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昭和36(オ)275 否認権行使登記抹消請求

裁判所

昭和38年12月10日 最高裁判所第三小法廷 判決 棄却 東京高等裁判所

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5,872 文字

主文 本件上告を棄却する。上告費用は上告人の負担とする。理由 上告代理人美村貞夫、同八巻忠蔵、同山下義則の上告理由第一点について。原判決は、挙示の証拠により、「破産会社が昭和二八年二月頃から業界不振の影響を受けて成績振わず、同年七月末の決算において欠損を約五四〇万円計上したがこの外に、回収不能の売掛金と不渡になつた受取手形があつて、実質上の欠損は三〇〇〇万円に達する状態であつたこと、そして、破産会社の債務は約束手形約五四〇〇万円、買掛金約八〇〇万円合計六二〇〇万円であつたこと、反面、その資産は車輛運搬具約三〇〇万円、商品約八〇〇万円、売掛金約三一〇〇万円、受取手形約四〇〇万円、銀行預金約八〇〇万円、本件土地(約九〇〇万円)、建物(約九〇万円)があるが、売掛金及び手形は回収不能又は不渡のものがあり、債務超過の状態で極度に資金繰に苦しんでいたこと」を認定した上、「従つて、本件土地建物は破産会社の唯一の安定した資産であつて、当時土地についてD株式会社のため極度額一四〇万円の根抵当権が設定されていたが、総債権者の共同担保となる重要な資産であることは明らかである。」旨判示したものであるが、右事情の下において、本件土地建物をもつて破産会社の唯一の安定した資産に当るとした原判決の判断は相当であり、原判決に所論の審理不尽、理由不備または理由齟齬の違法がない。また、破産会社が上告人のため本件土地建物につき根抵当権を設定したのは、上告人が破産会社に対し有する七五〇万円の約束手形金債権につき手形の満期のときに額面金額の二〇分の一づつを支払い、残額は満期を六〇日後とする約束手形に書き替え、順次支払を猶予することを約したので、その代償としてこれをなしたものである旨の上告人主張事実は、原判決の認容すると に額面金額の二〇分の一づつを支払い、残額は満期を六〇日後とする約束手形に書き替え、順次支払を猶予することを約したので、その代償としてこれをなしたものである旨の上告人主張事実は、原判決の認容するところであるが、そうであるからといつて、- 1 -破産会社の前記のような財産状態において総債権者の共同担保となる重要な資産である本件土地建物につき上告人の破産会社に対し有する一五〇〇万円の債権を被担保債権としてなした本件根抵当権の設定をもつて破産債権者を害しない行為であるというわけにはいかない。 払を猶予することを約したので、その代償としてこれをなしたものである旨の上告人主張事実は、原判決の認容するところであるが、そうであるからといつて、- 1 -破産会社の前記のような財産状態において総債権者の共同担保となる重要な資産である本件土地建物につき上告人の破産会社に対し有する一五〇〇万円の債権を被担保債権としてなした本件根抵当権の設定をもつて破産債権者を害しない行為であるというわけにはいかない。原判決に所論の法令違背、理由不備、理由齟齬、判断遺脱の違法がなく、論旨はすべて採用できない。同第二点について。原判決は、破産会社の前記の財産状態を判示し、さらに、挙示の証拠により「破産会社がE株式会社からも本件土地に根抵当権の設定を要求されこれを承諾しながら言を左右にして応ぜず、F株式会社からも同様の要求を受けたがこれを拒否していた」事実を認定し、これらを総合して、「破産会社が他の債権者の共同担保を減少させることを知りながら控訴人(上告人)のために本件土地建物に根抵当権を設定した」旨を認定したものである。所論は、「破産会社は、上告人の債権七五〇万円の棚上げによつて立直り、他の債権者にも弁済できると考えて上告人と折衝し、右債権棚上げの代償として本件根抵当権を設定したものであるから、破産者は他の債権者を詐害する意思はなかつた」旨主張する。原判決は、その前段において、前記のとおり上告人が破産会社に対し有する債権の支払猶予の代償として本件根抵当権を設定したものであると認定するが、一方その後段において、破産会社より上告人と同様に債権の棚上を要請されたF株式会社は、上告人の問合せに対し、七五〇万円の債権棚上はできないと答えて棚上をなすべき金額については上 であると認定するが、一方その後段において、破産会社より上告人と同様に債権の棚上を要請されたF株式会社は、上告人の問合せに対し、七五〇万円の債権棚上はできないと答えて棚上をなすべき金額については上告人に確答しなかつたことなどの事実を認定し、上告人においても破産会社の立直りが困難であると見ていた旨を判示しているのであるから、以上の原判決挙示の事情の下においては、破産会社が本件根抵当権の設定により他の債権者を害する認識があつたとするのに十分である。