平成11特(わ)2719 証券取引法違反被告事件

裁判年月日・裁判所
平成16年5月28日 東京地方裁判所
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判決文本文178,902 文字)

平成16年5月28日宣告平成11年特(わ)第2719号証券取引法違反被告事件 主文 被告人Aを懲役1年4月に,被告人B及び同Cをそれぞれ懲役1年に処する。 被告人3名に対し,この裁判が確定した日から3年間それぞれその刑の執行を猶予する。 訴訟費用は被告人3名の連帯負担とする。 理由 (罪となるべき事実)被告人Aは,平成9年8月19日から平成10年12月25日までの間,株式会社D銀行(東京都a区bc丁目d番e号に本店を置き,長期信用銀行業務等を目的とし,発行する株式が東京証券取引所市場第一部等に上場されている長期信用銀行)の代表取締役会長であった者,被告人Bは,平成9年8月19日から平成10年12月25日までの間,同社の代表取締役頭取であった者,被告人Cは,平成9年6月20日から平成10年12月25日までの間,同社の代表取締役副頭取であった者であるが,被告人3名は,共謀の上,同社の業務に関し,平成10年6月29日,同区大手町1丁目3番3号所在の大蔵省(現在は財務省)関東財務局において,同財務局長に対し,同社の平成9年4月1日から平成10年3月31日までの事業年度の決算には2205億700万円(百万円未満切捨て。以下同じ。)の当期未処理損失があったのに,取立不能の虞があって取立不能と見込まれる貸出金合計1592億3300万円の償却又は引当をしないことにより,これを同額過少の612億7400万円に圧縮して計上した貸借対照表,損益計算書及び損失処理計算書を掲載するなどした同事業年度の有価証券報告書を提出し,もって,重要な事項につき虚偽の記載のある有価証券報告書を提出したものである。 (証拠の標目)略(事実認定の補足説明) 計算書及び損失処理計算書を掲載するなどした同事業年度の有価証券報告書を提出し,もって,重要な事項につき虚偽の記載のある有価証券報告書を提出したものである。 (証拠の標目)略(事実認定の補足説明)第一各弁護人の基本的主張一被告人3名の各弁護人(以下「各弁護人」という。)は,判示の事実について,被告人3名が,株式会社D銀行において,それぞれ判示認定の地位にあった者で,同社の業務に関し,平成10年6月29日,大蔵省関東財務局長に対し,判示事業年度の当期未処理損失額として612億7400万円を計上した貸借対照表等を掲載するなどした有価証券報告書を提出したこと自体は認めるものの,上記有価証券報告書の当期未処理損失額に関する記載は虚偽ではなく,仮に,それが虚偽であったとしても,被告人3名には故意も共謀もなかったので,被告人3名は無罪である旨主張し,被告人3名も,当公判廷において,各弁護人の上記主張に沿う供述をしている。 二そこで,以下,関係各証拠に基づき,当裁判所が被告人3名につき判示の事実を認定した理由について,補足して説明する。 第二証拠上認められる基本的事実関係一 D銀行の沿革,組織等の概要と被告人3名の経歴 1 D銀行の沿革株式会社D銀行(現在は株式会社E銀行)の前身である株式会社F銀行は,昭和32年4月,中堅・中小企業に対して不動産担保金融により安定的な資金を供給することを目的として,長期信用銀行法(昭和27年法律第187号)に基づき,株式会社G銀行(現在は株式会社H銀行に統合)及び株式会社I銀行(現在は株式会社J銀行)に次ぐ3番目の長期信用銀行として設立された。その後,F銀行は,国際業務を拡大するなど業務が多様化し,商号が実態にそぐわないものになったことから,昭和52年10月,商号を「株式 在は株式会社J銀行)に次ぐ3番目の長期信用銀行として設立された。その後,F銀行は,国際業務を拡大するなど業務が多様化し,商号が実態にそぐわないものになったことから,昭和52年10月,商号を「株式会社D銀行」に変更した。D銀行は,長期信用銀行法6条に掲げる業務及び担保附社債信託法,社債等登録法その他の法律により営むことのできる業務のほか,中小企業者に対する長期資金の貸付業務や不動産を担保とする貸付業務等を営むことを目的とし,長期信用銀行法の定めるところにより,債券業務(K及び割引K(以下これらの債券を「金融債」という。)を発行する業務),預金業務,貸出業務,債務保証業務等を主たる業務とし,営業年度を毎年4月1日から翌年3月31日までとしていた。 2 D銀行の概要D銀行の平成10年3月期の有価証券報告書によれば,同期におけるD銀行の概要は,資本金3531億1400万円(百万円未満切捨て。以下この項において同じ。),総資産額12兆6590億6400万円,貸出金残高7兆7818億3000万円,発行済株式総数31億993万株(1万株未満切捨て),国内本支店18店,海外支店1店,海外駐在員事務所8箇所,従業員数2290人で,東京証券取引所及び大阪証券取引所の各市場第一部に株式を上場しているというものであった。 3 被告人3名の経歴(一) 被告人Aは,昭和29年4月に大蔵省(現在は財務省)に入省し,同省において,銀行局検査部長,理財局長等を歴任した後,国税庁長官を最後に,昭和63年12月に退官した。その間,被告人Aは,同省関東財務局金融課に勤務していた際,金融検査官として信用金庫等の検査に従事したこともあった。被告人Aは,同省を退官後,Y4公庫副総裁,X4公庫総裁を経て,平成5年1月,D銀行の顧問に就 人Aは,同省関東財務局金融課に勤務していた際,金融検査官として信用金庫等の検査に従事したこともあった。被告人Aは,同省を退官後,Y4公庫副総裁,X4公庫総裁を経て,平成5年1月,D銀行の顧問に就任した。 被告人Aは,D銀行において,平成5年6月に代表取締役頭取に,平成8年6月に代表取締役会長兼頭取にそれぞれ就任し,平成9年8月19日には頭取の地位を退いたものの,それ以降も,平成10年12月25日まで引き続き代表取締役会長の地位にあった。 (二) 被告人Bは,昭和41年4月に日本銀行(以下「日銀」という。)に入行し,同行において,政策委員会室長,国際局長等を経た後,平成8年5月,同行を退職し,D銀行の顧問に就任した。 被告人Bは,D銀行において,平成8年6月に常務取締役に,平成9年6月に代表取締役副頭取にそれぞれ就任した後,同年8月19日に代表取締役頭取に就任し,平成10年12月25日までその地位にあった。 (三) 被告人Cは,昭和36年4月にF銀行に入行した後,D銀行において,昭和61年6月から取締役秘書室長,取締役人事部長,取締役検査部長等を歴任した上,平成4年11月に常務取締役に,平成8年6月に専務取締役にそれぞれ就任し,平成9年6月20日に代表取締役副頭取に就任して以降,平成10年12月25日までその地位にあった。 4 D銀行における会長,頭取及び副頭取の役職平成10年当時,D銀行においては,取締役会は,その決議をもって,取締役のうちから会長,頭取各1名並びに副会長,副頭取,専務取締役及び常務取締役を選定することができるものとされていた。そして,会長は,取締役会を主宰して議長を務め,頭取は,取締役会の決議を執行するとともに,D銀行の業務を統轄する びに副会長,副頭取,専務取締役及び常務取締役を選定することができるものとされていた。そして,会長は,取締役会を主宰して議長を務め,頭取は,取締役会の決議を執行するとともに,D銀行の業務を統轄するものとされ,副頭取は,専務取締役及び常務取締役とともに,頭取を補佐して常務を執行し,頭取に事故があるときはその職務を代行するなどの職務を担当するものとされていた。 なお,D銀行においては,会長,頭取を除く常務取締役以上の役員がD銀行の部・室・店の担当役員になることとされており,被告人Bは,平成8年6月に常務取締役に就任後,平成9年8月に頭取に就任するまでの間,本店営業部に属する金融法人部等を担当しており,被告人Cは,平成4年11月に常務取締役に就任後,秘書室,事業推進部,経理部及び各支店等の担当役員を務めていた。 5 D銀行の組織・機構の概要平成10年3月期においては,D銀行には,会長を始めとする常務取締役以上の役員をもって組織される常務会が設けられており,常務会は,各自の担当業務に関する報告又は説明を受けるとともに,取締役会の決定事項の具体的細目等を評議して決定するほか,取締役会に提出する報告事項及び議案をあらかじめ審議するものとされていた。そして,取締役会及び常務会の下位組織は,秘書室,経理部,事業推進部門(事業推進部及び関連事業部),営業部門(本店営業部及び各支店)等により構成されていた。このうち,事業推進部は,D銀行における不良債権の管理・回収及び償却・引当に関する本部的機能を果たしており,また,関連事業部は,後記6の関連会社群に対する債権の管理・回収業務を,経理部は,決算,税務,利益計画及び損益予想等の企画運営業務をそれぞれ所管していた。 6 D銀行の関連会社及び関連ノンバンク ,後記6の関連会社群に対する債権の管理・回収業務を,経理部は,決算,税務,利益計画及び損益予想等の企画運営業務をそれぞれ所管していた。 6 D銀行の関連会社及び関連ノンバンク昭和50年7月3日付け蔵銀第1968号大蔵省銀行局長通達「金融機関とその関連会社との関係について」(いわゆる関連会社通達)によれば,「関連会社」とは,金融機関が出資する会社で,その設立経緯,資金的,人的関係等から見て,金融機関と緊密な関係を有する会社をいうものとされ(以下,関連会社以外の取引先を「一般先」ともいう。),関連会社のうち,貸金業を営むものを「関連ノンバンク」というとされている。 そして,平成10年3月期当時,関連ノンバンクを除くD銀行の主たる関連会社は,L株式会社等を中核とするグループ(以下「Lグループ」という。),M株式会社,N株式会社及びO株式会社を中核会社とするグループ(以下「MNOグループ」という。)など合計18グループに所属する82社であった。また,D銀行の関連ノンバンクには,P株式会社,Q株式会社,R株式会社,D5株式会社及びD6株式会社の合計5社があったが,P,Q及びRの3社は,平成9年4月に,いずれも自己破産した(以下,上記3社を「関連ノンバンク3社」という。)。 二 D銀行の平成10年3月期決算に基づく有価証券報告書の提出経理部が作成したD銀行の平成10年3月期決算最終案は,同年4月27日に開催された常務会及び取締役会において承認された。その後,S監査法人(平成13年4月からは合併により「T監査法人」と名称変更)及び監査役による監査が実施され,同監査法人の適正・適法意見を付した平成10年6月26日付け監査報告書の提出を受けて,同期の貸借対照表,損益計算書等の計算書類の内容が確定した。 査法人」と名称変更)及び監査役による監査が実施され,同監査法人の適正・適法意見を付した平成10年6月26日付け監査報告書の提出を受けて,同期の貸借対照表,損益計算書等の計算書類の内容が確定した。そして,上記計算書類は,同年5月25日に開催された取締役会において承認され,株主総会に付議することが決議され,その後,同年6月26日に開催された株主総会に議案として提出されて,承認された。そして,経理部は,上記計算書類等に基づき,同日ころまでに,当期未処理損失額を612億7400万円とする貸借対照表,損益計算書及び損失処理計算書を掲載するなどした平成9年4月1日から平成10年3月31日までの事業年度に係る有価証券報告書を作成し,上記有価証券報告書は,同年6月29日,大蔵省関東財務局において,同財務局長あてに提出された。 三 D銀行が特別公的管理に至る経緯平成10年6月22日に,金融監督庁設置法(平成9年法律第101号)等が施行され,民間金融機関等に対する検査・監督を権限とする金融監督庁が総理府の外局として発足した。金融監督庁は,同年7月から日銀と連携して,D銀行を含む主要19行を対象に,同年3月31日を基準日とする集中検査を実施し,D銀行に対しても,同年7月24日から立入検査を開始した。金融監督庁は,上記検査結果に基づき,同年11月16日に,D銀行に対し,「検査結果通知」と題する書面を発して,D銀行の同年3月期の自己査定の正確性及び償却・引当の適切性には問題点が認められ,当局査定によれば,同年3月末時点で,貸出金を含む総与信ベースで5615億円の追加償却・引当を要する旨指摘するとともに,上記追加償却・引当を前提とすれば,貸借対照表上の資産の部が負債の部を下回ることになるものと見込まれるので,自己資本の充実のための適切な対応が必 15億円の追加償却・引当を要する旨指摘するとともに,上記追加償却・引当を前提とすれば,貸借対照表上の資産の部が負債の部を下回ることになるものと見込まれるので,自己資本の充実のための適切な対応が必要であるとして,債務超過を解消するため採り得る資本充実策等について,早急な報告を求めた。 これに対し,D銀行は,同年11月24日及び同月30日に,いずれも金融監督庁長官あての回答書において,同年3月期のD銀行の自己査定の正確性及び償却・引当の適切性を主張し,金融監督庁の指摘には納得していないことを主張する一方で,自己資本の充実を図るため,現在,他の金融機関との合併について鋭意交渉を進めている旨述べ,同年度末まで必要な処理について猶予を懇請し,さらに,同年12月9日にも,重ねて同年度末までの自己資本充実策の実施について猶予を懇請した。 しかし,金融監督庁は,上記各回答に照らし,D銀行は同年3月末時点で債務超過状態にあり,実現性のある資本充実策が提示されないものと判断し,同年12月12日,金融監督庁長官名でD銀行に対し,金融機能の再生のための緊急措置に関する法律(平成10年法律第132号)36条1項に基づき,特別公的管理を開始する旨を通告した。 D銀行は,他の金融機関との合併交渉がいずれも合意に至らなかったことや,金融当局との争いをこれ以上続けることが,信用を重んじる金融機関として得策ではないと判断したことなどから,上記通告を受諾し,同月13日,内閣総理大臣が同項に基づく特別公的管理の開始決定等を行い,D銀行は特別公的管理下に入った。 四金融機関の貸出金の償却及び引当に関する基本的事項 1 貸出金の償却及び引当の意義銀行等の金融機関は,後記第三の一の3認定のように,取立不能(以下「回収不能」 った。 四金融機関の貸出金の償却及び引当に関する基本的事項 1 貸出金の償却及び引当の意義銀行等の金融機関は,後記第三の一の3認定のように,取立不能(以下「回収不能」ともいう。)の虞がある貸出金については,その取立不能見込額を貸借対照表の資産項目である貸出金勘定から直接控除(以下「償却」という。)するか,同見込額を貸借対照表の負債項目である貸倒引当金に繰り入れる(以下「引当」という。)ことを要する。貸倒引当金としては,毎期,債権残高に法人税基本通達等に定める一定率を乗じた額を繰り入れる「一般貸倒引当金」,個々の債権の回収可能性に応じて回収不能見込額を繰り入れる「債権償却特別勘定」(以下「債特勘定」又は「債特」ともいう。)及び「特定海外債権引当勘定」(大蔵省が特に定めた外国向け貸付債権に対する引当金)の3種類がある。 2 償却及び引当と法人税の課税の関係ところで,貸出金の償却及び引当については,企業会計上は,その全額を当期の費用として計上することができるが,税務上は,法人税法及び同基本通達が定める要件を充たすもののみを損金として課税所得から控除することが認められ(無税償却・無税引当),その要件を充たさないものは,当該年度では課税の対象とし(有税償却・有税引当),翌年度以降に上記要件を充たした時点で,当該年度における法人税額から戻り税額分(貸倒引当金繰入額×実効税率)を減額(無税化)することとされていた。そのため,後記第三の三の4の(三)認定の税効果会計の導入以前においては,課税された当該年度における課税所得と税引前当期損益との間に齟齬が生じていた。 3 貸出金の償却及び引当に係る財源貸出金の償却及び引当は,企業会計上,損失・費用として扱われるため,銀行が償却及び引 ける課税所得と税引前当期損益との間に齟齬が生じていた。 3 貸出金の償却及び引当に係る財源貸出金の償却及び引当は,企業会計上,損失・費用として扱われるため,銀行が償却及び引当を実施しつつ,当期利益を計上するためには,上記損失等の額を上回る利益を確保する必要があるが,通常,その財源は,業務純益及び株式等の保有する資産の含み益に求められる。 業務純益とは,経常損益の項目から株式の売却益など操作性の高い項目を除く銀行の本来業務における利益を意味し,銀行実務においては,不良債権の償却又は引当(以下「償却・引当」という。)の余力(以下「償却・引当財源」又は「償却余力」という。)を判断する資料として用いられる。 業務純益額を超えて償却・引当を要する取立不能見込額があるときは,株式等の含み益を現実化(益出し)するなどして上記取立不能見込額に見合う分の利益を増加させない限り,当期損失に陥るとともに,自己資本勘定(資本金,資本準備金,利益準備金等)を毀損し,後記第三の三の2の(六)掲記の自己資本比率を減少することになる。 五 D銀行の決算手続D銀行においては,毎年9月末に中間決算,3月末に通期決算を行っており,いずれの場合も,経理部が,決算期前に決算の一次予想案及び二次予想案を作成して常務会で報告し,さらに,決算基準日後に決算最終案を作成して,常務会及び取締役会に付議し,その承認を経た上,監査法人及び監査人の監査を受けて,取締役会で決算を確定するという方法により決算を行っていた。また,中間決算のころに,経理部長が,下期の利益計画を作成し,常務会に報告していた。各決算案及び利益計画については,常務会における報告及び承認の前に,経理部長が,会長,頭取及び副頭取に対し,個別にその内容を説明して了 ろに,経理部長が,下期の利益計画を作成し,常務会に報告していた。各決算案及び利益計画については,常務会における報告及び承認の前に,経理部長が,会長,頭取及び副頭取に対し,個別にその内容を説明して了承を受けており,上記三役の指示により,その内容を変更することもあった。 第三平成10年3月期における金融機関の会計処理の基準一前提となる法律関係 1 はじめに(一) 本件においては,被告人3名に対する平成10年法律第107号による改正前の証券取引法(以下単に「証券取引法」という。)197条1号の罪(以下「虚偽記載有価証券報告書提出罪」という。)の成否が問題になっているところ,本件公訴事実によれば,D銀行の平成10年3月期決算には,上記公訴事実記載の当期未処理損失があったのに,取立不能の虞があって取立不能と見込まれる貸出金(以下「取立不能見込みの貸出金」ともいう。)の償却・引当をしないことにより,上記当期未処理損失を圧縮して計上した貸借対照表等を掲載するなどしたことが,同号にいう「重要な事項につき虚偽の記載」をしたことに該当するというのである。 (二) これに対し,被告人Cの弁護人は,次のように主張している。すなわち,企業が所定の手続を経て貸出金の償却・引当をしたときは,それが会計基準に照らして過少であるか否かにかかわらず,現実になされた償却・引当の結果を計算書類に記載すべきであって,これに反する記載をすることこそが虚偽の記載というべきである。この考え方は,いわゆる確定決算主義によっても裏付けられているのであるから,会計処理が後記二の2の(一)掲記の資産査定通達等に違反していることは,有価証券報告書の虚偽の記載の問題ではない。したがって,本件公訴事実は,それ自体失当である。被告人Cの弁護人は,以上のような ら,会計処理が後記二の2の(一)掲記の資産査定通達等に違反していることは,有価証券報告書の虚偽の記載の問題ではない。したがって,本件公訴事実は,それ自体失当である。被告人Cの弁護人は,以上のような主張をしている。 しかしながら,いわゆる確定決算主義とは,商法会計において不当な会計処理が行われた場合に,これを修正する手続をとったことを公にすることなく証券取引法会計を修正することは,種々の混乱を生じさせることから,これを認めないという原則であって,企業が当初から不当な会計処理を行って,その結果を計算書類に記載することを許容するものではない。そして,国民経済の適切な運営及び投資者の保護を実現するために,有価証券の発行者に財務内容等を記載した有価証券報告書の提出を義務付けた上,重要な事項につき投資者の判断を誤らせるような虚偽の記載をした同報告書を提出した者を処罰するという証券取引法の趣旨や,企業会計原則が,最も重要な原則の1つとして真実性の原則を定め,会計処理における不実行為を禁じていることなどに照らすと,仮に,それが実際に行われた貸出金の償却・引当を前提とした当期未処理損失額であったとしても,取立不能見込みの貸出金の償却・引当を行わないことにより,会計処理の基準に照らして過少な当期未処理損失額を記載することは,「虚偽」に当たり,許されないというべきであって,被告人Cの弁護人の上記主張は,採用することができない。 (三) したがって,本件虚偽記載有価証券報告書提出罪の成否は,平成10年3月期決算におけるD銀行の現実の償却・引当額が,同期における会計処理の基準によって算出されるD銀行の取立不能見込みの貸出金額より過少であるといえるかどうかに係ることになるが,この点を検討するに当たり,まず,その前提となる法律関係につ 引当額が,同期における会計処理の基準によって算出されるD銀行の取立不能見込みの貸出金額より過少であるといえるかどうかに係ることになるが,この点を検討するに当たり,まず,その前提となる法律関係について検討を加えておくことにする。 2 有価証券報告書の提出義務及び作成方法前記1認定のように,虚偽記載有価証券報告書提出罪は,重要な事項につき虚偽の記載のある有価証券報告書を提出した行為を処罰するものであるところ,有価証券報告書とは,有価証券の発行者である会社が,大蔵省令で定めるところにより,事業年度ごとに,当該会社の目的,商号及び資本又は出資に関する事項,当該会社の営業及び経理の状況その他事業の内容に関する重要な事項その他の公益又は投資者保護のため必要かつ適当なものとして大蔵省令で定める事項を記載した報告書をいい,当該事業年度経過後3月以内に,大蔵大臣に提出されなければならない(証券取引法24条1項本文)。 そして,有価証券報告書の詳細な記載内容は,企業内容等の開示に関する省令(昭和48年大蔵省令第5号。現在は内閣府令)15条が定めており,有価証券報告書には,貸借対照表,損益計算書,利益処分計算書(又は損失処理計算書)等を示すことが求められている。他方,証券取引法193条によれば,同法の規定により提出される貸借対照表,損益計算書その他の財務計算に関する書類は,同条の規定を受けた財務諸表等の用語,様式及び作成方法に関する規則(昭和38年大蔵省令第59号。現在は内閣府令。以下「財務諸表規則」という。)等により作成しなければならないところ,同規則1条1項は,貸借対照表,損益計算書,利益処分計算書又は損失処理計算書及び附属明細表(以下「財務諸表」という。)の用語,様式及び作成方法は同規則の定めるところによるが,同 ればならないところ,同規則1条1項は,貸借対照表,損益計算書,利益処分計算書又は損失処理計算書及び附属明細表(以下「財務諸表」という。)の用語,様式及び作成方法は同規則の定めるところによるが,同規則において定めのない事項については,「一般に公正妥当と認められる企業会計の基準」に従うものとしている。 3 商法の償却・引当に関する規定の適用の有無ところで,証券取引法及び財務諸表規則は,有価証券報告書に記載すべき財務諸表等の表示形式についてのみ規定しており,会計処理の基準について具体的には定めていないと解される。他方,証券取引法は,商法の株主保護規定を補足することによって,証券取引の確実,円滑及び公正を図り,投資者保護の万全を期すことを目的としており,商法,殊に同法「第二編会社」の特別法であると考えられるところ,証券取引法は,会計処理の基準について独自の規定を定めておらず,また,商法の会計に関する規定を変更したり排除したりする特別の規定も設けていないことからすれば,財務諸表の会計処理の基準については,商法の会計に関する規定が適用されるものと解すべきである。 そして,商法は,株式会社の会計について詳細な規定を置いており,貸出金を含む金銭債権の評価については,「金銭債権に付ては其の債権金額を附することを要す」(平成14年法律第44号による改正前の商法285条の4第1項本文。以下,いずれも本件当時のものを単に「商法」といい,片仮名で表示された部分を平仮名で表示する。)と定めるとともに,「金銭債権に付取立不能の虞あるときは取立つること能はざる見込額を控除することを要す」と規定している(同条2項)。そして,同条には商法総則の適用を排除する特別の規定は定められていないことから,同項にいう「取立不能の虞あるとき」及び「 は取立つること能はざる見込額を控除することを要す」と規定している(同条2項)。そして,同条には商法総則の適用を排除する特別の規定は定められていないことから,同項にいう「取立不能の虞あるとき」及び「取立つること能はざる見込額」の判断基準等についても,商業帳簿に関する包括規定である同法32条2項の「商業帳簿の作成に関する規定の解釈に付ては公正なる会計慣行を斟酌すべし」との規定により判断されることになる。ここで,「公正なる」とは,企業の財務状態ないし経営成績を明らかにするという目的に照らして妥当かつ合理的なという意味であると解すべきである。また,「斟酌すべし」とは,公正なる会計慣行がある以上は,特別の事情がない限り,そのような会計慣行に従わなければならないという意味であり,公正なる会計慣行を一応考慮しさえすればよく,それに従うかどうかは自由であるという意味ではないと解される。 4 「公正なる会計慣行」に該当する会計基準(一) 企業会計原則及び同注解「公正なる会計慣行」には,一般に,企業会計審議会(大蔵省組織令に基づき設置された審議会であり,大蔵大臣の諮問に応じて,企業会計の基準及び監査基準の設定その他企業会計に関する重要な事項について調査審議し,その結果を大蔵大臣等に対して報告し,又は建議することを目的としている。)が公表した企業会計原則(昭和24年7月9日経済安定本部企業会計制度対策調査会中間報告であり,後に上記審議会が修正)及び企業会計原則注解(昭和29年7月14日上記審議会中間報告)を始めとする会計処理の基準が当たるものと考えられている。企業会計原則は,その前文「企業会計原則の設定について」において,「企業会計原則は,企業会計の実務の中に慣習として発達したもののなかから,一般に公正妥当と認めら の基準が当たるものと考えられている。企業会計原則は,その前文「企業会計原則の設定について」において,「企業会計原則は,企業会計の実務の中に慣習として発達したもののなかから,一般に公正妥当と認められたところを要約したものであって,必ずしも法令によって強制されないでも,すべての企業がその会計を処理するに当って従わなければならない基準である」ことを明らかにしている。 そして,企業会計原則は,「第三貸借対照表原則」の四の(一)のDの一項において,「債権に対する貸倒引当金は,原則として,その債権が属する科目ごとに債権金額又は取得価額から控除する形式で記載する」と定めており,同項等の注解である企業会計原則注解18は,「将来の特定の費用又は損失であって,その発生が当期以前の事象に起因し,発生の可能性が高く,かつ,その金額を合理的に見積ることができる場合には,当期の負担に属する金額を当期の費用又は損失として引当金に繰入れ,当該引当金の残高を貸借対照表の負債の部又は資産の部に記載するものとする」としている。 (二) 決算経理基準また,次のように,昭和57年4月1日付け蔵銀第901号大蔵省銀行局長通達「普通銀行の業務運営に関する基本事項等について」(以下「基本事項通達」という。)の別紙「普通銀行の業務運営に関する基本事項」の第五の一の「決算経理基準」も,「公正なる会計慣行」に当たるものと解することができる。すなわち,基本事項通達は,銀行法(昭和56年法律第59号)が昭和57年4月1日から施行されたことなどに伴い,大蔵省銀行局長が同省の銀行に対する監督権限に基づき発出したもので,決算経理基準は,大蔵省銀行局長通達「長期信用銀行の業務運営に関する基本事項等について」によって,必要な技術的読替えをした上で, ,大蔵省銀行局長が同省の銀行に対する監督権限に基づき発出したもので,決算経理基準は,大蔵省銀行局長通達「長期信用銀行の業務運営に関する基本事項等について」によって,必要な技術的読替えをした上で,D銀行等の長期信用銀行にも適用されるものとされていた。そして,D銀行等の金融機関においては,同基準が発出された以降は,同基準に従った決算処理を行っていた。ちなみに,D銀行の有価証券報告書では,「第五経理の状況」において,引当金の計上基準等に係る重要な会計方針として,銀行業の決算経理基準に基づいている旨が記載されている。さらに,決算経理基準の前身である銀行業統一経理基準について,日本公認会計士協会銀行監査特別委員会は,昭和51年に公表した「銀行業統一経理基準及び財務諸表様式に係る監査上の取扱について」と題する書面において,同基準が監督官庁によって示されたものであり,かつ,各銀行がこれを統一的に採用していると考えられることなどから,「統一経理基準に基づく会計処理等については,当分の間,公正な会計慣行に合致しているものとして取扱う」としているのである。これらの事情に照らせば,決算経理基準は,商法32条2項の定める「公正なる会計慣行」となっていたものと認められる。 もっとも,決算経理基準は,後記三の2の(七)認定のように,平成9年7月31日に一部改正されており(以下,一部改正前のものを「改正前の決算経理基準」,一部改正後のものを「改正後の決算経理基準」という。),その後,平成10年6月10日をもって廃止された後,同年9月7日付けで,全国銀行協会連合会(現在は「全国銀行協会」)から,概ね同一の内容の「銀行業における決算経理基準等について」が発出されている。しかし,改正後の決算経理基準も,大蔵省銀行局長発出の通達であり,金融機関にお 行協会連合会(現在は「全国銀行協会」)から,概ね同一の内容の「銀行業における決算経理基準等について」が発出されている。しかし,改正後の決算経理基準も,大蔵省銀行局長発出の通達であり,金融機関においては,これに従った経理処理を行うことが確立した慣行となっていたことに加えて,日本公認会計士協会が,概ね同一の内容の上記「銀行業における決算経理基準等について」に従って会計処理を行っている場合には,「当事業年度(中間会計期間を含む。)に限り,監査上,格別の意見を付さないことができるものとする」としていたことなどに鑑みれば,改正後の決算経理基準も,改正前のものと同様に,「公正なる会計慣行」に当たるものと解することができる。 二検察官及び各弁護人の主張 1 争点以上のように,有価証券報告書の記載内容である財務諸表を作成する際の会計処理の基準には,貸出金を含む金銭債権の評価につき定めた商法285条の4第2項が含まれ,同項の解釈については,同法32条2項にいう「公正なる会計慣行」を「斟酌」すべきものであるところ,企業会計原則,同注解及び決算経理基準が「公正なる会計慣行」に該当することは,関係各証拠から明らかであり,検察官及び各弁護人の間にも概ね争いがない。 しかしながら,上記各法令等のみならず,後記2の(一)掲記の資産査定通達及び4号実務指針(以下,この2つを併せて「資産査定通達等」ともいう。)も金融機関の会計処理の基準であって,本件当時,これらに従って貸出金の償却・引当に係る会計処理を行うことが,法的義務にまでなっていたのかどうかについては,次のように,検察官及び各弁護人の間に争いがある。 2 検察官の主張(一) 平成10年4月から金融機関の健全性確保のための早期是正措置制度が導入された いたのかどうかについては,次のように,検察官及び各弁護人の間に争いがある。 2 検察官の主張(一) 平成10年4月から金融機関の健全性確保のための早期是正措置制度が導入されたが,同制度においては,金融機関が,自らの資産内容について自己査定を行うとともに,その結果に基づいて,従来にも増して適切な償却・引当を実施することが要請されることになった。そして,同制度の導入に当たり,平成9年3月5日付け蔵検第104号大蔵省大臣官房金融検査部長通達「早期是正措置制度導入後の金融検査における資産査定について」(以下「資産査定通達」という。また,以下,大蔵省大臣官房金融検査部を単に「金融検査部」という。)が発出された。また,日本公認会計士協会からは,平成9年4月15日付け日本公認会計士協会銀行等監査特別委員会報告第4号「銀行等金融機関の資産の自己査定に係る内部統制の検証並びに貸倒償却及び貸倒引当金の監査に関する実務指針」(以下「4号実務指針」という。)が公表された。 (二) 資産査定通達は,貸出金等の回収不能見込み等を判断する上で合理的な基準であり,本件当時,他に選び得る合理的な基準がなく,早期是正措置制度の導入に当たり,金融機関が,同通達に従って自己査定基準を策定し,同基準に従って自己査定することが当然の前提とされていた。 (三) また,4号実務指針は,内容において合理的であり,単なる監査の際の基準にとどまらず,金融機関自体も準拠すべき会計基準であって,企業会計原則及び同注解とともに財務諸表規則1条1項にいう「一般に公正妥当と認められる企業会計の基準」に該当する。したがって,企業会計原則,同注解及び4号実務指針に違反する会計処理に基づく貸借対照表等の作成は,同規則1条1項を介して有価証券報告書上の貸借対照 に公正妥当と認められる企業会計の基準」に該当する。したがって,企業会計原則,同注解及び4号実務指針に違反する会計処理に基づく貸借対照表等の作成は,同規則1条1項を介して有価証券報告書上の貸借対照表等の作成方法に係る規範に違反する。加えて,4号実務指針は,企業会計原則等とともに商法32条2項にいう「公正なる会計慣行」にも該当するので,4号実務指針に違反する会計処理に基づく貸借対照表等の作成は,その点においても有価証券報告書上の貸借対照表等の作成方法に係る規範に違反する。 (四) 資産査定通達においてⅣ分類(Ⅳ分類資産の意味については,後記三の2の(三)参照)とされる貸出金は,企業会計原則,同注解及び4号実務指針によれば,金融機関が当期に全額償却・引当すべき義務を負うこととなる。 したがって,資産査定通達から導かれるⅣ分類の貸出金について当期に全額償却・引当しないことは,償却・引当基準に違反する会計処理となり,これに基づき作成された貸借対照表等は,有価証券報告書上の貸借対照表等の作成方法に係る規範に違反するものであって,その内容において虚偽であったこととなる。 3 各弁護人の主張各弁護人の主張は,極めて多岐にわたるが,主要なものの骨子を挙げると,次のとおりである。 (一) 資産査定通達及び4号実務指針には法規範性が存在せず,これに違反しても,証券取引法197条1号の定める「虚偽」の記載にならない。なぜならば,①資産査定通達等は,発出者,名宛人,成立過程,発出形態,趣旨,内容等からして,法規範たり得ないものであり,銀行を拘束する会計処理の基準にはなり得ない,②通達等が商法32条2項にいう「会計慣行」になるためには,ある期間継続的に適用されて関係者の間に定着化することが不可欠の前提 法規範たり得ないものであり,銀行を拘束する会計処理の基準にはなり得ない,②通達等が商法32条2項にいう「会計慣行」になるためには,ある期間継続的に適用されて関係者の間に定着化することが不可欠の前提であるところ,資産査定通達等は,平成10年3月期当時は定着化していなかったのであるから,「会計慣行」には該当しない,③平成10年3月期においては,資産査定通達等による自己査定及び償却・引当は,新しい枠組みの試行と位置付けられていたとしか理解できず,資産査定通達等を直ちに厳密に適用する時期ではなかったからである。 (二) 商法32条2項の定める「公正なる会計慣行」は,必ずしも1つに限られるものではなく,同法281条の3第2項5号が継続性の原則を定めているのも,複数の会計処理基準の存在を前提にしていると考えられるところ,従前の不良債権償却証明制度の下での税法基準は,金融機関の貸出金の償却・引当に関する確立した会計慣行だったのであり,平成10年3月期においても,税法基準等の適用を明確に否定する明文の定めはなかったのであるから,資産査定通達及び4号実務指針による貸出金の償却・引当が,平成10年3月期における唯一の「公正なる会計慣行」であったということはできない。 (三) 資産査定通達及び4号実務指針は,刑罰法規の委任を受けておらず,政令や省令よりも更に下位の形式により作成されている上,国民に向けて公布されるという行為が介在していないから,法規範性を有しておらず,これらが商法32条2項を介して刑罰の根拠となると解することは,通達等が実質的に犯罪の構成要件を定めることになるので,罪刑法定主義に違反し,許されない。 三関係各証拠により認められる事実そこで,検討すると,関係各証拠によれば,金融機関の貸出金に係る償却・引 に犯罪の構成要件を定めることになるので,罪刑法定主義に違反し,許されない。 三関係各証拠により認められる事実そこで,検討すると,関係各証拠によれば,金融機関の貸出金に係る償却・引当の基準等について,次のような事実が認められる。すなわち, 1 不良債権償却証明制度(一) 不良債権償却証明制度の概要法人の有する売掛金,貸付金その他の債権に関し,法人税法上,貸倒れとして損金処理が可能な場合及びその金額については,法人税基本通達9-6-1から9-6-3までが,債権償却特別勘定の設定が可能な場合及びその金額については,同通達9-6-4から9-6-8までがそれぞれ定めている。そして,上記各規定による償却の最終的な金額の確定は,税務当局の認定に委ねられるが,金融機関の不良債権の償却については,日常的に金融機関の検査に従事し,その特殊性に十分精通している金融証券検査官に認定させる方が効果的であることから,昭和25年以来,大蔵省と国税庁の協議に基づき,金融証券検査官が回収不可能又は無価値と判定した債権(第Ⅳ分類)若しくはこれに準ずる債権として証明した不良債権の金額は,原則として法人税法上損金として容認される扱いであった。 上記制度は,不良債権償却証明制度と呼ばれ,平成5年11月29日付け蔵検第439号金融検査部長通達「不良債権償却証明制度等実施要領について」(以下「不良債権償却証明制度実施要領通達」という)がその手続等を定めていた。なお,不良債権償却証明制度実施要領通達においては,有税引当等については,「金融機関等の自主判断により行われるものであることに留意する」こととされていた(同通達記1)。 (二) 改正前の決算経理基準他方,改正前の決算経理基準 等については,「金融機関等の自主判断により行われるものであることに留意する」こととされていた(同通達記1)。 (二) 改正前の決算経理基準他方,改正前の決算経理基準は,金融機関の貸出金の償却については,「回収不能と判定される貸出金及び最終の回収に重大な懸念があり損失の発生が見込まれる貸出金については,これに相当する額を償却するものとする。なお,有税償却する貸出金については,その内容をあらかじめ当局に提出するものとする」としており,また,貸倒引当金(債権償却特別勘定等を除く。)については,税法で容認される限度額を必ず繰り入れるものとしていたほか,「債権償却特別勘定への繰入れは,税法基準のほか,有税による繰入れができるものとする。なお,有税繰入れするものについては,その内容をあらかじめ当局に提出するものとする」と定め,税法基準による処理を前提とする規定を置いていた。 このように,後記の早期是正措置制度の導入以前においては,不良債権償却証明制度が存在したことから,金融機関は,税法基準により,無税償却・引当の要件を充足した貸出金については,償却証明を得て償却・引当を行うが,それ以外の貸出金については,金融機関の自主判断により有税償却・引当するのが一般的な扱いとなっていた。 2 早期是正措置制度導入のための手続(一) 金融三法の成立と早期是正措置制度導入の決定大蔵省は,平成6年12月にU信用組合及びV信用組合が破綻し,さらに,複数の銀行の破綻処理が避けられない情勢となったことから,平成7年6月,「金融システムの機能回復について」と題する文書を公表し,客観的な指標に基づき金融機関経営の早期是正を求める措置の導入等について検討していくことを明らかにした。 ったことから,平成7年6月,「金融システムの機能回復について」と題する文書を公表し,客観的な指標に基づき金融機関経営の早期是正を求める措置の導入等について検討していくことを明らかにした。 そして,同年9月に発覚したいわゆるW銀行ニューヨーク支店事件(同支店の元行員が簿外米国債投資で失敗し,同行に11億ドルに上る損失を与えた事件)により,内外から大蔵省の金融行政の在り方が批判される中,大蔵大臣の諮問機関である金融制度調査会は,金融システム安定化委員会を設置して審議を重ね,同年12月22日,「金融システム安定化のための諸施策」を答申した。上記答申は,金融機関の不良債権を早期に処理し,バブル経済の崩壊で低下した金融システムの機能回復を図ることは我が国経済の今後の持続的な発展にとって不可欠の前提であり,こうした問題の解決のためには,金融機関の自己責任原則の徹底と市場規律の発揮を基軸とした透明性の高い金融システムを早急に構築する必要があるとし,金融機関経営の健全性確保のための方策として,従来型の金融行政手法の転換と早期是正措置の導入等を提言するものであった。また,同月26日には,同省の金融検査・監督等に関する委員会が取りまとめた報告に早期是正措置の導入が盛り込まれ,同日,その内容が大蔵大臣の記者会見で発表された。 その後,上記答申を受け,平成8年6月に,金融機関等の経営の健全化確保のための関係法律の整備に関する法律(同年法律第94号)等のいわゆる金融三法が成立し,銀行法,長期信用銀行法等が一部改正され,金融機関経営の健全性を確保するための金融行政当局による監督手法として,平成10年4月から,同年3月期以降の決算を対象として,早期是正措置制度が導入されることになった。早期是正措置制度は,自己資本比率という客観 健全性を確保するための金融行政当局による監督手法として,平成10年4月から,同年3月期以降の決算を対象として,早期是正措置制度が導入されることになった。早期是正措置制度は,自己資本比率という客観的指標に基づいて,金融行政当局が,金融機関に対し,業務改善計画の提出等の是正措置を適時,適切に発動することを主眼とするものであった。 なお,被告人Aの弁護人は,早期是正措置制度が平成10年3月期決算から適用されるというのは事実ではない旨主張している。しかしながら,同制度は,同年4月1日から施行されるところ,同年3月期決算の内容は,同年6月に開催される株主総会によって確定するのであるから,同制度が同期決算をも対象としていることは明らかであり,被告人Aの弁護人の上記主張は,採用することができない。 (二) 早期是正措置に関する検討会による「中間とりまとめ」の公表金融三法の成立を受け,平成8年9月,大蔵省銀行局長の私的研究会として,「早期是正措置に関する検討会」が発足し,同検討会は,X株式会社顧問のYを座長として,大学の法学部教授,経済学部教授,商学部教授,シンクタンクの研究員,地方公共団体職員,日本公認会計士協会副会長及び日銀信用機構局長がメンバーとして,都市銀行,長期信用銀行等の金融関係者が特別メンバーとしてそれぞれ参加し,大蔵省銀行局や金融検査部からも担当者が出席し,早期是正措置の具体的内容の骨格と適正な財務諸表の作成に当たっての基本的な考え方や実務指針等について検討を行い,同年12月26日に,その「中間とりまとめ」を公表した。 「中間とりまとめ」は,同措置導入の前提となる適正な財務諸表作成のためには,企業会計原則等に基づき適正な償却・引当が実施される必要があるとした上で,各金融 とりまとめ」を公表した。 「中間とりまとめ」は,同措置導入の前提となる適正な財務諸表作成のためには,企業会計原則等に基づき適正な償却・引当が実施される必要があるとした上で,各金融機関が更に適正かつ客観的に償却・引当を行い得るように,日本公認会計士協会より償却・引当についての明確な考え方が実務上の指針(ガイドライン)として示されることが望ましいとし,現在,同協会において検討が進められている貸倒償却及び貸倒引当金の計上基準の基本的な考え方として,正常先債権から破綻先債権までの5つの債権分類を前提として,適正な償却・引当を実施することを示していた。また,「中間とりまとめ」は,資産の自己査定は,適正な償却・引当のための準備作業として重要な役割を果たすものであり,基本的には各金融機関の判断により行うものであるが,適度な統一性の確保という観点からは,できる限り共通の基本的考え方が確保されていることが望ましいとし,当局がこれまでの検査(資産査定のⅠ~Ⅳ分類)における実務を基に作成した自己査定ガイドラインの原案が本検討会で概ね了解が得られたので,こうした点を踏まえ,自己査定ガイドラインを作成することが適当であるとして,上記債権分類の各区分ごとにⅠ分類からⅣ分類までに分類すべき内容を明らかにした。なお,「中間とりまとめ」は,「各金融機関においては,できるだけ早期に自己査定を実施する体制を整備し,自己査定結果を適正に反映させた償却・引当を実施することが望ましい」としていた。 (三) 資産査定通達の発出金融検査部長は,平成9年3月5日,「早期是正措置に関する検討会」における検討を踏まえ,金融証券検査官等あてに,前記二の2の(一)掲記の資産査定通達を発出した。 同通達は,早期是正措置制度導入後 ,平成9年3月5日,「早期是正措置に関する検討会」における検討を踏まえ,金融証券検査官等あてに,前記二の2の(一)掲記の資産査定通達を発出した。 同通達は,早期是正措置制度導入後の金融検査における資産査定が金融機関による自己査定等を前提としてより適切かつ統一的に行い得るように,これまでの金融検査における資産査定の実務を基に,別添のとおり「資産査定について」を作成したので通知する旨の趣旨を述べた上,金融証券検査官は,検査に際しては,検査直前決算期(中間決算を含む。)等において金融機関が行う自己査定について,その基準が明確かどうか,また,その枠組みが「資産査定について」の枠組みに沿っているかどうか等を把握し,金融機関の自己査定基準の枠組みが独自のものである場合には,「資産査定について」の枠組みとの関係を明瞭に把握するとともに,金融機関の自己査定基準の中の個別のルールが合理的に説明できるものであるかどうか等をチェックすることになるとした。 そして,「資産査定について」は,「資産査定」とは,金融機関の保有する資産を個別に検討して,回収の危険性又は価値の毀損の危険性の度合いに従って区分することであり,資産査定において,Ⅱ,Ⅲ及びⅣ分類に区分することを「分類」といい,Ⅱ,Ⅲ及びⅣ分類とした資産を「分類資産」というとした。そして,「資産査定について」は,各分類の具体的内容として,①Ⅰ分類(「非分類」ともいう。)は,Ⅱ分類,Ⅲ分類及びⅣ分類としない資産で,回収の危険性又は価値の毀損の危険性について,問題のない資産であり,②Ⅱ分類は,債権確保上の諸条件が満足に充たされないため,あるいは信用上疑義が存する等の理由により,その回収について通常の度合いを超える危険を含むと認められる債権等の資産であり,③Ⅲ分類は,最終の回 Ⅱ分類は,債権確保上の諸条件が満足に充たされないため,あるいは信用上疑義が存する等の理由により,その回収について通常の度合いを超える危険を含むと認められる債権等の資産であり,③Ⅲ分類は,最終の回収又は価値について重大な懸念が存し,したがって,損失の発生の可能性が高いが,その損失額について合理的な推計が困難な資産であるところ,金融機関にとって損失額の推計が全く不可能とするものではなく,個々の債権の状況に精通している金融機関自らのルールと判断により損失額を見積もることが適当とされるものとし,④Ⅳ分類は,回収不可能又は無価値と判定される資産であり,その資産が絶対的に回収不可能又は無価値であるとするものではなく,また,将来において部分的な回収があり得るとしても,基本的に,査定基準日において回収不可能又は無価値と判定できる資産であるとしていた。 また,「資産査定について」は,貸出金の査定に当たって,債務者の財務状況,資金繰り,収益力等により返済能力を判定し,債務者をその状況等によって,「正常先」「要注意先」「破綻懸念先」「実質破綻先」「破綻先」の5つに区分した上,①「正常先」に対する貸出金は,原則として非分類,②「要注意先」に対する貸出金は,債務者の財務内容等の状況から回収について通常を上回る危険性があると認められる貸出金等で,優良担保の処分可能見込額及び優良保証等により保全措置が講じられていない部分を原則としてⅡ分類,③「破綻懸念先」に対する貸出金は,優良担保の処分可能見込額及び優良保証等により保全されている貸出金以外のすべての貸出金を分類することとし,一般担保の処分可能見込額及び一般保証による回収が可能と認められる部分をⅡ分類,これ以外の部分をⅢ分類,④「実質破綻先」及び「破綻先」に対する貸出金は,優良担保の処分可能見 出金を分類することとし,一般担保の処分可能見込額及び一般保証による回収が可能と認められる部分をⅡ分類,これ以外の部分をⅢ分類,④「実質破綻先」及び「破綻先」に対する貸出金は,優良担保の処分可能見込額及び優良保証等により保全されている貸出金以外のすべての貸出金を分類することとし,一般担保の処分可能見込額及び一般保証による回収が可能と認められる部分をⅡ分類,優良担保及び一般担保の担保評価額と処分可能見込額との差額及び保証による回収の見込みが不確実な部分をⅢ分類,これ以外の回収の見込みがない部分をⅣ分類とするとしていた。 (四) 「『資産査定について』に関するQ&A」の送付資産査定通達は,早期是正措置導入後の資産査定の基本的な考え方を示すものとして,それ自体が金融業界に公開されていたが,さらに,その解釈に関し,全国銀行協会連合会融資業務専門委員会が,金融検査部とも相談の上,その一般的な考え方を「『資産査定について』に関するQ&A」にまとめて,平成9年3月12日付けで同連合会から全国の金融機関に送付し,D銀行においてもその内容を把握していた。 (五) 4号実務指針の策定及び公表日本公認会計士協会は,「中間とりまとめ」及び資産査定通達の考え方を踏まえて,銀行等監査問題懇談会において,経営コンサルタント,会計学者,商法学者,大蔵省担当官,民間金融機関等の各界の意見を聴取した上,平成9年4月15日,早期是正措置に伴って導入される自己査定制度の整備状況の妥当性及び査定作業の査定基準への準拠性を確かめるための実務指針を示すとともに,貸倒償却及び貸倒引当金の計上に関する監査上の取扱いを明らかにするものとして,前記二の2の(一)掲記の4号実務指針を公表した。 同実務指針は,「2 るための実務指針を示すとともに,貸倒償却及び貸倒引当金の計上に関する監査上の取扱いを明らかにするものとして,前記二の2の(一)掲記の4号実務指針を公表した。 同実務指針は,「2 固有の危険の評価に当たっての留意事項」として,「銀行等金融機関の貸倒償却及び貸倒引当金の監査については,監査人は,一般に固有の危険の程度を高めに評価することが必要となる」とした上,その要因として,貸倒償却及び貸倒引当金の計上の基礎となる自己査定の妥当性の検討は,銀行等金融機関の債務者を監査人が直接監査するものではないので,債務者に関する情報の質と量が不十分となるリスクがあることなどを挙げていた。