- 1 -主文 原判決を破棄する。 第1審判決中,被上告人の弁護士費用に関する請求を認容した部分をいずれも取り消し,同部分に関する請求をいずれも棄却する。 前項の部分を除く部分につき本件を大阪高等裁判所に差し戻す。 第2項に関する訴訟の総費用は被上告人の負担とする。 理由 上告代理人増岡由弘,同青田容の上告受理申立て理由について 商品取引所法(平成16年法律第43号による改正前のもの。以下「法」という。)の規定によると,商品市場における取引は,その市場を開設する商品取引所(以下「取引所」という。)の会員でなければすることができないから(法77条),会員以外の者が取引を行おうとするときは,当該取引所の会員に委託することになるが,委託を受けることのできる会員は,主務大臣の許可を受けた商品取引員に限られる(法126条)。 そして,法97条の2は,会員は,その受託業務(商品市場における取引の受託に関する業務をいう。以下同じ。)につき委託者のために,受託業務保証金を取引所に対し預託しなければならない旨,受託業務保証金の額は,同条2項1号に規定する額(以下「固定部分」という。)及び同項2号に規定する額(以下「流動部分」という。)の合計額とする旨を規定し,法97条の3第1項は,「会員に対し- 2 -商品市場における取引を委託した者は,その委託により生じた債権の弁済を受けるため,当該会員に係る受託業務保証金について,取引所に対し,その払渡しを請求することができる。」と規定している。 また,法97条の2第3項は,会員が,主務大臣が指定する者(以下「指定弁済機関」という。)と,当該会員が商品市場における取引の受託により生じた債務を弁済することができない場合に指定弁済機関が当該会員に代わってその債務の額のうち契約で定める額(以下「 る者(以下「指定弁済機関」という。)と,当該会員が商品市場における取引の受託により生じた債務を弁済することができない場合に指定弁済機関が当該会員に代わってその債務の額のうち契約で定める額(以下「契約弁済額」という。)につき当該取引を委託した者に対し弁済する契約(以下「弁済契約」という。)を締結しているときは,上記の受託業務保証金の額は,固定部分と流動部分から契約弁済額を控除した額との合計額とする旨を規定し,法97条の11第3項は,「指定弁済機関と弁済契約を締結している商品取引員に対し商品市場における取引を委託した者は,その商品取引員が当該受託に係る債務を弁済することができないときは,指定弁済機関に対し,その契約弁済額につき弁済すべきことを請求することができる。」と規定している。 本件は,上告人東京穀物商品取引所(以下「上告人取引所」という。)の会員であるAに商品先物取引を委託していた被上告人が,Aの委託契約の債務不履行又は不法行為によりAに対して取得したとする損害賠償債権(以下,「本件債権」といい,本件債権に対応するAの債務を「本件債務」という。)について,上告人取引所に対しては,本件債権が法97条の3第1項所定の「委託により生じた債権」(以下,単に「委託により生じた債権」というときは,同項所定のものをいう。)に当たると主張し,上告人委託者保護会員制法人日本商品委託者保護基金(以下「上告人基金」という。)に対しては,本件債務が法97条の11第3項所定の「受託に係る債務」(以下,単に「受託に係る債務」というときは,同項所定のも- 3 -のをいう。)に当たると主張して,上告人らに上記各条項に基づく債務の履行を求める事案である。 原審の確定した事実関係の概要等は,次のとおりである。 (1)上告人取引所は,農産物等の商品の先物取引をする う。)に当たると主張して,上告人らに上記各条項に基づく債務の履行を求める事案である。 原審の確定した事実関係の概要等は,次のとおりである。 (1)上告人取引所は,農産物等の商品の先物取引をするために必要な市場を開設することを主たる目的として設立された法人である。Aは,上告人取引所の会員であり,商品取引員であったが,平成14年12月5日,破産宣告を受けた。上告人基金は,委託者保護業務を行うことを目的として設立された法人であり,平成17年5月1日,社団法人商品取引受託債務補償基金協会(以下「基金協会」という。)の業務等を承継した。基金協会は,上告人基金と同様の目的を有する法人であり,本件訴訟は基金協会を被告として提起されたものであったが,原審において,上告人基金が基金協会の業務等を承継したのに伴って本件訴訟を引き受けた。 (2)Aは,被上告人から委託を受け,平成14年3月28日から同年5月13日まで,上告人取引所において商品先物取引(以下「本件取引」という。)を行った。本件取引における委託証拠金の預託額は280万円であり,差損金の額は176万6395円である。