助運営要領について」(昭和36年9月30日社発第727号厚生省社会局長通知。 乙 )の第 の ⑵により、当該要保護者の属する世帯の収入充当額から当該世帯の医療費を除く最低生活費を差し引いた額をもって本人支払額とすることとされている。 3 生活保護法による保護の実施要領について(昭和38年4月1日社発第246 号厚生省社会局長通知。甲6、乙2)(以下「局長通知」という。)第1(世帯の認定) 2 同一世帯に属していると認定されるものでも、次のいずれかに該当する場合は、分離して差しつかえないこと(以下略)⑴(略) ⑵要保護者が自己に対し生活保持義務関係にある者がいない世帯に転入した場合であって、同一世帯として認定することが適当でないとき(直系血族の世帯に転入した場合にあっては、世帯分離を行わないとすれば、その世帯が要保護世帯となるときに限る。)⑶(略) ⑷次に掲げる場合であって、当該要保護者がいわゆる寝たきり老人、重度 の心身障害者等で常時の介護又は監視を要する者であるとき( 世帯となるときに限る。)⑶(略) ⑷次に掲げる場合であって、当該要保護者がいわゆる寝たきり老人、重度 の心身障害者等で常時の介護又は監視を要する者であるとき(世帯分離を行わないとすれば、その世帯が要保護世帯となる場合に限る。)(以下略)⑸次に掲げる場合であって、その者を出身世帯員と同一世帯として認定することが出身世帯員の自立助長を著しく阻害すると認められるとき ア 6か月以上の入院又は入所を要する患者等に対して出身世帯員のいずれもが生活保持義務関係にない場合(世帯分離を行わないとすれば、その世帯が要保護世帯となる場合に限る。)イ出身世帯に自己に対し生活保持義務関係にある者が属している長期入院患者等であって、入院又は入所期間がすでに1年をこえ、かつ、引 き続き長期間にわたり入院又は入所を要する場合(世帯分離を行わないとすれば、その世帯が要保護世帯となる場合に限る。)ウ (略)エイ又はウに該当することにより世帯分離された者が、退院又は退所後6か月以内に再入院若しくは再入所し、長期間にわたり入院若しくは入 所を要する場合(世帯分離を行わないとすれば、その世帯が要保護世帯となる場合に限る。)⑹⑸のア、イ及びエ以外の場合で、 か月以上入院又は入所を要する患者等の出身世帯員のうち入院患者等に対し生活保持義務関係にない者が収入を得ており、当該入院患者等と同一世帯として認定することがその 者の自立助長を著しく阻害すると認められるとき(世帯分離を行わないとすれば、その世帯が要保護世帯となる場合に限る。)⑺(略)⑻救護施設、養護老人ホーム、特別養護老人ホーム若しくは 者の自立助長を著しく阻害すると認められるとき(世帯分離を行わないとすれば、その世帯が要保護世帯となる場合に限る。)⑺(略)⑻救護施設、養護老人ホーム、特別養護老人ホーム若しくは介護老人福祉施設、障害者支援施設又は児童福祉施設(障害児入所施設に限る。)の入 所者(障害者支援施設については、重度の障害を有するため入所期間の 長期化が見込まれるものに限る。)と出身世帯員とを同一世帯として認定することが適当でない場合(保護を受けることとなる者とその者に対し生活保持義務関係にある者とが分離されることとなる場合については、世帯分離を行わないとすれば、その世帯が要保護世帯となるときに限る。) 3 高等学校(定時制及び通信制を含む。)、中等教育学校の後期課程、特別支援学校の高等部専攻科、高等専門学校、専修学校又は各種学校(以下「高等学校等」という。)に就学し卒業することが世帯の自立助長に効果的と認められる場合については、就学しながら、保護を受けることができるものとして差しつかえないこと。(以下略) 4 次の各要件のいずれにも該当する者については、夜間大学等で就学しながら、保護を受けることができるものとして差しつかえないこと。 ⑴その者の能力、経歴、健康状態、世帯の事情等を総合的に勘案の上、稼働能力を有する場合には十分それを活用していると認められること。 ⑵就学が世帯の自立助長に効果的であること。 5 次のいずれかに該当する場合は、世帯分離して差しつかえないこと。 ⑴~⑵(略)⑶生業扶助の対象とならない専修学校又は各種学校で就学する場合であって、その就学が特に世帯の自立助長に効果的であると認められる場合 4 生活保護法による ~⑵(略)⑶生業扶助の対象とならない専修学校又は各種学校で就学する場合であって、その就学が特に世帯の自立助長に効果的であると認められる場合 4 生活保護法による保護の実施要領の取扱いについて(昭和38年4月1日社保第34号厚生省社会局保護課長通知。甲14、乙3。(以下「課長通知」という。)第1(世帯の認定)問8の(答)世帯分離は、世帯単位の原則をつらぬくとかえって法の目的を実現できないと認められる場合に、例外的に認められる取扱いであることから、世帯分離要件は、 世帯分離を行う時点だけでなく、保護継続中も常に満たされていなければならな いものである。したがって、一旦世帯分離を行った場合であっても、その後の事情の変更により、世帯分離の要件を満たさなくなった場合には、世帯分離を解除し、世帯を単位として保護の要否及び程度を決定することとなる。