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昭和41(う)160 業務上過失致死傷被告事件

裁判所

昭和41年9月10日 札幌高等裁判所

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10,525 文字

主文 原判決を破棄する。被告人は無罪。理由 本件控訴の趣意は、弁護人池田雄亮提出の控訴趣意書および控訴趣意補充書記載のとおりであるから、ここにこれを引用する。一控訴趣意に対する判断右控訴趣意第一点(事実誤認)について(1) 所論は、まず本件普通貨物自動車(トヨペット「マスターライン」ライトバン)は、商品としての中古車ではなく、株式会社「A」B出張所のいわゆる「店用車」に準ずるものとして同社経理課において管理していたものであるから、原判示仕業点検義務を負うのは被告人ではなく、道路運送車両法第四七条所定の「自動車を運行する者」に該当すると考えられる同課主任Cであり、また、同条によれば、仕業点検は「一日一回その運行の開始前において」なすべきものとされているところ、本件車両は、本件事故の前夜右Cが自宅までこれを運転して帰り、事故当日これに乗つて出勤したものであり、その後、被告人が乗車する前に同課員Dによつて使用されているのであるから、この点からしてもその仕業点検をなすべき者は右Cらであり、かつ、同人らの運転中その制動装置に何らの異常を認めなかつたことに鑑み、既にその仕業点検は同人らの運転行為自体によつて事実上行なわれたものと認めるのが相当であると主張する。しかし、本件で問題とされるのは、自動車運転者の運転開始に際しての業務上の注意義務であつて、道路運送車両法第四七条所定の自動車を運行する者の仕業点検義務そのものではない(本件公訴事実および原判示罪となるべき事実において「仕業点検」と言う用語を用いているのは、すべて本文の趣旨に解すべきである。)。従つて道路運送車両法上の仕業点検義務を負う者が被告人以外にあり、その者によつて同法上の仕業点検が行なわれたとしても、その一事を以て と言う用語を用いているのは、すべて本文の趣旨に解すべきである。)。従つて道路運送車両法上の仕業点検義務を負う者が被告人以外にあり、その者によつて同法上の仕業点検が行なわれたとしても、その一事を以て被告人が本件自動車の運転を開始するに際しての業務上の注意義務が解除されるいわれはなく、かかる事情の存在は被告人の右注意義務の内容を決定するに際して考慮すべき事項の一つに過ぎないと言うべきである。 事を以て と言う用語を用いているのは、すべて本文の趣旨に解すべきである。)。従つて道路運送車両法上の仕業点検義務を負う者が被告人以外にあり、その者によつて同法上の仕業点検が行なわれたとしても、その一事を以て被告人が本件自動車の運転を開始するに際しての業務上の注意義務が解除されるいわれはなく、かかる事情の存在は被告人の右注意義務の内容を決定するに際して考慮すべき事項の一つに過ぎないと言うべきである。(2) そこで、進んで本件の具体的事情の下において被告人に課せらるべき自動車運転者としての業務上の注意義務の内容につき検討することとする。本件事故が本件車両の制動装置の故障によるものであつて、被告人の運転中の注意義務違反ないし運転操作上の過失に基づくものでないことは記録上明らかである(後掲本件公訴事実中被告人が走行中フットブレーキの踏代の異常に気付きながら意に介さず運転を継続したとの点は、証拠上これを確認するに由なく、原判決もこれを認めていない。)。従つて問題は運転開始に際し右故障による事故発生の危険を予見し、結果回避のため必要な措置を講ずる可能性の有無にあるものと言うべきである。ところで、北海道札幌陸運事務所長作成の「故障車両の検査依頼について(回答)」と題する書面(以下「回答書」と略称する。)、司法巡査E作成の「故障自動車の写真撮影について」と題する書面(写真一二葉添付。以下「写真」と略称する。)