なお,Aは,指定弁済機関である基金協会と弁済契約を締結していた。 (3)被上告人は,Aの従業員の本件取引の受託に関する違法行為により損害を被ったと主張して,Aに対し,委託契約の債務不履行又は不法行為に基づき合計308万円(委託証拠金残金相当額103万3605円,本件取引における損失額176万6395円及び弁護士費用28万円)の支払等を求める訴訟(以下「別件訴訟」という。)を大阪地方裁判所に提起した。 (4)大阪地方裁判所は,別件訴訟について,平成14年12月26日,Aが口- 4 -頭弁論期日に出頭せず,答弁書等も提出しなかったことから,請求原因事実を自白したものとみなして, 所に提起した。 (4)大阪地方裁判所は,別件訴訟について,平成14年12月26日,Aが口- 4 -頭弁論期日に出頭せず,答弁書等も提出しなかったことから,請求原因事実を自白したものとみなして,被上告人の請求をすべて認容する判決を言い渡し,同判決は確定した。 (5)被上告人は,上告人取引所に対し,「申出金額」を委託証拠金103万3605円及び賠償金204万6395円の合計308万円とする平成15年1月7日付けの「委託者債権額の確認書」を提出し,また,上告人取引所及び基金協会に対し,「預り委託証拠金等」の額を308万円とする同年6月12日付けの「委託者債権確認書」を提出した。しかし,上告人取引所は「委託により生じた債権」について,基金協会は「受託に係る債務」について,上記委託証拠金の額に相当する103万3605円と認定し,同月19日,上告人取引所及び基金協会において,被上告人に対し,同額の支払をしたものの,本件取引における損失額176万6395円及び弁護士費用28万円の合計204万6395円の債権(本件債権)については,「委託により生じた債権」又は「受託に係る債務」に当たらないとして,その支払を拒絶した。 原審は,前記事実関係の下で,被上告人の本件債権に関する請求について,次のとおり判断して,これをいずれも認容すべきものとした。 (1)受託業務保証金の制度は,商品取引所法(昭和42年法律第97号による改正前のもの)47条所定の仲買保証金の制度を吸収拡大して創設されたものであるところ,同条3項では,商品仲買人に対して商品市場における売買取引を委託した者は,その委託により生じた債権に関し,当該商品仲買人の仲買保証金について,他の債権者に先立って弁済を受ける権利を有すると規定されていた。この規定にいう「委託により生じた債権」は,その内 を委託した者は,その委託により生じた債権に関し,当該商品仲買人の仲買保証金について,他の債権者に先立って弁済を受ける権利を有すると規定されていた。この規定にいう「委託により生じた債権」は,その内容や範囲を制限する規定が存在せず,- 5 -仲買保証金が仲買保証人の出捐によるものであったことを考慮すると,委託と相当因果関係を有する限り,委託契約の債務不履行又は不法行為に基づく損害賠償債権を含むものと解される。その後,委託者保護の制度が強化される過程においても,この「委託により生じた債権」の内容や範囲について制限を加える規定が設けられることはなく,受託業務保証金の制度においても,仲買保証金の制度と同一の「委託により生じた債権」という文言が用いられているのであるから,「委託により生じた債権」は,損害賠償債権を含むものというべきである。そして,「受託に係る債務」は「委託により生じた債権」と同一の内容を有するものと解される。 (2)本件債権は損害賠償債権であるが,被上告人は,Aが本件取引に係る委託証拠金の一部を差損金に充当し,その返還を受けられなくなったために,これについて損害賠償請求権を行使するのであり,また,弁護士費用はその付随費用というべきであるから,本件債権は本件取引の委託と相当因果関係を有する。したがって,本件債権は「委託により生じた債権」に含まれ,本件債務は「受託に係る債務」に含まれる。 しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。 (1)受託業務を行う商品取引員は,商法上の問屋であり,委託者との間においては委任に関する規定が準用されるから(商法552条2項),商品取引員は,受託業務を処理するに当たって受け取った金銭その他の物を委託者に引き渡さなければならず,また,委託者のために自己の の間においては委任に関する規定が準用されるから(商法552条2項),商品取引員は,受託業務を処理するに当たって受け取った金銭その他の物を委託者に引き渡さなければならず,また,委託者のために自己の名で取得した権利を委託者に移転しなければならない(民法646条)。したがって,商品取引員は,商品市場における取引につき,委託者から預託を受けた金銭,有価証券その他の物及び委託者の計算に属- 6 -する金銭,有価証券その他の物(以下「委託者資産」という。)