具体的には、世帯分離により保護を要しないこととなった世帯の収入、資産の状況、就学の状況や、世帯構成、地域の生活実態との均衡及び世帯分離の効果等を継続的に把握 し、世帯分離要件を満たしているかどうかについて、少なくとも毎年1回は検討を行う必要がある。 第10(保護の決定)問6の(答)(保護廃止の際の要否判定について)保護開始時と異なり、現に保護受給中の者については、保護の実施要領の定めるところに従い、当該時点において現に生 じている需要に基づいて認定した最低生活費と収入充当額(中略)との対比によって判定するものであること。 第10(保護の決定)問12の(答)被保護者が保護を要しなくなったときには、法第26条の規定により保護の停止又は廃止を行うこととなるが、保護を停止すべき場合又は廃止すべき場合は、 原則として、 護の決定)問12の(答)被保護者が保護を要しなくなったときには、法第26条の規定により保護の停止又は廃止を行うこととなるが、保護を停止すべき場合又は廃止すべき場合は、 原則として、次によられたい。 1 保護を停止すべき場合⑴当該世帯における臨時的な収入の増加、最低生活費の減少等により、一時的に保護を必要としなくなった場合であって、以後において見込まれるその世帯の最低生活費及び収入の状況から判断して、おおむね6か月以内 に再び保護を要する状態になることが予想されるとき。(以下略)⑵当該世帯における定期収入の恒常的な増加、最低生活費の恒常的な減少等により、一応保護を要しなくなったと認められるがその状態が今後継続することについて、なお確実性を欠くため、若干期間その世帯の生活状況の経過を観察する必要があるとき。 2 保護を廃止すべき場合 ⑴当該世帯における定期収入の恒常的な増加、最低生活費の恒常的な減少等により,以後特別な事由が生じないかぎり、保護を再開する必要がないと認められるとき。(以下略) 5 生活保護手帳別冊問答集2016(乙5の1。平成21年3月31日付け厚 生労働省社会・援護局保護課長事務連絡「生活保護問答集について」を基に、各問答における生活保護関係法令及び通知等への参照を明示し、保護の実施要領関係、医療扶助運営要領関係として収載したもの。以下「問答集」という。)⑴問答集30頁・(同一世帯)問1-3(生計の同一性)の(答)法にいう世帯とは、社会生活上の単位として居住及び生計をともにしてい る者の集まりをいうものであり、世帯の認定に当たっては消費物資の共同購入、炊事の共同及び家具什器の共同使用等の諸要素を勘案して判断す 世帯とは、社会生活上の単位として居住及び生計をともにしてい る者の集まりをいうものであり、世帯の認定に当たっては消費物資の共同購入、炊事の共同及び家具什器の共同使用等の諸要素を勘案して判断すべきものである。ここにいう生計の同一とは、家計上の計算の単位がひとつの総枠の中におさまっていることを意味するにとどまり、世帯員のひとりが自己の得た収入のうち若干又は相当部分を家計の中心者に手渡すことなく、直接物 資の購入等の支払にあてている事実があるとしても、そのことはその者をそれ以外の者と別世帯として認定する決定的な要素とはならない。 ⑵問答集42頁・(世帯分離)世帯分離は、世帯単位の原則によれば、法の目的である最低生活の保障に欠けるとか、被保護者の自立を損なうと認められるような場合に、同一世帯 ではあるが保護の要否程度を決定する上で別世帯と同じように扱うという擬制的措置であるので、保護の実施に当たっては、世帯の実情、低所得世帯との均衡等を考慮し機械的な取扱いに陥らないよう十分留意するとともに、世帯全体の生活状態を観察し、分離の結果保護を受けないこととなった世帯員の収入が充分増加した場合等には必要に応じて世帯分離を解除し、保護の 停廃止を考慮することも肝要である。(以下略) ⑶問答集62頁・(世帯分離)問1-47(世帯分離により被保護者でなくなった者の収入の認定)の(答)そもそも世帯分離措置の効果は、基本的には、分離によって保護を受けなくなった者が最低生活の枠内という制約を受けない点にある。また、被保護者でない者の収入を被保護世帯の収入として自動的に認定することは、いか なる場合にあっても認められるものではない。したがって、世帯分離の結果被保護者でなくなった者の収入は、当然 る。また、被保護者でない者の収入を被保護世帯の収入として自動的に認定することは、いか なる場合にあっても認められるものではない。したがって、世帯分離の結果被保護者でなくなった者の収入は、当然には他の世帯の収入と合算して認定することはできず、扶養義務の履行等により現実に金銭の移転があった場合に、はじめてその金額を収入額として認定すべきである。とりわけ、「その世帯が要保護世帯となる場合に限る」という要件が課せられていない分離につ いては、世帯分離の趣旨が生かされるよう配慮が必要である。 以上
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