によれば、本件故障の内容は、(イ)サイドブレーキについては、ロットのタンバックルピンが外れているため左右後輪とも全く制動機能を欠く状態であり(ロ)フットブレーキについては、左側後輪のホイルシリンダーへのブレーキパイプ取付ユニオン篏合部の締付が不完全である(約一・五回転締代がある)ため、ブレーキオイルが流出し、本件事故当時においてはマスターシリンダーの ーキについては、左側後輪のホイルシリンダーへのブレーキパイプ取付ユニオン篏合部の締付が不完全である(約一・五回転締代がある)ため、ブレーキオイルが流出し、本件事故当時においてはマスターシリンダーのコンテナー内に殆ど残存せず、オイル中に空気の混入が多くなつて全く制動能力が失われた状態であつたことが認められる。(3) 右のうち、(イ)のサイドブレーキの故障については、前掲回答書によれば、カムとロットタンバックルの篏合部に見られる油と埃の附着状況から見て、相当以前からピンが入つていなかつたものと推定されると言うのであり、従つて、被告人において本件自動車の運転を開始するに当り、ブレーキレバーを引き、その利き具合を試すことにより容易にその異常を発見する可能性があつたものと考えられるが、サイドブレーキの機能に鑑み、これに故障のあることを知り得たとしても、それだけで直ちに当該車両の走行中における事故発生の危険を予見すべきであつたと言うことはできない。 見て、相当以前からピンが入つていなかつたものと推定されると言うのであり、従つて、被告人において本件自動車の運転を開始するに当り、ブレーキレバーを引き、その利き具合を試すことにより容易にその異常を発見する可能性があつたものと考えられるが、サイドブレーキの機能に鑑み、これに故障のあることを知り得たとしても、それだけで直ちに当該車両の走行中における事故発生の危険を予見すべきであつたと言うことはできない。蓋し、サイドブレーキの故障によつて通常予見される危険は、坂道等における駐停車時のそれであり、走行中にあつては、主ブレーキたるフットブレーキの作用さえ正常であるかぎり、サイドブレーキの故障による事故発生の危険は殆ど考えられないからである。もとよりサイドブレーキであつても、走行中における補助ブレーキとしての機能を有するのであつて、「走行中フットブレーキの異常を発見したとしても、咄嗟にサイドブレーキを引くことは、相当長期の運転経験を有する者でも不可能である。」としてかかる機能を全く否定する所論にはにわかに左袒し得ないものがあるが、さればと言つてサイドブレーキの故障を走行中の事故発生の予見と直結するのは相当でなく、かかる事由の存在は、フットブレーキ故障の際における走行中の事故発生の危険を増大させる一要素とし ないものがあるが、さればと言つてサイドブレーキの故障を走行中の事故発生の予見と直結するのは相当でなく、かかる事由の存在は、フットブレーキ故障の際における走行中の事故発生の危険を増大させる一要素として、通常の場合に比しフットブレーキの点検を一層綿密に行なうべきことの根拠とすれば足りるものと考えられる。(4) 他方、右(ロ)のフットブレーキの故障については、これと異り、本件事故発生に至るまでの経過に鑑み、被告人の運転開始時においては未だ顕在化するに至らず、ブレーキペダルを踏むことによる通常の点検方法によつてはこれを発見し得なかつたものと認めるのが相当である。すなわち、前掲回答書および当審証人Fの供述によれば、本件のような篏合部の締付け不良の存する場合、ブレーキオイルの漏れはブレーキペダルを圧下する都度徐々に点滴ないし滲み出る程度に進行し、コンテナー内のオイルが減少してコンテナー内に突出しているブレーキパイプの入口が空気中に曝され、ブレーキパイプ内に空気が混入する状態になつて初めてブレーキの制動能力が失われることが認められるが、当審証人Cの供述ならびに原審および当審公判廷における被告人の供述を総合しても、被告人が本件事故現場にさしかかる以前においては未だかかる状態に達していなかつたものであり、右Cの運転中はもとより、被告人が原判示会社を出発して約一〇メートル先で国道に乗り入れるため一時停止した際、および約八キロメートル離れたG方まで走行し、同所で同人を同乗させ、約三〇〇メートル走行して本件事故現場に至るまでの間、きわめて頻繁にフットブレーキを使用しているのに、その制動能力に何らの異常もなかつたことが認められる。 