所論は、破産法七二条一号にいう「破産者カ破産債権者ヲ害スルコトヲ知リテ」とは、単に加害の- 2 -認識では足らず、加害の意図ないし意欲をもつていたことが必要であるというが、この見解の採用し難いことは当裁判所の判例とするところである(当裁判所昭和三二年(オ)第三六二号昭和三五年四月二六日判決判例集一四巻一〇四六頁参照)。 社が本件根抵当権の設定により他の債権者を害する認識があつたとするのに十分である。所論は、破産法七二条一号にいう「破産者カ破産債権者ヲ害スルコトヲ知リテ」とは、単に加害の- 2 -認識では足らず、加害の意図ないし意欲をもつていたことが必要であるというが、この見解の採用し難いことは当裁判所の判例とするところである(当裁判所昭和三二年(オ)第三六二号昭和三五年四月二六日判決判例集一四巻一〇四六頁参照)。原判決に所論の法律解釈の誤り、審理不尽、理由不備、理由齟齬の違法がなく、論旨は採用できない。同第三点、第四点、第五点について。原判決は、前記のように本件土地の時価を約九〇〇万円、建物の時価を約九〇万円と認定したが、さらに上告人の原審における主張に対し、挙示の証拠により「控訴人(上告人)が破産会社の申入により右主張のとおり七五〇万円の約束手形の支払猶予をなし、その代償として、一五〇〇万円の債権に見合う本件根抵当権を設定したこと、控訴人が(一)、(二)、(三)の物件(原判決添付目録)について一五〇〇万円の担保価値があるとは考えず保証人を立てることも請求したこと、しかして、更に、右(一)、(二)、(三)の物件は破産会社が持つていた唯一の不動産であつて、他は運搬車輛、商品等であり、右不動産が最も適当安全な担保物件となりうるものであることは控訴人が知つており強硬にこれを担保に提供すべ 、(二)、(三)の物件は破産会社が持つていた唯一の不動産であつて、他は運搬車輛、商品等であり、右不動産が最も適当安全な担保物件となりうるものであることは控訴人が知つており強硬にこれを担保に提供すべきことを要求したこと、右不動産の時価を正確に評価する手続を取らなかつたこと、(一)の土地を三四六万円余、(二)、(三)の建物を九〇万円余と破産会社から伝えられ、また、他から右土地は一坪当り一万円ないし一万五〇〇〇円であるとの話を聞いたこと、先順位の担保は(一)の土地につき一四〇万円、(二)、(三)の建物につき四〇万円であつたこと、右(一)、(二)、(三)の不動産は位置、大きさ、形状等により外観上一見してその価値を判断しうるものであるから、控訴人は商取引における知識により、右不動産に、一五〇〇万円の担保価値はなくても相当の担保価値があると考えていたと認めるのが相当であること、破産会社が昭和二八年八月一八日当時債務超過の状態にあり極度に資金繰に苦しんでいたことを控訴人が知- 3 -つていたこと、従前債権が一四七二万三五六五円に達するまでなんら担保物を取らずに取引をしておりながら、にわかにその全額の債権を確保するために金一五〇〇万円の担保の提供を求めて本件抵当権設定契約および保証契約を結ばせ最悪の事態に備えたこと、破産会社の債務の支払猶予についてF株式会社の意向を確めた際、同会社は七五〇万円の棚上はできないと答えて棚上をなすべき金額については控訴人に確答しなかつたこと、破産会社が一ヶ月二〇〇〇万円の売上を継続するとの見通しは破産会社の説明であつて、他の取引会社と連絡を取るなどした結果による根拠あるものではないこと」を認定し、以上の認定により、「控訴人は一面破産会社の立直を希望しながら、他面その立直が困難であると見ていたと認めるのが相当であつて、 社の意向を確めた際、同会社は七五〇万円の棚上はできないと答えて棚上をなすべき金額については控訴人に確答しなかつたこと、破産会社が一ヶ月二〇〇〇万円の売上を継続するとの見通しは破産会社の説明であつて、他の取引会社と連絡を取るなどした結果による根拠あるものではないこと」を認定し、以上の認定により、「控訴人は一面破産会社の立直を希望しながら、他面その立直が困難であると見ていたと認めるのが相当であつて、 引会社と連絡を取るなどした結果による根拠あるものではないこと」を認定し、以上の認定により、「控訴人は一面破産会社の立直を希望しながら、他面その立直が困難であると見ていたと認めるのが相当であつて、右証拠をもつて控訴人の右主張を認めるに足りず、他に適確な証拠がない。従つて、控訴人提出の全証拠によるも、控訴人が破産債権者を害することを知らなかつたとの事実を認めるにはいまだ充分ではなく、結局その証明がないこととなるので、右主張は採用できない。」