また,同実務指針は,「内部統制の有効性の評価に当たっての留意事項」として,①自己査定基準に示す査定分類は,資産査定通達と同一である必要はなく,より細かい分類であってもよいが,資産査定通達の分類に整合し,分類の対応関係が確保されていることを確かめること,②貸倒償却及び貸倒引当金の計上に関する規程は,同実務指針の「貸倒償却及び貸倒引当金の計上に関する監査上の取扱い」に整合し,かつ,金融機関自身の自己査定基準とも適切な連動が保たれているかを確かめることなどの点について留意することが必要になるとしていた。 そして,同実務指針は,「貸倒償却及び貸倒引当金の計上に関する監査上の取扱い」として,①「正常先債権」及び「要注意先債権」については,債権額で貸借対照表に計上し,貸倒実績率に基づき貸倒引当金を計上し,②「破綻懸念先債権」については,債権額から担保の処分可能見込額及び保証による回収が可能と認められる額を減算し,残額のうち必要額を貸借対照表に貸倒引当金として計上し,③「実質破綻先債権」及び「破綻先債権」については,債権額から担保の処分可能見込額 分可能見込額及び保証による回収が可能と認められる額を減算し,残額のうち必要額を貸借対照表に貸倒引当金として計上し,③「実質破綻先債権」及び「破綻先債権」については,債権額から担保の処分可能見込額及び保証による回収が可能と認められる額を減算し,残額を貸倒償却するか又は貸倒引当金として貸借対照表に計上するとしていた。なお,同実務指針は,原則として平成9年4月1日以降開始する事業年度に係る監査から適用するが,同年9月30日に終了する中間会計期間において金融機関が自己査定に係る内部統制を構築し,その旨を表明した場合には,当該中間会計期間に係る監査から適用するものとされていた。 さらに,4号実務指針について解説した「4号実務指針Q&A」も,日本公認会計士協会作成の「JICPAニュースレター45号(平成9年7月1日)」に掲載された。 (六) 長期信用銀行法施行規則の改正と自己資本比率平成9年7月31日,長期信用銀行法17条で準用される銀行法26条2項等の規定に基づき,長期信用銀行法施行規則の一部を改正する省令(同年大蔵省令第61号)が公布され,同規則(昭和57年大蔵省令第13号が改正され,同規則20条の2及び3として,銀行法26条2項の大蔵省令等が定める長期信用銀行の自己資本の充実の状況に係る区分及び当該区分に応じ大蔵省令等で定める命令の内容が定められた。それによれば,海外営業拠点を有する長期信用銀行については,「長期信用銀行法第17条において準用する銀行法第14条の2の規定に基づく長期信用銀行がその保有する資産等に照らし自己資本の充実の状況が適当であるかどうかを判断するための基準」(平成5年大蔵省告示第56号)の定める国際統一基準(BIS基準)による自己資本比率(以下「BIS自己資本比率」という る資産等に照らし自己資本の充実の状況が適当であるかどうかを判断するための基準」(平成5年大蔵省告示第56号)の定める国際統一基準(BIS基準)による自己資本比率(以下「BIS自己資本比率」という。)が適用され,海外拠点を有しない長期信用銀行については,平成9年大蔵省告示第189号により改正された「銀行法第14条の2の規定に基づく自己資本比率基準」(平成5年大蔵省告示第55号)の定める国内基準による自己資本比率(以下「国内基準自己資本比率」という。)が適用されることになる。そして,早期是正措置発動の基準及び内容として,大蔵大臣は,金融機関のBIS自己資本比率が8パーセント未満(国内基準自己資本比率では4パーセント未満)になれば,経営の健全性を確保するための合理的と認められる改善計画の提出及びその実行を,BIS自己資本比率が4パーセント未満(国内基準自己資本比率では2パーセント未満)になれば,自己資本の充実に係る合理的と認められる計画の提出及びその実行等自己資本の充実に資する措置を,BIS自己資本比率が零パーセント未満になれば,業務の全部又は一部の停止をそれぞれ命じることができるとされた。 なお,D銀行は,後記第四の二の8の(四)認定のように,平成9年4月に経営再建策を実施して,海外拠点から撤退したことから,本件当時は,国内基準が適用される銀行となっていた。もっとも,D銀行関係者の間においては,D銀行が健全な経営を行うためには,国内基準自己資本比率で6パーセント程度の自己資本が必要であると認識されていた。 (七) 不良債権償却証明制度の廃止と決算経理基準の改正前記1認定のように,不良債権償却証明制度の下で,金融機関は,税法基準によって不良債権処理を行うのが一般的な傾向であったが,次第に,銀 不良債権償却証明制度の廃止と決算経理基準の改正前記1認定のように,不良債権償却証明制度の下で,金融機関は,税法基準によって不良債権処理を行うのが一般的な傾向であったが,次第に,銀行が積極的に不良債権の処理を進めるべきであるという意見が各方面から出るようになったことから,大蔵省は,税務上の環境整備を行って,無税償却が認められる範囲を拡大するとともに,金融機関に対し,有税であっても積極的に償却するようにとの指導をするようになり,平成9年7月には,不良債権償却証明制度実施要領を廃止した。 さらに,決算経理基準を含む基本事項通達も,平成10年4月1日から早期是正措置制度が導入されることや,平成9年7月31日付けで銀行法施行規則の一部を改正する省令(同年大蔵省令第60号)が公布されたことなどに伴い,同日付けで一部改正された。そして,大蔵省銀行局長から,D銀行代表取締役頭取あてに,基本事項通達の一部を改正したこと及び改正後の決算経理基準については平成10年3月期の決算から適用することが通知された。 改正後の決算経理基準は,「資産の評価は,自己査定結果を踏まえ,商法,企業会計原則等及び下記に定める方法に基づき各行が定める償却及び引当金の計上基準に従って実施するものとする」とした上で,「貸出金等の評価は,次のような公正・妥当と認められる方法によるものとする。(イ)回収不能と判定される貸出金等については,債権額から担保の処分可能見込額及び保証による回収が可能と認められる額を減算した残額(以下『回収不能額』という。)を償却する。ただし,担保が処分されていない等の事情により,償却することが適当でないと判定される貸出金等を除く。(ロ)債権償却特別勘定への繰入れは,回収不能と判定される貸出金等のうち上記(イ う。)を償却する。ただし,担保が処分されていない等の事情により,償却することが適当でないと判定される貸出金等を除く。(ロ)債権償却特別勘定への繰入れは,回収不能と判定される貸出金等のうち上記(イ)により償却するもの以外の貸出金等については回収不能額を,最終の回収に重大な懸念があり損失の発生が見込まれる貸出金等については債権額から担保の処分可能見込額及び保証による回収が可能と認められる額を減算した残額のうち必要額を,それぞれ繰り入れるものとする。(ハ)債権償却特別勘定等を除く貸倒引当金は,貸出金等のうち,上記(イ)により償却するもの及び上記(ロ)により債権償却特別勘定へ繰り入れるもの以外の貸出金等について,合理的な方法により算出された貸倒実績率に基づき算定した貸倒見込額を繰り入れるものとする」などと定めていた。 3 平成10年7月における金融検査前記第二の三認定のように,金融監督庁及び日銀は,平成10年7月から,D銀行を含む主要19行について同年3月31日を基準日とする集中検査を実施したが,後に特別公的管理を受けたD銀行及びI銀行を除く17行に対する検査・考査結果の概要は,「自己査定態勢及び償却・引当態勢については,概ね整備されているものの,一部に今後,更に充実・強化が必要なところが見られた」というものであり,自己査定基準及び償却・引当基準については,いずれもその内容の一部に問題が認められたので,大半の銀行に改善を求めたが,総体としてはそれぞれ資産査定通達及び4号実務指針に整合しており,概ね妥当であったというものであった。 4 金融検査マニュアルの制定と税効果会計の導入(一) 金融検査マニュアルの制定金融監督庁は,平成10年8月,検査部内に「金融検査マニュアル検討会」を発足 。 4 金融検査マニュアルの制定と税効果会計の導入(一) 金融検査マニュアルの制定金融監督庁は,平成10年8月,検査部内に「金融検査マニュアル検討会」を発足させ,同検討会は,同年12月に「中間とりまとめ」を公表し,これに対するパブリック・コメント等を踏まえて検討を重ね,平成11年4月8日に,「最終とりまとめ」を公表した。この「最終とりまとめ」に基づき,平成11年7月1日付け金検第177号金融監督庁検査部長通達「預金等受入機関に係る検査マニュアルについて」が金融証券検査官等あてに発出され,新たに定められた「金融検査マニュアル(預金等受入金融機関に係る検査マニュアル)」に従って検査を実施することになるとともに,資産査定通達は,廃止された。 (二) 4号実務指針の改正他方,日本公認会計士協会は,前記「最終取りまとめ」の公表等を受けて,平成11年4月30日付けで,4号実務指針の一部改正を公表した。 (三) 財務諸表規則の改正と税効果会計の導入大蔵省は,法務省と共同して,平成9年7月から,商法学者,会計学者及び実務家の参加を求め,「商法と企業会計の調整に関する研究会」を開催し,税効果会計の採用等を中心に検討を行い,平成10年6月16日,報告書を取りまとめた。そして,大蔵省は,同報告を受け,同年12月21日,財務諸表等の用語,様式及び作成方法に関する規則等の一部を改正する省令(同年大蔵省令第173号)を制定して公布し,財務諸表規則に8条の11の規定を追加した。これにより,金融機関は,法人税その他の利益に関連する金額を課税標準として課される課税について,税効果会計(貸借対照表に計上されている資産及び負債の金額と課税所得の計算の結果算定された資産及び負債 これにより,金融機関は,法人税その他の利益に関連する金額を課税標準として課される課税について,税効果会計(貸借対照表に計上されている資産及び負債の金額と課税所得の計算の結果算定された資産及び負債の金額との間に差異がある場合において,当該差異に係る法人税等の金額を適切に期間配分することにより,法人税等を控除する前の当期純利益の金額と法人税等の金額を合理的に対応させるための会計処理をいう。)を適用して財務諸表を作成しなければならないとされた。そして,この追加された新規定は,平成11年4月1日以降開始する事業年度に係る財務諸表について適用するとされたが,同日前に開始する事業年度に係る財務諸表のうち,同日以後に提出される有価証券報告書に記載されるものについても,適用することができるとされた(同省令附則3項)。 以上のような事実が認められる。 4 当裁判所の判断 1 平成10年3月期における会計処理の基準(一) そこで,前記3認定の各事実を前提に,検討することにする。 (1) 早期是正措置制度は,金融システム安定化のための諸施策の一環として,前記三の2の(一)掲記の金融機関等の経営の健全化確保のための関係法律の整備に関する法律により導入された制度であるところ,その趣旨は,監督官庁が,自己資本比率という客観的指標に基づき,金融機関に対する是正措置を適時かつ適切に発動することによって,金融機関経営の健全性を確保し,もって,バブル経済の崩壊で低下した我が国の金融システムの機能回復を図り,市場規律に立脚した透明性の高い金融システムを構築することにある。そして,資産査定通達及び4号実務指針は,早期是正措置制度を有効に機能させるために必要な資産の自己査定及び貸出金の適正な償却・引当の基本的な考え方を明らかに 性の高い金融システムを構築することにある。そして,資産査定通達及び4号実務指針は,早期是正措置制度を有効に機能させるために必要な資産の自己査定及び貸出金の適正な償却・引当の基本的な考え方を明らかにし,金融機関の資産の実態をできる限り正確かつ客観的に反映した財務諸表を作成することを目的として策定されたものである。 (2) 資産査定通達等の内容を見ると,資産査定通達は,債務者を正常先から破綻先までの5区分に区分した上,各区分ごとに債務者に対する債権をⅠ分類からⅣ分類までに査定することを示しており,4号実務指針は,上記債務者区分に対応して,債務者に対する貸出金について,貸倒償却及び貸倒引当金の計上方法を定めている。また,資産査定通達及び4号実務指針は,いずれも,「早期是正措置に関する検討会」が,大蔵省の担当者を始めとして,商法学者,経済学者,会計学者,日本公認会計士協会関係者,日銀関係者,金融機関の代表者等の金融機関の会計処理の関係者が参加して検討した結果を公表した「中間とりまとめ」の考え方を基礎にし,その内容を明確にしたものである。さらに,資産査定通達は,それまでの長年にわたる金融検査の実務を基に,金融検査部が策定したものであり,4号実務指針は,日本公認会計士協会が,銀行等監査問題懇談会において,会計学者,商法学者,大蔵省の担当官,金融機関の代表者等の金融機関の償却・引当実務の関係者の意見を聴取した上で策定したものである。したがって,資産査定通達及び4号実務指針が,いずれも金融機関の資産の実態をできる限り正確かつ客観的に反映した財務諸表を作成するという目的に照らし,妥当かつ合理的な基準であることは明らかである。 (3) 資産査定通達及び4号実務指針は,いずれも「早期是正措置に関する検討会」から公表された「中 務諸表を作成するという目的に照らし,妥当かつ合理的な基準であることは明らかである。 (3) 資産査定通達及び4号実務指針は,いずれも「早期是正措置に関する検討会」から公表された「中間とりまとめ」を基に策定されたもので,金融機関にとって,決して唐突に発出されたものではなかった。また,資産査定通達は,それ自体が金融業界に公開されていただけでなく,全国銀行協会連合会が,その解釈に関し,金融検査部と相談の上で作成した「『資産査定について』に関するQ&A」を全国の金融機関に送付するなどして,周知徹底が図られている。さらに,4号実務指針についても,日本公認会計士協会から公表され,D銀行を含む金融機関において,その内容を把握していた。 (4) 金融監督庁及び日銀は,平成10年7月から,D銀行を含む主要19行について同年3月31日を基準日とする集中検査を実施したが,その結果は,D銀行及びI銀行を除く主要17行について,自己査定基準及び償却・引当基準の点ではその内容の一部に問題が認められたものの,総体としてはそれぞれ資産査定通達及び4号実務指針に整合しており,概ね妥当であったとされたこと,換言すれば,金融機関には,平成10年3月期決算において,資産査定通達及び4号実務指針に整合した自己査定基準及び償却・引当基準を策定し,これに基づいて貸出金の償却・引当を行うことについて,必要な準備期間が与えられていたということができる。 (5) 銀行を始めとする金融機関は,国の経済や金融政策と極めて密接な関連を有し,その健全かつ適正な運営や円滑な金融等が,国民経済の健全な発展と深く結び付いてその基盤となっており,その役割を十全に果たすためには,金融システム全体の安定性や信頼性の確保が重要かつ不可欠であるという点などにおいて 正な運営や円滑な金融等が,国民経済の健全な発展と深く結び付いてその基盤となっており,その役割を十全に果たすためには,金融システム全体の安定性や信頼性の確保が重要かつ不可欠であるという点などにおいて,その業務に高度の公共性や特殊性が存在するということができる。その点は,金融制度調査会答申「金融システム安定化のための諸施策」において,「金融機関の不良債権は,ひとたびその処理を誤れば経済全体を不安定化させかねないという意味で,我が国経済の先行きに不透明感をもたらしている。また,金融機関が経済社会のリスクを消化し,融資機能を適切に果たしていくことは,我が国経済の持続的な発展のため,不可欠の前提である」とされていることや,改正後の決算経理基準を定めた基本事項通達において,「銀行経営に当たっては,各種諸法令を遵守しつつ,自己責任原則の下で,業務内容の変化や実態に応じ,経営姿勢や経営管理について,適時・適切な見直しを行い,業務の健全かつ適切な運営の励行等により,金融システムの安定性,信頼性の確保に努める必要がある」とされていることからも明らかである。 (二) このように,資産査定通達及び4号実務指針は,いずれも早期是正措置制度を有効に機能させることを目的として,金融機関の代表者等を始め,金融機関の会計処理に関わる多数の者の意見や検討結果を踏まえて策定されたものであり,会計処理の基準として内容的な妥当性や合理性を有している上,その周知も十分に図られ,実施に必要な準備期間も確保されていたのである。これらの事情に加え,早期是正措置制度の導入が必要かつ不可欠な喫緊の重要施策であることや,金融機関の業務の公共性及び特殊性等をも合わせ考えると,平成10年3月期においては,資産査定通達及び4号実務指針に整合した自己査定基準及び償却・引当基準を設けて 不可欠な喫緊の重要施策であることや,金融機関の業務の公共性及び特殊性等をも合わせ考えると,平成10年3月期においては,資産査定通達及び4号実務指針に整合した自己査定基準及び償却・引当基準を設けて,貸出金の償却・引当を行うことは,商法32条2項の定める「公正なる会計慣行」になっており,しかも,それが唯一のものであったことが認められるのである。 2 各弁護人の主張に対する判断これに対し,各弁護人は,前記二の3掲記のとおり,資産査定通達及び4号実務指針が,平成10年3月期決算における会計処理の基準ではないので,これに違反する会計処理が,証券取引法に定める「虚偽」に当たるということはできないなどと種々の主張をしているので,その主要な主張について検討を加え,その当否を判断することにする。 (一) まず,前記二の3の(一)掲記の資産査定通達等には法規範性が存在しない旨の各弁護人の主張について検討する。 確かに,資産査定通達は行政組織内部における通達に過ぎず,また,4号実務指針は日本公認会計士協会内部における監査上の指針であって,いずれもそれ自体で金融機関に対する法的拘束力を有するものでないことは,各弁護人の主張のとおりである。 しかしながら,資産査定通達及び4号実務指針は,それらが商法32条2項に定める「公正なる会計慣行」に該当する場合には,同条項を介して,金融機関に対し,それらに従った会計処理をすることが義務付けられることになるのである。そして,前記1の(二)認定のように,平成10年3月期においては,資産査定通達及び4号実務指針に整合した基準を設けて会計処理を行うことが,「公正なる会計慣行」となっていたことは明らかであるから,各弁護人の上記主張は,理由がない。 ( 月期においては,資産査定通達及び4号実務指針に整合した基準を設けて会計処理を行うことが,「公正なる会計慣行」となっていたことは明らかであるから,各弁護人の上記主張は,理由がない。 (二) 次に,前記二の3の(二)掲記の資産査定通達等が唯一の「公正なる会計慣行」ではなかった旨の各弁護人の主張について検討する。 確かに,一般論としては,「公正なる会計慣行」は必ずしも1つに限られず,2つ以上の会計処理の基準が認められることがあることは,各弁護人の主張するとおりであり,また,税法基準による会計処理が,本件以前の不良債権償却証明制度の下においては,それなりに合理性を有する慣行として確立していたことも事実と認められる。 しかしながら,不良債権償却証明制度は,平成9年7月に廃止されており,また,同月に改正された決算経理基準も,それまでの税法基準を前提とした償却・引当処理の方法を削除し,無税償却・引当の要件を満たすか否かを問わず,個々の貸出金ごとに回収可能性を判断した上で,必要額を償却・引当すべきものとしているのである。そして,早期是正措置制度の喫緊性や金融機関の業務の公共性及び特殊性等に鑑みると,同制度の適用を受ける平成10年3月期決算においては,金融機関は,同制度を有効に機能させるために策定された資産査定通達及び4号実務指針に従った会計処理を行うべきであって,これと異なる会計処理を行うことは会計慣行として認められておらず,その意味において,税法基準に基づく会計処理は,当時,もはや「公正なる会計慣行」には該当しなかったといわなければならない。したがって,各弁護人の上記主張は,採用することができない。 (三) さらに,前記二の3の(三)掲記の資産査定通達等が刑罰の根拠になるのは罪刑法定主義に しなかったといわなければならない。したがって,各弁護人の上記主張は,採用することができない。 (三) さらに,前記二の3の(三)掲記の資産査定通達等が刑罰の根拠になるのは罪刑法定主義に違反する旨の各弁護人の主張について検討する。 そもそも,本件で問題となる虚偽記載有価証券報告書提出罪の構成要件及び刑罰を定めているのは,飽くまでも証券取引法であり,また,同罪の成否は,D銀行の貸出金に関する会計処理が商法285条の4第2項に違反するかどうかに係っているのであるから,本件において,資産査定通達及び4号実務指針が直接刑罰の根拠となっているわけではない。そして,資産査定通達及び4号実務指針は,本件当時,貸出金の償却・引当に係る会計処理についての唯一の合理的な基準であり,D銀行を含む金融機関に周知徹底も図られていて,平成10年3月期決算における貸出金の償却・引当をこの基準に従って行わなければならないことが,金融機関の共通の認識になっていたということができる。そのことは,前記1の(一)の(4)認定のように,金融監督庁及び日銀が同月31日を基準日とする集中検査を実施したところ,D銀行及びIを除く主要17行が,いずれも資産査定通達及び4号実務指針に依拠した会計処理を行っていたことからも明らかである。このように,貸出金の償却・引当に関し,商法285条の4第2項の解釈の指針となる同法32条2項の「公正なる会計慣行」の内容として,資産査定通達及び4号実務指針によることが一義的に明確になっているのであるから,証券取引法の虚偽記載有価証券報告書提出罪の構成要件やその解釈に不明確なところはないというべきである。そして,「公正なる会計慣行」に該当する資産査定通達及び4号実務指針に依拠することが,何ら罪刑法定主義に違反するものでないことは 書提出罪の構成要件やその解釈に不明確なところはないというべきである。そして,「公正なる会計慣行」に該当する資産査定通達及び4号実務指針に依拠することが,何ら罪刑法定主義に違反するものでないことは明らかであるから,各弁護人の上記主張は,失当であるというほかない。 (四) その他,各弁護人は,資産査定通達及び4号実務指針が平成10年3月期における会計処理の基準ではなく,これに反する会計処理が「虚偽」に当たらない理由を縷々主張するが,各弁護人の主張は,いずれも前記1の(二)の認定に合理的な疑いを抱かせるものではない。 3 結論以上のとおり,平成10年3月期においては,資産査定通達及び4号実務指針に整合した自己査定基準及び償却・引当基準を策定した上,貸出金の償却・引当を行うことが,すべての金融機関が従うべき唯一の「公正なる会計慣行」であったと認められ,特定の金融機関がこれと異なる会計処理を行うことは,商法32条2項及び285条の4第2項に違反し,許されないというべきである。したがって,上記のような自己査定基準及び償却・引当基準によって算出される取立不能見込みの貸出金額よりも過少な当期未処理損失額を記載した有価証券報告書は,証券取引法197条1号に定める「重要な事項につき虚偽の記載をした」有価証券報告書に該当するものと認められる。 第四平成10年3月期決算に基づく有価証券報告書の虚偽記載の有無一各弁護人の主張各弁護人は,D銀行は,平成10年3月期決算において,資産査定通達及び4号実務指針に照らして妥当な自己査定基準及び償却・引当基準を策定し,これに準拠して正確に貸出金の償却・引当をしていたのであるから,D銀行の上記決算を記載した本件有価証券報告書に虚偽の記載はない旨主張する。 二 D銀行 当な自己査定基準及び償却・引当基準を策定し,これに準拠して正確に貸出金の償却・引当をしていたのであるから,D銀行の上記決算を記載した本件有価証券報告書に虚偽の記載はない旨主張する。 二 D銀行の平成9年4月の金融検査までの財務状態そこで,検討すると,まず,関係各証拠によれば,D銀行の平成9年4月の金融検査までの財務状態等について,次のような事実が認められる。すなわち, 1 不良債権の増大とその背景(一) バブル経済期における貸出D銀行は,G銀行及びI銀行に次いで昭和32年に設立された長期信用銀行であり,主として,利付き金融債(いわゆる利金債)を発行し,これを地方銀行や第2地方銀行,農林系統金融機関等の中小金融機関に引き受けてもらうことによって長期の運用資金を調達し,中小・中堅企業を中心に設備資金等の長期資金を供給していた。D銀行を含む我が国の金融機関は,昭和30年代から昭和40年代にかけては,高度成長経済の下,企業の資金需要が旺盛で貸手市場であったことから,金利を高率に設定し,担保徴求の有無等の貸出条件についても厳格な審査を行った上で,融資の実行をするのが一般的であった。 しかし,昭和50年代半ばころから,企業が株式や社債の発行による資金調達に転換し始め,企業の銀行離れの傾向が進行し,金融機関に対する資金需要が減少したため,金融機関は,貸出量の拡大により収益を上げようとして規模の拡大競争に乗り出した。折しも,我が国は,昭和60年9月のプラザ合意(ドル高修正のために為替市場への協調介入を強化する旨のG5各国の合意)後の金融の大幅緩和を背景に,株式や土地等の資産価格が急激かつ大幅に上昇し続けるバブル経済に突入していたことから,金融機関は,潤沢な資金を不動産関連事業に直接大 協調介入を強化する旨のG5各国の合意)後の金融の大幅緩和を背景に,株式や土地等の資産価格が急激かつ大幅に上昇し続けるバブル経済に突入していたことから,金融機関は,潤沢な資金を不動産関連事業に直接大量に融資するほか,住宅金融専門会社(以下「住専」という。)やノンバンクを通じて,不動産業種への融資を増大させていった。 D銀行は,F銀行として発足し,不動産金融を業務の重要な柱としてきたという歴史的沿革に加え,歴史的役割を終えたとも言われる長期信用銀行の中で最後に設立された銀行であったこともあり,不動産関連事業向け貸出しに傾注して融資の拡大に走るとともに,関連ノンバンク3社を経由しての不動産関連事業への貸出しも増大させていった。D銀行の関連ノンバンクは,当初,小口資金の融資業務等を行うにとどまっていたが,バブル経済の下で,当時のD銀行の経営陣の意向を背景に,業績拡大を図るため,不動産関連融資を自ら積極的に展開した。 しかし,当時のD銀行や関連ノンバンクの融資の多くは,業績拡大を焦る余り,十分な与信審査を行わずに実行したものであり,とりわけ,不動産関連業者に対する融資案件については,ゴルフ場開発や宅地建物分譲等のプロジェクトファイナンスの名の下に採算性を過大評価し,ノンバンクに対する貸出金については,譲渡担保として徴求した第三債務者に対する貸付金(以下「営業貸付金」という。)の価値を過大に見積もるなど,その与信審査の多くは極めて杜撰なものであった。 (二) バブル経済の崩壊による不良債権の発生平成元年以降,大蔵省及び日銀は,不動産融資の総量規制や数度にわたる公定歩合の引上げ等の引締め策を講じ,その影響もあって,平成2年4月2日には日経平均株価が史上2番目の下げ幅を記録し,その後も地 平成元年以降,大蔵省及び日銀は,不動産融資の総量規制や数度にわたる公定歩合の引上げ等の引締め策を講じ,その影響もあって,平成2年4月2日には日経平均株価が史上2番目の下げ幅を記録し,その後も地価及び株価が下落を続けるなど,バブル経済は崩壊した。これに伴う資金需要の減少,貸付先の業況悪化,地価及び株価の下落,市況の長期低迷等により,多くの不動産開発業者が不動産開発事業等のプロジェクトを中断したまま経営破綻に陥り,また,地価の下落のため,開発用に取得した不動産の換価価格も低迷し,ノンバンクの貸付先である不動産開発業者の業況悪化によりノンバンクの財務状況が悪化するとともに,D銀行がノンバンクから譲渡担保として徴求していた営業貸付金の債権価値も下落し,その結果,D銀行及び関連ノンバンクがバブル経済期に実行した融資の多くが,回収不能又は回収に懸念のある不良債権となった。 2 D銀行における不良債権処理の先送り方針の決定及び実行(一) 問題債権対応部署の設置D銀行は,平成3年5月,急増し始めた問題債権に対応するため,審査部内に特別チームを設置したり,業務企画部を増員したりする一方,問題債権の担保物件の処分の推進を図るため,同年11月に事業企画室を設置した。そして,平成4年4月から,問題債権を統一的に管理する組織として業務推進部が新設され,事業企画室をその部内室として統合した。なお,問題債権の担当部署は,平成5年7月以降は営業企画第二部に,平成7年6月以降は事業推進部にそれぞれ移管された。 (二) 不良債権の実態把握Z(昭和62年12月に代表取締役頭取に,平成5年6月に代表取締役会長に,平成8年6月に相談役にそれぞれ就任し,平成9年3月に退社した者)は,平成3年に入り,D銀 良債権の実態把握Z(昭和62年12月に代表取締役頭取に,平成5年6月に代表取締役会長に,平成8年6月に相談役にそれぞれ就任し,平成9年3月に退社した者)は,平成3年に入り,D銀行の関連会社の資産内容が著しく悪化している旨の報告を受けたことから,業務企画部にD銀行本体の貸付金の痛み具合を調査させた。上記調査結果は,平成4年3月に開催された常務会に報告されたが,その内容は,現在の問題債権残高は1兆6920億円で,そのうち,ノンバンク向けが1兆767億円で,担保不足が2779億円あるというものであった。 その後,業務推進部は,同年12月,D銀行の資産状態について調査し,その結果を「問題債権の現状について」と題する書面にまとめた。これによれば,譲渡担保債権を額面の80パーセントで評価するなどの「厳密基準」によって担保を評価した場合,D銀行の関連ノンバンク3社を含めた担保不足額は,9069億円(一般先5908億円,関連会社7社2688億円,受皿会社各社473億円。なお,受皿会社の意味については,後記3参照)とされていた。 さらに,業務推進部は,平成5年5月にも,D銀行の資産状態を調査し,その結果を「当行体力と問題債権処理について〈実質ベース〉」と題する書面により報告した。上記書面には,「直貸の痛みと有証含み益」として,「先残」が合計2兆7000億円(うち関連が4000億円),「内未処理の担保不足額」が7400億円,「現在確定できる要損失処理額」が3400億円とする一方で,「実質ベース要損失処理額」は,合計7400億円(非支援先3000億円,受皿1400億円,支援先約2000億円,不健全利益の償却1000億円)であるとし,「現状株価では直貸分もフルカバーできず」「MOF(モフ。大蔵省のこと)に 合計7400億円(非支援先3000億円,受皿1400億円,支援先約2000億円,不健全利益の償却1000億円)であるとし,「現状株価では直貸分もフルカバーできず」「MOF(モフ。大蔵省のこと)には要損失処理額直貸2000億円,関連3500億円で報告済」「ここでは関連含み損を検討対象外とするが,実際には3社総額で,1兆円を超える」などとしていた。また,上記書面には,「現在は債権譲渡担保を額面評価しているほか,ゴルフ場等も完成見込価格を採用しており,第三債務者の状況調査の進捗,プロジェクトの成算性の見極め等に伴い,実質担保不足が相当に拡大することが見込まれる」と記載されていたほか,配当を維持するのに必要な税引き前利益が業務純益の大半を占め,「フローベースでは償却財源は全くない」こと,日経平均株価が2万6000円である場合には,有価証券の含み益が1兆400億円となるが,BIS自己資本比率の8.5パーセントを維持するために必要な額を控除すると,使用可能額は6600億円にとどまること,日経平均株価が1万8000円である場合には,上記使用可能額は僅か600億円であることなどが記載されていた。 上記各調査結果は,その都度,業務推進部の担当役員であるA1(平成2年に常務取締役に,平成6年6月に専務取締役に,平成7年6月に専務取締役大阪支店長に,平成8年6月に代表取締役副頭取にそれぞれ就任し,平成9年6月に退社した者)らから,Z頭取を始めとする経営陣に報告されており,経営陣においては,上記のようなD銀行の資産の実態を把握していた。 (三) 問題債権対策会議の設置及び協議内容Z頭取は,上記各調査結果を受けて,問題債権の状況と対応方針を協議するために,副頭取を座長とする問題債権対策会議を設置した。第1回目 (三) 問題債権対策会議の設置及び協議内容Z頭取は,上記各調査結果を受けて,問題債権の状況と対応方針を協議するために,副頭取を座長とする問題債権対策会議を設置した。第1回目の会議は,平成4年4月23日に開催され,問題債権の対応策として,優良先の債権流動化推進,抵当証券化推進,ノンバンク向け貸出しの徹底圧縮等が決定された。また,上記会議で報告された「担保不動産の処理について」と題する書面には,「償却対象会社」として,「当行の償却負担の短年度集中をさける為,倒産が予想される取引先の物件を購入する」「購入は時価ベースを原則とするが,事情により債権額での引き取りも検討する」などと記載されていた。 その後,平成5年3月17日に開催された問題債権対策会議においては,今後の償却方針として,同月末現在の要償却額は,合計5500億円(当行直貸分が2000億円,関連会社営業貸付金担保不足が3500億円)であるが,「直貸分,関連会社分を含めて,早期償却を基本方針とするが,現時点では財源不足であり,当面10年程度の中長期計画の下に,年間550億円程度の段階的償却を実施していく」ことが決定された。また,同会議で報告された「物件処理の流れ」と題する書面には,「不動産担保付問題債権の物件処理」として,「(1)問題債権を物件化することにより,正常資産へリサイクルする」「(2)リサイクルのポイントは簿価落としによる利回りの正常化,①時価で物件化するリサイクルが最も容易(償却時期のコントロール①),②含み損を内包する価格でのリサイクルは二次処理が必要(償却時期のコントロール②),③全銀協買取会社は適宜償却機能として活用(償却時期のコントロール③)」などと記載されていた。 Z頭取は,同会議の出席役員から上記検討内 二次処理が必要(償却時期のコントロール②),③全銀協買取会社は適宜償却機能として活用(償却時期のコントロール③)」などと記載されていた。 Z頭取は,同会議の出席役員から上記検討内容の報告を受け,問題債権については,即時に償却・引当処理を行わず,段階的償却を実施していくという上記処理方針を了承した。 (四) 平成5年中期経営計画の策定D銀行では,平成4年12月から,総合企画部を中心に平成5年から平成8年までの経営計画の策定を進めた。平成5年3月には,顧問となっていた被告人Aも,頭取室ミーティングにおける議論に参加し,「不良債権の償却についても,『大幅に』とか『早く』とか,外に行って言えるようなものが必要」などと発言した。他方,同ミーティングにおいて配布された「中長期経営計画(骨子案)」と題する書面には,「当行の抱える問題点と解決の方向」として,「不良債権の発生→計画的な償却」などと記載されていた。 その後,総合企画部は,上記骨子案を踏まえて中期経営計画を策定し,同計画は,常務会及び取締役会において決定され,同年8月に,「中期経営計画(~1996.3)」として,各支店等に説明された。同計画は,当面の課題の1つに問題債権を挙げ,「計画的処理により3年間で目途」をつけるものとしており,同計画の説明要領には,「問題債権の処理」として,「ディスクロージャー・ベースの延滞・経営破綻→3年で処理」「ディスクロ回収懸念7400×1/3=2500(688は債特繰入済)」「株2万円→97/3まで8.5%達成して3300億円の余力」などと記載されていた。 (五) 貸出金処理中期計画の策定問題債権処理を所管していた営業企画第二部は,平成6年8月に,「貸出金処理中期計 %達成して3300億円の余力」などと記載されていた。 (五) 貸出金処理中期計画の策定問題債権処理を所管していた営業企画第二部は,平成6年8月に,「貸出金処理中期計画(案)について(62期~65期)」と題する書面を作成した。 上記書面には,計画策定の前提条件として,「『2年で目処をたてる』→63期末(平成8年3月末)迄に『形』をつける」,数値目標として,「①63期末(平成8年3月末)現在ディスクロ債特引当割合を50%とする(3000億円),②ディスクロ残高は,計画期間中,6000億円水準で横這いとする,③予算は経理部前提データを使用する」,そのための「具体的施策」として,「9-6-4残余資産基準の活用により,実質一部損失繰延をはかる」などと記載されていた。また,上記書面には,「62期~65期諸数値推移」として,平成6年3月末の「要償却残額」が,直貸分5000億円,関連分3500億円の合計8500億円と記載され,62期から65期までの各期における「償却予算」及び「要償却残額」が記載されていた。 (六) 平成8年中期経営計画の策定その後,総合企画部は,被告人Aの指示を受けて,平成7年3月に,平成8年から平成10年までを期間とする中期経営計画の策定作業を開始し,同計画は,平成8年3月に常務会で,同年4月に取締役会でそれぞれ承認された。同計画は,不良債権処理について,「本計画期間中に破綻先債権,延滞債権及び金利減免債権の処理を概ね完結」するものとし,現時点で「概ね完結」とは,「間接償却に換算して破綻先債権,延滞債権及び金利減免債権の合計額に対して50%以上の引当を行うことを考えているが,具体的ターゲットの設定については今後の外部環境次第で再検討の必要もあろう」としていた。また,同計画 して破綻先債権,延滞債権及び金利減免債権の合計額に対して50%以上の引当を行うことを考えているが,具体的ターゲットの設定については今後の外部環境次第で再検討の必要もあろう」としていた。また,同計画の説明要領には,環境認識として,「住専処理は前期決算で目処をつけたものの処理を要する不良債権は未だ相当残っている」「株式を中心とした含み益は小さくなってきており,他行との体力格差も顕在化」,経営目標として,不良債権処理は,「金利減免債権を含め公表不良債権の処理を前倒しに実施し,計画期間内で最低50%の引当を行い,外に向かって処理を完結したことを示したい」などと記載されていた。 上記計画が付議された上記常務会の議事録には,頭取である被告人Aの発言として,「(不良債権処理は)1年で終わるものではない。計画期間中に不良債権処理を概ね完結とあり,書き過ぎという気もするが,目標なのでこれ位の意気込みでもいいと思う」「かたや業純1000億円以上が実現できないと処理できないし,含み益にもそう期待できない。そうするとディスクローズしている不良債権1兆3000億円の半分近くの5000~6000億円を占める関連ノンバンクをどうするかがこの問題のハードーコアである」などと記載されている。また,上記議事録には,被告人Aが,第63期(平成8年)通期第二次損益予想について,「G銀行が△1300億円,I銀行が△950億円なのでなんとか3桁にしたいと思ったが,不良債権処理は,住専,関西系等さし迫ったものばかりで先送りは不健全なので,仕方がない」などと発言した旨が記載されている。 3 受皿会社群の形成ところで,D銀行は,平成3年ころから,関連ノンバンクの財務内容を表面上改善するために,関連ノンバンクが保有する不良資産(時価が簿価を大幅 記載されている。 3 受皿会社群の形成ところで,D銀行は,平成3年ころから,関連ノンバンクの財務内容を表面上改善するために,関連ノンバンクが保有する不良資産(時価が簿価を大幅に下回る資産)の受皿となる会社(以下「受皿会社」という。)を新たに設立したり,既存の休眠会社を買収して受皿会社にしたりした上,受皿会社にD銀行から資金を融資し(バックファイナンス),受皿会社をして,上記融資金によって関連ノンバンクの保有する不良資産を簿価又は時価を上回る価格で買い取らせ,その買取代金をD銀行の関連ノンバンクに対する貸出金の返済に充当させることにより,延滞に係る同貸出金を減少させ,D銀行及び関連ノンバンクの財務状態が改善された外観を作ること(以下「不良資産の移管スキーム」という。)を行うようになった。そして,不良資産の移管スキームは,より具体的には,概ね次の3種類に分類できた。すなわち,①債権受皿会社のスキームは,D銀行から受皿会社に対し,関連ノンバンクの保有する不良債権の簿価相当額の融資を行い,関連ノンバンクは,受皿会社から不良債権の売買代金として上記融資金の支払を受け,それを取引金融機関への支払に充てるというもの,②不動産受皿会社のスキームは,関連ノンバンクが保有する不良債権の担保不動産を時価より相当高い価格で購入するために,D銀行が受皿会社にその価格相当額の融資をし,第三債務者から上記担保不動産を買い取らせた上,関連ノンバンクは,第三債務者から上記売買代金の支払を受け,それを取引金融機関への支払に充てるというもの,③有価証券受皿会社のスキームは,関連ノンバンクが保有する大幅に原価割れしている有価証券を簿価で移管するために,関連ノンバンクが受皿会社に融資して上記有価証券を買い取らせ,それによって,関連ノンバンクの不良資産 会社のスキームは,関連ノンバンクが保有する大幅に原価割れしている有価証券を簿価で移管するために,関連ノンバンクが受皿会社に融資して上記有価証券を買い取らせ,それによって,関連ノンバンクの不良資産を受皿会社に対する債権に変えるというものであった。その後,これらのスキームは,関連ノンバンクのみならず,D銀行本体の不良資産の移管にも用いられるようになった。 不良資産の移管スキームのうち,不動産受皿会社のスキームについては,担保不動産を第三債務者から切り離すことで,同不動産に関する権利関係の錯綜を防止して担保を保全し,比較的質の良い不動産については,これを利用した事業化を実施して,その収益や不動産の売却益から債権の極大回収を図るという目的から検討されたものもあったが,バブル経済崩壊後の不動産市況が極めて悪い時代においては,そのような事業化を行うことはできないのが実情であった。そして,不良資産の移管スキームは,その実施により延滞債権が一時正常化される上,受皿会社については,一般先と異なり,D銀行の支配下にあり,突然に法的破綻に移行することもないことから,いわゆる不良資産の飛ばしを行って,順次,償却余力に合わせて段階的に償却を実施するという不良債権の償却・引当の先送りの手段としても利用されていた。 D銀行は,前記2の(三)認定のように,平成5年3月開催の問題債権対策会議において不良債権の段階的償却の方針を決定し,その後も引き続き不良資産の移管スキームを実施して,多数の受皿会社群を設立した。D銀行が,多数の受皿会社群を設立したのは,株式会社の監査等に関する商法の特例に関する法律により,負債総額が200億円以上の会社については,大会社(当時の同法2条2号)として,会計監査人による監査に服したり,経営内容を詳細に開示したりし は,株式会社の監査等に関する商法の特例に関する法律により,負債総額が200億円以上の会社については,大会社(当時の同法2条2号)として,会計監査人による監査に服したり,経営内容を詳細に開示したりしなければならないことから,多数の会社に不良資産を分散することにより,これを避けるためであった。 4 不良債権処理に関する行政の方針(一) 「金融行政の当面の運営方針」の発表大蔵省は,バブル経済崩壊後の金融機関の不良債権の増大を受け,平成4年8月18日,「金融行政の当面の運営方針-金融システムの安定性確保と効率化の推進-」を発表した(以下「当面の運営方針」という。)。当面の運営方針は,「いわゆるバブル経済の崩壊が金融機関に与えた影響は極めて大きく,その克服には厳しく真剣な取組み努力が必要であり,かつ,相当の調整期間を要することは事実である」「不良資産処理方針の早期確定とその計画的・段階的処理が急務であり,これにより国民の金融システムへの不安感を払拭するとともに,その安定性の確保に努めることが極めて重要である」「住宅金融専門会社,ノンバンク等の個別問題は,極めて多数の金融機関が関与し,利害関係が従来になく錯綜しているため,その解決には,大変な困難を伴うとともに長期間を要するものとなっている。関係者には,金融システムの安定性確保の重要性を認識した上での更なる努力を促し,処理方針の早期確定と計画的・段階的処理に向けての一層の努力を要請する」としていた。他方で,大蔵省は,当面の運営方針において,株式市場への悪影響と体力の消耗とを回避すべく,金融機関による決算対策のための安易な益出しを極力抑制するように求めるとの方針を示していた。 (二) 「金融機関の不良資産問題についての行政上の指針」の発表 消耗とを回避すべく,金融機関による決算対策のための安易な益出しを極力抑制するように求めるとの方針を示していた。 (二) 「金融機関の不良資産問題についての行政上の指針」の発表経済対策閣僚会議は,平成6年2月8日,「総合経済対策」を発表し,その中で,金融・証券市場に関する施策の1つとして不良資産の処理促進を掲げ,これを受けて,大蔵省は,同日付けで「金融機関の不良資産問題についての行政上の指針」を発表した(以下「行政上の指針」という。)。行政上の指針は,これまで当面の運営方針に盛り込まれた各種の施策を逐次具体化し,実行に移してきたとした上,貸付債権のうち,「融資先が破綻しているか,又は延滞している債権は,その一部につき回収不能が見込まれ,今後時間をかけて償却等により処理していく必要があるが,その額はなお減少する段階に到っていない」「金融機関においては,かつてなく厳しい経営環境の下で,資産内容の実態に即した適切な対応を行っていく必要があり,償却等による処理が必要となるものについては,早期に処理方針を確定させ,計画的,段階的に処理を進めていくことが重要な課題となっている。この課題は,金融機関が,徹底した経営努力を前提に,毎期の業務純益を主たる財源として,実質的な引当金である含み益などの内部蓄積も長い目で考慮しながら,所要の償却等を積極的に進めていくことにより,解決できるものである」との現状認識を示していた。そして,行政上の指針は,不良資産の処理促進のための方針として,不良債権についての償却・引当制度の活用を挙げ,「金融機関が不良債権の実態に即した必要な償却を行うとの趣旨を徹底し,償却の一層の促進を図るとともに,そのための当局の体制についても引き続き充実強化に努める」「従来,金融機関は,貸倒れ又はこれに準ずる状 機関が不良債権の実態に即した必要な償却を行うとの趣旨を徹底し,償却の一層の促進を図るとともに,そのための当局の体制についても引き続き充実強化に努める」「従来,金融機関は,貸倒れ又はこれに準ずる状況にある債権について償却・引当を行ってきたが,最近における不良債権の実態に鑑み,引当制度の運用を改善し,貸倒れには至っていないものの回収に危険のある債権についても,金融機関自らの判断によりリスクに応じた必要な引当が行われるようにする」とした。 行政上の指針で盛り込まれた措置は,金融機関が,従来から決算経理基準等に基づいて,貸倒れ等の状況にある債権について,税法基準(無税)によるほか,有税により債権償却特別勘定への繰入れ(有税引当)を行っていたのに加え,金融機関経営の健全性を確保する観点から,当時の不良債権の実態に鑑み,貸倒れ等には至っていないものの,回収に危険のある債権についても,リスクに応じた引当(債権償却特別勘定への繰入れ)が自主判断により円滑に行われるようにし,引当制度の活用を図ろうとするものであった。 (三) 不良債権償却証明制度の改正そして,行政上の指針を受けて,平成6年2月8日付けで,前記第3の3の1の(一)掲記の不良債権償却証明制度実施要領通達が一部改正され,最終の回収に重大な懸念があり損失の発生が見込まれる債権及び回収に危険のあると認められる債権に係る損失見込額について,有税引当の制度が設けられた。これは,それまでも決算経理基準等において,貸倒れには至らないものの回収に危険のある債権についても,自己認定により有税で引当(債権償却特別勘定への繰入れ)ができるとの規定があったが,貸倒れ等についてはその実績が少なく,一般貸倒引当金(貸金等残高の0.3パーセント)や業務純益等により十分に いても,自己認定により有税で引当(債権償却特別勘定への繰入れ)ができるとの規定があったが,貸倒れ等についてはその実績が少なく,一般貸倒引当金(貸金等残高の0.3パーセント)や業務純益等により十分に賄える状況にあって,ましてや貸倒れ等に至っていないものについては,一般貸倒引当金や業務純益等の余裕により対応できると考えられていたという事情もあり,貸倒れ等には至っていないものの回収に危険のある債権について引当を必要とする環境ではなかったが,不良債権の実態に鑑み,リスクに応じた引当を行う観点から,前記通達を改正して,その趣旨を明確にしたものであった。 (四) 「金融システムの機能回復について」の発表その後,大蔵省は,前記第三の三の2の(一)で見たように,いわゆる二信組の破綻等を受け,平成7年6月8日,「金融システムの機能回復について」と題する文書を公表した。上記文書は,「平成7年3月末における都市銀行,長期信用銀行及び信託銀行の三業態,21行に係る破綻先債権・延滞債権の合計額は,約12.5兆円となっているが,この中には債権償却特別勘定への繰入れにより既に処理された債権が同月末には6割近く含まれており,破綻先債権・延滞債権の処理については概ね目処がついたと考えられる」との認識を前提として,「残された概ね5年の間に,金利減免等を行っている債権をも含め,従来の発想にとらわれることなく金融機関の不良債権問題に解決の目処をつけることとする」「金利減免等債権を含む不良債権の処理に際し,金融機関の体力や収益環境に応じて弾力的に対応できるよう,段階的な処理方策を検討する」としていた。 5 D銀行の平成9年3月期以前における不良債権処理D銀行は,被告人Aが顧問として入行した直後の平成5年3月期においては, きるよう,段階的な処理方策を検討する」としていた。 5 D銀行の平成9年3月期以前における不良債権処理D銀行は,被告人Aが顧問として入行した直後の平成5年3月期においては,647億円の不良債権を償却・引当するにとどまっていた。しかし,被告人Aは,同年6月に頭取に就任した後,D銀行のイメージアップのためには,かねてよりD銀行の評価を下げる原因となっていたB1関係の不良債権を処理することが重要であると考え,内外の反対を押し切って,平成6年3月に,B1関連の貸出金を株式会社C1(平成5年1月に設立され,金融機関の不良債権の買取り等を行っていた機構)に売却するなどして処理した。上記処理もあって,D銀行は,平成6年3月期には,1853億円の不良債権を償却・引当し,平成7年3月期にも,1472億円の不良債権を償却・引当した。さらに,同年から平成8年にかけて,政府主導で金融機関の住専に対する不良債権処理が進められ,D銀行も,同年3月期に,大口貸出先であるD1に対する貸出金約1500億円を有税引当するなど,住専に対する不良債権を修正母体行方式(母体行が自行の融資残高全額を放棄する方式)により一括して処理した。その結果,D銀行は,同期には,合計で4213億円の不良債権処理を行い,1639億円の当期損失を計上した。 6 平成9年3月期以前の大蔵省金融検査及び日銀考査・調書(一) 平成5年の大蔵省金融検査大蔵省は,平成5年8月16日を基準としてD銀行に対する金融検査(「MOF(モフ)検」と称される。)を実施し,平成6年1月20日,D銀行に対して検査結果を示達した。上記示達は,「資産内容は,分類資産が著増し,欠損見込額も多額に上っているなど,健全性が大きく損なわれている」「償却等を要する貸出金や 実施し,平成6年1月20日,D銀行に対して検査結果を示達した。上記示達は,「資産内容は,分類資産が著増し,欠損見込額も多額に上っているなど,健全性が大きく損なわれている」「償却等を要する貸出金や不稼働の貸出金を多額に抱えていることから,今後の決算は厳しい内容となることは避けられない」などとした。