故現場にさしかかる以前においては未だかかる状態に達していなかつたものであり、右Cの運転中はもとより、被告人が原判示会社を出発して約一〇メートル先で国道に乗り入れるため一時停止した際、および約八キロメートル離れたG方まで走行し、同所で同人を同乗させ、約三〇〇メートル走行して本件事故現場に至るまでの間、きわめて頻繁にフットブレーキを使用しているのに、その制動能力に何らの異常もなかつたことが認められる。(5) そこで、運転開始時においてどのような点検方法を用いれば本件故障を発見し得たかについて考えて見るのに、前掲回答書および 用しているのに、その制動能力に何らの異常もなかつたことが認められる。(5) そこで、運転開始時においてどのような点検方法を用いれば本件故障を発見し得たかについて考えて見るのに、前掲回答書および写真、当審証人Fおよび被告人の当公廷における各共述ならびに当審で取り調べた昭和四〇年八月三日付売上伝票を綜合すれば、前記ブレーキパイプ取付ユニオン篏合部は以前にブレーキ系統の修理かパイプ篏合部取付作業をした際の締付の不良から徐々にナットが緩んでいたものであり、従つて運転開始時においても既に締付け不良状態となつていたと思われること、本件車両のコンテナーは車体前部エンジンルーム内にあり、半透明のケースを使用してあるので、ボンネットを開ければ一見してコンテナー内のブレーキォイルの液量を知ることができること、ブレーキォイルはオイル洩れのない場合一、二ヵ月位で補給すれば足りるものであるところ、本件車両については昭和四〇年八月三日に補給されていること(本件事故は同月一四日)、等の諸事実が認められるから、被告人において、運転開始に先き立ちボンネットを開けてコンテナー内のブレーキオイルの液量およびこれを補給した日時を確かめれば、ブレーキオイルの減少の度合が異常であることから当然オイル洩れのあることに気付き、マスターシリンダーから各車輪のホイルシリンダーに至るブレーキパイプを隈なく点検することにより、左後輪の裏側に当る本件故障部位を発見することが尠くとも理論上は可能であつたと考えられる。問題は、しかし、本件の具体的状況に照らし、被告人にそこまでの点検義務を課することが果して相当と言い得るか否かに存するので、次にこの点につき考察を進めることとする(ちなみに、被告人が当時本件車両のブレーキオイルの補給日時を知つていた証拠はないので、右点検を実施するとすれば、被告 パイプを隈なく点検することにより、左後輪の裏側に当る本件故障部位を発見することが尠くとも理論上は可能であつたと考えられる。問題は、しかし、本件の具体的状況に照らし、被告人にそこまでの点検義務を課することが果して相当と言い得るか否かに存するので、次にこの点につき考察を進めることとする(ちなみに、被告人が当時本件車両のブレーキオイルの補給日時を知つていた証拠はないので、右点検を実施するとすれば、被告 果して相当と言い得るか否かに存するので、次にこの点につき考察を進めることとする(ちなみに、被告人が当時本件車両のブレーキオイルの補給日時を知つていた証拠はないので、右点検を実施するとすれば、被告人としてはまず同社修理工場ないし経理課にその点を問い合せる必要があり、また、ブレーキパイプ全般に亘り点検するためには車体を持ち上げるか、車体の下に潜つてこれを行なわねばならず、一・五回転程度のナットの締代を発見することには相当の困難を伴うことが看取できる。)。<要旨>(6) およそ自動車運転者としては、道路運送車両法所定の仕業点検義務を負うと否とにかかわらず、その運転</要旨>開始に先き立ち、車体の内外を点検して交通の安全に支障を来たすような故障ないし不良個所の発見に努め、危険のないことを確認した上で運転を行ない、もつて車体の故障ないしは整備不良に基づく事故発生を未然に防止すべき業務上の注意義務を負うことは当然であるが(道路交通法第六二条参照)、その点検については、故障ないし不良個所の存在を予見させるような特段の事情(後記(7)参照。)のないかぎり、社会通念上通常これらの個所を発見するために必要と考えられる方法、程度によつてこれを行なえば足りると解するのが相当である。