を委託者に引き渡すべき義務を負うものであり,委託者において,商品取引員に対し,商法等の規定により委託者資産と認められるものの引渡しを請求する債権(これに係る利息及び遅延損害金債権を含む。以下「委託者資産の引渡請求債権」という。)が,「委託により生じた債権」に該当することは,明らかというべきである。 (2)被上告人は,これに加えて,受託業務と相当因果関係がある債務不履行又は不法行為に基づく損害賠償債権も,「委託により生じた債権」に含まれると主張する。法97条の3第1項は,委託者が,当該会員に係る受託業務保証金について,直接取引所に対し,その払渡しを請求することを認めるものであるが,受託業務保証金は,上記のとおり固定部分と流動部分から成っているところ,法及び受託業務保証金規則(平成17年農林水産・経済産業省令第3号による廃止前のもの)の規定に照らすと,受託業務保証金の大部分を占めるのは流動部分であり,流動部分は委託者が会員に預託した委託本証拠金の額に見合うものであって,会員に対し受託業務保証金を取引所に預託させるのは,委託者資産を構成する委託本証拠金を取引所に分離保管させ,委託者の委託本証拠金を保全するという趣旨によるものと解される。また,法136条の15は,商品取引員は,受託業務により生じた債 預託させるのは,委託者資産を構成する委託本証拠金を取引所に分離保管させ,委託者の委託本証拠金を保全するという趣旨によるものと解される。また,法136条の15は,商品取引員は,受託業務により生じた債務の弁済を確保するため,委託者資産の価額に相当する財産については,商品取引員のその他の財産から分離して金融機関へ預託する等の措置を講ずることにより,これを保全しなければならない旨を規定するが,受託業務保証金の流動部分については,それが別途取引所に預託されていることから,分離保管の対象から除外しており(商品取引所法施行規則(平成17年農林水産・経済産業省令第3号による全部改正前のもの。以下「法施行規則」という。)41条1項7号),このことから- 7 -も,受託業務保証金の預託が委託者資産を構成する委託本証拠金を保全する趣旨のものであることが明らかである。したがって,取引所による受託業務保証金の払渡しは,委託者資産を構成する委託本証拠金の引渡しの実質を有するものである。 以上のように,取引所の受託業務保証金の払渡しは,当該会員に係る受託業務保証金という額に限度のあるものの払渡しであり,委託者の委託本証拠金の引渡しの実質を有することからすれば,「委託により生じた債権」は,委託者資産の引渡請求債権を指すものと解するのが相当である。会員の債務不履行又は不法行為に基づく委託者の損害賠償債権は,たとえ会員の受託業務と相当因果関係を有するものであっても,委託者資産を構成するものとはいえない。上記の損害賠償債権も「委託により生じた債権」として受託業務保証金の払渡しの対象とすれば,その分,当該会員に対し商品市場における取引を委託した他の委託者の委託本証拠金の引渡請求債権を犠牲にすることになりかねず,委託本証拠金を保全するという受託業務保証金預託の制度の趣旨に反 象とすれば,その分,当該会員に対し商品市場における取引を委託した他の委託者の委託本証拠金の引渡請求債権を犠牲にすることになりかねず,委託本証拠金を保全するという受託業務保証金預託の制度の趣旨に反することになる。したがって,上記の損害賠償債権は,「委託により生じた債権」には該当しないと解すべきである。 なお,法136条の22は,商品取引員に,先物取引の取引高に応じた商品取引責任準備金の積立てを義務付け,商品取引責任準備金は,先物取引の委託を受けること等に関して生じた事故であって主務省令で定めるものによる損失の補填に充てる場合のほか,使用してはならない旨を規定している。このように,法が,先物取引の委託を受けること等に関して生じた事故の損失の補填のために,商品取引員の自己資金による商品取引責任準備金の積立制度を別途用意していることも,上記の損害賠償債権が,委託本証拠金の引渡しの実質を有する受託業務保証金の払渡しの対象債権とならないことを裏付けるものということができる。 - 8 -(3)次に,法97条の11第3項は,商品取引員が受託に係る債務を弁済することができない場合の指定弁済機関による弁済について規定しているが,同項にいう「受託に係る債務」とは,法97条の3第1項の「委託により生じた債権」を受託者である商品取引員の側から規定したものであり,両者は表裏の関係にあってその範囲を同じくするものであることが明らかである。