また,上記示達別冊の検査報告書には,関連会社について,「系列ノンバンクを含めたD銀行グループとも言える関連会社等の裾野には,特定目的のため,53社のペーパーカンパニーが設立されている。 目的別の内訳は,第三債務者にかかる名義上の債権の肩代わりを目的としたもの25社,融対物件等の土地保有を目的としたもの15社,ノンバンク自身の含み損を抱えた有価証券の移替えを目的としたもの13社となっている。これら特定目的会社の活用の中には,ノンバンクの第三債務者の肩代わり資金の融資に当たり,既往の延滞利息相当分を上乗せして融資を実行し,結果的には不良債権の拡大となっているものがあるなど,新たなリスクや問題債権の発生につながる恐れも認められる」などと記載されている。また,同報告書付属表の特記貸出金欄は,R及びQについて,「再建にあたって過去の不良資産をペーパー会社の設立により資産の移管を行うなど,新たな不良資産の拡大が懸念されるところである」などとしていた。 (二) 平成7年2月の日銀考査日銀は,平成7年2月,D銀行を含む金融機関の資産査定(考査)を実施した。その結果は,D銀行の要注意与信額2兆7836億円のうち,査定区分S(Substandard 又は slow, 固定見込み。概ね大蔵省のⅡ分類に相当し,現在のところ最終的な回収にまず疑問はないが,与信条件や資金使途に問題があるものや,現に延滞し,又は今後延滞が見込まれるものなどその ard 又は slow, 固定見込み。概ね大蔵省のⅡ分類に相当し,現在のところ最終的な回収にまず疑問はないが,与信条件や資金使途に問題があるものや,現に延滞し,又は今後延滞が見込まれるものなどその資産価値に瑕疵を生じている与信)が2兆3166億円,査定区分D(Doubtful, 回収疑問。概ね大蔵省のⅢ分類に相当し,債務者の状況等から見て回収が疑問視され,欠損発生のおそれがあるが,現時点では欠損額を確定できない与信)が4373億円,査定区分L(Loss 又は EstimatedLoss, 回収不能見込み。概ね大蔵省のⅣ分類に相当し,債務者に返済の意思や能力等がなく,回収が不能と認められる与信)が295億円あり,要償却与信額(D/2+L)が2482億円あるというものであった。また,上記考査は,<A>実勢要償却額(実質的に回収不能と見込まれ,今後償却・引当を要する額)は7873億円であるのに対し,<B>含み益は3560億円,<C>自己資本等は5616億円であり,ネット体力(<B>+<C>-<A>で算出され,仮にこの金額を当期に直ちに全額償却するとした場合,その体力が当該金融機関にあるかを示す日銀考査局内の指標となるもので,同局では,この数字がマイナスであれば,「実質債務超過」と分類していた。)は,1303億円であるとしていた。 (三) 平成8年2月の日銀調書日銀は,平成8年2月,上記考査以降外部環境が激しく変動した1年間で,上位業態の中でも最大の問題先の1つであるD銀行の資産内容がどのように変化したかを探ることを主目的として日銀調書(考査のフォローアップとして実施される簡易な検査)を実施し,同月27日,日銀考査役E1が,被告人Aに対し,「所見」及び「D銀行調書」を手交した(以下,上記2つの書面のことも総称し 目的として日銀調書(考査のフォローアップとして実施される簡易な検査)を実施し,同月27日,日銀考査役E1が,被告人Aに対し,「所見」及び「D銀行調書」を手交した(以下,上記2つの書面のことも総称して「日銀調書」という。)。 日銀調書は,D銀行の資産内容について,上記考査以降,合計1285億円の不良資産の償却を実施したにもかかわらず,査定区分Lが3362億円,査定区分Dが7656億円,査定区分Sが1兆6855億円あり,実勢要償却額が1兆2549億円に達し,上記実勢要償却額を基に計算すると,ネット体力は約2776億円の実質債務超過に転落したものとした。日銀調書は,実勢要償却額がそのように大幅に増加した理由として,系列ノンバンクの要償却額の増加や,約50社ある系列ノンバンクの受皿子会社の資産内容の悪化,住専向けロス負担の政府案の決着等を挙げた上,受皿子会社は,バックファイナンス付きで不良債権を移管したのみの実態のないペーパーカンパニーであり,いずれ清算必至の貸付先であるが,移管債権の劣化が進んでいる上,実質的収入がないにもかかわらず,D銀行や系列ノンバンクへ利払いを行っているため赤字が累積している旨を指摘していた。また,日銀調書は,関連ノンバンクについて,「昨年第二次再建計画がスタートしたばかりであり,支援を依頼している金融機関との関係から早急な見直しは容易でないほか,住専等の待ったなしの案件があり,不良債権処理にもある程度プライオリティをつけざるを得ないという事情も理解できる。しかしながら,その将来損失についてD銀行がいわゆる『母体行責任』を引き受けることが可能なのかどうか,早急かつ抜本的な検討を行うことが是非必要であろう」としていた。 7 関連ノンバンク3社問題の検討状況(一) 関連ノンバンク る『母体行責任』を引き受けることが可能なのかどうか,早急かつ抜本的な検討を行うことが是非必要であろう」としていた。 7 関連ノンバンク3社問題の検討状況(一) 関連ノンバンク3社の多額の不良債権の発生Pは,昭和49年にD銀行やW銀行等の出資により設立された産業設備等のリース会社であったが,バブル経済期において,事業者向けの貸金業を営む子会社に対する融資を通じて,不動産業を中心とした貸付けを行い,業容を拡大していった。 Qは,同年にD銀行とF1が中心となり,自動車整備会社に対する提携ローン等を目的として設立した会社であったが,バブル経済期においては,不動産関連を中心とした事業者向け貸出しに傾注するなどして,業容を拡大していった。 Rは,昭和58年にP等の出資により設立された消費者ローン会社であったが,昭和62年ころ,D銀行等の金融機関から多額の資金を借り入れ,それを不動産関連融資や株式投資等に積極的に注ぎ込み,業容を拡大させていった。 D銀行は,前記1認定のように,バブル経済期において,関連ノンバンク3社を経由しての不動産関連事業への貸出しを増大させていったが,バブル経済の崩壊により,これらの貸出しの多くが不良債権となり,D銀行本体及び上記3社は,多額の不良債権を抱えるに至った。 なお,D銀行の主要な資金調達先である農林系統など中小金融機関の多くは,関連ノンバンク3社に貸出金を有していた。 (二) 関連ノンバンク3社に対する支援要請とその結果D銀行は,経営が悪化した関連ノンバンク3社を支援するため,前記3認定のように,受皿会社を設立して上記3社の不良資産を移管したほか,平成4年5月ころからは,上記3社の 請とその結果D銀行は,経営が悪化した関連ノンバンク3社を支援するため,前記3認定のように,受皿会社を設立して上記3社の不良資産を移管したほか,平成4年5月ころからは,上記3社の債権者である金融機関に対し,金利減免や残高維持(返済猶予)の支援を要請するとともに,D銀行自体も利息の棚上げや債権放棄等による支援を行うなどした(第一次再建計画)。しかし,バブル崩壊後の不況の長期化等のため,第一次再建計画によっても,関連ノンバンク3社の業況は好転しなかったことから,D銀行は,平成6年末ころから平成7年初めころにかけて,更に3年から5年間の残高維持及び金利減免等を内容とする第二次再建計画への応諾を取り付けて,同計画を実施に移した。D銀行自身も,関連ノンバンク3社に対し,債権放棄を行うほか,借入先金融機関への利払資金として年間約1000億円を追加融資するなどの支援を行ったものの,D銀行の支援損が拡大するばかりで,関連ノンバンク3社の業況は,一向に改善しなかった。 ところで,上記各再建計画当時は,金融界においては,いわゆる完全母体行主義(関連ノンバンクが借入先金融機関に対し返済ができない場合には,母体行が代わって返済するという慣行)が存在していたが,D銀行の上記各支援要請は,母体行責任の放棄を意味していたことから,金融界では,D銀行には関連ノンバンクを支援する体力すらないのではないかとの風説が流布されるようになった。 また,上記各支援要請は,D銀行の主要な資金調達手段である利付き金融債の重要顧客であった金融機関,とりわけ,地方銀行や農林系統金融機関の反発を招き,その結果,徐々に金融債の売行きが低下し,流通市場におけるD銀行発行の金融債と他の発券行の金融債との利回り格差が生じ,D銀行は,金融債による資金調達に困難を 地方銀行や農林系統金融機関の反発を招き,その結果,徐々に金融債の売行きが低下し,流通市場におけるD銀行発行の金融債と他の発券行の金融債との利回り格差が生じ,D銀行は,金融債による資金調達に困難を来すようになった。 さらに,D銀行の不良債権問題が大きな要因となって格付機関による格付が低下したことから,金融債のみならず,市場での資金調達にも悪影響が及んでいた。 (三) 関連事業部等による検討関連事業部は,平成8年初めころから関連ノンバンク3社問題の抜本策を検討し,同年4月ころ,関連ノンバンク3社の再建案を作成して,事業推進部に検討させた。関連事業部作成の資料によれば,関連ノンバンク3社全体の不良資産は1兆3567億円,要償却額は1兆1575億円であり,D銀行の関連ノンバンク3社への与信額は合計5386億円(本体向けが3641億円,子会社向けが1745億円)であった。 他方,事業推進部を担当していたG1(平成7年6月に取締役事業推進部長に,平成8年6月に常務取締役にそれぞれ就任し,平成10年6月に退社した者)は,関連ノンバンク3社を存続させて,これらに対する資金流出を続けていくと,不良債権が拡大してD銀行自体が立ち行かなくなることを懸念し,関連ノンバンク3社の再建計画を修正母体行方式による処理計画に変更すべきであると考え,平成8年春ころ,その旨を被告人Aに進言した。 そこで,被告人A,同C,G1常務及び関連事業部を担当していたH1(平成7年7月に常務取締役に就任し,平成9年6月に退社した者)らは,上記関連事業部の再建案を検討し,被告人Aが完全母体行主義による同案には問題があることを指摘したものの,これに代わる妙案が出なかったことから,引き続き,同部と事業推進部の間で検討を行わせ 者)らは,上記関連事業部の再建案を検討し,被告人Aが完全母体行主義による同案には問題があることを指摘したものの,これに代わる妙案が出なかったことから,引き続き,同部と事業推進部の間で検討を行わせることにした。しかし,その後の検討において,事業推進部が,同案について,D銀行の負担が大き過ぎるなどの問題点があるとして反対したため,両部の意見がまとまらなかった。 なお,事業推進部作成の平成8年4月25日付け「8・4・22関連事業部案の検証」と題する書面には,上記関連事業部の再建案に関する検証の基本的な考え方として,「大幅なニューマネーとロス追加負担により,将来の抜本的処理のための『時間稼ぎ』を『スムーズに』行う計画である」「現在の当行自己資本等の状況を考えると,ある程度の時間稼ぎは必要であると考えられる」などと記載されていた。また,事業推進部作成の同年5月14日付け「8・4・26関連事業部(その2)案の検証」と題する書面では,関連事業部の再建案(その2)の問題点として,「優良会社分を除いた当行の与信残高(8842億円)が当行の狭義の自己資本残高(4750億円)を大幅に上回り,一見して『債務超過』状況にあることが明白になる」などと指摘していた。 (四) 主要役員らによる協議の状況被告人Aは,平成8年6月に役員が大幅に交代した後,副頭取以下で,関連ノンバンク3社の問題について討議を行うように指示した。 上記討議に先立って,総合企画部及び事業推進部は,同年8月30日付けの「三社問題(その2)」と題する資料を作成した。上記資料では,D銀行の狭義の自己資本は,平成8年3月期で3424億円,平成9年3月期で4025億円とする一方,「一般先要償却額」欄において,「日銀ロス」の合計額は,平成 )」と題する資料を作成した。上記資料では,D銀行の狭義の自己資本は,平成8年3月期で3424億円,平成9年3月期で4025億円とする一方,「一般先要償却額」欄において,「日銀ロス」の合計額は,平成8年3月期で3403億円,平成9年3月期で2400億円であり,「実態ロス」の合計額は,平成8年3月期で1兆2650億円,平成9年3月期で1兆1300億円としていた。 その後,A1副頭取を議長として,被告人CやG1常務ら主要な役員は,同年9月中旬ころから,関連ノンバンク3社問題について討議を行った。上記討議で使用された事業推進部作成の討議資料では,一般先と関連先を合計した要償却額は,平成8年3月期においては,完全母体ベースで2兆6811億円,修正母体ベースで2兆113億円であり,平成9年3月期においては,完全母体ベースで2兆5458億円,修正母体ベースで1兆9945億円であると推計していた。また,上記討議資料中の「問題債権の現況(与信残高,平成8年3月末)」と題する書面には,問題債権の総合計が3兆3268億円であり,そのうち担保保全不足額は2兆4453億円で,債権償却特別勘定及び特定海外債権引当勘定に繰入れ済みの金額は合計4415億円である旨が記載されていた。また,上記討議資料は,当行不良債権処理に当たり検討すべき事項のうち,当局への対応として,日銀考査フォロー(日銀調書)については,D銀行が実質債務超過状況であること等についての対応策を求められていること,大蔵省検査については,現状では早期是正措置の発動としての「勧告」は避けられないことを挙げていた。 A1副頭取らは,数回にわたり討議を重ね,G1常務が,修正母体行方式による関連ノンバンク3社の処理を主張したが,他の役員らに受け入れられるところとはならず,結 いことを挙げていた。 A1副頭取らは,数回にわたり討議を重ね,G1常務が,修正母体行方式による関連ノンバンク3社の処理を主張したが,他の役員らに受け入れられるところとはならず,結局,大蔵省の支援を受けて関連ノンバンク問題を処理する方針を採ることになった。 (五) 大蔵省銀行局に対するⅣ分類見込額の報告大蔵省銀行局銀行課は,有名なノンバンクが破綻したり,その蓋然性が大きくなるなどした状況を踏まえ,平成8年11月6日,D銀行に対し,金融検査が行われた場合のⅣ分類の見込額を報告するように依頼した。これを受けて,D銀行では,事業推進部がⅣ分類査定の見込額の試算を行った。上記試算には,Ⅳ分類査定額を約1000億円とするもの,約2000億円とするもの及び約3000億円とするものの3種があったが,被告人Cらの相談を受けた被告人Aの判断により,約2000億円とするものを大蔵省に提出し,平成9年3月期には,そのうちの1000億円を償却・引当する旨報告することになった。 (六) 経営指導念書の報道による信用不安の発生その後,平成8年11月14日,D銀行が農林系統金融機関に対し,Pに対する経営指導を約束するという内容の念書(いわゆる裏念書)を差し入れていたとの新聞報道がなされたことを契機として,関連ノンバンク3社を抱えているD銀行の信用不安が高まり,D銀行の株価が下落するとともに,G銀行等の他の債券発行金融機関が発行する同種の利付き金融債との間で流通利回りの格差が拡大し,D銀行発行の利付き金融債の売行きが減少して,資金調達に困難が生じるようになっていった。 そのような事態を受け,大蔵省銀行局銀行課は,D銀行に対し,資金調達の状況や見込みについて報告を求めるようにな 金融債の売行きが減少して,資金調達に困難が生じるようになっていった。 そのような事態を受け,大蔵省銀行局銀行課は,D銀行に対し,資金調達の状況や見込みについて報告を求めるようになった。また,被告人Cも,同省を頻繁に訪れて,同省大臣官房審議官(銀行局担当)I1にD銀行の窮状を訴えたり,総合企画部長らが,上記事態の改善策について,同課課長や日銀信用機構局の担当者らと数回にわたって協議するなどしたものの,明確な結論を出すことはできなかった。 (七) 関係ノンバンク3社の第三次再建計画の策定他方,H1常務は,被告人Aから,関連ノンバンク3社の再建計画をまとめるように指示を受け,関連事業部内でその案を検討し,平成9年1月中旬ころ,「当行関係ノンバンク第三次(最終)計画」を完成させた。同計画は,D銀行が関連ノンバンク3社に対して多額の支援を行って再建を図るというものであったが,D銀行の資金繰りが悪化した状況においては,実現性に乏しいものであった。 8 D銀行の経営再建策の策定と関連ノンバンク3社の破綻処理(一) 経営不安説による株価急落D銀行は,前記7認定のように,関連ノンバンク3社の問題について,有効な解決策を案出することができずにいたところ,平成9年2月4日から5日にかけて,米国の大手格付会社であるJ1がD銀行の金融債の格付の引下げを検討しているとの噂や,D銀行が経営不振のために合併するとの噂が株式市場に流れ,D銀行の株価が前日比35円安の181円にまで急落したことから,A1副頭取と被告人Cが,上記経営不安説を否定するため,緊急の記者会見を開く事態となった。 (二) 関連ノンバンク3社の破産処理方針の決定被告人Aや同CらD銀行経営 ら,A1副頭取と被告人Cが,上記経営不安説を否定するため,緊急の記者会見を開く事態となった。 (二) 関連ノンバンク3社の破産処理方針の決定被告人Aや同CらD銀行経営陣は,前記株価急落等の事態を踏まえ,平成9年2月上旬,現在の危機を打開してD銀行を自主再建するためには,関連ノンバンク3社の法的整理を行うほかないと決意した。しかし,関連ノンバンク3社を一括して法的整理した場合,母体行方式によらず,プロラタ方式(貸手の負担を融資額の比例配分とする方式)によっても,D銀行の上記3社に対する債権のうち,2000億円以上の償却・引当を要することになり,同年3月期の業務純益や含み益の益出しを考慮しても,自己資本が約1000億円にまで縮小するため,D銀行程度の貸出量を有する銀行がそのような少額の資本で銀行業務を行っていくのは困難であるという問題があった。 (三) 大蔵省銀行局との協議その後,被告人Aや同Cらは,D銀行の抜本的な再建策について,大蔵省銀行局長K1,I1審議官らと協議を行った。協議の当初は,同局側からD銀行の資本増強策が示されなかったため,被告人Bが,急遽ロンドンに飛び,外国銀行の幹部にD銀行への資本参加を打診するなどしたが,はかばかしい成果は得られなかった。しかし,平成9年3月中旬に至り,同局から,「D銀行の具体的再建策」と題する計画が提案された。上記計画は,D銀行の自力改善策の案として,海外業務からの撤退(BIS自己資本比率8パーセントの放棄),関連ノンバンク3社の法的整理等を挙げるとともに,これに対する当局のサポートとして,①L1を始めとする生損保劣後ローンの資本振替,②G銀行,I銀行,M1銀行及び都市銀行の大株主による新株(普通株)の引受け,③日銀が出資している社団法 るとともに,これに対する当局のサポートとして,①L1を始めとする生損保劣後ローンの資本振替,②G銀行,I銀行,M1銀行及び都市銀行の大株主による新株(普通株)の引受け,③日銀が出資している社団法人新金融安定化基金による優先株引受けを行うものとしていた。 (四) 経営再建策の公表と関連ノンバンク3社の破綻処理D銀行は,前記計画を基に,大蔵省銀行局銀行課と協議して経営再建策を策定し,後記10の(一)認定の同課や日銀考査局によるプレヒアリングを経て,平成9年4月1日,上記経営再建策を発表した。上記経営再建策は,①不良債権損失見込額の全額処理と赤字決算の実施,②海外拠点からの撤退,③給与カットを含む抜本的リストラ,④関連ノンバンク3社への支援断念とプロラタ方式による法的な破綻処理を断行するほか,⑤社団法人新金融安定化基金に優先株800億円の引受けを依頼することを始めとして,D銀行と関係のある各方面の協力により,総額で3000億円程度の資本増強を図るというものであった。また,上記経営再建策は,同年3月期において,関連ノンバンク3社向けの貸出金2100億円を含む不良債権合計約4600億円を償却・引当するとした上,経常利益は3500億円の赤字,当期利益は2850億円の赤字とし,無配とする旨の決算予想を発表するとともに,上記処理によって,現時点において自己査定及び監査法人の事前監査により償却・引当が妥当とされた不良債権の損失処理はすべて終了したといえる状況になり,経営の健全性は著しく高まる旨宣言し,平成10年3月末時点における自己資本比率(修正国内基準)は6パーセント程度を目指したいとしていた。 大蔵大臣は,平成9年4月1日,「大蔵省としても,D銀行のこのような思い切った経営再建策が円滑に実施される 自己資本比率(修正国内基準)は6パーセント程度を目指したいとしていた。 大蔵大臣は,平成9年4月1日,「大蔵省としても,D銀行のこのような思い切った経営再建策が円滑に実施されるよう最大限の支援を行う予定である」「D銀行に再建の見込が十分にあり,また,この問題についての対応を誤れば,国内のみならず国際的にも大きな金融不安をもたらす懸念があると考え,このような措置を採ることとした」との談話を発表し,日銀総裁も,同日,我が国の金融システム全体の安定確保の観点から必要な支援を行うこととした旨の談話を発表した。 D銀行は,上記経営再建策に基づき,同日,関連ノンバンク3社に破産申立てをさせ,同月7日,上記3社に対する破産宣告がなされた。 (五) 金融機関に対する増資引受けの要請大蔵省銀行局のI1審議官と銀行課長N1は,平成9年4月1日,増資要請先の金融機関の担当役員を集め,D銀行の財務状況を説明して,増資への協力を要請した(いわゆる奉加帳増資)。その後,D銀行は,上記経営再建策で予定した増資を実現するため,増資要請先の金融機関等に対し,増資後5年間は,毎年平均603億円の業務純益と170億円の当期利益を見込んでいる旨の利益計画を示して,合計約2900億円の第三者割当増資の引受けの要請を開始した。被告人Bは,上記経営再建策発表の翌日から,関連ノンバンク3社の破綻について,上記3社に融資していた地方銀行や農林系統金融機関等をお詫びして回っていたが,同月9日以降,L1を皮切りに大手生損保会社に日参し,増資に応じてもらえるように懇願して回った。 (六) O1との業務提携被告人Aは,平成9年2,3月ころ,米国の投資銀行であるO1の役員らと交渉を重ね,前記経営再建 し,増資に応じてもらえるように懇願して回った。 (六) O1との業務提携被告人Aは,平成9年2,3月ころ,米国の投資銀行であるO1の役員らと交渉を重ね,前記経営再建策発表の10日後,同行との業務提携を発表した。 日本の大手金融機関が,有力外国銀行との間で本格的な業務提携を行うのは,D銀行が初めてであった。 9 D銀行の平成9年3月期における不良債権処理D銀行は,前記8の(四)認定のように,関連ノンバンク3社について法的な破綻処理をしたため,平成9年3月期で,一般先に対する貸出金約1200億円と関連ノンバンク3社及びその受皿会社群に対する貸出金約2600億円をそれぞれ償却・引当し,同期通期では,合計4843億円の不良債権を処理することになった。その結果,同年3月期には,約1702億円の業務純益があったにもかかわらず,自己資本額は約994億円に,BIS自己資本比率は2.99パーセントにまで減少し,当期利益も約2852億円のマイナスとなった。 10 D銀行の平成9年4月の金融検査への対応状況とその結果(一) 大蔵省銀行局及び日銀考査局によるプレヒアリングD銀行による前記経営再建策の策定と併行して,大蔵省銀行局及び日銀考査局は,平成9年3月,D銀行の同期の自己査定基準の内容及び自己査定結果について調査を行った(以下「プレヒアリング」という。)。プレヒアリングにおいては,基本的な枠組みとしてはD銀行が示したもので良いとされたものの,大蔵省側から,D銀行に対し,「実質関連会社(F3グループ,P1グループ,Lグループ)については,再建計画や将来的な処理計画がないと,第三債務者ベースでのⅢ分類及びⅣ分類額や不動産の含み損が即Ⅳ分類となる可能性が大きい。再建計画が 質関連会社(F3グループ,P1グループ,Lグループ)については,再建計画や将来的な処理計画がないと,第三債務者ベースでのⅢ分類及びⅣ分類額や不動産の含み損が即Ⅳ分類となる可能性が大きい。再建計画がそれなりにあれば,その支援損計上予定額のみをⅢ又はⅣ分類とすることで済むことになるので,是非計画を作っておくことをお勧めする」旨の助言が与えられた。 その後,D銀行は,前記経営再建策を発表したが,Q1(平成8年7月に事業推進部長に,平成10年3月に公共法人部長にそれぞれ就任し,平成11年9月に退社した者)は,平成9年4月に実施される金融検査でⅣ分類額が積み上がり,経営再建策の柱である増資計画が頓挫することを恐れて,金融検査の直前に,検査官に対する説明を担当する各営業部店に対し,「大蔵省検査に係る留意事項(その10)」と題する文書を発し,D銀行が破綻懸念先と自己査定した貸付先が実質破綻先と認定されて,担保不足がⅣ分類となることは,D銀行の現状では決してあってはならないことであるので,検査官に説明する際の十分なシナリオ作りをするように依頼した。 (二) 金融検査の開始とD銀行の当初の対応状況金融検査部は,平成9年4月16日から,D銀行に対し,同月15日を基準日とする金融検査を開始した。被告人Aや同CらD銀行経営陣は,前記経営再建策策定の過程で大蔵省銀行局の支援が得られていたことなどから,上記検査においても,Ⅲ分類及びⅣ分類の査定額が大きく積み上がることはないものと楽観的な予想をしていた。そのため,Q1事業推進部長は,上記検査の開始早々に,主任検査官に対し,「D銀行では,担保の掛け目を80パーセントで見ていますので,検査官の方でもそのように見てください」などと要望したが,主任検査官は,これを聞いて,「 部長は,上記検査の開始早々に,主任検査官に対し,「D銀行では,担保の掛け目を80パーセントで見ていますので,検査官の方でもそのように見てください」などと要望したが,主任検査官は,これを聞いて,「検査の初日に,銀行側からいろいろと要望を入れてくるとは,一体どういうつもりですか。我々検査部は,検査部の立場から従来どおりのやり方で検査を進めていきますよ」などと厳しい口調で言った。そして,実際の検査作業においては,D銀行側の上記予想に反し,Ⅲ分類及びⅣ分類の査定額が次々と積み上がっていった。 これに対し,D銀行の担当者は,あらかじめ用意した要償却・引当額を抑制するためのシナリオに従って,検査官に対し,自己査定どおりの債務者区分や資産査定を認めさせようと必死になって説得した。中でも,Q1事業推進部長は,Lグループや関連ノンバンク3社の受皿会社について,D銀行の支援先である以上,破綻することはなく,貸出金の回収に懸念はないなどと繰り返し主張したが,検査官は,「いつまでそのようなことを言っているのですか。支援すると言うだけでは,駄目なんですよ」「この先,D銀行自身がどうなるか分からないでしょう。 D銀行がこれらの企業を支援できるというのなら,なぜ関連ノンバンク3社は破産したのですか。D銀行自身が倒れるかどうかの瀬戸際じゃないですか」などと鋭く指摘した。これに対し,Q1事業推進部長は,なおもD銀行の支援先であるから回収リスクはない旨の理屈を強弁したところ,遂には,検査官から,「いい加減にしてください。はっきり言いますが,Lグループや関連会社のⅢ分類は,実態はⅣ分類なんですよ。同じ主張ばかりされても,意味がないでしょう」などと言われ,叱責された。 (三) 増資要請先との交渉状況他方,増資要請先の金融機関等 のⅢ分類は,実態はⅣ分類なんですよ。同じ主張ばかりされても,意味がないでしょう」などと言われ,叱責された。 (三) 増資要請先との交渉状況他方,増資要請先の金融機関等は,D銀行の前記増資要請に対して必ずしも好意的な反応を示さず,とりわけ,生命保険会社が保有する劣後ローンを普通株と優先株の出資に振り替える交渉は難航を極めた。そして,平成9年5月に入ったころから,日本生命等の増資要請先は,D銀行に対し,増資要請の諾否の判断資料として,上記検査結果を明らかにすることを要求するようになった。しかし,その時点では,Ⅳ分類査定額は,同年3月期決算後のD銀行の自己資本である1000億円を上回る額となっていたことから,D銀行は,増資計画の挫折を恐れ,本来,非公表である金融検査の結果を漏洩することはできないことを口実に,上記要求を拒絶していた。しかし,被告人Cは,増資計画の成功のためには,最終的には何らかの形で検査結果を伝えざるを得ないと判断し,この点について,大蔵省銀行局銀行課と協議して,同課から金融検査部に働き掛けてもらうことにし,R1(平成8年6月に経理部副部長に,平成9年6月に経理部長にそれぞれ就任し,平成10年12月に退任した者)に上記協議を担当するように命じた。 (四) 被告人Aの関係役員に対する指示と一次査定の内容被告人Aは,平成9年5月初旬以降,G1常務から,2,3日に1回くらいの割合で報告を受け,金融検査におけるⅢ分類及びⅣ分類の査定額が大きく積み上がっていることを知るとともに,「大変なんですよ。一生懸命やっていますが,検査官が,なかなか聞いてくれないんです」などという話も聞かされた。また,被告人Aは,総括主任検査官S1から,「お宅は,のんびりし過ぎている。すぐ恐れ入ってし 変なんですよ。一生懸命やっていますが,検査官が,なかなか聞いてくれないんです」などという話も聞かされた。また,被告人Aは,総括主任検査官S1から,「お宅は,のんびりし過ぎている。すぐ恐れ入ってしまって,ろくな反論をしない。我々を騙すくらいの意気込みで反論してください」などと言われた。そこで,被告人Aは,D銀行の担当者の検査に対する姿勢が甘いのではないかと考えて,危機感を抱き,被告人CやH1常務ら関係役員に対し,Ⅳ分類査定額をなくし,Ⅲ分類査定額についても,前記経営再建策で公表した自己査定の数字に近づけるように復活折衝に努めることを指示するとともに,S1総括主任検査官の上記発言を借用し,「検査官を騙すくらいの意気込みでやってほしい」旨指示した。これを受けて,H1常務は,関連事業部の部員に対し,「頭取は,何としてでもⅣ分類を減らすようにと言っております。Ⅳ分類査定回避のために頑張ってください」などと檄を飛ばした。そこで,同部部長T1が,検査官に対し,関連ノンバンク3社について,清算バランスシートの作成が可能であるにもかかわらず,清算事務が終了する3年後までは回収不能額は未確定であるので,Ⅳ分類とするのはおかしい旨主張するなどした。 しかし,検査官は,D銀行側の上記主張を聞き入れず,同年5月12日時点の一次査定において,約1448億円をⅣ分類に(うち関連ノンバンク3社の受皿子会社分は約300億円),約1兆485億円をⅢ分類に,約2兆1861億円をⅡ分類にそれぞれ査定した。 (五) 大蔵省銀行局に対する支援要請被告人A及び同Cらは,前記(四)認定の査定経過を知り,このままⅢ分類及びⅣ分類の査定額が大きくなると,その後に必要な償却・引当に対応し切れなくなったり,増資要請先に上記検査結果を理由に増 被告人A及び同Cらは,前記(四)認定の査定経過を知り,このままⅢ分類及びⅣ分類の査定額が大きくなると,その後に必要な償却・引当に対応し切れなくなったり,増資要請先に上記検査結果を理由に増資要請を拒絶され,資本増強ができなくなったりするばかりでなく,上記拒絶の事実がD銀行の更なる信用低下を招き,D銀行が資金調達に行き詰まって破綻しかねないことを危惧した。そこで,被告人Aは,自ら大蔵省のK1銀行局長に電話を掛け,上記検査が厳しいことを話して助力を求め,被告人Cも,同Aの指示を受け,I1審議官を訪れて,Ⅳ分類やⅢ分類の査定額を減額するための助力を懇願した。その結果,D銀行で,同局銀行課と協議した結果に基づき,検査官に対してD銀行としての主張をして,Ⅳ分類やⅢ分類の査定を覆すように努めるとともに,同課も,D銀行から種々の資料や理由付けの提供を受け,金融検査部に分類債権額を減額するように働き掛けることになった。 (六) 復活折衝とその結果そして,G1常務らは,Ⅳ分類やⅢ分類の査定額を減額する理由付けを検討し,関連ノンバンク3社の受皿子会社については,D銀行が買い取って支援し,事業化して回収を図る(買取スキーム)などの理屈により,上記受皿子会社に対する貸出金のⅣ分類査定の変更を求めるとの方針を決定し,被告人C及び同Aの了解を得たほか,大蔵省銀行局銀行課にもその旨を説明した。そして,事業推進部及び関連事業部は,買取スキームの具体的な内容について,債権買取子会社はファクタリング会社と位置付けること,有価証券買取子会社は保有有価証券を背景としたオフバランス取引(取引の全容が貸借対照表に表示されない取引)等を行うこと,不動産買取子会社は保有土地の事業化を図ることなどを取りまとめた「関連ノンバンクの子会社への対応 保有有価証券を背景としたオフバランス取引(取引の全容が貸借対照表に表示されない取引)等を行うこと,不動産買取子会社は保有土地の事業化を図ることなどを取りまとめた「関連ノンバンクの子会社への対応方針」と題する資料を作成し,Q1事業推進部長らが,復活折衝において,検査官に対し,上記理由付けによるⅣ分類査定額の減額を主張した。 しかし,検査官らは,Q1事業推進部長の,上記説明に対し,「まだ,そんなことを言っているんですか。この先,D銀行自身がどうなるか分からないでしょう。D銀行にそれだけの体力が残っているのかどうかが,正に問題になっているんですよ」「関連会社やLグループに対するⅢ分類は,実態はⅣ分類ですよ。いい加減に分かってください」などと言って叱責し,相手にしなかった。そして,復活折衝後の平成9年5月16日付け査定結果総括表においても,Ⅳ分類額は約922億円,Ⅲ分類額は約1兆544億円,Ⅱ分類額は約2兆3214億円とされていた。S1総括主任検査官は,被告人Cらに対し,上記総括表について,「このⅣ分類900億円という数字は,検査官としても,ぎりぎり譲歩した数字だと思ってください」などと説明した後,「後は,我々の仕事ではなく,行政サイドと経営レベルの話です」などと述べた。 (七) 大蔵省銀行局及び金融検査部との折衝状況G1常務は,平成9年5月16日,前記査定結果総括表を受領し,Lグループ等の関連会社グループについて,D銀行が支援をしていくので,回収には懸念がない旨を記載した被告人A名義の「当行関連会社に対する方針について」と題する書面を自ら作成し,被告人A及び同Cの了承を得て,金融検査部長U1に提出した。さらに,G1常務は,大蔵省銀行局銀行課から,上記関連会社グループの事業計画や再建計画を早 に対する方針について」と題する書面を自ら作成し,被告人A及び同Cの了承を得て,金融検査部長U1に提出した。さらに,G1常務は,大蔵省銀行局銀行課から,上記関連会社グループの事業計画や再建計画を早急にまとめるように指示されたことから,翌17日の土曜日,事業推進部や関連事業部の担当者を急遽招集し,「S1(総括主任検査官)やV1(金融担当主任検査官)は,幾ら説明しても考えを変えないだろう。それなら,上の方に持っていくしかない。関連会社やLグループをD銀行が全面支援することについては,CPA(監査法人のこと)も了解しているという前提で検査部長の所に持っていく」などと述べ,上記事業計画等の策定を指示した。そして,事業推進部等が上記事業計画等について大急ぎで作成した「再建計画の骨子について」と題する書面も,同日午後,現場の検査官を飛び越えて,U1金融検査部長に提出された。 上記各書面の提出を受けて,同日夜,大蔵省では,銀行局と金融検査部の間で査定結果の見直しについて協議が開始され,被告人Cらは,D銀行において,その成り行きを見守っていた。被告人Cは,大蔵省の担当者から,検査報告書に記載するⅣ分類の数字は,関連ノンバンク3社の受皿子会社に対する貸出金約338億円がⅢ分類に変更される結果,500億円程度の数字に落ち着きそうである旨を電話で伝えられ,「500億円では,D銀行が立ち行かなくなります。500億円もの数字が表に出ては,誰も増資要請を受けてくれません。どうかD銀行を助けてください。お願いします」などと懇願した。その後,R1経理部副部長と同局銀行課課長補佐W1が電話で話し合ううちに,金融検査部の査定としてはⅣ分類は585億円弱であるが,D銀行の主張である約89億円も併記するという案を検討中である旨が伝えられた。 と同局銀行課課長補佐W1が電話で話し合ううちに,金融検査部の査定としてはⅣ分類は585億円弱であるが,D銀行の主張である約89億円も併記するという案を検討中である旨が伝えられた。 (八) 増資要請先に対する説明D銀行は,前記検討結果を受け,増資要請先に対し,金融検査で直ちに引き当てることが必要とされた債権額は89億円であり,直ちに引当を要するわけではないが,将来の回収に懸念があるとされた債権額は,自己査定では5500億円であるが,上記検査では7000億円とされており,差額が1500億円程度ある旨説明した。 他方,金融検査の作業は,平成9年6月20日に終了したが,同日時点の二次査定においても,査定現場の検査官らは,D銀行側の主張を全く相手にせず,Ⅳ分類は約921億円,Ⅲ分類は約1兆352億円と査定していた。 (九) 金融検査部における再検討の状況その後,金融検査部は,大蔵省銀行局からの依頼を踏まえ,査定現場の検査官を含めて,関連ノンバンク3社の受皿子会社をⅢ分類にとどめる論拠や,LグループをⅡ分類にとどめる論拠について再検討を行った。その結果,Lグループについては,時間を掛けても全額回収が見込める状況にはなかったため,D銀行の支援を加味しても,Ⅲ分類であると査定された。しかし,上記受皿子会社については,D銀行の経営方針として,関連ノンバンク3社の破産管財人から上記受皿子会社を買い取ってD銀行の子会社とし,D銀行が支援をして事業化を図るという計画が主張されたため,直ちに全額回収不能であるというⅣ分類査定の根拠が崩れたことや,上記受皿子会社が破綻の状態に陥ったばかりであり,その事業化も緒に就いた時点であるため,事業化計画が具体性を欠いてもやむを得ないという事情 に全額回収不能であるというⅣ分類査定の根拠が崩れたことや,上記受皿子会社が破綻の状態に陥ったばかりであり,その事業化も緒に就いた時点であるため,事業化計画が具体性を欠いてもやむを得ないという事情が考慮され,Ⅲ分類へと査定変更された。 (一〇) D銀行に対する検査結果示達の状況平成9年9月11日,金融検査部長X1から,同年8月に頭取に就任していた被告人Bに対し,示達書及び検査報告書等が交付された。 上記検査報告書の付属表のうち,「4 総資産の査定結果」の「(1) 総資産の分類状況」には,D銀行の貸出金の分類状況として,Ⅱ分類査定額は,2兆1979億3300万円とされていた。しかし,Ⅲ分類査定額は,1兆689億8600万円〔6309億300万円〕と記載されており,Ⅳ分類査定額についても,583億6000万円〔88億9400万円〕と記載されていた。そして,これらの併記された括弧書きの数字については,注記において,「Ⅲ分類における〔〕書きの計数は,内数で,当行が今後とも支援を続ける方針を有しており,当行の意志に反して倒産することは無いと考えられるLグループ等当行の子会社グループにかかる4380億円を控除した金額である」「Ⅳ分類における〔 〕書きの計数は,内数で,平成9年3月期決算において監査法人による監査対象としていなかったものや監査実施後に重要な事情の変更があったものである」と説明されていた。 また,上記示達書は,前回検査以降,不動産関連融資を中心に引き続き不良資産が増大し,資産内容の悪化が一層進行しているとし,その理由は,「恒常的な利息貸増しにより結果的に損失見込額を拡大させた事例を含め,資産受皿会社を利用した事実上の損失の先送りが行われたこと,業況不振先に対する管理にお 容の悪化が一層進行しているとし,その理由は,「恒常的な利息貸増しにより結果的に損失見込額を拡大させた事例を含め,資産受皿会社を利用した事実上の損失の先送りが行われたこと,業況不振先に対する管理において事業見通しや返済能力等の実態把握が不十分であったこと等によるものと認められる」としていた。さらに,上記示達書は,資産内容については,「不動産市況の低迷が長期化したことを主因に,大口不良債権の回収が進捗しないまま含み損失が拡大する一方,新たな不良債権が続発したため,貸出金分類額,分類率は大幅に増加上昇し,一層悪化している。特に,不良債権に対する取組みにおいて,地価の上昇を期待しつつ,子会社・孫会社を受皿とした損失の先送りを続けてきた結果,不動産市況の一層の悪化により欠損見込額は大きく増加している」とし,関連会社については,「関連会社のうち83社は,当行及び関連ノンバンクの不良資産にかかる不動産,有価証券及び債権の買い取りを目的とした実体のない受皿会社で,これらのうち16社は前回検査以降に設立されている」「関連ノンバンク3社の資産買取子会社向け与信が増大しているほか,他の資産買取関係会社についても同様のスキームで損失処理を先送りしていることから,今後の損失処理のみならず,事業存続のための資金及び人的支援を要するなど,当行にとっては,引き続き多大な負担を強いられることとなっている」旨指摘していた。 以上のような事実が認められる。 三 D銀行の平成9年9月期中間決算の状況また,関係各証拠によれば,D銀行の平成9年9月期中間決算の状況等について,次のような事実が認められる。すなわち, 1 D銀行の平成9年9月期中間決算及び自己査定に関する方針D銀行においては,平成9年7月初めから,事業推進部の指示により, 等について,次のような事実が認められる。すなわち, 1 D銀行の平成9年9月期中間決算及び自己査定に関する方針D銀行においては,平成9年7月初めから,事業推進部の指示により,同年6月末を基準日とする同年9月期の自己査定作業が開始された。上記指示を記載した文書には,原則として,自己査定基準のとおり作業することとし,同基準に基づく分類結果が同年4月の金融検査の分類結果と乖離する場合は,担当業務本部部店担当と協議することとされていた。 その後,事業推進部与信管理室長Y1は,同年7月14日,R1経理部長らとともに,同年4月の金融検査に従事した金融証券検査官Z1と打合せを行い,上記検査の示達書が,前記二の10の(一〇)認定のように,貸出金につき,Ⅲ分類が1兆689億8600万円〔6309億300万円〕で,Ⅳ分類が583億6000万円〔88億9400万円〕などという内容のものになることを知った。しかし,Y1室長は,上記打合せの直後ころ,R1経理部長と話し合い,同年9月期には,償却予算の関係から示達書記載のⅣ分類の全額は償却・引当しないが,最低限括弧内の約89億円は償却することなどを取り決め,さらに,すぐに償却する約89億についてはⅣ分類とするが,それ以外の部分については,上記示達書の内容を反映させず,同年3月の自己査定結果に従って自己査定を行うこととし,いずれについてもG1常務に報告して,その了承を得た。 2 中間決算一次予想経理部は,平成9年7月下旬に,同年9月期中間決算の一次予想案の作成を行った際,D銀行が,前記経営再建策で予定した利益見込みを上回る業務純益を積み上げていた一方で,株価が低迷して株式の要償却額が増大していたことから,当初は,不良債権処理額を400億円とする予想案を作成 った際,D銀行が,前記経営再建策で予定した利益見込みを上回る業務純益を積み上げていた一方で,株価が低迷して株式の要償却額が増大していたことから,当初は,不良債権処理額を400億円とする予想案を作成し,上記不良債権処理及び株式償却の財源を確保するために,株式等の益出しにより500億円程度の益出しを予定していた。しかし,被告人Aは,R1経理部長から,上記予想案の内容とともに,株価全体が大きく上下しているので,株価の推移を見た上で益出しを行うという考え方もある旨の説明を受けたため,その考え方を採用して,200億円の益出しを見合わせ,不良債権処理額も400億円から200億円に変更することを指示した。 3 自己査定結果の取りまとめ事業推進部は,平成9年8月下旬,同年9月期の自己査定結果を「平成9年9月期自己査定結果(国内貸出・8月28日現在)」と題する書面に取りまとめたが,その際,前記1認定のように決定した方針に従い,同年4月の金融検査の検査報告書の内容を必ずしも反映させなかった。すなわち,事業推進部は,関連会社及びLグループについては,上記検査でⅢ分類と査定されていたにもかかわらず,破綻懸念先と自己査定した関連ノンバンク3社の受皿会社を除き,すべて要注意先,Ⅱ分類までに自己査定した。また,上記自己査定は,上記検査結果と比較して,分類額を合計で約6400億円も減少させており,その内訳は,Ⅲ分類を約6600億円減少(上記検査報告書の括弧内の数字と比較すると約2200億円減少)させ,Ⅳ分類を約490億円減少させ(上記検査報告書の括弧内の数字とほぼ同額にしたので,同数字と比較すると減少なし),逆に,Ⅱ分類額を約700億円増加させるというものであった。 4 監査法人との交渉状況ところが,その後,S監査法人 内の数字とほぼ同額にしたので,同数字と比較すると減少なし),逆に,Ⅱ分類額を約700億円増加させるというものであった。 4 監査法人との交渉状況ところが,その後,S監査法人は,平成9年9月に交付された同年4月の金融検査の検査報告書を閲覧し,D銀行に対し,前記自己査定結果について,上記検査でⅢ分類と査定されたもののうち,一般先については,上記検査結果を反映させて破綻懸念先に査定を変更するように指示した。そこで,D銀行は,上記指示を入れて自己査定をやり直したが,Ⅲ分類のうち,上記検査報告書の括弧書き内の部分については,同監査法人から自己査定の変更を指示されなかったため,上記検査結果を反映させないままにした。また,D銀行は,有税で債権償却特別勘定を積んでいる債務者について,これまでは実質破綻先としていたのを原則として破綻懸念先とする(その結果,実質破綻先は,無税で償却・引当を行う債務者に限定されることになる。)ように,自己査定基準を改正することを検討していたので,その改正を先取りして,関連ノンバンク3社の受皿会社について,すべて破綻懸念先に格上げする自己査定をした。 5 平成9年9月期中間決算の確定経理部は,平成9年9月下旬,S監査法人の指摘を考慮し,決算一次予想案に株式会社A2等に対する未収利息の有税償却を加え,不良債権処理損を決算一次予想より増やして約414億円とする決算二次予想案を作成し,同案は,同月28日,常務会において承認された。ところが,その後,更に株価が下降し,株式償却の額が一段と膨らみ,株式による益出しも不調となったことから,経理部は,不良債権処理損のうち,上記未収利息を削り,上記不良債権処理損を約306億円に減額し,その財源を株式償却に回した決算処理案を作成した。同案は,被告 ,株式による益出しも不調となったことから,経理部は,不良債権処理損のうち,上記未収利息を削り,上記不良債権処理損を約306億円に減額し,その財源を株式償却に回した決算処理案を作成した。同案は,被告人3名に対する説明を経て,同年10月29日,常務会及び取締役会において承認され,同年9月期中間決算が確定した。 6 大蔵省銀行局に対する自己査定結果の報告G1常務及びR1経理部長らは,平成9年12月に,大蔵省銀行局銀行課から同年9月期の自己査定結果の提出を求められたことから,対応方針について協議し,関連ノンバンク3社の受皿会社については,上記自己査定でもすべて破綻懸念先と査定していたのを,すべて要注意先に変更して同課に報告することにした。 その後,G1常務らは,上記協議結果について,被告人A及び同Bの了解を得て,同課に上記協議結果に基づいた自己査定の状況を報告した。 以上のような事実が認められる。 四 D銀行の平成10年3月期決算の状況さらに,関係各証拠によれば,D銀行の平成10年3月期決算の状況等について,次のような事実が認められる。すなわち, 1 平成10年3月期の決算方針の検討状況(一) 金融危機の発生平成9年11月に入ると,B2証券が会社更生法の適用を申請したことを契機として金融危機が発生し,同月17日には,C2銀行が自主再建を断念してD2銀行に営業譲渡し,さらに,同月24日には,E2證券が自主廃業を決定するに至った。相次ぐ大手金融機関の破綻により,市場に相互不信が広がり,金融システムに対する不安が著しく高まった。D銀行は,同月ころから資金繰りが急速に悪化し,景気の悪化及び株価の下落の影響を受けて,株式の要償却額が一段と増大した上,上記のような大手金融機関 広がり,金融システムに対する不安が著しく高まった。D銀行は,同月ころから資金繰りが急速に悪化し,景気の悪化及び株価の下落の影響を受けて,株式の要償却額が一段と増大した上,上記のような大手金融機関の連鎖的破綻により,償却・引当の先送りが困難な不良債権が著しく増加したことから,そのままの状態が続けば,当期利益170億円の達成どころか,赤字決算も真剣に検討せざるを得ない状況になった。 (二) 原価法採用の依頼R1経理部長は,前記(一)認定の事態を受け,平成9年11月上旬ころ,被告人Cらの指示により,大蔵省銀行局銀行課のW1課長補佐と面談して,D銀行の危機的な状況を説明し,株式償却における原価法の採用について懇願した。 上記面談結果を記載した面談記録には,R1経理部長が,「現在総力を上げて業務純益向上に取り組んでいるが,通期で1250億(下期495億)が目いっぱいという状況。これで,もう株や債券の含みも無しということである」「第2は,株式償却。現在の株価では約1500億円程度になっている」「第3に,不良債権の問題。検査で指摘されたⅣ分類583億については,上期に200億処理し下期に380億消す予定でやってきた。これに,3社追加負担とB2証券が発生した」「下期はこういう事で,その他のものもあわせ1184億,通期1490億の処理が必要となるが,さらに早期是正前に他行のノンバンク処理をやる動きもある。例えば,A2については360億積んでいるが逝ってしまったら不足が出るし,F2なども懸案」「こうやって必要な不良債権処理をすると,当期利益を170億と予定どおりとした場合,株式償却が出来ないという姿」などと発言した旨が記載されている。また,上記面談記録には,W1課長補佐が,「赤字は良くないと思うんですよね」と述べ,さらに, 当期利益を170億と予定どおりとした場合,株式償却が出来ないという姿」などと発言した旨が記載されている。また,上記面談記録には,W1課長補佐が,「赤字は良くないと思うんですよね」と述べ,さらに,「赤字は良くないというのは主にどういう観点ということでしょう」と尋ねられて,「株主責任の問題と,第二幕への連想ということです」と述べた旨が記載されている。 なお,その後,平成10年2月の決算経理基準の改正により,原価法と低価法の選択適用が認められることになった。 (三) 税効果勘案会計の採用さらに,R1経理部長は,平成10年3月期決算を乗り切るための方策として,平成9年10月下旬又は同年11月下旬ころから,原価法のほかに,税効果会計(税法と企業会計法規の間で,益金・損金(収益・費用)の計上時点に食い違いがあることを前提として,課税負担の平準化を図る会計手法であり,有税引当をしても,将来,債務者が倒産するなどして無税償却をすることが予想される場合には,一定額を当期の益金として計上することができるというものである。)類似の会計手法(以下「税効果勘案会計」という。)を導入しようと考えた。税効果会計は,前記第三の三の4の(三)認定のように,平成11年4月1日以降に開始する事業年度の決算から義務化されたが,平成9年当時は,特定海外債権貸倒引当金についてしか認められておらず,大蔵省も早期導入を検討していたものの,全面的な導入がいつになるのかは不明な状況であった。しかし,R1経理部長は,このままでは不良債権の増大に対応できないと考え,経理部員に有税債権償却特別勘定に税効果を反映させる方法を検討させるとともに,被告人Cに対し,平成10年3月期決算では,税効果を勘案した会計手法を全面的に採用したい旨報告した。 