そして、その方法、程度としては、道路運送車両法第四七条に基づき、「自動車を運行する者」に対し「一日一回、その運行を開始する前において」要求される仕業点検についての技術上の基準が一応の参考となり、少くともこれを上廻る義務を課することは自動車運転者に対し、余りに多くを望むものと言わざるを得ない。試みに同法に基づく「自動車点検基準」(昭和二六年運輸省令第七〇号。但し、同三八年同省令第五三号による改正後のもの)を参照すれば、フットブレーキについては、「ブレーキ・ペダルの踏みしろが適 得ない。試みに同法に基づく「自動車点検基準」(昭和二六年運輸省令第七〇号。 ついての技術上の基準が一応の参考となり、少くともこれを上廻る義務を課することは自動車運転者に対し、余りに多くを望むものと言わざるを得ない。試みに同法に基づく「自動車点検基準」(昭和二六年運輸省令第七〇号。但し、同三八年同省令第五三号による改正後のもの)を参照すれば、フットブレーキについては、「ブレーキ・ペダルの踏みしろが適 得ない。試みに同法に基づく「自動車点検基準」(昭和二六年運輸省令第七〇号。但し、同三八年同省令第五三号による改正後のもの)を参照すれば、フットブレーキについては、「ブレーキ・ペダルの踏みしろが適当で、かつ、ブレーキのききが十分であること。」がその点検の技術上の基準とされている(同令第一条および別表第一の2。なお、昭和三八年の改正前には「ブレーキ・ホースの油洩れがないこと」も掲げられていたが、点検の困難さと構造、材質等の進歩、定期点検整備との関連により削除されたことに留意すべきである。)のであり、当審証人Cの供述によれば、その具体的方法としては発進して一〇メートル位走行する間にブレーキペダルを数回踏むことによつて点検を励行させていたと言うのである。そして、事故当日における被告人も、前項で認定したように、出発後約一〇メートル先の国道の手前で確実に一時停止しており、その後も頻回に亘るブレーキ使用の都度異常のないことを確認しているのであるから、右基準に副う点検義務は一応尽くしているものと認むべきである(なお、被告人の検察官に対する供述調書には走行中本件車両のフットブレーキの踏代の深いことに気付いた旨の記載があるが、被告人の当公廷における供述によつて認められるように、右は被告人の平素運転する西ドイツ製フォルクスワーゲン(踏代約三センチ)と国産車である本件車両(同約一〇センチ)との差異を述べたものに過ぎず、ブレーキペダルの異常を感知したことの証拠となるものではない。)。従つて、原判決が被告人は「全然点検を行わないまま」運転を開始した旨判示するところは、点検の意義を誤解したか、あるいは事実認定を誤つたものと言うべきである。(7) 右に見たように、被告人としては、故障個所を発見するために通常必要と考えられる方法による点検は行なつたのであるが は、点検の意義を誤解したか、あるいは事実認定を誤つたものと言うべきである。(7) 右に見たように、被告人としては、故障個所を発見するために通常必要と考えられる方法による点検は行なつたのであるが、本件故障の性質上、その方法によつてはこれを発見し得なかつた(ブレーキオイル洩れがあつても、コンテナー内のブレーキオイルが、ブレーキパイプに直接空気が混入する程度まで減少しないかぎり、ブレーキペダルに異常を感じない。 の意義を誤解したか、あるいは事実認定を誤つたものと言うべきである。(7) 右に見たように、被告人としては、故障個所を発見するために通常必要と考えられる方法による点検は行なつたのであるが、本件故障の性質上、その方法によつてはこれを発見し得なかつた(ブレーキオイル洩れがあつても、コンテナー内のブレーキオイルが、ブレーキパイプに直接空気が混入する程度まで減少しないかぎり、ブレーキペダルに異常を感じない。)ものと認められるから、残された問題は、前使用者からの申し送りや車体の外部的点検等によつて、ブレーキオイル洩れのあることを容易に予見できるような特段の事情が存したか否かの点にある。この点につき、前掲回答書には「油のもれている箇所からブレーキドラム、ホイルに伝つた油のよごれがあり、仕業点検を実施したならば容易に発見できることは明らかである。」