旨判示したものであることは判文上明らかであつて、当裁判所も右判断を正当として肯認する。論旨第三点(一)は、原判決が本件不動産の担保価値を三四〇万円ないし五八〇万円と評価したことを前提として上告人の悪意の有無に関する原審の判断につき採証法則の誤りがあるといい、また、原判決は上告人が原審においてあたかも本件不動産の担保価値を一五〇〇万円近いものと認めていたものと曲解し、その結果当事者の主張しない事実につき判断した違法もしくは当事者の主張した事実を判断しなかつた違法があるというが、いずれも原判決を正解しないでこれを論難するものであることは、前示により明らかである。論旨第三点(二)(イ)は、原判決が上告人の破産会社に対し有する一五〇〇万円の債権を確保するためにも本件根抵当権設定契約をなした旨判示したのは理由不備、理由齟齬であり、また、一五〇〇万円の担保価値のない本件不動産によりいか- 4 -にして右債権全額の回収を図りうるかの理由を示さない点にも理由不備、理由齟齬の違法があるというが、上告人の破産会社に対し有する七五〇万円の約束手形金債権の支払を猶予する代償として、全債権である一五〇〇万円の債権につき担保を求め、一五〇〇万円全額の担保価値がなくても、原判決判示のように相当の担保価値のある本件不動産を担 る七五〇万円の約束手形金債権の支払を猶予する代償として、全債権である一五〇〇万円の債権につき担保を求め、一五〇〇万円全額の担保価値がなくても、原判決判示のように相当の担保価値のある本件不動産を担保にとることは何ら不自然ではないから、原判決に所論の理由不備、理由齟齬の違法があるとすることはできない。 保を求め、一五〇〇万円全額の担保価値がなくても、原判決判示のように相当の担保価値のある本件不動産を担 る七五〇万円の約束手形金債権の支払を猶予する代償として、全債権である一五〇〇万円の債権につき担保を求め、一五〇〇万円全額の担保価値がなくても、原判決判示のように相当の担保価値のある本件不動産を担保にとることは何ら不自然ではないから、原判決に所論の理由不備、理由齟齬の違法があるとすることはできない。論旨第三点(二)(ロ)は、原判決があたかも上告人にF株式会社に対する棚上金額の確認義務、他の取引先に対し連絡をとる義務があることを前提とした判示をしているところ、上告人には何らそのような義務が存しないと論ずるが、原判決は上告人に論旨指摘の義務違背があると判示しているものではなく、単に破産会社の立直りの可能性が根拠の乏しいものであることを判示しているにすぎないこと前示により明らかであるから、原判決に何ら所論の理由不備、理由齟齬の違法がない。論旨第四点は、原判決は、上告人が本件不動産に相当の担保価値があると考えていた、と判示するのみで、上告人が原審において主張する三四〇万円ないし五八〇万円の担保価値があると考えたとの点につき何ら判断するところがないと論難するが、本件不動産の担保価値の認識についての原判決の前示判示をもつて、上告人の悪意の有無に関する判断の資料として不備であるとはいえないから、原判決に所論の理由不備の違法があるとはいえない。論旨第五点は、破産会社の債権者であるF株式会社の態度と異り、上告人が約束手形金債権の棚上に関する破産会社の申出を承諾し、破産会社に対する出荷を続けたこと自体に徴しても、上告人が破産会社の立直りを困難であるとは思つていなかつたことが明らかであると論ずるが、前示原判決判示の事情の下において、上告人が一面破産会社の立直を希望しながら、他面その立直が困難であると見ていた旨の原判決の判断をもつて社会通念に反し、理 ていなかつたことが明らかであると論ずるが、前示原判決判示の事情の下において、上告人が一面破産会社の立直を希望しながら、他面その立直が困難であると見ていた旨の原判決の判断をもつて社会通念に反し、理由不備であるということができない。そ- 5 -の他原判決に所論の違法がなく、論旨はすべて採用できない。よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。 会通念に反し、理 ていなかつたことが明らかであると論ずるが、前示原判決判示の事情の下において、上告人が一面破産会社の立直を希望しながら、他面その立直が困難であると見ていた旨の原判決の判断をもつて社会通念に反し、理由不備であるということができない。そ- 5 -の他原判決に所論の違法がなく、論旨はすべて採用できない。よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。最高裁判所第三小法廷裁判長裁判官河村又介裁判官石坂修一裁判官横田正俊- 6 -

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