法97条の11第3項の規定に基づき指定弁済機関が委託者に直接弁済する契約弁済額は,流動部分の2分の1(法97条の12第2項,法施行規則17条及び基金協会の弁済業務規程11条)であって,委託本証拠金の2分の1に見合うものであり,会員が取引所に預託すべき受託業務保証金の額は,契約弁済額を控除した額となるのであるから,上記弁済も,取 17条及び基金協会の弁済業務規程11条)であって,委託本証拠金の2分の1に見合うものであり,会員が取引所に預託すべき受託業務保証金の額は,契約弁済額を控除した額となるのであるから,上記弁済も,取引所による受託業務保証金の払渡しとあいまって,委託者に委託本証拠金を引き渡すという実質を有するものである。したがって,法97条の11第3項の規定に基づき委託者が指定弁済機関に対し弁済を請求することができる債権も,委託者資産の引渡請求債権であり,債務不履行又は不法行為による損害賠償債権を含むものではないと解するのが相当である。 (4)なお,指定弁済機関は,任意弁済契約及び分離保管弁済契約を締結している商品取引員の委託者に対しては,契約弁済額についての弁済のほかに,任意弁済契約及び分離保管弁済契約に基づく弁済を行うが,これも,委託者資産の額の範囲内で行うものであって(基金協会の弁済業務規程11条及び11条の2),受託業務保証金の払渡し,契約弁済額の弁済とあいまって,委託者に対し委託者資産を引き渡すという実質を有するものである。債務不履行又は不法行為による損害賠償債権についても弁済すべきものとすると,その分,当該商品取引員に対し商品市場における取引を委託した他の委託者の委託者資産の引渡請求債権を犠牲にすることに- 9 -なり,指定弁済機関による弁済の制度の趣旨に反するのである。 (5)以上のとおりであるから,委託者が,取引所に対し受託業務保証金の払渡しを請求し,指定弁済機関に対し弁済を請求することができる債権は,結局のところ,委託者資産の引渡請求債権であって,債務不履行又は不法行為による損害賠償債権を含むものではないと解するのが相当である。 (6)ところで,委託者資産と認められるべきものである限りは,たとえ商品取引員の帳簿,書類等に記載されてい って,債務不履行又は不法行為による損害賠償債権を含むものではないと解するのが相当である。 (6)ところで,委託者資産と認められるべきものである限りは,たとえ商品取引員の帳簿,書類等に記載されていないもの等であっても,委託者はその引渡しを請求する債権を有する。委託者が,本来,委託者資産の引渡請求債権として認められるべきものを,取引所及び指定弁済機関に対し,填補賠償等の損害賠償債権として申し出たとしても,実質的に委託者資産の引渡請求債権の実現を求めているものということができ,取引所及び指定弁済機関は,委託者資産の保全・回復という趣旨から,これについて払渡し又は弁済を行うべきである。 (7)本件債権のうち,28万円の弁護士費用については,委託者資産の引渡請求債権の実質を有するものではないことが明らかであり,これについての被上告人の上告人らに対する請求はいずれも理由がないというべきであるが,本件取引における176万6395円の損失額については,必ずしもその内容が明らかではなく,被上告人の被った損害の内容によっては,委託者資産の引渡請求債権の実質を有するものである可能性もある。 以上によれば,本件債権が委託者資産の引渡請求債権の実質を有するものであるか否かについて検討することなく,損害賠償債権は「委託により生じた債権」に該当する(「受託に係る債務」についても同様)との見解に立って,本件債権に関する請求について被上告人の請求をいずれも認容すべきものとした原審の判断に- 10 -は,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨はこの趣旨をいうものとして理由があり,原判決は破棄を免れない。そして,被上告人の上告人らに対する28万円の弁護士費用及びこれに対する遅延損害金の請求は理由がないから,これをいずれも棄却することとし,本件取引に うものとして理由があり,原判決は破棄を免れない。そして,被上告人の上告人らに対する28万円の弁護士費用及びこれに対する遅延損害金の請求は理由がないから,これをいずれも棄却することとし,本件取引における176万6395円の損失額及びこれに対する遅延損害金の請求について,委託者資産の引渡請求債権の実質を有するものであるか否か等について更に審理を尽くさせるため,本件を原審に差し戻すこととする。 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。 (裁判長裁判官才口千晴裁判官横尾和子裁判官甲斐中辰夫裁判官泉徳治)
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