応できないと考え,経理部員に有税債権償却特別勘定に税効果を反映させる方法を検討させるとともに,被告人Cに対し,平成10年3月期決算では,税効果を勘案した会計手法を全面的に採用したい旨報告した。 その後,R1経理部長は,S監査法人の公認会計士G2及び同H2と税効果勘案会計の採用について相談し,基本的に容認する方向での回答を得た。そこで,R1経理部長は,被告人CにS監査法人の上記回答を報告したところ,被告人Cは,監査法人が了解しているのであれば,税効果勘案会計を採用したいと述べたため,更に検討を本格化した。そして,経理部は,税効果額の試算を繰り返した末,平成9年12月下旬又は平成10年1月上旬ころ,税効果益として約1300億円を計上する方針を固め,被告人Cらの了承を得た。 2 不良債権処理可能限度額の試算D銀行は,生き残りのために,他の金融機関との合併を模索し,平成9年後半から,被告人Aの陣頭指揮の下,I2銀行株式会社との合併交渉を本格化させた。R1経理部長は,同年12月ころ,上記合併交渉の過程において,被告人Cを通じて,同Aから平成10年3月期決算で最大どれだけの不良債権を処理できるかを試算するように指示を受けたため,部下にこれを行わせた。経理部は,上記試算を行うに当たっては,①前記2の8の(五)認定の奉加帳増資の際に新金融安定化基金が引き受けた約800億円の優先株の議決権復活を阻止するために,赤字額を約669億円以内に抑える必要があること,②国内基準自己資本比率4パーセント以上を維持するために,赤字限度額を約664億円以内に収める必要があること,③前記奉加帳増資の増資引受先に対する配慮として,資本勘定約3901億円のうち増資額約2906億円は毀損できないため,赤字額を約995億円以内に収める必要 を約664億円以内に収める必要があること,③前記奉加帳増資の増資引受先に対する配慮として,資本勘定約3901億円のうち増資額約2906億円は毀損できないため,赤字額を約995億円以内に収める必要があることを前提に,赤字の限度額は,①から③までの最少額である約664億円と計算した。他方,経理部は,その当時の同期決算の収益見込み(業務純益約1250億円,株式の益出し約550億円,原価法を前提とする株式の要償却額300億円)に基づき,債権の償却・引当財源を約1400億円と計算した。そして,経理部は,上記計算結果を総合して,同期決算の不良債権処理の最大額は,約664億円に約1400億円を合計した約2064億円と試算した。 3 D銀行の平成10年3月期決算の状況(一) 決算一次予想事業推進部は,経理部から,税効果を勘案した会計により償却余力が約1300億円増えると聞いていたので,これを前提に,平成10年3月期決算で償却・引当すべき不良債権を選定し,同年1月14日付け「10年3月期貸出金処理候補先」と題する書面(以下,作成日付を問わず,「10年3月期貸出金処理候補先」と題する書面を「縦長表」という。)にまとめた。上記縦長表には,Lグループに対する貸出金のうち175億円を償却・引当し,株式会社J2に対する貸出金については150億8000万円を償却・引当し,A2については債権償却特別勘定の積増しを行わない予定である旨が記載されていた。なお,上記縦長表には,「当期損失処理額」欄の上に「調整可能」と記載され,J2,Lグループ等の貸付先に対する当期損失処理額の数字に網掛けがされているほか,「とりあえず予算繰り考えず」などという記載があった。 経理部は,上記縦長表を基に,「貸金処理内訳」と題する書面 プ等の貸付先に対する当期損失処理額の数字に網掛けがされているほか,「とりあえず予算繰り考えず」などという記載があった。 経理部は,上記縦長表を基に,「貸金処理内訳」と題する書面(以下,作成日付を問わず,単に「貸金処理内訳」という。)を作成するなどして,平成10年1月下旬ころ,決算一次予想案を作成した。上記一次予想案は,業務純益を約1200億円,不良債権処理額を約1262億円(税効果勘案会計を考慮した不良債権の表面処理額は約2562億円),当期利益を約170億円とするものであった。R1経理部長は,被告人3名に対し,順次個別に上記一次予想案の内容を説明した後,上記一次予想案を同月28日に開催された常務会に提出し,了承された。 (二) 決算二次予想D銀行は,後記4認定のように,平成10年3月に公的資金の交付を申請する際に,金融危機管理審査委員会に対し,関連会社についても,S監査法人の監査を踏まえて適正に償却・引当している旨説明したが,同監査法人のG2会計士は,これを知って怒り,D銀行を訪れてR1経理部長と会談した。そして,R1経理部長が,上記会談後,「追加で債特を積まないといけない。100億円ほどで広く手当してくれ」などと指示したことから,事業推進部は,償却額を111億4700万円として追加償却先を選定し,償却先のリストをR1経理部長を通して同監査法人に交付した。その後,同監査法人との間の話合いは,上記リストに1社を加えることで決着した。さらに,決算一次予想後に,自己査定において,担保等の資産評価を見直したことにより,要償却・引当額が増加することになった。 このように,決算一次予想後に,平成10年3月期における償却・引当の回避や繰延べが困難な貸出金が増加したことから,事業推 見直したことにより,要償却・引当額が増加することになった。 このように,決算一次予想後に,平成10年3月期における償却・引当の回避や繰延べが困難な貸出金が増加したことから,事業推進部は,その償却・引当財源を捻出するため,特段の業況の変化がないにもかかわらず,前記(一)認定の縦長表に「調整可能」と記載されていた貸付先のうち,J2に対する当期損失処理額を65億8000万円減額して85億円に,Lグループに対する当期損失処理額を55億円減額して120億円にするなどして,全体の償却・引当額を調整し,決算二次予想時点での貸出金の償却・引当処理候補先を選定した。 そして,経理部は,事業推進部の上記償却・引当処理候補先案を基に,貸金処理内訳を作成するなどして,同年3月下旬ころ,決算二次予想案を作成した。上記二次予想案は,業務純益を約1265億円,不良債権処理額を約1412億円(税効果勘案会計を考慮した不良債権の表面処理額は約2712億円),当期利益を約170億円とするものであった。R1経理部長は,被告人3名に対する事前説明を行い,その了承を得た上,同月25日,上記二次予想案を常務会に提出し,承認された。 他方,事業推進部も,同日ころ,基準日を平成9年12月末とする自己査定の結果及びこれに基づく貸出金の償却・引当先を記載した資料を常務会に提出するとともに,事業推進部長K2(平成10年3月に同部長に就任)が,これに基づいて,平成9年度下期の貸出金処理に関する報告をした。 (三) 決算最終案の作成及び承認事業推進部は,平成10年4月8日,S監査法人のG2会計士から,貸付先であるL2株式会社の担保評価額等に関する質問を受けたことから,同社に対する貸出金について,同年3月31日付 認事業推進部は,平成10年4月8日,S監査法人のG2会計士から,貸付先であるL2株式会社の担保評価額等に関する質問を受けたことから,同社に対する貸出金について,同年3月31日付け縦長表では償却・引当処理額を零としていたが,同年4月16日付け縦長表では15億9200万円を償却・引当処理することにした。また,G2会計士から,同年4月16日,後記五の3の(三)の(1)掲記のMグループについて,関連事業部あてに,「10年3月期債特を計上しない理由を説明して下さい」との質問状が出されたため,事業推進部は,同グループのうち5社について,合計で11億800万円の債権償却特別勘定を計上することにした。 経理部は,同年4月下旬ころ,事業推進部作成の「貸出金処理先」と題する書面を基に,最終の貸金処理内訳を作成し,決算二次予想案とほぼ同じ内容の決算最終案を作成した。上記決算最終案は,業務純益を約1302億円,不良債権処理額を約1410億円(税効果勘案会計を考慮した不良債権の表面処理額は約2736億円),当期利益を約171億円とするものであった。そして,R1経理部長が,被告人3名に対し,個別に上記決算最終案の内容を説明し,その了解を得た上で,同月27日開催の常務会及び取締役会に付議し,常務会及び取締役会は,いずれも上記決算最終案を承認した。 4 金融危機管理審査委員会による資本注入(一) 金融機能安定化緊急措置法の成立とM2委員会の発足前記1の(一)認定の金融危機の発生によって,公的資金を投入して金融機関の自己資本を増強することの重要性が改めて認識されたことから,平成10年2月,預金保険法の一部を改正する法律(同年法律第4号)及び金融機能の安定化のための緊急措置に関する法律(同年法律 して金融機関の自己資本を増強することの重要性が改めて認識されたことから,平成10年2月,預金保険法の一部を改正する法律(同年法律第4号)及び金融機能の安定化のための緊急措置に関する法律(同年法律第5号)が成立し,M2審議委員を委員長とし,民間の審議委員2名のほか,大蔵大臣,日銀総裁及び預金保険機構理事長で構成される金融危機管理審査委員会(いわゆるM2委員会)が発足した。これに伴い,合計30兆円の公的資金のうち,13兆円が金融機関の自己資本増強のために使用できることになったため,D銀行を含む主要21行は,同年3月,同委員会に対し,優先株式の引受け等による公的資金の交付を申請した。 (二) 大蔵省銀行局及び金融検査部による自己査定結果のチェックM2委員会は,前記(一)認定の各申請の審査を行うに当たり,大蔵大臣に対し,申請行の資産の健全性を確認するように依頼した。そこで,大蔵省は,D銀行に対し,融資残高上位10店舗の自己査定に使用したラインシートや自己査定結果の店舗ごとの集計表等を速やかに提出するように求めた。D銀行は,大蔵省に対し,当初は,税効果勘案会計を採用しない前提で算出された金額を報告していたが,ラインシートが税効果勘案会計を採用した前提で作成されていたため,上記金額との間に齟齬が生じることから,被告人Bの了承の下に,税効果勘案会計を採用しない前提で作成されたラインシートに差し替えた。 その後,大蔵省銀行局銀行課及び金融検査部は,D銀行が提出した自己査定結果の正確性のチェックを行ったが,このチェックは,検査官らが,3,4日のうちに,5,6人でチームを組み,1チームで複数の金融機関を担当し,ラインシートに基づき机上のチェックを行うというものであった。 (三) M2委員会におけ ェックは,検査官らが,3,4日のうちに,5,6人でチームを組み,1チームで複数の金融機関を担当し,ラインシートに基づき机上のチェックを行うというものであった。 (三) M2委員会における質疑応答大蔵大臣は,前記チェックの結果とD銀行の自己査定結果に一致しない点が見られたことから,M2委員会において,事実関係には特段の誤りは認められなかったものの,自己査定において,関連会社に対する査定が甘いのではないかと考えられるので,それらの会社の今後の経営見通しや,D銀行としての支援姿勢を十分に聴取する必要があると考えられる旨を発言した。 これに対し,被告人Bは,「まず,関連会社につきましては,私どもは,昨年4月の段階で系列ノンバンク3社を破産申請をいたしまして,私どもの関連会社で大きく不良資産を抱えている部分について,一応の処理をつけたところでございますが,残る関連会社につきましては,一応,私どものグループ内企業ということで,D銀行グループ全体として営業をし,収益を上げているということでございます。ただ,関連会社につきましても,統一的に策定した自己査定基準に即して,監査法人の意見も踏まえて,厳格な査定を実施しております。具体的に要注意,そういった査定もいたしております。必要な引当もやっております」などと回答した。 (四) 公的資金の投入M2委員会は,審査の結果,平成10年3月10日,D銀行の経営の健全性の確保のための計画を妥当なものと判定して,D銀行の公的資金の交付申請(優先株式600億円と劣後ローン2300億円の引受け)のうち,優先株式600億円の引受けを承認した。 5 監査法人によるD銀行の平成10年3月期決算の監査状況(一) 会計監査の実施状況 式600億円と劣後ローン2300億円の引受け)のうち,優先株式600億円の引受けを承認した。 5 監査法人によるD銀行の平成10年3月期決算の監査状況(一) 会計監査の実施状況D銀行と監査契約を結んでいたS監査法人は,平成10年1月以降,D銀行の同年3月期決算について,商法特例法に基づく監査及び証券取引法に基づく監査を実施した。しかし,同監査法人の公認会計士らは,MNOグループ,Lグループ,J2及びA2の各社について,D銀行から,例えば,次に掲げるような内部資料を見せられたこともなく,また,それらに記載されている情報を知らされたこともなかった。 (1) MNOグループに関する内部資料MNOグループについては,①平成10年2月17日に,事業推進部と関連事業部との間で協議をした結果について,「各子会社について事業計画なし。(計画策定には今しばらく時間を要する。)」などと記載された「関連ノンバンク CPA説明方針-2/19に向けて-」と題する書面,②同月19日に,R1経理部長が,関連事業部副部長N2らに対し,「事業計画も何もなくCPA説明に臨むのはあまりにも危険。至急,倍々ゲームでも何でも良いから計画を策定し提出すること」などと発言したと記載された面談記録,③同年3月3日に,経理部と関連事業部が監査法人に対する説明に向けて打合せを行った際に,R1経理部長らが,「今後,経理部が握りの交渉をする時,返済期間が20年からスタートしても握りようがない。返済期間20年ではH2会計士が悩むだけ」「説明は返済期間がまずありきで構わない。 即ち,『当行としては7~8年で回収の予定です。そのためには資金投下は惜しみません』と言う」「今後計画をフォローされた場合には,『環境が変わった』 が悩むだけ」「説明は返済期間がまずありきで構わない。 即ち,『当行としては7~8年で回収の予定です。そのためには資金投下は惜しみません』と言う」「今後計画をフォローされた場合には,『環境が変わった』と答えれば良い」「第2グループのサラ金は500億円等そもそも理屈のない数字であるから,いくら積み上げようが関係ない」などと発言したと記載された面談記録(2) Lグループに関する内部資料Lグループについては,①株式会社O2のプロジェクトについて,「開発工事は近々完了するが,現時点での更地一括売却では地方都市の大型物件であり買手がつかない。また,担保価格(47億円)で売却できたとしても大きなロス(141億円)が発生する」などと記載された融資第一部作成の平成9年5月23日付け「ご報告事項」と題する書面,②平成9年12月17日に,融資第二部長P2らがQ2株式会社の社長らと面談した結果について,「現状ではアクセスが悪く,またこの環境下(会員権相場)ではPJ(プロジェクトのこと)推進は困難と判断される」「H10/5に資金がショートする見込」などと記載された面談記録,③平成12年度には株式会社R2を整理解散するタイムスケジュール等を記載した平成10年3月11日付け「R2グループの今後の対応について」と題する書面(3) J2に関する内部資料J2については,①平成9年9月24日に,同社の社長S2が,P2融資第二部長らに対し,最短で平成10年1月にJ2の特別清算の予定に関わるプレス発表を行いたいと考えていると説明したことなどを記載した面談記録,②同月28日に,後記五の1の(一)の(3)掲記の四行会において,同年4月にJ2の特別清算の発表を予定していることや,D銀行のJ2に対する貸出 いたいと考えていると説明したことなどを記載した面談記録,②同月28日に,後記五の1の(一)の(3)掲記の四行会において,同年4月にJ2の特別清算の発表を予定していることや,D銀行のJ2に対する貸出金の保全不足額は315億円であることなどが記載された同社のメインバンクのT2銀行株式会社作成の「当社債権処理に係るシミュレーション」と題する書面及び同書面についてD銀行融資第二部班長U2が,「当社の特別清算の動向に関する資料は,少なくとも4月以前に出回ることは絶対に避けてほしい。情報管理を徹底願いたい。特に別添2(上記資料のこと)は,外部に漏れたら大変だ」などと発言した旨が記載された同部作成の「(株)J2 四行会出席報告」と題する書面,③平成10年3月期決算において,J2に対する貸出金のうち,150億8000万円の債権償却特別勘定への繰入れを予定した決算一次予想案,④J2の実質保全不足額が約297億円であるなどと記載された融資第二部作成の平成10年3月31日付け「準備資料」と題する書面(4) A2に関する内部資料A2については,①平成9年11月13日に,株式会社V2銀行の副頭取W2らが,被告人Cらに対し,A2の社長X2も他行の反対により任意整理ができない場合には特別清算や破産の手続に進むことを了解しているとして,A2の任意整理案にD銀行も協力するように求めてきたことなどを記載した面談記録,②同月18日に,G1常務らが,V2銀行の常務取締役Y2らに対し,A2の任意整理案について,「例えば当行もスキームに応諾すれば積増しの問題が出るので,今期は避けたい」「本案がリークされスキームが公になれば,結果としてCPAに説明がつかなくなる」などと説明したと記載された面談記録,③残余財産からの一般配当について,特別清 積増しの問題が出るので,今期は避けたい」「本案がリークされスキームが公になれば,結果としてCPAに説明がつかなくなる」などと説明したと記載された面談記録,③残余財産からの一般配当について,特別清算の場合には,配当率が4.2パーセントで,配当額は約31億円であり,破産の場合には,配当率が0.6パーセントで,配当額は約4億円となる見込みであることなどを記載した融資第二部作成の平成10年3月19日付け「A2より提出のあった『比較資料』(特別清算と破産の比較)について」と題する書面(二) 監査報告書の提出S監査法人は,前記3の(三)認定のように,D銀行に対し,Mグループについて償却・引当の必要性を指摘して,償却・引当の追加を行わせるなどした後,平成10年6月26日付けで,「監査の結果,会社(D銀行のこと)の採用する会計処理の原則及び手続は,一般に公正妥当と認められる企業会計の基準に準拠し,かつ,下記事項(有価証券の評価基準の原価法への変更を指す)を除き,前事業年度と同一の基準に従って継続して適用されており,また,財務諸表の表示方法は,財務諸表規則の定めるところに準拠しているものと認められた」「よって,当監査法人は,上記の財務諸表が株式会社D銀行の平成10年3月31日現在の財政状態及び同日をもって終了する事業年度の経営成績を適正に表示しているものと認める」旨の監査報告書を提出した。 (三) D銀行の監査状況に関する調査報告書その後,S監査法人は,D銀行が平成10年12月13日に特別公的管理開始の決定を受けたことに伴い,平成11年1月,内部に特別調査委員会を設置し,平成10年3月期に実施した監査の状況を調査して,その結果を「株式会社D銀行の監査証明に関する報告書」にまとめた。同監査 理開始の決定を受けたことに伴い,平成11年1月,内部に特別調査委員会を設置し,平成10年3月期に実施した監査の状況を調査して,その結果を「株式会社D銀行の監査証明に関する報告書」にまとめた。同監査法人は,上記報告書において,「D銀行の監査において,当監査法人は,監査基準第一一般基準二及び三に掲げられているとおり,事実の認定,処理の判断及び意見の表明を行うに当たって,常に公正不偏の態度を保持し,監査の実施及び報告書の作成に当たって,職業的専門家としての正当な注意を払って監査を行ったものと判断する」としていた。 しかし,他方で,上記報告書は,J2及びZの各引当不足額について,「D銀行の役員が償却回避の為(J2の)特別清算のプレス発表時期を来期以降にするよう,幹事行のT2銀行に働きかけた。しかしながら,D銀行からプレス発表引き延し交渉の内容について一切報告を受けておらず,そのような重大な情報が得られない状況において入手し得た諸資料の範囲内で算定した為,重要な引当不足はないと判断せざるを得なかった」「A2が,平成9年10月整理,清算の方針案を受諾し,平成11年3月29日に解散決議した。しかしながら,D銀行からA2が平成9年10月に特別清算の方針を受諾したという報告を一切受けておらず,そのような重大な情報が得られない状況において,破綻懸念先とはいえ,残存資産配分基準の適用において清算バランスに近い実態バランスで評価しており相応の貸倒引当金も計上されているものと判断せざるを得なかった」「監査に必要な重要書類が会社から示されておらず,D銀行が重要事項の報告を行わなかったことから,監査上の限界と認識せざるを得ないと判断する」旨の意見を表明していた。 6 金融監督庁による検査状況金融監督庁は,前記第二の三認定のように,D銀行に 告を行わなかったことから,監査上の限界と認識せざるを得ないと判断する」旨の意見を表明していた。 6 金融監督庁による検査状況金融監督庁は,前記第二の三認定のように,D銀行に対し,平成10年7月に金融検査(「FSA(フサ)検」と称される。)を実施したが,上記検査においては,本件起訴に係るMNOグループ中のN等13社(後記五の3の(一)の(2)参照),Lグループ中のR2等5社(後記五の4の(一)の(1)参照),J2及びA2について,いずれも実質破綻先と査定した。 以上のような事実が認められる。 5 D銀行の平成10年3月期における貸出金の償却・引当不足額 1 J2に対する貸出金関係(一) J2の特別清算に至る経緯まず,関係各証拠によれば,前記四の3の(一)掲記のJ2が特別清算に至った経緯について,次のような事実が認められる。すなわち,(1) バブル経済の崩壊による業況悪化J2は,Z2グループに所属し,不動産担保ローン等を業務内容とする独立系ノンバンクであった。J2は,メインバンクであるT2銀行のほか,A3銀行株式会社,D銀行及びI2銀行を合わせた主力4行から融資を受けて上記業務を営んでいたが,バブル経済の崩壊後,平成3年ころから,不動産市況の低迷,株式相場の下落等により資金繰りが逼迫するようになり,その後も業況は低下する一方であったため,主力4行は,平成5年3月を最後に,新たな貸出しを行わなくなった。そのため,J2自身も,同月以降,新たな貸出しを一切しなくなり,その業務内容も,貸出債権の回収と再建計画の策定のみになり,本来の業務内容とはほど遠い状態が継続していた。 (2) 4行支援体制の崩壊 貸出しを一切しなくなり,その業務内容も,貸出債権の回収と再建計画の策定のみになり,本来の業務内容とはほど遠い状態が継続していた。 (2) 4行支援体制の崩壊主力4行は,平成5年5月からJ2に対する金利を免除する支援を開始し,平成7年4月からは,3年間の予定で第三次事業計画に基づく支援を開始した(いわゆる4行支援体制)。メインバンクであるT2銀行は,同計画に基づき,J2に対する金利を平成10年3月まで免除するとともに,平成8年3月までの間に総額238億円の債権放棄を実施した。しかし,D銀行は,債権放棄を実施せず,平成9年3月には金利免除の支援を中止し,また,A3銀行及びI2銀行も,金利を免除する支援は実施したものの,J2の再建が非常に困難であると判断し,D銀行と同様に,債権放棄の支援を実施しなかったことから,T2銀行も,平成8年4月以降の債権放棄は見送らざるを得なかった。そして,主力4行すべてがJ2に対する債権放棄を必ず行うという内容の国税当局に対する確認書について,T2銀行を除く主力3行が署名を拒否したことから,上記主力3行がJ2に対する支援について消極的な姿勢であることが明らかとなり,4行支援体制は,事実上崩壊した状態となった。 なお,D銀行が同年11月にT2銀行プロジェクト推進グループ部長B3の訪問を受けた際の面談記録には,「当行貸残421.1オク」「保全可能額100オク程度」「償還金+預金25オク」という記載がされている。 (3) 四行会における検討状況T2銀行は,4行支援体制の崩壊を受け,平成8年秋ころには,J2の平成10年4月以降の再建は不可能であると判断し,同社の整理・清算を検討するようになった。そこで,T2銀行は,平成9年3 T2銀行は,4行支援体制の崩壊を受け,平成8年秋ころには,J2の平成10年4月以降の再建は不可能であると判断し,同社の整理・清算を検討するようになった。そこで,T2銀行は,平成9年3月に,主力4行の担当課長以下で構成される四行会を開催し,J2の再建は困難と考えており,特別清算等の法的整理・清算を視野に入れて検討する必要がある旨を説明した。これに対し,A3銀行は,整理・清算の方向で良い旨の意見を述べ,I2銀行も,T2銀行に任せる姿勢であったが,D銀行の融資第二部のU2班長は,「平成10年3月までは,当初の予定どおり,金利減免の無税をとっていきたい。J2の状況が変わったと言うが,当行は,初めから同社の再建を疑問視しており,当行内で同社の状況が変わったという認識はない。従来どおりにしてほしい」旨の意見を述べた。 その後,平成9年6月に,J2の整理・清算に強く反対していた同社会長が退任したことから,T2銀行は,J2の整理・清算の具体的検討を急速に進めるようになった。しかし,同年8月に開催された四行会においても,D銀行の調査役C3は,「当行は,平成10年3月の再建計画の終了時までは現状の状況を希望しており,できれば法的処理は極力先延ばししてほしい。担保設定をすることによりJ2の終息を早めることは,避けてほしい」旨の意見を述べていた。 (4) 特別清算スケジュールの策定とD銀行の対応方針平成9年9月24日,T2銀行出身のJ2社長S2は,D銀行を訪れ,P2融資第二部長らに対し,平成10年3月から5月に特別清算を申し立てたいと考えており,最短で同年1月に特別清算に係るプレス発表を行いたいと考えている旨を伝えた。 そして,T2銀行は,上記訪問の翌日に開催された 年3月から5月に特別清算を申し立てたいと考えており,最短で同年1月に特別清算に係るプレス発表を行いたいと考えている旨を伝えた。 そして,T2銀行は,上記訪問の翌日に開催された四行会において,平成10年1月にJ2の特別清算予定のプレス発表を行い,同年4月以降に特別清算を申し立てる旨のスケジュールを提案した。これに対し,D銀行のU2班長は,「プレス発表は,事業計画中(支援継続中)であり,おかしいのではないか」「平成10年3月期に償却が必要となるような状況は避けたい」などと発言した。その後,P2融資第二部長及びU2班長は,G1常務と打合せを行い,他の主力3行と話をして,プレス発表を平成10年3月期決算が確定する株主総会後まで延期してもらうように依頼する旨の方針を決定した。 (5) D銀行の主力3行に対するプレス発表延期の依頼U2班長は,G1常務の了解を得て,平成9年10月3日,I2銀行を訪れ,「少なくとも平成10年3月期に引当をしなければならない事象は避けたい。当行の要請は,後発事象の問題もあるので,同年6月の当行株主総会以前に要引当事象を起こすなということである」などと発言し,J2の特別清算のプレス発表を同年7月以降に延期するように協力を依頼した。これに対し,I2銀行からは,「ただ『先送り』と言っても,現実には難しいのではないか。CPAの眼も厳しくなっている」などという発言があった。 その後,U2班長らは,平成9年10月6日にA3銀行を訪れ,I2銀行に対するのと同様に,J2の特別清算のプレス発表を延期するように依頼したが,A3銀行側からは,「平成10年1月にプレス発表をするのが,一番良いと思う。J2は,A3銀行にとって,最大の問題先であり,平成10年3月期に最 ,J2の特別清算のプレス発表を延期するように依頼したが,A3銀行側からは,「平成10年1月にプレス発表をするのが,一番良いと思う。J2は,A3銀行にとって,最大の問題先であり,平成10年3月期に最優先で引当処理をする予定である」旨の回答が得られたにとどまった。 さらに,平成9年10月8日には,P2融資第二部長とU2班長がT2銀行に赴き,B3部長らに対し,平成10年3月期に引当を要する事象が起きないように,プレス発表を同年7月以降に延期することを依頼した。T2銀行は,D銀行の上記依頼を受け,主力4行の1行であるD銀行の賛成がなければ,今後,特別清算協定案の成立に支障が生じると考え,最大限譲歩して,同年4月上旬にプレス発表を行うことにし,平成9年11月の四行会において,その旨を提示し,他の主力3行の承諾を得た。 (6) J2に対する貸出金の保全不足額の試算前記(5)認定のようなT2銀行の動きを受けて,D銀行の融資第二部は,平成10年3月期には,J2に対する貸出金の償却・引当を行う必要があると考え,平成9年11月中旬,同社に対する貸出金の担保保全状況を試算した資料を作成した。上記資料は,指名債権担保のうち,正常債権については額面の80パーセントで評価し,延滞債権についてはその担保(原担保)額で評価するなどして,同社に対する貸出金の保全不足額は約286億6658万円であると試算していた。 (7) 特別清算に向けた具体的検討その後,平成10年1月開催の四行会において,J2の整理・清算に向けた具体的検討が行われ,同年4月上旬に特別清算のプレス発表を行い,同年6月に特別清算を申し立てる旨のスケジュールが改めて確認された。上記四行会において配布されたT2 において,J2の整理・清算に向けた具体的検討が行われ,同年4月上旬に特別清算のプレス発表を行い,同年6月に特別清算を申し立てる旨のスケジュールが改めて確認された。上記四行会において配布されたT2銀行作成の「当社債権処理に係るシミュレーション」と題する書面には,D銀行のJ2に対する貸出金のうち,担保による保全額(別除権額)は100億円で,保全不足額(一般債権額)は315億円であり,一般配当原資は15億円(一般配当率0.5パーセント)を想定している旨が記載されていた。上記書面について,U2班長は,「当社の特別清算の動向に関する資料は,少なくとも4月以前に出回ることは絶対に避けてほしい。情報管理を徹底願いたい。特に別添2(上記資料のこと)は,外部に漏れたら大変だ」などと発言した。 さらに,U2班長は,上記四行会の後,D銀行に戻り,G1常務に対し,「この資料を見れば,当行の保全不足額が分かってしまいます。また,配当率は,せいぜい0.5パーセント程度ですので,結局,今期に引き当てなければならない額も分かってしまいます。ですから,この資料は,絶対に外部に漏れないようにしてもらいたいと言っておきました」などと報告した。 (8) J2の財務状況J2は,平成6年3月期から平成9年3月期までは,簿価上は僅かに資産が負債を上回っている状態であったが,平成10年3月期には,貸出金約1930億円を債権償却特別勘定に繰り入れたため,資産が一挙に約2933億円も減少し,一転して約2674億円の債務超過に陥っていた。また,J2は,D銀行からの借入金について,主力4行による支援の一環として,平成4年3月から金利を3パーセントに減免され,さらに,平成7年4月から平成10年3月まで約定金利を免除されていたが,平 。また,J2は,D銀行からの借入金について,主力4行による支援の一環として,平成4年3月から金利を3パーセントに減免され,さらに,平成7年4月から平成10年3月まで約定金利を免除されていたが,平成8年9月から,借入金元本返済の延滞が始まっていた。 J2は,バブルの崩壊を受けて業況が悪化した後も,事業を継続してはいたものの,その内容は,前記(1)認定のように,貸出債権の回収等の本来の業務とはかけ離れたものであった。そして,J2は,当期純損益ベースで,平成6年3月期から5年間継続して赤字を計上していた。 (9) プレス発表から特別清算に至るまでの状況D銀行は,平成10年3月末,同年4月3日から同月10日までの間に予定されていたJ2の特別清算のプレス発表が,同月1日に早まることを知った。そこで,G1常務は,同年3月31日,被告人3名に対し,上記事実を報告したが,その際に使用した融資第二部作成の「準備資料」と題する書面には,貸金等の処理状況は,有税引当残(同年3月期に有税引当をする予定の額)が81億6900万円であり,第三債務者がJ2に債権譲渡担保として差し入れた営業貸付金(担保債権)の担保価値を額面で評価した場合の「表面」保全不足額は同額であるが,担保債権の担保価値を額面金額の20パーセントとして評価した「実質」保全不足額は297億7430万円である旨が記載されていた。 その後,同年4月1日に,新聞にJ2の特別清算に関する記事が掲載され,同年6月26日,同社から東京地方裁判所に特別清算の申立てがなされた。 そして,同年8月31日には,東京地方裁判所により特別清算開始の決定がなされ,同年12月8日に開催された第2回債権者集会において,清算協定案が可決された。J2は, 判所に特別清算の申立てがなされた。 そして,同年8月31日には,東京地方裁判所により特別清算開始の決定がなされ,同年12月8日に開催された第2回債権者集会において,清算協定案が可決された。J2は,上記清算協定案可決の準備として,各債権者の議決権額を確定するため,取引金融機関ごとに,特別清算申立日の時点における別除権金額と一般債権金額を記載した資料を作成した。上記資料は,J2が取引金融機関に提供している担保を査定して作成したものであったが,上記担保査定は,J2が,平成9年10月ころ,東京地方裁判所裁判官と相談して決定した方法により査定し,D銀行を含む各債権者が確認した数値を記載したものであった。上記資料によれば,D銀行のJ2に対する貸出残高は,約383億379万円であり,そのうち,別除権金額が約88億1242万円あり,一般債権金額は約294億9136万円あるとされていた。 なお,J2の清算貸借対照表によれば,同社は平成10年3月31日の時点で,清算価格で約3462億円,簿価価格で約2529億円の債務超過となっていた。 以上のような事実が認められる。 (二) 主力3行のJ2に対する償却・引当状況また,関係各証拠によれば,T2銀行等の主力3行のJ2に対する自己査定及び償却・引当の状況について,次のような事実が認められる。すなわち,(1) T2銀行T2銀行は,平成10年3月期において,J2を破綻懸念先に自己査定した上,同社に対する貸出金約718億3800万円のうち,Ⅲ分類とした約595億4700万円の全額を有税引当したほか,信託勘定のうちⅢ分類と自己査定した102億6600万円についても,同年2月から同年3月までの間に全額を有税償却した。 800万円のうち,Ⅲ分類とした約595億4700万円の全額を有税引当したほか,信託勘定のうちⅢ分類と自己査定した102億6600万円についても,同年2月から同年3月までの間に全額を有税償却した。 (2) I2銀行I2銀行は,平成10年3月期において,当初,J2を破綻懸念先と自己査定していたが,S監査法人から指示され,実質破綻先に査定を変更した。そして,I2銀行は,J2に対する貸出金について,新たにⅣ分類を計上し,その全額である約139億5400万円を償却・引当した。 (3) A3銀行A3銀行は,平成9年9月期からJ2に対する貸出金の償却・引当を開始し,同月30日に約168億477万円を有税引当し,その後,平成10年3月4日までの間に約214億1080万円を直接償却した。さらに,A3銀行は,同年3月期においても,J2を破綻懸念先と自己査定した上,同社に対する貸信勘定約108億2722万円の償却と,銀行勘定約62億1287万円の有税引当を実施した結果,平成9年9月期から平成10年3月期までに,実質的な担保保全不足額である合計約552億円を償却・引当した。 以上のような事実が認められる。 (三) D銀行のJ2に対する償却・引当状況さらに,関係各証拠によれば,D銀行のJ2に対する自己査定及び償却・引当の状況について,次のような事実が認められる。すなわち,(1) D銀行が,平成9年4月の金融検査の際に,検査官の考え方に基づいて作成した「『Ⅲ分類における保全不足額試算』資料提出について」と題する資料では,D銀行のJ2に対する貸出金のうち,Ⅲ分類査定額から実質保全額を控除した保全不足額は,277億3900万円であ 基づいて作成した「『Ⅲ分類における保全不足額試算』資料提出について」と題する資料では,D銀行のJ2に対する貸出金のうち,Ⅲ分類査定額から実質保全額を控除した保全不足額は,277億3900万円であるとされていた。また,D銀行は,同年9月期の自己査定においては,J2を破綻懸念先と査定した上,289億4900万円をⅢ分類に分類していた。 (2) D銀行は,平成10年3月期の決算一次予想においては,J2に対する貸出金のうち150億8000万円について,債権償却特別勘定に繰り入れることを予定していた。しかし,その後,前記四の3の(二)認定のように,回避又は先送りが不可能な償却・引当予定額が増加したことから,その償却・引当財源を捻出するために,D銀行は,決算二次予想では,延滞債権の担保評価を額面で行い,同社に対する償却予定額を85億円とした。 (3) D銀行は,最終的には,前記三の4認定のように,実質破綻先は無税で償却・引当を行う先に限定し,有税で債権償却特別勘定に繰り入れる債務者については破綻懸念先と自己査定するという運用に基づき,J2の最終的な債務者区分を破綻懸念先と査定した上,同社に対する貸出金約389億7892万円のうち,Ⅲ分類査定額から担保掛け目差を差し引いたとする約80億5687万円を債権償却特別勘定に繰り入れた。 なお,D銀行は,上記債権償却特別勘定繰入額を算出するに当たり,譲渡債権担保の担保評価額について,延滞債権と正常債権を区別せず,一律に額面で評価するなどしていた。 以上のような事実が認められる。 (四) 資産査定通達及び4号実務指針に基づく債務者区分(1) D銀行は,前記(三)の(3)認定のように,平成10年3月期決算において,実 以上のような事実が認められる。 (四) 資産査定通達及び4号実務指針に基づく債務者区分(1) D銀行は,前記(三)の(3)認定のように,平成10年3月期決算において,実質破綻先は無税で償却・引当を行う先に限定するという運用に従い,貸出金約80億円を有税で引き当てることにしていたJ2についても,債務者区分を破綻懸念先と自己査定している。 しかしながら,前記第三の三認定のように,上記決算においては,無税償却・引当の要件を満たすか否かを問わず,債務者区分を行い,個々の貸出金ごとに回収不能かどうか,最終の回収に重大な懸念があり,損失の発生が見込まれるかどうかを判断した上で,必要額を償却・引当すべきであったのであるから,D銀行の上記のような債務者区分が資産査定通達及び4号実務指針の趣旨に反し,妥当でないことは明らかである。 (2) そこで,資産査定通達及び4号実務指針に基づき,平成10年3月期におけるJ2の債務者区分を行うと,前記(一)及び(二)認定のように,①J2は,バブル経済の崩壊により,平成3年ころから業況が悪化し,形式的に事業を継続してはいたものの,本来の業務であるローン業務は行わず,貸出金の回収業務等を行うにとどまっており,しかも,平成6年3月期から5年連続で赤字を計上していたこと,②J2は,平成9年3月期までは,簿価上は債務超過ではなかったものの,平成10年には,巨額の貸出金の債権償却特別勘定への繰入れにより約2674億円の債務超過に陥っており,実態は,以前から回収困難な不良債権が多く存在したものの,債務超過に陥ることを避けるために引当を計上しなかったに過ぎないと考えられること,③メインバンクのT2銀行は,平成8年中には,主力4行による4行支援体制が事実上崩壊したこと が多く存在したものの,債務超過に陥ることを避けるために引当を計上しなかったに過ぎないと考えられること,③メインバンクのT2銀行は,平成8年中には,主力4行による4行支援体制が事実上崩壊したことから,J2に対する支援を断念して,同社を整理・清算する方針を決定し,平成9年3月以降,主力4行間でJ2の特別清算に向けた検討が行われ,D銀行が上記特別清算やそのプレス発表の時期を延期するように依頼したものの,平成9年10月中には,平成10年4月上旬に上記特別清算のプレス発表を行い,同年6月に特別清算の申立てを行うことが決定されていたこと,④実際に,J2は,同年4月1日に特別清算のプレス発表がなされた後,同年6月26日に特別清算を申し立てたこと,⑤I2銀行は,同年3月期において,S監査法人の指摘により,J2を実質破綻先と自己査定しており,金融監督庁も,前記四の6認定のように,同年7月に実施した検査において,J2を実質破綻先と査定していることなどが認められる。 (3) これらの事情に照らすと,J2は,同年3月期においては,その再建が極めて困難な状況にあったのであるから,「法的・形式的な経営破綻の事実は発生していないものの,深刻な経営難の状態にあり,再建の見通しがない状況にあると認められるなど実質的に経営破綻に陥っている債務者」であって,「実質破綻先」に当たると認めることができる。 (五) 資産査定通達に基づく資産分類さらに,資産査定通達に従ってJ2向け貸出金の資産分類を行うと,D銀行の平成10年3月期決算においては,J2に対する貸出金残高389億7892万9636円から,非分類額(償還金勘定入金額)6692万4292円,Ⅱ分類額(担保評価額)77億8368万9473円及びⅢ分類額(担保掛け目差及び清算 ては,J2に対する貸出金残高389億7892万9636円から,非分類額(償還金勘定入金額)6692万4292円,Ⅱ分類額(担保評価額)77億8368万9473円及びⅢ分類額(担保掛け目差及び清算配当見込額)21億1901万3523円を控除して算出した290億930万2348円がⅣ分類となり,少なくとも上記Ⅳ分類額については,同期に全額を償却・引当することが必要であったものと認められる。 (六) 償却・引当不足額の計算D銀行は,前記(三)認定のように,平成10年3月期決算においては,J2に対する貸出金について,80億5687万393円を債権償却特別勘定に繰り入れたのみで,その残額については償却・引当を行っていない。したがって,前記(五)認定のⅣ分類額から上記債権償却特別勘定繰入額を控除した209億5200万円(百万円未満切捨て)が,償却・引当不足額となる。 2 A2に対する貸出金関係(一) A2の特別清算に至る経緯まず,関係各証拠によれば,前記三の5掲記のA2が特別清算に至った経緯について,次のような事実が認められる。すなわち,(1) バブル経済の崩壊による業況悪化A2は,f市を本拠とするリース会社であったが,バブル経済期に不動産融資に手を広げて,事業を拡大した独立系ノンバンクであった。A2は,メインバンクであるV2銀行や準メインバンクであるD銀行を始めとする多くの金融機関から融資を受けて事業を営んでいたが,バブル経済の崩壊後,平成2年末ころから,融資先の経営悪化やそれに伴う倒産等が原因で,多額の営業貸付金が不良債権化し始め,平成3年夏ころから,業況の悪化が深刻化し,平成4年3月期決算以降,収支面での赤字,債務超過が続くようになっ ろから,融資先の経営悪化やそれに伴う倒産等が原因で,多額の営業貸付金が不良債権化し始め,平成3年夏ころから,業況の悪化が深刻化し,平成4年3月期決算以降,収支面での赤字,債務超過が続くようになった。A2は,そのころ以降は,リースや割賦金の回収業務を行っているのみで,新規の貸付けは行っておらず,また,D銀行の貸付金に対する支払も,平成6年以降は延滞していた。 (2) 再建計画の挫折とV2銀行の整理・清算方針の決定A2は,V2銀行及びD銀行に対して支援を求め,両行の指導の下,平成4年1月に元本返済の猶予と金利の減免を求める内容の第一次再建計画を,平成6年4月には金利減免の幅を拡大した第二次再建計画をそれぞれ策定して,各金融機関に提示し,再建への協力を要請した。しかし,第一次再建計画については,V2銀行及びD銀行を始めとする金融機関の支援が得られたものの,その後も地価の下落が続き,業況が回復するどころか更に悪化したため,再建に失敗し,第二次再建計画についても,D銀行の応諾が得られなかったことや,その後も地価の低迷が長引いたことなどから,A2の経営状態は悪化の一途を辿り,同計画は,結局,頓挫することになった。 V2銀行は,D銀行が第二次再建計画に応諾しなかったことから,もはやA2の再建は不可能であると判断し,平成7年4月の経営会議において,A2に対する支援を打ち切り,同社を整理・清算する方向で進めることを決定した。その後,V2銀行は,同年9月には,A2に対し,期限の利益を喪失させる措置を講じ,平成8年3月には,同年1月の大蔵省の金融検査で同社に対する貸出金につきⅢ分類やⅣ分類がかなり出たことも考慮して,同社に対する貸出金約800億円のうち,約559億円について有税引当を実施した。そし ,平成8年3月には,同年1月の大蔵省の金融検査で同社に対する貸出金につきⅢ分類やⅣ分類がかなり出たことも考慮して,同社に対する貸出金約800億円のうち,約559億円について有税引当を実施した。そして,同年4月には,V2銀行がA2に対する支援を打ち切る方針を決定し,貸出金の引当を行った旨の新聞報道がなされた。 (3) 新経営計画の策定V2銀行は,前記(2)認定の経営会議の決定に基づいて,A2社長X2に対し,整理・清算を説得したものの,X2社長は,飽くまでも自主再建を主張し,平成8年7月に,各金融機関に元本債権の一部放棄を求める内容の新経営計画を策定した。これに対し,V2銀行は,同計画の応諾を拒絶し,A2に派遣していた常務2名の引揚げを実行するとともに,平成9年1月には,X2社長に対し,以後の再建計画の受入れ拒否を通告して,正式にA2への支援打切りを公表した。しかし,X2社長は,飽くまでも自主再建を主張したことから,両者の話合いは,平行線を辿っていた。 なお,D銀行の融資第二部が作成した資料には,D銀行のA2に対する貸出残高693億4100万円のうち,新経営計画に応諾した場合の回収額は11億200万円であり,非応諾の場合の回収額は68億3200万円である旨が記載されていた。 (4) V2銀行とD銀行の交渉状況その間,V2銀行の専務取締役D3は,平成8年10月ころからD銀行のG1常務との交渉に入り,D銀行にA2の整理・清算に協力するように要請した。しかし,G1常務は,「どんな計画でも再建はできないとの認識を持っている」などと述べたものの,A2の整理・清算については消極的態度を示していた。 そこで,D3専務は,平成9年3月にもG1常務と面談して,V し,G1常務は,「どんな計画でも再建はできないとの認識を持っている」などと述べたものの,A2の整理・清算については消極的態度を示していた。 そこで,D3専務は,平成9年3月にもG1常務と面談して,V2銀行及びD銀行からA2の破産を申し立てることを打診したところ,G1常務は,「破産を申し立てても,とんでもないことをしたとは思わない」などと述べながら,「今日は,V2銀行が破産を申し立てると言ってくるかと思い,ひやひやしていた。その場合,何とか今期中だけは避けてもらいたいと考えていた」などと発言した。D銀行は,後記(三)の(1)認定のように,平成9年3月期において,A2に対する貸出金のうち,約315億円の引当を行ったが,同年4月中旬に,D3専務が再度協力を求めた際に,G1常務は,「同社の処理を先送りしても,今処理しても大した違いはなく,今すぐ処理する理由はない。個別案件の処理に3か月くらい掛かるので,それが終わってから話をさせてもらいたい」旨述べて,V2銀行の要請を拒否した。 (5) H3弁護士案の策定V2銀行は,A2をいつまでも処理しないでおくと同行の信用に関わることを懸念し,A2の整理・清算を早急に実行しようと考え,平成9年2月ころ,D3専務に替えて,W2副頭取に対し,特命事項として同社を担当させることにした。W2副頭取は,X2社長に対し,中立的な第三者による調整に委ねることを提案し,X2社長の了承を得て,会社の整理・清算関係の経験が豊富なE3事務所の弁護士H3を調停役に選任した。H3弁護士は,A2の財務内容等に関する資料を精査して,同社とV2銀行の双方の意見を聴取した上,同年10月に,任意整理計画案(以下「H3弁護士案」という。)を策定し,V2銀行及びA2は,これに同意した。なお,H3弁護士案は, 等に関する資料を精査して,同社とV2銀行の双方の意見を聴取した上,同年10月に,任意整理計画案(以下「H3弁護士案」という。)を策定し,V2銀行及びA2は,これに同意した。なお,H3弁護士案は,A2向け一般債権について,配当率を5パーセントとし,V2銀行及びD銀行がこれを保証するものとしていた。 (6) H3弁護士案に対するD銀行の対応状況V2銀行及びH3弁護士は,平成9年11月ころから,D銀行にH3弁護士案を提示し,応諾するように依頼を開始した。V2銀行のW2副頭取は,同月13日,被告人Cと面談し,「当行は,いつまでもだらだらとやらせるつもりはない。今期中に解決を予定している」などと言ってH3弁護士案に応諾するように要請した。しかし,被告人Cは,「任意整理という方向については理解できる」としながらも,「弁護士意見書には,当行の認識と全く違うことが書かれている。特に,紹介案件や人材派遣に関しては,事実無根である」「任意整理の時期については,問題がある。特に,農林系は,厳しい状況にある。今このスキームを提示すれば,大きな混乱が予想される。また,株価等の環境を見れば,時期的には最悪のタイミングである」などと述べ,任意整理の時期を問題にして,H3弁護士案に応じることをしなかった。 なお,被告人Cは,後記第5の3の4の(六)認定のように,上記面談に先立って,融資第二部のU2班長から,H3弁護士案に沿った協定案を締結すると,平成10年3月期に,A2に対する保全不足額の全額である約200億円ないし300億円の引当が必要になる旨の説明を受けていた。 その後,V2銀行のY2常務は,平成9年11月18日と翌19日の2回にわたり,D銀行のG1常務と面談し,H3弁護士案に応じるように依頼した。し 必要になる旨の説明を受けていた。 その後,V2銀行のY2常務は,平成9年11月18日と翌19日の2回にわたり,D銀行のG1常務と面談し,H3弁護士案に応じるように依頼した。しかし,G1常務は,「このスキームでは,即時に有税で全額引当せざるを得ない。すべての金融機関が,平成10年3月期での処理が必要になる」「当行は,農林系を始め,金融機関に金融債等で調達の多くを依存している。今春,関連3社で迷惑を掛け,漸く関係が改善しつつある。12月3日には第1回債権者集会が予定されている時期でもあり,今このスキームで了承するわけにはいかない」「A2の債権については,一部引当済みであるが,具体的処理案が出てくれば,積増しの必要があり,その場合は,決算も難しくなり,今期中というのは受け入れられない」「引当は,ある時点の必要額については積んでいたが,今はそれでは不足している」「本案がリークされ,スキームが公になれば,結果としてCPAに説明がつかなくなる」などと述べて,H3弁護士案への応諾を事実上拒絶した。 さらに,D銀行のP2融資第二部長は,平成9年12月11日,A2のX2社長が同月15日以降にH3弁護士案を持って各金融機関を回りたい旨伝えてきたのに対し,この時期に整理・清算案を持ち回るのは絶対にやめてほしいと要請した。また,G1常務は,同月12日,Y2常務と面談し,「今日V2銀行に来た主旨は,案がどうのではなく,今,各行を回ることは駄目だということを伝えるためである」「A2が,各金融機関を訪問するのを先にするように,貴行からも話をしてもらいたい」などと強く要請した。 (7) A2の財務状況A2は,平成6年3月期から平成10年3月期まで5年連続して簿価上も債務超過の状態にあり からも話をしてもらいたい」などと強く要請した。 (7) A2の財務状況A2は,平成6年3月期から平成10年3月期まで5年連続して簿価上も債務超過の状態にあり,その債務超過額も毎年増加を続け,平成10年3月期には,約262億円もの損失を計上したことにより,債務超過額が約757億円にまで膨れ上がっていた。また,A2は,D銀行からの借入れについて,平成6年以降延滞し,平成10年3月末時点で,約647億円の借入金を抱えていた。 A2は,バブルの崩壊を受けて業況が悪化した後も,事業を継続してはいたものの,その内容は,前記(1)認定のように,リースや割賦金の回収業務を行っているのみで,新たな貸付けは行わないなど,実質的に事業を継続してはいなかった。そして,A2は,平成4年3月期決算以降,継続して赤字を計上し,平成10年3月期には,累積損失が約813億円にも達していた。 (8) A2の特別清算申立てに至る経緯D銀行は,平成10年に入ってからも,A2の特別清算申立てについて,その実施時期以外に,H3弁護士案の内容まで問題とし,破産と特別清算のいずれが得かを確認しないと賛成できない旨の主張を始めるなど,強硬に反対したため,V2銀行及びH3弁護士は,D銀行が強く反対している中でH3弁護士案を持ち回るのは得策ではないと判断し,A2を同年3月期に整理・清算することを断念した。 他方,A2は,同年3月には,取引先金融機関に対し,一般債権に対する配当率を示していた。D銀行の融資第二部作成の同月19日付け「A2より提出のあった『比較資料』(特別清算と破産の比較)について」と題する書面においては,特別清算の場合には,配当率は4.2パーセントで,D銀行 示していた。D銀行の融資第二部作成の同月19日付け「A2より提出のあった『比較資料』(特別清算と破産の比較)について」と題する書面においては,特別清算の場合には,配当率は4.2パーセントで,D銀行に対する配当額は31億円であり,破産の場合には,配当率は0.6パーセントで,D銀行に対する配当額は4億円である旨が記載されている。なお,その後,資産評価額等の変更があり,配当率も何度か変更になり,特別清算申立てをした時点の配当率は3パーセントとなっており,これが最終の確定配当率となっている。 A2は,同年3月期においては,経営状態,資産状態が平成9年3月期より更に悪化し,前記(8)認定のように,累積損失が約813億円にも達していたが,D銀行は,平成10年4月以降になっても,A2の整理・清算に消極的な態度であった。さらに,V2銀行とA2の間で新たに意見の相違が生じたこともあって,同社の解散決議及び特別清算の申立ては,最終的には平成11年3月30日となった。 以上のような事実が認められる。 (二) V2銀行のA2に対する償却・引当状況また,関係各証拠によれば,V2銀行のA2に対する自己査定及び償却・引当の状況について,①V2銀行は,前記(一)の(2)認定のように,既に平成8年3月に,A2に対する貸出金の一部を債権償却特別勘定に繰り入れていたこと,②V2銀行は,平成10年3月期においては,A2を実質破綻先と自己査定した上,同社に対する貸出金のうち,Ⅲ分類及びⅣ分類の合計約160億7800万円の全額を引き当てたことなどの事実が認められる。 (三) D銀行のA2に対する償却・引当状況さらに,関係各証拠によれば,D銀行のA2に対する自己査定及び償却・引当の状況 の全額を引き当てたことなどの事実が認められる。 (三) D銀行のA2に対する償却・引当状況さらに,関係各証拠によれば,D銀行のA2に対する自己査定及び償却・引当の状況について,次のような事実が認められる。すなわち,(1) 平成9年3月期決算までの状況D銀行は,平成8年3月期決算において,A2に対する貸出金のうち,約12億9900万円を有税で債権償却特別勘定に繰り入れた。 D銀行の事業推進部は,平成9年3月期においては,当初,A2に対する貸出金のうち46億円の引当を行う予定を立てていたが,決算一次予想における償却予算が約400億円しかなかったことから,同社に対する貸出金も10億円の引当にとどめることにした。ところが,決算二次予想においては,償却予算が約700億円にまで増加したことから,事業推進部は,一旦はA2に対する貸出金の引当予定額も40億円にまで増加させたが,その後,他の貸出先に対する償却・引当額を増加させたこととの調整を図るために,上記引当予定額を20億円に減額した。しかし,その後,前記二の8の(四)認定のように,平成9年4月に関連ノンバンク3社の法的整理を行うことが決定されるとともに,同年3月期決算の償却予算が約3700億円にまで増加したことから,最終的に,A2に対する貸出金のうち,約315億8478万円が引き当てられることになった。 なお,上記引当の際の償却申請書には,「債務者の現況」として,「バブル崩壊後,地価の下落が止まらないこともあり,平成4年3月期以降赤字が続き平成8年3月期には459億円の債務超過。現在はリース・割賦回収金にて細々と営業を続けているが,資金繰り,担保繰り等当社実態は破綻している」などと記載さ ないこともあり,平成4年3月期以降赤字が続き平成8年3月期には459億円の債務超過。現在はリース・割賦回収金にて細々と営業を続けているが,資金繰り,担保繰り等当社実態は破綻している」などと記載されている。 その後,平成9年4月の金融検査の際に,D銀行が,検査官の要請を受けて,検査官の指摘した方法に基づいて作成した「Ⅲ分類における保全不足額試算」と題する資料においては,上記引当処理後のA2に対する貸出金のうち,Ⅲ分類査定額から実質保全額(担保掛け目差を含む。)を引いた保全不足額は,225億9400万円であるとされていた。 (2) 平成10年3月期決算の状況D銀行は,平成10年3月期決算において,前記三の4認定のように,有税で債権償却特別勘定に繰り入れる債務者については破綻懸念先と査定するという運用に従って,A2を破綻懸念先と自己査定した上,同社に対する貸出金残高639億1255万3935円のうち,平成8年3月期及び平成9年3月期にそれぞれ債権償却特別勘定に繰り入れた合計328億8378万9284円のほか,担保保全額及び残余資産配当見込額を控除した全額として,14億7180万6659円を有税で債権償却特別勘定に繰り入れた。 なお,D銀行は,A2の営業貸付金のうち,D銀行に担保として提供されている以外の部分は,一律に債権額の80パーセントが回収可能と評価することなどにより,A2の配当率を27.7パーセントと見込んで,上記残余資産配当見込額を計算するなどしていた。 以上のような事実が認められる。 (四) 資産査定通達及び4号実務指針に基づく債務者区分(1) D銀行は,前記(三)の(2)認定のように,平成10年3月期決算にお 以上のような事実が認められる。 (四) 資産査定通達及び4号実務指針に基づく債務者区分(1) D銀行は,前記(三)の(2)認定のように,平成10年3月期決算において,実質破綻先は無税で償却・引当を行う先に限定するという運用に従い,貸出金約14億7180万円を有税で引き当てることにしていたA2についても,債務者区分を破綻懸念先と自己査定している。 しかしながら,前記第三の三認定のように,上記決算においては,無税償却・引当の要件を満たすか否かを問わず,債務者区分を行い,個々の貸出金ごとに回収不能かどうか,最終の回収に重大な懸念があり,損失の発生が見込まれるかどうかを判断した上で,必要額を償却・引当すべきであったのであるから,D銀行の上記のような債務者区分が資産査定通達及び4号実務指針の趣旨に反し,妥当でないことは明らかである。 (2) そこで,資産査定通達及び4号実務指針に基づいて,平成10年3月期におけるA2の債務者区分を行うと,前記(一)及び(二)認定のように,①A2は,バブル経済の崩壊により平成3年ころから業況が悪化し,リースや割賦金の回収業務を行っているのみで,新規の貸付けを行っていないなど,事業を形式的に継続しているに過ぎなかったこと,②A2は,平成6年3月期から平成10年3月期まで5年連続して簿価上も債務超過に陥っており,平成10年3月期には,債務超過額が約757億円にまで膨れ上がっていた上,D銀行からの借入れについて,平成6年以降延滞し,平成10年3月末時点で,約647億円の借入金を抱えていたこと,③A2は,平成4年3月期決算以降,継続して赤字を計上し,平成10年3月期には,累積損失が約813億円にも達していたこと,④メインバンクであるV2銀行は,平成 約647億円の借入金を抱えていたこと,③A2は,平成4年3月期決算以降,継続して赤字を計上し,平成10年3月期には,累積損失が約813億円にも達していたこと,④メインバンクであるV2銀行は,平成7年4月に,A2に対する支援を打ち切って同社を整理・清算する方針を決定し,同社とも合意の上,平成9年11月ころから,平成10年3月に同社の特別清算を申し立てるという内容のH3弁護士案をD銀行に提示して応諾を求めるなど,同年3月期において,A2は再建の見通しがない状況であったこと,⑤V2銀行は,同年3月期において,A2を実質破綻先と自己査定しており,金融監督庁も,前記四の6認定のように,同年7月に実施した検査において,A2を実質破綻先と査定していることなどが認められる。 (3) これらの事情に照らせば,A2は,同年3月期においては,「法的・形式的な経営破綻の事実は発生していないものの,深刻な経営難の状態にあり,再建の見通しがない状況にあると認められるなど実質的に経営破綻に陥っている債務者」であって,「実質破綻先」に当たると認めることができる。 (五) 資産査定通達に基づく資産分類さらに,資産査定通達に沿ってA2向け貸出金の資産分類を行うと,D銀行の平成10年3月期決算においては,A2に対する貸出金残高647億294万6634円から,非分類額(債権償却特別勘定既計上額)328億8378万9284円,Ⅱ分類額(担保評価額)55億6022万4967円及びⅢ分類額(担保掛け目差,第三債務者残余資産配当見込額及び清算配当見込額)39億9987万786円を控除して算出した222億5906万1597円がⅣ分類となり,少なくとも上記Ⅳ分類額については,同期に全額を償却・引当することが必要であったものと認められる。 配当見込額)39億9987万786円を控除して算出した222億5906万1597円がⅣ分類となり,少なくとも上記Ⅳ分類額については,同期に全額を償却・引当することが必要であったものと認められる。 (六) 償却・引当不足額の計算D銀行は,前記(三)認定のように,平成10年3月期決算においては,A2に対する貸出金について,14億7180万6659円を債権償却特別勘定に繰り入れたのみで,その残額については償却・引当を行っていない。したがって,前記(五)認定のⅣ分類額から上記債権償却特別勘定繰入額を控除した207億8700万円(百万円未満切捨て)が,償却・引当不足額となる。 3 MNOグループに対する貸出金関係(一) MNOグループの形成経緯まず,関係各証拠によれば,前記第二の一の6掲記のMNOグループの形成経緯について,次のような事実が認められる。すなわち,(1) 平成9年4月の金融検査の状況ア関連ノンバンク3社の受皿会社関係D銀行は,平成9年4月1日に,経営再建策を発表し,関連ノンバンク3社の法的処理の断行を表明したが,上記3社の受皿子会社群についても,上記3社の管財人の方針に従って,資産換価後,清算する予定としていた。ところが,前記二の10認定のように,同月の金融検査においては,D銀行の予想に反して,Ⅳ分類査定額が積み上がり,復活折衝を経た後も,上記3社の受皿会社のうち19社に対する貸出金について,担保保全不足分の337億7000万円がⅣ分類に当たるものと査定された。 そこで,事業推進部は,G1常務の指示に従って,検査官に対し,Ⅳ分類に査定された関連ノンバンク3社の受皿会社につ 分の337億7000万円がⅣ分類に当たるものと査定された。 そこで,事業推進部は,G1常務の指示に従って,検査官に対し,Ⅳ分類に査定された関連ノンバンク3社の受皿会社については,D銀行が当該会社を買い取って子会社化し,事業化を進めて回収を図るという理由付けにより,Ⅳ分類額の減額を主張することにし,「関連ノンバンクの子会社への対応方針」と題する書面を提出するなどした。これに対し,関連事業部は,上記買取りは,経済的に見て必ずしも有益なものではないとして反対し,事業推進部と面談した。ちなみに,上記面談に使用された「管財人要望と3社子会社への買付金買取(2)」と題する書面には,「『買取り申出』の趣旨管財人心証,当行引当回避(先延ばし),MOF検査,CPA監査」「基本方針個別債権・株式の買取りは,当行引当回避を主目的に行うものとし,具体的な買取り交渉にあたっては他の損害の発生は極力回避する。管財人から,この目的にそわない要請ある場合,心証を害することを避けたいものの,対抗やむなし」などと記載されている。しかし,結局,事業推進部の方針によることになり,その結果,同年9月11日の大蔵省の示達においては,一旦はⅣ分類に査定されていた約337億円の上記貸出金が,Ⅲ分類に査定変更された。 イ N及びI3関係また,前記金融検査の一次査定においては,D銀行の関連ノンバンクであるF3株式会社の子会社であったN株式会社及びI3有限会社に対するD銀行の貸出金についても,担保保全不足分の約147億円がⅣ分類に当たるものと査定された。そこで,D銀行は,復活折衝の過程において,検査官に対し,D銀行が,N及びI3に対し,新規に事業資金を融資し,両社が,これを資金として消費者金融業者向け貸出業務を がⅣ分類に当たるものと査定された。そこで,D銀行は,復活折衝の過程において,検査官に対し,D銀行が,N及びI3に対し,新規に事業資金を融資し,両社が,これを資金として消費者金融業者向け貸出業務を行い,その収益によってD銀行からの既往及び新規の借入金を返済していく計画である旨の理由付けにより,Ⅳ分類査定の見直しを要請した。そして,D銀行は,金融検査部長に対し,上記理由付けによる再建計画を記載した被告人A名義の「当行関連会社に対する方針について」と題する書面を提出した。その結果,前記示達において,一旦はⅣ分類に査定されていた約147億円の上記貸出金は,Ⅲ分類に査定変更された。 ウ J3関係さらに,前記金融検査の一次査定においては,D銀行の関連ノンバンクであるG3株式会社の子会社であった株式会社J3に対する貸出金についても,担保保全不足分の約72億円がⅣ分類に当たるものと査定された。そこで,D銀行は,復活折衝の過程において,検査官に対し,J3にG3の保証を付する旨の理由付けにより,Ⅳ分類査定の見直しを要請した。そして,D銀行は,金融検査部長に対し,D銀行の支援の下に金融機関等から不良債権をディスカウントした形で購入し,これを回収して収益を上げるほか,金銭債権の評価業務を行ってその手数料収入を確保できる旨の再建計画を記載した前記「当行関連会社に対する方針について」と題する書面を提出した。その結果,前記示達において,一旦はⅣ分類に査定されていた約72億円の上記貸出金は,Ⅲ分類に査定変更された。 (2) MNOグループ各社の買取りD銀行は,前記(1)認定のように,平成9年4月の金融検査において,関連ノンバンクの受皿会社又は子会社について,いずれも再建支援を約束 (2) MNOグループ各社の買取りD銀行は,前記(1)認定のように,平成9年4月の金融検査において,関連ノンバンクの受皿会社又は子会社について,いずれも再建支援を約束し,かつ,その旨の支援方針を記載した資料を提出するなどしてⅣ分類査定を回避したことから,再建支援を行わざるを得なくなった。そこで,D銀行は,平成10年1月ころまでに,関連ノンバンク3社の破産管財人の了解を得て,上記3社の受皿会社のうち,D銀行及び関連ノンバンク以外からの借入れのない18社を実質的に買い取るとともに,後記(三)認定のように,これに関連ノンバンクの子会社であるN,I3,J3等を合わせた合計24社から成るMNOグループと称する関連会社グループを形成させた(以下,MNOグループうち,本件起訴に係る①N,②I3,③J3,④有限会社K3,⑤株式会社L3(以上は,「Nグループ」に所属),⑥株式会社M3,⑦株式会社N3,⑧株式会社O3,⑨有限会社P3,⑩株式会社Q3,⑪株式会社R3,⑫有限会社S3及び⑬T3株式会社(以上は,「Oグループ」に所属)の13社を「N等13社」という。)。 以上のような事実が認められる。 (二) MNOグループ全体の財務状況次に,関係各証拠によれば,MNOグループ全体の財務状況等について,次のような事実が認められる。すなわち,(1) MNOグループ各社は,関連ノンバンク3社等の財務内容を表面上改善するために,関連ノンバンク3社等の抱える不良債権や多額の含み損を抱えた有価証券を簿価で譲り受けたり,第三債務者が関連ノンバンク3社等に差し入れていた売却処分の困難な担保不動産を時価より相当高い価格で購入するなどして,関連ノンバンク3社等の不良資産の受皿となる目的 た有価証券を簿価で譲り受けたり,第三債務者が関連ノンバンク3社等に差し入れていた売却処分の困難な担保不動産を時価より相当高い価格で購入するなどして,関連ノンバンク3社等の不良資産の受皿となる目的で設立されたり,買収されたりした関連ノンバンク3社等の子会社であった。また,MNOグループ各社は,D銀行から役職員が派遣されているのみで,各社独自の従業員はおらず,本店として同一の事務所を使用しているのみであった。そして,MNOグループ各社は,上記譲受けに係る不良債権の回収業務や上記買取りに係る不動産の管理等の資産保全をするにとどまり,積極的な収益事業はしていなかったため,追加融資を受けなければ,関連ノンバンク3社等に対する利払いすらできない状態であった。 (2) そして,平成10年3月期において,後記(三)の(1)掲記のMグループ7社は,負債が合計約193億円であるのに対し,資産(時価)が合計約83億円に過ぎず,後記(三)の(1)掲記のNグループ8社は,負債が合計約1178億円であるのに対し,資産(時価)が合計約79億円に過ぎず,後記(三)の(1)掲記のOグループ9社は,負債が合計約1069億円であるのに対し,資産(時価)が合計約80億円に過ぎず,MNOグループ各社は,いずれも大幅な債務超過に陥っていた。とりわけ,MNOグループのうちN等13社は,株式会社M3(以下「M3」という。)を除いて,数期連続して収益が皆無であり,M3についても,収益は計上されているものの,これは保有物件を損切りで売却したものに過ぎなかった。このように,上記13社は,すべて経常利益及び当期利益のいずれも損失が継続し,著しい債務超過で,負債の返済能力に欠けた状態であった。 以上のような事実が認められる。 (三) MNOグルー 13社は,すべて経常利益及び当期利益のいずれも損失が継続し,著しい債務超過で,負債の返済能力に欠けた状態であった。 以上のような事実が認められる。 (三) MNOグループの再建計画の策定経緯及び内容また,関係各証拠によれば,MNOグループの再建計画の策定経緯及び内容等について,次のような事実が認められる。すなわち,(1) MNOグループの構想の決定D銀行は,平成9年4月の金融検査の示達後も,その検査の際に提出した前記(一)の(1)のイ掲記の「当行関連会社に対する方針について」と題する書面に記載された事業を進めていなかったが,同年10月下旬,S監査法人の公認会計士から,「I3及びNについては,平成10年3月までに少なくとも計画の半分程度は,消費者金融業向けの貸付けを積み上げてもらわないと,我々も説明ができません。消費者金融業向けの貸付けを積み上げない場合には,本当にⅡ分類で良いのか,中身を細かく見ざるを得なくなります」「J3については,平成10年5,6月までに再建計画の進捗が進んでいない(保証を徴していない)場合には,何らかの処理をお願いせざるを得ません」などと指摘された。 そこで,D銀行は,平成9年11月,関連事業部において,上記3社を関連ノンバンク3社の受皿会社と合わせて,M株式会社を中核とする全7社からなるグループ(以下「Mグループ」という。)が100億円規模の有価証券の運用及び投資を,②Nを中核とし,有限会社K3,株式会社L3,I3及びJ3を含む全8社からなるグループ(以下「Nグループ」という。)が300億円規模の消費者金融業向け貸付けやファクタリングを,③O株式会社を中核とし,M3,株式会社N3,株式会社O3,有限会社P3 びJ3を含む全8社からなるグループ(以下「Nグループ」という。)が300億円規模の消費者金融業向け貸付けやファクタリングを,③O株式会社を中核とし,M3,株式会社N3,株式会社O3,有限会社P3,株式会社Q3,株式会社R3,有限会社S3及びT3株式会社を含む全9社からなるグループ(以下「Oグループ」という。)が300億円規模の不動産保有,開発事業等をそれぞれ行うという合計700億円規模の新規事業の構想を立てた(以下,上記各社につき,「株式会社」又は「有限会社」の表記を省略する。)。 (2) 再建計画の策定状況しかし,関連事業部は,前記構想を立てた後も,MNOグループの具体的な再建計画の策定を進めることができず,J3に対する貸出金について保証を徴求することもしなかった。そして,関連事業部が,平成10年2月19日,S監査法人のH2会計士に対し,「詳細な事業計画については,各社で策定中であるが,3月中には計画を完成させ,当行として全面的に支援していく方針です」などと説明したところ,H2会計士は,「計画は,いつごろできますか。3月末のぎりぎりに提出されて,我々と認識が違うようなことになっても,貴行は対応できない(引当を積むことはできない)でしょう」などと述べ,計画を早々に提出するように催促した。さらに,H2会計士は,R1経理部長に電話を掛け,「関連事業部の説明は,余りにも内容がない。明日にでもお会いしたい」などと苦情を述べた。そこで,R1経理部長は,上記19日夜,関連事業部に対し,「事業計画も何もなくCPA説明に臨むのは,余りにも危険。至急,倍々ゲームでも何でも良いから,計画を策定して提出すること。取りあえず,明日は,『計画はありません』とは言えないので,『計画はありますが,先生にお見せできるような 明に臨むのは,余りにも危険。至急,倍々ゲームでも何でも良いから,計画を策定して提出すること。取りあえず,明日は,『計画はありません』とは言えないので,『計画はありますが,先生にお見せできるような段階ではありません』と回答しておく」などと言って叱責した。 そのため,関連事業部は,経理部と打合せをしながら,後記(3)認定のような内容のMNOグループの再建計画を策定した。なお,上記打合せの結果を記載した面談記録には,経理部のコメントとして,「今後,経理部が握りの交渉をする時,返済期間が20年からスタートしても握りようがない。返済期間20年ではH2会計士が悩むだけ」「説明は返済期間がまずありきで構わない。即ち,『当行としては7~8年で回収の予定です。そのためには資金投下は惜しみません』と言う」「今後計画をフォローされた場合には,『環境が変わった』と答えれば良い」「第2グループのサラ金は500億円等そもそも理屈のない数字であるから,いくら積み上げようが関係ない」などと記載されている。 (3) 再建計画の内容関連事業部が策定したMNOグループの再建計画は,①Mグループでは,保有資産(有価証券)を約100億円で売却し,その代金を元手にD銀行投資顧問株式会社と投資一任契約を締結して,投資利益率8パーセントの収益を上げることにより,Mグループ全体において約13年間で既往の借入金を返済する,②Nグループでは,1000億円をD銀行から新規に借り入れ,これを消費者金融業者向けに貸し付けて,投資利益率6パーセントの収益を上げることにより,Nグループ全体において約18年間で既往の借入金を返済する,③Oグループでは,500億円をD銀行から新規に借り入れてサービサー業務を行い,経費控除後の投資利益率20パ ントの収益を上げることにより,Nグループ全体において約18年間で既往の借入金を返済する,③Oグループでは,500億円をD銀行から新規に借り入れてサービサー業務を行い,経費控除後の投資利益率20パーセントの収益を上げることにより,Oグループ全体において約8年間で既往の借入金を返済するというものであった。 (4) 再建計画の実施状況前記再建計画の策定後も,平成10年12月の時点で,Mグループは,D銀行から全く支援を受けておらず,事業らしいことも全く営んでいなかったほか,Nグループは,消費者金融業者に合計約9億円を貸し付けたにとどまっており,Oグループも,D銀行から約14億円の出資を受けたに過ぎなかった。 他方,関連事業部は,被告人Cの指示を受け,MNOグループの追加要償却額を算定した同年6月15日付けの「受皿会社の概要」と題する書面を作成した。上記書面には,MNOグループ全体で約912億円の追加償却が必要である旨が記載されていたほか,Mグループについて,「課税問題解決できず,清算予定」,Nグループについて,「消費者金融業向け貸金を実施するということで,現状は追加償却を回避しているものの,資産内容から追加償却の回避には限界がある。将来的には清算やむなし」,Oグループについて,「不良債権ビジネスに取組むということで,現状は追加償却を回避している。資産内容から追加償却の回避には限界があり,大半の先は清算やむなし」などと記載されていた。 また,関連事業部は,同月17日,MNOグループへの今後の対応に関して,経理部の意見を聴取したが,その際の面談記録には,R1経理部長の発言として,MNOグループの方向性について,「チャンス(当行予算,ディスクロ債権次第)があれば清算で グループへの今後の対応に関して,経理部の意見を聴取したが,その際の面談記録には,R1経理部長の発言として,MNOグループの方向性について,「チャンス(当行予算,ディスクロ債権次第)があれば清算であり,誰も本気で生かしていこうなどとは思っていないことは確認しておきたい」,Mグループについては,「清算やむなし(理由課税回避策の万策尽きたこと,実績フォローされた場合,CPAに対して抗弁不可)」,Nグループ及びOグループについては,「追加で債特を設定する場合は,回収の可能性がないということから設定するのではなく,当行の財務内容健全性の観点から設定するという理屈でお願いしたい。あくまで回収は可能であり不良債権でないという理屈付でないとディスクロも回避できないから」などと記載されていた。さらに,関連事業部が,同年8月に,R1経理部長から連絡を受けた際の面談記録には,同部長の発言として,「MNOに関するCPAへの説明も考慮し,約10億円程度,MNOへの配分を考えている。CPA説明は経理部としてもサポートするが,MNOにおいて新規事業自体が進捗しているとの形を見せるための約10億円の投資である」などと記載されていた。 以上のような事実が認められる。 (四) MNOグループに対する償却・引当状況さらに,関係各証拠によれば,D銀行のMNOグループに対する自己査定及び償却・引当の状況について,次のような事実が認められる。すなわち,(1) 平成10年3月期以前の償却・引当状況事業推進部は,平成9年3月期決算においては,MNOグループのうち,Q及びRの不良債権の受皿会社10社については,実質破綻先と自己査定した上,貸出金を有税で債権償却特別勘定に繰り入れたが,その他の受皿会 推進部は,平成9年3月期決算においては,MNOグループのうち,Q及びRの不良債権の受皿会社10社については,実質破綻先と自己査定した上,貸出金を有税で債権償却特別勘定に繰り入れたが,その他の受皿会社については,破綻懸念先と自己査定し,貸出金の償却・引当を行わなかった。 関連事業部は,同年9月期においても,当初,上記自己査定結果を踏襲して,MNOグループ各社のうち,不良債権の受皿会社については実質破綻先と自己査定し,その他の会社については破綻懸念先と自己査定していた。ところが,事業推進部は,有税で債権償却特別勘定に繰り入れた債務者については,破綻懸念先とする方針を決定していたことから,関連事業部に指示し,MNOグループ各社について,いずれも破綻懸念先と自己査定させた。さらに,事業推進部は,前記三の6認定のように,同年12月に,大蔵省銀行局銀行課から同年9月期の自己査定結果を報告するように求められた際,被告人A及び同Bの了解を得た上,MNOグループ各社をすべて要注意先として報告した。 (2) 平成10年3月期の償却・引当状況事業推進部は,平成10年3月期決算において,大蔵省銀行局への前記報告と同様に,MNOグループ各社をすべて要注意先と自己査定し,各社に対する貸出金の償却・引当をしない方針を立て,関連事業部にその旨を指示した。しかし,その後,事業推進部は,S監査法人の指摘を受けた結果,Nグループ及びOグループのうち,前記(三)の(3)認定の再建計画によっても,3年以内に帳簿上も債務超過が解消しないI3等6社については,要注意先から破綻懸念先に債務者区分を変更せざるを得なくなり,また,Mグループのうちの5社については,前記四の3の(三)認定のように,新たに債権償却特別勘定に繰り入れざ 消しないI3等6社については,要注意先から破綻懸念先に債務者区分を変更せざるを得なくなり,また,Mグループのうちの5社については,前記四の3の(三)認定のように,新たに債権償却特別勘定に繰り入れざるを得なくなった。もっとも,事業推進部は,N等13社については,D銀行が支援して事業化を進めることにより,回収の見込みがあるとして,N,L3,I3,J3,R3及びS3をいずれも破綻懸念先と債務者区分し,K3,M3,T3,N3,O3,P3及びQ3をいずれも要注意先と債務者区分した上,上記13社に対する貸出金合計1843億4969万9592円につき,全く償却・引当を行わなかった。 以上のような事実が認められる。 (五) 資産査定通達及び4号実務指針に基づく債務者区分(1) D銀行は,前記(四)認定のように,平成10年3月期決算において,MNOグループに属するN等13社について,D銀行が支援して事業化を進めることにより,債権回収の見込みがあるものとして,要注意先又は破綻懸念先と自己査定した上,上記13社に対する貸出金について,全く償却・引当を行わなかった。 しかしながら,後記(2)で検討するように,上記支援は,償却・引当を回避するための形ばかりのものに過ぎず,支援意思が真意のものではなく,再建計画にも合理性が認められないのであるから,D銀行の上記のような債務者区分が妥当でないことは明らかである。 (2) そこで,資産査定通達及び4号実務指針に基づいてN等13社の債務者区分を行うと,前記(一)から(三)まで認定のように,①上記13社は,もともと関連ノンバンクの不良資産の受皿会社であり,平成9年4月の金融検査の際に,Ⅳ分類査定を回避する目的でD銀行が急遽買い取るなどしただけの ,前記(一)から(三)まで認定のように,①上記13社は,もともと関連ノンバンクの不良資産の受皿会社であり,平成9年4月の金融検査の際に,Ⅳ分類査定を回避する目的でD銀行が急遽買い取るなどしただけの会社に過ぎず,平成10年3月期においても,D銀行から役職員が派遣されているのみで,各社独自の従業員はおらず,本店として同一の事務所を使用しているだけであるなど,いずれも実態のない会社であったこと,②上記13社は,平成10年3月期に至るまで,1社を除いて,数期連続して収益が皆無であり,残る1社も主として保有物件を売却した収益のみが計上されている状態であるなど,いずれも経常利益及び当期利益ともに損失が継続し,著しい債務超過に陥っており,事業収入等からD銀行に対する負債元本を返済することができず,負債の返済能力が欠けた状態にあったこと,③上記13社は,平成10年3月期において,D銀行が真実の支援意思を有しておらず,また,再建計画と称するものも合理性を欠いていたため,いずれも再建の見通しがない状況であったこと,④上記13社は,前記四の6認定のように,同年7月に実施された金融監督庁の検査において,いずれも実質破綻先と査定されたことなどが認められる。 (3) これらの事情に照らせば,上記13社は,同年3月期においては,「法的・形式的な経営破綻の事実は発生していないものの,深刻な経営難の状態にあり,再建の見通しがない状況にあると認められるなど実質的に経営破綻に陥っている債務者」であって,「実質破綻先」に当たると認めることができる。 (六) 資産査定通達に基づく資産分類さらに,資産査定通達に従ってD銀行のN等13社に対する貸出金の資産分類を行うと,D銀行の平成10年3月期決算においては,上記13社に対する貸出金合 資産査定通達に基づく資産分類さらに,資産査定通達に従ってD銀行のN等13社に対する貸出金の資産分類を行うと,D銀行の平成10年3月期決算においては,上記13社に対する貸出金合計1843億4969万9592円から,非分類額(債権償却特別勘定既計上額,償還金勘定入金額等)709億8398万1289円,Ⅱ分類額(担保評価額,関連ノンバンク3社の現預金からの中間配当見込額等)191億6621万8258円及びⅢ分類額(担保掛け目差,第三債務者残余資産配当見込額,関連ノンバンク3社からの破産配当見込額等)323億3801万695円を控除して算出した618億6148万9350円がⅣ分類となり(百万円未満切捨てで計算すると,618億5400万円),少なくとも上記Ⅳ分類額については,同期に全額を償却・引当することが必要であったものと認められる。 (七) 償却・引当不足額の計算D銀行は,前記(四)の(2)認定のように,平成10年3月期決算においては,N等13社に対する貸出金について,全く償却・引当を行っていない。したがって,前記(六)認定のⅣ分類額618億5400万円(百万円未満切捨て)が,償却・引当不足額となる。 4 Lグループに対する貸出金関係(一) Lグループの沿革まず,関係各証拠によれば,前記第二の六掲記のLグループの沿革等について,次のような事実が認められる。すなわち,(1) Lグループの形成経緯D銀行は,バブルの崩壊後,財務状況が悪化した関連ノンバンクである前記第二の一の6掲記のR社に対する支援の一環として,U3株式会社を設立し,同社に購入資金を貸し付けて,Rの営業貸付金の貸付先保有の不動産を買い取らせたことを皮 務状況が悪化した関連ノンバンクである前記第二の一の6掲記のR社に対する支援の一環として,U3株式会社を設立し,同社に購入資金を貸し付けて,Rの営業貸付金の貸付先保有の不動産を買い取らせたことを皮切りに,L株式会社,V3株式会社ほか多数の同様の受皿会社を順次設立し,「Lグループ」と称する関連会社群を形成した。 Lグループは,当初は,関連会社の物件を買い取って債権を保全し,同物件の事業化を進めて,その付加価値を高めることにより,債権の極大回収を図ることなどを目的として設立された受皿会社群であった。しかし,その後,地価の下落や不動産不況が続き,D銀行の一般先に対する不良債権が増加していったことから,D銀行は,関連会社のみならず,破綻したW3グループの残余財産取得会社等をLグループに編入し,さらに,業況悪化や事業破綻に陥った一般先についても,実質的に経営権を取得した上,不良資産の一括管理を名目に同グループに編入するなどしたため,同グループの会社数は,増加を続け,平成7年3月で16社,平成8年3月で24社,平成9年3月で34社,平成10年3月で39社となった(以下,Lグループのうち,本件起訴に係る①株式会社R2,②V3株式会社,③株式会社O2,④Q2株式会社及び⑤X3株式会社の5社を「R2等5社」という。)。 (2) Lグループの実態D銀行は,Lグループについて,保有する不動産を利用して事業化を図り,これによって得られる事業収益や商品化した不動産の売却益によって,D銀行の貸出金を極大回収するとしていたが,バブル崩壊後の地価下落等の下においては,D銀行が期待した貸出金の極大回収はほとんど実現しなかった。また,前記二の3認定のように,Lグループ形成のスキームは,その実施により延滞債権が一時 していたが,バブル崩壊後の地価下落等の下においては,D銀行が期待した貸出金の極大回収はほとんど実現しなかった。また,前記二の3認定のように,Lグループ形成のスキームは,その実施により延滞債権が一時正常化される上,同グループに属する会社については,一般先と異なり,D銀行の支配下にあり,突然に法的破綻に移行することもないことから,いわゆる不良資産の飛ばしを行って,不良債権化した貸出金に係る償却・引当負担が一時に集中する事態を避け,順次,償却余力に合わせて段階的に償却を実施するという不良債権の償却・引当の先送りの手段としても利用されていた。 そして,Lグループは,マスコミから,不良資産飛ばしのための存在として,しばしば厳しく批判されていた。なお,平成5年7月30日に,総合企画部,広報部及び事業推進部でLグループに関するマスコミ対応を検討した際の面談記録には,「関係14社は住所も同じ,電話番号も同じ,役員もL社,Y3の役員が兼任,オフィスに行くと看板もかかっていない,ということで,その辺りが明らかにされれば,いわゆる飛ばしという報道をされても仕方がない」「関係14社は明らかに担保不動産の受け皿会社であり,問題なのは保有簿価がマーケット実勢に比べて高いことである」などと記載されている。 以上のような事実が認められる。 (二) Lグループ全体の財務状況次に,関係各証拠によれば,Lグループ全体の財務状況等について,次のような事実が認められる。すなわち,(1) Lグループ各社は,その中核会社であるL株式会社の役職員(その大半は,D銀行の退職者やD銀行及び関連会社からの出向者である。)が職務を兼任し,本店所在地も同一であるなど,独立企業としての実態がない上,多額の含み損 は,その中核会社であるL株式会社の役職員(その大半は,D銀行の退職者やD銀行及び関連会社からの出向者である。)が職務を兼任し,本店所在地も同一であるなど,独立企業としての実態がない上,多額の含み損のある不動産を保有し,大幅な債務超過状態にあり,既往の借入金の金利全額の支払能力すらない会社が大半であった。そこで,D銀行は,延滞状態の発生を防止するため,毎期,多額の利払いのための資金を追加融資していたが,この追加融資は,D銀行の不良債権増大の一因を成していた。 (2) D銀行の事業推進部の調査によれば,平成9年3月末当時,①Lグループ全体のD銀行に対する負債額は約3571億円であるのに対し,総資産は簿価評価でも約3425億円にとどまり,債務超過額は約508億円に達し,総資産を時価評価した場合には,一層大幅な債務超過に陥っていること,②賃料等の事業収入は約59億円に過ぎず,営業損失が約85億円あり,営業外費用を加えた経常損失は約192億円にも上っていること,③上記債務超過額及び損失額は,平成7年3月期以降急増したもので,同グループ各社の財務状態及び業況は,悪化の一途を辿っていることなどが判明していた。 以上のような事実が認められる。 (三) R2等5社の財務状況及び再建計画の内容また,関係各証拠によれば,Lグループに属する前記(一)の(1)掲記のR2等5社の財務状況及び再建計画の内容について,次のような事実が認められる。 すなわち,(1) V3関係ア V3の財務状況V3株式会社は,平成4年4月,D銀行又は関連ノンバンクの回収見込みのない不良債権の担保不動産を取得させる目的で設立された受皿会社であり,D銀行から融資を受け 3の財務状況V3株式会社は,平成4年4月,D銀行又は関連ノンバンクの回収見込みのない不良債権の担保不動産を取得させる目的で設立された受皿会社であり,D銀行から融資を受けて,D銀行の不良債権の担保不動産であった東京都g区h所在の土地を買い取っていた。D銀行は,当初,上記土地を事業化した上で売却して回収を図るとともに,平成13年3月期に同社の特別清算を完了して,回収不能額を償却・引当する計画を立てていた。しかし,V3は,設立当初から不動産市況が芳しくなかったこともあり,上記土地の売却の目処も立たず,具体的な事業化計画を策定することもできず,上記土地を更地のままで駐車場として賃貸していたに過ぎなかった。 D銀行の融資第二部等の調査によれば,V3は,平成9年3月期まで3期連続で債務超過の状態が継続し,当期損益も同期まで3期連続で赤字が継続しており,約182億円の借入金が残存していた。また,平成9年8月当時,同社が唯一保有している上記土地については,簿価が約175億9000万円であるのに対し,路線価が約63億4700万円になるなど,物件の価値が約3分の1にまで下落し,保全不足が約110億円に上っていた。そして,平成10年3月末においては,同社は,D銀行に対する負債が181億7100万円であるのに対し,資産(時価)が約29億円に過ぎず,事業収入が上記土地の賃料収入の年間約2200万円にとどまり,D銀行の追加融資がなければ,毎期約5億円となる借入金利息の支払すらできない状態であった。 なお,後記(五)認定のように,V3については,U3株式会社の保証がなされていた。しかし,U3自体が,稼働物件の収益率が低いために,約定金利の支払ができず,しかも,稼働物件は,多額の含み損を なお,後記(五)認定のように,V3については,U3株式会社の保証がなされていた。しかし,U3自体が,稼働物件の収益率が低いために,約定金利の支払ができず,しかも,稼働物件は,多額の含み損を抱えていた。そして,U3は,償却・引当を回避するために立てた再建計画によっても,貸出金の全額返済ができず,その営業貸付金を償却・引当しなければならない状況であったため,U3の保証には実効性がなかった。ちなみに,U3は,平成11年2月26日,破産宣告を受けている。 イ V3の再建計画の内容D銀行は,V3が所有する東京都g区h所在の土地について,Z3等に賃貸し,レストラン付きのスーパーマーケットを建設するという計画(hZ3計画)を構想していたが,同計画は,結局,実現に至らなかった。 その後,D銀行は,平成10年3月期決算の監査に際し,S監査法人に対し,上記土地について,暫定的に和食のレストラン業者への賃貸を継続し,平成12年に開通予定とされていた都市計画道路の敷設を待って,賃貸オフィスビルの建設を行い,高度利用化を図り,20年間の運用収益と不動産処分により貸出金を回収するという事業計画を説明した。しかし,上記都市計画道路の着工時期等は,確定されておらず,また,上記事業計画では,5年後においても,利払い後の利益は6400万円とされており,元本回収年数は318年とされていた。 (2) O2関係ア O2の財務状況株式会社O2は,D銀行の貸出先である株式会社A4の子会社として設立され,建売分譲事業のため,D銀行から融資を受けて長崎県下で土地開発・造成を行っていた。しかし,A4の業況が悪化したことから,D銀行は,A4向け貸出 銀行の貸出先である株式会社A4の子会社として設立され,建売分譲事業のため,D銀行から融資を受けて長崎県下で土地開発・造成を行っていた。しかし,A4の業況が悪化したことから,D銀行は,A4向け貸出金をO2に付け替えるとともに,同社において開発・造成工事中の長崎市内の土地を同工事完了時点の平成8年3月期に売却させることによって,早期に貸出金を回収し,未回収分は速やかに償却することを計画していた。しかし,上記工事は,同年4月ころに完成したものの,工事終了後の具体的な計画もなく,しかも,折からの不動産不況に加え,更地のままでは多額の売却損が出てしまうことから,上記土地の売却も極めて困難な状況であった。そこで,D銀行は,平成9年5月に,Lグループに属する子会社のB4株式会社にO2の株式を備忘価格(1株1円)で取得させて,同社をLグループに編入した。 D銀行の融資第一部等の調査によれば,O2は,平成10年3月期当時,3期連続で売上金の計上がなく,当期損益赤字及び債務超過の状態が継続しており,平成6年9月時点において,既に大幅な担保不足に陥っていた。また,同社は,上記工事の完成後も,業況が悪化し,開発事業遂行能力を失っており,平成10年3月末において,D銀行に対する負債が193億8649万2094円であるのに対し,資産(時価)が約57億円に過ぎず,D銀行への利払いは,D銀行から運転資金名目の追加融資を受けて賄っている状態であった。 イ O2の再建計画の内容D銀行は,平成10年3月期決算の監査に際し,S監査法人に対し,今後,約400億円を投資してi市内の前記土地上にマンション,ホテル等の複合施設を建設した上,これを代金約600億円で一括分譲してO2に対する貸出金の回収を図る旨の の監査に際し,S監査法人に対し,今後,約400億円を投資してi市内の前記土地上にマンション,ホテル等の複合施設を建設した上,これを代金約600億円で一括分譲してO2に対する貸出金の回収を図る旨の再建計画を説明していた。 しかしながら,平成9年5月にO2がLグループに編入された後,D銀行は,取引先の不動産会社であるC4に依頼して,上記土地のプロジェクト化の可能性について調査させたところ,具体的なプロジェクトに着手する妙案はない旨の結論が出された。また,個人消費の冷込みの深刻化等に伴い,旅館やホテルの倒産が増えるなどして,平成10年3月期には,O2が当初の目的であるリゾート開発を進めることは困難な状況であった。しかも,平成10年3月期においては,上記土地の正確な測量図すら存在しておらず,従前の役員関係の係争の処理を行いながら,上記土地の測量を実施している状況であり,同測量図は,同年夏ころになって漸く完成した。さらに,D銀行は,上記再建計画のほかに,上記土地を宅地造成して住宅地として分譲するという計画も検討したものの,新たなインフラストラクチャー整備のための追加投資が必要で,売却価格への跳返りもあることから,大規模開発の可能な業者を見付けるのも困難で,具体的検討に入る前に廃案になるなどしており,同年5月末ころには,「最終的には物件売却による回収方針であるが,当面,一般経費を含めた最低限の資金支援を行う」方針とされ,積極的な新規事業の資金の支出は予定されていなかった。 (3) R2関係ア R2の財務状況株式会社R2は,経営破綻したW3グループの資産管理会社として設立され,昭和61年12月以降,同グループの資産整理を図るため,D銀行から融資を受け,同グル R2の財務状況株式会社R2は,経営破綻したW3グループの資産管理会社として設立され,昭和61年12月以降,同グループの資産整理を図るため,D銀行から融資を受け,同グループの保有資産を買い取ってその売却を進めていたものであり,D銀行としては,R2が保有不動産等の処分を終えた時点で,同社に対する貸出金の未回収分を償却・引当する予定であった。しかし,D銀行は,上記予定を実現することができず,平成8年9月に,Lグループに属する子会社にR2の経営権を取得させ,同社をLグループに編入した。 D銀行の融資第二部等の調査によれば,R2は,平成10年3月期当時,D銀行に対する負債が128億5000万円であるのに対し,資産(時価)が約50億円に過ぎず,3期連続で売上金の計上がなく,当期損益赤字及び債務超過の状態が継続していた。また,R2は,保有不動産が,j市内の更地(k物件)を除けばいずれも換価価値に乏しく,保有不動産の賃貸等による事業収入も,毎期約2億円ないし5億円発生するD銀行に対する支払利息及び運転資金の一部を捻出する程度のものであった。なお,平成8年4月18日付け営業第9部作成の「㈱R 2 D4の修繕工事について」と題する書面には,「以上の状況を考慮すれば,いずれは当社資金の繰回しが困難となるのは不可避で,早晩,会社を清算せざるを得ない」などと記載されている。 イ R2の再建計画の内容D銀行は,唯一事業化の見込みのあるk物件についても,R2の清算を睨んでできる限り高額で売却することを検討していたのみであり,同社の保有資産を稼働させて事業化することは検討していなかった。平成9年12月には,E4株式会社から,k物件にホテルを建設して事業化する計画が持ち きる限り高額で売却することを検討していたのみであり,同社の保有資産を稼働させて事業化することは検討していなかった。平成9年12月には,E4株式会社から,k物件にホテルを建設して事業化する計画が持ち込まれたが,D銀行は,平成10年2月に同社から同計画について具体的な提案がなされるまで,自ら具体的な行動に出ることはしなかった。 その後,D銀行は,同年3月期決算の監査の際,S監査法人に対し,上記計画による事業収入及び20年後のk物件の売却によって回収可能であるので,R2に対する貸出金の償却・引当は不要である旨主張した。 しかし,他方で,D銀行は,同年2月の段階では,同年3月期に,R2に対する貸出金の引当を行うことを検討しており,同年3月中旬には,平成11年度にR2の保有不動産を処分して整理を決定し,平成12年度には同社を整理・清算するスケジュールを組み,その関係で,Ak物件の事業主体もR2以外の会社とする方向で検討を進めていた。また,D銀行は,平成10年3月中旬,上記計画について,E4に対し,「ホテル事業を行うと,自由に土地を利用・処分できなくなることや,駐車場の高層化の方が,費用対効果の面でいいのではないかとかで,悩んでいる」「現段階では,具体化の条件面等で折り合わず,白紙に返る可能性があることを前提に,前向きの話合いを続けていきたいと考えている」などと回答することにしていたのである。 なお,D銀行が,同年7月の金融監督庁の検査に際し,検査官に提出した資料によれば,5年後におけるR2の元本回収年数は94.5年であるとされていた。 (4) X3及びQ2関係ア X3及びQ2の財務状況Q2株式会社(以下「Q におけるR2の元本回収年数は94.5年であるとされていた。 (4) X3及びQ2関係ア X3及びQ2の財務状況Q2株式会社(以下「Q2」という。)は,昭和63年2月,F4の開発許可法人として設立され,平成6年7月に,株式会社G4(以下「G4」という。)の完全子会社となっていた。Q2は,平成4年10月に上記開発許可を取得し,D銀行から融資を受けて,上記ゴルフ場開発事業を進めてきた。しかし,G4が,事業遂行能力を喪失したことに伴い,D銀行への借入金の返済が困難になったので,D銀行は,G4に対する貸出債権保全の観点から,同年12月に,LにG4の株式を取得させ,同社をX3と商号変更した上,Lグループに編入した。 D銀行の融資第二部等の調査によれば,平成10年3月期当時,X3は,D銀行に対する負債が176億1000万円であるのに対し,資産(時価)が約8億円にとどまり,また,Q2は,D銀行に対する負債が14億7736万8000円であるのに対し,資産(時価)が約7億円に過ぎなかった。さらに,両社は,いずれも3期連続で売上金の計上がなく,当期損益赤字及び債務超過の状態が継続していた。そして,両社がLグループに編入された後も,上記ゴルフ場の造成工事は,全く進展しておらず,建設予定地への工事用進入路及び橋梁のみが完成したにとどまっていた。しかも,両社は,いずれもD銀行への利払資金について,D銀行から運転資金名目の追加融資を受けて賄っていたものであり,平成8年10月ころからは,L2との間で,将来の買取りも含めて共同事業化について交渉を行っていたが,価格面で折り合わず,平成9年12月に同社が倒産したこともあって,上記開発は,頓挫した状態になっていた。 L2との間で,将来の買取りも含めて共同事業化について交渉を行っていたが,価格面で折り合わず,平成9年12月に同社が倒産したこともあって,上記開発は,頓挫した状態になっていた。 イ X3及びQ2の再建計画の内容D銀行は,平成10年3月期決算についての監査に際し,S監査法人に対し,今後,約50億円を投資して前記ゴルフ場を完成させ,会員権の販売益及び事業収入によって両社への貸出金を回収する旨の再建計画を説明していた。 しかしながら,平成7年ころから現在に至るまで,利用客数の低迷,ゴルフ場開発の頓挫,ゴルフ会員権相場の下落,会員への預託金返還問題の深刻化,金融機関のゴルフ場業者に対する貸渋り等を原因として,ゴルフ場関連業者の倒産が急増するなど,ゴルフ業界を取り巻く環境は,厳しさを増している。