との記載があり、前掲写真によれば本件車両の左後輪のブレーキドラムの内外およびホイルに黒ずんだ油のような汚れが顕著に附着しているのを認めることができ、原判決は右各証拠を引用した上本件車両は「ブレーキ油が車輪の外側まで流れ出ていて制動能力を失う寸前の状態」であつた旨判示している。しかし、当審証人Fの供述に当審で取り調べた前掲売上伝票ならびに押収にかかるオイルシールおよびブレーキオイル、ギヤーオイル各見本(昭和四一年押第七七号の二ないし四)を綜合すれば、右油様の汚れは、後部車軸(リヤ・アクスル)のオーシング内に注入されているデフレンシャル・ギヤーオイルが、ホーシングと車輪との間にあるオイルシール(リテーナー)がシャフトによつて磨耗したため、シャフトのスプライン(溝)を通つてブレーキドラムの内外に漏出し、ホイルに達したことによつて生じたものであり、附着した油の性状、ブレーキパイプ篏合部の位置から見て )がシャフトによつて磨耗したため、シャフトのスプライン(溝)を通つてブレーキドラムの内外に漏出し、ホイルに達したことによつて生じたものであり、附着した油の性状、ブレーキパイプ篏合部の位置から見て、これが同所から漏出したブレーキオイルによつて生ずることは全く有り得ないこと、右ギヤーオイルの漏出については昭和四〇年八月三日同社修理工場においてオイルシールの交換が行なわれ、完全に修理されているが、ブレーキドラム等の汚れはそのままになつていたこと(もつとも、これはブレーキの性能に影響を及ぼさない。 し、ホイルに達したことによつて生じたものであり、附着した油の性状、ブレーキパイプ篏合部の位置から見て、これが同所から漏出したブレーキオイルによつて生ずることは全く有り得ないこと、右ギヤーオイルの漏出については昭和四〇年八月三日同社修理工場においてオイルシールの交換が行なわれ、完全に修理されているが、ブレーキドラム等の汚れはそのままになつていたこと(もつとも、これはブレーキの性能に影響を及ぼさない。)が認められるから、原判決の右認定は明らかな誤認であり、被告人が車体の外部を点検してホイルの汚れを発見したとしても、そのことから直ちにブレーキオイルの洩れていることを予見すべきであつたと言うことはできない(被告人自身、附着している油の性状、臭気からこれがギヤーオイルであることに気付く筈であるし、仮にブレーキオイルではないかとの疑いを持つたとしても、修理工場に問い合せることにより容易に本文のような説明を受けてその疑念を解消したものと認められる。)。また、ボンネットを開けてエンジンルーム内のブレーキオイルのコンテナーの油量を点検することは、通常の仕業点検においては要求されていないが(前記自動車点検基準第二条および別表第三によれば、それは道路運送車両法第四八条第一項に基づく六月ごとの定期点検基準に該当する。)、仮に被告人が運転開始に先立つてこれを行なつたとしても、その後の走行状況に照らし、当時コンテナー内のブレーキオイルが制動機能に支障を及ぼす程度に減少していたとは認められないし、また、ブレーキオイルを補給した日時を知らない被告人としては、その減少が揮発その他による通常の損耗か、オイル洩れによる異常な減少であるかを判別し得ない立場にあつたと認められる たとは認められないし、また、ブレーキオイルを補給した日時を知らない被告人としては、その減少が揮発その他による通常の損耗か、オイル洩れによる異常な減少であるかを判別し得ない立場にあつたと認められるから、これによつて当然ブレーキオイル洩れを認識すべきであつたとすることはできず、他に本件車両の外観上あるいは前使用者からの申し送りにより、制動機能の異常を予見し得るような特段の事情のあつたことを認めるに足りる証拠はない。(8) そうだとすれば、被告人が運転開始に際しサイドブレーキの点検を怠り、その故障を発見し得なかつたのであるから、フットブレーキの点検については一層の慎重な配慮を廻らせることが要請されることを考慮に容れて見ても、なおかつ、被告人に対し社会通念上通常必要と考えられる程度を超えて前記(5)に説示したような特別の点検方法を用い、本件ブレーキパイプ篏合部の締付け不良個所を発見すべきであつたとし、これを怠つて本件車両の運転を開始したことを以て自動車運転者としての業務上の注意義務に違反したものとなすを得ない。 