そのため,平成10年ころは,国内の18ホールのゴルフ場では,年間1億円前後の営業利益しか見込めず,F4が完成しても,借入金の利払分を超えて収益を上げることは期待できなかった。また,前記ア認定のように,X3のD銀行からの借入金は約176億円,Q2のD銀行からの借入金は約14億円に上るところ,18ホールの地方ゴルフ場の会員権の募集価格は1口300万円程度しか見込めず,計画どおり1500名の会員を集めるのは困難であることから,会員権販売のみで借入金を返済することはできない上,F4の建設予定地は,山林であって,換価価値を大きく見込むことは困難であった。 なお,上記建設予定地は,X3及びQ2の破産後である平成13年8月7日,栃木県l郡m町に5500万円で売却されたが,同町は,上記土地を単に町有林として保有するのみで,平成14年末の時点において,今後のゴルフ場の建設や他 ,X3及びQ2の破産後である平成13年8月7日,栃木県l郡m町に5500万円で売却されたが,同町は,上記土地を単に町有林として保有するのみで,平成14年末の時点において,今後のゴルフ場の建設や他への転売の予定は存在していない。 以上のような事実が認められる。 (四) 平成10年4月の常務会による支援の決定さらに,関係各証拠によれば,平成10年4月の常務会によるLグループに対する支援の決定について,次のような事実が認められる。すなわち,(1) S監査法人は,D銀行の平成10年3月期決算を監査する中で,D銀行に対し,「関連会社でないこれらの会社について,Lグループとして,従来かつ今後とも支援先として位置付けるのであれば,これだけ大きな支援をしているのであるから,銀行としての機関決定(取締役会か,少なくとも回議書ベース)がないというのは考えられない。当方としても,それでは通らない」などと指摘していた。 (2) そこで,事業推進部は,平成10年4月中旬ころ,前記指摘への対応を検討して,「Lグループの支援方針について」と題する資料を作成し,同月22日に開催された常務会に付議した。同常務会においては,常務取締役H4から,「基本的な考え方を確認したいのだが,CPAは,常務会で考え方を確認しろと言っているのか,それとも取締役会までかけろと言っているのか」などと質問が出されたのに対し,G1常務は,「CPAの考え方も良く分からない点がある。常務会にかけろと言ったかと思えば,別の場ではそこまでは必要ないと言ったりする。Lグループに対しては,これまでも事業化資金を出してきているが,今後,債務超過会社に対して資金を出すということもあるので,今回,大雑把な追加資金の目処をかけさせてもら までは必要ないと言ったりする。Lグループに対しては,これまでも事業化資金を出してきているが,今後,債務超過会社に対して資金を出すということもあるので,今回,大雑把な追加資金の目処をかけさせてもらった」などと回答した。 (3) D銀行は,前記(三)の(2)認定のように,S監査法人に対し,O2の1社のみでも,今後,事業化のために約400億円を投資する旨説明していたにもかかわらず,前記「Lグループの支援方針について」と題する資料には,「既存物件・事業に係る当面の支援額は,事業化追加投資資金350億円,運転資金200億円の合計550億円を限度とする」としか記載されていなかった。また,上記資料では,いつまでにどれだけの金額を追加支援するのかが明確ではなかった。そこで,前記常務会において,常務取締役I4が,「資金供与は,5年間ということか」などと言って確認したところ,K2事業推進部長は,「そのとおりである。もっとも,CPAが一番言いたいのは,更地のような未事業化案件を早く事業化しろということである。そうは言っても,すぐに事業化できるようなものではなく,取りあえずの目途として5年と置いたものである」などと回答した。 以上のような事実が認められる。 (五) Lグループに対する償却・引当状況そして,関係各証拠によれば,D銀行のLグループに対する自己査定及び償却・引当の状況について,次のような事実が認められる。すなわち,(1) D銀行は,平成10年3月期決算において,Lグループは支援先であるから,回収に懸念はない旨の理由付けにより,同グループに対する貸出金については償却・引当の対象外とする方針であったが,平成9年9月期の監査の際に,S監査法人から,同年4月の金融検査の際に大蔵 であるから,回収に懸念はない旨の理由付けにより,同グループに対する貸出金については償却・引当の対象外とする方針であったが,平成9年9月期の監査の際に,S監査法人から,同年4月の金融検査の際に大蔵省に提出した再建計画書に基づく説明では不十分であるとして,平成10年3月期に引当を行うように示唆された。そこで,D銀行は,決算一次予想の段階から,Lグループに対する貸出金につき175億円を引き当てることを予定していた。 (2) その後,D銀行は,平成10年2月にも,S監査法人から,Lグループについて全く引当しないのは無理である旨指摘されたので,同グループ各社について,未稼働物件はすべて5年後に稼働し,稼働率は100パーセントで,20年後に保有物件の価格は2倍になることを前提に,20年間の事業収益及び20年後の物件売却によりD銀行の貸出金の回収を図る旨の事業計画を立て,償却・引当は不要である旨主張した。しかし,同監査法人は,上記計画によっても債務が残るU3,V3及びJ4株式会社の残債合計約110億円の償却・引当が必要であると指摘した。そこで,D銀行は,S監査法人の指示に従って償却・引当を行うことにしたが,償却・引当を行った債務者について追加融資を行うことは,背任の問題が生じ,難しくなることから,U3の回収不能見込額のみを引当することにし,他の2社の債務については,U3が保証することによって,引当を行わないことにした。 なお,事業推進部作成の「Lグループの10年3月期処理方針(CPA指摘への対応)」と題する書面には,「U3の保証能力に難はあるが,たっての要請もあり断る理由もない」などと記載されている。 (3) その結果,D銀行は,平成10年3月期決算においては,U3については,破綻懸念先と自己査 U3の保証能力に難はあるが,たっての要請もあり断る理由もない」などと記載されている。 (3) その結果,D銀行は,平成10年3月期決算においては,U3については,破綻懸念先と自己査定して,約109億2800万円を債権償却特別勘定に繰り入れ,その他のLグループ各社については,債務者区分を要注意先とした上,これに対する貸出金をⅡ分類と査定し,償却・引当を全く行わなかった。 以上のような事実が認められる。 (六) 資産査定通達及び4号実務指針に基づく債務者区分(1) D銀行は,前記(五)認定のように,平成10年3月期決算において,Lグループに属するR2等5社について,D銀行が支援して事業化を進めることにより,債権回収の見込みがあるものとして,要注意先と自己査定した上,上記5社に対する貸出金について,全く償却・引当を行わなかった。 しかしながら,後記(2)で検討するように,上記支援は,償却・引当を回避するための形ばかりのものに過ぎず,支援意思が真意のものではなく,再建計画にも合理性が認められないのであるから,D銀行の上記のような債務者区分が妥当でないことは明らかである。 (2) そこで,資産査定通達及び4号実務指針に従ってR2等5社の債務者区分を行うと,前記(一)から(三)まで認定のように,①上記5社は,D銀行等の回収不能見込みの不良債権の担保不動産を取得させる目的で設立された受皿会社,経営破綻した会社の資産管理会社又は事業遂行能力を喪失した会社であって,いずれも長期間にわたって予定した事業が頓挫した状態になっていたこと,②上記5社は,いずれも3期連続で当期損益赤字及び債務超過の状態が継続し,資産に対して過大な負債を抱え,事業収入等からD銀行に対する負 も長期間にわたって予定した事業が頓挫した状態になっていたこと,②上記5社は,いずれも3期連続で当期損益赤字及び債務超過の状態が継続し,資産に対して過大な負債を抱え,事業収入等からD銀行に対する負債元本を返済することができず,利息についても,D銀行から運転資金名目の追加融資を受けて賄うなどしていたこと,③上記5社は,平成10年3月期において,D銀行が真実の支援意思を有しておらず,また,再建計画と称するものも合理性を欠いていたため,いずれも再建の見通しがない状況であったこと,④上記5社は,前記四の6認定のように,同年7月に実施された金融監督庁の検査において,いずれも実質破綻先と査定されたことなどが認められる。 (3) これらの事情に照らせば,上記5社は,同年3月期においては,「法的・形式的な経営破綻の事実は発生していないものの,深刻な経営難の状態にあり,再建の見通しがない状況にあると認められるなど実質的に経営破綻に陥っている債務者」であって,「実質破綻先」に当たると認めることができる。 (七) 資産査定通達に基づく資産分類さらに,資産査定通達に沿ってR2等5社に対する貸出金の資産分類を行うと,D銀行の平成10年3月期決算においては,上記5社に対する貸出金合計694億9486万94円から,非分類額(優良担保評価額)8億2397万6800円,Ⅱ分類額(担保評価額)94億4780万397円及びⅢ分類額(担保掛け目差及び一般保証による配当見込額)30億3158万162円を控除して算出した561億9150万2735円がⅣ分類となり(百万円未満切捨てで計算すると,561億8900万円),少なくとも上記Ⅳ分類額については,同期に全額を償却・引当することが必要であったものと認められる。 (八) 償 35円がⅣ分類となり(百万円未満切捨てで計算すると,561億8900万円),少なくとも上記Ⅳ分類額については,同期に全額を償却・引当することが必要であったものと認められる。 (八) 償却・引当不足額の計算D銀行は,前記(五)認定のように,平成10年3月期決算においては,R2等5社に対する貸出金について,全く償却・引当を行っていない。したがって,前記(七)認定のⅣ分類額561億8900万円(百万円未満切捨て)が,償却・引当不足額となる。 六各弁護人の主張に対する判断 1 MNOグループ及びLグループの再建の見通し(一) 各弁護人は,MNOグループ及びLグループについて,D銀行に真実の支援意思があり,再建計画に合理性があったことは明らかであるから,N等13社及びR2等5社の合計18社は実質破綻先に区分されるべきではなく,上記18社に対する貸出金を償却・引当する必要はなかった旨主張する。 (二) しかしながら,上記18社の再建計画は,いずれもD銀行から新規に多額の融資を受け,最長で20年に及ぶ長期間にわたり,極めて収益性の高い事業を継続するなどして,D銀行からの既往の多額の借入金を返済するというものであるところ,そのような再建計画の内容自体に加え,本件当時の業況,社会経済の情勢,上記18社の設立経緯,財務状況や実態,それまでの事業化の進捗状況,支援を行うD銀行の財務状況等に照らすと,上記再建計画の実現可能性には多大な疑問があるといわざるを得ない。そして,これらの事情に,前記五の3の(三)及び4の(三)認定のような再建計画の策定経緯やその後の実施状況,とりわけ,D銀行が一部の会社については平成10年3月期決算から間もなく清算を検討していることなどをも合わせ考えると,D銀行の上 )及び4の(三)認定のような再建計画の策定経緯やその後の実施状況,とりわけ,D銀行が一部の会社については平成10年3月期決算から間もなく清算を検討していることなどをも合わせ考えると,D銀行の上記18社に対する支援は,償却・引当を回避するための形ばかりのものであり,真実の支援意思がなく,上記再建計画にも合理性がないものと認めることができるのであって,各弁護人の上記主張は,失当である。 2 J2に対する貸出金の担保保全不足額の算定(一) 各弁護人は,D銀行の平成10年3月期決算におけるJ2に対する貸出金の担保の評価方法には何ら不合理な点はなく,これを前提とした償却・引当処理を虚偽ということはできない旨主張する。すなわち,各弁護人は,①D銀行は,上記決算において,J2に対する貸出金の担保債権の処分可能見込額を合理的に見積もることのできる資料がなかったので,取りあえず担保債権を額面で評価してもなお不足する部分を引き当て,その残りについては,清算手続の進行に合わせ,処分可能見込額が判明するに従って処理することにしたものであって,このような処理は,D銀行の自己査定基準に準拠し,S監査法人にも適正と認められたものである,②D銀行融資第二部作成の平成10年3月31日付け「準備資料」と題する書面記載の実質保全不足額約297億円は,担保債権を額面の20パーセントで評価したものに過ぎず,確たる根拠はないので,上記約297億円の償却・引当をしなければ財務諸表が虚偽になるということはできない旨主張している。 (二) しかしながら,資産査定通達は,担保評価額の算出について,「客観的・合理的な評価方法で算出した評価額(時価)をいう」とのみ定めているのであるから,担保債権について,正常債権と延滞債権を区別せず,一律に額面で評価した 査定通達は,担保評価額の算出について,「客観的・合理的な評価方法で算出した評価額(時価)をいう」とのみ定めているのであるから,担保債権について,正常債権と延滞債権を区別せず,一律に額面で評価したD銀行の上記評価方法は,資産査定通達の文言に明らかに反するものである。また,D銀行は,前記五の1の(一)の(6)認定のように,上記実質保全不足額を算定する以前から,自らJ2に対する保全不足額を試算しているほか,前記五の1の(一)の(7)認定のように,平成10年1月開催の四行会において,T2銀行から,D銀行の保全不足額を315億円と推計した資料を受け取っているのである。さらに,前記五の1の(一)の(9)認定のように,J2が特別清算申立て後に清算協定案可決の準備のために作成した資料によれば,D銀行の別除権金額を除いた一般債権金額は約294億円とされており,上記実質保全不足額と近似した額が算出されているのである。そして,実際にも,前記五の1の(二)認定のように,D銀行以外の主力3行は,平成10年3月期決算において,J2に対する貸出金について,いずれも実質的担保不足額まで償却・引当を行っているのであり,とりわけ,I2銀行は,S監査法人の指摘を受け,J2を実質破綻先と査定した上,同社に対する貸出金のⅣ分類全額を償却・引当しているのである。 (三) これらの事情に照らせば,主力4行の一員であるD銀行は,平成10年3月期決算当時において,J2に対する貸出金の担保保全不足額を合理的に見積もることができたというべきである。そして,上記決算当時,J2に対する貸出金の実質担保保全不足額を約297億円と算出しておきながら,実際の決算に当たっては,殊更に担保債権を額面で評価し,約80億円しか償却・引当をしなかったD銀行の処理が,適正かつ合理的なものといえな 出金の実質担保保全不足額を約297億円と算出しておきながら,実際の決算に当たっては,殊更に担保債権を額面で評価し,約80億円しか償却・引当をしなかったD銀行の処理が,適正かつ合理的なものといえないことは明らかであり,各弁護人の上記主張は,理由がない。 3 J2等の償却・引当不足額算定の資料(一) 各弁護人は,J2及びA2に対する貸出金の前記償却・引当不足額は,いずれもD銀行が平成10年3月期決算当時に利用することができなかった資料を基に,時点修正をするなどして算定されているところ,上記算定方法は,その結果の数字と以前になされた推計値とが違えば,その差額が虚偽ということになる大変危険な方法であって,このように事後的に不当な方法で算定された金額に基づいて,虚偽の記載と決め付けることはできない旨主張する。 (二) しかしながら,前記五の1の(六)及び2の(六)認定のJ2及びA2に対する貸出金の償却・引当不足額は,いずれも正確な資料を使用し,資産査定通達及び4号実務指針に基づく合理的な算定方法によって算出されたものである。そして,D銀行自身も,前記2の(二)で検討したように,平成10年3月期決算当時,その当時に利用できた資料のみによっても,J2に対する貸出金について,上記償却・引当不足額に近似した実質の担保保全不足額を合理的に見積もることができたのである。さらに,A2についても,前記五の2の(一)の(8)認定のように,D銀行がA2から同年3月に提出を受けた資料において,同社向け貸出金に対する残余資産からの一般配当は,特別清算の場合には配当率が4.2パーセントで,破産の場合には配当率が0.6パーセントにとどまる見込みであるとされており,また,前記五の2の(一)の(5)認定のように,それ以前にD銀行がV2銀行から 別清算の場合には配当率が4.2パーセントで,破産の場合には配当率が0.6パーセントにとどまる見込みであるとされており,また,前記五の2の(一)の(5)認定のように,それ以前にD銀行がV2銀行から同意を求められたH3弁護士案においても,A2の残余資産からの一般配当が,5パーセント程度とされているのであるから,D銀行は,上記決算当時,上記償却・引当不足額に近似した担保保全不足額を合理的に算出することができたというべきである。 (三) それにもかかわらず,D銀行は,償却・引当財源が不足していたため,当初から,J2及びA2に対する貸出金の回収不能見込額を合理的に算出してその償却・引当を行おうとはせず,J2については担保債権を過大に評価し,A2については配当率を27.7パーセントと過大に見積もるなどして,回収不能見込額を過少に算定した上,その償却・引当しか行わなかったのである。したがって,両社に対する貸出金の前記償却・引当不足額の算定に当たり,平成10年3月期決算当時にD銀行が利用できない資料を基礎にしているからといって,そのようにして算出された前記償却・引当不足額に基づき,D銀行が本件有価証券報告書に記載した当期未処理損失額に虚偽があったと断じることができなくなるものでないことは明らかであり,各弁護人の上記主張は,採用することができない。 4 A2の残余財産配当額(一) 被告人Cの弁護人は,前記五の2の(六)認定のA2の償却・引当不足額の計算は,債権配当に関する初歩的なミスを犯している旨主張する。すなわち,上記計算は,残余財産配当率を4.2パーセントと見積もった上,これを貸出合計額約647億円から担保等による回収可能額を控除した残額に乗じて算出された額である約24億円を残余財産配当額としているが,上記約647 ,残余財産配当率を4.2パーセントと見積もった上,これを貸出合計額約647億円から担保等による回収可能額を控除した残額に乗じて算出された額である約24億円を残余財産配当額としているが,上記約647億円は,D銀行のA2に対する債権元本でしかなく,これだけが配当対象となるものではない。D銀行は,このほかに利息債権約118億円,保証履行請求権約56億円を有するのであるから,残余財産配当額の計算に当たっては,これらを加味し得ることは当然である。もしこれらを考慮しても,配当率が変化せず,上記計算のその他の点がすべて正確だとすれば,D銀行に対する配当額は約10億円増額されるのであり,この点のみをとらえても,前記償却・引当不足額が真実の金額たり得ないことは明らかである。被告人Cの弁護人は,以上のような主張をしている。 (二) しかしながら,平成10年3月期当時,A2が計画していたのは任意整理又は特別清算であり,後にA2が実際に行ったのも特別清算であるところ,任意整理や特別清算においては,厳格な破産手続とは異なり,残余財産配当額の計算に当たり,関係当事者の合意によって,利息債権や保証履行請求権を配当対象から控除することが多いのが,実務における実際の取扱いである。また,本件公訴事実は,A2に対する貸出金元本の償却・引当不足額のみをとらえて起訴しており,同社に対する利息債権や保証履行請求権の償却・引当不足額は起訴の対象としていないのであるから,償却・引当不足額の計算に当たって,貸出金元本に対する残余財産配当額のみを控除することは,合理的な計算方法であるというべきである。これらの事情に加え,前記五の2の(一)の(8)認定のように,A2の最終の確定配当率は,4.2パーセントを下回り,3パーセントであったことをも合わせ考えると,被告人Cの弁護人の るというべきである。これらの事情に加え,前記五の2の(一)の(8)認定のように,A2の最終の確定配当率は,4.2パーセントを下回り,3パーセントであったことをも合わせ考えると,被告人Cの弁護人の上記主張は,失当というほかない。 5 平成9年4月の金融検査の結果との関係(一) 各弁護人は,D銀行は,MNOグループ及びLグループに対する貸出金について,平成9年4月の金融検査の結果をも参考資料としながら,平成10年3月期決算を行ったのであるから,上記決算に虚偽はない旨主張する。そして,各弁護人は,その理由として,上記検査においては,①MNOグループに対する貸出金について,「管財業務支援の一環から,親会社が有する各社向け債権を当行が買い取るなど,当行の子会社として,当分の間存続を図り,地価や株価の動向とキャリングコストを考慮しつつ,存続会社と整理会社に区分する方針を明確化していることから,Ⅲ分類にとどめている」とされており,②Lグループに対する貸出金についても,Ⅲ分類とされたものの,このⅢ分類は,他のⅢ分類と区別して,「当行が今後とも支援を続ける方針を有しており,当行の意志に反して倒産することはないと考えられる」先に対する債権である旨の性格付けをされていたのであるから,上記2グループのいずれについても,再建計画の作成等に必要な期間が当然想定されていたものと考えるべきであり,上記検査から1年も経っていない上記決算で償却・引当しなければ違法であるというような指摘は,上記検査においてもされていなかった旨主張している。 (二) しかしながら,そもそも,債務者の状況を最も良く把握しているのは飽くまでも金融機関であるから,金融検査で償却・引当の実施を指摘されなかったとしても,金融機関は,各時点において,自ら貸出金等の回 二) しかしながら,そもそも,債務者の状況を最も良く把握しているのは飽くまでも金融機関であるから,金融検査で償却・引当の実施を指摘されなかったとしても,金融機関は,各時点において,自ら貸出金等の回収可能性を判断した上で,必要額を償却・引当すべきであって,金融検査の結果をそのまま利用すれば良いわけではない。すなわち,資産査定通達及び4号実務指針に従えば償却・引当しなければならない貸出金等について,金融検査の結果ではそのようになっていないからといって,当然にこれを償却・引当しなくても良いということになるものではない。実際にも,4号実務指針は,「5 監査手続の適用」において,「自己査定制度導入後の会計監査において,検査当局の検査結果は,監査上の参考として常に注意を払う必要があるが,検査時点の相違や頻度の相違等の理由から,当局の検査結果をそのまま監査判断の基礎として利用すれば足りるとはいえないことに注意する必要がある」としているのである。 さらに,資産査定通達及び4号実務指針によれば,貸出金がⅢ分類に該当する場合には,決して償却・引当が不要になるものではなく,破綻懸念先や実質破綻先等の債務者区分に応じて,必要な損失額を償却・引当することが,義務付けられているというべきである。ちなみに,T2銀行,I2銀行,A3銀行及びV2銀行では,その担当者が,Ⅲ分類の貸出金について,債務者区分を実質破綻先とした場合には,原則として全額を償却・引当すべきであり,債務者区分を破綻懸念先とした場合であっても,その無担保部分は原則として全額を償却・引当すべきであると考えている旨述べており,実際にも,前記五の1の(二)及び2の(二)認定のように,上記各行のJ2及びA2に対する貸出金でⅢ分類と査定されたものについて,実質破綻先とした場合はもとより, きであると考えている旨述べており,実際にも,前記五の1の(二)及び2の(二)認定のように,上記各行のJ2及びA2に対する貸出金でⅢ分類と査定されたものについて,実質破綻先とした場合はもとより,破綻懸念先とした場合であっても,必要額の償却・引当を行っているのである。それにもかかわらず,D銀行は,前記金融検査でⅢ分類と査定されたMNOグループ及びLグループの各社に対する貸出金について,監査法人から指摘があって初めて償却・引当をした一部の会社を除き,全く償却・引当を行わなかったばかりでなく,Lグループについては,合理的な理由もないのに,Ⅲ分類からⅡ分類に自己査定を変更しているのであって,これらの事情に照らせば,D銀行は,むしろ,上記検査結果を反映しない内容の決算を行ったものということができるのである。 しかも,D銀行は,前記1認定のように,①MNOグループ各社については,上記検査後,再建計画を策定して存続会社と整理会社に区分することもせずに放置を続け,平成10年2月に至り,監査法人から指摘を受けて,漸く形ばかりの再建計画を策定したに過ぎず,②Lグループ各社についても,上記検査後,具体的な再建計画を策定しておらず,新規事業の資金の支出も行っていないなど,上記2グループ各社のいずれに対しても,真実の支援意思が認められないのである。 このように,D銀行は,平成10年3月期においては,上記2グループ各社の再建計画について,上記検査結果がその前提としている真摯な立案及び実行の意思を有しておらず,また,上記各社に対する真実の支援意思も有していなかったのであるから,そもそも,その再建計画の作成等に必要な期間を考慮する余地はないというべきであって,各弁護人の上記主張は,理由がない。 6 会計監査における適法・適正 支援意思も有していなかったのであるから,そもそも,その再建計画の作成等に必要な期間を考慮する余地はないというべきであって,各弁護人の上記主張は,理由がない。 6 会計監査における適法・適正意見との関係(一) 各弁護人は,D銀行の平成10年3月期決算は,S監査法人が,十分な資料を入手して深度ある監査を行った上,適正であると認めたものであるから,虚偽ということはできない旨主張する。 (二) しかしながら,S監査法人所属の公認会計士らは,前記四の5の(一)認定のように,D銀行の平成10年3月期決算の監査を行うに当たり,MNOグループ及びLグループの各再建計画の合理性及びその前提となるD銀行の支援意思の有無や,J2の特別清算の方針,A2の特別清算の受諾及び同社向け貸出金の残余資産配当見込額等の重要な情報について,それに関する多数の内部資料を見せられたこともなく,また,それらの資料に記載されている内容を知らされたこともなかったである。 そして,実際にも,S監査法人自身が,前記四の5の(三)認定のように,「株式会社D銀行の監査証明に関する報告書」において,J2及びA2の引当不足額について,「そのような重大な情報が得られない状況において入手し得た諸資料の範囲内で算定した為,重要な引当不足はないと判断せざるを得なかった」「監査に必要な重要書類が会社から示されておらず,D銀行が重要事項の報告を行わなかったことから,監査上の限界と認識せざるを得ないと判断する」などと記載し,D銀行から,上記2社向け貸出金の回収可能見込額を正確に検証するために必要な資料の提出を得られず,引当不足を指摘するための十分な根拠を得ることができなかったことを認める旨の意見を表明しているのである。 なお,H2会計士は, 込額を正確に検証するために必要な資料の提出を得られず,引当不足を指摘するための十分な根拠を得ることができなかったことを認める旨の意見を表明しているのである。 なお,H2会計士は,当公判廷において,会計監査のために必要かつ十分な資料及び情報を入手していた旨証言しているが,上記証言は,上記報告書の記載にも反しており,同会計士の捜査段階における供述とも異なっているのであって,信用することができない。 (三) これらの事情に照らせば,S監査法人が,D銀行の平成10年3月期決算について,十分な資料を入手して深度ある監査を行った事実は認められないといわざるを得ず,弁護人の前記主張は,その前提を欠くものであって,排斥を免れない。 7 各弁護人のその他の主張その他,各弁護人は,D銀行の平成10年3月期決算に償却・引当不足額が存しない旨を縷々主張するが,各弁護人の主張は,いずれも失当であって,採用することができない。 七平成10年3月期決算における真実の当期未処理損失額(一) これまで認定してきたように,D銀行の平成10年3月期決算においては,N等13社,R2等5社,J2及びA2の合計20社に対する各貸出金について,少なくとも合計1597億8200万円(百万円未満切捨て。以下この項において同じ。)の償却・引当不足が認められる。 (二) ところで,D銀行は,前記決算において,M3及びR2等5社を要注意先と自己査定した上,これらに対する貸出金合計837億3400万円に貸倒実績率に基づく引当率(千分の6.3)を乗じて算出した5億2900万円を一般貸倒引当金に繰り入れている。しかし,上記各社の債務者区分は,前記五の3及び4認定のように,実質破綻先であるから,上記各社に対する貸出金に係る償却 千分の6.3)を乗じて算出した5億2900万円を一般貸倒引当金に繰り入れている。しかし,上記各社の債務者区分は,前記五の3及び4認定のように,実質破綻先であるから,上記各社に対する貸出金に係る償却・引当は,一般貸倒引当金への繰入れではなく,各社ごとに貸倒償却又は債権償却特別勘定への繰入れによるべきである。してみると,一般貸倒引当金のうち,上記5億2900万円は,過大に引当されていることになる。 また,D銀行が本件有価証券報告書に記載した当期未処理損失額の612億7400万円に,償却・引当不足の前記1597億8200万円が加わることによって,有税債権特別勘定への繰入額が変動することになるので,それに伴って,税効果相当取崩額が2000万円増大することになる。 (三) したがって,D銀行の平成10年3月期決算における真実の当期未処理損失額は,前記20社に対する償却・引当不足額の合計1597億8200万円から,前記(二)認定の過大引当額の5億2900万円及び税効果相当取崩額の2000万円を減算した1592億3300万円に,公表の当期未処理損失額612億7400万円を加算した2205億700万円であったと認められる。 八結論以上によれば,本件有価証券報告書は,D銀行の平成10年3月期決算において,貸出金につき合計1592億3300万円(百万円未満切捨て)の償却・引当を行わず,当期未処理損失を同額過少に計上して作成されたものであるから,重要な事項につき虚偽の記載のあるものであったことは明らかである。 第五被告人3名の故意及び共謀の有無一各弁護人の主張各弁護人は,被告人3名は,D銀行の平成10年3月期決算に償却・引当不足があるとは認識しておらず,したがって,本件有価証券報告書の重要な事項につき 意及び共謀の有無一各弁護人の主張各弁護人は,被告人3名は,D銀行の平成10年3月期決算に償却・引当不足があるとは認識しておらず,したがって,本件有価証券報告書の重要な事項につき虚偽の記載があるという認識がなかったので,被告人3名にはいずれも虚偽記載有価証券報告書提出の故意及び違法性の意識がなく,共謀も認められない旨主張する。 二 D銀行の財務状況及び不良債権処理に関する被告人3名の言動そこで,検討すると,関係各証拠によれば,これまでに認定した各事実に加え,D銀行の全体的な財務状況及び不良債権処理に関する被告人3名の言動等について,次のような事実が認められる。すなわち, 1 D銀行の平成9年3月期以前の不良債権及びその処理状況(一) 被告人AのD銀行顧問就任時における不良債権の現況説明被告人Aは,平成5年1月にD銀行の顧問に就任したが,その際,Z頭取や業務推進部の担当役員であったA1常務らから,D銀行の不良債権やその処理の現況等について説明を受けた。A1常務らが上記説明の際に使用した「業務推進部の概要」と題する書面には,「問題債権総額 367先 2兆669億円」「償却対象 2000億円」「担保不動産取得による当行償却コントロール」「問題債権を物件化することで債権保全を強化し,計画的償却体制をとる」などと記載されていた。 (二) 平成5年の金融検査の結果の示達状況被告人Aは,平成5年6月に頭取に就任したが,その後,大蔵省は,前記第四の二の6の(一)認定のように,D銀行に対し,同年8月16日を基準日とする金融検査を実施し,平成6年1月20日にその結果を示達した。被告人Aは,上記検査の示達書及び検査報告書を丹念に読み,関連ノンバンク3社等のD銀 認定のように,D銀行に対し,同年8月16日を基準日とする金融検査を実施し,平成6年1月20日にその結果を示達した。被告人Aは,上記検査の示達書及び検査報告書を丹念に読み,関連ノンバンク3社等のD銀行の関連会社の下には,企業としての実態のない多数の受皿子会社が存在しており,これに不良債権や不良資産を移管していることを明確に認識した。すなわち,被告人Aは,関連ノンバンク3社等の経営状態を少しでも良く見せ掛けるために,回収が困難な第三債務者に対する貸出金や,時価が簿価を下回って大きな含み損を抱えた不動産や有価証券について,これを額面や簿価で受皿子会社に移管させることを行っており,その際,D銀行本体からも受皿子会社に対して買取資金を融資していることを認識した。 (三) 平成8年2月の日銀調書の認識状況その後,日銀は,前記第四の二の6の(三)認定のように,平成8年2月,D銀行に対する日銀調書を実施した。被告人A及び同Cは,同月27日,日銀のE1考査役から,「所見」及び「D銀行調書」を受け取り,日銀考査局長K4から,上記「所見」の内容を口頭で伝達された。 これに対し,被告人Aは,「ただ今の所見と私の認識は,全く同じである。当行の基本的な姿は,1年前の考査の際と変わっていないが,事態の変化に伴い,前回考査ではやや留保してもらっていた『実勢要償却額』の数字が,よりはっきりしてきたということだと思う。当行の公表不良債権は,1兆3000億円であるが,実態は公表不良債権にほとんど近いくらいのロス額があると見れば,今回調書の『実勢要償却額』1兆2000億円とちょうど合う」などと印象を述べた。その上で,被告人Aは,「住専の要処理額は,3500億円であるが,1兆2000億円という全体のロス額を考えれば,不良債権処理 書の『実勢要償却額』1兆2000億円とちょうど合う」などと印象を述べた。その上で,被告人Aは,「住専の要処理額は,3500億円であるが,1兆2000億円という全体のロス額を考えれば,不良債権処理は,“long way to go”である。今3月期で全力を挙げて不良債権を処理するにしても,体力を消耗し尽くした後の先は,まだまだ長い。どのような形の処理をするか考えどころである」などと発言した。なお,被告人Aは,行内の情報管理について,「本来であれば,行内で情報をある程度開示し,危機感を共有すべきところを,ごくごく限られた人間にしか本当の経営実態を知らせないという対応を余儀なくされてきた。現時点で全体を把握しているのは,私と総合企画担当のC常務だけである」などと述べていた。 被告人A及び同Cは,上記日銀調書を閲読して,D銀行の財務内容の深刻さを改めて認識した。 (四) 日銀関係者の被告人Bに対する事前説明被告人Bは,平成7年10月ころ,日銀国際局長として日銀支店長会議に出席したが,同会議の配付資料には,D銀行が,同年2月から,「特定取引先」(特に注意を要する経営内容にあり,早急に何らかの経営改善策を講じる必要のある取引先)に指定されており,「実質債務超過及び実質自己資本1パーセント以下の取引先で,注意与信比率が高い」とされている旨が記載されていた。 その後,被告人Bは,日銀副総裁L4から勧奨を受けて,D銀行に入行することになり,平成8年5月下旬にD銀行顧問に就任した。被告人Bは,正式に着任する以前に,日銀出身のD銀行副会長M4の訪問を受け,D銀行の関連ノンバンク3社が,バブル経済期に過大な融資を行ったために,多額の不良債権を抱えており,上記不良債権問題がD銀行の深刻な経営上の 着任する以前に,日銀出身のD銀行副会長M4の訪問を受け,D銀行の関連ノンバンク3社が,バブル経済期に過大な融資を行ったために,多額の不良債権を抱えており,上記不良債権問題がD銀行の深刻な経営上の問題点になっている旨の説明を受けた。 また,被告人Bは,そのころ,日銀考査局管理課長N4から,平成7年2月の日銀考査及び平成8年2月の日銀調書の各結果について説明を受けて,上記考査及び調書におけるD銀行の資産の査定額がそれぞれ前記第四の二の6の(二)及び(三)認定のとおりであったことや,上記考査では実勢要償却額が約8000億円であったのに,上記調書ではそれが1兆2000億円を超えており,公表の決算上は債務超過になっていないものの,ネット体力で見ると,実質債務超過になっていることなどを聞かされた。なお,被告人Bは,当公判廷において,D銀行が実質的に債務超過状態にあることについては,N4管理課長から説明を受けていない旨供述しているが,上記供述は,N4管理課長及び日銀信用機構局長O4の捜査段階における各供述等の関係各証拠に照らし,信用することができない。 さらに,被告人Bは,旧知のO4信用機構局長からも,D銀行の資産内容が極めて厳しい状況にあり,関連ノンバンク3社の借入先の金融機関に対する利払資金の融資等により,D銀行の業務純益を垂れ流している状況にあるので,これを止めない限り,近い将来,立ち行かなくなる旨の説明を受けた。 (五) 被告人Aらの被告人Bに対する業況説明被告人Bは,平成8年5月30日にD銀行に正式に着任したが,その後,被告人Aらから,D銀行の不良債権の現況等について,①D銀行には,直近の同年3月期において,公表不良債権と呼ばれるもののみでも,1兆4000億円以上の不良債 0日にD銀行に正式に着任したが,その後,被告人Aらから,D銀行の不良債権の現況等について,①D銀行には,直近の同年3月期において,公表不良債権と呼ばれるもののみでも,1兆4000億円以上の不良債権があり,そのうち,業況の芳しくない破綻先及び延滞先に対する貸出金は,6725億円に上ること,②関連ノンバンク3社を始めとするD銀行の関連会社の業績は,総じて悪化しており,D銀行が,上記3社の不良債権を母体行責任により負担するのは困難であること,③これらの不良債権処理のため,近い将来,取りあえず1000億円ないし2000億円の増資が必要だと考えていることなどを説明された。 2 関連ノンバンク3社処理の検討状況被告人Aは,前記第四の二の7認定のように,G1常務から,関連ノンバンク3社を早期に整理・清算すべきであるとの進言を受け,平成8年9月中旬ころから,被告人C,G1常務のほか,A1副頭取ら主要な役員に,関連ノンバンク3社の処理方針について集中的に協議を行わせた。G1常務は,同協議において,「問題債権の現況(与信残高,平成8年3月末)」と題する書面等の事業推進部が作成した資料を使用し,問題債権のうち,担保保全不足額が2兆4453億円であり,同担保保全不足額から債権償却特別勘定繰入額及び特定海外債権引当勘定繰入額の合計4415億円を控除した残額が約2兆円に上ることなど,D銀行の不良債権の現況を説明した。 なお,被告人Aは,上記協議そのものには参加していなかったものの,上記協議が開始される以前から,年2回くらいの割合で,G1常務から,上記「問題債権の現況(与信残高,平成8年3月末)」と題する書面と同様の資料を受け取っていた。また,G1常務は,被告人Bが平成9年8月に頭取に就任した後は,同被告人に対しても,被告人A 1常務から,上記「問題債権の現況(与信残高,平成8年3月末)」と題する書面と同様の資料を受け取っていた。また,G1常務は,被告人Bが平成9年8月に頭取に就任した後は,同被告人に対しても,被告人Aとともに類似の資料を渡していた。 3 被告人3名の平成9年4月の金融検査への対応状況(一) 営業部店長連絡会議における被告人Aの発言D銀行は,前記第四の二の7の(六)認定のように,平成8年11月,いわゆる裏念書に関する新聞報道がなされたことや,P4銀行が破綻して戦後初めての銀行業務の停止命令を受けたことなどを契機として,その発行に係る金融債と他の金融機関発行の金融債との流通利回りの格差が拡大し,株価が下落するなどの問題が発生した。そのため,被告人Aは,このままではD銀行の経営が重大な危機に瀕するのではないかと懸念し,大蔵省の金融検査が入れば,その検査での分類査定によっては,多額の償却・引当を迫られ,P4銀行の二の舞になりかねないとの危機感を抱いた。 そこで,被告人Aは,同年12月20日に開催された営業部店長連絡会議において,「早期是正措置が導入されるが,当行の死命を制するともいえる。総力を挙げて,対処する必要がある」「何と言っても,欠損見込みを極力減らしたい。債務超過になったら大変。P4銀行の二の舞になる。嘘をつけとは言わないが,説明を尽くして欠損見込額を減らしてほしい。説明の技術の粋を尽くしてやってほしい。説明技術で,相手の印象が違う。心積もりいかんで,結果が変わる。良く勉強して,中味について自信を持って対応してほしい。不用意に対応するな。あらかじめ準備シナリオを作ってほしい」などと発言した。 (二) 被告人Aの金融検査部長に対する陳情その後,D銀行は,前記 信を持って対応してほしい。不用意に対応するな。あらかじめ準備シナリオを作ってほしい」などと発言した。 (二) 被告人Aの金融検査部長に対する陳情その後,D銀行は,前記第四の八認定のような経緯を経て,平成9年4月1日,経営再建策を発表するとともに,同年3月期決算により,現時点で償却・引当が必要な不良債権の損失処理はすべて終了したとして,増資引受先の金融機関に対する要請を開始し,被告人Bは,L1を皮切りに,大手生損保会社に日参して,増資引受けを要請して回った。 他方,上記増資要請と並行して金融検査が実施されることになったことから,被告人Aは,これに先立ち,同年4月4日,U1金融検査部長に電話を掛け,「当行の状況は,再建策発表後も依然として厳しい。手分けして関係先を回っている。検査に来られると伝えられているけれども,当方から言える話ではないが,今来られても,ラインシートの作成や膨大の資料の作成等,十分な対応が難しい。もし来られるとしても,資産査定重点とか,簡易な検査で済ませてもらえないか。当行は,今病気の最中であり,病人にはそれなりの配慮があるものと考えるが・・・」などと述べて,検査の時期を遅らせるか,検査をなるべく簡略にするように陳情した。これに対し,U1金融検査部長は,「頭取も,検査部長でおられたから良く御承知と思うが,いつ伺うかは何とも言えないけれども,前回検査から相当経過しており,これまで貴行の置かれている状況を良く考えて対応してきたところであり,いつまでもやらないわけにはいかない。しかし,検査に参上する場合も,検査負担に配慮するなど,御趣旨を踏まえて対処する。病人だからこそ,検査を早くすべきとの声も多い」などと回答した。 (三) 被告人Aの関係役員に対する指示 査に参上する場合も,検査負担に配慮するなど,御趣旨を踏まえて対処する。病人だからこそ,検査を早くすべきとの声も多い」などと回答した。 (三) 被告人Aの関係役員に対する指示被告人A及び同Cらは,前記経営再建策策定の過程で大蔵省の協力が得られており,また,U1金融検査部長から前記(二)認定のような回答が得られていたこともあって,上記金融検査でⅢ分類,Ⅳ分類額が積み上がることはないものと楽観的に予想していた。ところが,実際に検査が開始されると,被告人Aらの上記予想に反して,Ⅲ分類額とⅣ分類額が積み上がり,平成9年5月12日時点の一次査定において,Ⅳ分類額が約1448億円にまで積み上がり,Ⅲ分類額が約1兆485億円という膨大な金額となった。 被告人Aは,前記第四の二の10の(四)認定のように,同月初旬以降,G1常務から貸出金の分類査定状況等について報告を受け,S1総括主任検査官からも,「お宅は,のんびりし過ぎている。すぐ恐れ入ってしまって,ろくな反論をしない。我々を騙すくらいの意気込みで反論してください」などと言われたため,D銀行の担当者の検査に対する姿勢が甘いのではないかと考え,被告人CやH1常務ら関係役員に対し,Ⅳ分類査定額をなくし,Ⅲ分類査定額についても,前記経営再建策で公表した自己査定の数字に近づけるように復活折衝に努めることを指示するとともに,S1総括主任検査官の上記発言を借用し,「検査官を騙すくらいの意気込みでやってほしい」旨指示した。 (四) 被告人Cの大蔵省銀行局に対する支援要請他方,被告人Cは,金融検査受検のD銀行側窓口である総合企画部担当の専務であったため,毎朝,前日の検査官による分類査定の結果及び累計の査定額の一覧表の提出を受けて,分類債権額 要請他方,被告人Cは,金融検査受検のD銀行側窓口である総合企画部担当の専務であったため,毎朝,前日の検査官による分類査定の結果及び累計の査定額の一覧表の提出を受けて,分類債権額の積上がりの状況を確認していたが,前記(三)認定のように,Ⅲ分類額及びⅣ分類額が大きく積み上がったことから,前記増資計画の失敗を危惧し,被告人Aの了解を得て,大蔵省銀行局のI1審議官の下に相談に赴いた。そして,被告人Cは,I1審議官に対し,「Ⅳ分類もⅢ分類も,随分積み上がっちゃって,困っています。このままだと大変なことになります。何とかなりませんかね」などと言って,支援を要請した。 (五) Q1事業推進部長の被告人Aに対する頭取報告Q1事業推進部長は,前記第四の二の10の(六)認定のように,V1検査官に対し,Lグループや関連ノンバンク3社の子会社について,D銀行が支援して事業化をするので,回収できる旨主張したが,V1検査官から,同グループや上記3社の子会社のⅢ分類は,実態はⅣ分類である旨を告げられた。 その後,Q1事業推進部長は,平成9年6月19日ころ,頭取である被告人Aに対し,月例の事業推進部報告を行ったが,Q1事業推進部長がその際に使用した資料には,「今回MOF検」「<イ>921(Ⅳ)」「10352(Ⅲ)うち実質ロス Ⅲ+Ⅳ9400 ? 8500<ロ>(先方認識)」などと記載された附箋が貼られていた。なお,Q1事業推進部長は,上記附箋の記載内容について,「<イ>921(Ⅳ)」と書いてあるのは,金融検査部がⅣ分類と認識した921億円のことであり,その下の「10352(Ⅲ)」というのは,Ⅲ分類が1兆352億円ということで,このうち,「実質ロス」(現状時点で資産価値を見たときに,幾ら資産が損なわれて がⅣ分類と認識した921億円のことであり,その下の「10352(Ⅲ)」というのは,Ⅲ分類が1兆352億円ということで,このうち,「実質ロス」(現状時点で資産価値を見たときに,幾ら資産が損なわれているかという数字)が,検査官の認識では8500億円あるので,大蔵省は,<イ>の921億円と<ロ>の8500億円を合計した9400億円を実質Ⅳ分類と認識しているのではないかと思って記載したものである旨証言している。 (六) 被告人Bに対する検査状況等の説明被告人Bは,平成9年5月上旬ころ,被告人Aから,同年6月20日付けで副頭取に昇任することを告げられたので,同月中旬ころ,D銀行のマーケット部門を管掌していたQ4(平成8年6月に常務取締役に,平成10年6月に専務取締役にそれぞれ就任した者)から,経営者として知っておくべき基本的な事項として,D銀行の収支シミュレーションについて説明を受けた。被告人Bは,上記説明の際,Q4常務から,その時点での金融検査の状況についても報告を受け,Ⅳ分類の貸出金が約500億円あること,これらの貸出金については,平成10年3月期には償却・引当しなければならないが,平成9年9月期には必ずしもその全額を償却・引当しなくても良い性格のものである旨を聞かされた。その後,被告人Bは,ほぼ月に1回の割合で,Q4常務から,D銀行の財務内容について報告を受けるようになった。 被告人Bは,平成9年7月上旬ころ,被告人Aから頭取への就任を打診され,これを受諾した。その後,被告人Bは,同月中旬ころ,R1経理部長から,平成10年3月期決算の見通しに関し,平成9年3月期の不良債権処理が,世間的には終わったと言われているが,実際には終わっておらず,同年4月の金融検査では,Ⅳ分類額が89億円であったと 経理部長から,平成10年3月期決算の見通しに関し,平成9年3月期の不良債権処理が,世間的には終わったと言われているが,実際には終わっておらず,同年4月の金融検査では,Ⅳ分類額が89億円であったとして増資要請先に説明したが,実際にはⅣ分類に近い不良債権は600億円程度ある旨の説明を受けた。 (七) 検査結果の示達状況被告人Bは,平成9年9月11日,金融検査部長室を訪ね,同部長X1から,前記金融検査の示達書及び検査報告書等を受領した。上記検査の示達書等には,前記第四の二の10の(一〇)認定のように,貸出金につき,Ⅲ分類査定額が1兆689億8600万円〔6309億300万円〕,Ⅳ分類査定額が583億6000万円〔88億9400万円〕などと,それぞれ括弧書きの記載がされていたほか,前回の検査以降,不動産関連融資を中心に引き続き不良資産が増大し,資産内容の悪化が一層進行しており,その原因が,資産受皿会社を利用した事実上の損失の先送りが行われたことや,業況不振先の管理において,事業見通しや返済能力等の実態把握が不十分であったことにあるなどと指摘されていた。 被告人3名は,いずれも上記示達書等を閲読し,関連ノンバンク3社の子会社に対する不良債権の償却・引当が重要な課題であることや,上記子会社に対する貸出金が,上記子会社を存続会社と整理会社に区分する方針を明確化しているという理由によりⅢ分類にとどめられたことなどを知った。 なお,被告人Aは,当公判廷において,上記Ⅲ分類査定の括弧書きの記載につき,「評価としてはⅢ分類でも,実質的には従来どおりⅡ分類の扱いだと思った」旨供述している。しかし,被告人Aは,捜査段階においては,上記Ⅲ分類査定及びⅣ分類査定の各括弧書きの記載につき,「括弧外の記 き,「評価としてはⅢ分類でも,実質的には従来どおりⅡ分類の扱いだと思った」旨供述している。しかし,被告人Aは,捜査段階においては,上記Ⅲ分類査定及びⅣ分類査定の各括弧書きの記載につき,「括弧外の記載が,本来の分類査定の数字であると理解した」「括弧内の記載は,金融検査の途中の平成9年5月中旬ころ,増資要請先に対し,『直ちに引き当てることが必要であるとされたものの額が89億円,直ちに引当を要するわけではないが,将来の回収に懸念があるとされたものの額が,現在のところ7000億円程度』という言い振りで検査状況を伝えていたこととの一応の整合性を保つために工夫された記載であると理解した。また,Ⅲ分類のうちLグループ等の関連会社に対する貸出金約4300億円につき,D銀行が支援の方針を有していて,D銀行の意思に反して倒産することがないという理屈に基づく性格の違いを書き分けたものと受け止めていたが,これも,D銀行の破綻回避が必要不可欠であったことを踏まえて,大目に見るための理屈であり,これに甘えて,事業化が不可能な不動産を保有している会社に対する貸出金の償却・引当の義務を免れることが許されないことは,分かっていた」旨供述している。また,被告人Bも,捜査段階において,上記各括弧書きの記載につき,「Q4常務やR1経理部長からの報告で,括弧が付かない数字が本来の数字であることを承知していた」旨供述している。さらに,V1検査官は,自ら上記各括弧書きの記載をした者であるが,当公判廷において,同記載につき,検査に当たって大きな争点になったことを上司に報告するとともに,そのことをD銀行関係者に示すためのものであり,資産としてのリスクの度合いは括弧内と括弧外で何ら変わりはない旨証言している。 (八) 被告人Bの日銀信用機構局長に対する報告 のことをD銀行関係者に示すためのものであり,資産としてのリスクの度合いは括弧内と括弧外で何ら変わりはない旨証言している。 (八) 被告人Bの日銀信用機構局長に対する報告被告人Bは,平成9年9月19日,日銀のO4信用機構局長を訪ね,同年4月の金融検査の示達の内容等を報告したが,その際,被告人Bは,分類査定額について,括弧内の数字であるⅢ分類の6309億円及びⅣ分類の89億円のみを報告し,括弧外の数字であるⅢ分類の1兆689億円及びⅣ分類の583億円に関しては報告をしなかった。 (九) 被告人Bに対する検査結果の説明その後,被告人Bは,平成9年9月30日,事業推進部担当のG1常務から,同年4月の金融検査の経緯について詳細な説明を受けた。G1常務は,被告人Bに対し,上記検査の一次査定では,貸出金ベースで,Ⅳ分類が1448億円,Ⅲ分類が1兆485億円にまで分類債権が積み上がっていたが,復活折衝の結果,Ⅳ分類であった一般先から223億円,関連会社から304億円を落としてもらい,二次査定では,Ⅳ分類を921億円にしてもらったこと,その後,最終査定までの間に,Ⅳ分類であった関連ノンバンク3社の受皿会社の338億円をⅢ分類にしてもらい,最終的には,Ⅳ分類を584億円にしてもらった旨説明した。また,G1常務は,被告人Bに対し,関連ノンバンク3社とその受皿子会社群の存在や,Lグループの全体像とその査定結果等に加え,一般貸出先のうち危ない先として,J2については,メインバンクのT2銀行が平成10年1月に特別清算のプレス発表をする予定であること,A2については,メインバンクのV2銀行が任意整理を強く希望していることなどを説明した。 4 平成9年4月の金融検査後の状況(一) 平 特別清算のプレス発表をする予定であること,A2については,メインバンクのV2銀行が任意整理を強く希望していることなどを説明した。 4 平成9年4月の金融検査後の状況(一) 平成9年8月の被告人A及び同Bに対する頭取報告被告人Bは,平成9年8月19日付けで頭取に就任することが決まっていたことから,同月14日,被告人Aとともに,事業推進部の頭取報告会に出席した。被告人A及び同Bは,上記報告会において,Q1事業推進部長から,「7月事業推進部実績」と題する資料等に基づいて,同年7月現在,①「破綻・延滞先」が477先あり,これらへの貸出残高が1兆5848億円に上ること,②「金利減免・棚上げ先」が153先あり,これらへの貸出残高が5808億円に上ること,③事業推進部が所管する貸出金総額4兆632億円のうち,貸出金が不良化している「管理先」債権は,2兆1656億円あり,同年3月末の残高2兆686億円から4か月間で約1000億円増加していること,④「管理先」債権のうち,全銀協のルールに従って公表される公表不良債権の金額は,同月末現在で1兆2621億円であり,この金額と同月末の上記「管理先」債権との差額約8000億円は,非公表の不良債権であること,⑤上記「破綻・延滞先」への貸出残高は,公表分の不良債権9415億円と非公表分の不良債権6433億円の合計1兆5848億円であることなどを説明された。 (二) 平成9年10月の被告人A及び同Bに対する頭取報告被告人A及び同Bは,平成9年10月21日,Q1事業推進部長らから,「9月事業推進部実績」と題する書面等に基づいて,同年9月の業務実績等について報告を受けた。被告人A及び同Bは,上記報告を受けて,同月末日現在,「破綻・延滞先」が473先あ Q1事業推進部長らから,「9月事業推進部実績」と題する書面等に基づいて,同年9月の業務実績等について報告を受けた。被告人A及び同Bは,上記報告を受けて,同月末日現在,「破綻・延滞先」が473先あり,これらへの貸出残高が1兆4654億円に上ること,「金利減免・棚上げ先」が155先あり,これらへの貸出残高が6809億円に上ること,A2に対する融資残高が663億円で,J2に対する融資残高が416億円であることなどを認識した。 以上のような事実が認められる。 三個別貸出先の貸出金処理に関する被告人3名の認識状況また,関係各証拠によれば,本件起訴に係る個別貸出先に対する貸出金の処理についての被告人3名の認識状況について,次のような事実が認められる。すなわち, 1 MNOグループ関係(一) 被告人A及び同Cによる受皿会社の買取方針の了承被告人Cは,平成9年5月上旬ころ,G1常務から,同年4月の金融検査において,D銀行が実質的に関連ノンバンク3社の受皿会社を買い取り,子会社化して支援するとの理屈により,上記受皿会社に対するⅣ分類査定の回避を図るという上記検査への対応方針につき説明を受け,これを了承するとともに,G1常務に対し,被告人Aからも了承を得るように指示した。 そこで,G1常務は,同年5月上旬ころ,被告人Aに対し,関連ノンバンク3社の子会社がⅣ分類に査定されているが,これをD銀行グループで買い取ってD銀行の支配下に置き,Lグループと同じように,支援して事業化していくという理由により,上記子会社に対する貸出金のⅣ分類査定を免れたい旨説明したところ,被告人Aは,「分かった」などと言ってこれを了承した。 (二) 被告人A及び同Cに対する買取交渉の進捗状況の報告 理由により,上記子会社に対する貸出金のⅣ分類査定を免れたい旨説明したところ,被告人Aは,「分かった」などと言ってこれを了承した。 (二) 被告人A及び同Cに対する買取交渉の進捗状況の報告その後,被告人A及び同Cは,平成9年6月11日ころ,関連事業部長T1から,破産した関連ノンバンク3社の受皿会社の買取交渉の進捗状況等について,D銀行の上記受皿会社に対する貸出金が金融検査でⅣ分類と査定されることを回避するために,上記3社の破産管財人に対し,管財業務への協力を名目にして,上記3社の受皿会社に対する債権を時価で買い取り,上記3社が有する受皿会社の株式を引き取ることなどを提案している旨の報告を受け,いずれもこれを了承した。 (三) 被告人Bに対する受皿会社の買取方針の説明他方,被告人Bは,平成9年9月30日,G1常務から,同年4月の金融検査の経緯について詳細な説明を受けた際,「D銀行の関連ノンバンク3社の受皿会社に対する貸出金のうち,当初Ⅳ分類に査定された約338億円は,金融検査において,D銀行が受皿会社を買い取り,D銀行のコントロール下に置いた上で,支援をして事業化を図るという条件で,Ⅳ分類からⅢ分類に変更してもらったものである。受皿会社の事業化に大きな期待は持てないが,全く事業化を図らなければ,次回の検査ではⅣ分類に査定されるため,当面は,事業化をするということで,時間を稼ぐしかない」旨の対処方針について説明を受け,「そうだね。それしかないね」などと了承した上,「事業は,十分良く吟味して,慎重にやってください」などと指示した。 (四) 被告人3名に対する破産管財人との交渉方針の説明被告人3名は,平成9年11月4日,G1常務及び関連事業部長R4から, ,慎重にやってください」などと指示した。 (四) 被告人3名に対する破産管財人との交渉方針の説明被告人3名は,平成9年11月4日,G1常務及び関連事業部長R4から,関連事業部作成の「ノンバンク3社,管財人交渉について」と題する資料に基づいて,関連ノンバンク3社の破産管財人との交渉方針について説明を受け,買取対象の上記3社の受皿会社18社は,D銀行から1549億円,親会社である上記3社から1232億円の各借入れがあるにもかかわらず,資産時価は総額で236億円に過ぎないことを知った。 また,被告人3名は,G1常務から,①関連ノンバンク3社の受皿会社の買取りは,D銀行の受皿会社向け貸出金の償却を先延ばしし,償却・引当予算に合わせて計画的に償却処理を行っていく上で,不可欠であること,②買い取った会社は,そのまま塩漬けというわけにもいかず,形だけでも何らかの事業をやらざるを得ないが,二次損失が出ないように慎重にやっていくことなど,関連ノンバンク3社の受皿会社に対する貸出金の処理方針について説明を受け,いずれも上記処理方針を了承した。 (五) 被告人3名に対するMNOグループ形成計画の説明被告人Cは,平成9年12月ころ,G1常務から,関連事業部作成の資料に基づいて,関連ノンバンク3社から買い取った受皿会社18社に,N,I3,J3等を加えて,前記第四の五の3の(一)認定のMNOグループを形成する計画について説明を受けたが,同資料には,「今後課題として会社合併(会社数減少),分割償却(当行の体力に合わせた償却)等を検討していくこととしたい」などと記載されていた。また,被告人A及び同Bも,平成10年1月ころまでに,G1常務から同様の報告を受けたが,その間,MNOグループ各社の 却(当行の体力に合わせた償却)等を検討していくこととしたい」などと記載されていた。また,被告人A及び同Bも,平成10年1月ころまでに,G1常務から同様の報告を受けたが,その間,MNOグループ各社の事業の具体的内容について説明はなく,また,被告人3名も,事業の具体的内容について格別質問することもしなかった。 (六) 平成10年4月の被告人3名に対する説明被告人3名は,平成10年4月22日,G1常務及びR4関連事業部長から,同部所管の関連会社の動向等の報告の一環として,同部作成の「平成9年度関連会社の状況」と題する資料に基づき,MNOグループ各社の同年3月末における財務状況等について説明を受けた。上記資料には,Mグループ7社につき,資産(時価)が83億円,負債が193億円(うちD銀行からの借入金は59億円),Nグループ8社につき,資産(時価)が79億円,負債が1178億円(うちD銀行からの借入金は874億円),Oグループ9社につき,資産(時価)が80億円,負債が1069億円(うちD銀行からの借入金は953億円)であり,MNOグループ全体では,資産(時価)が合計242億円,負債が合計2440億円(うちD銀行からの借入金は合計1886億円)となって,各社とも著しい債務超過にあることが記載されていた。 2 Lグループ関係(一) 被告人A及び同Cに対する月例報告Lグループは,前記第四の五の4の(一)の(2)認定のように,早くからマスコミにおいて不良資産飛ばしのための存在として厳しく批判されており,被告人Aらも,そのような事情を認識していた。また,被告人Aは,毎月,事業推進部から同部の事業実績について報告を受けるなどしており,被告人Cも,平成7年から平成8年にかけて事業推進部担 されており,被告人Aらも,そのような事情を認識していた。また,被告人Aは,毎月,事業推進部から同部の事業実績について報告を受けるなどしており,被告人Cも,平成7年から平成8年にかけて事業推進部担当の常務を務めていたこともあって,いずれも前記第四の五の4の(一)及び(二)認定のような同グループの沿革や財務状況等を理解していた。 (二) 平成9年8月の被告人A及び同Bに対する説明被告人A及び同Bは,平成9年8月26日ころ,常務会に先立って行われる事前説明において,Q1事業推進部長から,Lグループの概況等について説明を受けた。さらに,被告人3名は,同月27日の常務会において,Q1事業推進部長から,平成3年5月,D銀行の関連ノンバンクが抱えていた不良担保物件の受皿とするためにU3が設立され,その後,W3の残余資産の受皿会社やB4関連の会社等が順次加わってその規模が拡大し,平成9年3月期には,Lグループが合計36社に及んでいることや,Lグループ全体で,同期において約508億円の債務超過であり,D銀行からの与信額が3571億円に上っていることなど,前記第四の五の4の(一)及び(二)認定のような同グループの形成経緯や財務状況等について説明を受けた。 また,被告人3名は,上記常務会において,Q1事業推進部長から,Lグループ全体とすれば,事業化しても,当面は貸出金の回収は困難であり,一部については改善の兆しがあるものの,W3の残余資産を引き受けたR2やO2については厳しい業況にあることなどの報告を受けた。さらに,被告人3名は,Lグループ全体の業務実績について,平成9年3月期において,賃料収入等から諸経費及び支払利息を控除した営業損失が約85億円であり,これに不動産売却損等を加えると,損失が約192億円に 被告人3名は,Lグループ全体の業務実績について,平成9年3月期において,賃料収入等から諸経費及び支払利息を控除した営業損失が約85億円であり,これに不動産売却損等を加えると,損失が約192億円に上ることを説明された。 (三) 平成10年4月の被告人3名に対する説明D銀行は,前記第四の五の4の(四)認定のように,S監査法人の指摘に対応するために,平成10年4月22日の常務会において,Lグループへの支援方針を決定した。その際,被告人3名は,K2事業推進部長から,同部作成の「Lグループの支援方針について」と題する資料に基づき,同グループについて,D銀行からの貸出金が約4200億円にまで増加しており,同グループ全体で見ると,同年3月期見込みで資本がマイナス620億円になるのに対し,同期の営業利益が約19億円,当期利益がマイナス92億円ずつしか見込まれず,しかも,支払利息が114億円あるため,D銀行から利息返済貸出しをしている状態であり,その経営状況は,経常赤字や債務超過先が多く,脆弱といわざるを得ない旨の説明を受けた。また,K2事業推進部長は,同グループ全体の事業化計画について,前記第四の五の4の(四)認定のような内容を説明した上,「以上は,Lグループ全体を合算した数字でありまして,非常に荒い話ではありますが,全体としては,このような絵も描けるということでございます。しかし,個社ごとに見れば,償却・引当を必要とする先が出る状況であり,CPAは,個別に当たるとの立場でおります。この点は,前回の常務会で御説明したとおりでありまして,前回は,償却・引当を行う個社名を特定できておりませんでしたが,この度,回収困難な営業貸付金130億円を有しておりますU3について,今期の償却・引当を行うことに決めました」などと説明した。 りまして,前回は,償却・引当を行う個社名を特定できておりませんでしたが,この度,回収困難な営業貸付金130億円を有しておりますU3について,今期の償却・引当を行うことに決めました」などと説明した。 さらに,K2事業推進部長が上記説明の際に使用した資料には,「我々としては,Lグループ企業は,財務内容に問題があることは否めず,また,利息返済貸出しをしていることから,事実上の延滞先といわれることは否めないことから,自己査定では要注意先であるとの意見。CPAは,当行の支援方針が明確であれば,概ね同意する意向。支援なければ,Lグループは,容易に破綻懸念先(経営難の状態,実質債務超過の状態,業況が著しく低調で事業好転の見通しがほとんどなく,経営破綻に陥る可能性が高い。支援方針先であっても,当該債務者の業況について,客観的に判断し,今後,経営破綻に陥る可能性が大きいと認められる場合も懸念先)や,場合によっては,実質破綻といってよい状況」などと記載されていた。 3 J2関係(一) 平成8年9月の被告人Aに対する頭取報告被告人Aは,平成8年9月27日の融資第二部の頭取報告会において,J2の再建計画につき,主力4行による支援中である旨の報告を受けた。その際,被告人Aは,就任して間がない融資第二部長S4に対し,「融資第二部で問題なのは,Z2グループとA2グループです。特に,J2とA2が一番の問題先だから,しっかりやってくださいよ」などと指示した。 (二) 平成9年1月の被告人Aに対する頭取報告その後,被告人Aは,平成9年1月28日の融資第二部の頭取報告会において,S4融資第二部長及び同部副部長T4から,J2に対する貸出金の処理方針について,「J2については,平成10年3 その後,被告人Aは,平成9年1月28日の融資第二部の頭取報告会において,S4融資第二部長及び同部副部長T4から,J2に対する貸出金の処理方針について,「J2については,平成10年3月末までが第三次事業計画による支援期間となっているが,主力4行のうちのA3銀行が国税局に対して支援拒否を表明するなどしたため,4行支援体制は,完全に乱れた状態になっている。A3銀行では,今期に有税で引当を行った上,平成9年4月以降にJ2を整理・清算する方向で動くようである。そういった状況であり,同社については,これまで全く引当をしていないので,遅くとも来期には,貸出残高約420億円のうち300億円近くの引当が必要になる」旨の報告を受け,「J2については,今期の引当は回避したいと考えている。そのため,T2銀行には,平成10年3月末までは4行支援体制を維持するようにとの要請をしている」という処理方針の了承を求められた。これに対し,被告人Aは,「分かりました。J2についても,時間を掛けて引当をしていく方針でやってください」などと述べ,上記処理方針を了承した。 (三) 平成9年5月の被告人Aに対する頭取報告被告人Aは,平成9年5月19日,融資第二部の頭取報告会において,S4融資第二部長及びT4同部副部長から,今期にJ2の破綻事実が表に出ると,引当の先送りができなくなり,300億円近くを引き当てざるを得なくなるので,今期での引当を回避するために,同社の破綻事実が表に出ないようにT2銀行等に働き掛けていく予定である旨の報告を受けたが,その際も,「T2銀行をプッシュして,再建計画を維持するように頑張ってほしい」などと述べて,上記先送りの方針を了承した。また,被告人Aは,G1常務から,「A2とJ2については,引当を来期以降に先 ,その際も,「T2銀行をプッシュして,再建計画を維持するように頑張ってほしい」などと述べて,上記先送りの方針を了承した。また,被告人Aは,G1常務から,「A2とJ2については,引当を来期以降に先送りできるように,私の方でも注意をして見ていきます」などと言われたのに対し,「頼みますよ」などと答えた。 (四) 平成9年8月の被告人A及び同Bに対する頭取報告被告人Bは,平成9年8月15日,被告人Aとともに,融資第二部の頭取報告会に出席したが,その際,G1常務及びP2融資第二部長から,J2について,4行支援体制が既に崩壊しており,現在,メインバンクのT2銀行が平成10年3月期に特別清算手続を開始することを検討しているが,同行の動き次第では,引当の先送りができなくなり,平成10年3月期に300億円近くの引当をせざるを得なくなるとの報告を受けた。 そして,G1常務らは,「このJ2の関係の引当も,A2と同様,来期以降へ先送りする方針で進めたいと考えています。当行は,政策株式を取得していますので,それを売却することをちらつかせて,T2銀行の特別清算の動きを抑えていきたいと考えています」などと償却・引当の先送りの方針を説明した。それに対し,被告人Aは,「分かりました。その方針でやってください」などと答え,被告人Bも,「その方向で進めてください」などと答えて,いずれも上記方針を了承した。 (五) 被告人Cの償却・引当の先送りの指示被告人Cは,平成5年ころから,J2を所管する営業第二部の担当役員を務めていたので,J2の業況悪化の状況や,主要取引銀行,J2に対するD銀行の融資残高等を把握していた。また,被告人Cは,平成9年6月に副頭取に就任した後は,平成8年6月に新設されて新たにJ 当役員を務めていたので,J2の業況悪化の状況や,主要取引銀行,J2に対するD銀行の融資残高等を把握していた。また,被告人Cは,平成9年6月に副頭取に就任した後は,平成8年6月に新設されて新たにJ2を所管するようになった融資第二部から,「当行の要請は『少なくともH10/3期に引当てをしなければならない事象は避けたい。後発事象の問題もあるので,H10/6の当行株主総会以前に要引当て事象を起こすな』ということ。9/25(木)の四行会でT2TB(T2銀行のこと)が示したスケジュールの項目で言えば『清算についてのプレス発表』はこれに該当するのでH10/7以降にせよ,ということになる」などと記載された平成9年10月の面談記録により報告を受けるなどして,J2の特別清算に向けての動きや,融資第二部が特別清算のプレス発表を平成10年7月以降に延期するように他の主力3行と交渉していることなどを認識していた。 その後,被告人Cは,平成9年11月11日,P2融資第二部長及びU2班長から,平成10年3月期において,A2に対する貸出金残高について200億円ないし300億円の引当が必要になるだけでなく,J2に対する貸出金残高約400億円についても,これまで全く引当をしていないため,200億円ないし300億円の引当が必要になる旨の報告を受けた。その際,被告人Cは,P2融資第二部長らに対し,「それにしても大きな数字になるな。そんな金額は,とても今期に引当はできないな。何とか引当を先送りするしかない。今期での引当は,回避する方針でやってくれ」「J2の特別清算のプレス発表の時期についても,来期以降にするようにT2銀行等へ働き掛けてもらっていると思うが,今後もその線でやってくれ」などと指示した。 (六) 被告人Cに対する特別清算のプレス発表 のプレス発表の時期についても,来期以降にするようにT2銀行等へ働き掛けてもらっていると思うが,今後もその線でやってくれ」などと指示した。 (六) 被告人Cに対する特別清算のプレス発表時期の報告G1常務は,平成10年3月24日に開催された四行会において,J2の特別清算の公表が同年4月3日から同月10日までの予定とされたとの報告を受けたことから,被告人Cにその旨を報告したが,その際,「4月に入ってからですから,表面担保不足くらい積んでおけば,CPAも,それ以上はフレキシブルですから」などと述べた。 (七) 特別清算のプレス発表直前の被告人3名に対する報告G1常務は,平成10年3月31日,J2の特別清算のプレス発表が,前記予定より早まり,翌4月1日に行われることになったことを知り,その旨を被告人3名に報告した。被告人3名は,G1常務から,「かねてお話ししておりましたJ2の特別清算は,来年度になって行う予定になっていますが,プレス発表が急遽4月1日に行われることになりました。同社に対する貸付金は約400億円,引当は今期末に無担保部分の81億円強を積む予定でおります。これは,表面の担保不足部分で,実質の損は300億円前後になると思われますが,表面の担保不足分はやりますから,CPAも多分これで通ると思われます。残りは,来期以降に償却する予定です。マスコミが,ひょっとすると行くかも知れませんが,その時は,個別先のことですのでということで御対応お願いします」「まあ,4月に入ってからですから,後発事象ということにはなりますが,CPAも,期中のものとは違い,形が付いていれば認めてくれますから」などと報告を受け,いずれも上記先送りの処理方針を了承した。 4 A2関係(一) 象ということにはなりますが,CPAも,期中のものとは違い,形が付いていれば認めてくれますから」などと報告を受け,いずれも上記先送りの処理方針を了承した。 4 A2関係(一) 被告人A及び同Cに対する新聞報道の報告被告人Aは,平成8年2月の日銀調書に,実勢要償却額の増加要因の1つとして,「U4やA2等の独立系ノンバンクも実質破綻化している」と記載されているのを読むなどしたことから,A2の経営状態の悪化を認識していた。また,被告人Cも,平成7年6月に事業推進部の担当役員に就任して以降,A2についても報告を受け,同社の業況やD銀行の融資残高等を把握していた。 そして,平成8年4月には,メインバンクのV2銀行が,A2に対する支援を打ち切る方針を決定し,同年3月期に同社向け貸出金の引当を行った旨の新聞報道がなされたことから,D銀行においても,A2に対する貸出金の処理が大きな問題となった。そこで,事業推進部等は,上記新聞報道に対する対応を検討し,「A2」と題する資料に基づき,被告人A及び同Cに対して報告を行った。上記資料には,①D銀行のA2に対する債権額は,694億7700万円であり,599億2800万円の担保が存するが,上記担保額が手形や貸付金債権を額面で計上した過大なものであること,②D銀行は,平成8年3月期にA2に対する貸出金のうち12億9900万円を有税で引当したことなどが記載されていた。 被告人A及び同Cは,上記報告を受け,①V2銀行は,公式には支援打切りを否定したものの,同行のD3常務がD銀行を訪れ,支援打切りも検討している旨言明したこと,②V2銀行は,平成8年3月期にA2に対する貸出金の償却を行ったこと,③D銀行としては,「A2の第二次リストラ計画に対する非応諾 同行のD3常務がD銀行を訪れ,支援打切りも検討している旨言明したこと,②V2銀行は,平成8年3月期にA2に対する貸出金の償却を行ったこと,③D銀行としては,「A2の第二次リストラ計画に対する非応諾方針に変更はないが,一方,一挙に法的整理等に進むのも望ましくないので,今後,V2銀行やA2との連絡を密にして,できるだけ『計画的処理』に誘導すべく働き掛ける」旨の方針で臨むことを認識し,いずれも上記方針を了承した。 (二) 平成8年9月の被告人Aに対する頭取報告被告人Aは,平成8年9月27日の頭取報告会において,A2が,第二次リストラ計画を断念し,新経営計画を策定して取引各行に協力を要請している旨の報告を受けたが,その際,前記3の(一)認定のように,S4融資第二部長に対し,同部の一番の問題先であるJ2とA2について,十分な注意を払うように指示した。 (三) 平成9年1月の被告人Aに対する頭取報告その後,被告人Aは,平成9年1月28日,融資第二部の頭取報告会において,S4融資第二部長及びT4同部副部長から,A2に対する貸出金の処理方針について,「昨年9月に,A2が,新経営計画を策定して当行に持参してきました。その支援計画の内容は,債権放棄が中心で,当行は,合計で約500億円の債権放棄をすることになっています。そのような計画ですので,到底,応諾することはできません。メインバンクのV2銀行は,従前からA2を整理・清算する方針で進めていますので,再建案である新経営計画を当然拒否しており,既にA2に対してその旨を伝えているということです」「A2の新経営計画には応諾できませんが,非応諾であることを正式に表明しますと,A2の破綻事実が明らかになるおそれがあり,そうなると,CPAの目もありますので てその旨を伝えているということです」「A2の新経営計画には応諾できませんが,非応諾であることを正式に表明しますと,A2の破綻事実が明らかになるおそれがあり,そうなると,CPAの目もありますので,引当の先延ばしができなくなる可能性があります」などと報告を受けた。 そして,S4融資第二部長らは,「そのため,非応諾の正式表明はしない方針です。それで,現在のところ,当行は,V2銀行がA2の資金管理をきちんと行うのであれば,新経営計画に応諾することもやむを得ないとV2銀行側に言っています。V2銀行は,A2との関わりを持つことを嫌がっていますので,A2の資金管理をすることに応じることはあり得ません。そのようにして,時間を稼ぐことによって,引当の先延ばしを図る方針です」などと処理方針を説明したところ,被告人Aは,「分かりました」「時間を掛けて引当をしていくしかないですね。その方針でやってください」などと答えて,上記処理方針を了承した。 (四) 平成9年5月の被告人Aに対する頭取報告その後,被告人Aは,平成9年5月19日に開催された融資第二部の頭取報告会において,S4融資第二部長及びT4同部副部長から,「A2については,今年の3月末に約300億円の引当を積んでいますが,まだ引当が不足しており,あと200億円から300億円くらい積む必要があります」「V2銀行は,A2を整理・清算する方針を固めており,その点についてX2社長と交渉をしていますが,現段階では,交渉は,暗礁に乗り上げている状況です。V2銀行としては,整理・清算の方向は決めているものの,自行だけで引き金を引きたくないようで,当行に対し,一緒に整理・清算をしませんかとの誘いを掛けてきています。当行が,V2銀行に同調しますと,V2銀行の整理・清算に向 理・清算の方向は決めているものの,自行だけで引き金を引きたくないようで,当行に対し,一緒に整理・清算をしませんかとの誘いを掛けてきています。当行が,V2銀行に同調しますと,V2銀行の整理・清算に向けた動きがこれまで以上に活発になって,A2の破綻事実が表に出る可能性があり,そうなりますと,CPAの目もありますから,引当の先送りができなくなります。それで,現在,時間稼ぎをしている状況です」などと報告を受けた。 そして,S4融資第二部長らは,「当行としても,約500億円もの債権放棄を伴うA2の新経営計画にはとても応諾できませんが,引当の先送りをすべく時間を稼ぐために,V2銀行に対し,同行によるA2の資金管理が行われるのであれば,新経営計画への応諾もやむなしと言っています。V2銀行は,A2の整理・清算方針を決めており,同社と関わりを持つことを大変嫌がっていますので,同社の資金管理をすることは考えられません。こうして時間稼ぎをしていますが,場合によっては,V2銀行が,債権者による破産申立てをする可能性があります。 そのため,V2銀行に対し,当行とA2との間の仕掛案件が終了してから,再度話合いをしたいので,それまで待ってもらいたい旨の説明をして,V2銀行が,単独で破産申立てをしないようにしています」などと償却・引当の先送りの方針を説明したところ,被告人Aは,「分かりました。A2についての引当は,翌期以降に先送りする方針でやってください」などと答えて,上記処理方針を了承した。 (五) 平成9年8月の被告人A及び同Bに対する頭取報告被告人Bは,平成9年8月15日,被告人Aとともに,融資第二部の頭取報告会に出席したが,その際,G1常務及びP2融資第二部長から,「A2グループに対する貸出金の残高は,867億 告被告人Bは,平成9年8月15日,被告人Aとともに,融資第二部の頭取報告会に出席したが,その際,G1常務及びP2融資第二部長から,「A2グループに対する貸出金の残高は,867億400万円で,債特勘定の残高が328億8400万円になっていますが,貸出先のほとんどがA2向けのものです。しかし,A2の引当は,十分ではなく,まだ200億円から300億円くらい積む必要があります」「A2については,メインバンクのV2銀行が,整理・清算に向けて積極的に動いており,当行にも協力を要請してきています。それに対し,当行は,A2との間で,V4ゴルフやW4という懸案事項があるなどといった理由で,協力要請を拒否しています。その懸案事項も,一応の目処がつきましたが,V2銀行にそのことを言明するかどうかという問題があります」などと報告を受けた。 そして,G1常務らは,「今期での引当は,何としてでも回避する必要がありますので,V2銀行には,懸案事項の目処がついたことは言わない方針で行きたいと思います。今期の引当は,先送りする方向で,V2銀行との交渉を進めていきたいと考えています」などと償却・引当の先送りの方針を説明した。それに対し,被告人Aは,「分かりました。その方向で進めてください」などと答え,被告人Bも,「分かりました。懸案事項の件も,別に先方に伝える必要はないでしょう」などと答えて,いずれも上記方針を了承した。 (六) H3弁護士案の策定と被告人CのV2銀行との交渉状況V2銀行は,前記第四の五の2の(一)の(6)認定のように,平成9年11月ころから,D銀行に対し,A2の任意整理計画案であるH3弁護士案を提示し,応諾するように依頼を開始した。その後,V2銀行のW2副頭取が,H3弁護士案への協力を )の(6)認定のように,平成9年11月ころから,D銀行に対し,A2の任意整理計画案であるH3弁護士案を提示し,応諾するように依頼を開始した。その後,V2銀行のW2副頭取が,H3弁護士案への協力を求めて,被告人Cと面談することになった。そこで,被告人Cは,これに先立って,P2融資第二部長らから,H3弁護士案の概要のほか,A2に対する貸出金残高約700億円のうち,平成9年3月期までに約300億円の引当をしたが,H3弁護士案に沿った協定案を締結すると,保全不足額全額の約200億円ないし300億円の引当が必要になることなどについて説明を受けた。これに対し,被告人Cは,P2融資第二部長らに対し,「こんな時期にそんなことを言われても,とても平成10年3月期には引当できない」「A2の整理・清算については,来期以降の話にするようにV2銀行に申し入れることにする」「整理・清算案の応諾を先延ばしする理由としては,対外的には農林系との関係ということを言っていくしかないだろう」などと述べた。 そして,被告人Cは,平成9年11月13日,V2銀行のW2副頭取と面談し,時期を問題にしてH3弁護士案の受諾を拒絶した。被告人Cは,上記面談後,被告人Aに対し,上記面談の状況を報告し,「A2の破綻が表に出れば,200億円ないし300億円の追加引当をしなければなりません」などと説明した。それに対し,被告人Aは,A2の整理・清算の先送りの方針を了承し,「何とか清算を引き延ばす方向でお願いします」などと指示した。それを受けて,被告人Cは,「今後の交渉の状況等については,担当のG1常務の方から御報告に上がると思います」などと述べた。 (七) G1常務の被告人3名に対する報告G1常務は,前記第四の五の2の(一)の(6)認定のように, は,担当のG1常務の方から御報告に上がると思います」などと述べた。 (七) G1常務の被告人3名に対する報告G1常務は,前記第四の五の2の(一)の(6)認定のように,平成9年11月18日と翌19日の両日,V2銀行のY2常務と面談するなどしたが,被告人Cに対しては,面談記録や資料を回すなどして,その状況を報告していた。さらに,G1常務は,上記面談の前後ころ,被告人A及び同Bの部屋に赴き,H3弁護士が持ち込んできた「お取引金融機関各位様」と題する資料を示し,「V2銀行から,A2の整理案が突然提示されてきました」「整理案の問題点を簡単にお話ししますと,1つは,取引金融機関に対して持って回るのに,V2銀行とD銀行を同列にして,2行がA2の破綻に責任があるような文書になっています。また,今の時期,B2証券やC2の破綻でマーケットが非常に荒れていますので,A2に対する債権六百数十億というのが新聞に出るのは,当行の調達に影響が出てきます」「また,償却についても,一般配当率が5パーセントなどとなっている状況ですので,やはり,従来からお話ししているとおり,200億円ないし300億円の積増しが必要になります」などと報告した。 そして,G1常務は,「この案には,すぐには合意できません。今後,両行並列というのを削るように交渉しますし,この紙を金融機関に持ち回られると,マスコミに出る可能性が高く,CPAがうるさくなって,今期中の償却が避けられなくなりますので,各金融機関へ持ち回るのをできるだけ先延ばしするように交渉していきます」などと今後の対応方針について説明した。それに対し,被告人Aは,「それでやってくれ」などと答え,被告人Bは,「分かりました」などと答えて,いずれも上記方針を了承し,V2銀行との交渉をG1常 いきます」などと今後の対応方針について説明した。それに対し,被告人Aは,「それでやってくれ」などと答え,被告人Bは,「分かりました」などと答えて,いずれも上記方針を了承し,V2銀行との交渉をG1常務に任せることにした。 その後,G1常務らにより,整理・清算の先送りを目的としたV2銀行との交渉が行われたが,被告人A及び同Cは,G1常務から,上記交渉の状況について報告を受けていた。 以上のような事実が認められる。 四平成10年3月期決算前後の被告人3名の言動さらに,関係各証拠によれば,平成10年3月期決算前後の被告人3名の言動等について,次のような事実が認められる。すなわち, 1 大蔵省銀行局に対する自己査定結果の報告D銀行は,前記第四の三の6認定のように,平成9年12月,大蔵省銀行局の要請を受け,同年9月期中間決算における資産の自己査定結果を提出するに当たり,関連会社及びLグループに対する貸出金については,同年4月の金融検査の結果を反映させずにⅡ分類とし,関連ノンバンク3社の受皿子会社についても,自己査定結果を変更し,債務者区分を要注意先として銀行局に報告したが,被告人A及び同Bは,G1常務らから,このように上記金融検査の結果等と異なる自己査定結果を銀行局に提出することについて,報告を受けていた。また,被告人Cも,事業推進部において起案された回議書によって上記方針を知り,これを了承して決裁した。 2 M2委員会のヒアリングに向けた事前説明D銀行は,前記第四の四の4認定のように,平成10年3月上旬,M2委員会に対し,公的資金の交付を申請したことから,被告人Bが,申請行代表として,同委員会のヒアリングに出席することになった。被告人Bは,同月6日,被告人Cと 4認定のように,平成10年3月上旬,M2委員会に対し,公的資金の交付を申請したことから,被告人Bが,申請行代表として,同委員会のヒアリングに出席することになった。被告人Bは,同月6日,被告人Cとともに,Y1与信管理室長らから上記ヒアリングのための事前説明を受けたが,その際,平成10年3月期決算における資産の自己査定方針として,関連会社及びLグループに対する貸出金については,平成9年4月の金融検査の結果を反映させず,債務者区分を要注意先として資産分類をⅡ分類止まりにする方針である旨の報告を受けた。そして,事業推進部は,上記事前説明において,「関連会社向け貸出金の自己査定は,甘いのではないか」との想定質問について検討した際,「関連会社についても,一般先と同様に査定しており,自己査定が甘いなどということはない」旨の回答案を用意したのに対し,G1常務は,「そんな飾りごとを言ってもしょうがないじゃないか。甘いのは事実なんだから,甘いと書けばいいじゃないか」などと言って,自筆でその旨の回答案を作成した。しかし,被告人Bは,実情はG1常務の言うとおりなのかも知れないが,M2委員会という公式の場でそのような実態論を話すのは適当ではないと判断して,事業推進部が用意した上記回答案を採用し,同委員会において,前記第四の四の3の(三)認定のような回答をした。 3 経理部の被告人3名に対する平成10年3月期決算の説明(一) 決算一次予想経理部は,前記第四の四の3の(一)認定のように,平成10年1月28日,同年3月期決算の一次予想案を常務会及び取締役会に提出し,その承認を得た。被告人3名は,上記常務会及び取締役会に先立ち,R1経理部長から,順次個別に,「第65期通期一次予想」と題する資料等に基づいて,税効果勘案会計の概要 案を常務会及び取締役会に提出し,その承認を得た。被告人3名は,上記常務会及び取締役会に先立ち,R1経理部長から,順次個別に,「第65期通期一次予想」と題する資料等に基づいて,税効果勘案会計の概要のほか,上記決算一次予想案においては,①損益計算書上の不良債権処理額は約1262億円にとどまるが,税効果勘案会計を考慮した後の不良債権の表面処理額は約2562億円となること,②関連ノンバンク3社について,平成9年12月の上記3社の債権者集会の結果,追加損失負担が発生し,約1074億円を追加処理すること,③B2グループ等の一連の大型倒産の際に破綻した貸付先に対する貸出金合計約300億円について,償却・引当処理をすること,④同年4月の金融検査でⅣ分類と査定された約453億円のうち,償却・引当が未了であった約380億円を処理しなければならないこと,⑤Lグループ向け貸出金について,S監査法人から指摘を受けたため,約175億円の引当を行うことなどの説明を受け,いずれもこれを了承した。 なお,被告人Bは,平素から細かく質問することから,R1経理部長は,被告人Bに対しては,他の被告人らと比較してやや詳細に説明を行い,さらに,被告人Bの依頼により,税効果会計の概念について,決算二次予想までの間に,より詳細な説明を行った。 (二) 決算二次予想経理部は,前記第四の四の3の(二)認定のように,平成10年3月25日,同年3月期決算の二次予想案を常務会及び取締役会に提出し,その承認を得た。被告人3名は,上記常務会及び取締役会に先立ち,R1経理部長から,順次個別に,「第65期通期二次予想」と題する資料等に基づいて,上記決算二次予想案においては,①不良債権処理額は,損益計算書上は約1412億円,税効果勘案会計を考慮した後の 立ち,R1経理部長から,順次個別に,「第65期通期二次予想」と題する資料等に基づいて,上記決算二次予想案においては,①不良債権処理額は,損益計算書上は約1412億円,税効果勘案会計を考慮した後の表面処理は約2712億円となり,決算一次予想と比べて150億円ほど増大しているが,これは,S監査法人から指摘を受け,不良債権処理を進めたためであること,②Lグループ向け貸出金については,同監査法人と交渉中であり,決算一次予想よりも引当額が減少するものと思われるが,まだ確定していないことなどの説明を受け,いずれもこれを了承した。 (三) 決算最終案経理部は,前記第四の四の3の(三)認定のように,決算書作成に必要な数値を集計・調整して,平成10年4月27日までに,決算二次予想案とほぼ同内容の同年3月期決算最終案を作成し,同日,常務会及び取締役会に上記決算最終案を提出し,R1経理部長が,「第65期・計算書類・附属明細書常務会」と題する書面に基づいて説明するなどして,その承認を得た。被告人3名は,上記常務会及び取締役会に先立ち,R1経理部長から,順次個別に,「第65期通期決算」と題する資料等に基づいて,上記決算最終案においては,①不良債権処理額は,損益計算書上は約1410億円,税効果勘案会計を考慮した後の表面処理は約2736億円となっていること,②S監査法人から引当を要請されていたLグループ向け貸出金については,100億円余りを引き当てることで対応することなどの説明を受け,いずれもこれを了承した。 4 事業推進部の被告人3名に対する償却・引当の説明他方,事業推進部は,前記第四の四の3認定のように,経理部から税効果相当額を加算した償却・引当財源の金額を伝えられ,その範囲内で平成10年3月期決算にお 人3名に対する償却・引当の説明他方,事業推進部は,前記第四の四の3認定のように,経理部から税効果相当額を加算した償却・引当財源の金額を伝えられ,その範囲内で平成10年3月期決算において償却・引当すべき不良債権を選定した。そして,K2事業推進部長は,同年3月25日,「平成9年12月末査定基準日自己査定結果について」と題する資料に基づいて,平成9年12月基準の自己査定結果を常務会に付議し,同年度下期の貸出金処理について報告した。その際,被告人3名は,K2事業推進部長から,「Lグループについては,当行の支援により回収不能が発生しない運営をしていますが,個別企業ベースで見ると,長期間にわたる事業遂行によっても残債が残ってしまうと見られるケースもあり,こうした場合には引当すべしという指摘をCPAから受けております。このため,現段階で個社名は特定できませんが,回収不能見込額として,120億円程度を計上しておるものでございます」などと説明を受けた。また,被告人3名は,K2事業推進部長から,J2及びA2について,「自己査定結果は,破綻懸念先としてⅢ分類までしか出していませんが,実態としては,近々特別清算予定です」などと聞かされた。 その後,事業推進部は,Mグループに属する5社等に対する貸出金について追加引当の方針を決定するなどして,「第65期下期貸出金の処理について」と題する資料を作成し,同年4月27日,これを経理部から提出された決算最終案とともに常務会に提出し,K2事業推進部長が,上記資料に基づいて報告した。その際,被告人3名は,K2事業推進部長から,U3について,「Lグループに属する不動産保有会社ながら,営業貸付金が130億円あり,そのうち回収困難と推定される109億円につき,有税で引き当てるものであります」など 3名は,K2事業推進部長から,U3について,「Lグループに属する不動産保有会社ながら,営業貸付金が130億円あり,そのうち回収困難と推定される109億円につき,有税で引き当てるものであります」などと,A2について,「未収利息の直接償却119億円のほか,新たに回収不能見込額として,14億円を有税で追加繰入れしております」などと,J2について,「特別清算を準備中との発表があり,保全状況から現時点において回収不能が明らかになる部分について,81億円を有税で引当するものです」などと説明され,特に質問や意見を出すようなこともなく,いずれも上記償却・引当処理の方針を了承した。 他方,関連ノンバンク3社の受皿子会社であるMNOグループについては,上記資料の「損失処理額が30億円を超える先」にも記載されておらず,被告人3名は,上記常務会において,同グループに対する貸出金を償却・引当する旨の報告は受けていなかった。そして,被告人3名は,この時点においても,MNOグループの具体的な事業計画について何ら報告を受けておらず,貸出金の返済に繋がるような規模の事業が順調に動き出した旨の報告にも接していなかった。 5 決算案の確定と有価証券報告書の提出前記決算最終案は,前記第四の七認定のように,真実は,少なくとも2205億700万円の当期未処理損失があったのに,償却・引当を要する貸出金合計1592億3300万円の償却・引当を行わず,当期未処理損失を同額過少の612億7400万円に圧縮して計上した内容虚偽の貸借対照表,損益計算書,損失処理計算書等の各案を含むものであったが,S監査法人による監査を経て,平成10年5月25日に開催された取締役会において,被告人3名が出席した上,承認されて決算確定案となった。 被告人3名は 計算書等の各案を含むものであったが,S監査法人による監査を経て,平成10年5月25日に開催された取締役会において,被告人3名が出席した上,承認されて決算確定案となった。 被告人3名は,前記第二の二認定のように,上記取締役会で承認された平成10年3月期決算確定案等に基づき,有価証券報告書の作成を所管する経理部の担当者をして,同年6月26日ころまでに,当期未処理損失を612億7400万円に圧縮して計上した内容虚偽の貸借対照表,損益計算書及び損失処理計算書を掲載するなどした平成9年4月1日から平成10年3月31日までの事業年度に係るD銀行の有価証券報告書を作成させ,同年6月26日,定時株主総会の承認を得て,同月29日,大蔵省関東財務局において,上記有価証券報告書を提出した。 以上のような事実が認められる。 五被告人3名の故意及び共謀の有無 1 虚偽記載有価証券報告書提出罪の故意の内容まず,被告人3名に虚偽記載有価証券報告書提出罪が成立するために,故意の内容としてどの程度の認識が必要であるのかについて検討する。そもそも,虚偽記載有価証券報告書提出罪の構成要件が,「有価証券報告書であって,重要な事項につき虚偽の記載のあるものを提出した」とのみ規定されていることに鑑みると,被告人3名に同罪が成立するためには,少なくとも,被告人3名において,大蔵省関東財務局長に提出した有価証券報告書につき,回収不能見込みの貸出金に多額の償却・引当不足が存在し,真実の当期未処理損失額が上記有価証券報告書に記載された当期未処理損失額をはるかに超える額に上るため,上記有価証券報告書に記載された当期未処理損失額が,同罪にいう「虚偽」に当たるほど過少であることさえ認識していれば足りるものと解される。換言すれば,同罪の成立要件と 額をはるかに超える額に上るため,上記有価証券報告書に記載された当期未処理損失額が,同罪にいう「虚偽」に当たるほど過少であることさえ認識していれば足りるものと解される。換言すれば,同罪の成立要件として,被告人3名が,有価証券報告書に記載された財務諸表の詳細な数値,すなわち,本件起訴に係る個別の貸出先に対する貸出金の償却・引当額等はもとより,個別の貸出先の名称についても,具体的に認識していることは必要ないものと解されるのである。 2 被告人3名の認識に関する客観的な事実そこで,被告人3名が,D銀行の平成10年3月期決算において,償却・引当が必要な貸出金の金額及びその償却・引当の先送りに関し,どのような認識を有していたのかについて,検討することにする。 (一) まず,D銀行の財務状態や不良債権処理の状況等については,これまで認定してきたとおりであり,要約すれば,次のような事実が認められるということができる。すなわち,(1) D銀行は,バブルの崩壊により巨額の不良債権を抱えたものの,その全額を償却・引当するだけの償却・引当財源がなかったことから,不良債権を受皿会社に付け替えた上,受皿会社がD銀行の支援先であるから破綻することはないとして,順次,償却余力に合わせて段階的に償却・引当を実施するといういわゆる不良債権の飛ばしを行うようになり,平成5年3月には,問題債権対策会議において,当面10年程度の中長期計画の下に年間550億円程度の段階的償却・引当を実施していく旨の先送り方針が決定された。 (2) その後,被告人Aが平成5年6月に頭取に就任してからは,D銀行は,住専関係等の不良債権の処理を進め,年間550億円を超える額の償却・引当を実施したが,他方で,関連ノンバンク関係の要償却・ (2) その後,被告人Aが平成5年6月に頭取に就任してからは,D銀行は,住専関係等の不良債権の処理を進め,年間550億円を超える額の償却・引当を実施したが,他方で,関連ノンバンク関係の要償却・引当額が増加したため,依然として多額の不良債権を抱えていたほか,上記償却・引当の実施により業務純益や株式の含み益等の償却・引当財源を大幅に費消したことから,受皿会社を利用した償却・引当の先送りを続けていた。 (3) D銀行は,平成8年ころから,不良債権拡大の原因となっていた関連ノンバンク3社の法的整理を検討したものの,財源不足から母体行方式による処理に踏み切ることができず,結局,平成9年3月期に,上記3社をプロラタ方式により処理した結果,自己資本が約1000億円にまで毀損した。そこで,D銀行は,上記資本の毀損を補うため,いわゆる奉加帳増資によって自己資本を増強したが,その際,増資引受先に対しては,今後5年間は年170億円程度の当期利益を見込んでいる旨の説明をした。ところが,同年4月の金融検査において,分類資産が積み上がりそうになったことから,要償却・引当額を圧縮するために,急遽,関連会社の再建計画を策定し,大蔵省銀行局にも助力を要請して,分類資産を減少させた。 (4) このように,D銀行は,バブル経済の崩壊後,平成9年3月期に至るまで,財源不足から,巨額の不良債権について,その当時においてはその全額の償却・引当が法的に義務付けられたものであるかどうかはともかくして,不良債権の飛ばしによる償却・引当の先送りを実施していたが,その後,前記第三の三の2認定のような経緯で,平成10年4月1日以降,早期是正措置制度が導入されることになり,金融機関は,資産査定通達等に沿った基準を定めて,自ら資産を査定し,適正な償却・引当の ,その後,前記第三の三の2認定のような経緯で,平成10年4月1日以降,早期是正措置制度が導入されることになり,金融機関は,資産査定通達等に沿った基準を定めて,自ら資産を査定し,適正な償却・引当の実施を行うことが法的に義務付けられることになった。 (5) しかし,D銀行は,平成9年後半の金融危機の発生以降,資金繰りが急速に悪化し,株式の要償却額が一段と増大した上,大手金融機関の連鎖的破綻により償却・引当の先送りが困難な不良債権が著しく増加するなど,財務状態は一層悪化していたことから,平成10年3月期決算においても,償却・引当財源の不足に対応するために,償却・引当の先送りを継続することにした。 (6) D銀行は,前記3及び第四の五認定のように,MNOグループ各社,Lグループ各社,J2及びA2が,いずれも実質破綻先に該当する債務者であるにもかかわらず,償却・引当を回避するため,真実は実行する意思がない形ばかりの再建計画を策定して監査法人に説明したり,特別清算の検討の事実を監査法人に隠し,特別清算の時期自体も先延ばしにするための工作を行うなどして,上記各社の実態を隠蔽して糊塗し,さらに,前記第四の四の3認定のように,平成10年3月期決算案を作成する過程において,償却・引当財源の不足から,合理的な理由もないのに,上記各社について,一度予定した償却・引当額を大幅に減少させたりして,償却・引当額の圧縮を図った。 (7) G1常務は,事業推進部等を担当していた者であるが,D銀行が平成10年3月期の償却・引当処理をする前の段階で抱えていたいわゆる不良債権のうち,回収の見込みがなく,本来,平成10年3月期決算で償却・引当することが必要であった金額が,1兆3000億円程度に上っているものと認識していた。