であるから、フットブレーキの点検については一層の慎重な配慮を廻らせることが要請されることを考慮に容れて見ても、なおかつ、被告人に対し社会通念上通常必要と考えられる程度を超えて前記(5)に説示したような特別の点検方法を用い、本件ブレーキパイプ篏合部の締付け不良個所を発見すべきであつたとし、これを怠つて本件車両の運転を開始したことを以て自動車運転者としての業務上の注意義務に違反したものとなすを得ない。原判決は、前記ブレーキドラム、ホイルに漏出したギヤーオイルをブレーキオイルと誤認し、本件車両の外部点検によりたやすくブレーキオイルの漏出を発見し得たとの前提の下に、被告人に対し、右漏出個所を発見するため必要な点検をなすべき義務を課したものであつて、結局注意義務の前提となる客観的事実の認定を誤り、ひいて刑法第二一一条前段所定の「業務上必要ナル注意」の解釈適用を誤つた結果、被告人に対し課すべからざる注意義務を課した違法あるに帰し、右違法は判決に影響を及ぼすことが明らかであるから既にこの点において破棄を免れない。本論旨は理由がある。よつて控訴趣意第二点(量刑不当)に対する判断はこれを省略し、刑事訴訟法第三九七条第一項、第三八〇条によ 影響を及ぼすことが明らかであるから既にこの点において破棄を免れない。本論旨は理由がある。よつて控訴趣意第二点(量刑不当)に対する判断はこれを省略し、刑事訴訟法第三九七条第一項、第三八〇条により原判決を破棄し、同法第四〇〇条但書に従い直ちに左のとおり自判することとする。二自判の内容本件公訟事実は、「被告人は自動車の運転に従事していたものであるが、昭和四〇年八月一四日午前九時四〇分頃、札幌市ab番地株式会社「A」B出張所前道路において、中古車である普通貨物自動車(室四は四八一八号)を運転しようとしたが、自動車運転者はその運転に先き立ち車両の仕業点検を行ない故障のないことを確めた上で運転し、もつて故障による事故の発生を未然に防止すべき業務上の注意義務があるのに、これを怠つたため同車のフートブレーキのパイプからブレーキォイルが車輪の外側まで漏れ出ており、又サイドブレーキもロットのタンバックルピンが篏合部に入つていないため、その機能を全く失つているのにこれに気付かずに運転し、かつ途中フートブレーキの踏代の異状に気付きながら意に介さずにその運転を継続した過失により、同日午前一一時三〇分頃、同市東四丁目通りを北進し時速約一五粁乃至二〇粁で北一一条通りとの交差点にさしかかり、左方から進出した自動車を距離約一八米に発見し、同車との衝突を避けるべく制動を施そうとしたが、前記理由により効果なく狼狽してハンドルを右に切り対面歩行して来ていたH(当時六八年)に自車左前部を衝突転倒させて左前輪で轢き、更に同女と共に歩行中のI(当時七四年)を転倒させ、よつて右Hを脳内出血により、同日午後一時一〇分頃、同市cd丁目J病院において死亡させ、右Iに加療約四月半を要する右下腿打撲、右膝捻挫の傷害をあたえたものである。 約一八米に発見し、同車との衝突を避けるべく制動を施そうとしたが、前記理由により効果なく狼狽してハンドルを右に切り対面歩行して来ていたH(当時六八年)に自車左前部を衝突転倒させて左前輪で轢き、更に同女と共に歩行中のI(当時七四年)を転倒させ、よつて右Hを脳内出血により、同日午後一時一〇分頃、同市cd丁目J病院において死亡させ、右Iに加療約四月半を要する右下腿打撲、右膝捻挫の傷害をあたえたものである。」と言うのであるが、前段説示のとお つて右Hを脳内出血により、同日午後一時一〇分頃、同市cd丁目J病院において死亡させ、右Iに加療約四月半を要する右下腿打撲、右膝捻挫の傷害をあたえたものである。」と言うのであるが、前段説示のとおり、本件について結局犯罪の証明がないことに帰するから、刑事訴訟法第三三六条により被告人に対し無罪を言い渡すべきものとする。よつて主文のとおり判決する。(裁判長裁判官矢部孝裁判官中村義正裁判官半谷恭一)

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