また,R る前の段階で抱えていたいわゆる不良債権のうち,回収の見込みがなく,本来,平成10年3月期決算で償却・引当することが必要であった金額が,1兆3000億円程度に上っているものと認識していた。また,R1経理部長は,上記決算の事務処理を担当した者であるが,上記決算当時,D銀行には,償却余力をはるかに上回る7000億円前後の回収不能見込みの要償却債権が存在し,商法等の法令に照らせば,上記決算でその全額の償却・引当を要するものと認識していた。さらに,Y1与信管理室長は,D銀行の償却・引当に関する事項の取りまとめや自己査定を担当していた者であるが,D銀行において,本来,上記決算で償却・引当しなければならない金額が,少なくとも7000億円ないし8000億円,普通に見れば1兆円くらいになると認識しており,幾ら税効果を勘案した会計手法を導入したとしても,この全額を償却・引当するだけの償却余力を捻出することはできないと認識していた。 以上のような事実が認められる。 (二) 次に,D銀行の財務状態や要償却・引当額に関する被告人3名の認識については,これまで認定してきたとおりであり,要約すれば,次のような事実が認められるということができる。すなわち,(1) 被告人Aは,平成5年にD銀行顧問に就任した際に,問題債権の総額が2兆669億円に上ることなど,問題債権の現況について説明を受けたほか,同年の大蔵省の金融検査により,多数の実態のない不良資産の受皿子会社の存在を認識していた。また,被告人Cは,D銀行生え抜きの行員として,D銀行が巨額の不良債権を抱える過程を知悉していた上,平成7年には事業推進部の担当役員に就任し,不良債権の全容を知る立場になった。 (2) 被告人A及び同Cは,平成7年の日銀考査及び平成 行が巨額の不良債権を抱える過程を知悉していた上,平成7年には事業推進部の担当役員に就任し,不良債権の全容を知る立場になった。 (2) 被告人A及び同Cは,平成7年の日銀考査及び平成8年の日銀調書を通じて,D銀行が,関連ノンバンクの受皿子会社の資産内容の悪化等により不良債権が大幅に増大し,実勢要償却額が1兆2千億円にも達して,ネット体力が実質債務超過に転落したものとされたことを認識していた。また,被告人Bも,D銀行の顧問に就任する直前に,日銀の考査局管理課長から,前記日銀考査及び日銀調書の内容の説明を受けた上,日銀の信用機構局長らから,D銀行の資産内容が極めて厳しい状況にある旨を聞かされていた。 (3) 被告人A及び同Cは,平成8年に関連ノンバンク3社の処理を検討した際の討議資料により,問題債権のうち担保保全不足額が2兆4453億円であり,同担保保全不足額から償却・引当済みの額を控除した残額が約2兆円に上ることを認識していた。また,被告人Bも,上記資料と同様の資料を入手していた。 (4) 被告人3名は,平成9年3月期決算で多額の償却・引当をしたにもかかわらず,同年4月の金融検査では,当初,Ⅳ分類が約1448億円,Ⅲ分類が約1兆485億円にまで積み上がったため,大蔵省銀行局に対して懸命な働き掛けを行い,関連ノンバンク3社の受皿子会社分の約338億円をⅢ分類にしてもらうなどした結果,最終的には,ようやくⅣ分類が約584億円(括弧内の数字は約89億円),Ⅲ分類が約1兆690億円(括弧内の数字は約6309億円)と査定されたことなどを認識していた。 (5) 被告人A及び同Bは,上記検査後,同年7月現在で,破綻・延滞先が477先あり,これらへの貸出残高が1兆5848億円にも上り,同年9月期 )と査定されたことなどを認識していた。 (5) 被告人A及び同Bは,上記検査後,同年7月現在で,破綻・延滞先が477先あり,これらへの貸出残高が1兆5848億円にも上り,同年9月期でも,上記各数字が僅かに減少したのみである旨の報告を受けていた。 (6) 被告人3名は,担当役員らから,MNOグループ各社,Lグループ各社,J2及びA2について,いずれも実態は破綻しており,多額の追加償却・引当が必要である旨を報告されるなどして,前記(一)の(6)の事実を認識していた。 (7) 被告人3名は,平成9年後半の大手金融機関の連鎖的破綻に伴う関連会社の要償却債権の増大や関連ノンバンク3社の予想外に低い配当額の判明等により,平成10年3月期には,要償却・引当額が予想以上に大幅に増加したが,平成10年3月期決算においても,これまでと同様に,D銀行の償却余力の範囲内でしか償却・引当ができないことを認識していた。 (8) 被告人3名は,いずれもD銀行の経営責任者の地位にある者として,金融検査,日銀考査及び日銀調書の結果の閲読,関係役員らからの三役説明,常務会,取締役会等を通じて,前記(一)認定のD銀行の財務状態や償却・引当の先送り状況等を認識していたのみならず,経営責任者としての役職に就いて以降は,その経営判断として,前記(一)認定の各種施策や償却・引当の先送り方針等を承認したり,積極的に指示したりしていた。 以上のような事実が認められる。 3 被告人3名の自白(一) 被告人3名の自白の内容ところで,被告人3名は,捜査段階において,次のように,いずれも本件犯行を認める趣旨の供述をしており,前記2の(四)認定の事実を裏付けている。 告人3名の自白の内容ところで,被告人3名は,捜査段階において,次のように,いずれも本件犯行を認める趣旨の供述をしており,前記2の(四)認定の事実を裏付けている。 (1) 被告人A被告人Aは,検察官に対する供述調書中で,次のように供述している。すなわち,ア D銀行が平成10年6月下旬に大蔵大臣あてに提出した有価証券報告書の記載内容が,貸出金についての過少な償却・引当を前提とした決算に基づくものであり,D銀行の財務内容を正確に反映していない虚偽の内容のものであることは,私も認識していた。また,私は,平成10年4月から早期是正措置が実施されることから,従来にも増して自己査定を厳格に行い,決算でも貸出金の償却・引当を適正に行わなければならないことも,十分に承知していた。 イ D銀行で不良債権の償却・引当を十分に行うことができなかった背景は,D銀行では,バブル経済及びその崩壊の後遺症ともいうべき多額の不良債権を抱えており,私が平成5年に頭取に就任して以降,福島交通関係,住専関係,関連ノンバンク3社関係と大所を処理してきたものの,これを通じて体力を消耗し,また,経済情勢が更に悪化の一途を辿ったことなどから,平成10年3月期でも必要な償却・引当のすべてを行うには償却・引当の財源が足りなかったということである。 ウまた,D銀行は,平成9年4月に経営再建策を打ち出した際,今後5年間に各年約170億円の当期利益を見込んでいる旨の利益計画案を明らかにしたことから,平成10年3月期決算でも,この当期利益の目標を達成する必要があり,赤字決算というわけにはいかなかった。 エさらに,平成9年11月にB2証券,C2銀行及びE2證券 したことから,平成10年3月期決算でも,この当期利益の目標を達成する必要があり,赤字決算というわけにはいかなかった。 エさらに,平成9年11月にB2証券,C2銀行及びE2證券と大型破綻が連続し,それに伴って,これらの金融機関の関連会社に対する貸出金に多額の償却・引当の必要が急に生じた上,同年12月の関連ノンバンク3社の債権者集会では配当率が予想外に低かったため,上記3社関係で多額の追加の償却・引当を迫られたことから,平成10年3月期では,当初予定していた以上に多額の不良債権の償却・引当が必要になってしまった。 オこのような事情が重なったことから,平成10年3月期決算では,業務純益が予想を上回る金額には達したものの,業務純益や益出しによって当期利益170億円の目標を達成した上で確保し得る償却・引当の財源が,本来行うべき不良債権の償却・引当の処理額をはるかに下回ってしまい,関連ノンバンク3社の受皿子会社,A2,J2及びLグループに対する償却・引当を十分に行うことにまでは,手が回らなかった。上記決算では,いわゆる税効果会計を先取りした手法も用いて償却・引当の財源確保に努めたが,それでも十分ではなかったカ私は,上記決算当時,D銀行の貸出金の回収不能見込額は,平成9年4月の金融検査の内容に基づいて,Ⅳ分類の約584億円,Ⅲ分類のうち,関連ノンバンク3社の受皿子会社分の約337億円,Lグループ等の関連会社分の約3000億円及びその他のⅢ分類からの分約2000億円ないし3000億円を合計した約6000億円ないし7000億円ではないかと認識していた。 被告人Aは,検察官に対する供述調書中で,以上のような趣旨の供述をしている。 (2) 被告人B 約6000億円ないし7000億円ではないかと認識していた。 被告人Aは,検察官に対する供述調書中で,以上のような趣旨の供述をしている。 (2) 被告人B被告人Bは,検察官に対する供述調書中で,次のように供述している。すなわち,ア私が頭取をしていたD銀行にとって,平成10年3月期は,約1300億円の業務純益を挙げるなど,収益面では好調だったが,前年4月に発表した経営再建策の中で,増資要請先に対して170億円の当期利益を上げることを公約にしていたため,この金額の当期利益を確保することが,我々経営陣にとって重要な責務になっていた。 イそこで,私どもD銀行の経営陣は,業務純益に株式の益出し等の施策によって生み出される利益を加えた金額から,最終的に170億円の当期利益を確保した残額の範囲内で,不良債権の処理を行うことを考えており,不良債権処理に関しては,いわば先に償却余力ありきという考え方で経理処理を行い,償却余力の範囲を超える不良債権については,仮に,それが,企業会計のルール上,当期に償却・引当が必要とされるものであったとしても,その処理を回避し,先送りせざるを得ないと考えていた。 ウそうした中,我々経営陣は,平成9年4月に法的整理をした関連ノンバンク3社の受皿子会社等のグループ,J2,A2及びLグループ内の業況が悪化している先に対する貸出金については,期中より,事務方から,業況が悪化している旨の報告を受けており,平成10年3月期における償却・引当の回避のため,種々の方策を講じていることなどについて,折に触れて報告を受けて承知していた。 エまた,実際の決算に当たっても,本来であれば,当期に償却・引当 における償却・引当の回避のため,種々の方策を講じていることなどについて,折に触れて報告を受けて承知していた。 エまた,実際の決算に当たっても,本来であれば,当期に償却・引当をしなければならないこうした貸出金について,これをしないまま決算が組まれていることを承知していながら,我々経営陣は,これを承認し,こうした決算書が掲載されている有価証券報告書を大蔵大臣あてに提出した。 オなお,平成9年4月の大蔵省の金融検査の検査報告書で示されたD銀行の貸出金の査定状況については,括弧が付かない数字が本来の数字であり,Ⅳ分類額が約583億円,Ⅲ分類額が1兆689億円であることを認識していた。 被告人Bは,検察官に対する供述調書中で,以上のような趣旨の供述をしている。 (3) 被告人C被告人Cは,検察官に対する供述調書中で,次のように供述している。すなわち,ア私は,D銀行の平成10年3月期決算に当たり,回収の見込みがなく,当期に償却・引当しなければならない債権について,償却・引当財源がなかったことから,被告人A及び同Bらとともに,償却・引当すべき債権額の全部は償却・引当せずに決算を組み,これに基づいて作成された本来必要な額の償却・引当をしていない虚偽の内容の貸借対照表等を含む有価証券報告書を提出した。 イ D銀行は,平成9年4月に,経営再建策として,平成10年3月期から,当期利益170億円を計上することを外部に公表してしまったことから,D銀行としては,計画未達による信用低下を防ぐために,是が非でも平成10年3月期決算でこれを実現しなければならないことになった。これが,上記決算における償却・引当財源を制約する要因の ったことから,D銀行としては,計画未達による信用低下を防ぐために,是が非でも平成10年3月期決算でこれを実現しなければならないことになった。これが,上記決算における償却・引当財源を制約する要因の1つになったことは間違いない。 ウ実際の償却・引当額は,上記決算間近に,経理部が算出した償却・引当財源を前提に,事業推進部が,その範囲内で収まるように償却・引当債権を決めていた。 エ私は,上記決算において,THCグループ,A2,J2及びLグループに対するD銀行の債権について,償却・引当不足があることも認識していた。 オ私は,本来,平成9年3月期決算後において,D銀行には,少なくとも9000億円の回収不能債権があり,平成10年3月期通期で,その9000億円の償却・引当をしなければならないことは承知しており,実際には,税効果を勘案しても,それよりはるかに少額の約2700億円しか償却・引当していないことも分かっていた。 被告人Cは,検察官に対する供述調書中で,以上のような趣旨の供述をしている。 (二) 被告人3名の自白の信用性(1) 各弁護人は,被告人3名の捜査段階における自白を記載した前記各供述調書は,取調検察官が,被告人3名に対し,検察官の意に沿わない供述を続けていると,保釈が許可されないのではないかとの不安を煽るような言辞を用いるなど,心理的な圧迫を加える不当な説得をしたり,種々の病気に罹患している被告人Cに対し,執拗な取調べをしたりすることによって,検察官自らが膨大な資料から考え出したストーリーを記載したに過ぎない供述調書に署名・指印等をさせたものであって,いずれも信用性はない旨主張する。 (2) しかしな ることによって,検察官自らが膨大な資料から考え出したストーリーを記載したに過ぎない供述調書に署名・指印等をさせたものであって,いずれも信用性はない旨主張する。 (2) しかしながら,被告人3名の上記各供述調書中の供述は,内容的に互いに一致していて補強し合っている上,これまで認定してきたD銀行の財務状態,償却・引当の先送りの状況等の客観的な事実やD銀行関係者の捜査段階における各供述等とも符合し,事態の自然な流れに沿うものである。しかも,被告人3名の上記各供述調書は,被告人3名が,D銀行において,不良債権処理への関与を開始してから本件犯行に至るまでに開催された取締役会,常務会,頭取報告会等の席上で配布されたD銀行の内部資料,金融検査の示達書及び検査報告書,日銀考査及び日銀調書の所見等の各種資料に基づいて,その時々の自らの思いも交えながら,D銀行の財務状態や不良債権処理の状況等について,記憶の明確な点と曖昧な点を区別し,具体的に説明した内容のものである。 (3) また,被告人3名の上記各供述調書は,①被告人Aについては,平成9年4月の金融検査の際,検査官を騙すくらいの意気込みで反論するようにと最初に言ったのは,検査官自身であることや,Lグループには,担保保全や極大回収を目的とした会社も存在したことなど,②被告人Bについては,D銀行の顧問就任前に日銀のN4管理課長から日銀調書等の内容について説明を受けた際,D銀行が債務超過とまではいかない旨説明されたことや,平成10年3月期当時,企業会計のルールについて,常識のレベルで理解していた程度の知識を有していたのみであり,それ以上に詳細な大蔵省の通達,税法及びその通達,全銀協のルール,公認会計士協会のルール等は承知していなかったことなど,③被告人Cについては,平 レベルで理解していた程度の知識を有していたのみであり,それ以上に詳細な大蔵省の通達,税法及びその通達,全銀協のルール,公認会計士協会のルール等は承知していなかったことなど,③被告人Cについては,平成10年3月期決算の際,MNOグループの事業規模を1500億円にした計画を監査法人に説明してその償却・引当を回避した事情の詳細について,報告を受けた覚えはないことや,具体的な個別の償却回避の方法等について,すべて詳細に報告を受けていたわけではないことなど,被告人3名に有利な内容の記載も少なからず含むものである。 (4) さらに,被告人3名の捜査段階における各供述の経過を見ると,次のようなものである。すなわち,ア被告人Aは,逮捕当初は,「私には,償却不足の認識はありません」などと述べて本件犯行を否認したものの,その後,前記(一)の(1)掲記のように,本件犯行を認める供述をした理由について,「D銀行の破綻の原因となった不良債権を発生させたり,拡大させたりした責任があったのは,平成5年以前の経営者たちであり,過去の経営陣の方が厳しい非難に値するのに,私のように,経営危機に陥った後にD銀行の頭取に就任して火中の栗を拾っただけでなく,D銀行の体力で可能な限り不良債権の処理に努めた者が刑事責任を追及されることにつき,どうしても納得が行かなかったことや,具体的な事実関係に関する記憶が曖昧な面もあったことから,当初は否認したが,逮捕された後,様々な資料を見せてもらい,具体的な事実関係について記憶の喚起もできたことや,私が,詳細はともかく,償却・引当に関する担当者からの説明や報告により償却・引当が過少であったことの概要は認識していたことも事実であったので,自分なりに気持ちの整理を付けて,率直に自分の認識を申し上 が,詳細はともかく,償却・引当に関する担当者からの説明や報告により償却・引当が過少であったことの概要は認識していたことも事実であったので,自分なりに気持ちの整理を付けて,率直に自分の認識を申し上げることにした」旨述べている。 イ被告人Bは,任意捜査の段階から本件犯行を認めており,勾留質問の際には,「過少の引当による粉飾決算をしたという認識はなかった」などと述べて一時否認に転じたが,その後,前記(一)の(2)掲記のように,再び本件犯行を認める供述をした理由について,「私とすれば,自分自身,平成8年5月に日銀を辞め,D銀行に入行した以降,本当に心底D銀行の立て直しのことを考え,精一杯努力してきただけに,なぜその自分が刑事責任を問われなければならないのかという点について,自分自身どうしても納得が行かず,なかなか本当のことをお話しする気持ちになれなかったが,否認のための否認を続け,長い裁判を受けるよりも,潔く罪を認め,早く残された人生の再出発をしたいと考えるようになった。また,そうすることこそが,この決算を組んだ当時,D銀行の頭取であった私がすべき選択であると確信するようになったので,事実をお話しする決心をした」旨述べている。 ウ被告人Cは,勾留質問の際に,「今から振り返れば,虚偽記載という結果かも知れませんが,当時は,虚偽という認識もなかったし,虚偽記載を意図したこともなかった」などと述べて本件犯行を否認したことを除いて,前記(一)の(3)掲記のように,任意捜査の段階から一貫して本件犯行を認めており,上記勾留質問の際の供述についても,「私の心中に,もともと『検察庁に呼び出されて取調べを受けている時から,事実について認めていたのだから,何も逮捕されることはないじゃないか』という不満があったこ ,上記勾留質問の際の供述についても,「私の心中に,もともと『検察庁に呼び出されて取調べを受けている時から,事実について認めていたのだから,何も逮捕されることはないじゃないか』という不満があったことに加えて,平成10年3月期決算を承認する際には,いちいちMNOグループは幾ら,A2は幾ら,J2は幾ら償却・引当不足があると明確に考えながら決算を承認したわけではなかったという思いもあり,そのように裁判官に申し上げた」旨述べている。 被告人3名の捜査段階における各供述の経過は,以上のようなものである。 (5) そして,被告人3名は,いずれも任意捜査の段階から弁護人と相談し,勾留中も頻繁に弁護人と接見して,取調内容や保釈等について助言を受けており,また,検察官が作成した供述調書の訂正や署名・指印等の拒否ができることも十分に認識した上で,各供述調書の内容を閲読し,署名・指印等をしている。さらに,被告人Cの取調検察官は,被告人Cに楽な姿勢をとらせたり,状況によっては取調べを早めに打ち切るなど,同被告人の健康状態にそれなりに配慮した取調べをしている。また,被告人Cは,逮捕・勾留中は,東京拘置所内の病棟において,医師の診察,検査及び投薬を受けているのである。 (6) これらの事情に照らすと,本件犯行を認める旨の被告人3名の上記各供述調書は,基本的に信用することができるというべきであり,各弁護人の上記主張は,採用することができない。 4 被告人3名の要償却・引当額に関する認識(一) したがって,前記2認定の各事実に加え,前記3掲記の被告人3名の捜査段階における自白供述をも合わせ考えれば,被告人3名は,平成10年3月期決算当時,回収不能見込みであって償却・引当が必要な貸出金が したがって,前記2認定の各事実に加え,前記3掲記の被告人3名の捜査段階における自白供述をも合わせ考えれば,被告人3名は,平成10年3月期決算当時,回収不能見込みであって償却・引当が必要な貸出金が,上記決算で税効果勘案会計をも考慮して実際に償却・引当を行った前記4の3の(三)及び第四の四の3の(三)認定の約2736億円をはるかに超える多大な金額に上ることを十分に認識していたことは,優に認めることができるのである。 ちなみに,その金額について,被告人Aは,捜査段階において,約6000億円ないし7000億円と認識していた旨供述しており,また,被告人Cは,捜査段階において,少なくとも9000億円と認識していた旨供述していることは,前記3の(一)掲記のとおりである。 (二) そして,被告人3名は,平成10年3月期決算において,実際に償却・引当を行った上記約2736億円をはるかに超える多大な金額の貸出金について,回収不能見込みであって法的に償却・引当が必要なものがあるにもかかわらず,償却・引当財源の不足のため,上記約2736億円の償却・引当しか実施せず,その残額については償却・引当を先送りしていることを認識した上で,取締役会及び常務会において,真実の当期未処理損失額をはるかに下回る前記第四の七認定の約612億円を当期未処理損失額として計上した上記決算を承認したことも,十分に認めることができるのである。 5 各弁護人の主張に対する判断(一) 被告人3名の動機(1) 各弁護人は,平成9年4月の経営再建策において,D銀行が公表して増資要請先に配付した「今後の利益見込みについて」と題する書面に記載された「当期利益170億円」は,対外的に拘束力を有する約束ではないので,被告人3名が本件犯行 経営再建策において,D銀行が公表して増資要請先に配付した「今後の利益見込みについて」と題する書面に記載された「当期利益170億円」は,対外的に拘束力を有する約束ではないので,被告人3名が本件犯行を犯す動機とはなり得ず,そのほかにも,被告人3名がそれまでの経歴を棒に振ってまで本件犯行を犯す動機は全く見当たらない旨主張する。 (2) しかしながら,これまで認定してきたように,関係各証拠によれば,①D銀行は,バブル経済の崩壊により多額の不良債権を抱えたにもかかわらず,償却・引当財源の不足のため,上記財源の範囲内で不良債権処理を行うにとどめ,受皿会社に不良債権を移管するなどして,償却・引当の先送りを続けてきたこと,②D銀行は,被告人Aの頭取就任後,住専関係等の多額の不良債権を処理したものの,これにより,株式の含み益等を大幅に減少させ,体力が著しく低下し,その間,不良債権問題が大きな要因となって,金融市場に経営不安説が流れ,格付機関による格付が低下したことなどから,資金調達が困難になっていたこと,③D銀行は,平成9年2月にも,経営不安説が原因で株価が急落し,経営危機に陥ったことから,同年4月,金融不安の発生を懸念した大蔵省の支援を得て,経営再建策を発表し,関連ノンバンク3社を破産させて多額の償却・引当を実施したが,その結果,自らも自己資本を大幅に毀損したこと,④そこで,D銀行は,新金融安定化基金や多数の生損保会社等の協力を得て,約2900億円の増資を実施し,自己資本を約4000億円,自己資本比率を約6パーセントにまで増加させ,漸く自己資本を国内銀行としての健全性を保ち得る状態にまで引き上げたものであり,上記自己資本を減少させることは,新たな経営不安を発生させるおそれが高かったこと,⑤D銀行は,上記増資の際に,それまで2年連続し 本を国内銀行としての健全性を保ち得る状態にまで引き上げたものであり,上記自己資本を減少させることは,新たな経営不安を発生させるおそれが高かったこと,⑤D銀行は,上記増資の際に,それまで2年連続して赤字であったにもかかわらず,増資引受先に対しては,今後5年間は年170億円程度の当期利益を見込んでいる旨の説明をしていたこと,⑥D銀行は,平成10年3月期決算当時,依然として多額の償却・引当を要する不良債権を抱えていたことから,業務純益や株式の益出し等を考慮しても,当期利益170億円を実現すると同時に,自己資本を毀損せずに上記不良債権全額を償却・引当するために必要な償却・引当財源が不足していたこと,⑦D銀行は,上記決算において,決算一次予想案から決算最終案に至るまで,償却・引当額については,合理的な理由なく変動させているにもかかわらず,当期利益については,一貫して170億円を見込んでいること,⑧上記決算当時は,D銀行を含む大手金融機関の破綻に対処するためのセーフティネットが,必ずしも十分に整備されていなかったことなどが認められる。 (3) これらの事情に照らせば,被告人3名が,平成10年3月期決算において,償却・引当財源を超えて必要な不良債権処理を実施することにより,当期利益170億円の達成にも失敗し,自己資本を毀損させるなどして,D銀行を破綻させ,その結果,金融システムのセーフティネットが必ずしも十分に整備されていない中で,D銀行発の金融恐慌を招来するのではないかと考え,そのような事態の発生を危惧する余り,本件犯行に及んだことは,十分に認めることができるのであって,被告人3名に本件犯行を犯す動機は認められない旨の各弁護人の上記主張は,理由がない。 (4) なお,被告人3名は,当公判廷において,仮に,上記決算 十分に認めることができるのであって,被告人3名に本件犯行を犯す動機は認められない旨の各弁護人の上記主張は,理由がない。 (4) なお,被告人3名は,当公判廷において,仮に,上記決算当時,償却・引当不足分とされた貸出金について,償却・引当を行わなければ違法であり,刑事責任を問われることになるということを知っていたのであれば,たとえ赤字決算になって市場の信頼が揺らぐことになったとしても,種々の財源を探すなどして必ず償却・引当を行ったはずであり,そのことからも,違法性の意識や刑事責任を問われるという認識がなかったことは明らかである旨供述している。 しかしながら,被告人3名は,いずれもD銀行の経営責任者の地位にある者として,担当役員らから不良債権の償却・引当について詳細な説明を受けるなどしており,また,D銀行が,これまで認定してきたような経緯で,上記決算当時,回収不能見込みであった多額の不良債権について,償却・引当財源の不足のため,その財源の限度で償却・引当を実施するにとどめることにしたものであり,そのために各方面に種々の工作活動を行っていることなどについては,十分に認識していたのであるから,回収不能見込みであった多額の債権が,法的に償却・引当の必要なものであり,それを償却・引当しないことにより,当期未処理損失額を過少に計上することが会計のルールに違反して違法であることは,十分に認識していたと認めることができるのである。また,仮に,被告人3名において,上記各供述のとおり,上記決算当時,回収不能見込みであった多額の債権について,償却・引当財源の限度で償却・引当を実施するにとどめ,その余は償却・引当を実施しないで先送りすることにより,当期未処理損失額を過少に計上することが違法であるとの法的な知識が十分ではな 債権について,償却・引当財源の限度で償却・引当を実施するにとどめ,その余は償却・引当を実施しないで先送りすることにより,当期未処理損失額を過少に計上することが違法であるとの法的な知識が十分ではなく,また,それによって刑事責任を問われることはないと思い込んでいたとしても,それは,いわゆる法律の不知に過ぎないのであって,虚偽記載有価証券報告書提出罪の故意を阻却するものではないというべきである。 (二) 監査法人の意見及びM2委員会の審査結果との関係(1) 各弁護人は,D銀行の平成10年3月期決算は,S監査法人から適正・適法意見が得られたほか,M2委員会の審査でも特段の異議や指摘がなされることはなく,D銀行に公的資本が投入されるなど,例年以上に第三者の目が通っていたのであるから,被告人3名において,上記決算に違法な償却・引当不足があるという認識を抱くことはなかった旨主張する。 (2) しかしながら,被告人3名は,前記2の(二)認定のように,平成10年3月期決算当時,D銀行には,MNOグループ,Lグループ,J2及びA2を始めとして,経営が実質的に破綻した貸出先に対する回収不能見込みの貸出金がかなり多額に上っていることを認識していたことが認められる。そして,被告人3名は,そのような認識がありながら,担当役員らから報告を受けるなどして,①MNOグループ及びLグループについては,真実の支援意思がないのに,D銀行の支援の下で事業化を図るので,D銀行の貸出金は回収可能である旨をS監査法人に主張して,必要な償却・引当を先送りしていることを,②J2及びA2については,必要な償却・引当を回避する目的で,上記各社の実態が同監査法人に明らかにならないようにするための工作活動を行っていることをそれぞれ認識していたのである 送りしていることを,②J2及びA2については,必要な償却・引当を回避する目的で,上記各社の実態が同監査法人に明らかにならないようにするための工作活動を行っていることをそれぞれ認識していたのである。 このように,被告人3名は,D銀行が,同監査法人から追加の償却・引当を指示されないように,同監査法人に対し,実質的に破綻した債務者の実態を隠蔽して糊塗するための各種活動を行っていることを認識していたのであるから,同監査法人から適正・適法意見が得られたからといって,被告人3名が,D銀行の平成10年3月期決算における償却・引当が適法なものであったと認識するとは,およそ考えられないというべきである。 (3) また,M2委員会は,そもそも,金融機関等の自己資本の充実を図ることにより,我が国における金融機能を安定化することを目的として設立された機関であって,各金融機関の資産査定や償却・引当の検査自体を目的とするものではない。そして,同委員会による公的資金申請行の審査も,前記第四の四の4の(二)認定のように,上記設立目的を反映して,少数の検査官らがごく短期間のうちに机上のチェックを行うという極めて簡略なものであり,同委員会の審議委員ら自身は,D銀行の財務状態の詳細については必ずしも把握していなかったのである。さらに,D銀行は,平成10年3月期決算において,税効果勘案会計を採用する旨の決算方針を決定し,これを前提とした償却・引当計画を立てていたにもかかわらず,同委員会に対し,税効果勘案会計を採用しない前提で算出された償却予定額やラインシートを提出したり,同委員会の質疑応答の際,関連会社向け貸出金の自己査定に関する質問に対し,被告人Bが,G1常務の「甘いのは事実なんだから,甘いと書けばいいじゃないか」などという意見を排 やラインシートを提出したり,同委員会の質疑応答の際,関連会社向け貸出金の自己査定に関する質問に対し,被告人Bが,G1常務の「甘いのは事実なんだから,甘いと書けばいいじゃないか」などという意見を排して,「関連会社についても,厳格な査定を実施している」旨の実態に反する回答を行うなどしており,D銀行が,同委員会に対し,自己査定結果や資産の状況をありのままに報告しようとしていなかったことも認められる。 これらの事情に照らせば,M2委員会による審査を経て公的資本が投入されたからといって,被告人3名が,D銀行の平成10年3月期決算には違法な償却・引当不足が存在しない旨の認識を抱くことも,甚だ考え難いというべきである。 (4) したがって,各弁護人の上記主張は,いずれも採用することができない。 6 結論以上のとおり,被告人3名は,D銀行の平成10年3月期決算において,取立不能の虞があって取立不能と見込まれるために償却・引当が必要な貸出金が多額にあり,真実の当期未処理損失額が,本件有価証券報告書に記載された当期未処理損失額612億7400万円(百万円未満切捨て。以下同じ。)をはるかに超える金額に上ることを認識していたにもかかわらず,いずれもD銀行の経営責任者の地位にある者として,その経営判断に基づき,互いに意思を相通じた上,当期未処理損失額を上記612億7400万円に圧縮して計上した上記決算を承認し,それを記載した本件有価証券報告書を大蔵省関東財務局長に提出したことが認められる。 したがって,被告人3名について,本件虚偽記載有価証券報告書提出の故意及び共謀は,十分に認められるというべきであって,各弁護人の前記主張は,理由がない。 (法令の適用)罰条被告人3名についていずれも刑 人3名について,本件虚偽記載有価証券報告書提出の故意及び共謀は,十分に認められるというべきであって,各弁護人の前記主張は,理由がない。 (法令の適用)罰条被告人3名についていずれも刑法60条,平成10年法律第107号附則189条により同法律による改正前の証券取引法197条1号,平成12年法律第96号附則50条により同法律による改正前の証券取引法207条1項1号刑種の選択被告人3名についていずれも懲役刑刑の執行猶予被告人3名についていずれも刑法25条1項訴訟費用の負担被告人3名についていずれも刑事訴訟法181条1項本文,182条(連帯負担)(量刑の理由)一本件は,D銀行の代表取締役会長であった被告人A,代表取締役頭取であった被告人B及び代表取締役副頭取であった被告人Cが,共謀の上,D銀行の業務に関し,大蔵省関東財務局長に対し,D銀行の平成10年3月期決算について,取立不能の虞があって取立不能と見込まれる貸出金合計1592億円余りの償却又は引当をしないことにより,当期未処理損失を同額過少の612億円余りに圧縮して計上した貸借対照表等を掲載した有価証券報告書を提出し,もって,重要な事項につき虚偽の記載のある有価証券報告書を提出したという証券取引法違反の事案である。 二 1 D銀行は,バブル経済期に業績拡大を狙って不動産関連融資に邁進したが,その多くが杜撰なものであったことから,バブル経済の崩壊後,巨額の不良債権を抱えるに至り,その後は,毎年,償却・引当を実施したにもかかわらず,平成10年3月期においても,依然として多額の償却・引当が必要な不良債権を有していた。折しも,平成10年4月1日から,金融機関経営の健全性確保を目的とする早期是正措置制度が導入されることになり,その前提として,各金融機関において,保有 多額の償却・引当が必要な不良債権を有していた。折しも,平成10年4月1日から,金融機関経営の健全性確保を目的とする早期是正措置制度が導入されることになり,その前提として,各金融機関において,保有資産の適切な自己査定を行い,企業会計原則等に基づく適正かつ客観的な償却・引当を実施した上で,適正な財務諸表を作成することが法的に義務付けられることになった。ところが,被告人らは,バブル経済崩壊後の業況悪化のために,D銀行の体力が著しく低下し,償却・引当財源が不足していたことから,必要な償却・引当を実施することによりD銀行が破綻することを恐れ,償却・引当財源の範囲内でのみ回収不能見込みの不良債権を償却・引当し,その残りの償却・引当は翌期以降に先送りすることにした。そして,被告人らは,D銀行の担当者らをして,実質的に破綻した貸出先について,真実は実行する意思のない形ばかりの再建計画を策定させたり,D銀行及び他の主力金融機関による支援体制が継続しているかのように装わせたりして,実質破綻の事実が外部に明らかになるのを先延ばしにした上,回収不能見込みの不良債権額を不当に圧縮した自己査定結果に基づいて,本来必要な償却・引当を免れ,過少な当期未処理損失額を計上した財務諸表を掲載した有価証券報告書を作成して,これを監督官庁に提出したものである。 2 このように,被告人らは,平成10年3月期決算当時,D銀行には,債務者が実質的に破綻に陥って回収不能見込みであり,償却・引当が必要な不良債権が多く存在することを認識していたにもかかわらず,D銀行の破綻を免れるために,早期是正措置制度の趣旨に反することを知りながら,必要な償却・引当を先送りすることを企て,債務者の実態を糊塗するための隠蔽工作を重ねた上で,本件犯行に及んでおり,その結果,当期未処理損失の粉飾額も1 期是正措置制度の趣旨に反することを知りながら,必要な償却・引当を先送りすることを企て,債務者の実態を糊塗するための隠蔽工作を重ねた上で,本件犯行に及んでおり,その結果,当期未処理損失の粉飾額も1592億円余りという巨額に上っているのであって,本件は,組織的に敢行された巧妙かつ悪質な犯行である。 3 そもそも,現代社会において,証券市場は,企業の資金調達手段として重要な機能を担い,かつ,その経済活動の基盤となっているところ,投資者が,証券市場において,自主的な判断と自己責任に基づき,安心して有価証券の売買を行うためには,その投資等の判断の基礎となる上場会社等の財務内容等に関し,客観的かつ正確な情報の提供を受けることが必要不可欠である。他方において,もし上場会社等によって,その財務内容等の重要な事項につき虚偽の情報が表示された場合には,多くの投資者にその判断を誤らせて経済的損失を被らせるとともに,証券取引の公正を害して証券市場に対する投資者の信頼を失わせ,延いては我が国の経済にも重大な悪影響を及ぼすことになる。このような趣旨に基づき,証券取引法は,上場会社等に対し,会社の概況や経理の状況等の事業の内容に関し,重要な事項を掲載した有価証券報告書を大蔵大臣に提出することを義務付けて,その開示を求めているのである。 4 しかるに,本件は,主要金融機関の一翼を担うものとして広くその名が知られたD銀行が,当期未処理損失額につき1592億円余りもの膨大な金額を過少に計上した有価証券報告書を提出したというもので,社会に与えた衝撃も大きなものがあるのであって,被告人3名の本件犯行は,投資者の判断を誤らせ,証券市場に対する投資者の信頼を損なう悪質な犯行というべきである。金融機関は,その性質上,極めて高い公共性を有し,国民経済の基礎となる重要な役割を って,被告人3名の本件犯行は,投資者の判断を誤らせ,証券市場に対する投資者の信頼を損なう悪質な犯行というべきである。金融機関は,その性質上,極めて高い公共性を有し,国民経済の基礎となる重要な役割を担っていることから,高度な企業倫理が要請されるものであるところ,本件当時は,バブル経済の崩壊に伴う景気の後退が続き,その原因が金融機関の巨額の不良債権処理の遅れにあると指摘され,その早期処理が喫緊の課題とされていた時期であって,従来のいわゆる護送船団方式の金融行政から客観的指標に基づく透明性の高い金融行政に転換するに当たり,各金融機関が自己責任の原則に従って,従来にも増して適正な自己査定及び償却・引当を行うことが求められていたのである。被告人3名は,そのような状況の中において,長期信用銀行として国民の信頼を得ていたD銀行の経営責任者の地位にありながら,巨額の不良債権を国民や証券市場から隠蔽し,その償却・引当の違法な先送りを図っているのであって,この点においても,本件の犯情は悪く,被告人3名が厳しい非難を受けるのは当然であるといわなければならない。 三次に,被告人3名の個別情状を見ていくことにする。 1 被告人Aは,平成5年6月にD銀行の代表取締役頭取に就任して以降,平成9年8月には頭取を退いたものの,その後も代表権のある会長にとどまり,本件犯行に至るまで,一貫してD銀行の最高責任者としてD銀行の経営方針を最終的に決定していた者である。そして,被告人Aは,頭取就任後,担当役員らから個別に説明や報告を受けるなどして,D銀行が巨額の回収不能見込みの不良債権を抱えていながら,順次,償却余力に合わせて段階的に償却・引当を実施していることを認識したが,償却・引当財源の不足から,上記段階的償却の方針を継承することとした。その後,被告人Aは,福島交通関 債権を抱えていながら,順次,償却余力に合わせて段階的に償却・引当を実施していることを認識したが,償却・引当財源の不足から,上記段階的償却の方針を継承することとした。その後,被告人Aは,福島交通関係の債権等の一部の不良債権については,積極的に処理を進めたものの,それ以外の不良債権については,従前の段階的償却を踏襲したほか,平成9年4月の金融検査においては,Ⅳ分類額が積み上がることを恐れ,担当役員らに対し,検査官の発言を借用して,「検査官を騙すくらいの意気込みでやってほしい」などと述べ,要償却・引当額の圧縮に努めるように指示し,そのための活動を行わせるなどしているのであって,D銀行における不良債権の償却・引当の先送り処理について,中心的な役割を担っていたことは明らかである。そして,被告人Aは,平成10年4月からの早期是正措置制度の導入に伴い,同年3月期決算において,多額の不良債権の償却・引当を行うことが法的に義務付けられたにもかかわらず,これを実施することによりD銀行を破綻させ,D銀行発の金融恐慌を発生させることを危惧する余り,従前の先送り方針を継続して,法的に必要な償却・引当の先送りを行う旨の経営方針を最終的に決定し,その実行を関係役員らに指示して,本件犯行に及んだものであり,その刑事責任は,被告人3名の中で最も重いといわなければならない。 2 被告人Bは,D銀行に在職した期間は比較的短期間であったものの,平成9年6月には代表取締役副頭取に,同年8月には同頭取にそれぞれ就任し,本件当時はD銀行の業務執行の最高責任者の地位にあった者である。そして,被告人Bは,副頭取就任後,被告人Aとともに,関係役員らから個別の貸出先の業況等を含め,D銀行の不良債権の現況や償却・引当の実施状況等について詳細な説明や報告を受け,D銀行が,それまで巨額 そして,被告人Bは,副頭取就任後,被告人Aとともに,関係役員らから個別の貸出先の業況等を含め,D銀行の不良債権の現況や償却・引当の実施状況等について詳細な説明や報告を受け,D銀行が,それまで巨額の回収不能見込みの不良債権の償却・引当を先送りしてきたことを十分に認識していたのである。しかるに,被告人Bは,D銀行頭取として,各種諸法令を遵守して,業務の適正かつ健全な運営に努めるとともに,違法な業務執行については,これを制止すべき責務を負う立場にありながら,平成10年3月期決算においても,被告人Aらが,早期是正措置制度の趣旨に反して,法的に義務付けられた償却・引当の先送りを進めることについて,無批判かつ無反省にこれを了承し,被告人Aらとともに上記先送りをD銀行の経営方針として決定して,本件犯行に及んだのであるから,その刑事責任は,重いものがあるといわざるを得ない。 3 被告人Cは,D銀行生え抜きの役員であって,D銀行が巨額の不良債権を抱える原因となった杜撰な貸出しに直接関与していた者ではないけれども,上記不良債権が発生した時点において,既に取締役の地位にあり,上記巨額の不良債権の発生と全く無関係ではない点において,他の被告人らと経歴を異にしている。そして,被告人Cは,上記経歴に基づいて,D銀行が巨額の回収不能見込みの不良債権を抱え込む経緯を良く把握しており,貸出先の個社の業況等についても他の被告人ら以上に通暁していた面がある上,平成9年6月に代表取締役副頭取に就任して以降,D銀行経営の最高幹部の1人として,関係役員らから個別に貸出先の業況等について詳細に報告を受け,D銀行が巨額の不良債権の償却・引当を先送りしていることを知悉していたのである。ところが,被告人Cは,早期是正措置制度の導入により,平成10年3月期決算から,回収不能見込み ついて詳細に報告を受け,D銀行が巨額の不良債権の償却・引当を先送りしていることを知悉していたのである。ところが,被告人Cは,早期是正措置制度の導入により,平成10年3月期決算から,回収不能見込みの不良債権の償却・引当を行うことが法的に義務付けられたにもかかわらず,必要な償却・引当を実施してD銀行を破綻させ,D銀行発の金融恐慌を発生させることを懸念する余り,これを回避するために,償却・引当の先送りを継続することにした。そして,被告人Cは,他の被告人らとともに,上記先送り方針をD銀行の経営方針として決定したのみならず,担当者らに対し,J2の特別清算の報道発表時期を先延ばしにするために,他の金融機関に働き掛けるように指示したり,自らV2銀行の役員と面談して,同行から提示されたA2の任意整理計画案の受諾を拒絶するなど,実質的に経営が破綻した債務者の実態を糊塗するための種々の活動にも従事しているのであって,その刑事責任は,重大というべきである。 四しかしながら,他方,被告人3名のために酌むべき事情も存在する。すなわち, 1 被告人Aは,国税庁長官を最後に大蔵省を退官し,X4公庫総裁に在職中,既に経営不安が取り沙汰されていたD銀行の立て直しを託されて,D銀行に入行した者であるが,その時点においては,D銀行は,既に巨額の不良債権を抱えていたのであって,本件犯行の遠因となった上記巨額の不良債権の発生については,同被告人に全く責任はない。しかも,被告人Aは,D銀行の頭取就任後,極めて厳しい経営環境の中で,旧弊打破を目標として,外部から入行した者でなければ実施が困難な改革を次々と断行している。すなわち,被告人Aは,かねてからD銀行の評価を落としていたB1関係や住専関係の不良債権処理を積極的に進めたほか,大蔵省及び日銀の協力を得て,関連ノンバンク3 実施が困難な改革を次々と断行している。すなわち,被告人Aは,かねてからD銀行の評価を落としていたB1関係や住専関係の不良債権処理を積極的に進めたほか,大蔵省及び日銀の協力を得て,関連ノンバンク3社の清算や大幅な増資を含む思い切った経営再建策を実行し,主要金融機関として初の大手外国銀行との本格的な業務提携を行うなど,D銀行の再建に向けて数々の大胆な対策を試みたのであり,D銀行を抜本的に立て直すまでには至らなかったものの,上記対策の中にはそれなりに市場から評価されていたものもあったことが窺われる。そして,被告人Aは,いわゆるセーフティネットが十分には整備されていない状況において,D銀行発の金融恐慌の発生を危惧する余り,これを回避する目的で,懸命な努力を続ける中で本件犯行に及んだものであって,もとより自己保身の思いもないではなかったとしても,私利私欲を満たすために犯した犯行とは異なり,その立場には同情の余地も存するのであり,同被告人が本件犯行を犯すに至ったことについて,同被告人のみを非難するのは適当ではない。また,被告人Aは,前科・前歴が全くなく,大蔵省や国税庁,Y4公庫,X4公庫等において長年にわたり職務に励み,上記各公庫の副総裁又は総裁を務めるなど,我が国の金融界にもそれなりに貢献してきた者である。加えて,被告人Aは,D銀行の特別公的管理開始に伴い,退職金を受け取ることなく会長を辞任し,本件により身柄拘束を受けた後は,一切の公職に就かずに自宅で謹慎の日々を送るなど,既に社会的な制裁を受けていることも認められる。 2 被告人Bは,日銀国際局長に在任中,当時の日銀副総裁から勧奨を受け,D銀行を再建するために,D銀行に入行した者であるが,その時点において,D銀行は,既に巨額の不良債権を抱えていたのであって,同被告人も,本件犯行の遠因と 局長に在任中,当時の日銀副総裁から勧奨を受け,D銀行を再建するために,D銀行に入行した者であるが,その時点において,D銀行は,既に巨額の不良債権を抱えていたのであって,同被告人も,本件犯行の遠因となった上記巨額の不良債権の発生について,何ら責任を負うものではない。そして,被告人Bは,D銀行に入行後,しばらくは専ら資金調達を担当していたのであり,担当役員らから個別に不良債権の現況等について詳細に説明を受けたのは,副頭取や頭取に就任してから本件犯行に至るまでの1年余りという短期間に過ぎず,同被告人は,個別の貸出先の詳細な業況等については,必ずしもすべてを認識していなかったことが窺われる。そのため,被告人Bは,被告人Aらによる違法な不良債権の償却・引当の先送りをそのまま了承したのであり,無批判にこれを受け入れた責任はあるものの,頭取として自ら積極的に償却・引当の先送りを推進したわけではない。また,被告人Bは,一方で自己保身の思いもないではなかったとしても,私利私欲を図るために本件犯行に及んだものではなく,その立場には同情すべき余地があり,本件犯行を犯すに至ったことについて,同被告人のみを責めることはできない。さらに,被告人Bは,関連ノンバンク3社の破産で損害を与えた金融機関にお詫びして回るとともに,増資引受けに難色を示していた生命保険会社に日参して要請を続け,遂には同社の説得に成功するなどしており,同被告人がD銀行の立て直しのために真摯な努力を重ねたことは,事実として認めることができる。加えて,被告人Bは,前科・前歴が全くなく,日銀において長年にわたり職務に精励し,政策委員会室長や国際局長を歴任するなど,我が国の金融界に貢献をしてきた者である。そのほか,被告人Bは,D銀行の特別公的管理開始後,頭取を辞任し,本件により身柄拘束を受けるなど にわたり職務に精励し,政策委員会室長や国際局長を歴任するなど,我が国の金融界に貢献をしてきた者である。そのほか,被告人Bは,D銀行の特別公的管理開始後,頭取を辞任し,本件により身柄拘束を受けるなどの社会的な制裁を受けていることも認められる。 3 被告人Cは,D銀行が巨額の不良債権を発生させた時点において,既に取締役の地位にあったという点で,他の被告人らとは立場を異にするが,本件犯行当時,D銀行において,他の被告人らより低い地位にとどまっている。また,被告人Cは,頭取である被告人Aに対し,優秀な人材の育成等を進言したほか,同被告人らと協議を重ね,関連ノンバンク3社の清算等の再建方針を決定するとともに,D銀行内にプロジェクトチームを組織して,再建計画の内容を検討させるなどしていたのであり,被告人Cは,D銀行生え抜きの役職員の代表として,被告人Aらを補佐してD銀行の立て直しに尽力している。したがって,被告人Cも,もとより自己保身の思いもないではなかったとしても,決して私腹を肥やすためではなく,あくまでもD銀行発の金融恐慌の発生を危惧する余り,D銀行の破綻を回避する目的で,本件犯行に及んだものであって,その点は,斟酌する必要がある。さらに,被告人Cは,前科・前歴が全くなく,我が国の金融界においてそれなりの地位を占めてきたD銀行において,長年にわたり職務に励んできた者である。加えて,被告人Cは,D銀行の特別公的管理開始後,副頭取を辞任し,本件により身柄拘束を受けるなどの社会的な制裁を受けていることや,慢性腎不全等の多数の病気に罹患し,健康状態が芳しくないことなどの事情も認められる。 五以上のとおり,被告人3名の本件犯行は,我が国の金融システム安定化のために導入された早期是正措置制度を損なうとともに,投資者の判断を誤らせ,証券市場に対する くないことなどの事情も認められる。 五以上のとおり,被告人3名の本件犯行は,我が国の金融システム安定化のために導入された早期是正措置制度を損なうとともに,投資者の判断を誤らせ,証券市場に対する投資者の信頼を失わせる悪質な犯行であって,もとより本件は,被告人3名に罰金刑を科することで足りる事案でないことは明らかであるけれども,他方,被告人3名のために有利に斟酌することができる事情も数多く存在するので,これらの事情を総合考慮した上,被告人3名に対しては,それぞれ前示のとおり刑を量定した上,その刑の執行を猶予するのが相当であると判断した次第である。 (公判出席検察官木下雅博求刑被告人Aにつき懲役2年,被告人B及び同Cにつきいずれも懲役1年6月)平成16年9月27日東京地方裁判所刑事第3部裁判長裁判官服部悟裁判官成川洋司裁判官吉戒純一は,在外研究のため署名押印できない。 裁判長裁判官服部悟

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